生体内管腔体評価装置
【課題】生体内の管腔体を可及的に少ない負担で、正確に評価することができる生体内管腔体評価装置を提供する。
【解決手段】圧力容器24は、生体の腕において長手方向に位置する上腕34の中間位置と前腕22の中間位置との間を封止する環状膨張袋24f、環状膨張袋24gとを備え、上記腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の動脈44(管腔体)を圧力容器24に収容する場合でも圧力容器24を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、動脈44(管腔体)の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。
【解決手段】圧力容器24は、生体の腕において長手方向に位置する上腕34の中間位置と前腕22の中間位置との間を封止する環状膨張袋24f、環状膨張袋24gとを備え、上記腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の動脈44(管腔体)を圧力容器24に収容する場合でも圧力容器24を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、動脈44(管腔体)の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置に関し、特に管腔体の断面形状を変化させるために該生体の一部を収容する圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、動脈、静脈、その他の生体内管腔体の寸法や柔軟性を非侵襲測定により客観的に測定し評価することは、たとえば、動脈硬化の進行度合いを逐次評価し、心筋梗塞、血管性脳梗塞、閉塞性動脈硬化や動脈瘤などの重篤な症状に至る前に治療を施すための情報として有効であることは良く知られている。
【0003】
血管壁の弾性を評価するために、所定距離Lだけ離れた動脈上の2位置の間で脈波の時間差DTに基づいて伝播速度PWV( =L/DT)を測定し、その伝播速度PWVを用いて動脈硬化を評価する方法や、収縮期血圧( 最高血圧値) Ps のときの血管径Ds と拡張期血圧( 最低血圧値) Pd のときの血管径Dd とをたとえば1心拍中にそれぞれ記録し、スティフネス・パラメータβ[ =ln( Ps/Pd ) ÷( Ds /Dd −1 ) ] を算出し、そのスティフネス・パラメータβを用いて動脈硬化を評価する方法が知られている。たとえば、非特許文献1および非特許文献2に記載されたものがそれである。
【0004】
これに対し、より広い圧力範囲で測定するために、水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定する方法が提案されている。たとえば、非特許文献3に記載の血管の評価方法がそれである。これによれば、測定時の生理的圧力範囲或いは血管壁への加圧により、血管壁の内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)の範囲が、拡張期血圧を下限値とし且つ収縮期血圧を上限値とする圧力範囲から、その下限値を拡張期血圧よりも低い値まで拡大されるので、その拡大された範囲で血管の弾性特性を知ることができる。
【0005】
しかしながら、上記従来の血管の弾性特性を測定する技術では、経壁圧力PAの上限値が収縮期血圧までの圧力範囲でしか血管の弾性特性を知ることができないという欠点があった。一般に、血管の弾性特性は非線型であり、血圧すなわち経壁圧力PAが高くなるに伴って、血圧変化に対する血管径Dの変化が急激に減少し、動脈硬化ではそのような特性が顕著に現れる。特に、加齢に伴う動脈硬化等による血管壁の硬化の場合には、比較的高血圧値領域において上記の血圧変化に対する血管径の変化が急峻に減少する特性が現れる。このため、診断や予防のために血管弾性の変化を正確に知るためにはその経壁圧力PAの上限値である収縮期血圧値を超える高い圧力領域で血管弾性特性を測定して診断に用いることが望まれるが、上記特許文献3に記載の従来の方法では、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができず、管腔体の弾性特性の精度が十分に得られないので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られ難いという欠点があった。
【0006】
図17は、経壁圧力PAと動脈の柔軟度を示すコンプライアンスCCとの関係を、健常者NAD、軽度の動脈硬化患者I、中度の動脈硬化患者II、重度の動脈硬化患者III について示している。軽度の動脈硬化患者Iでは、100mmHg付近のコンプライアンスは一旦増加して減少し、局部的に健常者NADを超えるのに対し、高圧領域のコンプライアンスは連続的に減少する。すなわち、100mmHg付近で変化が現れなくも、150mmHg以上の高圧領域においては先に変化が現れる。このことからも、従来の方法では、動脈硬化の診断精度も十分に得られ難いという欠点があった。
【0007】
これに対して、特許文献1に示されているように、生体の一部を収容する圧力容器を設け、収容生体の一部がその圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を断面形状測定装置によって非侵襲で測定するとともに、表示制御手段によってその圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とが、表示器に表示される生体内管腔体評価装置が提案されている。これによれば、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化、すなわち管腔体の力学的性質が表示器に表示されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−212366号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「動脈波の臨床」2003年4月10日 株式会社メディカルレビュー社発行、94−95頁等
【非特許文献2】「メディカルテクノロジー」2006年1月15日 医歯薬出版株式会社発行、35−40頁
【非特許文献3】In Vivo Human Brachial Artery Elastic Mechanics; Alan J. Bank et al; Circulation 1999; vol.100; 41-47
【非特許文献4】Biorheology; 1984;21(5):723-34. Richter HA, Mittermayer C: Volume elasticity, modulus of elasticity and compliance of normal and arteriosclerotic human aorta.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の生体内管腔体評価装置に用いられる圧力容器は、生体の一部を挿入するための単一の貫通穴を備え、その穴を通して生体の一部が容器内に収容されるように構成されている。このため、測定精度を得るために比較的大径の管腔体の形状変化を測定しようとすると圧力容器が大きくなって圧迫部位も大きくなることから、被測定者の物理的および精神的な負担が大きくなるとともに、特に神経系の影響を受け易い動脈の断面形状を測定する場合には測定値に影響するので、安定した測定或いは高精度の生体内管腔体評価が十分に得られなくなる場合があった。
【0011】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、生体内の管腔体を可及的に少ない負担で、正確に評価することができる生体内管腔体評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 生体の一部を収容した状態で、負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させることが可能な圧力容器と、該圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を非侵襲で測定する管腔体の断面形状測定装置とを備え、該生体の一部内に位置する管腔体の断面形状値に基づいて該管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置であって、(b) 前記圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明の生体内管腔体評価装置によれば、圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の管腔体を収容する場合でも圧力容器を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、管腔体の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。特に、圧力容器を通した生体の先端部が被測定者に見えることから、精神的な安定感が得られる。
【0014】
ここで、好適には、前記第1封止装置および/または第2封止装置は、圧力容器が生体の四肢の長手方向の第1位置と第2位置との間を収容したり、生体の四肢の先端部全体に収容したりするに拘らず周方向に連なる環状膨張袋を備え、該環状膨張袋を膨張させることで前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする。このようにすれば、環状膨張袋を膨張させることで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器と外部との間の封止が安定して得られる。
【0015】
また、好適には、前記第1封止装置および/または第2封止装置は、圧力容器が生体の四肢の長手方向の第1位置と第2位置との間を収容したり、生体の四肢の先端部全体に収容したりするに拘らず内周側端縁部が前記四肢に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる一対の可撓性環状膜を前記圧力容器の内外に備え、該圧力容器内とその外部の大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする。このようにすれば、圧力容器内とその外部の大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器と外部との間の封止が安定して得られる。
【0016】
また、好適には、前記生体内管腔体評価装置は、表示器と、前記圧力容器の内圧の変化と該圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを、前記表示器に表示させる表示制御手段とを、含むことを特徴とする。このようにすれば、生体の一部が圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値が断面形状測定装置によって非侵襲で測定されるとともに、表示制御手段によってその圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とが、表示器に表示される。このように、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化、すなわち管腔体の力学的性質が表示器に表示されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、管腔体の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、管腔体の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0017】
また、好適には、前記表示制御手段は、少なくとも前記断面形状値と前記圧力容器内の圧力値とを変数とする多次元座標内において、前記圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示す複数の点を、前記表示器に連続的に表示させることから、その表示に基づいて管腔体の力学的性質を把握でき、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。
【0018】
また、好適には、前記表示制御手段は、前記圧力容器の内圧と前記管腔体の断面形状値とを、時間軸に沿って連続的に表示させることから、測定中の圧力容器の内圧と前記管腔体の断面形状値とを把握することができ、測定の異常を容易に判定したり、その異常の対処を速やかにすることができる。
【0019】
また、好適には、前記圧力容器の内圧を、予め設定された負の圧力である最低圧力値と予め前記生体の収縮期血圧以上に設定された正の圧力である最高圧力値との間で変化させる圧力制御手段を、含むことから、この最低圧力値の設定を変更することにより、経壁圧力の変化範囲のうちの高圧領域を所望の範囲に設定し、その高圧領域において管腔体の力学的性質を測定することができる。
【0020】
また、好適には、前記断面形状測定装置は、前記生体の一部内の超音波反射信号から、前記管腔体の径、管壁の厚み、周長、断面積のうちの少なくとも1つを測定することから、その測定値により管腔体の力学的性質を正確に得ることができる。
【0021】
また、好適には、生体の一部が圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値が断面形状測定装置によって非侵襲で測定されるとともに、評価値算出手段によってその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいて管腔体の力学的性質を示す評価値が算出され、出力手段によって、その評価値算出手段により算出された前記管腔体の力学的性質を示す評価値が出力される。このように、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいてその管腔体の力学的性質を示す評価値が算出されて出力されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、管腔体の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、管腔体の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0022】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、前記圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいて、前記管腔体の柔軟性を示す評価値および/または前記管腔体の収縮能を示す評価値を算出することから、その管腔体の柔軟性を示す評価値および/または管腔体の収縮能を示す評価値から、管腔体の力学的性質や機能を正確に得ることができる。
【0023】
また、好適には、前記管腔体の柔軟性を示す評価値は、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、および増分弾性係数Eincの少なくとも1つであり、前記管腔体の収縮能を示す評価値は、血管壁収縮率SR、血管壁収縮時定数τの少なくとも1つであることから、管腔体の力学的性質や機能を正確に得ることができる。
【0024】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、経壁圧力の変化範囲のうちの予め設定された高圧領域において得られた前記管腔体の力学的性質を示す値と前記経壁圧力の変化範囲のうちの予め設定された低圧領域において得られた前記管腔体の力学的性質を示す値との比が算出されるので、その比に基づいて管腔体の硬化状態が正確に評価できる。
