生体光計測装置
生体光計測装置が計測したヘモグロビン量変化信号をもとに、被験者がどの疾患にどの程度属するのかを客観的に判断し表示できる装置を提供する。 疾患判定装置は、ヘモグロビン波形の特徴を抽出する特徴抽出部15と、特徴解析部16と、疾患毎の特徴をデータベースとして格納する記憶部12を備えており、特徴抽出部15において、生体光計測装置で計測された被験者のヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出し、特徴解析部16において、抽出された特徴量と記憶部12に格納された疾患毎の特徴量との類似度を多変量解析により判定する。判定結果は表示部14に、各疾患群との類似度を表わすスコアとして棒グラフ表示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は近赤外光を生体に照射し、生体内部を通過或いは生体内部で反射した光を計測し生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を計測する生体光計測装置に係り、特に生体光計測装置で計測した結果を用いて各種疾患を判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体光計測装置は、生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を、簡便に被験者に対し低拘束で且つ害を与えずに計測できる装置であり、近年、多チャンネル装置による測定データの画像化が実現され、臨床への応用が期待されている。
【0003】
生体光計測の臨床応用としては、てんかん、脳虚血等の診断や言語機能の研究の等が報告されている。また下記の非特許文献1、文献2には、うつ病や統合失調症(精神分裂症)などの精神疾患患者において生体光計測による前頭葉のヘモグロビン量変化パターンに異常が生じることが報告されている。具体的には健常者、うつ病患者、統合失調症患者を比較した場合、ヘモグロビン時間波形の最大値が大、小、中という異なる特徴を有することが報告されている。これら報告はヘモグロビン時間波形を用いた精神疾患診断の可能性を示している。しかし一般に多チャンネル生体光計測装置では、ヘモグロビン時間波形はチャンネル毎のデータとして得られるので、これら多数の波形を比較して正確に診断を行うことは容易ではない。
【0004】
【非特許文献1】「精神医学における近赤外線スペクトロスコピーNIRS測定の意義」福田正人ら、脳と精神の医学14巻2号別冊、新興医学出版社
【非特許文献2】「光で見る心」福田正人ら、心と社会第34巻1号別冊、日本精神衛生会
【0005】
一方、本出願人は、ヘモグロビン量変化波形から特徴を抽出し、これを数値化して疾患毎に表示する機能を備えた生体光計測装置を提案している(特願2002−85350)。この生体光計測装置では、疾患毎に表示された特徴量と被験者について計測した特徴量とを比較することにより、当該特徴量について疾患の程度が推定できる。
【0006】
しかし、疾患、特に精神疾患を正確に診断するためには単一の特徴からではなく複数の特徴から総合的に診断することが必要であり、上記生体光計測装置では、医者或いは計測者がそれぞれ個々の特徴量をもとに総合的な診断を行う必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、生体光計測装置が計測した結果、即ちヘモグロビン信号から抽出した種々の特徴量を解析し、どの疾患にどの程度属するのかを客観的に判断し表示できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、被検体に照射する光を発生する光源部と、被検体内部を通過した光を検出し、被検体のヘモグロビン濃度変化に対応するヘモグロビン信号を生成する光計測部と、前記ヘモグロビン信号の特徴量を解析し、解析された特徴量から疾患を判定する判定手段と、前記被検体の疾患情報を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする生体光計測装置を提供する。
【0009】
本発明の生体光計測装置において、好適には、判定手段は、前記ヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出する手段、疾患毎の特徴量をデータベースとして格納する記憶手段、前記抽出手段が抽出した複数量の特徴量を解析し、前記記憶手段に格納された疾患毎の特徴量との類似度を判断する解析手段、および前記解析手段によって判断された類似度を数量化する数量化手段を備える。
【0010】
また本発明の生体光計測装置において、好適には、解析手段は、抽出手段が抽出した複数の特徴量と、記憶手段に格納された疾患毎の特徴量のデータとの類似度を、多変量分析により算出する。多変量分析の一つの態様として、解析手段は、被検体の特徴量と疾患毎の特徴量(の重心)とのマハラノビス距離を算出することにより類似度を求めることができる。なおマハラノビス距離は一般にはマハラノビスの汎距離と呼ばれることもあり、これと同義である。マハラノビス距離を用いることにより、疾患毎のデータに分散のばらつきがある場合にも、その影響を受けることなくより確かな判定を行なうことができる。
【0011】
また本発明の生体光計測装置において、好適には、抽出手段は、複数の特徴量を、課題負荷時のヘモグロビン量変化信号パターンから抽出する。複数の特徴量として、具体的には、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値の少なくとも一つが挙げられる。
また本発明の疾患判定装置において、好適には、表示手段は、類似度をグラフとして表示する。
これにより、光計測の結果を総合的に判断して疾患の判定を行い、それを一目でわかる形で表示するので、疾患の判定を客観的且つ容易に行うことができる。
【0012】
さらに本発明の生体光計測装置において、好適には、抽出手段は、ヘモグロビン信号として複数回の計測値の加算平均を用いる。
これにより判定結果の信頼性を向上することができる。
【0013】
本発明の生体光計測装置の一態様として、記憶手段は、少なくとも健常者群、統合失調症群及びうつ病群の特徴量をデータベースとして持つ。
また本発明の生体光計測装置は、被検体の判定結果を、生体光計測による計測データ及び画像データと一体として保存する記憶手段を備えたものとすることができる。
【0014】
さらに本発明の生体光計測装置において、解析手段は、特定の疾患との類似度が所定の閾値以下であった判定の対象を当該特定の疾患のデータとして前記記憶装置に格納することができる。
この生体光計測によれば、判定の対象であるデータを記憶装置に格納されたデータベースに加えることができるので、データベースのサイズ(大きさ)を大きくし判定の正確度を高めることができる。
また本発明の生体光計測装置は、好適には、判定手段による判定、報告書の作成、データベースの更新、及び表示手段による表示を指示するための入力手段を備えている。
【0015】
また本発明は、生体光計測によって計測された被検体のヘモグロビン信号から被検体の疾患を判定する方法であって、複数の疾患群のいずれかの疾患の診断が確立された複数の被検体について生体光計測によってヘモグロビン信号を計測し、各被検体のヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出し、これら特徴量を被検体の疾患毎にデータとして格納し、診断すべき被検体について生体光計測によって計測されたヘモグロビン信号から複数の特徴量を抽出し、抽出された特徴量と前記疾患毎のデータとの類似度を算出し、最も類似度の高い疾患を前記診断すべき被検体の疾患とすることを特徴とする判定方法を提供する。
【0016】
本発明の判定方法は、好適には、疾患の診断が確立された複数の被検体のヘモグロビン信号について主成分解析を行い主成分波形を抽出し、主成分波形から特徴量を抽出し、抽出された特徴量を当該被検体の疾患群のデータとして保存することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の疾患判定装置の概要を示すブロック図であり、この装置10は主として、生体光計測装置20からのヘモグロビン量変化信号を入力し、特徴抽出、特徴解析等の演算を行う演算部11と、疾患毎に所定の特徴をデータベースとして格納する記憶部12と、演算部11における処理に必要な指令等を入力するための入力部13と、解析結果を表示する表示部14とを備えている。演算部11は、ヘモグロビン量変化信号の変化パターンから所定の特徴を抽出する特徴抽出部15と、特徴抽出部11で抽出された特徴と疾患毎の特徴とを比較し、その類似度を算出する特徴解析部16とを備えている。また記憶部12には、他の診断方法によって診断が確定された複数の患者について特徴量を解析した結果が、疾患群のデータとして格納されている。また図示しないが、これら演算部11、記憶部12、入力部13及び表示部14を制御する主制御部が備えられている。
