説明

球帯状シール体ならびにその製造方法

【課題】 600℃ないし700℃に至る高温条件下においても、異常摩擦音の発生がなく、シール性に優れ、シール体としての機能を満足することができる自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体を提供する。
【解決手段】 中央部に貫通孔51を規定する円筒内面52を備え、外面53が部分凸球面状に形成された球帯状シール体54は、円筒内面52から部分凸球面状の外面53近傍にかけてのその内部では、圧縮された金網からなる補強材と、この補強材と混在一体化されて圧縮された耐熱材と、リン酸アルミニウムとを具備し、部分凸球面状の外面53近傍から部分凸球面状の外面53にかけてのその内部では、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカとからなる潤滑組成物からなるすべり層を具備し、このすべり層には、当該すべり層に一体化されて圧縮された金網からなる補強材が配されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体ならびにその製造方法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】自動車用排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体としては、例えば特開昭54−76759号公報に開示されているものがある。この公報に開示されたシール体は耐熱性を有し、相手材とのなじみ性に優れ、また衝撃強度も著しく改善されているという反面、乾燥摩擦条件下の摩擦においては往々にして異常音を発生するという欠点がある。このシール体の欠点は、該シール体を形成する耐熱材料(膨張黒鉛など)の静止摩擦係数と動摩擦係数との差が大きいこと及びこの耐熱材料から成るシール体のすべり速度に対する摩擦抵抗が負性抵抗を示すこと等に起因するものと考えられる。
【0003】そこで、本出願人は上述した欠点を解決するべく、特願平4−300551号(特開平6−123362号)に記載のシール体を提案した。このシール体は、相手材との摺動において、異常摩擦音を発生させることなくシール性に優れたもので、シール体に要求される性能を満足させるものであった。
【0004】しかしながら、この提案に係るシール体においても、近年の自動車エンジンの性能向上等に起因する新たな問題点が提起された。すなわち、自動車エンジンの性能向上に起因する排気ガス温度の上昇により又は自動車のNVH特性(車輛音響振動特性)の向上を目的として、排気ガスの出口(マニホールド)付近に球面管継手を配置する場合、球面管継手がエンジン側により近付くことに起因する排気ガス温度の上昇により、これまでのシール体では耐熱性の点で使用条件を満足せず、シール体自体の耐熱性の向上が余儀なくされている。
【0005】本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、前記特願平4−300551号の技術をそのまま有効に利用するとともに、600℃ないし700℃に至る高温条件下においても、異常摩擦音の発生がなく、シール性に優れ、シール体としての機能を満足することができる自動車排気管の球面管継手に使用される球帯状シール体ならびにその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば前記目的は、中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該円筒内面から部分凸球面状の外面近傍にかけてのその内部では、圧縮された金網からなる補強材と、この補強材の網目を充填し、かつこの補強材と混在一体化されて圧縮された耐熱材とを主として具備し、更に、リン酸アルミニウムを、補強材および耐熱材と混在一体化させて具備し、部分凸球面状の外面近傍から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、少なくとも、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層を具備し、このすべり層には、当該すべり層に一体化されて圧縮された金網からなる補強材が配されており、すべり層とこのすべり層に混在一体化された金網からなる補強材とが露出した部分凸球面状の外面は、平滑な面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体によって達成される。
【0007】また本発明によれば前記目的は、中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該円筒内面から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、表面全体にリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と金網からなる補強材とが圧縮され、互いに絡み合って構造的一体性を有するように構成されており、該部分凸球面状の外面は、窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層の露出面からなり、該すべり層には、当該すべり層に一体化された金網からなる補強材が配されており、すべり層とこのすべり層に混在一体化された金網からなる補強材とが露出した部分凸球面状の外面は、平滑な面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体によっても達成される。
【0008】また本発明によれば前記目的は更に、中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体の製造方法であって、(a)表面全体にリン酸アルミニウムからなる一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材を準備する工程と、(b)金属細線を織ったり、編んだりして得られる金網から成る補強材を準備し、該補強材を前記耐熱シート材に重ね合わせたのち、該耐熱シート材を内側にして円筒状に捲回し、筒状母材を形成する工程と、(c)表面全体にリン酸アルミニウムからなる一様な厚さの耐熱被膜を備えた別の耐熱シート材を準備し、該別の耐熱シート材と、当該別の耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に被覆された窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層と、該すべり層を覆って配された金網からなる補強材とからなる摺動面形成部材を形成する工程と、(d)該摺動面形成部材を、すべり層側の面を外側にして前記筒状母材の外周面に捲回して予備円筒成形体を形成する工程と、(e)該予備円筒成形体を金型のコア外周面に挿入し、該コアを金型内に配置すると共に該金型内において予備円筒成形体をコア軸方向に圧縮成形する工程と、から成り、得られた球帯状シール体において、円筒内面から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、耐熱被膜を備えた耐熱シート材と金網からなる補強材とが圧縮され、互いに絡み合って構造的一体性を有すると共に、部分凸球面状の外面は、潤滑組成物が補強材の網目を充填して両者が混在一体となった平滑なすべり面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体の製造方法によっても達成される。
