説明

環境保全用浄水発生土系吸着材、その製造方法及びその用途

【課題】浄水発生土を担持基材に用いて、各種の汚泥及び天然土壌等の土材中に溶存する汚染イオン種を不溶物に固定化させる安価な環境保全用浄水発生土系吸着材を、また、この浄水発生土系吸着材で各種の汚染土材中の汚染イオン種を不溶化固定化させて有用土材に再生させる再資源化処理方法を提供することである。
【解決手段】浄水発生土を担持基材に、その基材110℃×24時間の乾燥物換算での100質量部数当たり、硫酸バンドの金属硫酸塩を無水物換算で0.1〜2.5質量部数範囲で添着させてなる汚染イオン種を吸着・不溶化させる環境保全用浄水発生土系吸着材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保全用の浄水発生土系吸着材に関し、より詳細には、浄水場で多量に発生する浄水発生土を有効利用するため、それを担持基材に用いて、各種の汚泥や天然の土壌等の土材中に溶存する汚染イオン種を吸着・固定化させる環境保全用の安価な浄水発生土系吸着材及びその低廉な製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然土壌等の汚染土材の再資源化方法にも関し、より詳細には、各種の溶存イオン種で汚染されている汚染土材に、浄水発生土系吸着材を添加させ、これらの汚染イオン種を土材中に吸着・固定化させて有用土材に再生する再資源化方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
従来から地盤改良工事、河川工事、トンネル工事、ダム工事、ビル建設の現場などから発生する工事・建設汚泥や、河川、港湾等の工事で発生する浚渫泥奨や、各種の産業排出物として工場廃水浄化施設から発生する産業汚泥や、下水処理場で発生する下水処理汚泥や、更には天然土壌等の土材中には、通常、一般的に、例えば、可溶性フッ素イオン、リン酸イオン、鉛イオン、その他の規制で対象となるイオン種が溶存している。従って、これらの土材は、各種のイオン種が溶存する所謂汚染土材とも言える。
【0004】
しかも、これらの土材は通常軟弱な土材で、また、その大部分の汚染土材は発生現場や発生施設から産業廃棄物として搬出・廃棄されているのが現状である。そこで、これらの土材を有用土材として再資源化利用するためには、このような溶存汚染イオン種、例えば、フッ素イオン種であれば、国が規定する土壌汚染対策法に係わる特定有害物質の土壌溶出基準である0.8mg/L以下に低減させなければならない。
【0005】
そこで、従来からフッ素イオン等で汚染された土壌の処理方法として[特許文献1]には、フッ素含有土壌中に、カルシウム成分(水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、〜)およびリン酸成分(リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム)を互いに解離した状態で存在させた後、両成分を化学的に結合させてカルシウムフルオロアパタイトを形成させるフッ素汚染土壌の処理方法が提案されている。
【0006】
また、[特許文献2]には、弗素で汚染された土壌または土壌スラリーにアルミニウム塩(硫酸アルミニウムまたはポリ塩化アルミニウム)または鉄塩(硫酸第一鉄、塩化第二鉄、〜)のうちの少なくとも1種を添加し、次いで弱酸性域ないしアルカリ性域に調節してアルミニウムまたは鉄の水酸化物のうちの少なくとも1種の水酸化物を生成させることにより弗素を不溶化させる汚染土壌の無害化処理方法が提案されている。
【0007】
また、[特許文献3]には、被処理水中のリン酸、砒素、フッ素イオンを吸着固定させ、その濃度を低減させ、河川や湖沼などの水質浄化材として、浄水発生土に硫酸アルミ塩を添加・混合させた後、成形・焼成させてなるリン酸、砒素、フッ素イオンの吸着材が記載されている。また、その実施例には、乾燥物換算100gの浄水発生土に、硫酸アルミ3gを添着させ、600℃×20分焼成させてなる浄水発生土系の吸着材が提案されている。
【0008】
また、[特許文献4]には、フッ素汚染土壌を、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)物水性スラリー中に懸濁処理した後、所要期間養生させてフッ素汚染土壌中のフッ素をフッ素アパタイトとして不溶化させる。また、フッ素アパタイトそれ自体は周知の通り天然のリン鉱石の主成分であり、他に有機物質や重金属類等を使用しないことから、この処理方法によれば、二次的な環境汚染を引き起こすことなく、簡単な作業で経済的に且つ確実にフッ素汚染土壌からのフッ素の溶出量を土壌環境基準の0.8mg/L以下に低減することができる。
