説明

環境放射線測定装置

【課題】半導体放射線検出素子を用いて、自然放射線レベルから、高線量レベルまでの広範囲の環境放射線を、高精度で測定することができ、しかも小型軽量化が可能で、製造コストを低減できるようにした環境放射線測定装置を提供する。
【解決手段】 予め定めた基準点を中心として等距離に配設した複数の支持面を有する支持体6と、支持体6の各支持面に設けた1個または複数個の放射線検出用半導体素子12と、各放射線検出用半導体素子12に電気的に接続され、各放射線検出用半導体素子12への放射線の入射に起因する計測値を、それぞれ、または複数分まとめて計測する計測手段14、19と、計測手段の計測値と、メモリに記憶させた条件設定情報とに基づいて、出力情報を決定して出力するデータ処理手段とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境放射線を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境放射線を測定する従来の放射線測定装置としては、例えば、放射線検出部を搭載する方向切替部の外周四辺に、正面から飛来する放射線に対して大きな感度をもつ複数のサブ検出器を、それぞれの正面が外側に向くように配置し、それらの計数値比から入射放射線の方向を特定し、ターンテーブルを回転させて、放射線検出部の正面をその方向に向かせるようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、放射線検出器を支持する本体部に、可回動型支持部材を取付け、この可回動型支持部材を上方に移動させて、本体部の最下部に取付けた車輪により、移動しうるようにしたものもある(例えば特許文献2参照)。
【0004】
さらに、放射線検出手段として、半導体を用いたものは公知である(例えば特許文献3または4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−265471号公報
【特許文献2】特開2003−057347号公報
【特許文献3】国際公開WO2002/063340パンフレット
【特許文献4】特開2009−246073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている環境放射線量計は、構造が複雑な上に、操作に手間が掛かり、また、大型で、製造コストが高くつく。
特許文献2には、環境放射線量計の、搬送のための構成が記載されているだけで、放射線検出器の具体的な構造に関しては記載されていない。
また、特許文献3および4に記載されているような従来の半導体を用いた放射線検出器は、NaI(Tl)シンチレーション検出器に比較すると感度が悪く、環境放射線測定装置に使用するには不向きとされている。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、従来は不向きとされていた半導体放射線検出素子を用いて、自然放射線レベル(0.01μGy/hのオーダ)から、高線量レベル(100mGy/h)までの広範囲の環境放射線を、高精度で測定することができ、しかも小型軽量化が可能で、製造コストを低減できるようにした環境放射線測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1) 環境放射線測定装置を、予め定めた基準点を中心として等距離に配設した複数の支持面を有する支持体と、前記支持体の各支持面に設けた1個または複数個の放射線検出用半導体素子と、前記各放射線検出用半導体素子に電気的に接続され、各放射線検出用半導体素子への放射線の入射に起因する計測値を、それぞれ、または複数分まとめて計測する計測手段と、前記計測手段の計測値と、メモリに記憶させた条件設定情報とに基づいて、出力情報を決定して出力するデータ処理手段とを備えるものとする。
【0009】
このような構成とすると、個々の感度が悪い放射線検出用半導体素子であっても、複数個を、予め定めた基準点を中心として等距離に配設した複数の支持面に設けることにより、それらの半導体素子によって形成された空間内に入射する放射線を的確にキャッチすることができ、環境放射線を、広範囲の測定レンジに亘って、高精度で測定することができる。
また、複数の半導体素子を寄せ集めるとしても、個々の半導体素子は小型のため、測定装置全体としての小型軽量化が可能であり、製造コストを低減できるだけでなく、可搬性に優れ、放射線災害時等に緊急に設置可能である。
さらに、原子炉施設周辺に設置することにより、平常時および災害発生時の原子炉施設周辺の放射線環境を経時的に監視することができ、設備周辺住民の放射線被ばく線量の推定や災害原因の解明等に寄与することができる。
【0010】
(2) 上記(1)項において、支持体を、少なくとも、前後左右の外側面に設けた4個の支持面と、上面に設けた1個の支持面とを有するものとする。
