説明

環状ホルマールの精製方法

【課題】本発明は、分離膜の閉塞を抑制し長期間安定して環状ホルマールを精製することができ、さらにパーオキサイドの発生を抑制し、高純度の環状ホルマールを得ることができる、環状ホルマールの精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の環状ホルマールの精製方法は、水および環状ホルマールを含む溶液(X)と、下記式(1)で表される添加剤とを含有する混合物(Z)を、分離膜に透過させて水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離する工程を含む。
H(CH2O)nR (1)
(式(1)中、nは自然数であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホルマールの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ホルマールとしては、例えば、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,3,5−トリオキセパン等が知られている。従来、環状ホルマールは、グリコールとアルデヒドとの環化反応や、アルキレンオキシドとアルデヒドとの環化反応により製造されている。また、近年、高純度の環状ホルマールが求められている。
【0003】
代表的な環状ホルマールである1,3−ジオキソランの製法としては、以下のような方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、酸触媒の存在下でエチレングリコールとホルムアルデヒドとを反応させることにより、7%の水分を含む1,3−ジオキソランを96.5%の収率で得られることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、酸触媒の存在下でエチレングリコールとトリオキサン(含水)とを反応させ、反応混合物をベンゼンで抽出し、さらに、苛性ソーダ溶液による洗浄と精留とを行うことにより、高純度の1,3−ジオキソランが得られることが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、酸触媒の存在下でエチレングリコールとパラホルムアルデヒドとを反応させ、反応蒸留液にシクロヘキサンを添加し、精留することにより、高純度の1,3−ジオキソランが得られることが開示されている。
【0007】
上記技術を改良する方法として、原料であるアルキレングリコールおよびホルムアルデヒド誘導体の供給時および反応時において、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とのモル比をそれぞれ特定の範囲とすることにより、不純物の生成量を低減させ、反応条件によって生成した蒸気に含まれる飛沫同伴を気液接触部に供給し、希釈液と向流接触させることで、かかる蒸気への不純物およびホルムアルデヒド等の混入を大幅に抑制する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
一方で上記技術を改良する方法として、環状ホルマールを製造する際の不純物を、蒸留などを行わず、低いエネルギーで分離できる方法として、膜を用いて分離する方法が開示されている(例えば、特許文献5〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】西ドイツ特許第1914209号明細書
【特許文献2】ソ連特許第434737号明細書
【特許文献3】特開昭49−62469号公報
【特許文献4】WO2002/055513号公報
【特許文献5】特開平07−33762号公報
【特許文献6】特開平06−199830号公報
【特許文献7】WO2006/040064号公報
【特許文献8】WO2006/040065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3では、アルキレングリコールとホルムアルデヒド誘導体とから環状ホルマールを合成する方法について開示しているものの、反応に用いる原料の供給時と反応時における組成を制御して反応を行い、副生する不純物を抑制するという点については開示していない。また、原料であるホルムアルデヒド誘導体へのメタノールや水などの混入を避けることによって、副生する不純物を抑制する点についても、ほとんど着目されていない。
【0011】
例えば、環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを製造する場合、原料であるホルムアルデヒド誘導体にメタノールやホルムアルデヒドが共存すると、両者が反応し、付加物を形成するため、蒸留によって1,3−ジオキソランから付加物を高度に分離することが困難となる。加えて、反応中、1,3,5−トリオキセパンが多量に生成し、さらに、ホルムアルデヒドも多量に留出液に混入するため、1,3−ジオキソランの収率が低下してしまう。
【0012】
