生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法
【課題】計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とするために、
被検体の計測において、計測前に計測後に予測される計測ノイズを推定し、表示する事を容易に可能とした生体光計測装置を提供する。
【解決手段】被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、あらかじめファントムの計測による計測結果から導き出された受信光量と計測ノイズの関係の情報を用いて、計測後に予測される計測ノイズを計測前に推定する機能を生体光計測装置に有せしめる事。
被検体の計測において、計測前に計測後に予測される計測ノイズを推定し、表示する事を容易に可能とした生体光計測装置を提供する。
【解決手段】被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、あらかじめファントムの計測による計測結果から導き出された受信光量と計測ノイズの関係の情報を用いて、計測後に予測される計測ノイズを計測前に推定する機能を生体光計測装置に有せしめる事。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法に係り、特に、近赤外光を生体に照射し、生体内部を通過或いは生体内部で反射した光を計測し生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を計測するのに適した生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体光計測装置は、生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を、簡便に被検体に対し低拘束で且つ害を与えずに計測できる装置であり、近年、多チャンネル装置による測定データの画像化が実現され、臨床への応用が期待されている。
【0003】
多チャンネルを用いた生体光計測装置に関し、例えば、特許文献1にそのシステム構成が記載されている。生体光計測装置は、被検体の測定準備段階において、ゲイン調整を行ない、その調整結果を表示部に表示する事で、オペレータが光ファイバの設定状態を確認できるゲイン調整機能を備えている。
【0004】
【特許文献1】特許第3599426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の生体光計測装置は、光検出器、ロックインアンプ、アナログ−デジタル変換器、計算機といった構成要素に依存して、受信光量の測定可能な範囲を持つ。ゲイン調整結果によって、各計測チャンネル(Ch)の受信光量が測定可能な範囲内におさまっているかどうかを判定する事が出来る。しかし、受信光量が測定可能な範囲内におさまっている場合でも、計測においては、装置の計測ノイズが重畳する。つまり、ゲイン調整結果を見るだけでは、各計測Chの受信光量が測定可能な範囲内におさまっているかどうかを判別する事のみができ、各計測Chの受信光量が測定可能な範囲内におさまっている場合に、生体光計測装置の計測ノイズがどの程度重畳するかを判別する事が出来ない。
【0006】
このため、上記従来の技術では、被検体の計測前に各計測Chの計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしているかどうかを判別する事ができず、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない場合に、オペレータが光ファイバの設定の改善を計測前に行なう事が考慮されていない。
【0007】
そのため、計測後に、初めて、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない事をオペレータが認識でき、再計測を行なう必要が発生し、オペレータ、被検体に対する大きな負担となっている。
【0008】
そこで本発明は、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とした生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明は、近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置において、ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する計測ノイズ推定部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は以下の様に構成される。まず、事前にファントムを用いて計測を行ない、その計測結果に基づいて受信光量と計測ノイズの関係を導出する。そして、導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定する。計測前に計測後に予測される計測ノイズを推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。
【0012】
以下、本発明の生体光計測装置の具体的な構成について、詳細に説明する。
(本発明が適用される生体光計測装置の概要)
図1は、本発明が適用される生体光計測装置の全体構成の例を説明するための図である。
【0013】
生体光計測装置は、近赤外光を生体内に照射し、生体の表面近傍から反射或いは生体内を通過した光(以下、単に通過光という)を検出し、光の強度に対応する電気信号を発生する装置である。この生体光計測装置は、図1に示すように、近赤外光を照射する光源部101と、通過光を計測し、電気信号に変換する光計測部102と、光源部101及び光計測部102の駆動を制御する制御部103とを備えている。
【0014】
光源部101は、所定の波長の光を放射する半導体レーザ104と、半導体レーザ104が発生する光を複数の異なる周波数で変調するための変調器を備えた複数の光モジュール105とを備え、各光モジュール105の出力光はそれぞれ光ファイバ106を介して被検体107の所定の計測領域、例えば頭部の複数箇所から照射される。光ファイバ106はプローブホルダ108に固定されており、プローブホルダ108が被検体107の測定位置に装着される。
【0015】
光源部101は、n個(nは自然数)の光モジュールを備える。光の波長は生体内の注目物質の分光特性によるが、HbとHbO2 の濃度から酸素飽和度や血液量を計測する場合には600nm〜1400nmの波長範囲の光の中から1あるいは複数波長選択して用いる。
【0016】
さらに、被検体107の近傍には刺激呈示部(図示略)が設置され、制御部103等で生成された所定の刺激が被検体107に提示(表示)される。
【0017】
光計測部102は、計測領域の複数の計測箇所から検出用光ファイバ109を介して誘導された通過光をそれぞれ光量に対応する電気量に変換するフォトダイオード等の光電変換素子110と、光電変換素子110からの電気信号を入力し、光照射位置に対応した変調信号を選択的に検出するロックインアンプ111と、ロックインアンプ111の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器112とからなる。
【0018】
光源部101は、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの2種類の測定対象に対応して2種類の波長、例えば780nm及び830nmの光を発生するように構成され、これら二波長の光は合成され一つの照射位置から照射される。プローブホルダ108は、被検体107の頭部形状に合わせて光照射位置及び光検出位置が所定の間隔で正方格子状に配列されており、それぞれ隣接する光照射位置と光検出位置との中間位置である計測位置(測定チャンネルCh)において、被検体107の脳に対する刺激が加えられていない時と脳に刺激が加えられている時との酸素化ヘモグロビン濃度変化及び脱酸素化ヘモグロビン濃度変化並びにヘモグロビン濃度総量の変化を求める。すなわち、ロックインアンプ111は、光照射位置とこれら二波長に対応した変調信号を選択的に検出する。光照射位置と検出位置との間の点(計測点)の数の2倍のチャンネル数のヘモグロビン量変化信号が得られる。
【0019】
