説明

獣毛繊維の抗ピリング加工方法

【課題】獣毛繊維を使用した織編物の染色性を損なうことなく、優れた抗ピリング性を付与する手段を提供する。
【解決手段】モノエタノールアミン重亜硫酸塩を20〜60%owf含むpH7.0〜9.0の浴中に獣毛繊維を50〜90℃で30〜180分間浸漬し、水洗後、中和処理する獣毛繊維の抗ピリング加工方法。本発明を実施して得られた織編物は、インナー、アウター問わず広く衣料分野に適用でき、その商品価値を十分に高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維に抗ピリング性を付与するための加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸放湿性、保水性及び保温性といった特性を同時に併せ持つ織編物として、獣毛繊維を使用した織編物が古くから知られている。
【0003】
しかし、獣毛繊維を使用した織編物は、外力を受けるとピリングを生じやすいという欠点があり、その改善方法がこれまでに多数提案されている。例えば、特許文献1には、有機ホスフィン化合物を獣毛繊維に対し0.8〜1.8owf付与することにより、獣毛繊維の抗ピリング性や紡績性などを向上させる手段が開示されている。
【特許文献1】特開平7−207577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術は、織編物に優れた抗ピリング性を付与できるものの、織編物の染色性を低下させる点で問題を残している。つまり、有機ホスフィン化合物を織編物の染色前に獣毛繊維に付与すると、後の染色において初期の染料吸着性や染色速度に対し悪影響を及ぼすことがあるし、染色後に有機ホスフィン化合物を付与しても、織編物の色相に大きな変化をもたらすことになる。
【0005】
このような点を踏まえ、本発明の課題は、獣毛繊維を使用した織編物の染色性を損なうことなく、優れた抗ピリング性を付与する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、モノエタノールアミン重亜硫酸塩を20〜60%owf含むpH7.0〜9.0の浴中に獣毛繊維を50〜90℃で30〜180分間浸漬し、水洗後、中和処理することを特徴とする獣毛繊維の抗ピリング加工方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、獣毛繊維を使用した織編物の染色性を損なうことなく、優れた抗ピリング性を付与することができる。そのため、本発明を実施して得られた織編物は、インナー、アウター問わず広く衣料分野に適用でき、その商品価値を十分に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明における獣毛繊維としては、例えば羊毛、カシミヤ、モヘヤ、アンゴラ、キャメルがあげられ、中でも入手が容易で安価であることから羊毛が好適である。
【0010】
本発明の加工方法に供する際の獣毛繊維の形態としては、作業性の観点から集合体を形成しているものが好ましく、一般にはスライバーを採用する。また、獣毛繊維には、織編物の機能性を向上させる観点から、各種の機能性が予め付与されていてもよく、例えば、防縮加工された獣毛繊維を用いると、織編物の用途が広がるという点で有利である。また、予め染色された繊維でもよい。
【0011】
獣毛繊維を抗ピリング加工するにあたり、本発明では特定の浴を用意する。この浴には、モノエタノールアミン重亜硫酸塩を20〜60%owf含有させる必要があり、これにより、獣毛繊維を改質し、織編物に所定の抗ピリング性を付与することができる。獣毛繊維の改質機構については、詳細は不明であるが、繊維分子中のSS結合が開裂した後、SH結合として再結合することで、改質が進むものと思われる。
【0012】
浴のpHとしては、7.0〜9.0の範囲を満足させる必要があり、好ましくは8.0〜9.0とする。これによりSS結合の開裂とSH結合の再結合とによる分子の再配列を効率よく進めることができる。浴のpHを調整するには、一般にアンモニア水溶液を使用するとよい。