【0009】
また[特許文献5]には、可溶性フッ素に汚染された土壌にリン酸およびセメント系固化材または石灰系固化材と接触処理させてリン酸とカルシウムおよび土壌中の可溶性フッ素イオンとを反応させてフッ素リン灰石の結晶構造中にフッ素イオンを取り込み可溶性フッ素に汚染された土壌中のフッ素イオンを固定化させる土壌の固化方法が提案されている。
【0010】
また[技術文献1]には、三重県内の7ヶ所の浄水場で発生する浄水発生土の焼成品(300℃〜500℃)及びその105℃乾燥品を用いて、リン酸イオン及びセレンイオンを吸着除去させる技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】 特開2005−305387号公報
【特許文献2】 特開2002−326081号公報
【特許文献3】 特開平10−57804号公報
【特許文献4】 特開2007−216156号公報
【特許文献5】 特開2009−2622035号公報
【非特許文献】
【0012】
【技術文献1】
三重保環年報第11号(通巻第54号),67−73頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のような状況下に、このような溶存イオン種で汚染されている自然土壌を含む各種の汚泥等の汚染土材を、各種の盛土、土地造成(宅地、公園・緑地)の地盤改良、スポーツグランド用土材、園芸用植生培土等にリサイクル・リユースさせるに際しては、周辺の土壌、生物及び自然・社会環境を保全させる土材でなければならない。そのためにこれらの土材中に溶存する汚染イオン種を、(1)安価な処理材で且つ(2)低廉な処理法で、(3)処理土材中に吸着・固定化させ、(4)安価な再資源化土材として有用させることが重要課題且つ切望されている。
【0014】
また、このような実態から現状では、多量かつ広域的に散在して発生・廃棄され、しかも、再資源化の可能性を占めている上記する汚染土材を有効利用させる等の取組みは、必ずしも積極的に展開されているとは言えない。
【0015】
以上のような状況から、本発明の目的は、天然土壌を含む各種の汚泥等の土材中に潜在的に溶存する汚染イオン種、例えば、その代表的なフッ素イオンを不溶化させて、その土材中に固定化させる安価な環境保全用吸着材及びその低廉な製造方法を提供することである。
【0016】
また、本発明の更なる目的は、このような安価な吸着材を用いて、これらの汚染土材中に溶存する汚染イオン種を吸着・固定化(又は不溶化)させ、しかも、環境を保全させるために二次的な環境汚染を引き起こさない有用土材に再生させる再資源化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、上記課題を解決すべく鋭意努力した結果、本発明者らは、浄水場で多量に発生し且つ安価に入手でき、また、必ずしも有効利用されていない浄水発生土に着目し、この発生土に硫酸バンドを添着させた風乾物が、溶存性フッ素イオンを効果的に吸着・固定させることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明によれば、シリカ、アルミナを主成分に、酸化鉄成分などを含有する浄水発生土を担持基材とする吸着材が、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然土壌等の土材中に溶存する各種の汚染イオン種を吸着・固定化させる環境保全用の浄水発生土系吸着材を提供したのである。
より詳細には、
(1)本発明による浄水発生土系吸着材は、前記担持基材の110℃×24時間乾燥物換算の100質量部数当たり、硫酸バンドを無水物換算で0.1〜2.5質量部数範囲で添着させていることを特徴とする。
(2)この浄水発生土なる担持基材の110℃×24時間の乾燥物換算で表す成分が、
SiO ; 30〜50 質量%
A1; 15〜50 質量%
Fe; 5〜15 質量%
その他 ; 5〜10 質量%
[*印のその他はIg−lossを除くCaO,MgO,KO,Cl,SO等の合量成分を示す。]
である浄水発生土を担持基材として好適に利用できる。
(3)本発明において、効果的に吸着・固定化(又は不溶化)される汚染イオン種としてリン酸、フッ素、ヨウ素、セレン、鉛、セシウムの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
(4)また、本発明による浄水発生土系吸着材を粒度4〜12meshに成型させた後、温度300℃〜500℃で仮焼させた顆粒状物も、浄水発生土系吸着材としての吸着機能を発揮させる。
(5)また、本発明が提供する浄水発生土系吸着材の製造方法によれば、