生体光計測装置は、さらに、信号処理部113と、信号処理部113の処理結果などを表示する表示部114と、信号処理部113の処理に必要なデータや処理結果を記憶するための記憶部115と、装置の動作に必要な種々の指令を入力するための入出力部116を備えている。信号処理部113は、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量変化信号を処理し、酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の二次元画像上にプロットした画像を作成する。すなわち、制御部103や信号処理部113は、CPU、メモリ、ソフトウェア等により実現にされる各種の演算処理機能や画像処理表示機能を有している。演算処理機能により、例えば、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量の変化信号を処理する。この処理された情報に基づいて、信号処理部113で酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の2次元画像上にプロットした画像を作成する。この信号処理部113の処理結果は、表示部114に表示される。入出力部116は、計測者が装置の動作に必要な種々の指令を入力したり、測定結果や処理結果を出力するため機能を備えている。なお、表示部114の表示画面はグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)機能を有し、使用者が表示画面上のアイコンや特定の表示位置をマウスなどで操作することで各種の測定や処理に必要な指令や座標位置等の情報を入力するための入出力部としても機能する。表示部114の画面は選択されたモ−ドに対応したものとなる。
【実施例1】
【0020】
図2に、本発明の生体光計測装置100の制御部103が備える主な機能を示す。制御部103はプローブホルダ108の各測定チャンネルChのゲイン調整を行うゲイン調整部1031、生体光計測装置による計測ノイズを推定する計測ノイズ推定部1032、各測定Chの受光量を計測する受光量計測処理部1033、被検体に対する刺激呈示の処理を制御する刺激呈示処理部1034、計測ノイズと所定値の閾値との比較・表示を行う、計測ノイズの比較・表示処理部1035、プローブホルダ108を用いて計測されたヘモグロビン変化量の計算処理を行うヘモグロビン変化量の計算処理部1036、このヘモグロビン変化量計算処理部1036の計測結果に基き、ヘモグロビン変化量や受信光量計測結果の時間変化の波形をチャンネル毎に示すグラフを生成するグラフ生成部1037、被検体の計測結果に基づきトポグラフィ像を生成するトポグラフィ像生成部1038、トポグラフィ像と頭部画像の重ね合わせ画像を生成し表示を行うための表示処理部1039等を備えている。
【0021】
なお、本発明の生体光計測装置100が備える上記主な機能は、ソフトウェアを用いて制御部103や表示部114等の全体で実現されるものであり、図2に示したブロック構成に限定されるものではない。
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態を、図3乃至図7を用いて説明する。図3は、被検体の計測の事前準備において本発明の第一の実施例を適用した例を説明するフローチャートである。以下、図3のフローチャートにより、被検体の計測の事前準備において第一の実施例を適用した例における、制御部103の各部の動作を説明する。
まず、被検体の計測の事前準備時に、被検体107へのプローブホルダ108の取り付け後、ゲイン調整部1031によりゲイン調整(S201)を行なう。なお、各Chの受光量計測処理、計測ノイズ推定部1032による計測ノイズの推定処理、及びゲイン調整等については後で詳細に述べる。
【0023】
次に、ゲイン調整の結果から、各Chの受信光量の算出(S202)を行なう。そして、あらかじめ、ファントムを用いて計測された計測結果(S203)から導出された受信光量と装置による計測ノイズの関係(S204)の情報を用いて、装置による計測ノイズの推定(S205)を行なう。
【0024】
そして、計測ノイズの比較・表示処理部1035で、推定された計測ノイズとオペレータにより指定された計測ノイズ値との比較(S206)を行ない、計測ノイズの推定結果及び指定の計測ノイズ値(閾値)との比較結果を表示部114に表示することで、オペレータに対し、ゲイン調整の結果と併せて予め推定される計測ノイズのレベルを呈示する。(S207)オペレータは呈示された情報を基に問題の有無を判断し、問題なしと判断した場合には計測(S208)を行ない、計測ノイズのレベルに関して問題のあるChがあると判断した場合には、ファイバ設定の改善(S209)を行ない、再度ゲイン調整(S201)に戻り、操作を進める。
【0025】
(ゲイン調整)
本発明の背景となるゲイン調整に関し、図4を用いて説明し、受信光量の算出の方法を説明する。図4は、ゲイン調整及び受信光量の算出方法(図3のS202)の詳細を説明するための図である。
【0026】
図4において、光電変換素子(110)に対し検出用光ファイバ(109)を通して入射された光(301)はその光量に応じた電圧信号に変換される。変換された電圧信号がロックインアンプモジュール(111)を通った後、A/D変換器(112)により、デジタル信号に変換され、制御部103への入力電圧値(303)として、制御部(103)に入力される。制御部への入力電圧値(303)が制御部(103)に入力可能な範囲に収まるよう、ゲイン調整部(302)により、ゲイン調整が行なわれる。
【0027】
ゲイン調整後の制御部103への入力電圧値(303)が一定となるようゲイン調整が行なわれるので、
ゲイン:G[倍]
ゲイン調整後の制御部への入力電圧値:Vg[V]
光電変換素子の光電変換係数:K[W/V]
とすると、式(1)により受信光量を求める事が出来る。
【0028】
【数1】
表示部114でゲイン調整モードを選択することによって、表示部114の画面に、照射用光ファイバ及び検出用光ファイバ106、109の配列位置と、隣接される光ファイバ間に設定される通過光強度の計測位置とが表示される。生体光計測装置での計測は、計測プローブが生体表面に正常に接触されているかを確認するモードと同じ、照射用及び検出用光ファイバ106,109の検出光の信号レベルを確認し、必要に応じて表示部114のゲイン調整中表示画面を呼び出し、ゲインGを変更する調整を行う。
【0029】
図5は、ゲイン調整時の表示部114の画面を示している。501は選択された計測モ−ドを表示する部分であり、表示される計測位置表示画面は選択された計測モ−ドに対応したものとなる。502は計測面の計測チャンネルの数を表示する部分である。503は照射用及び検出用光ファイバの設定位置、すなわち光照射位置及び検出位置を表す。504は計測チャンネルの番号を表し、自動ゲイン(及び照射光量)調整がうまくいった場合は、計測チャンネルが緑色で表示される。
【0030】
ゲイン調整がうまくいかなかったために計測することが不適切な計測チャンネルが1つでもある場合は、その計測チャンネルは赤色で表示される。ゲイン調整がうまくいかない場合は、赤色表示の左右又は上下の計測位置に問題がある可能性があることを意味する。赤色表示の場合は、光ファイバの設定が悪いためと考えられるので、光ファイバの設定のし直しが必要である。ゲイン調整後、再度異常がある場合には表示部114のゲイン調整中表示画面を消去し、再度図5に示される計測位置表示画面の異常計測チャンネルを赤色表示し、異常が生じない場合には、図5に示される計測位置表示画面中の全計測チャンネルが緑色表示に変わる。
(受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係)
次に、本発明の背景となる受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係を、図6を用いて説明する。
【0031】
ゲイン調整部の調整可能なゲインの範囲と制御部(103)に入力可能な入力電圧値の範囲から、生体光計測装置100が計測可能な受信光量の範囲は限定され、受信光量が大き過ぎる領域1(402)及び受信光量が小さ過ぎる領域3(404)の計測を行なう事は出来ない。装置が計測可能な受信光量の範囲は領域2(403)となる。
【0032】
次に、生体光計測装置により発生する計測ノイズに関し、述べる。
生体光計測装置の回路上の諸所でノイズが発生し、これを全て把握する事は困難であるが、生体光計測装置により発生する計測ノイズは、一般的に受信した光信号に対し、加法的に重畳するので、定性的には、受信光量が大きくなると、装置による計測ノイズは相対的に小さくなり、結果として、装置によるノイズから発生するHb信号上の計測ノイズは小さくなる。
【0033】
よって、図6において、生体光計測装置が計測可能な受信光量の範囲である領域2(403)においても、受信光量が大きいと装置による計測ノイズ(405)が小さくなり、受信光量が小さいと装置による計測ノイズ(405)が大きくなる。
【0034】
オペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を設定すると、生体光計測装置が計測可能な受信光量の範囲である領域2(403)は、オペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を満たした領域2A(407)とオペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を満たさない領域2B(408)に分かれる。これらの情報は、表示画面114に表示される。
【0035】
なお、上記2つの領域の弁別はゲイン調整結果だけでは出来ず、受信光量と装置により計測ノイズの関係の情報が必要となる。
(受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出)
