説明

甘藷挿苗機

【課題】甘藷挿苗機を構成する各部のレイアウト上の問題により、植付けの作業性が損なわれることがある。
【解決手段】左右一対の前輪2・2および後輪3・3と、畝高さに応じて上下高さが制御される走行機体4と、を備え、走行機体4には、甘藷苗を保持可能な搬送ベルト21を駆動して苗を搬送する苗搬送台12と、苗搬送台12より苗を引き継ぎ、その苗を掴んだ状態で畝中に突入する往復運動を、走行機体4の走行に連動して繰り返す植付け爪20L・20Rと、走行機体4の後部フレームを兼用するハンドルフレーム7と、が設けられる、甘藷挿苗機1であって、苗搬送台12は、前後方向で後輪3・3とに配置されると共に、左右方向で左右それぞれの後輪よりも外側に突出し、ハンドルフレーム7は、前後方向で苗搬送台12より後方に延出すると共に、左右方向で左右の後輪3・3間に収まるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘藷苗を畝に植え付ける甘藷挿苗機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、畝高さに応じて上下高さが制御される走行機体に、ベルト式の苗搬送台や苗の植付け爪が備えられ、この走行機体が畝に沿って走行するのに連動して、苗の植付けが行なわれる甘藷挿苗機の技術が、公知となっている。例えば、特許文献1や特許文献2に開示される技術である。
特許文献1に開示される甘藷挿苗機には、後面視、逆三角形状に巻回された搬送ベルトを備える苗搬送台が備えられている。この搬送ベルトの平らな上面は苗の載置台となっており、この載置台上に、作業者が苗の収容ケースより苗を取り出して載置する。また、この搬送ベルトの下端位置は、植付け爪への苗の受渡し位置となっており、上下に往復運動するように構成された植付け爪が、この受渡し位置で苗を掴み取って、下方に移動し、畝中に突入して苗を解放することで、苗の植付けが行なわれる。
特に、逆三角形状の苗搬送台は、左右方向で左右それぞれの前輪や後輪の位置にわたるように設けられており、左右どちらからでも、作業者による苗搬送台への苗供給作業が可能となっている。
【特許文献1】特開2003−9616号公報
【特許文献2】特開2002−335713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような甘藷挿苗機においては、この甘藷挿苗機を構成する各部のレイアウト上の問題により、植付けの作業性が損なわれることがある。
特許文献1に開示される甘藷挿苗機のように、左右の後輪(前輪も含む)にわたる苗搬送台の場合は、作業者は苗搬送台の左右より苗供給が可能であり、つまり二人作業による効率的な苗供給が可能である。ここで、作業者の苗供給における立ち位置は、苗搬送台の左右端部の後方の空きスペースである。
ところが、特許文献1に開示される甘藷挿苗機では、畝間を歩行する作業者の便宜のため、ハンドルフレームが機体の右方に偏って設けられており、苗搬送台の左右後方のうち、右側後方の空きスペースは、ハンドルフレームの右方への突出により狭められている。このため、苗搬送台への右側からの苗供給においては、狭いスペース内で作業者が作業を行なわざるを得ず、植付けの作業性を損なうものとなっていた。
【0004】
同じくレイアウト上の問題として、特許文献1に開示される甘藷挿苗機では、苗搬送台の苗の受渡し位置と、植付け爪の駆動機構との位置関係により、往復運動する植付け爪の移動範囲や移動時の姿勢が、制限されるものとなっていた。
ここで、受渡し位置と植付け爪の駆動機構との距離が近づくほど、植付け爪の長さを短縮せざるを得ないと共に、往復運動する植付け爪の移動範囲を狭める必要がある。同時に、植付け爪の移動時の姿勢も、限られたものとなる。
このため、往復運動する植付け爪は、畝の上面を前後方向で切り裂くように移動することになり、苗が挿入される植付け穴が形成されると言うより、苗を落とし込むスリットが形成された状態となる。そして、苗移植が行なわれた段階で、苗が露出した状態となる。このようなスリットが畝に形成されると、畝上面に当接させる押圧輪を、植付け位置に作用させても、確実に塞ぐことができるとは限らないものとなる。
