説明

珪素酸化物およびリチウムイオン二次電池用負極材

【課題】優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることのできる珪素酸化物およびこの珪素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池用負極材を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられ、化学式SiOxで表される粉末状の珪素酸化物であって、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることを特徴とする珪素酸化物である。この場合、珪素酸化物のx値を0.7<x<1.3とし、粒表面の酸素と珪素とのモル比であるO/Siを0.6〜1.8とするのが好ましい。さらに、珪素酸化物の粒度の積算分布曲線における累積頻度X%の粒径であるD90とD10で表されるD90/D10を6以下とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることのできる珪素酸化物およびこの珪素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池用負極材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化および軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。現在、高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池およびポリマー電池などがある。このうち、リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて格段に高寿命かつ高容量であることから、その需要は電源市場において高い伸びを示している。
【0003】
図1は、リチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。リチウムイオン二次電池は、図1に示すように、正極1、負極2および電解液を含浸させたセパレータ3、ならびに正極1と負極2の電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されており、充放電によってリチウムイオンが電解液を介して正極1と負極2の間を往復する。
【0004】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO3)やマンガンスピネル(LiMn24)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと作用極集電体2bと作用極2cとで構成され、作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとで構成される。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、リチウムとホウ素の複合酸化物、リチウムと遷移金属(V、Fe、Cr、Mo、Niなど)との複合酸化物、Si、GeまたはSnと窒素(N)および酸素(O)を含む化合物、化学蒸着により表面を炭素層で被覆したSi粒子などが提案されている。
【0006】
しかし、これらの負極活物質はいずれも、充放電容量を向上させ、エネルギー密度を高めることができるものの、充放電に伴って電極上にデンドライトや不働体化合物が生成するため劣化が顕著であり、またはリチウムイオンの吸蔵放出時の膨張や収縮が大きくなる。そのため、これらの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しによる放電容量の維持性(以下、「サイクル特性」という)が不十分である。また、製造直後の放電容量と充電容量の比(放電容量/充電容量;以下、「初期効率」という)も十分ではない。
【0007】
これに対し、負極活物質としてSiOなどの珪素酸化物を用いることが、従来から試みられている。珪素酸化物は、リチウムに対する電極電位が低く(卑であり)、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出による結晶構造の崩壊や不可逆物質の生成等の劣化がなく、かつ可逆的にリチウムイオンを吸蔵、放出できることから、有効な充放電容量がより大きな負極活物質となり得る。そのため、珪素酸化物を負極活物質として用いることにより、高電圧、高エネルギー密度で、かつ充放電特性およびサイクル特性に優れた二次電池を得ることが期待できる。
【0008】
上述の負極活物質に関する試みとして、例えば、特許文献1では、リチウムイオンを収蔵放出可能とする珪素酸化物を負極活物質として用いた非水電解質二次電池を提案している。この提案された珪素酸化物は、その結晶構造中または非晶質構造内にリチウムを含有し、非水電解質中で電気化学反応によりリチウムイオンを収蔵および放出可能となるようにリチウムと珪素との複合酸化物を構成する。
【0009】