【0011】
このような構成とすると、底面を除く全外周に放射線検出用半導体素子が配設された最も単純な構造の立体空間を形成することができ、構造を簡素化でき、製造コストを低減することができる。
【0012】
(3) 上記(1)または(2)項において、計測手段を、各支持面ごとの1個または複数個の放射線検出用半導体素子、または予め定めた複数個の放射線検出用半導体素子の計測値を計測するサブ計測手段と、すべてのサブ計測手段の計測値を合算するメイン計測手段とを備えるものとする。
【0013】
このような構成とすると、放射線検出用半導体素子に、非常に多くの放射線が入射したときに、誤って少なく計測することを可及的に減少することができる。
【0014】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、放射線検出用半導体素子を設けた支持体の全支持面を覆い、予め定めたエネルギーレベル以下の放射線の進入を阻止する放射線フィルタを、前記支持体に設ける。
【0015】
このような構成とすると、エネルギーレベルの小さい放射線の検出を捨象し、平均化処理を図ることができる。
【0016】
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、データ処理手段に送信機を接続し、データ処理手段の出力データを送信機より送信しうるようにする。
【0017】
このような構成とすると、環境放射線測定装置のデータを遠隔地において受信することができるので、複数の環境放射線測定装置を互いに離れた地点に設置して、広範囲の環境放射線を一箇所で集約して状態監視することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、従来は不向きとされていた半導体放射線検出素子を用いて、環境放射線を、広範囲の測定レンジに亘って、高精度で測定することができ、しかも小型軽量化が可能で、製造コストを低減できるようにした環境放射線測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を斜め前方より見た分解斜視図である。
【図2】ケースと放射線フィルタとを中央で縦断して示す縦断正面図である。
【図3】1枚の基板の正面図である。
【図4】電気系統をブロックで示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すように、この環境放射線測定装置は、水平の円形とした台板1と、台板1上に複数のスペーサ2と固定ねじ3とをもって、台板1から上方に離間するようにして水平に支持された、台板1より小径の円形の支持板4と、この支持板4の上面中央に設けた直方体状の支持フレーム5とからなる支持体6を備えている。
【0021】
支持フレーム5は、下端を支持板4上に固定ねじをもって固着した4本の支柱7と、各支柱7の上端同士を平面視正方形をなすように連結する4個の横杆8とをそなえている。なお、各支柱7の下部同士を、横杆8と同様の横杆(図示略)をもって互いに連結してもよい。
【0022】
支持フレーム5の上面には、正方形の基板9が、また、支持フレーム5の前後左右の側面には、縦長の長方形の基板10が、それぞれ四隅を固定ねじ11をもってねじ止めすることにより取付けられている。
【0023】
基板9の上面、および各基板10における上端から上辺を一辺とする正方形部分(図3における2点鎖線参照)の外側面は、正立方体における底面を除く各面をなしている。
したがって、上記各面は、上記正立方体の中心Oを基準点と定めたとき、この基準点を中心として等距離に配設された支持面をなしている。
【0024】
支持面である基板9の上面、および各基板10における上記正方形部分の外側面には、4個の放射線検出用半導体素子(以下単に半導体素子という)12が、縦横2個ずつの同一パターンでそれぞれ止着されている。
【0025】
各半導体素子12は、板状のシリコン半導体にアルミ蒸着などにより電極を形成したものである。この半導体素子12に逆バイアス電圧を印加すると、半導体内部に空乏層が形成され、この領域に入射したγ放射線の相互作用により発生した電子と正孔を計数することにより線量が測定されるようになっている。
【0026】
図3に示すように、各基板10における上記正方形部分を除く下部には、各基板10に止着した4個の半導体素子12にプリント配線13(またはリード線)をもって電気的に接続され、各々の半導体素子12から、放射線の入射に対応して発生するパルス数をカウントする4個のカウンタ14aを備えるカウンタブロック14が設けられている。
【0027】
支持フレーム5の前面(または後面もしくは側面でもよい)における基板10の下方には、補助基板15が取付けられ、これに、基板9に設けた4個の半導体素子12にリード線16を介して電気的に接続され、その各々の半導体素子12から、放射線の入射に対応して発生するパルス数をカウントする4個のカウンタ14aを備えるカウンタブロック14が設けられている。