【0018】
この疾患判定装置10では、特徴抽出部15において生体光計測装置20から送られるヘモグロビン量変化信号から所定の特徴を抽出し、特徴解析部16において、抽出された特徴と記憶部12に格納された疾患群の特徴との類似度を算出し、最も類似度が高い疾患群を測定対象である患者の疾患であると判定し、その結果を表示部14に表示する。この疾患判定装置10は、生体光計測装置20から送られるヘモグロビン量変化信号に対し、リアルタイムでこれら処理を行い、判定結果を表示してもよいし、生体光計測装置20で計測したデータを一時記憶装置に記憶しておき、必要に応じて記憶装置から患者毎のデータを読み出し、疾患判定を行うようにしてもよい。この場合、計測データを一時的に保存する記憶装置は、生体光計測装置20側に設けられていても、疾患判定装置10側に設けられていてもよい。また本発明の疾患判定装置は、離れた場所に設置された生体光計測装置20からの測定データを通信手段を介して受信し、それを処理することも可能である。
【0019】
以下、生体光計測装置20及び疾患判定装置10の各要素とその動作について説明する。
生体光計測装置20は、近赤外光を生体内に照射し、生体の表面近傍から反射或いは生体内を通過した光(以下、単に通過光という)を検出し、光の強度に対応する電気信号を発生する装置である。本実施形態においては、生体(例えば頭部)の複数箇所にそれぞれ異なる周波数で変調された光を照射し、複数箇所から通過光を測定する多チャンネルの生体光計測装置を用いる場合を説明する。
【0020】
この生体光計測装置は、図2に示すように、近赤外光を照射する光源部21と、通過光を計測し、電気信号に変換する光計測部26と、光源部21及び光計測部26の駆動を制御する制御部30とを備えている。光源部21は、所定の波長の光を放射する半導体レーザ22と、半導体レーザ22が発生する光を複数の異なる周波数で変調するための変調器を備えた複数の光モジュール23とを備え、各光モジュール23の出力光はそれぞれ光ファイバ24を介して被験者40の所定の計測領域、例えば頭部の複数箇所から照射される。光計測部26は、計測領域の複数の計測箇所から光ファイバ25を介して誘導された通過光をそれぞれ光量に対応する電気量に変換するフォトダイオード等の光電変換素子27と、光電変換素子27からの電気信号を入力し、光照射位置に対応した変調信号を選択的に検出するロックインアンプ28と、ロックインアンプ28の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器29とからなる。
【0021】
なお、通常、光源部21は酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの2種類の測定対象に対応して2種類の波長、例えば780nm及び830nmの光を発生するように構成され、これら二波長の光は合成され一つの照射位置から照射される。ロックインアンプ28は光照射位置とこれら二波長に対応した変調信号を選択的に検出する。従って光照射位置と検出位置との間の点(計測点)の数の2倍のチャンネル数のヘモグロビン量変化信号が得られる。
【0022】
制御部30は、信号処理部31、入出力部32及び記憶部33を備えている。信号処理部31は、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量変化信号を処理し、酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の二次元画像上にプロットした画像を作成する。入出力部32は、信号処理部31の処理結果を表示すると共に装置の動作に必要な種々の指令を入力するためのものである。記憶部33には、信号処理部31の処理に必要なデータや処理結果が記憶されている。
【0023】
生体光計測装置20において、ヘモグロビン量変化信号は、被検体に所定の課題(負荷)を与えた状態で計測し、課題を与える前の値との差信号として計測される。課題としては、言語刺激負荷、視覚刺激、痛み刺激などが一般的であり、精神疾患の判定では例えば「こ」で始まる言葉をできるだけ思い出させる「語流暢課題」などを採用する。
【0024】
このような課題を与えて計測されたヘモグロビン量変化パターンは、前述の文献1、2等にも報告されているように、疾患毎に異なる特徴を有することが知られている。図3は精神疾患毎のヘモグロビン量変化パターンを示す図である。図中、縦方向は信号強度、横方向は時間であり、縦方向の2本の点線で挟まれた時間は課題が与えられている時間である。また図では、多チャンネルの信号のうち、もっとも特徴が顕著に現れているパターンを示している。図示するように、健常者では課題が与えられると信号値が大きく変化し、課題終了後に単調に減少するが、統合失調症患者では健常者ほど信号値の変化は大きくなく、課題終了後にも再上昇する。またうつ病患者では、課題が与えられても変化が小さい。双極性障害(躁うつ病)患者の場合は、課題による信号値の変化は大きいが、ピークが遅れて現れる。
【0025】
本実施形態の疾患判定装置10の記憶部12に格納されているデータベースは、このようなヘモグロビン量変化パターンの特徴を疾患毎に抽出したものであり、例えば、本出願人による特願2002−85350に記載した技術を利用して、作成することができる。本実施形態の疾患判定装置10では、特徴抽出部15の機能により実現できる。データベースの作成手順を図4に示す。
【0026】
まず予め別の診断方法によって診断が確定している個々の患者のヘモグロビン量変化信号を入力し(ステップ401)、各チャンネルのヘモグロビン量変化信号の主成分解析処理を行い、課題を与えたときの生体反応を最も反映する代表信号を算出する(ステップ402)。主成分解析に用いる生のヘモグロビン信号は、1回の測定の値でもよいが、好適には、複数回の測定値を加算平均したものを用いる。複数回の測定値は、例えば課題と測定を連続して或いは一定の間隔を置いて繰り返すことにより得られる。また酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンの両方について計測データが得られている場合には、それぞれについて主成分波形を算出してもよい。いずれの場合にもノイズ等を除去するために主成分解析に先だってフィルタ処理やベースライン処理を施すことが好ましい。
フィルタ処理としては、低周波ノイズを除去するHPFや高周波ノイズを除去するLPFを用いることができる。これらフィルタのカットオフ周波数や窓関数は、デフォルトとして予め適当な数値や関数を設定しておき、ユーザーが任意に変更可能にすることができる。図5(a)に、生のヘモグロビン変化信号をフィルタ処理した結果を例示する。
【0027】
主成分解析は、高次元のデータの情報をできるだけ失うことなくより少ない次元に縮約する手法であり、ここでは時間及びチャンネル番号を軸とするヘモグロビン信号強度からなる測定データを、チャンネル軸を縮約して、より少ないチャンネルのデータに変換する。以下、本発明における主成分解析処理を説明する。
【0028】
生体光計測装置20で計測した局所脳血液量(ヘモグロビン量)変化信号Xは次の行列で与えられるとする。
【数1】
【0029】
ここでNは計測されたデータ数、mは計測チャンネル数である。行列XXTは対称なので、直交行列Wを使って対角化できる。即ち、
Y=WX (2)
とおくと、
YYT=diag[λ1,λ2,・・・,λm] (3)
となる。Diagは対角秒列を、λ1,λ2,・・・,λmは固有値をあらわし、大きい順に並んでいると仮定する。このことから行列Yの第i行ベクトルyiは他の行ベクトルyj(j≠i)に対して線形独立である。固有値は寄与率とも呼ばれ、値が大きいほど行列X内での寄与が高いということを表わしている。
【0030】
本発明では、ベクトルyiを第i行主成分と呼ぶ。第i行主成分yiは、xjをj番目のチャンネルの計測データとすると式(2)より、
【数2】
と表わすことができる。係数wijは第i主成分における各チャンネルの符号付き重みであり、その絶対値は主成分波形の各チャンネルでの存在頻度に対応している。符号は、正方向が正反応の血液量変化を示すように付されている。
【0031】
こうして主成分波形としては複数の波形(m成分)が算出されるが、これらのうち、課題に関連した血液量変化を選択するために、寄与率λi、平均存在頻度値Σwij、所定の参照応答波形との相関値に注目し、これらが最大となる波形を主成分波形として選択する。課題に関連した血液量変化については、大脳皮質の神経活動に伴う血液量変化は課題開始、終了から遅れを伴って増加、減少することが下記文献に報告されている。本実施形態では、主成分波形から課題関連血液量変化を選択するにあたって、課題開始、終了から数秒の遅れを伴って増加、減少する台形波形を作成し、これを参照応答波形として設定し、それとの相関を算出している。
