説明

珪素含有二酸化錫粉末の製造方法

【課題】ニオブ、タンタル、リン等をドーパントとしたアンチモンフリー導電性二酸化錫粉末が知られているが、これら粉末は初期の導電性には優れているものの、その熱安定性(耐熱性)は十分ではなく、より一層耐熱性に優れたアンチモンフリー導電性二酸化錫粉末が求められている。
【解決手段】二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種の錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする珪素含有二酸化錫粉末の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性及びその熱安定性に優れた珪素含有二酸化錫粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する二酸化錫としては、その導電性を向上させるためにアンチモンをドープした二酸化錫粉末が主に用いられている。そして、導電性二酸化錫を樹脂に配合して記録フィルムやクリーンルーム内壁などに用いられる帯電防止膜として利用されたり、また、繊維に配合して衣類やカーテンなどに用いられる帯電防止繊維として利用されたり、そのほか感光ドラム、トナー、センサーなどへ利用されている。しかし、ドーパントとして用いるアンチモンの使用は環境問題からその使用が規制される方向にある。このため、アンチモンを実質的に含有しない導電性二酸化錫の開発が行われつつあり、例えば、ニオブ、タンタルをドーパントとした導電性二酸化錫粉末(特許文献1参照)、リンをドーパントとした導電性二酸化錫粉末(特許文献2参照)、窒素を特定量含有する導電性二酸化錫粉末(特許文献3参照)等が知られている。上記特許文献3に記載の導電性二酸化錫粉末は、珪酸を含有した金属水酸化物(水酸化錫)を窒素ガス雰囲気下で窒素を特定量含有するまで加熱焼成して製造されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6‐345430号公報
【特許文献2】特開平6−92636号公報
【特許文献3】特開2006−248856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、種々のアンチモンフリー導電性二酸化錫粉末が知られているが、これら粉末は初期の導電性には優れているものの、その熱安定性(耐熱性)は十分ではなく、より一層耐熱性に優れたアンチモンフリー導電性二酸化錫粉末が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、耐熱性に優れたアンチモンフリー導電性二酸化錫粉末を見出すべく種々の研究を重ねたところ、特定の錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成して得られる珪素含有二酸化錫粉末は優れた導電性を有し、しかもその耐熱性にも優れたものであることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種の錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする珪素含有二酸化錫粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、導電性およびその耐熱性に優れた珪素含有二酸化錫粉末を得ることのできる製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の珪素含有二酸化錫粉末の製造方法は、二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種の錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする。
【0009】
本発明で用いる錫化合物粉末は、二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種である。錫化合物粉末の粒子形状に特に制限はなく、球状、不定形状等種々の形状の粉末を用いることができる。粒子径にも特に制限はなく用いることができるが、0.01〜10.0μmの範囲の平均粒子径を有する錫化合物粉末が好ましい。
【0010】
水酸化第二錫粉末は、公知の製造方法で得られるものを用いることができる。例えば、可溶性錫化合物溶液をアルカリで中和して、水酸化第二錫を沈殿させる方法を用いることができる。錫化合物として、種々のものを使用し得るが、例えば塩化第二錫、錫酸カリウム、錫酸ナトリウムなどが挙げられる。中和剤として使用するアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩やアンモニアなどが挙げられる。中和により得られた沈澱を濾過・洗浄して水酸化第二錫が得られる。上記方法の他にも、錫酸アルカリを酸で処理したり、塩化アルカリ、硝酸アルカリ、硫酸アルカリなどの水溶液を白金を陰極、錫を陽極として電気分解したり、塩化第二錫の希薄水溶液を煮沸したりして製造することができる。
【0011】
また、本発明で用いる二酸化錫粉末は、例えば、上記方法で得られた水酸化第二錫粉末を、500℃以上温度で焼成することで得られる。その他、公知の製造方法で得られるものを用いることができる。例えば金属錫を空気中又は酸素雰囲気中で、その沸点近くで加熱酸化したり、錫を濃硝酸で処理して得た白色沈殿物を高温で焼成したり、エトキシ錫(C2H5O)4Snの加水分解生成物を焼成したり、2価の酸化物を空気中で酸化したり、或は蓚酸錫(II)を高温で酸化分解したりして製造することができる。
【0012】