浄水場で多量に発生する浄水発生土を用いて、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然の土壌等の土材中に溶存する各種の汚染イオン種を吸着・固定化させる浄水発生土系吸着材は、下記のような低廉・単純工程で製造することができる。
先ずこの浄水発生土を固形分濃度換算で60〜90質量%範囲に脱水又は乾燥させ、
次いで、硫酸バンドの金属硫酸塩又はその水溶液を、この浄水発生土の110℃乾燥物換算の100質量部数当たり、無水物換算で0.1〜2.5質量部数範囲で添加させ、
次いで、混合(又は混練)・乾燥・(又は粉砕)させた後、必要に応じて成型させることを特徴とする。
(6)また、本発明が提供する各種のイオン種で汚染された土材の再資源化方法によれば、
この浄水発生土系吸着材(=FWCS)を用いて、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然土壌中に溶存する各種の汚染イオン種を吸着・固定化させて、これらの汚染土材を有効土材として再資源化させることができる。
即ち、
先ず固形分濃度が60〜90質量%範囲にあるこの汚染土材の固形分換算の100質量部数当たり、このFWCSを1〜10質量部数範囲で添加・混合・混練させ、
次いで、乾燥・解砕させ又は乾燥・造粒させ、得られた再生土材中に溶存する汚染イオン種を環境庁基準値以下に低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明による浄水発生土系吸着材は、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然土壌等の土材中に溶存する可溶性フッ素イオンを、効果的に不溶化・固定化させることができる。
すなわち、本発明の浄水発生土系吸着材を用いることで、上記する土材中に溶存する可溶性フッ素イオンを、環境庁告示第46号溶出試験において、土壌基準の0.8mg/L以下に低減させる。
【0020】
また、本発明による浄水発生土系吸着材は、これらの土材中に溶存するリン酸、ヨウ素、セレン、鉛及びセシウム等の汚染イオン種に対しても、フッ素汚染イオンと同様に効果的に吸着固定化させる。
【0021】
これによって、本発明の浄水発生土系吸着材を用いることで、従来から産業廃棄物として特定埋立管理地に廃棄されていた自然土壌を含む各種の汚染土材を有用土材として、環境保全のために二次的な環境汚染を引き起こすことなく、有用させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明による環境保全用浄水発生土系吸着材、その製造方法、その用途についての最良の実施形態を更に詳細に説明する。
【0023】
既に詳細に説明した如く、本発明によれば、浄水場で多量に発生し、しかも、安価に入手できる浄水発生土の担持基材に、硫酸バンドを添着させていることを特徴とする環境保全用浄水発生土系吸着材(以後、単に本吸着材と記すこともある。)を提供したのである。
【0024】
また、本発明によるこの浄水発生土系吸着材は、各種の汚泥及び天然土壌等の土材中に溶存する汚染イオン種を吸着させて、その土材中に不溶物として固定化させることを特徴とする安価な環境保全用浄水発生土系吸着材及び低廉・単純工程のその調製方法を提供したのである。
【0025】
また、本発明によれば、このように溶存する汚染イオン種を不溶化された各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然土壌等の汚染土材は、産業廃棄物として特定廃棄されることなく、再生資源化土材として有効利用されることを特徴とする汚染土材の再資源化方法を提供したのである。
【0026】
<浄水場発生土>
そこで、本発明による本吸着材の担持基材に用いた浄水発生土は、全国の各自治体に多数敷設されている浄水場から発生するものである。その浄水場では、河川から取水した原水を清澄水に変換させて水道水として大量に、その地域の社会生活圏に供給している。その変換する過程で、河川中の土砂などの濁りや浄水処理に使用されたPAC(ポリ塩化アルミ)等の凝集剤などの濾過処理物が、浄水場発生土の含水物(以後、単に浄水発生土と記す)として大量に発生するものである。
【0027】
例えば、全国の各自治体における年間の発生量はほぼ30〜40万トンの範囲で発生されている。その60〜80%が園芸倍土、植栽土、公園用土、造成土、道路緑地等として有効に利用されているものの、残る40〜20%が利用されることなく、産業廃棄物として特定処分場に埋立処分されているのが実状である。
【0028】