次に、受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出手順を、図7を用いて説明する。本実施例においては、695nm及び830nmの2波長の光を用いる。
【0036】
まず、ファントムを用いて装置による計測ノイズの計測を行なう(S203)。
ファントムを用いた計測結果例のグラフはそれぞれ、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化(1501)、脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化(1502)を示している。各々のグラフにおいて、横軸が時間、縦軸がヘモグロビン変化量となる。計測対象がファントムであるので、装置による計測ノイズの計測結果となる。適当な時間の計測を行ない、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求め、それを計測ノイズの指標とする。吸光係数の異なるファントムを用いたり、送信光量を変化させたりする事で、種々の受信光量における装置による計測ノイズの計測を行なう。
【0037】
酸素化ヘモグロビン濃度変化量の計測ノイズの計測結果例(1503)と脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の計測ノイズの計測結果例(1504)はグラフに示す通りである。グラフ下部の平面上における2軸が各波長における受信光量を示し、グラフの縦軸がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
以上の計測結果が、ファントムを用いた計測結果(S203)となる。
【0038】
次に、受信光量と装置による計測のノイズの関係を求める(S204)ために、各波長における受信光量と計測ノイズの指標としたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を求める(S2041)。
【0039】
ファントムを用いた計測結果から得た、各波長における受信光量とヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値に対し、適当な補間計算を行ない、現在対象とする受信光量、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の区間における補間データを得る(S2042)。
【0040】
補間の計算方法としては、3次元のデータ補間方法を用いればよく、例えば、線形補間、キュービック補間などがある。本実施例では、単純に最近傍点による補間を行なう。
【0041】
最近傍点による補間の具体的な計算方法を示す。各波長における受信光量とヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測結果のN点の組を下記のように表記する。
【0042】
【数2】
ある受信光量の組Px,Pyにおける酸素化及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間値(式(3))を求めるには、以下の式(4)の計算を行なう。
【0043】
【数3】
そして、Ljが最小となる受信光量の組PxJ,Py,Jにおける酸素化及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測値を用いて、次式(5)として、補間値を求める。
【0044】
【数4】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果(1505)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果(1506)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0045】
そして、次に、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測結果自体に若干の計測誤差が発生している事を考慮して、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果に対し、移動平均を施す(S2043)。
【0046】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果(1507)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果(1508)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0047】
更に、定性的には受信光量が増加すると計測ノイズが増加するという前提知識を考慮してモデルを立て、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果に対して当てはめる(S2044)。本実施例では例えば、以下の式(6)を用いる。
【0048】
【数5】
次数Mは本実施例では5とした。
【0049】
ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果を用いて、モデル式の係数を推定する。
【0050】
ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果のT点の組を以下の式(7)ように表記する。ただし、M<Tとする。
【0051】
【数6】
このヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果を用いて、係数(式(8))の推定を、以下の式(9)のように行なう。
【0052】
【数7】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値のモデル化計算結果(1509)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値のモデル化計算結果(1510)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0053】
以上により、受信光量と装置による計測ノイズの関係が導出できる。ただし、移動平均及びモデル化の計算はファントムを用いて装置による計測ノイズの計測点数が十分にあり、計測誤差が十分に小さい場合には省略する事も可能である。
【0054】
本実施例によれば、ファントムを用いた計測結果から導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。これにより、再計測を行なう必要の発生が無くなり、オペレータ、被検体に対する負担を大きく低減できる。
【0055】
また、診断や研究に有用な情報を簡便かつ合理的に提供する事ができる、生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法を提供することができる。
(時間周波数フィルタ使用した上での第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態において、オペレータが、例えば時間周波数フィルタを用いた後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を用いて、許容する計測ノイズの指定を行いたい場合もあるので、その実現方法について、触れておく。
【0056】
この場合には、ファントムを用いた計測結果(S203)に対し、あらかじめ、オペレータが所望の時間周波数フィルタを施した後、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求め、その計算結果を用いて、受信光量と計測ノイズの関係(S204)を導出しておく事で、先に説明した第1の実施形態を用いて、オペレータが、時間周波数フィルタを用いた後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を用いて、許容する計測ノイズの指定を行う事が可能となる。
【実施例2】
【0057】
次に、本発明の第2の実施形態の概要を、図8を用いて説明する。なお、本実施例では、装置の計測のサンプリング周波数を10Hzとした。本実施例では、生体光計測装置による計測ノイズ推定部1032の処理で、ファントムを用いた計測結果から導き出される計測ノイズの周波数特性を用いる。
【0058】
すなわち、被検体の計測の事前準備時に、被検体へのプローブホルダ108の取り付け後、ゲイン調整(S601)を行なう。ゲイン調整後、計測の事前準備の一つとして被検体の短時間の事前計測(S602)を行なう。本実施例では10秒間の事前計測を行なう。
【0059】
そして、この事前計測の結果と、あらかじめ、ファントムを用いて計測された計測結果(S603)から導出された装置による計測ノイズの周波数特性(S604)の情報を用いて、装置による計測ノイズの推定(S605)を行なう。
そして、推定された計測ノイズとオペレータにより指定された計測ノイズ値との比較(S606)を行ない、計測ノイズの推定結果及び指定の計測ノイズ値との比較結果をオペレータに対し、ゲイン調整の結果と併せて呈示する(S607)。
【0060】