特許文献4では、精製を高める過程において蒸留操作回数が増加することで環状ホルマール由来のパーオキサイドが発生している。パーオキサイドは環状ホルマールを溶媒として用いる場合や、出発原料として合成・重合などに用いる場合、副生成物を発生させる原因となるため、パーオキサイドの少ない純度の高い環状ホルマールが要求される。特許文献4においてはパーオキサイドを抑制するために、窒素を蒸留操作時に同伴させることで、パーオキサイドを抑制しているが、窒素を導入することで環状ホルマールの空塔速度が高まり、蒸留効率が低下、或いは飛沫同伴などの問題が潜在する。
【0013】
特許文献5および6に開示されている方法は、環状ホルマールと水との混合物を、有機膜を用いて分離する方法が開示されているが、分離する有機膜の細孔の閉塞による効率悪化についての記載がなく、50時間以上は運転が継続する、工業的な長期運転時の安定性については検証されていない。
【0014】
そこで、本発明は、分離膜の閉塞を抑制し長期間安定して環状ホルマールを精製することができ、さらにパーオキサイドの発生を抑制し、高純度の環状ホルマールを得ることができる、環状ホルマールの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、水および環状ホルマールを含む溶液から、分離膜を用いて水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離し、環状ホルマールを精製する方法において、長期運転を安定化させるためには、分離膜表面の細孔を閉塞させる物質の生成を抑制することが重要であることを発見した。そして、水および環状ホルマールを含む溶液に、特定の構造の添加剤を共存させることで、前記物質の生成を抑制することができ、分離膜表面の細孔を閉塞させることなく長期運転を安定化させることができることを見出した。以上のとおり本発明者らは、水および環状ホルマールを含む溶液に特定の構造の添加剤を添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0017】
〔1〕
水および環状ホルマールを含む溶液(X)と、下記式(1)で表される添加剤(Y)とを含有する混合物(Z)を、分離膜に透過させて水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離する工程を含む環状ホルマールの精製方法。
【0018】
【化1】

(式(1)中、nは自然数であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を示す。)
〔2〕
前記分離膜が無機膜である、〔1〕に記載の精製方法。
【0019】
〔3〕
前記式(1)で表される添加剤(Y)の添加量が、前記溶液(X)に対して、質量基準で30ppm以上400ppm以下である、〔1〕または〔2〕に記載の精製方法。
【0020】
〔4〕
前記分離膜がゼオライト膜である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の精製方法。
【0021】
〔5〕
前記式(1)中、Rが水素原子またはメチル基であり、nが1、2または3である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の精製方法。
【0022】
〔6〕
前記混合物(Z)を、前記分離膜に接触させる際に気体状態とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の精製方法。
【0023】
〔7〕
前記溶液(X)における水濃度が0.01質量%以上30質量%以下である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の精製方法。
【0024】
〔8〕
前記分離膜へ供給する際の混合物(Z)の温度が60℃以上である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の精製方法。
【0025】
〔9〕
〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の精製方法で精製された環状ホルマール。
【0026】
〔10〕
パーオキサイドの含有量が0.5ppm以下である、〔9〕に記載の環状ホルマール。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、特定の構造の添加剤を用いることで、環状ホルマールを低いエネルギーで精製でき、特にパーオキサイド等の不純物の発生を抑制し、高純度の環状ホルマールを長期間安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施例1〜6、比較例1〜2で使用した精製装置の概略図である。
【図2】図2は、実施例7で使用した精製装置の概略図である。
【図3】図3は、比較例3で使用した精製装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
≪環状ホルマールの精製方法≫
本実施形態の環状ホルマールの精製方法は、水および環状ホルマールを含む溶液(X)と、下記式(1)で表される添加剤(Y)とを含有する混合物(Z)を、分離膜に透過させて水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離する工程を含む。