また、近年に至っては、廃棄することで、その周辺の自然環境を破壊させるため、その産業廃棄物を埋立廃棄処分させる特定最終処分場を確保することが困難を極めている。このような実状から、近年、特に地域環境保全の観点から、廃棄処分量を低減させるために、より付加価値を高めて有効利用することが緊急且つ重要な課題と言われている。
【0029】
そこで、本発明で主に用いた浄水発生土は、新潟県新潟市に敷設されている下記浄水場から発生したものである。その水性分散系でのPHが5〜8であって、下記にその組成の一例を示す。なお、下記分析値は110℃×24時間の乾燥物換算値である。
<信濃川浄水場発生土(質量%)> <阿賀野川浄水場発生土(質量%)>
Al 22.3 24.8
SiO 38.6 40.7
Fe 12.2 6.2
その他 8.7 7.1
*印のその他は、Ig−lossを除くCaO,MgO,KO,Cl,SO等の合量成分である。
【0030】
なお、この浄水発生土の主成分の組成は、全国に敷設されている各浄水場ごとに異なり、特に取水する河川の原水中の濁り成分(土砂など)等に依存し、その110℃×24時間の乾燥物換算で表す成分は、一般的に下記組成割合で表わされる。また、本発明においては、これらの何れの浄水発生土をも、本発明の浄水発生土系吸着材の担持基材として好適に利用することができる。
SiO ; 30〜50 質量%
Al; 15〜50 質量%
Fe; 5〜15 質量%
その他 ; 5〜10 質量%
なお*印のその他はIg−lossを除くCaO,MgO,KO,SO4,Cl等の合量成分である。
【0031】
<本発明による環境保全用浄水発生土系吸着材、その製造方法及びその用途>
<浄水発生土系吸着材>
すでに詳細に説明しているように、本発明による環境保全用浄水発生土系吸着材は、上記するような浄水場で発生する浄水発生土を担持基材に用いている。その担持基材の110℃乾燥物換算で表わす100質量部数当たりに、硫酸バンド(=Al(SO金属硫酸塩)を、無水物換算で表わして0.1〜2.5質量部数の範囲で、好ましくは0.2〜1.0質量部数の範囲で添着されてなるその風乾物又は200℃以下、好ましくは110℃以下の乾燥物として適宜好適に用いられる。
【0032】
<顆粒状の浄水発生土系吸着材>
更には、本発明による浄水発生土系吸着材を、粒度4〜14meshに、好ましくは粒度6〜12meshに造粒させた後、必要に応じて温度300℃〜500℃で仮焼させた顆粒状の仮焼物も、本発明の本吸着材として適宜好適に用いることができる。即ち、本発明が対象とする汚染イオン種であるリン酸、ヨウ素、フッ素、セレン、鉛及びセシウム等から選ばれる何れかの汚染イオン種が溶存する汚染水を、その顆粒状物を充填させた充填塔に通すことによって、後述する実施例からも明らかなように、その汚染水は容易に浄化されます。よって、その処理水をそのまま排出させても、周辺の土壌、自然及び生活環境に二次的な汚染を引き起こすことはない。また、上記するように仮焼することで、顆粒状の本吸着材は、水浸漬下に全く崩壊することなく適宜好適に吸着浄化材として使用することができる。
【0033】
また、上記する硫酸バンドの添着量に係わって本発明においては、上記配合部数範囲を外れて下限値以下では、例えば、後述する実施例からも明らかなように、溶存フッ素イオンを十分に吸着固定化させることができない。一方、その上限値の2.5以上にあっては、むしろその吸着量を低下させて好ましくない。また、本発明においては、より好ましくは、下限値が0.2以上で、上限値が1.0以下であることによって吸着量及びその吸着固定化を適宜より安定化させることができる。
【0034】
従って、本発明における上記添着質量部数範囲は、上記のように0.1〜2.5質量部数範囲で、好ましくは0.2〜1.0質量部数範囲であることで、本発明の目的である安価な環境保全用浄水発生土系吸着材を提供することができた。
【0035】
<環境保全用浄水発生土系吸着材の製造方法>
そこで、これまでに再三に亘って説明するように、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然の土壌等の土材中に溶存する各種の汚染イオン種を不溶性物として吸着固定化させる本発明による浄水発生土系吸着材は、下記するような低廉・単純工程で製造することができる。
(1)先ず、浄水場で多量に発生する水性分散系のpHが5〜8である浄水発生土を、この浄水発生土を固形分濃度換算で60〜90質量%範囲に脱水又は乾燥させる。
(2)次いで、110℃×24時間の乾燥物換算での浄水発生土100質量部数当たり、好ましくはpHが3.0〜3.5の範囲にある硫酸バンドの金属硫酸塩又はその水溶液を、硫酸バンドを固形分換算で0.2〜1質量部数範囲で添加・混合(又は混練)させた後、乾燥・解砕(又は粉砕)させることを特徴とする。また、必要に応じて、成型工程を取り入れて顆粒状の本吸着材として適宜好適に有用することができる。
