説明

球状アルミナ粉末の製造方法

【課題】比表面積が小さく、かつウラン含有量が少ない、封止材などの樹脂組成物に対して高い熱伝導率を付与することができる球状アルミナ粉末を得るための製造方法を提供すること。
【解決手段】窒素吸着法により測定した比表面積が0.3m/g以上3m/g以下であり、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが10以下であり、かつ平均粒子径D50が2μm以上100μm以下である水酸化アルミニウム粉末を、火炎中に噴霧した後に粉末状で捕集する、球状アルミナ粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の物性を有する水酸化アルミニウム粉末を、火炎中に供給することにより球状化を行う、球状アルミナ粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム粉末を火炎中に供給して球状化されたアルミナ粉末は、樹脂に配合した際の熱伝導性、充填性、さらには絶縁性に優れていることから、基板等の絶縁材料用樹脂の充填材として用いられている。
【0003】
かかる球状アルミナ粉末の製造方法として、例えば、水酸化アルミニウムスラリーを原料として火炎中に供給し、溶射することにより球状のアルミナ粉末を製造する方法や、水酸化アルミニウム粉末をスラリー状態として、火炎中に微細な霧状で噴霧供給する方法が知られている(特開平11−147711号公報、特開2001−19425号公報および特開2001−226117号公報)。しかしながら、一般的な水酸化アルミニウムを原料として用いる場合や媒体に水を用いる場合には、球状化の過程において多くの熱量が必要となる。また、凝集した水酸化アルミニウムを用いる場合には、得られる球状アルミナが互いに合着した状態となることがある。
【0004】
さらに、半導体用途に用いる球状アルミナ粉末には、α線による作動エラーを無くすためウラン含有量を極めて少なくすることが求められる。かかる球状アルミナ粉末の製造方法としては、高純度のアルミニウムを一旦溶融させた後、アトマイズすることにより、ウラン、トリウム量が1ppb未満に調整されたアルミニウム粉末を製造し、これを、酸素を含む気流中に供給し燃焼させる方法が知られている(特開平11−92136号公報)。しかしながら、該方法は二段階の工程からなるため、生産性の観点において必ずしも有利な方法とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−147711号公報
【特許文献2】特開2001−19425号公報
【特許文献3】特開2001−226117号公報
【特許文献4】特開平11−92136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、球状アルミナを生産性よく製造するだけでなく、比表面積が小さく、かつウラン含有量が少ない、半導体封止材などの樹脂組成物に対して高い熱伝導率を付与することができる、球状アルミナ粉末を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく検討した結果、特定の物性を有する水酸化アルミニウム粉末を、火炎中に噴霧供給することにより、比表面積が小さく、かつウラン含有量が少ない球状アルミナ粉末を、効率よく製造できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、窒素吸着法により測定した比表面積が0.3m/g以上3m/g以下であり、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが10以下であり、かつ平均粒子径D50が2μm以上100μm以下である水酸化アルミニウム粉末を、火炎中に噴霧した後に粉末状で捕集することを特徴とする球状アルミナ粉末の製造方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50が2μm以上100μm以下であり、窒素吸着法により測定した比表面積が1m/g以下であり、平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが5以下であり、かつウラン含有量が10ppb以下であることを特徴とする、樹脂充填用球状アルミナ粉末を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は、窒素吸着法により測定した比表面積が0.3m/g以上3m/g以下であり、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが10以下であり、微粒側からの累積で10重量%となる粒子径D10と、90重量%となる粒子径D90による粒度分布指数D90/D10が12以下であり、X線回折により測定した結晶型がギブサイト型であり、かつその結晶面(110)と(002)のピークの強度比(I(110)/I(002))が0.20以上であることを特徴とする、球状アルミナ製造用水酸化アルミニウム粉末を提供するものである。