甘藷挿苗機による自動の植付け作業の後に、後で手作業で植付け穴を塞ぐなどの作業が必要となり、植付けの作業性が損なわれるものとなってしまう。
【0005】
つまり、解決しようとする問題点は、甘藷挿苗機を構成する各部のレイアウト上の問題により、植付けの作業性が損なわれることがある点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、
左右一対の前輪および後輪と、
畝高さに応じて上下高さが制御される走行機体と、を備え、
前記走行機体には、
甘藷苗を保持可能なベルトを駆動して苗を搬送する苗搬送台と、
苗搬送台より苗を引き継ぎ、その苗を掴んだ状態で畝中に突入する往復運動を、走行機体の走行に連動して繰り返す植付け爪と、
走行機体の後部フレームを兼用するハンドルフレームと、
が設けられる、甘藷挿苗機であって、
苗搬送台は、平面視前後方向で後輪と重複もしくは後輪の後方に配置されると共に、その左右両側はそれぞれの後輪よりも外側に突出し、
ハンドルフレームは、前後方向で苗搬送台より後方に延出すると共に、左右両端は左右の後輪間に収まるように配置される、ものである。
【0008】
請求項2においては、
前記植付け爪の畝中突入部は、植付け対象である甘藷苗の土中突入部分の長さより長く形成されると共に、
苗搬送台と、植付け爪を往復運動させる機構とが、ハンドルフレームを挟んで対向する位置に、前記往復運動の経路に苗搬送台が干渉することのないように離間して、配置される、ものである。
【0009】
請求項3においては、
前記走行機体には、
畝上面と接触して畝高さを検出するセンサーローラと、
畝上面に当接して植付け爪の突入により形成された植付け穴を塞ぐ押圧輪と、
が備えられると共に、
前後方向の同一ライン上に、センサーローラ、前記植付け爪、押圧輪がこの順で配置される、ものである。
【0010】
請求項4においては、
前記センサーローラおよび前記押圧輪の左右幅は、略同じ長さとされる、ものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1においては、
苗搬送台の左右端部の後方に、左右どちらでも作業者が位置することができ、作業者が一人の場合でも二人の場合でも、苗搬送台への苗供給作業を行なうことが可能となり、植付けの作業性が向上する。しかも、このような効果がレイアウト構成のみにより共に実現されるので、コストアップを招くことがない。
【0013】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
植付け穴の形成が畝の内部でのみ行なわれて、畝上面を前後方向に切り裂くことがなく、畝上面での植付け穴の開口幅が、最小化される。したがって、苗が露出することなく植付けが確実に行なわれ、植付けの作業性が向上する。
【0014】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
植付けミスの発生が防止される。
【0015】
請求項4においては、請求項3の効果に加えて、
押圧輪による植付け穴を崩すための押圧が適切となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これより、本発明の一実施の形態である甘藷挿苗機1を、図面を用いて説明する。
【0017】
まず、図1、図2を用いて、甘藷挿苗機1の構成を説明する。
甘藷挿苗機1は、畝に沿って走行しながら、自動的に甘藷苗(以下苗)を畝中に植え付ける歩行型の自走式作業機であり、畝間の谷部17を走行する左右一対の前輪2・2および後輪3・3と、畝の上方に位置する走行機体4と、を備えている。
【0018】
走行機体4のメインフレームは、前側のエンジンフレーム5と、中央部のミッションケース6と、後側のハンドルフレーム7とを、前後方向に連結固定して構成されており、このメインフレーム上に各種装置が支持されている。
走行機体4には、前記各種装置として、走行方向の前方より後方に向けて、畝ガイド装置8、前輪支持装置9、エンジン10、後輪支持装置11、前記ミッションケース6、畝高さ検出装置16、苗搬送台12、植付け装置13、押圧装置14、運転操作部15、が備えられている。
