説明

特定の器官または組織に対する全身性免疫応答の標的化のための方法および組成物

本発明は、組織または器官に対して指向性を持つ1種類以上の薬剤あるいは所望の器官または組織に特異的に配置される1種類以上の薬剤を用いて、特定の器官または組織、例えば癌の影響を受けた器官または組織に対して個別に生成された目寝期応答を標的化する方法および組成物を提供する。例えば、本発明は、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)増強腫瘍細胞ワクチン接種とListeria monocytogenes(LM)感染との組み合わせを用いて結腸直腸癌からの肝臓転移を治療する方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
癌は、今日、世界で最も破壊的な健康問題の1つであり続けており、米国ではおよそ5人に一人が罹っている。研究により数多くの異なる種類の治療法が発見されており、例えば、微小管形成を妨げる抗代謝剤、アルキル化剤、白金系剤、アントラサイクリン、抗生剤、トポイソメラーゼ阻害剤等、化学療法に一般に使用される細胞傷害性剤が挙げられる。また、従来の外科療法および放射線療法が改善されている一方で、免疫変調および遺伝子治療を含む最先端の治療法が開発されている。それにもかかわらず、数千もの潜在的抗癌剤が評価されているとはいえ、ヒト癌の治療は依然として、最適状態に及ばない多くの治療選択を与える合併症および副作用が伴う。
【背景技術】
【0002】
癌治療に対する興味深い一つの新規な非化学的アプローチは、時間的かつ空間的に異質な血流と低酸素部位とが生ずる不規則な血管構築が急成長の腫瘍で観察されるということを根拠としている。この腫瘍血液流の異質性は、癌際細胞に向けて血液によって運ばれる化学療法剤の送達を妨げ、これらの状態が照射および化学療法剤の効果を減少させ、癌細胞がよりいっそう侵攻的または転移性になるかを選ぶ傾向にかたむく(BrownおよびGiaccia(1998)Cancer Res 58:1408−1416を参照のこと)。嫌気性細菌が移植腫瘍内部に局在して腫瘍の内側から細胞溶解を引き起こすことができる(例えば、Careyら(1967)Eur.J.Cancer 3:37−46を参照のこと。腫瘍の治療にClostridiumを使用することが記載されている)。そのような初期の試みはあまり成功しなかった。最近になって、Dangら((2001)PNAS USA 98:15155−160;ならびにJainおよびForbes(2001)PNAS USA 98:16748−750による解説)は、腫瘍の血管新生が不十分な領域を介して均一に感染して広がる能力について約26種類の細菌株をスクリーニングした。Clostridium novyiの一株が特に有効であったことから、この株を遺伝子操作し、それにコードされている致死性の毒素を取り除いた。その結果として生ずる感染腫瘍は、細菌により誘発されて壊死となったが、生存可能で、かつ血管新生化が生じた周辺の腫瘍細胞を完全に取り除くものではなく、従来の化学療法(「COBALT」と呼ばれている併用化学療法/溶菌的治療法)による処置を受けなければならなかった。関連するアプローチとして、腫瘍微環境により制御される遺伝子送達系としての嫌気性細菌の操作がLemmonら((1997)Gene Ther 4:791−96)に記載されており、また操作したClostridium acetobutylicumによる固形腫瘍に対するシトシンデアミナーゼの特異的標的化がTheysら((2001)Cancer Gene Ther 8:294−97)に記載されている。
【0003】
これらの新規な溶菌的治療法と癌の臨床治療に使用可能な数多くの抗腫瘍薬とが開発されているにもかかわらず、癌の治療にとってよりいっそう有効な療法が今もなお求められている。したがって、癌治療(特に、特定の器官または組織を冒す悪性固形腫瘍およびそれによって生ずる転移性腫瘍)の改善が求められている。
【0004】
癌および新生物の化学療法による治療に対する開発途上の別のアプローチは、残存性または転移性の腫瘍細胞に対して抗腫瘍免疫応答を誘発、復活、または増大させるために、アジュバントと混ぜ合わせた弱免疫原性特異的腫瘍抗原である腫瘍ワクチンを利用することである。腫瘍ワクチンを用いた治療は、標的となった腫瘍細胞内での細胞傷害性活性化を伴う(総説としてNawrockiおよびMackiewicz(1999)Cancer Treat Rev 25:29−46を参照のこと)。細胞傷害性T細胞によって認識されるいくつかのHLA制限特異的腫瘍抗原が特徴づけられている。腫瘍細胞の第1の世代として、非特異的アジュバンドとともに腫瘍細胞ライセートまたは癌細胞全体からなる腫瘍ワクチンが挙げられる。新たな第2世代腫瘍ワクチンでは、遺伝子操作された腫瘍細胞、抗原提示細胞(樹状細胞)または組換え型腫瘍抗原(例えば、以下にさらに定義されるDNA腫瘍ワクチン)が使用される。腫瘍細胞の改変を、B7同時刺激分子、HLAタンパク質、および異なるサイトカイン(例えば、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子すなわちGM−CSF)の遺伝子等、癌細胞を認識して殺すのに必要な細胞傷害性T細胞にシグナルを与える分子をコードする遺伝子による遺伝子組み換えによっておこない、抗腫瘍免疫応答誘発における腫瘍細胞の効力を高めることが可能である。
【0005】
別の腫瘍ワクチンストラテジーは、腫瘍タンパク質抗原をコードするcDNAを含むプラスミドの接種によって癌細胞に対する強力かつ長期生存型の体液性および細胞媒介性免疫応答が引き起こされるという観察にもとづいている。したがって、もし有効な腫瘍抗原を同定することができれば、腫瘍タンパク質抗原をコードするDNA配列をキャリアゲノム(例えば、プラスミドまたはαウイルス)に挿入して抗腫瘍免疫応答を誘発することが可能である。そのような特定の腫瘍抗原に基づくDNAワクチンは、DNA腫瘍ワクチン(またはDNA癌ワクチン)として知られている。ある種の骨髄由来プロフェッショナル抗原掲示細胞(APC)がプラスミドによってトランスフェクトされ、cDNAが転写され、特定の応答を誘発する免疫原タンパク質に翻訳されると考えられる。関連したストラテジーでは、いわゆる裸のDNAが宿主に直接注入されることで免疫応答が生ずる。裸のDNAとして、宿主に直接注入される単純な細菌プラスミドが挙げられる。黒色腫に対するALVAC gp100遺伝子および結腸直腸癌に対するALVAC CEA−B7.1遺伝子等の標的遺伝子を表現する正確かつ特定のヌクレオチド配列と乳癌細胞に見られるHER2/Neuペプチド等の特定のタンパク質フラグメントとを送達するDNAワクチンの能力は、免疫応答を誘導する潜在的手段として研究されている(例えば、Tartagliaら(2001)Vaccine 19:2571−5;Knutsonら(2001)J Clin Invest 107:477−84;Chenら(2001)Gene Ther 8:316−23;およびSivanandhamら(1998)Cancer Immunol Immunother 46:261−7を参照のこと)。著しい免疫応答を生じさることは、残念なことにDNAの筋肉内注射では高い頻度で失敗するが、DNAの経皮または皮内送達はそれよりも効果があると思われる。例えば、B型肝炎抗原をコードするDNAをコーティングして経皮送達された微小金ビーズに関する臨床試験は、抗原に対する感染防御レベル(protective level)の抗体が生じた(Polandら、The Fourth Annual Cconference On Vaccine Research、Arlington、VA(2001年4月23〜25日(www.nfid.org/ conferences/vaccine01/abstracts/abss37−40.pdf))。DNAワクチンは、効力がある場合、強力な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘発するユニークなアプローチを提供する。なぜなら、DNAにコードされたタンパク質がトランスフェクトされた細胞の細胞質で合成されるからである。さらに、細菌プラスミドは、非メチル化CpGヌクレオチドが豊富であり、マクロファージによって異質のものと認識され、適応免疫を高める先天性免疫応答を誘発する。したがって、プラスミドDNAワクチンは、アジュバント無しで投与した場合でも効力がある。さらに、多くの多種多様な抗原を発現させ、かつ免疫応答を高めうる他のタンパク質と共に発現する能力を与えるために、そのようなワクチンによって発現されるcDNAの操作が容易におこなわれる(例えば、サイトカインおよび同時刺激因子)。それにもかかわらず、特定のDNAワクチンは、有効性の試験および立証を通して開発されなければならない。このことは、癌治療に対するDNAワクチンの適用の場合に特にあてはまる。なぜなら、たとえ腫瘍特異的抗原の発現が高いとしてもDNA癌ワクチン免疫療法にとっては必ずしも有効ではないからである。したがって、ただのDNA腫瘍ワクチン開発の第一段階として、有効かつ概ね表面発現された腫瘍特異的抗体が同定されなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような新規の腫瘍ワクチンストラテジーは、特異的な抗腫瘍免疫応答および被験体の臨床的応答を生成してきた。それにもかかわらず、そのような腫瘍ワクチンストラテジーは、完全または一貫して成功することがないので、癌の免疫療法に関する改善された方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(2.発明の要旨)
概して、本発明は、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤の投与と併用して、器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する免疫応答を生成する治療有効量のワクチンを投与することによって、被験体の組織もしくは器官特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成する方法を提供する。好ましい実施形態では、器官もしくは組織特異的疾患または症状は腫瘍または癌腫であり、ワクチンは腫瘍ワクチンである。別の好ましい実施形態では、ワクチンは、GM−CSFを発現する弱毒化した腫瘍細胞株である。別の実施形態では、器官または組織に局所的に局在化する薬剤は、特定の器官または組織に対して天然の指向性を有するウイルス、細菌、酵母、または真菌である。好ましくは、局所的に局在化する薬剤は、Listeria monocytogenesの弱毒化株である。また、さらに好ましくは、生物は、新生血管内皮を局所的に局在化する。
【0008】
特定の実施形態では、薬剤は、遺伝子操作されて器官または組織に局所的に局在化するとともに、改変ウイルス、細菌、酵母、または真菌である。好ましくは、遺伝子操作された生物は、器官または組織により発現されるレセプターのリガンドを発現する。別の好ましい実施形態では、器官または組織レセプターのリガンドは、生物の外被または被膜タンパク質に融合されている。また、さらに好ましくは、標的化された器官または組織は、新生血管内皮である。従って、好ましい実施形態では、遺伝子操作された生物は、新生血管内皮により発現されるレセプターのリガンドを発現する。
【0009】
他の実施形態では、薬剤は、天然の指向性を持たない生物であり、直接注射、経皮カテーテル、外科的処置、また閉ループ灌流から選択される物理的手段によって、器官または組織に直接投与される。好ましい実施形態では、投与される器官または組織は肺であり、投与方法は吸入である。別の好ましい実施形態では、標的化される器官または組織は消化管であり、投与方法は経口摂取である。
【0010】
別の実施形態では、器官または組織を局所的に局在化するか、また直接投与される薬剤は、ケモカイン、サイトカイン、または接着分子等の免疫または炎症の活性因子を産生する遺伝子操作された生物である。好ましくは、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与される薬剤は、炎症性薬剤である。
【0011】
別の好ましい実施形態では、本発明は、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で、局所的な免疫応答を生成する薬剤と併用して、腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する腫瘍ワクチンの治療有効量を投与することによって、被験体の組織または器官に局在化する癌または癌腫を治療する方法を提供する。本発明のこの局面の好ましい実施形態では、腫瘍または癌腫は肝腫瘍であり、腫瘍ワクチンは、全腫瘍細胞ワクチンを分泌するGM−CSFであり、病変器官または組織に局所的に局在化する薬剤は、Listeria monocytogenesの弱毒化された株である。他の好ましい実施形態では、腫瘍ワクチンは、DNA腫瘍ワクチンである。
【0012】
本発明はさらに、器官もしくは組織特異的疾患または症状に対して免疫応答を生成する治療有効量のワクチンと、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含む被験体の器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成するための処方物を提供する。好ましくは、処方物は、腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する治療有効量の腫瘍ワクチンと、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含む被験体の組織または器官に局在化する腫瘍または癌腫の治療用である。また、さらに好ましくは、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤は、弱毒化された細菌である。最も好ましいのは、弱毒化された細菌がHIV−gagに弱毒化されたListeria monocytogenesである。
【0013】
本発明はさらに、器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する免疫応答を生成するワクチンと、器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含む被験体の器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成するためのキットを提供する。好ましくは、キットは、被験体の組織または器官に局在化する腫瘍または癌腫の治療用であり、腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する腫瘍ワクチンと、器官または組織特異に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、器官または組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含む。
【0014】
(発明の詳細な説明)
(4.1. 概略)
一般に、本発明は、器官もしくは組織に対する指向性を持つ1種類以上の薬剤または所望の器官もしくは組織に特異的に局在化することが可能な1種類以上の薬剤を用いて、単独に生じた免疫応答を特定の器官または組織(例えば、癌に冒された器官または組織)へ標的化する方法および組成物を提供する。本発明は、特異的に標的化された免疫応答を生成する方法および組成物が、全身性免疫応答を生ずる第2の免疫薬(例えば、ワクチン)と併用される場合に、特に有益である。好ましい実施形態では、本発明は前進的に生じた全身性免疫応答(例えば、ワクチンにより生じるもの)に関連した潜在的な問題を回避する手段を提供する。特に、そのような免疫応答は一カ所に定まるものではなく、特定の器官または組織を標的化しない。特定の別の例では、免疫応答は、所望の特定標的器官または組織に対してアクセスすることができない。さらに別の例では、一カ所に定まらない免疫応答は、たとえ接近または集中することができるとしても、特定の器官または組織で所望の影響を生ずるには不十分な強さである。本発明は、免疫応答、例えばワクチン(腫瘍ワクチン等)によって生じた免疫応答に対する促進された組織および/または器官特異的指向性の薬剤および方法を提供する。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明は、正しい場所に対する適当な細胞のトラッキングを助長し、上記の場所への生物学的応答のアクセスが可能となるように局所微小環境を変え、さらに生物学的応答がひとたび標的に対して局所的に到達するとこの生物学的応答を助長または増幅させるメカニズムによって、特定の器官または組織に対して生物学的応答を集中させる指向性を持つ薬剤を提供する。
【0016】
概して好ましい実施形態では、本発明は、組織または器官特異的免疫応答を提供するための手段と全身性免疫応答を生成する任意のアプローチとの組み合わせを提供する。本発明で用いるそのような集中した組織または器官指向性免疫応答を生成する手段として、特定の器官または組織に対して自然指向性を持つウイルス、細菌、酵母、または真菌;特定の器官または組織に対する指向性が操作(例えば、生物の外膜タンパク質または外殼タンパク質に器官または組織特異的レセプターのリガンドをスプライシングによる)された任意の感染症薬;血管新生内皮細胞に対する自然指向性または操作された指向性を持つ任意の生物;物理的手段による特定の器官または組織への生物の配置(例えば、自然指向性なしに生物に対して標的化する直接注射、経皮カテーテル、外科的処置、または閉ループ潅流);肺または消化管を標的化する生物の吸入または経口摂取;または、別の好ましい実施形態において、ケモカイン、サイトカイン、接着分子、または免疫もしくは炎症の他の活性剤を産生するために生物が遺伝子操作される上記方法すべての活用法が挙げられる。別の好ましい実施形態では、指向性薬剤は非生物系炎症性物質(例えば、低分子)であり、自然に、あるいは操作を介して、指向性免疫応答を生成する。
【0017】
幅広い意味では、本発明は、特定の器官または組織に対する指向性を持つ薬剤またはその部位に特異的に配置可能な薬剤の使用によって、その特定の器官または組織に対して単独で生成した免疫応答を標的化する。特に好ましい実施形態では、結腸直腸癌からの肝転移は、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)で増大された腫瘍細胞ワクチン接種およびListeria inonocytogene(LM)感染の組み合わせで治療される。特定の作用機序に限定されることを望まない一方で、本発明は、優先的に肝臓に感染し、局所環境、ケモカイン放出、サイトカイン放出、接着分子発現、または肝臓内での血管透過性を変えることで、全身性ワクチンにより誘導された免疫応答をその肝臓に集中させ、被験体内での全身性T細胞媒介免疫応答および弱毒化LM感染を引き起こすGM−CSFまたは同等に増強された腫瘍細胞によるワクチン接種を提供する。最終結果は、肝転移に対する増強抗腫瘍免疫である。本発明は、全身性免疫応答を生じさせる任意のアプローチとホーミング特性を持つ生物によって、または物理的手段による局所インストレーションによって生じた器官または組織特異的炎症性刺激との組み合わせに、幅広く適用する。
【0018】
(4.2. 定義)
便宜上、明細書、実施例、および添付の請求の範囲で用いた特定の用語および句の意味は以下の通りである。特に定義しない限り、本明細書で用いた全ての技術用語および科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者が共通して理解するものと同様の意味を有する。
【0019】
本明細書で使用される冠詞の「a」および「an」は、該冠詞の文法上の対象が1以上(すなわち、少なくとも1)であることをいう(翻訳和文ではなにも付けず)。例えば、「1つの要素」(あるいは単に「要素」)とは1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0020】
ポリペプチドの活性に対して適用されるように、「異常活性(aberrant activity)」とは、野生型または天然のポリペチドの活性とは異なる、あるいは健常被験体のポリペプチドの活性とは異なることをいう。ポリペプチドの活性は、それに対応する天然のものよりも活性が高いことを理由に、異常とされる。あるいは、天然の対応物と比較して活性が弱いか、または活性がないことを理由にして、活性が異常とされる。また、活性の変化も異常活性とされる。例えば、異常ポリペプチドは、異なる標的ペプチドと作用し得る。細胞は、ポリペプチドをコードする遺伝子による過剰の発現または少ない発現によって、異常ポリペチドを持つことがある。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「アゴニスト」は、生物活性を模倣またはアップレギュレーション(強化または補助)する薬剤に言及するように意図されている。ポリペプチドアゴニストは、野生型タンパク質、または該野生型タンパク質の少なくとも1つの生物活性を持つその誘導体である。ポリペチド治療は、ポリペチドをコードする遺伝子の発現をアップレギュレーションする化合物または1つのポリペチドの少なくとも1つの生物活性を高める化合物である。アゴニストもまた、他の分子とポリペチドとの相互作用を高める化合物である。
【0022】
用語「対立遺伝子」は、本明細書では「対立遺伝子改変体(allelic variant)」と同義的に用いられ、遺伝子またはその一部の選択的形態を意味する。対立遺伝子は、相同染色体上の同一の位置または座を占める。被験体が一遺伝子に2つの同一の対立遺伝子を持つ場合、被験体はその遺伝子または対立遺伝子についてホモ接合型といえる。被験体が1つの遺伝子について2つの異なる対立遺伝子を持つ場合、被験体はその遺伝子に対してヘテロ接合型といえる。特定の遺伝子の対立遺伝子は、単一のヌクレオチドまたは数個のヌクレオチドにおいて互いに異なることができ、また複数のヌクレオチドの置換、欠失、または挿入を含むことができる。頻繁に生ずる配列の変異として、対突然変異(すなわち、プリンとプリンとの置換、ピリミジンとピリミジンとの置換、例えばAとGとの置換またはCとTとの置換)、基転換型変異(すなわち、プリンからピリミジンへの置換、ピリミジンからプリンへの置換、例えばAからTの置換またはCからGの置換)および反復DNA配列内での変化(例えば、トリヌクレオチド反復および他の縦列反復配列の拡大または短縮)が挙げられる。1つの遺伝子の対立遺伝子もまた突然変異を含む遺伝子の一形態である。用語「遺伝子の多型領域の対立遺伝子改変体」は、一定の個体における遺伝子の一領域で見出される1または数個のヌクレオチド配列の違いを有する該遺伝子領域をいう。
【0023】
本明細書で使用される「アンタゴニスト」とは、少なくとも1つの生物活性をダウンレギュレーション(例えば、抑制または阻害)する薬剤を称すること意図している。アンタゴニストは、タンパク質と別の分子との間(例えばリガンドとレセプターとの間)の相互作用を阻害または抑制する化合物である。また、アンタゴニストは、遺伝子の発現をダウンレギュレーション、または存在する遺伝子産物タンパク質の存在量を減少させる化合物である。リガンドアンタゴニストは、リガンドポリペチドのドミナントネガティブ形態、例えば標的ペプチドと相互作用可能なリガンドポリペプチドの一形態である。また、アンタゴニストは、タンパク質依存性のシグナル伝達経路を妨害する化合物である。
【0024】
本明細書で使用される用語「抗体」は、脊椎動物(例えば、哺乳動物)タンパク質と特異的に反応する全ての抗体、例えば任意のイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgE等)、およびそれらのフラグメントが含まれることを意図している。従来の技術を用いて抗体をフラグメント化することができ、さらに全抗体に対して上記方法と同様にして該フラグメントの有用性についてのスクーニングをおこなうことができる。したがって、上記用語は、選択的に特定のタンパク質と反応することが可能な抗体分子のタンパク質分解的に開裂または組み換え的に調製された部分からなるセグメントを包含する。そのようなタンパク質分解または/および組み換え体フラグメントの非限定的な例として、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、さらにペプチドリンカーによって結合したV[L]および/またはV[H]ドメインを含む単一鎖抗体(scFv)が挙げられる。scFvは、共有結合または非共有結合することで2つ以上の結合部位を持つ抗体を形成することができる。本発明は、抗体および組み換え型抗体の単一クローン、または他の精製試料を包含する。
【0025】
用語「抗腫瘍活性または抗新生物活性」とは、物質または組成物の能力であって、該物質または組成物と相互作用する腫瘍細胞の増殖を阻害、または該腫瘍細胞の死を誘導する物質または組成物の能力をいう。
【0026】
核酸の異常発現「に関連する」または「によって特徴づけられる」疾患、障害、または状態とは、異常なレベルの核酸発現によって引き起こされる、それが寄与する、またはそれが原因となる疾患、障害、または状態をいう。
【0027】
本明細書で使用されるように、用語「ポリペプチドの生物活性フラグメント」は、完全長ポリペプチドのフラグメントであって、野生型ポリペプチドの活性を模倣またはアンタゴナイズするフラグメントをいう。生物活性フラグメントは、好ましくは特定のポリペプチドのレセプターと相互作用する能力のあるフラグメントである。
【0028】
「生物学的活性」または「生物活性」または「活性」または「生物学的機能」は、同義的に用いられるものであって、本明細書の目的で、ポリペプチド(未変性コンフォメーションであるかまたは変性コンフォメーションであるかにかかわらない)によって、あるいはその任意の配列によって、直接または間接的に実行されるエフェクターまたは抗原的機能を意味する。生物学的活性として、標的ペプチドへの結合が含まれる。標的ポリペプチド生物活性は、標的ポリペプチドに直接作用することで調節することができる。あるいは、標的ポリペプチドのレベルを調節すること、例えば標的ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を調節することで、生物活性を調整することができる。
【0029】
用語「生物マーカー(biomarker)」とは、存在もしくは濃度が検出可能であるか、または既知の状態、例えば症状と関連する生物分子(例えば核酸、ペプチド、またはホルモン)をいう。
【0030】
「細胞」、「宿主細胞」、または「組み換え宿主細胞」は、本明細書で同義的に用いられる用語である。そのような用語が特定の被験体細胞のみならず、そのような細胞の子孫または潜在的子孫をいう。なぜなら、特定の修飾が突然変異または環境の影響のいずれかによって継代して生じる可能性があり、そのような子孫は、実際、親細胞とは異なるものと思われるが、本明細書で用いられるように、それでもなお上記用語の範囲内にある。
【0031】
「キメラポリペプチド」または「融合ポリペプチド」は、被験体ポリペプチドの1つをコードする第1のアミノ酸配列と上記ポリペプチドのいずれのドメインに対して異質であり、かつ実質的に相同であるドメイン(例えばポリペプチド部分)を定義する第2のアミノ酸配列との融合である。キメラポリペプチドは、第1のポリペプチドも発現する生物で見出される(異なるポリペプチド内であるにもかかわらず)異質ドメインを現すものか、もしくは異なる種類の生物によって発現されるポリペプチド構造の「異種間」、「遺伝子間」等の融合であってもよい。一般に、融合タンパク質は、一般式:X−ポリペプチド−Yで表され、式中、「ポリペプチド」は、興味あるタンパク質の一部分または全体を示し、またXおよびYはそれぞれ別個に不在、もしくは自然に生ずる突然変異体を含む生物のタンパク質配列とは関係ないアミノ酸配列を示す。
【0032】
「送達複合体」は、標的化手段を意味する(例えば、標的細胞表面に対する遺伝子、タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの高親和性結合および/または標的細胞による細胞内取り込みまたは核内取り込みを生ずる分子)。標的化手段の例として、ステロール類(例えばコレステロール)、脂質類(例えば、カチオン脂質、ビロソーム、またはリポソーム)、ウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルス)または標的細胞特異的結合薬剤(例えば、標的細胞特異的レセプターによって認識されるリガンド)が挙げられる。好ましい複合体は、生物内(インビトロ)で十分安定しており、標的細胞による内在化に先立つ有意な脱共役を妨げる。しかし、複合体は細胞内の適当な条件下で割裂しやすく、遺伝子、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドが機能的な形態で放出される。
【0033】