【0011】
本発明の製造方法によれば、比表面積が小さく、かつウラン含有量が少ない低α線量の球状アルミナ粉末を生産性良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明における球状アルミナ粉末の製造装置を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の製造方法において、原料として用いられる水酸化アルミニウム粉末(以下、「原料水酸化アルミニウム粉末」という場合がある。)の窒素吸着法により測定された比表面積の上限値は、3m/g以下であり、好ましくは2m/g以下である。原料水酸化アルミニウム粉末の比表面積が大きすぎる場合には、得られる球状アルミナ粉末の比表面積も大きくなってしまう傾向がある。また、原料水酸化アルミニウム粉末の比表面積の下限値は、0.3m/g以上であり、好ましくは0.5m/g以上である。原料水酸化アルミニウム粉末の比表面積が小さすぎる場合には、平均粒子径に対して粗粒の割合が増えてしまうため樹脂充填材としての物性が悪くなるおそれがある。
【0015】
本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末の平均粒子径D50は、2μm以上100μm以下であり、好ましくは3μm以上70μm以下である。ここで本発明において、平均粒子径D50(以下、単に「D50」という場合がある。)とは、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径をいう。原料水酸化アルミニウム粉末の平均粒子径D50が、2μmより小さい場合には、捕集効率が低下してしまい、100μmより大きい場合には球状化の際に表面が荒れてしまうおそれがある。
【0016】
また、本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末の平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比、D50/Dbetは、10以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。ここで、比表面積から算出した球換算粒子径Dbet(以下、単に「Dbet」という場合がある。)とは、原料水酸化アルミニウムの比表面積および真密度から計算される粒子径であり、間接的に計算した一次粒子径を表す。原料水酸化アルミニウム粉末のD50/Dbetが10よりも大きい場合には、得られる球状アルミナ粉末のD50/Dbetが5以下とならない。また、D50/Dbetの下限値は、特に限定されるものではないが、通常、1以上である。
【0017】
さらに、本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末の粒度分布指数D90/D10は、12以下であることが好ましい。D90/D10の下限値は、特に限定されるものではないが、通常、2以上である。ここで、本発明において、D10およびD90とは、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で、それぞれ、10重量%、90重量%となる粒子径をいう。D90/D10の値は、粒度分布がどのような幅を有しているかを示す指標であり、この値が小さいほど粒度分布がシャープであることを意味する。原料水酸化アルミニウム粉末のD90/D10の値が12以下であると、粒度分布がシャープな球状アルミナ粉末が得られる傾向にあり、またサイクロンにより捕集される量が多くなることから、生産性が高くなる。
【0018】
本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末の結晶型としては、例えば、ギブサイトおよびバイヤライトなどの三水和物、ならびに、べーマイト、ダイアスポアなどの一水和物が挙げられる。中でも、硬度が相対的に低く、製造装置の磨耗を避けられる、平均粒子径2μm以上の水酸化アルミニウムを得やすいという点から、ギブサイトであることが好ましい。原料水酸化アルミニウム粉末が、ギブサイト以外の結晶型の水酸化アルミニウムを含有する場合、その含有量は、原料水酸化アルミニウム粉末の総重量に基づいて5重量%以下であることが好ましい。なお、他の結晶型を有する水酸化アルミニウムの含有量は、X線回折測定によるメインピークの強度比から算出することができる。
【0019】
さらに、本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末は、その結晶面(110)と(002)のピーク強度比I(110)/I(002)が、0.20以上であることが好ましい。より好ましいピーク強度比I(110)/I(002)は、0.25以上、さらに好ましくは0.30以上である。ピーク強度比が0.20よりも小さい粉末は、結晶面(002)が大きな板状であることを示しており、そのような水酸化アルミニウム粉末を原料として球状化を行った場合、得られる球状アルミナの表面積が大きくなる傾向にある。また、ピーク強度比は、0.5以下であることが好ましい。
