説明

球状物に印刷する方法、及びそれに用いるパッド

【課題】 球状の被印刷物の少なくとも半球部分を1回のパッドの押し当てで印刷することができるとともに、この球状の被印刷物に印刷される画像に生じる伸び及び歪みを抑えることができる印刷方法、およびそれに用いる印刷用パッドを提供する。
【解決手段】 転写面13aを有する中空の印刷用パッド10は、転写面13aが押されると、中空部分14内の気体が印刷用パッド10の外部へと抜けるように構成されている。凹部が形成された版面にインク又は塗料を塗布し、この版面に印刷用パッドの転写面13aを押し当てて、凹部内のインク又は塗料を印刷用パッドの転写面13aに転写する。被印刷物1の少なくとも半球部分が印刷用パッドの転写面13aに包み込まれるまで、このインク又は塗料が転写された印刷用パッドの転写面13aを被印刷物1に押し当てて、インク又は塗料を被印刷物1に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール等の球状の被印刷物に印刷を行う方法に関する。また、本発明は、このような印刷に用いるパッド、及びこのような印刷により印刷されたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
文字や絵柄などの画像を印刷する装置としてパッド印刷装置がある。このパッド印刷装置は、弾性なパッドを備えている。印刷する画像に応じて凹部が形成された版面に、インクを塗布し、凹部内にインクを充填した後、この版面にパッドを押し当てて版面の凹部内のインクをパッドに転写し、さらにこのパッドを被印刷物に押し当てて、インクを被印刷物に転写することで、被印刷物に画像が印刷される。パッドが弾性であることから、パッド印刷装置は、平面だけでなく、例えば、特開2004−243033号公報に記載されているように、ゴルフボール等の曲面部分にも印刷することができる。
【0003】
しかしながら、従来のパッド印刷装置で、球状の被印刷物の全表面に印刷をしようとすると、以下の問題がある。球状の被印刷物の全表面に印刷を行う場合、通常は、球状の被印刷物を4面体以上の多面体に置き換えて、この面数に応じた回数のパッドの押し当てを行う。よって、球の全面を印刷するには、4回以上の多数回のパッドの押し当てが必要となり、生産性が低い。
【0004】
また、球状の面にパッド印刷する場合、製版作業が非常に煩雑となる。例えば、略円錐形状のパッドを使って球状の面に印刷を行う場合、平面状の版面に形成された画像は、パッドの中心から外側に向かうに従って、画像が長く伸びるように歪んで、球状の面に印刷される。そのため、球状の面に印刷する画像を平面状の版面に形成する場合は、このような画像の歪みを考慮して、画像の長さやインク溝の深さを補正して、製版する必要がある。
【0005】
印刷する面数が増えれば、作製すべき版板の数が増えることから、印刷面数の増加は、上記の製版作業に更に負担を与える。また、各版面の画像は、互いに位置を合わせて、被印刷物の球状の面に転写される必要がある。よって、印刷面数の増加は、この位置を合わせて画像を転写する作業にも大きな負担を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−243033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、球状の被印刷物の少なくとも半球部分を1回のパッドの押し当てで印刷することができるとともに、この球状の被印刷物に印刷される画像に生じる伸び及び歪みを抑えることができる印刷方法、およびそれに用いる印刷用パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一態様として、球状の被印刷物に印刷を行う方法であって、転写面を有する中空の印刷用パッドを用意するステップであって、この印刷用パッドは、前記転写面が押されると、前記中空部分内の気体が前記印刷用パッドの外部へと抜けるように構成されているステップと、凹部が形成された版面にインク又は塗料を塗布し、この版面に前記印刷用パッドの転写面を押し当てて、前記凹部内のインク又は塗料を前記印刷用パッドの転写面に転写するステップと、前記被印刷物の少なくとも半球部分が、前記印刷用パッドの転写面に包み込まれるまで、前記インク又は塗料が転写された前記印刷用パッドの転写面を、前記被印刷物に押し当てて、前記印刷用パッドの転写面に転写された前記インク又は塗料を前記被印刷物に転写するステップとを含む。
【0009】
前記印刷用パッドの中空部分の体積は、前記被印刷物の体積よりも大きくしてもよい。前記印刷用パッドは、前記中空部分を規定する内面を有しており、前記印刷用パッドを前記被印刷物に押し当てる方向に対して垂直な面における前記内面間の最大距離は、前記被印刷物の直径よりも大きくしてもよい。前記印刷用パッドの中空部分の、前記印刷用パッドを前記被印刷物に押し当てる方向の長さは、前記被印刷物の直径よりも長くしてもよい。