【0031】
【化2】

(式(1)中、nは自然数であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を示す。)
〈水〉
前記溶液(X)を構成する水は、特に限定されず、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水などが挙げられる。
【0032】
前記溶液(X)における水濃度は、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。前記溶液(X)における水濃度が前記範囲内であると、長期安定的に環状ホルマールを精製することができる。
【0033】
前記溶液(X)における水濃度が30質量%を超えると、分離膜の寿命を短くさせる可能性があり、長期間に渡って、安定して環状ホルマールを分離・精製することが難しくなる恐れがある。一方、前記溶液(X)における水濃度が0.01質量%未満の場合、分離膜により水濃度を低下させるより、シリカゲルなどの脱水剤と環状ホルマールを接触させて水を除去するほうが、エネルギー使用量が少なくなる可能性が高い。
【0034】
本実施形態の精製方法において、前記溶液(X)における水濃度を前記範囲にするために、蒸留塔と分離膜とを組み合わせてもよい。予め水および環状ホルマールを含む溶液を連続的に蒸留塔に供給し、水濃度を前記範囲に調整することにより、長期間安定して効率良く環状ホルマールを精製することが可能となる。また、蒸留塔と分離膜との組み合わせにより、意図せず混入する酸などがなくなるため、分離膜の加水分解を抑制し、分離膜の寿命が長くなり、長期間安定に環状ホルマールを精製することが可能となる。
【0035】
〈環状ホルマール〉
環状ホルマールは、例えば、アルキレングリコールとホルムアルデヒドとから環化反応により得られる。環状ホルマールとしては、例えば、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキセパン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,3,6−トリオキソランが挙げられる。中でも、1,3−ジオキソランは入手・合成がし易い。なお、1,3−ジオキソランを用いると、後述の実施例で示すとおり、精製時において分離膜の圧力変動が小さい傾向にある。
【0036】
1,3−ジオキソランを製造する場合には、エチレングリコールが用いられる。同様に、1,4−ブタンジオールホルマールを製造する場合には1,4−ブタンジオールを、ジエチレングリコールホルマールを製造する場合にはジエチレングリコールを、4−メチル−1,3−ジオキソランを製造する場合には1,2−プロパンジオールを、1,3−ジオキサンを製造する場合には1,3−プロパンジオールを、1,3,6−トリオキソランの場合には2−(ヒドロキシメトキシ)エタノールを、それぞれ用いることができる。
【0037】
〈添加剤(Y)〉
本実施形態に用いる添加剤(Y)は、環状ホルマールの精製のための添加剤であり、下記式(1)で表される。
【0038】
【化3】

ここで、式(1)中、nは自然数であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を示す。
【0039】
添加剤(Y)は、環状ホルマールの精製時において気体として存在することが好ましい場合が多い。そのため、添加剤(Y)は、沸点が低いほうが好ましいことから、上記式(1)中、nは1〜3の整数であることが好ましい。さらに、添加剤(Y)の沸点の低さの観点から、上記式(1)中、Rは、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基が好ましく、中でも水素原子またはメチル基がより好ましい。添加剤(Y)として具体的には、メタノール、メトキシメタン、メトキシ(メトキシ)メタン、メトキシ(メトキシメトキシ)メタンが好ましい。
【0040】
添加剤(Y)の添加量は、少ないと分離膜の寿命が短くなり長期に安定的に環状ホルマールが精製できなくなるため、水および環状ホルマールを含む溶液(X)の量に対して、質量基準で30ppm以上であることが好ましく、50ppm以上であることがより好ましく、70ppm以上であることがさらに好ましい。該添加量の上限は、長期に渡り安定的に分離膜の分離性能を確保する観点および、高純度の精製環状ホルマールを得るという観点から、400ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、200ppm以下であることがさらに好ましく、150ppm以下であることが特に好ましい。また、前記上限値を超えて添加剤(Y)が添加されると、精製された環状ホルマール中に添加剤(Y)が多量に含まれるため、例えば、ポリオキシメチレンを製造する際、予期せぬ副反応が発生したり、分子量の制御が困難となる場合がある。
【0041】
〈分離膜〉
