特異性の高いプローブと、それを用いた核酸アレイ、及びその製造方法
【課題】ハイブリダイゼーションの特異性を向上させる、効率的なブロッキング核酸を提供する。
【解決手段】塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
【解決手段】塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象となるターゲット核酸をより正確に検出するための核酸検出用プローブに関する。また、複数のターゲット核酸を同時により正確に検出するための核酸アレイ、及び核酸アレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を検出・同定する方法として、現在までにさまざまな手法が開発されている。そのための基本技術として、ハイブリダイゼーション法が広く用いられている。
【0003】
ハイブリダイゼーションとは、核酸分子が相補的に複合体(2本鎖)を形成することである。これは、相補的な塩基間での水素結合の連続によるものである。
一般的に、2本鎖を構成する核酸の塩基長が長いほどハイブリダイゼーションの親和性が高く、短いほどハイブリダイゼーションの親和性が低くなる。また、ハイブリダイゼーションの親和性は、核酸を構成する塩基にも依存する。2本鎖を構成する核酸にG、Cが多い場合はハイブリダイゼーションの親和性が高くなり、A、Tが多い場合はハイブリダイゼーションの親和性が低くなる。これは、塩基が形成する水素結合の数の違い(前者が3個、後者が2個)によるものである。
【0004】
ハイブリダイゼーションを利用して特定の核酸を検出する方法としては、サザンハイブリダイゼーションやノーザンハイブリダイゼーションがある。これは、検出対象となる核酸(ターゲット核酸)を担体上に固定化し、その相補鎖である核酸(プローブ核酸)をこれに接触させ、形成されたハイブリダイゼーションを検出することにより、ターゲット核酸を検出する方法である。これらの手法では、一度に検出できる核酸の種類は少数である。
【0005】
一方、多種類の核酸を同時に検出する方法としては、核酸アレイ(DNAチップ)がある。近年では、多種類のプローブ核酸を高密度に配列した核酸アレイの開発が盛んに行われている。核酸アレイの基本的な検出原理は、上述の手法と同一である。核酸アレイを用いることで、遺伝子全体の動きを包括的に評価することが可能となってきている。
【0006】
しかしながら、ハイブリダイゼーションにおいては、完全に相補的な配列のみが2本鎖を形成するとは限らず、類似した塩基配列であれば2本鎖を形成することがある。このため、ハイブリダイゼーション法による核酸の検出には、検出目的ではない核酸をも検出してしまう、いわゆる「クロスハイブリダイゼーション」(本明細書において「クロスハイブリ」ともいう)の問題が生じる場合があった。
クロスハイブリダイゼーションを極力除去し、プローブ核酸とターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの特異性を向上させるための方法は、これまでにも数多く考案されてきた。
【0007】
例えば、ハイブリダイゼーションの条件を最適化することが挙げられる。条件としては、第一にハイブリダイゼーションの温度がある。核酸のハイブリダイゼーションは、水素結合によるものである。温度を上昇させると、ハイブリダイゼーションが起こりにくくなる。よって温度を上昇させることで、目的のハイブリダイゼーションは極力維持したまま、クロスハイブリダイゼーションのみを解離させることが可能である。
【0008】
また、条件としては、第二にハイブリダイゼーション溶液の塩濃度がある。核酸は負の電荷を持つため、核酸同士は電気的に反発する。溶液の塩濃度を高くすると、核酸の負の電荷が相殺されることで、核酸同士の反発が弱まり、ハイブリダイゼーションが起こりやすくなる。よって、溶液の塩濃度を調整することで、目的のハイブリダイゼーションは維持しつつ、クロスハイブリダイゼーションを極力防ぐような条件を設定することが可能である。
【0009】
ハイブリダイゼーション溶液に何らかの添加剤を加えることで特異性を向上させることも可能である。界面活性剤やベタイン、デンハルト溶液、ホルムアミドなどを添加することで、分子内での立体構造をとりにくくすることができる。これにより、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となる。
【0010】
また、プローブ核酸として比較的長い鎖長のcDNAを用いる場合は、ハイブリダイゼーション溶液にCot−1やサケ精子DNAを添加することで、繰り返し配列に由来するようなクロスハイブリダイゼーションを防止することができる。これにより、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能である。
【0011】
さらに、近年の膨大なゲノム情報の蓄積や、情報処理技術の発達により、クロスハイブリダイゼーションを最小限に抑えるようにプローブ核酸を設計するためのプログラムなどが開発されている。これらを使用することでハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となっている。
【0012】
このような中で、「ブロッキング核酸」を用いて、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させる方法も開発されている。
ブロッキング核酸とは、プローブ核酸の部分的な相補鎖により構成される核酸である。ブロッキング核酸には、クロスハイブリダイゼーションの要因となる核酸(クロスハイブリ核酸)に比較してプローブ核酸との親和性が高く、本来の検出対象となるターゲット核酸に比較してプローブ核酸との親和性が低い核酸が用いられる。
【0013】
このブロッキング核酸を、あらかじめプローブ核酸にハイブリダイズさせておく。すると、クロスハイブリ核酸がプローブ核酸にハイブリダイズすることを阻害できる。一方、ターゲット核酸はプローブ核酸にハイブリダイズする。この結果、ハイブリダイゼーションの特異性は向上する。
【0014】
プローブ核酸による一塩基多型の検出に、ブロッキング核酸を使用する方法が知られている。プローブ核酸のうち、一塩基多型部分ではない不変の塩基配列部分に、ブロッキング核酸をハイブリダイズさせ、この部分をブロックしておく。他方、一塩基多型部分は露出させておく。すると、目的となる多型配列を有する核酸はプローブ核酸にハイブリダイズするが、異なる多型配列を有する核酸はプローブ核酸にはハイブリダイズしない。このようにして、ブロッキング核酸を用いて、一塩基の微細な違いを高感度に検出することが可能である(特許文献1)。
【0015】
ブロッキング核酸は、上記の条件を満たすものであれば、塩基配列や配列長は自由に設計することができる。
【0016】
しかし、ブロッキング核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションの親和性が低い場合(例えば、ブロッキング核酸の配列長を短く設定した場合)は、ブロッキング核酸がクロスハイブリを十分に阻害することができず、高い特異性が得られない場合がある。その一方で、ブロッキング核酸とプローブ核酸との親和性が高い場合(例えば、ブロッキング核酸の配列長を長く設定した場合)は、ターゲット核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションもが阻害され、結果的に検出感度の大幅な低下を招く場合がある。つまり、ブロッキング核酸を使用した核酸の検出においては、感度と特異性を両立させることは困難である。
そのため、ブロッキング核酸を用いたハイブリダイゼーションの特異性向上方法は、多型解析などの、ターゲット核酸が多量に存在する場合に主に適用可能であった。通常のmRNAの発現解析では、ターゲット核酸の絶対量が少ない場合が多い。このような場合は、検出感度が低下することにより、ターゲット核酸が検出できなくなる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2005/012571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、プローブ核酸とターゲット核酸との間のハイブリダイゼーションを阻害することなく、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させる、効率的なブロッキング核酸が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するためにブロッキング核酸の設計方法に着目し、鋭意検討を行った。その結果、ブロッキング核酸の一部がプローブ核酸の一部に、また、ブロッキング核酸の他の一部が別のプローブ核酸の一部にハイブリダイズするようにブロッキング核酸を設計すると、効率的にハイブリダイゼーションの特異性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
(2)前記(1)に記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている核酸アレイ。
(3)塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bのいずれか一方の核酸を担体にアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む、核酸アレイの製造方法であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸アレイの製造方法。
(4)前記(1)に記載の核酸組成物又は前記(2)に記載の核酸アレイとターゲット核酸とを接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、ターゲット核酸の検出方法。
【発明の効果】
【0020】
従来のブロッキング核酸は、プローブ核酸に十分な特異性を確保しようとする場合は、ハイブリダイゼーションのシグナル強度を低下させる。また、シグナル強度を維持しようとする場合は、プローブ核酸に十分な特異性を確保することが困難である。そのため、これを発現解析に適用することは困難であった。
しかしながら、本発明を適用することにより、従来のブロッキング核酸で生じるようなハイブリダイゼーション効率の低減を防ぎ、効率的にハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となった。その結果、ブロッキング核酸を用いた特異性向上方法を、多型解析だけでなく、発現解析に使用することも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のプローブ核酸及びブロッキング核酸の概要図である。
【図2】本発明のプローブ核酸及びブロッキング核酸の概要図である。
【図3】本発明の核酸アレイの一態様を示す図である。
【図4】本発明の核酸アレイを用いた検出方法の一態様を示す図である。
【図5】繊維配列体を製造する配列固定治具の図である。
【図6】核酸アレイのデザインを示す図である。数字は配列番号、Bはプローブ核酸を搭載しないスポットを示す図である。
【図7】実施例1におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図8】比較例1〜4におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図9】比較例5〜6におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図10】図7〜9のうち、プローブX及びプローブYにおける結果をまとめた図である。
【図11】実施例2におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図12】比較例7〜8におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図13】図11及び12のうち、プローブA及びプローブBにおける結果をまとめた図である。
【図14】実施例3におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図15】比較例9〜11におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図16】図14及び15のうち、プローブC及びプローブDにおける結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
本発明の第一は、塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的な塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物である。核酸Aは、塩基配列A1の3’末端に塩基配列A2の5’末端が連結し、核酸Bは、A2’の5’末端にA1’の3’末端が連結された形態となっている(図1)。
ここで、塩基配列A1、塩基配列A2とは、任意の核酸塩基配列である。
塩基配列A1’とは、塩基配列A1の相補配列からなる塩基配列である。
塩基配列A2’とは、塩基配列A2の相補配列からなる塩基配列である。
【0023】
従って、核酸Aと核酸Bとが一分子同士存在すると、核酸Aの3’側であるA2に核酸Bの3’側である配列(A2の相補配列であるA2’)がハイブリダイズした形態となることが可能である(図1上パネル)。あるいは、核酸Aの5’側(A1)に核酸Bの5’側(A1の相補配列であるA1’)がハイブリダイズした形態となることが可能である。核酸Aと核酸Bとを複数混合すると、核酸Aと核酸Bとが互い違いにハイブリダイズするようになる(図1下パネル)。本発明においては、このような核酸A及びBを含む核酸組成物のうち、いずれか一方をプローブ核酸として使用し、他方をブロッキング核酸として使用する。
核酸は、RNAであってもDNAであっても、PNAやLNAなどのアナログであっても、それらが混在するものであっても、相補鎖とのハイブリダイゼーションにより、二本鎖を形成できるものである限りはどのようなものであってもよい。
塩基配列は、完全にランダムなものであっても、何らかの遺伝子を検出するために、その遺伝子と全部又は一部が同一の配列であってもよく、その遺伝子と全部又は一部が相補配列であってもよい。塩基配列は、その配列が他の塩基配列と区別できるものである限り、どのような長さ及び構成であってもよい。ただし、連結した核酸A及び核酸Bがプローブ核酸として機能するためには、連結した核酸A及び核酸Bの配列長が10塩基から100塩基であることが好ましく、20塩基から70塩基であることがさらに好ましい。
塩基配列A1とA2との関係(A1’とA2’との関係)は、互いに塩基配列長が同程度であることが好ましい。具体的には、塩基配列A1とA2との(A1’とA2’との)配列長の差が5塩基以内であり、さらにその差が2塩基以内であることが望ましい。
また、塩基配列A1とA2とは、それぞれの相補配列(A1’とA2’)との2本鎖の形成のしやすさが同程度であることが望ましい。具体的には、塩基配列A1及びA2を形成する塩基のうち、AとT(もしくはU)を1、GとCを2として、それぞれの配列を構成する全塩基分の値を加算する。その際の塩基配列A1とA2との値の差が、0から5であることが望ましく、0から3であることがより望ましい。
相補配列とは、ある配列と対をなす配列である。核酸は、AとT(もしくはU)、GとCがそれぞれ水素結合することによって、2本鎖を形成し、対をなす。従って、例えば、ATGCの相補配列は、GCATであり、TACGの相補配列はCGTAとなる。但し、相補配列は上記塩基対のみに限定されるものではなく、所定の長さを有する塩基配列において、その配列中の一部の塩基が上記塩基対を形成しなくても、配列とその対をなす配列とがハイブリダイズすることができる限り、「相補配列」に含まれるものとする。
【0024】
