説明

玩具銃用の弾丸

【課題】 放置されても自然界において分解され、かつ玩具用の弾丸として直進性のよい球状体を提供することを課題とする。
【解決手段】 木材や草等の天然セルロース含有物と熱可塑性樹脂とを高圧熱水下で混合物することにより比重が1以上となるように生成された熱可塑性の射出成形樹脂を、成形型を用いて球形に成形したことを特徴とする。特に、混合される木材や草等の天然セルロース含有物の重量割合が85〜95パーセントであると弾丸の直進性が向上するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 模型銃やパチンコ用の弾として使用する球状の成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小麦粉やトウモロコシ粉等を含む殻粉等を原料として球状体に成形した玩具用の弾丸が知られている(特許文献1)。当該玩具用の弾丸は、例えば小麦粉と水を練合した練合物を型に入れて押し固めることにより形成したものである。
その他、飛距離と命中精度を高めるために、表面にディンプルを形成したディンプルBB弾(特許文献2)、エコロジーBB弾(特許文献3)が知られている
【特許文献1】特許第3535200号公報
【特許文献2】特開2003−279300号公報
【特許文献3】実開平6−40700号公報
【0003】
現在、玩具銃用の弾丸として所謂BB弾と称される合成樹脂による球体が多く使用されている。BB弾は、屋外で使用されることが多く発射後は回収されることなく、ほとんどがそのまま放置されているのが現状である。従って、生分解性の素材等を使用しない限り、その多くはそのまま自然界に残存することになる。
また、BB弾は、発射された後に直進することが望ましいものであるが、螺旋状に飛ぶなど弾道が安定しないものが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、上記課題に鑑み発明されたものであって、放置されても自然界において分解され、かつ玩具用の弾丸として直進性のよい球状体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本願発明に係る玩具銃用の弾丸は、以下の特徴を有する。すなわち、木材や草等の天然セルロース含有物と熱可塑性樹脂とを高圧熱水下で混合物することにより比重が1以上となるように生成された熱可塑性の射出成形樹脂を、成形型を用いて球形に成形したことを特徴とする。
【0006】
また、前記射出成形樹脂は、混合される木材や草等の天然セルロース含有物の重量割合が85〜95パーセントであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明に係る玩具銃用の弾丸は、その構成成分の大半が植物を原料としたセルロースであり、自然界において分解され土中に戻る性質を有している。また、弾丸を形成するための成形素材は、日常的に排出される紙ゴミや、お茶飲料の製造時に排出されるお茶がら、建築資材等、植物を資源として一次利用したものを再利用して生成されるものである。したがって、一方的に資源を消費するものではなく、資源を循環させることができるという効果を有している。
また、本願発明に係る玩具銃用の弾丸を形成する成形素材は、植物成分の割合が高いものであるが、その植物成分の割合に応じて成型物表面の粗さが変化する。球体の表面が粗いと、直進性を阻害しない効果があるので、植物成分の混合割合によって直進性を調整できるという効果がある。
また、本願発明に係る玩具銃用の弾丸を形成する成形素材は、成形後の体積収縮率が極めて低い性質がある。これは、球としての外形寸法の精度が高く形状品質が安定し、真球
度が高く重心位置が球の中心に安定しているということである。このように、球体としての品質が安定することによって、品質のバラツキのない玩具用の弾丸を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明に係る玩具銃用弾丸(以下「弾丸」という)1は、直径約6mmの樹脂性の球状体として形成された射出成型物である。当該弾丸1は、金型を用いた射出成形によって形成された樹脂成型物であり、当該射出成形に用いる成形素材に特徴を有するものである。当該成形素材の生成方法については特願2006-274522号および特願2006-274523号に詳細に説明されている。
図2は、成形素材の生成に用いる処理装置の概略図であり(a)は要部概略図、(b)はチャンバ内の概略平面図、(c)はチャンバ内の概略側面図である。前記成形素材は、破砕して小片化した重量割合で約95〜85パーセントの植物片と、重量割合で約5〜15パーセントの熱可塑性樹脂を装置Aのチャンバ2内に投入し、当該チャンバ2内で投入物同士を高速で衝突させ、当該衝突によって生じた発熱および圧力上昇によって亜臨界水を発生させ、当該亜臨界水の作用によって植物片に含まれるセルロースを分解し、再合成して生成されたものである。すなわち当該成形素材とは、前記亜臨界水と称される高圧熱水によって低分子化されたセルロースを、もともと植物片に含まれているリグニンという成分と、同時に投入した熱可塑性樹脂によって再結合し新たな熱可塑性樹脂としたものである。