【0036】
より詳細には、先ず担持基材に用いる浄水場から入手する浄水発生土は、その含水量に係わってスラリー状、粘土状及び塊状等の形状を呈している。しかしながら、本発明においては、下記に説明するように浄水発生土系吸着材を調製する上で、このような形状に関係することなく吸着材の担持基材として適宜好適に用いることができる。
(一)浄発生土の含水量が80%以上のスラリー状であれば、硫酸バンド添加後、湿式混合、乾燥、粉砕、粒度調整をして吸着材とする。
(二)浄水発生土の含水量が40〜80%の粘土状であれば、硫酸バンド添加後、例えば、セメントミキサーでの混合混練後、乾燥、粉砕、粒度調整をして吸着材とする。
(三)浄水発生土の含水量が40〜20%の固形状であれば、硫酸バンドの水溶液を添加・解砕・混錬後、乾燥、粉砕、粒度調整をして吸着剤とする。
(四)浄水発生土の含水量が20%以下の固形状であれば、粉砕、粒度調整後、硫酸バンド水溶液添加、混合後、乾燥させて吸着材とする。(一)〜(四)のいずれの対処方法においても、粒度調整後、必要に応じて成形工程を取り入れ、顆粒状物として有用される。
【0037】
<浄水発生土系吸着材の用途とその汚染対象物質>
そこで、本発明における用途に係わっての対象土材として、例えば、従来から地盤改良工事、河川工事、トンネル工事、ダム工事、ビル建設の現場などから発生する工事・建設汚泥や、河川、港湾等の工事で発生する浚渫泥奨や、各種の産業排出物として工場廃水浄化施設から発生する産業汚泥や、下水処理場から発生する下水処理汚泥や、更には天然土壌を含めた土材等を挙げることができる。
【0038】
また、既に説明済みのように、これらの土材中には、例えば、可溶性フッ素イオン、リン酸イオン、鉛イオン、更には、その他の規制対象に挙げられているイオン種を溶存している。従って、本発明が用途の対象にする土材は、所謂各種のイオン種を溶存する観点から汚染土材と言えるのである。
【0039】
そこで、これらの汚染土材を有用土材として各種の盛土、土地造成(宅地、公園・緑地)の地盤改良材、道路路床材、河川堤防、建設地盤の埋め戻し材、スポーツグランド用土材、園芸用植生培土等に再資源化土材として有効利用するためには、このようなリサイクル土材に求められる課題は、周辺の土壌、生物及び社会環境を保全させるために二次的な環境汚染を引き起こさないことである。
【0040】
また、本発明に係わって、このような二次的に環境汚染を引き起こさせる物質とは、本発明による浄水発生土系吸着材が、吸着・固定化させようとする対象物質である。また、その対象物質には、環境庁が告示する環境基準法に基づく、多くの種類の特定有害物質が存在している。本発明においては、このような関わりのある多くの種類の中で、その対象物質とは、土壌汚染対策法に関わる特定有害物質として告知されているPb,As,Se,F等を吸着・固定化させる対象物質である。また、本発明においては、環境基準法の水質汚濁に関わる環境基準の中で、生活環境保全項目に該当している無機リン(PO)を吸着・固定化させる対象物質である。
【0041】
また、環境汚染を引き起こす対象物質を検討するに際して、土壌1kgに含有する要件と土壌溶出基準の要件の2種類あるが、本発明においては、後者の土壌溶出基準の要件に適宜対処させて、本発明が対処させる汚染物質を評価した。なお、その土壌汚染に関わる環境基準及び生活環境の保全に係わる排水基準を[表1]にまとめて示した。また、リンについては最終改正/平成一八年一一月一〇日環境省令第三三号水質汚濁防止法第三条第一項の規定に基づき、排水基準を定める総理府令を定めており、生活環境の保全に係る排水基準として、一日平均として8mg/Lとなっている。水質汚濁防止法第三条第一項、排水基準として、燐化合物製造業では一日平均10mg/L以下となっている。なお、リンについて、土壌汚染に関わる環境基準には規定されていない。
【0042】
また、カドミウム、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、セレン、フッ素及びホウ素等に係わる環境上の条件のうち検液中濃度に係る値については、汚染土壌が地下水面から離れており、且つ現状において地下水中のこれらの物質濃度が、それぞれ地下水1Lにつき0.01mg、0.01mg、0.05mg、0.0005mg、0.01mg、0.8mg及び1mgを超えていない場合には、それぞれ検液1Lにつき0.03mg、0.03mg、0.15mg、0.03mg、0.0015mg、0.03mg、2.4mg及び3mgとするとされている。
【0043】
【表1】
【0044】