【0020】
球状アルミナ粉末を半導体素子の封止材用途に用いる場合には、低α線量であること、すなわち、球状アルミナ粉末中のウラン含有量が少ないことが必要となる。具体的には、球状アルミナ粉末中のウラン含有量を、10ppb以下に抑えることが望ましい。ここで、球状アルミナ粉末中のウラン含有量は、原料水酸化アルミニウム粉末に含まれるウラン含有量に依存するため、ウラン含有量の少ない球状アルミナ粉末を製造するためには、原料となる水酸化アルミニウム中のウラン含有量をできる限り少なくしておくことが重要となる。
したがって、本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末のウラン含有量は、10ppb以下であることが好ましく、8ppb以下であることがより好ましい。ウラン含有量が10ppb以下である原料水酸化アルミニウム粉末を用いることにより、半導体封止材用途に好適な、ウラン含有量が10ppb以下である低α線量の球状アルミナ粉末を得ることができる。なお、原料水酸化アルミニウム粉末中のウラン含有量の下限値は、特に限定されるものではなく、低いほど好ましいが、通常、3ppbである。
【0021】
特開昭60−246220号公報にも記載されているように、ボーキサイトを原料に用いたバイヤー法によって得られる水酸化アルミニウムのウラン含有量は数百ppbと多いことが知られている。これは、一般的にバイヤー法において、アルミン酸ナトリウム水溶液を循環使用することにより、ボーキサイトから抽出された有機物が徐々に液中に蓄積されてしまうためである。
そこで、例えば、アルミン酸ナトリウム水溶液を得るための原料を、ボーキサイトから、有機物含有量が0.1重量%未満の水酸化アルミニウムに変更することにより、アルミン酸ナトリウム水溶液中の有機物含有量を低減することができる。具体的には、10mg/L以上1000mg/L以下、好ましくは10mg/L以上500mg/L以下とすることができる。また、該水溶液に吸着剤を添加して吸着性の高い有機物を除去したり、酸化剤を用いて有機物を分解したりすることにより、さらに有機物含有量の少ないアルミン酸ナトリウム水溶液を得ることができる。このようにして得られたアルミン酸ナトリウム水溶液を用いて水酸化アルミニウムの析出を行うことにより、得られる水酸化アルミニウム中のウラン含有量を10ppb以下とすることができる。
【0022】
球状アルミナ粉末を、半導体封止材などの電子部品用途に用いる場合、耐湿信頼性の観点から、溶解性Na量を低減することが重要となる。この溶解性Na量は、原料となる水酸化アルミニウムに含まれるNa量に依存する。このため、原料水酸化アルミニウム粉末中に含まれる非溶解性および溶解性Na量が少ないほど、球状化の際に生じるガス化されたNaが少なくなり、得られる球状アルミナ粉末の溶解性Na量を低減することができる。したがって、本発明の製造方法に用いられる原料水酸化アルミニウム粉末中に含まれるNa量は、非溶解性および溶解性Na量を合算し、かつ酸化物(NaO)に換算した量で、0.20重量%以下であることが好ましく、0.15重量%以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法において用いられる原料水酸化アルミニウム粉末の製造方法は、特に限定されるものではなく、この分野で一般的に用いられる方法により製造することができるが、バイヤー法によって製造されることが好ましい。具体的には、例えば、バイヤー法によって製造されるアルミン酸ナトリウム水溶液に、種子となる水酸化アルミニウムを添加し、液温を30〜90℃に保持し、撹拌することによりアルミン酸ナトリウム水溶液中のアルミ分を分解、析出させることによって製造することができる。この方法によって製造された水酸化アルミニウムの結晶型は、通常、ギブサイト型である。
【0024】
さらに、原料水酸化アルミニウム粉末は、表面処理されていてもよい。表面処理に用いる表面処理剤としては、この分野で一般的に使用される表面処理剤を使用することができ、例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤およびステアリン酸などの脂肪酸が挙げられる。特に、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤により被覆された水酸化アルミニウムを用いることにより、原料となる水酸化アルミニウム粉末中のNaO含有量が多くても、火炎中に供給した時に表面処理剤が熱分解されることにより、球状アルミナ粉末の表面に無機酸化物の層が形成され、溶解性Na量を低減する効果を期待することができる。
【0025】
表面処理の方法としては、特に限定されるものではなく、湿式、乾式のいずれであってもよいが、生産性の観点からは、乾式が好ましい。具体的には、スーパーミキサーやV型混合機中で水酸化アルミニウム粉末を流動させ、そこへ表面処理剤を添加、混合することで行うことができる。他にも、例えば、振動ミルやボールミルで粉砕する工程において、表面処理剤を添加する方法が挙げられる。
