説明

琺瑯及びFRP(繊維強化プラスチック)の成型物損傷又は劣化表面の補修仕上げ方法

【課題】琺瑯及びFRP成型品の臭気改善と施工期間を短縮した補修表面再生方法を提供する。
【解決手段】経年老化した琺瑯及びFRP成型品表面を洗剤による洗浄後、ダイヤモンドパッドにより研磨して老化脆弱層及び固着異物を除去し、微細な損傷を除いた後に、天然コンパウンドを用いて表面研磨と磨き仕上げを行うことにより、新製品の時と同様に美麗な表面状態に回復させる。
さらに表面に硬質堅牢なアルコキシシラン系無機コーティング材を施することにより、ガラス状の表面状態にして、持続的に美麗な表面を保ち続ける耐久型の補修再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽,化粧台,厨房機器の琺瑯製品,FRP成型製品等の表面が損傷,劣化及び汚染物付着した場合の補修と表面を再生する方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ホテル,旅館,商業ビル及び戸建て住宅において、長年使用された浴槽,化粧台等の琺瑯製品やFRP成型製品は、損傷,表面劣化や異物固着などがあり、新しい製品と入れ替えるには、莫大なコストと工期を要すると共に、産業廃棄物の発生もあった。
【0003】
新しい製品と入れ替える代りに、比較的容易な方法としてこれらの基材表面を美的維持するためにエポキシ樹脂塗料,ポリウレタン樹脂塗料,変成シリコン樹脂塗料及び常温乾燥型ふっ素樹脂塗料等で補修塗り仕上げする方法が多用されてきた。
【0004】
しかしこの方法では、塗装仕上げ時に多量の溶剤飛散による臭気や火災、及び環境汚染等の問題があり、さらに塗料の十分な乾燥硬化を得るため再使用するまでに数日要するのが一般的であった。また通常吹付け塗装されるためコンプレッサー等の騒音も問題となることが多い。
【0005】
塗装仕上げの場合、通常浴室や厨房等は、水や湯を多量に使用し、湿度も高い雰囲気となり、水分の厳しい作用を受けるため、経時的に表面光沢の低下や膨れ、剥れ等の不具合を発生する可能性もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表面の傷や汚れを美感被覆する方法としては、塗装仕上げが一般的に行われているが、塗装時の溶剤飛散による臭気や大気汚染,施工機器による騒音,浴室や化粧台等の再使用までの所要日数が比較的長い等の問題が現存すること、及び水分の作用を強く受ける浴槽や化粧台の使用条件から経時的な塗膜の付着不良,膨れ,剥れなどが生じることがあり、根本的な解決が必要である。
【0007】
そこで、琺瑯やFRP製品の経年劣化に対して、取り替えを行なわず、通常の塗装仕上げのように有機系の塗料による溶剤多用を避けることが重要であり、塗装機器より発する騒音不快も好ましくない。さらに塗膜が経時的に温水,冷水,高湿度等水分の作用を受け付着力低下する影響を改質することも重要である。
【0008】
これらの諸課題を解決するためには、琺瑯やFRP製品の表面に発生する損傷や劣化及び固着物の付着した表面を、塗料を用いた仕上げで無く滑らかで光沢のある表面に改質し、損傷を受け難い硬質な表面に再生する工法が望まれる。
【0009】
また経時的に水分の影響を受けても、膨れや剥れの生じない表面仕上げが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の琺瑯やFRP製品を用いた浴槽や化粧台等では、取り替え無しで美感再生する為には、塗料を用いたりフレッシュ工法が一般的であるが、本来、琺瑯やFRP製品は堅牢で、極く表面で発生する経年不具合が問題となるため、研磨による表面平滑再生と、微細な損傷の表面被覆を組合せた表面再生及び改質が可能な仕上げ方法に着目した。
【0011】
研磨作業や微細損傷表面被覆工程において、溶剤をできるだけ含まない資材を用いることも、安全性,公害対策上も重要である。
【0012】
表面固着異物については、目に見えない油脂,水垢,金属粉などがあり研磨する前に、中性洗剤や弱酸性洗剤を用いて除去しておく。
【0013】