本実施形態に用いる分離膜は無機膜であることが好ましい。無機膜とは、一般的にセラミックからなる膜であり、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物膜、炭素化(カーボン)膜、ガラス膜などが挙げられる。中でも分離性能の高さから、金属酸化物膜が好ましく、中でもゼオライト膜が好ましい。
【0042】
ゼオライトの具体例としては、A型ゼオライト、B型ゼオライト、D型ゼオライト、L型ゼオライト、N−A型ゼオライト、PC型ゼオライト、R型ゼオライト、T型ゼオライト、W型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、ZK−5型ゼオライト、MFI型ゼオライト高シリカゼオライト、ヒドロキシカンクリナイト、アナルサイム、チャバサイト、ホウジャサイト、モルデナイト、ソーダーライト、ヒドロキシソーダライト、エリオナイト、クリノブチロライト等が挙げられる。また、ゼオライトには、天然ゼオライト(analcime,chabazite,heulandite,erionite,ferrierite,laumontite,mordenite等を成分とするゼオライト)、合成ゼオライト(A,N−A,X,Y,hyadroxy sodalite,ZK−5,B,R,D,T,L,hydroxy,cancrinite,W,Zeolaon等の各種の型のゼオライト)がある。これらの中で安価でかつ耐加水分解性の高いA型ゼオライト、T型ゼオライトが好ましい。
【0043】
本実施形態の精製方法において、分離膜の透過処理能力は、供給側を基準として1kg/(m2・時間)以上であることが好ましい。分離膜を透過させる処理量にもよるが、1kg/(m2・時間)で未満であると分離膜を設置する装置が巨大となり、メンテナンス性が著しく悪くなる可能性がある。分離膜の透過処理能力は、より好ましくは5kg/(m2・時間)以上、さらに好ましくは10kg/(m2・時間)以上、よりさらに好ましくは15kg/(m2・時間)以上、特に好ましくは20kg/(m2・時間)以上である。
【0044】
本実施形態の精製方法において、分離膜を設置する装置は、並列に連結しても直列に連結してもよい。分離膜の透過処理能力が低い場合、並列にすることで処理量を高めることができ、また直列に連結することで、より高い精度での精製が可能となる。好ましくは、直列に連結することが好ましく、一度分離膜により分離した生成物を、再度分離膜により分離し精製するといった、2段階で分離することが好ましく、さらに好ましくは3段階以上で分離することである。処理量や分離能力により、並列や直列を選択することができ、また直列と並列の併用する方法も選択できる。
【0045】
〈混合物(Z)の供給方法〉
本実施形態の精製方法において、水、環状ホルマールおよび添加剤を含む混合物(Z)は、分離膜に接触させる際に、気体であることが好ましい。例えば、前記混合物(Z)を、分離膜に供給する際に、気体で供給し、分離膜を通過後も気体であるような状態である。前記混合物(Z)を液体状態で分離膜に接触させた場合、プロセス中の配管由来の意図せずに含まれる固体の不純物が分離膜の膜孔を閉塞させ、長期安定生産に障害を及ぼす可能性がある。したがって、分離膜の膜孔の閉塞を抑制し、長期間安定して精製を行うことができるよう、前記混合物(Z)を気体状態で分離膜に接触させることが好ましい。
【0046】
前記混合物(Z)を気体状態で分離膜に接触させる際、キャリアーガスを同伴させることも可能である。キャリアーガスとしては、窒素、アルゴンなどのイナートガスを用いることが好ましい。また、水、環状ホルマールおよび添加剤を含む混合物(Z)の気体ガスにおいて、分離膜を透過しなかったガスを凝縮後、キャリアーガスとして用いることも可能である。前記混合物(Z)を気体状態で分離膜に供給した後、分離膜を透過した水濃度が高い気体と、水濃度が低い気体とを凝縮して液体とすることができる。
【0047】
本実施形態の精製方法において、分離膜に供給する際の、水、環状ホルマールおよび添加剤を含む混合物(Z)の温度は、60℃以上であることが好ましく、60℃以上200℃以下であることがより好ましい。分離膜に供給する際の混合物(Z)の温度が前記範囲内であると、分離膜の分離性能が充分に発揮される傾向にある。一方、分離膜に供給する際の混合物(Z)の温度が、60℃より低い場合、充分な分離性能が得られない場合があり、200℃より高い場合、分離膜のシール材の耐熱性を超え、分離性能が悪化する可能性が高く、また、環状ホルマールが変質する恐れがある。
【0048】
本実施形態の精製方法において、分離膜の透過側の圧力は、1mmHg以上760mmHg以下であることが好ましく、1mmHg以上500mmHgであることがより好ましく、1mmHg以上300mmHgであることがさらに好ましい。分離膜の透過側の圧力が前記範囲内であると効率的に分離できる傾向にある。
【0049】
また、分離膜へ供給する側(原料側)の圧力は、分離膜の透過側の圧力より10mmHg以上高くすることが好ましく、100mmHg以上高くすることがより好ましく、300mmHg以上高くすることがさらに好ましく、500mmHg以上高くすることが特に好ましく、600mmHg以上高くすることが極めて好ましい。分離膜へ供給する側(原料側)の圧力を前記範囲内とすると、効率的に分離することが可能となる傾向にある。分離膜へ供給する側(原料側)の圧力の上限は、8000mmHg以下であることが好ましく、これ以上となると分離膜が圧力により破損し分離不可能となり、長期間安定に環状ホルマールを精製できなくなる恐れがある。