【0026】
表面処理剤の量は、カップリング剤の場合、SiO、TiO換算で、水酸化アルミニウム粉末の重量に基づいて0.5重量%以下であることが好ましい。表面処理剤の量が0.5重量%を超える場合、表面を被覆する量が増えるため、表面積は低下するが、粒子同士が合着し、粗大な粒子が生じてしまうおそれがある。
また、表面処理剤の配合量は、水酸化アルミニウム粉末100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下であることが好ましい。
【0027】
上述した物性を有する原料水酸化アルミニウム粉末は、本発明の製造方法に限らず、この分野で一般的な方法による球状アルミナの製造用原料としても使用することができるが、本発明の製造方法により、特に効率的に、比表面積が小さく、かつウラン含有量の少ない球状アルミナ粉末を製造することができる。
【0028】
本発明の製造方法は、例えば、図1に示すような装置を用いて実施することができる。図1に示す球状アルミナ粉末の製造装置は、可燃性ガス供給管3、支燃性ガス供給管4および原料供給管5を接続したバーナー2を頂上部にセットした溶射炉1ならびに溶射炉を通過した粉末を回収するサイクロン6、バグフィルター7およびブロワー8などからなる。
【0029】
具体的には、原料水酸化アルミニウム粉末を、搬送ガス中に分散させた状態で原料供給管から火炎中に供給することにより、水酸化アルミニウムを球状化し、球状アルミナ粉末を製造することができる。
【0030】
原料水酸化アルミニウムは、例えば、原料水酸化アルミニウム粉末を水に分散させ、スラリー状態で供給することもできるが、本発明の製造方法においては、生産性の観点から、溶射時に水の蒸発潜熱による熱量ロスが生じないため、原料水酸化アルミニウムを粉末状で噴霧供給する。
粒子同士の付着が弱くなり、粉末を火炎中に供給したとき、粒子同士が合着することによって粗大な粒子が形成することを抑制できるため、原料水酸化アルミニウム粉末中に含まれる水分量は、0.5重量%以下であることが好ましい。
【0031】
原料水酸化アルミニウム粉末は搬送ガスにより火炎中に噴霧供給される。搬送ガスとしては、酸素、空気、窒素などが挙げられるが、酸素を用いることが好ましい。搬送ガスに分散させて水酸化アルミニウム粉末を供給する際の濃度(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/搬送ガス供給量(NL))は、1.0以上10.0以下であることが好ましい。該濃度が、高すぎる場合には、搬送ガス中での水酸化アルミニウム粉末濃度が高くなり、火炎中に供給した際に粉末の分散性が低下し、球状化の過程で粉末同士の融着が起こり、得られる球状アルミナ粉末の粒子径が大きくなる傾向にある。
【0032】
火炎中への原料水酸化アルミニウム粉末の供給量は、火炎中における濃度(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/ガス供給量(NL))で、0.01以上2.0以下であることが好ましく、0.1以上1.5以下であることがより好ましい。ここで、ガス供給量とは、可燃性ガス供給量と支燃性ガス供給量と搬送ガス供給量の合算量をいう。該濃度が低すぎる場合には、水酸化アルミニウム粉末の供給量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、高すぎる場合には、火炎と一度に接触する水酸化アルミニウム粉末量が増えるため、粒子同士の融着が起こり、得られる球状アルミナ粉末の粒子径が大きくなる傾向にある。
【0033】
また、火炎中への原料水酸化アルミニウム粉末の供給量は、可燃ガス比(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/可燃性ガス供給量(NL))で、10.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましい。可燃ガス比が高すぎると、火炎中に一度に供給される水酸化アルミニウム粉末量が多くなり、全量を球状化させることが困難となる。可燃ガス比の下限値は、生産性の点から、通常、0.1以上である。
【0034】
本発明の製造方法において、可燃性ガスとしては、例えば、プロパン、ブタン、プロピレン、アセチレン、水素などが挙げられ、中でもプロパン〔例えば、液化プロパンガス(LPG)〕が好ましい。支燃性ガスとしては、例えば、空気、酸素が挙げられ、中でも酸素が好ましい。可燃性ガスおよび支燃性ガスの供給条件は、例えば、製造量などにより適宜設定し得るが、通常、原料粉末の供給量に合わせて調整すればよい。
【0035】
火炎中に噴霧された原料水酸化アルミニウム粉末は、高温の火炎により、アルミナへと転移し、球状化され球状アルミナ粉末となる。これにより得られる球状アルミナ粉末は、ブロワーで吸引されることにより、サイクロンで捕集される。サイクロンで捕集されなかった粉末は、バグフィルターにて回収され、その後、排ガスは大気に放出される。
