説明

甘味含有飲食品の甘味改善剤

【課題】
飲食品に不要な呈味や香気を付与することなく、甘味含有飲食品の甘味の増強や、塩味含有飲食品の塩味刺激感緩和や、苦味含有飲食品の苦味のマスキングや、渋味含有飲食品の渋味のマスキングや、その他の飲食品の生臭みの低減、こく味増強、濃厚感付与、後残りの改善などの呈味改善をすること。
【解決手段】
フタライド類を有効成分とする飲食品の呈味改善剤。フタライド類を、飲食品に、香気としては感じない程度の微量添加することにより、様々な飲食品の好ましくない呈味は改善し、好ましい呈味が増強または付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の呈味改善剤に関し、詳しくは、甘味、塩味、苦味および渋味から選ばれる1種以上を有する飲食品の呈味を好ましい方向に改善し、または、飲食品にこく味または濃厚感を付与し、あるいは、飲食品後残りを改善、もしくは、生臭みを低減するための呈味改善剤に関する。さらに詳しくは、フタライド類を有効成分とする、甘味、塩味、苦味および渋味から選ばれる1種以上を有する飲食品の呈味を好ましい方向に改善し、または、飲食品にこく味または濃厚感を付与し、あるいは、飲食品後残りを改善、もしくは、生臭みを低減するための呈味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蔗糖、果糖、ぶどう糖、その他糖類などの天然の甘味は一般的に多くの人々から受け入れられるものである。甘味は原始的にはヒトが口にした時に、その飲食品中に炭水化物の存在を示すものして、飲食が好ましいものと判断される指標とも考えられており、ヒトが自然に「おいしい」と感じる呈味である。しかしながら、現代においては、蔗糖などの糖類の一人当たり摂取量が必要量以上に増加し、その結果、肥満や糖尿病などの原因となる可能性が指摘されており、糖類を減少させた食品が市場に多く見られるようになっている。したがって、糖類を使用せずに、あるいは、糖類を減らした場合において甘味を増強する方法が求められている。
【0003】
甘味を呈する物質は前記糖類以外にも様々な天然または合成の高甘味度甘味料などが存在する。しかしながら、高甘味度甘味料は不自然な苦味や後残りを伴うことがあり、糖類の自然な甘味とはやや異なることが多い。
【0004】
甘味の増強や甘味質の改善を目的として、香料化合物などを添加する方法が提案されている。このような方法としては、例えば、マルトールを使用することにより砂糖を減量できる甘味の増強方法(特許文献1)、フラネオールを使用することにより砂糖を減量できる甘味の増強方法(特許文献2)などがある。しかしながら、これらの香料物質は香気を感じるレベルまで添加しなければ効果が無く、風味全体に変化をもたらす結果となる。
【0005】
また、糖類などの甘味は他の物質との相互作用により、質的、強度的に変化することがある。例えば、餡を作る際、砂糖に加え少量の塩を加えたり、スイカを食べる際、塩をふりかけるなど、甘味に塩味や旨味などを加添加することにより、感覚的に甘味が増強することは、経験的によく知られた現象である。しかしながら、食塩を添加することにより得られる甘味の増強は、くどさ、しつこさなどが伴い、必ずしもすっきりとした良好な甘味とはいえない。
【0006】
したがって、香気などの風味全体に影響を及ばさず、自然ですっきりとした甘味を付与ないし増強することのできる素材が求められている。
【0007】
また、塩味は通常、塩化ナトリウムによってもたらされるが、天然原料、すなわち調理されていない食品素材そのものにはあまり多く含まれていない。そこで、我々現代人は海水などから精製した食塩、あるいは岩塩を食品素材に添加し、調理することにより食品においしさを付与しているのであるが、食品素材との相性で、塩味が鋭く感じたり、刺激的に感じてしまう場合がある。そこで、塩味の刺激を緩和するために、様々な添加物が提案されている。例えば、塩味含有飲食品にジヒドロカルコン類を添加し塩味の刺激を緩和する方法(特許文献3)、エチル−α−グルコシドを添加する方法(特許文献4)、ソーマチンとフェノキシアルカン酸を添加することにより、食品などの塩味および苦味を改善する方法(特許文献5)、ピログルタミン酸塩を添加することによる塩味の改善(特許文献6)などが提案されている。
【0008】
また、苦味を有する飲食品としては、例えば、苦味物質であるナリンギンを含有するグレープフルーツのような果実、にがうりのような野菜、コーヒーのような焙煎抽出物、あるいは、香料物質、ペプチドなどの化学物質や蛋白加水分解物などが苦味を有するものとして知られている。そして、グレープフルーツ果汁含有飲料やコーヒーの場合の苦味低減は、通常、各種甘味料を添加するなどして対処し、また、蛋白加水分解物の苦味除去は、イカ肝臓由来の酵素で処理する蛋白加水分解物の呈味改善法(特許文献7)などが提案されている。
【0009】
また、タンニンに代表される渋味成分が含有される飲食品、例えば、茶類飲料は、ポリフェノール類が多量に含有され、そのポリフェノール類が抗酸化能、活性酸素消去能を有するので健康飲食品として注目を浴びている。しかしながら、ポリフェノール類を多く含有させようとすると渋味が増し、香味的に満足されない場合があり、その渋味が緩和ないし除去され得る呈味改善が求められている。このような渋味の呈味改善方法としては、例えば、飲食品に甘蔗由来の抽出物を配合する方法が提案されている(特許文献8)。
【0010】
また、生臭みは肉類や魚介類の鮮度が低下した場合などに発生することが知られているが、そのマスキング方法としても、様々な方法が提案されており、例えば、ウイキョウ、オレンジ、チョウジ、マツ、ハッカ、ユーカリ、マンネンロウ、ローマカミツレから得られる天然精油からなる肉や魚の生臭さの消臭剤(特許文献9)、L−アスコルビン酸、カテキン、酵素処理ルチン、酵素分解リンゴ抽出物、コメヌカ酵素分解物、セイヨウワサビ抽出物、セージ抽出物、チャ抽出物、生コーヒー豆抽出物、ヒマワリ種子抽出物、フェルラ酸、ブドウ種子抽出物、ヤマモモ抽出物、ユーカリ葉抽出物、エンジュ抽出物及びローズマリー抽出物からなる群から選ばれる1種又は2種以上を、1〜1000ppm濃度添加して魚を調理することによる、生臭臭のマスキング方法(特許文献10)、調合香料によるマスキング方法(特許文献11)、スクラロースを含有することを特徴とする、ドコサヘキサエン酸に由来する後味の生臭さがマスキングされたドコサヘキサエン酸含有食品(特許文献12)などがある。
【0011】
また、こく味は通常、食塩、グルタミン酸、アスパラギン酸、イノシン酸、グアニル酸、コハク酸などの塩味、旨味、酸味物質、油脂などの相互作用によりもたらされると考えられているが、こく味は飲食品における「おいしさ」のうちでも最も重要な要素と考えられており、様々な増強方法が提案されている。例えば、旨味物質に加えて、タウリンなどのスルホン基含有化合物および燐酸二ナトリウムなどのリン酸塩を添加する方法(特許文献13)、ゼラチンおよびトロポミオシンを含有することを特徴とする新規なこく味調味料素材(特許文献14)、スープ用のこく味付与組成物であって、食用油脂、ホスホリパーゼA処理卵黄及びオクテニルコハク酸化澱粉とを含有した酸性水中油型乳化組成物からなるこく味付与組成物(特許文献15)、主成分としてアラキドン酸またはそのエステルおよびコク味増強成分としてαトコフェロールまたは鉄分含むコク味向上剤(特許文献16)などがある。しかしながら、これらの提案は、アミノ酸、油脂や糖類などによるものであり、飲食品自体の組成に大きく影響し、飲食品の物性を変えてしまう可能性がある。そこで、きわめて微量の添加により、飲食品にこく味を付与する素材が求められている。
【0012】
また、濃厚感は通常飲食品の呈味成分濃度が増すこと、または、油脂含量を高めること、あるいは、飲食品の粘度を増すことなどによりもたらされるが、飲食品に各種の素材を添加することにより改善する方法が提案されている。例えば、ホエー蛋白質を利用して酸味が少なく濃厚感ある脂肪様の食感を有するゲルを得る方法(特許文献17)、 バニラの生のさやを極性溶媒で抽出して得られる抽出物による濃厚感の付与(特許文献18)、穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施した、風味付与剤によるビール系飲料および焙煎飲料の濃厚感付与剤(特許文献19)、原料水の一部を海洋深層水とすることにより濃厚感の付与された牛乳(特許文献20)などがある。
【0013】
また、飲食品の風味には、口に入れてすぐに感じる風味の他、飲み込んだ後に口中全体から喉の奥にかけてしばらく持続する後残りがある。後残りについては、甘味、こく味などの好ましい呈味については持続することが求められ、また、苦味、渋味など不快な呈味については持続せずに、すみやかに消失することが求められている。後残りは、飲食品を飲み込んだ後もその感覚を楽しめる後残りの感覚として、飲食品の呈味にとって重要な要素であるが、その改善に関する提案は全く見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3409441号
【特許文献2】特開昭50−140659号公報
【特許文献3】特開昭50−13568号公報
【特許文献4】特開平4−112766号公報
【特許文献5】特開平7−79730号公報
【特許文献6】特開2001−299266号公報
【特許文献7】特開平7−115913号公報
【特許文献8】特開2002−34471号公報
【特許文献9】特開平9−103473号公報
【特許文献10】特開2004−49186号公報
【特許文献11】特開2004−135522号公報
【特許文献12】特開2000−175630号公報
【特許文献13】特開平7−203895号公報
【特許文献14】特開平7−255413号公報
【特許文献15】特開2004−81065号公報
【特許文献16】特開2008−206526号公報
【特許文献17】特開平5−260898号公報
【特許文献18】特開平8−154619号公報
【特許文献19】特開2008−43231号公報
【特許文献20】特開2008−67641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
甘味の増強に関する前記のような甘い風味を想起させる香料化合物を添加するような提案では、ある程度の効果は得られるものの、十分満足のいくものとはいえない。また、塩味の刺激感の緩和に関する前記のような提案では、不必要な甘味や呈味が付与されてしまったり、効果が十分でない。そこで、飲食品本来の成分であって、添加することにより何ら異味異臭を生じることなく効果的に甘味、塩味を自然な調和の取れた呈味に改善することが求められている。
【0016】
また、上記のように、苦味、渋味といった本来刺激的な呈味または感覚は、本来は食品にあまり多く望まれるものではなく、改善することが望まれている。
【0017】
さらにまた、生臭みは、肉類、魚介類の加工品では多少なりとも残存するが、あまり望ましい風味ではなく、さらには飲料などでは異質な風味としかとらえることができず、消費者には好まれない風味であり、その改善が課題となっている。
【0018】
さらにまた、飲食品にこく味や濃厚感を付与するためには、アミノ酸系、核酸系、油脂などの含量を高める方法では限界があり、また、前述のような提案では、ある程度の効果は得られるものの、十分満足のいくものとはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは飲食品の呈味改善に関し、鋭意研究を重ねた結果、チキンブロスのこく味、旨味などの増強にセリ科植物由来の成分が関与しており、それらがフタライド類であることを見いだした(J.Agric.Food Chem.,Vol.56,No.2,512−516,2008)。そこで、本発明者らは、フタライド類に、さらに様々な呈味改善効果があるのではないかと考え、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことにフタライド類を、飲食品に、香気としては感じない程度の微量添加するだけで、様々な飲食品の好ましくない呈味は改善し、好ましい呈味が増強または付与されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
かくして本発明は、以下のものを提供する。
(1)フタライド類を有効成分とする飲食品の呈味改善剤。
(2)飲食品が甘味含有飲食品であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(3)甘味含有飲食品が高甘味度甘味料含有飲食品であることを特徴とする(2)に記載の呈味改善剤。
(4)呈味改善が甘味の増強であることを特徴とする(2)または(3)に記載の呈味改善剤。