特許文献1で提案された二次電池では、高容量の負極活物質を得ることができる。しかし、本発明者らの検討によれば、初回の充放電時における不可逆容量が大きく(すなわち、初期効率が十分ではなく)、また、サイクル特性が実用レベルに十分達していないことから、実用化には改良すべき余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2997741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、これまでに提案されている珪素酸化物を用いた負極活物質では、リチウムイオン二次電池の初期効率およびサイクル特性について、実用レベルに達していない問題があった。
【0012】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池の負極活物質、およびこの負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
通常、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられる粉末状の珪素酸化物を製造する場合は、一定の大きさを有する珪素酸化物原料を粉砕することにより、粉末状の珪素酸化物にする。
【0014】
ここで、粉末状の珪素酸化物の表面には、SiO2膜が形成されており、珪素酸化物をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、SiO2膜は絶縁体となり抵抗を生じさせるばかりか、電解質を分解する。このため、珪素酸化物の微粉表面に形成されるSiO2膜は、リチウムイオン二次電池の初期効率およびサイクル特性を低下させる要因となる。
【0015】
粉砕により粉末状とした珪素酸化物は、その際に発生する粒径1μm以下の微粉を多く含有する。珪素酸化物に微粉が多く含まれると、単位質量あたりの表面積が増加、すなわち、表面に形成されるSiO2膜を多く含むこととなる。したがって、珪素酸化物を製造する場合は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に初期効率およびサイクル特性が低下するのを防ぐために、珪素酸化物から微粉を除去する必要がある。
【0016】
珪素酸化物から微粉を除去するために、篩による乾式分級を用いると、粉末状の珪素酸化物は流動性が低いので、時間を要し、効率が悪い。また、乾式分級時に粒子同士が接触した際の衝撃により、珪素酸化物が粉砕され、さらに微粉が発生する。
【0017】
微粉の珪素酸化物を除去するために、アルコール等の有機溶剤に分散させた後、湿式分級を行うこともできる。この場合、湿式分級後に有機溶剤を取り除くために、珪素酸化物に熱処理を施す必要がある。熱処理を施すと珪素酸化物が変質し、粒径が1μmを超える珪素酸化物の表面に形成されたSiO2膜が成長するので、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いた場合に、初期効率およびサイクル特性が低下する。
【0018】
そこで、本発明者らは、粉末状の珪素酸化物を水に分散させた後、湿式分級により微粉を除去し、その後、雰囲気温度が120℃以下で乾燥させることにより、粒径が1μmを超える珪素酸化物の表面に形成されたSiO2膜が成長することなく、1μm以下の微粉を効率的に除去できることを知見した。この場合、粉末状の珪素酸化物を分散させる水として、上水や工業用水を用いると、上水や工業用水に含まれる金属不純物が珪素酸化物に付着し、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いた場合に、電解質と反応または電解質を分解し、初期効率またはサイクル特性を低下させるおそれがある。
【0019】
さらに、本発明者らは、湿式分級を行う際に、粉末状の珪素酸化物を分散させる水として、導電率が3MΩ以上である水を用いることにより、粒径が1μmを超える珪素酸化物の表面に形成されたSiO2膜が成長することなく、1μm以下の微粉を効率的に除去でき、珪素酸化物に金属不純物が付着することがないことを知見した。
【0020】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(4)の珪素酸化物、および(5)のリチウムイオン二次電池用負極材を要旨としている。
【0021】
(1)リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられ、化学式SiOxで表される粉末状の珪素酸化物であって、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることを特徴とする珪素酸化物である。
【0022】
(2)上記(1)に記載の珪素酸化物において、x値を0.7<x<1.3とし、粒表面の酸素と珪素とのモル比であるO/Siを0.6〜1.8とするのが好ましい。
【0023】
(3)上記(1)または(2)に記載の珪素酸化物において、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90と、粒度の積算分布曲線における累積頻度10%の粒径D10との比であるD90/D10を6以下とするのが好ましい。