【0009】上記構成からなる球帯状シール体における耐熱材とリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜との重量比率は、耐熱材100に対し耐熱被膜2〜15の割合である。
【0010】耐熱シート材は、膨張黒鉛、マイカ及びアスベストのうちの一種又は二種以上のものから選択された耐熱材からなるシート材からなり、耐熱被膜は、該シート材の表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さに形成されたリン酸アルミニウムからなる。
【0011】すべり層は、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物又はこの潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる潤滑組成物から形成される。
【0012】上述した製造方法において、摺動面形成部材は、表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さのリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と、この耐熱シート材の一方の耐熱被膜の表面に被覆された窒化ホウ素が70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物又はこの潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物からなる潤滑すべり層と、該潤滑すべり層を覆って配された金網から成る補強材とから形成される。
【0013】以下、上記球帯状シール体における構成材料ならびに該シール体の製造方法について説明する。
【0014】耐熱シート材を形成するシート材において、膨張黒鉛からなるシート材には、特公昭44−23966号公報に開示されている米国ユニオンカーバイド社製の「グラフォイル(商品名)」あるいは日本カーボン社製の「ニカフィルム(商品名)」など、厚さ0.3〜1.0mmのシート状のものが好適である。マイカからなるシート材としては、シリコン樹脂で接合したマイカペーパー、アスベストからなるシート材としては、クリソタイル又はアモサイト系のアスベストペーパー又はシートが使用される。
【0015】耐熱シート材の表面全体に形成される耐熱被膜は、第一リン酸アルミニウム(Al2 3 ・3P2 5 ・6H2 O)が使用される。このリン酸アルミニウムは水溶液の形態で使用され、耐熱シート材の表面全体へは該リン酸アルミニウム水溶液を刷毛塗り、ローラ塗り等にて行い、その後乾燥させることにより該耐熱シート材の表面全体にリン酸アルミニウムの耐熱被膜が形成される。
【0016】この耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムは、それ自体耐熱性を有するものであり、かつその接着性が高いため、部分凸球面状の外面においては耐熱性と該被膜に被覆される潤滑組成物の該部分凸球面状の外面への保持力を高める作用をなし、また円筒内面から部分凸球面状の外面にかけての球帯状シール体の内部においては、シール体自体の耐熱性を高める作用をなす。そして、リン酸アルミニウムは耐熱シート材の表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さの被膜に形成される。被膜量が0.05g/100cm2 以下では耐熱性に効果が期待できず、また0.3g/100cm2 以上では耐熱性は高まる反面、耐熱シート材の加工性に問題を生じ、例えば耐熱シート材を円筒状あるいはうず巻き状に捲回する加工においては、その巻き加工性を阻害することになる。
【0017】補強材は、鉄系としてオーステナイト系のSUS304、SUS316、フェライト系のSUS430などのステンレス鋼線又は鉄若しくは亜鉛メッキ鉄線(JIS−G−3532)、また銅系として銅−ニッケル合金(白銅)、銅−ニッケル−亜鉛合金(洋白)、黄銅、ベリリウム銅からなる線材を織ったり、編んだりして形成される金網が使用される。該金網を形成する金属細線の線径は0.10〜0.32mm程度のものが使用され、該金網の網目は3〜6mm程度のものが使用されて好適である。
【0018】潤滑組成物としては、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンが、また他の潤滑組成物として窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンが使用される。上記潤滑組成物の水性ディスパージョンは、後述する製造方法において、耐熱シート材の表面に形成されたリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜に、刷毛塗り、ローラ塗り、スプレー等の手段によって被覆され、最終の圧縮工程においてシール体の部分凸球面状の外面及びその近傍に均一かつ微小厚さ(10〜300μm)に展延されて潤滑すべり層を形成する。
【0019】上記潤滑組成物中の窒化ホウ素は、とくに高温において優れた潤滑性を発揮するものであるが、窒化ホウ素単独では耐熱被膜への被着性、ひいては最終の圧縮工程におけるシール体の部分凸球面状の外面への被着性が劣り、これらの表面から容易に剥離してしまうという欠点があるが、窒化ホウ素に対し一定量の割合でアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方を配合することにより、上記窒化ホウ素の欠点を回避し、耐熱被膜への被着性、ひいては最終の圧縮工程におけるシール体の部分凸球面状の外面での被着性を大幅に改善し、該シール体の部分凸球面状の外面での潤滑組成物から成る潤滑すべり層の保持性を高めることができる。そして、窒化ホウ素に対するアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方の配合割合は、窒化ホウ素の具有する潤滑性を損なうことなく、かつ被着性を改善するという観点から決定され、10〜30重量%の範囲が好ましい。