(5)飲食品が塩味含有飲食品であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(6)呈味改善が塩味の刺激感緩和であることを特徴とする(5)に記載の呈味改善剤。
(7)飲食品が苦味含有飲食品であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(8)呈味改善が苦味のマスキングであることを特徴とする(7)に記載の呈味改善剤。
(9)飲食品が渋味含有飲食品であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(10)渋味含有飲食品がカテキン類含有飲食品であることを特徴とする(9)に記載の呈味改善剤。
(11)呈味改善が渋味のマスキングであることを特徴とする(9)または(10)に記載の呈味改善剤。
(12)呈味改善が生臭みの低減であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(13)呈味改善がこく味の増強であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(14)呈味改善が濃厚感の付与であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(15)呈味改善が後残りの改善であることを特徴とする(1)に記載の呈味改善剤。
(16)フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(15)のいずれかに記載の呈味改善剤。
(17)(1)〜(16)のいずれかに記載の飲食品の呈味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする呈味改善剤組成物。
(18)(1)〜(17)の呈味改善剤をフタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする飲食品の呈味改善方法。
(19)(18)の呈味改善剤組成物をフタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする飲食品の呈味改善方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、飲食品に不要な呈味や香気を付与することなく、甘味含有飲食品の甘味の増強、塩味含有飲食品の塩味の刺激感緩和、苦味含有飲食品の苦味のマスキング、渋味含有食品の渋味のマスキング、その他の飲食品の生臭みの低減、こく味の増強、濃厚感の付与、後残りの改善などの呈味改善をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明で用いるフタライド類は、セリ科の植物の精油中に特徴的に存在する独特のスパイシーな生薬臭を有する一群の化合物類で、フタライド骨格を有する化合物を意味する。具体的には、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライド、3−ブチリデンフタライド、リグステライド、クニジライド、イソクニジライド、ネオクニジライド、メチルセダノエート、3−ブチルヘキサヒドロフタライドなどを指す。これらの化合物のうち、特に好ましいものとして、セダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドを例示することができる。これらのフタライド類は合成品を使用しても良く、また、セリ科植物から水または溶剤抽出あるいは水蒸気蒸留などにより抽出物または精油を得、それらから各種の公知手段などにより精製することもできる。
【0023】
これらの化合物は、単独で使用しても良く、また、いくつかを組み合わせて使用しても良い。さらにまた、これらの化合物を含むセンキュウ、トウキ、ロベージ、セロリなどの精油やオレオレジンなどの抽出物をそのまま、あるいは調合香料の一部として配合した形態として使用することもできる。
【0024】
一方、セリ科植物の精油やオレオレジンは、天然原料であり、安全、安心面から、本発明の呈味改善剤として好ましいが、精油やオレオレジンには、前記のフタライド類の他、リモネン、ミルセン、β−カリオフィレン、α−セリネン、β−セリネン、γ−セリネンなどの炭化水素類などが含まれており、独特の青っぽい香気を有する。これらの、青っぽい香気は、通常の香料用途などのようにセリ科植物の風味を付与する目的で使用する場合は、好ましい風味であるが、本発明の呈味改善剤として使用する場合には、不必要に青っぽい風味を付与してしまうため、低減または除去することが好ましい。特にセリネン類はセリ科植物に特有の青っぽい香気が強いため、できるだけ低減または除去することが望ましい。これら炭化水素類のうちリモネン(沸点:176℃;大気圧)のように沸点の比較的低い物質は、通常の精留塔などを用いた蒸留(温度:50℃〜70℃、圧力:500Pa〜1000Pa)により留出させて低減させることが容易であるが、セスキテルペン炭化水素であるセリネン類(β―セリネン:沸点:260℃;大気圧)およびフタライド類(セダネノライド:沸点:367℃;大気圧)はいずれも香料化合物としては比較的沸点が高い部類に属し、通常の精留塔などを用いた蒸留では、いずれの化合物も釜残に残ってしまい、分離が困難である。したがって、簡便でコストのかからない方法によりセリ科植物の精油やオレオレジンから、セリネン類を除く方法が必要となる。
【0025】
セリ科植物の精油やオレオレジンからセリネンを含む炭化水素類を低減または除去する方法としては、各種クロマトグラフィーなども採用し得るが、簡便で、かつ、工業的に実施可能な方法として分子蒸留を挙げることができる。分子蒸留とは、高真空条件下での蒸留であって、蒸発した分子が他の分子と衝突を起こさず冷却面へ到達して凝縮するような蒸留による精製方法をいう。使用される装置あるいは器具については、かかる方法が適用できる装置であれば、特にその種類は問わないが、一般的に回分式又は連続式分子蒸留装置があり、形式により流下薄膜式分子蒸留装置、遠心薄膜式分子蒸留装置に分類される。これらの装置の中でも安定した薄膜状態を形成できる観点から遠心薄膜式分子蒸留装置、特に連続式遠心薄膜式分子蒸留装置を使用することが好ましい。
【0026】
遠心薄膜式分子蒸留装置を使用し、炭化水素類を除くための条件としては温度90℃〜110℃、圧力10Pa〜30Paを例示することができる。この条件により、リモネンのような軽沸点の炭化水素類はもちろんのこと、セスキテルペン炭化水素であるセリネンも留去することができ、釜残としてフタライド類を得ることができる。分子蒸留に供する原料が精油である場合は、一回の分子蒸留で前記の釜残としてフタライド類を60%以上含有する本発明の呈味改善剤とすることができる。さらにまた、原料がオレオレジンなどの不揮発性成分を含む場合には、前記条件で、炭化水素類を除いた後、フタライド類を含む釜残を、再度分子蒸留に供し、温度140℃〜160℃、圧力10Pa〜30Paの条件でフタライド類を留出させ、留出部としてフタライド類を60%以上含有する本発明の呈味改善剤とすることができる。
【0027】
なお、かかる分子蒸留法それ自体は、一般に油脂などの精製に用いられる他、オレンジなどの精油の脱テルペン分画に用いられているが、セリ科植物の精油またはオレオレジンから、リモネンやセリネン類などの不必要な成分を低減または除去して呈味改善剤を精製するために適用されることは知られていない。
【0028】
本発明は、これらのフタライド類を有効成分とする飲食品の呈味改善剤に関し、これらのフタライド類をフタライド類特有のスパイシーな生薬臭を感じさせないレベルの低含量で飲食品に含有させることで、飲食品の各種呈味を改善できる呈味改善剤に関する。
【0029】
次いで、以下に、本発明の個々の態様について例示しながら説明する。
【0030】
1つの実施態様では、本発明は、甘味含有食品の呈味改善剤である。甘味含有食品とは、糖類や糖アルコールを含む食品である。糖類や糖アルコールとしては、例えば、砂糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、還元麦芽糖、還元パラチノース(パラチニット)、ソルビトールなどの糖類または糖アルコール類を含む食品を指す。これらの糖類または糖アルコール類を含有する飲食品に対しては、特に、糖類や糖アルコール類があまり甘すぎない範囲内で存在している場合に、本発明の呈味改善剤を添加すると、甘味の増強作用をもたらす。
【0031】
これら甘味含有飲食品としては、甘味を有するほとんどすべての飲食品が含まれ、例えば、柑橘果汁や野菜果汁などを含む果実飲料又は野菜ジュース、コーラやジンジャーエール又はサイダーなどの炭酸飲料、スポーツドリンクなどの清涼飲料水、コーヒー、紅茶や抹茶などの茶系飲料、ココア、牛乳、豆乳、乳酸菌飲料などの乳飲料などの飲料一般;ヨーグルト、ゼリー、プディング、ムース、チルドデザートなどのデザート類:ケーキや饅頭などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの製菓:アイスクリームやシャーベットなどの冷菓並びに氷菓:チューイングガム、ハードキャンディー、ヌガーキャンディー、錠菓、チューインガム、ゼリービーンズなどの菓子一般;果実フレーバーソースやチョコレートソースなどのソース類;バタークリームや生クリームなどのクリーム類;イチゴジャムやマーマレードなどのジャム;菓子パンなどを含むパン;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;蒲鉾などの練り製品、レトルト食品、漬け物、佃煮、総菜並びに冷凍食品などを含む農畜水産加工品を広く例示することができる
本発明の甘味含有飲食品において、フタライド類の配合割合は、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppmである。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、本発明の甘味含有飲食品は甘味が増強される。
【0032】
また別の1つの実施態様では、本発明は、塩味含有食品の呈味改善剤である。塩味含有食品とは塩味を有する食品を指し、食塩、すなわち塩化ナトリウムを含有し、それを呈味として感じる飲食品を意味する。しかしながら、食塩濃度があまり低いと、塩味自体がほとんど感じられなくなるので、通常は、食塩を0.1質量%以上含む食品で、塩味の刺激感が感じられる食品を指す。従来より、食塩は、塩味を目的とするほか、食品貯蔵のために用いられる場合があり、このような食品は、微生物の増殖などを抑えるために、食塩濃度を高く維持しなければならないことがある。また、塩分濃度がそれほど高くない飲食品であっても、塩味が刺激を伴って感じられる場合がある。
【0033】
塩味含有飲食品としては、例えば、おかき、せんべい、その他種々の和菓子、塩キャラメル、塩キャンディー、クッキー、パンその他種々の洋菓子;ポテトチップス、その他種々のスナック菓子;フラワーペースト、ピーナッツペースト、その他種々のペースト類;漬物類、佃煮類、塩から類;ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー、その他種々の蓄肉製品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、蒲鉾、チクワ、ハンペン、てんぷら、その他種々の魚介類製品;即席カレー、レトルトカレー、缶詰カレー、その他種々のカレー類;みそ、粉末みそ、醤油、粉末醤油、もろみ、魚醤、ソース、つゆ、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、固形ブイヨン、焼き肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、ダシの素、その他種々の調味料類;みそ汁、そばつゆ、すまし汁、コンソメスープ、ラーメンスープ、ドレッシングなどが挙げられる。
【0034】
本発明の塩味含有飲食品において、フタライド類の配合割合は、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppmである。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、塩味含有飲食品は、塩味の刺激感が緩和され、食塩に起因する刺激感を伴った塩味がマイルドな塩味に改善される。
【0035】
また別の実施態様では、本発明は、苦味がマスキングされた苦味含有飲食品である。苦味含有飲食品としては、例えば、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)の果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、柑橘類の果肉飲料や果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アルパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープ、豆乳飲料、コーヒー飲料、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、生薬やハーブを含む飲料などを挙げることができる。
