説明

球状弾性表面波モジュール

【課題】 整合回路での弾性表面波の損失を抑制できる球状弾性表面波モジュールを提供すること。
【解決手段】 球状弾性表面波モジュールは、球面の周回帯の一部である円弧状帯12を定義可能な3次元基材13と、円弧状帯12上に設けられ、円弧状帯12に沿って弾性表面波14を励起する電気音響変換素子15とを有する球状弾性表面波素子11と、球状弾性表面波素子11に接続された整合回路20とを具備してなり、整合回路20での弾性表面波14の損失が減少するように、整合回路20の入力端での反射損失を増加させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子と整合回路とを接続してなる球状弾性表面波モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に弾性表面波を発生させるとともに基材上に発生された弾性表面波を受信する弾性表面波素子は従来から良く知られている。弾性表面波とは、通常のバルク波と呼ばれる縦波や横波と異なり、物質表面にそのエネルギーの多くを集中して伝搬する弾性波である。弾性表面波としては、レーリー波、セザワ波、擬セザワ波、ラブ波等を例示することができ、異方性材料の表面にも存在しえる。
【0003】
従来の弾性表面波素子では、平坦な基材上に配置された平坦な圧電体上に1対のすだれ状電極が設けられている。一方のすだれ状電極に高周波電流が供給されることにより、基材上で一方のすだれ状電極の並んでいる方向に圧電体から弾性表面波が発生される。他方のすだれ状電極は、基材上で一方のすだれ状電極から発生される弾性表面波の移動方向に配置されていて上記弾性表面波を受け取る。
【0004】
弾性表面波素子は、遅延線、発信機のための発振素子および共振素子、周波数を選択するためのフィルター、化学センサ、バイオセンサまたはリモートタグ等に使用されている。1対のすだれ状電極の発生する弾性表面波の伝搬方向に対し直交する方向における上記弾性表面波の幅は、一般的に一方のすだれ状電極の複数の電極指の交差幅と他方のすだれ状電極の複数の電極指の交差幅とが相互に対面する長さに等しい。
【0005】
弾性表面波素子において1対のすだれ状電極間を伝わる弾性表面波の共振周波数の精度を高めるためには、1対のすだれ状電極相互間を弾性表面波が伝搬する際の伝搬損失をできる限り小さくすることが望まれている。しかしながら、通常の弾性表面波素子は1対のすだれ状電極が設けられている圧電体の表面および基材の表面が平坦であるので、一方のすだれ状電極により発生された弾性表面波は基材の平坦な表面上を他方のすだれ状電極に向かい伝搬する間に上記表面上で弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に拡散し弱まってしまう。このために弾性表面波の伝搬損失を小さくすることができず、ひいては弾性表面波素子における性能を高めることに限界がある。
【0006】
一方、非特許文献1においては、球上の弾性表面波の無回折伝搬による多重周回する報告がなされており、球上の弾性表面波を利用したセンサが報告されている。上記文献によれば、高感度、高速応答で、なおかつ機械的に丈夫なセンサヘッドおよびこれを用いたガスセンサ、更にはセンサヘッドを実装したセンサユニットが提供でき、大気中や気相化学プロセス等における種々のガス成分を分析する分野に利用可能である。
【0007】
また、特許文献1は、球形状の弾性表面波素子(以下、ボールSAWデバイスや球状弾性表面波素子と称することもある)を開示している。ボールSAWデバイスの基材は、弾性表面波が励起可能であり励起された弾性表面波を伝搬させることが可能な球形状の表面を有している。ボールSAWデバイスにおける電気音響変換素子は、基材の球形状の表面において円環状に連続している所定の幅を有した帯域に配置されており、前記表面に励起した弾性表面波を前記帯域が連続している方向に沿い伝搬させ繰り返し周回させるよう構成される。ボールSAWデバイスでは、基材の表面の円環状に連続している弾性表面波伝搬帯域に電気音響変換素子により励起された弾性表面波を、弾性表面波伝搬帯域内で実質的に減衰することなく上記表面を繰り返し周回させることができる。
【0008】
ここで、球状の基材に弾性表面波を多数回周回させる方法において、検討した結果、さらに以下のような課題があることが分かった。弾性表面波が多数回周回してすだれ状電極を伝搬するごとに、すだれ状電極で機械的に反射される成分が発生する。また、球状弾性表面波素子はインピーダンスが高く、多くの場合、伝送線路との整合をとる整合回路を接続して、高周波電気信号を入出力する。このとき、弾性表面波が多数回周回してすだれ状電極に達すると、すだれ状電極に電流が発生して整合回路が励起され、すだれ状電極に電位が発生し、その電位が弾性表面波を再励起する。
【0009】
このように、高周波電気信号を入力直後に励起される弾性表面波が、多数回周回して伝搬するに伴い、すだれ状電極で機械的に反射された弾性表面波の成分と、整合回路から再励起された弾性表面波の成分が周回ごとに増加して相互に強度のやりとりをして、混在して伝搬する。ここで、高周波電気信号を入力直後に励起された弾性表面波、機械的に反射された弾性表面波、再励起された弾性表面波の周波数特性が異なってしまうことが測定結果から確認された。