【0010】
前記印刷用パッドは、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面を有しており、前記側面と前記内面との間のパッドの厚さは、前記転写面と前記内面との間のパッドの厚さよりも大きくしてもよい。この側面におけるパッドの硬さは、前記転写面におけるパッドの硬さよりも硬くしてもよい。前記側面と前記内面との間に、パッドの曲げ剛性を高める構造物を配置してもよい。この側面の外周を取り囲むように、円筒形状の構造物を配置してもよい。この側面には、少なくとも3つの切り込みを設けてもよい。
【0011】
本発明に係る印刷方法は、前記被印刷物の半球部分を印刷した後、再度、前記版面にインク又は塗料を塗布し、この版面に前記印刷用パッドの転写面を押し当てて、前記版面の凹部内のインク又は塗料を前記印刷用パッドの転写面に転写するステップと、前記被印刷物の残りの半球部分が、前記印刷用パッドの転写面に包み込まれるまで、前記インク又は塗料が転写された前記印刷用パッドの転写面を、前記被印刷物の残りの半球部分に押し当てて、前記印刷用パッドの転写面に転写された前記インク又は塗料を前記被印刷物に転写するステップとを更に含んでもよい。
【0012】
前記被印刷物は、ゴルフボール、パークゴルフボール、グランドゴルフボール、又はテニスボール等がよい。
【0013】
本発明は、別の態様として、ゴルフボールであって、上記の方法により印刷されたゴルフボールである。
【0014】
本発明は、また別の態様として、ゴルフボールの表面に印刷を行うためのパッドであって、略半球状又は略円錐状の転写面と、前記パッドの中空部分を規定する内面とを含み、前記転写面が押されると、前記中空部分内の気体が前記印刷用パッドの外部へと抜けるように構成されているパッドである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、球状の被印刷物の少なくとも半球部分を1回のパッドの押し当てで印刷することができるとともに、この球状の被印刷物に印刷される画像に生じる伸び及び歪みを抑えることができる印刷方法、およびそれに用いる印刷用パッドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る印刷用パッドの一実施の形態を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示す印刷用パッドの底面図である。
【図3】図1に示す印刷用パッドの側断面図である。
【図4】図1に示す印刷用パッドを用いてゴルフボールを印刷する方法を模式的に示す側断面図である。
【図5】本発明に係る印刷用パッドの別の実施の形態を模式的に示す側面図である。
【図6】図5に示す印刷用パッドの底面図である。
【図7】本発明に係る印刷用パッドのまた別の実施の形態を模式的に示す側断面図である。
【図8】本発明に係る印刷用パッドのもう別の実施の形態を模式的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を詳しく説明するための例示であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0018】
図1〜3に、本発明の第1の実施形態を示す。図1及び2に示すように、この実施形態の印刷用パッド10は、パッド本体12と、このパッド本体を支持するパット支持部16とを含んでいる。パッド本体12は、パット支持部16と接合する端と反対側の先端において、転写面13aを有する。この転写面13aは、球状の被印刷物と接触する部分である。図1〜2には、略半球状の転写面13aを示したが、本発明の転写面は、この形状に限定されない。パッド本体12は、この転写面に隣接する円柱状の側面13bを有する。この側面13bが、パット支持部16と接合している。
【0019】
印刷用パッド10は、転写面13aを先頭とする方向に向かって移動し、この転写面13aが球状の被印刷物に押し当てられるように、パッド印刷装置(図示省略)に取り付けられている。本明細書において、この印刷用パッド10が移動する方向を、「押し当て方向」という。パッド印刷装置については、ここに引用することで本明細書の一部をなすものとする、上述した特開2004−243033号公報に開示されている。
【0020】