なお、これらの各種装置において、ミッションケース6より前側に配置される装置はエンジンフレーム5に支持され、ミッションケース6より後側に配置される装置はハンドルフレーム7に支持されている。
【0019】
畝ガイド装置8は、畝に沿って走行する甘藷挿苗機1の走行方向を案内するための装置であり、畝の左右側面(斜面)に当接させるための畝ガイドローラ8a・8aを左右一対備えている。これらの畝ガイドローラ8a・8a間に畝を挟み込み、または、斜面に当接させながら転動させて、この状態で甘藷挿苗機1を走行させることで、甘藷挿苗機1を運転操作により方向制御することなく、畝に沿って走行させることが可能である。
【0020】
前輪支持装置9には、エンジンフレーム5に位置固定されている前輪支持軸9aと、前輪支持軸9a回りに回転自在で、各前輪2を支持する前輪アーム9b・9bと、が備えられている。
後輪支持装置11も、前輪支持装置9と同様の構成であり、ミッションケース6に位置固定されている後輪支持軸11aと、後輪支持軸11a回りに回転自在で、各後輪3を支持するチェーンケース11b・11bと、が備えられている。
なお、後輪支持軸11aの内部には、後輪3・3の駆動軸が内蔵されており、この駆動軸の回転駆動が、左右それぞれで、チェーンケース11b内のチェーンを介して、後輪3に伝達される。
【0021】
走行機体4は次の構成により、前輪2・2および後輪3・3に対する高さ位置の調整、つまり畝上面に対する高さ位置の調整が可能となっている。
まず、前輪アーム9bとチェーンケース11bとは図示せぬ連結軸を介して連結されており、前輪アーム9bおよびチェーンケース11bが平行リンクに構成されている。そして、前輪アーム9bまたはチェーンケース11bを回転させることで、前輪2・2および後輪3・3に対する走行機体4の上下高さが可変である。
本実施の形態では、チェーンケース11bを走行機体4に対して回転させる手段として、エンジンフレーム5とチェーンケース11bとを連結して伸縮させるアクチュエータ19が設けられている。このアクチュエータ19を伸縮させることにより、前記平行リンクの作動を介して、前輪2・2および後輪3・3に対して、走行機体4が上下動する。
【0022】
走行機体4の上下動は、前記畝高さ検出装置16による畝高さの検出に基づいて行なわれるものである。
前記畝高さ検出装置16には、畝上面18と接触するセンサーローラ16aと、センサーローラ16aを支持しエンジンフレーム5に回転自在に設けられるセンサーアーム16bと、が備えられている。
このセンサーアーム16bの傾斜角度は、エンジンフレーム5と畝上面18との離間距離に関する情報を与えるものである。そして、このセンサーアーム16bの傾動に応じて、油圧バルブのスプールが押し引きされて、油圧式とした前記アクチュエータ19の作動が制御され、エンジンフレーム5と畝上面18との離間距離が一定に保たれるように、走行機体4の高さ位置が制御される。
また、左右一方のチェーンケース11bを他方のチェーンケース11bに対して回転させる(傾斜させる)アクチュエータ(図示せず)が、前記アクチュエータ19とは別に設けられており、甘藷挿苗機1は、左右傾斜制御も可能に構成されている。
【0023】
図1、図2、図3を用いて、苗搬送台12を説明する。
苗搬送台12は、図示せぬ苗収容ケースに収容されている苗を、植付け装置13に備える植付け爪20L・20Rに、自動的に搬送して供給する装置である。前記苗収容ケースは、走行機体4のフレーム上に設けられている。
【0024】
図3に示すように、苗搬送台12には、後面視逆三角形状に巻回された搬送ベルト21が備えられると共に、この搬送ベルト21の外周上には、等間隔に、苗の保持部22が設けられている。
この保持部22は、スポンジ等の弾性体で構成した樹脂材が一対対向して配置されてなるものであり、両樹脂材の離間間隔は、苗の茎より狭い間隔となっている。そして、両樹脂材間に苗を挟んで保持することが可能に構成されている。
【0025】