【0036】
本発明の球状アルミナ粉末の窒素吸着法により測定される比表面積は、1m/g以下であり、好ましくは0.8m/g以下である。比表面積が1m/g以下であると、樹脂材料に配合したとき、樹脂材料の機械物性低下を抑制できる。
【0037】
本発明の球状アルミナ粉末の平均粒子径D50は、2μm以上100μm以下であり、好ましくは3μm以上70μm以下である。ここで、平均粒子径D50は、前記と同じ意味を有する。球状アルミナ粉末の平均粒子径D50が、2μmより小さい場合には、表面積が大きくなり、樹脂材料に配合したときに機械物性を低下させるおそれがあり、100μmより大きい場合には球状アルミナ粒子表面の平滑性が悪くなる。
【0038】
さらに、本発明の球状アルミナ粉末の粒度分布指数D90/D10は、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下である。ここで、D10およびD90は、前記と同じ意味を有する。D90/D10の下限値は、特に限定されるものではないが、通常、1.5以上である。
【0039】
また、本発明の球状アルミナ粉末の平均粒子径D50と、比表面積から算出したDbetとの比、D50/Dbetは、5以下であり、好ましくは4以下である。ここで、比表面積から算出したDbetは、前記と同じ意味を有する。D50/Dbetが5より大きい場合、粒度分布がブロードであるため、微粒や粗粒の割合が増えてしまう。また、D50/Dbetの下限値は、特に限定されるものではないが、通常、1以上である。
【0040】
原料水酸化アルミニウム粉末の平均粒子径D50(a)と、この原料水酸化アルミニウム粉末を火炎中に噴霧することにより製造された球状アルミナ粉末の平均粒子径D50(b)との関係について、本発明の方法において、D50(a)/D50(b)は、好ましくは0.7以上1.3以下、より好ましくは0.8以上1.2以下である。D50(a)/D50(b)が前記範囲にない場合、得られる球状アルミナ粉末の粒子径を原料水酸化アルミニウム粉末の粒子径を制御することにより調製することが困難となることがある。また、従来の方法においては、サイクロンでの捕集率を高くした場合、D50(a)/D50(b)が0.7以上1.3以下とならないことがあり、球状アルミナ粉末の粒子径を、原料水酸化アルミニウム粉末の粒子径を調整することにより制御することが難しい。一方、D50(a)/D50(b)を0.7以上1.3以下に制御した場合、サイクロンでの捕集率が低下してしまうことがある。本発明の方法によれば、D50(a)/D50(b)を0.7以上1.3以下に制御しつつ、高い捕集率で球状アルミナ粉末を製造することができる。
【0041】
本発明の球状アルミナ粉末のウラン含有量は、10ppb以下であり、好ましくは8ppb以下である。ウラン含有量が10ppb以下であれば、半導体素子の誤作動を防止し得ることから、半導体の封止材用途に好適である。なお、球状アルミナ粉末のウラン量は、グロー放電質量分析法や誘導結合プラズマ質量分析法、蛍光光度法などの公知の方法で定量化することができるが、定量下限値が小さいことから、中でも、誘導結合プラズマ質量分析法が好ましい。
【0042】
本発明の球状アルミナ粉末において、樹脂への充填性が向上し得るため、粒子径が3μm〜20μmの範囲の球形度は、0.90以上であることが好ましい。
【0043】
本発明の球状アルミナ粉末に含まれる溶解性Na量は、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。溶解性Na量とは、粉末を水と接触させたときに、水中へ溶解するNaイオン量をいう。球状アルミナ粉末に含まれる溶解性Na量が前記の範囲にあると、樹脂に配合したときの絶縁性の低下が抑制される。
なお、得られた球状アルミナ粉末の耐湿信頼性が十分でない場合には、水洗いなどの公知の方法により、表面に付着した溶解性Naを除去することができる。
【0044】
本発明の球状アルミナ粉末は、特に、本発明の製造方法により効率的に製造することができる。
【0045】
本発明の球状アルミナ粉末は、樹脂充填材用途に適しており、適用できる樹脂は広範にわたる。具体的には、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、有機ケイ素化合物から構成されるシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂に、本発明の球状アルミナ粉末を配合することにより、高い熱伝導性と絶縁性を付与することができるため、特に、電子部品の放熱部材に好適である。
【0046】
