説明

瓦用コーティング剤組成物

【課題】 瓦自体の表面にコーティングされてこの瓦に優れた非透水性能を発現せしめることができると共に環境に優しい瓦用コーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】 瓦の表面に塗付してこの瓦に非透水性能を付与するためのコーティング剤組成物であり、水性媒体中に、所定のアルキルトリアルコキシシラン(モノアルキル置換体)と、所定のジアルキルジアルコキシシラン(ジアルキル置換体)とを水及び加水分解触媒の存在下に重量比(モノアルキル体/ジアルキル体)30/70〜70/30の割合で共縮合させて得られるオルガノシロキサン共重合体(成分A)0.01〜0.1重量%と、光触媒活性を有する平均粒子径500nm以下の金属酸化物(成分B)0.005〜0.5重量%と、所定のテトラアルキルアンモニウムハイドライドからなる分散安定剤(成分C)0.01〜0.5重量%とを含有する、瓦用コーティング剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に屋根材として用いられる粘土瓦、セメント瓦、スレート瓦等の種々の瓦に塗布され、この瓦に優れた非透水性その他の性能を付与することができる瓦用コーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
瓦を屋根材として建築物の屋根を葺く場合、一般的には、垂木や母屋材に木製の野地板を固定し、必要により瓦固定部材を介して、この野地板に瓦を固定することにより施工される。
【0003】
しかるに、素材として粘土を用い、これを所定の形状に成形した後、焼成して製造される燻し瓦や釉薬瓦等の粘土瓦や、セメントを原料として製造されるセメント瓦や、セメントに向き繊維を混ぜたものを原料として製造されるスレート瓦等は、それ自体では完全な非透水性を達成することが困難であり、長時間雨水に晒されると、たとえ釉薬瓦であってもじわじわと瓦本体中に雨水が浸透し、ひいては野地板や垂木、母屋材にまで達し、長年のうちにはこの野地板や垂木、母屋材が腐食してくるという問題がある。
【0004】
そこで、従来においても、このような問題に対する幾つかの対策が提案されている。
例えば、塗料の研究No.135、第75〜79頁(Oct.2000)には、シリコン変性アクリルポリオール樹脂を用いたポリイソシアネート硬化タイプの弱溶剤系下塗り塗料や、同じくシリコン変性アクリルポリオール樹脂を用いたポリイソシアネート硬化タイプの弱溶剤系上塗り塗料を用いる、スレート瓦やセメント瓦に好適なシリコン防水コーティング工法が提案されている。
【0005】
また、特開平9-235,830号公報には、耐候性、耐薬品性、耐塩水性、耐熱性、撥水性、防汚性に優れた瓦として、焼成粘土瓦の表面にチタン酸カリウム繊維を含有する硬化型のシリコン系樹脂の被膜を1層又は2層設けた瓦及びその製造方法並びに施工方法が提案されている。
【0006】
更に、特開平10-54,116号公報には、野地板それ自体を改良してこの野地板や垂木、母屋材等の腐食を防止するための手段として、耐食性を有する金属板よりなり、山部と谷部とがそれぞれ平行に複数形成されている野地板本体に、表面側では山部の頂部に水勾配方向及び水勾配方向に直行する方向にそれぞれ所定の間隔を隔てて固定用ボルトが溶接により突出固定されており、また裏面側では所定の位置に取付用ボルトが溶接により突出固定されている金属製野地板が提案されている。
【0007】
更にまた、特開2004-108,006号公報には、不織布に松脂を含ませてなるシートであって、屋根瓦等の防水材と野地板等の下地材との間に介在させ、雨雪からの下地材の腐食防止と防水を目的として用いられる耐腐蝕性内葺きシートが提案されている。
【0008】
【非特許文献1】塗料の研究No.135、第75〜79頁(Oct.2000)
【特許文献1】特開平9-235,830号公報
【特許文献2】特開平10-54,116号公報
【特許文献3】特開2004-108,006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら従来の対策は、有機系の樹脂や溶剤を含む塗料を用いたり、高価な添加剤を用いたり、野地板それ自体を耐食性に優れた金属板で形成したり、更には、屋根瓦と野地板との間に別部材の耐腐蝕性内葺きシートを設ける等、環境衛生面や瓦葺施工面、更には経済性等において必ずしも十分であるとはいえない。
【0010】
そこで、本発明者らは、瓦自体の表面にコーティングされてこの瓦に優れた非透水性能を発現せしめると共に環境に優しい瓦用コーティング剤組成物について鋭意検討した結果、水性媒体中に、特定のアルキルトリアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシランとを加水分解・共縮合させて得られたオルガノシロキサン共重合体と、光触媒活性を有する所定の金属酸化物と、テトラアルキルアンモニウムハライドからなる分散安定剤とを所定の割合で分散させてなるコーティング剤組成物を用いることにより、瓦に優れた非透水性能を付与できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、瓦自体の表面にコーティングされてこの瓦に優れた非透水性能を発現せしめることができると共に環境に優しい瓦用コーティング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、瓦の表面に塗付してこの瓦に非透水性能を付与するためのコーティング剤組成物であり、水性媒体中に、下記一般式(1)