【0036】
本発明の苦味含有飲食品において、フタライド類の配合割合は、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppmである。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、苦味含有飲食品は、苦味がマスキングされ、飲食しやすくなる。
【0037】
また別の本発明の実施態様では、本発明は、渋味がマスキングされた渋味含有飲食品、特に茶類飲料である。具体的には、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶葉、茶葉抽出物を用いて製造された飲料を挙げることができる。上記茶類飲料は、その製造方法によってポリフェノール類の含有量がまちまちであり、従って、その渋味もまちまちであるが、フタライド類を、最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することにより渋味をマスキングすることができる。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、渋味含有飲食品は、渋味がマスキングされ、飲食しやすくなる。
【0038】
また別の実施態様では、本発明は、呈味改善が飲食品の生臭みの低減である。生臭みは魚介類または畜肉、乳製品、あるいはこれらの加工品、もしくはこれらの抽出物を含有する飲食品に感じられることが多い。具体的には、魚介類や畜肉類を煮込んでエキス分を抽出したストック、だし汁、スープの元、牛乳、豆乳、ハム、ソーセージ、ちくわ、かまぼこ、はんぺん、佃煮、魚介類や畜肉の缶詰、レトルトカレー、粉末スープの元などが挙げられる。上記のような生臭みを有する飲食品では、フタライド類を最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することにより生臭みを低減することができる。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、生臭みを有する飲食品は、生臭みがマスキングされ、飲食しやすくなる。
【0039】
また別の実施態様では、本発明は、呈味改善が飲食品のこく味の増強である。こく味とは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味で表される5基本味では表わせない味であり、食べ物を口にした時に感じる厚み、広がり、まとまりなどの基本味の周辺を増強したような味をいう。こく味は、食塩、グルタミン酸、アスパラギン酸、イノシン酸、グアニル酸、コハク酸などの塩味、旨味、酸味物質、油脂などの相互作用によりもたらされると考えられているが、こく味は飲食品における「おいしさ」のうちでも最も重要な要素である。こく味を有する食品としては、例えば、柑橘果汁や野菜果汁などを含む果実飲料又は野菜ジュース、コーラやジンジャーエール又はサイダーなどの炭酸飲料;スポーツドリンクなどの清涼飲料水;コーヒー、紅茶や抹茶などの茶系飲料;ビール、発泡酒、第三のビール、ノンアルコールビールなどのビール風味飲料;清酒、リキュールなどの酒類;牛乳、豆乳、乳飲料、乳酸菌飲料やココアなどの飲料一般;ヨーグルト、ゼリー、プディング及びムースなどのデザート類:ケーキや饅頭などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの製菓:アイスクリームやシャーベットなどの冷菓並びに氷菓:その他、チューイングガム、ハードキャンディー、ヌガーキャンディー、ゼリービーンズなどを含む菓子一般;果実フレーバーソースやチョコレートソースを含むソース類;バタークリームや生クリームなどのクリーム類;イチゴジャムやマーマレードなどのジャム;菓子パンなどを含むパン;味噌、醤油、だし、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;お吸い物、出汁類(牛、豚、魚介類)、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、みそ汁などのスープ類;麺・パスタ類(そば、うどん、ラーメン、パスタなど)のつゆ;おかゆ、雑炊、お茶漬けなどの米調理食品;ハム、ソーセージ、チーズなどの畜産加工品;蒲鉾などの練り製品;レトルト食品、佃煮、総菜並びに冷凍食品など;干物、塩辛、珍味などの水産加工品;漬物などの野菜加工品、ポテトチップス、煎餅、クッキーなどの菓子スナック類;煮物、揚げ物、焼き物、カレーなどなどが挙げられる。上記のようなこく味を有する飲食品では、フタライド類を最終製品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することによりこく味を増強することができる。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、こく味を有する飲食品は、こく味が増強され、飲食品としてのおいしさが増す。
【0040】
また別の実施態様では、本発明は、呈味改善が飲食品への濃厚感の付与である。濃厚感とは飲食品のテクスチャまたは呈味が濃厚に感じる感覚であり、飲食品を味わったときの全体的な印象が濃厚であると感じるような感覚である。また、マイナスの面での意味ではなく、飲食品の良い面、おいしい面での味わいが濃厚になることを意味する。特に、甘味、こく味、うま味など、おいしさに深く関わっている呈味全体に対して、これらが濃厚になるような感覚である。したがって、対象となる飲食品に特に制限はなく、前述のほとんどあらゆる飲食品を挙げることができる。本発明では、フタライド類を飲食品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することにより濃厚感を付与することができる。また、これらのフタライド類は実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、飲食品に濃厚感味が付与され、飲食品としてのおいしさが増す。
【0041】
また別の実施態様では、本発明は、呈味改善が飲食品の後残りの改善である。飲食品の風味には、口に入れてすぐに感じる風味の他、飲み込んだ後に口中全体から喉の奥にかけてしばらく持続する後残りがある。後残りについては、甘味、こく味などの好ましい呈味については持続することが求められ、また、苦味、渋味など不快な呈味については持続せずに、すみやかに消失することが求められている。後残りは、飲食品を飲み込んだ後もその感覚を楽しめる後残りの感覚として、飲食品の呈味にとって重要な要素である。後残りを必要とする飲食品としては、ほぼすべての飲食品が含まれる。本発明では、フタライド類を飲食品に対して0.01ppb〜10ppm、より好ましくは、0.1ppb〜1ppm配合することにより、後残りを改善することができる。また、これらのフタライド類は、実質上は製剤中に配合して、製剤を最終製品に添加する場合が多い。その場合、製剤の最終製品への添加量はおおよそ0.01%〜1%程度であるため、製剤中のフタライド類の配合量としては10ppb〜1%、より好ましくは、100ppb〜1000ppmである。以上の配合割合により、飲食品の後残りが改善され、飲食品としてのおいしさが増す。
【0042】
なお、飲食品の呈味改善において、フタライド類を添加すべき濃度は前述の通りであるが、上記範囲以上にフタライド類を添加しても、さらなる呈味改善に対する効果はあまりないため、上記範囲以上に添加する必要はない。ただし、所望により、例えばフタライド類に特有の香気を付与するために、フタライド類を上記範囲より多く添加することにはなんら問題はない。
【0043】
本発明を以下の実施例により更に具体的に述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1(牛乳の甘味増強)
市販の牛乳に本発明品の呈味改善剤(甘味の増強剤)としてセダネノライドを下記表1に示す濃度で添加した牛乳を得た。
香味比較
下記表1に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の牛乳について香味比較評価を示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、牛乳が本来持っている甘味が増強することが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では甘味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも甘味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも甘味増強効果があることが判明した。
【0047】
実施例2(オレンジジュースの甘味増強)
市販の果汁100%のオレンジジュースに本発明品の呈味改善剤(甘味の増強剤)として3−n−ブチルフタライドを下記表3に示す濃度で添加したオレンジジュースを得た。
香味比較
下記表2に、パネラー10名による本発明品添加と無添加のオレンジジュースの香味比較評価を示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示した通り、3−n−ブチルフタライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、オレンジジュースの甘味が増強することが示された。3−n−ブチルフタライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では甘味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも甘味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも甘味増強効果があることが判明した。
【0050】
実施例3(塩辛の塩味の刺激緩和)
市販のイカ塩辛に本発明品の呈味改善剤(塩味の刺激緩和剤)としてセダネノライドを下記表3に示す濃度で添加した塩辛を得た。
香味比較
下記表3に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の塩辛について香味比較評価を示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示した通り、セダネノライド無添加の塩辛は塩味の刺激感を有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した塩辛は、塩味の刺激が改善されていると判定された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では塩味の刺激そのものはマイルドな塩味に改善されるが、塩味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも塩味の刺激が若干改善されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも塩味質改善効果があることが判明した。
【0053】
実施例4 (炭酸水の苦味のマスキング)
十分脱気された純水に、本発明の呈味改善剤(苦味のマスキング剤)としてセダネノライドを下記表4に示す濃度で添加したのち、瓶内圧力294KPaで炭酸ガスを封入して本発明の炭酸水を得た。
香味比較
下記表4に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の炭酸水について香味比較評価を示した。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示した通り、セダネノライド無添加の炭酸水は苦味を有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した炭酸水は、苦味がマスキングされていると判定された。セダネノダイドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0056】
実施例5 (グレープフルーツジュースの苦味のマスキング)
市販のグレープフルーツジュースに、本発明の呈味改善剤(苦味のマスキング剤)として3−n−ブチルフタライドを下記表10に示す濃度で添加したグレープフルーツジュースを得た。
香味比較
下記表5に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品のグレープフルーツジュースについて香味比較評価を示した。
【0057】
【表5】