オペレータは呈示された情報を基に問題の有無を判断し、問題なしと判断した場合には計測(S608)を行ない、問題のあるChがあると判断した場合には、ファイバ設定の改善(S609)を行ない、再度ゲイン調整(S601)に戻り、操作を進める。
【0061】
計測の事前準備の一つとして短時間の事前計測(S602)を行なう点と、ファントムを用いて計測された計測結果(S603)から導出される装置による計測ノイズの周波数特性(S604)を用いる点が、第1の実施形態と異なる点となる。
【0062】
計測ノイズの周波数特性(S604)を導出する手順及び装置による計測ノイズの推定(S605)の方法を説明する前に、その前提として、計測結果中に含まれると想定される成分とその周波数領域に関し、図9を用いて説明する。
【0063】
図9に示すように、被検体の計測結果には、生体信号と装置による計測ノイズが含まれ、ファントムの計測結果には装置による計測ノイズが含まれると想定される。生体信号には計測の目的とする生体信号と計測の目的としない生体により発生する計測ノイズが含まれる。
【0064】
よって、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果のみから、装置による計測ノイズのみを推定する事は困難である。
【0065】
ただし、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果に対し、適当な周波数のハイパスフィルタを施す事で、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果中に含まれる装置による計測ノイズの高周波成分の部分のみを抽出する事は可能である。
【0066】
そこで、図10に示す手順で、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果中に含まれる装置による計測ノイズの推定を行なう。
【0067】
被検体の事前計測結果(S801)に対し、適当な周波数のハイパスフィルタ(S802)を施し、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)を得る。ハイパスフィルタ(S802)の周波数として、本実施例では3Hzを用いる。
【0068】
被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)には、装置による計測ノイズのみが含まれると考え、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求める事で、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズの高周波成分(S804)を推定する。ファントムによる計測結果(S805)から導出された装置による計測ノイズの周波数特性(S806)が下式(10)のように分かる。
【0069】
【数8】
この装置による計測ノイズの周波数特性(S806)を用いて、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)のヘモグロビン変化量の時間変化の標準偏差値から、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズのヘモグロビン変化量の時間変化の標準偏差値を求める事で、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズ(S806)を推定する。
【0070】
次に、ファントムによる計測結果(S805)から装置による計測ノイズの周波数特性(S806)を導出する方法を、図11を用いて説明する。図11はファントムによる計測結果(S805)から求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値と、ファントムによる計測結果(S805)にハイパスフィルタを施した後、求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を示す。
【0071】
各グラフの横軸がファントムによる計測結果(S805)から求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値であり、縦軸がファントムによる計測結果(S805)にハイパスフィルタを施した後、求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値となる。標準偏差値の単位はmMol/l・mmとなる。
【0072】
この標準偏差値のN組のデータを下記式(11)のように表記する。
【0073】
【数9】
この標準偏差値のN組のデータに対し、適当なモデル式を仮定する。本実施例では例えば、下式(12)を仮定する。
【0074】
【数10】
そして、標準偏差値のN組のデータを用いて、係数(式(13))の推定を下式(14)の通りに行なう。
【0075】
【数11】
本実施例においては、装置による計測ノイズの周波数特性(S806)が単純な特性を有しているが、装置による計測ノイズの周波数特性(S806)複雑な特性を有している場合には、上記のモデル式を対応した式に変更する事で、周波数特性を求める。
【0076】
本実施例によれば、ファントムを用いた計測結果から導出された計測ノイズの周波数特性に基づき、被検体の計測において、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。これにより、再計測を行なう必要の発生が無くなり、オペレータ、被検体に対する負担を大きく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明が適用される生体光計測装置の全体構成の例を説明するための図である。
【図2】本発明の生体光計測装置の制御部が備える主な機能を示す図である。
【図3】被検体の計測の事前準備において本発明の第一の実施例を適用した例を説明するためのフローチャートである。
【図4】第一の実施例のゲイン調整及び受信光量の算出方法を説明するための図である。
【図5】第一の実施例における、ゲイン調整時の表示部の画面を示している。
【図6】第一の実施例における、受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係を説明するための図である。
【図7】第一の実施例における、受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出手順を説明するための図である。
【図8】被検体の計測の事前準備において本発明の第二の実施例を適用したフローチャートを説明するための図である。
【図9】第二の実施例における、計測結果中に含まれると想定される成分とその周波数領域を説明するための図である。
【図10】第二の実施例における、事前計測結果からの装置による計測ノイズの推定の手順を説明するための図である。
【図11】第二の実施例における、ファントムによる計測結果に対しフィルタ処理を施した前後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
101…光源部、102…光計測部、103…制御部、104…半導体レーザ、105…光モジュール、106…光ファイバ、107…被検体、108…プローブホルダ、109…検出用光ファイバ、110…光電変換素子、111…ロックインアンプ、112…A/D変換器、113…信号処理部、114…表示部、115…記憶部、116…入出力部、S201〜S209…本発明の信号処理のフローチャートの説明、1031…ゲイン調整部、1032…計測ノイズ推定部、1033…各Chの受光量の計測処理部、1034…刺激呈示処理部、1035…計測ノイズの比較・表示処理部、1036…ヘモグロビン変化量、計算処理部、1037…ヘモグロビン変化量、受信光量計測結果の時間変化波形のグラフ生成部、1038…被検体の計測結果に基くトポグラフィ像生成部、1039…トポグラフィ像と頭部画像の重ね合わせ表示処理部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法に係り、特に、近赤外光を生体に照射し、生体内部を通過或いは生体内部で反射した光を計測し生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を計測するのに適した生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体光計測装置は、生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を、簡便に被検体に対し低拘束で且つ害を与えずに計測できる装置であり、近年、多チャンネル装置による測定データの画像化が実現され、臨床への応用が期待されている。
【0003】
多チャンネルを用いた生体光計測装置に関し、例えば、特許文献1にそのシステム構成が記載されている。生体光計測装置は、被検体の測定準備段階において、ゲイン調整を行ない、その調整結果を表示部に表示する事で、オペレータが光ファイバの設定状態を確認できるゲイン調整機能を備えている。
【0004】