図3に示すように、パッド本体12は、中空になっており、中空部分14を規定する内面15を有する。中空部分14は、パッド本体12の内側先端面15aと、この内側先端面と隣接するパッド本体12の内側側面15bと、パット支持部16の内面17とによって、囲まれている。パッド本体12の内側先端面15aは、凹状(concave)の形状を有している。パッド本体12の内側側面15bは、断面環状の形状を有している。このように、図3には、押し当て方向に沿った断面がU字形の形状を有するパッド本体12を示したが、本発明のパッド本体の形状は、これに限定されない。
【0021】
パッド本体12の内径D、すなわち、押し当て方向に対して垂直な面における内側側面13b間の最大距離は、球状の被印刷物1の直径dよりも大きいことが好ましい。パッド本体12の内径Dと被印刷物1の直径dとの関係は、D≧1.2dが好ましく、D≧1.4dがより好ましく、D≧1.6dがさらに好ましい。また、パッド本体12の内径Dが大きくなり過ぎると、転写面13aが球状の被印刷物1を押す力が、押し当て方向に対して垂直な方向において、顕著に弱まるため、内径Dと直径dの関係は、D≦2.5dが好ましく、D≦2.3dがより好ましく、D≦2.2dがさらに好ましい。
【0022】
中空部分14の押し当て方向の長さL、すなわち、パッド本体12の内側先端面15aとパット支持部16の内面17との間の距離は、球状の被印刷物1の直径dよりも大きいことが好ましい。中空部分14の押し当て方向の長さLと被印刷物1の直径dとの関係は、L≧1.2dが好ましく、L≧1.4dがより好ましく、L≧1.5dがさらに好ましい。また、中空部分14の押し当て方向の長さLが必要以上に長くなると、印刷用パッドが無駄に長くなるだけなので、L≦2.0dが好ましく、L≦1.9dがより好ましく、L≦1.8dがさらに好ましい。
【0023】
中空部分14の体積Vは、球状の被印刷物1の体積vよりも大きいことが好ましい。これにより、パッド本体の接触面13aが球状の被印刷物1の少なくとも半球面を包み込むように、パッド本体12が変形することを確実にすることができる。中空部分14の体積Vと被印刷物1の体積vとの関係は、V≧1.5vが好ましく、V≧2.3vがより好ましい。また、中空部分14の体積Vが大きくなり過ぎると、パッド本体12が不要に大きくなるため、装置全体も大きくなるとともに、パッド本体が被印刷物1を包み込んだ際の球側面への押し圧も弱まる。よって、V≦7.5vが好ましく、V≦5.0vがより好ましい。
【0024】
外側側面13bと内側側面15bとの間のパッド本体の厚さTは、転写面13aと内側先端面15aとの間のパッド本体の厚さTよりも大きいことが好ましい。これにより、球状の被印刷物1の半球面という広い面積に、パッド本体12の転写面13aを強い力で確実に接触させることができる。パッド本体12の側面の厚さTと転写面における厚さTとの関係は、T≧1.2Tが好ましい。また、側面の厚さTが厚過ぎると、パッド本体12が不要に大きくなるため、装置全体も大きくなるとともに、側面が変形しにくくなるので、転写面が伸びるようになり、印刷画像に歪みが発生しやすくなる。よって、T≦2.5Tが好ましい。
【0025】
また、転写面13aにおけるパッド本体の厚さTは、球状の被印刷物1の直径dよりも小さいことが好ましい。転写面13aにおけるパッド本体の厚さTと球状の被印刷物の直径dとの関係は、T≧0.1dが好ましく、T≧0.3dがより好ましい。転写面13aにおける厚さTの上限として、T≦0.6dが好ましく、T≦0.8dがより好ましい。
【0026】
パッド本体12の材料としては、弾性材料を用いることが好ましい。弾性材料は、パッド本体12をゴルフボール等の球状で剛性の被印刷物1に押し当てた際に、この球状物を包み込むように変形し、パッド本体12に加えた力を除くと、元の形状に戻る程度の弾性を有していれば、特に限定されない。このような弾性材料の具体例としてはシリコーンゴムがある。パッド本体12に使用し得るシリコーンゴムとしては、信越化学工業社製のKE1241やKE1243、東レダウコーニング社製のDY35−109が商業的に入手可能である。
【0027】
パッド本体12の外側側面13bの硬度を、パッド本体12の転写面13aの硬度よりも大きくすることが好ましい。これにより、上述したパッド本体12の厚さを転写面と外側側面とで変える場合と同様に、球状の被印刷物1の半球面という広い面積に、パッド本体12の転写面13aを強い力で確実に接触させることができる。パッド本体12の転写面13aと外側側面13bとの間の硬度(日本ゴム協会標準規格SRIS0101に準拠し、テクロック社製デュロメータ(ゴム・プラスチック硬度計)GS−701Nで計測)の差は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、硬度の差が大きすぎても、側面が変形しにくくなるため、硬度の差は、40以下が好ましく、30以下がより好ましい。軟化剤を弾性材料に添加することで、転写面13aの硬度を調整することができる。使用し得る軟化剤としては、信越化学工業社製のRTVシンナーが商業的に入手可能である。
