説明

珪素質無機多孔体に適用するための含浸シーラー剤

【課題】 環境汚染を引き起こすような有機溶剤を含有せず、しかも、比較的高温で加熱しなくても、常温で十分に珪素質無機多孔体表面中に含浸される含浸シーラー剤を提供する。
【解決手段】 この含浸シーラー剤は、イソシアネート化合物と、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランよりなる群から選ばれたシラン化合物とが、相互に混ざり合って透明な液体となっているものである。イソシアネート化合物は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、これらの多量体を含有するものを用いるのが好ましい。また、イソシアネート化合物35〜65質量%とシラン化合物65〜35質量%の配合割合で混合するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイカル板やフレキシブル板等の珪素質無機多孔体の表面を補強したり、当該無機多孔体に塗布される塗料との密着性を向上させるために使用する含浸シーラー剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、珪素質無機多孔体の表面補強等のため、含浸シーラー剤として、イソシアネート化合物を有機溶剤で希釈したイソシアネート溶液や、エポキシ樹脂を有機溶剤で希釈したエポキシ樹脂溶液が用いられている。これらの溶液は、有機溶剤で希釈されているため、低粘度となっており、無機多孔体の表面近傍に十分に含浸され、表明補強等の役割を十分に果たすものである。
【0003】
しかしながら、これらの溶液を用いると、無機多孔体中に有機溶剤が残存するということがあった。有機溶剤が残存していると、無機多孔体を建材等に使用した後、徐々に有機溶剤を環境中に放出するということがあった。そして、大気汚染、水質汚染、土壌汚染等の環境汚染を引き起こし、人体に悪影響を及ぼすということがあった。
【0004】
このため、有機溶剤を使用しない含浸シーラー剤が望まれており、特許文献1に記載したような技術が提案されている。すなわち、粘度が150mPa・s以下のイソシアネート化合物のみを用いた含浸シーラー剤が提案されている。具体的には、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートからなる含浸シーラー剤が提案されている。
【0005】
しかしながら、イソシアネート化合物のみからなる含浸シーラー剤は、有機溶剤で希釈したシーラー剤に比べて、無機多孔体中に含浸されにくいという欠点があった。特許文献1記載の技術では、無機多孔体中に含浸させるのに、当該多孔体を40〜60℃程度に加熱し、更に塗布後においては60〜80℃に加熱している。すなわち、比較的高温で加熱しなければ、含浸シーラー剤が無機多孔体中に十分に含浸されないのである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−339278(特許請求の範囲の項)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、環境汚染を引き起こすような有機溶剤を含有せず、しかも、比較的高温で加熱しなくても、たとえば常温で十分に珪素質無機多孔体表面中に含浸される含浸シーラー剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イソシアネート化合物と、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランよりなる群から選ばれたシラン化合物とが、相互に混ざり合って透明な液体となっていることを特徴とする珪素質無機多孔体に適用するための含浸シーラー剤に関するものである。
【0009】
イソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート等が単独で又は混合して用いられる。イソシアネート化合物は、前記シラン化合物と混合したときに、透明な液体となるものを用いる必要がある。どのイソシアネート化合物と、どのシラン化合物とを混合したときに、透明な液体となるかは、両者の配合割合等によるため、一概に言えない。また、一般に市販されているイソシアネート化合物は、単量体だけではなく、二量体や三量体等の多量体が含まれていることがある。特に、市販のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)は、一般的に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、これらの多量体との混合物となっている。この多量体の量や、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの組成比によっても、透明な液体となったり、ならなかったりするので、注意が必要である。上記の説明から分かるように、本発明でいうイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物の単量体だけではなく、多量体をも含む意味で用いられている。
【0010】
シラン化合物としては、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが用いられる。一般のシラン化合物としては、これら四種以外に種々のものが存在する。たとえば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が存在する。しかし、上記四種以外の他の一般のシラン化合物は、後述する比較例8〜14で実証されているように、本発明の課題を達成しうるものではなく、珪素質無機多孔体中に十分に含浸されないものである。なお、上記四種のシラン化合物であっても、イソシアネート化合物の種類によっては、混合して透明な液体とならないものがあるので、注意を要する。
【0011】
イソシアネート化合物とシラン化合物との配合割合は任意であるが、両者がよく混ざり合って、透明な液体となる配合割合であれば、どのような割合であってもよい。透明な液体とならず濁っていると、シラン化合物のみが珪素質無機多孔体中に含浸されやすくなり、イソシアネート化合物がシラン化合物と共に、珪素質無機多孔体中に含浸されにくくなる。イソシアネート化合物とシラン化合物との好ましい配合割合は、イソシアネート化合物が35〜65質量%で、シラン化合物が65〜35質量%である。イソシアネート化合物の配合割合が65質量%を超える、すなわち、シラン化合物が35質量%未満になると、含浸シーラー剤が透明な液体となっても、珪素質無機多孔体中に含浸されにくくなる傾向が生じる。イソシアネート化合物の配合割合が35質量%未満になる、すなわち、シラン化合物が65質量%を超えると、珪素質無機多孔体表面の補強効果が低下する傾向が生じる。
【0012】