【特許文献1】特許第3599426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の生体光計測装置は、光検出器、ロックインアンプ、アナログ−デジタル変換器、計算機といった構成要素に依存して、受信光量の測定可能な範囲を持つ。ゲイン調整結果によって、各計測チャンネル(Ch)の受信光量が測定可能な範囲内におさまっているかどうかを判定する事が出来る。しかし、受信光量が測定可能な範囲内におさまっている場合でも、計測においては、装置の計測ノイズが重畳する。つまり、ゲイン調整結果を見るだけでは、各計測Chの受信光量が測定可能な範囲内におさまっているかどうかを判別する事のみができ、各計測Chの受信光量が測定可能な範囲内におさまっている場合に、生体光計測装置の計測ノイズがどの程度重畳するかを判別する事が出来ない。
【0006】
このため、上記従来の技術では、被検体の計測前に各計測Chの計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしているかどうかを判別する事ができず、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない場合に、オペレータが光ファイバの設定の改善を計測前に行なう事が考慮されていない。
【0007】
そのため、計測後に、初めて、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない事をオペレータが認識でき、再計測を行なう必要が発生し、オペレータ、被検体に対する大きな負担となっている。
【0008】
そこで本発明は、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とした生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明は、近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置において、ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する計測ノイズ推定部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は以下の様に構成される。まず、事前にファントムを用いて計測を行ない、その計測結果に基づいて受信光量と計測ノイズの関係を導出する。そして、導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定する。計測前に計測後に予測される計測ノイズを推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。
【0012】
以下、本発明の生体光計測装置の具体的な構成について、詳細に説明する。
(本発明が適用される生体光計測装置の概要)
図1は、本発明が適用される生体光計測装置の全体構成の例を説明するための図である。
【0013】
生体光計測装置は、近赤外光を生体内に照射し、生体の表面近傍から反射或いは生体内を通過した光(以下、単に通過光という)を検出し、光の強度に対応する電気信号を発生する装置である。この生体光計測装置は、図1に示すように、近赤外光を照射する光源部101と、通過光を計測し、電気信号に変換する光計測部102と、光源部101及び光計測部102の駆動を制御する制御部103とを備えている。
【0014】
光源部101は、所定の波長の光を放射する半導体レーザ104と、半導体レーザ104が発生する光を複数の異なる周波数で変調するための変調器を備えた複数の光モジュール105とを備え、各光モジュール105の出力光はそれぞれ光ファイバ106を介して被検体107の所定の計測領域、例えば頭部の複数箇所から照射される。光ファイバ106はプローブホルダ108に固定されており、プローブホルダ108が被検体107の測定位置に装着される。
【0015】
光源部101は、n個(nは自然数)の光モジュールを備える。光の波長は生体内の注目物質の分光特性によるが、HbとHbO2 の濃度から酸素飽和度や血液量を計測する場合には600nm〜1400nmの波長範囲の光の中から1あるいは複数波長選択して用いる。
【0016】
さらに、被検体107の近傍には刺激呈示部(図示略)が設置され、制御部103等で生成された所定の刺激が被検体107に提示(表示)される。
【0017】
光計測部102は、計測領域の複数の計測箇所から検出用光ファイバ109を介して誘導された通過光をそれぞれ光量に対応する電気量に変換するフォトダイオード等の光電変換素子110と、光電変換素子110からの電気信号を入力し、光照射位置に対応した変調信号を選択的に検出するロックインアンプ111と、ロックインアンプ111の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器112とからなる。
【0018】
光源部101は、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの2種類の測定対象に対応して2種類の波長、例えば780nm及び830nmの光を発生するように構成され、これら二波長の光は合成され一つの照射位置から照射される。プローブホルダ108は、被検体107の頭部形状に合わせて光照射位置及び光検出位置が所定の間隔で正方格子状に配列されており、それぞれ隣接する光照射位置と光検出位置との中間位置である計測位置(測定チャンネルCh)において、被検体107の脳に対する刺激が加えられていない時と脳に刺激が加えられている時との酸素化ヘモグロビン濃度変化及び脱酸素化ヘモグロビン濃度変化並びにヘモグロビン濃度総量の変化を求める。すなわち、ロックインアンプ111は、光照射位置とこれら二波長に対応した変調信号を選択的に検出する。光照射位置と検出位置との間の点(計測点)の数の2倍のチャンネル数のヘモグロビン量変化信号が得られる。
【0019】
生体光計測装置は、さらに、信号処理部113と、信号処理部113の処理結果などを表示する表示部114と、信号処理部113の処理に必要なデータや処理結果を記憶するための記憶部115と、装置の動作に必要な種々の指令を入力するための入出力部116を備えている。信号処理部113は、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量変化信号を処理し、酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の二次元画像上にプロットした画像を作成する。すなわち、制御部103や信号処理部113は、CPU、メモリ、ソフトウェア等により実現にされる各種の演算処理機能や画像処理表示機能を有している。演算処理機能により、例えば、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量の変化信号を処理する。この処理された情報に基づいて、信号処理部113で酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の2次元画像上にプロットした画像を作成する。この信号処理部113の処理結果は、表示部114に表示される。入出力部116は、計測者が装置の動作に必要な種々の指令を入力したり、測定結果や処理結果を出力するため機能を備えている。なお、表示部114の表示画面はグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)機能を有し、使用者が表示画面上のアイコンや特定の表示位置をマウスなどで操作することで各種の測定や処理に必要な指令や座標位置等の情報を入力するための入出力部としても機能する。表示部114の画面は選択されたモ−ドに対応したものとなる。
【実施例1】
【0020】
図2に、本発明の生体光計測装置100の制御部103が備える主な機能を示す。制御部103はプローブホルダ108の各測定チャンネルChのゲイン調整を行うゲイン調整部1031、生体光計測装置による計測ノイズを推定する計測ノイズ推定部1032、各測定Chの受光量を計測する受光量計測処理部1033、被検体に対する刺激呈示の処理を制御する刺激呈示処理部1034、計測ノイズと所定値の閾値との比較・表示を行う、計測ノイズの比較・表示処理部1035、プローブホルダ108を用いて計測されたヘモグロビン変化量の計算処理を行うヘモグロビン変化量の計算処理部1036、このヘモグロビン変化量計算処理部1036の計測結果に基き、ヘモグロビン変化量や受信光量計測結果の時間変化の波形をチャンネル毎に示すグラフを生成するグラフ生成部1037、被検体の計測結果に基づきトポグラフィ像を生成するトポグラフィ像生成部1038、トポグラフィ像と頭部画像の重ね合わせ画像を生成し表示を行うための表示処理部1039等を備えている。
【0021】
なお、本発明の生体光計測装置100が備える上記主な機能は、ソフトウェアを用いて制御部103や表示部114等の全体で実現されるものであり、図2に示したブロック構成に限定されるものではない。
【0022】
次に、本発明の第1の実施形態を、図3乃至図7を用いて説明する。図3は、被検体の計測の事前準備において本発明の第一の実施例を適用した例を説明するフローチャートである。以下、図3のフローチャートにより、被検体の計測の事前準備において第一の実施例を適用した例における、制御部103の各部の動作を説明する。
