説明

特定雰囲気の嫌気状態検知方法

【課題】エタノール含有雰囲気や酸性ガス含有雰囲気などで安定して嫌気状態を検知する方法を提供する。
【解決手段】透視可能な収納部と接合部を有する袋に酸素検知剤組成物が包装されてなり、該袋の接合部において、糸または糸状物がその一部は該袋の内側に達し、他の一部は該袋の外側に達するように挟着されている酸素検知剤を使用して、エタノール蒸気含有雰囲気の嫌気状態を検知する方法、また、同酸素検知剤を使用して、酸性ガス濃度0.5容量%以上の雰囲気の嫌気状態を検知する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素検知剤を用いる嫌気状態の検知方法に関する。より詳しくは、エタノール含有雰囲気や酸性ガス含有雰囲気などの嫌気状態の検知方法である。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化還元により可逆的に色が変わる有機色素を利用した酸素検知剤が提案されている。例えば、特開昭53−117495号公報および特開昭53−120493号公報には、チアジン染料あるいはアジン染料、オキサジン染料などの有機色素と還元剤および塩基性物質とからなる固形状の酸素検知剤が開示されている。また、特開昭56−84772号公報には、チアジン染料等と還元性糖類とアルカリ性物質とを樹脂溶液中に溶解もしくは分散させた酸素検知剤インキ組成物が開示されている。市販の酸素検知剤エージレスアイ(三菱瓦斯化学(株)製)は、透明な包装容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態であることを簡便に色変化で示す機能製品であり、脱酸素剤エージレス(三菱瓦斯化学(株)製)と共に食品の鮮度保持および医療医薬品の品質保持等に使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の酸素検知剤は、酸素検知剤が収納された袋内の雰囲気と検知対象となるその外部の雰囲気とが遮断されないように、袋に針穴を穿って通気性を付与したり、特開昭62−259059号公報に開示されているように糸により通気性を確保する方法が一般的であった。
しかし、使用されている酸素検知剤組成物はエタノールや炭酸ガスの影響を受け、変色性能に阻害を受けることがある。
そのため、針穴を開けた検知剤ではエタノールや酸性ガス含有雰囲気では使用することができない場合があった。
このような場合の対応として、特開平9−89870号公報にはフィルムに開孔せず、気体透過性が高く、耐エタノール性の高いフィルムを用いることにより、耐エタノール性の高い酸素検知剤が開示されている。しかしながら、このようなフィルムを用いると、開孔されたフィルムを用いる場合に比べ著しく酸素透過が遅くなるために、好気状態(酸素がある状態)から嫌気状態(酸素のない状態)への検知剤の変化に時間がかかるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−117495号公報
【特許文献2】特開昭53−120493号公報
【特許文献3】特開昭56−084772号公報
【特許文献4】特開昭62−259059号公報
【特許文献5】特開平09−089870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エタノール含有雰囲気や酸性ガス含有雰囲気などに使用可能で、針穴開孔フィルムを用いた場合と同様の変色速度を有する酸素検知剤を見いだし、該酸素検知剤を用いた嫌気状態を検知する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、透視可能な収納部と接合部を有する袋に酸素検知剤組成物が包装されてなり、該袋の接合部において、糸または糸状物がその一部は該袋の内側に達し、他の一部は該袋の外側に達するように挟着されている酸素検知剤を使用して、エタノール蒸気含有雰囲気の嫌気状態を検知する方法であり、また、同酸素検知剤を使用して、酸性ガス濃度0.5容量%以上の雰囲気の嫌気状態を検知する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エタノールや炭酸ガス存在下でも変色速度が早く安定して嫌気状態を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の酸素検知剤組成物とは、酸素の有無により色変化を示すものであり、有機色素と還元剤を必須成分とする組成物である。