本発明に係る含浸シーラー剤は、イソシアネート化合物とシラン化合物とが混ざり合った透明な液体となる必要がある。透明な液体にならなければ、珪素質無機多孔体中に浸透しにくくなるからである。本発明に係る含浸シーラー剤は、イソシアネート化合物とシラン化合物とを混合し、透明な液体として1液の形態で需要者に供給してもよい。また、イソシアネート化合物とシラン化合物とを、各々、別個にして2液の形態で需要者に供給してもよい。すなわち、イソシアネート化合物を容器Aに収納し、シラン化合物を容器Bに収納して、キットの形態で需要者に供給してもよい。需要者は、各容器に収納されたイソシアネート化合物とシラン化合物とを混合攪拌し、透明な液体にして、珪素質無機多孔体に適用することになる。
【0013】
本発明に係る含浸シーラー剤は、珪素質無機多孔体に適用される。珪素質無機多孔体とは、珪素化合物を原料として製造された平板等の一定の形状を持つもので、多数の細孔又は空隙を内包しているものである。具体的には、ケイカル板又はフレキシブル板が挙げられる。本発明に係る含浸シーラー剤は、シラン化合物を含有しているので、それを珪素質無機多孔体表面に塗布すると、その細孔又は空隙に良好に浸透する。したがって、本発明に係る含浸シーラー剤を、非珪素質の多孔体に塗布しても、珪素質無機多孔体において得られるような、良好な浸透性は得られない。
【0014】
本発明に係る含浸シーラー剤は、一般的に、珪素質無機多孔体表面に塗布することによって、珪素質無機多孔体に適用される。たとえば、ケイカル板又はフレキシブル板の表面に、コーター等によって塗布される。含浸シーラー剤の珪素質無機多孔体に対する適用量(塗布量)は任意であるが、一般的に20〜80g/m2程度である。含浸シーラーを珪素質無機多孔体に適用する際、珪素質無機多孔体は加熱されていても、加熱されていなくてもよい。また、適用した後に、適用箇所を乾燥させるために加熱してもよいし、加熱しなくてもよい。本発明に係る含浸シーラー剤は、珪素質無機多孔体表面に対する含浸性乃至は浸透性が良好であるので、加熱せずに常温で適用できる。また、速やかに適用箇所は乾燥するので、適用後に加熱しなくてもよい。しかし、更に含浸性乃至は浸透性を良好にするため、珪素質無機多孔体を加熱しておいてもよい。また、更に適用箇所の乾燥を促進させるために、適用箇所を加熱してもよい。
【0015】
含浸シーラー剤が表面に塗布され乾燥した珪素質無機多孔体は、その表面が補強されている。たとえば、表面補強されたケイカル板やフレキシブル板は、そのままで、建材として用いることができる。また、表面補強されているため、そこに各種塗料で塗装を施すと、この塗装が剥げ落ちにくくなる。したがって、本発明に係る含浸シーラー剤を用いて表面補強された珪素質無機多孔体は、壁材や天井材等の各種建材として好適に用いうるものである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る含浸シーラー剤は、イソシアネート化合物と特定のシラン化合物とが、相互に混ざり合って透明な液体となったものである。これを、珪素質無機多孔体の表面に適用すると、シラン化合物は、無機多孔体の珪素質と親和性が良好なので、速やかに無機多孔体に含浸される。一方、イソシアネート化合物はシラン化合物と透明になる程度に混ざり合っているから、シラン化合物と共に速やかに無機多孔体に含浸されるのである。したがって、本発明に係る含浸シーラー剤は、珪素質無機多孔体に速やかに含浸されるという効果を奏する。
【0017】
そして、シラン化合物は含浸された後、無機多孔体の珪素質と結合され、無機多孔体中に残存していても、環境中に放出されることはない。したがって、環境上も安全な無機多孔体を得ることができるという効果を奏する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。本発明は、イソシアネート化合物と特定のシラン化合物とを、透明になるように混合すれば、珪素質無機多孔体中に速やかに含浸され、シラン化合物は無機多孔体中の珪素質と結合し、環境中に放出されないとの知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0019】
実施例1
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体53.3質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体13.3質量%と、これらの多量体33.3質量%よりなるイソシアネート化合物Aを調製した。このようなイソシアネート化合物は、住化バイエルウレタン社製のMDI[商品名「J−243」(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体60質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体20質量%と、これらの多量体20質量%からなるもの。)]と、日本ポリウレタン社製のMDI[商品名「MR100」(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体40質量%と、この多量体60質量%からなるもの。)]とを適宜混合し、上記のような質量比としたものである。以下、多量体を含むMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を使用し、市販のものと異なる質量比としたものについて、このような方法で調製した。また、多量体を含まないMDIは、純品を用いて調製した。
このイソシアネート化合物A50質量%と、テトラエトキシシラン(東芝シリコーン社製、商品名「TSL8124」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0020】
実施例2
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体55質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体15質量%と、これらの多量体30質量%よりなるイソシアネート化合物Bを調製した。このイソシアネート化合物B50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0021】
実施例3
「J−243」50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0022】
実施例4
「MR100」50質量%と、ビニルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBM1003」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0023】
実施例5
「J−243」50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0024】
実施例6