【0050】
≪環状ホルマール≫
本実施形態の環状ホルマールは、上述の精製方法で精製された環状ホルマールである。
【0051】
従来の環状ホルマールの精製方法では、長期間精製操作を継続すると、環状ホルマール由来のパーオキサイドが発生する傾向にある。パーオキサイドを含む環状ホルマールは、溶媒として用いる場合や、出発原料として合成・重合などに用いる場合、パーオキサイドが原因の副生成物を発生するため、好ましくない。
【0052】
一方、本実施形態の精製方法は、環状ホルマール由来のパーオキサイドの発生を抑制することができるので、当該精製方法で精製された環状ホルマール中のパーオキサイドの含有量は極めて少ない。
【0053】
本実施形態の環状ホルマール中に含まれるパーオキサイドの含有量は、0.5ppm以下であることが好ましい。一旦生成したパーオキサイドは連鎖的に増加する傾向があり、環状ホルマールを重合用のモノマーとして使用する場合や、合成・反応などの溶媒として使用する際、意図しない副反応を招く原因となり切実な問題となることから、環状ホルマール中に含まれるパーオキサイドの含有量は、より好ましくは0.2ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下、特に好ましくは0.05ppm以下である。
【0054】
なお、環状ホルマール中のパーオキサイド含有量は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0055】
本実施形態の環状ホルマールは、特に純度が高いためポリオキシメチレンの原料および合成・反応に用いる反応溶媒、微粒子の分散媒、機器の洗浄溶媒等に好適に使用できる。
【実施例】
【0056】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
<用いた原料>
(1)水:蒸留水(和光純薬製)をそのまま用いた。
【0058】
(2)環状ホルマール
(2−1)環状ホルマールA:1,3−ジオキソラン(和光純薬製)を以下のとおり蒸留して用いた。
【0059】
蒸留は常圧下、75℃で実施した。1Lの三つ口丸型フラスコの上部に枝付連結管を設置し、さらにその枝付連結管にリービッヒ冷却管を設置し、該リービッヒ冷却管に1Lのナスフラスコを接続したものを蒸留装置として用いた。1Lの三つ口丸型フラスコ内には沸騰石を入れた。次いで常温で窒素下においてモレキュラーレシーブに24時間接触させた1,3−ジオキソラン400mlを、上記蒸留装置入れ、内温が75℃となるように設定した。75℃になって15分後、蒸留した1,3−ジオキソランを採取した。このようにして得られた1,3−ジオキソランを環状ホルマールAとした。
【0060】
得られた環状ホルマールAについて、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14A型)を用いて測定したところ、他の成分および水は検出限界以下であった。
【0061】
(2−2)環状ホルマールB:1,3,5−トリオキサン(和光純薬製)を以下のとおり再結晶させて用いた。
【0062】
80℃で窒素下においてモレキュラーレシーブに24時間接触させた1,3,5−トリオキサンをジエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させて30質量%の溶液にした。その後、該溶液の温度をマイナス10℃にし、1,3,5−トリオキサンを再結晶させた。この結晶を取り出し、ジエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させて溶液にした。その後、該溶液の温度をマイナス10℃にし、1,3,5−トリオキサンを再結晶させた。このようにして得られた1,3,5−トリオキサンを環状ホルマールBとした。
【0063】
得られた精製環状ホルマールBについて、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−14A型)を用いて測定したところ、その他の成分および水は検出限界以下であった。
【0064】
(3)添加剤
(3−1)添加剤C:メタノール(和光純薬製)をそのまま用いた。
【0065】
(3−2)添加剤D:ジメトキシメタン(和光純薬製)をそのまま用いた。
【0066】
(3−3)添加剤E:ジメトキシプロパン(和光純薬製)をそのまま用いた。
【0067】
<用いた分離膜>
分離膜:A型ゼオライト膜(三井造船製)を用いた。A型ゼオライト膜の分離面積は2.0×10-32であった。
【0068】
<精製装置>
図1〜3に示したフローの精製装置を用いて実施した。
【0069】
<分離後の水分の定量>
各精製装置における回収容器3に供給されるラインからサンプルを一部抜き出し、精製環状ホルマール中に含まれる水濃度を、カールフィッシャー水分測定装置(三菱アナリテック製CA−200型)を用いて定量した。