1Si(OR2)3 … (1)
(但し、式中R1は炭素数1〜4の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R2は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるアルキルトリアルコキシシラン(モノアルキル置換体)と、下記一般式(2)
34Si(OR5)2 … (2)
(但し、式中R3及びR4は炭素数1〜4の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R5は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるジアルキルジアルコキシシラン(ジアルキル置換体)とを水及び加水分解触媒の存在下に重量比(モノアルキル体/ジアルキル体)30/70〜70/30の割合で共縮合させて得られるオルガノシロキサン共重合体(成分A)0.01〜1.0重量%と、光触媒活性を有する平均粒子径500nm以下の金属酸化物(成分B)0.005〜0.5重量%と、下記一般式(3)
(R6)4N+OH- … (3)
(但し、式中R6は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるテトラアルキルアンモニウムハイドライドからなる分散安定剤(成分C)0.01〜0.5重量%とを含有する、瓦用コーティング剤組成物である。
【0013】
本発明において、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製するために用いられる上記一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、tert-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、tert-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-ブテニルトリメトキシシラン、メタクリロキシトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシエトキシトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメエキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、エポキシトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-ブテニルトリエトキシシラン、メタクリロキシトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、アクリロキシエトキシトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、エポキシトリプロポキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、3-ブテニルトリプロポキシシラン、メタクリロキシトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、エポキシトリブトキシシラン、アリルトリブトキシシラン、3-ブテニルトリブトキシシラン、メタクリロキシトリブトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、アミノトリプロポキシシラン、アミノトリブトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリプロポキシシラン、メルカプトメチルトリブトキシシラン、メルカプトエチルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アセトキシメチルトリメトキシシラン、アセトキシエチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、アセトキシメチルトリエトキシシラン、アセトキシエチルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、6-アジドスルフォニルヘキシルトリエトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0014】
また、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製するために用いられる上記一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチメジメトキシシラン、メチルn-プロピルジメトキシシラン、アセトキシメチルメチルジメトキシシラン、アセトキシエチルジメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(3-シアノプロピル)ジメトキシシラン、イソブチルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0015】