「Non−invasive assessment of language dominance with near−infrared spectroscopic mapping」E.Watanabe,A.Maki,F.Kawaguchi,K.Takashiro,Y,Yamashita,H.Koizumi,& Y.Mayanagi,Neuroscience Letter,256,49/52(1998)
「Processing strategies for time−course data sets in functional MRI of the human brain」P.A.Bandettini,A.Jesmanowicz,G.Eric.J.Wong & S.Hyde,Magn.Reson.Med.,30,161/173(1993)
【0032】
こうして主成分波形が抽出されたならば、主成分波形の特徴を抽出する(ステップ403)。特徴量の抽出に際しては、その精度を高めるために、特徴量抽出に先立って主成分波形のベースライン処理を行うことが好ましい。ベースライン処理は、課題の開始前の信号値と課題終了から所定時間経過後の信号値とを結ぶ線をベースラインとしてグラフの横軸に一致させる処理である。具体的には、主成分波形に対する近似曲線を算出し、この近似曲線をベースラインとする処理を行なう。近似曲線を算出する次数は適宜設定しておく。ベースライン処理結果(AFP)は、主成分波形(PW)と近似曲線(PF)から、(ABW)=(PW)/(PF)となる。
【0033】
特徴は、パターンを数値化して表現できるものであれば特に限定されないが、本実施形態では、図5(b)に示すように、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値を特徴量として抽出する。これらの特徴量は、グラフを時間軸に沿ってスキャンすることにより自動的に求めることができる。例えば、課題開始直後のグラフの傾きは、課題開始から予め定めた時間経過時点の値から自動的に決定することができる。課題終了後波形の矩形波との相関値は、統合失調症群において課題終了後に血液量変化が増加するという特徴を捉えるために採用している。相関値には、主成分波形のグラフX(t)と矩形波Y(t)との相関係数ρを次式により算出する。
ρ=Cx(t)y(t)/σx(t)σy(t)
Cx(t)y(t):x(t)y(t)の共分散値、σx(t):x(t)の分散値、σy(t):y(t)の分散値
【0034】
以上の主成分波形の抽出から特徴量抽出までのステップを、各疾患の複数の患者から得られたヘモグロビン量変化信号について実行し、それぞれ抽出された7次元の特徴量を疾患毎にグループ化して記憶部12に格納する(ステップ404)。本実施形態では、健常者群(NC群)、統合失調症群(S群)及びうつ病群(D群)の3つのグループ毎に7次元の特徴量が格納されている。本実施形態の疾患判定装置では、各グループのデータは正規分布をしているという前提で判定を行うので、データ数は正規分布していると見なせる程度であることが必要である。具体的には10以上であれば実質的に有効な判定を行うことができる。
【0035】
図6にデータベースの一例を示す。図では、7次元の特徴量のうち、グラフの最大値及び課題終了後の傾きの2つの特徴量のみを示しており、縦の番号はデータ番号を示している。
【0036】
次にこのようなデータベースを備えた疾患判定装置の動作について説明する。図7に動作手順を示す。まず被験者に対し、生体光計測装置20を用いて光計測を行い、計測波形を得る(ステップ701)。この光計測の条件は、疾患判定装置10のデータベース作成の際に行った計測と同じ条件とする。即ち、被検体にデータベース作成時と同一の課題を、同一の間隔で与え、課題負荷時のヘモグロビン変化信号を計測する。光計測によって生体光計測装置20のチャンネル毎に得られるヘモグロビン量変化信号の一例を図8に示す。図示する例では、左右の側頭葉それぞれ12チャンネルの測定データが得られている。
【0037】
疾患判定装置10は、このような測定データを演算部11に取り込み、特徴抽出部15において、主成分波形を算出し(ステップ702)、主成分波形の特徴量を抽出する(ステップ703)。これらのステップ702,703は、データベース作成の場合と同様であり、主成分解析によってその被験者の特徴を最も多く備え且つ課題との関連性の高い主成分波形を算出し、この主成分波形をベースライン処理した後、7次元の特徴量(課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値を)を求める。
【0038】
次に特徴解析部16において、特徴抽出部15で抽出された1の被験者についての7次元の特徴量と、記憶部12に格納された各疾患群の特徴量との類似度を算出する(ステップ704)。類似度の算出には多変量解析の判別分析で用いられる種々の距離が用いられる。例えばユークリッド距離、標準化ユークリッド距離、最大距離、マハラノビス距離などがある。本発明ではそのいずれをも採用可能であるが、ここではマハラノビス距離による類似度評価について説明する。
【0039】
被験者の各特徴量をC=(C1,C2,C3・・・,Ck)’(k=7)とし、j番目(ここでは全部で3群を考えている)の疾患群に関するデータベース特徴量の平均ベクトルをmj=(mj1,mj2,mj3,・・・,mjk)’(k=7)とすると、被験者とj番目の疾患群の重心(平均値)とのマハラノビス距離djは、次式(5)で与えられる。
dj2=f(C)=(C−mj)’Σ−1(C−mj) (5)
(Σはj番目の疾患群に関するデータベースの分散共分散行列(k*k次元)、Σ−1はその逆行列を表わす)
【0040】
従って、各群についてk個の係数について平均ベクトル、分散行列を計算することにより、各群までのマハラノビス距離を算出することができる。そしてマハラノビス距離が最も近い群に属すると判定する。このようにマハラノビス距離を用いた判別を行うことにより、群間の母分散、共分散行列が等しくない場合でも、より確からしい判別を行うことができる。
【0041】
図9は、図6に示す三つの群(NC群、S群、D群)の2次元データをグラフに示したものであり、一被験者の特徴量(点P)をそれぞれの群の重心と直線で結んでいる。この直線の長さは被験者とのユークリッド距離に対応する。また式(5)により算出した被験者の特徴量と各群の重心とのマハラノビス距離は、NC群との距離3.53、S群との距離13.03、D群との距離120.19である。したがってこの被験者の特徴量は、ユークリッド距離ではNC群の重心よりもS群の重心に近いが、マハラノビス距離ではNC群と判定される。このようにマハラノビス距離を用いることにより、群の分散を考慮した距離で判別することができる。
【0042】
このように各疾患群とのマハラノビス距離が算出されたならば、これを疾患群に属する可能性の高さを示すスコアSに換算し、結果を表示部14に表示する。スコアSは、例えば次式(6)により算出することができる。
【数3】
式中、DNC、DS、DDはそれぞれNC群、S群、D群までのマハラノビス距離を表わす。
【0043】
スコアの表示は数値でもよいが、棒グラフなどの一目で判定結果がわかるような形で表示することが好ましい。図10に、健常者、統合失調症患者及びうつ病患者の典型的なヘモグロビン波形(図10(a))について、本実施形態の疾患判定装置10で、3つの疾患群とのマハラノビス距離算出した結果(図10(b))及びスコアの棒グラフによる表示例(図10(c))を示す。図示するように、本実施形態の疾患判定装置10によれば、疾患の判定結果を視覚的に容易に把握することができる。なおスコアの表示は、視覚的に把握しやすいものであれば棒グラフに限るものではない。また、ここでは、スコアとしてマハラノビス距離の逆数を利用したが、存在確率等を用いることも可能である。
存在確率gは、ある計測データが群に属する割合を0〜1で表したもので、マハラノビス距離を求める式(5)を変形した次式(7)を用いることで算出される。
【数4】
【0044】
判定結果は、被験者の診断報告書として表示部14に表示され、また必要に応じ印刷することができる。図11に報告書の一例を示す。図中、上側の表示部111は被験者のID、氏名、検査日などを表示する部分、中段の表示部112は、参照用として表示される計測波形(ここではCh21の測定波形)、主成分分析によって抽出された主成分波形、スコアの棒グラフ、所見、評価などを表示する部分、下段の表示部113は酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの各主成分波形について特徴量を数値或いは定性的に表示した部分である。このような診断報告書は、他の臨床データ項目(例えば臨床診断、服薬、家族歴、器質疾患、合併症、他検査等)を記載したカルテや問診票、さらに図8に示したような被験者の計測データや生体光計測で得られた画像データと一体化して保存することが好ましい。それにより、患者についての光計測結果を含む総合的なカルテを作成することができ、また必要に応じて随時読み出し解析を行うことができる。