連結とは、上述の塩基配列A1における3’末端の水酸基と塩基配列A2における5’末端のリン酸基、あるいは、塩基配列A1’における3’末端の水酸基と塩基配列A2’における5’末端のリン酸基がフォスフォジエステル結合していることを示す。
3’末端とはヌクレオチドの3’末端のことであり、ここには水酸基がついている。また、5’末端とはヌクレオチドの5’末端のことであり、ここにはリン酸基がついている。あるヌクレオチドの3’末端の水酸基と、異なるヌクレオチドの5’末端のリン酸基がフォスフォジエステル結合することで、核酸は鎖状の分子構造をとることができる。5’末端と3’末端は鎖状の核酸の向きを示すものである。
核酸Aとは、塩基配列A1の3’末端に塩基配列A2の5’末端が連結することによって形成される塩基配列からなる核酸である。
【0025】
核酸Bとは、塩基配列A2’の5’末端に塩基配列A1’の3’末端が連結することによって形成される塩基配列からなる核酸である。
【0026】
混合されているとは、混合されているもの同士が、接触している、または接触可能に近接している状態となっていることである。上述の核酸Aと核酸Bが混合されることにより、核酸Aと核酸Bとは、核酸Aの3’側の領域(A2)と核酸Bの3’側の領域(A2’)、あるいは、核酸Aの5’側の領域(A1)と核酸Bの5’側の領域(A1’)にてハイブリダイゼーションを形成する。このとき、核酸Aと核酸Bが一分子同士であれば、ハイブリダイゼーションに供されていない部分は、1本鎖のままであると考えられる(図1上パネルのA1とA1’)。
しかしながら、核酸A及び核酸Bが多量に存在する場合は、ハイブリダイゼーションが連続的に発生し、複数の核酸Aと複数の核酸Bとによる二本鎖構造をとることが推測される(図1下パネル)。
ターゲット核酸とは、検出対象となる標的核酸のことである。
【0027】
プローブ核酸とは、ハイブリダイゼーションによって、ターゲット核酸をとらえるための核酸である。すなわち、プローブ核酸とは、ターゲット核酸の相補鎖である。
クロスハイブリ核酸とは、ターゲット核酸以外で、プローブ核酸にハイブリダイズしてしまう核酸である(クロスハイブリダイズ核酸ともいう)。
ブロッキング核酸とは、プローブ核酸の部分的な相補鎖により構成される核酸である。ブロッキング核酸は、プローブ核酸にクロスハイブリ核酸がハイブリダイズすることを防止する。
【0028】
ここで、核酸Aをプローブ核酸として使用し、核酸Bをブロッキング核酸として使用する場合を考える。ターゲット核酸は、核酸Aの相補鎖である。ターゲット核酸以外で、核酸Aにハイブリダイズする核酸が、クロスハイブリ核酸である。
プローブ核酸Aの塩基配列A2とブロッキング核酸Bの塩基配列A2’はハイブリダイズすることから、塩基配列A2の一部の配列に相補的な配列を有するクロスハイブリ核酸は、ブロッキング核酸によってハイブリダイゼーションが阻害される。また、プローブ核酸Aの塩基配列A1は、上記とは別のブロッキング核酸Bの塩基配列A1’とハイブリダイズすることから、塩基配列A1の一部の配列に相補的な配列を有するクロスハイブリ核酸も、ブロッキング核酸によってハイブリダイゼーションが阻害される。一方、プローブ核酸とブロッキング核酸がこのように連続的にハイブリダイズしている状態では、ターゲット核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションは、ほとんど阻害されない。つまり、本手法によれば、クロスハイブリ核酸のプローブ核酸へのハイブリダイゼーションを抑制してノイズを低減しつつ、ターゲット核酸がプローブ核酸とハイブリダイズすることが可能であり、ターゲット核酸の検出感度(特異性)を高めることができる(図2)。
また、本発明の第二の態様は、前記記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている前記核酸アレイである。
【0029】
すなわち、本発明の第二の態様は、前記核酸組成物が担体に配置され、かつ、その配置位置が規定された核酸アレイである。
また、本発明の第三の態様は、上記核酸アレイの製造方法であり、上記核酸A及び核酸Bのいずれか一方の核酸をあらかじめ担体に対してアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む。
ここで、アドレス可能とは、相対的又は絶対的な位置が判別可能な状態であることを指す。具体的には、複数の核酸組成物が配置されている際に、担体上のどの位置にどの核酸組成物が配置されているのかが明らかとされている、あるいは、明らかにすることができる状態のことを指す。
【0030】
例えば、プローブ核酸の一端を、アレイ上の所定位置に固定して規則的に整列することにより、どの位置にどのプローブ核酸が固定されているかを知ることができる。図3は、核酸Aの一端が担体上に固定された状態を示す図である。
担体とは、プローブ核酸を固定化する物質であり、核酸組成物を配置する物質のことである。ガラスやシリコン、樹脂、ゲル、ビーズなどさまざまな物質を担体として使用することができる。
【0031】
核酸アレイとは、プローブ核酸が、担体に複数アドレス可能に固定化されてなるものである。また、本発明でいう核酸アレイとは、担体に複数アドレス可能に固定化されたプローブ核酸に、さらにブロッキング核酸がハイブリダイズしているものである。
【0032】
固定化とは、プローブ核酸が担体から離脱しないようにする処理のことである。例えば、プローブ核酸や担体自体に何らかの官能基を修飾し、化学的に結合させることにより、プローブ核酸を担体に固定化することが可能である。また、静電的な結合や、疎水的な結合によっても固定化が可能である。
本発明の核酸アレイは、核酸Aおよび核酸Bのうち、何れか一方のみを担体に固定化し、他方を固定化されている核酸にハイブリダイズさせることにより、製造することが可能である。この場合、はじめに固定化した核酸がプローブ核酸となり、後からハイブリダイズさせた核酸がブロッキング核酸となる。
また、本発明の核酸アレイは、あらかじめ核酸Aと核酸Bを混合しておき、その混合物を担体に配置することでも製造することが可能である。
さらに、本発明の第四の態様は、前記核酸アレイ又は核酸組成物にターゲット核酸を接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、核酸の検出方法である。
接触とは、核酸アレイ又は核酸組成物とターゲット核酸とを同一の反応系に存在させることを意味する。さらに具体的には、核酸アレイ上にターゲット核酸を添加すること、核酸組成物とターゲット核酸とを混合することなどが挙げられる。
核酸Aをプローブ核酸として使用する態様の場合を考える(図2)。ブロッキング核酸によって、プローブ核酸とクロスハイブリ核酸とのハイブリダイゼーションは抑制されている。この状態でターゲット核酸を核酸組成物又は核酸アレイと接触させることにより、クロスハイブリ核酸のプローブ核酸へのハイブリダイゼーションを防止しつつ、ターゲット核酸をプローブ核酸とハイブリダイズさせることができる(図2)。
【0033】
図4は、プローブ核酸が担体上にアドレス可能に固定化されたとき、すなわち核酸アレイにおけるターゲット核酸の検出の態様を示す図である。ブロッキング核酸によって、担体に固定化されたプローブ核酸Aとクロスハイブリ核酸とのハイブリダイゼーションは抑制されている。この状態でターゲット核酸を核酸アレイと接触させることにより、プローブ核酸とターゲット核酸とはハイブリダイズする。ターゲット核酸が存在しなければ、プローブ核酸Aの塩基配列A2には、ブロッキング核酸Bの塩基配列A2’がハイブリダイズしている。また、プローブ核酸Aの塩基配列A1には、別のプローブ核酸Aにハイブリダイズしているブロッキング核酸Bの塩基配列A1’がハイブリダイズしている(図3)。ターゲット核酸を存在させると、先にハイブリダイズしていた塩基配列A1と塩基配列A1’および塩基配列A2と塩基配列A2’のハイブリダイズが解かれる。この結果、クロスハイブリ核酸のハイブリダイゼーションを防止しつつ、ターゲット核酸がプローブ核酸とハイブリダイズすることができる(図4)。
【0034】
ターゲット核酸の検出は、ターゲット核酸を蛍光ラベル、放射標識等により標識し、検出装置でシグナルを検出すればよい。プローブ核酸とターゲット核酸とのハイブリッド形成を、蛍光、化学発光、ラジオアイソトープなど、あらかじめターゲット核酸に標識された物質に由来するシグナルにより定量化又は定性化することにより、プローブ核酸に対応するターゲット核酸の存在を確認することができる。また、検出の方法は上記に限定されない。例えば、ブロッキング核酸の方を標識しておき、ターゲット核酸がハイブリすることによるブロッキング核酸の脱落をシグナルの低下で確認することも可能である。
上記、「標識」方法は、核酸のハイブリダイゼーションを検出することができる限り特に限定されるものではない。標識に使用される標識物質としては、例えばCy3、Cy5、Alexa Fluorなどの蛍光物質、アルカリフォスファターゼやホースラディッシュペルオキシターゼを使用した基質分解にともなう化学発光を利用するための酵素又はタンパク質、γ−32Pやα−32P等のラジオアイソトープなどが挙げられるが、蛍光物質を使用することが簡便である点で好ましい。
【0035】
これらの標識物質を核酸分子に取り込ませる際には、標識方法が安定であり、プローブ核酸との特異的なハイブリダイゼーションを阻害しない限りにおいては、直接的、間接的または物理的、化学的結合に関わらずどのような方法であっても使用可能である。化学的な修飾を行う方法として、あらかじめ蛍光物質で標識された塩基を反応時に取り込ませる方法や、ビオチンやアミノアリル基によって修飾されたアナログ塩基を反応時に取り込ませ、それを介して標識物質を取り込ませる方法が挙げられる。また、SYBR Green、アクリジンオレンジ、SYBR Goldなどを用いて標識物質を相補核酸分子にインターカレートさせる方法、ULYSISのように標識物質を相補核酸分子に対して白金を介して結合させる方法などを採用することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表1に示す配列番号1番および2番で示されるオリゴヌクレオチド(60塩基長)を合成した。
【0037】
合成の際、最終段階で、アミノリンクTM(PEバイオシステムズ社製)を該オリゴヌクレオチドに反応させ、次いで脱保護操作を行うことにより、各オリゴヌクレオチドの末端にアミノヘキシル基が導入された5’−O−アミノヘキシルオリゴヌクレオチドを調製した。
【0038】
次いで、それらオリゴヌクレオチドに、無水メタクリル酸を反応させ、5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0039】
【表1】
【0040】
プローブXの1〜30番目及び31〜60番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブYについても同様である。
【0041】
次に、図5に示す配列固定器具を利用して中空繊維束を製造した。なお、図5中のx、y、zは直交の3次元軸であり、x軸は繊維の長手方向と一致する。
【0042】
まず、直径0.32mmの孔(11)が、孔の中心間距離を0.42mmとして、縦12列、横各19列で合計228個設けられた厚さ0.1mmの多孔板(21)を2枚準備した。これらの多孔板を重ね合わせて、そのすべての孔に、ポリカーボネート中空繊維(31)(三菱エンジニアリングプラスチック社製 カーボンブラック1質量%添加)を1本ずつ、通過させた。
【0043】
X軸方向に各繊維に0.1Nの張力をかけた状態で2枚の多孔板の位置を移動させて、中空繊維の一方の端部から20mmの位置と100mmの位置の2ヶ所に固定した。即ち、2枚の多孔板の間隔を80mmとした。
【0044】
次いで、多孔板間の空間の周囲3面を板状物(41)で囲った。このようにして上部のみが開口状態にある容器を得た。
【0045】
この容器の上部から容器内に樹脂原料を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業(株)ニッポラン4276、コロネート4403)の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加したものを使用した。25℃で1週間静置して樹脂を硬化させた。次いで多孔板と板状物を取り除き、中空繊維束を得た。
【0046】
次に、表2に示す質量比で混合した単量体及び開始剤を含むゲル前駆体重合性溶液をアレイに固定するプローブ核酸毎にそれぞれ調製した。
【0047】
【表2】
【0048】
次に、図6に示した配置になるように、中空繊維束の対応する中空繊維の中空部に上記で作製したゲル前駆体重合性溶液を充填するために、該重合性溶液の入った容器及び上記で作製した中空繊維束をデシケーター内に設置した。デシケーター内を減圧状態にしたのち、中空繊維束の各糸の封しされていない端部を所定の前記重合性溶液の入った容器に浸漬した。デシケーター内に窒素ガスを封入し、中空繊維の中空部にプローブ核酸を含むゲル前駆体重合性溶液を導入した。次いで、容器内を70℃とし、3時間かけて重合反応を行った。
【0049】
このようにしてプローブ核酸がゲル状物を介して中空繊維の中空部に保持された中空繊維束を得た。
【0050】
次に得られた中空繊維束を、ミクロトームを用いて繊維の長手方向と直交する方向でスライスし、厚さ0.25mmの薄片シート(核酸アレイ)を300枚得た。
【0051】
核酸アレイは、図6に示すプローブ位置で作製した。なお、図6中の数字1及び2は、プローブ核酸の配列番号を示し(それぞれ配列番号1、配列番号2)、核酸アレイには、それぞれの配列番号に示す塩基配列を有するプローブ核酸が配置されている。Bは、プローブ核酸の入っていないスポットを示す。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0052】
まず、表3に示す配列番号3および配列番号4で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0053】
配列番号3で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号1の完全相補鎖(60塩基)のうち、5末端側の30塩基と、3末端側の30塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号4で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号2の完全相補鎖(60塩基)のうち、5末端側の30塩基と、3末端側の30塩基を入れ替えた構造から構成される。
【0054】
【表3】
【0055】
配列番号3については、配列番号1のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号4については、配列番号2のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、X−60T及びY−60Tにおいて、第1〜30番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、31〜60番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表4に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で60℃、16時間接触させた。
【0056】
【表4】
【0057】
接触後の核酸アレイは、0.12M TNTバッファー(0.12M Tris−HCl,0.12M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.12M TNバッファー(0.12M Tris−HCl,0.12M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.12M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
