説明

環境ストレス抵抗性植物作成用組換えベクター

【課題】
作付時に外部からの薬剤を必要とせず、特定遺伝子の過剰発現を行わずに、環境ストレス抵抗性植物を提供し、その再分化培地を提供すること。
【解決手段】ポリADPリボースポリメラーゼをアンチセンス方向で植物個体に挿入することにより、植物体内における遺伝子損傷の際のエネルギー恒常性を向上させ、さらに再分化の際にZeatinとIAAを含む培地で生育することにより、環境ストレス抵抗性植物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境ストレス抵抗性植物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、自力で移動することができないため、乾燥、塩、低温などの環境要因によって生育が大きく左右される。これらは農業生産と関わっており、環境ストレス抵抗性を付与した農作物の開発は、世界の農業生産効率を向上させる技術として期待されている。地球人口の増大等に鑑み、食料自給率の低下等の食糧問題の対策として、従来、植物の生育が不可能であった場所における上記のような植物生産の道は、この食糧問題を解決する方策となる。
【0003】
植物に環境ストレス抵抗性を付与するために、酵母細胞壁の酵素分解物を含む薬剤組成物が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、乾燥、高塩濃度、低温等を含む各種の環境ストレス条件下に対して高い抵抗性を付与するために、sHSP17.7遺伝子(熱ショックタンパク質)を利用して植物に環境ストレス抵抗性を付与する例が知られている(特許文献2)
【0005】
【特許文献1】特開2007−045709号公報
【特許文献2】特開2006−034252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、植物作付時に薬剤を必要とするため、薬剤がない場合、植物そのものを環境ストレス負荷がかかる土地に作付することができない。
【0007】
さらに、上記特許文献2に記載の技術は、細胞に熱ショックタンパク質遺伝子を導入していることから、複数の環境に対応できる場合があるものの、細胞産物の発現低下等の影響が懸念される。
これらの課題を解決するため、遺伝子損傷の際、エネルギー恒常性を高める目的でポリADPリボシル化を抑制することが行われている。具体的には、シロイヌナズナにおいてポリADPリボースポリメラーゼ[Poly (ADP-ribose) polymerase ; PARP]を種々の阻害剤を用いて抑制している研究がある。(非特許文献1)
【0008】
【非特許文献1】MarcDe Blockら、Plant. J., No.41, p95-106
【0009】
植物は、環境ストレスを受けた際に遺伝子損傷を修復するために過剰なNADを消費することが知られている。このNAD消費の原因となっているPARP遺伝子の発現を、阻害剤でなくRNAi法により抑制する方法が考えられる。この方法であれば、環境ストレスに起因する内部エネルギーの浪費から細胞を保護することができるため、あらゆる環境ストレスに対して抵抗性を持つと考えられる。しかしながら、ある遺伝子を恒久的に抑制する方法については、植物では例が少なかった。また、トランスジェニック植物を効率よく再分化させるための培地は、知られていなかった。
【0010】
本発明は、発明者らの研究の結果、特定遺伝子の過剰発現を行わずに、かつ、作付時に薬剤を必要としない環境ストレス抵抗性植物の製造法を提供するとともに、効率的にトランスジェニック植物を再分化できる培地を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子断片を含むRNAi法によるトランスジェニック植物を作成ことにより、RNAiの干渉効果で植物体内における遺伝子損傷の際のエネルギー恒常性を向上させ、引いては環境ストレス抵抗性を提供できることを見出した。
【0012】
本発明は、
配列番号1で表される塩基配列を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクターに関する。
また、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクターに関する。
さらに、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAが、200bpから1kbのDNA鎖長を有する上記の植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクターに関する。
また、配列番号1で表されるDNA、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNA、または配列番号2で表される塩基配列の一部で200bpから1kbのDNA鎖長を有するDNAの塩基配列の1個または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列のDNAを含み、かつ細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクターに関する。
また、上記に記載のいずれかの組換えベクターにより形質転換することを特徴とする環境ストレス抵抗性植物の製造法に関する。
さらに、上記に記載のいずれかの組換えベクターにより形質転換された環境ストレス抵抗性植物に関する。
また、環境ストレスが、乾燥ストレス、高温ストレス、低温ストレス、病害ストレス、および浸透圧ストレスからなる群から選ばれる複数個からなる上記に記載の環境ストレス抵抗性植物に関する。