【0010】
すなわち、入力直後の弾性表面波の中心周波数が、すだれ状電極の中心周波数と異なると、機械的に反射された弾性表面波の中心周波数は、入力直後の弾性表面波とすだれ状電極の周波数特性の畳み込みの中心周波数となる。弾性表面波が多数回周回するとともに、機械的に反射された弾性表面波の成分が強まる。
【0011】
また、再励起された弾性表面波の周波数特性は、伝搬してきた弾性表面波とすだれ状電極と整合回路の周波数特性の畳み込みとなり、弾性表面波が多数回周回するとともに、すだれ状電極または整合回路の中心周波数の周波数成分が強まる。
【0012】
通常の平面基板の弾性表面波素子と異なる、球状弾性表面波での多数回周回する特徴は、このような、弾性表面波が伝搬するとともにすだれ状電極での機械的反射や、整合回路での再励起が多数回、影響を及ぼすことを引き起こす。また、再励起の際、整合回路の抵抗成分で弾性表面波の電力が消費され、減衰が大きくなることが測定結果から確認されている。弾性表面波の周波数特性が変化していき、複数の中心周波数が生じてくることは、周波数分散や、波形の歪みなどを引き起こすため望ましくなく、このような特性を把握した上で、整合回路での弾性表面波の減衰を低減して回周回の低減を抑制するとともに、周波数分散や波形の歪みを抑圧する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開 WO 01/45255 号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会技術研究報告(Technical Report of Institute of Electronics, Information and Communication Engineers)US2000 巻14号(2000)p.49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、整合回路での弾性表面波の損失を抑制できる球状弾性表面波モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様による球状弾性表面波モジュールは、球面の周回帯の一部である円弧状帯を定義可能な3次元基材と、前記円弧状帯上に設けられ、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子とを有する球状弾性表面波素子と、前記球状弾性表面波素子に接続された整合回路とを具備してなり、前記整合回路での前記弾性表面波の損失が減少するように、前記整合回路の入力端での反射損失を増加させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、整合回路での弾性表面波の損失を抑制できる球状弾性表面波モジュールを実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを用いた弾性表面波センサを示す実施図である。
【図2】整合回路の反射損失を変化させたときの反射損失と周回数の関係を示す模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを示す模式図である。
【図4】反射損失を変化させたときの、時間と多数回周回した弾性表面波の強度の包絡線との関係を示した模式図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを示す模式図である。
【図6】本発明の第3の実施形態を示信号の波形図である。
【図7】整合回路の構成例を示す等価回路図である。
【図8】電気音響変換素子の配置例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1、図2を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを用いた弾性表面波センサを示す実施図である。
【0020】
球状弾性表面波素子11は、球面の周回帯の一部である円弧状帯12を定義可能な曲面を有する3次元基材13と、3次元基材13の円弧状帯12上に位置し、円弧状帯12に沿って弾性表面波14を励起する電気音響変換素子15を備える。弾性表面波14を励起し測定するために高周波信号発生部16、切り替え部17、アンプ18および検出・出力部19を備えている。高周波信号発生部16、切り替え部17などの特性インピーダンスは通常50オームであり、球状弾性表面波素子11は、例えば3次元基材13が水晶で、円弧状帯12の直径が3.3mm、電気音響変換素子15が150MHzの弾性表面波14を励起する10対のすだれ状電極であった場合、数千オーム程度となり、特性インピーダンスよりはるかに高い値となる。そのため、整合回路20で整合を球状弾性表面波素子11に接続して整合をとる球状弾性表面波モジュール21として、高周波信号発生部16から高周波電気信号を球状弾性表面波素子11に、効率的に伝送できるようにする。
【0021】