まず、被検体の計測の事前準備時に、被検体107へのプローブホルダ108の取り付け後、ゲイン調整部1031によりゲイン調整(S201)を行なう。なお、各Chの受光量計測処理、計測ノイズ推定部1032による計測ノイズの推定処理、及びゲイン調整等については後で詳細に述べる。
【0023】
次に、ゲイン調整の結果から、各Chの受信光量の算出(S202)を行なう。そして、あらかじめ、ファントムを用いて計測された計測結果(S203)から導出された受信光量と装置による計測ノイズの関係(S204)の情報を用いて、装置による計測ノイズの推定(S205)を行なう。
【0024】
そして、計測ノイズの比較・表示処理部1035で、推定された計測ノイズとオペレータにより指定された計測ノイズ値との比較(S206)を行ない、計測ノイズの推定結果及び指定の計測ノイズ値(閾値)との比較結果を表示部114に表示することで、オペレータに対し、ゲイン調整の結果と併せて予め推定される計測ノイズのレベルを呈示する。(S207)オペレータは呈示された情報を基に問題の有無を判断し、問題なしと判断した場合には計測(S208)を行ない、計測ノイズのレベルに関して問題のあるChがあると判断した場合には、ファイバ設定の改善(S209)を行ない、再度ゲイン調整(S201)に戻り、操作を進める。
【0025】
(ゲイン調整)
本発明の背景となるゲイン調整に関し、図4を用いて説明し、受信光量の算出の方法を説明する。図4は、ゲイン調整及び受信光量の算出方法(図3のS202)の詳細を説明するための図である。
【0026】
図4において、光電変換素子(110)に対し検出用光ファイバ(109)を通して入射された光(301)はその光量に応じた電圧信号に変換される。変換された電圧信号がロックインアンプモジュール(111)を通った後、A/D変換器(112)により、デジタル信号に変換され、制御部103への入力電圧値(303)として、制御部(103)に入力される。制御部への入力電圧値(303)が制御部(103)に入力可能な範囲に収まるよう、ゲイン調整部(302)により、ゲイン調整が行なわれる。
【0027】
ゲイン調整後の制御部103への入力電圧値(303)が一定となるようゲイン調整が行なわれるので、
ゲイン:G[倍]
ゲイン調整後の制御部への入力電圧値:Vg[V]
光電変換素子の光電変換係数:K[W/V]
とすると、式(1)により受信光量を求める事が出来る。
【0028】
【数1】
表示部114でゲイン調整モードを選択することによって、表示部114の画面に、照射用光ファイバ及び検出用光ファイバ106、109の配列位置と、隣接される光ファイバ間に設定される通過光強度の計測位置とが表示される。生体光計測装置での計測は、計測プローブが生体表面に正常に接触されているかを確認するモードと同じ、照射用及び検出用光ファイバ106,109の検出光の信号レベルを確認し、必要に応じて表示部114のゲイン調整中表示画面を呼び出し、ゲインGを変更する調整を行う。
【0029】
図5は、ゲイン調整時の表示部114の画面を示している。501は選択された計測モ−ドを表示する部分であり、表示される計測位置表示画面は選択された計測モ−ドに対応したものとなる。502は計測面の計測チャンネルの数を表示する部分である。503は照射用及び検出用光ファイバの設定位置、すなわち光照射位置及び検出位置を表す。504は計測チャンネルの番号を表し、自動ゲイン(及び照射光量)調整がうまくいった場合は、計測チャンネルが緑色で表示される。
【0030】
ゲイン調整がうまくいかなかったために計測することが不適切な計測チャンネルが1つでもある場合は、その計測チャンネルは赤色で表示される。ゲイン調整がうまくいかない場合は、赤色表示の左右又は上下の計測位置に問題がある可能性があることを意味する。赤色表示の場合は、光ファイバの設定が悪いためと考えられるので、光ファイバの設定のし直しが必要である。ゲイン調整後、再度異常がある場合には表示部114のゲイン調整中表示画面を消去し、再度図5に示される計測位置表示画面の異常計測チャンネルを赤色表示し、異常が生じない場合には、図5に示される計測位置表示画面中の全計測チャンネルが緑色表示に変わる。
(受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係)
次に、本発明の背景となる受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係を、図6を用いて説明する。
【0031】
ゲイン調整部の調整可能なゲインの範囲と制御部(103)に入力可能な入力電圧値の範囲から、生体光計測装置100が計測可能な受信光量の範囲は限定され、受信光量が大き過ぎる領域1(402)及び受信光量が小さ過ぎる領域3(404)の計測を行なう事は出来ない。装置が計測可能な受信光量の範囲は領域2(403)となる。
【0032】
次に、生体光計測装置により発生する計測ノイズに関し、述べる。
生体光計測装置の回路上の諸所でノイズが発生し、これを全て把握する事は困難であるが、生体光計測装置により発生する計測ノイズは、一般的に受信した光信号に対し、加法的に重畳するので、定性的には、受信光量が大きくなると、装置による計測ノイズは相対的に小さくなり、結果として、装置によるノイズから発生するHb信号上の計測ノイズは小さくなる。
【0033】
よって、図6において、生体光計測装置が計測可能な受信光量の範囲である領域2(403)においても、受信光量が大きいと装置による計測ノイズ(405)が小さくなり、受信光量が小さいと装置による計測ノイズ(405)が大きくなる。
【0034】
オペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を設定すると、生体光計測装置が計測可能な受信光量の範囲である領域2(403)は、オペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を満たした領域2A(407)とオペレータが所望する計測ノイズの閾値レベル(406)を満たさない領域2B(408)に分かれる。これらの情報は、表示画面114に表示される。
【0035】
なお、上記2つの領域の弁別はゲイン調整結果だけでは出来ず、受信光量と装置により計測ノイズの関係の情報が必要となる。
(受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出)
次に、受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出手順を、図7を用いて説明する。本実施例においては、695nm及び830nmの2波長の光を用いる。
【0036】
まず、ファントムを用いて装置による計測ノイズの計測を行なう(S203)。
ファントムを用いた計測結果例のグラフはそれぞれ、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化(1501)、脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化(1502)を示している。各々のグラフにおいて、横軸が時間、縦軸がヘモグロビン変化量となる。計測対象がファントムであるので、装置による計測ノイズの計測結果となる。適当な時間の計測を行ない、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求め、それを計測ノイズの指標とする。吸光係数の異なるファントムを用いたり、送信光量を変化させたりする事で、種々の受信光量における装置による計測ノイズの計測を行なう。
【0037】
酸素化ヘモグロビン濃度変化量の計測ノイズの計測結果例(1503)と脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の計測ノイズの計測結果例(1504)はグラフに示す通りである。グラフ下部の平面上における2軸が各波長における受信光量を示し、グラフの縦軸がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
以上の計測結果が、ファントムを用いた計測結果(S203)となる。
【0038】
次に、受信光量と装置による計測のノイズの関係を求める(S204)ために、各波長における受信光量と計測ノイズの指標としたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を求める(S2041)。
【0039】
ファントムを用いた計測結果から得た、各波長における受信光量とヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値に対し、適当な補間計算を行ない、現在対象とする受信光量、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の区間における補間データを得る(S2042)。
【0040】
補間の計算方法としては、3次元のデータ補間方法を用いればよく、例えば、線形補間、キュービック補間などがある。本実施例では、単純に最近傍点による補間を行なう。
【0041】