【0009】
成形素材の材料となる前記植物片には、間伐材、製材所等で排出される木片、建材、廃棄処分となったパチンコ台、家具等に使用されている木質系の廃材(木、合板等)、綿(コットン)製の衣類、布団等、オフィスで排出されるコピー用紙、清涼飲料水メーカーから排出されるお茶成分抽出後のお茶がら、落ち葉等であり、主としてセルロースを含む大凡のものが含まれる。
成形素材の生成時に混合される前記植物片の重量割合は、湿度50〜70パーセント程度、気温10度〜35度程度の一般的な生活環境において水没することなく放置された状態での重量割合である。
【0010】
混合される熱可塑性樹脂には、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂、ゴム、および当該成形素材自体、別工程で生成され樹脂化されたリグニン等が含まれる。
なお、当該成形素材は、玩具銃用の弾丸として最適な性質を有し、できるだけPP等の石油由来の樹脂の使用量を低減して天然由来の成分を多く使用することを目的としてPP等の重量割合を5〜15パーセントと設定している。むろん、石油由来の樹脂の重量割合を15パーセント以上としても熱可塑性の射出成形用樹脂を生成することもできる。石油由来の樹脂の重量割合が増加すると、石油系樹脂本来の性質に近くなるが、このような性質を利用して用途に応じて混合量を可変させることも可能である。
【0011】
粉砕された植物片と当該植物片と同時にチャンバ2内に投入された熱可塑性樹脂による混合物は、チャンバ2内の空間9に設けられた複数の羽根3(3a、3b)、4(4a、4b)、5、6の作用によって互いに衝突を繰り返しつつ自己発熱し、当該発熱によって熱可塑性樹脂の溶融および植物片に含まれている水分の加熱分離に伴い、溶融物が固形物を包みつつ全体がゲル化する。各羽根は、モータ8によって回転する軸7に取り付けられており、モータ8の回転は制御装置10に制御されている。全体がゲル化すると、混合物が固体状であった場合と比較して、羽根3、4の回転によって圧縮される混合物の密度が高くなり、羽根3,4の間で局部的に急激な温度上昇を伴う発熱を生じるようになる。
そして、混合物を取り囲むチャンバ2内の環境(温度と圧力)が一定の条件下の場合、前記ゲル化した混合物が羽根3、4に圧縮される際のエネルギーによって内部に含まれる
水分が瞬間的に亜臨界水に変化する。亜臨界水とは、臨界点(温度374℃・圧力22MPa)を超える少し前の状態の水であり、セルロース(多糖類の高分子)を低分子に分解する性質を有し、セルロースとともに植物中に含まれているリグニンをセルロースから分離する作用を有することが知られている。
【0012】
前記亜臨界水による高圧熱水反応が連続的に始まると、チャンバ内の温度が数秒間で60℃程度から200℃程度まで急激に上昇する。なお、温度上昇率の一番高い局部的な部分では、当該200℃を超え、温度374℃・圧力22MPa以下の亜臨界状態になっている。亜臨界に達した後、セルロースの分解や冷却等でエネルギーを放出した水は、水蒸気化してチャンバ2外に放出される。そして、セルロースの分解や植物片に含まれる他の成分の分離および水の消費が進行するにつれ、ゲル状態の混合物の粘度が急上昇する。そして、当該粘度の上昇に伴って羽根の回転に対する負荷(トルク)が増加する。
当該トルクの上昇開始からチャンバ内での反応の終了時期を、圧力センサ14、温度センサ15,回転計17をモニターすることによって制御装置10で判断する。そして、所定時間の経過後にモータの回転速度を次第に低下させ、モータの回転数の緩和にしたがって羽根の作用でチャンバ中央付近に保持されていた液状成分をチャンバ内の底部分に移動させ、これを再びゲル状物と交わらないように取出し、羽根の回転を停止した後に内部に残った固形物をチャンバ内から取り出す。最終的に当該チャンバ内から取り出した固形物が熱可塑性の性質を有する成形素材となる。
【0013】
前記装置Aによる一連のプロセスで生成された成形素材は、現在ごく一般的に使用されているポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)といった石油由来の樹脂と同様に熱可塑性を有し、成形金型内に高圧で注入して形を作る射出成形素材として使用可能な性質を有している。そして、当該生成物は、単に射出成形が可能であるというだけではなく、体積収縮率が2/1000程度と極めて低く、金型内での収縮がほとんど無いに等しいという性質を有している。従って、当該成形素材は、寸法精度が要求される精密成形に適しており、密度の偏りも少なく重心位置が一定である。