【0058】
表5に示した通り、3−n−ブチルフタライド無添加のグレープフルーツジュースは苦味を有するが、3−n−ブチルフタライドを0.01ppb〜10ppm添加したグレープフルーツジュースは、苦味がマスキングされていると判定された。3−n−ブチルフタライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0059】
実施例6(緑茶飲料の苦味のマスキング)
中国産蒸青製法緑茶(2番茶)100gに60℃温水5000g(アスコルビン酸ナトリウム0.03%含有)を加え、時々攪拌しながら5分間抽出した後、ネル濾布にて固液分離し、抽出液4500g(Bx0.6°)を得た。抽出液にタンナーゼ(キッコーマン社製;5000U/g)0.04gを加え、40℃にて1時間静置し、ガレート体のカテキンを非ガレート体カテキンに分解(ガレート体カテキンは渋味が強く、非ガレート体カテキンは苦味が強い)した後、90℃にて1分間加熱して酵素失活し、20℃に冷却し、イオン交換水にてBx0.5°に調整し、苦味の強い緑茶抽出液を得た。これに本発明の呈味改善剤(苦味のマスキング剤)としてセダノライドを下記表6に示す濃度で添加した緑茶飲料を得た。
香味比較
下記表6に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の緑茶飲料について香味比較評価を示した。
【0060】
【表6】

