説明

生体内分解性人工器官

基礎部及び基礎部を覆う表面部を有する本体を備える人工器官。基礎部は、マトリクスをなす生体内分解性金属とこのマトリクス内に配置された腐食を促進する固着物とを含む。表面部は、マトリクスをなす生体内分解性金属を含む。表面部が生理的環境に曝されたときに表面部が第1の腐食速度を有し、基礎部が生理的環境に曝されたときに基礎部が前記第1の腐食速度より速い第2の腐食速度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体内分解性人工器官に関し、より詳細には、生体内分解性ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
人体内には、動脈等の血管や管腔等、様々な通路が存在する。これらの通路は、閉塞したり、脆弱になったりすることがある。例えば、腫瘍により閉塞したり、プラークにより狭窄したり、動脈瘤により脆弱化することがある。このような場合、医療用人工器官を用いて通路を再開通、強化、さらには通路を人工器官と交換することもできる。一般的には、人工器官は体内の管腔に配置される管状の部材である。人工器官の例としては、ステント、被覆されたステント、ステントグラフト、及び血管閉鎖ピンが挙げられる。
【0003】
人工器官はカテーテルを用いて体内に搬送可能である。カテーテルは、体内の所望部位へ搬送される間は、縮小、即ち小型化されている人工器官を補助する。所望部位に到達した人工器官は拡張し、例えば管腔の壁に接触する。
【0004】
人工器官の拡張機構は、人工器官を放射線状に拡張させるように動作する。例えば、拡張機構は、バルーン拡張式人工器官を搬送し、バルーンを搬送するカテーテルを拡張させる。バルーンの拡張により人工器官が変形し、拡張した人工器官が管腔壁に接触する所定の位置に固定される。その後バルーンは収縮され、カテーテルが引き出される。
【0005】
別の搬送手法においては、人工器官は、例えば弾性力又は物質の相転移により可逆的に収縮及び拡張する弾性材料により形成される。体内への導入時においては、人工器官は小型化された状態に拘束される。所望部位に到達し、例えば外側シース等の拘束器具を後退させることにより拘束が取り除かれると、人工器官は自らの内部弾性復元力により自己拡張する。
【0006】
人工器官は、増殖抑制剤等の薬剤を搬送することにより、再狭窄、すなわち治療部位における体の免疫反応による血管の再閉塞の虞を減らすこともできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は生体内分解性人工器官を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、基礎部及び基礎部を覆う表面部を有する本体を備える人工器官に関する。基礎部は、マトリクスをなす生体内分解性金属とこのマトリクス内に配置された腐食を促進する固着物とを含む。表面部は、マトリクスをなす生体内分解性金属を含む。表面部が生理的環境に曝されたときに表面部が第1の腐食速度を有し、基礎部が生理的環境に曝されたときに基礎部が前記第1の腐食速度より速い第2の腐食速度を有する。
【0009】
腐食を促進する固着物は、希ガス(ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、又はこれらの組み合わせ等)のナノ気泡を含んでいてもよい。ナノ気泡の平均直径は1〜600nmであり得る。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物は鉄、マグネシウム、又はこれらの組み合わせである。他の実施形態においては、腐食を促進する固着物は、生体内分解性金属と同じ成分を含み、表面張力を増加させることにより、腐食速度を速めている。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物は、生体内分解性金属より貴又は卑であり、生理的環境に曝されると生体内分解性金属と流電結合(galvanic couple)を形成する。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物は、生体内分解性金属よりも貴であり、生体内分解性金属の腐食速度を速めるアノードとして機能する。他の実施形態においては、腐食を促進する固着物は生体内分解性金属よりも卑であり、生体内分解性金属よりも速く腐食する。そして、腐食を促進する固着物が腐食すると、マトリクスの表面積が大きくなり、生体内分解性金属の腐食速度が速まる。
【0010】