また、チャンバ2内に投入する混成用の熱可塑性樹脂として、生分解性の樹脂を使用することができる。この場合、添加した熱可塑性樹脂自体も微生物によって分解が可能であるから、環境を汚染する可能性が極めて低いものとなっている。
【0014】
また、熱可塑性樹脂の割合が多い成形素材を用いると、射出成形された成型物は光沢のあるようなつややかな表面を有するようになる。これは、植物成分の含有率が低いと、繊維の形態を残した成分を粒子の細かい他の樹脂成分が包み込みつつ金型の内面に表れるからである。
これに対して、植物成分の含有率が高くなるほど、当該成形素材によって形成した成型物の表面は粗くなる。繊維の形態を残した成分が金型内面に表れやすくなるからであり、成型物の表面は光沢のない微細な凹凸を有する表面になる。
【0015】
表面粗さが小さく光沢のある球は、空気中に射出されると直進しにくいことが経験的に知られている。これは、球の後方に渦が発生して、その渦によって生じる圧力の影響をうけることによる。また、ゴルフボールのように表面に複数の凹部(ディンプル)を形成すると、空気中に射出された球の直進性がよくなることが経験的に知られている。
これは、球表面の凹部が、後方における渦の発生を抑制するからである。ゴルフボールのように表面に凹部を設けると、射撃用の弾丸として直進性が向上すること容易に想定されるが、わずか直径6mmの球表面に、真球としての重心のバランスを崩さず凹部を形成することは難しい。
また、弾はバレル内に供給された圧縮空気の作用によって押し出されるものであるが、弾表面にゴルフボールのような凹部を形成すると、弾の表面とバレル内面に隙間ができてしまい、圧力が有効に作用せず射出速度が遅くなる可能性がある。
【0016】
本実施の形態に係る弾丸1は、ゴルフボールのような深い凹部は無いものの、光沢の無い微細な表面粗さを有する球体として形成される。これは、光沢を有するような表面の場合と比較して、直進性に影響を与える渦の発生を抑制する作用がある。すなわち、本実施の形態のように、重量割合で95〜85パーセントの植物片を使用した成形素材を用いて射出成形すると、直進性を向上させた玩具用の球形弾を得ることができる。
【0017】
また。上記成形素材による成型物は、比重が約1.17(植物片85%、PP12%、その他2%の場合)である(使用する原材料や混合割合によって変動する)。現在、生分解性プラスチックとして知られているポリ乳酸を用いたBB弾がある。ポリ乳酸の比重は約1.27であるから、本願発明に係る弾は、当該ポリ乳酸を用いたBB弾とほぼ同等の重量で形成可能であることがわかる。
なお、汎用性の高い一般的な熱可塑性樹脂の比重は、低密度ポリエチレンが0.91〜0.925、高密度ポリエチレンが0.941〜0.965、ポリプロピレンが0.9〜0.91(「全面改訂版プラスチック技術読本」(工業調査会1993年12月10日第1刷発行))である。したがって、上記の成形素材によって成形した本願発明に係る弾は、生分解性を有しながらも一般的な熱可塑性樹脂によって形成した成型物よりも重量が重いことにより空気抵抗の影響を受けにくく、直進性がよく飛距離が長いという効果を有している。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本願発明は、玩具銃によって発射する弾丸として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明に係る弾丸の外形図である。
【図2】成形素材の生成に用いる処理装置の概略図であり(a)は要部概略図、(b)はチャンバ内の概略平面図、(c)はチャンバ内の概略側面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 弾丸
A 処理装置
2 チャンバー
3(3a、3b)、4(4a、4b),5,6 羽根
7 軸
8 モータ
10 制御装置
11 チャンバ内壁
14 圧力センサ
15 温度センサ
16 調圧弁
17 回転計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材や草等の天然セルロース含有物と熱可塑性樹脂とを高圧熱水下で混合物することにより比重が1以上となるように生成された熱可塑性の射出成形樹脂を、成形型を用いて球形に成形したことを特徴とする玩具銃用の弾丸。
【請求項2】
前記射出成形樹脂は、混合される木材や草等の天然セルロース含有物の重量割合が85〜95パーセントであることを特徴とする請求項1記載の玩具銃用の弾丸。

【図1】
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【図2】
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