【0045】
疾患判定装置で得られた判定結果が、他の診断結果と一致したものの場合には、その被験者についての特徴解析結果を記憶部12のデータベースに加えることも可能である。このような機能は、例えば入力部13からの入力により、所定の被験者の選択及びデータベースの更新を疾患判定装置10の主制御部が受付け、当該被験者の特徴解析結果をデータベースに加えることにより実現できる。このようにデータベースを更新することにより、そのサイズを大きくし、判定の信頼性を向上することができる。
【0046】
図12に本発明の疾患判定装置10の表示部14に表示される疾患判定のためのメイン画面の一例を示す。この例では、生体光計測装置20で計測されたデータから所望のデータ(例えば4*4チャンネルのデータと3*3チャンネルのデータ)を選択する選択ボタン121、122と、判定の計算及び表示を行なうためのボタン123と、判定結果の保存及び読み出しを行なうためのボタン124、125と、データベースを新規作成或いは変更するためのボタン126、報告書作成のためのボタン127、終了ボタン128などの操作ボタンが表示され、マウス等の入力手段でこれら操作ボタンを選択することにより、上述した判定の計算、表示及び報告書作成やデータベース更新などの一連の動作が行なわれる。
判定結果は、保存ボタン124を選択することにより保存され、読み出しボタン125を操作することにより随時読み出すことができる。またデータベースの変更ボタン126を操作して、新たな判定結果をデータベースに加えることも可能となる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態として、生体光計測装置20とは独立した疾患判定装置10について説明したが、本発明の疾患判定装置10は生体光計測装置20と一体の装置とすることも可能である。その場合、図2に示す生体光計測装置20の信号処理部31に疾患判定装置10の演算部11の機能を持たせることができる。また疾患判定装置10の記憶部12、入力部13及び表示部14は、生体光計測装置20の入出力部32及び記憶部33がその機能を実現できる。
また以上では精神疾患を例にして説明を行ったが、本発明の疾患判定装置は精神疾患以外の疾患であっても判定を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の疾患判定装置の一実施形態を示すブロック図
【図2】本発明の生体光計測装置の一実施形態を示すブロック図
【図3】疾患毎の特徴波形を示す図
【図4】本発明の疾患判定装置におけるデータベース作成手順を示す図
【図5】本発明の疾患判定装置における特徴量抽出を説明する図
【図6】データベースの一例を示す図
【図7】本発明の疾患判定装置における疾患判定手順を示す図
【図8】生体光計測の計測波形を示す図
【図9】マハラノビス距離を説明する図
【図10】マハラノビス距離の算出とスコアの表示例を示す図
【図11】本発明の疾患判定装置の判定報告書の一例を示す図
【図12】本発明の疾患判定装置の操作画面の一例を示す図
【符号の説明】
【0049】
10・・・疾患判定装置、11・・・演算部、12・・・記憶部、13・・・入力部、14・・・表示部、20・・・生体光計測装置、21・・・光源部、22・・・光計測部、30・・・制御部
【技術分野】
【0001】
この発明は近赤外光を生体に照射し、生体内部を通過或いは生体内部で反射した光を計測し生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を計測する生体光計測装置に係り、特に生体光計測装置で計測した結果を用いて各種疾患を判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体光計測装置は、生体内部の血液循環、血行動態及びヘモグロビン量変化を、簡便に被験者に対し低拘束で且つ害を与えずに計測できる装置であり、近年、多チャンネル装置による測定データの画像化が実現され、臨床への応用が期待されている。
【0003】
生体光計測の臨床応用としては、てんかん、脳虚血等の診断や言語機能の研究の等が報告されている。また下記の非特許文献1、文献2には、うつ病や統合失調症(精神分裂症)などの精神疾患患者において生体光計測による前頭葉のヘモグロビン量変化パターンに異常が生じることが報告されている。具体的には健常者、うつ病患者、統合失調症患者を比較した場合、ヘモグロビン時間波形の最大値が大、小、中という異なる特徴を有することが報告されている。これら報告はヘモグロビン時間波形を用いた精神疾患診断の可能性を示している。しかし一般に多チャンネル生体光計測装置では、ヘモグロビン時間波形はチャンネル毎のデータとして得られるので、これら多数の波形を比較して正確に診断を行うことは容易ではない。
【0004】
【非特許文献1】「精神医学における近赤外線スペクトロスコピーNIRS測定の意義」福田正人ら、脳と精神の医学14巻2号別冊、新興医学出版社
【非特許文献2】「光で見る心」福田正人ら、心と社会第34巻1号別冊、日本精神衛生会
【0005】
一方、本出願人は、ヘモグロビン量変化波形から特徴を抽出し、これを数値化して疾患毎に表示する機能を備えた生体光計測装置を提案している(特願2002−85350)。この生体光計測装置では、疾患毎に表示された特徴量と被験者について計測した特徴量とを比較することにより、当該特徴量について疾患の程度が推定できる。
【0006】
しかし、疾患、特に精神疾患を正確に診断するためには単一の特徴からではなく複数の特徴から総合的に診断することが必要であり、上記生体光計測装置では、医者或いは計測者がそれぞれ個々の特徴量をもとに総合的な診断を行う必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、生体光計測装置が計測した結果、即ちヘモグロビン信号から抽出した種々の特徴量を解析し、どの疾患にどの程度属するのかを客観的に判断し表示できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、被検体に照射する光を発生する光源部と、被検体内部を通過した光を検出し、被検体のヘモグロビン濃度変化に対応するヘモグロビン信号を生成する光計測部と、前記ヘモグロビン信号の特徴量を解析し、解析された特徴量から疾患を判定する判定手段と、前記被検体の疾患情報を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする生体光計測装置を提供する。
【0009】
本発明の生体光計測装置において、好適には、判定手段は、前記ヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出する手段、疾患毎の特徴量をデータベースとして格納する記憶手段、前記抽出手段が抽出した複数量の特徴量を解析し、前記記憶手段に格納された疾患毎の特徴量との類似度を判断する解析手段、および前記解析手段によって判断された類似度を数量化する数量化手段を備える。
【0010】
また本発明の生体光計測装置において、好適には、解析手段は、抽出手段が抽出した複数の特徴量と、記憶手段に格納された疾患毎の特徴量のデータとの類似度を、多変量分析により算出する。多変量分析の一つの態様として、解析手段は、被検体の特徴量と疾患毎の特徴量(の重心)とのマハラノビス距離を算出することにより類似度を求めることができる。なおマハラノビス距離は一般にはマハラノビスの汎距離と呼ばれることもあり、これと同義である。マハラノビス距離を用いることにより、疾患毎のデータに分散のばらつきがある場合にも、その影響を受けることなくより確かな判定を行なうことができる。
【0011】
また本発明の生体光計測装置において、好適には、抽出手段は、複数の特徴量を、課題負荷時のヘモグロビン量変化信号パターンから抽出する。複数の特徴量として、具体的には、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値の少なくとも一つが挙げられる。
また本発明の疾患判定装置において、好適には、表示手段は、類似度をグラフとして表示する。
これにより、光計測の結果を総合的に判断して疾患の判定を行い、それを一目でわかる形で表示するので、疾患の判定を客観的且つ容易に行うことができる。
【0012】
さらに本発明の生体光計測装置において、好適には、抽出手段は、ヘモグロビン信号として複数回の計測値の加算平均を用いる。
これにより判定結果の信頼性を向上することができる。
【0013】
本発明の生体光計測装置の一態様として、記憶手段は、少なくとも健常者群、統合失調症群及びうつ病群の特徴量をデータベースとして持つ。