用語「樹状細胞」とは、免疫応答誘導の際に抗原掲示細胞(APC)として機能を果たす種々のアクセサリー細胞のいずれかをいう。本明細書で使用されるように、用語「樹状細胞」は、ランゲルハンス細胞として言及される皮膚の表皮全体と同様に、リンパ節および脾臓のT細胞が豊富な領域に豊富な、両方の嵌合樹状細胞を包含する。嵌合樹状細胞は、骨髄前駆細胞から生じ、単核食細胞に系統的に関連している。
【0034】
周知のごとく、遺伝子は、個体のゲノム内に単一のコピーまたは多数のコピーとして存在していると思われる。そのような複製遺伝子は同一もしくは一定の修飾、例えばヌクレオチド置換、追加または欠失を含み、それら全てがそれでもなお実質的に同一の活性を有するポリペプチドをコードする。例えば、用語「抗原ポリペプチドをコードするDNA配列」は、そのことから特定の個体内の1つ以上の抗原遺伝子をいってもよい。さらに、ヌクレオチド配列内での一定の違いは、個々の生物間で存在すると思われ、それを対立遺伝子と呼んでいる。そのような対立遺伝子的違いは、コードされたペプチドのアミノ酸配列の違いを生ずる場合または生じない場合があり、その配列はそれでもなお同一の生物活性を持つポリペプチドをコードしている。
【0035】
用語「エピトープ」(または抗原決定基)は、抗体分子上の単一の抗原決定部位に結合する分子の一部として定義される。単一のエピトープは単一クローン抗体(mAb)によって認識され、一方多重エピトープは一般に多クローン抗体(Ab)によって認識される。
【0036】
用語「等価」は、機能的に等価なポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことと理解される。等価ヌクレオチド配列は、1つ以上のヌクレオチド置換、付加、または欠失によって異なる複数の配列、例えば対立遺伝子変異体を含み、そのため遺伝子コードの縮重により本発明の核酸のヌクレオチド配列とは異なる配列が含まれることになる。
【0037】
「相同性」または「同一性」または「類似性」とは、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性をいう。相同性は、比較目的のために位置合わせされる各々の配列にある位置を比較することによって、決定することができる。比較された配列内での位置が同一塩基またはアミノ酸で占められている場合、それらの分子はその位置において同一である。核酸配列間の相同性または類似性または同一性の度合いは、該核酸配列によって共有される位置での同一または一致したヌクレオチドの数の関数である。アミノ酸配列の同一性の度合いは、アミノ酸配列によって共有される位置での同一アミノ酸数の関数である。アミノ酸配列の相同性または類似性の度合いは、アミノ酸配列によって共有される位置でのアミノ酸、すなわち構造的に関連したアミノ酸の数の関数である。「無関係」または「非相同性」配列は、本発明の配列の1つと40%未満の同一性、好ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0038】
本明細書で使用されるように用語「相互作用する」とは、分子間の検出可能な相互関係または結合(例えば、生化学的相互作用)、例えば、本質的にタンパク質とタンパク質との間、タンパク質と核酸との間、核酸と核酸との間、およびタンパク質と低分子との間または核酸と低分子との間の相互作用をいう。
【0039】
DNAまたはRNA等の核酸に関連して本明細書で使用されるように、用語「単離した」は、他DNAまたはRNAとからそれぞれ分離された分子をいうもので、それらは巨大分子の自然源に存在する。例えば、被験体ポリペプチドの1つをコードする単離された核酸は、ゲノムDNAの被験体遺伝子を自然かつ即座にフランキングする10キロベース(kb)以下の核酸配列を含み、より好ましくはそのような自然に生ずる5kb以下のフランキング配列、最も好ましくはそのような自然に生ずる1.5kb未満のフランキング配列を含む。本明細書で使用されるように、用語「単離した」は、組み換えDNA技術によって生産した場合、細胞物質、ウイルス物質、または培養基から実質的に分離された、あるいは化学的に合成された場合、化学的前駆体または他の化学物質から実質的に分離された核酸またはタンパク質に対しても言及する。さらに、「単離された核酸」は、フラグメントとしては自然には生じない核酸フラグメントを含むことを意味しており、天然の状態では見いだされないと思われる。用語「単離された」は、本明細書では他の細胞タンパク質から単離されたポリペプチドにも言及するもので、精製および組み換えポリペプチドの両方を包含することを意図している。
【0040】
「ノックイン」トランスジェニック動物とは、ゲノムに導入された修飾遺伝子を持ち、かつ該修飾遺伝子が外来性または内在性の由来である動物をいう。
【0041】
「ノックアウト」トランスジェニック動物とは、内在性遺伝子の発現が部分的または完全に抑制されている動物をいう(例えば、遺伝子の少なくとも一部分の欠失、第2の配列による遺伝子の少なく共一部分の置換、ストップコドンの導入、重要なアミノ酸をコードする塩基の突然変異、またはイントロン連結の除去に基づく)。好ましい実施形態では、修飾内在性遺伝子に対応する「ノックアウト」遺伝子座はもはや機能的ポリペプチド活性をコードしないことから、「ヌル(null)」対立遺伝子と言われている。したがって、本発明のノックアウトトランスジェニック動物として、1つのヌル遺伝子突然変異体を持つ動物と、同様に2つのヌル突然変異体を持つ動物とが含まれる。
【0042】
「ノックアウト構築物」とは、細胞内の内在性DNA配列によってコードされるタンパク質発現の現象または抑制に使用することができる核酸配列をいう。単純な例では、ノックアウト構築物は、重要な部分に欠失がある遺伝子から構成されるもので、その遺伝子から活性タンパク質を発現することができない。あるいは、いくつかの終止コドンを天然遺伝子に付加してタンパク質の早期終止を起こすことができ、またはイントロン連結を不活性化することができる。典型的なノックアウト構築物では、遺伝子のある部分を選択的マーカー(例えばneo遺伝子)と置換し、それによって該遺伝子を以下のように表すことができる。すなわち、遺伝子5’/neo/遺伝子3’と表される。ここで、遺伝子5’および遺伝子3’は、それぞれが遺伝子の一部分を基準にして上流および下流にあるゲノム配列またはcDNA配列を示し、neoはネオマイシン耐性遺伝子を示す。別のノックアウト構築物では、第2の選択的マーカー0がフランキング位置に付加されるので、該遺伝子は、遺伝子/neo/遺伝子/TKと表される。ここで、TKは、先行する構築物の遺伝子5’または遺伝子3’のいずれかに付加することができるチミジンキナーゼ遺伝子であり、適当な培地中でさらに選択することができる(すなわち、ネガティブ選択的マーカー)。この2つのマーカー構築物によって、相同組み換え現象の選択が可能となり、通常はTK配列を保持する非相同組み換え現象からフランキングTKマーカーが除去される。遺伝子欠失および/または遺伝子置換は、エクソン、イントロン、特にイントロン連結部、および/またはプロモーター等の調節領域からである。
【0043】
本明細書で使用されるように、「調節」とは、アップレギュレーション(すなわち、活性化または刺激(例えば、アゴナイズすることによって、または強化することによって))およびダウンレギュレーション(すなわち、阻害または抑制(例えば、アンタゴナイズすることによって、または減少もしくは阻害することによって))の両方をいう。
【0044】
用語「変異遺伝子」とは遺伝子の対立形質をいい、変異遺伝子を持たない被験体と比較して変異遺伝子を持つ被験体の表現型を変えることが可能である。もし、被験体が突然変異体に対してホモ接合型で表現型が変えられるならば、この突然変異体は劣性と言える。もし変異遺伝子の1つの複製が被験体の遺伝子型を変えるのに十分なものであるならば、この突然変異体は優性と言える。もし被験体が変異遺伝子の1つの複製を有するとともにホモ接合型およびヘテロ接合型被験体(その遺伝子に関して)の中間の表現型を持つならば、突然変異体は相互優性と言える。
【0045】
本発明の「ヒト以外の動物」としては、齧歯類、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、および爬虫類が挙げられる。好ましいヒト以外の動物は、ラットおよびマウス等の齧歯類であり、最も好ましくはマウスである。しかし、トランスジェニック両生類(例えば、Xenopus genusのメンバー)も胚形成および組織形成等に影響を及ぼす薬剤の理解および同定にとって重要なツールを提供し得る。用語「キメラ動物」は、組み換え遺伝子が見いだされた動物、または細胞のすべてではなくいくつかの細胞で組み換え遺伝子が発現される動物について言及するために、本明細書で使用される。用語「組織特異的キメラ動物」は、いくつかの組織で本発明の組み換え遺伝子の1つが存在および/または発現あるいは妨害されるが他では起こらないことを示している。
【0046】
本明細書で用いられるように、用語「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)等のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのことをいい、また必要に応じてリボ核酸(RNA)のこともいう。この用語は、等価物として、ヌクレオチド類似体から作られたRNAまたはDNAいずれかの類似体と、記載されている実施形態に適用可能なものとして、1本鎖(センスまたはアンチセンス)および二重鎖ポリヌクレオチドとが含まれることも理解されなければならない。
【0047】
用語「配列番号xに記述されているヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列」とは、配列番号xを有する核酸鎖の相補鎖のヌクレオチド配列をいう。用語「相補鎖」は、用語「相補体」と同義的に本明細書では用いられる。核酸鎖の相補体は、コード鎖の相補体または非コード鎖の相補体である。二重鎖核酸に関する場合、配列番号xを持つ核酸の相補体とは配列番号xを持つ鎖の相補鎖、または配列番号xの相補鎖のヌクレオチド配列を持つ任意の核酸をいう。配列番号xのヌクレオチド配列を持つ1本鎖核酸に関する場合、この核酸の相補体は配列番号xのヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を持つ核酸である。ヌクレオチド配列およびその相補的配列は、常に5’から3’の方向に与えられる。
【0048】
用語「パーセント同一(percent identical)」とは、2つのアミノ酸配列間の配列同一性または2つのヌクレオチド配列間の配列同一性をいう。同一性は、各々、比較を目的として並べられる各々の配列にある位置を比較することによって決定することができる。比較した配列内の等しい位置が同一の塩基またはアミノ酸によって占められている場合、それらの分子はその位置で同一である。等しい部位が同一または類似のアミノ酸残基(例えば、立体化学的および/または電子的性質)によって占められている場合、分子がその位置で相同(類似)ということができる。相同性、類似性、または同一性の割合としての発現は、比較した配列に共通する位置で同一または類似のアミノ酸数の関数を参照する。相同性、類似性、または同一性の割合としての発現は、比較した配列に共通する位置で同一または類似のアミノ酸数の関数を参照する。種々のアライメントアルゴリズムおよび/またはプログラム(FASTA、BLAST、またはENTREZが挙げられる)を用いることが可能である。FASTAおよびBLASTは、GCG配列分析用パッケージ(University of Wisconsin,Madison,Wis.)の一部として入手可能であり、例えばデフォルト設定で用いることができる。ENTREZは、National Center for Biotechnology Information、National Library of Medicine、National Institutes of Health、Bethesda,Md.)を介して入手可能である。1つの実施形態では、2つの配列のパーセント同一性は、ギャップウェイト1でGCGプログラムによって測定することができる。例えば、各々のアミノ酸ギャップは、あたかも2つの配列間の単一のアミノ酸またはヌクレオチドのミスマッチとしてウェイトされる。
【0049】
アライメントに関する他の技術は、Methods in Enzymology,vol.266:Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis(1996),Doolittle編,Academic Press,Inc.,a division of Harcourt Brace & Co.,San Diego,California,USAに記載されている。好ましくは、配列のギャップを容認するアライメントプログラムを用いて、配列を並べる。Smith−Watermanは、配列アライメント内のギャップを容認するアルゴリズムの一種である。Meth.Mol.Biol,70:173−187(1997)を参照のこと。また、NeedlemanおよびWunschのアライメント法を用いたGAPプログラムを用いて配列を並べることができる。別のサーチストラテジーでは、MASPARコンピュータ上で走るMPSRCHソフトウェアが用いられる。MPSRHは、Smith−Watermanアルゴリズムを用いて、大規模並列処理コンピュータ上で配列をスコアリングする。このアプローチは、わずかに関連する一致をピックアップする能力を改善し、特に小さなギャップおよびヌクレオチド配列エラーを許容する。核酸をコードするアミノ酸配列は、タンパク質およびDNAデータベースの両方をサーチするために使用される。
【0050】
個々の配列を有するデーターベースは、Methods in Enzymology,Doolittle編、上掲に記載されている。データベースとして、GenBank、EMBL、および日本のDNAデータベース(DDBJ)が挙げられる。
【0051】
好ましい核酸は、本発明のDNA配列の1つに示される配列の核酸配列に対して、少なくとも70%、より好ましくは80%の同一性、さらに好ましくは90%、よりいっそう好ましくは95%の同一性を有する。本発明のDNA配列の1つ配列の1つに示される核酸配列と、少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは少なくとも約98〜99%同一である核酸もまた、当然のごとく本発明の範囲内にある。好ましい実施形態では、その核酸は哺乳動物のものである。新規の核酸を既知の核酸と比較する際、いくつかのアライメントツールが利用可能である。例として、Fengら、J.Mol.Evol.(1987)25:35 1−360に記載され、多数の配列アライメントを生成するPileUpが挙げられる。別の方法であるGAPは、Needlemanら、J.Mol.Biol.(1970)48:443−453のアライメント方法を利用する。GAPは、配列を広範囲に並べるのに最適である。第3の方法であるBestFitは、SmithおよびWaterman,Adv.Appl.Math.(1981)2:482−489の局所相同性アルゴリズムを用いて一致数を最大化するためにギャプを挿入することによって、機能する。
【0052】
用語「多型」とは、遺伝子またはその一部の複数の形態が共存すること(例えば、対立遺伝子改変体)をいう。少なくとも2つの異なる形態(すなわち、2つの異なるヌクレオチド配列)が存在する遺伝子の一部は、「遺伝子の多型領域」と呼ばれる。多型領域は、単一ヌクレオチドであり、その同一性は異なる対立遺伝子で異なる。多型領域の長さもまた数ヌクレオチドである。
【0053】
「多型遺伝子」とは、少なくとも1つの多型領域を持つ遺伝子をいう。
【0054】
本明細書で用いられるように、用語「プロモーター」は、該プロモーターに作用可能に結合した選択DNA配列の発現を制御するDNA配列を意味するもので、細胞内での選択DNAの発現をもたらす。その用語は、「組織特異的プロモーター、すなわち特定の細胞(例えば、特定組織の細胞)にのみ選択DNA配列の発現配列の発現をもたらすプロモーターを包含する。上記用語は、所謂「リーキーな」プロモーターもカバーするもので、このプロモーターは主として1つの組織での選択DNA配列の発現を調整するが、他の組織でも同様に発現を引き起こす。上記用語は、非組織特異的プロモーターおよび構成的に発現または誘導可能(すなわち、発現レベルが制御可能)なプロモーターも包含する。
【0055】
用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、および「ペプチド」は、遺伝子産物に言及する場合に、本明細書では同義的に用いられる。
【0056】
用語「ポリペプチド結合パートナー」または「ポリペプチドBP」とは、本発明の特定のポリペプチドに結合する種々の細胞タンパク質をいう。
【0057】
用語「組み換えタンパク質」とは、組み換えDNA技術によって生産される本発明のポリペプチドをいい、一般にこの組み換えDNA技術では、特定のポリペプチドをコードするDNAが適当な発現ベクターに挿入され、次に該発現ベクターが宿主細胞を形質転換させて異種タンパク質を産生させる。さらに、「由来する」という言い方は、「組換えタンパク質」の意味に包含されることを意図しており、そのようなタンパク質は、特定の組み換え関し、特定の天然ポリペプチドのアミノ酸配列、またはそれに類似し、該ポリペプチドの自然に生ずる形態の置換および欠失(転位を含む)等の突然変異によって生じるアミノ酸配列を持つ。
【0058】
「非経口投与」および「非経口的に投与」という表現は、経腸および局所投与以外の投与方法を意味し、通常は注射によるもので、該投与方法として、限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊椎内、および胸骨内注射および輸注が挙げられる。
【0059】
「薬学的に受容可能な」は、本明細書では、健全な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比率に相応して、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、もしくは他の問題または合併症を生ずることなくヒトおよび動物の組織と接触した状態で使用するのに適する化合物、材料、組成物、および/または処方物に関して、使用される。
【0060】
「薬学的に受容可能なキャリア」という表現は、本明細書で使用されるように、被験体化合物を1つの器官または身体の一部から別の器官または身体の他の部分へ伝達または輸送する役割を担う薬学的に受容可能な材料、組成物、またはビヒクル、例えば液体または固体フィラー、希釈剤、賦形剤、または溶媒カプセル化材料を意味する。各々のキャリアは、処方の他の成分と適合し、患者に対して有害ではないという意味において、「受容」されなければならない。薬学的に受容可能なキャリアとなりうる材料のいくつかの例として、(1)糖類(例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース);(2)デンプン類(例えば、トウモロコシデンプンおよびポテトデンプン);(3)セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース);(4)トラガカントゴム粉末;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)滑石;(8)賦形剤(例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス);(9)油(例えば、落花生油、綿実油、サフラワー油、胡麻油、オリブ油、トウモロコシ油、およびダイズ油);(10)グリコール(例えば、プロピレングリコール);(11)多価アルコール(例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール);(12)エステル(例えば、オレイン酸エチル、およびラウリン酸エチル);(13)寒天;(14)緩衝剤(例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム);(15)アルギン酸;(16)発熱性物質を含まない水;(17)等張生理食塩水;(18)リンガー溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ酸無水物;ならびに(22)医薬処方物に用いられる他の非毒性適合物質が挙げられる。
【0061】
本明細書で使用されように、「低分子」は、分子量が約5kD未満であり、最も好ましくは約4kD未満である組成物を称することを意図している。低分子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣薬、炭水化物、脂質、または他の有機(炭素含有)もしくは無機分子である。多くの医薬会社が、生物活性を調整する化合物を同定するために、本発明のアッセイのいずれかによってスクリーニングすることができる化学的および/または生物学的混合物(多くの場合、真菌、細菌、または藻類抽出物)の豊富なライブラリーを所有している。
【0062】
用語「幹細胞」は、多種類の細胞系統に分化可能な多分化能細胞を意味する。
【0063】
本明細書で使用されるように、用語「特異的にハイブリダイズする」または「特異的に検出される」とは、脊椎動物の少なくとも6、12、20、30、50、100、150、200、300、350、400または425個の連続するヌクレオチドとハイブリダイズする本発明の核酸分子の能力をいう。
【0064】
「全身投与」、「全身投与する」、「末梢投与」、および「末梢投与する」という表現は、本明細書で用いられるように、患者の系に入って代謝および他の同様のプロセスを受けるように化合物、薬物、または他の物質を投与、例えば皮下投与することを意味しており、中枢神経系に直接投与することとは異なる。
【0065】
「治療有効量」という表現は、本明細書で使用されるように、任意の医学的処置に対して合理的な利益/リスク比率で、一匹の動物の少なくとも細胞小集団に対して有効である本発明の化合物を含む化合物、物質、または組成物の量を意味する。
【0066】
用語「トランスフェクトされた幹細胞」とは、レトロウイルス感染または当該技術分野の当業者が周知の他の手段によって、外来性DNAまたは外来性DNA遺伝子が導入された幹細胞を意味する。
【0067】
用語「エキソビボ治療」は、トランスフェクトした幹細胞を哺乳動物に導入する前に該トランスフェクトした細胞を形成するためのインビトロトランスフェクションまたはレトロウイルス感染を意味する。
【0068】
「転写調節配列」は、開始シグナル、エンハンサー、およびプロモーター等のDNA配列をさす明細書全体で使用される一般的な名称であり、それらが作動可能に連結するタンパク質コード配列の転写誘導または制御をおこなう。好ましい実施形態では、FasL遺伝子の1つの転写が、発現しようとする細胞種での組み換え遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(または他の転写調節配列)の制御下にある。同様に理解できることは、組み換え遺伝子が、自然に生ずる形態のポリペプチドの転写を制御する転写調節配列と同じか、または異なる転写調節配列の制御下におかれることである。
【0069】
本明細書で使用されるように、用語「トランスフェクション」とは、核酸媒介遺伝子導入によって核酸を、例えば発現ベクターを介して、受容細胞に導入することを意味する。本明細書で使用されるように、「形質転換」とは、外来性DNAまたはRNAを細胞が取り込んだ結果として細胞の遺伝子型が変化することを意味しており、例えば形質転換細胞は本発明のポリペプチド(例えば、抗体またはAPC免疫活性化機能をコードする遺伝子)を発現する。あるいは、伝達遺伝子からのアンチセンス発現の場合、特定の標的ポリペプチドの自然に生ずる形態の発現が妨げられる。
【0070】
本明細書で用いられるように、「導入遺伝子(transgene)」は、細胞に導入された核酸配列(例えば、腫瘍抗原またはAPC免疫活性化ペプチドの1つ、またはそのアンチセンス転写物をコードする核酸配列)を意味する。導入遺伝子は、該導入遺伝子が導入されたトランスジェニック動物もしくは細胞に対して、部分的または全体的に非相同、すなわち異質であるか、または該導入遺伝子が導入されたトランスジェニック動物もしくは細胞の内在性遺伝子に対して相同であるかもしれない。しかし、導入遺伝子は、該導入遺伝子が導入される細胞のゲノムが変化(天然の遺伝子の位置とは異なる位置に挿入、またはその挿入物がノックアウトとなる)するようにして動物ゲノムに挿入されるように設計または挿入される。導入遺伝子をエピソームの形態で細胞内に存在させることもできる。導入遺伝子は、1つ以上の転写調節配列と任意の他の核酸、例えばイントロンとを含むことができ、それらは選択された核酸の発現を最適におこなう上で必要と思われるものである。
【0071】
「トランスジェニック動物」は、任意の動物、好ましくは非ヒト動物、鳥類または両生類であり、このような動物の1つ以上の細胞が、当該技術分野で周知のトランスジェニック技術等、人為的な方法によって導入された非相同の核酸を含む。細胞への核酸の導入は、マイクロインジェクションまたは組み換えウイルスの感染等、慎重な遺伝子操作により、直接または間接的に、その細胞の前駆細胞に導入することによっておこなわれる。遺伝子操作という言葉は、古典的な異種交配またはインビトロ受精を包含するものではなく、むしろ組み換えDNA分子の導入を対象としている。この分子は、染色体内に統合されるか、もしくは染色体外でDNA複製をおこなう。本明細書に記載した典型的なトランスジェニック動物では、導入遺伝子によって細胞が本発明で使用されるポリペプチドの1つの組み換え形態、例えばアゴニスト的形態またはアンタゴニスト的形態のいずれかを発現する。しかし、組み換え標的遺伝子がサイレントであるトランスジェニック動物もまた、例えば以下に説明するFLPまたはCREリコビナーゼ依存型構築物と考えられる。さらに、「トランスジェニック動物」は、組み換えおよびアンチセンス技術の両方を含む人為的操作によって、遺伝子破壊が1つ以上の標的遺伝子に起こるそれらの組み換え動物も包含する。
【0072】
本明細書で使用されるように、用語「処置する」とは、状態または疾患の少なくとも1つの症状を改善すると同様に治療することを包含していう。
【0073】
用語「ベクター」とは、核酸分子であって該核酸分子が結合している別の核酸を輸送する能力があるものをいう。好ましいベクターの一種は、エピソープ、すなわち染色体外複製をおこなう能力がある核酸である。好ましいベクターは、該ベクターが結合する核酸の自立的複製および/または発現をおこなうことができるベクターである。作用可能に結合している遺伝子を発現させることが可能なベクターは、本明細書では「発現ベクター」という。一般に、組み換えDNA技術では、発現ベクターはしばしば「プラスミド」の形態で利用され、このプラスミドは一般に環状二重鎖DNAループをいい、ベクター形態にあるプラスミドは染色体とは結合しない。本明細書では、最も一般的に使用されるベクター形態がプラスミドであるため、「プラスミド」および「ベクター」を同義的に用いる。しかし、本発明では、等価の機能を果たし、今後当該技術分野で公知となるような発現ベクターの他の形態も包含することを意図している。
【0074】
用語「野生型対立遺伝子」は、1つの遺伝子の対立遺伝子であり、被験体に2つ複製が存在すると野生型の表現形となる。特定の遺伝子の異なる野生型対立遺伝子がいくつか存在するにちがいない。なぜなら、1つの遺伝子内で特定のヌクレオチドが変化しても、そのヌクレオチド変化を持つ遺伝子の複製を2つ持つ被験体の表現形に影響が現れないためである。
【0075】
(4.3 ワクチン)
本発明は、ワクチン、特に組織または器官(新生物性形質転換による影響を受け、ワクチンによって標的化される腫瘍細胞抗原を発現するもの)に対する一般的な全身性免疫応答を生じさせるために用いられる癌ワクチンを提供する。ワクチン技術に関する方法および組成物は、当該技術分野で知られており、例えば、米国特許第6,511,667号;同第6,503,503号;同第6,500,435号;同第6,488,934号;同第6,488,926号;同第6,479,056号;同第6,472,375号;同第6,455,492号;同第6,432,925号;および同第6,416,764号に記載されている。各々の内容を本明細書では援用する。一般化した抗腫瘍全身性免疫応答を生成するために腫瘍または癌ワクチンを本発明が提供するのに対して、腫瘍または癌ワクチン技術の方法および組成物は当該技術分野で知られており、例えば、米国特許第6,458,585号;同第6,432,925号;同第6,344,198号;同第6,338,853号;同第6,377,195号;同第6,316,256号;同第6,168,946号;同第6,106,829号;同第6,080,722号;同第5,993,829号;同第5,861,494号;同第5,786,204号;第5,750,102号;同第5,733,748号;同第5,705,151号;同第5,478,556号;同第5,290,551号;および同第5,030,621号に記載されている(これらの各々の内容は、その全体が本明細書中に援用される)。