【0061】
表6に示した通り、セダノライド無添加の緑茶飲料は苦味を有するが、セダノライドを0.01ppb〜10ppm添加した緑茶飲料は、苦味がマスキングされていると判定された。セダノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0062】
実施例7(緑茶飲料の渋味のマスキング)
国産緑茶(2番茶)100gに95℃温水5000g(アスコルビン酸ナトリウム0.03%含有)を加え、時々攪拌しながら5分間抽出した後、ネル濾布にて固液分離し、抽出液4500g(Bx0.7°)を得た。これをイオン交換水にてBx0.5°に調整し、渋味の強い緑茶抽出液を得た。これに本発明の呈味改善剤(渋味のマスキング剤)としてセダネノライドを下記表7に示す濃度で添加した緑茶飲料を得た。
香味比較
下記表7に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品の緑茶飲料について香味比較評価を示した。
【0063】
【表7】

【0064】
表7に示した通り、セダネノライド無添加の緑茶飲料は渋味を有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した緑茶飲料は、渋味がマスキングされていると判定された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では苦味そのものはマスキングされるが、苦味とは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも苦味が若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも苦味のマスキング効果があることが判明した。
【0065】
実施例8(フィッシュストックの生臭みの低減)
鯛のアラ750gを湯通しした後、水2リットルを加え、加熱し、90℃にて1時間煮出した。次いで、これをガーゼで濾過した後、25℃まで冷却し、食塩を0.3%添加してフィッシュストック1リットルを得た。これに本発明の呈味改善剤(生臭みの低減剤)としてセダネノライドを下記表8に示す濃度で添加したフィッシュストックを得た。
香味比較
下記表8に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品のフィッシュストックについて香味比較評価を示した。
【0066】
【表8】

