説明

環状ポリスルフィド化合物の製造方法及びそれを含むゴム組成物

【課題】 従来の環状ポリスルフィドを加硫剤として用いたときの粘度上昇の問題を解決する。
【解決手段】 2種類以上のジハロゲン化合物と金属の多硫化物とを縮合反応させて環状ポリスルフィドを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状ポリスルフィド化合物の製造方法及びそれを含むゴム組成物に関し、更に詳しくは2種類以上のジハロゲン化合物を用いて環状ポリスルフィドを製造する方法及びそれによって得られる環状ポリスルフィドを加硫剤として用いるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジハロゲン化合物と金属の多硫化物との反応により環状ポリスルフィドを得、これを加硫剤としてゴム組成物中に配合することにより、通常の硫黄加硫系と比べ、加硫ゴムの初期物性と耐久性が改良されることは特許文献1に記載されている。しかしながら環状ポリスルフィドを加硫剤として用いたゴム組成物は粘度が高く、その高い粘度による作業性への影響や、特に分子鎖の長いジハロゲン化合物から得られる環状ポリスルフィドは硫黄含量が相対的に減少するために多量に用いないと加硫効率が低くなるおそれがあるという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−293783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は前述の環状ポリスルフィドを加硫剤として用いたときのゴム組成物の粘度上昇及びそれに伴なって生ずる作業性への影響を解決し、また場合によっては問題となる加硫効率の低下の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば2種類以上のジハロゲン化合物と金属の多硫化物とを縮合反応させて環状ポリスルフィドを製造する方法が提供される。
【0006】
本発明に従えば、前記製造方法によって得られる環状ポリスルフィドを加硫剤として用いたゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2種類以上のジハロゲン化合物を用いて環状スルフィドを製造することにより、1種類のジハロゲン化合物を用いて得られる環状ポリスルフィドに比べ、粘度が低く、加硫剤としても加硫効率が高い環状ポリスルフィドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは2種類又はそれ以上のジハロゲン化合物と多硫化ソーダなどの金属の硫化物を用いて縮合反応により3成分による環状ポリスルフィドを合成したところ、得られる環状ポリスルフィドはジハロゲン化合物と多硫化ソーダとの2成分により得られる環状スルフィドに比べ、粘度が低く、加硫剤としても高い加硫効率を示すことを見出した。
【0009】
本発明に従って製造される環状ポリスルフィドは、典型的には、下記式(I)で表わされる化合物である。
【0010】
【化1】