【0020】上述した窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに一定量の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂を含有した潤滑組成物において、ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、それ自身低摩擦性を有するもので、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物に配合されることにより、該潤滑組成物の低摩擦性を向上させる作用と、圧縮成形時の該潤滑組成物の展延性を高める作用をなす。上記窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合は200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の範囲である。このポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合が200重量部を超えると、潤滑組成物中に占める割合が多くなり潤滑組成物の耐熱性を低下させる結果となり、また、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合割合が50〜150重量部の範囲であれば、潤滑組成物の耐熱性を損なうことなく低摩擦性をいかんなく発揮させることができる。
【0021】水性ディスパージョンを形成する窒化ホウ素、アルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方及びこれらに配合されるポリテトラフルオロエチレン樹脂は、可及的に微粉末であることが好ましく、これらには平均粒径10μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下の微粉末のものが使用される。
【0022】摺動面形成部材は、前述した表面全体にリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と同様の耐熱シート材、すなわち表面全体にわたってリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と、該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に被覆された窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層と、該すべり層を覆って配された金網からなる補強材とからなる。この摺動面形成部材における耐熱被膜、潤滑組成物からなるすべり層及び金網からなる補強材は前述したものと同様のものを使用するため説明は省略する。
【0023】つぎに、上述した構成材料から成る球帯状シール体の製造方法について図面に基づき説明する。
【0024】図3に示すように、所定の幅に切断した短冊状の膨張黒鉛シート、マイカシート又はアスベストシートからなる耐熱シート材1を用意する。ついで、所定濃度の第一リン酸アルミニウム水溶液を用意し、この水溶液をシート材1の表面全体に刷毛塗り、ローラ塗り又は浸漬等の手段により被覆し、その後乾燥させて、図4に示すように、シート材1の表面全体(表、裏及び側面等全体)に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜2を形成する。以下、耐熱被膜2を備えた耐熱シート材1を耐熱シート材3とする。
【0025】上述した耐熱被膜2の形成方法において、第一リン酸アルミニウムの濃度は10〜50%のものが使用可能であるが、シート材1への被覆操作、その後の乾燥工程等を考慮すると、その濃度は25%程度のものが好ましい。
【0026】金属細線を織ったり、編んだりすることによって形成される金網を用意し、この金網を所定の幅(シート材1の幅とほぼ同幅)に切断して短冊状にするか又は図5に示すように、金属細線を編んで円筒状金網5を形成したのち、これをローラ6及び7間に通すかして帯状金網8を作成し、これを短冊状に切断するかして補強材9として使用する。
【0027】この帯状金網8からなる補強材9と耐熱シート材3とを重ね合わせるとともに、耐熱シート材3を内側にしてうず巻き状に捲回し、図6に示すように、筒状母材10を形成する。
【0028】前記と同様な耐熱シート材3を別途用意し、耐熱シート材3の一方の面の耐熱被膜2の表面に、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とから成る潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョン又は窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とから成る潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下、好ましくは50〜150重量部の割合でポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有された潤滑組成物を固形分として20〜50重量%分散含有した水性ディスパージョンを刷毛塗り、ローラ塗り又はスプレー等の手段で被覆し、これを乾燥させて、図7に示すような潤滑組成物からなる潤滑すべり層11を形成する。
【0029】一方、先に図5において説明したように、金属細線を編んで円筒状金網5を形成したのち、これをローラ6及び7間に通して作成した帯状金網8からなる補強材9を別に用意し、図8に示すように、帯状金網8内に、潤滑すべり層11を備えた耐熱シート材3を挿入するとともに、これらを、図9に示すように、ローラ15及び16間に通して一体化させ、これを摺動面形成部材21とする。
【0030】このようにして得た摺動面形成部材21を潤滑すべり層11を外側にして前記筒状母材10の外周面に捲回し、図10に示すような予備円筒成形体22を作成する。
【0031】内面に円筒壁面31と円筒壁面31に連なる部分凹球壁面32と部分凹球壁面32に連なる貫通孔33とを備え、該貫通孔33に段付きコア34を嵌挿することによって内部に中空円筒部35と該中空円筒部35に連なる球帯状中空部36とが形成された図11に示すような金型37を用意し、該金型37の段付きコア34に予備円筒成形体22を挿入する。