【0076】
一般に、癌または腫瘍ワクチンは、既に確立された腫瘍免疫を増強することが可能であり、サイトカイン療法よりも腫瘍に対する特異性がはるかに高く、また毒性もほとんどないことから、他の種類の免疫治療と組み合わせることができる( を参照のこと)。腫瘍ワクチンは、腫瘍の再発をチェックする免疫学的記憶も引き出す。黒色腫ワクチンがこれまで最も注目されてきた。いくつかの中で、使用した癌ワクチンは、細胞全体のライセート、例えばMelacine、ハプテン処理自家黒色腫細胞(M−Vax)および照射済み同種異系細胞(CancerVax)である。転移性小結節の退行は、各々の試料で見られた。Melacineのコントロール試験では、切除病期IIB疾患の患者、特に以下のHLAクラスI対立遺伝子を1つ以上持つ患者が延命することが示される。すなわち、HLA−A2またはHLA−A28(−A6802)、HLA−B12、HLA−44またはHLA−45、およびHLA−C3である。インターフェロンα2bとMelacineとの併用は、進行(病期IV)疾患での抗腫瘍応答を高めるように見え、切除病期III疾患での大規模ランダムコントロール試験で試験されている。照射を受けた自家結腸癌ワクチンは、コントロール試験の切除病期II疾患(Dukes B)で無再発性生存を改善した。第2世代全細胞ワクチンとして、免疫原性を改善するためにGM−CSFまたはCD80(B7−1)等の遺伝子を取り込んだものや、大型多価免疫原(large multivalent immunogen)(LMI)等の免疫原細胞膜の使用が挙げられる。HLAクラスII分子のアップレギュレーションおよびIi分子の併用阻害(concomitant inhibition)もまた、ワクチンで腫瘍関連抗原の提示を改善するためのストラテジーとして調べられている。複合全細胞由来ワクチンでは、ペプチドまたはガングリシド等の明確な抗原を含むワクチンと比較して、臨床的に優れた応答が得られる。しかし、明確にされているワクチンは再現性があるので、理論的により望ましいと思われる。
【0077】
癌治療の目的は、特異的に腫瘍細胞を標的とする治療形態を開発することであり、それによって正常細胞に対する不必要な副作用が避けられる。癌によって発現されるタンパク質に対して特異的な免疫系を活性化させるワクチンストラテジーは、この目的にとって有効な治療法となる可能性を持っている。我々の群によって開発された初期のワクチンアプローチは、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)遺伝子(例えば、GenBank受入番号第NM_000758号および米国特許第5,641,663号を参照のこと(これらの内容のすべてが本明細書に援用される))を癌細胞に付着させ、それを用いて患者を免疫化させることが含まれる。これらの遺伝子操作された腫瘍細胞は、腫瘍細胞の局所環境で、免疫活性化タンパク質GM−CSFを産生し、患者のT細胞を特異的に活性化させ、転移部位で癌を根絶させる。多くの研究で、このワクチンがマウスの癌を治癒することが示されている。このアプローチは、腎細胞癌患者での免疫応答も活性化させ、またおそらく脾臓癌でも免疫応答を活性化させると思われる(例えば、Jaffeeら、(1999)Anny NY Acad Sci 886:67−72を参照のこと)。
【0078】
全細胞腫瘍または癌ワクチンに関する方法および組成物は、当該技術分野で知られている(例えば、総説として、Wardら、(2002)Cancer Immunol Immunother 2002 Sep;51(7):351−7を参照のこと)。手短に言えば、全腫瘍細胞は、抗原が正常な組織で発現され、あるいは同時刺激なしで非刺激性コンテクストの中に含まれることから、免疫系が特定の腫瘍抗原に対して寛容であるにもかかわらず有効な免疫を生成することができる。腫瘍は、IL−10、形質転換成長因子、およびCD95L等の免疫抑制分子も産生することができる。強力かつ特異的な免疫刺激が寛容性を破り、免疫抑制を克服する上で必要と思われる。全腫瘍細胞は、抗原供給源を提供することができる。しかし、腫瘍特異的T細胞アネルジーの誘導を克服するために免疫学的アジュバントによって提供されるような追加の刺激が必要と思われる。
【0079】
腫瘍細胞が死ぬか、または死なせる方法もまた、腫瘍抗原に対する免疫応答の生成にとって重要であることが強調されている。組織の再構築で通常は生ずるアポトーシスによる細胞死は一般に免疫学的にサイレント、またはさらに免疫抑制であると考えられる。それとはコントロール的に、感染および他のストレス形態に関連した壊死性細胞死は、免疫刺激性であると考えられ、強力な免疫応答、特にクラスI制限交差初回刺激およびTh1細胞の促進が生ずる。
【0080】
照射された細胞は、アポトーシスによる典型的な死に至るので、照射された全腫瘍細胞をワクチンとして用いることは理想的であるとは思えない。しかし、ワクチンは、概してスカベンジングマクロファージによって処理されるものよりも数多くの細胞を含むので、ワクチン細胞、特に2次的な壊死を受けている細胞は、危険シグナルを提供することが可能であろう。したがって、DCが抗原を提示してT細胞を刺激する。あるいは、このシグナルは免疫学的アジュバントによって提供し得る。細胞系ワクチンをさらに支持するものとして、最近のデータによれば、細胞関連抗原が可溶性抗原よりも50,000倍効率的にCD8+T細胞に対して交差提示されることが示唆されている。
【0081】
患者毎に個別化した全腫瘍細胞ワクチンを生産することが困難であるため、交差反応性同種異系(MHC−異種)細胞ワクチンを開発することになった。初回抗原刺激およびエフェクター段階の間に異なる腫瘍細胞が存在することから、同種異系細胞ワクチンを使用することで、免疫応答を2つのフェーズに分ける。研究によって、マウス黒色腫モデルで、B6マウスに同種異系K1735黒色腫細胞のワクチン接種をおこなうことで、同系B16黒色腫による攻撃に対して顕著な防御が与えられることが示された。この防御は、ワクチン細胞のサイトカイントランスフェクションまたは他の特定のアジュバントによって改善することはできなかった。このことは、その同系マウス(C3H)モデルにおけるK1735とコントロール的であり、該モデルではGM−CSFによってトランスフェクションしない限り、自家の攻撃に対してワクチンによる防御が与えられなかった。したがって、K1735が自家ワクチンとして免疫原性ではないにもかかわらず、同種異系ワクチンとして比較的免疫原性を有する。
【0082】
ワクチンとしての同種異系腫瘍細胞は、同種異系分子それ自体が、免疫応答を高めることが可能な免疫刺激を与えるので、有益である。このことは、宿主対移植片の反応と同様の反応を導く同種異系分子(アロ認識)と交差反応する宿主T細胞の比率が高いことによる。したがって、ワクチン接種部位および二次リンパ系組織内での増強された免疫活性化環境が生ずる。B6脾細胞によるケモカインMCP−1の誘導は、ワクチン部位へのAPC浸潤をさらに促進すると思われ、その一方で腫瘍壊死因子α(TNF−)およびIL−12はAPC成熟および増強された細胞媒介免疫を誘導する可能性を持つ。K1735ワクチン接種マウス由来の脾細胞は、INF−を産生し、Th1リコール応答を示すことによって、K1735に応答した。さらに、同種異系腫瘍細胞は、インビボでの注射部位に炎症性細胞湿潤を誘導する。例えば、B6マウスにK1735細胞を皮下注射すると、APC様表面表現型(MHCクラスII+、CD80+、CD86+)を有する細胞が注射部位にトラフィッキングされる(原稿準備中)。したがって、同種異系細胞は、免疫刺激シグナルを提供するように見え、実際、いくつかの研究で癌に対するそのような応答が、例えばインサイチュで腫瘍細胞を同種異系NHC分子によってトランスエフェクトさせることで、利用されている。
【0083】
同種異系APCがT細胞を刺激して自己腫瘍上の抗原を認識、またはこのプロセスで援助することが可能であることが示されている。しかし、実際の臨床に用いる場合ではヒト細胞ワクチンの大多数がGM−CSFによってトランスフェクトされ、細胞が自家または同種異系由来にかかわらず、腫瘍抗原交差刺激を増強する。
【0084】
手短に言えば、多くの腫瘍抗原に対して免疫系本来の寛容があるため、この障壁を克服するために追加免疫刺激(例えば、GM−CSF産生)が必要である。この追加免疫は、免疫学的アジュバントの形態、または免疫系に対する内因性の特異的調節制約条件の直接除去または回避と考えられる。しかし、注意が必要であり、免疫刺激と健康上の問題に対する潜在的危険性との折り合いをつける必要があると思われる。複合自己免疫応答、複雑化した病原体の攻撃と戦う必要性の副産物を防ぐように設計することから、これらの免疫制約は、ヒトにとってはよりいっそう大きなチャレンジである。したがって、全腫瘍細胞が生存可能で実際的なヒト癌ワクチンと考えられるが、全体的なプロトコルは患者に対する潜在的な治療上の利益を最大にするためにさらなる免疫改変が必要と思われる。
【0085】
(4.3.1 DNAワクチンおよび関連送達系)
本発明は、さらに、T細胞媒介免疫応答を引き起こすために、腫瘍抗原をコードするDNAを被験体に導入するための手段を提供する。種々のそのようなDNAワクチン送達系が当該技術分野で知られており、その例を以下に示す。ワクチン接種の方法は急激に進歩している(例えば、総説として、Polandら、(2002)BMJ.324:1315−19を参照のこと)。DNAをベースとするワクチン接種は、所望の標的抗原(例えば、腫瘍抗原等の腫瘍特異的抗原)由来の改変配列を直接注射することで防御免疫応答を提供する。この抗原は、発現ベクター(例えば、ポックスウイルスまたはαウイルスをベースとしたベクタ)に挿入される。ひとたび宿主に送達されると、挿入されたDNAが限定的に複製され、興味のあるタンパク質を産生するので、宿主は該タンパク質に対する免疫応答を生じる。その最も単純化された形態では、裸のDNA(例えば、細菌プラスミドに挿入され、かつ免疫応答を生ずるために宿主に直接注入されたDNA配列。そのような裸のDNAワクチンを筋注で、またはワクチンDNAの経皮または皮内送達を介して、ヒトの筋組織に注射してもよい。B型肝炎表面抗原をコードするDNAをコートした微小金粒子を経皮送達させることで、CD8細胞傷害性リンパ球の産生を含む防御免疫応答を生ずる(Polandら(2001)Fourth annual Conference on Vaccine Research,Arlington,VA,4月23日〜25日:S37:57)(www.nfid.org/conferences/vaccine01−/abstracts/abss 37−40.pdfを参照のこと)。
【0086】
本発明は、当該技術分野で知られている数多くの他のDNAワクチン送達系と同様に、また以下に例示するように、これらを提供する。Agをコードする「裸の(naked)」プラスミドDNA(PDNA)を注入することで、Agに対して長期にわたる細胞性および体液性免疫応答が生ずる(Wolffら(1992)Hum.Mol.Genet.1:363)。上記したように、プラスミドDNAを、筋肉内、皮内、静脈内、および皮下経路で投与することにより、良好な免疫化が示された。プラスミドDNAの筋肉内注射により、特異的IgG Abの合成およびCD8+細胞傷害性T細胞およびCD4+Th1細胞によって特徴づけられる長期間にわたる免疫応答が引き起こされる(PardollおよびBeckerleg(1995)Immunity 3:165を参照のこと)。例えば、最近の結果もまた、プラスミドDNAが複製または宿主細胞ゲノムへの取り込みがなされることなく、エピソーム的に持続することが再現性をもって示されている。筋肉内遺伝子送達を用いることで、Hsuら(Hsuら、(1996)Nature Med 2:540)は、最近、チリダニ類アレルゲン(Der p 5)をコードしているpDNAをラットおよびマウスに筋肉内注射することで、エアゾル化したアレルゲンで攻撃された動物で、IgE合成、ヒスタミン放出、および気道過反応性の誘導が抑制されることを示している。Razら(Razら、(1996)PNAS USA 93:5141)は、βガラクトシダーゼ(β-gal)で経皮的に免疫化されたβ-gal/ミョウバン刺激Balb/cマウスが6週目でβ-gal特異的IgE濃度が66〜75%減少したことを示している。また、このプラスミドDNA免疫化プロトコルは、β-gal/ミョウバン刺激マウスでTh細胞によって、特異的IgG2aおよびIFN−γ分泌を誘導した。しかし、種々のモデルにおいてIgEおよびTh2関連免疫応答を変える点でDNAをベースとした免疫化に最近成功したにもかかわらず、予防および/または治療の可能性は、決して明瞭でない。例えば、癌性腫瘍に対するDNAワクチンの特定のケースでは、標的化された抗原が、たとえ腫瘍特異的で、免疫監視機構が利用可能であったとしても、所望の抗腫瘍治療効果を産生する上で有効であるかどうかは予測不可能である。
【0087】
遺伝子治療ベクターを、本発明での使用に適合させることが可能である。最近の臨床試験では、効率的かつ安全な送達用ビヒクルを達成することができる。インビボ遺伝子導入のための送達様式として、ウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターが最も効率的で一般に使用されている(例えば、Xiangら、(1996)Virology 219:220および以下、を参照のこと)。しかし、非ウイルス送達系もまた、本発明に含まれる。そのような系は、例えば合成の容易さ、細胞/組織標的化、低免疫応答、および非制限的プラスミド寸法等の潜在的な利点を有している。
【0088】
1つの有望な非ウイルス遺伝子送達系は、今までのところ、DNAワクチン適用での「遺伝子銃」とは別に、DNAとポリカチオン性リポソームとから形成されたイオン性複合体から構成される(例えば、Caplenら、(1995)Nature Med.1:39を参照のこと)。静電的な相互作用によって結合するが、生物学的液体内での高分子電解質の電荷遮蔽効果でこれらの複合体は分離することができる。強塩基性脂質組成物は、上記複合体を安定化させるが、そのような脂質は細胞傷害性を呈する。
【0089】
複合体コアセルべーションは自発的な相分離プロセスであり、該相分離は2つの相反する帯電状態の高分子電解質を水溶液に混ぜた場合に生ずる。2種類の高分子間の静電相互作用によって、上清(ポリマーが少ない相)とコアセルベート(ポリマーに富んだ相)との分離が生ずる。この現象は、マイクルスフェアの形成に用いることができ、また種々の化合物を封入する際に用いることができる。カプセル化プロセスは、水溶液中かつ低温で完全に実施することができ、そのためカプセル材料の生物活性を保つことが保持する可能性を有する。注射可能な放出制御系の開発において、いくつかの薬物とタンパク質とを封入するためのゼラチンとコンドロイチン硫酸塩とからなる複合体コアセルべーションが利用されている(Truongら、(1995)Drug Delivery 2:166)。また、癌ワクチン接種のために、これらのマイクロスフェアにサイトカインがカプセル化されている(Golumbekら、(1993)Cancer Res 53:5841を参照のこと)。抗炎症薬もまた、変形性関節症治療のために関節に対する関節内送達を目的として取り込まれている(Brownら、(1994)331:290)。米国特許第6,193,970号、同第5,861,159号、および同第5,759,582号は,本発明のDNAワクチン送達系として複合体コアセルベートを用いる組成物および方法を記述している。特に、米国特許第6,475,995号(本明細書ではその内容を参考として援用する)は、経口投与した際に効果的なワクチンとして機能するポリカチオンと核酸とのナノ粒子コアセルベートを用いるDNAワクチン送達系が教示されている。この経口DNAワクチン送達系は、本発明の特に好ましい実施形態を提供する。
【0090】
他のワクチン送達系が当該技術分野で知られており、そして/または米国特許第6,270,795号;同第6,294,378号;同第6,339,068号;同第6,358,933号;同第6,468,984号;同第6,472,375号;同第6,488,926号;および同第6,500,432号に記載されいる(本明細書ではそれらの内容を参考として援用する)。
【0091】
(4.4.1.細菌媒介DNAワクチン送達系)
特に好ましい実施形態において、本発明は、DNA癌ワクチンによって標的化される腫瘍抗原または他の腫瘍抗原をコードするDNAに対する微生物(例えば、細菌)をベースとした送達系を提供する。抗原送達に生存細菌送達系を用いることが最近、再考されている(MedinaおよびGuzman(2001)Vaccine 19:1573−1580;WeissおよびChakraborty(2001)Current Opinion in Biotechnology 12:467−72;ならびにDarjiら(2000)FEMS Immunol and Medical Microbiology 27:341−9)。
【0092】
生菌ワクチンベクターの使用は、当該技術分野で知られており、さらに本明細書に記述されている。また、米国特許第6,261,568号および第6,488,926号(本明細書ではその内容を援用する)は、本発明のDNA癌ワクチンで用いられるワクチン送達系として複合体コアセルベート特に有用な系を説明している。
【0093】
注目すべきことは、生菌ワクチン/ベクターの使用が特に有益であることである。最菌媒介遺伝子導入は、プラスミドを筋肉内、皮内、または経口投与または経口投与することによって、遺伝子ワクチン接種で特に有益であり、該プラスミドの皮下投与が哺乳動物宿主の抗原発現をもたらし、それによって免疫調節と同様に両抗原修飾の可能性が提供される。さらに、最近媒介DNAワクチンによって、アジュバント効果と免疫系の誘導工程を標的化する能力とが与えられる。好ましい実施形態では、S.typhimurium、S.typhi、S.flexneri、またはL.monocytogenesが、トランスキングドムDNAワクチン送達のビヒクルとして用いられた。
【0094】
さらに、生ワクチン/ベクターは、細菌プラスミドのほとんど究極的なコーディング能力、および細菌発現ベクターの幅広い利用可能性を利用し、興味ある任意の標的腫瘍抗原を実際に発現する。細菌キャリアの使用は、さらに別の顕著な利点、例えば簡便な直接的な粘膜送達と関係している。他の直接的な粘膜送達系(その上、生ウイルスまたは細菌ワクチンキャリア)は、粘膜アジュバント、ウイルス粒子、ISCOM、リポソーム、マクロファージ、およびトランスジェニック植物に結合する。この技術の他の長所は、安価なバッチ調製経費、プロトタイプ開発後の容易な技術移転、他の投薬形態(例えば、サブユニットワクチン)に関する分野での貯蔵期間もしくは安定性の増大、容易な投与、および低い送達コストである。まとめると、これらの利点は、このストラテジーを癌DNAワクチンを含むDNAワクチン問題に特に適したものとする。キャリアは、操作上、サブユニット組み換えワクチンの等価物となる。このことは、言い換えると、十分に特徴づけられたキャリアを使用すると、臨床フェーズの間、抗原関連副作用の臨床評価を促進させることができる。
【0095】
弱毒化微生物および共生微生物の両方がワクチン抗原のキャリアとして成功埋に用いられている。本発明で使用される弱毒化粘膜病原体として、L.monocyotgenes、Salmonella spp.、V.cholorae、Shigella spp.、ミコバクテリア、Y.enterocolitica、およびB.anthracisが挙げられる。本発明で使用される共生株として、S.gordonii、Lactobacillus spp.、およびStaphylococcus ssp.が挙げられる。処方物に使用されるキャリア株のバックグラウンド、弱毒化を達成するために選択される突然変異体の種類、および免疫原の内因性特性を、誘発された免疫応答の範囲および質の最適化に用いることができる。細菌キャリアによって刺激された免疫応答を最適化すると考えられている一般的な因子として、細菌の選択、特定のバックグラウンド株、弱毒化突然変異体もしくは弱毒化レベル、弱毒化表現型の安定化、および最適用量の確立が挙げられる。他に考慮すべきこととして抗原関連因子、例えば抗原の内因性特性、発現系、抗原掲示形態、および組み換え体の安定化、改変分子の同時発現、さらにワクチン接種スケジュールが挙げられる。本発明で使用される細菌ワクチンベクター送達系を、簡単に再検討する。
【0096】
(Listeria monocytogenes)
組織指向性免疫応答(例えば、肝腫瘍の治療のために肝臓内で)の生産のための好ましい薬剤であることに加え、Listeria monocytogenesを本発明のDNA腫瘍/癌ワクチンの送達として用いてもよい。グラム陽性細菌であるL.monocytogenesは、ヒトを含む広範囲の動物から食細胞および非食細胞に侵入し、宿主細胞の空胞から細胞質に内在化したあとに逃れる。細胞質では、宿主細胞の細胞骨格から成分をリクルートして運動性を持つものとなり、実質的に周囲の細胞へ広がる。
【0097】
現時点では、宿主細胞へ効率的に侵入する能力を維持したL.monocytogenesの栄養要求性菌株で利用可能なものが不足している。細胞内で活性化する自己溶菌酵素を含むように株の改変がおこなわれている(Dietrichら、(1998)Natur Biotechnol 16:181−5)。このような細菌を用いて、いくつかのレポーター遺伝子またはcDNAをマウスのマクロファージ細胞に導入することが示された。加えて、一次性のヒト樹状細胞への移動が示された。インビボ導入では、GFPをコードするプラスミドを持つ細菌をマウスおよびコトンラットの腹膜に注射した。数日後にこれらの動物から収集した細胞は、レポーター遺伝子を発現するマクロファージを産生した。
【0098】
抗生物質を用いて、L.monocytogenesから発現プラスミドを宿主細胞への導入を達成することができる(すなわち、適当な感染時間後に抗生物質を培地に添加して細胞内細菌を殺す)。様々な種の上皮および内皮由来のいくつかの細胞種をこれらの実験で成功埋に試験した(Henseら(2001)Cell Microbiol 2001 3:599−609を参照のこと)。いくつかの細胞株で、10%を上回る細胞への導入が達成できた。宿主細胞の湿潤およびファゴソームからの組換え型細菌の逃避は、効率的なプラスミド導入にとって不可欠だった。
【0099】
宿主細胞にプラスミドが組み込まれた安定した形質移入体は、これらの導入系を用いて達成された。組み込み率(すなわち、一時的にトランスフェクトさせた細胞からどれぐらいの数の安定したクローンが生ずるか)は、10−7から10−2までの範囲であった(Dietrichら(1998)Nature Biotechnol 16:181−5およびHenseら(2001)3:599−609を参照のこと)。このような幅広い範囲の組み込み率についての理由は不明ではあるが、潜在的な安全性の問題を表していると思われた。エピソームベクターの使用は、この問題の解決を提供するものであり、導入の効率さえも改善する可能性がある。
【0100】
(組み換えEscherichia coli)
驚くべきことに、E.coli K12の研究室株を哺乳動物細胞の導入ベクターとしても使用することができる。栄養要求性dapB突然変異体をS.flexneriについて既に説明したようにして用いた。野生型E.coli K12は侵襲的ではないことから、S.flexneriの病原性プラスミドによってトランスフェクトされる。このプラスミドは、上皮起源の哺乳動物の細胞が感染することを可能にするだけではなく、ファゴソームからの続いて起こる逃避も容易にした。この大腸菌は、DNAを真核生物細胞へ導入する能力がある(Courvalinら、(1995)318:1207−12を参照のこと)。また、大腸菌が発生し、偽結核Yersiniaのインベーシン遺伝子を発現する。これらの細菌が宿主細胞に浸入することも可能ではあるが、空胞から出ることまでできなかった。それにも関わらず、発現プラスミドの導入が生じた(Grillot−Courvalin(1998)Nat Biotechnol 16:862−66を参照のこと)。細胞内リステリオライシンとともにインベーシンを発現するそのような細菌は、感染の多重度(MOI)が低いと導入率が適度に増加するだけであった。もしあるとすれば、インベーシンのみで処理した細菌またはインベーシンとリステリオライシンで処理した細菌との間で、導入率のわずかな違いが高MOIで検出された。このことは、ファゴソーム膜を横断して宿主細胞の核に発現プラスミドが導入されるポートを生成する能力を研究室E.coli K12が有することを示している。
【0101】
(4.4 指向性炎症性物質(Tropic Inflammatroy Agent))
一般に、標的となる器官または組織(例えば、癌治療の場合、癌によって影響を受ける器官または組織、および本発明の方法に関連した器官または組織)に対して指向性を持つ免疫活性化剤(例えば、感染性細菌、ウイルス、および真菌等の微生物)を提供する。感染性因子、例えば特定の器官または組織に対して自然指向性を持つウイルス、細菌、酵母、または真菌は、本発明のこの局面で使用するのに適している。さらに、特定の器官または組織に局在するように改変される任意の感染性因子を利用することができる(例えば、器官もしくは組織に存在するレセプターのリガンドと生物の外被、被膜、もしくは膜タンパク質との融合によって、または器官もしくは組織に特異的な抗体の表面発現もしくは該抗体に対する接合によって)。組織指向性に関して生物(例えば、細菌およびウイルス)を改変する方法は、当該技術分野で知られており、また、例えば米国特許第6,514,722号;同第6,475,482号;同第6,472,368号;同第6,462,070号;同第6,440,419号;同第6,428,788号;同第6,428,771号;同第6,416,960号;同第6,410,517号;同第6,399,575号;同第6,379,699号;同第6,339,070号;同第6,331,524号;同第6,329,501号;同第6,261,787号;同第6,261,544号;同第6,252,058号;同第6,251,392号;同第6,221,647号;同第6,214,622号;同第6,080,849号;同第6,071,890号;同第6,004,554号;同第5,965,132号;同第5,863,538号;同第5,855,866号;同第5,851,527号;同第5,820,859号;同第5,776,427号;および同第5,660,827号(これらの内容すべてが本明細書で援用される)が挙げられる。
【0102】
特に好ましい用途では、指向性生物は、増殖する腫瘍塊に存在する血管新生内皮細胞に対する指向性を持つか、あるいは該指向性を持つように改変される。
【0103】
好ましい実施形態では、指向性薬剤、例えば細菌、ウイルス、または真真菌がさらに遺伝子操作されて、ケモカイン、サイトカイン、粘着分子、または他の免疫もしくは炎症の活性薬剤(例えば、セクション4.6を参照のこと)を当該技術分野で既知の標準的クローニング方法を用いて産生する(例えば、Sanbrookら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Pressを参照のこと)。
【0104】
指向性を確立するための他の手段(例えば、上記薬剤が天然または改変された指向性を持たない直接注射、経皮カテーテル、外科的処置、または閉ループ潅流等の物理的手段によって特定の器官または組織に生物を配置)もまた本発明の方法で検討され、さらに以下で議論される(セクション4.8および4.9も見よ)。例えば、吸入送達によって上記薬剤が肺をターゲットするようにしてもよく、また経口摂取によって消化器官に配置してもよい)。
【0105】
(4.4.1 指向性細菌)
1種類以上の組織または器官に対する自然指向性(natural tropism)を有する細菌が当該分野に知られており、次のような綱(class)を含むが、これに限定されるものではない:血液を冒す(すなわち、菌血症)ことが知られている細菌としては、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase−negative staphylococci)、Staphylococcus aureus、Streptococcus pneumoniae、他のStreptococcus種、Enterococcus、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter、Proteus mirabilis、他のEnterobacterioceae、Pseudomonas aeruginosa、他のPseudomonas種、Haemophilus influenzae、Bacteroides fragilisが挙げられる。血液を冒すことが知られている他の細菌は、多くの好気性菌および嫌気性菌を含む。
【0106】