【0024】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の珪素酸化物において、導電率が3MΩ以上である水に分散させて行う湿式分級により、微粉の含有率を5質量%以下にするのが好ましい。
【0025】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の珪素酸化物を20質量%以上含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材である。
【0026】
本発明において、「リチウムイオン二次電池用負極材が、珪素酸化物をx質量%以上含有する」とは、リチウムイオン二次電池用負極材の構成材料のうち、バインダーを除いた構成材料の合計質量に対する珪素酸化物の質量の比率がx%以上であることを意味する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の珪素酸化物は、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることにより、粉末状の珪素酸化物の単位質量あたりの表面積を減少させて、珪素酸化物の表面に形成されるSiO2膜の含有量を低減できる。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、本発明のSiO2の含有率が低減された珪素酸化物を負極活物質として用いることにより、リチウムイオン二次電池に適用すれば、抵抗を低減できるとともに、電解質の分解を低減できるので、優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】リチウムイオン二次電池の構成例を示す図である。
【図2】珪素酸化物の製造装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の珪素酸化物およびこれを用いたリチウムイオン二次電池用負極材を図面に基づいて説明する。
【0031】
[珪素酸化物について]
本発明の珪素酸化物は、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられ、化学式SiOxで表される粉末状の珪素酸化物であって、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることを特徴とする珪素酸化物である。
【0032】
微粉の含有率が5質量%を超えると、単位質量あたりの表面積が増加、すなわち、表面に形成されるSiO2膜の含有量が増加するので、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いた場合に、初期効率およびサイクル特性が低下する。このため、本発明の珪素酸化物は、粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下とする。
【0033】
粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μmを超えると、巨大な粒径の珪素酸化物を多数含有することになる。この場合、珪素酸化物、導電助材およびバインダーを混合してリチウムイオン二次電池用の負極材として用いると、リチウムイオンが巨大な粒径の珪素酸化物の内部まで入り込めず、酸化珪素が性能を十分に発揮できないので、初期効率が低下する。このため、本発明の珪素酸化物は、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90を31μm以下とする。
【0034】
なお、粒径1μm以下である微粉の含有率(質量%)、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90(μm)、および後述する粒度の積算分布曲線における累積頻度10%の粒径D10(μm)は、レーザー回折散乱法による粒度分布の測定結果に基づき算出できる。この際、測定機としてHORIBA LA920を用いることができる。
【0035】
本発明の珪素酸化物(SiOx)は、x値を0.7<x<1.3とし、粒表面の酸素と珪素とのモル比であるO/Siを0.6〜1.8にするのが好ましい。x値が1.3を超えると、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、初期効率が低下する。一方、x値が0.7未満であると、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、サイクル特性が低下するからである。
【0036】
珪素酸化物の粒表面における酸素と珪素とのモル比であるO/Siが1.8を超えると、珪素酸化物の表面に形成されるSiO2膜が厚くなり、珪素酸化物の導電率が低下する。このため、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、十分な電流を流すことができなくなり、負極の抵抗による電池内部抵抗の上昇につながり、得られるリチウムイオン二次電池の能力が著しく低下する。一方、O/Siが0.6未満であると、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合に、Siクラスターが形成され、充電時に膨張することにより、サイクル特性が劣化する。