また本発明の生体光計測装置は、被検体の判定結果を、生体光計測による計測データ及び画像データと一体として保存する記憶手段を備えたものとすることができる。
【0014】
さらに本発明の生体光計測装置において、解析手段は、特定の疾患との類似度が所定の閾値以下であった判定の対象を当該特定の疾患のデータとして前記記憶装置に格納することができる。
この生体光計測によれば、判定の対象であるデータを記憶装置に格納されたデータベースに加えることができるので、データベースのサイズ(大きさ)を大きくし判定の正確度を高めることができる。
また本発明の生体光計測装置は、好適には、判定手段による判定、報告書の作成、データベースの更新、及び表示手段による表示を指示するための入力手段を備えている。
【0015】
また本発明は、生体光計測によって計測された被検体のヘモグロビン信号から被検体の疾患を判定する方法であって、複数の疾患群のいずれかの疾患の診断が確立された複数の被検体について生体光計測によってヘモグロビン信号を計測し、各被検体のヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出し、これら特徴量を被検体の疾患毎にデータとして格納し、診断すべき被検体について生体光計測によって計測されたヘモグロビン信号から複数の特徴量を抽出し、抽出された特徴量と前記疾患毎のデータとの類似度を算出し、最も類似度の高い疾患を前記診断すべき被検体の疾患とすることを特徴とする判定方法を提供する。
【0016】
本発明の判定方法は、好適には、疾患の診断が確立された複数の被検体のヘモグロビン信号について主成分解析を行い主成分波形を抽出し、主成分波形から特徴量を抽出し、抽出された特徴量を当該被検体の疾患群のデータとして保存することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の疾患判定装置の概要を示すブロック図であり、この装置10は主として、生体光計測装置20からのヘモグロビン量変化信号を入力し、特徴抽出、特徴解析等の演算を行う演算部11と、疾患毎に所定の特徴をデータベースとして格納する記憶部12と、演算部11における処理に必要な指令等を入力するための入力部13と、解析結果を表示する表示部14とを備えている。演算部11は、ヘモグロビン量変化信号の変化パターンから所定の特徴を抽出する特徴抽出部15と、特徴抽出部11で抽出された特徴と疾患毎の特徴とを比較し、その類似度を算出する特徴解析部16とを備えている。また記憶部12には、他の診断方法によって診断が確定された複数の患者について特徴量を解析した結果が、疾患群のデータとして格納されている。また図示しないが、これら演算部11、記憶部12、入力部13及び表示部14を制御する主制御部が備えられている。
【0018】
この疾患判定装置10では、特徴抽出部15において生体光計測装置20から送られるヘモグロビン量変化信号から所定の特徴を抽出し、特徴解析部16において、抽出された特徴と記憶部12に格納された疾患群の特徴との類似度を算出し、最も類似度が高い疾患群を測定対象である患者の疾患であると判定し、その結果を表示部14に表示する。この疾患判定装置10は、生体光計測装置20から送られるヘモグロビン量変化信号に対し、リアルタイムでこれら処理を行い、判定結果を表示してもよいし、生体光計測装置20で計測したデータを一時記憶装置に記憶しておき、必要に応じて記憶装置から患者毎のデータを読み出し、疾患判定を行うようにしてもよい。この場合、計測データを一時的に保存する記憶装置は、生体光計測装置20側に設けられていても、疾患判定装置10側に設けられていてもよい。また本発明の疾患判定装置は、離れた場所に設置された生体光計測装置20からの測定データを通信手段を介して受信し、それを処理することも可能である。
【0019】
以下、生体光計測装置20及び疾患判定装置10の各要素とその動作について説明する。
生体光計測装置20は、近赤外光を生体内に照射し、生体の表面近傍から反射或いは生体内を通過した光(以下、単に通過光という)を検出し、光の強度に対応する電気信号を発生する装置である。本実施形態においては、生体(例えば頭部)の複数箇所にそれぞれ異なる周波数で変調された光を照射し、複数箇所から通過光を測定する多チャンネルの生体光計測装置を用いる場合を説明する。
【0020】
この生体光計測装置は、図2に示すように、近赤外光を照射する光源部21と、通過光を計測し、電気信号に変換する光計測部26と、光源部21及び光計測部26の駆動を制御する制御部30とを備えている。光源部21は、所定の波長の光を放射する半導体レーザ22と、半導体レーザ22が発生する光を複数の異なる周波数で変調するための変調器を備えた複数の光モジュール23とを備え、各光モジュール23の出力光はそれぞれ光ファイバ24を介して被験者40の所定の計測領域、例えば頭部の複数箇所から照射される。光計測部26は、計測領域の複数の計測箇所から光ファイバ25を介して誘導された通過光をそれぞれ光量に対応する電気量に変換するフォトダイオード等の光電変換素子27と、光電変換素子27からの電気信号を入力し、光照射位置に対応した変調信号を選択的に検出するロックインアンプ28と、ロックインアンプ28の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器29とからなる。
【0021】
なお、通常、光源部21は酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの2種類の測定対象に対応して2種類の波長、例えば780nm及び830nmの光を発生するように構成され、これら二波長の光は合成され一つの照射位置から照射される。ロックインアンプ28は光照射位置とこれら二波長に対応した変調信号を選択的に検出する。従って光照射位置と検出位置との間の点(計測点)の数の2倍のチャンネル数のヘモグロビン量変化信号が得られる。
【0022】
制御部30は、信号処理部31、入出力部32及び記憶部33を備えている。信号処理部31は、デジタル信号に変換されたヘモグロビン量変化信号を処理し、酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化、全ヘモグロビン濃度変化などをチャンネル毎に示すグラフやそれを被検体の二次元画像上にプロットした画像を作成する。入出力部32は、信号処理部31の処理結果を表示すると共に装置の動作に必要な種々の指令を入力するためのものである。記憶部33には、信号処理部31の処理に必要なデータや処理結果が記憶されている。
【0023】
生体光計測装置20において、ヘモグロビン量変化信号は、被検体に所定の課題(負荷)を与えた状態で計測し、課題を与える前の値との差信号として計測される。課題としては、言語刺激負荷、視覚刺激、痛み刺激などが一般的であり、精神疾患の判定では例えば「こ」で始まる言葉をできるだけ思い出させる「語流暢課題」などを採用する。
【0024】
このような課題を与えて計測されたヘモグロビン量変化パターンは、前述の文献1、2等にも報告されているように、疾患毎に異なる特徴を有することが知られている。図3は精神疾患毎のヘモグロビン量変化パターンを示す図である。図中、縦方向は信号強度、横方向は時間であり、縦方向の2本の点線で挟まれた時間は課題が与えられている時間である。また図では、多チャンネルの信号のうち、もっとも特徴が顕著に現れているパターンを示している。図示するように、健常者では課題が与えられると信号値が大きく変化し、課題終了後に単調に減少するが、統合失調症患者では健常者ほど信号値の変化は大きくなく、課題終了後にも再上昇する。またうつ病患者では、課題が与えられても変化が小さい。双極性障害(躁うつ病)患者の場合は、課題による信号値の変化は大きいが、ピークが遅れて現れる。
【0025】
本実施形態の疾患判定装置10の記憶部12に格納されているデータベースは、このようなヘモグロビン量変化パターンの特徴を疾患毎に抽出したものであり、例えば、本出願人による特願2002−85350に記載した技術を利用して、作成することができる。本実施形態の疾患判定装置10では、特徴抽出部15の機能により実現できる。データベースの作成手順を図4に示す。
【0026】
まず予め別の診断方法によって診断が確定している個々の患者のヘモグロビン量変化信号を入力し(ステップ401)、各チャンネルのヘモグロビン量変化信号の主成分解析処理を行い、課題を与えたときの生体反応を最も反映する代表信号を算出する(ステップ402)。主成分解析に用いる生のヘモグロビン信号は、1回の測定の値でもよいが、好適には、複数回の測定値を加算平均したものを用いる。複数回の測定値は、例えば課題と測定を連続して或いは一定の間隔を置いて繰り返すことにより得られる。また酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンの両方について計測データが得られている場合には、それぞれについて主成分波形を算出してもよい。いずれの場合にもノイズ等を除去するために主成分解析に先だってフィルタ処理やベースライン処理を施すことが好ましい。
