説明

生体化合物の安定同位体標識のための組成物及び方法

本発明は、生体化合物の三次元構造が例えばNMR分光分析により分析できるように、安定同位体による生体化合物の標識に関する。本発明は、安定同位体で一様に標識されているバイオマスを生成するために、安定同位体を含む炭素及び窒素源を含んでいる無機栄養培地で増殖させる微生物を使用する。このバイオマスを自己消化させて自己消化物を生成してもよい。バイオマスを有機溶媒で更に抽出して脂質を生成することができる。この脱脂されたバイオマスは加水分解されて標識されたアミノ酸及び他の栄養素を生成し、これらは自己消化物、抽出脂質及び他の成分と一緒に使用されて、安定同位体で一様に標識された生体化合物の生産のための哺乳動物又は昆虫の宿主細胞用の培地を構成する。生体化合物は、好ましくは哺乳動物の膜タンパク質などの生体高分子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定同位体による生体化合物の標識に関する。本発明の方法では、微生物を、安定同位体を含む炭素及び窒素源を含んでいる無機栄養培地で増殖させて、安定同位体で一様に標識されているバイオマスを生成する。バイオマスを有機溶媒で抽出して、脂質を生成する。次に、脱脂されたバイオマスの残りを加水分解して、標識されたアミノ酸及び他の栄養素を生成し、これらを使用して、安定同位体で一様に標識された生体化合物を生成するための好適な宿主細胞用の培地を調製する。安定同位体による均一な標識は、NMR分光法による生体化合物の三次元構造の決定を可能にする。生体化合物は、好ましくは哺乳動物の膜貫通タンパク質などの生体高分子である。
【背景技術】
【0002】
「合理的な薬物設計」の概念は、生体高分子、特にタンパク質の三次元(3D)構造についての詳細な知識を必要とする。合理的な薬物設計は、ある疾患の病因に関係していることが疑われる特定の生体分子の「活性部位」の三次元構造の決定を含む。生体分子は、例えば受容体、酵素、ホルモン又は他の生物学的活性分子である。一旦生体分子又は少なくともその活性部位の三次元構造が分かると、科学者はコンピュータモデリングを使用して、分子の本来の生物活性を阻止、模倣、又は強化する分子を設計することが可能になる。生体分子の三次元構造についての知識は、したがって、実用上及び商業上非常に重要である。
【0003】
タンパク質及び他の大きな生体分子の三次元構造の決定に利用できる最初の技術は、X線回折であった。ヘモグロビン及びDNAの構造は、この技術、X線回折を使用して決定された最初のものの1つであったが、三次元構造は結晶内の整然とした分子の原子により屈折するX線のパターンから計算されるので、調査する分子は結晶の形で利用できることが必要である。それにより、三次元決定のためのX線回折の使用は、結晶化することが可能な分子に限られている。結果として、大多数の膜タンパク質に対しX線回折を実施することができず、また結晶化は科学よりむしろ経験的な技術であるので、多くの可溶タンパク質の結晶化の試みは失敗した。現在、タンパク質データベースには、X線結晶学で分析された一体膜領域では100項目(0.7%)だけしか含まれず(その内11は単離された単一のαヘリカル膜貫通領域にすぎない)、可溶タンパク質は13600の項目があるのと対照的である。構造ジェノミックスのために最近適用された技術及び方策は、Essen(2002年、Gene Funct.Dis.3:39頁;及びJack、2002年 DDT 7:35頁も参照)によって詳述されている。
【0004】
より最近、他の技術の核磁気共鳴(「NMR」)分光法が生体分子、特にタンパク質の三次元構造を決定するために開発された。NMR分光法は、分析する分子の結晶化が必要ではなく、したがって原則として、結晶化が困難な膜貫通タンパク質及び他の分子を含む関心の任意の生体分子に適合するはずである。NMR分光法の更なる利点は、タンパク質とそのリガンドとの相互作用の動力学の詳細な像を提供することのできる能力である(Roberts、G.C.K.、(2000年)DDT.5:230頁)。
【0005】
NMR分光法は、分析する分子(通常適当な溶媒中の)を強力な磁場に置き、強い無線信号で照射する。様々な原子の核は磁場により整列し、ついにはラジオシグナルによってエネルギーが付与される。次にそれらはこのエネルギーを吸収して、i)核の種類及びii)主に核の結合で決定する化学的環境によって決まる周波数でそれを再放射(共鳴)する。更に、共鳴は結合を通して、又は三次元空間を通して、ある核から他の核に伝えられ、したがってその近くの特定の核の環境に関する情報を提供する。
【0006】
しかし、全ての核がNMR活性であるというわけではなく、特に、同じ元素の全ての同位体が活性であるというわけではない。高分子NMRのために最も一般に使用される安定同位体は、13C、15N及びHである。31P、19F及びHなどの、天然のNMR活性の核もある。タンパク質などのより大きな分子のためには、NMRスペクトルの十分に強いシグナルには、NMR活性安定同位体による濃縮が必要である。使用されるNMRプローブに従い、例えば「普通の」水素、H、はNMR活性であるのに対し、重水素(ジューテリウム)、即ちHはそうでない。したがって、任意の水素含有分子は、全てのH水素原子をHで置換することによって、水素NMRスペクトルで「不可視」にすることが可能である。この理由のために、水溶性物質のNMRスペクトルは、水のシグナルを避けるためにO(重水)溶液内で決定される。逆に、「普通の」炭素、12CはNMR不活性であるが、安定同位体の13C(自然界では全炭素の約1%)は活性である。同様に、「普通の」窒素、14NはNMR不活性であるが、安定同位体15N(自然界では全窒素の約1%)は活性である。したがって、生体分子NMRのために最も一般に使用される安定同位体は、13C、15N及びHである。
【0007】
小分子、即ち約1000ダルトン未満の分子量を有する分子では、NMR活性同位体の自然界での低い濃度は、NMRスペクトルで必要なシグナルを生成するのに十分であることがわかった。しかし、タンパク質などのより大きな分子のためには、NMRスペクトルの十分に強いシグナルには、NMR活性安定同位体による濃縮が必要である。同位体濃縮は、感度及び分解能の増加、及びNMRスペクトルの複雑性の低下をもたらす。同位体濃縮は、異核多次元的NMR実験の効率的利用を可能にし、スペクトルの帰属過程、更にスピン−スピンカップリングの構造上の制約に対する代替手法を提供した。
【0008】
同位体濃縮又は生体分子における置換を達成する方法は、これらの同位体で標識された増殖培地でタンパク質を産生することができる微生物を増殖させることであった。このために、選択された特定のタンパク質、例えば医学上重要な哺乳動物のタンパク質を産生するように遺伝子操作によって形質転換された細菌又は酵母を、13C及び/又は15Nで標識された基質を含んでいる培地で増殖させた。実際には、これらの培地は、通常、13Cで標識されたグルコース及び/又は15Nで標識されたアンモニウム塩からなる(例えばKayら、1990年、Science、249:411頁、及びその中の参照文献を参照)。国際公開90/15525は、増殖及びタンパク質産生を改善するための、標識されたタンパク質加水分解産物を含んでいる細菌及び酵母の栄養培地を開示している。
【0009】
しかし、この方法は、定義上哺乳動物、好ましくはヒトが起源である合理的なヒト用薬物設計における大部分の関心タンパク質にとって、満足できるものではない。細菌又は酵母などの微生物で発現される多くの哺乳動物タンパク質は、生来のタンパク質と同一であるか、そうでなくとも似ている形態では産生されない。このことは特に、かなりの翻訳後修飾、例えば適当な折畳み、ジスルフィド架橋を通しての分子間及び分子内の鎖の架橋、グリコシル化、アシル化、リン酸化及び他の化学修飾、並びに活性型へのタンパク質分解などを受ける、哺乳動物の膜タンパク質及び分泌タンパク質において事実である。これらの修飾の多くは、細菌及び酵母の宿主細胞によって確実に実行されるとは限らない。結果として、細菌又は酵母によって産生されたタンパク質は関連する生来の構造を有せず、似てもいないので、構造機能研究のために使用することはできない。しばしば、それらのタンパク質は生来のタンパク質の生物活性を有さず、場合によっては、哺乳動物のタンパク質を細菌で産生することは全く不可能である。これらの理由のために、哺乳動物細胞及び昆虫細胞の両方を利用する宿主−ベクター系が開発された。哺乳動物細胞系、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、コス細胞及び昆虫細胞系、例えばSpadoptera frugiperda細胞系Sf9及びSf21(Luckow及びSummers、1988年、Biotechnol.6:47〜55頁)は、天然のタンパク質のそれらと類似の翻訳後修飾で、組換え哺乳動物タンパク質を産生することが分かった。
【0010】
しかし、タンパク質を13C又は15Nなどの安定同位体で標識するために哺乳動物又は昆虫の細胞を使用する際の問題点は、細菌が単純無機栄養培地で増殖が可能であるのに対して、哺乳動物及び昆虫の細胞は、少なくともアミノ酸を含む栄養素の複雑な混合物を必要とすることである。この問題は、当技術分野では、標識アミノ酸の供与源としてタンパク質含有の標識バイオマスの加水分解産物を使用することにより対処された。好ましくは、標識バイオマスの作製のためには、単純な(したがって、安い)標識炭素源及び窒素源、例えば15NH15NO15NO、H13CO1513CO、又はOだけで増殖し、それにより光合成を通して標識原子をタンパク質、炭水化物、脂質及び核酸などの複雑な生体分子に取り込むことが可能な緑藻類又は藍藻類などの微生物が使用される。哺乳動物細胞における組換えタンパク質の均一な同位体標識のための実際の方法は、Hansenら(1992年、Biochem、31;12713頁)によって記載されている。これらの著者は、NMR構造研究のために哺乳動物細胞から同位体標識されたタンパク質を生成するための、同位体標識された藻類及び細菌のタンパク質の加水分解を開示している。加水分解をトリプタミン及びイミダゾールの存在下でメタンスルホン酸により実施し、その後、アミノ酸をイオン交換クロマトグラフィーによって精製した。しかし、使用した加水分解の条件は、アスパラギン、グルタミン及びシステイン残基を破壊し、わずかなトリプトファンを残す。したがって、哺乳動物の培地は市販のシステイン、及び酵素処理で合成され、N及びC原子だけが標識されたグルタミンを補う必要があった。培地は、更に5%の熱処理血清を補充し、したがって、タンパク合成のために使用される非標識の物質を含んでいた。
【0011】
国際公開94/18339は、哺乳動物及び昆虫の細胞で発現される標識タンパク質のための栄養培地を開示している。この栄養培地は、緑藻類クロレラの加水分解されたバイオマスから精製した標識アミノ酸からなり、また、標識された合成アミノ酸のシステイン、グルタミン及びアスパラギン、並びに標識されたグルコース及びピルビン酸で補充された。哺乳動物又は昆虫の細胞において同位体標識のタンパク質及び高分子、例えば糖タンパク質を産生するための類似の技術は、例えば米国特許第5393669号及び第5627044号、Weller(1996年、Biochem.、35:8815〜23頁)及びLustbader(1996年、J.Biomol.NMR 7;295〜304頁)で記載されている。
【0012】
国際公開99/11589は、アミノ酸の側鎖ではなく骨格構造が同位体標識されているタンパク質を標識する方法を開示する。このようなタンパク質は、二重に保護されたグリシン誘導アミノ酸から化学的に合成された骨格標識アミノ酸からなる、細胞培養培地で産生される。
【0013】
昆虫又は哺乳動物の細胞で標識タンパク質を産生するための栄養培地を提供するために、当技術分野ではこれまで主に加水分解されたバイオマスから同位体標識されたアミノ酸を得ることに集中してきた。グルコース又はピルビン酸などの他の栄養素と同様に加水分解産物中に十分な量が存在しなかったアミノ酸は、単に市販製品を入手して培地に補った。哺乳動物の(膜貫通)タンパク質に関するNMR構造研究の必要性が長い間当技術分野であったにもかかわらず、また、そのような栄養培地は1994年以降開示されてきたにもかかわらず、これらの培地で増殖した哺乳動物又は昆虫の細胞から産生された同位体標識タンパク質に関するNMR構造研究の報告は皆無である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって本発明の目的は、NMR分析のための同位体標識タンパク質の生成のために、昆虫又は哺乳動物の細胞を増殖させる培地を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様において、本発明は、培養中の哺乳動物又は昆虫の細胞を増殖させるための栄養培地を作製する方法に関するものである。栄養培地において、H、C又はNの少なくとも1つについて、生体分子の合成のために細胞によって使用される基質内の実質的に全ての原子が同位体標識されている。好ましくは、本方法は、(a)H、C又はNの少なくとも1つについて、実質的に全ての同化性原子が同位体標識された、生物の増殖を支える無機栄養培地でその生物を増殖させ、標識バイオマスを生成するステップと;(b)ステップ(a)において増殖させた生物のバイオマスを自己消化させて自己消化物を生成するステップと;(c)ステップ(b)で得られた自己消化物を哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる構成要素と組み合わせることによって栄養培地を構成するステップとを含む。前記生物は、好ましくは真菌、酵母又は藻類である。好ましい酵母としては、パン酵母、メチロトローフ酵母があり、好ましい藻類としては紅藻類がある。好ましくは、前記生物はサッカロミセス(Saccharomyces)、ピチア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、ブレタノミセス(Brettanomyces)、デバリオミセス(Debaryomyces)、トルロプシス(Tolrulopsis)、ヤロウィア(Yarrowia)、ガルジエリア(Galdieria)、シアニジウム(Cyanidium)、ポルフィリジウム(Porphyridium)、シストクロニウム(Cystoclonium)、オードウイネラ(Audouinella)、シアニジオシゾン(Cyanidioschyzon)から選択される属の生物である。
【0016】
本明細書では、自己消化物は、自己消化的に可溶化された細胞構成要素、例えばアミノ酸、ポリペプチド、核酸、タンパク質、グリコーゲン、糖、ビタミンB群、有機酸、脂質及び他の構成要素を含んでいる組成物であると理解されている。生物の自己消化は、通常、原形質分離剤、例えばNaCl、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム又はデキストロースの存在下で、高温(30〜50℃)で長時間(3〜18時間)生物の細胞をインキュベートすることを含む。インキュベーションの間、細胞構成要素は細胞内因性の加水分解酵素によって加水分解され、細胞壁は破壊されて崩壊し、タンパク質成分は水環境中に放出される。不溶解性の細胞断片は遠心分離及び/又は濾過によって除去され、上述の可溶性構成要素を含んでいる自己消化物が得られる。通常必要ではないけれども、本発明における自己消化物は外来性の加水分解酵素の使用を排除しない。
【0017】
好ましくは、本方法は更に、(a)生物の増殖を支える無機栄養培地でその生物を増殖させ、H、C又はNの少なくとも1つについて、培地内で実質的に全ての同化性原子を同位体標識して標識バイオマスを生成するステップと;(b)有機溶媒で生物のバイオマスを抽出して脂質を含んでいる抽出物を生成するステップ(前記生物はステップ(a)のように増殖させたものであるか、又は、同位体で置換されていない培地でステップ(a)のように増殖させたものである)と;(c)ステップ(a)のように増殖させた生物のバイオマスを非アルカリpHで加水分解させてアミノ酸を含む加水分解物を生成するステップと;(d)上で得られた自己消化物をステップ(b)で得られた脂質及び/又はステップ(c)で得られたアミノ酸と組み合わせ、哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる構成要素を加えることによって栄養培地を構成するステップとを含む。好ましくは、栄養培地は、培地内で哺乳動物又は昆虫の細胞によってタンパク質を産生するのに適する培地である。好ましくは、哺乳動物又は昆虫の細胞でタンパク質を産生するために必要な更なる構成要素が、栄養培地に加えられる。好ましくは、H、C又はNの少なくとも1つについて、前記更なる構成要素内の実質的に全ての同化性原子を同位体標識する。非アルカリpHは、好ましくはpH約8.0以下である。
【0018】
本明細書で使用されるように、分子が「実質的に標識される」、又は、分子内又は組成物内の特定の元素の「実質的に全ての」原子が「同位体標識される」若しくは「所定の同位体形態である」という用語は、その分子又はその分子を含んでいる組成物は、意味があるNMRスペクトル情報が得られるように所望の同位体が十分に濃縮されることを意味する。13C及び15NなどのNMR活性同位体の場合、濃縮の程度は、三次元構造情報がNMRスペクトルから導かれる程度である。一般に、本発明との関連で、このことはある元素の原子の約95%以上が所望の同位体形態であることを意味し、好ましくは約98、99、99.5、又は99.9%以上である。H単独による濃縮の場合、濃縮の程度は、標識分子が、それと複合体化しているか又はNMRで分析する試料中に存在しているNMR活性種の分析を妨害するのに十分な量のNMRシグナルを生じない程度である。この場合、濃縮のレベルは好ましくは約70%、より好ましくは約80、90、95又は98%を超える。或いは、H濃縮のレベルは、NMR活性核、H、13C及び15Nからのシグナルが強化されるか又はより良く分解されるようなレベルである。一般に、この濃縮レベルは、約20%から約40、50、60、70、80、90又は100%の範囲である。本発明との関連で用語「同位体標識の」又は「所定の同位体形態の」は、通常、NMRスペクトルを得る際に有用な同位体を指すことは、当業者には理解されよう。しかし、本発明は必ずしもそれに限定されるものではなく、例えば非安定放射性同位体などの他の同位体にも関係する。
【0019】
本発明において、分子は通常一様に標識されているが、このことは、ある分子内の特定の元素の実質的に全ての原子が特定された程度に同位体標識されるか、又は所定の同位体形態であることを意味する。或いは、本発明において、分子は特異的に標識することができるが、このことは、分子内の1つ又は複数の特異的な位置にある特定の元素の実質的に全ての原子だけが同位体標識されるか、又は所定の同位体形態であることを意味する。特異的に標識されたアミノ酸及びそれからなるタンパク質の例は、アミノ酸側鎖ではなく骨格構造が同位体標識されているタンパク質を生成するために使用される化学合成アミノ酸を開示している、国際公開99/11589で提供されている。
【0020】
哺乳動物又は昆虫の細胞によって合成される生体分子は、そのような細胞によって合成される任意の分子でよく、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリデオキシヌクレオチド及びポリリボヌクレオチドなどの核酸、炭水化物、脂質、それらの代謝産物及び組み合わせでよい。生体分子は哺乳動物又は昆虫の細胞によって自然に合成される分子でよく、又は、遺伝子操作の結果としてそれらの細胞によって合成される分子でもよい。後者の場合、分子は通常ポリペプチド又は核酸となるが、遺伝子操作の結果、例えば特定の酵素活性をコードする1つ又は複数の遺伝子を導入することによって生成する代謝産物も含まれる。
【0021】
同位体標識バイオマスの作製
本発明の方法のステップ(a)で増殖させる生物は、好ましくは無機培地又は合成培地で増殖させる。同位体標識する元素(C、N及び/又はH)に従い、培地は好ましくは当の同位体で一様に標識されている唯一の炭素源及び/又は窒素源を含み、より好ましくは前記唯一の炭素源及び/又は窒素源内の実質的に全ての原子は同位体標識されている。炭素及び/又は窒素を含有する様々な化合物、例えばグルコース及び他の糖類、小有機酸、尿素などをこのために使用することができる。しかし、好ましくは、無機基質CO、N、NH、NO、NO、HCO、又はメタノール、メタン、メチルアミン、ホルムアルデヒド及びギ酸などの有機C−化合物を含む単一の炭素原子又は窒素原子だけを含む炭素源及び/又は窒素源が使用される。
【0022】