図7(a)および図7(b)に、整合回路20の構成例を示す。図7(a)は、球状弾性表面波素子11に対して2個の可変コンデンサC1,C2を並列に接続し、これらの2個の可変コンデンサC1,C2の間にコイルLを直列に接続してなるπ形の構成を示している。一方、図7(b)は、球状弾性表面波素子11に対して2個の可変コンデンサC1,C2を直列に接続し、これらの2個の可変コンデンサC1,C2の間にコイルLを並列に接続してなるT形の構成を示している。可変コンデンサC1,C2の少なくとも一方を調整することで、整合回路20での弾性表面波14の損失(電力損失)が減少するように、整合回路20の入力端での反射損失を増加させることができる。
【0022】
電気音響変換素子15は、所謂オルターニット・フェーズアレイであり、高周波信号発生部16から切替部17、整合回路20を介して供給された高周波電気信号を圧電変換して弾性表面波14を励起する。電気音響変換素子15が当該分野においては既知の一般的なすだれ状電極の場合、弾性表面波14は双方向に励起される。さらに、電気音響変換素子15は、円弧状帯12を伝搬して多重周回した弾性表面波を圧電変換して、再び高周波電気信号に変換する機能をも兼ねている。
【0023】
電気音響変換素子15で弾性表面波14から再び高周波電気信号に圧電変換された高周波電気信号は、切替部17、整合回路20を介して、アンプ18で増幅され、検出・出力部19に供給され、検出・出力部19で検出される。切替部17は、高周波信号発生部16と検出・出力部19を切り換える。高周波信号発生部16から高周波電気信号を電気音響変換素子15に供給して、電気音響変換素子15が弾性表面波14を送出後、所定の反射回数(第n周回:n≧1)目の弾性表面波が戻ってくる前に、電気音響変換素子15からの信号経路を検出・出力部19に切り換える。勿論、高周波信号発生部16から電気音響変換素子15の方向、および電気音響変換素子15から検出・出力部19の方向への、方向性結合回路等でも構わない。
【0024】
球状弾性表面波素子11を、ガスセンサとして用いる場合、円弧状帯12に感応膜22を設ける。感応膜22は、特定のガスと接触することにより、弾性表面伝搬速度に変化を及ぼすものであることが必要である。例えば、気体を表面に吸着させ、その質量効果により弾性表面波の伝搬速度が遅くなっても良いし、あるいは、気体を感応膜22内に吸蔵し、その薄膜の機械的堅さが変化し、弾性表面波の伝搬速度や減衰に変化を及ぼすものでも良い。さらには、気体と反応することにより吸熱あるいは発熱反応を起こし、弾性表面波の伝搬速度に影響を及ぼすものであっても良い。この感応膜22は、特定の気体とのみ選択的に反応を起こし、なおかつ、可逆反応を起こす材料であることが望ましい。
【0025】
例えば、このような感応膜22として、水素(H2)を収蔵し、水素化物を形成して機械的性質が変化するパラジウム(Pd)、アンモニア(NH3)に対する吸着性が高いプラチナ(Pt)、水素化物を吸着する酸化タングステン(WO3)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)等を選択的に吸着するフタロシアニン(Phthalocyanine)等が知られている。
【0026】
ここで、弾性表面波14が多数回周回して、電気音響変換素子15を伝搬すると、圧電効果により電圧が発生し、電流が整合回路20に流れ、再び弾性表面波が励起され、弾性表面波14に加わる。このとき、電気音響変換素子15と整合回路20の抵抗成分によって、圧電効果で発生した電力が消費される。そこで、整合回路20において、伝送路に対する反射損失を大きくすれば、テブナンの定理の関係から、電気音響変換素子15から、整合回路20に流れる電流も少なくなり、そのため整合回路20での弾性表面波14の電力の消費が少なくなり、弾性表面波14がより多数回周回すると考えられる。
【0027】
この影響を、整合回路20の反射損失を変化させて測定した。図2は整合回路20の反射損失を変化させたときの反射損失と周回数の関係を示す模式図である。図2では、高周波信号発生部16からインパルス信号を入力し、62周までの弾性表面波14の強度を測定した。用いた球状弾性表面波素子11は、3次元基材13として直径3.3mmの水晶球であり、電気音響変換素子15として、150MHzの中心周波数の弾性表面波14を励起する、正規型すだれ状電極を用いた。
【0028】
図2(d)のように、反射損失(SパラメーターのS11)が−0.5デシベル、すなわち、ほとんど反射損失なく球状弾性表面波素子11に電力を伝送した場合に比較し、反射損失が−6デシベルの図2(c)、−8デシベルの図2(b)、−22デシベルの図2(a)と、反射損失を大きくするにつれて、減衰が少なくなっている(消費電力の減少)。このように、反射損失を大きくすることで、整合回路20での弾性表面波14の減衰(電力の消費)は小さくなり、弾性表面波14の周回回数は多くなる。このように弾性表面波14の周回回数が多くなることで、センサとしての感度を高めることができる。
【0029】
以下に図3、図4を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0030】