そして、成分Aのオルガノシロキサン共重合体は、上記一般式(1)のアルキルトリアルコキシシラン(モノアルキル置換体)と上記一般式(2)のジアルキルジアルコキシシラン(ジアルキル置換体)とを水及び加水分解触媒の存在下に共縮合させることにより調製されるが、この際の一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランと一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランとを共縮合させる割合は、重量比(モノアルキル体/ジアルキル体)20/80〜80/20割合、好ましくは30/70〜70/30の割合である。この共縮合させる割合が20/80より低いと剥離強度が低下し、反対に80/20より高くなると十分な撥水性や非透水性が得られなくなる。
【0016】
更に、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製する際に用いられる上記加水分解触媒としては、種々の酸、アルカリ、金属化合物等を用いることができ、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、ふっ化水素酸、燐酸等の鉱酸類や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸や、ゼオライト、H型モレキュラーシーブス等の固体酸や、酸性イオン交換樹脂等を例示することができ、また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、有機アミン等を例示することができ、更に、金属化合物としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物や、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリセカンダリーブトキシアルミニウム、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等の有機アルミニウム化合物や、テトライソプロポキシチタン(Ti(isoC3H7)4)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、テトライソプロポキシチタン、チタニウムテトラn-ブトキシド等の有機チタニウム化合物や、ジルコニウムテトラキス(セチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)及びジルコニウム(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラn-ブトキシド等の有機ジルコニウム化合物や、オルガノシリケート以外の有機金属化合物又は金属アルコキシド化合物や、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリn-ブチルボレート、ホウ酸等のホウ素化合物や、トリメチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスフェート、トリエチルホスファイト等の燐化合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、硝酸、テトラメチルアンモニウムハイドライド、テトライソプロポキシチタン、トリエチルボレート等を挙げることができる。そして、これらの加水分解触媒については、コーティング剤組成物を調製する上で、好ましくは無水条件下でアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランと反応しない酸、アルカリ、又は金属化合物であるのがよい。また、この加水分解触媒は、上記一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランと上記一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランの混合物中に、通常0.0001重量%以上1重量%以下、好ましくは0.001重量%以上0.1重量%以下の割合で用いられる。
【0017】
また、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製する方法については、特に制限はないが、保存安定性を考慮して、好ましくはコーティング剤組成物を調製する直前に加水分解・共縮合させるのがよく、より好ましくは、一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランと、一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランと、無水条件下ではこれらアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランと反応しない加水分解触媒とを予め無水条件下で混合して成分A調製用混合物としておき、コーティング剤組成物の調製時にこの成分A調製用混合物を水性媒体中に添加し、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製するのがよい。このように予め成分A調製用混合物としておくことにより、加水分解時に、一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランと一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランとが均一に共縮合するほか、高濃度で極微量の加水分解触媒を現場で添加する必要がないという利点がある。