結果として、ステップ(a)で増殖させた生物は、好ましくは光合成、化学合成無機栄養、又はメチロトローフの生物である。生物はしたがって、好ましくは微生物であるが、植物は排除されない。植物はin vitro培養などで植物細胞として培養することができ、この場合にはそれらは標識二酸化炭素を含んでいる限定空間で、無機栄養培地が供給される基質上で増殖させることができる。生物は、好ましくは独立栄養的に増殖させる。増殖させる場合、好ましくは、生物は、好ましくは一般に当技術分野で公知なように適宜pH、温度、光及び酸素、並びに二酸化炭素、炭素/窒素源及び他の栄養素の供給を調節した撹拌発酵槽内で液内培養により増殖させる。
【0023】
本方法のステップ(a)で増殖させる適当な生物としては、シアノバクテリア(藍藻類)及び他の光合成細菌、例えば、嫌気的紅色硫黄細菌及び非硫黄細菌、窒素固定細菌、真核の藻類、例えば緑藻類、紅藻類、褐藻類、珪藻類及び他の黄金色藻類、並びに渦鞭毛藻類、地中植物、及びミドリムシ類、メチロトローフ細菌、及び酵母を含む真菌類がある。好ましい生物としては以下がある:多価不飽和脂肪酸(PUFA)、脂溶性ビタミン及びステロールを含む脂質の供給源としては、Rhodophyta(紅藻類)、Cyanidiophyceae(ほとんどの場合紅藻類に属すと言われる)、Chlorophyta(緑藻類)、Cyanophyta(藍藻類)、Diatoms(珪藻類)、Phaeophyceae(褐藻類)及びDinoflagelate(渦鞭毛藻類);タンパク質(更にアミノ酸生成のため)の供与源としてのメチロトローフ細菌;タンパク質(更にアミノ酸生成のため)及びビタミンの供与源としてメチロトローフ酵母;グルコース、ショ糖、果糖などの炭水化物及びビタミンの供与源としてのCyanophyta(藍藻類);培地に放出されるグリセリン及び有機酸の供与源としてのChlorophyta(緑藻類)、Dinoflagelate(渦鞭毛藻類);暗条件で培地に排出される有機酸の供与源としてのChlorobiaceae(緑色硫黄)及びRhodospirillaceae(紅色非硫黄)細菌。
【0024】
以下に示す例は、本発明の方法での使用が好まれるこれらの生物の綱に属する適当な属である。
【0025】
Cyanophyta(藍藻類;Cyanobacteria):Spirulina、Synechoccus、Anabaena又はMicrocystis。Chlorophyta(緑藻類):Chlorella、Neochloris、Scenedesmus、Dunaliella、Haematococcus、Staurastrum。Rhodophyta(紅藻類):Porphyridium、Cyanidium、Cystoclonium又はAudouinella。Cyanidiophyceae(好熱性のRhodophyceae);Cyanidium、Galdiera、Cyanidioschyzon。Phaeophyta(褐藻類);Ectocarpus又はStreblonema。heterokontophyta(heterokont chromophytes)、prymnesiophyta(haptophyta)、bacillariophyceae(diatoms(珪藻類))、chryptophyta、dinophyta(pyrrhophyta、dinoflagelletes(渦鞭毛藻類))、euglenophyte(ミドリムシ類)、ciliates(繊毛虫)及び絶対従属栄養鞭毛虫の群の藻類。Heterokontophyta:Rhinomonas、Syncripta又はHeteroccus。Prymnesiophyta(haptophyta);Pseudoisochrysis、Phaeocystis、Prymnesium又はEmiliania。Bacilaariophyta門Bacillariophyceae綱(珪藻類)を含むChrysophyta群:Phaeodactylum、Navicula、Nitzchia、Amphora,Centronella、Eucampia、Fragilaria、Chrysophyta門Chrysophyceae綱(黄金色藻類)、Haptophyta門Haptophyceae綱。Chryptophyta:Cryptomonas、Chroomonas又はRhodomonas。Dinophyta:Peridinium、Oxyrrhis又はCrypthecodinium。Euglenophyta:Euglena(ミドリムシ)又はAstasia。Ciliates(繊毛虫):Metopus、Cyclidium。光合成細菌(Rhodospirilleae)は、紅色細菌(Rhodospirillineae)及び緑色細菌(Chlorobiineae)の2亜目に分けられる。緑色硫黄細菌(Chlorobiaceae):Chlorobium又はPelodictyon。緑色非硫黄細菌(Chloroflexaceae):Chloroflexus。紅色硫黄細菌(Chromatiaceae):Chromatium、Amoebobacter又はThiodictyon。紅色非硫黄細菌(Rhodospirillaceae):Rhodobacter、Rhodopseudomonas、Rhodophila、Rhodospirillium又はRhodomicrobium。Heliobacteria(Heliobacteriaceae):Heliobacterium又はHeliobacillus。好気的光合成細菌:Erythrobacter。メチロトローフ微生物は以下を含む:絶対メチロトローフ細菌:Methylobacillus、Methylophilus、Methylomonas、Methylococcus又はMethylobacter、条件的メチロトローフ細菌:Brevibacterium:並びに酵母一般、例えばSaccharomyces、Kluyveromyces(例えば標識グルコース又はエタノール上で増殖する)、好ましくはメチロトローフ酵母:Pichia又はHansenula。化学合成無機栄養細菌:Ralstonia又はNocardia。
【0026】
標識バイオマスを生成する方法は当技術分野で公知であり、このことは、標識炭水化物及び塩の存在下での細菌の増殖に関する刊行物(Kayら、上記)、藻類の溶解物中での細菌の増殖に関する刊行物(Chubb、R.T.ら、Biochemistry、30、7718頁(1991年)、藻類の溶解物中での酵母の増殖に関する刊行物(Powers、R.ら、Biochemistry、31、4334頁(1992年)、標識メタノール中での細菌及び酵母の増殖に関する刊行物(Moat、A.G.及びFoster、J.W.、微生物の生理学(Microbial Physiology)、第2版、John Wiley & Sons、ニューヨーク(1988年)、218頁を参照)、及び同位体標識CO及び/又はN塩の存在下での藻類の光合成培養に関する刊行物(Cox、J.ら、小児栄養及び代謝研究における安定同位体(Stable Isotopes in Pediatric Nutritional and Metabolic Research)、Chapman、T.E.ら編、Intercept社、Audover House、イングランド(1990年)、1615頁)から明らかである。
【0027】
脂質の抽出
本発明の方法のステップ(b)において、ステップ(a)で得られたバイオマスは有機溶媒で抽出されて脂質を含んでいる抽出物が生成される。この脂質抽出物は、(三、二及び/又は一)グリセリド、ステロール、リン脂質、スフィンゴ脂質、脂溶性ビタミン及び/又は遊離脂肪酸を含んでもよい。脂質、脂肪酸、その他は、本明細書ではChristie(2003年:「脂質分析(Lipid Analysis)」3版、The Oily Press)を参考にして、脂肪酸及びその誘導体、並びにこれらの化合物と生合成的に又は機能的に関連する物質と定義される。本発明との関連で、用語脂質は、クロロホルム、ベンゼン、エーテル及びアルコール類などの有機溶媒への易溶性を共通して有する一群の天然化合物と定義され、その例としては脂肪酸及びそれらの誘導体、ステロイド、カロチノイド、テルペン、胆汁酸及び脂溶性ビタミンなどの多様な化合物が含まれる。
【0028】
抽出の前に、バイオマスは当技術分野で公知の手段、例えば遠心分離又は何らかの形式の濾過によって培地から回収してもよい。任意選択に、バイオマスはその後、例えば水又は所定の浸透強度の緩衝剤及び/若しくは水溶液を使用して洗浄することができる。抽出の前に、バイオマスは、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥を使用して乾燥してもよい。乾燥バイオマスは、便利にも抽出の前まで保存することができる。バイオマスが除去された使用済み培地は、有用な標識化合物、例えばアミノ酸、分泌タンパク質及び炭水化物を含んでいる可能性がある。使用済み培地は、したがって、好ましくは噴霧乾燥又は凍結乾燥法によって乾燥する。乾燥残留物は、その後下記のように、バイオマスのために抽出及び/又は加水分解してもよい。或いは、バイオマス及び培地は分離されない。そのような例においては、バイオマス及び培地は、好ましくは下記のように濃縮及び/又は貯蔵、また以降の抽出及び/又は加水分解のために一緒に凍結乾燥される。
【0029】
好ましい抽出法において、バイオマス内の細胞は、当技術分野で公知の任意の適当な技術によって粉砕される。これらの技術には例えば音波破砕が含まれるが、より好ましくは、機械的作用、例えばバイオマスの粉砕又は磨砕が使用される。或いは、バイオマス内の細胞は、それらの細胞壁を例えば酵素処理によって弱めるために処理することもできる。粉砕は抽出の前に行ってもよいが、より好ましくは、抽出の間に溶媒媒体内で適用される。これにより、抽出効率が高められる。バイオマス内の細胞を崩壊させるために各種の公知の抽出器具、又はむしろ粉砕器具を使用することが可能であり、例としては湿式法微粉砕機械、例えばボールミル、摩擦ディスクミル、ヘンシェル(Henshel)ミキサー、フレンチプレスなどがある。好ましくは、バイオマス内の細胞は、粉砕器具内の圧縮性又は摩擦性の機械的な力によって少なくとも部分的に破壊又は分解される。しかし、細胞は、粒子が細かくなりすぎて溶媒混合物から容易に分離することができなくなるほど過剰に崩壊させるべきではないことに注意する。
【0030】
いかなる抽出法の基本は、バイオマスを適当な抽出培地と暫くの間接触させ、その後、バイオマス及び抽出培地の混合物を、(1)混合物の未溶解の構成要素(即ち抽出されたバイオマス)、及び(2)溶解抽出物(即ち、バイオマスから抽出された溶存成分を含む抽出培地)に分離することである。理想的な抽出条件下では、固形物は、溶媒に速やかに溶け、短時間で完全に溶けるはずである。しかし、物質の複雑な混合物を扱う場合はこのことが決まって起こるとは限らず、ましてや膜結合してタンパク質複合体と結合した藻類細胞内の物質は言うまでもない。より効率的な抽出のために、バイオマス及び抽出培地は、上述した機械的手段を含む何らかの方式の振盪、撹拌、混合又は均質化によって混合される。混合物の分離は当技術分野で一般に知られている、沈降、遠心分離及び濾過を含む様々な手段で実施してもよい。抽出され、分離されたバイオマスは、その後再び同じか異なる抽出培地で抽出してもよい。様々な溶解抽出物を混合して、抽出成分は当技術分野で公知の様々な手段、例えば抽出培地の溶媒の蒸留又は(フラッシュ)蒸発によって溶解抽出物から回収することができる。
【0031】
バイオマスからの脂質の抽出のための適当な溶媒は低級脂肪族アルコール又は低級脂肪族炭化水素であり、低級脂肪族とはC〜Cを意味する。しかし、原則として、アセトン、ハロゲン化低級脂肪族アルコール又は炭化水素、並びに低級脂肪族エーテルなど他のいかなる有機溶媒も等しく適用することができる。同様に、有機溶媒の混合物も適用することができる。適当な方法は、通常、不飽和脂質の酸化を阻止する条件下、例えば抽出を減圧下又は窒素、アルゴンその他などの不活性ガスの下で実施することにより、適当な溶媒を使用することを含む。アルコール類は、アセトンよりも抽出のための溶媒として好まれる。しかし、アルコール類はクロロフィルのアロマーの形成を促進することが知られ、またクロロフィルは商品価値を有するため、クロロフィル含有バイオマス(例えば緑藻バイオマス)は、好ましくはアセトンを溶媒として抽出される。
【0032】
重要ではないが、本発明で使用される溶媒の量は、乾燥重量換算でバイオマス1部に対して約2から7重量部、好ましくは約3から6重量部の範囲にあるのがよい。抽出の間、水が溶媒と共に存在することが好ましい。溶媒と共に使用される水量は、無水物換算で溶媒1重量部に対して約0.2から0.7重量部、好ましくは0.3から0.6重量部の範囲にあるのがよい。バイオマスが完全に乾燥している場合はそのような水量は計算された重量で別に供給することができるが、培地の除去のための遠心分離又は濾過によって得られるようなバイオマス体の湿った塊が使用される場合のように、バイオマスが水を含む場合は、別個に加える水の量を減少させる必要がある。微生物の水性懸濁液を抽出する場合は、使用される水性懸濁液の量と使用される抽出用溶媒の量との間の比率自体は重要でない。1:1から1:100の重量比が通常使用される。1:2から1:50の比率が普通使用され、最後に、好ましくは1:5から1:20の作用比率が使用される。
【0033】
バイオマス(微生物)から脂質を抽出するためのいくつかの方法は、当技術分野で公知である。従来の技術の1つは、例えばクロロホルム及びメタノールの溶媒混合物中でバイオマスを均質にすることを含む。バイオマスから脂質を抽出するための他の適当な方法は、この目的のために本明細書で参照により組み込まれている米国特許第4857329号で記載されている。この特許は、先ず熱いアルコール溶媒が存在するか存在しない条件下で細胞を磨砕し、次に、アルコール処理した磨砕細胞を好ましくは超臨界状態の溶媒、又は超臨界状態の溶媒と低級脂肪族アルコール若しくは低級脂肪族炭化水素との混合物で抽出することによる、Mortierella属の真菌の細胞からの脂質の抽出を記載している。低級脂肪族アルコールは、好ましくは約40℃から約120℃の沸点を有すものである(例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール及びイソブタノール)。好ましい低級脂肪族炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びシクロヘキサンがある。好ましい処理条件としては、約35℃から90℃の温度、及び約200から600kg/cmの圧力が含まれる。他の適当な方法は、この目的のために本明細書で参照により組み込まれている米国特許第4870011号で開示されている。この方法は、2ステップからなる機械的な崩壊を含み、第1はアルコール/水混合液を用いて極性脂質が豊富な分画を提供し、次に、炭化水素溶媒、例えばヘキサンを用いて極性脂質が乏しい分画を提供する。特に好ましい溶媒システムは、ヘキサンとイソプロパノールとの体積比が約3から2の混合物である。脂質及び脂肪酸の抽出のための好ましい抽出法では、クロロホルム及びメタノールの混合物を使用する。好ましくは、クロロホルムは毒性のより低いジクロロメタンで置換され、後者は蒸発によって除去することがより簡単である。
【0034】
脂質は、酸化、光、熱、酸及びアルカリに感受性が高いことがある。したがって抽出の間、脂質は、例えば酸化又は異性化反応のために望ましくない構造変化を経る可能性がある。当業者は、抽出過程の間のそのような望ましくない変化を減らすために必要な予防措置をとる方法を知っているであろう。
【0035】
脂質は通常、細胞内で見られる水不溶性有機物であり、非極性溶媒によって抽出することができる。脂質の主要なクラス及びサブクラスはいくつかあるが、そのほとんどはその脂肪酸構成要素の構造に従い異なる分子種で見られ、また、それぞれは好ましい抽出法を有する。アシルグリセロール(中性脂肪又はグリセリドとも称される)は、好ましくはエーテル、クロロホルム、ベンゼン又はエタノールで抽出される。ホスホグリセリド類(例えばPEA=ケファリン、PC=レシチン)は、好ましくはクロロホルム/メタノールの混合物で抽出される。ステロイド、特にステロールは、好ましくはクロロホルム、エーテル、ベンゼン又は熱アルコールで抽出される。カロチノイドを含むテルペン類(細胞のマイナーな脂質構成要素)は、好ましくは水溶性溶媒、例えばアセトン、メタノール又はエタノールを使用して抽出される。脂溶性ビタミンエキスは、通常有機溶媒で抽出することができる。スフィンゴ脂質(セレブロシド)、糖脂質(グリコシルジアシルグリセロール、セレブロシド、ガングリオシド)、プロスタグランジン及びコレステロールは、Christie(上記)が記載しているように抽出することができる。
【0036】
クロロフィル及びカロチノイドなどの色素は、好ましくは水溶性有機溶媒(上記参照)を使用して抽出される。
【0037】
脂質抽出物の生成のための生物は、好ましくは高い脂質含量及び/又はその特有の脂質組成に基づいて選択される。Nagashimaは、様々な藻類綱における主要な脂肪酸の分布をレビューしている(1994年:「進化経路及びEnigmatic藻類:Cyanidium caldarium(紅藻類)及び関連した細胞(Evolutionary Pathways and Enigmatic algae:Cyanidium caldarium (Rhodophyta)and related Cells)」、J.Seckbach編、Kluwer academic Publishers、201〜214頁)。大部分の藻類は、C16及びC18系列の脂肪酸、並びにC18不飽和脂肪酸の供与源の役目を果たす。Rhodophyta、Chryptophyta、Chromophyta及びHaptophytaは、C20:4及びC20:5の供与源の役目を果たすことができる。
【0038】
不飽和脂肪酸の分布パターンは、個々の藻類綱内で異なる。Chlorophyceae(緑藻類)は、C16:3(n−3)、C16:4(n−3)の好ましい供与源であり、Rhodophyceae(紅藻類)はC20:4(n−6)、C20:5(n−3)の好ましい供与源であり、Phaeophyceae(褐藻類)はC18:3(n−3)、C18:4(n−3)、C20:4(n−6)、C20:5(n−3)の好ましい供与源である(Takagiら、(1985年)Yukagaku、34、1008〜1012頁、また、Banaigsら(1984年、Phytochemistry 23:2951〜2952頁も参照)。
【0039】
一般に紅藻類(例えばCystoclonium purpureum)は、長鎖多価不飽和脂肪酸(即ちC18以上の長さ)及びそれらの誘導体の好ましい供与源である(Hoppe、H.A.、Levring、T.、Tanaka、Y.編、薬学における海藻(Marine Algae in Pharmaceutical Science)。Walter de Gruyter、ベルリン、437〜523頁のPohl及びZurheide、(1979年))。Porphyridium種、例えばP.aerrugenium(淡水)及びP.ruentum(塩水)は、アラキドン酸C20:4(n−6)(全脂肪酸の36%)の好ましい供与源である(Arad、1986年、Int.Indus.Biotechnol.7:281〜283頁;「作動中の生体塩:塩水による生体生産(Biosalinity in Action: Bioproduction with saline water)」、Pasternak、D.、San Pietro A編、Nijhoff Publishers、117〜128頁中のAradら、1985年;「藻類のバイオテクノロジー。機会の海(Algal Biotechnology.A sea of opportunities)」、要旨集、Universidad de Almeria、Servicio de Publicaciones中のGudin、2002年)。
【0040】
Dinophyta、例えばCrypthecodinium cohniiは、DHA−C22:6(n−3)などの長鎖不飽和脂肪酸(PUFA)の好ましい供与源である(例えば、Borowitzka、1999年、J.Biotechnology 70:313頁;米国特許第5711983号;米国特許第4670285号;国際公開WO91/14427;「バイオテクノロジー及び栄養(Biotechnology and nutrition)」、Bills、D.D.、Kung、S.D.編、Butterworth−Heinemann、ボストン、451〜468頁中のKyleら(1992年);「藻類のバイオテクノロジー。機会の海。(Algal Biotechnology.A sea of opportunities.)」要旨集。Universidad de Almeria、Servicio de Publicaciones中のGudin、Sijtsmaら及びMendoza、2002年を参照)。
【0041】