フィルタ処理としては、低周波ノイズを除去するHPFや高周波ノイズを除去するLPFを用いることができる。これらフィルタのカットオフ周波数や窓関数は、デフォルトとして予め適当な数値や関数を設定しておき、ユーザーが任意に変更可能にすることができる。図5(a)に、生のヘモグロビン変化信号をフィルタ処理した結果を例示する。
【0027】
主成分解析は、高次元のデータの情報をできるだけ失うことなくより少ない次元に縮約する手法であり、ここでは時間及びチャンネル番号を軸とするヘモグロビン信号強度からなる測定データを、チャンネル軸を縮約して、より少ないチャンネルのデータに変換する。以下、本発明における主成分解析処理を説明する。
【0028】
生体光計測装置20で計測した局所脳血液量(ヘモグロビン量)変化信号Xは次の行列で与えられるとする。
【数1】
【0029】
ここでNは計測されたデータ数、mは計測チャンネル数である。行列XXTは対称なので、直交行列Wを使って対角化できる。即ち、
Y=WX (2)
とおくと、
YYT=diag[λ1,λ2,・・・,λm] (3)
となる。Diagは対角秒列を、λ1,λ2,・・・,λmは固有値をあらわし、大きい順に並んでいると仮定する。このことから行列Yの第i行ベクトルyiは他の行ベクトルyj(j≠i)に対して線形独立である。固有値は寄与率とも呼ばれ、値が大きいほど行列X内での寄与が高いということを表わしている。
【0030】
本発明では、ベクトルyiを第i行主成分と呼ぶ。第i行主成分yiは、xjをj番目のチャンネルの計測データとすると式(2)より、
【数2】
と表わすことができる。係数wijは第i主成分における各チャンネルの符号付き重みであり、その絶対値は主成分波形の各チャンネルでの存在頻度に対応している。符号は、正方向が正反応の血液量変化を示すように付されている。
【0031】
こうして主成分波形としては複数の波形(m成分)が算出されるが、これらのうち、課題に関連した血液量変化を選択するために、寄与率λi、平均存在頻度値Σwij、所定の参照応答波形との相関値に注目し、これらが最大となる波形を主成分波形として選択する。課題に関連した血液量変化については、大脳皮質の神経活動に伴う血液量変化は課題開始、終了から遅れを伴って増加、減少することが下記文献に報告されている。本実施形態では、主成分波形から課題関連血液量変化を選択するにあたって、課題開始、終了から数秒の遅れを伴って増加、減少する台形波形を作成し、これを参照応答波形として設定し、それとの相関を算出している。
「Non−invasive assessment of language dominance with near−infrared spectroscopic mapping」E.Watanabe,A.Maki,F.Kawaguchi,K.Takashiro,Y,Yamashita,H.Koizumi,& Y.Mayanagi,Neuroscience Letter,256,49/52(1998)
「Processing strategies for time−course data sets in functional MRI of the human brain」P.A.Bandettini,A.Jesmanowicz,G.Eric.J.Wong & S.Hyde,Magn.Reson.Med.,30,161/173(1993)
【0032】
こうして主成分波形が抽出されたならば、主成分波形の特徴を抽出する(ステップ403)。特徴量の抽出に際しては、その精度を高めるために、特徴量抽出に先立って主成分波形のベースライン処理を行うことが好ましい。ベースライン処理は、課題の開始前の信号値と課題終了から所定時間経過後の信号値とを結ぶ線をベースラインとしてグラフの横軸に一致させる処理である。具体的には、主成分波形に対する近似曲線を算出し、この近似曲線をベースラインとする処理を行なう。近似曲線を算出する次数は適宜設定しておく。ベースライン処理結果(AFP)は、主成分波形(PW)と近似曲線(PF)から、(ABW)=(PW)/(PF)となる。
【0033】
特徴は、パターンを数値化して表現できるものであれば特に限定されないが、本実施形態では、図5(b)に示すように、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値を特徴量として抽出する。これらの特徴量は、グラフを時間軸に沿ってスキャンすることにより自動的に求めることができる。例えば、課題開始直後のグラフの傾きは、課題開始から予め定めた時間経過時点の値から自動的に決定することができる。課題終了後波形の矩形波との相関値は、統合失調症群において課題終了後に血液量変化が増加するという特徴を捉えるために採用している。相関値には、主成分波形のグラフX(t)と矩形波Y(t)との相関係数ρを次式により算出する。
ρ=Cx(t)y(t)/σx(t)σy(t)
Cx(t)y(t):x(t)y(t)の共分散値、σx(t):x(t)の分散値、σy(t):y(t)の分散値
【0034】
以上の主成分波形の抽出から特徴量抽出までのステップを、各疾患の複数の患者から得られたヘモグロビン量変化信号について実行し、それぞれ抽出された7次元の特徴量を疾患毎にグループ化して記憶部12に格納する(ステップ404)。本実施形態では、健常者群(NC群)、統合失調症群(S群)及びうつ病群(D群)の3つのグループ毎に7次元の特徴量が格納されている。本実施形態の疾患判定装置では、各グループのデータは正規分布をしているという前提で判定を行うので、データ数は正規分布していると見なせる程度であることが必要である。具体的には10以上であれば実質的に有効な判定を行うことができる。
【0035】
図6にデータベースの一例を示す。図では、7次元の特徴量のうち、グラフの最大値及び課題終了後の傾きの2つの特徴量のみを示しており、縦の番号はデータ番号を示している。
【0036】
次にこのようなデータベースを備えた疾患判定装置の動作について説明する。図7に動作手順を示す。まず被験者に対し、生体光計測装置20を用いて光計測を行い、計測波形を得る(ステップ701)。この光計測の条件は、疾患判定装置10のデータベース作成の際に行った計測と同じ条件とする。即ち、被検体にデータベース作成時と同一の課題を、同一の間隔で与え、課題負荷時のヘモグロビン変化信号を計測する。光計測によって生体光計測装置20のチャンネル毎に得られるヘモグロビン量変化信号の一例を図8に示す。図示する例では、左右の側頭葉それぞれ12チャンネルの測定データが得られている。
【0037】
疾患判定装置10は、このような測定データを演算部11に取り込み、特徴抽出部15において、主成分波形を算出し(ステップ702)、主成分波形の特徴量を抽出する(ステップ703)。これらのステップ702,703は、データベース作成の場合と同様であり、主成分解析によってその被験者の特徴を最も多く備え且つ課題との関連性の高い主成分波形を算出し、この主成分波形をベースライン処理した後、7次元の特徴量(課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値を)を求める。
【0038】
次に特徴解析部16において、特徴抽出部15で抽出された1の被験者についての7次元の特徴量と、記憶部12に格納された各疾患群の特徴量との類似度を算出する(ステップ704)。類似度の算出には多変量解析の判別分析で用いられる種々の距離が用いられる。例えばユークリッド距離、標準化ユークリッド距離、最大距離、マハラノビス距離などがある。本発明ではそのいずれをも採用可能であるが、ここではマハラノビス距離による類似度評価について説明する。
【0039】
被験者の各特徴量をC=(C1,C2,C3・・・,Ck)’(k=7)とし、j番目(ここでは全部で3群を考えている)の疾患群に関するデータベース特徴量の平均ベクトルをmj=(mj1,mj2,mj3,・・・,mjk)’(k=7)とすると、被験者とj番目の疾患群の重心(平均値)とのマハラノビス距離djは、次式(5)で与えられる。
dj2=f(C)=(C−mj)’Σ−1(C−mj) (5)
(Σはj番目の疾患群に関するデータベースの分散共分散行列(k*k次元)、Σ−1はその逆行列を表わす)
【0040】
従って、各群についてk個の係数について平均ベクトル、分散行列を計算することにより、各群までのマハラノビス距離を算出することができる。そしてマハラノビス距離が最も近い群に属すると判定する。このようにマハラノビス距離を用いた判別を行うことにより、群間の母分散、共分散行列が等しくない場合でも、より確からしい判別を行うことができる。
【0041】