【0058】
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0059】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表5に記載の配列番号5及び配列番号6のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0060】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号5及び配列番号6で示される60塩基のターゲットモデル検体を、20塩基ずつ3等分した、表5に記載のオリゴDNA(配列番号7から12)を使用した。
【0061】
【表5】
【0062】
ターゲットモデル検体(配列番号5及び6)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号7から12)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0063】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表6の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で60℃、16時間接触させることで実施した。
【0064】
【表6】
【0065】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.12MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0066】
データは、プローブX、プローブYのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されている10箇所のスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を平均して示した。
【0067】
その結果を図7に示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は20590、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は5147であった。
【0068】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は8408、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は2102であった。
比較例1
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0069】
その結果を図8Aに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は35818、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は9074であり、ターゲット/クロスハイブリ比は4であった。
【0070】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は16853、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3871であり、ターゲット/クロスハイブリ比は4であった。
【0071】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例1に比較して高かったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度がそれ以上の割合で高く、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例に比較して極めて低い値となった。これは、ブロッキング核酸を使用しない状態では、多くのクロスハイブリ核酸がプローブ核酸とハイブリダイゼーションを形成してしまい、高い特異性が得られないことを示している。
比較例2
ブロッキング核酸として、表5に記載の配列番号5及び配列番号6で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる60塩基のものを使用した。それ以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0072】
その結果を図8Bに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3585、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は896であった。
【0073】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1488、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は372であった。
【0074】
本比較例においては、使用したブロッキング核酸の長さがプローブ核酸と同一であるため、ハイブリダイゼーションの効率が、ターゲットモデル検体と変わらない。そのため、ブロッキング核酸が、ターゲットモデル検体とプローブ核酸とのハイブリダイゼーション形成をも競合阻害してしまい、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度が極めて低くなる。クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度についてはほとんど検出されないが、ターゲットモデル検体のシグナル強度が大幅に低くなる分、実施例1と比較して、ターゲット/クロスハイブリ比が低くなった。
比較例3
ブロッキング核酸として、表7に記載の50塩基長のもの(配列番号13、14)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの6塩基目から、55塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0075】
その結果を図8Cに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は10932、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は2733であった。
【0076】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3474、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は869であった。
【0077】
本比較例においては、使用したブロッキング核酸の長さがプローブ核酸よりも10塩基短い(ブロッキング核酸とプローブ核酸の長さが均等ではない)ため、先の比較例2に比較してターゲットモデル検体とプローブ核酸とのハイブリダイゼーション形成はしやすい。しかしながら、実施例1で使用したブロッキング核酸に比較して、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度は低く、そのため、ターゲット/クロスハイブリ比も低い値となった。
【0078】
【表7】
【0079】
比較例4
ブロッキング核酸として、表8に記載の40塩基長のもの(配列番号15、16)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの11塩基目から、50塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0080】
その結果を図8Dに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は25202、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は263であり、ターゲット/クロスハイブリ比は96であった。
【0081】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は12416、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は26であり、ターゲット/クロスハイブリ比は471であった。
【0082】
用いたブロッキング核酸の鎖長は40塩基であるが、本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
【0083】
【表8】
【0084】
比較例5
ブロッキング核酸として、表9に記載された30塩基長のもの(配列番号17、18)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの16塩基目から、45塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0085】
その結果を図9Aに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は35037、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3459であり、ターゲット/クロスハイブリ比は10であった。
【0086】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は16641、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は946であり、ターゲット/クロスハイブリ比は18であった。
【0087】
この結果は、比較例4と同様に、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度に比較して、クロスハイブリ検体由来のシグナルが多く検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
【0088】
【表9】
【0089】
比較例6
ブロッキング核酸として、表10に記載の30塩基長のもの(配列番号19、20、21、22)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの1塩基目から、30塩基目まで及び、31塩基目から60塩基目の配列で構成されている。使用したブロッキング核酸以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0090】
その結果を図9Bに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は25712、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は179であり、ターゲット/クロスハイブリ比は144であった。
【0091】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は11439、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は44であり、ターゲット/クロスハイブリ比は260であった。
【0092】
ここで用いたブロッキング核酸は、1本の60塩基長のプローブ核酸に対して、2本の30塩基長のブロッキング核酸を用い、プローブ核酸の全配列をブロッキングしている。プローブ核酸の全配列をブロッキングできるという点では、実施例1や、比較例2と同一であるが、実施例1に対してターゲット/クロスハイブリ比は低い値であった。
【0093】
【表10】
【0094】
実施例1、比較例2〜6のまとめ
図10に、実施例と比較例を同一グラフ上にプロットした。図10において、パネルAはプローブX、パネルBはプローブYにおける結果をまとめた図である。その結果、実施例におけるターゲット/クロスハイブリ比が他の何れの比較例に比べても、きわめて高かった。以上により、本実施例におけるブロッキング核酸が、比較例にて使用したブロッキング核酸に比較してプローブ核酸の特異性を向上させることを証明した。
実施例2
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表11に示す配列番号23番および24番で示されるオリゴヌクレオチド(30塩基長)を合成した。
【0095】
実施例1と同様にして5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0096】
【表11】
【0097】
プローブAの1〜15番目及び16〜30番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブBについても同様である。
【0098】
そのほかは実施例1
と同様にして、核酸アレイを作製した。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0099】
まず、表11に示す配列番号27および配列番号28で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0100】
配列番号27で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号23の完全相補鎖(30塩基)のうち、5末端側の15塩基と、3末端側の15塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号28で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号24の完全相補鎖(30塩基)のうち、5末端側の15塩基と、3末端側の15塩基を入れ替えた構造から構成される。
【0101】
配列番号27については、配列番号23のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号28については、配列番号24のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、A−30及びB−30において、第1〜15番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、16〜30番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表12に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で60℃、16時間接触させた。
【0102】
【表12】
【0103】
接触後の核酸アレイは、0.24M TNTバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.24M TNバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.24M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0104】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表11に記載の配列番号25及び配列番号26のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0105】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号29及び配列番号30で示される15塩基のオリゴヌクレオチドを使用した。
ターゲットモデル検体(配列番号25及び26)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号29及び30)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0106】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表13の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で60℃、16時間接触させることで実施した。洗浄はブロッキング核酸接触後と同様の方法にて実施した。