【0018】
また、本発明において、成分Bとして用いられる金属酸化物については、それが光触媒活性を有し、かつ、その平均粒子径が500nm以下、好ましくは50nm以上200nm以下であればよく、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の金属酸化物を挙げることができるが、粒子に着色や水溶性(成膜後の雨水による溶出)等の観点から、好ましくはアナターゼ型酸化チタンである。この光触媒活性を有する金属酸化物の平均粒子径が500nmより大きくなると成膜の不均一化や強度低下が起こるほか、成膜後の白化の問題も生じる。
【0019】
更に、本発明において、成分Cとして用いられる分散安定剤は、一般式(3)で表されるテトラアルキルアンモニウムハイドライドである必要があり、具体的には、テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド(コリン)、メチルトリヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド、ジメチルジヒドロキシエチルアンモニウムハイドライド、テトラエチルアンモニウムハイドライド、トリメチルエチルアンモニウムハイドライド、テトラプロピルアンモニウムハイドライド、テトラブチルアンモニウムハイドライド等を挙げることができ、分散安定化には高いpHが望ましいという観点から、好ましくはTMAHやコリンであり、より好ましくはTMAHである。
【0020】
更にまた、上記成分Aのオルガノシロキサン共重合体、成分Bの光触媒活性を有する金属酸化物、及び成分Cの分散安定剤を含むコーティング剤組成物を形成するために用いられる水性媒体としては、代表的には水道水や工業用水等の水を挙げることができ、塗布する環境下、湿度の関係で乾燥速度を調節する等の必要がある場合には、以下のよう剤を添加してもかまわない。例えば、乾燥速度を上げる場合は、アルコール類、炭化水素類、エステル類、ケトン類を添加する。アルコール類の添加として、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、アセチルアセトンアルコール等が挙げられる。炭化水素類としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ケロシン、n-ヘキサン等が使用でき、エステル類としては例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル等が使用できる。また、ケトン類としては例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等が使用でき、エーテル類としては、エチルエーテル、ブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジオキサン、フラン、テトラヒドロフラン等が使用できる。逆に乾燥速度を下げる場合はグリコール誘導体を添加する。グリコール誘導体としては例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらの溶剤のうち、アルコール類の特にC1〜C3のメタノール、エタノール、イソプロパノール、グリコール誘導体のプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルが、取扱が容易であり、水溶性であること、環境に優しいという観点から好ましい。
【0021】
本発明のコーティング剤組成物において、水性媒体中における上記成分Aのオルガノシロキサン共重合体、成分Bの光触媒活性を有する金属酸化物、及び成分Cの分散安定剤の割合は、成分Aが0.01重量%以上1.0重量%以下、好ましくは0.04重量%以上0.07重量%以下であり、また、成分Bが0.005重量%以上0.5重量%以下、好ましくは0.01重量%以上0.03重量%以下であり、更に、成分Cが0.01重量%以上0.5重量%以下、好ましくは0.01重量%以上0.04重量%以下である。この成分Aの割合が0.01重量%より低いと防透水性や撥水性が低下し、反対に、1.0重量%より高くなると経時安定性の低下(溶液のゲル化、沈降、分離等)やコスト高の問題が生じる。また、成分Bの割合が0.005重量%より低いと触媒活性効率が低下し、反対に、0.5重量%より高くなると瓦の表面に金属酸化物が沈着して瓦自体の意匠性が低下する場合がある。更に、成分Cの割合が0.01重量%より低いと経時安定性の低下(溶液のゲル化、沈降、分離等)という問題が生じ、反対に、0.5重量%より高くなると撥水性の発現に時間を要するという問題が生じる。
【0022】
そして、本発明のコーティング剤組成物を調製する方法については、最終的に水性媒体中に成分Aのオルガノシロキサン共重合体、成分Bの光触媒活性を有する金属酸化物、及び成分Cの分散安定剤が所定の割合で配合された組成物を調製できればどのような方法であってもよいが、調製後の分離沈降を可及的に抑止し、また、撥水性の発現を促進させる等の理由から、以下の方法で調整するのが好ましい。