【0067】
表8に示した通り、セダネノライド無添加のフィッシュストックは生臭みを有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加したフィッシュストックは、生臭みが低減していると判定された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では生臭みそのものは低減するが、生臭みとは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも生臭みが若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも生臭みのマスキング効果があることが判明した。
【0068】
実施例9(ビーフストックの生臭みの低減)
牛すじ肉1000gを湯通しした後、水2.5リットルを加え、加熱し、90℃にて1時間煮出した。次いで、これをガーゼで濾過した後、25℃まで冷却し、食塩を0.3%添加してビーフストック1.3リットルを得た。これに本発明の呈味改善剤(生臭みの低減剤)としてセダノライドを下記表9に示す濃度で添加したビーフストックを得た。
香味比較
下記表9に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品のビーフストックについて香味比較評価を示した。
【0069】
【表9】

【0070】
表9に示した通り、セダノライド無添加のビーフストックは生臭みを有するが、セダノライドを0.01ppb〜10ppm添加したビーフストックは、生臭みが低減していると判定された。セダノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では生臭みそのものは低減するが、生臭みとは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも生臭みが若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも生臭みのマスキング効果があることが判明した。
【0071】
実施例10(牛乳の生臭みの低減)
実施例1で評価した牛乳を、生臭み低減の観点から評価した。結果を表10に示す。
【0072】
【表10】

【0073】
表10に示した通り、セダネノライド無添加の牛乳は生臭みを有するが、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加した牛乳は、生臭みが低減していると判定された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。10ppm添加では生臭みそのものはマスキングされるが、生臭みとは別に、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも生臭みが若干弱くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でも生臭みのマスキング効果があることが判明した。
【0074】
実施例11(みそ汁のこく味の増強)
市販和風だしの素8gを湯1200mlに溶解し、信州みそ80gを混合溶解後、ざるで漉してみそ汁を得た。これに本発明の呈味改善剤(こく味の増強剤)としてセダネノライドを下記表11に示す濃度で添加したみそ汁を得た。
香味比較
下記表11に、パネラー10名による本発明品添加および無添加品のみそ汁について香味比較評価を示した。
【0075】
【表11】

【0076】
表11に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、みそ汁が本来持っているこく味が増強することが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加ではこく味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でもこく味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でもこく味の増強効果があることが判明した。
【0077】
実施例12(牛乳のこく味の増強)
実施例1で評価した牛乳を、こく味の増強の観点から評価した。結果を表12に示す。
【0078】
【表12】

【0079】
表12に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、牛乳が本来持っているこく味が増強することが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加ではこく味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でもこく味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でもこく味の増強効果があることが判明した。
【0080】
実施例13(フィッシュストックのこく味の増強)
実施例8で評価したフィッシュストックを、こく味の増強の観点から評価した。結果を表13に示す。
【0081】
【表13】

【0082】
表13に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、フィッシュストックが本来持っているこく味が増強することが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加ではこく味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でもこく味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でもこく味の増強効果があることが判明した。
【0083】
実施例14(ビーフストックのこく味の増強)
実施例9で評価したビーフストックを、こく味の増強の観点から評価した。結果を表14に示す。
【0084】
【表14】

【0085】
表14に示した通り、セダノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、ビーフストックが本来持っているこく味が増強することが示された。セダノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加ではこく味が増強されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でもこく味が若干強くなったと感じたパネラーもおり、低濃度でもこく味の増強効果があることが判明した。
【0086】
実施例15(オレンジジュースの濃厚感の付与)
実施例2で評価したオレンジジュースを、濃厚感の付与の観点から評価した。結果を表15に示す。
【0087】
【表15】

【0088】
表15に示した通り、3−n−ブチルフタライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、オレンジジュースに濃厚感が付与されることが示された。3−n−ブチルフタライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では濃厚感は付与されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも濃厚感が若干付与されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも濃厚感の付与効果があることが判明した。
【0089】
実施例16(牛乳の濃厚感の付与)
実施例1で評価した牛乳を、濃厚感の付与の観点から評価した。結果を表16に示す。
【0090】
【表16】

【0091】
表16に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、牛乳に濃厚感が付与されることが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では濃厚感は付与されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも濃厚感が若干付与されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも濃厚感の付与効果があることが判明した。
【0092】
実施例17(みそ汁の後残りの改善)
実施例11で評価したみそ汁を、後残りの改善の観点から評価した。結果を表17に示す。
【0093】
【表17】

【0094】
表17に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、みそ汁の後残りが改善されることが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では後残りは改善されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも後残りが若干改善されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも後残りの改善効果があることが判明した。
【0095】
実施例18(フィッシュストックの後残りの改善)
実施例8で評価したフィッシュストックを、後残りの改善の観点から評価した。結果を表18に示す。
【0096】
【表18】

【0097】
表18に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、フィッシュストックの後残りが改善されることが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では後残りは改善されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも後残りが若干改善されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも後残りの改善効果があることが判明した。
【0098】
実施例19(ビーフストックの後残りの改善)
実施例9で評価したビーフストックを、後残りの改善の観点から評価した。結果を表19に示す。
【0099】
【表19】