【0037】
珪素酸化物(SiOx)のx値は、O(酸素)をセラミック中酸素分析装置(不活性気流下溶融法)によって定量し、SiはSiOxを溶液化した後にICP発光分光分析により定量することによって算出できる。また、粒表面におけるモル比であるO/Siは、X線光電子分光分析法により、珪素酸化物の表面から深さ20〜80nmの部分のO(酸素)およびSiを定量することによって算出できる。
【0038】
本発明の珪素酸化物は、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90と、粒度の積算分布曲線における累積頻度10%の粒径D10との比であるD90/D10が6以下であることが好ましい。D90/D10を6以下とすると、珪素酸化物の積算分布曲線はシャープな形状に、すなわち、珪素酸化物は粒径が揃った状態となる。この場合、珪素酸化物、導電助材およびバインダーとを混合してリチウムイオン二次電池の負極材に用いれば、負極材が均質となるので、リチウムイオン二次電池の初期効率およびサイクル特性がより向上する。
【0039】
本発明の珪素酸化物は、導電率が3MΩ以上である水に分散させて行う湿式分級により、微粉の含有率を5質量%以下にするのが好ましい。前述の通り、導電率が3MΩ以上である水に珪素酸化物を分散させて湿式分級を行うことにより、粒径が1μmを超える珪素酸化物の表面に形成されたSiO2膜が成長すること、および珪素酸化物に金属不純物が付着することがなく、珪素酸化物から微粉を効率的に除去できるからである。
【0040】
[珪素酸化物の製造方法について]
通常、リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられる粉末状の珪素酸化物を製造する場合は、一定の大きさを有する珪素酸化物原料を粉砕することにより粉末状にした後、分級により含有する微粉を除去して製造する。
【0041】
一定の大きさを有する珪素酸化物原料は、例えば、以下に述べる構成を備えた装置により製造される珪素酸化物を使用できる。
【0042】
図2は、珪素酸化物の製造装置の構成例を示す図である。この装置は、真空室5と、真空室5内に配置された原料室6と、原料室6の上部に配置された析出室7とから構成される。
【0043】
原料室6は円筒体で構成され、その中心部には、円筒状の原料容器8と、原料容器8を囲繞する加熱源9が配置される。加熱源9としては、例えば電熱ヒータを用いることができる。
【0044】
析出室7は、原料容器8と軸が一致するように配置された円筒体で構成される。析出室7の内周面には、原料室6で昇華して発生した気体状の珪素酸化物を蒸着させるためのステンレス鋼からなる析出基体11が設けられる。
【0045】
原料室6と析出室7とを収容する真空室5には、雰囲気ガスを排出するための真空装置(図示せず)が接続されており、矢印A方向にガスが排出される。
【0046】
上記図2に示す製造装置を用いて珪素酸化物原料を製造する場合、珪素粉末と二酸化珪素粉末とを配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料9を用いる。この混合造粒原料9を原料容器8に充填し、不活性ガス雰囲気または真空中で加熱してSiOを生成(昇華)させる。昇華により発生した気体状のSiOは、原料室6から上昇して析出室7に入り、周囲の析出基体11上に蒸着し、珪素酸化物12として析出する。その後、析出基体11から析出珪素酸化物12を取り外すことにより、珪素酸化物が得られる。
【0047】
析出した珪素酸化物を粉砕して粉末状の珪素酸化物にする方法については、一般的に用いられている粉砕方法を採用することができ、例えば、ボールミルを用いて粉砕することにより粉末状の珪素酸化物を得ることができる。
【0048】
分級により珪素酸化物に含有する微粉を除去する際には、導電率が3MΩ以上である水に珪素酸化物を分散させた状態で湿式分級により行い、その後、温度が120℃以下の雰囲気で乾燥処理を珪素酸化物に施すのが好ましい。前述の通り、粒径が1μmを超える珪素酸化物の表面に形成されたSiO2膜が成長すること、および珪素酸化物に金属不純物が付着することがなく、珪素酸化物から微粉を効率的に除去できるからである。
【0049】
湿式分級は、ろ過フィルタを用いた篩に珪素酸化物を分散させた水を投入した後、篩上に水を供給することにより珪素酸化物を分散させつつ、篩を振動させて微粉を除去する方式を用いるのが好ましい。ろ過フィルタを用いた分級機は、簡便であり、経済性も優れているからである。この場合、湿式分級による微粉の除去率は、篩を振動させる時間(処理時間)により調整することができる。処理時間を長くすれば、水に分散した珪素酸化物の微粉がろ過フィルタを通過する割合が増加するので、微粉の除去率が向上する。
【0050】
[リチウムイオン二次電池ついて]
本発明の珪素酸化物およびリチウムイオン二次電池用負極材を用いたコイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を前記図1を参照しながら説明する。同図に示すリチウムイオン二次電池は、正極1、負極2および電解液を含浸させたセパレータ3、ならびに正極1と負極2の電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されており、充放電によってリチウムイオンが電解液を介して正極1と負極2の間を往復する。