【0011】
式(I)において、xは平均2〜6、好ましくは3〜5の数であり、nは1〜15、好ましくは1〜10の整数であり、そしてRは置換もしくは非置換のC2〜C20のアルキレン基、置換もしくは非置換のC2〜C20のオキシアルキレン基又は芳香族環を含むアルキレン基、好ましくは前記置換もしくは非置換のC2〜C16、更に好ましくはC4〜C10のアルキレン基を示し、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1,2−プロピレンなどの直鎖又は分岐鎖のアルキレン基があげられ、これらのアルキレン基はフェニル基、ベンジル基、アルキル基、エポキシ基、シリル基、イソシアネート基、ビニル基などの置換基で置換されていてもよい。Rとしては更にオキシアルキレン基を含むアルキレン基、例えば基(CH2CH2O)p及び基(CH2)q(式中、pは1〜5の整数であり、qは0〜2の整数である)が任意に結合したオキシアルキレン基を含むアルキレン基とすることができる。
【0012】
基Rの好ましい具体例をあげれば以下の通りである。
−CH2CH2OCH2CH2−,−(CH2CH2O)2CH2CH2−,
−(CH2CH2O)3CH−CH2−,−(CH2CH2O)4CH2CH2−,
−(CH2CH2O)3CH2CH2−,−(CH2CH2O)2CH2−,
−CH2CH2OCH2OCH2CH2
【0013】
本発明においては、前記したような環状ポリスルフィドを2種類又はそれ以上のジハロゲン化合物と金属の多硫化物とを縮合させて製造する。ここで使用するジハロゲン化合物は式:X−R−X(式中、Rは上で定義した通りであり、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子、好ましくは塩素、臭素を表す)で具体的にはジクロロエタン、ジクロロブタン、ジクロロヘキサン、ジクロロエチルホルマール、1,2−ビス(2−クロロエトキシ)エタン、ジクロロキシレンなどをあげることができ、本発明に従えば、これらの任意の2種又はそれ以上のジハロゲン化合物の混合物を用いて金属の多硫化物と反応させる。使用するジハロゲン化合物の組合せには特に限定はないが、経済性の加硫効率の観点からはジクロロエタンとジクロロエチルホルマールとの組合せが好ましい。
【0014】
本発明において前記2種以上のジハロゲン化合物と反応させる金属の多硫化物としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の多硫化物、具体的には多硫化ソーダ(Na24)などをあげることができる。なお、これらの金属の多硫化物は1種の使用でよいが、2種以上を組合せて使用することを排除するものではない。
【0015】
本発明に従った環状ポリスルフィドの製造は前記2種以上のジハロゲン化合物と金属の多硫化物とを任意の方法で縮合反応させることによって実施することができる。具体的には、これに本発明の方法を限定するものではないが、前記3成分又はそれ以上の化合物を適当な溶媒系中で、例えば50〜120℃の温度で反応させることによって所望の環状ポリスルフィドを得ることができる。なお縮合反応に際しては、触媒の使用は必須ではないが、触媒として例えば4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、クラウンエーテル、脂肪酸金属塩などを用いることができる。例えば(CH34+Cl-,(CH34+Br-,(C494+Cl-,(C494+Br-,C1225+(CH33Br-,(C494+Br-,CH3+(C653-,C1633+(C493Br-,15−crown−5,18−crown−6,Benzo−18−crown−6や、RCOO-Na+,RSO3-Na+,(RO)2PO2-Na+(式中、Rはアルキル基を示す)等が挙げられる。
【0016】
本発明に従った前記縮合反応の溶媒としては、例えば親水性溶媒(水、メタノール、エタノール、エチレングリコールなど)と親油性溶媒(トルエン、キシレン、ベンゼン、ジオキサン、ジブチルエーテル、酢酸エチル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(TNF)など)との非相溶系混合溶媒を用いてその昇面で縮合反応させることが望ましい。また、均一系溶媒(例えば水、エタノール、メタノール、エチレングリコール)で反応させることもできる。
【0017】
本発明に従えば、上記方法で製造した環状ポリスルフィドを加硫剤としてゴム組成物に配合することができ、得られるゴム組成物の粘度を低下させる(加工性を改善する)ことができ、また高加硫効率を示すことができる。
【0018】
本発明に係るゴム組成物には、ゴム100重量部に対し、環状ポリスルフィドを1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部配合する。環状ポリスルフィドの配合量が多過ぎると未加硫時にスコーチが発生し、またゴム組成物のコストが高くなるので好ましくなく、逆に少な過ぎると十分な加硫効果が得られず加硫ゴムの強度低下などが発生するので好ましくない。
【0019】
本発明のゴム組成物に配合するゴム成分としては、例えばタイヤ用原料ゴムとして使用することができる任意のジエン系ゴムを含み、かかる代表的なジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)などをあげることができる。これは単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0020】
本発明に係るゴム組成物には、前記した必須成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、その他の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練、加硫して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0022】
標準例1
30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液119.7g(0.2mol)をトルエン50gの混合溶媒中、テトラブチルアンモニウムプロマイド0.64g(1mol%)を入れ、ジクロロエチルホルマール34.6g(0.2mol)をトルエン30gに溶解し、90℃で30分滴下し、さらに5時間反応させた。反応後、有機相を分離し減圧下90℃で濃縮した後、環状ポリスルフィド1を45.0g(収率97.8%)を得た。得られた環状ポリスルフィドはGPCで確認したところ数平均分子量570であった。
【0023】
実施例1
1,2−ジクロロエタン1.98g(0.02mol)と30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液1197g(2mol)とをトルエン500gの混合溶媒中、テトラブチルアンモニウムプロマイド0.64g(0.1mol%)を入れ、50℃で2時間反応させた。続いて、ジクロロエチルホルマール311.0g(1.8mol)をトルエン300gに溶解し、反応温度を90℃に上げ、1時間滴下し、さらに5時間反応させた。反応後、有機相を分離し減圧下90℃で濃縮した後、環状ポリスルフィド2を405g(収率96.9%)で得た。得られた環状ポリスルフィドはGPCで確認したところ数平均分子量530であった。
【0024】
実施例2
1,2−ジクロロエタン1.98g(0.02mol)と30%多硫化ソーダ(Na24)水溶液119.7g(0.2mol)をトルエン50gの混合溶媒中、テトラブチルアンモニウムプロマイド0.64g(1mol%)を入れ、50℃で2時間反応させた。続いて、ジクロロエチルホルマール31.1g(0.18mol)をトルエン30gに溶解し、反応温度を90℃に上げ、30分滴下し、さらに5時間反応させた。反応後、有機相を分離し減圧下90℃で濃縮した後、環状ポリスルフィド3を43.8g(収率98%)で得た。得られた環状ポリスルフィドはGPCで確認したところ数平均分子量630であった。
【0025】
【表1】

【0026】
標準例2、実施例3〜4及び比較例1
サンプルの調製
表IIに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を密閉型ミキサーで混練し、マスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0027】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で150℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表IIに示す。
【0028】
ゴム物性評価試験法
100%及び300%モジュラス(MPa):JIS K6251に準拠して測定
破断強度TB(MPa):JIS K6251に準拠して測定
破断伸びEB(%):JIS K6251に準拠して測定
【0029】
【表2】

【0030】
表I脚注
*1:RSS #3
*2:東海カーボン(株)製シーストN
*3:正同化学(株)製亜鉛華3
*4:花王(株)製ビーズステアリン酸
*5:大内新興化学(株)製ノクラック6C
*6:大内新興化学(株)製ノクセラーNS−F
*7:軽井沢精錬所(株)製油処理硫黄
*8:標準例1参照
*9:実施例1参照
*10:実施例2参照
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、以上の通り、2種類以上のジハロゲン化合物を用いて金属の多硫化物と縮合反応させることにより、ゴム組成物中に加硫剤として配合した場合に、ゴム組成物の粘度上昇を超えず、また加硫効率の低下も生ずることなく耐熱老化性が優れるゴム組成物を得ることができるので空気入りタイヤのキャップ、ベルト、ホース、コンベアベルトなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のジハロゲン化合物と金属の多硫化物とを縮合反応させて環状ポリスルフィドを製造する方法。
【請求項2】
前記縮合反応を、親水性溶媒又は親水性溶媒と親油性溶媒との混合溶媒系において、50℃〜120℃の温度範囲で実施する請求項1に記載の環状ポリスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記ジハロゲン化合物がジクロロエチルホルマール及びジクロロエタンであり、前記金属の多硫化物が多硫化ソーダである請求項1又は2に記載の環状ポリスルフィドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により製造された環状ポリスルフィド。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により製造された環状ポリスルフィドを含んでなるゴム用加硫剤。
【請求項6】
ゴム100重量部及び請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により得られる環状ポリスルフィド1〜30重量部を含んでなるゴム組成物。

【公開番号】特開2006−89444(P2006−89444A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280221(P2004−280221)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】