最近傍点による補間の具体的な計算方法を示す。各波長における受信光量とヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測結果のN点の組を下記のように表記する。
【0042】
【数2】
ある受信光量の組Px,Pyにおける酸素化及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間値(式(3))を求めるには、以下の式(4)の計算を行なう。
【0043】
【数3】
そして、Ljが最小となる受信光量の組PxJ,Py,Jにおける酸素化及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測値を用いて、次式(5)として、補間値を求める。
【0044】
【数4】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果(1505)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果(1506)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0045】
そして、次に、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の計測結果自体に若干の計測誤差が発生している事を考慮して、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の補間計算結果に対し、移動平均を施す(S2043)。
【0046】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果(1507)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果(1508)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0047】
更に、定性的には受信光量が増加すると計測ノイズが増加するという前提知識を考慮してモデルを立て、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果に対して当てはめる(S2044)。本実施例では例えば、以下の式(6)を用いる。
【0048】
【数5】
次数Mは本実施例では5とした。
【0049】
ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果を用いて、モデル式の係数を推定する。
【0050】
ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果のT点の組を以下の式(7)ように表記する。ただし、M<Tとする。
【0051】
【数6】
このヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の移動平均計算結果を用いて、係数(式(8))の推定を、以下の式(9)のように行なう。
【0052】
【数7】
図7に、酸素化ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値のモデル化計算結果(1509)及び脱酸素化(還元)ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値のモデル化計算結果(1510)を示した。縦軸、横軸が各波長の受信光量を示し、白黒の濃淡がヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を示す。
【0053】
以上により、受信光量と装置による計測ノイズの関係が導出できる。ただし、移動平均及びモデル化の計算はファントムを用いて装置による計測ノイズの計測点数が十分にあり、計測誤差が十分に小さい場合には省略する事も可能である。
【0054】
本実施例によれば、ファントムを用いた計測結果から導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、被検体の計測において、計測前に得られる受信光量から、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。これにより、再計測を行なう必要の発生が無くなり、オペレータ、被検体に対する負担を大きく低減できる。
【0055】
また、診断や研究に有用な情報を簡便かつ合理的に提供する事ができる、生体光計測装置及び計測ノイズの推定方法を提供することができる。
(時間周波数フィルタ使用した上での第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態において、オペレータが、例えば時間周波数フィルタを用いた後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を用いて、許容する計測ノイズの指定を行いたい場合もあるので、その実現方法について、触れておく。
【0056】
この場合には、ファントムを用いた計測結果(S203)に対し、あらかじめ、オペレータが所望の時間周波数フィルタを施した後、ヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求め、その計算結果を用いて、受信光量と計測ノイズの関係(S204)を導出しておく事で、先に説明した第1の実施形態を用いて、オペレータが、時間周波数フィルタを用いた後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を用いて、許容する計測ノイズの指定を行う事が可能となる。
【実施例2】
【0057】
次に、本発明の第2の実施形態の概要を、図8を用いて説明する。なお、本実施例では、装置の計測のサンプリング周波数を10Hzとした。本実施例では、生体光計測装置による計測ノイズ推定部1032の処理で、ファントムを用いた計測結果から導き出される計測ノイズの周波数特性を用いる。
【0058】
すなわち、被検体の計測の事前準備時に、被検体へのプローブホルダ108の取り付け後、ゲイン調整(S601)を行なう。ゲイン調整後、計測の事前準備の一つとして被検体の短時間の事前計測(S602)を行なう。本実施例では10秒間の事前計測を行なう。
【0059】
そして、この事前計測の結果と、あらかじめ、ファントムを用いて計測された計測結果(S603)から導出された装置による計測ノイズの周波数特性(S604)の情報を用いて、装置による計測ノイズの推定(S605)を行なう。
そして、推定された計測ノイズとオペレータにより指定された計測ノイズ値との比較(S606)を行ない、計測ノイズの推定結果及び指定の計測ノイズ値との比較結果をオペレータに対し、ゲイン調整の結果と併せて呈示する(S607)。
【0060】
オペレータは呈示された情報を基に問題の有無を判断し、問題なしと判断した場合には計測(S608)を行ない、問題のあるChがあると判断した場合には、ファイバ設定の改善(S609)を行ない、再度ゲイン調整(S601)に戻り、操作を進める。
【0061】
計測の事前準備の一つとして短時間の事前計測(S602)を行なう点と、ファントムを用いて計測された計測結果(S603)から導出される装置による計測ノイズの周波数特性(S604)を用いる点が、第1の実施形態と異なる点となる。
【0062】
計測ノイズの周波数特性(S604)を導出する手順及び装置による計測ノイズの推定(S605)の方法を説明する前に、その前提として、計測結果中に含まれると想定される成分とその周波数領域に関し、図9を用いて説明する。
【0063】
図9に示すように、被検体の計測結果には、生体信号と装置による計測ノイズが含まれ、ファントムの計測結果には装置による計測ノイズが含まれると想定される。生体信号には計測の目的とする生体信号と計測の目的としない生体により発生する計測ノイズが含まれる。
【0064】
よって、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果のみから、装置による計測ノイズのみを推定する事は困難である。
【0065】
ただし、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果に対し、適当な周波数のハイパスフィルタを施す事で、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果中に含まれる装置による計測ノイズの高周波成分の部分のみを抽出する事は可能である。
【0066】
そこで、図10に示す手順で、被検体の短時間の事前計測(S602)の計測結果中に含まれる装置による計測ノイズの推定を行なう。
【0067】
被検体の事前計測結果(S801)に対し、適当な周波数のハイパスフィルタ(S802)を施し、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)を得る。ハイパスフィルタ(S802)の周波数として、本実施例では3Hzを用いる。
【0068】