【0107】
【表13】
【0108】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.24MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0109】
データは、プローブA、プローブBのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されているスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を示した。
【0110】
その結果を図11に示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は166516、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は2964であり、ターゲット/クロスハイブリ比は56であった。
【0111】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は89108、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は2054であり、ターゲット/クロスハイブリ比は43であった。
比較例7
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0112】
その結果を図12Aに示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は159204、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は10850であり、ターゲット/クロスハイブリ比は15であった。
【0113】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor
647)のシグナル強度は85560、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は8484であり、ターゲット/クロスハイブリ比は10であった。
【0114】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例2と同程度であったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度がそれ以上の割合で高く、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例に比較して極めて低い値となった。これは、ブロッキング核酸を使用しない状態では、多くのクロスハイブリ核酸がプローブ核酸とハイブリダイゼーションを形成してしまい、高い特異性が得られないことを示している。
比較例8
ブロッキング核酸として、表11に記載の配列番号29及び配列番号30で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる15塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0115】
その結果を図12Bに示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は166700、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3476であり、ターゲット/クロスハイブリ比は48であった。
【0116】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は94244、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は2900であり、ターゲット/クロスハイブリ比は32であった。
【0117】
用いたブロッキング核酸の鎖長は15塩基であった。本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが実施例2に比較して高く検出された。
実施例2、比較例7、比較例8のまとめ
図13に、実施例2、比較例7、比較例8の結果をまとめた。図13において、パネルAはプローブA、パネルBはプローブBにおける結果をまとめた図である。30塩基長のプローブA、プローブBを用いた場合においても、実施例に記載の方法は比較例に記載の方法に比較して特異性の高いデータが得られることが明らかとなった。
実施例3
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表14に示す配列番号31番および32番で示されるオリゴヌクレオチド(20塩基長)を合成した。
【0118】
実施例1と同様にして5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0119】
【表14】
【0120】
プローブCの1〜10番目及び11〜20番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブDについても同様である。
【0121】
そのほかは実施例1と同様にして、核酸アレイを作製した。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0122】
まず、表14に示す配列番号33および配列番号34で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0123】
配列番号33で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号31の完全相補鎖(20塩基)のうち、5末端側の10塩基と、3末端側の10塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号34で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号32の完全相補鎖(20塩基)のうち、5末端側の10塩基と、3末端側の10塩基を入れ替えた構造から構成される。
配列番号33については、配列番号31のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号34については、配列番号32のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、C−20T及びD−20Tにおいて、第1〜10番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、11〜20番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表12に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で50℃、16時間接触させた。
接触後の核酸アレイは、0.24M TNTバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.24M TNバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.24M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
【0124】
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0125】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表14に記載の配列番号35及び配列番号36のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0126】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号37及び配列番号38で示される10塩基のオリゴヌクレオチドを使用した。
ターゲットモデル検体(配列番号35及び36)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号37及び38)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0127】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表13の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で50℃、16時間接触させることで実施した。洗浄はブロッキング核酸接触後と同様の方法にて実施した。
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.24MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0128】
データは、プローブC、プローブDのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されているスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を示した。
【0129】
その結果を図14に示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は23456、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は558であり、ターゲット/クロスハイブリ比は42であった。
【0130】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1728、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は156であり、ターゲット/クロスハイブリ比は11であった。
【0131】
比較例9
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0132】
その結果を図15Aに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は21712、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は6751であり、ターゲット/クロスハイブリ比は3であった。
【0133】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1432、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は1045であり、ターゲット/クロスハイブリ比は1であった。
【0134】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例3と同程度であったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度は実施例3に比較して高いため、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例3に比較して極めて低い値となった。
比較例10
ブロッキング核酸として、表14に記載の配列番号37及び配列番号38で示される、プローブ核酸の相補配列からなる10塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0135】
その結果を図15Bに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は19480、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は521であり、ターゲット/クロスハイブリ比は37であった。
【0136】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1380、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は213であり、ターゲット/クロスハイブリ比は6であった。
【0137】
用いたブロッキング核酸の鎖長は10塩基であるが、本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
比較例11
ブロッキング核酸として、表14に記載の配列番号35及び配列番号36で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる20塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0138】
その結果を図15Cに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3656、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は386であり、ターゲット/クロスハイブリ比は9であった。
【0139】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は752、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は122であり、ターゲット/クロスハイブリ比は6であった。
【0140】
用いたブロッキング核酸の鎖長は20塩基であるが、本条件においては、ターゲットモデル検体の鎖長と同一であるため、ターゲットモデル検体のハイブリダイゼーションの効率が著しく低下し、シグナル強度が大幅に低下する。その結果、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
実施例3、比較例9、比較例10、比較例11のまとめ
図16に、実施例3、比較例9、比較例10、比較例11の結果をまとめた。図16において、パネルAはプローブC、パネルBはプローブDにおける結果をまとめた図である。20塩基長のプローブC、プローブDを用いた場合においても、実施例に記載の方法は比較例に記載の方法に比較して特異性の高いデータが得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明により、ハイブリダイゼーション効率の低減を防ぎ、多型解析だけでなく、発現解析に使用することも可能な核酸組成物及び核酸アレイが提供される。
【符号の説明】
【0142】
11・・・・孔
21・・・・多孔板
31・・・・中空繊維
41・・・・板状物
【配列表フリーテキスト】
【0143】
配列番号1〜38:合成DNA
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象となるターゲット核酸をより正確に検出するための核酸検出用プローブに関する。また、複数のターゲット核酸を同時により正確に検出するための核酸アレイ、及び核酸アレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を検出・同定する方法として、現在までにさまざまな手法が開発されている。そのための基本技術として、ハイブリダイゼーション法が広く用いられている。
【0003】
ハイブリダイゼーションとは、核酸分子が相補的に複合体(2本鎖)を形成することである。これは、相補的な塩基間での水素結合の連続によるものである。
一般的に、2本鎖を構成する核酸の塩基長が長いほどハイブリダイゼーションの親和性が高く、短いほどハイブリダイゼーションの親和性が低くなる。また、ハイブリダイゼーションの親和性は、核酸を構成する塩基にも依存する。2本鎖を構成する核酸にG、Cが多い場合はハイブリダイゼーションの親和性が高くなり、A、Tが多い場合はハイブリダイゼーションの親和性が低くなる。これは、塩基が形成する水素結合の数の違い(前者が3個、後者が2個)によるものである。