従属栄養珪藻類、例えばNitzschia、Cyclotella、Naviculaは、EPA−C20:5(n−3)のための好ましい供与源である(国際公開91/14427を参照)。EPAのための他の供与源は、海洋性珪藻Phaeodactylum(藻類のバイオテクノロジー。機会の海。(Algal Biotechnology.A sea of opportunities.)要旨集。Universidad de Almeria、Servicio de Publicaciones内のBelarbi、E.H.ら、Acien、F.G.ら、Sanchez、M.ら及びCini Zitteli、G.を参照)及び海洋性珪藻Tetraselmis(Ceron、M.C.ら、2002年、同じ本内)である。
【0042】
Chlorella、Dunaliella、Haematococcus、ParietochlorisなどのChlorophyta(緑藻類)はPUFAのための供与源である(「藻類のバイオテクノロジー。機会の海。(Algal Biotechnology.A sea of opportunities.)」、要旨集。Universidad de Almeria、Servioio de Publicaciones内のCohenら、Gudin、2002年を参照)。Cyanophyta SpirullinaはPUFAの供与源として使用することができる。
【0043】
緑藻類Dunaliellaはグリセリン(藻類の有機重量の20〜40%)の供与源であり、細胞内グリセリン濃度は細胞外の塩濃度に正比例し、且つ培養条件によって決まる。25℃未満では、培地内でグリセリンはほとんど又は全く見られなかった。25℃以上では、培地中へのグリセリン放出速度は徐々に増加し、40℃以上では劇的に増加するので、50℃までには藻類は2、3分以内にそのグリセリンを培地内に失う(Wegmannら、1980年)。
【0044】
したがって、藍藻植物はC16脂肪酸の、緑藻類はC18脂肪酸の、紅藻類及び珪藻類はC16〜C20脂肪酸のための好ましい供与源である。高等藻類一般、即ち真核生物の藻類は、フォスファチジルコリン(レシチン)のための好ましい供与源である。
【0045】
当業者は、増殖条件を変えることによって、与えられた生物が産生する脂質の実際の組成に影響を及ぼすことができることを知っている。例えば温度を上昇させると、それに対応して不飽和脂肪酸の量が減少することは、よく知られている。脂質組成に及ぼす温度の影響の更なる例は、Cyanidium caldariumである(Kleinschmidt及びMcMahon、1970年、Plant Physiol.46:290〜293頁を参照)。20℃で増殖させたC.caldarium細胞は、55℃で増殖させた細胞と比較して相当多くの量の糖脂質(一及び二ガラクトシルジグリセリド)及びリン脂質(フォスファチジルコリン及びフォスファチジルエタノールアミン)を含んでいた。同様に、20℃で増殖させた細胞は、55℃で増殖させた細胞よりも不飽和度が3倍高い極性脂質成分を含んでいた。C.caldariumは、好ましくは25℃で増殖させる。
【0046】
一般に、藻類からの天然物の生成及び単離のためには、Cresswell、Rees及びShah(1989年、藻類とシアノバクテリアのバイオテクノロジー(Algal and Cyanobacterial Biotechnology)。Longmann &Scientific technical)、Cohen(1999年、微小藻類からの化学物質(Chemicals from microalgae)。Taylor & Francis)、及び要旨集「藻類のバイオテクノロジー。機会の海(Algal biotechnology.A sea of opportunities)」(2002年、上記)が参考になる。
【0047】
藻類は、通常、広範囲のステロールを産生する。藻類におけるステロールの分布は、例えばPatterson(1991年:「ステロールの生理学及び生化学(Physiology and Biochemistry of Sterols)」、Patterson、G.W.及びNes、W.D.編、American Oil Chemists’ Society、イリノイ州シャンペーン、351〜354頁)によってレビューされている。エルゴステロール及びシトステロールは、例えば大部分の藻類の門並びに高等植物から得ることができる。紅藻、例えばRhodophyta(紅藻類)はコレステロールのための好ましい供与源であり、C27、C28、C29ステロール(C28が支配的である)に加えて、シトステロール、メチレン−24コレステロール及びカンペステロール(24−メチルコレステロール)の供与源としての働きをする。Chlorophyta(緑藻類)は、シトステロール、(クロレラ)、カンペステロール、ポリフェラステロール(24−エチルコレスタ−5,22−ジエノール)、エルゴステロール(24−メチルコレスタ−5,7,22−トリエノール)及び他のステロールの好ましい供与源である。シアノバクテリア(藍藻類)は、コレステロール、エルゴステロール、コンドリラステロール、シトステロール、カンペステロール及び他の24−アルキルステロールを含む広い範囲のステロールの好ましい供与源である。褐藻は、フコステロール(24(E)−エチリデンコレステロール)の好ましい供与源である。Cyanidiophyceae(Cyanidium)は、エルゴステロール、β−シトステロール及びカンペステロールの好ましい供与源である。したがって、藻類は、脂質抽出物から一様に標識されたステロールを得るための供与源と考えることができた。それらの単離のための標準手法は、一般に当技術分野で公知である。植物又は藻類の抽出物からのステロールの単離のために、2つの方法がしばしば使用されてきた。一晩−10℃に置いた石油溶液から相当量のステロールを沈殿させることができるが、より効率的な方法はステロールをそれらのジギトニドとして沈殿させることを含む(Volkman、J.K.微生物におけるステロール(Sterols in microorganisms)Appl.Microbiol.Biotechnol(2003年)60:495〜506頁、ステロールの生理学及び生化学(Physiology and Biochemistry of Sterols)(Patterson、G.W.及びNes、W.D.編)American Oil Chemists Society、イリノイ州シャンペーン、118〜157頁内のPatterson、G.W.(1991年)も参照)。
【0048】
アミノ酸加水分解物
本発明の方法のステップ(c)では、ステップ(a)のように増殖させた生物のバイオマスを加水分解してアミノ酸を含む加水分解物を生成する。バイオマスは好ましくは非アルカリpH、好ましくは8.0以下のpHで加水分解される。バイオマス内のタンパク物質は、酵素、酸処理、又は両方の組み合わせによって加水分解することができる。タンパク質の加水分解のために、塩酸、メタンスルホン酸による加水分解及び酵素加水分解を含め、多くの方法が発表されている。
【0049】
酵素加水分解の場合には、好ましくは、タンパク質分解酵素は、それらが例えば沈降、遠心分離又は濾過によって、好ましくは他の不溶解性成分と共に都合よく加水分解産物から取り除かれるように固体担体上で固定される。或いは、酵素反応の後に加水分解産物を酸性化することが便利かもしれない。このことは、酵素を変性及び沈殿させた後、例えば遠心分離又は濾過によって加水分解産物から除去することができる点が有利である。バイオマス内のタンパク質又はタンパク物質の酵素加水分解のための方法は、Milligan及びHolt(1977年、Adv.Exp.Med.Biol.86B:277〜284頁)、及びBergmeyer(1984年:「酵素分析の方法(Methods of enzymatic analysis):酵素(Enzymes)3:ペプチダーゼ、タンパク分解酵素及びそれらの阻害剤(peptidases,proteinases,and their inhibitors)」、VCH Publishing、3版)によって記載されている。本発明で酵素加水分解のために使用されることが可能なエンドプロテアーゼ及びエキソプロテアーゼの市販混合物は、例えばSumizyme(商標)FP、Sumizyme(商標)LPプロテアーゼ(両方とも、Shin Nihon、日本)、Flavourzyme(商標)プロテアーゼ(Novo Nordisk A/S、デンマーク)及びProtease M(商標)Amano(Amano、日本)である。類似した特性を有する他の同等の酵素も、同様に使用することが可能である。糸状菌酵素の酸性の最適pH条件から見れば、エンド及びエキソプロテアーゼ混合物は、アスペルギルス(Aspergillus)種、特にA.oryzae又はA.sojaeなどの種から得られるのが好ましいが、他のアスペルギルス種、又は実際、他の真菌の種からの酵素も同じように使用することができる。これらのプロテアーゼと、例えば他のプロテアーゼ、例えば細菌性のエンドプロテアーゼであるPescalase(商標)(DSM、オランダ)プロテアーゼとの混合物も、使用することができる。バイオマス内のタンパク質又はタンパク物質の酵素加水分解のための好ましい酵素は、Fluka(Buchs SG、スイス)から入手できるPronaseである。
【0050】
本方法では、しかし、酸加水分解が好まれる。標識アミノ酸を得るためのバイオマスの酸加水分解の方法は、国際公開94/18339で広範囲に記載されている。基本的には、これらの方法は、強い鉱酸、例えば塩酸、硝酸又は硫酸の使用を含む。p−トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸などのスルホン酸がより好まれ、後者は最も好まれている。酸濃度はタンパク質基質の性質によって異なってもよいが、一般に完全な加水分解の実行に十分な濃度である。一般的に、酸濃度は約1Nから約8Nの範囲であり、好ましくは約4Nから約7N、より好ましくは約5Nから約6Nの範囲である。酸加水分解は、好ましくは非酸化条件下で実行される。これらの条件は、真空内で反応を行うことによって、又は、窒素、アルゴンその他の不活性ガスによるパージによって達成される。加水分解されるタンパク質は、約50g/lから500g/lの間の濃度で、好ましくは約100g/lから250g/lの間の濃度で加水分解培地に加えることができる。加水分解は、実質的に完全な加水分解を実行し、同時に不安定なアミノ酸のラセミ化又は損失を最小にするのに十分な温度及び時間で実行する。加水分解の温度は、通常、約90から140℃の範囲であるが、アミノ酸のラセミ化を最小にするためには、温度は好ましくは100から130℃、より好ましくは110から120℃の範囲であり、特に好まれるのは115℃である。加水分解の時間は、加水分解するタンパク質に従い、10から72時間の範囲でよい。好ましくは、約22時間の加水分解時間が使用される。加水分解反応の間、酸化に影響されやすいアミノ酸は、好ましくは還元剤の存在によって保護される。好ましくは、チオグリコール酸などの強いスルフヒドリル含有還元剤が使用される(Fasman、G.D.編、生化学及び分子生物学の実用ハンドブック(Practical Handbook of Biochemistry and Molecular Biology)、CRC、ニューヨーク(1989年)、106頁)。その還元剤の目的は、脆弱なトリプトファン及びヒスチジン残基を単に保護することではない。チオグリコール酸が使用されると、それは本発明の方法によってその後容易に除去することが可能である。還元剤は、加水分解混合液中の濃度がトリプトファン及びヒスチジンの実質的な破壊を予防するのに十分な濃度で使用される。チオグリコール酸では、そのような濃度は、通常、約1から約7v/v%、好ましくは約3から約15v/v%の範囲である。より好ましくは、又は更に、トリプトファン及びヒスチジンの破壊は、トリプタミン及びイミダゾールなどの「自殺塩基」を含めることによって減少又は予防することができる(例えば、Hansenら、1992年、Biochem.31:12713頁を参照)。トリプタミン及びイミダゾールのそれぞれは、好ましくは酸加水分解混合物1リットルにつき10〜15gの割合で加えられる。好ましい加水分解条件は、例えば好ましくは脂質及び色素(下記参照)を含まない10gのバイオマスの加水分解の場合、150mlの4Mメタンスルホン酸内で、2gのトリプタミン及び2gのイミダゾール存在下、減圧下の115℃で22時間である。
【0051】
グルタミン及びアスパラギンは上記の加水分解条件下ではかなり脱アミノ化される可能性があるので、それらは好ましくは他の供給源、例えば化学合成若しくは酵素的合成、同位体標識され、グルタミン酸及び/又はアスパラギン酸が豊富なバイオマス又はタンパク質の酵素加水分解から加えるか、或いは、それらは直接過剰生産株の発酵から得てもよい(例えば、R.Faurie、J.Thornmel、2003年、L−アミノ酸の微生物生産(Microbial production of L−amino acids)、Springer Verlagを参照)。
【0052】
好ましい一実施形態において、バイオマス内のタンパク物質は、先ず酵素加水分解をして、タンパク物質を部分的に加水分解する。タンパク質分解酵素の除去後、その物質を先に述べたように酸で更に完全に加水分解する。酵素及び酸による加水分解を組み合わせるときは、好ましくは、比較的純粋で経済的な製品として容易に入手可能なエンドプロテアーゼを少なくとも含む、タンパク質分解酵素の混合物が使用される。好ましくは非特異的エンドプロテアーゼが使用される。エンドプロテアーゼを含んでいる適当な市販組成物は、上で指摘されている。
【0053】
好ましくは本方法では、その加水分解の前にバイオマスから脂質及び色素を除去するために、バイオマスは有機溶媒で抽出される。加水分解の前に脂質特に色素をバイオマスから抽出する利点は、これらの化合物は昆虫又は哺乳動物に有毒であるか、又は加水分解の間に毒性化合物に変換されるか、又はそれらは加水分解を妨げる可能性があることである。脂質及び色素は、先に本明細書で記載されているようにバイオマスから抽出することができる。好ましくは、抽出は、少なくとも効率的な色素抽出のために最適化される。バイオマスは好ましくは2回以上抽出され、それにより別々の抽出工程が、脂質の抽出のため、また色素の抽出のために最適化される。色素の抽出のための好ましい条件は、上で記載されている。
【0054】
好ましくは、不溶物は遠心分離又は濾過によって加水分解産物から除去される。アミノ酸は、とりわけEgorovaら(1995年、J.Chrom.Biomed.Appl.665:53〜62頁)及び国際公開94/18339で記載されているように、例えば逆相又はイオン交換クロマトグラフィーによって、加水分解産物から単離することができる。
【0055】
最後に、本発明の方法では、ステップ(b)で得られた脂質をステップ(c)で得られたアミノ酸と組み合わせ、哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる構成要素を加えることによって、栄養培地を構成する。栄養培地は、同じ1つの生物、又は少なくとも2つの異なる生物から得られた脂質及びアミノ酸で構成することができる。好ましくは、アミノ酸加水分解物及び脂質抽出物のそれぞれは、少なくとも2つの異なる生物から得られる。したがって、1つ又は複数の生物をアミノ酸加水分解物の生成のために選択し、1つ又は複数の異なる生物を脂質抽出物の生成のために選択することができる。
【0056】
アミノ酸加水分解物の生成のための生物は、好ましくは高いタンパク含量及び/又はそのアミノ酸組成に基づいて選択される。この目的に合う適当な生物は上で指摘されており、例えばタンパク含量が乾燥重量で70%のSpirulinaなどの緑藻類、又はMethylobacillusなどのメチロトローフ細菌が含まれる。ロシア特許SU989867は、タンパク含量が乾燥重量で80%のMethylobacillus methylophilus種の菌株(VSB−932)を開示している。
【0057】
アミノ酸加水分解物の生成のための更に好ましい生物としては、酵母一般、例えばSaccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Hansenula、Pichia、Brettanomyces、Debaryomyces及びTolrulopsisがある。好ましい属には、Pichia、Hansenula、Sacchromysesが含まれる。特に好ましいのは、Pichia pastoris及びHansenula polymorphaなどのメチロトローフ酵母であり、これらはグルコース、ショ糖、トレハロース、マルトース、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、マンニトールトール、メタノール及びエタノールを含む広い範囲の炭素源上で増殖することが可能である。酵母からアミノ酸加水分解産物を生成する好ましい方法としては、例えば米国特許第4165391号及びLukondehら(2003年、J.Ind.Miorobiol.Biotechnol.30:52頁)で記載されているような、酵母バイオマスの自己加水分解を挙げることができる。酵母の安定同位体標識及びそれからの抽出物の調製は、日本特許第6261743号(1994年)で開示されている。
【0058】
酵母自己消化物は、自己消化的に可溶化された細胞構成要素、例えばアミノ酸、ポリペプチド、核酸、タンパク質、グリコーゲン、糖、ビタミンB群、有機酸及び他の構成要素を含んでいる濃縮生成物である。酵母の自己消化は、通常、原形質分離剤、例えばNaCl、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム又はデキストロースの存在下で、昇温状態(30〜50℃)で長時間(3〜18時間)の間、酵母細胞をインキュベートすることを含む。NaClは5〜20w/v%、好ましくは2から10w/v%の濃度で使用され、溶媒は約1から10v/v%の濃度で使用される。インキュベーションの間、細胞構成要素は酵母内因性の加水分解酵素によって加水分解され、細胞壁は破壊されて崩壊し、タンパク質成分は水環境中に放出される。不溶解性の細胞断片は遠心分離及び/又は濾過によって除去され、上述の可溶性構成要素を含んでいる自己消化物が得られる。
【0059】
本発明において、好ましくは上で示された酵母種を炭素源及び窒素源(13C及び/又は15N安定同位体標識)、無機塩、その他を含んでいる栄養培地で培養し、細胞を遠心分離で収穫して水で適切に洗浄し、得られた酵母生菌を抽出物生成のために使用する。水分は、純水、希釈塩を含んでいる水又は発酵槽/培養物の自然の溶液が可能である。酵母細胞は、好ましくは乾燥重量換算で約5%から15%の濃度で水に懸濁し、50〜75℃、好ましくは65〜70℃の温熱ショックで約30秒間処理して細胞壁の亀裂及び自己消化を誘発する。自己消化に関係するプロテアーゼ及び他の加水分解酵素の活性を維持するために、より長い時間の処理及び65℃より上の温度は好ましくなく、温熱ショックの後に急速に冷却することが好ましい。その後、酵母細胞は6.5〜10.0、好ましくは7.5〜8.0のpH、10w/v%のNaClで自己消化させられる。pHは、温熱ショックの前か後に調節することができる。pHを調節するために、希釈した15Nの標識水酸化アンモニウム又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが可能である。水中の温熱ショック処理された酵母細胞の懸濁液は、次に酵素自己消化を可能にするために、約30〜50℃、好ましくは40〜45℃で約3〜12時間保たれる。可溶性成分を次に遠心分離又は濾過によって回収して酵母自己消化物を生成し、長期貯蔵のために凍結乾燥することができる。
【0060】
本発明との関連で、用語「酵母抽出物」、「yeastolate」、酵母加水分解産物及び/又は「アミノ酸を含んでいる加水分解産物」(酵母から作製)は、化学的加水分解、及び、後者は自己消化とも称されるが、外因性及び内因性の酵素による酵素的加水分解のそれぞれを含んでもよい加水分解法によって生成するアミノ酸含有加水分解産物を含むものと理解される。
【0061】
更なる栄養素
同位体標識グルコースはシアノバクテリアから単離するか、又は市販品を入手することができる。例えばSpirulinaのバイオマスの炭水化物含量を増やすために、塩ストレス条件(例えば0.5MのNaClにおける増殖)を与えてもよい。
【0062】