本発明で用いる窒化珪素粉末は、Siで表わされる化合物の粉末である。Siにはα型、β型等種々の結晶形が知られているが、いずれの結晶形でも用いることができる。また、その粒子形状に特に制限はなく、球状、不定形状等種々の形状の粉末を用いることができる。粒子径にも特に制限はなく用いることができるが、0.01〜10.0μmの範囲の平均粒子径を有する窒化珪素粉末が好ましい。窒化珪素の合成法は通常1)シリカ還元法(二酸化珪素粉末をカーボン及び窒素雰囲気下で加熱し、還元と窒化を同時に行い、過剰のカーボンを後処理により除去する方法)、2)金属珪素法(シリコン粉体を窒素雰囲気下で加熱・窒化する方法)、3)ハロゲン化珪素法(珪素のハロゲン化物とアンモニアを気相又は液相で反応させ窒化珪素前駆体を合成し、その後、加熱結晶化する方法)等が知られているが、何れの方法で作成した窒化珪素を使用しても構わない。
【0013】
錫化合物粉末と窒化珪素粉末との混合は、粉末同士を乾式で混合したり、水系媒体中に各々の粉末を添加・分散してスラリーとした後、固液分離してもよい。錫化合物粉末と窒化珪素粉末との混合割合は、珪素/錫で表わして0.1〜20モル%の範囲が好ましい。上記範囲より窒化珪素粉末が少ないと、加熱焼成により得られる珪素含有二酸化錫粉末の導電性及びその耐熱性が十分ではなく、また上記範囲より多いと、所望の導電性が得られ難い。
【0014】
錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末が得られる。加熱焼成の雰囲気は非酸化性雰囲気であり、たとえば、窒素雰囲気、アルゴンガス雰囲気等が挙げられるが、窒素雰囲気が経済的な面で好ましい。また、加熱焼成の温度は、850〜1300℃の範囲が好ましく、より好ましくは900〜1200℃の範囲である。加熱焼成時の圧力は、減圧下、常圧下、加圧下の何れでも構わない。非酸化性雰囲気下での加熱焼成により、窒化珪素が分解して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末が得られる。したがって、得られた珪素含有二酸化錫粉末には窒素成分は検出されない。
【0015】
本発明の製造方法で得られる珪素含有二酸化錫粉末の導電性は初期粉体抵抗で表わして概ね5〜500Ωcmであり、100℃の温度で12日間経時させた後の耐熱性は(経時後粉体抵抗-初期粉体抵抗)/初期粉体抵抗で表わして概ね5〜7である。
【0016】
本発明の製造方法で得られる珪素含有二酸化錫粉末は、樹脂および有機溶剤と混合して導電性塗料組成物として用いることができる他、導電性粘着剤、導電性プラスチック(半導体用トレー)などへ配合して用いることができる。導電性塗料組成物に配合する樹脂としては、熱可塑性又は熱硬化性の樹脂であれば特に制限なく使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂としてはエポキシ樹脂、アルキド樹脂、アルキド−メラミン樹脂、ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、アクリル−メラミン樹脂が、また熱硬化性樹脂としては熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0017】
また、導電性塗料組成物に配合する有機溶剤としては、塗料用に用いられる一般的な溶剤であれば特に制限なく用いることができるが、例えばトルエン、ブタノール、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0018】
さらに、珪素含有二酸化錫粉末、樹脂及び有機溶剤の他に、分散剤を導電性塗料組成物に配合することができる。分散剤としては、各種イオン性界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド等の一般的に用いられる非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(水酸化第二錫粉末の作成)
塩化第二錫5水和物(SnCl・5HO)232.6gを3規定の塩酸水溶液300mLに溶解させた塩化第二錫溶液と5規定の水酸化ナトリウム水溶液150mLとを、90℃の温度下で2Lの純水を張ったビーカーの中に、液のpHが6.5〜7.5を維持するよう20分かけて添加し、中和した。その後、液のpHを2.5〜3.5に調整し、次いで洗浄液(濾液)の比抵抗値が15000Ωcmになるまで純水で濾過洗浄した後、120℃の温度で12時間乾燥し、遠心ミルで粉砕し、水酸化第二錫粉末(試料a)を得た。試料aを電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径0.05μmの不定形状粒子であることがわかった。また、比表面積は102m/gであった。
【0021】
(珪素含有二酸化錫粉末の作成)
試料aと窒化珪素粉末(Si:宇部興産(株)製、平均粒径0.5μmの不定形状粒子、比表面積11m/g)とをSi/Snが4mol%となるよう乾式で混合した後、富士電波工業社製多目的高温炉を用いて、窒素雰囲気下、0.92MPaの加圧下で、1200℃の温度で2時間加熱焼成して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末(試料A)を得た。
【0022】
実施例2
実施例1において、加熱焼成を大気圧下で行ったこと以外は、実施例と同様に処理して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末(試料B)を得た。
【0023】
実施例3
実施例1において、加熱焼成を大気圧下、1000℃の温度で行ったこと以外は、実施例と同様に処理して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末(試料C)を得た。