また、このように本発明による浄水発生土系吸着材で処理されたリサイクル土材を上記するような用途に再利用するに際しては、上記するような理由からアルカリ分溶出を抑制させて、周辺の土壌及び自然環境に優しくあらねばならない。
【0045】
そこで、本発明によるリサイクル土材のPHが、例えば、自然環境に係わって特に水質汚濁防止法の排出基準のpH5.8〜8.6を満足し、好ましくは上限値のアルカリ性を超えない土材であることが適宜好適に有用することができる。
【0046】
すなわち、上記する生物多様性・生態系の保全の観点から、リサイクル土材(=土壌)としてのPHは、草木類の植物を植生、繁茂させるに適正な土壌(培地)としても不可欠である。その適正な土壌(培地)のPHは、自然の土壌中に多種多様の微生物が関与して、自然界の動・植物の生態系から発生する排泄叉は腐敗物を浄化するなど、環境保全に深く係わっているからである。
【0047】
その土壌中で微生物の増殖に適するPHとは、5〜9付近とされていることから、土壌のPHは自然の生態系、すなわち草木の植生にとっても、これらの微生物の働きで適正な土壌が確保されている。
【0048】
従って、上記する如く本発明による再資源化土材(=リサイクル土材)の用途として挙げた各種の盛土、土地造成(宅地、公園・緑地)の地盤改良材、道路路床材、河川堤防、建設地盤の埋め戻し材、スポーツグランド用土材、園芸用植生培土等の何れもが、我々人間の環境だけでなく、上記する生物多様性・生態系の環境保全の上で、この再資源化土材が有効利用されるのである。
【0049】
<汚染土材の再資源化方法>
そこで、本発明の再資源化方法によって、適宜好適に有用化される汚染土材には、既に説明済みであるが、例えば、地盤改良工事、河川工事、トンネル工事、ダム工事、ビル建設の現場などから発生する(1)工事・建設汚泥や、(2)河川、港湾等の工事で発生する浚渫汚泥や、(3)各種の産業排出物として工場廃水浄化施設から発生する産業汚泥や、(4)天然土壌や、更には、必要に応じて下水処理場で発生する(5)下水処理汚泥等を挙げることができる。
【0050】
また、既に詳細に説明するように再資源化させるために、本発明による浄水発生土系吸着材で吸着・不溶化させる汚染対象物質(又は汚染イオン種)とは、これらの汚染土材中に溶存する汚染対象物質(又は汚染イオン種)であって、本発明においては、その汚染イオン種としてPb、As、Se、F及び無機リン(PO)から選ばれる少なくとも一種以上のイオン種を挙げるものである。
【0051】
再資源化させる汚染土材中に溶存する汚染イオンの含有量にもよるが、本発明においては、固形分濃度で表わして60〜90質量%範囲にある汚染土材の固形分換算の100質量部数当たり、本発明による浄水発生土系吸着材を1〜10質量部数範囲で添加・混合・混練・乾燥・解砕(又は粉砕)することで、汚染イオン種を、その汚染土材中に吸着・固定化(=不溶化)させる。溶存汚染イオン種を環境庁基準値以下に低減された再生土材を適宜好適に調製することができる。
【0052】
以上のようにして得られた再生土材の水分散系におけるPHは、何れもPH5.8〜8.6範囲を満足していることから、本発明によって、適宜好適に環境に優しい有用土材を提供することができた。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例にいささかも限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1〜9
本発明による環境保全用の浄水発生土系吸着材(以下、単に本吸着材と記す。)の担持基材として、新潟市の信濃川浄水場及び新潟市の阿賀野川浄水場より入手した浄水発生土の110℃×24時間乾燥物を、それぞれ担持基材−1(乾燥減量;29%)、担持基材−2(乾燥減量;54%)として用いた(なお、これら乾燥物の2質量%の水分散系のPHは、それぞれ6.21/25.3℃、6.75/25.0℃であった。)。
本実施例において、これら担持基材用の浄水発生土乾燥物を、予めポットミルで1時間粉砕し、粒径0.5mmφ以下の粉末状の上記担持基材−1、−2として、その100質量部当たりに、イオン交換水30mlに硫酸バンドの無水塩を、それぞれ0.1質量部〜2.5質量部の範囲で溶解させた硫酸バンド溶液を添加・混合・1時間静置させた後、110℃×24時間乾燥させて、それぞれ本発明による本吸着材として用いた。次いで、下記する「汚染フッ素イオン吸着試験」に供し、その結果を[表2]にまとめて表示した。
【0054】
<濃度100[mg/L]の汚染フッ素イオン溶液の調製>
