説明

甘藷のでんぷん価測定方法

【課題】比重から甘藷のでんぷん価を求める、簡便、迅速なでんぷん価測定方法を提供する。
【解決手段】下記の段階を有する甘藷のでんぷん価測定方法である。
(1)被検甘藷の空気中重量W0を測定する段階
(2)被検甘藷全体を水に浸し、減圧して、甘藷中の空気を水と置換する段階
(3)水に置換された甘藷の空気中重量W1と水中重量W2とを測定する段階
(4)上記で得られた重量を用いて水置換甘藷の比重Sを求める段階
(5)求めた比重Sを用い、水置換甘藷のでんぷん価D1を求める段階
(6)水置換甘藷でんぷん価から、被検甘藷のでんぷん価D0を算出する段階を含む、甘藷のでんぷん価測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は甘藷のでんぷん価測定方法、特に生甘藷のでんぷん価測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体の比重を求めるには、固形物の空気中重量と、比重が既知の液体中の水中重量とを測定し、固形物の体積を求め、空気中重量(g)/体積(cm3)で求めるのが一般的である。
【0003】
特許文献1はロック材(岩)の吸水率を測定するために減圧することにより比重を求める方法を開示している。特許文献1は、脱気水を使用しており、水を脱気し水中の空気を除き、次いで岩の空気を脱気しているので、操作が煩雑で時間を要する。また、特許文献1は、無機物を対象としたもので、生甘藷のような有機物については、言及していない。
【0004】
一方、甘藷のでんぷん価測定方法としては、塩酸加水分解法(国税庁所定分析法)があるが、沸騰水浴中で2.5時間加熱する事を始め、操作が煩雑で、結果が出るまでに、時間を要する。
【特許文献1】特開平2004−20511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生の甘藷は甘藷中に多量に空気を含んでおり、比重測定が困難であり、比重からでんぷん価を求めることができない。このため、でんぷん価測定には、時間を要し、でんぷん価の迅速測定方法が望まれている。また、一般的に、じゃがいもに関しては、比重からでんぷん価を測定する簡便法が確立され、実用化されている。これに対して、甘藷については、前述したような理由のため、比重からでんぷん価を求める方法は実用化されていない。
【0006】
本発明は、塩酸等の試薬等を使用しないで、短時間でできる、簡便で実用的な比重から甘藷のでんぷん価を求める測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成した本発明の甘藷のでんぷん価測定方法は以下の段階を特徴としている。
1.下記の段階を有する甘藷のでんぷん価測定方法:
(1)被検甘藷の空気中重量W0を測定する段階、
(2)被検甘藷全体を水に浸し、減圧して、甘藷中の空気を水と置換する段階、
(3)水で置換された甘藷の空気中重量W1と水中重量W2とを測定する段階、
(4)上記で得られた重量を用いて下式により水置換甘藷の比重Sを求める段階、
【数1】

(5)求めた比重Sを用い、下式から水置換甘藷のでんぷん価D1を求める段階、
【数2】

(6)下式を用いて、水置換甘藷でんぷん価D1から、被検甘藷のでんぷん価D0を算出する段階。
【数3】

2.上記段階(2)の減圧を0.021MPa以上の減圧度で行う請求項1記載の方法。
3.上記段階(2)の減圧を下式を満たす条件で行う請求項2記載の方法。
【数4】

ただし、Xは減圧度(MPa)、Yは減圧時間(分)
【発明の効果】
【0008】
本発明は、甘藷のでんぷん価測定において、次のような顕著な効果を奏する。
【0009】
本発明によれば、甘藷の比重測定が極めて簡単で、じゃがいも同様に比重からでんぷん価を求めることができる。さらに塩酸等の薬品を使わないので、安全であり、簡便、迅速にでんぷん価測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では生の甘藷を被検体として、被検体がなるべく、均一になるように縦にカットする。被検体作成作業の簡略化と減圧時間の短縮化を考慮して、被検体をさらに縦横5mm、長さ5cm程度の短冊状にカットし、流水中で表面を洗い流す。洗い流した後、被検体の表面の水分を拭き取り、空気中重量W0を測定する。重量測定後、被検体を水で満たした真空デシケーター内に入れ、空気中に被検体が表出しないように完全に水中に没するようにする。真空デシケーター内を減圧すると甘藷中に内包されている空気が脱気される。この脱気は減圧度と時間に作用される。減圧後、真空デシケーター内を常圧に戻し、被検体を取り出す。予め水中重量を0にセットした容器に被検体を移し、水中重量W2を求める。水中重量W2を測定後、被検体表面の水分を拭き取って、空気中重量W1を測定する。空気中重量W1と水中重量W2から水置換甘藷の比重を求める。測定比重から水置換甘藷のでんぷん価D1を求める。でんぷん価D1を減圧前の甘藷重量に換算し、被検甘藷のでんぷん価D0を求める。