【0070】
<長期安定性の評価>
以下のとおり(i)水濃度の安定性および(ii)流量の安定性から精製操作の長期安定性評価を実施した。
【0071】
(i)水濃度の安定性
各精製装置における回収容器3に供給されるラインからサンプルを一部抜き出し、精製環状ホルマール中に含まれる水濃度の安定性について評価した。運転50時間後〜運転100時間後の水濃度の平均値が、運転安定直後の水濃度の30%以内の変動であれば「○」とし、30%を超えて60%以内の変動であれば「△」とし、60%を超えた変動であれば「×」とした。
【0072】
(ii)流量の安定性
各精製装置における熱交換器4で凝縮した液が、各精製装置における回収容器3に供給される流量の安定性について評価した。運転安定直後の流量に対する、運転100時間後の流量の変化が10%以内であった場合を「○」とし、10%を超えて50%以内であった場合を「△」とし、50%を超えた場合を「×」とした。
【0073】
<長期運転後の分離膜確認>
運転安定後100時間運転した後の分離膜表面の閉塞(詰り)有無を目視にて確認した。
【0074】
<精製環状ホルマール中のパーオキサイド含有量の測定方法>
試料として、運転安定後100時間運転した後に採取した精製環状ホルマールを用いた。
【0075】
2つの300ml三角フラスコの各々にイソプロピルアルコール40mlと酢酸2mlとを加えた。一方の三角フラスコに試料25gを精秤して添加し、他方の三角フラスコには試料無添加で空試験とした。ここで各々の三角フラスコに、25g/mlの濃度のヨウ化ナトリウムイソプロピルアルコール溶液10mlを加えて、約90℃のウォーターバス上で正確に5分間加熱した。加熱後、直ちに0.01Nのチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定を行い、以下の式で試料中のパーオキサイド含有量を求めた。
【0076】
【数1】

A:滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液の量(ml)
B:試料を使わないブランク試験滴定に要したチオ硫酸ナトリウム標準液の量(ml)
F:チオ硫酸ナトリウムのファクター
d:試料の比重
〔実施例1〕
水、環状ホルマールおよび添加剤を表1の組成でよく混合し、混合物を得た。表1の条件で前記混合物を精製装置に供給して環状ホルマールの精製を行った。なお、精製装置は図1に示す精製装置を用いた。
【0077】
具体的には、前記混合物を蒸発器7で気体とし、該気体を分離膜に透過させ、水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離した。水濃度が低い生成物を熱交換器4で凝縮して液体状の精製環状ホルマールを得た。
【0078】
蒸発器7は130℃に設定し、分離膜6への供給側の圧力は1140mmHgとした。分離膜6からの透過側は、真空ポンプ1により20mmHgに減圧した。分離膜6への前記混合物の供給量は40g/Hrとした。分離膜6へ前記混合物を供給する際の温度は130℃とした。前記混合物が分離膜6を透過し、熱交換器4で凝縮した液が回収容器3に供給される流量が一定になった時点を運転安定とし、運転安定直後から100時間運転を行った。回収容器3に供給されるラインからサンプルを一部抜き出し、精製環状ホルマール中に含まれる水濃度を50時間後から10時間置きに100時間後まで測定し、これらの平均値を算出した。また、上述したとおり、(i)水濃度の安定性および(ii)流量の安定性の評価、長期運転後の分離膜確認、ならびに精製環状ホルマール中のパーオキサイド含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
〔実施例2〜6〕
水、環状ホルマールおよび添加剤の配合割合、ならびに環状ホルマールおよび添加剤の種類を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして精製操作を実施し、各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
〔実施例7〕
精製装置として、図2に示す精製装置を使用し、水、環状ホルマールおよび添加剤の配合割合、ならびに環状ホルマールおよび添加剤の種類を表1のとおりに変更し以外は、実施例1と同様にして精製操作を実施し、各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
【0081】
〔比較例1〕
添加剤を用いなかった以外は、実施例2と同様にして精製操作を実施し、各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
【0082】
〔比較例2〕
添加剤の配合割合を表1に示すとおり変更し、水、環状ホルマールおよび添加剤からなる混合物を分離膜に透過させなかった以外は、実施例2と同様にして精製操作を実施し、各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
【0083】
〔比較例3〕