【0025】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、前記圧力容器を予め設定された減圧値だけ減圧したときの前記管腔体の断面形状値の増加値と前記圧力容器を予め設定された増圧値だけ増圧したときの前記管腔体の断面形状値の減少値との比が算出されるので、その比に基づいて管腔体の硬化状態が正確に評価できる。
【0026】
また、好適には、前記生体の一部内に位置する管腔体は、その生体の一部内の動脈であることから、生体の動脈の硬化状態を正確に評価できる。
【0027】
また、好適には、前記表示制御手段は、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを表示器に表示させる場合、グラフ表示によってそれら圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示してもよいが、数値表示によって圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示してもよい。たとえば、圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する管腔体の断面形状の変化との比、割合を示す数値が表示されてもよいし、圧力容器の内圧の変化値と管腔体の断面形状の変化値とを対比可能に表示されてもよい。
【0028】
また、好適には、前記表示制御手段は、断面形状値を示す軸と前記圧力容器内の圧力を示す軸との二次元座標内において、前記圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示す複数の点を、前記表示器に連続的に表示させてもよい。また、断面形状値と圧力容器内の圧力値を、径と角度とを用いて表す極座標等の他の座標であってもよい。また、上記座標内においては、複数の測定点を含む曲線で表示されてもよいが、相互に離散した複数の測定点のみで表示されてもよい。
【0029】
また、前記圧力容器の圧力を制御する圧力制御手段が用いる経壁圧力の変化範囲の最低圧力値に対応する圧力容器内の最高圧力値、および経壁圧力の変化範囲の最高圧力値に対応する圧力容器内の最低圧力値の決定や、スティフネス・パラメータβの算出に用いられる生体の血圧値は、予め測定された値が手動操作によって入力された値が用いられてもよい。さらに好適には、生体の一部に対する圧迫圧を変化させたときにその生体の一部内の動脈から発生する脈波或いはその動脈の形状の振幅の変化に基づいてその生体の血圧値を自動的に測定する血圧測定手段が設けられ、その測定値に基づいて上記圧力容器内の最高圧力値および/または最低圧力値が自動的に算出されてもよい。この圧力容器内の最高圧力値は、たとえば生体の収縮期血圧に決定される。また、圧力容器内の最低圧力値( 負の値) は、200乃至250mmHg程度に予め設定された経壁圧力の上限値から収縮期血圧を差し引いた値に決定される。また、その収縮期血圧( 最高血圧) に代えて、拡張期血圧が用いられてもよい。
【0030】
また、好適には、前記管腔体の断面形状値は、その管腔体の径や、管壁の厚みであってもよいが、管腔体の周長や、断面積などであってもよい。要するに、管腔体の断面形状の大きさに関連する値であればよい。
【0031】
また、好適には、上記血圧測定手段によって血圧測定が行われるに際しては、上記生体の一部はカフを用いて圧迫されてもよいが、前記圧力容器を用いて圧迫されてもよい。この場合には、圧力容器が兼用されるので、カフおよびその圧力を制御するための圧力制御弁等が不要となる利点がある。
【0032】
また、前記生体内管腔体は、好適には、前記生体の一部内に位置する動脈であるが、静脈等の循環器、肺等の呼吸器、消化器官、膀胱等のその他の管腔体であってもよい。また、生体の四肢としては、前腕のみならず、手首、上腕部、脚部、大腿部、足首などでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例の生体内管腔体評価装置の構成を概略説明するブロック線図である。
【図2】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、縦断面図である。
【図3】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、図2のIII-III 視横断面図である。
【図4】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、右側面図である。
【図5】図1の表示制御部によって測定中に逐次表示される動脈の径および壁厚の表示例を示す図である。
【図6】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈径と経壁圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図7】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈壁厚と経壁圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図8】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈径と圧力容器内圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図9】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈壁厚と圧力容器内圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図10】図1の生体内管腔体評価装置の本体の制御作動の要部を説明するフロ−チャ−トである。
【図11】水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定した場合の、動脈に対する圧迫圧力の変化に対応して変化する動脈の径Dの変化を示す図である。
【図12】圧力容器を負圧としたときにその圧力容器内の被測定者の動脈径が一旦増加したあと、対数曲線で減少する所謂Bayliss 効果を示す図である。
【図13】本発明の他の実施例における圧力容器に備えられた封止装置の構成を示す縦断面図である。
【図14】本発明の他の実施例における圧力容器に備えられた封止装置の他の構成を示す縦断面図である。
【図15】血圧測定部が圧力容器を用いた血圧測定を実行する場合の作動を説明するタイムチャ−トである。
【図16】血圧測定部が圧力容器を用いた血圧測定を実行する場合の他の作動を説明するタイムチャ−トである。
【図17】健常者、軽度の動脈硬化患者、中度の動脈硬化患者、重度の動脈硬化患者について、動脈のコンプライアンスと経壁圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施例の生体内管腔体評価装置10を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0035】
図1は、生体内管腔体評価装置10の構成を説明するブロック線図である。生体内管腔体評価装置10は、所謂CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を含み、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMなどに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するマイクロコンピュータで構成された本体( 電子制御装置) 12と、その本体12に操作信号を入力するためにキーボード、マウス等により構成された入力操作装置14と、本体12の出力信号によりグラフ画像、記号などを表示する画像表示可能な表示器16を有する画像表示装置18と、を備えている。上記本体12の制御機能は、複数のブロックにより示されている。
【0036】
また、生体内管腔体評価装置10は、被測定者( 生体)20の上腕34を収容する圧力容器24と、その圧力容器24内の圧力を負圧から正圧までの圧力範囲で制御するために空気ポンプ26の吸引路28および吐出路30を選択的に圧力容器24に接続する圧力制御弁32と、血圧測定に際して被測定者( 生体)20の他方の上腕35に巻回されたカフ36の圧力を空気ポンプ38を元圧として制御する圧力制御弁40とを備えている。
【0037】
さらに、生体内管腔体評価装置10は、上記上腕34の皮膚42に接触するように圧力容器24に保持されて、その皮膚42の直下の動脈44の断面画像( 断面形状)を検出するための超音波プローブ(超音波探触子)46と、その超音波プローブ46から超音波を発信させるとともにその超音波プローブ46により反射波を受信し、超音波反射信号SRを本体12へ出力する超音波駆動制御装置48と、被測定者20に装着された複数の電極50を備えてその被測定者20に心拍に同期して発生する心電誘導信号を本体12へ出力する心電誘導装置52とを備えている。上記超音波プローブ46は、通常、動脈44を交差する方向の直線に沿ってアレイ状に配列された多数個の振動子(たとえば圧電セラミックス)を下端面すなわち押圧面に備えており、上記超音波駆動制御装置48は、それら多数の振動子のうちの一部の振動子を順次駆動して超音波を放射させる送信回路48aと、生体組織内から反射される反射波をそれら振動子により受信させて反射波を取り出す受信回路48bと、その受信回路48bから出力される受信信号を検波して本体12へ出力する検波回路48cとを備えている。上記超音波プローブ46は、断面形状測定装置の一部を構成している。
【0038】
本体12の超音波駆動制御部56は、超音波駆動制御手段に対応するものであり、予め設定されたプログラムに従って、心電誘導装置52からの心電誘導信号を受ける毎に、それに同期して超音波アレイを構成する一列に配列された多数個の超音波振動子(圧電セラミックス)のうち、その端から、一定数の超音波振動子群毎に所定の位相差を付与しつつ10MHz程度の周波数でビームフォーミング駆動することにより超音波振動子の配列方向において収束性の超音波ビームを血管44に向かって順次放射させるとともに、その放射毎の反射波を受信させ、受信信号を本体12へ入力させる。また、上記超音波アレイの放射面には、その超音波振動子の配列方向に直交する方向に超音波ビームを収束させるための音響レンズが設けられている。
【0039】
図2は圧力容器24の縦断面を示し、図3はその圧力容器24の横断面を示し、図4は圧力容器24の側面( 端面) を示している。圧力容器24は、管状部材から構成された円筒状の外周壁24aと、その外周壁24aの端部を気密に塞ぐ一対の端壁24bおよび端壁24cとから比較的気密に構成されている。一対の端壁24bおよび端壁24cには、外側に突き出す一対の円筒状部24iおよび24jと、生体の四肢たとえば前腕22を差し通すために一対の円筒状部24iおよび24jの内周面に続いて一対の端壁24bおよび端壁24cに形成された一対の貫通穴24dおよび貫通穴24eと、その貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止するために貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された周方向に連なる軟質樹脂或いは合成ゴム製の一対の環状膨張袋24fおよび24gとを備えている。これら一対の環状膨張袋24fおよび24gは、圧力容器24とそれに収容される四肢たとえば腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間をそれぞれ封止する第1封止装置および第2封止装置として機能している。
【0040】
上記圧力容器24の外周壁24aの上部には、上方へ突き出す角箱状の柱状壁24hが設けられており、柱状壁24hに収容される状態で超音波プローブ46が、上記圧力容器24内において上腕34の皮膚42に接触するように装着されている。この超音波プローブ46は、多軸駆動装置46eを介して圧力容器24内に装着された超音波アレイ探触子46fを備えている。多軸駆動装置46eは、圧力容器24に上下位置調節機構46gを介して固定された基台46aと、動脈44に直交するX軸方向であってその動脈44付近を通る揺動軸心を中心とする揺動角度を位置決めする揺動角度駆動装置46bと、そのX軸方向の位置決めを行うX軸駆動装置46cと、垂直な軸心まわりの回転角度を位置決めする回転角度駆動装置46dとから成る。超音波アレイ探触子46fは、たとえば、H型に配置された3列の超音波アレイすなわち互いに平行に配置された一対の短軸用超音波アレイと、それらの間に配置された長軸用超音波アレイとから成り、上記回転角度駆動装置46dの下面すなわち上腕34の皮膚42に接触する接触面に固着されている。
【0041】
上記圧力容器24の貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された一対の環状膨張袋24fおよび24gには、空気ポンプ24kの出力圧を元圧として一対の環状膨張袋24fおよび24g内の圧力を制御する圧力制御弁24mが接続されている。上記一対の環状膨張袋24fおよび24gが膨張させられることによってその内径が縮小されるので、貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間が密着状態とされ、圧力容器24内が気密に封止されるようになっている。上記一対の環状膨張袋24fおよび24gは、測定に先立って圧力容器24内に腕を挿入し、測定起動操作が行われたことに応答して、電子制御装置12によって圧力制御弁24mが膨張させられて、圧力容器24と上腕34および前腕22との間が封止される。
【0042】
図1に戻って、本体12の血圧測定部68は、血圧測定手段に対応するものであり、動脈の力学的特性の測定および動脈硬化度の評価に先立って、カフ36を用いてオシロメトリック法により被測定者20の血圧値を測定する。すなわち、血圧測定部68は、たとえば、圧力センサ70により検出されるカフ36の圧力を、圧力制御弁40を用いて、先ず被測定者20の収縮期血圧( 最高血圧値) よりも高い止血圧まで昇圧させた後に所定の降圧速度で徐々に降圧させ、この過程でカフ36の圧力において心拍に同期して発生する圧力振動波すなわち脈波を抽出し、その脈波振幅を結ぶ包絡線の変曲点すなわち脈波振幅の差分の最大値に対応するカフ36の圧力を収縮期血圧Ps および拡張期血圧Pd として決定し、記憶部72に記憶させる。
【0043】
本体12の圧力制御部74は、圧力制御手段に対応するものであり、動脈の力学的特性の測定および動脈硬化度の評価に際して、圧力容器24内の圧力Pc を負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させる。動脈44の断面形状の変化の測定では、その断面形状が最も小さく測定できる状態と最も大きく測定できる状態との間でそれぞれ測定することが合理的であることから、圧力制御部74は、動脈内圧が拡張期血圧Pd であるときに上記圧力容器24内の圧力Pc をその最高圧力値である拡張期血圧Pd として経壁圧力PA をその下限値である0mmHgとし、動脈内圧が収縮期血圧Ps であるときに上記圧力容器24内の圧力Pc をその最低圧力値たとえば−80mmHg程度の負の値として経壁圧力PA を200乃至250mmHg程度の上限値まで緩やかに変化させる。この圧力容器24内の最低圧力値( 負の値) は、収縮期血圧Ps から予め設定された経壁圧力PAの上限値を差し引いた値に決定される。上記拡張期血圧Pd および収縮期血圧Ps は、血圧測定部68によって測定されて記憶部72に記憶されたものが採用される。しかし、血圧測定部68が設けられない場合は、別途測定された血圧値が手動操作によって入力される。
【0044】