搬送ベルト21は、後面視において、本実施の形態では、左回りに回転するように構成されており、搬送ベルト21の各部の位置は、その回転駆動により変化する。ここで、前記逆三角形の底辺部分(左右水平上面部分)は苗載置部21aであり、前記逆三角形の二斜辺の交わる頂点部分は受渡し位置21dであり、前記逆三角形の進行方向に向かって左側の斜辺は苗搬送部21bであり、前記逆三角形の右側の斜辺は空搬送部21cである。
【0026】
作業者は、苗載置部21a上の保持部22に、前記苗収容ケースから取り出した苗を保持させる。苗が保持部22に保持されると、苗が搬送ベルト21により搬送される。
ここで、搬送ベルト21が左回りであるため、苗載置部21a上の苗は、苗搬送部21bに沿って搬送されて、植付け爪20L・20Rへの受渡し位置21dへと送られる。なお、保持部22は苗の茎の一部を保持するのみであるので、苗搬送部21bのように搬送ベルト21に対して苗が逆さ(下方)になる位置では、苗が下方に垂れ下がることになる。苗の垂れ下がりによる茎折れ等を防止して、苗の姿勢を適切に保つため、苗搬送部21bの外側には、苗搬送部21bに沿って所定間隔をあけた状態で、苗受けガイド23が設けられている。
また、受渡し位置21dにおいて苗が植付け爪20L・20Rへと受け渡されるので、空搬送部21cには、苗が存在しない状態となり、苗受けガイド23のような受け部材も必要としない。
【0027】
苗搬送台12には、ミッションケース6のPTO軸からの動力が伝達される構成であり、後述の植付け装置13と連動して、搬送ベルト21が間欠的に回転駆動されるように構成されている。
【0028】
図2、図3に示すように、苗搬送台12は、平面視において前後方向では、後輪3・3と重複すると共に、苗搬送台12の後端部は後輪3・3よりも後方に突出している。また、苗搬送台12は、左右両側は、左右それぞれの後輪3・3よりも外側に突出するように構成されている。なお、前輪2・2及び後輪3・3は畝の幅に合わせて左右幅調整可能に構成されており、その調整範囲の左右最大幅よりも苗搬送台12の幅が広くなるように構成されている。
また、ハンドルフレーム7は、前後方向で苗搬送台12より後方に延出すると共に、左右方向で左右の後輪3・3間に収まるように配置されている。つまり、後輪3・3の調整範囲の左右最小幅よりも狭くハンドルフレーム7の幅が構成されている。
【0029】
ハンドルフレーム7は、側面視において、二箇所で屈曲するものでありこれらの屈曲部により分割される、前フレーム部7a、中フレーム部7b、ハンドル部7cの三部分よりなっている。前フレーム部7aは後下方に延出し、中フレーム部7bは後上方へ向けて斜めに延出し、ハンドル部7cは後略水平方向に延出している。
【0030】
ここで、ハンドルフレーム7は、平面視で前側が開口する略U字状に形成されると共に、Uターン状に屈曲する後端部が、作業者が手で握って操向操作等を行なう前記ハンドル部7cとなっている。このハンドル部7cは、作業者が掴みやすいように、ハンドルフレーム7の前部および中央部と比べて左右方向に突出するように形成されているが、このハンドル部7cの全体も、左右方向で後輪3・3間に収まる構成となっており、水平部分において、左右方向直線部分と前後方向直線部分を有している。
【0031】
以上構成により、苗搬送台の左右端部の後方にはそれぞれ、ハンドルフレーム7の左右方向の突出もない空きスペースが確保される。後輪3の走行経路は畝間の谷部17であり、甘藷挿苗機1の作業走行に伴って、作業者が歩行する場所でもある。
つまり、作業者は、左右のどちらからでも、苗搬送台の左右端部の後方に立って、ハンドルフレーム7のため立ち位置に制限を受けることもなく、苗搬送台12への苗供給作業を行なうことが可能である。
【0032】
図1、図4を用いて、植付け装置13を説明する。
植付け装置13は、左右一対の植付け爪20L・20Rと、植付け爪20L・20Rを受渡し位置21dから畝中まで往復運動させる爪往復動機構24と、を備えている。
【0033】
植付け爪20L・20Rは、苗搬送台12の受渡し位置21dより受け渡された苗を畝中に移植するものであり、左右の植付け爪20L・20Rの当接・離間により、苗の保持や、保持した苗の解放が可能となっている。