心臓を冒す(心内膜炎)細菌の例としては、Viridans連鎖球菌群、Enterococcus、Staphylococcus aureus、Pseudomonasが挙げられる。心臓を冒すことが知られている、他の細菌としては、Streptococcus pneumoniae、HACEK群(Haemophilus aphrophilus、Actinobacillus、Cardiobacterium、Eikenella、Kingella)、Coxiella burnetii、Chlamydia psittaciが挙げられる。
【0107】
人口弁を冒す細菌の例としては、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Staphylococcus aureus、Enterococcus、Corynebacterium種が挙げられる。人口弁を冒すことが知られている、他の細菌は、Streptococcus pneumoniae、Mycobacterium chelonaeである。
【0108】
中枢神経系を冒す(急性髄膜炎)細菌の例としては、Streptococcus pneumoniae、Neisseria meningitidis、Haemophilus influenzae、B群Streptococcus、Listeria monocytogenes、Escherichia coliが挙げられる。中枢神経系を冒すことが知られている、他の細菌は、LEptospira、Staphylococcus aureusである。慢性髄膜炎を冒す細菌の例としては、Mycobacterium tuberculosis、Nocardia、Treponema pallidumが挙げられる。慢性髄膜炎を発症させることが知られている、他の細菌としては、Borrelia burgdorferi、Brucella、および他のマイコバクテリウム属を含む。
【0109】
脳膿瘍を発症させる細菌の例としては、Viridans連鎖球菌群(Bacteroides、Fusobacteriu、Porphyromonas、Prevotella、Peptostreptococcus)、Staphylococcus aureusが挙げられる。脳膿瘍を発症させることが知られている、他の細菌は、Clostridium種、Haemophilus、Nocardia、Enterobacteriaceaeである。
【0110】
腹腔内感染を引き起こす細菌の例は、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Streptococcus pneumoniae、Enterococcusである。腹腔内感染を引き起こすことが知られている、他の細菌は、Staphylococcus aureus、anaerobes、Neisseria gonorrhoeae、Chlamydia trachomatis、Mycobacterium tuberculosisである。
【0111】
二次性腹膜炎を発症させる細菌の例は、Escherichia coli、Baceroides fragilis、他の腸内嫌気性菌、Enterococcus、Pseudomonas aeruginosaである。二次性腹膜炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Mycobacterium tuberculosisである。
【0112】
透析関連腹膜炎を発症させる細菌の例は、コアグラーゼ陰性Staphylococcus、Staphylococcus aureus、Streptococcus種、Corynebacterium種である。透析関連腹膜炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Escherichia coli、Klebsiella、Enterobacter、Proteus、Pseudomonasである。
【0113】
腹腔内膿瘍を発症させる細菌の例は、Bacteroides fragilis群、Escherichia coli、Enterococcusである。腹腔内膿瘍を発症させることが知られている、他の細菌は、Klebsiella、Enterobacter、Proteus、Pseudomonas、Staphylococcus aureusである。
【0114】
上気道を冒す(咽頭炎)細菌の例は、A群Streptococcusである。上気道を冒すことが知られている、他の細菌は、混合嫌気性菌(ヴァンサンアンギナ)、Neisseria gonorrhoeae、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium ulcerans、Archanobacterium haemolyticum、Mycoplasma pneumoniae、Yersinia enterocoliticaである。
【0115】
気管気管支炎を発症させる細菌の例としては、M.Pneumoniaeが挙げられる。
【0116】
外耳炎を発症させる細菌の例は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalis、嫌気性菌である。外耳炎/内耳炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Staphylococcus aureus、A群Streptococcusである。
【0117】
副鼻腔炎(Sinusitis)を発症させる細菌の例は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalis、嫌気性菌である。副鼻腔炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Streptococcus aureus、A群Streptococcusである。
【0118】
喉頭蓋炎を発症させる細菌の例は、Haemophilus influenzaeである。喉頭蓋炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureus、他のHaemophilus属である。
【0119】
下気道を冒す(気管支炎)細菌の例は、Mycoplasma pneumoniae、Bordetella pertussis、Chlamydia属である。
【0120】
急性肺炎を発症させる細菌の例は、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureus、Haemophilus influenzae、Klebsiella pneumoniae、Escherichia coli、Legionella、Pseudomonas aeruginosa、混合嫌気性菌、Mycoplasma pneumoniae、Chlamydiaである。急性肺炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Acinetobacter、Moraxella catarrhalis、Neisseria meningitidis、Mycobacterium tuberculosis、他のMycobacterium属、Eikenella、Francisella、Nocardia、Pasteurella multocida、Pseudomonas pseudomallei、Yersinia pestis、Coxiella burnetii、Rickettsia、Bacillus anthracisである。
【0121】
慢性肺炎を発症させる細菌の例は、混合嫌気性菌、Mycobacterium tuberculosis、Nocardiaである。慢性肺炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Actinomyces、Pseudomonas pseudomallei、Mycobacterium属である。
【0122】
眼を冒す(結膜炎)細菌の例は、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureus、コアグラーゼ陰性staphylococci、Haemophilus influenzae(H.aegyptius)、Neisseria gonorrhoeae、Chlamydia trachomatisである。
【0123】
角膜炎を発症させる細菌の例は、Staphylococcus aureus、Streptococcus pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa、Moraxellaである。角膜炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Mycobacterium fortuitum−chelonaeである。
【0124】
眼内炎を発症させる細菌の例は、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Bacillus speciesである。
【0125】
皮膚および軟部組織感染を引き起こす細菌の例:膿痂疹(Impetigo)−A群Streptococcus、Staphylococcus aureus;フルンケルおよびカーバンクル−Staphylococcus aureus;爪甲(そうこう)周囲炎−Staphylococcus aureus、A群Streptococcus、Pseudomonas aeruginosa;丹毒−A群Streptococcus;蜂巣炎−A群Streptococcus、Staphylococcus aureus、Haemophilus influenzae;壊死性蜂巣炎および筋膜炎−A群Streptococcus、Clostridium perfringens、他のクロストリジウム属、Bacteroides fragilis、他のグラム陰性嫌気性菌、Peptostreptococcus、Enterobacteriaceae、Pseudomonas aeruginosa;下疳様損傷−Treponema pallidum、Haemophilus ducreyi。下疳様損傷を発症させることが知られている、他の細菌は、Bacillus anthracis、Francisella tularensis、Mycobacterium ulcerans、Mycobacterium marinumである。;外傷、熱傷、咬傷等による創傷−ブドウ球菌、Streptococcus、Enterobacteriaceae、Pseudomonadaceae、および他の環境細菌を含む、多様な生物を含む。
【0126】
関節炎における骨および関節を冒す細菌の例は、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Streptococcus属、Haemophilus influenzaeを含む。関節炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Brucella、Nocardia、Mycobacterium speciesである。骨髄炎−Staphylococcus aureus、腸内細菌科(Salmonella、Escherichia、Klebsiella、Proteus)、Pseudomonas。骨髄炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Mycobacterium tuberculosis、他のMycobacterium species、嫌気性菌である。プロテーゼ関連感染は、Staphylococcus aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Streptococcus属を含む。プロテーゼ関連感染を引き起こすことが知られている、他の細菌−Peptostreptococcus、多種多様な好気性グラム陰性菌。
【0127】
尿路を冒す細菌の例は、次のものを含む:大腸菌、Proteus mirabilis、Klebsiella、Enterobacter、Pseudomonas、Enterococcus、Staphylococcus saprophyticusのような、膀胱炎を起こす生物。膀胱炎を冒すことが知られている、他の細菌は、Staphylococcus aureus、Corynebacterium ureolyticus、Clostridiurn species、Bacteroides fragilis、Ureaplasma urealyticum;腎盂腎炎―大腸菌、Proteus mirabilis、Klebsiella、Staphylococcus aureus。腎盂腎炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Enterococcus、Corynebacterium ureolyticusである。前立腺炎―大腸菌、Klebsiella、Enterobacter、Proteus mirabilis、Enterococcus。前立腺炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Neisseria gonorrhoeaeである。
【0128】
生殖器を冒す細菌(尿道炎を引き起こすものを含む)の例―Neisseria gonorrhoeae、Chlamydia trachomatis。生殖器を冒すことが知られている、他の細菌は、Ureaplasma urealyticum、Mycoplasm genitalum。細菌性膣炎(膣炎)、嫌気性菌(例えば、Mobiluncus、Bacteroides属、Peptostreptococcus)との相乗的感染、および、おそらくGardnerella vaginalis。子宮頚炎―Neisseria gonorrhoeae、Chlamydia trachomatis。子宮頚炎を発症させることが知られている、他の細菌は、Actinomyces、Mycobacterium tuberculosis。生殖器腫瘍―Treponema pallidum、Haemophilus ducreyi、Chlamydia trachomatis(LGV(性病性リンパ肉芽))。生殖器腫瘍を発症させることが知られている、他の細菌は、Actinomyces、Mycobacterium tuberculosisである。
【0129】
胃腸中毒(食物内の毒素に起因する疾患)を発症させる細菌の例:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、セレウス菌(Bacillus cereus)、Clostridium botulinum。感染―カンピロバクター菌(Campylobacter)、Salmonella、Shigella、Clostridium difficile、Clostridium perfringens、Clostridium botulinum(乳児ボツリヌス中毒、Vibrio cholerae)、Vibrio parahaemolyticus、Bacillus cereus。感染を引き起こすことが知られている、他の細菌は、大腸菌(腸内毒素原性、腸侵入性、腸病原性、腸管出血性)、他の毒素産生腸内細菌科(Enterobacteriaceae、Aeromonas、Plesiomonas、Yersinia enterocoliticaである。胃炎―Helicobacter。直腸炎――Neisseria gonorrhoeae、Chlamydia trachomatis、Treponema pallidum。
【0130】
(Listeria monocytogenes)
本発明の特に好適な実施例において、Listeria monocytogenes(好ましくは、HIV−gagによって弱毒化したもの;LiebermanおよびFrankel(2002)Vaccine 20:2007−10;ならびにFriedmanら(2000)J Virol 74:9987−93を参照のこと)を腹腔内注射すると、その結果、この細菌は肝臓に局所的に局在化される(例えば、肝臓ガン治療用の肝臓腫瘍ワクチン増強における利用のために)。
【0131】
血流に入るほとんどの細菌(Listeriaを含む)は、全身的経口摂取機序を経て、肝臓に取り込まれ、排出されることが知られている(総説についてGregoryおよびWing(2002)J Leukoc Biol 72:239−48を参照)。ヒトにおけるListeria感染の病態生理は概して、流行と散発両方の場合で、汚染食物を通して起こる。消化管が、病原となるListeriaが宿主に入る主な部位であると考えられている。(総説についてVazquez−Bolandら(2001)Clin Microbiol Rev 14:584−640を参照)胃腸炎の場合、感染の臨床過程は、通常、重度に汚染された食物を経口摂取して約20時間後に始まる。一方、侵入性疾患の潜伏期間は概してもっと長く、約20〜30日である。動物において、胃腸炎および侵入性疾患両方で、類似の潜伏期間が報告されている。
【0132】
ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染もまた、Listeria症の重要な危険要因である。非妊娠成人Listeria症患者の5〜20%において、AIDSは根底的な素因である。AIDS患者がListeria症に罹る危険性は、一般の集団より300〜1000倍高いと推定されてきた。しかし、Listeria症は、AIDS関連感染症としては比較的まれなままである。おそらくそれは、HIV感染患者のとる予防的食事方法(危険度の高い食物を避ける)、HIV感染患者が治療や日和見感染を防ぐために定期的に受ける抗菌治療、およびHIV感染がListeria種に対する免疫の主要エフェクターの活性をあまり減少させないという事実によるものである。(先天免疫機序およびCD8+T細胞サブセット)
Listeriaによる、宿主組織への侵入および集落形成は、概して、腸の関門を通過することで起こる。腸に達する前に、経口摂取されたListeriaは胃の厳しい環境に耐えなければならない。感染物質の経口摂取量は、シメチジン処置された実験動物への方が、未処置の動物より少なかった。そして、抗酸薬およびH2遮断薬の利用は、Listeria症に対する危険要因であると報告されてきた。このことは、胃の酸性が、汚染食物とともに摂取される、かなり多くのListeriaを破壊するかもしれないということを示している。
【0133】
Listeriaは、肝臓内で増殖する。腸の関門を通過するListeriaは、リンパ液または血液によって、腸間膜リンパ節、脾臓、および肝臓に運搬される。Listeriaによる宿主組織集落形成の、この最初の段階は迅速である。したがって、経口曝露後、症候性全身感染を進展させるために、L.monocytogenesが必要とする、通常長い潜伏期間は、他の食物伝染性病原体の潜伏期間との関係からみて、不可解であり、そして、宿主組織のL.monocytogenes集落形成が、静かな、準臨床的段階(その現象と根底にある機序の多くは不明である)を必要としていることを示している。
【0134】
静脈ルート経由によるマウスの実験的感染によって、Listeriaは、脾臓および肝臓に常在するマクロファージによって、血流から迅速に除去されることが示されている。細菌の量のほとんど(90%)は肝臓に蓄積し、おそらく、洞様血管の内側を覆っているクッパー細胞によって捕らえられている。これら常在マクロファージは、インビボでの涸渇実験で示されるように、経口摂取された細菌のほとんどを殺し、その結果、感染後最初の6時間の間で、肝臓内の生存可能な細菌集団の大きさが減少する。クッパー細胞は、Tリンパ球の抗原依存増殖およびサイトカインの分泌を誘導して、抗Listeria免疫の開発を開始すると信じられている。全てのListeria細胞が組織マクロファージに破壊されるのではなく、生き残った細菌は成長し、マウスの器官内で、2〜5日間、数を増大させる。
【0135】
肝臓内における細菌増殖の主要部位は、肝細胞である。この所見によって、L.monocytogenesの寄生生活のための主な宿主ニッチはマクロファージ集団であるという、長く支持された考えは放棄されることになった。L.monocytogenesが、腸でのトランスロケーションおよび肝門または動脈血流による運搬のあと、肝細胞に到達するには可能な方法が二つある。:クッパー細胞経由で、細胞間伝播によって、または、洞様血管の内側を覆う有窓の内皮関門を通過した後、ディッセ腔から肝細胞の直接侵入によって。事実、L.monocytogenesは、インビトロで、肝細胞に効率的に侵入することが示されている。
【0136】
感染したマウス由来の肝臓組織を電子顕微鏡で調べると、L.monocytogenesは、肝細胞内の完全な細胞間感染サイクル(アクチンを基盤とする細胞間伝播を含む)を経由することが示される。肝細胞間の直接通路によって、感染病巣の形成がおこなわれる。その病巣内で、L.monocytogenesは、免疫系の体液性エフェクターと接触することなく、肝臓実質組織によって伝播する。このことで、抗Listeria免疫において、なぜ抗体が大きな役目を果たさないのかを説明することができるかもしれない。
【0137】
Listeriaは、妊娠中の子宮でコロニー形成をすることもある。Listeria属が原因の流産および死産を、ヒツジ、ウシ、ウサギ、およびモルモット等の天然に懐胎しやすい宿主細胞内での静脈内、口腔、および呼吸器接種により実験的に再現した。これにより、L.monocytogenesが胎盤関門の血行性浸透により胎児へのアクセスを得ることが判明した。妊娠中のマウスでは、血液由来細菌は、最初に、脱落膜基底層に侵入し、その後、胎盤絨毛へ進行し、そこで炎症性浸潤および懐死の核酸を引き起こす。好中球が主要な抗Listeriaエフェクター細胞の集まりとして働く一方で、マクロファージは、マウス胎盤から排除されるようである。ホモ接合型変異体マウスを用いて、近年、コロニー刺激因子−1は、脱落膜基底層での感染病巣への好中球の補充を必要することが判明した。これは、栄養芽層による好中球化学遊走物質合成の導入を介して発生する。ヒトでは、胎盤感染は、多数の微小膿瘍および病巣の壊死性絨毛により特徴づけられる。内皮壁に渡る転座が続く栄養芽層のコロニー形成は、細菌が胎児の血流に達することを可能にし、全身性の感染に至り、その結果、子宮内の胎児の死を引き起こすか、また粟粒状膿肉芽腫症にひどく感染した新生児が未熟児で生まれる(上記の肉芽腫幼児敗血症)。妊娠中の細胞性免疫の低下は、おそらくListeria症で重要な役割を果たす。
【0138】
Listeriaは、脳に侵入する能力もある。ヒトでは、Listeria属によるCNS感染は、主に髄膜炎を示す。しかし、この髄膜炎は、しばしば脳実質、特に脳幹中の感染病巣の存在に関連し、L.monocytogenesが神経組織に指向性を有することを示唆する。神経指向性および菱脳に対するL.monocytogenesの特定の偏好は、反芻動物でよりはっきりと示されており、リステリアCNS感染は、ヒトの場合と比べて、主に脳炎として発達する。これらの動物では、感染病巣は、脳橋、延髄、および脊髄に制限される。髄膜の炎症性リンパ球または単核細胞湿潤は存在するけれども、巨視的病変は、依然確かではなく、また基底領域、中脳、および小脳に制限されている可能性がある。一方に偏った脳神経麻痺は、反芻動物でのリステリア菱脳蓋症の特性であり、周知の回旋病に至る。ヒトでは、主に非髄膜脳感染はほとんど認められない。しかし、反芻動物のように、菱脳を伴う脳炎として発達する。
【0139】
リステリア髄膜脳炎の脳病変が典型的であり、ヒトおよび動物で非常に類似している。それらは、単核細胞と点在する好中球およびリンパ球とで構成される炎症性湿潤の袖状血管周辺部からなる。細菌は、一般に、炎症の血管周辺領域には存在しない。実質微小膿瘍と壊死および軟化症の病巣とは、通常存在する。細菌は、これらの病巣で比較的豊富である。食細胞内、または壊死性領域周辺の脳実質では存在しない。好中球特異的モノクローナル抗体を用いたマウスでの欠乏実験により、好中球が脳の感染病巣からL.monocytogenesを排除する際に重要な役割を果たすことが判明した。非常にまれであるが、天然の感染および実験的に導入した感染で、細菌がニューロン内で認められる。これは、培養ニューロンの侵入は比較的まれな出来事であることを示す試験管内データに一致する。しかし、ニューロンは、感染したマクロファージまたは小グリア細胞から直接細胞から細胞に広がることよって、試験管内で効率的に侵入される。
【0140】
上記に引用したHIV−gagによって弱毒化したListeriaに加えて、Listeriaの弱毒化を、この技術で既知の方法を用いて、既知の毒性遺伝子発現の不活性化を介して実行できる(Listeria毒性因子と、遺伝子構成および発現との総説として、Vazquez−Bolandら(2001)Clin Microbiol Rev 14:584−640参照のこと)。
【0141】
(4.4.2 指向性ウイルス)
指向性ウイルスの例として、肝臓に感染するA型、B型、C型、D型およびE型肝炎ウイルス、黄熱病ウイルス、ならびにエプスタインバーウイルスと、新生児または免疫易感染者の肝臓に感染するサイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ならびに水痘および風疹ウイルスと、心臓に感染するCoxsackie Bウイルスと、腎臓に感染するサイトメガロウイルスと、筋肉に感染するCoxsackie B(胸間筋痛)ウイルスと、腺に感染するサイトメガロウイルスならびにおたふくかぜウイルスと、眼球に感染する単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、はしか、風疹、エンテロウイルスならびにCoxsackie A24ウイルスとが挙げられる。
【0142】
(4.4.3.他の指向性薬剤)
本発明はさらに天然で、または化学的改変を介して、所望の腫瘍または器官を標的化する真菌および寄生虫生体等の他の薬剤を提供し、その上「非生存」炎症性薬剤(低分子等)をも提供する。
【0143】
表在性真菌症を引き起こす特定の組織に感染する真菌の例としては、皮膚に感染するMalassezia furfurおよびExophiala werneckiiが挙げられる。
【0144】
特定の組織および器官に感染する寄生虫生体の例としては、骨髄感染するLeishmania属と、中枢神経系に感染するAcanthamoeba Naegleria、トリパノソーマ、およびAngiostrongylus cantonensisと、眼球に感染するLeishmania属;腸管に感染するEntamoeba histoytica、Giardia、Cryptospridium、Microsporidia、蟯虫および蠕虫;肝臓および脾臓に感染するE.histoyticaおよびLeishmania属;肺に感染するPneumocystis carinii;筋肉に感染するTrichinella spiralisおよびTrypanosoma cruzi;皮膚に感染するonchocerca volvulusおよびLeishmania属;ならびに、最後に、泌尿生殖系に感染するTrichomonas vaginalisおよびSchistosoma haematobiumとが挙げられる。
【0145】
(4.5.核酸およびポリペプチド)
本発明は、腫瘍抗原をコードするものおよび免疫活性刺激因子をコードするもの(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子のようなサイトカイン(GM−CFS、GenBank番号NM_000758および米国特許第5,641,663号を参照のこと、その内容は、本明細書中に組み込むものとする)と、他の核酸、その相同物、およびその一部分と、それらがコードするポリペプチドとを提供する。好適な核酸は、被験体遺伝子のヌクレオチド配列と、少なくとも約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、さらに好ましくは85%相同、さらに好ましくは90%、さらに好ましくは95%、その上さらに好ましいのは、少なくとも99%相同である配列を有し、例えば、腫瘍抗原をコードする遺伝子核酸は、本発明の被験体核酸の1つで表される核酸配列と、少なくとも90%、さらに好ましくは95%、最も好ましくは、少なくとも約98〜99%同一であり、またその相補体も当然本発明の範囲内である。好ましい実施形態では、核酸は哺乳動物のものであり、特に好ましい実施形態では、被験体腫瘍抗原をコードするDNAのコード配列に対応するコード領域に対応する核酸配列の全てまたは一部分を含む。
【0146】
本発明はまた、腫瘍抗原ポリペプチド、変異体および/またはこの核酸の等価物をコードする配列を含む単離した核酸に係る。用語「等価(equivalent)」は、本明細書中に記載するような腫瘍抗体タンパク質の活性を有する機能的に等価な腫瘍抗原ポリペプチドまたは機能的に等価なペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むことと理解される。等価ヌクレオチド配列は、1つ以上のヌクレオチド置換、付加、または欠失によって異なる配列、例えば対立遺伝子変異体を含み、そのため遺伝子コードの縮重により、例えば対応する腫瘍抗原遺伝子のGenBank登録のヌクレオチド配列とは異なる配列が含まれることになる。