本体12の血管径算出部76は、血管径算出手段に対応するものであり、心電誘導装置52からの心電誘導信号を受ける毎に開くゲートを通して超音波反射信号SRを受け、それに同期して超音波反射信号SRの処理を行うことにより、動脈44の血管径D( mm)を繰り返し算出し、測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶部72に逐次記憶させる。動脈44の直径方向においては超音波プローブ46に近い側の血管壁と遠い側の血管壁とが存在し、上記超音波反射信号SRには、その近い側の血管壁からの第1反射波と遠い側の血管壁からの第2反射波とが含まれていることから、血管径算出部76では、たとえば、その第1反射波の先端と第2反射波の終端との時間差と、予め設定された生体組織中の伝播速度とに基づいて動脈44の外径( 血管径)Dが算出される。また、超音波反射信号SRから動脈44の断面画像が生成され、その断面画像に現れた動脈44の断面画像から動脈44の血管径Dが求められる。
【0045】
本体12の血管壁厚算出部78は、血管壁厚算出手段に対応するものであり、心電誘導装置52から心電誘導信号を受ける毎に開くゲートを通して、超音波反射信号SRを受け、その超音波反射信号SRの処理を行うことにより、動脈44の血管壁厚T( mm)を繰り返し算出し、測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶部72に逐次記憶させる。血管壁厚算出部78では、たとえば、上記第1反射波の先端と第1反射波の終端との時間差或いは第2反射波の先端と第2反射波の終端との時間差と、予め設定された生体組織中の伝播速度とに基づいて動脈44の血管壁厚Tが算出される。また、たとえば、超音波画像或いは第1反射波と第2反射波との時間差から動脈44の外径Dと内腔径dとが求められ、それらの差に基づいて動脈44の血管壁厚T( =(D−d) /2)が算出される。なお、上記心電誘導装置52を用いない場合では、10回/秒以上の回数で、繰り返し超音波を発信および受信し、血管径Dについてはその最大値を収縮期圧の動脈径Ds 、最小値を拡張期圧の動脈径Dd とし、血管壁厚Tについてはその最大値を拡張期圧の血管壁厚Ts 、最小値を収縮期圧の血管壁厚Td とすればよい。
【0046】
本体12の表示制御部80は、表示制御手段に対応するものであり、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が変化させられる測定中においては、上記記憶部72において測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶された動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tを用いて、たとえば図5に示すように、圧力容器24内の圧力Pc 、動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tを示す数値と、それらの時間的変化を示すトレンドグラフとを、表示器16に逐次表示させる。
【0047】
上記表示制御部80は、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、その間に測定されて記憶部72に逐次記憶された圧力容器24内の圧力Pc 、動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tに基づいて、図6に示す経壁圧力PAに対する血管径Dの変化を示すグラフ、図7に示す経壁圧力PAに対する血管壁厚Tの変化を示すグラフ、図8に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管径Dの変化を示すグラフ、図9に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管壁厚Tの変化を示すグラフが一挙に、或いは手動選択操作にしたがって選択的に表示される。それらのグラフは、データプロットから補間によって連続曲線に変換されているが、離散したデータプロットのままで表示されてもよい。このようなグラフは、動脈44の柔軟性或いは硬さに関連する力学的特性を示し、動脈44の硬化度を評価することに用いられる。
【0048】
たとえば、図6では、破線が健常者の動脈の力学的特性を示し、実線が動脈硬化患者の動脈の力学的特性を示している。経壁圧力PAの120〜200mmHgの範囲の高圧領域において、実線は血管径Dの増加に対して経壁圧力PAが急峻に増加することから、動脈44が硬いことを示すのに対し、破線は、血管径Dの増加に対して経壁圧力PAの増加が相対的に緩やかであることから、動脈44が比較的柔軟であることを示している。なお、図6の破線および実線の血管径Dは、0mmHgの時の半径で正規化されている。
【0049】
本体12の評価値算出部82は、評価値算出手段に対応するものであり、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の高圧領域において、動脈44の力学的性質を示す値すなわち動脈44の硬化状態を評価する値、たとえば、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SRを、次式( 1)乃至( 7)からそれぞれ算出し、血管収縮時の時定数τを算出する。なお、次式( 1)乃至( 7)において、Ps’は心収縮期の経壁圧力、Pd’は心拡張期の経壁圧力、Ds’は心収縮期の動脈径、Dd’は心拡張期の動脈径、DはDs’ からDd’ の範囲の適当な径、ΔD( =Ds’−Dd’) は血管径変化、ΔP( =Ps’−Pd’) は脈圧、lnは自然対数、( 6)式において、DOは血管外径、Diは血管内径、v はポアソン比、( 7)式において、ΔD2は圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときに動脈44の径の増加分、ΔD1はその後の所定時間経過時の減少分である。
【0050】
β=ln( Ps’/Pd’) / (ΔD/ Dd’) ・・・( 1)
Ep =ΔP/( ΔD/ D) ・・・( 2)
AS=ΔD/D ・・・( 3)
DC=(2ΔD/ D)/ΔP ・・・( 4)
CC=πD( ΔD/ 2 ΔP) ・・・( 5)
Einc=ΔP・2(1-v2) DODi2/ { ΔD( DO2- Di2)} ・・・( 6)
SR=ΔD2/ΔD1 ・・・( 7)
【0051】
図12は、圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときに発生する動脈44の径Dの増加とその後に平滑筋の作用によって対数曲線に沿って減少する現象を示している。この現象はBayliss 効果あるいはMyogenic response と称されている。上記血管収縮率SRは、血管の健康状態( 動脈硬化状態) に関連する平滑筋による収縮能力を示している。たとえば、前記血管収縮時の時定数τは、図12に示す圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときからの経過時間であって、血管径の減少曲線が0.368×ΔD2に到達したときの時間を計測することにより、或いは、血管径の減少曲線に対数減衰曲線をカーブフィットすることにより求められる。
【0052】
また、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す値として、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の高圧領域におけるスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τと、その経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば80mmHg以下の低圧領域におけるスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τとのそれぞれの差或いは比ΔKを算出する。
【0053】
また、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す値として、前記高圧領域において、圧力容器24を予め設定された減圧値だけ減圧したときの血管径Dの増加量ΔD+と、その圧力容器24を予め設定された加圧値だけ増圧したときの血管径Dの減少量ΔD−との比率ΔSを算出する。
【0054】
前記表示制御部80は、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、たとえば図6に示すように、高圧領域を示す予め設定された所定の経壁圧力PA1 たとえば150mmHgでのデータを用いて上記評価値算出部82により算出された、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ、或いは、それらの比ΔK、および/または比率ΔSを、表示器16に表示させる。
【0055】
図10は、電子制御装置である本体12の血管力学特性測定制御作動を説明するフローチャートであり、被測定者20の上腕34が圧力容器24に収容され且つその上腕34内の上腕動脈等の動脈44上に超音波プローブ46が位置するように装着された状態で、起動入力操作が行われることにより開始される。
【0056】
図10において、ステップS1( 以下、ステップを省略する) においてフラグ等がクリアされた後、S2において超音波反射信号SRが読み込まれる。次に、前記血管径算出部76に対応するS3において、超音波反射信号SRが処理されることにより、超音波プローブ46の直下の動脈44の径D( mm)が算出されるとともに記憶部72に記憶される。次いで、前記血管壁厚算出部78に対応するS4において、超音波反射信号SRが処理されることにより、超音波プローブ46の直下の動脈44の壁厚T( mm)が算出されるとともに記憶部72に記憶される。そして、表示制御部80に対応するS5において、上記算出された動脈44の径Dおよび壁厚Tが、図5に示すように、そのときの圧力容器24内の圧力Pc と共に、数字表示されるとともに時間軸に沿ってグラフ表示される。
【0057】
S6では、圧力容器24内の圧力Pc が0mmHg( 経壁圧力PAが収縮期血圧Ps )であり且つ再減圧経過フラグF2が「1」にセットされているか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が否定されるので、S7において、再加圧経過フラグF1が「0」にリセットされているか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が肯定されるので、S8において、圧力容器24内の圧力Pc がその上限値である収縮期血圧Ps 以上( 経壁圧力PAが0mmHg以下)となったか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS9において、たとえば1〜20mmHg程度に予め設定された所定の加圧値ΔPc1だけ圧力容器24内の圧力Pc が昇圧される。加圧値ΔPc1が1mmHg程度に設定されている場合には連続的な加圧となり、10〜20mmHg程度に設定されている場合にはステップ的な加圧となる。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次昇圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のa乃至bの区間はこの状態を示す。
【0058】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc が収縮期血圧Ps ( 経壁圧力PAが0mmHg)に到達するとS8の判断が肯定されるので、S10において、再加圧経過フラグF1が「1」にセットされる。このため、次のS2以下の制御サイクルではS7の判断が否定されるので、S11において、圧力容器24内の圧力Pc がその下限値である−80mmHg以下( 経壁圧力PAがその最大値( Ps +80mmHg) たとえば200mmHg以上)となったか否かが判断される。当初はこのS11の判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS12において、たとえば−1〜−20mmHg程度に予め設定された所定の減圧値ΔPc2だけ圧力容器24内の圧力Pc が減圧される。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次減圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のbからcを経てdに至る区間はこの状態を示す。
【0059】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc がその下限値である−80mmHg( 経壁圧力PAがその最大値( Ps +80mmHg) に到達するとS11の判断が肯定されるので、再加圧経過フラグF1が「0」にリセットされるとともに、再減圧経過フラグF2が「1」にセットされる。図5および図6のd乃至aに至る区間はこの状態を示す。このため、次のS2以下の制御サイクルではS6の判断が肯定されるので、S14において、圧力容器24内の圧力Pc がその開始値である0mmHg( 大気圧)に到達したか否かが判断される。当初はこのS14の判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS15において、たとえば1〜20mmHgの範囲内で予め設定された所定の増圧値ΔPc1だけ圧力容器24内の圧力Pc が増圧される。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次増圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のdからaに至る区間はこの状態を示す。
【0060】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc が開始圧である0mmHgに到達するとS14の判断が肯定されるので、前記評価値算出部82に対応するS16においてスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ、それらの比ΔK、および/または比率ΔSが算出される。そして、前記表示制御部80に対応するS17では、たとえば図6に示すように、上記S16において算出された評価値が表示器16に表示されるとともに、記憶部72において記憶されたデータに基づいて、図6に示す経壁圧力PAに対する血管径Dの変化を示すグラフ、図7に示す経壁圧力PAに対する血管壁厚Tの変化を示すグラフ、図8に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管径Dの変化を示すグラフ、図9に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管壁厚Tの変化を示すグラフが一挙に、或いは手動選択操作にしたがって選択的に表示される。
【0061】
上述のように、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、圧力容器24は、生体の四肢( 腕) において長手方向に位置する上腕34の中間位置( 第1位置) と前腕22の中間位置( 第2位置) との間を封止する環状膨張袋24f( 第1封止装置) 、環状膨張袋24g( 第2封止装置) とを備え、上記腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の動脈44(管腔体)を圧力容器24に収容する場合でも圧力容器24を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、動脈44(管腔体)の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。特に、圧力容器24を通した生体の先端部が被測定者に見えることから、精神的な安定感が得られる。
【0062】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、第1封止装置および第2封止装置として、一対の周方向に連なる環状膨張袋24fおよび24gを備え、それら一対の環状膨張袋24fおよび24gを膨張させることで生体の腕の第1位置および/または第2位置との間を封止することから、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器24と外部との間の封止が安定して得られる。