【0011】
水置換甘藷のでんぷん価D1は比重Sを用い、下式から求める。
【数2】

【0012】
本発明では、減圧条件は、後述する実施例及び、図2から明らかなように、減圧度と時間に関係する。本発明に適した減圧度と時間の関係は指数関数になり、減圧度の限界値は0.021MPaである。減圧度と時間の関係は以下の式を満たす。なお、減圧時間Yは次式から求める。
【数4】

ただし、Xは減圧度(MPa)、Yは減圧時間(分)
【0013】
本発明では、迅速測定を目的とするので、望ましくは減圧度0.021MPa以上、さらに望ましくは、0.01MPaで減圧する。なお、減圧度が0.04MPa以下であると、甘藷中の空気の脱気が進まず、でんぷん価の測定が困難である。
【実施例】
【0014】
被検体には生の甘藷を用い、被検体がなるべく、均一になるように縦にカットした。被検体をさらに、縦横5mm、長さ5cm程度の短冊状にカットした。カット後、流水中で表面を洗い流した。被検体の表面の水分を拭き取り、空気中の重量W0を測定した。被検体は空気中重量で約40g前後になるように準備した。重量測定後、被検体を網状の袋に入れ、水を満たした真空デシケーター内に袋ごと入れた。被検体は水に浮くため、金属性のふるいを検体の上から被せ、被検体が完全に水中に没するようにした。真空デシケーターの気層部分から減圧し、甘藷中の空気を脱気した。減圧度は最大で、0.0065MPaとし、0.01MPaから0.04MPaまでは0.01MPa刻みとした。減圧後、真空デシケーター内を常圧に戻し、被検体を取り出した。予め水中重量を0にセットした容器に袋から取り出した被検体を移し、水中重量W2を求めた。水中重量W2を測定後、被検体表面の水分を拭き取って、空気中重量W1を測定した。空気中重量W1と水中重量W2から水置換甘藷の比重を求めた。測定比重か
ら水置換甘藷のでんぷん価D1を求めた。でんぷん価D1を減圧前の甘藷重量に換算し、被検甘藷のでんぷん価D0を求めた。
【0015】
減圧度と減圧時間の違いに伴うでんぷん価の変化を表1、図1に示した。




【0016】
【表1】

【0017】
表1の標準値は、塩酸加水分解法により求めたでんぷん価を示す。減圧度が0.04MPaであると減圧時間を長くしても、正確なでんぷん価を求めることは難しいことがわかった。
【0018】
図1から各減圧度におけるでんぷん価と標準値の交点を、その減圧度における必要減圧時間と考え、減圧度と減圧時間の関係を図2に示す。
【0019】
図2において、減圧度と減圧時間の関係については、指数関数になり、相関係数R=0.99と非常に高く、この関係式から各減圧度における必要減圧時間を求めることができる。
【0020】
図2の関係式は、指数関数となり、30分以内での迅速測定を考えると、減圧度は0.021MPa以上必要であることがわかった。
【0021】
実施例において、減圧度0.01MPaで5分間減圧した際に求めたでんぷん価と塩酸加水分解法のでんぷん価(標準値)の関係を図3に示す。
【0022】
図3から本発明によるでんぷん価と塩酸加水分解法のでんぷん価の相関はR=0.96と高く、本発明により、甘藷のでんぷん価を実用的に測定できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
例えば、焼酎製造において、発酵歩合を管理するため、また原価試算をする上でも、原料甘藷のでんぷん価を確認することは非常に重要である。本発明は、製造現場でのでんぷん価の迅速測定方法として、実用性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】減圧度と減圧時間の違いとでんぷん価を示したグラフである。
【図2】減圧度と減圧時間の関係を示したグラフである。
【図3】本発明によるでんぷん価と塩酸加水分解法によるでんぷん価の関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階を有する甘藷のでんぷん価測定方法:
(1)被検甘藷の空気中重量W0を測定する段階
(2)被検甘藷全体を水に浸し、減圧して、甘藷中の空気を水と置換する段階
(3)水に置換された甘藷の空気中重量W1と水中重量W2とを測定する段階
(4)上記で得られた重量を用いて下式により水置換甘藷の比重Sを求める段階
【数1】

(5)求めた比重Sを用い、下式から水置換甘藷のでんぷん価D1を求める段階、
【数2】

(6)下式を用いて、水置換甘藷でんぷん価D1から、被検甘藷のでんぷん価D0を算出する段階。
【数3】

【請求項2】
上記段階(2)の減圧を0.021MPa以上の減圧度で行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記段階(2)の減圧を下式を満たす条件で行う請求項2記載の方法。
【数4】

ただし、Xは減圧度(MPa)、Yは減圧時間(分)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−286615(P2008−286615A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131199(P2007−131199)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)