【0023】
すなわち、始めに、一般式(1)のアルキルトリアルコキシシラン、一般式(2)のジアルキルジアルコキシシラン、及び無水条件下でこれらアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランと反応しない加水分解触媒を予め無水条件下で混合して調製された成分A調製用混合物と、成分Bの光触媒活性を有する金属酸化物を混合操作に適当な20重量%以上70重量%以下、好ましくは30重量%以上60重量%以下の割合で水に分散させた金属酸化物の水分散液(成分B水分散液)と、成分Cの分散安定剤を混合操作に適当な10重量%以上50重量%以下、好ましくは20重量%以上30重量%以下の割合で水に溶解させた分散安定剤の水溶液(成分C水溶液:例えば、分散安定剤がTMAHである場合には25重量%の水溶液等)とを用意しておき、次に、先ず上記成分A調製用混合物を混合操作に適当な量の水性媒体中に添加して一般式(1)のアルキルトリアルコキシシランと一般式(2)のジアルキルジアルコキシシランとを加水分解・共縮合させて成分Aのオルガノシロキサン共重合体の水性媒体液(成分A水性媒体液)を調製し、次いでこの成分A水性媒体液中に成分C水溶液を添加して混合し、その後に成分B水分散液を添加して混合し、最終的に水性媒体を添加して水分調整を行うことにより、コーティング剤組成物を調製する。
【0024】
本発明の瓦用コーティング剤組成物には、必要により上記の各成分A〜Cに加えて、通常の塗料に配合することが可能な着色顔料、体質顔料等の顔料、充填材、その他各種の添加剤を配合することができる。添加量は特に限定されず一般には本発明の効果に影響しない程度で適宜選択すればよい。このような添加剤としては、例えば、着色顔料では酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(ベンガラ)、クロム酸鉛、黄鉛、黄色酸化鉄、オーカー、群青、コバルトグリーン等の無機系顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機顔料などが挙げられる。また、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、ホワイトカーボン、珪藻土等の体質顔料を使用することも可能である。さらに各種添加剤として、これらの顔料を分散するための顔料分散剤、沈降防止剤などや、たれ防止剤、艶消し剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、密着性向上剤、防腐剤、防藻剤、防菌剤、防臭剤、紫外線吸収剤等が挙げられ、少量添加して使用することが可能である。これらの添加剤の配合量は、目的とする添加剤の効果が発現する添加量であれば特に制限はない。これらの添化剤の配合方法は限定されず、成分A〜C全てを配合し、一液化後添加してもよいし、溶解または分散しやすいアルキルシリケート、水、有機溶剤等の各々の成分に添加して用いてもよい。
【0025】
本発明の瓦用コーティング剤組成物を用いて種々の瓦に非透水性能を付与するためには、例えば、シャワーコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の方法で、この瓦用コーティング剤組成物を瓦の表面に塗布し、自然乾燥、乾燥機等を用いた強制乾燥その他の適当な手段で乾燥させればよく、この際の塗布量は、コーティング剤組成物中の固形分濃度によっても異なるが、固形分換算で、通常100g/m2以上500g/m2以下、好ましくは200g/m2以上300g/m2以下であるのがよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の瓦用コーティング剤組成物は、有機系の樹脂や溶剤を用いることなく瓦の表面にコーティングすることによりこの瓦に優れた非透水性能を発現せしめることができ、しかも、光触媒活性を有する金属酸化物が添加されているので環境に優しく、環境衛生面、瓦葺施工面、経済性等において優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0028】
〔実施例1及び2並びに比較例1〜4〕
メチルトリメトキシシランとジメチルジメトキシシランとの重量比1/1混合物に、無水条件下ではこれらメチルトリメトキシシラン及びジメチルジメトキシシランと反応しない加水分解触媒としてテトライソプロポキシチタン0.03重量%を添加し、成分Aのオルガノシロキサン共重合体を調製するための成分A調製用混合物を得た。
【0029】
また、光触媒活性を有する金属酸化物として平均粒径80nmのアナターゼ型酸化チタン(TiO2)の水分散液{TiO2水分散液(成分B水分散液)}(TAMネットワーク社製商品名:サンエコート、TiO2濃度30重量%)を用い、更に、分散安定剤としてTMAH水溶液(成分C水溶液、TMAH濃度25重量%)又はトリエタノールアミンを用い、コーティング剤組成物を調製するための水性媒体として水道水を用いた。
【0030】
攪拌機を備えた混合容器中に全体の水使用量(500kg)の約1/10に相当する水道水50kgを入れ、成分Aの濃度が最終的に表1に示す濃度となるように常温で攪拌下に上記成分A調製用混合物を添加し、10分間攪拌して反応させた。
【0031】