【0024】
比較例1〜3
実施例1〜3の水酸化第二錫粉末の作成において、5規定の水酸化ナトリウム水溶液中に予めケイ酸ナトリウム(SiOとして36.5%含有)を1.75g添加し、珪素含有水酸化第二錫粉末(試料b)を得た以外は、実施例1〜3と同様に処理して、比較試料の珪素含有二酸化錫粉末(試料D〜F)を得た。
【0025】
実施例4
市販の二酸化錫粉末(SnO:高純度化学研究所製、品位99.9%、平均粒径0.3μmの不定形状粒子、比表面積5.8m/g)と、実施例1で用いた窒化珪素粉末とをSi/Snが2mol%となるよう乾式で混合した後、実施例1と同様に加熱焼成して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末(試料G)を得た。
【0026】
実施例5〜7
実施例4において、二酸化錫粉末と窒化珪素粉末の混合割合及び加熱焼成を表1に示した条件に変更した以外は実施例4と同様に処理して、本発明の珪素含有二酸化錫粉末(試料H〜J)を得た。
【0027】
比較例4〜7
実施例4において、窒化珪素粉末に代えて市販の二酸化珪素粉末(SiO:高純度化学研究所製、品位99.99%、平均粒径1.0μmの不定形状粒子、比表面積20m/g)を用い、二酸化錫粉末と二酸化珪素粉末の混合割合及び加熱焼成を表1に示した条件に変更した以外は実施例4と同様に処理して、比較試料の珪素含有二酸化錫粉末(試料K〜N)を得た。
【0028】
実施例1〜7及び比較例1〜7で得られた珪素含有二酸化錫粉末(試料A〜N)の製造条件を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
錫化合物粉末として水酸化第二錫粉末を用いて得られた珪素含有二酸化錫粉末(試料A〜F)の粒子形状を電子顕微鏡を用いて観察したところ、何れも不定形状であった。さらに、試料A〜F及びこれら試料を100℃の温度で1日及び4日経時させた試料を夫々、銅電極に挟み込み、100kg/cmの圧力下、その粉体体積抵抗値の測定を行った。結果を比表面積とともに表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
また、錫化合物粉末として二酸化錫粉末を用いて得られた珪素含有二酸化錫粉末(試料G〜N)の粒子形状を電子顕微鏡を用いて観察したところ、何れも不定形状であった。さらに、試料G〜N及びこれら試料を100℃の温度で1日及び12日経時させた試料を夫々、銅電極に挟み込み、100kg/cmの圧力下、その粉体体積抵抗値の測定を行った。結果を比表面積とともに表3に示した。
【0033】
【表3】

【0034】
錫化合物粉末として水酸化第二錫粉末を用いて得られた珪素含有二酸化錫粉末(試料A〜E)の初期粉体抵抗と経時4日後の粉体抵抗との関係を図1にプロットした。なお、試料Fに関しては、経時4日後の粉体抵抗が大きすぎるため図1中には収まらなかった。また、錫化合物粉末として二酸化錫粉末を用いて得られた珪素含有二酸化錫粉末(試料G〜M)の初期粉体抵抗と経時12日後の粉体抵抗との関係を図2にプロットした。なお、試料Nに関しては、経時12日後の粉体抵抗が大きすぎるため図2中には収まらなかった。
【0035】
図1及び図2より、珪素化合物粉末として窒化珪素粉末を用い、このものと二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種の錫化合物粉末とを混合し、加熱焼成して得られる本発明の珪素含有二酸化錫粉末は、初期の粉体抵抗が小さく、しかも熱による導電性の経時劣化が少なく耐熱性に優れていることがわかった。また、経時1日後では、表2及び表3より、実施例と比較例とでは大差のない耐熱性を示しているが、経時日数が増すにつれて、両者間の耐熱性の差が大きくなっており、本発明の珪素含有二酸化錫粉末は、長期にわたって優れた耐熱性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法で得られる珪素含有二酸化錫粉末は、アンチモンを含有しないため環境問題への懸念がなく、しかも初期の導電性及び熱による導電性の経時劣化が少ないため、導電性を必要とする導電性塗料、導電性プラスチック、導電性ゴム等に配合する導電性付与剤として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】試料A〜Eの初期粉体抵抗と経時後粉体抵抗の相関を示した図である。
【図2】試料G〜Mの初期粉体抵抗と経時後粉体抵抗の相関を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化錫粉末及び水酸化第二錫粉末から選ばれる少なくとも一種の錫化合物粉末と窒化珪素粉末とを混合した後、非酸化性雰囲気下で加熱焼成することを特徴とする珪素含有二酸化錫粉末の製造方法。
【請求項2】
850〜1300℃の範囲の温度で加熱焼成することを特徴とする請求項1に記載の珪素含有二酸化錫の製造方法。
【請求項3】
錫化合物と窒化珪素の混合割合が、珪素/錫で表わして0.1〜20モル%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の珪素含有二酸化錫の製造方法。
【請求項4】
非酸化性雰囲気が窒素雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載の珪素含有二酸化錫の製造方法。

【図1】
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【図2】
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