【0004】
ハイブリダイゼーションを利用して特定の核酸を検出する方法としては、サザンハイブリダイゼーションやノーザンハイブリダイゼーションがある。これは、検出対象となる核酸(ターゲット核酸)を担体上に固定化し、その相補鎖である核酸(プローブ核酸)をこれに接触させ、形成されたハイブリダイゼーションを検出することにより、ターゲット核酸を検出する方法である。これらの手法では、一度に検出できる核酸の種類は少数である。
【0005】
一方、多種類の核酸を同時に検出する方法としては、核酸アレイ(DNAチップ)がある。近年では、多種類のプローブ核酸を高密度に配列した核酸アレイの開発が盛んに行われている。核酸アレイの基本的な検出原理は、上述の手法と同一である。核酸アレイを用いることで、遺伝子全体の動きを包括的に評価することが可能となってきている。
【0006】
しかしながら、ハイブリダイゼーションにおいては、完全に相補的な配列のみが2本鎖を形成するとは限らず、類似した塩基配列であれば2本鎖を形成することがある。このため、ハイブリダイゼーション法による核酸の検出には、検出目的ではない核酸をも検出してしまう、いわゆる「クロスハイブリダイゼーション」(本明細書において「クロスハイブリ」ともいう)の問題が生じる場合があった。
クロスハイブリダイゼーションを極力除去し、プローブ核酸とターゲット核酸とのハイブリダイゼーションの特異性を向上させるための方法は、これまでにも数多く考案されてきた。
【0007】
例えば、ハイブリダイゼーションの条件を最適化することが挙げられる。条件としては、第一にハイブリダイゼーションの温度がある。核酸のハイブリダイゼーションは、水素結合によるものである。温度を上昇させると、ハイブリダイゼーションが起こりにくくなる。よって温度を上昇させることで、目的のハイブリダイゼーションは極力維持したまま、クロスハイブリダイゼーションのみを解離させることが可能である。
【0008】
また、条件としては、第二にハイブリダイゼーション溶液の塩濃度がある。核酸は負の電荷を持つため、核酸同士は電気的に反発する。溶液の塩濃度を高くすると、核酸の負の電荷が相殺されることで、核酸同士の反発が弱まり、ハイブリダイゼーションが起こりやすくなる。よって、溶液の塩濃度を調整することで、目的のハイブリダイゼーションは維持しつつ、クロスハイブリダイゼーションを極力防ぐような条件を設定することが可能である。
【0009】
ハイブリダイゼーション溶液に何らかの添加剤を加えることで特異性を向上させることも可能である。界面活性剤やベタイン、デンハルト溶液、ホルムアミドなどを添加することで、分子内での立体構造をとりにくくすることができる。これにより、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となる。
【0010】
また、プローブ核酸として比較的長い鎖長のcDNAを用いる場合は、ハイブリダイゼーション溶液にCot−1やサケ精子DNAを添加することで、繰り返し配列に由来するようなクロスハイブリダイゼーションを防止することができる。これにより、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能である。
【0011】
さらに、近年の膨大なゲノム情報の蓄積や、情報処理技術の発達により、クロスハイブリダイゼーションを最小限に抑えるようにプローブ核酸を設計するためのプログラムなどが開発されている。これらを使用することでハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となっている。
【0012】
このような中で、「ブロッキング核酸」を用いて、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させる方法も開発されている。
ブロッキング核酸とは、プローブ核酸の部分的な相補鎖により構成される核酸である。ブロッキング核酸には、クロスハイブリダイゼーションの要因となる核酸(クロスハイブリ核酸)に比較してプローブ核酸との親和性が高く、本来の検出対象となるターゲット核酸に比較してプローブ核酸との親和性が低い核酸が用いられる。
【0013】
このブロッキング核酸を、あらかじめプローブ核酸にハイブリダイズさせておく。すると、クロスハイブリ核酸がプローブ核酸にハイブリダイズすることを阻害できる。一方、ターゲット核酸はプローブ核酸にハイブリダイズする。この結果、ハイブリダイゼーションの特異性は向上する。
【0014】
プローブ核酸による一塩基多型の検出に、ブロッキング核酸を使用する方法が知られている。プローブ核酸のうち、一塩基多型部分ではない不変の塩基配列部分に、ブロッキング核酸をハイブリダイズさせ、この部分をブロックしておく。他方、一塩基多型部分は露出させておく。すると、目的となる多型配列を有する核酸はプローブ核酸にハイブリダイズするが、異なる多型配列を有する核酸はプローブ核酸にはハイブリダイズしない。このようにして、ブロッキング核酸を用いて、一塩基の微細な違いを高感度に検出することが可能である(特許文献1)。
【0015】
ブロッキング核酸は、上記の条件を満たすものであれば、塩基配列や配列長は自由に設計することができる。
【0016】
しかし、ブロッキング核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションの親和性が低い場合(例えば、ブロッキング核酸の配列長を短く設定した場合)は、ブロッキング核酸がクロスハイブリを十分に阻害することができず、高い特異性が得られない場合がある。その一方で、ブロッキング核酸とプローブ核酸との親和性が高い場合(例えば、ブロッキング核酸の配列長を長く設定した場合)は、ターゲット核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションもが阻害され、結果的に検出感度の大幅な低下を招く場合がある。つまり、ブロッキング核酸を使用した核酸の検出においては、感度と特異性を両立させることは困難である。
そのため、ブロッキング核酸を用いたハイブリダイゼーションの特異性向上方法は、多型解析などの、ターゲット核酸が多量に存在する場合に主に適用可能であった。通常のmRNAの発現解析では、ターゲット核酸の絶対量が少ない場合が多い。このような場合は、検出感度が低下することにより、ターゲット核酸が検出できなくなる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2005/012571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、プローブ核酸とターゲット核酸との間のハイブリダイゼーションを阻害することなく、ハイブリダイゼーションの特異性を向上させる、効率的なブロッキング核酸が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するためにブロッキング核酸の設計方法に着目し、鋭意検討を行った。その結果、ブロッキング核酸の一部がプローブ核酸の一部に、また、ブロッキング核酸の他の一部が別のプローブ核酸の一部にハイブリダイズするようにブロッキング核酸を設計すると、効率的にハイブリダイゼーションの特異性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
(2)前記(1)に記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている核酸アレイ。
(3)塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bのいずれか一方の核酸を担体にアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む、核酸アレイの製造方法であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸アレイの製造方法。
(4)前記(1)に記載の核酸組成物又は前記(2)に記載の核酸アレイとターゲット核酸とを接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、ターゲット核酸の検出方法。
【発明の効果】
【0020】
従来のブロッキング核酸は、プローブ核酸に十分な特異性を確保しようとする場合は、ハイブリダイゼーションのシグナル強度を低下させる。また、シグナル強度を維持しようとする場合は、プローブ核酸に十分な特異性を確保することが困難である。そのため、これを発現解析に適用することは困難であった。
しかしながら、本発明を適用することにより、従来のブロッキング核酸で生じるようなハイブリダイゼーション効率の低減を防ぎ、効率的にハイブリダイゼーションの特異性を向上させることが可能となった。その結果、ブロッキング核酸を用いた特異性向上方法を、多型解析だけでなく、発現解析に使用することも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のプローブ核酸及びブロッキング核酸の概要図である。
【図2】本発明のプローブ核酸及びブロッキング核酸の概要図である。
【図3】本発明の核酸アレイの一態様を示す図である。
【図4】本発明の核酸アレイを用いた検出方法の一態様を示す図である。
【図5】繊維配列体を製造する配列固定治具の図である。
【図6】核酸アレイのデザインを示す図である。数字は配列番号、Bはプローブ核酸を搭載しないスポットを示す図である。
【図7】実施例1におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図8】比較例1〜4におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図9】比較例5〜6におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図10】図7〜9のうち、プローブX及びプローブYにおける結果をまとめた図である。
【図11】実施例2におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図12】比較例7〜8におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図13】図11及び12のうち、プローブA及びプローブBにおける結果をまとめた図である。
【図14】実施例3におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図15】比較例9〜11におけるモデル検体のシグナル強度と、その比率を示す図である。
【図16】図14及び15のうち、プローブC及びプローブDにおける結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
本発明の第一は、塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的な塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物である。核酸Aは、塩基配列A1の3’末端に塩基配列A2の5’末端が連結し、核酸Bは、A2’の5’末端にA1’の3’末端が連結された形態となっている(図1)。
ここで、塩基配列A1、塩基配列A2とは、任意の核酸塩基配列である。
塩基配列A1’とは、塩基配列A1の相補配列からなる塩基配列である。
塩基配列A2’とは、塩基配列A2の相補配列からなる塩基配列である。
【0023】
従って、核酸Aと核酸Bとが一分子同士存在すると、核酸Aの3’側であるA2に核酸Bの3’側である配列(A2の相補配列であるA2’)がハイブリダイズした形態となることが可能である(図1上パネル)。あるいは、核酸Aの5’側(A1)に核酸Bの5’側(A1の相補配列であるA1’)がハイブリダイズした形態となることが可能である。核酸Aと核酸Bとを複数混合すると、核酸Aと核酸Bとが互い違いにハイブリダイズするようになる(図1下パネル)。本発明においては、このような核酸A及びBを含む核酸組成物のうち、いずれか一方をプローブ核酸として使用し、他方をブロッキング核酸として使用する。
核酸は、RNAであってもDNAであっても、PNAやLNAなどのアナログであっても、それらが混在するものであっても、相補鎖とのハイブリダイゼーションにより、二本鎖を形成できるものである限りはどのようなものであってもよい。
塩基配列は、完全にランダムなものであっても、何らかの遺伝子を検出するために、その遺伝子と全部又は一部が同一の配列であってもよく、その遺伝子と全部又は一部が相補配列であってもよい。塩基配列は、その配列が他の塩基配列と区別できるものである限り、どのような長さ及び構成であってもよい。ただし、連結した核酸A及び核酸Bがプローブ核酸として機能するためには、連結した核酸A及び核酸Bの配列長が10塩基から100塩基であることが好ましく、20塩基から70塩基であることがさらに好ましい。
塩基配列A1とA2との関係(A1’とA2’との関係)は、互いに塩基配列長が同程度であることが好ましい。具体的には、塩基配列A1とA2との(A1’とA2’との)配列長の差が5塩基以内であり、さらにその差が2塩基以内であることが望ましい。
また、塩基配列A1とA2とは、それぞれの相補配列(A1’とA2’)との2本鎖の形成のしやすさが同程度であることが望ましい。具体的には、塩基配列A1及びA2を形成する塩基のうち、AとT(もしくはU)を1、GとCを2として、それぞれの配列を構成する全塩基分の値を加算する。その際の塩基配列A1とA2との値の差が、0から5であることが望ましく、0から3であることがより望ましい。
相補配列とは、ある配列と対をなす配列である。核酸は、AとT(もしくはU)、GとCがそれぞれ水素結合することによって、2本鎖を形成し、対をなす。従って、例えば、ATGCの相補配列は、GCATであり、TACGの相補配列はCGTAとなる。但し、相補配列は上記塩基対のみに限定されるものではなく、所定の長さを有する塩基配列において、その配列中の一部の塩基が上記塩基対を形成しなくても、配列とその対をなす配列とがハイブリダイズすることができる限り、「相補配列」に含まれるものとする。
【0024】
連結とは、上述の塩基配列A1における3’末端の水酸基と塩基配列A2における5’末端のリン酸基、あるいは、塩基配列A1’における3’末端の水酸基と塩基配列A2’における5’末端のリン酸基がフォスフォジエステル結合していることを示す。
3’末端とはヌクレオチドの3’末端のことであり、ここには水酸基がついている。また、5’末端とはヌクレオチドの5’末端のことであり、ここにはリン酸基がついている。あるヌクレオチドの3’末端の水酸基と、異なるヌクレオチドの5’末端のリン酸基がフォスフォジエステル結合することで、核酸は鎖状の分子構造をとることができる。5’末端と3’末端は鎖状の核酸の向きを示すものである。
核酸Aとは、塩基配列A1の3’末端に塩基配列A2の5’末端が連結することによって形成される塩基配列からなる核酸である。
【0025】
核酸Bとは、塩基配列A2’の5’末端に塩基配列A1’の3’末端が連結することによって形成される塩基配列からなる核酸である。
【0026】
混合されているとは、混合されているもの同士が、接触している、または接触可能に近接している状態となっていることである。上述の核酸Aと核酸Bが混合されることにより、核酸Aと核酸Bとは、核酸Aの3’側の領域(A2)と核酸Bの3’側の領域(A2’)、あるいは、核酸Aの5’側の領域(A1)と核酸Bの5’側の領域(A1’)にてハイブリダイゼーションを形成する。このとき、核酸Aと核酸Bが一分子同士であれば、ハイブリダイゼーションに供されていない部分は、1本鎖のままであると考えられる(図1上パネルのA1とA1’)。
しかしながら、核酸A及び核酸Bが多量に存在する場合は、ハイブリダイゼーションが連続的に発生し、複数の核酸Aと複数の核酸Bとによる二本鎖構造をとることが推測される(図1下パネル)。