図9は、図6に示す三つの群(NC群、S群、D群)の2次元データをグラフに示したものであり、一被験者の特徴量(点P)をそれぞれの群の重心と直線で結んでいる。この直線の長さは被験者とのユークリッド距離に対応する。また式(5)により算出した被験者の特徴量と各群の重心とのマハラノビス距離は、NC群との距離3.53、S群との距離13.03、D群との距離120.19である。したがってこの被験者の特徴量は、ユークリッド距離ではNC群の重心よりもS群の重心に近いが、マハラノビス距離ではNC群と判定される。このようにマハラノビス距離を用いることにより、群の分散を考慮した距離で判別することができる。
【0042】
このように各疾患群とのマハラノビス距離が算出されたならば、これを疾患群に属する可能性の高さを示すスコアSに換算し、結果を表示部14に表示する。スコアSは、例えば次式(6)により算出することができる。
【数3】
式中、DNC、DS、DDはそれぞれNC群、S群、D群までのマハラノビス距離を表わす。
【0043】
スコアの表示は数値でもよいが、棒グラフなどの一目で判定結果がわかるような形で表示することが好ましい。図10に、健常者、統合失調症患者及びうつ病患者の典型的なヘモグロビン波形(図10(a))について、本実施形態の疾患判定装置10で、3つの疾患群とのマハラノビス距離算出した結果(図10(b))及びスコアの棒グラフによる表示例(図10(c))を示す。図示するように、本実施形態の疾患判定装置10によれば、疾患の判定結果を視覚的に容易に把握することができる。なおスコアの表示は、視覚的に把握しやすいものであれば棒グラフに限るものではない。また、ここでは、スコアとしてマハラノビス距離の逆数を利用したが、存在確率等を用いることも可能である。
存在確率gは、ある計測データが群に属する割合を0〜1で表したもので、マハラノビス距離を求める式(5)を変形した次式(7)を用いることで算出される。
【数4】
【0044】
判定結果は、被験者の診断報告書として表示部14に表示され、また必要に応じ印刷することができる。図11に報告書の一例を示す。図中、上側の表示部111は被験者のID、氏名、検査日などを表示する部分、中段の表示部112は、参照用として表示される計測波形(ここではCh21の測定波形)、主成分分析によって抽出された主成分波形、スコアの棒グラフ、所見、評価などを表示する部分、下段の表示部113は酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの各主成分波形について特徴量を数値或いは定性的に表示した部分である。このような診断報告書は、他の臨床データ項目(例えば臨床診断、服薬、家族歴、器質疾患、合併症、他検査等)を記載したカルテや問診票、さらに図8に示したような被験者の計測データや生体光計測で得られた画像データと一体化して保存することが好ましい。それにより、患者についての光計測結果を含む総合的なカルテを作成することができ、また必要に応じて随時読み出し解析を行うことができる。
【0045】
疾患判定装置で得られた判定結果が、他の診断結果と一致したものの場合には、その被験者についての特徴解析結果を記憶部12のデータベースに加えることも可能である。このような機能は、例えば入力部13からの入力により、所定の被験者の選択及びデータベースの更新を疾患判定装置10の主制御部が受付け、当該被験者の特徴解析結果をデータベースに加えることにより実現できる。このようにデータベースを更新することにより、そのサイズを大きくし、判定の信頼性を向上することができる。
【0046】
図12に本発明の疾患判定装置10の表示部14に表示される疾患判定のためのメイン画面の一例を示す。この例では、生体光計測装置20で計測されたデータから所望のデータ(例えば4*4チャンネルのデータと3*3チャンネルのデータ)を選択する選択ボタン121、122と、判定の計算及び表示を行なうためのボタン123と、判定結果の保存及び読み出しを行なうためのボタン124、125と、データベースを新規作成或いは変更するためのボタン126、報告書作成のためのボタン127、終了ボタン128などの操作ボタンが表示され、マウス等の入力手段でこれら操作ボタンを選択することにより、上述した判定の計算、表示及び報告書作成やデータベース更新などの一連の動作が行なわれる。
判定結果は、保存ボタン124を選択することにより保存され、読み出しボタン125を操作することにより随時読み出すことができる。またデータベースの変更ボタン126を操作して、新たな判定結果をデータベースに加えることも可能となる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態として、生体光計測装置20とは独立した疾患判定装置10について説明したが、本発明の疾患判定装置10は生体光計測装置20と一体の装置とすることも可能である。その場合、図2に示す生体光計測装置20の信号処理部31に疾患判定装置10の演算部11の機能を持たせることができる。また疾患判定装置10の記憶部12、入力部13及び表示部14は、生体光計測装置20の入出力部32及び記憶部33がその機能を実現できる。
また以上では精神疾患を例にして説明を行ったが、本発明の疾患判定装置は精神疾患以外の疾患であっても判定を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の疾患判定装置の一実施形態を示すブロック図
【図2】本発明の生体光計測装置の一実施形態を示すブロック図
【図3】疾患毎の特徴波形を示す図
【図4】本発明の疾患判定装置におけるデータベース作成手順を示す図
【図5】本発明の疾患判定装置における特徴量抽出を説明する図
【図6】データベースの一例を示す図
【図7】本発明の疾患判定装置における疾患判定手順を示す図
【図8】生体光計測の計測波形を示す図
【図9】マハラノビス距離を説明する図
【図10】マハラノビス距離の算出とスコアの表示例を示す図
【図11】本発明の疾患判定装置の判定報告書の一例を示す図
【図12】本発明の疾患判定装置の操作画面の一例を示す図
【符号の説明】
【0049】
10・・・疾患判定装置、11・・・演算部、12・・・記憶部、13・・・入力部、14・・・表示部、20・・・生体光計測装置、21・・・光源部、22・・・光計測部、30・・・制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に照射する光を発生する光源部と、被検体内部を通過した光を検出し、被検体のヘモグロビン濃度変化に対応するヘモグロビン信号を生成する光計測部と、前記ヘモグロビン信号の特徴量を解析し、解析された特徴量から疾患を判定する判定手段と、前記被検体の疾患情報を表示する表示手段とを備えることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記判定手段は、
前記ヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出する手段、
疾患毎の特徴量をデータベースとして格納する記憶手段、
前記抽出手段が抽出した複数量の特徴量を解析し、前記記憶手段に格納された疾患毎の特徴量との類似度を判断する解析手段、および
前記解析手段によって判断された類似度を数量化する数量化手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、前記抽出手段が抽出した複数の特徴量と、記憶手段に格納された疾患毎の特徴量のデータとの類似度を、多変量分析により算出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項4】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、前記類似度を、前記抽出手段が抽出した複数の特徴量と前記疾患毎の特徴量のデータの重心とのマハラノビス距離を算出することにより求めることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項5】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、前記複数の特徴量を、所定の課題を与えた時のヘモグロビン量変化パターンから抽出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項6】