【0028】
パッド本体12の転写面13aの硬度(上記GS−701Nで計測)は、25以下が好ましく、20以下がより好ましい。パッド本体12の外側側面13bの硬度は、(上記GS−701Nで計測)は、30以上が好ましく、35以上がより好ましい。
【0029】
パット支持部16の材料としては、剛性材料を用いることが好ましい。剛性材料は、パッド本体12を被印刷物に押し当てた際に、パッド本体12を十分に支持できる程度の剛性を有していれば、特に限定されない。このような剛性材料の具体例としては、金属板やベニヤ板(合板)がある。パット支持部16には、中空部分14と印刷用パッド10の外部又は外気とを流体連通する穴18が設けられている。
【0030】
次に、このように構成した印刷用パッド10によって、球状の被印刷物1の表面に印刷をする方法について説明する。版面(図示省略)には、球状の被印刷物1の表面に印刷すべき画像に応じて、凹部を形成されている。版面は、平面状が好ましい。先ず、この版面にインクを塗布し、凹部内にインクを充填した後、この版面に、印刷用パッド10の転写面13aを押し当てて、版面の凹部内のインクを印刷用パッド10の転写面13aに転写する。
【0031】
そして、このインクが転写された印刷用パッド10の転写面13aを、今度は、球状の被印刷物1に押し当てる。パッド本体12の転写面13aが押されると、図4に示すように、パッド本体12の内側先端面15aが、パッド支持部16の方向に押される。押された内側先端面15aとパッド支持部16との間に存在する中空部分14内の空気は、パッド支持部16に設けられた穴18から印刷用パッド10の外部へと抜ける。これにより、パッド本体12の転写面13aは、球状の被印刷物1の少なくとも半球部分を包み込むのに十分な程度の変形を起こすことができる。
【0032】
また、中空部分14内の空気を抜くことから、転写面13aを全体的に大きく変形させても、転写面13aの中心部分と周辺部分との間におけるパッドの変形率の差を小さくすることができる。しがたって、パッド本体の転写面13aから被印刷物1の半球面に転写される画像が、転写面13aの周辺部分において局部的に伸びたり、歪んだりするのを抑えることができる。
【0033】
このように、印刷用パッド10の転写面13aを球状の被印刷物1に押し当てることで、転写面13aに転写されたインクを、画像の局部的な伸び及び歪みを抑えて、被印刷物1の少なくとも半球面に転写することができる。球状の被印刷物1の全表面のうち、55%以上、より好ましくは60%以上の面に転写することができる。1度のパッド印刷でこのような広い面積を印刷することができることから、印刷の生産性が大きく向上する。
【0034】
インク転写後、印刷用パッド10を球状の被印刷物1から離すと、パッド本体12の転写面13aは元の略半球状の形状に戻る。なお、転写面を元の形状に戻すために、パッド本体12の中空部分14内に、パッド支持部16の穴18から空気をポンプ等の気体供給機(図示省略)によって強制的に送り込むことができる。
【0035】
球状の被印刷物1の全面に印刷を行う場合、上述のように1回目のパッド印刷した後、同一又は異なる版面(図示省略)にインクを塗布し、再度、この版面に印刷用パッド10の転写面13aを押し当てて、版面の凹部内のインクを転写面13aに転写する。そして、被印刷物1の残りの半球部分が、印刷用パッドの転写面13aに包み込まれるまで、印刷用パッド10の転写面13aを、被印刷物1の残りの半球部分に押し当てる。これにより、転写面13aに転写されたインクが、被印刷物1の残りの半球部分に転写され、よって、球状の被印刷物1の全面の印刷が完了する。
【0036】
球状の被印刷物1の半球面に画像を印刷するために、その印刷画像に応じて平面状の版面に形成される円形の画像部分の面積Sは、球状の被印刷物1の半球の表面積sと、次の関係を満たすようにすることが好ましい。上限としては、S≧0.85sが好ましく、下限としては、S≦0.95sが好ましい。版面の画像の面積Sをこのような範囲にすることで、本発明の印刷用パッドにより球状の被印刷物の半球面に転写する画像の歪みを抑えることができる。
【0037】
図5及び6に、本発明の第2の実施形態を示す。なお、これら図には、第1の実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付した。図5及び6に示すように、この実施形態の印刷用パッド10aでは、パッド本体12の側面13bの一部及び/又は転写面13aの一部に、パッド本体12を貫通する切り込み20が設けられている。転写面13aに切り込み20を設ける場合、転写面13aのうち、被印刷物1に印刷すべき画像がない部分に設ける。