さらに、植物が、イネ科、ユリ科、アブラナ科、ナス科、マメ科、ウリ科、セリ科、キク科、アオイ科、アカザ科、フトモモ科、およびヤナギ科からなる群から選択されるいずれかの科に属するものである、上記に記載の環境ストレス抵抗性植物に関する。
また、上記に記載の環境ストレス抵抗性植物を再分化させる培地に関する。
さらに、1.0mg/L〜3.0mg/Lのゼアチン(Zeatin)および/または0mg/L〜1.0mg/Lのインドール−3−酢酸(IAA)を含有する、上記に記載の環境ストレス抵抗性植物を再分化させる培地に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、特段の薬剤を使うことなく、更には、複合環境ストレス(乾燥・浸透圧・低温等)のもとにおいても生育する植物を生育できる環境ストレス抵抗性植物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態につき、以下に示す図面も含め説明する。なお、本発明は異なる多くの態様での実施が可能である。
【0015】
1.遺伝子のクローニング
本発明の一態様としての遺伝子は、乾燥・浸透圧・低温等の環境ストレスにより活性化され、DNA損傷を発見すると、NADを基質としてADPリボースのポリマーを合成して、ヒストンを修飾する機能を有するものが挙げられ、例えば、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)が挙げられ、配列表2に示したイネのPARPが好ましい。
【0016】
本発明の一態様としての遺伝子のクローニングは、例えば以下のようにして行う。
mRNAの供給源としては、葉、茎、根、花など植物体の一部または植物体全体が挙げられる。また、種子を1/2MS培地、GM培地などの固体培地に播種し、無菌条件化で生育させた植物体も用いることができる。
【0017】
mRNAの抽出は、例えば1/2MS培地で生育させた植物体を、液体窒素で凍結する。その後、通常の方法に従えばよく、例えば、凍結した植物体を乳鉢などで磨砕後、得られた磨砕物から、チオシアン酸グアニジンフェノールクロロホルム法、プロテイナーゼK−デオキシリボヌクレアーゼ法、グリオキザール法、グアニジンチオシナネート-塩化セシウム法などにより、粗RNA領域を抽出調整する。なお、RNA抽出にあたり、市販のキットを用いても良い。
【0018】
このようにして得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマーおよび逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、これを鋳型として、逆転写PCRを行い、PARPを含有する領域のcDNAを増幅する。
【0019】
ここで、得られた目的とするクローンのcDNAの塩基配列を決定する。塩基配列の決定は、自動塩基配列決定装置を用いて配列決定を行うが、通常の高知の方法であるマキサム-ギルバートの化学修飾法、またはジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知の手法によって配列決定を行っても良い。
【0020】
なお、生物の遺伝子は、同じ機能を果たすものでも、各種間、または各個体毎に、その塩基配列はある程度相違することがある。
そのため、上記DNA塩基配列と同一の配列を有する塩基配列と同一でなくとも、本発明に係るDNAは、これが導入された宿主細胞にエネルギー恒常性という機能に関与していればよい。さらに、RNA緩衝作用によりその機能を減弱および/または失活すればよい。よって、RNAi発現ベクター中に組み込むDNAとしては、配列番号1で表される塩基配列を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすにより、植物細胞のPARP遺伝子の発現低下機能を有するものであればよい。また、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子の発現低下機能を有するものであればよい。さらに、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAが、好ましくは100bpから3kb、さらに好ましくは200bpから1kbのDNA鎖長を有する、植物細胞のPARP遺伝子の発現低下機能を有するものであればよい。
また、配列番号1で表されるDNA、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNA、または配列番号2で表される塩基配列の一部で、好ましくは100bpから3kb、さらに好ましくは200bpから1kbのDNAの塩基配列の1個または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列のDNAを含み、かつ細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有するDNAであればよい。あるいは、配列番号1または配列番号2に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであっても良い。
配列表2に、イネのPARP遺伝子配列を示した。本発明の実施例に用いたトマトの該遺伝子は今だ単離されていない。しかし、トウモロコシ、アラビドプシス、ヒトの該遺伝子とは、それぞれ86.7%、70.6%、56.3%と比較的高い相同性を有していることから、高度に保存されたい遺伝h氏と考えられる。
【0021】
2.組換えベクター及び形質転換植物の作製
本発明の一形態に係る組換えベクターは、上記遺伝子(以下、「目的遺伝子」という)を適当なベクターに導入することにより構築することができる。ここでベクターとしては、