表面部は腐食を促進する固着物を実質的に含んでいなくてもよい。表面部の厚さは例えば0.2〜3マイクロメートルである。いくつかの実施形態においては、表面部は、実質的に生体内分解性金属からなる。表面部32の厚さは例えば0.1〜3マイクロメートルである。表面部32は、実質的に平滑な上面を有し得る。「実質的に平滑な」という表現は、0.5μm以下のRを意味する。
【0011】
生体内分解性金属は鉄又は鉄の合金を含んでいてもよい。他の実施形態においては、生体内分解性金属はマグネシウム、亜鉛、タングステン、およびこれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0012】
人工器官はステントであってよい。他の実施形態においては、人工器官は、血管閉鎖ピンである。
本発明の別の実施形態は、人工器官の製造方法に関する。この製造方法は、生体内分解性金属を含む本体にイオンを注入することにより、生体内分解性金属のマトリクス内に腐食を促進する固着物を含む基礎部と、生体内分解性金属を含むとともに基礎部を覆う表面部とを形成する工程を含む。基礎部は、基礎部が生理的環境に曝されたときに生体内分解性金属からなる本体の表面部よりも速い腐食速度を有する。
【0013】
注入されたイオンは、生体内分解性金属のマトリクス内に希ガスのナノ気泡である腐食を促進する固着物を生成する希イオンであってよい。また、生体内分解性金属と反応して腐食を促進する固着物を形成するイオンであってもよい。いくつかの実施形態においては、イオンがIBAD法又はPIII法を用いたイオン注入処理により注入される。いくつかの実施形態においては、イオンの注入量が1×1016イオン/cm未満である。イオンは、少なくとも10keVの最小エネルギー(例えば、10〜100keV)にて注入できる。いくつかの実施形態においては、イオン注入処理における温度は100〜500度である。いくつかの実施形態においては、イオン注入処理の温度は、生体内分解性金属の溶解温度(例えば、マグネシウムをベースとする生体内分解性合金の場合は一般的に100〜150度、鉄をベースとする生体内分解性合金の場合は一般的に200〜350度)の約0.2倍の温度である。
【0014】
表面部は腐食を促進する固着物を実質的に有していなくてもよい。いくつかの実施形態においては、人工器官は、腐食を促進する固着物の注入後に配置される追加の表面層を有する。
【0015】
生体内分解性金属からなる本体は、ステント又はステントの前駆体であってよい。他の実施形態においては、生体内分解性金属からなる本体は、血管閉鎖ピン又は血管閉鎖ピンの前駆体である。
【0016】
1つ又は複数の実施形態が添付の図面及び下記に記載されている。他の特徴、目的、及び効果は下記の記載、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】拡張したステントの例を示す斜視図。
【図2A】一実施形態による、注入されたイオンの皮下層を有するステントストラットを示す断面図。
【図2B】一実施形態による、注入されたイオンの皮下層を有するステントストラットを示す断面図。
【図2C】一実施形態による、注入されたイオンの皮下層を有するステントストラットを示す断面図。
【図3】ステントストラットの腐食様態を示す図。
【図4】ステントにイオンを注入する環境の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
複数の図における同じ符号は、同じ構成要素を表す。図1に示すように、ステント20は複数のストラットにより形成された筒状部材として形成可能である。ストラットは、複数のバンド22、及び近接するバンドの間に延びてバンドを連結する複数のコネクタ24を有する。使用時には、バンド22は最初の状態の小径からより大きい径に拡張し、ステント20が血管壁に接触する。これにより、血管の開通性が維持される。コネクタ24がステント20に可撓性及び順応性を与えるため、血管の輪郭にステント20が合うようになっている。
【0019】