前記往復運動の最上位置は受渡し位置21dであり、この受渡し位置21dにある苗を、植付け爪20L・20Rが挟み込んで掴み取り、畝中にある前記往復運動の最下位置で、植付け爪20L・20Rが苗を解放し、植付け爪20L・20Rが上方へ退くことで、畝中への苗の移植が行なわれる。
【0034】
前記爪往復動機構24は、植付け駆動軸25の回転運動を、植付け爪20L・20Rの苗搬送台12から畝中に至る往復運動に変換する、クランク機構である。この植付け駆動軸25には、ミッションケース6のPTO軸からの動力が伝達される構成である。
【0035】
爪往復動機構24には、次のリンクが備えられている。
植付け駆動軸25と一体的に回転する第一リンクアーム26と、姿勢調整軸27に回動自在に設けられる第二リンクアーム28と、である。前記姿勢調整軸27は、ハンドルフレーム7に、支持部材を介して固定され、植付け駆動軸25の上方に配置され、両軸は左右方向に配設されている。
第一リンクアーム26の先端には、第一支点軸29が固定されると共に、第二リンクアーム28の先端には、第二支点軸30が固定されている。
また、第一支点軸29および第二支点軸30は、植付け爪20L・20Rを支持する爪支持ケース31を、それぞれ回動自在に軸支する。
【0036】
以上構成において、第一支点軸29および第二支点軸30は共に、爪支持ケース31に対して回動自在であっても、爪支持ケース31に対して位置固定されているので、第一支点軸29から第二支点軸30までの距離は常に一定である。また、植付け駆動軸25から第一支点軸29までの距離や、姿勢調整軸27から第二支点軸30までの距離も一定である。
【0037】
このため、植付け駆動軸25の回転により、爪支持ケース31が植付け駆動軸25周りに回転すると共に、爪支持ケース31の姿勢が変化する。
爪支持ケース31の姿勢変化の発生は、次のような理由による。第一支点軸29から第二支点軸30までの距離が一定のため、爪支持ケース31の公転(植付け駆動軸25周りの回転)に伴って、第二リンクアーム28が姿勢調整軸27周りの円弧軌道上を往復運動する。つまり、第一支点軸29と第二支点軸30との相対位置が変化する。このため、爪支持ケース31の姿勢が変化する。そして、爪支持ケース31の姿勢の変化は、植付け爪20L・20Rの姿勢の変化を意味する。
【0038】
以上のようにして、植付け駆動軸25の回転により、爪往復動機構24を介して、植付け爪20L・20Rの先端の軌跡が三日月状体の外周の経路(以下、三日月状経路R1)に沿って、往復運動する。
なお、図4に示す三日月状経路R1は、甘藷挿苗機1本体を停止した状態で植付け爪20L・20Rを駆動させたものであり、本体を走行しながら植え付ける移動経路とは、異なるものである。
【0039】
図5に示すように、本体を走行しながら植え付ける、植付け爪20L・20Rの移動経路は、移動経路の両端が離間すると共に、移動経路の中途部の一点で交わった、α字状の経路(以下、α字状経路R2)となる。
これは、植付け爪20L・20Rの運動が、前記爪往復動機構24による運動(三日月の外周状の往復運動)と、甘藷挿苗機1の走行による運動(直線運動)とを、合成したものとなるためである。
【0040】
ここで、α字状経路R2の交点位置Pは、植付け作業時における甘藷挿苗機1の走行速度を変化させることにより、上下するものである。そして、畝上面18の付近に、交点位置Pが位置するように、甘藷挿苗機1の走行速度が設定されている。このようにして、植付け穴の畝上面18での開口幅が、小さくなるようにしている。
【0041】
以上構成により、植付け爪20L・20Rにより、植付け穴の形成が畝の内部でのみ行なわれて、畝上面18を前後方向に切り裂くことがなく、畝上面18での植付け穴の開口幅が、最小化される。
したがって、植付け爪20L・20Rによる苗移植が行なわれた状態で、苗が土中より露出することがなく、苗の植付けが確実となっている。
【0042】
図4を用いて、植付け爪20L・20Rの形状を説明する。
植付け爪20L・20Rは左右対称の形状であるので、左側の植付け爪20Lについて説明する。
側面視において、植付け爪20Lの形状は、一方の辺が他方の辺よりも三倍程度長いV字状であり、長辺部である畝中突入部20aと、短辺部である基部20bよりなる。畝中突入部20aは、第一リンクアーム26の回転に伴って畝中へ突入する部分であり、基部20bは、爪支持ケース31内のリンクに接続される部分である。また、畝中突入部20aの先端部には、苗を挟み込むための当接板33が固設されている。