【0147】
好適な核酸は、脊椎動物の腫瘍抗原核酸である。特に好適な脊椎動物の腫瘍抗原核酸は、哺乳動物のものである。種にかかわらず、特に好適な腫瘍抗原核酸は、ポリペプチドをコードし、脊椎動物の腫瘍抗原タンパク質のアミノ酸配列に対し、少なくとも60%、65%、70%、72%、74%、76%、78%、80%、90%、または95%類似または同一である。1つの実施形態では、核酸は、被験体腫瘍抗原ポリペプチドまたはAPC活性化因子の少なくとも1つの生物活性を有するポリペプチドをコードするcDNAである。好ましくは、核酸は、GenBankを介して利用できる核酸に対応するヌクレオチド配列の全てまたは一部分を含む。
【0148】
また、本発明の他の好適な核酸は、少なくとも2、5、10、25、50、100、150、または200のアミノ酸残基で構成され、かつ腫瘍抗原をコードするポリペプチドをコードする。例えば、このような核酸は、約50、60、70、80、90、または100の塩基対を含むことができる。さらに、プローブ/プライマーまたはアンチセンス分子として使用する核酸分子(つまり非コード核酸分子)は、本発明の範囲内であり、少なくとも、約6、12、20、30、50、60、70、80、90、または100の塩基対の長さを含むことができる。
【0149】
本発明の別の局面は、本発明の任意の被験体核酸で表される核酸に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を提供する。DNAハイブリダイゼーションを促進する適当な厳密条件とは、例えば、約45℃での6.0x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)であり、その後、50℃での2.0×SSCの洗浄であり、これは当業者には公知であり、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1〜6.3.6またはMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(1989)に見出される。例えば、洗浄工程での塩濃度を、低厳密性の50℃での約2.0×SSCから、高厳密性の50℃での約0.2×SSCまでの間で選択できる。さらに、洗浄工程の温度を、低厳密条件の室温約22℃から、高厳密条件の約65℃まで上げることができる。温度および塩の両方を変更してもよいし、また他の調節可能なものを変更する場合、温度および塩濃度は一定に保ってもよい。好ましい実施形態では、本発明の腫瘍抗原核酸を、中程度に厳密な条件下(例えば、約2.0×SSCで約40℃)で、被験体配列番号またはその相補体の一つに結合する。特に好ましい実施形態では、本発明の腫瘍抗原をコードする核酸を、高厳密条件下で、図8Aもしくは9Aの核酸配列またはその相補体の1つに結合する。特に好適な別の実施形態では、本発明の腫瘍抗原をコードする核酸配列を、高厳密条件下で、腫瘍抗原をコードするORF核酸配列に対応する本発明の核酸の1つに結合する。
【0150】
遺伝子コードの縮重により本発明の核酸またはその相補体の1つに示すヌクレオチド配列とは異なる配列を有する核酸は、本発明の範囲内である。このような核酸は、機能的に等価なペプチド(すなわち、腫瘍抗原をコードするポリペプチドの生物学的活性を有するペプチド)をコードするが、遺伝子コードの縮重により、配列表で示す配列とは、配列が異なる。例えば、アミノ酸の数が1つを超えるトリプレットにより指定される。同じアミノ酸を特定するコドンまたは同義語コドン(例えば、CAUおよびCACは、どちらもヒスチジンをコードする)は、腫瘍抗原ポリペプチドのアミノ酸配列に影響しない「沈黙(サイレント)」変異体となる。しかし、被験体腫瘍抗原ポリペプチドのアミノ酸配列での変化に至るDNA配列多型が哺乳動物に存在することが予期される。当該技術者は、腫瘍抗原をコードするポリペプチドの活性を有するポリペプチドをコードする核酸の1つ以上のヌクレオチド(例えば、約3〜5%のヌクレオチドまで)でのこれらの変異が天然の対立遺伝子変異による所定の種の個体間に存在する可能性を予測するだろう。
【0151】
(4.5.1.プローブおよびプライマー)
哺乳動物生物から腫瘍抗原遺伝子をクローニングして決定したヌクレオチド配列はさらに、他の哺乳動物生物からの腫瘍抗原相同物と同様に、例えば、他の組織から得た他の細胞種類で、他の腫瘍抗原相同物を同定および/またはクローニングする際の使用のために設計されるプローブおよびプライマーの生成を可能にする。例えば、本発明は、十分に精製したオリゴヌクレオチドを含むプローブ/プライマーも提供し、このオリゴヌクレオチドは、厳密な条件下で、本発明の核酸(例えば、腫瘍抗原をコードする核酸)の1つから選択したセンスまたはアンチセンス配列の少なくとも約12、好ましくは25、さらに好ましくは40、50、または75の連続したヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0152】
好ましい実施形態では、特異性を最適化し、プライミングの効率に影響を与えるような2次構造を避けるように腫瘍抗原プライマーを設計する。「上流」および「下流」プライマーが式:T=81.5℃−16.6(log10[Na])+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−(600/長さ);またはT(℃)=2(A/T)+4(G/C)とほぼ同等の融解温度を有するように本発明の最適化したPCRプライマーを設計する。最適化した腫瘍抗原プライマーを、ホワイトヘッド生物医学研究所(Whitehead Institute for Bi)が提供する「Primer3」等の様々なプログラムを用いて設計してもよい。
【0153】
同様に、被験体腫瘍抗原配列に基づくプローブを用いて、例えば、予後または診断アッセイで使用する際、同様のまたは相同のタンパク質をコードする転写物またはゲノム配列を検出できる(さらに下記に記載する)。本発明は、本発明の遺伝子配列のいずれにも見出せる配列に相補的な少なくとも12の連続したヌクレオチドに対応するもののような腫瘍抗原転写物の選択的スプライシングされた変異体に共通のプローブを提供する。さらに、本発明は、腫瘍抗原転写物の選択的スプライシングされた形態に特異的にハイブリダイズするプローブを提供する。プローブおよびプライマーを、例えば、他の種類の核酸に対して、本明細書中で前述したように、調製して改変できる。
【0154】
(4.5.2.抗原)
本発明は、下記に記載するように、本発明で使用する抗原、腫瘍抗原、および腫瘍抗原発現遺伝子を提供する。
【0155】
形質導入した発現ベクターにコードされる抗原が細菌性またはウイルス性腫瘍抗原のような病原体抗原である場合、本発明は、感染症に対する治療および予防、すなわち従来のDNAワクチンの適用を可能にする。本発明のこの局面で使用する多数の病原体抗原は、この技術で既知のものであり、例えば、標準クローニング技術ならびに/またはGenBankや他の情報源が提供する核酸およびポリペプチド配列情報を用いて得てもよい(例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/entrezを参照のこと)。
【0156】
本発明で使用する好例の病原体抗原としては、B型肝炎感染の治療および予防に使用するB型肝炎腫瘍抗原(例えば、HBcAgまたはB型肝炎ウイルス(HBV)のコアタンパク質のHBeAgからの分泌物、例としてKuhrober(1997)Int Immunol 9:1203−12を参照のこと);結核の治療および予防に使用する結核抗原(例えば、Montgomery(2000)Brief Bioinform 1:289−96を参照のこと);HIV感染の治療および予防に使用するHIV腫瘍抗原(例えば、gp160)(例えば、Schultzら(2000)Intervirology 43:197−217を参照のこと);およびライム病を処置および予防するためのBorrelia burgdorferi sensu lato抗原(例えば、外表リポタンパク質A(OspA))(例えば、Simonら(1999)Zentralbl Bakteriol 289:690−5を参照のこと)が挙げられる。さらに、細菌ゲノムをシーケンシングして、その後、表面を露出した微生物構造と、病原種の天然の集まりでのその保存とを同定することによって、本発明で使用する多数の付加的な病原体抗原の主要な候補を迅速に同定することが可能になる(例えば、SaunderおよびMoxon(1998)Curr Opin Biotechnol 9:618−23を参照のこと)。
【0157】
形質導入した発現ベクターにコードされる抗原が腫瘍抗原である場合、本発明は、転移性肝腫瘍等の癌の治療を可能にする。本発明のこの局面で使用する多数の腫瘍抗原は、この技術で既知のものであり、例えば、標準クローニング技術ならびに/またはGenBankや他の情報源が提供する核酸およびポリペプチド配列情報を用いて得てもよい(例えば、www.ncbi.nlm.nih.gov/entrenzを参照のこと)。
【0158】
本発明で使用する好例の腫瘍抗原としては、前立腺癌を治療するための前立腺特異的膜腫瘍抗原(PSMA)(例えば、Mincheffら(2000)Eur Urol 38:208−17を参照のこと);乳癌を治療するためのHER2/neu遺伝子腫瘍抗原(例えば、Lachmanら(2001)Cancer Gene Ther 8:259−68を参照のこと);B細胞悪性腫瘍を治療するためのイディオタイプ免疫グロブリン配列(例えば、Stevensonら(2001)Ann Hematol 80 suppl 3:B132−4を参照のこと);T細胞悪性腫瘍を治療するためのイディオタイプT細胞レセプター腫瘍抗原(例えば、Reddyら(2001)Ann NY Acad Scie 941:97−105を参照のこと);SV40発現腫瘍を治療するためのSV40腫瘍抗原(例えば、Wattsら(2000)Dev Biol(Basel)104:143−7を参照のこと);ならびに、癌腫を治療するための癌胎児性腫瘍抗原(CEA)およびCD40リガンド腫瘍抗原(例えば、Xiangら(2001)J Immunol 167:4560−5を参照のこと)が挙げられる。
【0159】
腫瘍抗原に対する免疫応答を増強するために、腫瘍抗原性ポリペプチド(例として破傷風毒素ポリペプチド、例えば、Stevensonら(2001)Ann Hematol 80 suppl 3:B132−4を参照のこと)へのこれら腫瘍抗原の融合も含まれる。
【0160】
(4.6.GM−CSFおよび他の免疫活性化抗原)
特定の実施形態では、例えば、遺伝子操作した全腫瘍細胞ワクチンと併用して、本発明は、本発明のワクチンおよび指向性薬剤とともに使用する免疫活性化抗原を提供する。様々なサイトカインおよび他の分子は、樹状細胞または他の腫瘍抗原提示細胞の増殖、分化、移動、および活性を促進でき、さらに、腫瘍抗原提示に対するT細胞の応答を誘引し高める樹状細胞の能力を増強できる。例えば、Banchereau Jら、「Dendritic cells and the control of immunity」Nature(1998)392:245−42;Young JWら、「The hematopoietic development of dendritic cells:a distinct pathway for myeloid differentiation」Stem Cells(1996)14:376−387;Cella Mら、「Origin,maturation and tumor antigen presenting function of dendritic cells」Curr Opin Immunol.(1997)9:10−16;Curti Aら、「Dendritic cell differentiation from hematopoietic CD34 progenitor cells.」J Biol.Regul.Homeost.Agents(2001)15:49−52を参照のこと。樹状細胞または他の腫瘍抗原提示細胞の分化、成熟、展開、および活性を調節する分子の例としては、CD40リガンド、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、FMS様レセプターチロシンキナーゼ3リガンド(Flt3リガンド、FL)、インターロイキン(IL)1−α、IL1−β、IL−3、IL−4、IL−6、IL−12、IL−13,IL−15,腫瘍壊死因子α(TNF−α)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、幹細胞因子(SCF,キット(kit)リガンド(KL)、Steel因子(SF、SLF)、およびMast細胞増殖因子(MGF)としても知られる)、腫瘍壊死因子(TNF)関連活性誘導サイトカイン(TRANCE)、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、および形質転換成長因子β1等のリガンドが挙げられる。上記分子のいずれかに帰する1つ以上の活性を有する融合タンパク質は、樹状細胞または他の腫瘍抗原提示細胞の分化、成熟、展開、または活性を調節してもよい。これらのリガンド、融合タンパク質、または他の分子のいずれも、ベクター発現系で第2の遺伝子発現カセットとしてコードされることが可能である。
【0161】
CD40リガンドは、樹状細胞の誘導を促進し、免疫原性応答の発達を容易にすることが報告されている。例えば、Borges Lら、「Synergistic action of fms−like tyrosine kinase 3 ligand and CD40 ligand in the induction of dendritic cells and generation of antitumor immunity in vivo」J Immunol.(1999)163:1289−1297;Grewal I,Flavell R.「The CD40 ligand.At the center of the immune universe?」Immunol Res.(1997)16:59−70を参照のこと。CD40リガンドおよび等価物をコードする好例の核酸は、調製、組成、および使用法と同様に記載されている(例えば、GenBank受入番号X65453およびL07414を参照のこと)(米国特許第6,290,972号、Armitageら)。
【0162】
GM−CFS(GM−CFSリガンドおよび等価物をコードする好例の核酸としては、例えば、GenBank受入番号X03020、X03019、X03221、E02975、E02287、E01817、E00951、E00950、A20083、A11763、およびX03021を参照のこと)は、樹状細胞および他の腫瘍抗原提示細胞の動態、分化、展開、活性を調節することが報告されている。例えば、Arpinati Mら、「Granulocyte−colony stimulating factor mobilizes T helper 2−inducing dendritic cells」Blood(2000)95(8):2484−2490;Pulendran Bら、「Flt3−ligand and granulocyte colony−stimulating factor mobilize distinct human dendritic cell subsets in vivo」J Immunol(2000)165(1):566−572;Sallusto F,Lanzavecchia A「Efficient presentation of soluble tumor antigen by cultured human dendritic cells is maintained by granulocyte/macrophage colony−stimulating factor plus interleukin 4 and downregulated by tumor necrosis factor α」J Exp Med(1994)182:389−400;Szabolcs Pら「Expansion of immunostimulatory dendritic cells among the myeloid progeny of human CD34 bone marrow precursors cultured with c−kit ligand,granulocyte−macrophage colony−stimulating factor,and TNF−α」J Immunol(1995)154:5851−61;Caux Cら「Tumor necrosis factor α strongly potentiates interleukin−3 and granulocyte−macrophage colony−stimulating factor−induced proliferation of human CD34 hematopoietic progenitor cells」Blood(1990)75:2292−8を参照のこと。GM−CFSをコードする好例の核酸の組成、調製、製造使用法、類似物、融合、および等価物は、例えば、米国特許第5,641,663号、同第5,908,763号、同第5,891,429号、同第5,393,870号、同第5,073,627号、同第5,359,035号および外国特許文献JP 1991155798号、JP 1990076596号、JP 1989020097号、GB 2212160号、EP 0352707号、EP 0228018号、WO8504188号に記載されている。
【0163】
Flt3リガンドは、樹状および他の腫瘍抗原提示細胞の動態、誘導、および拡散を調節することが記載されている。例えば、Pulendran Bら「F1t3−ligand and granulocyte colony−stimulating factor mobilize distinct human dendritic cell subsets in vivo」J Immunol.(2000)165(1):566−572;Borges Lら「Synergistic action of fms−like tyrosine kinase 3 ligand and CD40 ligand in the induction of dendritic cells and generation of antitumor immunity in vivo」J Immunol.(1999)163:1289−1297;Lebsack Mら「Safety of FLT3 ligand in healthy volunteers」Blood(1997)90(Suppl.1,Abstract 751):170 a;Lyman SD.Biologic effects and potential clinical applications of Flt3 ligand.Curr Opin Hematol.(1998)5(3):192−196;Maraskovsky Eら「Dramatic increase in the numbers of functionally mature dendritic cells in FLT3−ligand−treated mice:multiple dendritic cell subpopulations identified」J Exp Med(1996)184:1953−62;およびStrobl Hら「Flt3−ligand in cooperation with transforming growth factor−β1 potentiates in vitro development of Langherans−type dendritic cells and allows single−cell dendritic cell cluster formation under serum−free conditions」Blood(1997)90:1425−34を参照のこと。Flt3リガンドおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号NM_013520、L23636、U04807、U44024、U29875、U03858、U29874、およびU04806に開示されている。調製、組成、および使用法は、例えば、米国特許第6,291,661号、同第5,843,423号、および同第5,554,512号に記載されている。
【0164】
IL−12および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、Genbank登録番号AF401989、AF411293、AF180563、AF180562、AF101062、AY008847、XM_084136、M65271、AF050083、XM_004011、M86672、NM_008351、M86671、NM_008352、および米国特許第5,723,127(Scottら)に記載されている。
【0165】
TNF−αは、樹状細胞拡散および発達の複数の局面に影響することが判明している。例えば、Szabolcs Pら「Expansion of immunostimulatory dendritic cells among the myeloid progeny of human CD34 bone marrow precursors cultured with c−kit ligand,granulocyte−macrophage colony−stimulating factor,and TNF−α」J Immunol(1995)154:5851−61;Caux Cら「Tumor necrosis factor a strongly potentiates interleukin−3 and granulocyte−macrophage colony−stimulating factor−induced proliferation of human CD34 hematopoietic progenitor cells」Blood(1990)75:2292−8;およびChen Bら「The role of tumor necrosis factor(in modulating the quantity of peripheral blood−derived,cytokine−driven human dendritic cells and its role in enhancing the quality of dendritic cell function in presenting soluble tumor antigens to CD4 T cells in vitro」Blood(1998)91(12):4652−4661を参照のこと。TNF−αおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、Genbank 登録番号X01394、A21522、NM_013693、M20155、M38296、M11731、および米国特許第4,677,063号、同第4,677,064号、同第4,677,197号、同第5,298,407号に記載されている。
【0166】
TRANCEは、樹状細胞の生存および免疫活性特性を増強することが報告されている。例えば、Josien Fら「TRANCE,a tumor necrosis factor family member enhances the longevity and adjuvant properties of DCs in vivo」J Exp Med.2000;191(3):495−502を参照のこと。TRANCEおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号NM_011613、AF013170、NM_033012、NM_003701、AF053712、AF013171、AB037599、および米国特許第6,242,586号に開示されている。
【0167】
TRAILは、腫瘍細胞ターゲットのアポトーシスを引き起こす樹状細胞の能力を促進することが示されている。例えば、Fanger NA,Maliszewski CR,Schooley K,Griffith TS.Human dendritic cells mediate cellular apoptosis via tumor necrosis factor−related apoptosls−induclng ligand(TRAIL).J Exp Med.1999;190(8):1155−1164を参照のこと。TRAILおよび等価物をコードする好例の核酸は、GenBank受入番号U37518、NM_003810、XM_045049、U37522、NM_009425、AB052771、および米国特許第5,763,223号に開示されている。
【0168】
GM−CSFおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号M17706、X03655、X03438、X03656、M13926、NM_009971、X05402、ならびに米国特許第4,810,643号および外国特許文献WO−A−8702060号、WO−A−8604605号、WO−A−8604506号に開示されている。
【0169】
IL−4および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号NM_000589、M13982、X81851、AF395008、M23442、NM_021283、M25892、X05064、X05253、X05252、および米国特許第5,017,691号に開示されている。また、Tarte K,Klein B.Dendritic cell−based vaccine:a promising approach for cancer immunotherapy.Leukemia 1999;13:653−663も参照のこと。
【0170】
c−Kitリガンドは、特に他因子との相乗作用で、樹状細胞の拡散および長期維持を支持することが示されている。例えば、Szabolcs Pら「Expansion of immunostimulatory dendritic cells among the myeloid progeny of human CD34+bone marrow precursors cultured with c−kit ligand,granulocyte−macrophage colony−stimulating factor,and TNF−α」J Immunol(1995)154:5851−61を参照のこと。キットリガンドおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号AF400437、AF400436、M59964、M59964、NM_000899、NM_003994、U44725、および米国特許第6,001,803号、第5,525,708号に開示されている。
【0171】
IL−13および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、Genbank受入番号NM_002188、X69079、L06801、U10307、AF377331、NM_008355、L13028、M23504、および米国特許第5,652,123号、第5,696,234号に開示されている。
【0172】
IL−1aおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、Genbank受入番号NM_000575、M28983、X02531、M15329、AF010237、NM_013598、M57647、X68989、および米国特許第5,371,204号、第5,008,374号、第5,017,692号、第5,756,675号に開示されている。
【0173】
IL−1βおよび等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号X02532、M15330、M15840、および米国特許第5,286,847号、第5,047,505号に開示されている。
【0174】
IL−6および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号Y00081、X04602、M54894、M38669、M14584、および米国特許第5,338,834号に開示されている。
【0175】
IL−15および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号U14407、NM_000585、X91233、Z38000、X94222、Y09908、U14332、NM_008357、AF038164、および米国特許第5,747,024号に開示されている。
【0176】