【0100】
表19に示した通り、セダネノライドを0.01ppb〜10ppm添加することにより、ビーフストックの後残りが改善されることが示された。セダネノライドの添加量としては0.1ppb〜1ppm程度が特に良好であった。なお、10ppm添加では後残りは改善されたが、多少スパイシーな香気も感じられた。また、0.01ppbという低濃度でも後残りが若干改善されたと感じたパネラーもおり、低濃度でも後残りの改善効果があることが判明した。
【0101】
参考例1(精油の精密蒸留による精製)
市販のセロリシード精油(参考品1)として、成分組成が3−n−ブチルフタライド1.86%、セダネノライド5.4%およびセダノライド0.32%、リモネン66.2%、β−セリネン12.9%、その他13.3%(ガスクロマトグラフィー法により測定)の精油を使用した。参考品1(120.5g)を、以下の条件で減圧精密蒸留を行った。内温54℃、減圧度を1000Paから500Paまで徐々に減圧し、留出液の留出が止まったところで終了し、留出液および釜残部(参考品2)を得た。得られた留出液および釜残部の組成は以下の通りであった。留出部80.3g(3−n−ブチルフタライド1.43%、セダネノライド3.72%およびセダノライド0.27%、リモネン85.5%、β−セリネン3.5%、その他5.58%)。
釜残部(参考品2)40.8g(3−n−ブチルフタライド7.07%、セダネノライド20.5%およびセダノライド1.22%、リモネン0%、β−セリネン43.4%、その他27.81%)。
【0102】
上記の通り、精密蒸留では、リモネンがすべて留出し、留出部は85%以上がリモネンであった。一方、釜残部にはフタライド類が濃縮されたが、β−セリネンも釜残部に濃縮されてしまうことが認められた。
【0103】
実施例20(オレオレジンの分子蒸留による精製)
市販のセロリオレオレジン(参考品3)として、揮発性成分組成が3−n−ブチルフタライド5.0%、セダネノライド41.3%およびセダノライド2.5%、リモネン30.4%、β−セリネン8.2%、その他12.6%のオレオレジンを使用した。
【0104】
参考品3(362.6g)に米サラダ油72.9g(参考品3の20%)を加え良く混合し、遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度100℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、コールドトラップ部25.1g、冷却水トラップ部10.6gおよび釜残部399.8gを得た。
【0105】
釜残部の揮発性成分組成:3−n−ブチルフタライド6.9%、セダネノライド58.3%、セダノライド3.0%、リモネン8.3%、β−セリネン13.2%、その他10.3%)。
【0106】
釜残部399.8gを再度遠心薄膜式分子蒸留装置に仕込み、15〜28Paの減圧条件下、3.6g/分の速度でフィードノズルより加熱伝熱面に流入させ、コンデンサーには、冷却水を流し、コールドトラップをドライアイス/アセトンで冷却し薄膜蒸留を行った。このときの処理液の加熱条件は、温度150℃、平均して0.1mmの薄膜状で約1.0秒間の加熱であった。蒸留後、留出部のみを本発明品1とした(収量54.7g)。
【0107】
本発明品1の成分組成:3−n−ブチルフタライド8.0%、セダネノライド65.5%、セダノライド3.5%、リモネン0.6%、β−セリネン10.9%、その他11.5%なお、2回目の分子蒸留の釜残部(345.1g)にはほとんどガスクロマトグラフィーにより検出される揮発性成分は含まれていなかった。
【0108】
実施例21(参考品1、2、3および本発明品1の官能評価)
実施例8、13、18と同様に、鯛のアラ3Kgを湯通しした後、水8リットルを加え、加熱し、90℃にて1時間煮出した。次いで、これをガーゼで濾過した後、25℃まで冷却し、食塩を0.3%添加してフィッシュストック4リットルを得た。これに本発明の呈味改善剤(生臭みの低減剤)としてセダネノライド、本発明品1、参考品1、参考品2および参考品3を下記表20に示す濃度で添加したフィッシュストックを得た。
香味比較
評価は、こく味の増強効果、および、生の葉をイメージさせるような青っぽい風味が感じられるかどうかについて評価した。下記表20に、パネラー10名によるセダネノライド、本発明品1および参考品1〜3添加おまたは無添加品のフィッシュストックについての平均的な香味比較評価を示した。
【0109】
【表20】