ターゲット核酸とは、検出対象となる標的核酸のことである。
【0027】
プローブ核酸とは、ハイブリダイゼーションによって、ターゲット核酸をとらえるための核酸である。すなわち、プローブ核酸とは、ターゲット核酸の相補鎖である。
クロスハイブリ核酸とは、ターゲット核酸以外で、プローブ核酸にハイブリダイズしてしまう核酸である(クロスハイブリダイズ核酸ともいう)。
ブロッキング核酸とは、プローブ核酸の部分的な相補鎖により構成される核酸である。ブロッキング核酸は、プローブ核酸にクロスハイブリ核酸がハイブリダイズすることを防止する。
【0028】
ここで、核酸Aをプローブ核酸として使用し、核酸Bをブロッキング核酸として使用する場合を考える。ターゲット核酸は、核酸Aの相補鎖である。ターゲット核酸以外で、核酸Aにハイブリダイズする核酸が、クロスハイブリ核酸である。
プローブ核酸Aの塩基配列A2とブロッキング核酸Bの塩基配列A2’はハイブリダイズすることから、塩基配列A2の一部の配列に相補的な配列を有するクロスハイブリ核酸は、ブロッキング核酸によってハイブリダイゼーションが阻害される。また、プローブ核酸Aの塩基配列A1は、上記とは別のブロッキング核酸Bの塩基配列A1’とハイブリダイズすることから、塩基配列A1の一部の配列に相補的な配列を有するクロスハイブリ核酸も、ブロッキング核酸によってハイブリダイゼーションが阻害される。一方、プローブ核酸とブロッキング核酸がこのように連続的にハイブリダイズしている状態では、ターゲット核酸とプローブ核酸とのハイブリダイゼーションは、ほとんど阻害されない。つまり、本手法によれば、クロスハイブリ核酸のプローブ核酸へのハイブリダイゼーションを抑制してノイズを低減しつつ、ターゲット核酸がプローブ核酸とハイブリダイズすることが可能であり、ターゲット核酸の検出感度(特異性)を高めることができる(図2)。
また、本発明の第二の態様は、前記記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている前記核酸アレイである。
【0029】
すなわち、本発明の第二の態様は、前記核酸組成物が担体に配置され、かつ、その配置位置が規定された核酸アレイである。
また、本発明の第三の態様は、上記核酸アレイの製造方法であり、上記核酸A及び核酸Bのいずれか一方の核酸をあらかじめ担体に対してアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む。
ここで、アドレス可能とは、相対的又は絶対的な位置が判別可能な状態であることを指す。具体的には、複数の核酸組成物が配置されている際に、担体上のどの位置にどの核酸組成物が配置されているのかが明らかとされている、あるいは、明らかにすることができる状態のことを指す。
【0030】
例えば、プローブ核酸の一端を、アレイ上の所定位置に固定して規則的に整列することにより、どの位置にどのプローブ核酸が固定されているかを知ることができる。図3は、核酸Aの一端が担体上に固定された状態を示す図である。
担体とは、プローブ核酸を固定化する物質であり、核酸組成物を配置する物質のことである。ガラスやシリコン、樹脂、ゲル、ビーズなどさまざまな物質を担体として使用することができる。
【0031】
核酸アレイとは、プローブ核酸が、担体に複数アドレス可能に固定化されてなるものである。また、本発明でいう核酸アレイとは、担体に複数アドレス可能に固定化されたプローブ核酸に、さらにブロッキング核酸がハイブリダイズしているものである。
【0032】
固定化とは、プローブ核酸が担体から離脱しないようにする処理のことである。例えば、プローブ核酸や担体自体に何らかの官能基を修飾し、化学的に結合させることにより、プローブ核酸を担体に固定化することが可能である。また、静電的な結合や、疎水的な結合によっても固定化が可能である。
本発明の核酸アレイは、核酸Aおよび核酸Bのうち、何れか一方のみを担体に固定化し、他方を固定化されている核酸にハイブリダイズさせることにより、製造することが可能である。この場合、はじめに固定化した核酸がプローブ核酸となり、後からハイブリダイズさせた核酸がブロッキング核酸となる。
また、本発明の核酸アレイは、あらかじめ核酸Aと核酸Bを混合しておき、その混合物を担体に配置することでも製造することが可能である。
さらに、本発明の第四の態様は、前記核酸アレイ又は核酸組成物にターゲット核酸を接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、核酸の検出方法である。
接触とは、核酸アレイ又は核酸組成物とターゲット核酸とを同一の反応系に存在させることを意味する。さらに具体的には、核酸アレイ上にターゲット核酸を添加すること、核酸組成物とターゲット核酸とを混合することなどが挙げられる。
核酸Aをプローブ核酸として使用する態様の場合を考える(図2)。ブロッキング核酸によって、プローブ核酸とクロスハイブリ核酸とのハイブリダイゼーションは抑制されている。この状態でターゲット核酸を核酸組成物又は核酸アレイと接触させることにより、クロスハイブリ核酸のプローブ核酸へのハイブリダイゼーションを防止しつつ、ターゲット核酸をプローブ核酸とハイブリダイズさせることができる(図2)。
【0033】
図4は、プローブ核酸が担体上にアドレス可能に固定化されたとき、すなわち核酸アレイにおけるターゲット核酸の検出の態様を示す図である。ブロッキング核酸によって、担体に固定化されたプローブ核酸Aとクロスハイブリ核酸とのハイブリダイゼーションは抑制されている。この状態でターゲット核酸を核酸アレイと接触させることにより、プローブ核酸とターゲット核酸とはハイブリダイズする。ターゲット核酸が存在しなければ、プローブ核酸Aの塩基配列A2には、ブロッキング核酸Bの塩基配列A2’がハイブリダイズしている。また、プローブ核酸Aの塩基配列A1には、別のプローブ核酸Aにハイブリダイズしているブロッキング核酸Bの塩基配列A1’がハイブリダイズしている(図3)。ターゲット核酸を存在させると、先にハイブリダイズしていた塩基配列A1と塩基配列A1’および塩基配列A2と塩基配列A2’のハイブリダイズが解かれる。この結果、クロスハイブリ核酸のハイブリダイゼーションを防止しつつ、ターゲット核酸がプローブ核酸とハイブリダイズすることができる(図4)。
【0034】
ターゲット核酸の検出は、ターゲット核酸を蛍光ラベル、放射標識等により標識し、検出装置でシグナルを検出すればよい。プローブ核酸とターゲット核酸とのハイブリッド形成を、蛍光、化学発光、ラジオアイソトープなど、あらかじめターゲット核酸に標識された物質に由来するシグナルにより定量化又は定性化することにより、プローブ核酸に対応するターゲット核酸の存在を確認することができる。また、検出の方法は上記に限定されない。例えば、ブロッキング核酸の方を標識しておき、ターゲット核酸がハイブリすることによるブロッキング核酸の脱落をシグナルの低下で確認することも可能である。
上記、「標識」方法は、核酸のハイブリダイゼーションを検出することができる限り特に限定されるものではない。標識に使用される標識物質としては、例えばCy3、Cy5、Alexa Fluorなどの蛍光物質、アルカリフォスファターゼやホースラディッシュペルオキシターゼを使用した基質分解にともなう化学発光を利用するための酵素又はタンパク質、γ−32Pやα−32P等のラジオアイソトープなどが挙げられるが、蛍光物質を使用することが簡便である点で好ましい。
【0035】
これらの標識物質を核酸分子に取り込ませる際には、標識方法が安定であり、プローブ核酸との特異的なハイブリダイゼーションを阻害しない限りにおいては、直接的、間接的または物理的、化学的結合に関わらずどのような方法であっても使用可能である。化学的な修飾を行う方法として、あらかじめ蛍光物質で標識された塩基を反応時に取り込ませる方法や、ビオチンやアミノアリル基によって修飾されたアナログ塩基を反応時に取り込ませ、それを介して標識物質を取り込ませる方法が挙げられる。また、SYBR Green、アクリジンオレンジ、SYBR Goldなどを用いて標識物質を相補核酸分子にインターカレートさせる方法、ULYSISのように標識物質を相補核酸分子に対して白金を介して結合させる方法などを採用することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表1に示す配列番号1番および2番で示されるオリゴヌクレオチド(60塩基長)を合成した。
【0037】
合成の際、最終段階で、アミノリンクTM(PEバイオシステムズ社製)を該オリゴヌクレオチドに反応させ、次いで脱保護操作を行うことにより、各オリゴヌクレオチドの末端にアミノヘキシル基が導入された5’−O−アミノヘキシルオリゴヌクレオチドを調製した。
【0038】
次いで、それらオリゴヌクレオチドに、無水メタクリル酸を反応させ、5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0039】
【表1】
【0040】
プローブXの1〜30番目及び31〜60番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブYについても同様である。
【0041】
次に、図5に示す配列固定器具を利用して中空繊維束を製造した。なお、図5中のx、y、zは直交の3次元軸であり、x軸は繊維の長手方向と一致する。
【0042】
まず、直径0.32mmの孔(11)が、孔の中心間距離を0.42mmとして、縦12列、横各19列で合計228個設けられた厚さ0.1mmの多孔板(21)を2枚準備した。これらの多孔板を重ね合わせて、そのすべての孔に、ポリカーボネート中空繊維(31)(三菱エンジニアリングプラスチック社製 カーボンブラック1質量%添加)を1本ずつ、通過させた。
【0043】
X軸方向に各繊維に0.1Nの張力をかけた状態で2枚の多孔板の位置を移動させて、中空繊維の一方の端部から20mmの位置と100mmの位置の2ヶ所に固定した。即ち、2枚の多孔板の間隔を80mmとした。
【0044】
次いで、多孔板間の空間の周囲3面を板状物(41)で囲った。このようにして上部のみが開口状態にある容器を得た。
【0045】
この容器の上部から容器内に樹脂原料を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業(株)ニッポラン4276、コロネート4403)の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加したものを使用した。25℃で1週間静置して樹脂を硬化させた。次いで多孔板と板状物を取り除き、中空繊維束を得た。
【0046】
次に、表2に示す質量比で混合した単量体及び開始剤を含むゲル前駆体重合性溶液をアレイに固定するプローブ核酸毎にそれぞれ調製した。
【0047】
【表2】
【0048】
次に、図6に示した配置になるように、中空繊維束の対応する中空繊維の中空部に上記で作製したゲル前駆体重合性溶液を充填するために、該重合性溶液の入った容器及び上記で作製した中空繊維束をデシケーター内に設置した。デシケーター内を減圧状態にしたのち、中空繊維束の各糸の封しされていない端部を所定の前記重合性溶液の入った容器に浸漬した。デシケーター内に窒素ガスを封入し、中空繊維の中空部にプローブ核酸を含むゲル前駆体重合性溶液を導入した。次いで、容器内を70℃とし、3時間かけて重合反応を行った。
【0049】
このようにしてプローブ核酸がゲル状物を介して中空繊維の中空部に保持された中空繊維束を得た。
【0050】
次に得られた中空繊維束を、ミクロトームを用いて繊維の長手方向と直交する方向でスライスし、厚さ0.25mmの薄片シート(核酸アレイ)を300枚得た。
【0051】
核酸アレイは、図6に示すプローブ位置で作製した。なお、図6中の数字1及び2は、プローブ核酸の配列番号を示し(それぞれ配列番号1、配列番号2)、核酸アレイには、それぞれの配列番号に示す塩基配列を有するプローブ核酸が配置されている。Bは、プローブ核酸の入っていないスポットを示す。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0052】
まず、表3に示す配列番号3および配列番号4で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0053】
配列番号3で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号1の完全相補鎖(60塩基)のうち、5末端側の30塩基と、3末端側の30塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号4で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号2の完全相補鎖(60塩基)のうち、5末端側の30塩基と、3末端側の30塩基を入れ替えた構造から構成される。
【0054】
【表3】
【0055】
配列番号3については、配列番号1のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号4については、配列番号2のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、X−60T及びY−60Tにおいて、第1〜30番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、31〜60番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表4に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で60℃、16時間接触させた。
【0056】
【表4】
【0057】
接触後の核酸アレイは、0.12M TNTバッファー(0.12M Tris−HCl,0.12M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.12M TNバッファー(0.12M Tris−HCl,0.12M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.12M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
【0058】
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0059】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表5に記載の配列番号5及び配列番号6のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0060】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号5及び配列番号6で示される60塩基のターゲットモデル検体を、20塩基ずつ3等分した、表5に記載のオリゴDNA(配列番号7から12)を使用した。
【0061】
【表5】
【0062】
ターゲットモデル検体(配列番号5及び6)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号7から12)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0063】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表6の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で60℃、16時間接触させることで実施した。
【0064】
【表6】
【0065】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.12MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0066】