【0038】
パッド本体12の側面13bの一部及び/又は転写面13aの一部に切り込み20があることで、印刷用パッド10aを被印刷物1に押し当てて、パッド本体12の転写面13aを変形させる際に、パッド本体12に皺が生じるのを防ぐことができる。また、印刷用パッド10aの転写面13aが押されると、パッド本体12の中空部分14の空気は、この切り込み20から外部に抜ける。よって、本実施形態では、パッド支持部16に、空気を排出するための穴を設ける必要はない。
【0039】
パッド本体12には、切れ込み20を3つ以上設けることが好ましい。また、複数の切れ込み20は、転写面13aの中心に、対称的に配置されることが好ましい。
【0040】
図7に、本発明の第3の実施形態を示す。なお、図には、第1の実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付した。図7に示すように、この実施形態の印刷用パッド10bでは、パッド本体12の外側側面13bと内側側面15bとの間に、構造物22が埋まっている。この構造物22により、パッド本体12の側面部分の曲げ剛性を高めることができる。これにより、球状の被印刷物1の半球面という広い面積に、パッド本体12の転写面13aを強い力で確実に接触させることができる。
【0041】
構造物22は、図7に示すように、パッド本体12内に完全に埋没させても良いが、パッド本体の外側側面又は内側側面の一部を形成するように、部分的に露出させてもよい。また、構造物22の形状は、図7に示すように、円筒形状でもよいし、断続的な複数の棒状の形状でもよい。構造物22の一端を、パッド支持部16に接合することが好ましい。
【0042】
構造物22は、パッド本体12の材料よりも高い曲げ剛性を有する材料から作製されている。このような材料としては、パッド本体12の側面に屈曲性を残すこと、及び加工性の観点から、例えば、ガラスクロス、カーボンクロス、及び不織布等を用いることが好ましい。構造物22が埋め込まれたパッド本体12は、パッド本体の成形時にパッド本体の母型の壁面部に構造物を予め配置し、金型内にシリコーン等の樹脂を注入、硬化させることで、一体的に成形することができる。構造物と樹脂との接着が悪い場合は、樹脂の注入前にプライマー液を構造物に含浸させることで接着性を改善できる。
【0043】
図8に、本発明の第4の実施形態を示す。なお、図には、第1の実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付した。図8に示すように、この実施形態の印刷用パッド10cでは、パッド本体12の外側側面13bの外周を取り囲むように、円筒形状の構造物24が配置されている。構造物24の一端は、パッド支持部16に接合されている。この外周に配置された構造物24により、パッド本体12の転写面13aが押された場合に、パッド本体12の側面部分が外側方向に変形するのを抑えることができる。よって、球状の被印刷物1の半球面という広い面積に、パッド本体12の転写面13aを強い力で確実に接触させることができる。
【0044】
パッド本体12の側面部分の変形を抑制し過ぎないように、パッド本体12の外側側面13bと構造物24の内側側面との間には、一定の距離を設けることが好ましい。パッド本体12の外側側面13bの直径Dと構造物24の内側側面の直径Dsとの関係は、Ds≧1.05Dpが好ましく、Ds≧1.1Dpがより好ましく、Ds≧1.2Dpがさらに好ましい。また、上述した距離が離れ過ぎても、パッド本体12の側面部分の変形を抑制できないので、Ds≦2.0Dpが好ましく、Ds≦1.8Dpがより好ましく、Ds≦〜1.6Dpがさらに好ましい。
【0045】
上記の第1から第4のいずれの実施形態でも、パッド本体12の転写面13aは略半球形(断面U字形)の形状を有しているが、本発明の印刷用パッドの転写面は、この形状に限定されない。本発明の印刷用パッドの転写面は、略円錐形(断面V字形)の形状を有することもできる。ゴルフボールの表面に印刷する場合、略半球形又は略円錐形の形状の転写面は、ゴルフボールの表面に多数形成された各ディンプルの面との間に空気を抱き込むのを防ぐことができることから、ゴルフボールの表面への画像の転写不良を防ぐことができる。
【0046】
転写面の凸形状の度合いは、転写面が略円錐形を有する場合、その頂点における角度αで、また、転写面が略半球形を有する場合、その仮想球の半径rで、表すことができる。角度α及び半径rを小さくすると、転写面の傾斜が大きくなることから、ディンプルと転写面の間に空気を抱き込み難くなるが、転写時の画像の歪みは大きくなる。よって、転写面が略円錐形の場合、角度αは、90度以上が好ましく、120度以上がより好ましい。また、角度αは、170度以下が好ましく、160度以下がより好ましい。転写面が略半球形の場合、半径rは、円柱状のパッド本体の半径の1.05倍以上が好ましく、1.3倍以上がより好ましい。また、半径rは、パッド本体の半径の2.5倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0047】