【0110】
表20に示したとおり、分子蒸留によりフタライド類を精製した本発明品1はセダネノライド単独で添加した場合と全く同じ評価であった。一方、未処理の精油(参考品1)および精密蒸留によりテルペン類を低減した精油(参考品2)を添加したフィッシュストックではこく味の増強については本発明品と同様の効果が得られたが、フタライド類としての添加濃度0.1ppm以上では生の葉をイメージさせるような青っぽい風味も感じられるという結果であった。また、揮発性成分中のリモネン割合の比較的低いオレオレジン(参考品3)を使用した場合でも、こく味の増強については本発明品と同様の効果が得られたが、フフタライド類としての添加濃度1ppm以上で生の葉をイメージさせるような青っぽい風味も感じられるという結果であった。
【0111】
したがって、天然抽出物である精油やオレオレジンを分子蒸留で精製することにより、生野菜的な青っぽい風味を感じさせずに呈味のみを改善することのできる呈味改善剤を得ることができた。
【0112】
実施例22(呈味エンハンスパウダーの調製)
3−n−ブチルフタライド0.093g、セダネノライド0.27gおよびセダノライド0.016gに中鎖脂肪酸トリグリセライド19.6gおよびSAIB30gを混合溶解し油相部とした。他方、軟水680gにパインデックスNo.2を955g及びHLB15のショ糖脂肪酸エステル50gを加えて溶解し、85℃で15分間加熱殺菌した。この溶液を約40℃に冷却後、TK−ホモミキサー(特殊機化工業製)でかき混ぜながら先に調製した油相部50gを注加し、更に5000回転/分で5分間かき混ぜて乳化処理し、乳化液1690gを得た。この乳化液を噴霧乾燥機(NIRO社製:モービルマイナー)を用いて送風温度150℃、排風温度80℃で乾燥し、呈味エンハンスパウダー900gを得た(本発明品2:3−n−ブチルフタライド0.0093%、セダネノライド0.027%およびセダノライド0.0016%含有)。
【0113】
実施例23(しょうゆ味スープへの添加によるうま味、こく味の増強、後残りの改善)
食塩150質量部、チキンエキス300質量部、L−グルタミン酸ナトリウム50質量部、醤油40質量部、砂糖40質量部、酵母エキス30質量部、オニオンパウダー3質量部、ガーリックパウダー2質量部に水を加えて全体を1000質量部とした後、良く混合し、90℃で15分間加熱殺菌後、冷却し、しょうゆ味スープの元を調製した。この30gに本発明品2を0.02g添加し、熱湯500mlにて溶解し、しょうゆ味スープを調製した(3−n−ブチルフタライド5.3ppb、セダネノライド15ppbおよびセダノライド0.9ppb含有)。比較品として本発明品2を添加していないしょうゆ味スープの素30gに熱水500mlを加えて溶解ししょうゆ味スープを調製した。パネラー10名により本発明品2添加および無添加品のしょうゆ味スープについて、うま味、こく味および後残りの香味比較評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品2を添加したしょうゆ味スープの方がうま味、こく味ともに強く、後残りが改善されていると判定した。
【0114】
実施例24(味噌味スープへの添加によるうま味、こく味の増強、後残りの改善)
味噌500質量部、チキンエキス50質量部、L−グルタミン酸ナトリウム50質量部、醤油40質量部、砂糖40質量部、酵母エキス30質量部、食塩20質量部、ガーリックパウダー3質量部、ジンジャーパウダー1質量部に水を加えて全体を1000質量部とした後、良く混合し、90℃で15分間加熱殺菌後、冷却し、味噌味スープの元を調製した。
この30gに本発明品2を0.02g添加し、熱湯500mlにて溶解し、味噌味スープを調製した(3−n−ブチルフタライド5.3ppb、セダネノライド15ppbおよびセダノライド0.9ppb含有)。比較品として本発明品2を添加していない味噌味スープの元30gに熱水500mlを加えて溶解し味噌味スープを調製した。パネラー10名により本発明品2添加および無添加品の味噌味スープについて、うま味、こく味および後残りの香味比較評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品2を添加した味噌味スープの方がうま味、こく味ともに強く、後残りが改善されていると判定した。
【0115】
実施例25(菓子用ピザシーズニングパウダーの調製)
粉末チーズ83質量部、砂糖6質量部、食塩5質量部、グルタミン酸ナトリウム5質量部、チーズフレーバー(長谷川香料社製)1質量部をミキサーを用いて均一に混合し、粉末状の菓子用ピザシーズニングパウダー(参考品4)を調製した。
【0116】
参考品4(100g)に本発明品2を0.3g添加し、良く混合し、菓子用ピザシーズニングパウダー(本発明品3:3−n−ブチルフタライド0.28ppm、セダネノライド0.81ppmおよびセダノライド0.048ppm含有)を調製した。
【0117】
実施例26(菓子基材への本発明品の添加によるこく味の増強)
小麦粉100質量部、グラニュー糖110質量部、全卵20質量部、大豆油10質量部、水82質量部および炭酸アンモニウム0.2質量部を良く混合し、常法によりシート化し、オーブンにて焼きあげて菓子基材(参考品5)を調製した。
【0118】
参考品5に本発明品3のピザシーズニングパウダーを2%添加したものを調製した(3−n−ブチルフタライド5.6ppb、セダネノライド16ppbおよびセダノライド1ppb含有)。一方、比較対象として参考品5に参考品4のピザシーズニングパウダーを2%添加したものを調製した。パネラー10名により本発明品3添加および参考品4添加のピザシーズニング菓子について、こく味の香味比較評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品2を添加したピザシーズニング菓子の方がこく味が強いと判定した。
【0119】
実施例27(菓子用アサリシーズニングパウダーの調製)
デキストリン80質量部、砂糖6質量部、食塩5質量部、グルタミン酸ナトリウム5質量部、アサリエキスパウダー2.5質量部、核酸系調味料0.5質量部、アサリフレーバー(長谷川香料社製)1質量部をミキサーを用いて均一に混合し粉末状の菓子用アサリシーズニングパウダー(参考品6)を調製した。
【0120】
参考品6(100g)に本発明品2を0.5g添加し、良く混合し、本発明品の菓子用アサリシーズニングパウダー(本発明品4:3−n−ブチルフタライド0.47ppm、セダネノライド0.1.4ppmおよびセダノライド0.08ppm含有)を調製した。
【0121】
実施例28(菓子基材への本発明品の添加による生臭みの低減)
もち米700g水に16時間浸漬したのち、水切りし、45分間蒸気で蒸した。その後、食塩0.7gおよび大豆油7gを添加し、直ちに、家庭用餅つき機で練って餅を製造した。これを5℃の冷蔵庫内にて1昼夜硬化させた後、切断し、約40℃で2日間風乾して、水分約25%の成形品を得た。この成形品を常法により網で焼き上げて、菓子基材(参考品7)を調製した。
【0122】
参考品7に本発明品4のアサリシーズニングパウダーを2%添加したものを調製した(3−n−ブチルフタライド9ppb、セダネノライド46ppbおよびセダノライド2.7ppb含有)。一方、比較対象として参考品7に参考品6のアサリシーズニングパウダーを2%添加したものを調製した。パネラー10名により本発明品4添加および参考品6添加品のアサリシーズニング菓子について、生臭味の香味比較評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品2を添加したアサリシーズニング菓子の方が生臭味が弱いと判定した。
【0123】
実施例29(マスキングフレーバーの調製)
3−n−ブチルフタライド0.0093g、セダネノライド0.027gおよびセダノライド0.0016gに中鎖脂肪酸トリグリセライド6.46gおよびSAIB13.5gを混合溶解し油相部とした。他方、グリセリン65g、イオン交換水10.5gおよび精製したデカグリセリンモノステアレートを4.5g溶解し、両液をTK−ホモゲナイザー(特殊機化工業社製)により、8000rpmで撹拌混合し、10分間の乳化を行った。イオン交換水で2000倍希釈時の波長680nmにおける吸光度が0.2AbsとなるようなO/W型エマルジョンとした(本発明品5:3−n−ブチルフタライド0.0093%、セダネノライド0.027%およびセダノライド0.0016%含有)。
【0124】
実施例30(ビタミン臭のマスキング)
グラニュー糖 150質量部、ビタミンC 3質量部、クエン酸 2質量部、硝酸チアミン 0.1質量部、ニコチン酸アミド 0.2質量部、ビタミンB6塩酸塩 0.07質量部、ビタミンB2 0.03質量部、カフェイン 0.5質量部、炭酸水 750質量部およびイオン交換水適量を加え合計を1000質量部とし、90℃、30秒加熱殺菌を行い、ビタミンドリンク基材(参考品8:1本当たり100mlを想定した高ビタミン含有ドリンク基材)を調整した。
【0125】
参考品8に本発明品5のマスキングフレーバーを0.01質量%添加したものを調製した(3−n−ブチルフタライド9.3ppb、セダネノライド27ppbおよびセダノライド1.6ppb含有)。パネラー10名により本発明品5添加および無添加の参考品8について、ビタミン臭の香味比較評価を行った。その結果、10名全員が、本発明品5を添加した高ビタミン含有ドリンクの方がビタミン臭が弱く飲みやすいと判定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタライド類を有効成分とする飲食品の呈味改善剤。
【請求項2】
飲食品が甘味含有飲食品であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項3】
甘味含有飲食品が高甘味度甘味料含有飲食品であることを特徴とする請求項2に記載の呈味改善剤。
【請求項4】
呈味改善が甘味の増強であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の呈味改善剤。
【請求項5】
飲食品が塩味含有飲食品であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項6】
呈味改善が塩味の刺激感緩和であることを特徴とする請求項5に記載の呈味改善剤。
【請求項7】
飲食品が苦味含有飲食品であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項8】
呈味改善が苦味のマスキングであることを特徴とする請求項7に記載の呈味改善剤。
【請求項9】
飲食品が渋味含有飲食品であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項10】
渋味含有飲食品がカテキン類含有飲食品であることを特徴とする請求項9に記載の呈味改善剤。
【請求項11】
呈味改善が渋味のマスキングであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の呈味改善剤。
【請求項12】
呈味改善が生臭みの低減であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項13】
呈味改善がこく味の増強であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項14】
呈味改善が濃厚感の付与であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項15】
呈味改善が後残りの改善であることを特徴とする請求項1に記載の呈味改善剤。
【請求項16】
フタライド類がセダネノライド、セダノライド、3−n−ブチルフタライドおよび3−ブチリデンフタライドから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の呈味改善剤。
【請求項17】
請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の飲食品の呈味改善剤を、フタライド類として10ppb〜1%含有することを特徴とする呈味改善剤組成物。
【請求項18】
請求項1〜請求項17の呈味改善剤をフタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする飲食品の呈味改善方法。
【請求項19】
請求項18の呈味改善剤組成物をフタライド類として0.01ppb〜10ppm添加することを特徴とする飲食品の呈味改善方法。

【公開番号】特開2011−103774(P2011−103774A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259307(P2009−259307)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【特許番号】特許第4606505号(P4606505)
【特許公報発行日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】