【0032】金型37の中空部に位置せしめられた予備円筒成形体22をコア軸方向に1〜3トン/cm2 の圧力で圧縮成形し、図1に示すような、中央部に貫通孔51を規定する円筒内面52を備え、外面53が部分凸球面状に形成された球帯状シール体54を作成する。この圧縮成形により、円筒内面52から部分凸球面状の外面53近傍にかけての球帯状シール体54の内部では、表面全体にリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜2を備えた耐熱シート材3と金網8からなる補強材9とが圧縮され、互いに絡み合って構造的一体性を有するように構成され、部分凸球面状の外面53は、潤滑組成物の潤滑すべり層11の露出面からなり、該すべり層11には、当該すべり層11に一体化された金網8からなる補強材9が配されており、すべり層11とこのすべり層11に混在一体化された金網8からなる補強材9とが露出した該部分凸球面状の外面53は、平滑な面に形成され、貫通孔51における円筒内面52は、耐熱被膜2が露出して形成される。
【0033】上述した方法によって作成された図1及び図2に示す球帯状シール体54において、耐熱シート材3は、内部構造を形成する金網8からなる補強材9と絡み合って一体となっており、部分凸球面状の外面53は、摺動面形成部材21によって形成された潤滑組成物からなる潤滑すべり層11の露出面と金網8とが混在一体となった平滑な面に形成されている。
【0034】球帯状シール体54は、例えば図12に示す排気管継手に組込まれて使用される。すなわち、エンジン側に連結された上流側排気管100の外周面には、管端部101を残してフランジ200が立設されており、該管端部101には、球帯状シール体54が貫通孔15を規定する円筒内面52において嵌合されており、大径側端面55において球帯状シール体54がフランジ200に当接されて着座せしめられている。上流側排気管100と相対向してマフラー側に連結され、端部に凹球面部302と凹球面部302の開口部周縁にフランジ部303を備えた径拡大部301が一体に形成された下流側排気管300が凹球面部302を球帯状シール体54の部分凸球面状の外面53に摺接されて配置されている。
【0035】上、下流側排気管100、300には、一端がフランジ200に固定され、他端が径拡大部301のフランジ部303を挿通して配された一対のボルト400とボルト400とフランジ部303との間に配された一対のコイルバネ500とにより、下流側排気管300には常時、上流側排気管100方向にバネ力が付勢されている。そして、排気管継手は、上、下流側排気管100、300に生ずる相対角変位に対しては、球帯状シール体54の部分凸球面状の外面53と下流側排気管300の端部に形成された径拡大部301の凹球面部302との摺接で許容するよう構成されている。
【0036】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明及び本発明の実施の形態を、好ましい実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何等限定されないのである。
【0037】
【実施例】
<実施例1>耐熱シート材として、幅55mm、長さ550mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(日本カーボン社製「ニカフィルム」(商品名)、膨張黒鉛シートの重量17.0g)を用意した。濃度25%の第一リン酸アルミニウム水溶液を用意し、この水溶液を前記膨張黒鉛シートの表面全体にローラ塗りし、その後、乾燥炉にて150℃の温度で20分間乾燥させて該膨張黒鉛シートの表面全体に0.07g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成し、これを耐熱シート材とした。
【0038】金属細線として線径0.28mmのオーステナイト系ステンレス鋼線(SUS304)を使用して網目4.0mmの円筒状編組金網を作成し、これをローラ間に通して帯状金網(幅36mm、長さ360mm)とし、これを補強材とした。この補強材と前記耐熱被膜を備えた耐熱シート材とを重ね合わせたのち、補強材に対して該耐熱シート材を内側にしてうず巻き状に捲回し、最外周に耐熱シート材が位置した筒状母材を作成した。
【0039】耐熱シート材として、幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、前記と同様の方法にて、膨張黒鉛シートの表面全体に0.07g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成した耐熱シート材を作成し、該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%からなる潤滑組成物を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素25.5重量%、アルミナ4.5重量%及び水分70重量%)をローラ塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の潤滑すべり層を形成した。ついで、前記と同様の金属細線を使用して、網目が4.0mmの円筒状編組金網を形成し、これをローラ間に通して帯状金網(幅53.5mm、長さ212mm)を作成し、該帯状金網内に前記潤滑すべり層を備えた耐熱シート材を挿入するとともにこれらをローラ間に通して一体化させ、一方の面に補強材と該補強材の網目を充填した潤滑組成物とが混在した摺動面形成部材を作成した。
【0040】前記筒状母材の外周面に、この摺動面形成部材を潤滑すべり層の面を外側にして捲回して予備円筒成形体を作成した。この予備円筒成形体を図11に示す金型37の段付きコア34に挿入し、該予備円筒成形体を該金型37の中空部に位置させた。
【0041】金型37の中空部に位置させた予備円筒成形体をコア軸方向に3トン/cm2の圧力で圧縮成形し、内面に貫通孔51を規定する円筒内面52を備え、外面53が部分凸球面状の球帯状シール体54を得た。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム2.7の割合となる。