有機酸は、最高69%の有機酸を産生する渦鞭毛藻類から十分に得ることができる。渦鞭毛藻類(Symbiodinium属)は、恒久的に濃縮された染色体という独特な特徴を有する運動性の単細胞藻類である。渦鞭毛藻類は、グリセリン及び有機酸の供与源である。大部分の共生関係において、渦鞭毛藻類は胃真皮層の細胞内に位置し、宿主起源の膜によって囲まれている。放出される主要な化合物は、グリセリン(21〜95%)、有機酸(0〜69%)、グルコース(0.5〜21%)及びアラニン(1〜9%)である。異なる宿主から単離されるSymbionidiumの間の相違は、Zoanthus pacifica及びScyphozoan Rhizostomaによって例示される。Zoanthusからの共生生物はその光合成物の42%を放出し、その95%はグリセリンで3%は有機酸であるのに対して、Rhizostomaの共生生物はその光合成物の20%を放出し、その21%はグリセリンで69%は有機酸である(Trench、1971年 Proc.R.Soc.Lond.B.177:251〜264頁)。
【0063】
緑色硫黄細菌Chlorobiumは、暗所でインキュベートすると、酢酸、プロピオン酸、カプロン酸及びコハク酸などの有機酸を排出する(「嫌気的光合成細菌(Anoxigenic photosynthetic bacteria)」、Blankenship、R.E.ら編、Kluwer Academic Publishers、879頁のSirevag、1995年を参照)。有機酸は、微生物の従属栄養又は混合栄養増殖のための炭素源としても与えることができ、炭素源として酢酸塩又はグルコースを使用した従属栄養培養が暫く使用された。しかし、従属栄養培養は全ての微小藻類にとって可能であるというわけではなく、従属栄養条件では藻類の化学組成はしばしば変化する(Borowitzka、1999年、Biotechnol.70:313〜321頁)。
【0064】
紅色非硫黄細菌は、自然界で見られる最も代謝的に多様な生物である。Rhodospirillum rubrumによる有機酸の発酵は、Gorell及びUffen(1977年、J.Bacteriol.131:533〜543頁)によって、また、Kohlmirrer及びGest(1951年、J.Bacteriol.61:269〜282頁)によって議論されている。
【0065】
有機酸、特にフマル酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸などのクレブス回路の酸は、液−液及び液−固抽出、抽出物の精製、誘導体化及び前分画によって単離することができる(Liebich、H.M.1990年。Analytica−Chimica−Acta。236(1)、121〜130頁、米国特許第3875222号)。それらは、もし分泌されている場合は有機溶媒によって培養液から抽出することが可能であり、又は、脂質と共にバイオマスから抽出することができる(Lianら、1999年。J.Pharm.Biomed.Analysis.19:621〜625頁)。有機酸は、例えば80%(v/v)沸騰エタノールを使用して遊離アミノ酸と共に抽出することができる。
【0066】
或いは、安定同位体標識された植物は、標識された培地成分の供与源として使用してもよい。植物の一様な(98%を超える15N)安定同位体標識は、例えばIppelら(2004年、Proteomics 4:226〜234頁及びその中の参照)で記載されている。同位体標識植物は、(アミノ酸含んでいる)加水分解産物、自己消化物、脂質及び炭水化物の供与源として、主に下記のように使用することができる。
【0067】
昆虫又は哺乳動物の細胞を増殖させるための栄養培地の組成
更なる態様において、本発明は昆虫又は哺乳動物の細胞の増殖を支える栄養培地と関連する。好ましくは、栄養素はタンパク質、好ましくは組換えタンパク質、及びウイルス生成物の生成を支える。栄養培地は、好ましくはH、C又はNの少なくとも1つについて、生体分子の合成のために昆虫細胞によって同化される基質内の実質的に全ての原子が同位体標識されている培地である。栄養培地は、NMR組織分析のために、タンパク質のような生体分子の同位体標識のために使用してもよい。培地は、好ましくは血清、血清由来の成分及び動物由来の成分を含まない。
【0068】
栄養培地は、好ましくは、先に述べたように微生物培養物から得ることができる様々なアミノ酸加水分解物、脂質抽出物、炭水化物及び有機酸で構成される。培地には更に、必要に応じて化学合成又は市販の成分を補うことができる。最終的な菌体濃度及び/又はタンパク質生成レベルに対する培地成分及びそれらの濃度の最も重要な影響を見つけるために、様々な加水分解産物、脂質抽出物及び炭水化物及び有機酸製剤がスクリーニングされ、試験された。
【0069】
本発明に従って昆虫又は哺乳動物の細胞で生成した生体分子の同位体標識のための好ましい栄養培地は、以下を含む:
(a)無機塩の混合物;
(b)同位体標識アミノ酸の供与源;
(c)同位体標識されたエネルギー源、通常グルコースのような炭水化物の形
(d)脂質の供与源
(e)保護剤
(f)(任意選択に)ビタミン及び/又は低濃度の有機化合物
(g)(任意選択に)有機酸
(h)(任意選択に)微量要素。
【0070】
細胞培地への取り込みのための無機塩混合物は、当技術分野で公知である。無機塩混合物は、好ましくは生理学的イオン強度及びpH緩衝能力を提供する。昆虫細胞のための適当な無機塩混合物は、例えばグレース培地又はシュナイダー培地からわかる塩混合物である。哺乳動物細胞のための適当な無機塩混合物は、例えばダルベッコの修正イーグル培地(D−MEM)(Price、P.J.ら、1995年、Focus 17:75頁)、BME(基礎イーグル培地、Eagle、H.(1965年)Proc.Soc.Exp.Biol.Med.89:362頁を参照)、F−10、F12栄養素混合物(Ham、1963年、Exp.Cell.Res.29:515頁)、及びそれらの修正版、又はCHO−SSFM1培地(Gibco)からわかる塩混合物である。好ましくは、混合物がH、C又はNの元素の1つを含んでいる無機塩を含む場合は、塩の実質的に全ての原子は、アミノ酸など他の成分の同位体標識の種類に従って同位体標識される。例えば、NaHCOはBMEでは2.2g/lの濃度で、D−MEMでは3.7g/lの濃度で存在する。更に、D−MEMは0.05mg/l又は0.1mg/lの濃度のFe(NO)x9HOを含む。全てではないにしてもほとんどの昆虫細胞培地は、グレースの処方(Grace、1962年、Nature 195:788頁)に基づき、更に、0.35〜0.7mg/lの濃度のNaHCOを含む。IPL−41は、0.04mg/lの濃度の(NH(Mo24x4HO)を含む。
【0071】
同様に、栄養培地への任意選択の取り込みのための微量要素(一般に非常に低い濃度、通常マイクロモル濃度の範囲で必要な無機化合物又は天然の要素として定義される)の組成、及び培地におけるそれらの最終濃度は、昆虫及び哺乳動物両方の細胞に関して当技術分野で公知である(例えば「哺乳動物細胞技術(Mammalian cell technology)」、109頁、Butterworths Publishers内のThilly、1986年;「昆虫細胞培養(Insect cell cultures):基本的及び応用的側面(fundamental and applied aspects)」2巻、Kluwer Academic Publishers内のVlakら、1996年;及び、「工業的細胞培養ハンドブック(Handbook of industrial cell culture):哺乳動物、微生物及び植物細胞(mammalian,microbial,and plant cells)」、Humana Press内のPerekh及びVinci、2003年を参照)。
【0072】
培養中の昆虫又は哺乳動物の細胞のためのエネルギー源は、通常炭水化物、好ましくはグルコースを含む。同位体標識されたグルコース又は他の糖類、例えば単糖又は二糖は、市販製品を入手するか、又は藻類のバイオマスから単離することができた。グルコースのような炭水化物の供与源として好ましいバイオマスは、好ましくは塩ストレス条件下で増殖させた緑藻類のバイオマスである。
【0073】
アミノ酸の供与源
本発明の栄養培地のための同位体標識アミノ酸の供与源は、好ましくはバイオマス又はタンパク質生成物の多種多様な加水分解産物から選択されるが、その加水分解産物は単独で又は組み合わせて使用することができる。好ましい加水分解産物は、先に述べたように得られた、脱脂又は溶媒抽出された藻類、細菌又は真菌(酵母)バイオマスから得られる。これらの加水分解産物は、高価な同位体標識されたアミノ酸及び(ある程度は)ビタミンの代わりとなる。アミノ酸の供与源は、化学的若しくは酵素的合成又は発酵など他の供与源から得られる加水分解産物には十分存在しない、個々のアミノ酸で補うことができる。そのようなアミノ酸は、特に、グルタミン、アルギニン、システイン、ヒスチジン及びトリプトファンである可能性がある。しかし、昆虫及び哺乳動物の細胞の増殖には、微量のトリプトファン(酸加水分解の後)で十分かもしれない(上記Hansenらが示している)。好ましくは、アミノ酸の供与源は、酵母一般から、或いはより好ましくはメチロトローフの酵母(例えばPichia又はHansenula)、同位体標識藻類の加水分解産物(Cyanidium、Spirulina)及び/又はメチロトローフ細菌のバイオマス(Methylobacillus)から得られた同位体標識加水分解産物から得られた同位体標識のyeastolateを含んでいる。
【0074】
昆虫(Spodoptera frugipedra)細胞の大量規模培養のための無血清培地が、Maiorellaら(1988年、Biotechnology 6:1406〜1410頁)で報告された。基礎培地に加えて、その培地は酵母エキス、たら肝油PUFAメチルエステル、コレステロール及びトゥイーンを含んでいた。本発明において、たら肝油は好ましくは同位体標識されている藻類及び細菌の脂質抽出物で代用してもよい。
【0075】
国際公開92/05247は、昆虫細胞の培養のための、酵母加水分解産物及びアルブミン又はデキストランを加えた基礎培地を含んでいる、無血清培地を開示している。したがって、本発明において、酵母加水分解産物を1から10g/lの量で加えてもよい。
【0076】
本発明の培地内のアミノ酸供与源の濃度は、個々の加水分解産物の最も高い許容濃度の合計でよく、ここで各加水分解産物の最も高い許容濃度とは、その加水分解産物が細胞増殖に対して非毒性及び非阻害的である濃度のことである。加水分解産物の最も高い許容濃度は、使用する特定の加水分解産物製剤だけでなく、培地で培養する特定の細胞系によって異なってもよい。当業者ならば、例えば通常の培地で増殖させている細胞系に対して所定の加水分解産物製剤の量を次第に高くして加えることによって、最も高い許容濃度を容易に決定することができる。
【0077】
一般的に、本発明の培地内のアミノ酸供与源の好ましい最終濃度は、培地1リットルにつきアミノ酸供与源(乾燥重量)が約1から15グラムであり、より好ましくは約2から10g/lの最終濃度である。
【0078】
昆虫細胞、例えばSpodoptera frugiperda細胞系Sf9のための本発明の栄養培地のための好ましいアミノ酸供与源は、0〜7g/l、好ましくは、2.5〜4g/lの同位体標識藻類の加水分解産物、及び/又は0〜7g/l、好ましくは1.5〜3g/lの同位体標識細菌の加水分解産物、及び/又は0〜8g/l、好ましくは5〜7g/lの同位体標識菌類/酵母の加水分解産物を含む。
【0079】
哺乳動物細胞、例えばCHO細胞のための本発明の栄養培地のための好ましいアミノ酸供与源は、0から10g/l、好ましくは、4〜6g/lの同位体標識藻類の加水分解産物、及び/又は0から10g/l、好ましくは4〜6g/lの同位体標識細菌の加水分解産物、及び/又は0から12g/l、好ましくは7〜9g/lの同位体標識菌類/酵母の加水分解産物を含む。
【0080】
好ましくは、本発明の栄養培地のためのアミノ酸供与源を構成する加水分解産物は、限外濾過によって精製して、ペプトン生成工程で使用されるプロテアーゼの残留物、エンドトキシン、及び宿主細胞によって発現される(組換え)タンパク質の生成及び/又は精製を妨げる可能性のある他の高分子成分を除去する。ペプトン分画は好ましくは前濾過され、その後、後の精製を容易にするために、組換え生成物又はウイルス生成物の分子量より小さくなるように選択された分子量カットオフを有する膜、好ましくは2000〜15000の分子量カットオフ膜、より好ましくはPM10膜(Amicon)などの10,000の分子量カットオフ膜を通して限外濾過される。限外濾過過程は、好ましくはクロスフロー濾過器具内、例えば小規模の場合は加圧撹拌セル内で、大規模の場合は中空糸カートリッジ又はプレート内で実行される。限外濾過液は、本発明の他の培地成分も加えられる基礎培地を加える前に、濾過殺菌してもよい。
【0081】
同位体標識された加水分解産物の保存溶液は、好ましくは藻類加水分解産物については10〜15%(乾燥重量/v)の濃度で、菌類/酵母加水分解物については15〜20%、細菌加水分解産物については15〜18%の濃度で調製する。
【0082】
各溶解物のいくつかのロットについて、例えばSf9又はCHO細胞に対する増殖促進特性が試験される。
【0083】
使用される加水分解産物、特に自己消化物は、遊離アミノ酸に加えてオリゴペプチドを未だに含んでいる可能性があることを理解されたい。一部の加水分解産物において、総アミノ酸含量の最高で約20%はオリゴペプチドの形で存在する。培地内の遊離アミノ酸濃度は細胞培養の間に変動する可能性があり、また例えば細胞によって放出されるペプチダーゼ/プロテアーゼに依存することがある。アミノ酸消費量(培地内の初期含量の百分率で表される)を決定するときには、このことを考慮に入れなければならない。培地に加えるアミノ酸供与源の濃度は、使用する特定のアミノ酸供与源分画、培養する細胞系の性質、与えられたペプトンが細胞増殖に有害又は抑制的になる濃度などの因子によって決まる。細胞系及びアミノ酸供与源の各組み合わせのための最適濃度は、経験的に決定することができる。
【0084】
通常、栄養培地におけるアミノ酸供与源の総量は、約8から30g/l、より好ましくは約12から24g/lの範囲である。
【0085】
個々のアミノ酸及びビタミンの相対濃度は、特定の細胞系の必要性に合わせることができる。例えば、グルタミンは一部の昆虫細胞系に必須であるけれども、他の細胞系はグルタミンなしで増殖することができ、また前駆体からこのアミノ酸を合成することができる可能性があることは、当技術分野で公知である(例えばMitsuhashi、1987年、Appl.Entomol.Zool.22:533〜536頁を参照)。培地の意図された用途に従い、個々の遊離アミノ酸及びビタミン類の濃度は、様々な昆虫又は哺乳動物の細胞系の公知の特性に合わせて調節することが可能である。
【0086】
脂質供与源
昆虫細胞の脂質所要量は、昆虫細胞がコレステロール源を必要とする以外は、通常、哺乳動物脊椎動物のそれらと類似している。本発明の栄養培地への取り込みのための脂質供給源は、好ましくは、昆虫又は哺乳動物の細胞の増殖に必須のものを含む。好ましくは、これらの脂質は同位体標識された脂質であるが、このことは本発明に必須でない。脂質供与源は、好ましくは少なくとも(1)脂肪酸、(2)ステロイド及び(3)脂溶性ビタミンを含む。
【0087】
脂質供与源内の脂肪酸は、様々な形態、例えばトリグリセリド、遊離脂肪酸、又は脂肪酸のアルキルエステル(好ましくはC〜Cアルキル)で存在してもよく、その中ではメチルエステルが好ましい。脂肪酸は好ましくは、C12からC22、好ましくはC13からC19の鎖長を有する多価不飽和脂肪酸を含む。
【0088】
本発明の培地のための(同位体標識された)多価不飽和脂肪酸の好ましい混合物は、Rhodophyta(紅藻類)、Cyanidiophyceae(ほとんどの場合紅藻類に属すと言われる)、Chlorophyta(緑藻類)、Cyanophyta(藍藻類)、Diatoms(珪藻類)、Phaeophyceae(褐藻類)及びDinoflagelate(渦鞭毛藻類)、Dinophyta(渦鞭毛植物)の同位体標識バイオマスから得られる脂質抽出物中に存在する。
【0089】
栄養培地における(同位体標識された多価不飽和)脂肪酸及び/又はそれらの(メチル)エステルの最終濃度は、好ましくは2mg/lから約100mg/l、より好ましくは10から30mg/l、最も好ましくは18から22mg/lである。
【0090】
脂質供与源内のステロイドは、好ましくはラノステロール、スチグマステロール、シトステロール及びコレステロールなどのステロールであるが、特にコレステロールが好ましい。ステロイドは、Young及びBritton(1993年、光合成におけるカロチノイド(Carotenoids in Photosynthesis)。Chapman & Hall)並びにVolkman(2003年、Appl.Microbiol.Biotechnol.60(5):495〜506頁)によって記載されているように、沈殿によって脂質抽出物から得ることができる。栄養培地における(同位体標識された)ステロイドの最終濃度は、好ましくは2から10mg/l、より好ましくは5から7mg/lである。
【0091】
脂質供与源内の脂溶性ビタミンは、好ましくは少なくともビタミンE(α−トコフェロール)を含み、更に例えばビタミンAを含んでもよい。栄養培地における(同位体標識された)α−トコフェロールの最終濃度は、好ましくは約0.5mg/lから約4mg/l、より好ましくは1.5から3mg/lである。十分な量のビタミンAが脂質抽出物内に存在する。
【0092】
本発明の水性培地への脂質の直接添加は、それらの低い水溶解度のために非実用的である。脂質供与源はしたがって、好ましくは適当な脂質乳濁液、例えばMaoiellaら(1988年、BioTechnol.6:1406頁)によって記載されているマイクロエマルジョンの形で提供される。そのようなマイクロエマルジョンは、少量の乳化剤を含んでいる脂質/有機溶媒溶液を含む。好ましい乳化剤としては、陰イオン界面活性剤、通常はレシチンなどのリン脂質、又はポリソルベート20若しくは80などの非毒性、非イオン性ポリマーデタージェントがある。更に可能なことは、水溶性有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド及び様々なアルコール類(C〜Cアルコール類)に溶かした脂質を加えることであり、その中ではエタノールが好ましい。水溶性有機溶媒に溶かした脂質の保存溶液は、好ましくは昆虫又は哺乳動物の細胞に対する溶媒の毒性を避けるために、栄養培地内の有機溶媒の最終濃度が0.1%(v/v)未満、より好ましくは0.05又は0.01%未満となるように調製される。当業者は、選択された溶媒、増殖させる細胞の種類などに従い、経験的に有機溶媒の最終濃度を決定する。
【0093】
本発明の栄養培地のための好ましい同位体標識脂質供与源は、培地1リットルにつき、20mgの同位体標識脂質抽出物と6mgの同位体標識コレステロールを1mlのエタノールに共に溶かしたものを含む。
【0094】
任意選択に、保護剤を本発明の栄養培地に取り込ませてもよい。保護剤は通常当技術分野で公知であり、撹拌及び散布される昆虫細胞培養物の昆虫又は哺乳動物の細胞を傷害及び死から保護するために機能的に作用する、非毒性の水溶性成分と定義される。それらの濃度(重量−容積)は非常に低く(0.01から約1%)、また、それらは通常培養細胞によって直ちに代謝されないので、それらは非標識の形態で加えてもよい。保護剤は別に加えてもよく、又は脂質供与源と合わせてもよい。保護成分は、好ましくはプロピレンオキシド及びエチレンオキシドのブロックポリマー、より好ましくはPluronic F68及びF88(BASF Wyandotte Corp.)などのPluronicポリオールを含む。保護剤の役目を果たすことができる他の適当な化合物としては、例えばヒドロキシ−エチルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸デキストラン、ポリプロピレングリコール、アルギン酸、フィコール及びポリビニルピロリドンがある。
【0095】
任意選択に濾過/殺菌された1mlの脂質成分溶液(上述)に、Pluronic F68の10%水溶液(任意選択に濾過/殺菌された)の10mlを、ボルテキシングにより撹拌しながら徐々に加える。Pluronicポリオールは、BASF Wyandotte corp.(101 Cherry Hill road、私書箱181、ニュージャージー州Parsippany、07054、米国)から市販されている。これにより脂質成分マイクロエマルジョンが形成される。次に、この脂質乳濁液を培地に加えることができる。脂質乳濁液の調製が成功するかは好ましくは温度によって決まり、したがって乳濁液は、35〜40℃の範囲で調製される。調製を促進するために、高速ボルテキシングを行ってもよい。好ましくは、脂質供与源は、濾過及び(濾過)殺菌する。或いは、培地は調製後濾過殺菌してもよい。ステロールは、他のクラスの脂質と共に有機抽出物から供給される。
【0096】