汚染フッ化物イオン標準原液(100mg/L、100ppm)の調製は、日本工業規格K8005に規定する容量分析用標準物質のフッ化ナトリウムを、約500℃×約1時間加熱曝露させた後、デシケータ中で放冷させた仮焼物の0.221gを秤量して少量の水に溶かし、全量1000mlフラスコに移し入れて濃度標量をした。次いて、フッ素イオン濃度100[mg/L]の標準溶液10mlをイオン交換水90mlに希釈して、フッ素イオン濃度10[mg/L]として、その100mlをフッ素イオン吸着試験用に供した。
【0055】
<汚染フッ素イオン吸着試験>
フッ素イオン濃度10mg/L(NaF溶液)の100ml中に、本吸着材の1.0質量部数を投入・30分撹拌後・30分静置させた後、Whatman Filter paper NO.42を使用して濾別してその濾液について、イオンクロマトグラフを使用して分析した結果を[表2]にまとめて表示した。なお、分析方法は、JIS K0102の測定方法に準拠させて行い、その概要を[表1]に記載した。
【0056】
比較例1〜7
本発明による硫酸バンド添着の本吸着材の作用効果(又は発明性)を明確にさせるために、比較例として、硫酸バンド無添着品の試料添加量1.0及び0.5をそれぞれ比較例1、比較例2、硫酸バンド添着質量部数3及び3.5をそれぞれ比較例3、比較例4の吸着材として調製した。また、本吸着材の硫酸バンド添着に置換えて、実施例と同様にして硫酸第2鉄塩を1質量部、3質量部及び5質量部を添着させた吸着材を調製して、実施例と同様にして「汚染フッ素イオン吸着試験」に供し、それぞれ比較例5、6及び7として、その結果を[表2]に表示した。
【0057】
表2に表示した結果から明らかなように、本吸着材は、その担持硫酸バンドの担持量0.1〜2.5質量%に亘って、汚染フッ素イオンを吸着固定させる事がよく理解される。また、その作用効果は、硫酸バンドに置換えた硫酸第二鉄塩を示す比較例5〜7の結果と対比すると、本発明による環境保全用の浄水発生土系吸着材が、発揮させる汚染イオン種の吸着・固定化能が優れていることがよく理解される。
【0058】
【表2】
【0059】
なお、表中のNO.1は信濃川浄水発生土基材を、NO.2は阿賀野川浄水発生土基材を、乾燥品は110℃×24時間乾燥させた本素吸着材を、また、その乾燥品を500℃×2時間仮焼させた本吸着材を仮焼品と表示する。
【0060】
実施例10〜15
実施例1〜9で調製した本吸着材を用いて、本吸着材の鉛、砒素、セレン、リン酸等の溶存汚染イオンに対しての吸着・固定化能を評価し、その結果を表3に表示した。なお、各イオンの吸着試験方法について:鉛はPbClを使用し、砒素ではHAsO・0.5HO、セレンでは、HSeO・HOを使用し、リンはリン酸アンモニウムを使用した。また、各イオンを約10ppmに調製し、その溶液100mlに対し吸着剤1gの割合で投入、攪拌30分、静置30分の後、ろ過を行い、ろ液について各対象イオンを[表1]における各JISKに基づき分析を行った。
【0061】
【表3】
【0062】
[表3]に表示した結果から明らかなように、本吸着材は、鉛、砒素、セレン及びリン酸等の汚染イオン種に対しても、汚染フッ素イオンに対して発揮させたと同様又は同程度の吸着・固定化能を示すことが理解される。
【0063】
実施例16〜18
本実施例において、A社より入手したフッ素イオンを溶存する汚染土材について、環境庁告示第46号における公害対策基本法第9条の規定に基づき、土壌の汚染に係る環境基準について告示された付表の測定方法に準じて、その溶存フッ素イオンを溶出させて、その溶出イオン量を測定した。その結果、溶出フッ素イオン濃度は3ppmであった。次いで、この汚染土材の100gに対して、実施例7で調製した本吸着剤を、それぞれ1,5,10及び20gを混合し、1日静置した。1日静置後の処理土材の2gをイオン交換水に懸濁し、30分間静置させた後PHを測定し、その結果を[表4]に表示した。
【0064】
次いで、汚染土材の100gに対して実施例8で使用した本吸着剤を1g、5g及び10gをそれぞれ添加混合して、それぞれ実施例16、17及び18として処理土材のフッ素溶出試験を行い、その結果を実施例16,17及び18として[表4]に表示した。併せて、本吸着剤未添加及び20gを添加混合した処理土材のフッ素溶出試験を行い、その結果を比較例13、14として、併せて[表4]に表示した。
【0065】
以上から、[表4]に表示した結果から明らかなように、実汚染土材中に溶存する汚染フッ素イオンに対して、本吸着材が、効果的に吸着・固定化させることがよく理解される。また、このように本吸着材を汚染土材に添加させて資源化土材に再生された処理土材のPHは、6.5〜8.0で、何れも環境保全の観点で満足されるものである。
【0066】
【表4】
【0067】
実施例19