反応終了後、上記混合容器中に、成分Cの濃度が最終的に表1に示す濃度となるように常温で攪拌下に上記TMAH水溶液又はトリエタノールアミンを添加し、引き続き成分Bの濃度が最終的に表1に示す濃度となるように常温で攪拌下に上記TiO2水分散液を添加し、更に常温で攪拌下に全体の水使用量に達するように水道水を添加し、実施例1及び2並びに比較例1〜4のコーティング剤組成物を得た。
【0032】
このようにして得られた実施例1及び2並びに比較例1〜4のコーティング剤組成物について、分散安定性、撥水性、および非透水性を調べた。
分散安定性については、各コーティング剤組成物をビーカーに入れ、目視にて経時変化を調べ、酸化チタンの沈殿が生じるまでの時間(hr)を測定した。
【0033】
また、撥水性試験については、基材としてガラス板(100mm×70mm×1.5mmの大きさの青板ガラス)及び瓦試験片〔70mm×70mm×14mmの大きさの素焼の三州瓦(釉薬瓦)、東洋瓦工業株式会社製商品名:アーバン又はトラッド〕を用い、ガラス板についてはコーティング剤組成物中に60秒間浸漬した後、引き上げて常温で乾燥することによりコーティング剤組成物を塗布して撥水試験片を調製し、また、素焼瓦についてはその表面に瓦滴下量244.9g/m2の割合で滴下し常温で乾燥することによりコーティング剤組成物を塗布して撥水試験片を調製し、これら各撥水試験片の表面に0.5gの水滴を滴下し、この撥水試験片の表面に生じた水滴の高さ(mm)を測定する方法で調べた。
【0034】
更に、非透水性試験については、基材として上記撥水性試験で用いたと同じ瓦試験片を用い、JIS A5423の方法に準じて行い、24時間経過後の水位の降下量(mm)を測定することにより行った。
結果を表1に示す。
なお、比較例5として、コーティング剤組成物による表面処理を行わないで、瓦試験片そのものの非透水性を調べた。結果を併せて表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の瓦用コーティング剤組成物は、主に屋根材として用いられる粘土瓦、セメント瓦、スレート瓦等の種々の瓦に塗布され、この瓦に優れた非透水性能を発現せしめることができると共に、環境に優しく、しかも、経済性にも優れており、工業的価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦の表面に塗付してこの瓦に非透水性能を付与するためのコーティング剤組成物であり、水性媒体中に、
成分A:下記一般式(1)
1Si(OR2)3 … (1)
(但し、式中R1は炭素数1〜4の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R2は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるアルキルトリアルコキシシラン(モノアルキル置換体)と、下記一般式(2)
34Si(OR5)2 … (2)
(但し、式中R3及びR4は炭素数1〜4の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R5は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるジアルキルジアルコキシシラン(ジアルキル置換体)とを水及び加水分解触媒の存在下に重量比(モノアルキル体/ジアルキル体)30/70〜70/30の割合で共縮合させて得られるオルガノシロキサン共重合体0.01〜1.0重量%と、
成分B:光触媒活性を有する平均粒子径500nm以下の金属酸化物0.005〜0.5重量%と、
成分C:下記一般式(3)
(R6)4N+OH- … (3)
(但し、式中R6は炭素数1〜4の飽和炭化水素基を示す。)で表されるテトラアルキルアンモニウムハイドライドからなる分散安定剤0.01〜0.5重量%とを含有することを特徴とする瓦用コーティング剤組成物。
【請求項2】
加水分解触媒が、無水条件下でアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランと反応しない酸、アルカリ、又は金属化合物である請求項1に記載の瓦用コーティング剤組成物。
【請求項3】
成分Bの金属酸化物が、アナターゼ型酸化チタンである請求項1又は2に記載の瓦用コーティング剤組成物。
【請求項4】
成分Cの分散安定剤が、テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)である請求項1〜3のいずれかに記載の瓦用コーティング剤組成物。
【請求項5】
瓦が粘土瓦である請求項1〜4のいずれかに記載の瓦用コーティング剤組成物。

【公開番号】特開2006−200325(P2006−200325A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15999(P2005−15999)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)11月18日 「日本屋根経済新聞」に発表
【出願人】(595145511)東洋瓦工業株式会社 (3)
【出願人】(305017882)タムネットワーク株式会社 (3)
【出願人】(390034245)多摩化学工業株式会社 (10)
【出願人】(505028923)株式会社タツミ屋根企画 (1)