データは、プローブX、プローブYのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されている10箇所のスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を平均して示した。
【0067】
その結果を図7に示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は20590、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は5147であった。
【0068】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は8408、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は2102であった。
比較例1
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0069】
その結果を図8Aに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は35818、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は9074であり、ターゲット/クロスハイブリ比は4であった。
【0070】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は16853、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3871であり、ターゲット/クロスハイブリ比は4であった。
【0071】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例1に比較して高かったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度がそれ以上の割合で高く、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例に比較して極めて低い値となった。これは、ブロッキング核酸を使用しない状態では、多くのクロスハイブリ核酸がプローブ核酸とハイブリダイゼーションを形成してしまい、高い特異性が得られないことを示している。
比較例2
ブロッキング核酸として、表5に記載の配列番号5及び配列番号6で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる60塩基のものを使用した。それ以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0072】
その結果を図8Bに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3585、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は896であった。
【0073】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1488、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は372であった。
【0074】
本比較例においては、使用したブロッキング核酸の長さがプローブ核酸と同一であるため、ハイブリダイゼーションの効率が、ターゲットモデル検体と変わらない。そのため、ブロッキング核酸が、ターゲットモデル検体とプローブ核酸とのハイブリダイゼーション形成をも競合阻害してしまい、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度が極めて低くなる。クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度についてはほとんど検出されないが、ターゲットモデル検体のシグナル強度が大幅に低くなる分、実施例1と比較して、ターゲット/クロスハイブリ比が低くなった。
比較例3
ブロッキング核酸として、表7に記載の50塩基長のもの(配列番号13、14)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの6塩基目から、55塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0075】
その結果を図8Cに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は10932、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は2733であった。
【0076】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3474、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は4であり、ターゲット/クロスハイブリ比は869であった。
【0077】
本比較例においては、使用したブロッキング核酸の長さがプローブ核酸よりも10塩基短い(ブロッキング核酸とプローブ核酸の長さが均等ではない)ため、先の比較例2に比較してターゲットモデル検体とプローブ核酸とのハイブリダイゼーション形成はしやすい。しかしながら、実施例1で使用したブロッキング核酸に比較して、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度は低く、そのため、ターゲット/クロスハイブリ比も低い値となった。
【0078】
【表7】
【0079】
比較例4
ブロッキング核酸として、表8に記載の40塩基長のもの(配列番号15、16)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの11塩基目から、50塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0080】
その結果を図8Dに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は25202、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は263であり、ターゲット/クロスハイブリ比は96であった。
【0081】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は12416、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は26であり、ターゲット/クロスハイブリ比は471であった。
【0082】
用いたブロッキング核酸の鎖長は40塩基であるが、本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
【0083】
【表8】
【0084】
比較例5
ブロッキング核酸として、表9に記載された30塩基長のもの(配列番号17、18)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの16塩基目から、45塩基目までの配列で構成されている。ブロッキング核酸以外は、実施例1と同様の手順にて実施した。
【0085】
その結果を図9Aに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は35037、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3459であり、ターゲット/クロスハイブリ比は10であった。
【0086】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は16641、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は946であり、ターゲット/クロスハイブリ比は18であった。
【0087】
この結果は、比較例4と同様に、ターゲットモデル検体由来のシグナル強度に比較して、クロスハイブリ検体由来のシグナルが多く検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
【0088】
【表9】
【0089】
比較例6
ブロッキング核酸として、表10に記載の30塩基長のもの(配列番号19、20、21、22)を使用した。これらの配列は、配列番号5、配列番号6それぞれの1塩基目から、30塩基目まで及び、31塩基目から60塩基目の配列で構成されている。使用したブロッキング核酸以外は実施例1と同様の手順にて実施した。
【0090】
その結果を図9Bに示す。プローブXについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は25712、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は179であり、ターゲット/クロスハイブリ比は144であった。
【0091】
プローブYについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は11439、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は44であり、ターゲット/クロスハイブリ比は260であった。
【0092】
ここで用いたブロッキング核酸は、1本の60塩基長のプローブ核酸に対して、2本の30塩基長のブロッキング核酸を用い、プローブ核酸の全配列をブロッキングしている。プローブ核酸の全配列をブロッキングできるという点では、実施例1や、比較例2と同一であるが、実施例1に対してターゲット/クロスハイブリ比は低い値であった。
【0093】
【表10】
【0094】
実施例1、比較例2〜6のまとめ
図10に、実施例と比較例を同一グラフ上にプロットした。図10において、パネルAはプローブX、パネルBはプローブYにおける結果をまとめた図である。その結果、実施例におけるターゲット/クロスハイブリ比が他の何れの比較例に比べても、きわめて高かった。以上により、本実施例におけるブロッキング核酸が、比較例にて使用したブロッキング核酸に比較してプローブ核酸の特異性を向上させることを証明した。
実施例2
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表11に示す配列番号23番および24番で示されるオリゴヌクレオチド(30塩基長)を合成した。
【0095】
実施例1と同様にして5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0096】
【表11】
【0097】
プローブAの1〜15番目及び16〜30番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブBについても同様である。
【0098】
そのほかは実施例1
と同様にして、核酸アレイを作製した。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0099】
まず、表11に示す配列番号27および配列番号28で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0100】
配列番号27で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号23の完全相補鎖(30塩基)のうち、5末端側の15塩基と、3末端側の15塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号28で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号24の完全相補鎖(30塩基)のうち、5末端側の15塩基と、3末端側の15塩基を入れ替えた構造から構成される。
【0101】
配列番号27については、配列番号23のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号28については、配列番号24のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、A−30及びB−30において、第1〜15番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、16〜30番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表12に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で60℃、16時間接触させた。
【0102】
【表12】
【0103】
接触後の核酸アレイは、0.24M TNTバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.24M TNバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.24M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0104】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表11に記載の配列番号25及び配列番号26のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0105】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号29及び配列番号30で示される15塩基のオリゴヌクレオチドを使用した。
ターゲットモデル検体(配列番号25及び26)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号29及び30)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0106】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表13の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で60℃、16時間接触させることで実施した。洗浄はブロッキング核酸接触後と同様の方法にて実施した。
【0107】
【表13】
【0108】
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.24MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0109】
データは、プローブA、プローブBのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されているスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を示した。
【0110】
その結果を図11に示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は166516、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は2964であり、ターゲット/クロスハイブリ比は56であった。
【0111】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は89108、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は2054であり、ターゲット/クロスハイブリ比は43であった。
比較例7
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0112】