ステントは生体内分解性金属を含む。生体内分解性金属の例としては、鉄、マグネシウム、タングステン、亜鉛、及びこれらの合金が挙げられる。例えば、生体内分解性金属は、最大20%のマグネシウム、最大10%の銀、及び最大5%の炭素を含む生体内分解性鉄合金である。また例えば、最大9%のアルミニウム、最大5%の希土類金属、最大5%のジルコニウム、最大5%のリチウム、最大5%のマグネシウム、最大10%の銀、最大5%のクロミウム、最大5%のシリコン、最大5%のスズ、最大6%のイットリウム、及び最大10%の亜鉛を含む生体内分解性マグネシウム合金である。好適な生体内分解性マグネシウム合金には、3%の亜鉛及び1%のジルコニウムを含むZK31、6%の亜鉛及び1%のジルコニウムを含むZK61、3%のアルミニウム及び1%の亜鉛を含むAZ31、9%のアルミニウム及び1%の亜鉛を含むAZ91、4%のイットリウム及び3%の希土類金属を含むWE43、並びに5%のイットリウム及び4%の希土類金属を含むWE54が含まれる。生体内分解性金属を含むステントは体内の通路を再開通及び/又は強化するが、時間が経つと分解され、治療工程の完了後には体内の通路内に存在しなくなる。生理的環境に曝された際の腐食速度は、使用する生体内分解性金属及びステントストラットの構造により異なる。したがって、ステントストラットの腐食特性に基づいて、所望の期間にわたり所望の構造特性を維持できるようにステントを構成可能である。
【0020】
図2A〜2Cに示すように、ステントストラット(例えばバンド22及び/又はコネクタ24)は、表面部32及び基礎部34を含む。いくつかの実施形態においては、図2Aに示すように、基礎部34はステントストラットの周囲に沿って配置される。いくつかの実施形態においては、図2B及び2Cに示すように、基礎部34はステントストラットの選択された側面に沿って配置され、例えば、ステントの内径及び/又は外径に沿って配置される。いくつかの実施形態においては、図2Cに示すように、ステントストラットの基礎部34はステントストラットの外径に沿って配置され、追加コーティング38が内径に沿って配置される。
【0021】
表面部32は、基礎部34の上に重ねられる。表面部32は生体内分解性金属を含み、基礎部34は生体内分解性金属のマトリクス内に腐食を促進する固着物28を含む。ステントが生理的環境に植え込まれると、表面部32が第1の速度で腐食する。表面部32が腐食して基礎部34が生理的環境に曝されると、基礎部34が第1の速度よりも速い第2の速度で腐食する。このような腐食様態の例を図3に示す。この図が示すように、ストラットの厚さは時間の経過につれて薄くなる。最初の腐食期間42においては、表面部32は第1の速度で腐食する。この最初の腐食期間42の間、生体内分解性ステントは物理的支持を供する。表面部32の腐食により基礎部34が生理的環境に曝されると、生体内分解性金属のマトリクス内に腐食を促進する固着物28が存在することにより、腐食のより速い期間44が始まる。第2の腐食速度よりも遅い第1の腐食速度を有するようステントを構成することにより、一定の腐食速度しか有しないステントに比べてステントストラットの元の寸法を小さくすることができる。これは、第1の腐食速度があることにより、最初の腐食期間42中の最初の治療工程においてステントの構造特性が維持されるからである。また、腐食のより速い期間44を設けることにより、弱くなったステントストラットが体内の通路に残留する期間が短くなる。
【0022】
表面部32の厚さは例えば0.1〜3マイクロメートルである。表面部32はほぼ平滑な上面を有し得る。「実質的に平滑な」という表現は、0.5μm以下のRを意味する。表面部32は、基礎部34に含まれる生体内分解性金属と同じ生体内分解性金属を含んでいてもよい。表面部32は、腐食を促進する固着物28を実質的に含んでいなくてもよい。いくつかの実施形態においては、表面部32は生体内分解性金属以外の成分を実質的に含まない。いくつかの実施形態においては、ステント20は、腐食を促進する固着物28の配置後に配置される追加の表面層を有する。例えば、蒸着法やパルスレーザー堆積法により表面部32に生体内分解性金属を堆積させることによりこの追加の表面層を形成可能である。追加の表面層の厚さは例えば10マイクロメートル以上である。
【0023】
基礎部34は、腐食を促進する固着物28を含む。いくつかの実施形態においては、基礎部34の厚さは1マイクロメートル以上である。いくつかの実施形態においては、2〜3マイクロメートルである。腐食を促進する固着物28は、イオンを基礎部34に注入するエネルギーを用いてイオンを注入することにより基礎部34内に配置される。この際、表面部32は、腐食を促進する固着物28を含まない状態のままである。注入時のイオンのエネルギーレベルにより、注入の深さが決定される。例えば、腐食を促進する固着物28は、10keVの最小エネルギーにてイオンを注入することにより形成される。いくつかの実施形態においては、10〜100keVのエネルギーによりイオンが注入される。表面部32及び基礎部34の厚さは、イオンの注入に用いられるエネルギーにより決まる。基礎部34の厚さ及び深さは部分的に生体内分解性金属内に注入されたイオンの拡散によっても左右される。