【0028】
台板1の上面中央には、制御ボックス17が着脱自在に設けられ、この制御ボックス17内には、図4に示すように、各半導体素子12の計測値をカウントする20個すべてのカウンタ14aにリード線18を介して接続され、それらのカウンタ14aの計測値を合算する作用をするCPU19、各種の条件設定情報を記憶させておくためのメモリ20、CPU19の計測値と、メモリ20に記憶させた条件設定情報とに基づいて、出力情報を決定して出力するデータ処理手段21、このデータ処理手段21に接続され、データ処理手段21の出力データを、電波に化体して送信する送信機22、上記各電気、電子部品に給電する電源23等が設けられている。
【0029】
この実施形態においては、20個のカウンタ14aが、1個ごとの半導体素子12の計測値を計測するサブ計測手段をなし、CPU19が、すべてのサブ計測手段の計測値を合算するメイン計測手段をなし、そのサブ計測手段とメイン計測手段とによって、計測手段が形成されている。
【0030】
メモリ20に記憶させておく条件設定情報は、例えばカウント値、カウントする単位時間の長さ、放射線量率、機器固有の補正値等が含まれる。
【0031】
図2に示すように、リード線18は、支持板4の中央に穿設した上下方向の挿通孔24を通して、各カウンタブロック14から制御ボックス17に導いている。
【0032】
支持板4の中央には、支持フレーム5の平面視における対角線より大径の円形をなす上向き段部4aが設けられており、この上向き段部4aには、上端が上面板25aをもって閉塞された筒状の放射線フィルタ25の下端部がきつめに外嵌されている。
【0033】
この放射線フィルタ25は、予め定めたエネルギーレベル(例えば50keV)以下の放射線の進入を阻止するためのもので、例えば、銅によって形成されている。進入を阻止する放射線のエネルギーレベルを変更したい場合は、放射線フィルタ25の厚さや材質を適宜変更すればよい。
また、この放射線フィルタ25を省略して実施したり、次に説明する外装ケース26と一体に設けたりすることもできる。
【0034】
放射線フィルタ25の外側は、さらに、上端が上面板26aをもって閉塞された筒状の外装ケース26により覆われている。
この外装ケース26は、下端に設けた拡径フランジ26bを、固定ねじ27をもって、台板1の外周縁に固定することにより、台板1に着脱可能として装着されている。
【0035】
この環境放射線測定装置は、以上のような構成としてあるので、予め定めたエネルギーレベルより高い放射線が、放射線フィルタ25を通過して、いずれかの半導体素子12に入射すると、その半導体素子12から、その放射線の入射に対応してパルスを発生し、そのパルスが、サブ計測手段である個々のカウンタ14aによりカウントされる。
【0036】
各半導体素子12に、計数回路の計数限界を超えた非常に多くの放射線が入射すると、本来計数すべき計数値より少ない値しかカウントしないおそれがある。そのため、高線量率(100mGy/h)に相当する放射線数が入射しても半導体素子が計数回路の計数限界に収まるよう半導体素子の大きさを抑えてある。このようにして誤って少なく計測することを可及的に減少させることができる。
【0037】
各カウンタ14aでカウントされた計数は、メイン計測手段であるCPU19においてすべて加算されて出力される。このときは、各計数は数値として合算されるので、カウンタ14aにおける上記のような誤計測のおそれはない。
【0038】
CPU19の出力データは、データ処理手段21において、メモリ20に記憶させた条件設定情報に基づいて、データ処理され、出力データは、送信機22により、電波に化体されて送信される。
【0039】
電波に化体されて送信された上記出力データは、受信機により、遠隔地において受信することができる。
したがって、複数の環境放射線測定装置を互いに離れた地点に設置し、各環境放射線測定装置より送信された出力データを一箇所で受信することにより、広範囲の環境放射線を一箇所で集約して状態監視することができる。
【0040】
以上から明らかなように、本発明によると、個々の感度が不十分な放射線検出用半導体素子であっても、複数個を、予め定めた基準点を中心として等距離に配設した複数の支持面に設けることにより、それらの半導体素子によって形成された空間内に入射する放射線を的確に捕捉することができ、環境放射線を、広範囲の測定レンジに亘って、高精度で測定することができる。
【0041】
また、複数の半導体素子12を寄せ集めるとしても、個々の半導体素子12は小型でよいので、測定装置全体としての小型軽量化が可能であり、製造コストを低減できるだけでなく、可搬性に優れ、放射線災害時等に緊急に設置可能である。
【0042】