本実施例においては、実施例1〜9で調製したものと同様の本吸着材の乾燥物を、粒度10〜14meshの顆粒状に成型した後、温度500℃×1時間仮焼させて、本吸着材の顆粒状品を調製した。次いで、この顆粒状本吸着材の所定量をカラム(内径20mmφ、高さ64mm)に20ml充填させて、SV[空塔速度(hr−1)]≒10(hr−1)の条件で、上記実施例で調製し使用したと同様のフッ素イオン濃度10[mg/L]溶液を、フッ素イオン汚染水として用いた。
【0068】
即ち、この汚染水を上記カラムに供給させて汚染水の浄化処理を行った。その通液8時間後の分析結果、この汚染水中に溶存しているフッ素イオン濃度は0.6mg/Lであり、フッ素イオンは吸着除去され、連続して浄水された。
【0069】
よって、本発明による環境保全用の浄水発生土系吸着材は、顆粒状に成型することで、汚染水中の汚染イオン種を吸着・除去させる浄水化剤として適宜好適に有用されることが判明された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上から、本発明によって、各種の浚渫汚泥、産業汚泥及び天然の土壌等の汚染土材に、本発明による環境保全用浄水発生土系吸着材を添加させて、この吸着材の作用効果(溶存イオン種の吸着・不溶化)が活かされて、従来から産業廃棄物として廃棄処分されていた汚染土材を、再資源化土材(路盤材、造成盛土材、築堤盛土材、スポーツグランド用土材、園芸用植生培土など)として、周辺の土壌、生物及び社会環境を保全させる有用土材として提供することができた。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水発生土を担持基材に用いて、各種の汚泥や天然の土壌等の土材中に溶存する汚染イオン種を吸着・固定化させる環境保全用の浄水発生土系吸着材であって、
前記担持基材の110℃×24時間乾燥物換算の100質量部数当たり、硫酸バンドを無水物換算で0.1〜2.5質量部数範囲で添着させ、
てなることを特徴とする環境保全用の浄水発生土系吸着材。
【請求項2】
前記担持基材が、110℃×24時間乾燥物換算で表す成分が、
SiO ; 30〜50 質量%
Al; 15〜50 質量%
Fe; 5〜15 質量%
その他 ; 5〜10 質量%
[*印のその他はIg−lossを除くCaO,MgO,KO,NaO,Cl,SO等の合量成分を示す。]
である請求項1に記載の環境保全用の浄水発生土系吸着材。
【請求項3】
前記汚染イオン種がリン酸、フッ素、ヨウ素、セレン、鉛、セシウムの群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の環境保全用の浄水発生土系吸着材。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載する何れかの環境保全用の浄水発生土系吸着材を用いて、粒度4〜14meshに成型後、温度300℃〜500℃で仮焼させいることを特徴とする環境保全用の浄水発生土系顆粒状吸着材。
【請求項5】
浄水場で多量に発生する浄水発生土を用いて、前記土材中に溶存する各種の汚染イオン種を吸着・固定化させる前記請求項1乃至3に記載する環境保全用の浄水発生土系吸着材の製造方法であって、
前記浄水発生土を固形分濃度換算で60〜90質量%に脱水又は乾燥させ、
次いで、前記浄水発生土の110℃×24時間乾燥物換算の100質量部数当たり、硫酸バンドの金属硫酸塩又はその水溶液を、硫酸バンドの無水物換算で0.1〜2.5質量部数範囲で添加させ、
次いで、混合(又は混練)・乾燥・(又は粉砕)させることを特徴とする環境保全用の浄水発生土系吸着材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3に記載する何れかの環境保全用の浄水発生土系吸着材(=FWCS)を用いて、前記土材中に溶存する各種の汚染イオン種を吸着固定化させて、溶存汚染イオン種を環境庁基準値以下に低減させて有用土材に再生させる前記汚染土材の再資源化方法であって、
固形分濃度が60〜90質量%範囲にある前記土材の固形分換算の100質量部数当たり、前記FWCSを1〜10質量部数範囲で添加・混合(又は混練)させ、
次いで、風乾(又は乾燥)・解砕(又は粉砕)させることを特徴とする汚染土材の再資源化方法。

【公開番号】特開2013−13883(P2013−13883A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162555(P2011−162555)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(501362021)株式会社エコ・プロジェクト (6)
【Fターム(参考)】