注入されたイオンは、表面に対して垂直をなす圧較差をもたらし、この圧較差によりイオンがステントストラットにさらに押し込まれる。腐食を促進する固着物28を形成するためにイオンを注入すると、各固着物28の周りに高応力領域及び/又は圧縮領域が形成されるため、基礎部34の腐食速度が上がる。いくつかの実施形態においては、イオンビームアシスト法(IBAD法)又はプラズマ浸漬イオン注入法(PIII法)によりイオンが注入される。いくつかの実施形態においては、イオン注入処理における温度は100〜500度である。いくつかの実施形態においては、イオン注入処理の温度は、生体内分解性金属の溶解温度(例えば、マグネシウムをベースとする生体内分解性合金の場合は一般的に100〜150度、鉄をベースとする生体内分解性合金の場合は一般的に200〜350度)の約0.2倍の温度である。
【0024】
図4に、PIII法を行う環境の例を示す。PIII法を行うために、ステント20の前駆体がチャンバ50に入れられる。ステント20の前駆体は生体内分解性金属(市販の純鉄等)を含む。チャンバ50は真空54によりもたらされる真空チャンバであり、プラズマ56を収容する。プラズマ56は、腐食を促進する固着物28を形成するためにステント20に注入されるイオンを含む。ステント20の前駆体は、パルス発生器58からの負電圧により繰り返しパルスされる。負電圧のパルスによりステント20から電子が離れ、正イオン60が負荷電したステント20に引き寄せられる。その結果、正イオンがステント20の各面に当たり、ステント20内に埋め込まれたり、ステント20の表面に堆積したりする。
【0025】
腐食を促進する固着物28は希ガスのナノ気泡を含む。希ガスのナノ気泡を含むことにより生体内分解性金属の表面積が増えるため、その結果、生体内分解性金属の腐食速度が速まる。希ガスのナノ気泡は、希イオンを注入することにより生体内分解性金属のマトリクス内に形成される。例えば、腐食を促進する固着物28は、ヘリウムガス、アルゴンガス、及び/又はクリプトンガスのナノ気泡を含む。ナノ気泡の平均径は例えば1〜600nmである。希イオンを注入して基礎部34内に希ガスのナノ気泡を形成する際には、ナノ気泡が表面部32に移動しないように注入量が調節される。いくつかの実施形態においては、希イオンの注入量は、1×1016イオン/cm未満である。
【0026】
腐食を促進する固着物28は、腐食を速める固形物を含んでいてもよい。例えば、生体内分解性金属と反応するか、もしくは生体内分解性金属と混合して合金となるイオンを注入可能である。例えば、腐食を促進する固着物28は、銀、銅、及び/又はマンガンを含む。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28は、生体内分解性金属と同じ成分を含み、表面張力を増加させることにより、腐食速度を速めている。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28は、生理的環境に曝されるとマトリクスから分離し、これにより基礎部34の腐食速度が速められる。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28は、生体内分解性金属より貴又は卑であり、生理的環境に曝されると生体内分解性金属と流電結合(galvanic couple)を形成する。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28は、生体内分解性金属よりも貴であり、生体内分解性金属の腐食速度を速めるアノードとして機能する。いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28は生体内分解性金属よりも卑であり、生体内分解性金属よりも速く腐食する。そして、腐食を促進する固着物28が腐食すると、マトリクスの表面積が大きくなり、生体内分解性金属の腐食速度が速まる。例えば、銀と銅は流電結合をなし、鉄の腐食を速める。
【0027】
いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物28がステントストラットの中心部36内には入り込まない。図3に示すように、腐食を促進する固着物28を含んだ基礎部34が腐食すると、ステントストラットの残りの部分はバルク腐食期間46の間腐食し続ける。バルク腐食期間46における腐食速度は、腐食のより速い期間44の腐食速度より遅いが、最初の腐食期間42よりは速い。これはステントの腐食のばらつきによりステントストラット表面が増加するためである。
【0028】