例えば、λファージ等のファージDNAや、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119等の大腸菌用プラスミドDNA、pUB110、pTP5等の枯草菌プラスミドDNA、YEp13、YEp24、YCp50等の酵母用プラスミドDNA、pBI101、pBI121、pBI2113、pBI221、pBIG、pGA482、pGAH等のバイナリーベクター系の植物細胞用プラスミドDNA、またはpMON200、pNCAT等の中間ベクター系の植物細胞用プラスミドDNA等を挙げることができる。
【0022】
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB―RB)間に目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスEHA101、EHA105、LBA4404等にトリファレンタルメルティング法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質転換に用いても良い。
【0023】
ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などを採用しても構わない。
【0024】
さらに、目的遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが望ましく、ベクターには上記遺伝子の上流、内部、または下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選抜マーカー遺伝子等を連結することが可能で、かつ望ましいと考える。
【0025】
ここで、プロモーターとは、上記DNAを発現させることができるものであればどのようなものでもよく、大腸菌を宿主とする場合には、大腸菌やファージに由来するtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等のほか、これらのプロモーターを人為的に改変して得られたtacプロモーター等のプロモーターを用いることもできる。酵母を宿主とする場合には、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOXプロモーター等が好ましい。また、植物細胞を宿主とする場合は、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)に由来する35Sプロモーター、rbcSプロモーター、ユビキチンプロモーター、ノパリン合成酵素(NOS)プロモーター、オクトピン(OCT)合成酵素遺伝子のプロモーター等を挙げることができる。
【0026】
エンハンサーとは、例えば目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、例えばCaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域等が挙げられる。
【0027】
ターミネーターとは、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であれば良く、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター等が挙げられる
【0028】
選抜マーカーとは、組換え遺伝子を含む宿主をスクリーニングできれば良く、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(ampr遺伝子)、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII遺伝子)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp遺伝子)等が挙げられる。
【0029】
3.形質転換植物の作成
本発明の形質転換植物は、上記2の組換えベクターを用いて、対象植物を形質転換し、形質転換植物体を作成することができる。
【0030】
形質転換の際の宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia
coli)Hms174株、K12株、DH1株、枯草菌(Bacilus subtilis)M1 114株、207−21株、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58株、LBA4404株、EHA101株、EHA105株、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母類等であれば、本発明の一形態に係る形質転換細胞を取得することができる。
【0031】
形質転換植物体を作製する際には、既に報告され、確立されている種々の方法を適宜利用することができ、その好ましい例として、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、カルシウムイオン法、凍結融解法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、および植物体そのものを用いる場合等がある。プロトプラストを用いる場合は、Tiプラスミドを持つアグロバクテリウムと共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)やカルスに感染させる方法を採用することができるが、これに限定されるわけではない。
【0032】