その結果を図12Aに示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は159204、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は10850であり、ターゲット/クロスハイブリ比は15であった。
【0113】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor
647)のシグナル強度は85560、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は8484であり、ターゲット/クロスハイブリ比は10であった。
【0114】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例2と同程度であったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度がそれ以上の割合で高く、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例に比較して極めて低い値となった。これは、ブロッキング核酸を使用しない状態では、多くのクロスハイブリ核酸がプローブ核酸とハイブリダイゼーションを形成してしまい、高い特異性が得られないことを示している。
比較例8
ブロッキング核酸として、表11に記載の配列番号29及び配列番号30で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる15塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0115】
その結果を図12Bに示す。プローブAについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は166700、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は3476であり、ターゲット/クロスハイブリ比は48であった。
【0116】
プローブBについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は94244、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は2900であり、ターゲット/クロスハイブリ比は32であった。
【0117】
用いたブロッキング核酸の鎖長は15塩基であった。本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが実施例2に比較して高く検出された。
実施例2、比較例7、比較例8のまとめ
図13に、実施例2、比較例7、比較例8の結果をまとめた。図13において、パネルAはプローブA、パネルBはプローブBにおける結果をまとめた図である。30塩基長のプローブA、プローブBを用いた場合においても、実施例に記載の方法は比較例に記載の方法に比較して特異性の高いデータが得られることが明らかとなった。
実施例3
核酸アレイの作製
核酸アレイを作製するために、表14に示す配列番号31番および32番で示されるオリゴヌクレオチド(20塩基長)を合成した。
【0118】
実施例1と同様にして5’末端ビニル化オリゴヌクレオチドを調製し、これをプローブ核酸とした。
【0119】
【表14】
【0120】
プローブCの1〜10番目及び11〜20番目の塩基は、それぞれ、図1において塩基配列A1、塩基配列A2に相当する。プローブDについても同様である。
【0121】
そのほかは実施例1と同様にして、核酸アレイを作製した。
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの作製
次に、ブロッキング核酸であるオリゴヌクレオチドを設計し、上記で作製した核酸アレイに混合して、ブロッキング核酸混合済み核酸アレイを作製することとした。
【0122】
まず、表14に示す配列番号33および配列番号34で示されるオリゴヌクレオチドを合成し、これらをブロッキング核酸とした。
【0123】
配列番号33で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号31の完全相補鎖(20塩基)のうち、5末端側の10塩基と、3末端側の10塩基を入れ替えた構造から構成される。また、配列番号34で示されるオリゴヌクレオチドは、配列番号32の完全相補鎖(20塩基)のうち、5末端側の10塩基と、3末端側の10塩基を入れ替えた構造から構成される。
配列番号33については、配列番号31のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となり、配列番号34については、配列番号32のプローブ核酸に対するブロッキング核酸となる。すなわち、C−20T及びD−20Tにおいて、第1〜10番目の塩基は、図1の核酸Aをプローブ核酸、核酸Bをブロッキング核酸とした場合の塩基配列A1’に相当し、11〜20番目の塩基は塩基配列A2’に相当する。作製したブロッキング核酸を、核酸アレイに既に固定化されているプローブ核酸と混合するために、表12に記載の溶液を作製し、核酸アレイと共に密封した状態で50℃、16時間接触させた。
接触後の核酸アレイは、0.24M TNTバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl, 0.05%Tween20 水溶液)、0.24M TNバッファー(0.24M Tris−HCl,0.24M NaCl水溶液)でそれぞれ洗浄し、その後、0.24M TNバッファーに浸漬した状態で、4℃、遮光で保管した。
【0124】
以上により、ブロッキング核酸が所定のプローブ核酸に対して混合されてなる「ブロッキング核酸混合済みプローブ核酸」が搭載された「ブロッキング核酸混合済み核酸アレイ」が完成した。
モデル検体の作製とハイブリダイゼーション
ブロッキング核酸混合済み核酸アレイの特異性評価に使用するモデル検体を作製した。
【0125】
プローブ核酸の検出対象(ターゲットモデル検体)としては、2種類のプローブ核酸に対して完全相補配列である、表14に記載の配列番号35及び配列番号36のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0126】
また、プローブ核酸の非検出対象(クロスハイブリモデル検体)としては、配列番号37及び配列番号38で示される10塩基のオリゴヌクレオチドを使用した。
ターゲットモデル検体(配列番号35及び36)については、ULYSIS−Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を使用して標識を行い、クロスハイブリモデル検体(配列番号37及び38)については、ULYSIS−Alexa Fluor 546(インビトロジェン社製)を使用して標識した。すなわち、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体を異なる標識物質にて標識し、ターゲットモデル検体とクロスハイブリモデル検体の混合物を核酸アレイにハイブリダイゼーションした場合においても、同一のプローブ核酸位置においてそれぞれを同時に独立に検出できるようにした。
【0127】
標識を行ったそれぞれのターゲットモデル検体及びクロスハイブリモデル検体について、表13の組成となるようにハイブリダイゼーション溶液を調製した。このハイブリダイゼーション溶液を、上記で作製したブロッキング核酸混合済み核酸アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは核酸アレイとハイブリダイゼーション溶液を密封した状態で50℃、16時間接触させることで実施した。洗浄はブロッキング核酸接触後と同様の方法にて実施した。
検出操作は、冷却CCDカメラ方式の核酸アレイ自動検出装置を用いて、核酸アレイを0.24MのTNバッファー中に浸漬し、カバーガラスをかぶせた後に、標識核酸試料分子の蛍光シグナル強度を測定した。
【0128】
データは、プローブC、プローブDのシグナル共に、核酸アレイ上に搭載されているスポットで検出された、AlexaFluor 647に由来する蛍光シグナルおよびAlexaFluor 546に由来する蛍光シグナルの値を示した。
【0129】
その結果を図14に示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は23456、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は558であり、ターゲット/クロスハイブリ比は42であった。
【0130】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1728、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は156であり、ターゲット/クロスハイブリ比は11であった。
【0131】
比較例9
ブロッキング核酸を混合しない核酸アレイを用い、それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0132】
その結果を図15Aに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は21712、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は6751であり、ターゲット/クロスハイブリ比は3であった。
【0133】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1432、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は1045であり、ターゲット/クロスハイブリ比は1であった。
【0134】
ターゲットモデル検体のシグナル強度は、実施例3と同程度であったが、クロスハイブリモデル検体由来のシグナル強度は実施例3に比較して高いため、ターゲット/クロスハイブリ比としては、実施例3に比較して極めて低い値となった。
比較例10
ブロッキング核酸として、表14に記載の配列番号37及び配列番号38で示される、プローブ核酸の相補配列からなる10塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0135】
その結果を図15Bに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は19480、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は521であり、ターゲット/クロスハイブリ比は37であった。
【0136】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は1380、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は213であり、ターゲット/クロスハイブリ比は6であった。
【0137】
用いたブロッキング核酸の鎖長は10塩基であるが、本条件においては、クロスハイブリ検体由来のシグナルが検出されるため、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
比較例11
ブロッキング核酸として、表14に記載の配列番号35及び配列番号36で示される、プローブ核酸の完全相補配列からなる20塩基のものを使用した。それ以外は実施例2と同様の手順にて実施した。
【0138】
その結果を図15Cに示す。プローブCについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は3656、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 546)のシグナル強度は386であり、ターゲット/クロスハイブリ比は9であった。
【0139】
プローブDについては、ターゲットモデル検体由来の蛍光(Alexa Fluor 647)のシグナル強度は752、クロスハイブリモデル検体由来の蛍光(Alexa
Fluor 546)のシグナル強度は122であり、ターゲット/クロスハイブリ比は6であった。
【0140】
用いたブロッキング核酸の鎖長は20塩基であるが、本条件においては、ターゲットモデル検体の鎖長と同一であるため、ターゲットモデル検体のハイブリダイゼーションの効率が著しく低下し、シグナル強度が大幅に低下する。その結果、ターゲット/クロスハイブリ比の値が低下する。
実施例3、比較例9、比較例10、比較例11のまとめ
図16に、実施例3、比較例9、比較例10、比較例11の結果をまとめた。図16において、パネルAはプローブC、パネルBはプローブDにおける結果をまとめた図である。20塩基長のプローブC、プローブDを用いた場合においても、実施例に記載の方法は比較例に記載の方法に比較して特異性の高いデータが得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明により、ハイブリダイゼーション効率の低減を防ぎ、多型解析だけでなく、発現解析に使用することも可能な核酸組成物及び核酸アレイが提供される。
【符号の説明】
【0142】
11・・・・孔
21・・・・多孔板
31・・・・中空繊維
41・・・・板状物
【配列表フリーテキスト】
【0143】
配列番号1〜38:合成DNA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている核酸アレイ。
【請求項3】
塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bのいずれか一方の核酸を担体にアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む、核酸アレイの製造方法であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸アレイの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸組成物又は請求項2に記載の核酸アレイとターゲット核酸とを接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、ターゲット核酸の検出方法。
【請求項1】
塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bが混合された核酸組成物であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸組成物がアドレス可能に担体に配置された核酸アレイであって、核酸A及びBの何れか一方が担体上に固定化されている核酸アレイ。
【請求項3】
塩基配列A1とA2とが連結してなる核酸A、及び前記塩基配列A1及びA2にそれぞれ相補的である塩基配列A1’とA2’とが連結してなる核酸Bのいずれか一方の核酸を担体にアドレス可能に固定化させた後、他方の核酸を混合させる工程を含む、核酸アレイの製造方法であって、前記塩基配列A1の3’末端に前記塩基配列A2の5’末端が連結し、前記塩基配列A2’の5’末端に前記塩基配列A1’の3’末端が連結されている、核酸アレイの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸組成物又は請求項2に記載の核酸アレイとターゲット核酸とを接触させ、ターゲット核酸のシグナルを検出する工程を含む、ターゲット核酸の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−284159(P2010−284159A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110539(P2010−110539)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
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