【0063】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、被測定者20の前腕22と上腕34との間が圧力容器24内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器24の内圧が変化させる過程で、その圧力容器24内に収容された上腕34内の動脈44の径( 断面形状値) Dが血管径算出部( 断面形状測定装置) 76によって非侵襲で測定されるとともに、表示制御部( 表示制御手段) 80によってその圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化とが、表示器16に表示される。このように、上腕34を収容する圧力容器24内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、動脈44の経壁圧力PAの上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える200mmHg程度の高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた動脈44の径Dから、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化、すなわち動脈44の力学的性質が表示器16に表示されるので、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力PAが収縮期血圧以上の高圧領域で動脈44の弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、動脈44の経壁圧力PAの上限値が高圧領域まで拡大されることから、動脈44の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0064】
ちなみに、図11は、水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定する従来の装置で図6と同様の、動脈44に対する圧迫圧力の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化を示している。この場合には、経壁圧力PAの上限値が収縮期血圧Ps を超えることが出来ず、200mmHg付近の高圧領域まで測定することが出来ないので、実線に示す動脈硬化患者と破線に示す健常者との区別が困難であり、測定や評価精度が十分に得られなかったのである。上記図11も、図6と同様に、血管径Dが0mmHgの時の半径で正規化されている。
【0065】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、表示制御部( 表示制御手段) 80は、動脈44の径( 断面形状値) Dを示す軸と圧力容器24内の圧力Pc を示す軸との二次元座標内において、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径( 断面形状) Dの変化とを示す複数の点を、表示器16に連続的に表示させることから、その表示に基づいて動脈44の力学的性質を把握でき、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。
【0066】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、表示制御部( 表示制御手段) 80は、圧力容器24の内圧Pc と動脈44の径( 断面形状) Dとを、時間軸に沿って連続的に表示させることから、測定中の圧力容器24の内圧Pc と動脈44の径Dとを把握することができ、測定の異常を容易に判定したり、その異常の対処を速やかにすることができる。
【0067】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、圧力容器24の内圧Pc を、予め設定された負の圧力である最低圧力値( たとえば−80mmHg)と予め被測定者20の収縮期血圧Ps 以上に設定された正の圧力である最高圧力値( たとえば200mmHg)との間で変化させる表示制御部( 表示制御手段) 80を、含むことから、この最低圧力値の設定を変更することにより、動脈44の経壁圧力PAの変化範囲のうちの高圧領域を所望の範囲に設定し、その高圧領域において動脈44の力学的性質を測定することができる。
【0068】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、血管径算出部( 断面形状測定装置) 76は、被測定者20の上腕34内からの超音波反射信号SRから、動脈44の径Dおよび管壁の厚みTを測定することから、その測定値により動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【0069】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、被測定者20の上腕34が圧力容器24内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器24の内圧Pc が変化させられる過程で、その圧力容器24内に収容された被測定者20の前腕22が内の動脈44の径Dおよび壁厚Tが血管径算出部76および血管壁厚算出部78( 断面形状測定装置) によって非侵襲で測定されるとともに、評価値算出部( 評価値算出手段) 82によってその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて動脈44の力学的性質を示す評価値が算出され、表示制御部( 出力手段) 80によって、その評価値算出部82により算出された動脈44の力学的性質を示す評価値が出力される。このように、被測定者20の上腕34を収容する圧力容器24内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、動脈44の経壁圧力PAの上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、200mmHg程度のそれを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて動脈44の力学的性質を示す評価値が算出されて出力されるので、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力PAが収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、動脈44の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、動脈44の径Dが大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0070】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τのうちの少なくとも1つを算出することから、その算出値から動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【0071】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の予め設定された高圧領域において得られた動脈44の力学的性質を示す評価値( スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ) と経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば80mmHg以下の予め設定された低圧領域において得られた動脈44の力学的性質を示す評価値との差または比ΔKが算出されるので、その差または比ΔKに基づいて動脈44の硬化状態が正確に評価できる。
【0072】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、圧力容器24を予め設定された減圧値だけ減圧したときの動脈44の径Dの増加値ΔD+とその圧力容器24を予め設定された増圧値だけ増圧したときの動脈の径Dの減少値ΔD−との比率ΔSが算出されるので、その比率ΔSに基づいて動脈44の硬化状態が正確に評価できる。
【0073】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、血管径算出部( 断面形状測定装置) 76は、被測定者20の前腕22内からの超音波反射信号SRから、動脈44の径Dを測定することから、その測定された動脈44の径Dにより容器内圧を変化させることにより動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【実施例2】
【0074】
次に本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互間に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
図13は、圧力容器24に備えられた封止装置の他の構成を示す縦断面図である。図13において、貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止するために貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された周方向に連なる軟質樹脂或いは合成ゴム製の一対の環状膨張袋24fおよび24gとをそれぞれ備えている点は共通しているが、その環状膨張袋24fおよび24gの圧力容器24内側および外側において、内周側端縁部が上腕34および前腕22に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bが設けられている。これら各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bは、たとえば比較的薄いゴムシートから構成される。本実施例によれば、一対の環状膨張袋24fおよび24gに加えて、その両側に各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bが設けられているので、圧力容器24内部とその外部の大気との間の圧力差に基づいて生体の上腕34との間および前腕22との間が封止されることで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても、一層圧力容器24とその外部との間の封止が安定して得られる。
【実施例3】
【0076】
図14は、圧力容器24に備えられた封止装置のさらに他の構成を示す縦断面図である。図14の実施例では、図13の実施例に比較して、一対の環状膨張袋24fおよび24gが除去され、専ら、各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bによって圧力容器24と上腕34との間および圧力容器24と前腕22との間が封止される点で、相違している。本実施例によれば、シール装置の構成が簡単となり、ポンプ24kや圧力制御弁24mが不要となる利点がある。
【0077】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0078】
たとえば、前述の図2、図13、図14の実施例において、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止する封止構造は同じであったが、異なる封止構造であってもよい。たとえば、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間が図13または図14に示す封止構造で構成され、圧力容器24の貫通穴24eと前腕22との間が図2に示す封止構造で構成されてもよい。
【0079】
また、図13及び図14の実施例において、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間の封止のために、一対の可撓性環状膜90aおよび90b、一対の可撓性環状膜92aおよび92bがそれぞれ設けられていたが、一対の可撓性環状膜90aおよび90b、或いは、一対の可撓性環状膜92aおよび92bのうちの一方、たとえば可撓性環状膜90aおよび可撓性環状膜92bが圧力容器24と上腕34との間および圧力容器24と前腕22との間の封止のために用いられてもよい。
【0080】
また、前述の図2、図13、図14の実施例において、圧力容器24は前腕22と上腕34との間を封止するものであったが、下肢の一部を封止するものであってもよい。
【0081】
また、前述の実施例において、血圧測定部68は血圧測定に際してカフ36を用いていたが、そのカフ36に替えて圧力容器24を用いて上腕34を圧迫することにより、同様に、オシロメトリック法により方を用いて血圧測定してもよい。
【0082】
また、前述の実施例において、血圧測定部68は、たとえば図15に示すように、圧力容器24の圧力Pc を収縮期血圧よりも所定値高い圧力に到達するまで所定の速度で徐速昇圧させる過程で圧力容器24の圧力Pc に含まれる圧力振動である脈波の振幅の差分( 変化量率)が最大となる時点の圧力容器24の圧力Pc を拡張期血圧および収縮期血圧として決定する。或いはまた、血圧測定部68は、図16に示すように、圧力容器24の圧力Pc を収縮期血圧よりも所定値高い圧力に到達するまで所定の速度で徐速昇圧させる過程で動脈44の径Dの振幅の差分が最大となる時点の圧力容器24の圧力Pc を拡張期血圧および収縮期血圧として決定する。このようにすれば、前述の実施例の生体内管腔体評価装置と同様の効果が得られるのに加えて、血圧測定専用のカフ36や圧力制御弁40等が不要となるのに加えて、血管径Dの変化率にもとづく%FMDが測定される利点がある。
【0083】
なお、上述したのは、あくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0084】
10:生体内管腔体評価装置
20:被測定者(生体)
22:前腕( 四肢)
24:圧力容器
24f、24g:環状膨張袋( 第1封止装置、第2封止装置)
34:上腕( 四肢)
44:動脈(管腔体)
46:超音波プローブ( 断面形状測定装置)
76:血管径算出部( 断面形状測定装置)
90a、92b:可撓性環状膜( 第1封止装置、第2封止装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置に関し、特に管腔体の断面形状を変化させるために該生体の一部を収容する圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、動脈、静脈、その他の生体内管腔体の寸法や柔軟性を非侵襲測定により客観的に測定し評価することは、たとえば、動脈硬化の進行度合いを逐次評価し、心筋梗塞、血管性脳梗塞、閉塞性動脈硬化や動脈瘤などの重篤な症状に至る前に治療を施すための情報として有効であることは良く知られている。
【0003】
血管壁の弾性を評価するために、所定距離Lだけ離れた動脈上の2位置の間で脈波の時間差DTに基づいて伝播速度PWV( =L/DT)を測定し、その伝播速度PWVを用いて動脈硬化を評価する方法や、収縮期血圧( 最高血圧値) Ps のときの血管径Ds と拡張期血圧( 最低血圧値) Pd のときの血管径Dd とをたとえば1心拍中にそれぞれ記録し、スティフネス・パラメータβ[ =ln( Ps/Pd ) ÷( Ds /Dd −1 ) ] を算出し、そのスティフネス・パラメータβを用いて動脈硬化を評価する方法が知られている。たとえば、非特許文献1および非特許文献2に記載されたものがそれである。
【0004】