請求項5記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値の少なくとも一つを前記特徴量として抽出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項7】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、ヘモグロビン信号として複数回の計測値の加算平均を用いることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項8】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記表示手段は、前記類似度をグラフとして表示することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項9】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記記憶手段は、少なくとも健常者群、統合失調症群及びうつ病群の特徴量をデータベースとして持つことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項10】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記被検体の判定結果を、生体光計測による計測データ及び画像データと一体として保存する記憶手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項11】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、特定の疾患との類似度が所定の閾値以下であった判定の対象を当該特定の疾患のデータとして前記記憶装置に格納することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項12】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記判定手段による判定、報告書の作成、前記データベースの更新、及び前記表示手段による表示を指示するための入力手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項13】
生体光計測によって計測された被検体のヘモグロビン信号から被検体の疾患を判定する方法であって、
複数の疾患群のいずれかの疾患の診断が確立された複数の被検体について生体光計測によってヘモグロビン信号を計測し、各被検体のヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出し、これら特徴量を被検体の疾患毎にデータとして格納し、
診断すべき被検体について生体光計測によって計測されたヘモグロビン信号から複数の特徴量を抽出し、抽出された特徴量と前記疾患毎のデータとの類似度を算出し、最も類似度の高い疾患を前記診断すべき被検体の疾患とすることを特徴とする判定方法。
【請求項14】
請求項13記載の判定方法であって、
前記疾患の診断が確立された複数の被検体のヘモグロビン信号について主成分解析を行い主成分波形を抽出し、主成分波形から特徴量を抽出し、抽出された特徴量を当該被検体の疾患群のデータとして保存することを含む判定方法。
【請求項1】
被検体に照射する光を発生する光源部と、被検体内部を通過した光を検出し、被検体のヘモグロビン濃度変化に対応するヘモグロビン信号を生成する光計測部と、前記ヘモグロビン信号の特徴量を解析し、解析された特徴量から疾患を判定する判定手段と、前記被検体の疾患情報を表示する表示手段とを備えることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記判定手段は、
前記ヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出する手段、
疾患毎の特徴量をデータベースとして格納する記憶手段、
前記抽出手段が抽出した複数量の特徴量を解析し、前記記憶手段に格納された疾患毎の特徴量との類似度を判断する解析手段、および
前記解析手段によって判断された類似度を数量化する数量化手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項3】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、前記抽出手段が抽出した複数の特徴量と、記憶手段に格納された疾患毎の特徴量のデータとの類似度を、多変量分析により算出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項4】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、前記類似度を、前記抽出手段が抽出した複数の特徴量と前記疾患毎の特徴量のデータの重心とのマハラノビス距離を算出することにより求めることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項5】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、前記複数の特徴量を、所定の課題を与えた時のヘモグロビン量変化パターンから抽出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項6】
請求項5記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、課題開始直後のグラフの傾き、課題終了後のグラフの傾き、課題中の積分値A、課題終了後の積分値B、積分値比率(A/B)、最大値及び課題終了後波形の矩形波との相関値の少なくとも一つを前記特徴量として抽出することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項7】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記抽出手段は、ヘモグロビン信号として複数回の計測値の加算平均を用いることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項8】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記表示手段は、前記類似度をグラフとして表示することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項9】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記記憶手段は、少なくとも健常者群、統合失調症群及びうつ病群の特徴量をデータベースとして持つことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項10】
請求項1記載の生体光計測装置であって、前記被検体の判定結果を、生体光計測による計測データ及び画像データと一体として保存する記憶手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項11】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記解析手段は、特定の疾患との類似度が所定の閾値以下であった判定の対象を当該特定の疾患のデータとして前記記憶装置に格納することを特徴とする生体光計測装置。
【請求項12】
請求項2記載の生体光計測装置であって、前記判定手段による判定、報告書の作成、前記データベースの更新、及び前記表示手段による表示を指示するための入力手段を備えたことを特徴とする生体光計測装置。
【請求項13】
生体光計測によって計測された被検体のヘモグロビン信号から被検体の疾患を判定する方法であって、
複数の疾患群のいずれかの疾患の診断が確立された複数の被検体について生体光計測によってヘモグロビン信号を計測し、各被検体のヘモグロビン信号から複数種の特徴量を抽出し、これら特徴量を被検体の疾患毎にデータとして格納し、
診断すべき被検体について生体光計測によって計測されたヘモグロビン信号から複数の特徴量を抽出し、抽出された特徴量と前記疾患毎のデータとの類似度を算出し、最も類似度の高い疾患を前記診断すべき被検体の疾患とすることを特徴とする判定方法。
【請求項14】
請求項13記載の判定方法であって、
前記疾患の診断が確立された複数の被検体のヘモグロビン信号について主成分解析を行い主成分波形を抽出し、主成分波形から特徴量を抽出し、抽出された特徴量を当該被検体の疾患群のデータとして保存することを含む判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【国際公開番号】WO2005/025421
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513888(P2005−513888)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013121
【国際出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/013121
【国際出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
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