【0043】
畝中突入部20aの形状は、長手方向の二箇所で折曲された折れ線形状であり、全体として凹状に形成されている。
ここで、畝中突入部20aは、植付け爪20L・20Rを往復運動させる爪往復動機構24の駆動源となる植付け駆動軸25に対して、凹状となっている。
このため、畝中突入部20aは、前記円弧状の移動経路に沿って移動し、植付け穴を必要以上に拡大することがない。
【0044】
また、畝中突入部20aの長手方向長さは、植付け対象である甘藷苗の土中突入部分の長さより長く形成されている。
このため、植付け爪20L・20Rを畝中に差し込むだけで、苗を挿入するのに必要なだけの長さを有する植付け穴を形成することができる。畝中突入部の長さが、必要とされる植付け穴の長さよりも短い場合は、植付け爪を畝中でスライドさせて、畝上面を前後方向に切り裂くなどして、自らよりも長い範囲に穴を形成する必要があるが、植付け爪20L・20Rの場合は、このようなことを行なう必要がない。
【0045】
植付け爪20L・20Rの開閉機構について説明する。
前記爪支持ケース31内には、植付け爪20L・20Rを開閉運動させるリンク機構と、このリンク機構の始端に位置するレバー36とが、備えられている。
【0046】
レバー36は、前記爪支持ケース31内で回転自在に設けられると共に、図示せぬ付勢手段により、第一支点軸29に固定される開閉カム32に当接するように設けられている。そして、開閉カム32との当接によるレバー36の回転運動が、前記リンク機構を介して、植付け爪20L・20Rの開閉運動に変換される。
【0047】
前記レバー36は、前記開閉カム32の外周面に当接するように構成されており、開閉カム32の外径変化に応じて、その回転位置が変化し、植付け爪20L・20Rの開閉が切り替えられると共に、開放時の開度が変化する。
植付け爪20L・20Rの開閉および開度は、「閉」の状態と、苗を保持する「小さく開」の状態と、保持している苗を解放する「大きく開」の三段階で変化するものとされており、この三段階に対応するように、前記開閉カム32の外周面は、その半径が変化するように形成されている。
【0048】
開閉カム32は第一支点軸29に固設される構成であり、第一リンクアーム26の回転に伴って、植付け駆動軸25周りに公転し、側面視での姿勢(回転位置)が変化する。
一方、爪支持ケース31の姿勢も、第一リンクアーム26の回転に伴って変化するが、この爪支持ケース31の姿勢変化の運動は、開閉カム32の回転運動とは、相対的に異なる運動である。
このため、爪支持ケース31に備える前記レバー36に、開閉カム32の外周面が当たる位置が、植付け駆動軸25の回転に応じて変化する。したがって、植付け駆動軸25の回転に応じて、植付け爪20L・20Rが開閉することになる。
【0049】
そして、植付け爪20L・20Rを、その往復運動の最上位置で開から閉状態に移行させて、苗搬送台12より苗を掴み取らせると共に、前記往復運動の最下位置で閉から開状態に移行させて、畝中に苗を解放させるように、植付け爪20L・20Rの開閉機構は構成されている。
【0050】
図1を用いて、苗搬送台12と植付け装置13とのレイアウトを説明する。
苗搬送台12は、前記ハンドルフレーム7の前フレーム部7aの上方に配置されている。苗搬送台12の駆動機構は、苗搬送台12の内部に設けられているので、この駆動機構も前フレーム部7aの上方に位置している。
一方、植付け装置13は、その爪往復動機構24が前記中フレーム部7bの後方に配置されている。ここで、前記植付け爪20L・20Rは、苗搬送台12と爪往復動機構24の駆動源たる植付け駆動軸25との間で、三日月状経路R1に沿う往復運動を行なうものであり、この往復運動の移動経路は、中フレーム部7bを横切るものとなっている。
そして、前記苗搬送台12は、三日月状経路R1に干渉することのないように、ハンドルフレームを挟んで爪往復動機構24と対向する位置に、離間して配置されている。
【0051】
図1を用いて、押圧装置14を説明する。