これに対し、より広い圧力範囲で測定するために、水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定する方法が提案されている。たとえば、非特許文献3に記載の血管の評価方法がそれである。これによれば、測定時の生理的圧力範囲或いは血管壁への加圧により、血管壁の内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)の範囲が、拡張期血圧を下限値とし且つ収縮期血圧を上限値とする圧力範囲から、その下限値を拡張期血圧よりも低い値まで拡大されるので、その拡大された範囲で血管の弾性特性を知ることができる。
【0005】
しかしながら、上記従来の血管の弾性特性を測定する技術では、経壁圧力PAの上限値が収縮期血圧までの圧力範囲でしか血管の弾性特性を知ることができないという欠点があった。一般に、血管の弾性特性は非線型であり、血圧すなわち経壁圧力PAが高くなるに伴って、血圧変化に対する血管径Dの変化が急激に減少し、動脈硬化ではそのような特性が顕著に現れる。特に、加齢に伴う動脈硬化等による血管壁の硬化の場合には、比較的高血圧値領域において上記の血圧変化に対する血管径の変化が急峻に減少する特性が現れる。このため、診断や予防のために血管弾性の変化を正確に知るためにはその経壁圧力PAの上限値である収縮期血圧値を超える高い圧力領域で血管弾性特性を測定して診断に用いることが望まれるが、上記特許文献3に記載の従来の方法では、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができず、管腔体の弾性特性の精度が十分に得られないので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られ難いという欠点があった。
【0006】
図17は、経壁圧力PAと動脈の柔軟度を示すコンプライアンスCCとの関係を、健常者NAD、軽度の動脈硬化患者I、中度の動脈硬化患者II、重度の動脈硬化患者III について示している。軽度の動脈硬化患者Iでは、100mmHg付近のコンプライアンスは一旦増加して減少し、局部的に健常者NADを超えるのに対し、高圧領域のコンプライアンスは連続的に減少する。すなわち、100mmHg付近で変化が現れなくも、150mmHg以上の高圧領域においては先に変化が現れる。このことからも、従来の方法では、動脈硬化の診断精度も十分に得られ難いという欠点があった。
【0007】
これに対して、特許文献1に示されているように、生体の一部を収容する圧力容器を設け、収容生体の一部がその圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を断面形状測定装置によって非侵襲で測定するとともに、表示制御手段によってその圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とが、表示器に表示される生体内管腔体評価装置が提案されている。これによれば、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化、すなわち管腔体の力学的性質が表示器に表示されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−212366号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「動脈波の臨床」2003年4月10日 株式会社メディカルレビュー社発行、94−95頁等
【非特許文献2】「メディカルテクノロジー」2006年1月15日 医歯薬出版株式会社発行、35−40頁
【非特許文献3】In Vivo Human Brachial Artery Elastic Mechanics; Alan J. Bank et al; Circulation 1999; vol.100; 41-47
【非特許文献4】Biorheology; 1984;21(5):723-34. Richter HA, Mittermayer C: Volume elasticity, modulus of elasticity and compliance of normal and arteriosclerotic human aorta.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記従来の生体内管腔体評価装置に用いられる圧力容器は、生体の一部を挿入するための単一の貫通穴を備え、その穴を通して生体の一部が容器内に収容されるように構成されている。このため、測定精度を得るために比較的大径の管腔体の形状変化を測定しようとすると圧力容器が大きくなって圧迫部位も大きくなることから、被測定者の物理的および精神的な負担が大きくなるとともに、特に神経系の影響を受け易い動脈の断面形状を測定する場合には測定値に影響するので、安定した測定或いは高精度の生体内管腔体評価が十分に得られなくなる場合があった。
【0011】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、生体内の管腔体を可及的に少ない負担で、正確に評価することができる生体内管腔体評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 生体の一部を収容した状態で、負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させることが可能な圧力容器と、該圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を非侵襲で測定する管腔体の断面形状測定装置とを備え、該生体の一部内に位置する管腔体の断面形状値に基づいて該管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置であって、(b) 前記圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明の生体内管腔体評価装置によれば、圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の管腔体を収容する場合でも圧力容器を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、管腔体の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。特に、圧力容器を通した生体の先端部が被測定者に見えることから、精神的な安定感が得られる。
【0014】
ここで、好適には、前記第1封止装置および/または第2封止装置は、圧力容器が生体の四肢の長手方向の第1位置と第2位置との間を収容したり、生体の四肢の先端部全体に収容したりするに拘らず周方向に連なる環状膨張袋を備え、該環状膨張袋を膨張させることで前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする。このようにすれば、環状膨張袋を膨張させることで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器と外部との間の封止が安定して得られる。
【0015】
また、好適には、前記第1封止装置および/または第2封止装置は、圧力容器が生体の四肢の長手方向の第1位置と第2位置との間を収容したり、生体の四肢の先端部全体に収容したりするに拘らず内周側端縁部が前記四肢に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる一対の可撓性環状膜を前記圧力容器の内外に備え、該圧力容器内とその外部の大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする。このようにすれば、圧力容器内とその外部の大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器と外部との間の封止が安定して得られる。
【0016】
また、好適には、前記生体内管腔体評価装置は、表示器と、前記圧力容器の内圧の変化と該圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを、前記表示器に表示させる表示制御手段とを、含むことを特徴とする。このようにすれば、生体の一部が圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値が断面形状測定装置によって非侵襲で測定されるとともに、表示制御手段によってその圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とが、表示器に表示される。このように、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化、すなわち管腔体の力学的性質が表示器に表示されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、管腔体の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、管腔体の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0017】
また、好適には、前記表示制御手段は、少なくとも前記断面形状値と前記圧力容器内の圧力値とを変数とする多次元座標内において、前記圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示す複数の点を、前記表示器に連続的に表示させることから、その表示に基づいて管腔体の力学的性質を把握でき、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。
【0018】
また、好適には、前記表示制御手段は、前記圧力容器の内圧と前記管腔体の断面形状値とを、時間軸に沿って連続的に表示させることから、測定中の圧力容器の内圧と前記管腔体の断面形状値とを把握することができ、測定の異常を容易に判定したり、その異常の対処を速やかにすることができる。
【0019】
また、好適には、前記圧力容器の内圧を、予め設定された負の圧力である最低圧力値と予め前記生体の収縮期血圧以上に設定された正の圧力である最高圧力値との間で変化させる圧力制御手段を、含むことから、この最低圧力値の設定を変更することにより、経壁圧力の変化範囲のうちの高圧領域を所望の範囲に設定し、その高圧領域において管腔体の力学的性質を測定することができる。
【0020】
また、好適には、前記断面形状測定装置は、前記生体の一部内の超音波反射信号から、前記管腔体の径、管壁の厚み、周長、断面積のうちの少なくとも1つを測定することから、その測定値により管腔体の力学的性質を正確に得ることができる。
【0021】
また、好適には、生体の一部が圧力容器内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器の内圧が変化させられる過程で、その圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値が断面形状測定装置によって非侵襲で測定されるとともに、評価値算出手段によってその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいて管腔体の力学的性質を示す評価値が算出され、出力手段によって、その評価値算出手段により算出された前記管腔体の力学的性質を示す評価値が出力される。このように、生体の一部を収容する圧力容器内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、管腔体の経壁圧力の上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいてその管腔体の力学的性質を示す評価値が算出されて出力されるので、その力学的性質に基づいて管腔体を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力が収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、管腔体の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、管腔体の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0022】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、前記圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化に基づいて、前記管腔体の柔軟性を示す評価値および/または前記管腔体の収縮能を示す評価値を算出することから、その管腔体の柔軟性を示す評価値および/または管腔体の収縮能を示す評価値から、管腔体の力学的性質や機能を正確に得ることができる。
【0023】
また、好適には、前記管腔体の柔軟性を示す評価値は、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、および増分弾性係数Eincの少なくとも1つであり、前記管腔体の収縮能を示す評価値は、血管壁収縮率SR、血管壁収縮時定数τの少なくとも1つであることから、管腔体の力学的性質や機能を正確に得ることができる。
【0024】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、経壁圧力の変化範囲のうちの予め設定された高圧領域において得られた前記管腔体の力学的性質を示す値と前記経壁圧力の変化範囲のうちの予め設定された低圧領域において得られた前記管腔体の力学的性質を示す値との比が算出されるので、その比に基づいて管腔体の硬化状態が正確に評価できる。
【0025】
また、好適には、前記評価値算出手段は、前記管腔体の力学的性質を示す評価値として、前記圧力容器を予め設定された減圧値だけ減圧したときの前記管腔体の断面形状値の増加値と前記圧力容器を予め設定された増圧値だけ増圧したときの前記管腔体の断面形状値の減少値との比が算出されるので、その比に基づいて管腔体の硬化状態が正確に評価できる。
【0026】
また、好適には、前記生体の一部内に位置する管腔体は、その生体の一部内の動脈であることから、生体の動脈の硬化状態を正確に評価できる。
【0027】
また、好適には、前記表示制御手段は、圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを表示器に表示させる場合、グラフ表示によってそれら圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示してもよいが、数値表示によって圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示してもよい。たとえば、圧力容器の内圧の変化とそれに対応して変化する管腔体の断面形状の変化との比、割合を示す数値が表示されてもよいし、圧力容器の内圧の変化値と管腔体の断面形状の変化値とを対比可能に表示されてもよい。
【0028】
また、好適には、前記表示制御手段は、断面形状値を示す軸と前記圧力容器内の圧力を示す軸との二次元座標内において、前記圧力容器の内圧の変化とその圧力容器の内圧の変化に対応して変化する前記管腔体の断面形状の変化とを示す複数の点を、前記表示器に連続的に表示させてもよい。また、断面形状値と圧力容器内の圧力値を、径と角度とを用いて表す極座標等の他の座標であってもよい。また、上記座標内においては、複数の測定点を含む曲線で表示されてもよいが、相互に離散した複数の測定点のみで表示されてもよい。
【0029】
また、前記圧力容器の圧力を制御する圧力制御手段が用いる経壁圧力の変化範囲の最低圧力値に対応する圧力容器内の最高圧力値、および経壁圧力の変化範囲の最高圧力値に対応する圧力容器内の最低圧力値の決定や、スティフネス・パラメータβの算出に用いられる生体の血圧値は、予め測定された値が手動操作によって入力された値が用いられてもよい。さらに好適には、生体の一部に対する圧迫圧を変化させたときにその生体の一部内の動脈から発生する脈波或いはその動脈の形状の振幅の変化に基づいてその生体の血圧値を自動的に測定する血圧測定手段が設けられ、その測定値に基づいて上記圧力容器内の最高圧力値および/または最低圧力値が自動的に算出されてもよい。この圧力容器内の最高圧力値は、たとえば生体の収縮期血圧に決定される。また、圧力容器内の最低圧力値( 負の値) は、200乃至250mmHg程度に予め設定された経壁圧力の上限値から収縮期血圧を差し引いた値に決定される。また、その収縮期血圧( 最高血圧) に代えて、拡張期血圧が用いられてもよい。