本発明の印刷用パッドで好適に印刷できる球状の被印刷物としては、ゴルフボール、パークゴルフボール、グランドゴルフボール、テニスボール等のスポーツ用のボールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の印刷用パッドには、従来のパッド印刷用のインクを使用できる。例えば、ビニル系、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系などの樹脂タイプのインクが使用できる。ゴルフボールに印刷する場合、ゴルフボールの打撃時の変形に耐えうるインクが好ましい。耐擦過傷性の観点から、硬化型のインクがより好ましい。二液硬化型のウレタン系インクが更に好ましい。
【0049】
具体的には、ここに引用することで本明細書の一部をなすものとする特開平10−234884号公報及び特開2003−253201号公報に開示されているインクを使用することが好ましい。前者のインクは、高い耐久性を有する。後者のインクは、高い耐磨耗性、耐衝撃性、及び耐候性を有する。これらのインクは、本発明の印刷用パッドでの転写が可能なように、溶剤により適宜希釈されて使用される。
【0050】
本発明の印刷用パッドにより印刷された被印刷物は、蒸発乾燥型、二液硬化型、紫外線硬化型等の従来のタイプの乾燥法を利用して、乾燥させることができる。ゴルフボールに印刷した場合、印刷がトップコートの下の印刷であれば、作業性の観点から、蒸発乾燥型で乾燥させることが好ましい。また、印刷がトップコートの上であれば、二液硬化型もしくは紫外線硬化型で乾燥させることができる。中でも、耐久性の観点から、二液硬化型が好ましい。
【0051】
本発明に係る印刷方法によれば、球面全体の印刷を、2回のパッド印刷で終えることができるので、作製すべき版板も2つで済むことから、製版作業が楽になる。特に、印刷する画像が、対称性のある図柄の場合、1種類の版板を用意すればよいので、製版作業が一層容易になる。また、半球面に印刷される画像に生じる伸び及び歪みが小さいことから、製版作業における画像の補正作業も、楽になる。さらに、印刷面積が大きくなるため、複数の画像を、位置を合わせて印刷することが容易になる。
【0052】
球状の被印刷物を所定の位置に固定するための治具は、被印刷物を回転させる必要がないため、単に印刷用パッドを被印刷物に押し当てる方向の反対側の方向から、球状の被印刷物を保持すればよく、複雑な保持方法を特に必要としないので、治具の簡素化ができる。
【0053】
本発明に係る印刷方法によれば、被印刷物の表面に文字や絵柄などを印刷する他、被印刷物の表面全体に塗料をパッド印刷して、被印刷物に均一な塗装を行うことができる。例えば、本発明の印刷方法は、ゴルフボールのトップコート等の塗装に適用することができる。この本発明の印刷方法を用いた塗装は、80%以上の塗着効率を見込むことができ、塗料のロスが劇的に減少し、印刷コストを大幅に下げることができる。また、スプレー塗装では必要な塗料ミストの捕集のための大掛かりな局所排気設備を、本発明の印刷方法では必要としないため、設備投資も抑えられる。さらに、大気中に放出される有機溶剤の量や、塗料廃棄物の発生量も大幅に減るため、環境に対する負荷を大きく低減できる。
【符号の説明】
【0054】
1 被印刷物(ゴルフボール)
10 印刷用パッド
12 パッド本体
13 パッド本体の外面
13a 転写面
13b 外側側面
14 中空部分
15 パッド本体の内面
15a 内側先端面
15b 内側側面
16 パッド支持部
17 パッド支持部の内面
18 穴
20 切り込み
22、24 構造物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の被印刷物に印刷を行う方法であって、
転写面を有する中空の印刷用パッドを用意するステップであって、この印刷用パッドは、前記転写面が押されると、前記中空部分内の気体が前記印刷用パッドの外部へと抜けるように構成されているステップと、
凹部が形成された版面にインク又は塗料を塗布し、この版面に前記印刷用パッドの転写面を押し当てて、前記凹部内のインク又は塗料を前記印刷用パッドの転写面に転写するステップと、