【0013】
このような獣毛繊維の改質は、いわゆる吸尽法を採用すると、コスト、効率の点で有利であるから、本発明では、獣毛繊維を浴中に浸漬させて加工するものとし、加工機器として好ましくはバスケットキャリアー・パッケージ染色機(トップ染色機)を使用する。
【0014】
そして、浸漬の条件としては、温度を50〜90℃とし、かつ浸漬時間を30〜180分間とする。なお、好ましい浸漬時間は、60〜120分間である。獣毛繊維の単糸繊度が細い場合は一般に繊維の改質が進みやすく、逆に太い場合は繊維の改質が進みづらいので、この点を十分考慮して、浴の温度や浸漬時間を適正なものとすればよい。また、機能性が予め付与された獣毛繊維を使用する場合にも同じことがいえる。例えば、防縮加工された獣毛繊維の場合では、クチクルの一部が脆化又は除去されているため、モノエタノールアミン重亜硫酸塩が繊維内に浸透しやすい傾向にある。そのため、浴の温度や浸漬時間は勿論、浴のpHにも留意して適正な条件を選択するのが好ましい。
【0015】
また、浴中には、目的に応じて各種添加剤が配合されていてもよい。例えば、界面活性剤や帯電防止剤などが配合されていると、後に本発明の加工方法を経た獣毛繊維を紡績糸となす際、工程通過性の点で有利となる。
【0016】
獣毛繊維を浴中に浸漬させた後は、これを水洗し、しかる後に中和処理する。水洗は、繊維間に残留するモノエタノールアミン重亜硫酸塩を除去するために行うものであり、必要に応じて複数回行ってよいし、湯洗と組み合わせてもよい。また、中和処理も同じく残留酸を除去するために行うものである。ただし、中和処理はこれに止まらず獣毛繊維の開繊性向上やこう着防止にも一定の効果があり、後に獣毛繊維を紡績糸となす点を考慮すれば、この中和処理を採用することが必要となる。中和処理には、酢酸が好ましく使用される。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0018】
予め防縮加工並びに染色された、単糸繊度(直径)20.4μmの羊毛繊維からなるスライバーをトップ状に巻き上げた後、トップ染色機を使用して、活性剤を含む浴中にて該トップ状スライバーを浴比1:10で精練し、スライバー表面に付着したカーディング油剤を除去した。
【0019】
次に、モノエタノールアミン重亜硫酸塩を30%owf含む浴を用意し、アンモニア水溶液を使用してこの浴のpHを9.0に調整した。調整後、浴をトップ染色機の染色槽に注水し、ここに精練後のトップ状スライバーを浴比1:10で浸漬した。このとき、トップ染色機のポンプをIN→OUTで稼動させた。また、浴の温度を除々に上げ、70℃となったとき60分間その温度を維持させた。
【0020】
その後、染色槽から浴を抜き、スライバーを湯洗、水洗し、酢酸を用いてこれを中和処理した後、再度湯洗、水洗し、乾燥した。
【0021】
ここで、本発明の効果を確認する目的で、加工後のスライバーを通常の梳毛紡績法に準じて紡績して太さ2/60(Nm)の羊毛紡績糸となし、針密度20Gの丸編み機を使用して編地を作製した。
【0022】
この編地の色相を目視で確認したところ、色斑、色落ちなどが確認できなかったことから、編地の染色性は維持されていることが確認できた。
【0023】
また、JIS L1076(ICI法、5時間)に基づき、得られた編地の抗ピリング性を級判定したところ、4−5級という結果が得られた。一方、比較のため、上記精練後のスライバーを使用して、かかる抗ピリング加工を省略する以外同様の手段にて上記編地と同規格の編地を作製し、同じく抗ピリング性を級判定したところ、1−2級であった。
【0024】
以上の結果から、本発明の加工方法を経た獣毛繊維は、優れた抗ピリング性を具備していることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノエタノールアミン重亜硫酸塩を20〜60%owf含むpH7.0〜9.0の浴中に獣毛繊維を50〜90℃で30〜180分間浸漬し、水洗後、中和処理することを特徴とする獣毛繊維の抗ピリング加工方法。