被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)には、装置による計測ノイズのみが含まれると考え、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値を求める事で、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズの高周波成分(S804)を推定する。ファントムによる計測結果(S805)から導出された装置による計測ノイズの周波数特性(S806)が下式(10)のように分かる。
【0069】
【数8】
この装置による計測ノイズの周波数特性(S806)を用いて、被検体の事前計測結果中の高周波成分(S803)のヘモグロビン変化量の時間変化の標準偏差値から、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズのヘモグロビン変化量の時間変化の標準偏差値を求める事で、被検体の事前計測結果中の装置による計測ノイズ(S806)を推定する。
【0070】
次に、ファントムによる計測結果(S805)から装置による計測ノイズの周波数特性(S806)を導出する方法を、図11を用いて説明する。図11はファントムによる計測結果(S805)から求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値と、ファントムによる計測結果(S805)にハイパスフィルタを施した後、求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を示す。
【0071】
各グラフの横軸がファントムによる計測結果(S805)から求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値であり、縦軸がファントムによる計測結果(S805)にハイパスフィルタを施した後、求めたヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値となる。標準偏差値の単位はmMol/l・mmとなる。
【0072】
この標準偏差値のN組のデータを下記式(11)のように表記する。
【0073】
【数9】
この標準偏差値のN組のデータに対し、適当なモデル式を仮定する。本実施例では例えば、下式(12)を仮定する。
【0074】
【数10】
そして、標準偏差値のN組のデータを用いて、係数(式(13))の推定を下式(14)の通りに行なう。
【0075】
【数11】
本実施例においては、装置による計測ノイズの周波数特性(S806)が単純な特性を有しているが、装置による計測ノイズの周波数特性(S806)複雑な特性を有している場合には、上記のモデル式を対応した式に変更する事で、周波数特性を求める。
【0076】
本実施例によれば、ファントムを用いた計測結果から導出された計測ノイズの周波数特性に基づき、被検体の計測において、計測後に予測される計測ノイズを計測前にあらかじめ推定し、表示する事で、計測ノイズがその計測において必要とされるレベルを満たしていない計測Chにおいて、計測前にオペレータが光ファイバの設定の改善等を行ない、必要とされるレベルまで計測ノイズを下げた状態で計測する事を可能とする。これにより、再計測を行なう必要の発生が無くなり、オペレータ、被検体に対する負担を大きく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明が適用される生体光計測装置の全体構成の例を説明するための図である。
【図2】本発明の生体光計測装置の制御部が備える主な機能を示す図である。
【図3】被検体の計測の事前準備において本発明の第一の実施例を適用した例を説明するためのフローチャートである。
【図4】第一の実施例のゲイン調整及び受信光量の算出方法を説明するための図である。
【図5】第一の実施例における、ゲイン調整時の表示部の画面を示している。
【図6】第一の実施例における、受信光量、ゲイン調整、装置による計測ノイズの関係を説明するための図である。
【図7】第一の実施例における、受信光量と装置による計測ノイズの関係の導出手順を説明するための図である。
【図8】被検体の計測の事前準備において本発明の第二の実施例を適用したフローチャートを説明するための図である。
【図9】第二の実施例における、計測結果中に含まれると想定される成分とその周波数領域を説明するための図である。
【図10】第二の実施例における、事前計測結果からの装置による計測ノイズの推定の手順を説明するための図である。
【図11】第二の実施例における、ファントムによる計測結果に対しフィルタ処理を施した前後のヘモグロビン濃度変化量の時間変化の標準偏差値の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
101…光源部、102…光計測部、103…制御部、104…半導体レーザ、105…光モジュール、106…光ファイバ、107…被検体、108…プローブホルダ、109…検出用光ファイバ、110…光電変換素子、111…ロックインアンプ、112…A/D変換器、113…信号処理部、114…表示部、115…記憶部、116…入出力部、S201〜S209…本発明の信号処理のフローチャートの説明、1031…ゲイン調整部、1032…計測ノイズ推定部、1033…各Chの受光量の計測処理部、1034…刺激呈示処理部、1035…計測ノイズの比較・表示処理部、1036…ヘモグロビン変化量、計算処理部、1037…ヘモグロビン変化量、受信光量計測結果の時間変化波形のグラフ生成部、1038…被検体の計測結果に基くトポグラフィ像生成部、1039…トポグラフィ像と頭部画像の重ね合わせ表示処理部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置において、
ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する計測ノイズ推定部を備えた
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記計測ノイズ推定部は、
前記ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、前記被検体の計測において、計測後に予測される装置による計測ノイズの大きさを予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記計測ノイズ推定部は、
前記ファントムを用いた計測結果から導出された計測ノイズの周波数特性に基づき、前記被検体の計測において、計測後に予測される装置による計測ノイズの大きさを予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項4】
近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置における、計測ノイズの推定方法であって、
ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置における計測ノイズの推定方法。
【請求項1】
近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置において、
ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する計測ノイズ推定部を備えた
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記計測ノイズ推定部は、
前記ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて導出された受信光量と計測ノイズの関係に基づき、前記被検体の計測において、計測後に予測される装置による計測ノイズの大きさを予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記計測ノイズ推定部は、
前記ファントムを用いた計測結果から導出された計測ノイズの周波数特性に基づき、前記被検体の計測において、計測後に予測される装置による計測ノイズの大きさを予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項4】
近赤外光を照射する光源部と、被検体の複数の測定点における通過光強度を計測し、測定点毎の通過光強度に対応する信号を測定チャンネル毎の測定データとして出力する光計測部と、前記光計測部からの測定データを処理して画像化する信号処理部と、前記信号処理部の処理結果を表示する表示部とを備えた生体光計測装置における、計測ノイズの推定方法であって、
ファントムを用いて計測した計測結果に基づいて、被検体の計測時に予測される計測ノイズの大きさを、予め推定する
ことを特徴とする生体光計測装置における計測ノイズの推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−104586(P2010−104586A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280043(P2008−280043)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
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