一般的に用いられる公知の方法を使用して、本発明の球状アルミナ粉末と樹脂を混合することにより樹脂組成物を得ることができる。例えば、樹脂が液状の場合(例えば液状エポキシ樹脂など)は、液状樹脂と球状アルミナ粉末と硬化剤とを混合した後、熱や紫外線などで硬化させることにより樹脂組成物を得ることができる。硬化剤や混合方法、硬化方法は公知のものおよび方法を用いることができる。一方、樹脂が固体状の場合(例えばポリオレフィン樹脂やアクリル樹脂など)は、球状アルミナ粉末と樹脂を混合した後に、溶融混練などの公知の方法により混練することで目的とする樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
本発明の球状アルミナ粉末の樹脂に対する配合比率は、樹脂特有のしなやかさを損なうことなく十分に熱伝導率を向上させることができるため、樹脂10〜80体積%に対して、球状アルミナ粉末90〜20体積%であることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0049】
(1)平均粒子径(D50)、10重量%粒子径(D10)、90重量%粒子径(D90)
粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置〔日機装社製 「マイクロトラックHRA X−100」〕を用いて測定した。測定する粉末を0.2重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に加え、測定可能濃度に調整した後、出力40Wの超音波を5分間照射した後、測定を行い(n=2)、その平均値から粒子径を求めた。屈折率は、原料水酸化アルミニウム粉末測定時は1.57、球状アルミナ粉末測定時は1.76とした。
D50は、微粒側からの累積で50重量%となる粒子径から、D10、D90は、 [log(粒子径)]の刻み幅0.038として得られた粒度分布から求めた。
【0050】
(2)比表面積
JIS−Z−8830に規定された方法に従い、窒素吸着法により比表面積を求めた。
【0051】
(3)Dbet
Dbet(μm)は、6/((比表面積(m/g)× 粉末の真密度(g/cm))より算出した。原料水酸化アルミニウム、球状アルミナの真密度の値は、それぞれ、2.4、3.7を用いた。
【0052】
(4)粉末X線回折測定
粉末X線回折測定装置〔リガク社製 「RINT−2000」〕を用いて、水酸化アルミニウム粉末を測定用ガラスセルに圧密して充填した後、以下の条件で測定した。X線源としてはCuを用いた。
<測定条件>
ステップ幅:0.02deg
スキャンスピード:0.04deg/sec
加速電圧:40kV
加速電流:30mA
【0053】
(5)ピーク強度比I(110)/I(002)
粉末X線回折により測定した結果から、JCPDSカードNo.70−2038と照らし合わせ、2θが18.3°の位置に現れるピークを結晶面(002)、20.3°の位置に現れるピークを結晶面(110)として、それぞれのピークの高さから、ピーク強度比I(110)/I(002)を求めた。
【0054】
(6)NaO含有量
水酸化アルミニウム粉末中に含まれるNaO含有量は、水酸化アルミニウム粉末を空気雰囲気下1100℃で2時間仮焼した後、JIS−R9301−3−9に規定された方法に従い求めた。
【0055】
(7)溶解性Na量
球状アルミナ粉末1gを常温の純水10ml中に加え、10秒間攪拌した後、遠心分離により固液分離を行って得られた上澄みを採取し、液中に抽出された溶解性Naを、イオンクロマトを用いて測定した。
【0056】
(8)ウラン含有量
水酸化アルミニウム粉末、球状アルミナ粉末を、硫酸とリン酸の混合水溶液中で加熱することにより、粉末を溶解させて水溶液を調製した。その後、ウランの抽出剤として汎用されるリン酸トリブチルのシクロヘキサン溶液と接触させることで、該水溶液中に含まれるウランを抽出した。その後、再度純水と接触させる逆抽出により水相に移したウランを、ICP−MSを用いてU238amuの強度により測定した。なお、検量線の作成には、SPEX社製標準溶液を用いた。
【0057】
(9)捕集率
サイクロンでの捕集率(%)は、以下の計算式で算出した。
捕集率(%)=(サイクロンで捕集された量(g))/(供給原料量(g)×102/156)×100
[式中、102はアルミナの分子量であり、156はギブサイト型水酸化アルミニウムの分子量である。]
【0058】
〔実施例1〕
原料水酸化アルミニウムとして、SiO換算で0.1重量%相当のシランカップリング剤で表面処理した、比表面積:1.2m/g、D10:1.5μm、D50:8.8μm、D90:17μm、D50/Dbet:4.2、D90/D10:11、ピーク強度比I(110)/I(002):0.38、NaO含有量:0.16重量%、ウラン含有量:5ppbの物性を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粉末を用いた。可燃性ガスと支燃性ガスから形成された1500℃以上の高温火炎中に水酸化アルミニウム粉末を供給・球状化した条件は以下の通りである。
(1)搬送ガス中の濃度(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/搬送ガス供給量(NL)):4.0