(第2の実施形態)
図3は本発明の第2の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを示す模式図である。
【0031】
球状弾性表面波素子31に整合回路32を接続して、球状弾性表面波モジュール33として高周波信号源34、伝送路35と整合をとる。球状弾性表面波素子31のインピーダンスは数千オーム以上であり非常に高く、一般的な伝送路の特性インピーダンスである50オームとの整合ロスが大きく、整合回路32が必要となる。
【0032】
ここで、反射損失36を大きくすることで、球状弾性表面波素子31での弾性表面波の周回数が増えることを第1の実施形態で示した。反射損失36を大きくして、球状弾性表面波素子31での弾性表面波の周回数が増えることに関しては、周回数に比例して第2の実施形態で示した場合のセンサ利用時などのSN比が高くなるが、高周波信号源34から一定の強度で高周波信号を入力した場合、反射損失36が大きくなることで、一周目の弾性表面波の強度は低下し、強度に関してはSN比が低下する。そこで、高周波信号源34から入力できる高周波信号の強度に一定の制限がある範囲において、反射損失36による弾性表面波の一周目の強度の低下と、周回数が増えることの相反する関係から、最も高いSN比となる整合回路の条件を求めることができる。
【0033】
図4は、反射損失を変化させたときの、時間と多数回周回した弾性表面波の強度の包絡線との関係を示した模式図である。ここでは、高周波信号源34から入力する高周波信号の入力強度が、一定であるとする。反射損失35を変化させたとき、反射損失35の小さい弾性表面波波形41では、弾性表面波の一周目の強度が高くなるが、時間とともに、すなわち大きい周回数になるにつれての減衰が大きくなる。逆に、反射損失の小さい弾性表面波波形42では、弾性表面波の一周目の強度が低くなるが、時間とともに、すなわち大きい周回数になっても減衰が小さい。
【0034】
それぞれの反射損失条件での弾性表面波波形41と、弾性表面波波形42での、センサとしてのSN比は、周回時間44と信号強度45の積、および、周回時間44と信号強度46の積と雑音レベル43の比から求められ、この場合、弾性表面波波形41のほうが、あきらかにSN比が高くなる。このように、一定の雑音強度のもとでは、反射損失を変化させ、周回時間と信号強度の積が、最も高くなる反射損失とすることで、最もSN比を高くすることができる。高周波信号源34から入力する高周波信号の入力強度や、ここでは図示していないが検出・測定部のアンプの増幅率を変化させて、信号強度、雑音強度が変化する場合でも同様に求められる。
【0035】
(第3の実施形態)
以下に図5、図6を参照して本発明の第3の実施の形態を説明する。図5は本発明の第3の実施形態に係る球状弾性表面波モジュールを示す模式図である。図6は、本発明の第3の実施形態を示す信号の波形図である。
【0036】
整合回路51が球状弾性表面波素子のすだれ状電極52に接続された、球状弾性表面波モジュール53において、すだれ状電極52の中心周波数と、整合回路51の中心周波数が異なるとする。すだれ状電極52の中心周波数は、すだれ状電極52のピッチと、3次元基材54での弾性表面波の音速から定まる。整合回路51の中心周波数と、すだれ状電極52の中心周波数が異なるとき、球状弾性表面波モジュール53の入力端55から、インパルス信号を入力する。
【0037】
入力端55にインパルス信号が入力されると、多数回周回する弾性表面波が励起される。一周目のインパルス応答波形61では、中心周波数は整合回路51の中心周波数となる。しかし、弾性表面波が多数回周回する際、弾性表面波56がすだれ状電極52に入射すると、すだれ状電極52が3次元基材55上に存在することによって生ずる音響特性の変化により、弾性表面波の機械的に反射した弾性表面波57が発生する。また、弾性表面波56がすだれ状電極52に電位を発生し、電流58が整合回路51を流れ、再励起した弾性表面波59を発生する。
【0038】
このとき、機械的に反射した弾性表面波57の中心周波数は、すだれ状電極53の周波数特性と、入射する弾性表面波56の積の中心周波数となる。一方、再励起した弾性表面波59は、整合回路51の中心周波数となる。そのため、弾性表面波が多数回周回するとともに、m周目のインパルス応答波形62では、波形が分離していき、波形に2個のピークが現れる。2個のピークはそれぞれ、周波数では、整合回路51の中心周波数と、すだれ状電極53の中心周波数である。さらに多数回周回したn周目のインパルス応答波形63では、さらに波形の分離が進む。このように、整合回路51とすだれ状電極52の中心周波数が異なると、周回するとともに波形が分離し、複数のピークの中心周波数が生じてしまう。
【0039】
複数のピークの中心周波数が生ずると、わずかに異なる周波数が混在することによるビートを引き起こすことや、波形において複数のピークが生ずること、また周回ごとに周波数特性が異なることによって周回時間が一定でないことなどの問題が生ずる。弾性表面波が従来にない多数回周回する特徴がある球状弾性表面波素子において、整合回路51とすだれ状電極52の中心周波数を等しくすることで、波形や周波数特性において複数のピークが生ずることを防ぐことができる。