【0042】<実施例2>耐熱シート材として、前記実施例1と同様の膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量17.0g)を用意した。濃度25%の第一リン酸アルミニウム水溶液を用意し、この水溶液を前記膨張黒鉛シートの表面全体にローラ塗りするという操作を2回繰り返し、その後、乾燥炉にて150℃の温度で20分間乾燥させて該膨張黒鉛シートの表面全体に0.15g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成し、これを耐熱シート材とした。以下、前記実施例1と同様にして筒状母材を作成した。
【0043】耐熱シート材として、幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、上記と同様の方法にて、膨張黒鉛シートの表面全体に0.15g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成した耐熱シート材を別途作成した。該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、前記実施例1と同様の潤滑組成物を使用して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成し、以下実施例1と同様の方法で摺動面形成部材を作成した。以下、前記実施例1と同様の方法で球帯状シール体54を作成した。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム5.8の割合となる。
【0044】<実施例3>耐熱シート材として、前記実施例1と同様の膨張黒鉛シート材(膨張黒鉛シートの重量17.0g)を用意した。濃度25%の第一リン酸アルミニウム水溶液を用意し、この水溶液を前記膨張黒鉛シートの表面全体にローラ塗りするという操作を3回繰り返し、その後、乾燥炉にて150℃の温度で20分間乾燥させて該膨張黒鉛シートの表面全体に0.3g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成し、耐熱シート材とした。
【0045】耐熱シート材として、幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、上記と同様の方法にて、膨張黒鉛シートの表面全体に0.3g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を形成した耐熱シート材を別途作成した。該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、前記実施例1と同様の潤滑組成物を使用して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成し、以下実施例1と同様の方法で摺動面形成部材を作成した。以下、前記実施例1と同様の方法で球帯状シール体54を作成した。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム11.5の割合となる。
【0046】<実施例4>前記実施例1と同様の耐熱シート材(膨張黒鉛シートの表面全体に、0.07g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材)を使用して筒状母材を作成した。前記実施例1と同様に、耐熱シート材として幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、該膨張黒鉛シートの表面全体に0.07g/100cm2の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材を別途作成した。該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%からなる潤滑組成物を100重量部とし、これに平均粒径0.3μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を50重量部含有した潤滑組成物(窒化ホウ素56.7重量%、アルミナ10重量%及びポリテトラフルオロエチレン樹脂33.3重量%)を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素25.5重量%、アルミナ4.5重量%及び水分70重量%)をローラ塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物の潤滑すべり層を形成した。ついで、前記補強材と同様の円筒状編組金網を形成したのち、これをローラ間に通して作成した帯状金網を別途用意し、該帯状金網内に前記潤滑すべり層を備えた耐熱シート材を挿入するとともにこれらをローラ間に通して一体化させ、一方の面に補強材と該補強材の網目を充填した潤滑組成物とが混在した摺動面形成部材を作成した。以下、実施例1と同様の方法で球帯状シール体54を作成した。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、前記実施例1と同様、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム2.7の割合となる。
【0047】<実施例5>前記実施例2と同様の耐熱シート材(膨張黒鉛シートの表面全体に0.15g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材)を使用して筒状母材を作成した。前記実施例2と同様に、耐熱シート材として幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、該膨張黒鉛シートの表面全体に0.15g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材を別途作成した。該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、前記実施例4と同様の潤滑組成物を使用して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成し、以下実施例1と同様の方法で摺動面形成部材を作成した。以下、実施例1と同様の方法で球帯状シール体54を作成した。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、前記実施例2と同様、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム5.8の割合となる。