TGF−β1および等価物をコードする好例の核酸は、例えば、GenBank受入番号M38449、M55656、X05839、Y00112、X02812、J05114、AJ009862、M13177、BC013738に開示されている。また、例えば、Strobl Hら「Flt3−ligand in cooperation with transforming growth factor−β1 potentiates インビトロ development of Langherans−type dendritic cells and allows single−cell dendritic cell cluster formation under serum−free conditions.」Blood(1997)90:1425−34;およびBorkowsky TAら「A role for endogenous transforming growth factor−β1 in Langherans cell biology:the skin of transforming growth factor−β1 null mice is devoid of epidermal Langherans cells.」J.Exp.Med.(1996)184:4520−30も参照のこと。
【0177】
抑制シグナルを阻害する分子をコードする核酸を、発現ベクターにGene 2として含むことも考慮している。好例の発現ベクターで、gene2としてコードされるアンタゴニストにより阻害され得る抑制性レセプターの例としては、血管内皮成長因子レセプターがある。例えば、Gabrilovich Dら「Vascular endothelial growth factor inhibits the development of dendritic cell and dramatically affects the differentiation of multiple hematopoietic lineages in vivo.」Blood 1998;92:4150−66を参照のこと。
【0178】
上述のリガンドの多くは、上記に引用した参考文献に記載されるように、互いに相乗作用的に働くことが知られている。そのため、本主題では、腫瘍抗原提示細胞特異的プロモーターの制御下の腫瘍抗原遺伝子を含む第1の遺伝子発現カセットと、腫瘍抗原提示細胞の分化、成熟、展開、または活性を促進する要因遺伝子を含む第2の遺伝子発現カセットと、腫瘍抗原提示細胞の分化、成熟、展開、または活性を促進する要因遺伝子を含む第3の遺伝子発現カセットとを有し、第2および第3の遺伝子発現カセットが樹状細胞または腫瘍抗原提示細胞の分化、成熟、展開、および活性を調節できる好例の分子またはその等価物のいずれかをコードする好例の核酸およびその等価物のいずれのくみ合わせであるトリシストロン構築物を含む発現ベクター実施形態も考慮する。
【0179】
(4.7.ベクター)
本発明はさらに、腫瘍抗原または免疫活性タンパク質をコードし、宿主細胞中で、腫瘍抗原または免疫活性タンパク質を発現するために用いることのできるプラスミドおよびベクターを提供する。宿主細胞は、いずれの原核細胞または真核細胞でもよい。したがって、完全長タンパク質の全てまたは選択した部分をコードする、哺乳動物の腫瘍抗原タンパク質のクローニングから得たヌクレオチド配列を用いて、微生物または真核細胞プロセスを介して腫瘍抗原ポリペプチドの組み換え体を生産できる。発現ベクター等の遺伝子構築物へのポリヌクレオチド配列のライゲーションと、宿主、すなわち真核(酵母、鳥類、昆虫類、または哺乳動物)細胞または原核(細菌)細胞のどちらかへの形質転換またはトランスフェクションとは、この技術で周知の標準手順で行う。
【0180】
通常、生物内または試験管内で腫瘍抗原タンパク質を発現するために用いる発現ベクターは、少なくとも1つの転写調節配列に作用可能に結合する、腫瘍抗原ポリペプチドをコードする核酸を含む。制御配列は、この技術で認識されているものであり、所望の方法(時間および場所)で、対象タンパク質の発現を指示するために選択される。転写調節配列は、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に記載されている。
【0181】
腫瘍抗原ポリペプチドを発現するための好適なベクターとしては、E.coli等の原核細胞で発現させるためのpBR322由来のプラスミド、pEMBL由来のプラスミド、pEX由来のプラスミド、pBTac由来のプラスミド、およびpUC由来のプラスミドのようなタイプのプラスミドが挙げられる。
【0182】
好適な哺乳動物発現ベクターは、細菌でのベクターの増殖を容易にするための原核細胞配列と、真核細胞で発現される1つ以上の真核細胞転写ユニットとの両方を含む。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neoおよびpHyg由来のベクターは、真核細胞のトランスフェクションに好適な哺乳動物発現ベクターの例である。これらのベクターのいくつかを、pBR322等の細菌プラスミドから得た配列で改変して、原核および真核細胞の両方で、複製および薬剤耐性選択を容易にする。また、ウシパピローマウイルス(BPV−1)またはエプスタインバーウイルス(pHEBo、pREP由来およびp205)のようなウイルスの派生物を、真核細胞でのタンパク質の一過的発現のために用いることができる。プラスミドの調製および宿主生物の形質転換に利用する様々な方法は、この技術で周知である。原核および真核細胞両方に対する他の好適な発現系として、一般的な組み換え手順と同様に、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989)Chapters 16および17を参照のこと。
【0183】
好ましい実施形態では、プロモーターは、例えば、CMVプロモーターの強力なウイルスプロモーター等の構成性プロモーターである。さらに、プロモーターは、細胞または組織特異的にするのが可能であり、繊維芽細胞、平滑筋細胞、網膜細胞、またはRPE細胞に特異的なプロモーターのように、所定の細胞、例えば、プロフェッショナル腫瘍抗原提示細胞のみでのDNAの実質的な転写を可能にする。平滑筋特異的プロモーターは、例えば、平滑筋細胞マーカーSM22αのプロモーターである(Akyuraら、(2000)Mol Med 6:983)。網膜色素上皮細胞特異的プロモーターは、例えば、Rpe65遺伝子のプロモーターである(Boulangerら、(2000)J Biol Chem 275:31274)。プロモーターは、誘導性プロモーター、例えばメタロチオネインプロモーターにすることもできる。他の誘導性プロモーターとしては、GossenおよびBujard(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1992)89:5547)およびBujardらによる米国特許第5,464,758号、第5,650,298号、第5,589,362号で、一般的にアロステリック「オフスイッチ」として言及されるBujardらが報告したテトラサイクリンによる制御を伴うもののような他の非相同の転写系と同様に、例えば、低分子誘導性遺伝子発現(遺伝子スイッチ)に関して記載するCrabtreeらによる米国特許第5,869,337号および第5,830,462号;国際特許出願PCT/US94/01617号、PCT/US95/10591号、PCT/US96/09948号等に記載されるように、転写因子の誘導性結合または活性により制御されるものが含まれる。他の誘導性転写系としては、ステロイドまたは他のホルモンによる制御が含まれる。
【0184】
全ての必要な転写および翻訳制御配列を伴う本発明のポリヌクレオチドは、本明細書中で、「本発明の構築物」または「本発明の導入遺伝子」として言及する。
【0185】
本発明のポリヌクレオチドは、細胞に導入してもよく、その細胞中で、別の薬剤をコードする他のDNA配列(本発明のポリヌクレオチドと同様または異なるDNA分子上にあってもよい)とともに発現する。好例の薬剤は、さらに下記に記載する。1つの実施形態では、DNAは、DNAを転写するポリメラーゼをコードするとともに、このポリメラーゼの認識部位を含んでもよく、注射可能な調製は、初期量のポリメラーゼを含んでもよい。
【0186】
特定の実施例では、ポリペプチド送達が一過性であるように、限られた時間でポリヌクレオチドが翻訳されるのが好ましい。これは、例えば、誘導性プロモーターを使用することにより達成できる。
【0187】
本発明で用いるポリヌクレオチドは、化学合成、例えばBeaucageおよびCarruthers,Tetra.Letts.,22:1859−1862(1981)記載のフォスフォアミダイト法またはMatteucciら、J.Am.Chem.Soc.,103:3185(1981)記載の方法に従ったトリエステル法により、部分的または全体的に生産してもよく、市販の自動オリゴヌクレオチド合成機で実行してもよい。二重鎖フラグメントは、相補鎖を合成して、適当条件下で鎖を互いにアニーリングすることによって、または適当なプライマー配列とともにDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を添加することによって、化学合成の一本鎖産物から得られる。
【0188】
全ての必要な転写および翻訳制御因子に作用可能に結合する本発明のポリヌクレオチドは、裸のDNAとして、被験体に注入できる。好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチドおよび必要な制御因子がプラスミドまたはベクターに存在する。従って、本発明のポリヌクレオチドは、DNA自体は複製しないが、複製起点を含むプラスミドに挿入されるDNAがよい。DNAは、宿主細胞ゲノムに組み込まれるように改変した配列であるのがよい。
【0189】
本発明の使用に好適なベクターは、発現ベクターであり、すなわち細胞ベクターで核酸の発現を可能にするベクターである。好適な発現ベクターは、細菌でのベクターの増殖を容易にするための原核細胞配列と、真核細胞で発現する1つ以上の真核細胞転写ユニットとの両方を含むものである。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neoおよびpHyg由来のベクターは、真核細胞のトランスフェクションに好適な哺乳動物発現ベクターの例である。これらのベクターのいくつかを、pBR322等の細菌プラスミドから得た配列で改変して、原核および真核細胞の両方で、複製および薬剤耐性選択を容易にする。また、ウシパピローマウイルス(BPV−1)またはエプスタインバーウイルス(pHEBo、pREP由来およびp205)のようなウイルスの派生物を、真核細胞でのタンパク質の一過的発現のために用いることができる。プラスミドの調製および宿主生物の形質転換の際に利用する様々な方法は、この技術で周知である。原核および真核細胞両方に対する他の好適な発現系として、一般的な組み換え手順と同様に、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989)Chapters 16 and 17を参照のこと。
【0190】
哺乳動物、すなわちヒトまたは非ヒトへポリヌクレオチドを導入するためのいずれの手段も、意図するレシピエントへ本発明の様々な構築物を送達するための本発明の実施に適応できる。本発明の1つの実施形態では、トランスフェクション、すなわち「裸」DNAの送達により、または、コロイド分散系との複合体で、DNA構築物を細胞に送達する。コロイド系としては、巨大分子複合体と、ナノカプセルと、ミクロスフェアと、ビーズと、水中に油を含むエマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む脂質系とが挙げられる。本発明の好適なコロイド系は、脂質複合型またはリポソーム構成型DNAである。従来のアプローチでは、DNA処方物設計前に、例えば、脂質とともに、所望のDNA構築物を保持する導入遺伝子を含むプラスミドを、最初に、発現用に実験的に最適化するのがよい(例えば、5’非翻訳領域のイントロンの含有および不必要な配列の排除(Felgnerら、Ann NY Acad Sci 126−139,1995)。DNA処方物は、例えば、様々な脂質またはリポソーム原料とともに、その後、既知の方法および原料を用いて実行して、レシピエント哺乳動物に送達してもよい。例えば、Canonicoら、Am J Respir Cell Mol Biol 10:24−29,1994;Tsanら、Am J Physiol 268;Altonら、Nat Genet.5:135−142,1993およびCarsonによる米国特許番号5,679,647号「Colloidal dispersion systems」を参照のこと。
【0191】
リポソームの標的化は、解剖学的および機械的因子に基づいて分類できる。解剖学分類は、選択性のレベル、例えば器官特異性、組織特異性、および細胞小器官特異性に基づく。機械標的化は、受動的か能動的かによって区別できる。受動的標的化は、リポソームの天然の傾向を利用して、正弦性の毛細血管を含む器官の細網内皮系(RES)の細胞に広まる。一方で、能動的標的化は、モノクローナル抗体、糖、糖脂質、もしくはタンパク質等の特異的リガンドにリポソームを結合することによる、または天然に発生する局在化部位以外の器官および細胞タイプへの標的化を達成するために、リポソームの組成またはサイズを変えることによるリポソームの変化を含む。
【0192】
標的化された送達系の表面を、様々な方法で改変してもよい。リポソーム標的送達系の場合、標的リガンドがリポソーム脂質二重層に安定して結合するのを維持するために、脂質基を、リポソームの脂質二重層に組み込むことができる。脂質鎖を標的リガンドに結合するために、様々な結合基を用いることができる。裸のDNA、または送達運搬体に関連するDNA、例えばリポソームは、被験体の複数の部位に投与することができる(下記を参照のこと)。例えば、平滑筋細胞は、SM22α、すなわち平滑筋細胞マーカーに特異的に結合する抗体で標的化され得る。網膜細胞およびRPE細胞も、同様に標的化され得る。
【0193】
本発明の好適な方法では、DNA構築物を、ウイルスベクターを用いて送達する。導入遺伝子は、組み換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、および単純ヘルペスウイルス1のような遺伝子治療に有用な様々なウイルスベクター、組み換え細菌プラスミド、または真核細胞プラスミドのいずれに組み込んでもよい。本発明の実施で様々なウイルスベクターを用いる際、AAVおよびアデノウイルスによるアプローチが特に興味深い。このようなベクターは、通常、生物内、特にヒトへの外来性遺伝子の輸送の際に選択される組み換え遺伝子送達系であると理解されている。ウイルスベクターの選択および使用上の下記の追加ガイダンスは、実践者に役立つであろう。以下に詳細に記載するように、被験体発現構築物の実施形態は、様々な生物内およびエキソビボ遺伝子治療プロトコルでの使用に関し特に考慮している。
【0194】
(4.8 薬学的組成物および処方物)
本発明は、上述のワクチンおよび指向的免疫賦活剤を含む薬学的組成物を提供する。一局面においては、本発明は、上述の化合物を1 つ以上治療有効量含み、1種以上の薬学的に受容可能なキャリア(添加物)、および/または希釈剤と共に処方される薬学的に受容可能な組成を提供する。また別の局面にある特定の実施形態においては、本発明の化合物は、そのまま、または薬学的に受容可能なキャリアと混合して投与してもよく、さらに他の化学療法治療薬と併せて投与してもよい。従って、組み合せ(併用)療法(conective(combination)therapy)は、順次的(sequential)、同時的(simultaneous)、および別個的なもの(separate)を含み、言い換えると、次のものが投与されるとき、最初に投与されたものの治療効果が完全に消滅していないような、有効化合物の同時投与(co−administration)である。
【0195】
以下に詳述されるように、本発明の薬学的組成物は、固形、または液体形状での投与用に特別に処方物してもよく、下記の投薬法に適合させたものを含む。(1)経口投与、例えば、飲薬(水溶液、もしくはそれ以外の溶液、または懸濁液)、錠剤、例えば、頬側、舌下、および全身吸収を標的としたもの、ボーラス、散剤、顆粒、舌へ塗布するためのペースト;(2)非経口的投与、例えば、無菌溶液、無菌懸濁液、または持続放出性投薬形態での、皮下注射、筋肉内注射、静脈注射、または硬膜外注射による投与;(3)局所適用、例えば、クリーム、軟膏、もしくは制御放出性のパッチ(patch)、または皮膚適用スプレー;(4)膣内投与、または直腸内投与、例えば、ペッサリー、クリーム、またはフォーム(foam);(5)舌下投与;(6)経眼投与;(7)経皮投与;あるいは、(8)鼻腔内投与。
【0196】
1つの実施形態において、この薬学的組成物は、非経口的投与用に処方される。1つの実施形態において、この薬学的組成物は、動脈注射用に処方される。別の好ましい実施形態において、この薬学的組成物は、全身投与用に処方される。
【0197】
上述のように、本化合物の特定の実施形態では、アミノ基、または、アルキルアミノ基のような塩基性官能基を含んでいてもよく、したがって薬学的に受容可能な酸と薬学的に受容可能な塩を形成できる。この点において、用語「薬学的に受容可能な塩」は、比較的無毒な、本発明化合物の無機酸添加塩および有機酸添加塩を意味する。これらの塩は、投与賦形剤中、または投薬形態形成過程中にインサイチュで合成可能であり、あるいは、遊離塩基形態にある本発明の精製化合物を、独立して、適当な有機酸、もしくは無機酸と反応させ、その後の精製中に、生成した塩を単離することでも合成可能である。代表的塩は、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン塩酸、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、琥珀酸塩、酒石酸塩、ナプシル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩等を含む。(例えば、Bergeら、(1977)「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)
主題の化合物の薬学的に受容可能な塩は、有毒でない、該化合物の通常塩、もしくは第4アンモニウム塩を含み、例えば、無害な無機酸または有機酸に由来する。例えば、そのような通常の非有毒塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、ショウ酸などの無機酸から合成した塩を含み、さらに、酢酸、プロピオン酸、琥珀酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石の酸性のクエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イソチオシアン酸等の有機酸から調製した塩を含む。
【0198】
他の場合には、本発明の化合物は、1基以上の酸性の官能基を有してもよく、したがって、薬学的に受容可能な塩基と薬学的に受容可能な塩を形成することができる。これらの場合では、用語「薬学的に受容可能な塩」は、比較的無毒な、本発明化合物の無機塩基添加塩および有機塩基添加塩を意味する。これらの塩は、同様に投与賦形剤中、もしくは投薬形態形成過程中に、インサイチュで合成可能であり、あるいは、遊離酸形態にある精製化合物を、独立に、薬学的に受容可能な金属陽イオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは重炭酸塩、アンモニア、または薬学的に受容可能な有機第1アミン、第2アミン、もしくは第3アミンなどの適当な塩基と反応を起こさせることによって、調製可能である。代表的アルカリ塩、またはアルカリ土類塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、およびアルミニウム塩等を含む。塩基添加塩の形成にとって有用な代表的有機アミンは、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン等を含む(例えば、上述のBergeらを参照のこと)。
【0199】
該化合物中には、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、調味料、香料および芳香剤、防腐剤、ならびに酸化防止剤と同様、湿潤剤、乳化剤、ならびに、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤が存在することがある。
【0200】
薬学的に受容可能な酸化防止剤の例は、以下のものを含む。(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の水溶性の酸化防止剤;(2)アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、αトコフェロール等の脂溶性の酸化防止剤;ならびに(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等の金属キレート剤。
【0201】
本発明の処方物は、経口投与、鼻腔内投与、局所投与(頬側投与、および舌下投与を含む)、直腸内投与、腟内投与、および/または非経口的投与に適したものを含む。それらの処方物は、便利な単位投薬形態で提供されてもよく、また、製薬分野において周知のいかなる方法によって調製されてもよい。必要に応じてキャリア物質と併せ、一投薬形態をつくるのに必要な有効成分の量は、治療される患者、および特定の処方物に依存する。必要に応じてキャリア物質と併せ、一投薬形態をつくるのに必要な有効成分の量は、概ね、治療効果を生み出す化合物の量であろう。一般的に言って、この量は、100パーセントのうち、有効成分約1パーセント〜約99パーセントの範囲にあり、好ましくは約5パーセント〜約70パーセント、最も好ましくは、約10パーセント〜約30パーセントの範囲である。
【0202】
特定の実施形態において、本発明の処方物は、シクロデクストリンと、リポソームと、胆汁酸および重合体キャリア(例えばポリエステルおよびポリ酸無水物)などのミセル形成剤とからなる群より選択される賦形剤、ならびに本発明の化合物を含む。特定の実施形態において、前述の処方物は、本発明の化合物を生物学的に経口利用可能にする。
【0203】
これらの処方物または組成物を調製する方法は、本発明の化合物を、キャリアと、また必要なら1種またはそれ以上の副成分と結合させる工程を含む。一般的に、それらの処方物は、本発明の化合物を液状キャリア、微粉化固形キャリア、またはその両方と一様かつ緊密に結合させ、必要な場合には生成物を成形して調製される。
【0204】
本発明化合物の経口投与用液状処方物は、薬学的に受容可能なエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシル剤を含む。そのような液状処方物は、有効成分に加えて、当技術分野で一般に使われる不活性希釈剤を含んでもよく、その例として、水またはその他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツオイル、コーンオイル、胚芽オイル、オリーブ油、ひまし油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル類、ならびにそれらの混合物などがある。
【0205】
不活性の希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化懸濁剤、甘味料、調味料、着色料、芳香剤、および保存剤などの補助剤含むことがある。
【0206】
懸濁液は、有効化合物に加えて、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、およびトラガカント、ならびにそれらの混合物懸濁化剤を含んでもよい。
【0207】
経口投与に適当な本発明の処方物は、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、トローチ剤(調味基剤、通常、ショ糖、およびアカシアまたはトラガカントを使用)、散剤、顆粒の形状にあるか、あるいは、水もしくはそれ以外の液体の溶液もしくは懸濁液、水中油もしくは油中水の液体エマルジョン、エリキシル剤もしくはシロップ剤、トローチ剤(ゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアカシアなどの不活性基剤を使用)、および/または、洗口剤等であり、それぞれ、規定量の本発明化合物を有効成分として含む。本発明の化合物は、ボーラス、舐薬、またはペーストとして投与してもよい。
【0208】
本発明の経口投与用固形処方物(カプセル剤、錠剤、丸剤、ドラジェー(dragee)、散剤、顆粒等)中で、有効成分は、1種以上の薬学的に受容可能なキャリア、例えばクエン酸ナトリウム、もしくは第2リン酸カルシウム、および/または、下記のうちのいずれかと混合される。すなわち、(1)デンプン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、および/またはケイ酸などの賦形剤または増量剤;(2)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニールピロリドン、ショ糖、および/または、アカシアなどの結合剤;(3)グリセロールなどの湿潤剤;(4)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、アルギン酸、ある種のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;(5)パラフィンなどの溶解遅緩剤;(6)4級アンモニウム化合物などの、吸収促進剤;(7)例えば、セチルアルコール、グリセロールモノステアレート、および非イオン性界面活性剤などの湿潤剤;(8)カオリン粘土、およびベントナイト粘土などの吸収剤;(9)滑石、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物などの潤滑剤;ならびに(10)彩色剤。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、薬学的組成物は、緩衝剤を含んでもよい。類似の固形組成物を、ラクトースもしくは乳糖、および高い分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使う軟ゼラチンカプセルおよび硬ゼラチンカプセル中の賦形剤として用いてもよい。
【0209】
錠剤は、必要なら1種以上の副成分を含み、圧縮または成形により処方物してよい。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、潤滑剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、またはクロスリンクされたカルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤、または分散剤を用いて調製してもよい。成型錠剤は、適当な機械中で、不活性液状希釈剤で湿潤された粉末状化合物の混合物を成形して処方物してよい。
【0210】
錠剤、および本発明における薬学的組成物の他の固形処方物、例えば、ドラジェー、カプセル剤、丸剤、および、顆粒は、必要に応じて、腸溶コーティングおよび薬剤処方物分野において周知の他のコーティングなどの、コーティングおよびシェルによって、スコア(score)または調製してよい。処方物中で、例えば、望ましい放出プロフィールが得られるように様々な割合でヒドロキシプロピルメチルセルロース、他の重合体マトリクス、リポソーム、および/またはミクロスフェアを使用し、有効成分が遅緩放出もしくは制御放出されるように、それら固形処方物を処方してもよい。それら固形粗放物は、例えば凍結乾燥剤など、迅速な放出が行われるように処方物してもよい。例えば、細菌非通過性フィルターを通したろ過によって、あるいは、無菌水もしくは使用直前に注射可能な他の無菌媒質に可溶な無菌固形組成物として殺菌剤を内蔵することによって、それらを無菌化してもよい。これらの組成物は、必要に応じて不透明化剤を含んでもよく、また、有効成分が消化管の特定部分でのみ放出されるか、または そこで優先的に放出されるような、さらに場合によっては遅緩された局面で放出されるような組成のものでもよい。使用可能な包埋組成物の例は、重合体物質、およびワックスを含む。有効成分は、適切であるなら、上述の賦形剤のうちの1つまたはそれ以上を用いてマイクロ−カプセルに封入可能である。
【0211】
直腸内投与、または腟内投与用の本発明の薬学的組成物の処方物は、挫剤として提供してもよく、挫剤は、一種以上の本発明の化合物を、例えばカカオ脂、ポリエチレングリコール、挫剤ワックス、またはサリチル酸塩を含む、1種以上の適当な非刺激性賦形剤もしくはキャリアと混合して調製してもよい。使用する賦形剤もしくはキャリアは、室温では固形だが、体温では液体となるものであり、したがって直腸内、もしくは膣腔内で溶解し、有効化合物を放出する。