(2)火炎中の濃度(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/ガス供給量(NL)):0.4
(3)可燃ガス比(水酸化アルミニウム粉末供給量(g)/可燃性ガス供給量(NL)):2.4
(4)可燃性ガス/支燃性ガス比:0.23
なお、可燃性ガスにはLPGを、支燃性ガスおよび搬送ガスには酸素を用いた。その後、サイクロンにて粉末を捕集することにより、球状アルミナ粉末を得た。サイクロンによる捕集率は、84%であった。
【0059】
得られた球状アルミナ粉末は、比表面積0.6m/g、D50:7.7μm、D50/Dbet:2.7、D90/D10:2.8、溶解性Na量:139ppm、ウラン含有量:7ppbの物性を有していた。
【0060】
〔実施例2〕
原料水酸化アルミニウム粉末として、表1に示す物性を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粉末(表面未処理)を用いた以外は、実施例1と同様にして球状アルミナ粉末を得た。サイクロンによる捕集率は、81%であった。得られた球状アルミナ粉末の物性を、表2に示す。
【0061】
〔比較例1〕
原料水酸化アルミニウム粉末として、表1に示す物性を有するギブサイト型水酸化アルミニウム粉末(表面未処理)を用いた以外は、実施例1と同様にして球状アルミナ粉末を得た。サイクロンによる捕集率は、72%であった。得られた球状アルミナ粉末の物性を、表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表2に示す結果から、本発明の製造方法によれば、比表面積が小さく、ウラン含有量の少ない球状アルミナ粉末を生産性良く得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の製造方法によれば、比表面積が小さく、かつウラン含有量が少ない低α線量の球状アルミナ粉末を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着法により測定した比表面積が0.3m/g以上3m/g以下であり、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが10以下であり、かつ平均粒子径D50が2μm以上100μm以下である水酸化アルミニウム粉末を、火炎中に噴霧した後に粉末状で捕集することを特徴とする球状アルミナ粉末の製造方法。
【請求項2】
水酸化アルミニウム粉末の、粉末X線回折により測定した結晶型がギブサイト型であり、かつその結晶面(110)と(002)のピーク強度比(I(110)/I(002))が0.20以上であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水酸化アルミニウム粉末の、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で10重量%となる粒子径D10と、90重量%となる粒子径D90による粒度分布指数D90/D10が12以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
水酸化アルミニウム粉末のウラン含有量が10ppb以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50が2μm以上100μm以下であり、窒素吸着法により測定した比表面積が1m/g以下であり、平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが5以下であり、かつウラン含有量が10ppb以下であることを特徴とする、樹脂充填用球状アルミナ粉末。
【請求項6】
窒素吸着法により測定した比表面積が0.3m/g以上3m/g以下であり、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布において、微粒側からの累積で50重量%となる平均粒子径D50と、比表面積から算出した球換算粒子径Dbetとの比D50/Dbetが10以下であり、微粒側からの累積で10重量%となる粒子径D10と、90重量%となる粒子径D90による粒度分布指数D90/D10が12以下であり、X線回折により測定した結晶型がギブサイト型であり、かつその結晶面(110)と(002)のピークの強度比(I(110)/I(002))が0.20以上であることを特徴とする、球状アルミナ製造用水酸化アルミニウム粉末。
【請求項7】
ウラン含有量が10ppb以下であることを特徴とする、請求項6に記載の球状アルミナ製造用水酸化アルミニウム粉末。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−236118(P2011−236118A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91148(P2011−91148)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】