【0030】
また、好適には、前記管腔体の断面形状値は、その管腔体の径や、管壁の厚みであってもよいが、管腔体の周長や、断面積などであってもよい。要するに、管腔体の断面形状の大きさに関連する値であればよい。
【0031】
また、好適には、上記血圧測定手段によって血圧測定が行われるに際しては、上記生体の一部はカフを用いて圧迫されてもよいが、前記圧力容器を用いて圧迫されてもよい。この場合には、圧力容器が兼用されるので、カフおよびその圧力を制御するための圧力制御弁等が不要となる利点がある。
【0032】
また、前記生体内管腔体は、好適には、前記生体の一部内に位置する動脈であるが、静脈等の循環器、肺等の呼吸器、消化器官、膀胱等のその他の管腔体であってもよい。また、生体の四肢としては、前腕のみならず、手首、上腕部、脚部、大腿部、足首などでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例の生体内管腔体評価装置の構成を概略説明するブロック線図である。
【図2】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、縦断面図である。
【図3】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、図2のIII-III 視横断面図である。
【図4】図1の圧力容器の構成を説明する図であって、右側面図である。
【図5】図1の表示制御部によって測定中に逐次表示される動脈の径および壁厚の表示例を示す図である。
【図6】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈径と経壁圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図7】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈壁厚と経壁圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図8】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈径と圧力容器内圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図9】図1の表示制御部によって測定完了時に表示される動脈壁厚と圧力容器内圧力との関係すなわち動脈の力学的性質を示すグラフの表示例を示す図である。
【図10】図1の生体内管腔体評価装置の本体の制御作動の要部を説明するフロ−チャ−トである。
【図11】水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定した場合の、動脈に対する圧迫圧力の変化に対応して変化する動脈の径Dの変化を示す図である。
【図12】圧力容器を負圧としたときにその圧力容器内の被測定者の動脈径が一旦増加したあと、対数曲線で減少する所謂Bayliss 効果を示す図である。
【図13】本発明の他の実施例における圧力容器に備えられた封止装置の構成を示す縦断面図である。
【図14】本発明の他の実施例における圧力容器に備えられた封止装置の他の構成を示す縦断面図である。
【図15】血圧測定部が圧力容器を用いた血圧測定を実行する場合の作動を説明するタイムチャ−トである。
【図16】血圧測定部が圧力容器を用いた血圧測定を実行する場合の他の作動を説明するタイムチャ−トである。
【図17】健常者、軽度の動脈硬化患者、中度の動脈硬化患者、重度の動脈硬化患者について、動脈のコンプライアンスと経壁圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施例の生体内管腔体評価装置10を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0035】
図1は、生体内管腔体評価装置10の構成を説明するブロック線図である。生体内管腔体評価装置10は、所謂CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を含み、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMなどに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するマイクロコンピュータで構成された本体( 電子制御装置) 12と、その本体12に操作信号を入力するためにキーボード、マウス等により構成された入力操作装置14と、本体12の出力信号によりグラフ画像、記号などを表示する画像表示可能な表示器16を有する画像表示装置18と、を備えている。上記本体12の制御機能は、複数のブロックにより示されている。
【0036】
また、生体内管腔体評価装置10は、被測定者( 生体)20の上腕34を収容する圧力容器24と、その圧力容器24内の圧力を負圧から正圧までの圧力範囲で制御するために空気ポンプ26の吸引路28および吐出路30を選択的に圧力容器24に接続する圧力制御弁32と、血圧測定に際して被測定者( 生体)20の他方の上腕35に巻回されたカフ36の圧力を空気ポンプ38を元圧として制御する圧力制御弁40とを備えている。
【0037】
さらに、生体内管腔体評価装置10は、上記上腕34の皮膚42に接触するように圧力容器24に保持されて、その皮膚42の直下の動脈44の断面画像( 断面形状)を検出するための超音波プローブ(超音波探触子)46と、その超音波プローブ46から超音波を発信させるとともにその超音波プローブ46により反射波を受信し、超音波反射信号SRを本体12へ出力する超音波駆動制御装置48と、被測定者20に装着された複数の電極50を備えてその被測定者20に心拍に同期して発生する心電誘導信号を本体12へ出力する心電誘導装置52とを備えている。上記超音波プローブ46は、通常、動脈44を交差する方向の直線に沿ってアレイ状に配列された多数個の振動子(たとえば圧電セラミックス)を下端面すなわち押圧面に備えており、上記超音波駆動制御装置48は、それら多数の振動子のうちの一部の振動子を順次駆動して超音波を放射させる送信回路48aと、生体組織内から反射される反射波をそれら振動子により受信させて反射波を取り出す受信回路48bと、その受信回路48bから出力される受信信号を検波して本体12へ出力する検波回路48cとを備えている。上記超音波プローブ46は、断面形状測定装置の一部を構成している。
【0038】
本体12の超音波駆動制御部56は、超音波駆動制御手段に対応するものであり、予め設定されたプログラムに従って、心電誘導装置52からの心電誘導信号を受ける毎に、それに同期して超音波アレイを構成する一列に配列された多数個の超音波振動子(圧電セラミックス)のうち、その端から、一定数の超音波振動子群毎に所定の位相差を付与しつつ10MHz程度の周波数でビームフォーミング駆動することにより超音波振動子の配列方向において収束性の超音波ビームを血管44に向かって順次放射させるとともに、その放射毎の反射波を受信させ、受信信号を本体12へ入力させる。また、上記超音波アレイの放射面には、その超音波振動子の配列方向に直交する方向に超音波ビームを収束させるための音響レンズが設けられている。
【0039】
図2は圧力容器24の縦断面を示し、図3はその圧力容器24の横断面を示し、図4は圧力容器24の側面( 端面) を示している。圧力容器24は、管状部材から構成された円筒状の外周壁24aと、その外周壁24aの端部を気密に塞ぐ一対の端壁24bおよび端壁24cとから比較的気密に構成されている。一対の端壁24bおよび端壁24cには、外側に突き出す一対の円筒状部24iおよび24jと、生体の四肢たとえば前腕22を差し通すために一対の円筒状部24iおよび24jの内周面に続いて一対の端壁24bおよび端壁24cに形成された一対の貫通穴24dおよび貫通穴24eと、その貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止するために貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された周方向に連なる軟質樹脂或いは合成ゴム製の一対の環状膨張袋24fおよび24gとを備えている。これら一対の環状膨張袋24fおよび24gは、圧力容器24とそれに収容される四肢たとえば腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間をそれぞれ封止する第1封止装置および第2封止装置として機能している。
【0040】
上記圧力容器24の外周壁24aの上部には、上方へ突き出す角箱状の柱状壁24hが設けられており、柱状壁24hに収容される状態で超音波プローブ46が、上記圧力容器24内において上腕34の皮膚42に接触するように装着されている。この超音波プローブ46は、多軸駆動装置46eを介して圧力容器24内に装着された超音波アレイ探触子46fを備えている。多軸駆動装置46eは、圧力容器24に上下位置調節機構46gを介して固定された基台46aと、動脈44に直交するX軸方向であってその動脈44付近を通る揺動軸心を中心とする揺動角度を位置決めする揺動角度駆動装置46bと、そのX軸方向の位置決めを行うX軸駆動装置46cと、垂直な軸心まわりの回転角度を位置決めする回転角度駆動装置46dとから成る。超音波アレイ探触子46fは、たとえば、H型に配置された3列の超音波アレイすなわち互いに平行に配置された一対の短軸用超音波アレイと、それらの間に配置された長軸用超音波アレイとから成り、上記回転角度駆動装置46dの下面すなわち上腕34の皮膚42に接触する接触面に固着されている。
【0041】
上記圧力容器24の貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された一対の環状膨張袋24fおよび24gには、空気ポンプ24kの出力圧を元圧として一対の環状膨張袋24fおよび24g内の圧力を制御する圧力制御弁24mが接続されている。上記一対の環状膨張袋24fおよび24gが膨張させられることによってその内径が縮小されるので、貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間が密着状態とされ、圧力容器24内が気密に封止されるようになっている。上記一対の環状膨張袋24fおよび24gは、測定に先立って圧力容器24内に腕を挿入し、測定起動操作が行われたことに応答して、電子制御装置12によって圧力制御弁24mが膨張させられて、圧力容器24と上腕34および前腕22との間が封止される。
【0042】
図1に戻って、本体12の血圧測定部68は、血圧測定手段に対応するものであり、動脈の力学的特性の測定および動脈硬化度の評価に先立って、カフ36を用いてオシロメトリック法により被測定者20の血圧値を測定する。すなわち、血圧測定部68は、たとえば、圧力センサ70により検出されるカフ36の圧力を、圧力制御弁40を用いて、先ず被測定者20の収縮期血圧( 最高血圧値) よりも高い止血圧まで昇圧させた後に所定の降圧速度で徐々に降圧させ、この過程でカフ36の圧力において心拍に同期して発生する圧力振動波すなわち脈波を抽出し、その脈波振幅を結ぶ包絡線の変曲点すなわち脈波振幅の差分の最大値に対応するカフ36の圧力を収縮期血圧Ps および拡張期血圧Pd として決定し、記憶部72に記憶させる。
【0043】
本体12の圧力制御部74は、圧力制御手段に対応するものであり、動脈の力学的特性の測定および動脈硬化度の評価に際して、圧力容器24内の圧力Pc を負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させる。動脈44の断面形状の変化の測定では、その断面形状が最も小さく測定できる状態と最も大きく測定できる状態との間でそれぞれ測定することが合理的であることから、圧力制御部74は、動脈内圧が拡張期血圧Pd であるときに上記圧力容器24内の圧力Pc をその最高圧力値である拡張期血圧Pd として経壁圧力PA をその下限値である0mmHgとし、動脈内圧が収縮期血圧Ps であるときに上記圧力容器24内の圧力Pc をその最低圧力値たとえば−80mmHg程度の負の値として経壁圧力PA を200乃至250mmHg程度の上限値まで緩やかに変化させる。この圧力容器24内の最低圧力値( 負の値) は、収縮期血圧Ps から予め設定された経壁圧力PAの上限値を差し引いた値に決定される。上記拡張期血圧Pd および収縮期血圧Ps は、血圧測定部68によって測定されて記憶部72に記憶されたものが採用される。しかし、血圧測定部68が設けられない場合は、別途測定された血圧値が手動操作によって入力される。
【0044】
本体12の血管径算出部76は、血管径算出手段に対応するものであり、心電誘導装置52からの心電誘導信号を受ける毎に開くゲートを通して超音波反射信号SRを受け、それに同期して超音波反射信号SRの処理を行うことにより、動脈44の血管径D( mm)を繰り返し算出し、測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶部72に逐次記憶させる。動脈44の直径方向においては超音波プローブ46に近い側の血管壁と遠い側の血管壁とが存在し、上記超音波反射信号SRには、その近い側の血管壁からの第1反射波と遠い側の血管壁からの第2反射波とが含まれていることから、血管径算出部76では、たとえば、その第1反射波の先端と第2反射波の終端との時間差と、予め設定された生体組織中の伝播速度とに基づいて動脈44の外径( 血管径)Dが算出される。また、超音波反射信号SRから動脈44の断面画像が生成され、その断面画像に現れた動脈44の断面画像から動脈44の血管径Dが求められる。
【0045】
本体12の血管壁厚算出部78は、血管壁厚算出手段に対応するものであり、心電誘導装置52から心電誘導信号を受ける毎に開くゲートを通して、超音波反射信号SRを受け、その超音波反射信号SRの処理を行うことにより、動脈44の血管壁厚T( mm)を繰り返し算出し、測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶部72に逐次記憶させる。血管壁厚算出部78では、たとえば、上記第1反射波の先端と第1反射波の終端との時間差或いは第2反射波の先端と第2反射波の終端との時間差と、予め設定された生体組織中の伝播速度とに基づいて動脈44の血管壁厚Tが算出される。また、たとえば、超音波画像或いは第1反射波と第2反射波との時間差から動脈44の外径Dと内腔径dとが求められ、それらの差に基づいて動脈44の血管壁厚T( =(D−d) /2)が算出される。なお、上記心電誘導装置52を用いない場合では、10回/秒以上の回数で、繰り返し超音波を発信および受信し、血管径Dについてはその最大値を収縮期圧の動脈径Ds 、最小値を拡張期圧の動脈径Dd とし、血管壁厚Tについてはその最大値を拡張期圧の血管壁厚Ts 、最小値を収縮期圧の血管壁厚Td とすればよい。
【0046】
本体12の表示制御部80は、表示制御手段に対応するものであり、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が変化させられる測定中においては、上記記憶部72において測定されたときの圧力容器24内の圧力Pc および経壁圧力PAと共に記憶された動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tを用いて、たとえば図5に示すように、圧力容器24内の圧力Pc 、動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tを示す数値と、それらの時間的変化を示すトレンドグラフとを、表示器16に逐次表示させる。
【0047】