【0009】
本発明で用いる有機色素は、分子内に動きやすいπ電子を有する長い共役二重結合系を含んでいる芳香族化合物であって、酸化還元により可逆的に色彩が変わる化合物である。本発明の有機色素として、酸化還元指示薬、あるいはチアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、チオインジゴイド染料などが好適に用いられる。例えば、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、メチレングリーン、バリアミンブルーB、ジフェニルアミン、フェロイン、カプリブルー、サフラニンT、インジゴ、インジゴカルミン、インジゴ白、インジルビンなどが挙げられる。好ましくは、メチレンブルーに代表されるチアジン染料である。
【0010】
本発明で用いる還元剤は、酸素濃度が大気中より低い条件下で上記の有機色素を還元する化合物であって、例えば、グルコース、フルクトース、キシロースなどの単糖類、マルトースなどの還元性二糖類、アスコルビン酸およびその塩、亜ジチオン酸およびその塩、システインおよびその塩などが挙げられる。
【0011】
本発明で用いる酸素検知組成物は、有機色素および還元剤を溶解した水溶液を混合することにより得ることができる。これを塩基性物質に含浸させることにより、粉末状とし、さらにこれを打錠することで、錠剤形状とすることができる。また、この水溶液をアルカリ性として糸・紙・布などに含浸することにより、フィルム状、シート状、糸状形態にすることができる。
【0012】
このようにして得た酸素検知剤は、それ自体が固体の顔料なので、そのまま又はフィルム等に成形して使用できる。あるいは、他の固体に分散又は他の固体と混合成形して錠剤、シート状、フィルム状、その他の形状を有する酸素検知剤とすることができる。
【0013】
本発明において用いるフィルムとしては、酸素透過度100,000ml/m/day/atm(25℃,60%RH)以下、好ましくは20,000ml/m/day/atm(25℃,60%RH)以下であり、熱圧着もしくは接着剤により容易に接合できるフィルムであることが望ましい。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロンなどのプラスティックフィルム、またはこれらにアルミやシリカを蒸着したフィルムも用いることができる。もちろん、これらのフィルムは組み合わせて用いても良い。これらのうち好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン等の単体フィルム、ナイロンとポリエチレン、ナイロンとポリプロピレン、ポリプロピレンとポリエチレン、延伸ポリプロピレンと無延伸ポリプロピレン、この他、上記した各種フィルムと紙との積層フィルムが用いられる。
【0014】
さらに、本発明における酸素検知剤組成物を収納する袋は、接合部を有するものであって、その接合部はその少なくとも一箇所において少なくとも1本の糸または糸状物を配して接合されるものであり、該糸または糸状物の一部は該袋の収納部に存在し、かつその一部が該袋の外部に達している。本発明ではこの糸または糸状物を介して、収納袋内部と外部とが、通気性を付与されるものである。
【0015】
本発明における糸または糸状物は繊維状物の集合体で、かつ、糸状を形成しているものであれば良く、製袋時の熱接合に耐え、マイクロポーラス性が保持されるもので、融点が80℃以上のものが好ましい。それらのうち通常用いられる糸、たとえば、縫製に用いる家庭用または工業用ミシン糸が好適に利用できる。糸の材質としては、一般には、綿、ポリエステル、ビニロン、絹またはナイロン等で例示されるがこれに限定されるものではない。高水分系で用いる酸素検知剤については、ナイロン、ビニロンが好ましい。糸の太さは8番手から100番手の間で選択できるが、酸素検知剤組成物の性能を充分に発揮させるために必要となる通気性は20番手から60番手を用いるのが好ましい。
【0016】
本発明における糸または糸状物として、その少なくとも一部に撥水・撥油性が付与されたものを用いることができる。撥水・撥油性を付与する方法としては、糸または糸状物を撥水・撥油剤溶液中に浸漬した後乾燥する方法、糸または糸状物に撥水・撥油剤溶液を塗布または噴霧した後に乾燥する方法などが挙げられる。撥水・撥油剤としては、たとえばシリコン樹脂系のもの、フッ素樹脂系のものなどが使用できる。この場合に用いることができる撥水・撥油剤として市販されているものとしては、たとえばアサヒガードAG−650(商品名、旭硝子製)などが挙げられる。