適当なステロール供与源は、Cyanidiophyceae、紅藻類、他の藻類である。遊離の水溶性同位体標識ビタミンの大部分は、同位体標識ペプトン成分を通して、一般的には同位体標識のyeastolate及び同位体標識のメチロトローフによって供給される。脂溶性ビタミンは、他のクラスの脂質と共に有機抽出物から供給される。
【0097】
更に、昆虫血液は、異常に高い濃度の遊離の有機酸、例えばクエン酸、コハク酸、シュウ酸又はリンゴ酸を、1昆虫につき0.1〜35mmol含んでいる(Grace、(1962年)、Nature、195:788頁、Vaughn、J.L.、(1968年)Curr.Top.Microbiol.Immunol.42:103頁)。クレブス回路中間体は良いキレート剤であって、したがって、血リンパ液のカチオンバランスで重要な役割を演ずる。本発明の細胞培養培地には、1つ又は複数のクレブス回路中間体及び/又はピルビン酸を、好ましくは別々の有機酸の最大50mg/lの濃度で補ってもよい。これらの成分を低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいなくても、培地のいくつかは昆虫細胞の増殖を支える。(GardinerとStockdale、1975年)。例えば、国際公開01/98517は、最も高価な遊離の有機酸、例えばフマル酸、リンゴ酸、コハク酸、ケトグルタル酸及びヒドロキシプロリンは、害を与えることなく昆虫細胞培地から完全に除くことが可能であり、また、それらはより多くの量(ビタミンそれぞれが最高250mg/l)のビタミン類、例えばチアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビオチン、パントテン酸、コリン、パラアミノ安息香酸、イノシトール、グルコースなどの糖類及びペプトンで置換することができることを開示している。
【0098】
適当な有機酸供与源は上で記載され、Scyphozoan rhizostoma(有機酸を培地中に放出する)、緑色硫黄細菌、Chlorobium(暗所でインキュベートすると有機酸を放出)、紅色非硫黄細菌Rhodospirillum rubrum(暗所で嫌気的に増殖する間)などが含まれる。有機酸は、バイオマスの有機抽出物から、又は培地ブイヨンの抽出物として別個に供給される。
【0099】
培地は、更に、例えばIsotec社から入手できる60〜90mg/lの標識ピルビン酸を補ってもよい。
【0100】
任意選択に、上記アミノ酸供与源に加えて、遊離の精製された同位体標識アミノ酸を本発明の培地に加えてもよい。遊離アミノ酸、有機酸及びビタミン標品は、同位体標識された天然供給源から精製してもよいし又は市販品を入手してもよく、これらは従来から、完全培地の加水分解産物又はyeastolate成分に由来するアミノ酸及び/又はビタミンのいずれとも無関係に、ベースとなる基礎培地に加えられている。
【0101】
同位体標識生体分子の作製方法
他の態様では、本発明は同位体標識生体分子の作製方法に関する。好ましくは、本方法は、その生体分子内の実質的に全ての原子が同位体標識される生体分子を作製するための方法である。本方法は、好ましくは(a)生体分子を産生することができる哺乳動物又は昆虫の細胞を、本発明に従う方法で作製された栄養培地内でその生体分子の産生を導く条件下で増殖させるステップと、(b)その生体分子を回収するステップとを含む。好ましくは、前記生体分子はポリペプチド又はタンパク質である(両用語は、本明細書では互換的に使用される)。本発明の方法は、同位体標識された膜タンパク質、例えば膜貫通外因性の膜タンパク質の生成に特に適している。しかし、本発明の方法は、可溶タンパク質又は他の非膜タンパク質の生成のために等しく適当である。タンパク質は、好ましくは哺乳動物のタンパク質、より好ましくはヒトタンパク質である。
【0102】
本発明の方法では、タンパク質は栄養培地でタンパク質を産生することができる哺乳動物又は昆虫の細胞を増殖させることによって生成され、H、C又はNの少なくとも1つについて、栄養培地内で生体分子、即ちタンパク質の合成のために細胞によって使用される基質内の実質的に全ての原子が同位体標識される。タンパク質は、培養細胞によって自然に産生される内因性のタンパク質でもよい。しかし、一般的に、タンパク質は組換え手段によって生成される。
【0103】
この目的のために、関心のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を、例えば本明細書で参照により完全に組み込まれている、Ausubelら、「分子生物学における現行のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、Greene Publishing and Wiley−Interscience、ニューヨーク(1987年)、及びSambrook及びRussell(2001年)「分子クローニング(Molecular Cloning):実験室マニュアル(Laboratory Manual)(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratotry、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨークで記載されているような適当な哺乳動物又は宿主の細胞で発現させる。
【0104】
関心のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列は、発現ベクターを通して宿主細胞に導入する必要がある。このベクターは、そのベクターに適する宿主でのそのベクターの複製を確実にする複製起点(又は、自主複製配列)を含む複製可能なベクターであってもよい。或いは、このベクターは宿主細胞のゲノムと、例えば相同組換え又はその他により融合することができる。哺乳動物細胞のための適当な発現ベクターは、Sambrook及びRussell(2001年、上記)から公知である。昆虫細胞のための適当なベクターは、公知のバキュロウイルスに基づいている(Merringtonら、1997年、Mol.Biotechnol.8:283〜97頁)。用語「発現ベクター」は、通常、そのヌクレオチド配列と適合する宿主での関心のコード配列の発現に影響を及ぼすことができる、ヌクレオチド配列を指す。これらの発現ベクターは、一般的に、ポリペプチドをコードしているセグメントに作動可能的に結合している適当な転写調節配列(プロモーター)及び翻訳開始及び終止調節配列を少なくとも含む。DNAセグメントが「作動可能的に結合」するのは、それが他のDNAセグメントと機能的関係に置かれている場合である。発現ベクターにおいて、関心のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列は、そのコード配列の宿主細胞での発現を誘導することができるプロモーターに作動可能的に結合される。
【0105】
本明細書で使用されるように、用語「プロモーター」は、1つ又は複数の遺伝子の転写を調節する機能を有し、遺伝子の転写開始点の転写の方向に関して上流に位置し、また、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始点及び他のいかなるDNA配列、例えばそれには限定されないが、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク結合部位、並びに直接又は間接的に作用してプロモーターからの転写の量を調節することが当業者に公知の他のいかなるヌクレオチド配列の存在によって構造的に特定される核酸フラグメントを指す。「構成」プロモーターは、大部分の生理学的及び発達条件下で活性であるプロモーターである。「誘導」プロモーターは、生理学的又は発達条件に従い調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の種類の分化細胞/組織のみで活性である。
【0106】
適当なプロモーター配列の選択は、通常、DNAセグメントの発現のために選択される宿主細胞に依存する。適当な哺乳動物のプロモーター配列の例は、当技術分野で公知である(例えばSambrook及びRussell、2001年、上記を参照)。同様に、昆虫細胞で用いられる適当なプロモーター配列は、当技術分野で公知である(Merringtonら、1997年、上記)。細胞系及び発現ベクターの有効な組み合わせの例は、Sambrook及びRussell(2001年、上記)で記載され、哺乳動物細胞に関してはWurm及びBarnard(1999年、Curr.Opin.In Biotechnology10:156〜159頁)で、昆虫細胞に関してはMassotte(2003年、Biochim.Biophys.Acta.1610:77〜89頁)及びIkonomouら(2001年、In Vitro Cell Dev.BioL−Animal.37:549〜559頁)で、酵母に関してはMetzgerら(1988年、Nature 334:31〜36頁)で記載されている。
【0107】
したがって本発明の標識ポリペプチドの生成方法は、上で定義された宿主細胞をポリペプチドの発現に促進的な条件下で増殖させるステップを含む。任意選択に、この方法はポリペプチドを回収するステップを含んでもよい。ポリペプチドは、例えば標準のタンパク質精製技術、例えばそれ自体当技術分野で公知の様々なクロマトグラフィー法(下記参照)によって、培地から回収することができる。
【0108】
細胞/培養物からの標識タンパク質の精製
細胞又は培地からの(標識された)タンパク質の精製は、当技術分野で公知である。可溶タンパク質の精製に関しては、例えばDeutscher(1990年、Methods in Enzymology、第182巻)及びYokoyama(2003年、Current Opinin.Chemical Biology.7:39〜43頁、及びその中の参照)を参照。ドメイン構造分析のための十分に純度が高い所定のタンパク質を大量に調製するための方法は、一般に当業者に知られている。タンパク質精製のための全ての方法が与えられた関心のタンパク質に適用できるというわけではないが、通常、以下の方法が好ましい実施形態を代表すると考えられている:アフィニティークロマトグラフィー、硫安沈殿、透析、FPLC、イオン交換クロマトグラフィー、超遠心分離法、その他。タンパク質精製の全般的レビューについては、Burgess(1987年、「タンパク質精製(Protein Purification)」、Oxenderら編、タンパク質工学(Protein Engineering)、71〜82頁、Liss内)、Jacoby編、Methods Enzymol.104:Part C(1984年);Scopes、タンパク質精製(Protein Purification):原理及び実際(Principles and practice)(第2版)、Springler−Verlag(1987年)を参照。
【0109】
膜タンパク質の精製は、例えばBosmanら(2003年、:「分子生物学における方法(Methods in Molecular Biology)」、228巻:73頁、Selinsky編、Humana Press Inc.、Totowa、NJ)、Reevesら(2002年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:13413〜13418頁)、及びEilersら(1999年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:487〜492頁)によって開示されている。
【0110】
国際公開99/22019は、NMRのためのタンパク質試料調製を開示している。タンパク質の生物物理学的な特性を決定するために適当な溶媒条件は、国際公開99/30165で開示されている。NMRのための膜タンパク質の試料調製は、Sanders及びOxenoid(2000、Biochim.Biophys.Acta 1508 129〜145頁、及びその中の参照)によってレビューされている。NMR研究のための脂質バイセル(bicelle)への膜タンパク質の再構成は、Sandersら(1995年、Biochem.34:4030〜4040頁)によって記載されている。巨大タンパク質のNMR分光法は、米国特許第6198281号で記載されている。
【0111】
更なる態様において、本発明は、そのタンパク質内の実質的に全ての原子が、15N、13C、H、15N及び13C、15N及びH、13C及びH又は15N、13C及びHから選択される同位体で同位体標識されている、哺乳動物の膜タンパク質に関する。タンパク質内の実質的に全ての原子の同位体標識とは、ある元素の原子の少なくとも約95%以上が所望の同位体形態であることを意味し、好ましくは約98、99、99.5、又は99.9%以上である。好ましくは、哺乳動物の膜タンパク質は、そのタンパク質内の水素原子の20〜100%が同位体Hで均一に置換されているタンパク質である。好ましくは、この膜タンパク質はヒトタンパク質である。膜タンパク質は、本明細書では、少なくとも30、40、50、70又は100アミノ酸の長さを有するポリペプチド鎖を含むタンパク質と理解され、そのタンパク質は完全長タンパク質に由来しているかもしれないペプチドから区別される。
【0112】
三次元構造を決定するための方法
他の態様において、本発明は、生体分子の構造情報及び/又は構造機能関係に関する情報を得るための方法に関するものである。好ましくは、本方法は生体分子の三次元構造(3D構造)を決定するための方法である。この方法は、先に述べたように本発明の栄養培地で増殖させた昆虫又は哺乳動物の細胞内で、同位体標識生体分子を産生することを含む。同位体標識生体分子、好ましくは(膜貫通)タンパク質は、その後回収し、任意選択に培養細胞及び/又は培地から精製し、任意選択に更に精製してスペクトル分析をする。そのような分光分析は、生体分子の構造、構造機能関係、及び好ましくは三次元構造に関する情報を決定するための、核磁気共鳴(「NMR」)分光分析、フーリエ変換赤外外分光分析及び/又はラマン分光分析でよい。
【0113】
好ましい方法では、生体分子は第2の生体分子に結合したタンパク質である。第2の生体分子は本発明に従う方法で生成してもよく、好ましくは第2の生体分子内の水素原子の20〜100%は、同位体Hで均一に置換されている。第2の生体分子は、タンパク質であってもよい。
【0114】
Felix Bloch及びEdward Purcellによって1946年に発見された核磁気共鳴(「NMR」分光学は、タンパク質及び核酸などの生体分子の構造解析を含め、化学、ライフサイエンス及び分子診断に公知の応用を有する重要な技術に進化した(Wutrich、K.、(1986年)タンパク質及び核酸のNMR(NMR of proteins and nucleic acids)、Wiley、ニューヨーク)。NMRにおける更なる技術的進歩、例えばパルス系列及び方法論の進歩は、タンパク質−リガンド相互作用の研究におけるNMRの応用範囲を広げ、構造に基づく薬物設計のための基礎を形成した(Marrasi及びOpella、1993年、Curr.Opin.Struct.Biol.8:640頁:Wattsら、1995年、Mol.Membr.Biol.12:233頁)。薬物設計に対するNMRの応用の多様性及び創薬過程へのNMRの可能な貢献は、Roberts(2000年;DDT、5:230頁)によってレビューされている。今日、NMR技術によるSAR(核磁気共鳴による構造活性相関)(Shukerら、1996年、Science、274:1531頁)、「形状スクリーニング(shapes screening)」(Bemis、1996年、J.Med.Chem.39:2887頁)、及びNMR−Solve(構造に基づくライブラリー結合価工学(structurally oriented library valency engineering)のような方策は、創薬における広い応用を有する(Pellecchiaら、2002年、Nature、1:218頁)。
【0115】
均一な同位体標識、選択的標識及びセグメント標識は、NMRに適用される公知の標識技術である。タンパク質の均一な同位体標識は、多次元的三重共鳴実験による逐次的な帰属を通した帰属過程を可能にし、タンパク質構造のデノボ決定における高次構造の制約の収集を支援する(Kayら、1997年、Curr.Opin.Struct.Biol.7:722頁)。
【0116】
個々のアミノ酸又はタンパク質内のある種のアミノ酸の選択的標識は、一般的にスペクトルの著しい簡略化をもたらす(Pelleciaら、2002年、J.Biol.NMR 22:165頁;Straussら,2003年、J.Biomol.NMR 26:367〜372頁)。選択的標識は、完全なアミノ酸補体を有する培地を使用して、選択された非標識のアミノ酸を所望の安定同位体で標識されたものによって置換することによって達成することが可能である。典型的条件下で、酵母と藻類の自己消化物の総量は、増殖及びタンパク質産生に重大な影響を及ぼさずに0.1%(w/v)に減らすことができ、これにより最大5%標識取り込みが希釈される。しかし、一部のアミノ酸、特にGlu及びGlnの置換は、他の(非必須)アミノ酸への標識の混入をもたらす。
【0117】
変形方法は、ポリペプチド鎖の別々のセグメントが一様に標識されているが他はそうでない、「セグメント標識」である(Xuら、1999年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:388頁)。
【0118】
膜タンパク質のNMR分析については、固体NMR(SS NMR)(Ernst、R.R.ら、1987年:一次元及び二次元における核磁気共鳴の原理(Principles of Nuclear Magnetic Resonance in One and Two Dimensions)、オックスフォード、Claredon press内;Mehring、M.、1983年:固体における高分解能NMRの原理(Principles of High Resolution NMR in Solids)、Springer Verlag Berlin内)が、最も適当な技術である。とりわけSS NMRが、膜内の受容体標的と結合しているときのリガンドに関する、リガンド−タンパク相互作用の日常的アッセイの実施を可能にする(de Groot、2000年、Curr.Opin.Struct.Biol.10:593頁)。全ての処方薬の60%が膜タンパク質を標的にし、Gタンパク質結合結合受容体ファミリーが際立っている事実が示しているように、これは医薬産業、必須膜タンパク質にとって特に興味がある(Essen、L−O.、(2002年)Gene Funct.Dis.、3、39頁)。SS NMR技術において、NMRスペクトルの拡幅をもたらし、分子構造情報の抽出を可能にする、異方性の相互作用を扱うために使用することが可能な2つの方法がある。1つは、配向試料内のスペクトルの異方性を利用して静止試料で分子配向を提供することであり(Griffin、R.G.、(1998年)Nat.Struct.Biol.5、508頁、Opella、S.J.ら(1999年)Nat.Struct.Biol.6、374頁)、また、第2はマグネチックアングルスピニング(magnetic angle spinning)(MAS)NMRでランダムな分散を使用することであり(Andrew、E.R.ら、(1958年)Nature 182、1659頁)、そこでは配向情報は失われるかもしれないが、スピニング側帯波の分析から復帰させることが可能である。更に、双極子カップリングを再び集中させて正確な距離制約を与えること、並びに化学シフト情報を提供して局所の環境特性を明確にすることが可能である。
【0119】
MASに基づく方法を都合よく適用して、X線結晶学で可能な分解能を大きく超えて核間距離又はねじれ角を決定することができる(Thomson、L.K.(2002年)Curr.Opin.Struct.Biol.12、661頁)。一様に標識されたペプチド及びタンパク質の構造決定の必要条件は、異核及び等核帰属技術である。両方の態様のために、様々なパルススキームが当技術分野で利用できる(Baldusら、(1998年)Mol.Phys.、95、1197頁;及び、Bennett、(1994年):「NMR基本原則及び進歩(NMR Basic Principles and Progress)」、Springer−Verlag Berlin、33:1頁)。MAS NMRで測定したタンパク質構造の最近の例(Castellaniら、(2002年)Nature、420(7)98頁;及び、Pauliら(2000年)J.Magn.Res.143;411頁)は、62のアミノ酸残基を含んでいるα−スペクトリンSrc−相同性3(SH3)ドメインであり、そこではタンパク質の微晶質標品のためのほとんど完全な13C及び15N共鳴の帰属が、一組の距離制約の抽出の基礎となっていた。紅色非硫黄光合成菌Rhodopseudomonas acidophila 10050からの光収穫複合体LH2の膜貫通部の共鳴の多くが報告された(Egorova−Zachemyukら(2001年)J.Biomol.NMR、19、243頁)。部分的な帰属もユビキチン(Hong、(1999年)J.Biomol.NMR、15:1頁;Pellegrini、M.(1999年)Biopolymers、51、208頁)及びBPTI(McDermottら、(2000年)J.Biomol.NMR.、16、209頁)について報告された。これらのペプチド内の残基数も、配向脂質二重層で最近研究された膜貫通又は表面結合のペプチドに都合よく匹敵する(Opella、S.J.ら、(1999年)Nat.Struct.Biol.6、374頁)。したがって、MASに基づく相関法は、膜タンパク質トポロジー全体又はそのサブセクションの研究にも使用することができることが推測される。