上記表示制御部80は、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、その間に測定されて記憶部72に逐次記憶された圧力容器24内の圧力Pc 、動脈44の血管径Dおよび血管壁厚Tに基づいて、図6に示す経壁圧力PAに対する血管径Dの変化を示すグラフ、図7に示す経壁圧力PAに対する血管壁厚Tの変化を示すグラフ、図8に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管径Dの変化を示すグラフ、図9に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管壁厚Tの変化を示すグラフが一挙に、或いは手動選択操作にしたがって選択的に表示される。それらのグラフは、データプロットから補間によって連続曲線に変換されているが、離散したデータプロットのままで表示されてもよい。このようなグラフは、動脈44の柔軟性或いは硬さに関連する力学的特性を示し、動脈44の硬化度を評価することに用いられる。
【0048】
たとえば、図6では、破線が健常者の動脈の力学的特性を示し、実線が動脈硬化患者の動脈の力学的特性を示している。経壁圧力PAの120〜200mmHgの範囲の高圧領域において、実線は血管径Dの増加に対して経壁圧力PAが急峻に増加することから、動脈44が硬いことを示すのに対し、破線は、血管径Dの増加に対して経壁圧力PAの増加が相対的に緩やかであることから、動脈44が比較的柔軟であることを示している。なお、図6の破線および実線の血管径Dは、0mmHgの時の半径で正規化されている。
【0049】
本体12の評価値算出部82は、評価値算出手段に対応するものであり、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の高圧領域において、動脈44の力学的性質を示す値すなわち動脈44の硬化状態を評価する値、たとえば、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SRを、次式( 1)乃至( 7)からそれぞれ算出し、血管収縮時の時定数τを算出する。なお、次式( 1)乃至( 7)において、Ps’は心収縮期の経壁圧力、Pd’は心拡張期の経壁圧力、Ds’は心収縮期の動脈径、Dd’は心拡張期の動脈径、DはDs’ からDd’ の範囲の適当な径、ΔD( =Ds’−Dd’) は血管径変化、ΔP( =Ps’−Pd’) は脈圧、lnは自然対数、( 6)式において、DOは血管外径、Diは血管内径、v はポアソン比、( 7)式において、ΔD2は圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときに動脈44の径の増加分、ΔD1はその後の所定時間経過時の減少分である。
【0050】
β=ln( Ps’/Pd’) / (ΔD/ Dd’) ・・・( 1)
Ep =ΔP/( ΔD/ D) ・・・( 2)
AS=ΔD/D ・・・( 3)
DC=(2ΔD/ D)/ΔP ・・・( 4)
CC=πD( ΔD/ 2 ΔP) ・・・( 5)
Einc=ΔP・2(1-v2) DODi2/ { ΔD( DO2- Di2)} ・・・( 6)
SR=ΔD2/ΔD1 ・・・( 7)
【0051】
図12は、圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときに発生する動脈44の径Dの増加とその後に平滑筋の作用によって対数曲線に沿って減少する現象を示している。この現象はBayliss 効果あるいはMyogenic response と称されている。上記血管収縮率SRは、血管の健康状態( 動脈硬化状態) に関連する平滑筋による収縮能力を示している。たとえば、前記血管収縮時の時定数τは、図12に示す圧力容器24内の圧力Pc を負圧にしたときからの経過時間であって、血管径の減少曲線が0.368×ΔD2に到達したときの時間を計測することにより、或いは、血管径の減少曲線に対数減衰曲線をカーブフィットすることにより求められる。
【0052】
また、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す値として、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の高圧領域におけるスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τと、その経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば80mmHg以下の低圧領域におけるスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τとのそれぞれの差或いは比ΔKを算出する。
【0053】
また、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す値として、前記高圧領域において、圧力容器24を予め設定された減圧値だけ減圧したときの血管径Dの増加量ΔD+と、その圧力容器24を予め設定された加圧値だけ増圧したときの血管径Dの減少量ΔD−との比率ΔSを算出する。
【0054】
前記表示制御部80は、圧力制御部74によって圧力容器24内の圧力Pc が負圧を含む変化範囲、すなわち動脈44の管壁を境とする内外差圧すなわち経壁圧力PA( =動脈内圧−動脈外圧)をたとえば負の所定値である下限値から200乃至250mmHg程度の上限値までの変化範囲で往復的に変化させられると、たとえば図6に示すように、高圧領域を示す予め設定された所定の経壁圧力PA1 たとえば150mmHgでのデータを用いて上記評価値算出部82により算出された、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ、或いは、それらの比ΔK、および/または比率ΔSを、表示器16に表示させる。
【0055】
図10は、電子制御装置である本体12の血管力学特性測定制御作動を説明するフローチャートであり、被測定者20の上腕34が圧力容器24に収容され且つその上腕34内の上腕動脈等の動脈44上に超音波プローブ46が位置するように装着された状態で、起動入力操作が行われることにより開始される。
【0056】
図10において、ステップS1( 以下、ステップを省略する) においてフラグ等がクリアされた後、S2において超音波反射信号SRが読み込まれる。次に、前記血管径算出部76に対応するS3において、超音波反射信号SRが処理されることにより、超音波プローブ46の直下の動脈44の径D( mm)が算出されるとともに記憶部72に記憶される。次いで、前記血管壁厚算出部78に対応するS4において、超音波反射信号SRが処理されることにより、超音波プローブ46の直下の動脈44の壁厚T( mm)が算出されるとともに記憶部72に記憶される。そして、表示制御部80に対応するS5において、上記算出された動脈44の径Dおよび壁厚Tが、図5に示すように、そのときの圧力容器24内の圧力Pc と共に、数字表示されるとともに時間軸に沿ってグラフ表示される。
【0057】
S6では、圧力容器24内の圧力Pc が0mmHg( 経壁圧力PAが収縮期血圧Ps )であり且つ再減圧経過フラグF2が「1」にセットされているか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が否定されるので、S7において、再加圧経過フラグF1が「0」にリセットされているか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が肯定されるので、S8において、圧力容器24内の圧力Pc がその上限値である収縮期血圧Ps 以上( 経壁圧力PAが0mmHg以下)となったか否かが判断される。測定開始当初はこの判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS9において、たとえば1〜20mmHg程度に予め設定された所定の加圧値ΔPc1だけ圧力容器24内の圧力Pc が昇圧される。加圧値ΔPc1が1mmHg程度に設定されている場合には連続的な加圧となり、10〜20mmHg程度に設定されている場合にはステップ的な加圧となる。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次昇圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のa乃至bの区間はこの状態を示す。
【0058】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc が収縮期血圧Ps ( 経壁圧力PAが0mmHg)に到達するとS8の判断が肯定されるので、S10において、再加圧経過フラグF1が「1」にセットされる。このため、次のS2以下の制御サイクルではS7の判断が否定されるので、S11において、圧力容器24内の圧力Pc がその下限値である−80mmHg以下( 経壁圧力PAがその最大値( Ps +80mmHg) たとえば200mmHg以上)となったか否かが判断される。当初はこのS11の判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS12において、たとえば−1〜−20mmHg程度に予め設定された所定の減圧値ΔPc2だけ圧力容器24内の圧力Pc が減圧される。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次減圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のbからcを経てdに至る区間はこの状態を示す。
【0059】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc がその下限値である−80mmHg( 経壁圧力PAがその最大値( Ps +80mmHg) に到達するとS11の判断が肯定されるので、再加圧経過フラグF1が「0」にリセットされるとともに、再減圧経過フラグF2が「1」にセットされる。図5および図6のd乃至aに至る区間はこの状態を示す。このため、次のS2以下の制御サイクルではS6の判断が肯定されるので、S14において、圧力容器24内の圧力Pc がその開始値である0mmHg( 大気圧)に到達したか否かが判断される。当初はこのS14の判断が否定されるので、前記圧力制御部74に対応するS15において、たとえば1〜20mmHgの範囲内で予め設定された所定の増圧値ΔPc1だけ圧力容器24内の圧力Pc が増圧される。そして、前記S2以下の制御サイクルが繰り返し実行され、圧力容器24内の圧力Pc が逐次増圧されつつ動脈44の径Dおよび壁厚Tが繰り返し算出される。図5および図6のdからaに至る区間はこの状態を示す。
【0060】
上記の制御サイクルが繰り返し実行されるうち、圧力容器24内の圧力Pc が開始圧である0mmHgに到達するとS14の判断が肯定されるので、前記評価値算出部82に対応するS16においてスティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ、それらの比ΔK、および/または比率ΔSが算出される。そして、前記表示制御部80に対応するS17では、たとえば図6に示すように、上記S16において算出された評価値が表示器16に表示されるとともに、記憶部72において記憶されたデータに基づいて、図6に示す経壁圧力PAに対する血管径Dの変化を示すグラフ、図7に示す経壁圧力PAに対する血管壁厚Tの変化を示すグラフ、図8に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管径Dの変化を示すグラフ、図9に示す圧力容器24内の圧力Pc に対する血管壁厚Tの変化を示すグラフが一挙に、或いは手動選択操作にしたがって選択的に表示される。
【0061】
上述のように、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、圧力容器24は、生体の四肢( 腕) において長手方向に位置する上腕34の中間位置( 第1位置) と前腕22の中間位置( 第2位置) との間を封止する環状膨張袋24f( 第1封止装置) 、環状膨張袋24g( 第2封止装置) とを備え、上記腕の長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることから、比較的大径の動脈44(管腔体)を圧力容器24に収容する場合でも圧力容器24を比較的小型とすることができるので、被測定者に物理的或いは精神的な負担を強いることが少なくなる。また、物理的或いは精神的な負担が少なくなることに関連して、動脈44(管腔体)の断面形状の安定した測定が可能となるので、高精度の生体内管腔体評価を行うことが可能となる。特に、圧力容器24を通した生体の先端部が被測定者に見えることから、精神的な安定感が得られる。
【0062】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、第1封止装置および第2封止装置として、一対の周方向に連なる環状膨張袋24fおよび24gを備え、それら一対の環状膨張袋24fおよび24gを膨張させることで生体の腕の第1位置および/または第2位置との間を封止することから、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても圧力容器24と外部との間の封止が安定して得られる。
【0063】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、被測定者20の前腕22と上腕34との間が圧力容器24内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器24の内圧が変化させる過程で、その圧力容器24内に収容された上腕34内の動脈44の径( 断面形状値) Dが血管径算出部( 断面形状測定装置) 76によって非侵襲で測定されるとともに、表示制御部( 表示制御手段) 80によってその圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化とが、表示器16に表示される。このように、上腕34を収容する圧力容器24内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、動脈44の経壁圧力PAの上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、それを十分超える200mmHg程度の高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた動脈44の径Dから、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化、すなわち動脈44の力学的性質が表示器16に表示されるので、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力PAが収縮期血圧以上の高圧領域で動脈44の弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、動脈44の経壁圧力PAの上限値が高圧領域まで拡大されることから、動脈44の径が大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0064】
ちなみに、図11は、水を満たした袋で生体の測定部位を圧迫し、その圧迫圧力と血圧値との差を血管壁にかかる圧力( 経壁圧力) とし、その圧力を変化させたときの血管径の変化から、血管壁の弾性特性を測定する従来の装置で図6と同様の、動脈44に対する圧迫圧力の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化を示している。この場合には、経壁圧力PAの上限値が収縮期血圧Ps を超えることが出来ず、200mmHg付近の高圧領域まで測定することが出来ないので、実線に示す動脈硬化患者と破線に示す健常者との区別が困難であり、測定や評価精度が十分に得られなかったのである。上記図11も、図6と同様に、血管径Dが0mmHgの時の半径で正規化されている。