ステント20は所望の形状及びサイズに形成してよい(浅大腿動脈ステント、冠状動脈ステント、大動脈ステント、末梢血管ステント、胃腸ステント、泌尿器ステント、神経ステント等)。用途に応じて、ステントの直径は例えば1〜46mmである。いくつかの実施形態においては、冠状動脈ステントの拡張時の直径は、2〜6mmである。いくつかの実施形態においては、末梢血管ステントの拡張時の直径は、5〜24mmである。いくつかの実施形態においては、胃腸及び/又は泌尿器ステントの拡張時の直径は6〜30mmである。いくつかの実施形態においては、神経ステントの拡張時の直径は、1〜12mmである。腹部大動脈瘤(AAA)ステント及び胸部大動脈瘤(TAA)ステントの直径は、例えば約20〜46mmである。
【0029】
ステント20は、表面部32及び基礎部34を有する1つ又は複数のストラットを含む。いくつかの実施形態においては、ステントの全体が生体内分解性を有する。他の実施形態においては、ステントが、生体内分解性を有する部分と有しない部分とを含む。いくつかの実施形態においては、ステント20のバンド22及び/又はコネクタ24に選択的な処理が施されており、所定の場所においては所定のパターンでより速く腐食するステントとなっている。これにより、ステントの全体的な腐食工程の制御が可能となっている。例えば、コネクタ24の腐食に優先順位を設けることにより、バンド24の歪みが緩和される。優先的に腐食する領域は、腐食を促進する固着物28の量及び/又は種類を場所によって異ならせることにより形成可能である。もしくは、領域によって表面の厚さを変えることや、腐食を促進する固着物28を有しない部分を設けることにより形成可能である。
【0030】
いくつかの実施形態においては、ステント20は1つ又は複数の治療薬を放出する。「治療薬」という用語は、1つ又は複数の「治療薬」又は「薬剤」を含む。「治療薬」及び「薬剤」という単語は置き換え可能であり、医薬有効成分、脂質等のキャリアベクターを有する核酸及び有しない核酸、圧縮剤(ヒストン等)、ウイルス(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、a−ウイルス等)、ポリマー、抗生物質、ヒアルロン酸、遺伝子治療薬、タンパク質、細胞、幹細胞、及びこれらの組み合わせを含む。また、これらは標的配列を有していてもよいし、いなくてもよい。必要に応じて、細胞の機能及び生存を維持するため、媒介を伴う搬送を行う。治療薬の一般的な例としては、パクリタキセルが挙げられる。
【0031】
いくつかの実施形態においては、ステント20が、表面部32を覆う1つ又は複数のコーティングを有する。いくつかの実施形態においては、表面コーティングにより表面部32の腐食がさらに遅くなっている。いくつかの実施形態においては、コーティングは、治療薬を含む薬剤溶出コーティングである。
【0032】
ステント20は、カテーテル搬送システムを用いて、搬送及び拡張等の操作を行ってもよい。カテーテルシステムに関しては、Wangに付与された米国特許第5,195,969号明細書、Halminに付与された米国特許第5,270,086号明細書、及びRaeder−Devensに付与された米国特許第6,726,712号明細書に記載されている。ステント及びステントの搬送の実例としては、ミネソタ州メープルグローブのボストン・サイエンティフィック・サイムド社によるSentinol(登録商標)システムが挙げられる。
【0033】
いくつかの実施形態においては、ステントは、覆われたステント又はステントグラフトの一部である。いくつかの実施形態においては、ステントは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、膨張PTFE、ポリエチレン、ウレタン、又はポリプロピレンからなり、生体適合性を有する、非多孔性又は半多孔性のポリマーマトリクスを含んだり、このようなポリマーマトリクスに付着したりしている。
【0034】
いくつかの実施形態においては、腐食を促進する固着物を含む基礎部を覆う表面部を有するワイヤを形成し、このワイヤを筒状部材になるよう編む及び/又は織ることによりステントが形成されている。
【0035】
本明細書で言及されている全ての刊行物、特許出願、特許、及び参照文献は、言及することによりその内容のすべてが本明細書で開示されることとする。
他の実施形態は特許請求の範囲に記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクスをなす生体内分解性金属及びこのマトリクス内に配置された腐食を促進する固着物を含む基礎部と、
マトリクスをなす生体内分解性金属を含むとともに基礎部を覆う表面部と、を有する本体を備え、