【0120】
通常、洗練された同位体標識スキームとNMR計測における更なる改善との組み合わせにより、NMRで対処可能な受容体/リガンド系の大きさ及び複雑度は広がる。更に、並行して膜タンパク質の発現が進歩することにより、NMRの将来性はかなり高い。固体NMRは、非晶性環境におけるタンパク質の直接検査、(定義された脂質内で再構成された)単一の種としての、又は他のタンパク質及び脂質の異質環境(天然の膜)内で、しかし、重要なことは不安定化していない条件下での膜内タンパク質の直接検査、解像する膜に関しての配向制約の詳述、特に活性リガンド結合部位にあるタンパク質の特定部分の識別及び解像、分子量限界のないタンパク質の研究(この場合、帰属方策は更に開発されなければならない)、結合リガンドのための化学シフトデータから定義すべき膜結合受容体のリガンドのためのファルマコフォアの定義を可能にする。しかし現在まで、極少数の膜タンパク質又はペプチドがSS NMRを使用して研究されてきたに過ぎない。3D結晶化などの構造学的方法、及びX線結晶解析又は代わりにNMR分光法は、少なくとも約10mgの高度に精製された膜タンパク質を必要とする。
【実施例】
【0121】
(実施例1)
安定同位体標識されたバイオマス、加水分解産物及びそれからの抽出物の生成(供与源として酵母)
1.1 Saccharomyces cerevisiaeから得られたアミノ酸及び糖の供与源を含んでいる酵母抽出物
Saccharomyces cerevisiae(ATCC 13057)は、下記を含んでいる培地で増殖させた(g/1):13Cで一様に標識されたグルコース−15g/l、標識KHPO−2g、15NHCl−1.5g、MgSO×7HO−0.5g、CaCl×6HO−0.25g、FeSO×6HO−0.036、ZnSO×7HO−0.001g、MnCl×4HO−0.001g、CoCl×6HO−0.001g。ビタミン類は、Heine、W.らによって小児栄養及び代謝の研究における安定同位体(Stable Isotopes in Pediatric Nutritional and Metabolic Research)(1990年)(T.E.Chapman、R.Berger、D.J.Reijngoud及びA.Okken編、Intercept Ltd.84頁)で記載されているのと同じ濃度で加えられた。酵母は、120℃で20分殺菌され、NaOHでpH4.5に調節された培地2.5lを含んでいる10lのコニカルフラスコで、振盪培養により培養した。このフラスコに、100mlの種培養を移した。種培養は、フラスコ内で27℃で18時間振盪培養して得られた。酵母は、27℃で20時間、800rpmで増殖させた。酵母細胞は、4℃において5,000gで10分間の遠心分離によって収集し、二回水洗した。洗浄した細胞に水を加えて、乾燥重量換算で約100mg/mlの濃度の酵母スラリーを500ml調製した。
【0122】
スラリーの容積の半分を凍結乾燥して、酵母加水分解産物の調製のために使用した。酵母加水分解産物は、実施例5.1で記載されているように調製した。
【0123】
スラリーの他の半分は、自己消化のために使用された。移行時間を20秒以下に保ちながら65℃に保った曲がった注射器(内径2〜3mm)を通してわずかな圧力の下で圧搾し、それを氷上のフラスコで収集した。その後、スラリーを油サーモスタット内で45℃で4時間保ち、その間、20%NaOHを1滴ずつ追加してpHを8.0に調節した。自己消化後、pHを2NHClで6.5に調節し、自己消化物は80℃に暖めた。その後、自己消化物を遠心分離して、沈殿物を2回水洗した。自己消化物を含む上清を合わせた400mlを次に10,000のカットオフフィルタを通して濾過して凍結乾燥し、15gの酵母抽出物を得た。
【0124】
酵母抽出物の化学分析は、T.Hernawan、G.Fleet、J.Ind.Microbiology(1995年)14、440頁で記載されているように実施した。一般的に始原細胞乾燥重量に換算すると、Saccharomyces cerevisiaeの可溶性自己消化物は、炭水化物(4〜8%)、タンパク質(12〜15%)、有機酸(3〜5%)、遊離アミノ酸(10〜12%)、オリゴペプチド(30〜34%)、核酸生成物(3〜5%)、脂質(2〜3%)及び他の生理活性化合物からなっていた。
【0125】
1.2 酵母自己消化のための代替プロトコル
実施例1.1で記載されているように得られた酵母スラリーに対して、2容量パーセントのエタノールを加えて、自己消化を50℃で12時間実施した。次に、酵母自己消化物を6分間、超音波チップ超音波処理器で処理し、その後5000gで10分間遠心分離を行った。残留物を2回蒸留水で洗浄して15分間遠心分離した。合わせた上清を10,000カットオフのメンブランフィルタを通して濾過して凍結乾燥した。その結果、アミノ酸、ペプチド、炭水化物、核成分、有機酸及び他の成分の混合物が得られた。この方法は、遊離アミノ酸含量の80%までの増加を可能にする。
【0126】
1.3 Pichia pastorisの酵母抽出物
Pichia pastoris NRRL−Y−11430は、M.J.Wood及びE.A.Komives、(1999年)J.Biomol.NMR 13、149頁で記載されているように13C標識グリセリン及びグルコースを炭素エネルギー基質として、また(15NHSOを窒素源として、又は、13Cメタノールを炭素及びエネルギー源として増殖させた。酵母抽出物(酸加水分解物及び自己消化物)は、実施例1.1、1.2及び5.1で記載されているのと同じ方法を使用して得られた。
【0127】
1.4 Hansenula polymorphaの酵母抽出物
Hansenula polymorpha CBS 4732(別名、ATCC 34438、NRRL Y−5445)は、15N標識塩が窒素源として使用され、一様に13Cで標識されたグルコース及び13Cで標識されたメタノールが炭素及びエネルギー源として使用された、Y.Larocheら(1994年)Biotechnology 12:1119頁、Th.Egliら、Arch.Microbiol(1982年)131、8頁、及びVan Dijkenら、(1976年)Arch.Microbiol.111:137頁で記載されたものと類似の培地で、メタノール制限流量調整連続培養により増殖させた。培養は、35℃、pH5.0で実施した。酵母抽出物(酸加水分解物及び自己消化物)は、実施例1.1、1.2及び5.1で記載されているのと同じ方法を使用して得られた。
【0128】
1.5 酵母バイオマスの大規模作製
系全体(温度、pH、酸素、窒素、空気の供給、溶存酸素)を完全に制御するために、3リットルの発酵槽(BioFlo3000、New Brunswick Scientific)を酵母培養のために使用した。最適な酵母増殖は、酸素25%及び窒素75%の通気により、35%の溶存酸素レベルで達成された。酵母は、修正Heineの培地、又はグリセリンがグルコースによって置換された修正インビトロゲン培地の2リットルを使用して、30℃で増殖させた。撹拌速度は、500rpmであった。両方のケースでは、全ての炭素及び窒素源は、同位体標識類似体で置換された。グルコースはバッチで加えたか、又はフェドバッチ培養を適用した。
【0129】
(実施例2)
安定同位体標識されたバイオマス、加水分解産物及びそれからの脂質抽出物の生成(供与源として藻類)
2.1 安定同位体標識されたCyanidiumバイオマスの作製
Cyanidium caldarium(SAG 16.91)及びGaldieria sulphuraria(SAG 17.91)は、それぞれ恒温水槽内の磁気撹拌子を有する51のフラスコで25℃、定常pH2で独立栄養的に増殖させ、指数増殖期に収穫した。Cyanidium caldarium及びGaldieria sulphurariaの13C及び15Nで二重標識された培養物のための培地組成は、1リットルにつき1.5gの(15NHSO、0.3gのMgSO×7HO、0.3gのKHPO、0.02gのCaCl×2HO、1.5mlのFe−EDTA溶液(Fe−EDTA溶液は、0.690gのFeSO及び0.930gのEDTAを100mlまでの蒸留水に加えて溶液を煮沸することにより調製した)、及び別に調製した(下記参照)微量元素溶液の2mlを含む。培地のpHは、1NHSOでpH1.8の値に調節した。微量元素溶液は1リットルにつき以下を含む:2.86gのHBO、1.82gのMnCl、0.22gのZnSO×7HO、0.130gのNaMoO×2HO、80mgのCuSO×5HO、40mgのNaVO×4HO、及び40mgのCoCl×6HO。
【0130】
8000ルクスの連続スペクトル光源が15Wの蛍光ランプによって、最大5%の13CO濃度の下で供給された。藻類懸濁液の増殖は、550nmにおける吸光度測定によって分析した。増殖が指数増殖期(通常5日)(0.64OD)に到達したとき、ベックマン遠心分離機を5000rpmで10分間使用して細胞を収穫し、ペレットは蒸留水で洗浄して微量の可溶性栄養素を除去した。得られたペーストを凍らせ、凍結乾燥した。凍結乾燥された細胞は、脂質抽出物及び加水分解産物の調製のために使用された。
【0131】
2.3 安定同位体標識された緑藻類バイオマスの作製(Scenedesmus obliquus)
Scenedesmus obliquusの13C及び15Nで二重標識された藻類バイオマスは、Patzelt、H.ら、1999年 Phytochemistry 50:215〜217頁に記載されているように生産された。Scenedesmus obliquus系統276/3C(Culture Collection of Algae and Protozoa(CCAP)、Institute of Freshwater ecology、Ambleside、英国から得る)をpH6.5、30℃で独立栄養的に増殖させて、指数増殖期に収穫した。Scenedesmus obliquusの系統の13C及び15Nで二重標識された培養物のための培地組成は、1リットルにつき0.18gのNaHPO×2HO、0.48gのNaHPO、0.46のNaCl、0.25gのMgSO×7HO、6mgのCaCl×2HO、6.5gのFeSO×7HO、8mgのEDTA、2.9mgのHBO、1.8mgのMnCl×4HO、0.22gのZnSO×7HO、0.25mgのNaMoO×2HO、0.08mgのCuSO×5HO、0.08mgのCoCl×6HO及び0.81gのK15NOを含む。培地のpHは、6.5であった。培地は、溶存COを全て除去するために、大規模に脱ガスした蒸留水で調製した。13COは、NaH13COの炭酸緩衝液溶液として培養系に供給した。
【0132】
予備培養のために、2つの貯蔵器を使用した。下部貯蔵器は、2M炭酸(Na13CO/NaH13CO)緩衝液、pH7.5(100ml)を含み、上部フラスコは接種源を含む。接種後、フラスコを密封して30℃の連続照明下で10日間、60rpmで振盪した。2000ルクスの連続光源が15Wの蛍光ランプ(冷白色)によって供給された。緩衝液の調製のために、pHが9.3になるまで1lの1.2MNaOHを16lの13COと共に発泡させ、50mgのフェノールフタレインをpHのモニタリングのために加えた。
【0133】
調製用発酵のためには、10個の2.5lファーンバックフラスコ(フラスコに1lの培地と5mlの接種源を含む)、炭酸緩衝液及び気体ポンプからなる閉鎖系が使用された。空気は円内を循環しているので、細胞培養は13COに富む空気で追跡することができる。藻類は10〜14日間生育していた。圧縮空気内の5%の13COの定常流が、ファーンバックフラスコの上に吹きつけられた。藻類懸濁液の増殖は、685nmにおける吸光度測定によって分析した。増殖が17日で指数増殖期(1.0OD)に到達したとき、ベックマン遠心分離機を5000rpmで10分間使用して4℃で細胞を収穫し、ペレットは蒸留水で洗浄して微量の可溶性栄養素を除去した。培養液は、更なる生育環(濾過後)のために使用された。得られたペーストを凍らせ、凍結乾燥した。水が存在するとクロロフィラーゼがクロロフィルを破壊する可能性があるので、凍結乾燥は必須である。バイオマスの収率は、1培養物につき2gの凍結乾燥細胞であった。凍結乾燥された細胞は、脂質抽出物及び加水分解産物の調製のために使用された。
【0134】
201のバイオリアクターへの藻類の増殖のアップスケーリングは、類似した結果を与えた。
【0135】
(実施例3)
安定同位体標識されたバイオマス、加水分解産物及びそれからの抽出物の生成(供与源としてメチロトローフ細菌)
3.1 メチロトローフ細菌からのバイオマスの作製
絶対メチロトローフ性のMethylobacillus flagellatus(ATCC 51484、VKM B−1610、DSM 6875)を、13C標識メタノールを炭素源として、15NHClを窒素源として、寒天を含まないATCC培地784 AMS上で30℃、pH6.8で増殖させた。標識された13Cメタノールの濃度は、1%であった。細胞は、10lの発酵槽で増殖させ、3日後に収穫した。バイオマスの収率は、13C−メタノール換算で53%であった。バイオマスは、凍結乾燥された。タンパク質の収率は、乾燥バイオマス換算で75%であった。凍結乾燥された細胞は、脂質抽出物及び加水分解産物の調製のために使用された。
【0136】
(実施例4)
安定同位体標識された脂質の抽出
4.1 藻類バイオマスの抽出(方法1)
Cyanidium caldriumの凍結乾燥細胞(10g)を、30秒間50%の力を交互に加えることにより、氷上(冷却は氷に塩を加えて達成された)のジクロロメタン内で音波破砕により30分間ホモジナイズし、ソックスレー抽出器に移した。抽出を30時間継続し、次に、抽出物が無色になるまで更に24時間90%のメタノール水で続けた。合わせた抽出物を窒素下で、回転乾燥機上で蒸発させ、セファデックスクロマトグラフィーにより非脂質分画及び脂質分画に分離した。Wuthier、R.E.、(1966年)J.Lipid.Res.7:558〜561頁。Kleinschmidt M.G.及びMcMahon、V.A.(1970年、Plant physiol、46:286〜289頁)によって記載されているように、脂質分画を蒸発させてn−ヘキサンジエチルエーテルに溶かし、次にケイ酸カラムによるクロマトグラフィーで分析した。典型的脂質は、ワックス、炭化水素、ステロールエステル、トリグリセリド、ステロール、遊離脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリド、糖脂質、スルホリピド及びリン脂質であった。全体で、150mgの脂質が、1gのバイオマスから単離することができた。Cyanidium caldariumの主な脂質は、モノ−及びジガラクトシルジグリセリド及びスルホリピド、レシチン、フォスファチジルグリセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルエタノールアミンである。
【0137】
或いは、Ikan、R.、Seckbach、J.(1972年)Phytochemistry、11:1077〜1082頁によって記載されているように、脂肪酸及びステロールの精製は、Cyanidium caldariumの1gの乾燥バイオマスから得たソックスレー抽出物の混合物(総量が160mgの脂質抽出物)から行うこともできた。その結果、32mgの遊離脂肪酸及び中性分画の鹸化からの39mgの脂肪成分が得られた。ステロールは非鹸化分画から単離され(Ikah、上記)、それらの量は2mgであった。
【0138】
この方法は、藍藻類、紅藻類及びcyanidiophyceaeからの脂質抽出のために使用された。
【0139】
4.2 藻類バイオマスの抽出(方法2)
Scenedesmus obliquusの凍結乾燥13C、15N標識バイオマス10グラムの量に100mlのヘキサンを加え、試料をチップソニケーターで−4℃(冷却は氷に塩を加えて達成した)で少なくとも60分間、超音波処理した。溶媒を濾過で除去し、バイオマスの残分を100mlのアセトンで抽出し、次に、ヘキサン抽出の場合に上で記載したのと同じ方法を実施した。最後に、残りのバイオマスを100mlのジクロロメタン/メタノール混合物(2:1、v/v)で抽出した。濾液を窒素の下で別々に蒸発乾固し、−80℃で保存した。アセトン抽出物は、更に純粋な形態で単離することができ、且つ例えば光合成における色素−タンパク相互作用の構造−機能研究のために使用することができる、均一標識色素の供与源を含む。藍藻類、紅藻類及びcyanidiophyceaeの場合には、90%MeOH水による抽出を含む追加のステップを使用した。抽出物は、先に述べたように扱った。脱脂したバイオマス(乾燥重8g)を次に加水分解産物の調製のために使用した。
【0140】
この方法は、全ての供与源からの脂質抽出のために使用された。
【0141】
4.4 紅藻類バイオマスの抽出(Porphyridium)
Porphyridium purpureum(=Porphyridium cruentum)(ATCC 50161)をATCC 1495 ASW培地で25℃及びpH7.6で増殖させたが、KNO及びNaHCOの代わりにK15NO及びNaH13COを用い、また培地1リットルにつき54gのNaClを用いた。藻類の培養物は、蛍光ランプを用いて25W/mの光強度で連続的に照射した。脂質は、方法1(実施例4.2)に従って抽出し、太田ら、1993年、Botanica marina、36:1043〜107頁で記載されている方法により測定した。そのような培養条件を使用して、高濃度のC20:4(n−6)及びC20:5(n−3)、即ち、1g乾燥重のバイオマスにつき8.2mgの乾燥重量及び14.3mgの乾燥重量が達成された。
【0142】
4.5 メチロトローフバイオマスの抽出(Methylobacillus)
Methylobacillus flagellatus(10g)のバイオマスは、4.3で記載されているように抽出された。脱脂したバイオマス(8.5g)を、次に実施例5.1及び5.2で記載されているように加水分解産物の調製のために使用した。
【0143】
4.6 分析のための脂質のエステル交換
Lewisら(2000年、J.Microbiol.Meth.43:107〜116頁)によって記載されているように、Galdieria sulphurariaから抽出された脂質をエステル交換して脂肪酸メチルエステルを形成し、ガスクロマトグラフ技術を使用しての脂肪酸の同定及び定量化を可能にする。記載されているように、凍結乾燥させた細胞を計量し(5g)、それにエステル交換反応混合液(10/1/1、v/v/v)の新鮮溶液を加えた。細胞をボルテックスミキシングによってこの溶液に懸濁し、エステル交換のために直ちに90℃に60分間置いた。次に、エステル交換反応チューブを冷却し、水(1ml)をそれぞれのチューブに加え、脂肪酸ジメチルエーテルを抽出した(ヘキサン/クロロホルム、4/1、v/v、3×4ml)。有機溶媒抽出物の化学的同一性は、TLC(例えばシリカゲル、ヘキサン/EtOAc、5:1)及びHPLC(C18、grad.MeCO−HO(1:4)MeCO)によって監視した。同位体組成は、EI−MS(70 eV)及び/又は赤外分光分析で測定した。
【0144】
(実施例5)
バイオマスの加水分解
5.1 同位体標識バイオマスの酸加水分解
このようにして得られて240mlのフラスコに置かれた脂質及び色素を含まないバイオマス(実施例4.2)の1グラムの量に対して、還元剤(ヒスチジン及びトリプトファンの破壊を予防するために)として15mlの6NHCl及び0.6mlのチオグリコール酸を加えた。加水分解は、アルゴン下及び110℃(油浴上)で24時間実施された。氷上で冷やした加水分解産物に15mlの蒸留水を加え、次にガラスP3フィルタで濾過した。この後、加水分解産物を2つの部分に分け、2つの丸底フラスコ内で凍結乾燥した。10mlの蒸留水を次に各加水分解産物に加え、それらの1つは30%NaOHで中和し、他は30%15NHOHで中和した。各部分の半量を、ガラスP3フィルタで調製した20〜100Åの粗い目の活性炭に通過させた(高さ2cmのカラム)。その結果、4つの加水分解産物を得、それらは更に凍結乾燥した。凍結乾燥により、活性炭を通した加水分解産物では白色固体粉末(アミノ酸/糖混合物)が、活性炭で処理しない加水分解産物ではハシバミ色の粉末が得られた。加水分解産物(4種類)を更に磨砕して均一な粉体を調製した。