【0048】<実施例6>前記実施例3と同様の耐熱シート材(膨張黒鉛シートの表面全体に0.3g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材)を使用して筒状母材を作成した。前記実施例2と同様に、耐熱シート材として幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(膨張黒鉛シートの重量4.2g)を別途用意し、該膨張黒鉛シートの表面全体に0.3g/100cm2 の一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材を別途作成した。該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に、前記実施例4と同様の潤滑組成物を使用して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成し、以下実施例1と同様の方法で摺動面形成部材を作成した。以下、実施例1と同様の方法で球帯状シール体54を作成した。この球帯状シール体における膨張黒鉛シートからなる耐熱材と耐熱被膜を形成するリン酸アルミニウムとの重量比率は、前記実施例3と同様、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム11.5の割合となる。
【0049】<比較例1>耐熱シート材として、幅55mm、長さ550mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シート(前記実施例1と同じ)を、補強材として前記実施例1と同様の帯状金網(幅36mm、長さ360mm)を用意し、これらを重ね合わせるとともに該膨張黒鉛シート側を内側にしてうず巻き状に捲回し、最外周に膨張黒鉛シートが位置した筒状母材を作成した。
【0050】幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートの一方の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素粉末85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%から成る潤滑組成物を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素25.5重量%、アルミナ4.5重量%及び水分70重量%)をローラ塗りし、乾燥するという被覆操作を3回繰り返して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成したのち、別途用意した帯状金網(幅53.5mm、長さ212mm)内に前記潤滑すべり層を備えた膨張黒鉛シートを挿入すると共にこれらをローラ間に通して一体化させ、一方の面に潤滑組成物と金網とが混在した摺動面形成部材を作成した。
【0051】前記筒状母材の外周面に、摺動面形成部材を潤滑すべり層側を外側にして捲回し、予備円筒成形体を作成したのち、前記実施例1と同様の方法で、内面に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状の球帯状シール体を作成した。
【0052】<比較例2>前記比較例1と同様の筒状母材を作成した。幅48mm、長さ212mm、厚さ0.38mmの膨張黒鉛シートの一方の表面に、平均粒径7μmの窒化ホウ素粉末85重量%、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末15重量%から成る潤滑組成物を100重量部とし、これに平均粒径0.3μmのポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を50重量部含有した潤滑組成物(窒化ホウ素56.7重量%、アルミナ10重量%及びポリテトラフルオロエチレン樹脂33.3重量%)を固形分として30重量%分散含有した水性ディスパージョン(窒化ホウ素17.0重量%、アルミナ3.0重量%、ポリテトラフルオロエチレン樹脂10.0重量%及び水分70重量%)をローラ塗りし、乾燥するという操作を3回繰り返して該潤滑組成物からなる潤滑すべり層を形成したのち、別途用意した帯状金網(幅53.5mm、長さ212mm)内に前記潤滑すべり層を備えた膨張黒鉛シートを挿入すると共にこれらをローラ間に通して一体化させ、一方の面に潤滑組成物と金網とが混在した摺動面形成部材を作成した。
【0053】前記筒状母材の外周面に、この摺動面形成部材を潤滑すべり層を外側に巻き付けて予備円筒体を作成したのち、前記実施例1と同様の方法で、内面に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状の球帯状シール体を作成した。
【0054】つぎに、上述した実施例及び比較例からなる球帯状シール体について、図12に示す排気管継手を使用して、該シール体の1サイクル毎における摩擦トルク(kgf・cm)及び異常音の発生の有無及びガス漏れ量について試験した結果を説明する。
<試験条件> (試験I)コイルバネによる押圧力:67kgf 揺動角 :±3° 振動数 :12ヘルツ 雰囲気温度(図12に 示す凹球面部302の 外表面温度) :室温(20℃)〜500℃(試験II)コイルバネによる押圧力:67kgf 揺動角 :±3° 振動数 :12ヘルツ 雰囲気温度(図12に 示す凹球面部302の 外表面温度) :室温(20℃)〜650℃<試験方法>(試験I、試験IIとも)
12ヘルツの振動数で±3°の揺動運動を1回として45,000回行なったのち、該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を500℃(試験I)、650℃(試験II)まで昇温し(昇温中の揺動回数45,000回)、該雰囲気温度が500℃、650℃に到達した時点で115,000回の揺動運動を行い、ついで該揺動運動を継続しながら雰囲気温度を室温まで降温(降温中の揺動回数45,000回)するという全揺動回数250,000回を1サイクルとして4サイクル行う。
【0055】また、異常音の発生の有無の評価はつぎのようにして行なった。
評価記号I :異常音の発生のないもの。
評価記号II :試験片に耳を近づけた状態で、かすかに異常音が聴こえるもの。
評価記号III:定位置(試験片から1.5m離れた位置)では生活環境音に消され、一般には判別しがたいが試験担当者には異常音として判別できるもの。
評価記号IV :定位置で誰でも異常音(不快音)として識別できるもの。