【0065】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、表示制御部( 表示制御手段) 80は、動脈44の径( 断面形状値) Dを示す軸と圧力容器24内の圧力Pc を示す軸との二次元座標内において、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径( 断面形状) Dの変化とを示す複数の点を、表示器16に連続的に表示させることから、その表示に基づいて動脈44の力学的性質を把握でき、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。
【0066】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、表示制御部( 表示制御手段) 80は、圧力容器24の内圧Pc と動脈44の径( 断面形状) Dとを、時間軸に沿って連続的に表示させることから、測定中の圧力容器24の内圧Pc と動脈44の径Dとを把握することができ、測定の異常を容易に判定したり、その異常の対処を速やかにすることができる。
【0067】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、圧力容器24の内圧Pc を、予め設定された負の圧力である最低圧力値( たとえば−80mmHg)と予め被測定者20の収縮期血圧Ps 以上に設定された正の圧力である最高圧力値( たとえば200mmHg)との間で変化させる表示制御部( 表示制御手段) 80を、含むことから、この最低圧力値の設定を変更することにより、動脈44の経壁圧力PAの変化範囲のうちの高圧領域を所望の範囲に設定し、その高圧領域において動脈44の力学的性質を測定することができる。
【0068】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、血管径算出部( 断面形状測定装置) 76は、被測定者20の上腕34内からの超音波反射信号SRから、動脈44の径Dおよび管壁の厚みTを測定することから、その測定値により動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【0069】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、被測定者20の上腕34が圧力容器24内に収容された状態で、負圧を含む圧力範囲でその圧力容器24の内圧Pc が変化させられる過程で、その圧力容器24内に収容された被測定者20の前腕22が内の動脈44の径Dおよび壁厚Tが血管径算出部76および血管壁厚算出部78( 断面形状測定装置) によって非侵襲で測定されるとともに、評価値算出部( 評価値算出手段) 82によってその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて動脈44の力学的性質を示す評価値が算出され、表示制御部( 出力手段) 80によって、その評価値算出部82により算出された動脈44の力学的性質を示す評価値が出力される。このように、被測定者20の上腕34を収容する圧力容器24内が負圧を含む圧力範囲で変化させられることによって、動脈44の経壁圧力PAの上限値が、従来では収縮期血圧に対応する経壁圧力までしか得られなかったのに対し、200mmHg程度のそれを十分超える高圧領域まで拡大されることから、その高圧領域において得られた断面形状値から、圧力容器24の内圧Pc の変化とその圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて動脈44の力学的性質を示す評価値が算出されて出力されるので、その力学的性質に基づいて動脈44を正確に評価できる。すなわち、経壁圧力PAが収縮期血圧以上の高圧領域で弾性特性を知ることができ、その弾性特性を精度良く把握できるので、たとえば動脈硬化の診断精度も十分に得られる。また、動脈44の経壁圧力の上限値が高圧領域まで拡大されることから、動脈44の径Dが大きい状態で測定して評価できるので、測定精度や評価精度が一層高められる。
【0070】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、圧力容器24の内圧Pc の変化に対応して変化する動脈44の径Dの変化に基づいて、スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τのうちの少なくとも1つを算出することから、その算出値から動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【0071】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば120乃至150mmHg以上の予め設定された高圧領域において得られた動脈44の力学的性質を示す評価値( スティフネス・パラメータβ、圧力−歪み弾性係数Ep 、動脈径変化率AS、コンプライアンスDC、コンプライアンスCC、増分弾性係数Einc、血管収縮率SR、血管収縮時の時定数τ) と経壁圧力PAの変化範囲のうちのたとえば80mmHg以下の予め設定された低圧領域において得られた動脈44の力学的性質を示す評価値との差または比ΔKが算出されるので、その差または比ΔKに基づいて動脈44の硬化状態が正確に評価できる。
【0072】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、評価値算出部82は、動脈44の力学的性質を示す評価値として、圧力容器24を予め設定された減圧値だけ減圧したときの動脈44の径Dの増加値ΔD+とその圧力容器24を予め設定された増圧値だけ増圧したときの動脈の径Dの減少値ΔD−との比率ΔSが算出されるので、その比率ΔSに基づいて動脈44の硬化状態が正確に評価できる。
【0073】
また、本実施例の生体内管腔体評価装置10によれば、血管径算出部( 断面形状測定装置) 76は、被測定者20の前腕22内からの超音波反射信号SRから、動脈44の径Dを測定することから、その測定された動脈44の径Dにより容器内圧を変化させることにより動脈44の力学的性質を正確に得ることができる。
【実施例2】
【0074】
次に本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互間に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
図13は、圧力容器24に備えられた封止装置の他の構成を示す縦断面図である。図13において、貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止するために貫通穴24dおよび貫通穴24eの内周面に固着された周方向に連なる軟質樹脂或いは合成ゴム製の一対の環状膨張袋24fおよび24gとをそれぞれ備えている点は共通しているが、その環状膨張袋24fおよび24gの圧力容器24内側および外側において、内周側端縁部が上腕34および前腕22に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bが設けられている。これら各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bは、たとえば比較的薄いゴムシートから構成される。本実施例によれば、一対の環状膨張袋24fおよび24gに加えて、その両側に各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bが設けられているので、圧力容器24内部とその外部の大気との間の圧力差に基づいて生体の上腕34との間および前腕22との間が封止されることで、性別や年齢、体格に応じて生体の一部の寸法がばらついたとしても、一層圧力容器24とその外部との間の封止が安定して得られる。
【実施例3】
【0076】
図14は、圧力容器24に備えられた封止装置のさらに他の構成を示す縦断面図である。図14の実施例では、図13の実施例に比較して、一対の環状膨張袋24fおよび24gが除去され、専ら、各一対の可撓性環状膜90aおよび90b、92aおよび92bによって圧力容器24と上腕34との間および圧力容器24と前腕22との間が封止される点で、相違している。本実施例によれば、シール装置の構成が簡単となり、ポンプ24kや圧力制御弁24mが不要となる利点がある。
【0077】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0078】
たとえば、前述の図2、図13、図14の実施例において、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間を封止する封止構造は同じであったが、異なる封止構造であってもよい。たとえば、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間が図13または図14に示す封止構造で構成され、圧力容器24の貫通穴24eと前腕22との間が図2に示す封止構造で構成されてもよい。
【0079】
また、図13及び図14の実施例において、圧力容器24の貫通穴24dと上腕34との間および貫通穴24eと前腕22との間の封止のために、一対の可撓性環状膜90aおよび90b、一対の可撓性環状膜92aおよび92bがそれぞれ設けられていたが、一対の可撓性環状膜90aおよび90b、或いは、一対の可撓性環状膜92aおよび92bのうちの一方、たとえば可撓性環状膜90aおよび可撓性環状膜92bが圧力容器24と上腕34との間および圧力容器24と前腕22との間の封止のために用いられてもよい。
【0080】
また、前述の図2、図13、図14の実施例において、圧力容器24は前腕22と上腕34との間を封止するものであったが、下肢の一部を封止するものであってもよい。
【0081】
また、前述の実施例において、血圧測定部68は血圧測定に際してカフ36を用いていたが、そのカフ36に替えて圧力容器24を用いて上腕34を圧迫することにより、同様に、オシロメトリック法により方を用いて血圧測定してもよい。
【0082】
また、前述の実施例において、血圧測定部68は、たとえば図15に示すように、圧力容器24の圧力Pc を収縮期血圧よりも所定値高い圧力に到達するまで所定の速度で徐速昇圧させる過程で圧力容器24の圧力Pc に含まれる圧力振動である脈波の振幅の差分( 変化量率)が最大となる時点の圧力容器24の圧力Pc を拡張期血圧および収縮期血圧として決定する。或いはまた、血圧測定部68は、図16に示すように、圧力容器24の圧力Pc を収縮期血圧よりも所定値高い圧力に到達するまで所定の速度で徐速昇圧させる過程で動脈44の径Dの振幅の差分が最大となる時点の圧力容器24の圧力Pc を拡張期血圧および収縮期血圧として決定する。このようにすれば、前述の実施例の生体内管腔体評価装置と同様の効果が得られるのに加えて、血圧測定専用のカフ36や圧力制御弁40等が不要となるのに加えて、血管径Dの変化率にもとづく%FMDが測定される利点がある。
【0083】
なお、上述したのは、あくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0084】
10:生体内管腔体評価装置
20:被測定者(生体)
22:前腕( 四肢)
24:圧力容器
24f、24g:環状膨張袋( 第1封止装置、第2封止装置)
34:上腕( 四肢)
44:動脈(管腔体)
46:超音波プローブ( 断面形状測定装置)
76:血管径算出部( 断面形状測定装置)
90a、92b:可撓性環状膜( 第1封止装置、第2封止装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部を収容した状態で、負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させることが可能な圧力容器と、該圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を非侵襲で測定する管腔体の断面形状測定装置とを備え、該生体の一部内に位置する管腔体の断面形状値に基づいて該管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置であって、
前記圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることを特徴とする生体内管腔体評価装置。
【請求項2】
前記第1封止装置および/または第2封止装置は、周方向に連なる環状膨張袋を備え、該環状膨張袋を膨張させることで前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする請求項1の生体内管腔体評価装置。
【請求項3】
前記第1封止装置および/または第2封止装置は、内周側端縁部が前記四肢に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる一対の可撓性環状膜を前記圧力容器の内外に備え、該圧力容器と大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする請求項1または2の生体内管腔体評価装置。
【請求項1】
生体の一部を収容した状態で、負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させることが可能な圧力容器と、該圧力容器内に収容された生体の一部内の管腔体の断面形状値を非侵襲で測定する管腔体の断面形状測定装置とを備え、該生体の一部内に位置する管腔体の断面形状値に基づいて該管腔体を評価するための生体内管腔体評価装置であって、
前記圧力容器は、前記生体の四肢において長手方向に位置する第1位置と第2位置との間を封止する第1封止装置および第2封止装置とを備え、該生体の四肢の第1位置と第2位置との間を収容した状態で負圧を含む圧力範囲で内圧を変化させるものであることを特徴とする生体内管腔体評価装置。
【請求項2】
前記第1封止装置および/または第2封止装置は、周方向に連なる環状膨張袋を備え、該環状膨張袋を膨張させることで前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする請求項1の生体内管腔体評価装置。
【請求項3】
前記第1封止装置および/または第2封止装置は、内周側端縁部が前記四肢に面接触可能な幅寸法を有して周方向に連なる一対の可撓性環状膜を前記圧力容器の内外に備え、該圧力容器と大気との間の圧力差に基づいて前記生体の四肢の第1位置および/または第2位置との間を封止することを特徴とする請求項1または2の生体内管腔体評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−207415(P2010−207415A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57133(P2009−57133)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度科学技術振興重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)「動脈硬化度の精密測定装置開発のための試験研究」)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(304008175)株式会社ユネクス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度科学技術振興重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)「動脈硬化度の精密測定装置開発のための試験研究」)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(304008175)株式会社ユネクス (16)
【Fターム(参考)】
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