【0051】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO3)やマンガンスピネル(LiMn24)を使用することができる。
【0052】
負極2は、作用極ケース2aと作用極集電体2bと作用極2cとで構成される。作用極2cに用いる負極材は、本発明の珪素酸化物(活物質)とその他の活物質と導電助材とバインダーとで構成することができる。その他の活物質は必ずしも添加しなくてもよい。導電助材としては、例えばアセチレンブラックを使用することができ、バインダーとしては例えばポリフッ化ビニリデンを使用することができる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、本発明の珪素酸化物を20質量%以上含有するものであり、その配合比の一例は、珪素酸化物:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン=70:10:20である。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いることにより、優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【実施例】
【0054】
本発明の珪素酸化物およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極材の効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0055】
1.試験条件
Si粉末とSiO2粉末とを等量配合し、混合、造粒した混合造粒原料を用い、前記図2に示した構成を有する装置を使用して減圧下で昇華反応させ、発生した気体状のSiOを冷却した析出基体上に珪素酸化物として析出させた。析出した珪素酸化物を析出基体から取り外し、ボール径10m/mのボールミルを用いて粉砕し、粉砕処理の時間により粒度を調整した。粉砕処理の時間は、本発明例2では48時間、本発明例3では24時間、本発明例4では18時間、本発明例5では12時間とした。本発明例1では、粉砕処理を48時間行った珪素酸化物と、18時間行ったものとを質量比1:1で配合した。
【0056】
本発明例2〜4では、粉砕した珪素酸化物を、旋回気流式分級機を用いた乾式分級により、分級して粗粒を除去した。旋回気流式分級機には、日清エンジニアリングのAerofine Classifier AC−20を用い、分級点を本発明例2では16μm、本発明例3では21μm、本発明例4および本発明例5では33μmに設定した。
【0057】
粉砕または乾式分級した珪素酸化物を導電率が3.2MΩである水に分散させた後、珪素酸化物を分散させた水をろ過フィルタを用いた篩に投入し、その後、篩上に水を供給することにより珪素酸化物を分散させつつ、篩を振動させて微粉を除去した。篩を振動させる時間(処理時間)を変化させることにより、珪素酸化物に含まれる微粉の除去率(含有率)を調整した。湿式分級を行った後、珪素酸化物を120℃に保持した雰囲気下で乾燥させ、粉末状の珪素酸化物を得た。
【0058】
得られた粉末状の珪素酸化物について、粒径1μm以下である微粉の含有率(質量%)、粒度の積算分布曲線における累積頻度X%の粒径D10、D50およびD90、珪素酸化物(SiOx)のx値、並びに粒表面におけるモル比であるO/Siを測定または算出した。
【0059】
粒径1μm以下である微粉の含有率(質量%)、並びに粒度の積算分布曲線における累積頻度X%の粒径D10(μm)、D50(μm)およびD90(μm)は、レーザー回折散乱法による粒度分布の測定結果に基づき算出した。この際、測定機としてHORIBA LA920を用いた。
【0060】
珪素酸化物(SiOx)のx値は、O(酸素)をセラミック中酸素分析装置(不活性気流下溶融法)によって定量し、SiはSiOxを溶液化した後にICP発光分光分析により定量することによって算出した。
【0061】
粒表面におけるモル比であるO/Siは、X線光電子分光分析法により、珪素酸化物の表面から深さ20〜80nmの部分のO(酸素)およびSiを定量することによって算出した。
【0062】
得られた粉末状の珪素酸化物を負極活物質として使用し、これに導電助剤としてのアセチレンブラックとバインダーを加えて、珪素酸化物を20質量%含有するリチウムイオン二次電池用の負極材とした。この負極材を用いて前記図1に示す構成のコイン状のリチウムイオン二次電池を作製して、初期効率およびサイクル特性を調査した。なお、この場合のサイクル特性は、充放電を100回繰り返した後の放電容量の初期放電容量(製造直後の放電容量)に対する維持率である。
【0063】
比較例1では、析出した珪素酸化物にボール径10m/mのボールミルを用いた粉砕を24時間行い、その後、粉砕した珪素酸化物を旋回気流式分級機によりD90を20μm狙いで乾式分級し、粉末状の珪素酸化物を得た。比較例2では、析出した珪素酸化物にボール径10m/mのボールミルを用いた粉砕を48時間行った後、ボール径5m/mのボールミルを用いた粉砕を48時間行い、その後、粉砕した珪素酸化物を旋回気流式分級機によりD90を10μm狙いで乾式分級し、粉末状の珪素酸化物を得た。