【0212】
腟内投与に適当な本発明の処方物は、当技術分野で適切なものとして公知のキャリアを含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー処方物を含む。
【0213】
本発明化合物の局所投与用もしくは経皮投与用投薬形態は、散剤、スプレー剤、軟膏、ペースト剤、クリーム、水薬、ゲル、溶液、パッチ、および吸入剤を含む。有効化合物は、滅菌状態下で薬学的に受容可能なキャリアと混合してもよく、また、必要な可能性のあるいかなる防腐剤、緩衝液、または高圧ガスと混合してもよい。
【0214】
本発明の有効化合物に加えて、これらの軟膏、ペースト、クリーム、およびゲルは、動物性油脂、植物性油脂、オイル、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、滑石、および酸化亜鉛などの、またはそれらの混合物の賦形剤を含んでもよい。
【0215】
本発明の化合物に加えて、散剤およびスプレー剤は、乳糖、滑石、ケイ酸、アルミニウム水酸化物、ケイ酸カルシウム、およびポリアミド粉などの、またはこれらの物質の混合物の賦形剤を含む。加えて、スプレー剤は、クロロフルオロ炭化水素などの通常の高圧ガス、ならびに、ブタンおよびプロパンなどの揮発性の非置換性炭水化物を含んでもよい。
【0216】
経皮パッチは、本発明の化合物を身体に制御して配送するという追加の利点がある。そのような処方物は、化合物を適切な媒質に、溶解もしくは分散することによって処方物可能である。皮を通しての化合物の流入を増大するため、吸収増進剤を使用することも可能である。そのような流入の速度は、速度調節膜を提供するか、または化合物を重合体マトリクスもしくはゲルに分散させることによって制御可能である。
【0217】
経眼処方物、眼軟膏剤、散剤、溶液等も、本発明の範囲内にあるものと意図される。
【0218】
非経口的投与に適当な本発明の薬学的組成物は、薬学的に受容可能な無菌等張水溶液もしくは水以外の溶液、分散剤、懸濁液、またはエマルジョン、あるいは、使用直前の無菌注射溶液中もしくは分散剤中に再構成可能な無菌散剤と組み合わせた本発明の化合物を1種以上含み、砂糖、アルコール系溶剤、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、処方物を所定被投与体の血液と等張にする溶質、または、懸濁化剤もしくは増粘剤を含んでもよい。
【0219】
本発明の薬学的組成物中で使用可能で、適当な水性キャリアおよび非水性キャリアの例は、水、エタノール、多価アルコール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれの適当な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびに、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル類を含む。適切な流動度は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用によって、分散させる場合には、必要とされる粒径を維持することによって、さらに、界面活性剤を使用によって、維持可能である。
【0220】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含んでもよい。パラベン、クロロブタノール、およびフェノールソルビン酸などの様々な抗菌剤および抗真菌薬を包含させることによって、主題化合物における微生物作用を確実に阻止することができる。組成物に、砂糖、塩化ナトリウム等の等張化剤を含ませるのも、望ましいことである。加えて、モノステアリン酸アルミニウム、およびゼラチンなど、吸収を遅延させる薬剤の包含によって、薬学的注射処方物の吸収を長期化することができる。
【0221】
場合によっては、薬の効果を延ばすために、皮下注射もしくは筋肉内注射で投与した薬の吸収を遅くすることが望ましい。これは、水溶性に乏しい結晶性物質もしくは非晶性物質の液体懸濁液を使用することで実現できる。その結果、薬の吸収速度は、その物質の溶解速度に依存し、それは次には、結晶の大きさと、結晶形状とに依存するであろう。代替法としては、薬を油性媒体に溶解もしくは懸濁することによって、非経口投与された薬物形状の吸収を遅延させることができる。
【0222】
主題化合物を、ポリアクチド−ポリグリコリドなどの生分解性重合体に封入したマイクロカプセルマトリックスを形成することによって、注射可能な持続性薬投薬形態状ができる。薬物対重合体の比率、および使用された特定の重合体の性質によって、薬物放出速度を制御できる。他の生分解性重合体の例は、ポリオルトエステル、およびポリ無水酸物を含む。注射可能な持続性薬剤処方物は、生物組織と適合性があるリポソームもしくはマイクロエマルジョンに、薬物を捕捉することによっても調製できている。
【0223】
本発明の化合物を、ヒトおよび動物に医薬品として投与するとき、それらの化合物をそのまま与えるか、または、薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせて、例えば0.1〜99.5%(より好ましくは、0.5〜90%)の有効成分を含む薬学的組成物として与えることが可能である。
【0224】
本発明の化合物は、経口的投与、非経口的投与、局所的投与、または直腸内投与できる。それらの処方物は、当然各投与経路に適当な形状で与えられる。それらは、例えば、錠剤もしくはカプセル剤で投与され、注射、吸入、目薬、軟膏、挫剤等によって、注射、輸液、もしくは、吸入によって投与され、水薬もしくは軟膏によって局所投与され、挫剤によって直腸内投与される。好ましくは、経口投与される。
【0225】
経口投与、例えばスプレー剤による鼻腔内投与、直腸内投与、膣内投与、非経口投与、ならびに散剤、軟膏、およびドロップ剤による頬側投与および舌下投与を含む局所投与などの、適当ないかなる投与経路によって、ヒトおよび他の動物に治療用にこれらの化合物を投与してもよい。
【0226】
選択された投与経路に関係なく、本発明の化合物は、適当な含水処方物、および/または、本発明の薬学的組成物中で使用してよく、当業者に公知な通常の方法によって、薬学的に受容可能な処方物に処方される。
【0227】
本発明の化合物は、単独投与可能であるが、該化合物薬を薬学的処方物(組成物)として投与することが望ましい。他の薬剤の類推によって、本発明による化合物を、医学もしくは獣医学における使用のため、好都合ないかなる方法の投与に適するよう処方物してもよい。
【0228】
特定の実施形態においては、上述の薬学的組成物は、抑制剤、第2の化学療法治療薬、および、状況に応じて、薬学的に受容可能なキャリアのうちの1種以上を含む。
【0229】
従来の化学療法治療薬という用語は、制限無く以下のものを含む。すなわち、カルボプラチンおよびシスプラチンなどのプラチナ系薬剤;ナイトロジェンマスタードアルキル化剤;カルムスチン(BCNU)および他のアルキル化剤などのニトロソウレアアルキル化剤;メトトレキサートなどの抗代謝剤:プリンアナログ抗代謝剤;フルオロウラシル(5−FU)、およびゲムシタンビンなどのピリミジンアナログ抗代謝剤;ゴゼレリン、ロイポロイド、およびタモキシフェンなどのホルモン抗腫瘍薬;タキサン(例えば、ドセタキセル、およびパクリタキセル)、アルデスロイキン、インターロイキン−2、エトポシド(VP−16)、インターフェロンα、およびトレチノイン(ATRA)などの自然抗腫瘍薬;ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、およびマイトマイシンなどの抗生自然抗腫瘍薬;ならびに、ビンブラスチン、およびビンクリスチンなどのビンカアルカロイド自然抗腫瘍薬である。
【0230】
さらに、次に挙げる追加薬剤を、これらの抗腫瘍薬と組み合わせて使用してもよく、また、抗腫瘍薬自体の使用を考慮しない場合でも使用できる。すなわち、クチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;ドセタキセル;塩酸ドキソルビシン;エポエチンα;エトポシド(VP−16);ガンシクロビルナトリウム;硫酸ゲンタマイシン;インターフェロンα;酢酸ロイプロリド;塩酸メペリジン;塩酸メタドン;塩酸ラニチジン;硫酸ビンブラスチン;および、ジドブジン(AZT)である。例えばフルオロウラシルは、最近、エピネフリンおよびウシコラーゲンと共に処方物され、特に効果的な化合物を形成した。
【0231】
さらにまた、以下に列挙するアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、蛋白質、多糖類、および他の巨大分子を使用してもよい。すなわち、突然変異体およびアナログを含むインターロイキン1から18まで;インターフェロンa,b,およびgなどのインターフェロンまたはサイトカイン;黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)およびアナログ、ならびにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)などのホルモン;トランスフォーミング成長因子−b(TGF−b)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、上皮細胞成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子相同因子(FGFHF)、肝細胞成長因子(HGF)、およびインシュリン成長因子(IGF)などの成長因子;腫瘍壊死因子−aおよびb(TNF−aおよびb);侵入抑制因子2(IIF−2);骨形成タンパク質1−7(BMP1−7);ソマトスタチン;チモシン−a−1;g−グロブリン;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD);補体因子;抗血管新生因子;腫瘍抗原物質;ならびにプロドラッグである。
【0232】
好ましい実施形態において、本発明の組成物は、他の生物学的活性物質を含んでもよく、好ましくは、治療薬剤もしくはプロドラッグ、例えば、他の化学療法治療薬、不純物除去化合物、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗炎症薬、血管収縮薬および抗凝血剤、腫瘍ワクチン適用に有用な腫瘍抗原もしくは対応するプロドラッグを含む。
【0233】
不純物除去化合物の例は、グルタチオン、チオ尿素、およびシステインなどのチオール化合物;マンニトール、置換フェノールなどのアルコール;キノン、置換フェノール、アリールアミン、ならびにニトロ化合物を含むが、これに限定されるものではない。
【0234】
様々な形の化学療法治療薬、および/または、他の生物学的活性物質を使用してもよい。これらは、不帯電分子、分子錯体、塩、エーテル、エステル、アミド等の形態にあるものを、制限無しに含み、移植、注射、もしくはの方法で腫瘍に挿入されたとき、生物学的に活性化されるものである。
【0235】
(4.9 治療方法)
本発明はさらに、患者に主題の薬学的組成物を有効量投与することを含む、癌性腫瘍を治療する新規治療方法を提供する。本発明の方法は、いかなる癌性腫瘍の治療に使用してもよい。ある実施形態において、その方法は、患者に主題の薬学的組成物を有効量、非経口投与することを含む。1つの実施形態において、その方法は、患者に主題の組成を動脈内投与することを含む。他の実施形態において、その方法は、主題の組成物を患者の癌性腫瘍の動脈血供給源へ、有効量、直接投与することを含む。1つの実施形態において、その方法は、カテーテルを用いて、主題の組成物を癌性腫瘍の動脈血供給源へ、有効量、直接投与することを含む。カテーテルを用いて主題の組成を投与する実施形態において、カテーテルの挿入を螢光透視法によって誘導もしくは観察してもよく、あるいは、カテーテル挿入を誘導および/または観察できる当技術分野で公知の他の方法によって、それを行ってもよい。別の実施形態において、その方法は、化学的塞栓治療を含む。例えば、化学的塞栓法は、1種以上の化学療法治療薬および油性基剤(例えば、エチドール中のポリビニルアルコール)と混合した樹脂様材料を含む組成物で、癌性腫瘍に血液供給している血管を遮断する工程を含んでもよい。さらに他の実施形態において、その方法は、患者に主題の組成物を全身投与することを含む。
【0236】
ある実施形態において、癌性腫瘍を治療する方法は、第2の薬剤と共に、本発明の選択的阻害薬を1種以上患者に投与することを含む。ある実施形態におけるそのような方法は、他の化学療法治療薬もしくは不純物除去剤化合物と共に、1種以上の阻害薬を含む薬学的組成物を投与することを含む。組み合せ治療は、有効化合物の順次的投与、同時投与、および別個の投与を含み、すなわち、次のものが投与されるとき、最初に投与されたものの治療効果が完全に消滅していないような同時投与である。1つの実施形態において、第2の薬剤は、化学療法治療薬である。別の実施形態において、第2の薬剤は、不純物除去剤化合物である。ある実施形態において、第2の薬剤は、別の薬学的組成物中に処方物してもよい。他の実施形態において、薬学的組成物は、阻害薬および第2の薬剤の両方を含んでもよい。
【0237】
他の実施形態において、癌性腫瘍を治療する方法は、肝臓、頭部、頸部、分泌腺、または骨部内の血管に、主題の組成物を有効量直接投与することを含む。例えば、肝臓動脈、大腿動脈、大脳動脈、頸動脈、または、椎骨動脈などの血管には、輸液、注射、化学的塞栓治療、または、カテーテル挿入によって、主題の組成物を癌性腫瘍に投与することができる。他の実施形態において、その方法は、頭部、頸部、または骨部の癌性腫瘍内血管に、主題の組成物を有効量直接投与することを含む。そのような方法は、当技術分野で周知であり、かつ用いられている。例えば、Gobin,Y.P.ら(2001)Radiology、218:724〜732は、脳腫瘍のための動脈間化学療法の方法を教示する。Moserら(2002)Head Neck、24:566〜74は、頭部癌および頚部癌の化学療法治療のための動脈内カテーテルの使用を概説する。Wang,M.Q.ら(2001)J.Vasc.Interv.Radiol.12:731−7は、骨肉腫を治療するための化学的塞栓法および大腿動脈への注射方法を教示する。Kato,T.ら(1996)Cancer Chemother Pharmacol,37(4):289〜96は、肝臓、腎臓、骨盤内器官、肺、頭頸部、および骨部の癌性腫瘍を治療するためのマイクロカプセル封入抗がん剤の動脈内輸液(化学的塞栓処置)の使用を概説する。Hermann,K.ら(2000)Radiology,215:294〜9;Kemeny,N.E.(1999)Baillieres Best Pract Res Clin Gastroenterol,13:593〜610は、肝臓癌治療のための動脈内塞栓方法の模範的方法を説明する。
【0238】
概して、本発明の薬学的組成物を利用する化学的塞栓処置、または動脈内もしくは静脈内直接注射療法は、部位に関係なく、通常同様の方法で行われる。簡潔には、注射もしくは塞栓処置すべき部位に応じて、動脈もしくは静脈に挿入したカテーテルを通して、X線不透過性のコントラストを注入することによって、X線写真を撮影し、塞栓処置すべき領域の血管造影(血管の道路地図)または、ある実施形態においてより特異的には、動脈造影を最初に行う。そのカテーテルは、経皮的に挿入するか、または手術によって挿入できる。その後、カテーテルを通して、血流の停止がみられるまで、本発明の薬学的組成物を還流することにより、血管を塞栓処置できる。血管造影を繰り返すことによって、閉塞を確認することができる。直接注射を用いる実施形態においては、その後、本発明の薬学的組成物を所望量血管に輸液することができる。
【0239】
塞栓療法は、概して、治療する腫瘍もしくは血管塊の間隙全体に阻止薬を含む組成物を分布させる結果を導く。塞栓粒子の物理的塊体が動脈内腔に詰まることによって、血液供給の閉塞に至る。この効果に加えて、抗血管形成因子の存在により、腫瘍もしくは血管塊に供給される新しい血管の形成が阻止され、血液供給の遮断による不活化が促進される。動脈内もしくは静脈内直接投与も、概して、治療する腫瘍もしくは血管塊の間隙全体に阻止薬を含む組成物を分布させる結果を導く。しかしながらこの方法では、血液供給の閉塞化は、一般に予測されない。
【0240】
本発明の一局面の中で、肝臓もしくは他の組織の一次腫瘍、および二次腫瘍を、塞栓処置、または、動脈内もしくは静脈内注射療法を用いて、治療することができる。簡潔には、大腿動脈もしくは上腕動脈経由でカテーテルを挿入し、それを蛍光透視法による誘導で操縦し、動脈系を経て肝臓動脈まで前進させる。カテーテルを肝臓動脈の樹幹に前進させ、正常構造に血液供給する動脈枝をできる限り多数残しながら、腫瘍に血液供給する血管を完全に封鎖するのに必要なところまでさらに前進させる。これは、理想的には肝臓動脈の分節枝であるが、腫瘍の程度および腫瘍の個々の血液供給の程度に応じて、胃十二指腸動脈の起点より遠い肝臓動脈全体、または、さらに複数の別々の動脈を封鎖する必要があるかもしれない。いったん、所望のカテーテル位置が得られれば、動脈内カテーテルを通して(上述の)組成物を、封鎖すべき動脈内の血流が停止するまで注入し、好ましくは5分間の観測の後まで停止しているように注入を行い、その動脈を塞栓する。動脈の閉塞は、カテーテルを通してX線不透過性のコントラストを注入し、以前コントラストが満たされていた血管がもはやそうならないことを、螢光透視法もしくはX線フィルムによって示すことで確認できる。直接注射を用いる実施形態においては、(上述の)組成物を所望量カテーテルを通して注入し、動脈に輸液する。血液供給している動脈それぞれに、同じ処置を繰り返すことで、それらを閉塞させるこができる。
【0241】
塞栓療法に使用するためには、本発明の組成物は、無毒で、血栓形成性で、血管カテーテルを下って注入し易く、X線不透過性で、効果が迅速かつ恒常的で、無菌で、さらに操作時に異なる形状もしくは大きさで容易に利用可能であることが好ましい。さらに、該組成物は、阻害薬、および/または、第2の薬剤をゆっくり(理想的には、数週間から数ヶ月の期間にわたって)放出するものが好ましい。特に好適な組成は、血管系に注入された後で15〜200ミクロンの予測粒径を持つものである。好ましくは、溶液中、もしくはいったん注入された後に、より大きな粒子に固まらないものでなければならない。さらに、好適な組成物は、形状、および物理的性質を変えないものでなければならない。
【0242】
大部分の実施形態において、主題の薬学的組成物は、内包された治療薬、または予防処置もしくは治療の一部である他の物質を有効量患者に届けるのに十分な量、配送物質を内包する。該粒子中の有効化合物の望ましい濃度は、該化合物の配送速度、吸収率、不活性化速度、および排泄率に依存する。軽減されるべき病態の重篤度に伴って、投薬価値が変化し得ることに留意する必要がある。さらに、特定のどの患者に対しても、特別な処方計画を、個々の必要性、および、該組成物の投薬を処方もしくは監督する人の専門的な判断に基づき、時に応じて調節する必要があることを、理解するべきである。通常、投薬量は、当業者に公知の技術を用いて決定される。
【0243】
主題の組成物に関しては、本発明により、投薬量の範囲を考慮した。本発明は、少なくともそれらの量を3週間にわたり放出する実施形態、および、少なくともそれらの量の2倍量を6週間にわたり放出する実施形態等に関して考慮する。
【0244】
投薬量は、患者の1kg体重当たりの組成物の量に基づくものであってもよい。例として、患者の1kg体重当たりのそのような組成物、約0.001mg,0.01mg,0.1mg,0.5mg,1mg,10mg,15mg,20mg,25mg、50mg、もしくはそれより多い量などの、一定範囲の組成物量に関し考慮した。他の量については、当業者に公知であり、容易に決定することができるだろう。
【0245】
ある実施形態において、主題化合物の投薬量は、概して、1kg体重当たり約0.001mgから10mgの範囲にあり、詳しくは1kg当たり約0.1mgから約10mgの範囲、より詳しくは1kg当たり約0.1mgから約1mgの範囲にある。1つの実施形態において、投薬量は、1kg当たり約0.3mgから0.6mgの範囲にある。1つの実施形態において、投薬量は、1kg当たり約0.4mgから0.5mgの範囲にある。
【0246】
別法として、主題の発明の投薬量は、組成物の血漿中濃度を参照して決定してもよい。例えば、最高血漿中濃度(Cmax)、および0時から無限時までの血漿中濃度−時間曲線下部の面積(AUC(0−4))を用いてもよい。本発明のための投薬量は、上記の値のCmaxおよびAUC(0−4)を算出する量、ならびに、さらに大きな値もしくはさらに小さな値をそれらのパラメータに導く他の投薬量を含む。
【0247】
特定の患者、組成物、および投与形態に関して、所望の治療反応を達成するのに効果的である有効成分量を得るため、患者に有毒でない範囲で、本発明の薬学的組成物に含まれる有効成分の実際の投薬レベルを変えてもよい。
【0248】
選択された投薬レベルは、以下に挙げるものを含む様々な要因によって変化するであろう。すなわち、本発明で使用される特定の化合物、またはそのエステル、塩、またはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用された特定の化合物の排泄速度もしくは代謝速度、治療期間、用いられた特定組成物と併せて使用された他の薬物、化合物、および/または、物質、年齢、性別、体重、病態、治療される患者の全体的健康およびそれ以前の病歴、ならびに医学分野で周知の要因である。
【0249】
当技術分野で通常の技術をもつ医者もしくは獣医は、必要とされる薬学的組成物の効果的な量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医者もしくは獣医は、該薬学的組成物中に含まれる本発明化合物の服用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルより低いレベルから始め、望ましい結果が達成されるまで、投薬量を徐々に増加するであろう。
【0250】
一般的には、本発明化合物の適当な日用量は、治療効果を生み出すために効果的である服用量の、最も低いの化合物量である。概して、そのような効果的服用量は、上述の要因によって変化する。
【0251】
希望によって、有効化合物の効果的な日用量を、2、3、4、5、6、もしくはそれ以上のサブ服用量として投薬し、全日にわたり適切な間隔をおき、また随意に単位投薬形態として、別々に投薬してもよい。
【0252】
ある特定の患者において最も効果的治療をもたらすであろう、正確な投与時間、および、化合物の量は、どの特定の化合物であれ、特体の化合物の活性、薬動態学、および生物利用効率、患者の生理学的状態(年齢、性別、病気のタイプおよび段階、全体的な身体状態、ある投薬量および治療タイプに対する反応を含む)、ならびに投与経路等に依存する。ここに提示されたガイドラインは、治療を最適化するために使うことができる。例えば、最適な時間、および/または、投与量が決定可能であり、それには、患者を観察することと、投薬量および/またはタイミングを調節することとからなる日常的な実験をすれば十分である。
【0253】
患者が治療されている間、24時間期間中の所定の時間に、1つ以上のインデックスを測定することによって、患者の健康を観察することができ。そのようなモニタリングの結果に従って、投与および処方物のサプリメント、量、時間を含む治療を最適化することができる。同じパラメータを測定することによって、患者を定期的に再評価し、改善の程度を決定することができる。通常、そのような再評価は最初、治療開始から4週目の最後に行われ、その後の再評価は、治療中に4〜8週間毎に行われ、さらにその後は3ヶ月毎に行われる。治療は、数ヶ月続くか、または、数年続くことさえあり、ヒトの治療の場合、典型的な治療期間は最短で1ヶ月である。投与される薬物量の調整、および潜在的には、投与時間の調整を、これらの再評価に基づいて行うことができる。
【0254】
治療は、該化合物の最適投薬量より少ない、比較的小さな投薬量から開始してもよい。その後、最大の治療効果が達成されるまで、投薬量を少しずつ増加することができる。
【0255】
本発明の数種の化合物を併用した場合、または、代りに他の化学療法治療薬を併用した場合、異なる成分の効果の開始時期、および期間が相補的である可能性があるため、すべての個別成分に関し、必要な投薬量が減少する可能性がある。そのような併用療法において、異なる活性物質は、一緒に、または別々に、また、同時に、またはその日のうちの異なる時間に配送してよい。主題の化合物の毒性、および治療効果は、細胞培養もしくは実験動物による標準的な薬学的処置により、測定可能であり、例えばLD50およびED50が測定される。治療インデックスの大きい組成物が、好ましい。有毒な副作用を示す化合物を使うことも可能であるが、副作用を減少させるため、化合物を所望の部位にターゲットにする配送システムの設計に注意を払わなければならない。
【0256】
細胞培養アッセイ、および動物研究で得られたデータを、ヒトに用いるための様々な投薬形態の処方物に使用することができる。あらゆるサプリメントの投薬量、あるいは、その中のあらゆる成分の投薬量が循環濃度の範囲内であることが好ましく、ED50が無毒か、または毒性のほとんどないものであることが好ましい。この投薬量は、用いられた投薬形態および利用された投与経路に応じて、その範囲内で変化してもよい。本発明薬物の治療上の効果的な服用量は、当初細胞培養アッセイによって推定できる。細胞培養において測定されたように、動物モデルにおいて、IC50(すなわち、症状の抑制が最高レベルの半分に達するテスト化合物の濃度)を含む、一定の循環血漿中濃度範囲を達成するように投薬量を処方することができる。そのような情報は、ヒトにおける有益な服用量をさらに正確に決定するために用いることができる。血漿中濃度は、例えば、高性能液体のクロマトグラフィを用いて測定することができる。
【0257】
(4.10 キット)
本発明は、様々な癌を治療するためのキットを提供する。例えば、キットは、上述の薬学的組成物を1種以上含んでもよい。それらの組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的組成物であってもよい。キットを包含する他の実施形態において、本発明は、本発明の薬学的組成物を含むキットを提供し、必要に応じてそれらの使用説明書を提供する。さらに他の実施形態において、本発明は、1種以上の薬学的組成物と、そのような組成物の投与を実現する1つ以上の装置とを含むキットを提供する。例えば、主題のキットは、組成物の癌性腫瘍への直接動脈注入を実現するため、薬学的組成物およびカテーテルを含んでもよい。1つの実施形態において、その装置は、動脈内カテーテルである。そのようなキットには、例えば、治療、診断、および他のアプリケーションを含む、様々な用途がある。
【実施例】
【0258】
(5.実施例)
以下の実施例は、GM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチン、および発癌した腫瘍部位に自然局在するか、もしくは局在化可能な、弱毒指向性細菌を併用した、新生腫瘍および転移性腫瘍を含む癌の治療に、本発明の方法および組成物を適用するガイダンスを熟練した技術者に提供するものである。特に、以下の実施例は、GM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの併用による転移性肝臓癌の治療が、肝臓へ局在する弱毒細菌株の配送よって強化されるが、弱毒化細菌が局在しない他の組織に対するGM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの効化が強化されないことを明らかにする。従って、以下の実施例は、疾患、特に癌を治療する併用療法に対する広範な支持を提供するもので、全身腫瘍ワクチンおよび疾患器官もしくは組織に指向的な薬剤(例えば、指向性弱毒細菌もしくはウイルス、または、疾患領域への直接的適用によって局在化可能な他のそのような薬剤)を含む。
【0259】
(5.1 マウスの転移性肝臓癌モデル)
生後6〜8週間のメスのBALB/cマウスは、National Cancer Instituteから購入され、CT26と共に、以下の実験で使用された。CT26は、BALB/cマウス由来の結腸直腸がん腫瘍細胞系である。それらのマウスを、ペントバルビタール(50mg/kg、腹腔内投与)で麻酔にかけた。脾臓を露出させるため、各マウスを腹壁切開した。血管茎を完全に残したまま、チタンクリップを用いて、脾臓を2つの半脾臓(hemi−spleen)に分割した。(図1を参照)。27ゲージの注射針を用い、半脾臓の1つに、300μlのハンクス平衡塩類溶液(Hanks Balanced Salt Solution(HBSS))中のCT26細胞0個、1×10個、1×10個、1×10個を注入した。細胞は、その後、脾静脈および門脈に流れ込み、肝臓で腫瘍沈着物を形成した。その後、CT26に汚染された半脾臓を手術により除去し、腫瘍細胞なしの機能的な半脾臓を残した。(図2を参照)。