前記被印刷物の少なくとも半球部分が、前記印刷用パッドの転写面に包み込まれるまで、前記インク又は塗料が転写された前記印刷用パッドの転写面を、前記被印刷物に押し当てて、前記印刷用パッドの転写面に転写された前記インク又は塗料を前記被印刷物に転写するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記印刷用パッドの中空部分の体積が、前記被印刷物の体積よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記印刷用パッドが、前記中空部分を規定する内面を有しており、前記印刷用パッドを前記被印刷物に押し当てる方向に対して垂直な面における前記内面間の最大距離が、前記被印刷物の直径よりも大きい請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記印刷用パッドの中空部分の、前記印刷用パッドを前記被印刷物に押し当てる方向の長さが、前記被印刷物の直径よりも長い請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記印刷用パッドが、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面と、前記中空部分を規定する内面とを有しており、前記側面と前記内面との間のパッドの厚さが、前記転写面と前記内面との間のパッドの厚さよりも大きい請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記印刷用パッドが、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面を有しており、この側面におけるパッドの硬さが、前記転写面におけるパッドの硬さよりも硬い請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記印刷用パッドが、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面と、前記中空部分を規定する内面とを有しており、前記側面と前記内面との間に、パッドの曲げ剛性を高める構造物が配置されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記印刷用パッドが、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面を有しており、この側面の外周を取り囲むように、円筒形状の構造物が配置されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記印刷用パッドが、前記略半球状の転写面に隣接する円柱状の側面を有しており、この側面には、少なくとも3つの切り込みがある請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記印刷用パッドの転写面の硬さが25以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被印刷物の半球部分を印刷した後、再度、前記版面にインク又は塗料を塗布し、この版面に前記印刷用パッドの転写面を押し当てて、前記版面の凹部内のインク又は塗料を前記印刷用パッドの転写面に転写するステップと、
前記被印刷物の残りの半球部分が、前記印刷用パッドの転写面に包み込まれるまで、前記インク又は塗料が転写された前記印刷用パッドの転写面を、前記被印刷物の残りの半球部分に押し当てて、前記印刷用パッドの転写面に転写された前記インク又は塗料を前記被印刷物に転写するステップと
を更に含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記被印刷物がゴルフボールである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記被印刷物がパークゴルフボール又はグランドゴルフボールである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記被印刷物がテニスボールである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により印刷されたゴルフボール。
【請求項16】
ゴルフボールの表面に印刷を行うためのパッドであって、
略半球状又は略円錐状の転写面と、
前記パッドの中空部分を規定する内面と
を含み、前記転写面が押されると、前記中空部分内の気体が前記印刷用パッドの外部へと抜けるように構成されているパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−195708(P2009−195708A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39187(P2009−39187)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】