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体50質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体10質量%と、これらの多量体40質量%よりなるイソシアネート化合物Dを調製した。このイソシアネート化合物D50質量%と、ビニルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBE1003」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0025】
実施例7
「J−243」50質量%と、ビニルトリエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0026】
実施例8
「MR100」35質量%と、ビニルトリメトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0027】
実施例9
「J−243」65質量%と、ビニルトリメトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0028】
実施例10
「J−243」35質量%と、ビニルトリメトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0029】
実施例11
イソシアネート化合物D50質量%と、ビニルトリエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0030】
実施例12
「J−243」65質量%と、ビニルトリエトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0031】
実施例13
「J−243」35質量%と、ビニルトリエトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0032】
実施例14
「J−243」50質量%と、テトラメトキシシラン(東芝シリコーン社製、商品名「TSL8114」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0033】
実施例15
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体50質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体50質量%よりなるイソシアネート化合物Eを調製した。このイソシアネート化合物E50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0034】
実施例16
イソシアネート化合物E50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0035】
実施例17
イソシアネート化合物E50質量%と、ビニルトリエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0036】
実施例18
イソホロンジイソシアネート50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0037】
実施例19
テトラメチルキシリレンジイソシアネート50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0038】
実施例20
キシリレンジイソシアネート50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0039】
実施例21
イソホロンジイソシアネート50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0040】
実施例22
テトラメチルキシリレンジイソシアネート50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0041】
実施例23
キシリレンジイソシアネート50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0042】
比較例1
「MR100」50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0043】
比較例2
イソシアネート化合物D50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0044】
比較例3
イソシアネート化合物A35質量%と、テトラエトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0045】
比較例4
「J−243」35質量%と、テトラエトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0046】
比較例5
「MR100」50質量%と、ビニルトリエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0047】
比較例6
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体46.7質量%と、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体6.7質量%と、これらの多量体46.7質量%よりなるイソシアネート化合物Fを調製した。このイソシアネート化合物F50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0048】
比較例7
イソシアネート化合物D35質量%と、ビニルトリエトキシシラン65質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0049】
比較例8
「J−243」50質量%と、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBM403」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0050】
比較例9
「J−243」50質量%と、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBE403」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0051】
比較例10
「J−243」50質量%と、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBE503」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0052】
比較例11