【0064】
表1に、実施条件、得られた粉末状の珪素酸化物の特性、およびリチウムイオン二次電池の特性を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
2.試験結果
表1に示す結果より、D90が31μm以下で、かつ微粉の含有率が5質量%以下である粉末状の珪素酸化物を用いてリチウムイオン二次電池を作製した本発明例1〜本発明例5は、初期効率が85.3%〜97.8%となり、サイクル特性は91.5%〜97.2%であった。
一方、珪素酸化物の微粉の含有率が5質量%を超えた比較例1および比較例2は、初期効率が45.5%〜50.2%となり、サイクル特性は64.1%〜88.5%であった。
【0067】
したがって、粉末状の珪素酸化物のD90を31μm以下にし、かつ微粉の含有率を5質量%以下にすることにより、その珪素酸化物をリチウムイオン二次電池の負極活物質に用いた場合に、リチウムイオン二次電池の初期効率およびサイクル特性を改善できることが確認できた。
【0068】
本発明例1では、D90/D10が6を超えた粉末状の珪素酸化物を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、初期効率が85.3%となり、サイクル特性は91.5%であった。
一方、本発明例2〜本発明例5では、D90/D10が6以下である粉末状の珪素酸化物を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、それぞれ初期効率が90.3%〜97.8%となり、サイクル特性は96.6%〜97.2%であった。
【0069】
したがって、D90を31μm以下にし、かつ微粉の含有率を5質量%以下である粉末状の珪素酸化物において、さらに、D90/D10を6以下にすることにより、その珪素酸化物をリチウムイオン二次電池の負極活物質に用いた場合に、リチウムイオン二次電池の初期効率およびサイクル特性をさらに改善できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の珪素酸化物は、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることにより、粉末状の珪素酸化物の単位質量あたりの表面積を減少させて、珪素酸化物の表面に形成されるSiO2膜の含有量を低減できる。
【0071】
本発明の珪素酸化物を負極活物質に含む負極材をリチウムイオン二次電池に用いれば、抵抗を低減できるとともに、電解質の分解を低減できる。このため、優れた初期効率およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。したがって、本発明は、二次電池の分野において有用な技術である。
【符号の説明】
【0072】
1:正極、 1a:対極ケース、 1b:対極集電体、 1c:対極、
2:負極、 2a:作用極ケース、 2b:作用曲集電体、 2c:作用極、
3:セパレータ、 4:ガスケット、 5:真空室、 6:原料室、
7:析出室、 8:原料容器、 9:混合造粒原料、 10:加熱源、
11:析出基体、 12:析出珪素酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の負極活物質に用いられ、化学式SiOxで表される粉末状の珪素酸化物であって、粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90が31μm以下で、かつ粒径1μm以下である微粉の含有率が5質量%以下であることを特徴とする珪素酸化物。
【請求項2】
前記珪素酸化物のx値が0.7<x<1.3であり、粒表面の酸素と珪素とのモル比であるO/Siが0.6〜1.8であることを特徴とする請求項1に記載の珪素酸化物。
【請求項3】
粒度の積算分布曲線における累積頻度90%の粒径D90と、粒度の積算分布曲線における累積頻度10%の粒径D10との比であるD90/D10が6以下であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の珪素酸化物。
【請求項4】
導電率が3MΩ以上である水に分散させて行う湿式分級により、前記微粉の含有率を5質量%以下にしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の珪素酸化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の珪素酸化物を20質量%以上含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−65934(P2011−65934A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217106(P2009−217106)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】