前記表面部が生理的環境に曝されたときに表面部が第1の腐食速度を有し、前記基礎部が生理的環境に曝されたときに基礎部が前記第1の腐食速度より速い第2の腐食速度を有する人工器官。
【請求項2】
前記腐食を促進する固着物が希ガスのナノ気泡を含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
前記ナノ気泡がヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、又はこれらの組み合わせを含む請求項2に記載の人工器官。
【請求項4】
前記ナノ気泡の平均直径が1〜600nmである請求項2に記載の人工器官。
【請求項5】
前記腐食を促進する固着物が銀を含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項6】
前記腐食を促進する固着物がマグネシウムを含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
前記腐食を促進する固着物が前記生体内分解性金属より貴であり、腐食を促進する固着物が生理的環境に曝されたときに腐食を促進する固着物が生体内分解性金属と流電結合をなし、腐食を促進する固着物がアノードとして機能する請求項1に記載の人工器官。
【請求項8】
前記腐食を促進する固着物が前記生体内分解性金属より卑であり、腐食を促進する固着物が生理的環境に曝されたときに腐食を促進する固着物が生体内分解性金属と流電結合をなし、腐食を促進する固着物がカソードとして機能する請求項1に記載の人工器官。
【請求項9】
前記表面部が前記腐食を促進する固着物を含まない請求項1に記載の人工器官。
【請求項10】
前記表面部が生体内分解性金属からなる請求項1に記載の人工器官。
【請求項11】
前記表面部が実質的に平滑な上面を有する請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
前記表面部の厚さが0.1〜3マイクロメートルである請求項1に記載の人工器官。
【請求項13】
前記生体内分解性金属が鉄又は鉄の合金を含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項14】
前記人工器官がステントである請求項1に記載の人工器官。
【請求項15】
生体内分解性金属を含む本体にイオンを注入することにより、生体内分解性金属のマトリクス内に腐食を促進する固着物を含む基礎部と、生体内分解性金属を含むとともに基礎部を覆う表面部とを形成する工程を含み、基礎部が生理的環境に曝されたときに生体内分解性金属からなる本体の表面部よりも速い腐食速度を基礎部が有する、人工器官の製造方法。
【請求項16】
注入されたイオンが、前記生体内分解性金属のマトリクス内に希ガスのナノ気泡である前記腐食を促進する固着物を生成する希イオンである請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
注入されたイオンが前記生体内分解性金属と反応して前記腐食を促進する固着物を形成する請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】
前記イオンがIBAD法又はPIII法を用いたイオン注入処理により注入される請求項15に記載の製造方法。
【請求項19】
イオンの注入量が1×1016イオン/cm未満である請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
少なくとも10keVの最小エネルギーにて前記イオンが注入される請求項15に記載の製造方法。
【請求項21】
イオン注入処理における温度が100〜500度である請求項15に記載の製造方法。
【請求項22】
前記生体内分解性金属からなる本体がステント又はステントの前駆体である請求項15に記載の製造方法。
【請求項23】
前記表面部が腐食を促進する固着物を含まない請求項15に記載の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−522677(P2011−522677A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513633(P2011−513633)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/046750
【国際公開番号】WO2009/152153
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】