ダイヤモンドパッド(No.800〜No.3000)を用いて、微細な傷や経年劣化による表面脆弱層を研磨し、除去する。損傷の程度に応じて、ダイヤモンドパッドの表面荒さは、大きいものから細かいものへ取り替えながら、表面を平滑な状態にしてゆく。一般的には、ダイヤモンドパッドの荒さは、最初No.800程度が望ましく、最終的にはNo.3000を用いて研磨仕上げするのが好ましい。
【0014】
ダイヤモンドパッドによる研磨によってほぼ平滑になった表面に対して、新しい琺瑯製品表面やFRP製品表面と同様な光沢のある、鮮明な表面とするために、さらに珪酸を焼成し微細なセラミックとした天然コンパウンドを用いて、鮮明で高光沢な表面とするために仕上げ研磨する。
【0015】
鮮明で高光沢な表面に仕上げても、経時的に比較的早期に損傷や表面劣化しない処方も耐久性を保持する上で重要となる。一般の塗装膜では、比較的傷が付き易く、水分作用による付着不良の問題を改善するためである。
【0016】
ガラス質で琺瑯表面と一体化する方法として、硬化膜が琺瑯と同じ珪酸質で、堅牢なシロキサン結合をする物質であるアルコキシシラン系コーティング材に着目し、表面耐久保護層としてバフ掛け仕上げ方法にて、微細な損傷の凹部にも充填しつつ表面にも薄膜層を形成させることにより表面仕上げを行う。この仕上再生方法によって琺瑯と同質の保護層を形成することができる。
【0017】
FRP成型製品についても琺瑯製品と同様に表面研磨とコンパウンド仕上げを行うが、有機質高分子をベースとした成型品のため、琺瑯に比べ傷が付き易く、経年による表面劣化も生じ易いため、表面を硬質で堅牢に改質することが有効である。
【0018】
この要求を満たすには、琺瑯の場合と同様に珪酸質でシロキサン結合をする物質であるアルコキシシラン系コーティング材を用い、表面耐久保護層としてバフ掛け仕上げ方法にて、微細な損傷や凹部にも充填しつつ表面に薄膜層を形成させる方法を用いた。
【0019】
アルコキシシラン系コーティング材は、水分の存在下で、縮合反応により架橋硬化するため厚膜コーティングを行うと、塗膜全体の架橋反応が遅れ、硬化が不十分となり、堅牢な塗膜を形成しない。このためにアルコキシシラン系コーティング材を刷毛やスポンジローラー等で塗布直後にバフ掛けし、凹部や損傷部に充填しつつ薄膜に塗り広げるコーティング方法が重要である。
【0020】
次に浴槽の上部縁廻りについては、経年使用において水道水中に含まれる石灰質系を含めた無機化合物が乾燥沈着しやすく、美感上好ましくない場合がある。この改善策としては、浴槽上部縁廻り部に常温硬化型のふっ素樹脂塗料やアクリルシリコン樹脂塗料を、部分塗りすることにより無機化合物の沈着を改善させることができる。
【実施例】
【0021】
次に本発明の実施例について説明する。なお比較例として従来工法に対応した市販品を用いて、その差異を確認した。
【0022】
実施例(1−1)は、10年以上使用した琺瑯浴槽を約5×10cmに切断し、市販中性洗剤と水道水を用いて清掃し、ダイヤモンドパッド(No.800〜No.1500)及び(No.3000)を用いて研磨し、その後天然コンパウンド材(市販品「磨き名人」)を用いて研磨仕上げした。
【0023】
実施例(1−2)は、実施例(1−1)と同様に作成した試験体に、アルコキシシラン系コーティング材(株式会社セブンケミカル製の商品名「セブンシランコート」)を用いて、バフ掛けコーティングした。
【0024】
実施例(1−3)は実施例(1−1)と同様に作成した試験体にアルコキシシラン系コーティング材をローラー塗りにて120g/m付着させた。
【0025】
実施例(2−1)は、5年以上使用経過したFRP製浴槽について、実施例(1−1)と同様に試験体を作成した。
【0026】
実施例(2−2)は、5年以上使用経過したFRP製浴槽について、実施例(1−2)と同様に清掃,研磨,表面アルコキシシランコーティングした試験体を作成した。
【0027】
実施例(2−3)は、実施例(2−2)と同様に作成したものに、比較例(3−1)の上塗塗料を短毛の市販ローラーにて薄く1回塗りして試験体とした。
【0028】
比較例(3−1)は、従来工法で仕上げるため、市販のエポキシ樹脂系下塗塗料(株式会社セブンケミカルの製品名「セブンメタルプライマー」)及びポリウレタン樹脂系上塗塗料(株式会社セブンケミカルの製品名「セラセブントップUE−H」)を用いて、吹付け仕上げした。
【0029】
次に実施例及び比較例の試験結果を表−1及び表−2に示す。
【0030】
【表−1】