【0260】
その後、それらのマウスを閉じ、麻酔から回復させた。第1週および第2週において、腫瘍処置群の各一群から3匹のマウスを選び、CO2吸入を用いて安楽死させた。マウスから肝臓を除去した。さらに、肝臓を切断し、顕微鏡的腫瘍負荷の不在もしくは存在を判定するために、H+E染色を行った。(図3を参照)これらの分析の結果、腫瘍細胞を受容しなかったマウス、または、1×10個のCT26細胞を受容したマウスには、顕微鏡的腫瘍小結節も可視的腫瘍小結節もないことが明らかになった。1×10個のCT26腫瘍細胞が注射されたとき、第1週目に小さな顕微鏡的腫瘍巣が顕微鏡下でみられ、第2週目にはさらに大きくなった。これらの腫瘍巣は、1週目には肉眼で見ることができず、2週目には見ることができた。1×10個のCT26腫瘍細胞が注射されたとき、腫瘍小結節は、顕微鏡で容易に見ることができた。図4は、上述の転移性肝臓癌モデルにおいて、生理食塩水もしくは1×10個のCT26で処置した後4週目に安楽死させたマウスの肝臓の2つの群を示す。CT26処置マウスでは、白味がかった癌小結節が明白である。
【0261】
(5.2 GM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの防御効果)
実験のこのセットにおいては、転移性肝臓癌モデルにおいて記載されたように、マウスを脾臓経由で1×10個のCT26細胞によって処置した。マウスに、CT26腫瘍チャレンジの7日前より週2回、腫瘍チャレンジ当日、腫瘍チャレンジ3日後、および腫瘍チャレンジ7日後に、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)で免疫化するか、または、紫外線照射された(5000rad)GM−CSFを分泌する遺伝子改変CT26細胞(GM/CT26)1×10個で免疫化した。4週目に、マウスを安楽死させ、それらの肝臓を、巨視的および顕微鏡的転移性疾患両方の存在に関して分析した。2つの実験のデータを、図5に要約する。
【0262】
GM/CT26による免疫化を受けなかったコントロール群マウスは、転移性肝臓癌を進行させた。腫瘍処置の7日前に始まる免疫化を受けたマウスは、どのマウスも転移性肝臓癌を進行させなかった。腫瘍処置当日に免疫化を受けた15匹のマウスのうちの9匹が転移性肝臓癌を進行させなかった。腫瘍処置3日後に始まる免疫化を受けた15匹のマウスのうちの4匹が転移性肝臓癌を進行させなかった。腫瘍処置7日後に始まる免疫化を受けた15匹のマウスのうちの2匹が転移性肝臓癌を進行させなかった。
【0263】
(5.3 弱毒化ListeriaによるGM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチン効果の強化)
Listeria monocytogenes(LM)のHIV−gag弱毒化株との併用療法における、GM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの効果をテストするため実験を行った。図6のExperiment Aにおいて、マウスは、以前に記載されているように、転移性肝臓癌で処置された。24匹のマウスを、6匹のマウスからなる4つの群に分割し、以下の処置を与えた。
【0264】
コントロール:未処置
GM+3:紫外線照射(5000rad)された1×10個のGM/CT26を、腫瘍処置の3日後から、週2回、3週間
Listeria:1×10個コロニー形成ユニット(CFU)のLMを、腫瘍処置の6日後から、腹腔内接種
GM+3/Listeria:上述の通りの、GM/CT26ワクチンと、LM接種との併用療法。
【0265】
コントロールマウスおよびListeriaマウスのうち3匹は、第33日までに死んでおり、それぞれ第74日および第68日までに、それらの残りすべてが死んでいた。GM +3マウスは、生存率を僅かに向上させ、6匹のうち3匹が第48日目に死亡し、1匹のマウスは長期間生存した。GM+3/Listeria群は、生存率を著しく向上させ、6匹のうち4匹が長期間生存した。
【0266】
この研究の結果は、1群あたり9もしくは10匹のマウスを用いて繰り返された。これらの結果を、図6の実験Bに要約する。コントロールマウス、Listeriaマウス、GM+3/Listeriaマウスの10匹のうち5匹が第64日に死んでいた。他の3つの群では、長期生存したマウスが1匹のみであったのに対して、この群では、長期生存したマウスが10匹のうち4匹であった。
【0267】
この結果は、確立された転移性肝臓癌に対して開始されたGM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの効力が、LM処置により強化されることを示す。
【0268】
(5.4 弱毒化Listeria monocytogenes感染によるGM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチン効果の強化は、肝特異的であり、肺特異的ではない)
Listeria monocytogenes(LM)のHIV−gag弱毒化株との併用療法における、GM−CSF分泌腫瘍細胞ワクチンの効果を、転移性肺癌モデルおよび転移性結腸直腸癌モデルでテストするため実験を行った。この実験(図7)では、5×10のCT26細胞を尾静脈注射することによって、マウスを転移性肺癌処置した。以下の群各々は、それぞれ9匹もしくは10匹のマウスを有した。
【0269】
コントロール:未処置
GM+3:紫外線照射(5000rad)された1×10個のGM/CT26を、腫瘍処置の3日後から、週2回、3週間
Listeria:1×10個コロニー形成ユニット(CFU)のLMを、腫瘍処置の6日後から、腹腔内接種
GM+3/Listeria:上述の通りの、GM/CT26ワクチンと、LM接種との併用療法。
【0270】
GM+3/Listeriaマウスは、GM+3単独処置されたマウスに比べいかなる改善も示さなかった。GM+3/Listeria群の生存曲線と、コントロール群の生存曲線は、全く同様であり、GM+3単独処置群の生存曲線より劣っていた。
【0271】
(5.5 Listeria強化および特異性のさらなる研究)
Listeria注入による、肝腫瘍ワクチンの強化を示す実験を繰り返した。図9は、ワクチン処置、Listeria処置、または腫瘍ワクチンおよびListeriaの併用処置された肝臓癌保持マウスの生存率の比較を示す。マウスを、第0日目に1×10個のCT26細胞で肝臓癌処置した。マウスを、3日目から計3週間、週2回、ワクチン接種するか、第6日目に1×10個のListeriaを単回投与するか、あるいはワクチン接種とListeria感染の併用を行い、それらの生存率を追った。
【0272】
CT26誘発性肺腫瘍モデルにおける生存率に対するListeria注入の効果を試験をすることによって、さらにListeria強化効果の特異性を確認した。図10は、ワクチン処置、Listeria処置または、ワクチンおよびListeriaの併用処置された肺腫瘍保持マウスの生存率の比較を示す。マウスを、第0日目に1×10個のCT26細胞で肺癌処置した。その後、マウスを、3日目から計3週間、週2回、ワクチン接種するか、第6日目に1×10個のListeriaを単回投与するか、あるいはワクチン接種とListeria感染の併用処置した。その後、生存率を追跡した。血流に入る大部分の細菌は、捕らえられ、肝臓内で除去される(総説として、例えばGregoryら(2002)、J Leukoc Biol、72:239−48を参照)ため、Listeria細菌の腹膜注射は、肺腫瘍モデルにおいて生存率を強化しなかった。
【0273】
(5.6 AH1腫瘍抗原特異的CD8 T細胞の肝臓浸潤性の分析)
Listeriaによる、腫瘍ワクチンの免疫反応強化の動作メカニズムを分析するため、まず、様々な処置群において、肝臓に浸潤しているAH1腫瘍抗原特異的CD8 T細胞のレベルを比較した。図8は、肝臓に浸潤しているAH1腫瘍抗原特異的CD8 T細胞レベルの、様々な処置群における比較を示す。マウスを、3つの処置群に分割した。全てのマウスを、第14日目に屠殺した。群1は、第0日目腫瘍処置した。群2は、腫瘍処置をせず、第3日目、第7日目、および第11日目にワクチン処置した。群3は、第0日目腫瘍処置し、第3日目、第7日目、および第11日目にワクチン処置した。14日後にマウスを屠殺し、その後リンパ細胞を分離するため、マウス肝臓をコラゲナーゼ、およびヒアルロニダーゼを用いて消化し、フィコール密度勾配上で遠心した。AH1腫瘍抗原ペプチドまたはコントロール群ペプチドB galのいずれかを結合したLdIg二量体で染色することによって、CD8リンパ細胞の腫瘍抗原特異性を分析した。
【0274】
Listeriaによる、腫瘍ワクチンの免疫反応強化の動作メカニズムをさらに分析するため、肝臓癌モデルのマウス肝臓から分離されたCD8リンパ細胞の純度が増加するように、抗CD8パニングを二重に行った(図11参照)。余分な肝臓破片により高いバックグラウンド染色がおきるため、Au搭載四量体による腫瘍抗原特異的CD8細胞のビジュアライゼーションには、純度の高いCD8の単離が不可欠であった。まず、肝臓を50ミクロンMediconフィルターで処理し、続いて100ミクロンおよび70ミクロンのシリンジフィルターを通した連続ろ過を行った。その後、それぞれ処理された肝臓を、40分間、2.43抗CD8抗体でコートしたフラスコ上にプレートした。上清を吸引し、フラスコをFACS緩衝液で1回洗った。細胞スクレーパを用いて、接着細胞をFACS緩衝液5mlに分離し、第2の抗体でコートしたフラスコへ移した。2回目のパニングの後、細胞をFACS分析によって分析した。後に、さらに効率的な単離方法を開発した。肝臓を100ミクロンスクリーンフィルターを通して濾過し、その後、33%のパーコール勾配上で遠心することによって処理した。リンパ細胞を、ペレットに沈殿させた。パーコール遠心の後には、リンパ細胞ペレットの純度が高く、わずか1回のパニングで余分な肝臓破片をすべて除去するのに十分であった。
【0275】
図12は、異なる治療群のマウスから肝臓に浸潤しているAH1腫瘍抗原特異的CD8 T細胞の数を分析した最初の実験を示す。マウスを、第0日目に肝臓癌処置した。マウスは、day+3に開始するワクチン単独処置されるか、day+6にListeria単独処置されるか、またはワクチンおよびListeriaで併用処理された。ワクチンで処理された全てのマウスは、day+6にブースタワクチンを接種した。マウスは、第14日目に屠殺し、肝臓に浸潤しているT細胞を、Mediconプロセッサ、および二重抗CD8パニングを用いて分離した。図12(A)は肝臓に浸潤しているリンパ細胞の分析を下記の通りに示す。表の第2列は、異なる治療群における、マウス肝臓当たりのリンパ細胞の絶対数を示す。これらの計数は、二重抗CD8パニングの後で行われた。表の第3列は、CD8+であったリンパ細胞のパーセンテージを示す。相対的パーセンテージを決定するためのFACS染色は、パニングの後で行われたため、このパーセンテージは、インビボでの絶対的パーセンテージを意味するものではない。第4列は、肝臓当たりのCD8 T細胞の計算値を示す。第5列は、AH1腫瘍抗原に特異的なCD8 T細胞のパーセンテージを示す。FACS染色がパニングの後で行われたため、このパーセンテージは、インビボでの実際のパーセンテージを反映するものではない。第6列は、肝臓当たりのAH1特異的T細胞の計算値を示し、第7列は、未処理のコントロール群マウスにおける数と比較したAH1特異的細胞の比率を示す。図12(B)は、脾臓リンパ細胞の分析を示す。図12(C)は、異なる治療群のマウスから分離され、抗CD8パニングされた、肝臓浸潤性T細胞のFACS染色を示す。
【0276】
図13は、異なる治療群のマウスから分離され、抗CD8パニングされた、肝臓浸潤性T細胞を分析した第2の実験を示す。マウスを、第0日目に肝臓癌処置した。マウスは、day+3に開始するワクチン単独処置されるか、day+6にListeria単独処置されるか、またはワクチンおよびListeriaで併用処理された。ワクチンで処理された全てのマウスは、day+6にブースタワクチンを接種した。マウスを第14日目に屠殺し、肝臓に浸潤しているT細胞を、100ミクロンスクリーンで濾過し、パーコール密度勾配上で濾過することにより分離した。この技術により、パニングの前に、はるかに純粋な細胞隔離集団が得られた。肝臓に浸潤している細胞数は、パニングの前に、FACS染色によって調べることができた。図13(A)は、パニング前に肝臓に浸潤している細胞の肝臓当たりの絶対数および、インビボでの異なる集団のパーセンテージを示す表である。図13(B)は、各処置群マウスの肝臓当たりの異なる細胞タイプの計算された絶対数を示す表である。図13(C)において、表の第2列は、異なる処置群マウスの肝臓当たりのリンパ細胞の絶対数を示す。これらの計数は、二重抗CD8パニングの前に行われた。表の第3列は、CD8+であったリンパ細胞のパーセンテージを示す。実験1(2002年8月21日)と異なり、相対的パーセンテージを決定するためのFACS染色がパニングの前に行われたので、このパーセンテージは、インビボでの絶対的パーセンテージを表すものである。第4列は、肝臓当たりのCD8 T細胞の計算値を示す。第5列は、AH1腫瘍抗原特異であったCD8 T細胞のパーセンテージを示す。第6列は、肝臓当たりのAH1特異的T細胞の計算値を示し、第7列は、未処理のコントロール群マウスにおける数と比較したAH1特異的細胞の比率を示す。計算された比率は、最初の実験で得られた比率と非常に類似している。
【0277】
図14は、肝臓に浸潤している、異なる処置群マウスの腫瘍特異的CD8 T細胞数を分析した第3の実験を示す。マウスを、第0日目に肝臓癌処置した。マウスは、day+3に開始するワクチン単独処置されるか、day+6にListeria単独処置されるか、またはワクチンおよびListeriaで併用処理された。ワクチンで処理された全てのマウスは、day+6にブースタワクチンを接種した。マウスを第14日目に屠殺し、肝臓に浸潤しているT細胞を、100ミクロンスクリーンで濾過し、パーコール密度勾配上で濾過することにより分離した。この技術により、パニングの前に、はるかに純粋な細胞隔離集団が得られた。肝臓に浸潤している細胞数は、パニングの前に、FACS染色によって調べることができた。図14(A)は、パニング前に肝臓に浸潤している細胞の肝臓当たりの絶対数および、インビボでの異なる集団のパーセンテージを示す表である。図14(B)は、各処置群マウスの肝臓当たりの異なる細胞タイプの計算された絶対数を示す表である。図14(C)は、抗CD8パニングの前に肝臓に浸潤している細胞のCD4対CD8のFACS分析を示す。図14(D)は、抗CD8パニングの前に肝臓に浸潤している細胞のCD3対DX5のFACS分析を示す。図14(D)は、抗CD8パニングの前に肝臓に浸潤している細胞のB220対CD11のFACS分析を示す。
【0278】
Listeriaによる、腫瘍ワクチンの免疫反応強化の動作メカニズムをまださらに調査するため、免疫介在性炎症を制御するサイトカインであるインターフェロン−γ(IFNγ)およびインターロイキンー10(IL−10)の発現を分析した。図8は、INF−γおよびIL−10に関する、肝臓の浸潤しているAH1特異的CD8 T細胞のRT−PCR分析の結果を示す。この結果は、Listeriaによる強化がINFーγの増産、およびIL−10の生産の減少と関連していることを示す(IL−10と単核食細胞の抑制との関連が顕著)。この実験では、マウスを第0日目に肝臓癌処置した。マウスは、day+3に開始するワクチン単独処置されるか、またはワクチンおよびListeriaで併用処理された。全てのマウスは、day+6にブースタワクチンを接種した。マウスを第14日目に屠殺し、肝臓に浸潤しているT細胞を、100ミクロンスクリーンで濾過し、パーコール密度勾配上で濾過することにより分離した。分離した細胞を、抗CD8抗体を用いて一回パニングし、各処置群ごとに10匹のマウスから単離された、接着CD8 T細胞を集めた。T細胞をCD4−FITC、B220−FITC、CD8−cy、およびPE結合したAH1搭載LdIg四量体で染色した。その後、セルソーターを用いてAH1特異的CD8 T細胞を単離し、INFーγ、およびIL−10の発現をRT−PCRによって分析した。
【0279】
(補助金)
この研究は、Public Health Service NIH−NCI SPORE助成金番号5P50 CA 62924−08、およびJohns Hopkins UniversityからのClinical Scientist awardによって補助された。
(等価物および参考による援用)
当業者は、本明細書に記載した特定のポリペプチド、核酸、細胞、投薬形態、方法、分析、および試薬に対する多数の等価物を認識するであろうし、また日常的な範囲の実験によってそれらを確認することができる。そのような等価物は、本発明の範囲内にあると考えられ、以下の請求に内包される。
【0280】
現出願書は、学習された文献、出版論文、ならびに米国および外国特許の特許出願の引用を多数含む。これら引用全ての全内容は、参考として本明細書に援用されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0281】
【図1】図1は、脾臓を2つの半脾臓に分けるマウス肝転移モデル手順の設計図を示す。
【図2】図2は、半脾臓の1つにCT26マウス大腸癌腫瘍細胞を注入して肝臓で腫瘍沈着を形成し、注入された半脾臓を外科的に除去して機能的半脾臓を腫瘍細胞から遊離することを示す。
【図3】図3は、マウスCT26肝転移モデルの組織学を示す。
【図4】図4は、マウスCT26肝転移モデルでのチャレンジ4週間後のコントロールおよび実験例の全肝臓標本を示す。
【図5】図5は、CT26肝転移モデルで生存したマウスに関し、放射線照射したGM−CSF発現腫瘍全細胞ワクチンを用いたワクチン接種の時間的効果を示す。
【図6】図6は、GM−CSF腫瘍ワクチンおよび弱毒化したListeria monocytogenes感染の併用治療を用いた肝転移およびからのマウスの生存の改善を示す。
【図7】図7は、Listeria monocytogenes腫瘍ワクチン増大が肝臓に特異的であるが、肺には特異的でないことを示す。
【図8】図8は、AH1腫瘍抗原に対する肝臓浸潤性CD8 T細胞の特異性の比較を示す。
【図9】図9は、ワクチン、Listeria、またはワクチンとListeriaの組み合わせのいずれかで処理した肝腫瘍保持マウスの生存の比較を示す。
【図10】図10は、Listeria monocytogenes腫瘍ワクチン増大が肝臓に特異的であるが、肺腫瘍には特異的でないことを示す。
【図11】図11は、二重CD8パニングがマウス肝臓から単離したCD8リンパ球の純度を増大することを示す。
【図12A】図12(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の分析結果を示す。
【図12B】図12(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の分析結果を示す。
【図12C】図12(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の分析結果を示す。
【図13A】図13(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第2の分析結果を示す。
【図13B】図13(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第2の分析結果を示す。
【図13C】図13(A)〜(C)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第2の分析結果を示す。
【図14A】図14(A)〜(E)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第3の分析結果を示す。
【図14B】図14(A)〜(E)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第3の分析結果を示す。
【図14C】図14(A)〜(E)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第3の分析結果を示す。
【図14D】図14(A)〜(E)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第3の分析結果を示す。
【図14E】図14(A)〜(E)は、異なる処理群でのマウスの肝臓浸潤性腫瘍特異的CD8 T細胞数の第3の分析結果を示す。
【図15】図15は、IFN−γおよびIL−10に対する肝臓浸潤性AH1特異的CD8 T細胞のRT−PCR分析を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成する方法であって、
該器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成するワクチンの治療有効量を投与する工程と、
該器官もしくは組織に局所的に局在化するか、または直接投与されて、該器官もしくは組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤を投与する工程とを包含し、
それによって、該器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成する方法。
【請求項2】
前記器官もしくは組織特異的疾患または症状が腫瘍または癌腫であり、前記ワクチンが腫瘍ワクチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍または癌腫が肝臓癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ワクチンがGM−CSFを発現する弱毒化した腫瘍細胞株である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記器官または組織に局所的に局在化する前記薬剤が前記特定の器官または組織に対して天然指向性を有するウイルス、細菌、酵母または真菌からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
局所的に局在化する前記薬剤がListeria monocytogenesの弱毒化株である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生物が新生血管内皮に局所的に局在化する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が遺伝子操作されて前記器官または組織に局所的に局在化するとともに、ウイルス、細菌、酵母、および真菌からなる群から選択される生物である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子操作された生物が前記器官または組織により発現されるレセプターのリガンドを発現する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記器官または組織レセプターの前記リガンドが前記生物の外被または被膜タンパク質へ融合している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記器官または組織が新生血管内皮である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子操作された生物が新生血管内皮により発現されるレセプターのリガンドを発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が天然指向性を持たない生物であり、直接注射、経皮カテーテル、外科的処置、および閉ループ潅流からなる群から選択される物理的手段により前記器官または組織へ直接投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記器官または組織が肺であり、前記投与方法が吸入である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記器官または組織が肺であり、前記投与方法が経口摂取である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与される前記薬剤がケモカイン、サイトカイン、および接着分子からなる群から選択される免疫または炎症の活性化因子を産生する遺伝子操作された生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与される前記薬剤が炎症性薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
被験体の組織または器官に局在化する腫瘍または癌腫を治療する方法であって、
該腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する腫瘍ワクチンの治療有効量を投与することと、
該器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、該器官および組織で、局所的な免疫応答を生成する薬剤を投与することとを含み、
それによって、該被験体の前記組織または器官に局在化する該腫瘍または癌腫を治療する方法。
【請求項19】
前記腫瘍または癌腫が肝腫瘍であり、前記腫瘍ワクチンが全腫瘍細胞ワクチンを分泌するGM−CFSであり、前記病変器官または組織に局所的に局在化する前記薬剤がListeria monocytogenesの弱毒化株である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記腫瘍ワクチンがDNA腫瘍ワクチンである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する免疫応答を生成する治療有効量のワクチンと、
該器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、該器官または組織で、局所的な免疫応答を生成する薬剤と
を含む、被験体の該器官もしくは組織特異的疾患または症状に対して全身性免疫応答を生成するための処方物。
【請求項22】
腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する治療有効量の腫瘍ワクチンと、
該器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、該器官または組織で、局所的な免疫応答を生成する薬剤と
を含む、被験体の該組織または器官に局在化する該腫瘍または癌腫を治療するための処方物。
【請求項23】
前記器官または組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、該器官または組織で、局所的な免疫応答を生成する該薬剤が弱毒化した細菌である、請求項21または22に記載の処方物。
【請求項24】
前記弱毒化した細菌がHIV−gagで弱毒化したListeria monocytogenesである、請求項23に記載の処方物。
【請求項25】
被験体の器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する全身性免疫応答を生成するためのキットであって、
該器官もしくは組織特異的疾患または症状に対する免疫応答を生成するワクチンと、
該器官もしくは組織に局所的に局在化するか、また直接投与されるとともに、該器官もしくは組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含むキット。
【請求項26】
被験体の組織または器官に局在化する腫瘍または癌腫を治療するためのキットであって、
該腫瘍または癌腫に対する免疫応答を生成する腫瘍ワクチンと、
該器官もしくは組織に局所的に局在化するか、または直接投与されるとともに、該器官もしくは組織で局所的な免疫応答を生成する薬剤とを含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図15】
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【公表番号】特表2006−502964(P2006−502964A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−565225(P2003−565225)
【出願日】平成15年2月6日(2003.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2003/003650
【国際公開番号】WO2003/065787
【国際公開日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【出願人】(500577172)ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ スクール オブ メディシン (2)
【Fターム(参考)】