【0145】
或いは、加水分解産物は「活性炭工程」なしで調製され、例えばScenedesmus obliquus(並びにCyanidium caldarium)の場合には、15NHOHで中和された加水分解産物の0.6g及びNaOHで中和された加水分解産物の0.7gを、1gの脱脂バイオマスから得た。20gの脱脂バイオマスの加水分解のためには、ほとんどの場合アップスケール方法を使用した。15NHOHで中和された加水分解産物は、優先して昆虫及び哺乳動物細胞の培地の調製のために使用された(実施例6を参照)。
【0146】
例えば15NHOHで中和したCyanidium caldariumの加水分解産物のアミノ酸組成(RP HPLC FMOC誘導体化方法に基づき測定)は、Ala−8.8%、Arg−5.1%、Asp−5.2%、Glu−9.5%、Gly−7.3%、His−0.8%、Ile−6.7%、Leu−6.5%、Lys−5.6%、Met−3.2%、Phe−6.3%、Pro−7.6%、Cys−0.8%、Ser−11%、Trp−0.8%、Thr−6.1%、Tyr−1.2%、Val−7.5%であった。
【0147】
加水分解産物は、昆虫及び哺乳動物の細胞培地の直接組成のために、又は、イオン交換クロマトグラフィー(CrespiとKatz、1972年、Methods Enzymology 26、627頁)若しくは逆相クロマトグラフィー(Egorovaら、T.A.、(1995年)J.Chromat.Biomedical Application 665:53〜62頁)による純粋アミノ酸の調製のために更に使用された。
【0148】
或いは、加水分解産物は、カットオフ8Kのカセット膜及び0.2ミクロン滅菌Duraporeフィルタを通して限外濾過されるだろう。殺菌された加水分解産物は、4℃で6ヵ月の間保存することができた。
【0149】
酸加水分解法の改良の目的は、低塩分の加水分解産物を調製することである。この改良方法において、凍結乾燥工程は2回実施された。1回目は加水分解(大部分のHClも除去するため)直後に、2回目は、水酸化ナトリウム又は15N標識水酸化アンモニウムによる中和の後である。
【0150】
5.2 安定同位体標識されたバイオマスの酵素加水分解
Methylobacillus flagellatusの脱脂バイオマスを、Troxlerら(1975年)14(2):268〜274頁によって記載されたのと同様に酵素で加水分解した。固定化プロナーゼ(Fluka、スイス)をピアスの説明書に従って調製し、酵素加水分解のために使用した。消化物を凍結乾燥して哺乳動物及び昆虫の細胞の培地の成分として使用した。
【0151】
5.3 安定同位体標識された藻類バイオマスの自己消化
上の実施例1.1及び1.2で記載した酵母自己消化抽出物の作製方法を、藻類バイオマスから自己消化物を得るために応用した。様々な藻類、例えばCyanidium caldarium及びGaldieria sulphurariaからの安定同位体標識バイオマスは、このように都合よく自己消化させた。自己消化物の収率は、乾燥バイオマス換算で35〜45%であった。残りのバイオマス物質は、藻類の加水分解産物を得、且つ標識バイオマスを有効利用するために、(実施例5.1で記載されているように)酸加水分解された。
【0152】
(実施例6)
同位体標識栄養培地の組成
6.1.1 昆虫細胞のための安定同位体標識栄養培地の組成I
微量元素、塩及びビタミン類に関する培地の組成は、NaH13CO及びモリブデン酸ナトリウムが使用されたのを除いてIPL−41処方(Weissら、1981年、In Vitro(17):495〜502頁)に基づいた。培地の他の成分は、下記の表で示した濃度で加えた。
【表1】

【0153】
脂質抽出物は、1mlのエタノールにつき50mgの脂質抽出物の濃度(例)で調製されたエタノール溶液として、培地に加えた。エタノール脂質溶液は、5ml/培地1lの濃度で加えた。
【0154】
加水分解産物はアミノ酸分析(RP−HPLC、FMOC誘導体として)によって分析し、欠失したアミノ酸(IPL処方による)、例えば13C、15N標識システインは80mg/lの濃度で別に培地に加えた。
【0155】
pHは6.2に調節し、モル浸透圧濃度は340mOsmol kg−1(NaCl)に調節する。完全培地は0.22ミクロンフィルタを通して殺菌し、4℃で保存した。
【0156】
5〜10の継代培養でSf9細胞系は、Bosmanら、(Method Mol.Biology V.228、Selinsky編、Humana Press Inc)に従う同位体標識培地での増殖に適応した。昆虫細胞は27℃の温度で増殖させ、COの補充を必要としない。適応細胞の倍加時間は、他の市販の無血清培地(S3777、Sigma、X−Cell 420 JRH Biosciences、HyQ SFX−Insect、Hyclone)と同等の26〜28時間であった。達成された最大の細胞密度は、4〜6×10細胞数/mlであった。
【0157】
6.1.2 昆虫細胞のための安定同位体標識栄養培地の組成II
微量元素、塩及びビタミン類に関する培地の組成は、NaH13CO及びモリブデン酸ナトリウムが使用されたのを除いてIPL−41処方(Weissら、1981年、In Vitro、17:495〜502頁)に基づいた。培地の他の成分は、下記の表で示した濃度で加えた。
【表2】

【0158】
脂質抽出物は、1mlのエタノールにつき50mgの脂質抽出物の濃度で調製されたエタノール溶液として、培地に加えた。エタノール脂質溶液は、5ml/培地1lの濃度で加えた。この例の脂質抽出物の添加は任意選択であり、使用した濃度では最高10%程度しか細胞増殖を増やさなかったことに注意されたい。脂質抽出物無添加でも細胞は増殖してタンパク質を産生した。
【0159】
加水分解産物はアミノ酸分析(RP−HPLC、FMOC誘導体として)によって分析し、(標準のIPL−41処方に関して)欠失したアミノ酸、例えば13C、15N標識システイン及びグルタミンは、80mg/lの濃度で別々に培地に加えた。pHは6.2に調節し、モル浸透圧濃度は340mOsmol kg−1(NaCl)に調節する。完全培地は0.22ミクロンフィルタを通して殺菌し、4℃で保存した。5〜10継代培養でSf9細胞系は、Bosmanら、(Method Mol.Biology V.228、Selinsky編、Humana Press Inc)に従う同位体標識培地での増殖に適応した。昆虫細胞は27℃の温度で培養し、COの補充を必要としない。適応細胞の倍加時間は、他の市販の無血清培地(S3777、Sigma、X−Cell 420 JRH Biosciences、HyQ SFX−Insect、Hyclone)と同等の26〜28時間であった。達成された最大の細胞密度は、4〜6×10細胞数/mlであった。
【0160】
6.1.3 昆虫培地に及ぼす様々な成分の濃度の影響
合計で10を超える異なる微生物からのバイオマスを試験し、100を超える異なる加水分解産物及び自己消化物がこれらのバイオマス標品から調製し、微生物バイオマスそれぞれにつき10を超える異なる脂質抽出物を試験した。これらの試験から、以下の一般観察が得られた。
【0161】
全般に、酵母自己消化物は0.1〜1.6(w/v)%の濃度範囲で取り込まれる。グリセリンがグルコースによって置換されている市販のインビトロゲン培地で育てたPichia pastorisバイオマスに基づく自己消化物は、昆虫細胞増殖の維持に関して最高の再現性及び効率を示し、自己消化物のための最適濃度範囲は0.1〜0.3%で、0.2%が最適であった(w/v)。修正ハイネの培地(乳酸が省かれる)上で育てたHansenula polymorphaバイオマスに基づく自己消化物は、昆虫細胞増殖に関して最高の再現性、効率を示し、最適濃度範囲は0.4〜0.8(w/v)%であった。酵母自己消化物は、通常少量の加水分解産物(更なるアミノ酸のために)の添加により、又は、少数の選択されたアミノ酸を加えただけでも有効である。発明者らのIPL−41に基づく培地及び細胞系を用いると、酵母自己消化物に加えてグルタミンが必要であった。
【0162】
全般に、藻類自己消化物は0.1〜0.8(w/v)%の濃度範囲で取り込まれる。最適濃度は藻類の供与源によって決まる可能性があり、例えば、Galdieria sulphurariaについては最も有効な濃度は0.1%であったが、Cyanidium caldariumについては0.4(w/v)%であった。藻類自己消化物も同じく、通常少量の加水分解産物(更なるアミノ酸のために)の添加により、又は、少数の選択されたアミノ酸を加えただけでも有効である。ここではグルタミンだけが藻類の自己消化物に加えて必要であった。対照的に、藻類の加水分解産物は、単一成分(0.1〜0.8(w/v)%の濃度範囲が試験された)ほど有効ではなく、少なからぬ数の選択されたアミノ酸を補う必要がある。
【0163】
全般に、細菌加水分解物は0.1〜0.4(w/v)%の濃度範囲で取り込まれる。全般に、細菌自己消化物は0.1〜0.6(w/v)%の濃度範囲で取り込まれる。
【0164】
昆虫細胞増殖及びタンパク質産生の維持における最も有効なものは、紅藻類、好ましくはCyanidium caldarium又はGaldieria sulphurariaに基づく自己消化物と酵母、好ましくはHansenula polymorphaの自己消化物との組み合わせである(実施例6.1.2を参照)。例えば、Galdieria sulphurariaのバイオマスから得られた自己消化物に基づく培地の有効性は、0.8%のHansenula polymorpha自己消化物が培地に添加された場合に70%を超えて高くすることができ、且つ/又はHansenula polymorphaバイオマスから得られた自己消化物に基づく培地の効果は、0.1%のGaldieria sulphuraria自己消化物が添加された場合に60%を超えて高くすることができた。
【0165】
6.2.1 哺乳動物細胞のための同位体標識栄養培地の組成
微量元素、塩及びビタミン類に関する培地の組成は、炭素及び窒素を含有する塩が安定同位体で標識されたものに置換されたことを除いて、DMEM処方(例えばJRH Biosciences、細胞培養及びサービス(Cell culture and services)を参照)に基づいた。培地の他の成分は、下記の表で示した濃度で加えた。
【表3】

【0166】
脂質抽出物は、1mlのエタノールにつき150mgの脂質抽出物の濃度(例)で調製されたエタノール溶液として、培地に加えた。エタノール脂質溶液は、1ml/培地1lの濃度で加えた。加水分解産物はアミノ酸分析(RP−HPLC、FMOC誘導体として)によって分析し、欠失したアミノ酸(DMEM処方による)、例えば13C、15N標識システイン及び13C、15N標識グルタミンはそれぞれ70mg/l及び1000mg/lの濃度で別々に培地に加えた。pHは7.2に調節し、モル浸透圧濃度は310mOsmol kg−1(NaCl)に調節する。完全培地は0.22ミクロンフィルタを通して殺菌し、4℃で保存した。5〜10の継代培養でCHO細胞系は、Bosmanら、(Method Mol.Biology V.228、Selinsky編、Humana Press Inc)に従う同位体標識培地での増殖に適応した。CHO細胞は37℃の温度で培養し、13COの補充を必要とする。適応細胞の倍加時間は、他の市販の無血清培地(C4726、Sigma、Ex−Cell 302、JRH、CD CHO AGT、Invitrogen)と同等の28〜30時間であった。達成された最大の細胞密度は、4〜6×10細胞数/mlであった。
【0167】
6.2.2 HEK 293細胞に適する安定同位体標識栄養培地の組成
微量元素、塩及びビタミン類に関する培地の組成は、炭素及び窒素を含有する塩が安定同位体で標識されたものに置換されたことを除いて、DMEM処方(例えばJRH Biosciences、細胞培養及びサービス(Cell culture and services)を参照)に基づいた。培地の他の成分は、下記の表で示した濃度で加えた。
【表4】

【0168】
脂質抽出物は、1mlのエタノールにつき150mgの脂質抽出物の濃度(例)で調製されたエタノール溶液として、培地に加えた。エタノール脂質溶液は、1ml/培地1lの濃度で加えた。加水分解産物はアミノ酸分析(RP−HPLC、FMOC誘導体として)によって分析し、欠失したアミノ酸(DMEM処方による)、例えば13C、15N標識システイン及び13C、15N標識グルタミンはそれぞれ70mg/l及び1000mg/lの濃度で別々に培地に加えた。pHは7.2に調節し、モル浸透圧濃度は310mOsmol kg−1(NaCl)に調節する。完全培地は0.22ミクロンフィルタを通して殺菌し、4℃で保存した。5〜10の継代培養でHEK−293細胞系は、Bosmanら、(Method Mol.Biology V.228、Selinsky編、Humana Press Inc)に従う同位体標識培地での増殖に適応した。HEK−293細胞は37℃の温度で培養し、13COの補充を必要とする。適応細胞の倍加時間は、他の市販の無血清培地(C4726、Sigma、Ex−Cell 302、JRH、CD CHO AGT、Invitrogen)と同等の26〜30時間であった。達成された最大の細胞密度は、3〜5×10細胞数/mlであった。
【0169】
6.2.3 CHO細胞に適する安定同位体標識栄養培地の組成
微量元素、塩及びビタミン類に関する培地の組成は、炭素及び窒素を含有する塩が安定同位体で標識されたものに置換されたことを除いて、DMEM処方(例えばJRH Biosciences、細胞培養及びサービス(Cell culture and services)を参照)に基づいた。培地の他の成分は、下記の表で示した濃度で加えた。
【表5】

【0170】
脂質抽出物は、1mlのエタノールにつき150mgの脂質抽出物の濃度(例)で調製されたエタノール溶液として、培地に加えた。エタノール脂質溶液は、1ml/培地1lの濃度で加えた。加水分解産物はアミノ酸分析(RP−HPLC、FMOC誘導体として)によって分析し、欠失したアミノ酸(DMEM処方による)、例えば15N標識システイン及び15N標識グルタミンはそれぞれ70mg/l及び1000mg/lの濃度で別々に培地に加えた。pHは7.2に調節し、モル浸透圧濃度は310mOsmol kg−1(NaCl)に調節する。完全培地は0.22ミクロンフィルタを通して殺菌し、4℃で保存した。5〜10の継代培養でCHO細胞系は、Bosmanら、(Method Mol.Biology V.228、Selinsky編、Humana Press Inc)に従う同位体標識培地での増殖に適応した。CHO細胞は37℃の温度で培養し、COの補充を必要とする。適応細胞の倍加時間は、他の市販の無血清培地(C4726、Sigma、Ex−Cell 302、JRH、CD CHO AGT、Invitrogen)と同等の26〜30時間であった。達成された最大の細胞密度は、4〜6×10細胞数/mlであった。
【0171】
(実施例7)
同位体標識組換えタンパク質の生成
7.1.1 昆虫細胞で産生される同位体標識組換えアクアポリン−2
Sf9細胞を、100mlの培地を含んでいる500mlのスピナー瓶で培養した。培地は、実施例6.1.2で示すように調製する。Sf9細胞をATCC(CRL−1711)から得、上記Bosmanらによって記載されているように、調製した培地に段階適応により適応させた。Sf9細胞を3×10細胞数/mlの密度で接種し、2×10細胞数/mlの密度まで増殖させた。次に、細胞を、Wertenら(2001年、FEBS Lett.504:200頁)で記載されているように構築されたHis標識アクアポリン−2(AQP2)をコードしている、組換えバキュロウイルスに感染させた。バキュロウイルスは、1.0のMOIで加えた。培養物の試料10μlを毎日採取し、ドットブロッティングによってHT−AQP2の発現を追跡した。発現量は、約3dpi(感染後日数)で最大であった。細胞を4℃における5000g、10分の遠心分離によって収穫した。組換えHT−AQP2は、Wertenら(2001年、上記)で記載されているように、尿素ストリッピングの後にNi−NTAビーズ(Qiagen)による固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製されたHt−AQPを100mMのL−ヒスチジンで溶出し、大腸菌(E.coli)脂質との混合、及び20mMリン酸塩、50mMのNaClを含んでいるpH7.2の緩衝液に対して4℃で一晩透析することにより、タンパクリポソームに再構成した。最後に、60μgの精製タンパク質を得た。安定同位体標識の取り込みを(Talvenheimoら、2002年、Biopolymers 67(1):10〜19頁)で記載されているのと同様のFTIR分光学で検査し、98%(13C)及び99%(15N)であることが判明した。
【0172】
7.1.2 昆虫細胞で産生される同位体標識組換えヒスタミンH1受容体
Ratnalaら(2004年、Eur.J.Biochem.271:2636〜46頁)によって記載されているように、His標識ヒトヒスタミン1受容体(Ht−H1)をコードしているcDNAを、Sf9細胞内の組換えバキュロウイルスからの発現のために調製した。組換えウイルスはプラークアッセイで精製した後、増幅した(Klaasen及びde Grip、2000年、Methods Enzymology315:12〜29頁)。Sf9細胞を、実施例6.1.2で示したように調製した100mlの培地を含んでいる500mlのスピナー瓶で培養した。Sf9細胞をATCC(CRL−1711)から得、上記Bosmanらによって記載されているように、調製した培地に段階適応により適応させた。Sf9細胞を3×10細胞数/mlの密度で接種し、3×10細胞数/mlの密度まで増殖させた。次に、細胞を、上記したように構築されたHis標識ヒスタミンH1受容体(HT−H1)をコードしている、組換えバキュロウイルスに感染させた。バキュロウイルスは、1.0のMOIで加えた。培養物の試料10μlを毎日採取し、ドットブロッティングによってHT−H1の発現を追跡した。発現量は、約4dpi(感染後日数)で最大だった。細胞を4℃における5000g、10分の遠心分離によって収穫した。官能性は、Ratnalaら(2004年、上記)によって記載されたように放射性リガンド結合アッセイによって試験した。
【0173】
組換えHT−H1は、Ratnalaら(2004年、上記)で記載されているように、Ni−NTAビーズ(Qiagen、ドイツ)による固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。精製されたHT−H1は、de Gripら(1998年、Biochem.J.330:667〜674頁)によって記載されているように、150mMのイミダゾールで溶出し、アソレクチン(asolectin)と混合した後の洗浄剤のシクロデキストリン抽出によりタンパクリポソームに再構成した。最後に、250μgの精製機能性タンパク質を得た。
【0174】
安定同位体標識取り込みはFTIR分光分析(Mattson Cygnus 100 FTIRスペクトロメータ、Madision、WI)による、安定同位体標識によって誘発された振動シフトの定量化によって調査し、13C及び15Nの両核で95%を超えることが判明した(下記実施例8を参照)。
【0175】
更に、フォローアップ構造研究のためにサンプリング条件を最適化するために、Bruker 750スペクトロメータにより200K及びスピン速度8〜12kHzで15N SSNMRデータを収集した(図1を参照)。その後この方法は、1リットルにつき少なくとも4mgの機能性安定同位体標識HT−H1受容体の容積収率を有するバイオリアクター(4リットル)にスケールアップされた。
【0176】
7.1.3 CHO細胞で産生された同位体標識組換えヒスタミンH1R受容体