目的遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換植物体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCR後に増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミド電気泳動、またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色を行い、増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識されたプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。
【0033】
または、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、Green
Fluorescent Protein(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子を目的遺伝子の上流域または下流域に連結したベクターを作製し、該ベクター導入したアグロバクテリウムを用いて上記と同様にして植物を形質転換させ、該レポーター遺伝子の発現を測定することにより確認できる。
【0034】
本発明において形質転換に用いられる植物としては、単子葉植物または双子葉植物のいずれであってもよい。単子葉植物としては、例えばイネ科(イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、サトウキビ、シバ、ソルガム、アワ、ヒエ等)、ユリ科(アスパラガス、ユリ、タマネギ、ニラ、カタクリ等)、ショウガ科(ショウガ、ミョウガ、ウコン等)に属する植物を挙げることができ、双子葉植物としては、例えば、アブラナ科(シロイヌナズナ、キャベツ、ナタネ、カリフラワー、ブロッコリー、ダイコン等)、ナス科(トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ等)、マメ科(ダイズ、エンドウ、インゲン、アルファルファ等)、ウリ科(キュウリ、メロン、カボチャ等)、セリ科(ニンジン、セロリ、ミツバ等)、キク科(レタス等)、アオイ科(ワタ、オクラ等)、アカザ科(シュガービート、ホウレンソウ等)、ヤナギ科(ポプラ等)に属する植物が挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの中でも、トマト、イネ等が特に好ましく用いられる。
【0035】
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、例えば、根、葉、茎、種子、胚、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処理して細胞壁を除いたプロトプラスト等の植物培養細胞を挙げることができる。
【0036】
また、本発明において、形質転換植物体とは、植物体全体、植物器官、植物組織、植物培養細胞のいずれをも意味するものとする。
【0037】
形質転換の対象となる植物材料として植物組織を用いた場合、これらを炭素源、無機塩類、ビタミン、エネルギー源としての糖類を加えて、発芽させ、一定期間生育を行う。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を、無機塩類としては、リン酸第一カリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムをそれぞれ組み合わせることができる。
【0038】
形質転換体の再分化にあたり、植物ホルモンを使用することもできる。植物ホルモンは、サイトカイニン、オーキシン、ジベレリン、エチレン等に分けられるが、このうちサイトカイニン、オーキシンを組み合わせて使用することが望ましい。
【0039】
サイトカイニンは、植物細胞の分裂を誘導するものであれば良く、Zeatin(ゼアチン)、Kinetin(カイネチン)、Benzyladenine(ベンジルアデニン)、Thidiazuron(チジアズロン)等が挙げられるが、中でもZeatinを使用することが望ましい。
【0040】
Zeatinの使用量は、培地中のオーキシン濃度にも依存するが、1.0mg/L〜3.0mg/Lの範囲内であれば良く、1.0mg/L〜2.0mg/Lの範囲内であることがより好ましい。
【0041】
オーキシンとは、細胞伸長速度を制御することができれば良く、IAA(インドール−3−酢酸)、IBA(インドール酪酸)、NAA(ナフタレン酢酸)、2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)等が挙げられるが、IAAを使用することが好ましい。
【0042】
IAAの使用量は、培地中のオーキシン濃度にも依存するが、0mg/L〜1.0mg/Lの範囲内であれば良く、0mg/L〜0.1mg/Lの範囲内であることがより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。なお、本実施例に本発明は限定されるものではない。
【0044】
(1) PARP遺伝子のクローニング
イネ日本晴(Oryza sativa L. cv.nipponbare)から全RNAを抽出し、これをcDNA合成の鋳型として使用し、オリゴdTプライマーとして逆転写酵素により一本鎖cDNAを合成した。この一本鎖cDNAを鋳型として、センスプライマー5’-CTGAGATGCCCCTGGGTAAACTAA-3’と、アンチセンスプライマー5’-ACGGTTTTGCCTAAGCCCTTGGTC−3’を用いてPCRを行い、PARPのcDNAを増幅した。PCR条件は、94℃