【0040】
次に、図8を参照し、すだれ状電極の配置(電極配置)について説明する。図8において、70は、水晶のような圧電性単結晶の基材を示しており、この基材70は、球面の一部で形成され最大径の外周線を含み円環状に延出している表面領域71(円弧状帯)を含んでおり、表面領域71には弾性表面波が励起可能であり励起された弾性表面波を表面領域71の円環状の延出方向に沿い周回させることが可能である。ここでは、基材70は球形状であるが、表面領域12以外の部分を削除した形状としても構わない。Z軸は上記外周線の中心を通る上記球面の中心軸である。
【0041】
図8には、2種類の電極配置72,73が示されている。電極配置72(通常電極配置)では、すだれ状電極の配置は基材70の赤道上に沿って配置される。一方、電極配置73(蛇行電極配置)では、すだれ状電極の配置は、基材70の赤道上に沿って配置され、かつ、表面領域71内において蛇行して配置される。本発明者の鋭意研究によると、電極配置73(蛇行電極配置)は電極配置72(通常電極配置)に比べて、良い特性(弾性表面波の強度や減衰定数や周回速度)が得られることが分かった。これにより、弾性表面波素子の個体差を解消して、球状弾性表面波モジュールの量産化が可能となる。
【0042】
第1−第3の実施形態で述べた効果は、どちらの電極配置72,73を採用しても得られるが、上記の説明から分かるように、電極配置73を採用したほうが好ましい。また、第1−第3の実施形態で述べた効果は、少なくとも球面の一部で形成されていて円弧状帯である表面を有している基材を採用した場合でも得られる。
【0043】
さらに、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0044】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0045】
11…球状弾性表面波素子
12…円弧状帯
13…3次元基材
14…弾性表面波
15…電気音響変換素子
16…高周波信号発生部
17…切り替え部
18…アンプ
19…検出・出力部
20…整合回路
21…球状弾性表面波モジュール
22…感応膜
31…球状弾性表面波素子
32…整合回路
33…球状弾性表面波モジュール
34…高周波信号源
35…伝送路
36…反射損失
41…弾性表面波波形
42…弾性表面波波形
43…雑音強度
44…周回時間
45…信号強度
46…信号強度
51…整合回路
52…すだれ状電極
53…球状弾性表面波モジュール
54…3次元基材
55…入力端
56…弾性表面波
57…機械的に反射した弾性表面波
58…電流
59…再励起した弾性表面波
61…一周目のインパルス応答波形
62…m周目のインパルス応答波形
63…n周目のインパルス応答波形
71…表面領域
72…通常電極配置
73…蛇行電極配置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の周回帯の一部である円弧状帯を定義可能な3次元基材と、前記円弧状帯上に設けられ、前記円弧状帯に沿って弾性表面波を励起する電気音響変換素子とを有する球状弾性表面波素子と、
前記球状弾性表面波素子に接続された整合回路と
を具備してなり、
前記整合回路での前記弾性表面波の損失が減少するように、前記整合回路の入力端での反射損失を増加させたことを特徴とする球状弾性表面波モジュール。
【請求項2】
前記整合回路に入力される信号の強度が一定の場合、前記球状弾性表面波素子のSN比が最も高くなるように、前記整合回路の入力端での前記反射損失が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の球状弾性表面波モジュール。
【請求項3】
前記整合回路の中心周波数と前記電気音響変換素子の中心周波数とが一致することを特徴とする請求項1または2に記載の球状弾性表面波モジュール。
【請求項4】
前記整合回路は、前記球状弾性表面波素子に対して2個の可変コンデンサを並列に接続し、これらの2個の可変コンデンサの間にコイルを直列に接続してなるπ形の構成、または、前記球状弾性表面波素子に対して2個の可変コンデンサを直列に接続し、これらの2個の可変コンデンサの間にコイルを並列に接続してなるT形の構成を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の球状弾性表面波モジュール。
【請求項5】
電気音響変換素子は、前記円弧状帯内において蛇行して配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の球状弾性表面波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−278863(P2010−278863A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130435(P2009−130435)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】