さらに、原子炉施設周辺に設置することにより、平常時及び災害発生時の原子炉施設周辺の放射線環境を経時的に監視することができ、設備周辺住民の放射線被ばく線量の推定や災害原因の解明等に寄与することができる。
【0043】
支持体6が、少なくとも前後左右の側面に設けた4個の支持面と、上面に設けた1個の支持面とを有するものとしてあるので、底面を除く全外周に半導体素子12が配設された最も単純な構造の立体空間を形成することができ、構造を簡素化でき、製造コストを低減することができる。
【0044】
放射線フィルタ25を設けると、エネルギーレベルの小さい放射線の検出を捨象し、平均化処理を図ることができる。
【0045】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、以下のような変形した態様での実施が可能である。
(1) 上記実施形態においては、支持体6における支持面を、前後左右の側面と上面との5面としてあるが、例えば、正八面体の各面、その他の正多面体の各面、またはミラーボールの各面とすることもできる。
(2) 上記実施形態においては、1個の支持面に4個の放射線検出用半導体素子12を配設してあるが、各支持面に配設する半導体素子12の数は、1個、または4個を除く複数個とすることができる。ただ、1個の支持面に配設する半導体素子12の数は、少なくするのが望ましい。
(3) 上記実施形態においては、サブ計測手段である1個のカウンタ14aにより、1個の半導体素子12の計測値を計数するようにしてあるが、たとえば、1個のカウンタ14aにより、1個の支持面に配設した4個の半導体素子12の計測値をまとめて計測するようにしたり、複数の支持面に配設された複数の半導体素子12の計測値をまとめて計測するようにしてもよい。
(4) 図2に2点鎖線で示すように、外装ケース26の上面板26a上、またはその他の部位に、太陽電池28を設け、この太陽電池28により、電源23を充電するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 台板
2 スペーサ
3 固定ねじ
4 支持板
4a上向き段部
5 支持フレーム
6 支持体
7 支柱
8 横杆
9、10 基板
11 固定ねじ
12 放射線検出用半導体素子
13 プリント配線
14 CPU(サブ計測手段)
15 補助基板
16 リード線
17 制御ボックス
18 リード線
19 CPU(メイン計測手段)
20 メモリ
21 データ処理手段
22 送信機
23 電源
24 挿通孔
25 放射線フィルタ
25a上面板
26 外装ケース
26a上面板
26b拡径フランジ
27 固定ねじ
28 太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた基準点を中心として等距離に配設した複数の支持面を有する支持体と、
前記支持体の各支持面に設けた1個または複数個の放射線検出用半導体素子と、
前記各放射線検出用半導体素子に電気的に接続され、各放射線検出用半導体素子への放射線の入射に起因する計測値を、それぞれ、または複数分まとめて計測する計測手段と、
前記計測手段の計測値と、メモリに記憶させた条件設定情報とに基づいて、出力情報を決定して出力するデータ処理手段
とを備えることを特徴とする環境放射線測定装置。
【請求項2】
支持体を、少なくとも前後左右の側面に設けた4個の支持面と、上面に設けた1個の支持面とを有するものとした請求項1記載の環境放射線測定装置。
【請求項3】
計測手段を、各支持面ごとの1個または複数個の放射線検出用半導体素子、または予め定めた複数個の放射線検出用半導体素子の計測値を計測するサブ計測手段と、すべてのサブ計測手段の計測値を合算するメイン計測手段とを備えるものとした請求項1または2記載の環境放射線測定装置。
【請求項4】
放射線検出用半導体素子を設けた支持体の全支持面を覆い、予め定めエネルギーレベル以下の放射線の進入を阻止する放射線フィルタを、前記支持体に設けた請求項1〜3のいずれかに記載の環境放射線測定装置。
【請求項5】
データ処理手段に送信機を接続し、データ処理手段の出力データを送信機より送信しうるようにした請求項1〜4のいずれかに記載の環境放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2816(P2012−2816A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136453(P2011−136453)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【分割の表示】特願2011−509803(P2011−509803)の分割
【原出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(500054329)原電事業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】