「J−243」50質量%と、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBE5103」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0053】
比較例12
「J−243」50質量%と、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBM803」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0054】
比較例13
「J−243」50質量%と、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBE9007」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0055】
比較例14
「J−243」50質量%と、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名「KBM9007」)50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0056】
比較例15
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体100質量%からなるイソシアネート化合物を調製した。このイソシアネート化合物50質量%と、テトラエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0057】
比較例16
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体100質量%からなるイソシアネート化合物を調製した。このイソシアネート化合物50質量%と、ビニルトリメトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0058】
比較例17
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの単量体100質量%からなるイソシアネート化合物を調製した。このイソシアネート化合物50質量%と、ビニルトリエトキシシラン50質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0059】
実施例1〜23及び比較例1〜17に係る含浸シーラー剤を用いて、以下の評価を行い、その結果を表1に示した。
[混合性]
液温を23℃として、含浸シーラー剤を混合攪拌したときに、相互によく混ざり合い、透明な液体になるか否かを、目視にて観察した。そして、以下の基準で評価した。
○:よく混ざり合い、透明な液体となる。
×:混ざり合わず、濁りのある液体となる。
[シーラー剤の含浸性]
次の方法で、三種の珪素質無機多孔体表面への含浸時間(秒)を測定した。すなわち、23℃の温度下で、ニチアス社製の0.8比重ケイカル板1(厚さ6mm)、1.0比重ケイカル板2(厚さ6mm)及びA&A社製のフレキシブル板(厚さ4mm)の表面にスポイトで、各含浸シーラー剤を0.15ml滴下し、その表面が乾くまでの時間を測定した。300秒以上経過しても乾かないものは、その時点で測定を中止した。
[表面補強性]
縦・横40mm角に調整した0.8比重ケイカル板2枚の表面にシーラー剤を約60g/m2塗布する。その後、23℃・55%RH環境下で、300秒養生した。そして、シーラー剤の塗布面を対向させ、その間に20mm角のジアリルフタレート樹脂含浸紙を挟んで、ホットプレス(温度130℃で圧力981kPa)を10分間行い、2枚のケイカル板を接着する。解圧後、23℃・55%RH環境下で、24時間養生した。その後、接着されている2枚のケイカル板の両面に、金属アタッチメントを2液反応型エポキシ樹脂系接着剤で接着した。そして、金属アタッチメントを島津製作所社製のオートグラフ試験機に装着して、単軸平面引張接着強さ(N/mm2)を測定した。なお、シーラー剤の含浸が300秒以上のものについては、表面補強性の試験は行わなかった。
【0060】
[表1]
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シ ー ラ ー 剤 の 含 浸 性(秒)
────────────────────
混合性 ケイカル ケイカル フレキシ 表面補強性
板1 板2 ブル板 (N/mm2)
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実施例1 ○ 140 160 260 0.32
実施例2 ○ 110 150 240 0.24
実施例3 ○ 100 140 230 0.26
実施例4 ○ 70 75 100 0.23
実施例5 ○ 40 40 45 0.20
実施例6 ○ 105 120 145 0.21
実施例7 ○ 90 90 120 0.35
実施例8 ○ 40 50 60 0.27
実施例9 ○ 65 80 150 0.42
実施例10 ○ 30 30 40 0.15
実施例11 ○ 105 120 145 0.21
実施例12 ○ 180 180 300 0.46
実施例13 ○ 65 60 90 0.19
実施例14 ○ 60 60 80 0.21
実施例15 ○ 65 70 150 0.22
実施例16 ○ 35 35 40 0.22
実施例17 ○ 55 55 90 0.20
実施例18 ○ 60 80 90 0.26
実施例19 ○ 60 60 90 0.20
実施例20 ○ 60 60 90 0.28
実施例21 ○ 30 35 45 0.35
実施例22 ○ 30 30 40 0.29
実施例23 ○ 30 30 45 0.25
比較例1 × 300< 300< 300< −
比較例2 × 300< 300< 300< −
比較例3 × 300< 300< 300< −
比較例4 × 300< 300< 300< −
比較例5 × 300< 300< 300< −
比較例6 × 300< 300< 300< −
比較例7 × 300< 300< 300< −
比較例8 × 300< 300< 300< −
比較例9 ○ 300< 300< 300< −
比較例10 × 300< 300< 300< −
比較例11 ○ 300< 300< 300< −
比較例12 × 300< 300< 300< −
比較例13 ○ 300< 300< 300< −
比較例14 × 300< 300< 300< −
比較例15 × 300< 300< 300< −
比較例16 × 300< 300< 300< −
比較例17 × 300< 300< 300< −
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【0061】