押圧装置14は、植付け爪20L・20Rが差し込まれた畝上面18を押圧して、植付け爪20L・20Rにより形成された植付け穴を崩して、苗の畝中への保持を確実とするための手段である。
押圧装置14には、畝上面18に当接させる押圧輪34と、この押圧輪34を植付け爪20L・20Rによる苗の移植に連動して上下動させる押圧動機構35と、が備えられている。
【0052】
図2を用いて、センサーローラ16aと、植付け爪20L・20Rと、押圧輪34とのレイアウトについて説明する。
図2に示すように、センサーローラ16a、植付け爪20L・20R、押圧輪34は、前後方向の同一ライン上に、この順で配置されている。これらの部材が配置されるラインは、本実施の形態では、甘藷挿苗機1の機体中心線と一致しており、前輪2・2の左右中心や後輪3・3の左右中心、エンジンフレーム5やハンドルフレーム6の左右中心部を、通過するものとなっている。
【0053】
また、図2に示すように、センサーローラ16aの左右幅と、押圧輪34の左右幅とが、略同じ長さとなるように、センサーローラ16aおよび押圧輪34は形成されている。
ここで、センサーローラと押圧輪とを同一部材により構成した場合は、必要とされる部品の種類が削減されて、コストダウンに繋がる。
【0054】
本発明の甘藷挿苗機をまとめる。
第一の発明たる甘藷挿苗機は、左右一対の前輪および後輪と、畝高さに応じて上下高さが制御される走行機体と、を備えるものである。
前記走行機体には、甘藷苗を保持可能なベルトを駆動して苗を搬送する苗搬送台と、苗搬送台より苗を引き継ぎ、その苗を掴んだ状態で畝中に突入する往復運動を、走行機体の走行に連動して繰り返す植付け爪と走行機体の後部フレームを兼用するハンドルフレームと、が設けられる。
【0055】
加えて、苗搬送台は、平面視前後方向で後輪と重複もしくは後輪の後方に配置されると共に、その左右両側がそれぞれの後輪よりも外側に突出する構成である。
また、ハンドルフレームは、前後方向で苗搬送台より後方に延出すると共に、左右方向で左右の後輪間に収まるように配置されるものである。
【0056】
本実施の形態では、苗搬送台12は、前後方向では、後輪3・3と重複すると共に、その後端部は後輪3・3よりも後方に突出している。また、苗搬送台12は、左右方向では、左右それぞれの後輪3・3よりも外側に突出するように構成されている。
また、ハンドルフレーム7において、最大限左右に突出するハンドル部7cは、後輪3・3間内に収まっており、ハンドルフレーム7の全体が左右方向で後輪3・3間に位置している。
【0057】
以上構成により、苗搬送台の左右端部の後方に、左右でそれぞれ空きスペースが確保される。
このため、苗搬送台の左右端部の後方に、左右どちらでも作業者が位置することができ、作業者が一人の場合でも二人の場合でも、苗搬送台への苗供給作業を行なうことが可能となり、植付けの作業性が向上する。しかも、このような効果がレイアウト構成のみにより共に実現されるので、コストアップを招くことがない。
【0058】
第二の発明たる甘藷挿苗機は、第一の発明において、次の構成としたものである。
前記植付け爪の畝中突入部は、植付け対象である甘藷苗の土中突入部分の長さより長く形成されると共に、
苗搬送台と、植付け爪を往復運動させる機構とが、ハンドルフレームを挟んで対向する位置に、前記往復運動の経路に苗搬送台が干渉することのないように離間して、配置される。
【0059】
本実施の形態では、植付け爪を往復運動させる機構は、植付け駆動軸25の回転駆動を、植付け爪20L・20Rの往復運動に変換する、爪往復動機構24である。
また、畝中突入部20aは、植付け爪20L(もしくは植付け爪20R)において、二箇所に屈曲の設けられた折れ線状の部分としているが、円弧状に屈曲された部材であっても良い。
【0060】
以上構成により、植付け爪の畝中突入部が、植付け爪の往復運動の経路に沿って移動すると共に、植付け爪を畝中に差し込むだけで、苗を挿入するのに必要なだけの長さを有する植付け穴が形成される。
このため、植付け穴の形成が畝の内部でのみ行なわれて、畝上面を前後方向に切り裂くことがなく、畝上面での植付け穴の開口幅が、最小化される。したがって、苗が露出することなく植付けが確実に行なわれ、植付けの作業性が向上する。