【0056】ガス漏れ量(リットル/min)は、図12R>2に示す排気管継手の一方の排気管100の開口部を閉塞し、他方の排気管300側から、0.5kgf/cm2 の圧力で乾燥空気を流入し、継手部分(球帯状シール体54の外面53と径拡大部301の凹球面部302との摺接部、球帯状シール体54の円筒内面52と排気管100の管端部101との嵌合部及び球帯状シール体54の端面55と排気管100に立設されたフランジ200との当接部)からの漏れ量を流量計にて、試験初期、250,000回後、500,000回後及び1,000,000回後の4回測定した。
【0057】表1、表2、表3及び表4は、上記試験方法によって得られた試験I及び試験IIの試験結果である。
(以下余白)
【0058】
【表1】


(以下余白)
【0059】
【表2】


(以下余白)
【0060】
【表3】


(以下余白)
【0061】
【表4】


【0062】表中、1は揺動回数0(試験開始前)での結果、2は揺動回数25万回での結果、3は揺動回数50万回での結果、4は揺動回数100万回での結果を示したものである。試験Iの結果からは実施例と比較例との間に性能の差は認められず、両者とも摩擦トルクが低く、かつ異常摩擦音の発生も認められず、ガス漏れ量も0.15リットル/min以下という良好な性能を発揮した。
【0063】しかし、試験IIの結果からは実施例と比較例との間に歴然とした性能の差が認められた。すなわち、比較例からなる球帯状シール体は、凹球面部の外表面温度が650℃という高温条件では、ガス漏れ量の試験結果から明らかなように、揺動回数の増加に伴い耐熱シート材である膨張黒鉛の酸化が進行し、揺動回数が50万回を超えると急激に膨張黒鉛に酸化による消耗が認められ、形崩れ等を生じ、シール体としての機能が消滅した。一方、実施例からなる球帯状シール体は、耐熱シート材の表面全体に耐熱被膜が形成されており、シール体自体の耐熱性が高められているため、凹球面部の外表面温度が650℃という高温条件においても膨張黒鉛の酸化消耗は低く抑えられ、シール体としての機能は揺動回数が100万回を超えても依然発揮されるものであった。
【0064】
【発明の効果】本発明の球帯状シール体は、円筒内面から部分凸球面状の外面にかけての内部では、表面全体に耐熱被膜を備えた耐熱シート材と金網からなる補強材とが互いに絡み合って構造的一体性を有し、該シール体自体の耐熱性が高められているので、650℃という高温条件においても、シール体としての機能を十分発揮するものである。また、製造方法においては、膨張黒鉛等の表面全体に耐熱被膜を形成するという工程が加わるだけで、従来の製造方法における製造工程を大幅に変更する必要を生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の球帯状シール体を示す縦断面説明図である。
【図2】本発明の球帯状シール体の部分凸球面状の外面の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の球帯状シール体の製造工程における耐熱シート材の斜視図である。
【図4】本発明の球帯状シール体の製造工程における耐熱被膜が被覆された耐熱シート材の断面図である。
【図5】本発明の球帯状シール体の製造工程における金網からなる補強材の形成方法の説明図である。
【図6】本発明の球帯状シール体の製造工程における筒状母材の平面図である。
【図7】本発明の球帯状シール体の製造工程における潤滑すべり層を形成した耐熱シート材の断面図である。
【図8】本発明の球帯状シール体の製造工程における摺動面形成部材の形成方法の説明図である。
【図9】本発明の球帯状シール体の製造工程における摺動面形成部材の形成方法の説明図である。
【図10】本発明の球帯状シール体の製造工程における予備円筒成形体の平面図である。
【図11】本発明の球帯状シール体の製造工程における金型中に予備円筒成形体を挿入した状態を示す縦断面図である。
【図12】本発明の球帯状シール体を組込んだ排気管継手の縦断面図である。
【符号の説明】
51 貫通孔
52 円筒内面
53 外面
54 球帯状シール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該円筒内面から部分凸球面状の外面近傍にかけてのその内部では、圧縮された金網からなる補強材と、この補強材の網目を充填し、かつこの補強材と混在一体化されて圧縮された耐熱材とを主として具備し、更に、リン酸アルミニウムを、補強材及び耐熱材と混在一体化させて具備し、部分凸球面状の外面近傍から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、少なくとも、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層を具備し、このすべり層には、当該すべり層に混在一体化されて圧縮された金網からなる補強材が配されており、すべり層とこのすべり層に混在一体化された金網からなる補強材とが露出した部分凸球面状の外面は、平滑な面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体。
【請求項2】 耐熱材とリン酸アルミニウムとの重量比率は、耐熱材100に対しリン酸アルミニウム2〜15の割合である請求項1に記載の球帯状シール体。
【請求項3】 潤滑組成物は、窒化ホウ素が70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる請求項1又は2に記載の球帯状シール体。
【請求項4】 潤滑組成物には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が更に含有されている請求項1から3のいずれか一項に記載の球帯状シール体。
【請求項5】 潤滑組成物は、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項4に記載の球帯状シール体。
【請求項6】 潤滑組成物は、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とから成る潤滑組成物を100重量部とし、これに50〜150重量部の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項4に記載の球帯状シール体。
【請求項7】 耐熱材は、膨張黒鉛、マイカ、アスベストのうちの一種又は二種以上のものから選択されたものからなる請求項1から6のいずれか一項に記載の球帯状シール体。
