説明

生体吸収性ステントの結晶モルフォロジの制御

ステントの製造において、望ましい又は最適なモルフォロジ(結晶形態)と機械的特性とを有するポリマーチューブを拡張する方法、並びに拡張されたポリマーチューブにより製造されるステントの製造方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーチューブ前駆体を変形させる工程を含む、ステントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、体内の管腔への埋込みに適した、径方向に拡張可能な内部人工器官(endoprostheses)に関する。「内部人工器官」は、体内に設置される人工のデバイスを指す。「管腔」とは、血管等の管状器官の空洞を指す。
【0003】
ステントはそのような内部人工器官の一例である。ステントは、一般的に円柱状の形状をしたデバイスで、血管又は他の尿路及び胆管等の解剖学的管腔の一セグメントを開いた状態に保持し、時には拡張するよう機能する。ステントは、血管中のアテローム硬化型狭窄の治療によく使用される。「狭窄」は、体内の導管又は開口部の直径が狭小化又は収縮することを指す。そのような治療においてステントは、身体の血管を補強し、血管系における血管形成の後の再狭窄を阻止する。「再狭窄」は、一見して成功裏に(例えば、バルーン血管形成、ステントによる治療又は弁形成によって)治療を受けた後の、血管内又は心臓弁における狭窄の再発を指す。
【0004】
ステントを用いた患部又は病変の治療は、ステントの送達及び展開の両方を含む。「送達」は、体内の管腔を通して、治療を要する血管内の病変部のような領域にステントを導入及び輸送することを指す。「展開」は、治療領域において管腔内でステントを拡張することを指す。ステントの送達及び展開は、カテーテルの一端部の回りにステントを配置すること、皮膚を通して体内の管腔へカテーテルの端部を挿入すること、体内の管腔内のカテーテルを所望の治療位置へ進めること、治療位置でステントを拡張すること、及び管腔からカテーテルを除去することによって成し遂げられる。
【0005】
バルーン拡張型ステントの場合、ステントは、カテーテル上に配置したバルーンの周囲に設置される。ステントの設置は、典型的にはステントをバルーンに圧着する(圧縮して縮める)、又は縮みしわを付けるように押し付けるステップを備える。次いでバルーンを膨らませることによって、ステントを拡張する。次いでバルーンを収縮させ、カテーテルを引き抜く。自己拡張型ステントの場合には、ステントは、引込み式シース又はソックス状のカバーを介してカテーテルに固定してもよい。ステントが体内の所望の位置にある時点で、シースを引き抜いて、ステントを自己拡張させることができる。
【0006】
ステントは、いくつかの機械的な必要条件を満たすことができなければならない。第1に、ステントは、構造上の負荷、即ち、ステントが血管の壁を支えることによりステントにかけられる径方向の圧縮力に耐えることができなければならない。したがって、ステントには適切な径方向の強度がなくてはならない。径方向の強度は、径方向の圧縮力に抵抗するステントの性能であり、ステントの周方向の強度及び剛性に起因する。それ故、径方向の強度及び剛性は、フープ強度及び剛性、又は、周方向強度及び剛性ということもできる。
【0007】
鼓動する心臓が誘発する周期的な負荷を含む、様々な荷重がステントにかかることになるが、ステントは、一度拡張されれば、そのサイズ及び形状を耐用年数の間十分に維持しなくてはならない。例えば、径方向の荷重はステントを内向きに後退(リコイル/スプリングバック)させてしまうことがある。一般的に、後退(リコイル/スプリングバック)は最小限にすることが望ましい。
【0008】
加えて、ステントは、圧着、拡張、及び周期的負荷を許容するために十分な可撓性を持っていなくてはならない。ステントを、蛇行した血管通路を通じて送達し、線状でないか、もしくは湾曲しやすい展開部位に適合できるようにするために、長手方向の可撓性が重要となる。又、最終的には、有害な血管反応を誘発しないように、ステントは生体適合性を有さねばならない。
【0009】