【0061】
第三の発明たる甘藷挿苗機は、第一または第二の発明において、次の構成としたものである。
前記走行機体には、畝上面と接触して畝高さを検出するセンサーローラと、畝上面に当接して植付け爪の突入により形成された植付け穴を塞ぐ押圧輪と、が備えられる。
また、前後方向の同一ライン上に、センサーローラ、前記植付け爪、押圧輪がこの順で配置される。
【0062】
以上構成により、畝上面に左右方向で凹凸があっても、植付け位置の畝高さが正しく検出され、植付けや押圧の高さ位置のズレが発生しない。
このため、植付けミスの発生が防止される。
【0063】
第四の発明たる甘藷挿苗機は、第三の発明において、次の構成としたものである。
前記センサーローラおよび前記押圧輪の左右幅は、略同じ長さとされる。
【0064】
以上構成により、畝上面に左右方向で凹凸があっても、押圧輪で押圧する左右領域における畝高さが、センサーローラにより検出される。
このため、押圧輪による植付け穴を崩すための押圧が適切となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】甘藷挿苗機の全体側面図である。
【図2】甘藷挿苗機の全体平面図である。
【図3】苗搬送台および後輪のレイアウトを示す後面図である。
【図4】植付け装置の構成を示す側面図である。
【図5】地上より見た植付け爪の移動経路を示す側面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 甘藷挿苗機
2 前輪
3 後輪
4 走行機体
7 ハンドルフレーム
12 苗搬送台
16a センサーローラ
20L・20R 植付け爪
20a 畝中突入部
34 押圧輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前輪および後輪と、
畝高さに応じて上下高さが制御される走行機体と、を備え、
前記走行機体には、
甘藷苗を保持可能なベルトを駆動して苗を搬送する苗搬送台と、
苗搬送台より苗を引き継ぎ、その苗を掴んだ状態で畝中に突入する往復運動を、走行機体の走行に連動して繰り返す植付け爪と、
走行機体の後部フレームを兼用するハンドルフレームと、
が設けられる、甘藷挿苗機であって、
苗搬送台は、平面視前後方向で後輪と重複もしくは後輪の後方に配置されると共に、その左右両側はそれぞれの後輪よりも外側に突出し、
ハンドルフレームは、前後方向で苗搬送台より後方に延出すると共に、左右両端は左右の後輪間に収まるように配置される、
ことを特徴とする甘藷挿苗機。
【請求項2】
前記植付け爪の畝中突入部は、植付け対象である甘藷苗の土中突入部分の長さより長く形成されると共に、
苗搬送台と、植付け爪を往復運動させる機構とが、ハンドルフレームを挟んで対向する位置に、前記往復運動の経路に苗搬送台が干渉することのないように離間して、配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の甘藷挿苗機。
【請求項3】
前記走行機体には、
畝上面と接触して畝高さを検出するセンサーローラと、
畝上面に当接して植付け爪の突入により形成された植付け穴を塞ぐ押圧輪と、
が備えられると共に、
前後方向の同一ライン上に、センサーローラ、前記植付け爪、押圧輪がこの順で配置される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の甘藷挿苗機。
【請求項4】
前記センサーローラおよび前記押圧輪の左右幅は、略同じ長さとされる、
ことを特徴とする請求項3に記載の甘藷挿苗機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−129769(P2006−129769A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322084(P2004−322084)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000005164)セイレイ工業株式会社 (125)
【Fターム(参考)】