【請求項8】 中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体であって、該円筒内面から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、表面全体にリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と金網からなる補強材とが圧縮され、互いに絡み合って構造的一体性を有するように構成されており、該部分凸球面状の外面は、窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層の露出面からなり、該すべり層には、当該すべり層に一体化された金網からなる補強材が配されており、すべり層とこのすべり層に混在一体化された金網からなる補強材とが露出した部分凸球面状の外面は、平滑な面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体。
【請求項9】 耐熱シート材とリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜との重量比率は、耐熱シート材100に対し耐熱被膜2〜15の割合である請求項8に記載の球帯状シール体。
【請求項10】 耐熱シート材は、膨張黒鉛、マイカ及びアスベストのうちの一種又は二種以上のものから選択された耐熱材からなるシート材からなり、耐熱被膜は、該シート材の表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さに形成されたリン酸アルミニウムからなる請求項8又は9に記載の球帯状シール体。
【請求項11】 潤滑組成物は、窒化ホウ素が70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる請求項8から10のいずれか一項に記載の球帯状シール体。
【請求項12】 潤滑組成物には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が更に含有されている請求項8から11のいずれか一項に記載の球帯状シール体。
【請求項13】 潤滑組成物は、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項12に記載の球帯状シール体。
【請求項14】 潤滑組成物は、窒化ホウ素とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに50〜150重量部の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項12に記載の球帯状シール体。
【請求項15】 中央部に貫通孔を規定する円筒内面を備え、外面が部分凸球面状に形成された、とくに排気管継手に使用される球帯状シール体の製造方法であって、(a)表面全体にリン酸アルミニウムからなる一様な厚さの耐熱被膜を備えた耐熱シート材を準備する工程と、(b)金属細線を織ったり、編んだりして得られる金網からなる補強材を準備し、該補強材を前記耐熱シート材に重ね合わせたのち、該耐熱シート材を内側にして円筒状に捲回し、筒状母材を形成する工程と、(c)表面全体にリン酸アルミニウムからなる一様な厚さの耐熱被膜を備えた別の耐熱シート材を準備し、該別の耐熱シート材と、当該別の耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に被覆された窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層と、該すべり層を覆って配された金網からなる補強材とからなる摺動面形成部材を形成する工程と、(d)該摺動面形成部材を、すべり層側の面を外側にして前記筒状母材の外周面に捲回して予備円筒成形体を形成する工程と、(e)該予備円筒成形体を金型のコア外周面に挿入し、該コアを金型内に配置すると共に該金型内において予備円筒成形体をコア軸方向に圧縮成形する工程と、から成り、得られた球帯状シール体において、円筒内面から部分凸球面状の外面にかけてのその内部では、耐熱被膜を備えた耐熱シート材と金網からなる補強材とが圧縮され、互いに絡み合って構造的一体性を有すると共に、部分凸球面状の外面は、潤滑組成物が補強材の網目を充填して両者が混在一体となった平滑なすべり面に形成されていることを特徴とする球帯状シール体の製造方法。
【請求項16】 耐熱シート材は、膨張黒鉛、マイカ及びアスベストのうちの一種又は二種以上のものから選択された耐熱材からなるシート材からなり、耐熱被膜は、該シート材の表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さに形成されたリン酸アルミニウムからなる請求項15に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項17】 摺動面形成部材は、表面全体に0.05〜0.3g/100cm2 の一様な厚さのリン酸アルミニウムからなる耐熱被膜を備えた耐熱シート材と、該耐熱シート材の一方の面の耐熱被膜の表面に被覆された窒化ホウ素又は窒化ホウ素及びポリテトラフルオロエチレン樹脂とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方とからなる潤滑組成物からなるすべり層と、該すべり層を覆って配された金網からなる補強材とからなる請求項15又は16に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項18】 潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及びシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる請求項15から17のいずれか一項に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項19】 潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及び又はシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに200重量部以下の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項15から17のいずれか一項に記載の球帯状シール体の製造方法。
【請求項20】 潤滑組成物は、窒化ホウ素70〜90重量%とアルミナ及び又はシリカのうちの少なくとも一方が10〜30重量%とからなる潤滑組成物を100重量部とし、これに50〜150重量部の割合のポリテトラフルオロエチレン樹脂が含有されてなる請求項15から17のいずれか一項に記載の球帯状シール体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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