【0017】
本発明では袋を形成するフィルムは糸または糸状物を配して接合され、内部に酸素検知剤組成物が収納された密封袋状物を形成するが、この場合は通常、熱圧着による方法または接着剤による方法が用いられる。接着剤を用いる場合における接着剤としては、例えば通常のホットメルト剤、ホットメルトエマルジョン、アイオノマーラテックス、アイオノマーエマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、またはエチレン酢酸ビニルエマルジョン等が用いられる。フィルムは酸素検知剤組成物の色相が確認できる範囲において印刷を施したものでもよい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
実施例1
メチレンブルー0.01g、D−(+)−グルコース1.0gが溶解している水溶液10mLを混合し、炭酸マグネシウム25gに含浸させ、青色粉末状の酸素検知剤組成物を得た。
無延伸ポリプロピレン(20μm)/延伸ポリプロピレン(60μm)の積層フィルムを裁断して大きさ30×30mmの4方シール袋を作り、周辺部1辺をシールした後、撥水処理を施した糸をシールした辺と平行になるように配置し、この糸を挟み込んだ形で2辺をシールした。その後、青色粉末状の酸素検知剤組成物をこの袋に入れ、残り1辺をシールして酸素検知剤を得た。
糸としては、ポリエステル30番手をアサヒガードAG−650で処理したものを用いた。
この酸素検知剤を、ガスバリア性の袋の中に入れ、エタノール添加ケーキと脱酸素剤を入れた。
1日後、酸素検知剤の色は青からピンクに変っていた。この時エタノール蒸気濃度は1.5%であった。1ヵ月後でもピンクの色調を維持していた。
【0019】
比較例1
実施例1と同じ酸素検知剤組成物を、実施例1と同じフィルムで同じサイズに入れ、4辺をシールし、針にてフィルム上に数箇所開孔部分を設けた。
実施例1と同様にして、エタノール添加ケーキと脱酸素剤を入れた。
1日後、酸素検知剤の色は青からピンクに変っていたが、1ヵ月後では青色の斑点が発生し、色調異常をきたした。
比較例2
実施例1と同じ酸素検知剤組成物を、実施例1と同じフィルムで同じサイズに入れ、4辺をシールした。
実施例1と同様にして、エタノール添加ケーキと脱酸素剤を入れた。
1日後ではまだ酸素検知剤は青色を示し、ピンク色に変色するまでには1週間を要した。
【0020】
実施例2
実施例1と同じ酸素検知剤を、ガスバリア性の袋に入れ、炭酸ガス5%含有した空気と脱酸素剤と共に入れた。
1日後、酸素検知剤の色は青からピンクに変っており、1ヵ月後でもピンクの色調を維持していた。
【0021】
比較例3
比較例1と同じ酸素検知剤を、実施例2と同様にガスバリア性の袋に入れ、炭酸ガス5%含有した空気と脱酸素剤と共に入れた。
1日後、酸素検知剤の色は青からピンクに変っていたが、1ヵ月後では青色の斑点が発生し、色調異常をきたした。
【0022】
比較例4
比較例2と同じ酸素検知剤を、実施例2と同様にガスバリア性の袋に入れ、炭酸ガス5%含有した空気と脱酸素剤と共に入れた。
1日後ではまだ酸素検知剤は青色を示し、ピンク色に変色するまでには1週間を要した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透視可能な収納部と接合部を有する袋に酸素検知剤組成物が包装されてなり、該袋の接合部において、糸または糸状物がその一部は該袋の内側に達し、他の一部は該袋の外側に達するように挟着されている酸素検知剤を使用して、エタノール蒸気含有雰囲気の嫌気状態を検知する方法。
【請求項2】
透視可能な収納部と接合部を有する袋に酸素検知剤組成物が包装されてなり、該袋の接合部において、糸または糸状物がその一部は該袋の内側に達し、他の一部は該袋の外側に達するように挟着されている酸素検知剤を使用して、酸性ガス濃度0.5容量%以上の雰囲気の嫌気状態を検知する方法。

【公開番号】特開2006−322815(P2006−322815A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146514(P2005−146514)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】