【0031】
【表−2】

【0032】
目視による確認で各実施例及び比較例とも光沢感があり、リフレッシュされた状態になった。
【0033】
耐水試験−1は、各試験体作成後24時間20℃にて乾燥させ、清水に24時間浸水し、取り出して表面状態を観察した。実施例(1−3)に若干白濁傾向のあったものの、実施例はいずれも良好であった。一般的に用いられる比較例(3−1)は膨れ現象が見られ、やはり乾燥硬化が不十分な時点で水分の影響を受けると問題のある結果であった。
【0034】
耐水試験−2は、各試験体を7日間十分に乾燥させ、同じく24時間清水に浸水させたが、各実施例,比較例とも良好であった。従って、十分施工後の乾燥期間を確保すれば、従来の工法でも実用されることが確認された。
【0035】
熱水試験は、95〜100℃に保った熱水中に72時間試験体を浸液して、温水に対する抵抗性を確認するために行った。各実施例では良好であったが、従来工法の比較例(3−1)では膨れ,剥れ等が発生し、風呂や湯沸し器の使用条件では、問題のあることが推察された。
【0036】
カーボン汚染試験は、カーボン顔料10重量部に水90重量部で混合した黒色液を各試験体表面に塗り付け、24時間後に布ウエスで拭き取って、表面を観察した。実施例では、研磨仕上げ後アルコキシシラン系コーティングを行った実施例(1−2),(1−3),(2−2)は良好であったが、磨き仕上げのみの実施例(1−1),(2−1)は、わずかに汚れが見られた。塗料を用いた比較例(3−1)では、やはり少し汚れが見られた。このことからアルコキシシラン系コーティングの効果が確認された。
【0037】
施工時の臭気については、実施例は各試験体共、問題なかったが、塗料仕上げをした従来工法の比較例(3−1)は、試験体作成当日、及び翌日でも溶剤臭気が確認され、やはり問題のあることが解かった。
【0038】
試験結果−2では、水道水中に含まれる無機不純物の沈着を見るため、試験体表面に水滴を落とし、1ヵ月乾燥後、スポンジにて水を含ませ拭き取りを行った。軽く拭き取った後の状況では、実施例(2−3)のアルコキシシラン系コーティング上に薄く、ふっ素樹脂塗料コートしたものが、わずか良好な結果が得られた。従って水滴残余部分については、実施例(2−3)の方法も有効との推定が得られた。
【0039】
以上の結果より、浴槽,化粧台等に用いられる琺瑯製品やFRP成型製品の使用経年後の補修再生工法として、従来の塗料によるリフレッシュ工法の問題点を飛躍的に改善できる工法として、磨き仕上げとアルコキシシラン系無機コーティング材の複合工法が有用である結果が得られた。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、前記したように、ダイヤモンドパッドと天然コンパウンドを用いた磨き仕上げとアルコキシシラン系コーティング材のバフ掛けを組合わせた複合工法により、臭気問題が無く施工後早期に再使用できる琺瑯製品,FRP製品の補修再生が可能となった。
実用的には浴室、化粧室,厨房廻り等のリフレッシュ工事が短時間で行え、嫌な溶剤臭もなく耐久性にも優れた工法が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面損傷及び表面劣化した、既存の琺瑯又は既存のFRP成型物表面をダイヤモンドパッドと天然コンパウンド剤を用いてスケール除去及び研磨仕上げした上を、アルコキシシランをベースとした無機系コート材をポリッシャーにて薄膜コートする方法。
【請求項2】
表面損傷及び表面劣化した、琺瑯又はFRP成型物表面をダイヤモンドパッドと天然コンパウンド剤を用いて、スケール除去及び研磨仕上げした上を、アルコキシシランをベースとした無機系コート材をポリッシャーにて薄膜コートし、さらに常温乾燥型ふっ素樹脂塗料をコーティングする方法。

【公開番号】特開2010−234350(P2010−234350A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102393(P2009−102393)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(500172117)有限会社プロペクト (1)
【Fターム(参考)】