実施例1〜23に係る含浸シーラー剤は、23℃下において、相互に混ざり合い透明な液体となって、ケイカル板及びフレキシブル板への含浸性に優れたものであった。また、ケイカル板表面の補強性も十分なものであった。なお、実施例15に係る含浸シーラー剤は、23℃の液温では相互に混ざり合い透明な液体になったが、液温が10℃以下になると、イソシアネート化合物が結晶化して、濁りが生じた。したがって、この含浸シーラー剤は、常温以上にて作業する必要がある。一方、比較例1〜7に係る含浸シーラー剤は、所定のイソシアネート化合物と所定のシラン化合物とを混合したが、相互に混ざり合わずに、濁ったままであり、含浸性の悪いものであった。また、比較例8〜14に係る含浸シーラー剤は、本発明で用いるシラン化合物以外のものを使用したため、比較例9,11及び13を除き、いずれも相互に混ざり合わずに濁りが生じたままであった。したがって、比較例8、10、12及び14に係るシーラー剤は、含浸性は悪かった。また、その理由は定かではないが、透明な液体となった比較例9、11及び13についても、含浸性が悪かった。さらに、比較例16〜17は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが結晶化しており、シラン化合物と混合しても、透明な液体とならず、含浸性の悪いものであった。
【0062】
実施例24
イソシアネート化合物A65質量%と、テトラエトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0063】
実施例25
「J−243」80質量%と、テトラエトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0064】
実施例26
「J−243」65質量%と、テトラエトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0065】
実施例27
「MR100」65質量%と、ビニルトリメトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0066】
実施例28
「MR100」80質量%と、ビニルトリメトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0067】
実施例29
イソシアネート化合物D80質量%と、ビニルトリエトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0068】
実施例30
イソシアネート化合物D65質量%と、ビニルトリエトキシシラン35質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0069】
実施例31
「J−243」80質量%と、ビニルトリエトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。
【0070】
実施例24〜31に係る含浸シーラー剤に関して、混合性と、ケイカル板1及び2への含浸性を評価した結果は、表2に示すとおりであった。
【0071】
[表2]
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シーラー剤の含浸性(秒)
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混合性 ケイカル板1 ケイカル板2
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実施例24 ○ 270 270
実施例25 ○ 270 300<
実施例26 ○ 210 210
実施例27 ○ 90 180
実施例28 ○ 150 160
実施例29 ○ 270 300<
実施例30 ○ 220 210
実施例31 ○ 210 240
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【0072】
実施例32
イソシアネート化合物A80質量%と、テトラエトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。これは、相互に混ざり合い、濁りのない透明な液体になった。
【0073】
実施例33
「MR100」80質量%と、ビニルトリメトキシシラン20質量%とを混合して含浸シーラー剤を得た。これは、相互に混ざり合い、濁りのない透明な液体になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート化合物と、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランよりなる群から選ばれたシラン化合物とが、相互に混ざり合って透明な液体となっていることを特徴とする珪素質無機多孔体に適用するための含浸シーラー剤。
【請求項2】
イソシアネート化合物が収納されてなる容器Aと、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランよりなる群から選ばれたシラン化合物が収納されてなる容器Bとよりなる含浸シーラー剤キットであって、該イソシアネート化合物及び該シラン化合物を混合攪拌すると、透明な液体となることを特徴とする珪素質無機多孔体に適用するための含浸シーラー剤。
【請求項3】
イソシアネート化合物が、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを含有する混合物である請求項1又は2記載の含浸シーラー剤。
【請求項4】
イソシアネート化合物が、更に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体を含有する請求項3記載の含浸シーラー剤。
【請求項5】
イソシアネート化合物が、イソホロンジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネートよりなる群から選ばれた1種又は2種以上である請求項1又は2記載の含浸シーラー剤。
【請求項6】
イソシアネート化合物35〜65質量%とシラン化合物65〜35質量%とが混合されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の含浸シーラー剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の含浸シーラー剤を、珪素質無機多孔体表面に塗布することを特徴とする、珪素質無機多孔体表面の補強方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法で得られた表面補強済み珪素質無機多孔体。

【公開番号】特開2008−280468(P2008−280468A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127465(P2007−127465)
【出願日】平成19年5月12日(2007.5.12)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】