水および環状ホルマール、添加剤を表1の組成でよく混合して混合物を得た。精製装置は図3に示す精製装置を用いた。充填塔10の下部に前記混合物を40g/hrで供給し、充填塔10の上部から、エチレングリコールを30g/hrで供給し、前記混合物と向流接触させて環状ホルマールの精製を行った。充填塔10は、ディクソンリングを充填した内径1BФ、高さ1.5Mの充填塔を使用した。当該精製は、常圧下で塔頂部温度80℃、塔底部温度120℃、還流比1の条件で実施した。
【0084】
熱交換器4で凝縮した液が回収容器3に供給される流量が一定になった時点を運転安定とし、運転安定直後から100時間運転を行った。回収容器3に供給されるラインからサンプルを一部抜き出し、精製環状ホルマール中に含まれる水濃度を50時間後から10時間置きに100時間後まで測定し、これらの平均値を算出した。また、上述したとおり、(i)水濃度の安定性および(ii)流量の安定性の評価、ならびに精製環状ホルマール中のパーオキサイド含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

上記表1に示すように、実施例1〜7においては、精製装置の長期安定運転が可能であり、100時間の運転後、膜の閉塞も見られず長期運転が可能であることが確認できた。実施例7においては、長期に安定且つ、極めて低い水濃度の精製環状ホルマールが得られた。実施例4においては水濃度の安定性が若干低かったものの、長期運転には支障なく終了できた。
【0086】
比較例1においては、水濃度の安定性および流量の安定性が確保されず、また運転途中に膜が閉塞し、100時間運転することが困難であった。
【0087】
比較例2においては、膜の詰りはなかったものの、水濃度が安定せず、精製後の水濃度も高く、効率が悪化した。
【0088】
比較例3においては、膜を使用しないため、膜の詰りに由来する長期運転安定性に問題はなかったが、エチレングリコールなどのさらなる添加剤を多量に投入し水を除去させる必要があったほか、還流を充分行う必要もあった。また還流により、高温下に長時間さらされたためか、精製環状ホルマール中にパーオキサイドの発生が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の精製方法により精製された環状ホルマールは、特に純度が高いため、ポリオキシメチレンの原料、各種合成・反応に用いる反応溶媒、微粒子の分散媒ならびに機器の洗浄溶媒等として、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0090】
1.真空ポンプ
2.回収容器
3.回収容器
4.熱交換器
5.熱交換器
6.分離膜
7.蒸発器
8.圧力計
10.充填塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水および環状ホルマールを含む溶液(X)と、下記式(1)で表される添加剤(Y)とを含有する混合物(Z)を、分離膜に透過させて水濃度が低い生成物と水濃度が高い生成物とに分離する工程を含む環状ホルマールの精製方法。
【化1】

(式(1)中、nは自然数であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基を示す。)
【請求項2】
前記分離膜が無機膜である、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記式(1)で表される添加剤(Y)の添加量が、前記溶液(X)に対して、質量基準で30ppm以上400ppm以下である、請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記分離膜がゼオライト膜である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項5】
前記式(1)中、Rが水素原子またはメチル基であり、nが1、2または3である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項6】
前記混合物(Z)を、前記分離膜に接触させる際に気体状態とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項7】
前記溶液(X)における水濃度が0.01質量%以上30質量%以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項8】
前記分離膜へ供給する際の混合物(Z)の温度が60℃以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の精製方法で精製された環状ホルマール。
【請求項10】
パーオキサイドの含有量が0.5ppm以下である、請求項9に記載の環状ホルマール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224584(P2012−224584A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93878(P2011−93878)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】