ヒトヒスタミン1受容体をコードしているcDNAを、J.Langer教授、Robert Wood Johnson Medical School、Piscataway、NJ、米国から得たpcDEFベクターにクローニングした。CHO細胞を、実施例6.2.3で示したように調製した100mlの培地を含んでいる500mlのスピナー瓶で培養した。CHO細胞を、上記Bosmanらによって記載されているように、調製した培地に段階適応により適応させた。CHO細胞を6×10細胞数/mlの密度で接種し、3×10細胞数/mlの密度まで増殖させた。次に、細胞を、上記したように構築されたHis標識ヒスタミンH1受容体をコードしているプラスミドでトランスフェクションさせた。培養物の試料10μlを毎日採取し、ドットブロッティングによってHT−H1の発現を追跡した。発現量は、約3から4dpt(トランスフェクション後日数)で最大であった。細胞を4℃における5000g、10分の遠心分離によって収穫した。官能性は、(Ratnalaら、上記)によって記載されたように放射性リガンド結合アッセイによって試験した。組換えHT−H1は実施例7.1.2で記載されているように精製及び再構成をし、150μgの精製された機能性タンパク質を得た。安定同位体標識取り込みは、下記実施例8で記載されているように、FTIR分光分析(Mattson Cygnus 100 FTIRスペクトロメータ、Madision、WI)による安定同位体標識によって誘発された振動シフトの定量化によって調査し、核(15N)については95%を超えることが判明した。この方法は、機能性受容体の類似の容積収率、即ち1リットルにつき少なくとも2.5mgの機能性安定同位体標識受容体を有するバイオリアクターレベルにスケールアップすることができた。
【0177】
(実施例8)
バイオマスの構成分析及び安定同位体標識のモニタリングのためのフーリエ変換赤外分光
8.1 FTIR方法のバックグラウンド
主要な生体分子クラス(タンパク質、脂質、炭水化物)はフーリエ変換赤外分光(FTIR)によって簡単に特定することが可能であるが、その理由は典型的な生体分子クラスは以下のように異なる周波数範囲で吸収を示すからである:タンパク質ペプチドアミド基1500〜1700cm−1、脂質エステル基及びC−H結合それぞれ1700〜1750cm−1及び2800〜3000cm−1、並びに炭水化物C−OH及びC−O−C基1000〜1200cm−1。これらの振動転移のモル吸光度はかなり異なることから、バイオマス組成の定量的推定は簡単には達成されないが、定性的構成分析は可能であり、これは図2で示すように異なるバイオマスバッチを比較する際に非常に有用である。
【0178】
振動周波数は関係する原子の質量によって決まり、それ故にFTIRは同位体標識の取り込みを測定するためにも同様に都合よく適用することが可能である。15N標識は、1520〜1550cm−1の範囲内で吸収し且つCN−H変角振動によって支配されるペプチド結合のアミドII振動を、10〜20cm−1シフトさせる。13C標識は、1620〜1670cm−1の範囲内で吸収し且つC=O伸縮振動によって支配されるペプチド結合のアミドI振動を40〜60cm−1シフトさせ、更に炭水化物部分のC−OH及びC−O−C振動を30〜50cm−1シフトさせる。最後に、H標識は脂質基のC−H振動を約700cm−1、タンパク質のアミドII振動を約100cm−1シフトさせる。ピーク分離手法(デコンボリューション、二次誘導体)を使用することにより、標識取り込みによるピークシフトは約5%の精度で量的に推定することが可能である。したがって、この技術はバイオマス及びバイオマス由来の生体分子の迅速な構成分析、並びに安定同位体標識のモニタリングの両方を可能にする。図3で示すように、例えば15N標識効率の測定は、アミドII領域のA1542/A1534及びA1518/1534の吸光度比を監視することによって達成することができる。主にタンパク質骨格内のN−H変角振動を表しているアミドIIバンドは、15N標識によって約1542から1530cm−1にシフトする。しかし、1658cm−1(主にC=O伸縮振動)辺りの隣接アミドIバンド及び1518cm−1辺りのTyr残基側鎖の振動バンドは、同位体置換により影響されない。実際は、1518cm−1辺りの吸光は同位体置換により変化する(他のアミドIIの約1530cm−1へのシフトダウン)。
【0179】
8.2 FTIR材料及び方法
FTIRスペクトルは、Mattson Cygnus 100 IRスペクトロメータにより、ATR(減衰全反射)モード又は透過モードのいずれかで、分解能8cm−1及びスペクトル範囲4000〜800cm−1の周囲温度で調べた。ATR分析については、バイオマスを浴槽超音波処理器内で脱イオン水で懸濁し(約20mg/ml)、約5mgのバイオマスを含んでいる容量をSpecac ATRアクセサリのゲルマニウムプレート表面に均一に塗布した。空気中で一晩脱水後、バイオマスの薄膜がゲルマニウムプレート上に形成していた。その後、ATRアクセサリをスペクトロメータ内に設置し、バイオマスフィルムをスペクトロメータの窒素ガスパージ内で水蒸気が検出されなくなるまで更に脱水するか、又はスピン乾燥した(Clarkら、(1980年)Biophys.J.31、65〜96頁)。透過分析については、0.5〜1.0mgを含んでいる懸濁バイオマスの容量をAgClウィンドウに加え(Fisher Scientific、直径1.6cm)、空気中で一晩脱水した。次にこのウィンドウをコンピュータ管理の自家製の試料交換器に挿入し、スペクトロメータ内に設置し、窒素ガスパージで更に脱水した。最後に、水蒸気が検出されなくなった後にスペクトルを測定した。二次誘導体スペクトルは、スペクトロメータを管理しているコンピュータにインストールしたMattsonソフトウェアを使用して、吸光度スペクトルから計算した。
【0180】
8.3 安定同位体標識された成分の分析
安定同位体標識された培地成分のバッチ間再現性は、FTIR分光を通して調べた。バイオマス内のタンパク量は、FMOC誘導体化を使用して完全加水分解後の窒素測定及びアミノ酸分析による元素分析から推定した。ウサギ筋(EC2.7.3.2、Boehringer、マンハイム)からのクレアチンホスホキナーゼを、FTIRを使用したバイオマス標品内のタンパク質の定量のための標準として使用した。
【0181】
加水分解物及び自己消化物内のアミノ基含有成分を全て決定するために、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)による誘導体化を使用した。しかし、このTNBS方法は、アンモニアとの反応のために、15N水酸化アンモニウムで中和された加水分解産物へ適用することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1A】10kHzのMAS周波数、200Kの温度により750MHzで記録されたSf9細胞から精製された安定同位体標識膜標品の15N 1D MAS SSNMRスペクトルを示す図である。このスペクトルは、5000スキャン後に得られた。獲得の間、80kHz rf磁界強度においてTPPM(Bennett、A.E.ら、J.Chem.Phys.、1955年、103、6951頁)プロトンデカップリングを適用した。2msの交差分極(CP)H−15N混合時間を適用した。120ppmにおける主要な共鳴は、骨格ペプチド基の窒素を表す。他のより小さな共鳴は、タンパク質のアミノ酸残基側鎖を表す。34.3ppmにおけるGly窒素共鳴は、参照として使用された。
【図1B】SF9細胞膜内の15N取り込みを示しているFTIR差スペクトルを示す図である。1580/1535(1620ピークの傾斜の端)における正/負のピークの組み合わせは、骨格ペプチド結合の標識上のアミドII振動のシフトを表す。
【図2】透過フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によるバイオマスの迅速構成分析を示す図である。タンパク質(1700〜1500cm−1)及び炭水化物(1200〜1000cm−1)の振動バンドは、(標識された)バイオマス組成物の再現性について、容易に監視することができる。Me−Metyalobacterium extorquens、Cc−Cyanidium caldarium、Cv−Chlorella viridus、Sp−Spirulina platensis、Gs−Galdieria sulphuraria、So−Scenedesmus obliquus。
【図3】アミドII振動(1542cm−1)のシフトからのFTIRによる15N安定同位体標識のモニタリングを示す図である。図は、非標識培地(A)上、及び15N安定同位体標識培地(B)上で増殖させたHansenula polymorpha酵母バイオマスの赤外スペクトルの拡大部分を示す。スペクトルは、参照として最も強いピーク(1658cm−1)を使用してベースライン補正及びスケーリングの後にグラフ表示されている。15N標識の取り込みは、99%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H、C又はNの少なくとも1つについて、栄養培地内での生体分子の合成のために細胞によって使用される基質内の実質的に全ての原子が同位体標識されている、培養中の哺乳動物又は昆虫の細胞を増殖させるための栄養培地を作製する方法であって、
(a)H、C又はNの少なくとも1つについて実質的に全ての同化性原子が同位体標識された、生物の増殖を支える無機栄養培地でその生物を増殖させ、標識されたバイオマスを生成するステップと;
(b)ステップ(a)において増殖させた生物のバイオマスを自己消化させて自己消化物を生成するステップと;
(c)ステップ(b)で得られた自己消化物を前記哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる成分と組み合わせることによって栄養培地を構成するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記生物は真菌、酵母又は藻類である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物はサッカロミセス(Saccharomyces)、ピチア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、ブレタノミセス(Brettanomyces)、デバリオミセス(Debaryomyces)、トルロプシス(Tolrulopsis)、ヤロウィア(Yarrowia)、ガルジエリア(Galdieria)、シアニジウム(Cyanidium)、ポルフィリジウム(Porphyridium)、シストクロニウム(Cystoclonium)、オードウイネラ(Audouinella)、シアニジオシゾン(Cyanidioschyzon)から選択される属の生物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
更に:
(a)H、C又はNの少なくとも1つについて実質的に全ての同化性原子を同位体標識された、生物の増殖を支える無機栄養培地でその生物を増殖させ、標識バイオマスを生成するステップと;
(b)有機溶媒で生物のバイオマスを抽出して脂質を含んでいる抽出物を生成するステップ(前記生物はステップ(a)のように増殖させたものであるか、又は、同位体で置換されていない培地でステップ(a)のように増殖させたものである)と;
(c)ステップ(a)において増殖させた生物のバイオマスを非アルカリpHで加水分解させてアミノ酸を含む加水分解物を生成するステップと;
(d)請求項1から3までのいずれか一項で得られた自己消化物をステップ(c)で得られたアミノ酸と組み合わせ、哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる成分を加えることによって栄養培地を構成するステップとを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(d)において、前記栄養培地は、請求項1から3までのいずれか一項で得られた自己消化物をステップ(c)で得られたアミノ酸及びステップ(b)で得られた脂質と組み合わせ、哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる成分を加えることによって構成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記栄養培地は少なくとも2つの異なる生物から得られた自己消化産物、脂質及びアミノ酸で構成される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)における加水分解の前に有機溶媒を使用して脂質及び色素をバイオマスから抽出する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脂質が抽出される生物は紅藻類(Rhodophyta)、シアニジオフィセア(Cyanidiophyceae)、緑藻類(Chlorophyta)、藍藻類(Cyanophyta)、珪藻類(Diatoms)、褐藻類(Phaeophyceae)、渦鞭毛藻類(Dinoflagelate)、渦鞭毛植物(Dinophyta)及びガルジエリア(Galdieria)からなる群から選択される属に属している、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アミノ酸を含む加水分解産物を生成する前記生物は、藻類、真菌類、酵母及びメチロトローフ細菌からなる群から選択される生物である、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物はピチア(Pichia)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ハンゼヌラ(Hansenula)、シアニジウム(Cyanidium)、ガルジエリア(Galdieria)、ポルフィリジウム(Porphyridium)、スピルリナ(Spirulina)及びメチロバシラス(Methylobacillus)からなる群から選択される属に属している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖に必要な更なる成分は、
(a)グルコース、果糖及びショ糖の1つ又は複数;
(b)クエン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸及びリンゴ酸からなる群から選択される1つ又は複数のクレブス回路中間体;
(c)ピルビン酸;並びに
(d)チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビオチン、パントテン酸、コリン、パラアミノ安息香酸及びα−トコフェロールからなる群から選択される1つ又は複数のビタミン
の1つ又は複数を含んでいる、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記栄養培地内での生体分子の合成のために前記哺乳動物又は昆虫の細胞によって使用される基質内の実質的に全ての原子が、15N;13C;H;15N及び13C;15N及びH;13C及びH;又は15N、13C及びHから選択される同位体で同位体標識されている、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
その生体分子内の実質的に全ての原子が同位体標識されている生体分子を作製するための方法であって、
(a)前記生体分子を産生することができる哺乳動物又は昆虫の細胞を、請求項1から12までのいずれか一項に記載の方法で作製された栄養培地内で、その生体分子の産生を導く条件下で増殖させるステップと、
(b)前記生体分子を回収するステップとを含む方法。
【請求項14】
前記生体分子は可溶タンパク質又は膜タンパク質である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質を産生することができる哺乳動物又は昆虫の細胞は前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでいる発現ベクターを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質は哺乳動物のタンパク質である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
生体分子に関する構造情報を得るための方法であって、
(a)その生体分子内の実質的に全ての原子が請求項13から15までのいずれか一項に記載の方法で同位体標識されている生体分子を作製するステップと;
(b)任意選択に、前記生体分子を精製するステップと;
(c)その構造について情報を得るために前記生体分子を分光分析するステップとを含む方法。
【請求項18】
前記分光分析はNMR分光法を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生体分子に関する構造情報は前記生体分子の三次元構造についての情報である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記生体分子は第2の生体分子と複合しているタンパク質である、請求項17から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の生体分子は請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法で生成され、前記第2の生体分子内の水素原子の20〜100%は同位体Hで均一に置換されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の生体分子はタンパク質である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物又は昆虫の細胞から同位体標識生体分子を生成するための、前記生体分子の産生を導く条件下での哺乳動物又は昆虫の細胞の増殖を支える栄養培地であって、
(a)無機塩混合物;
(b)アミノ酸源;
(c)炭水化物エネルギー源;
(d)脂質源;
(e)任意選択に、保護剤;
(f)任意選択に、ビタミン類及び/又は有機化合物;
(g)任意選択に、有機酸;並びに
(h)任意選択に、微量元素を含み;
H、C又はNの少なくとも1つについて(a)、(b)及び(c)、並びに任意選択に(d)、(e)、(f)、(g)及び(h)内の実質的に全ての原子が同位体標識されているか、又は、(a)、(b)及び(c)、並びに任意選択に(d)、(e)、(f)、(g)及び(h)内の水素原子の20〜100%が同位体Hで均一に置換されている栄養培地。
【請求項24】
前記アミノ酸源が酵母バイオマスから生成されたアミノ酸含有加水分解産物を含み、前記バイオマスの加水分解は自己加水分解を含む、請求項23に記載の栄養培地。
【請求項25】
脂質源は、脂肪酸、ステロイド及び脂溶性ビタミンを含む、請求項23又は24に記載の栄養培地。
【請求項26】
前記炭水化物エネルギー源はグルコース、果糖及びショ糖の1つ又は複数であり、前記有機酸はピルビン酸、並びにクエン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸及びリンゴ酸からなる群から選択されるクレブス回路中間体の1つ又は複数であり、前記ビタミン類は、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、ビオチン、パントテン酸、コリン、パラアミノ安息香酸及びα−トコフェロールからなる群から選択される1つ又は複数のビタミンである、請求項23から25までのいずれか一項に記載の栄養培地。
【請求項27】
(a)、(b)及び(c)、並びに任意選択に(d)、(e)、(f)、(g)及び(h)内の実質的に全ての原子が15N;13C;H;15N及び13C;15N及びH;13C及びH;又は15N、13C及びHから選択される同位体で同位体標識されている、請求項23から26までのいずれか一項に記載の栄養培地。
【請求項28】
そのタンパク質内の実質的に全ての原子が、15N、13C、H、15N及び13C、15N及びH、13C及びH又は15N、13C及びHから選択される同位体で同位体標識されている、哺乳動物の膜タンパク質。
【請求項29】
そのタンパク質内の水素原子の20〜100%が同位体Hで均一に置換されている哺乳動物の膜タンパク質。
【請求項30】
前記タンパク質はヒトタンパク質である、請求項28又は29に記載の哺乳動物膜タンパク質。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−527212(P2007−527212A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518564(P2006−518564)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000503
【国際公開番号】WO2005/005616
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506009741)
【Fターム(参考)】