3分、(94℃ 1分、56℃ 1分、72℃ 1分)×35サイクル、72℃ 10分、の後、20℃で維持した。増幅後、電気泳動でバンドサイズを確認した。さらに、全自動塩基配列解析装置で塩基配列の解析を行い、目的の領域が正常に増幅されていることを確認した。
【0045】
(2) 植物形質転換用プラスミドの構築
PARPのcDNA断片をXbaIとSpeI〔以下、本領域をPARP1とする。(図1)〕、XhoIとSacI(以下、本領域をPARP2とする)それぞれの制限酵素で処理し、pUIG221ベクターに挿入して、アンチセンスPARPベクターを構築した。(図2)
【0046】
PARP1とPARP2を含むアンチセンスPARPベクターをアグロバクテリウムEHA101株にトリファレンタルメイティング法により導入し、形質転換用アグロバクテリウムを得た。(図3)
【0047】
(3) マイクロトマトの形質転換
形質転換には、播種後約3週間のマイクロトマト(Lycopersicon
esculentum Mill)を、子葉、本葉、胚軸に分け、使用した。形質転換後カナマイシン50mg/Lを含む培地で選抜し、本葉と胚軸で、複数のPARP形質転換体を得ることに成功した。
【0048】
(4)形質転換体の再分化
得られたPARP形質転換体の再分化にあたり、植物ホルモンZeatin(ゼアチン)および/またはIAA(インドール−3―酢酸)を含む培地(表1)に置床し、約一ヶ月間観察を行ったところ、Zeatin 1.0mg/L、IAA 0.1mg/Lまたは、Zeatin 2.0mg/L、IAA 0.1mg/Lを含む培地で、良好な生育を観察した。(表1における試験区B−5が図4に、表1における試験区B−8が図5に対応)

【表1】

【発明の産業上の利用可能性】
【0049】
環境ストレス抵抗性を持つ植物と、その初期再分化培地として、産業上の利用可能性を大きく有している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】PARP領域の両端を、それぞれXba1、Spe1で制限酵素処理したものを示す図である。図中、左右両端のレーンはサイズマーカーで、左のレーンから右に、120分、90分、60分および30分制限酵素処理した電気泳動像となる、
【図2】PARPを2箇所挿入したRNAi発現ベクターを示す図である。
【図3】トリファレンタルメイティング法により作製した形質転換用アグロバクテリウムバイナリベクターを示す図である。
【図4】形質転換を行ったマイクロトマトの胚軸の様子、カルス由来の不定芽(Zeatin1.0mg/L、IAA0.1mg/L)を示す図である。
【図5】図4と同様な、カルス由来の不定芽(Zeatin2.0mg/L、IAA0.1mg/L)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクター。
【請求項2】
配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAを含み、細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクター。
【請求項3】
配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNAが、200bpから1kbのDNA鎖長を有する請求項2記載の植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクター。
【請求項4】
配列番号1で表されるDNA、配列番号2で表される塩基配列の一部を有するDNA、または配列番号2で表される塩基配列の一部で200bpから1kbのDNA鎖長を有するDNAの塩基配列の1個または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列のDNAを含み、かつ細胞への導入により形質転換をもたらすことにより、植物細胞のPARP遺伝子(ポリADPリボースポリメラーゼ遺伝子)の発現低下機能を有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組換えベクターにより形質転換することを特徴とする環境ストレス抵抗性植物の製造法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組換えベクターにより形質転換された環境ストレス抵抗性植物。
【請求項7】
環境ストレスが、乾燥ストレス、高温ストレス、低温ストレス、病害ストレス、および浸透圧ストレスからなる群から選ばれる複数個からなる請求項6に記載の環境ストレス抵抗性植物。
【請求項8】
植物が、イネ科、ユリ科、アブラナ科、ナス科、マメ科、ウリ科、セリ科、キク科、アオイ科、アカザ科、フトモモ科、およびヤナギ科からなる群から選択されるいずれかの科に属するものである、請求項6または請求項7に記載の環境ストレス抵抗性植物。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の環境ストレス抵抗性植物を再分化させる培地。
【請求項10】
1.0mg/L〜3.0mg/Lのゼアチン(Zeatin)および/または0mg/L〜1.0mg/Lのインドール−3−酢酸(IAA)を含有する、請求項6から8のいずれか1項に記載の環境ストレス抵抗性植物を再分化させる培地。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178653(P2010−178653A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23988(P2009−23988)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】