ステントの構造は、典型的には、業界でストラット(支柱)あるいはバーアーム(棒腕)としばしば呼ばれる相互接続する構造要素の、パターン又は網目を含むスキャフォールド(骨格)により構成される。スキャフォールドはワイヤ、チューブ、又は円柱形状に巻かれたシートから形成することができる。スキャフォールドは、ステントを径方向に圧縮(圧着可能なように)及び径方向に拡張(展開可能なように)できるように設計されている。従来のステントは、あるパターンを持つ個別の構造要素の相互間の動作を介して、拡張及び収縮することができるように設けられている。
【0010】
更に、薬剤ステントは、金属スキャフォールド又はポリマースキャフォールドのいずれかの表面に、活性薬剤、生理活性薬剤、あるいは薬剤を含むポリマー担体をコーティングすることにより製作するものとしてもよい。ポリマースキャフォールドは活性薬剤又は薬剤の担体として使用することもできる。
【0011】
更に、ステントは生体分解性であることが望ましいだろう。多くの治療用途において、例えば血管開通の維持及び/又は薬物送達等の、意図された機能が遂行されるまで、身体内のステントの存在は限られた期間の間必要であろう。したがって、生体吸収性ポリマー等の、生体分解性材料、生体吸収性材料、及び/又は生体侵食性材料から製作されたステントは、それらの臨床的な必要性が終了した後にのみ、完全に侵食されるように構成されるべきである。
【0012】
ステントは、全体を又は部分的に、生体分解性ポリマーで製作することができる。生体分解性のステントは、もはや必要でない場合には、インプラント部位から侵食されて無くなるように構成することができる。生体分解性のステントは、必要であるならば、治療された血管上での更なる手術又は介入を可能とし、後のステント血栓症(ステント展開の数か月又は数年後に表面上に血餅が形成される症状)の可能性を減少させる。
【0013】
ステントにとって重要な幾つかの特性は、高い半径方向の強度及び十分な破壊靭性を含む。望ましいステントの性能を得るために、ステントの原料となる半結晶性のポリマー構造体(ポリマーコンストラクト)に対し、これらの特性を改善するプロセシング(加工)が求められる。
【発明の概要】
【0014】
本発明の多様な実施の形態が含む、ステントを製造する方法は、PLLAチューブを半径方向に拡張するステップと;拡張するステップの間にPLLAチューブを軸線方向に伸長させるステップであって、半径方向の拡張率(拡張パーセンテージ)が300乃至500%であり、軸線方向の伸び率(伸長パーセンテージ)が100乃至200%である、PLLAチューブを軸線方向に伸長させるステップと;軸線方向に伸長させ半径方向に変形(拡張及び伸長)させたチューブにステントパターンを形成するステップとを備える。
【0015】
本発明の更なる実施の形態が含む、ステントを製造する方法は、円筒状のモールド型の内部に配置されたPLLAチューブを提供するステップと;モールド型及びチューブの円筒軸線に沿って平行移動する熱源を用いて、モールド型及びチューブをチューブの変形温度まで加熱するステップと;チューブの内部の圧力を増大させるステップと;チューブの内部の増大された圧力がモールド型の内面に対してチューブを半径方向に拡張することを許容するステップであって、熱源が円筒軸線に沿って平行移動して加熱する際、半径方向の拡張がモールド型及びチューブの円筒軸線に沿って伝播する、チューブを半径方向に拡張することを許容するステップと;半径方向の拡張の間に円筒軸線に沿ってチューブに引張力を負荷して、半径方向の拡張の間にチューブを軸線方向に伸長するステップであって、半径方向の拡張率(拡張パーセント)が300乃至500%であり、軸線方向の伸び率(伸長パーセント)が100乃至200%である、チューブを軸線方向に伸長するステップと;軸線方向に伸長させ半径方向に変形させたチューブにステントパターンを形成するステップとを備える。
【0016】
本発明の他の実施の形態が含む、ステントを製造する方法は、円筒状のモールド型の内部に配置されたPLLAチューブを提供するステップと;モールド型及びチューブの全体を一度に加熱する熱源を用いて、モールド型及びチューブをチューブの変形温度まで加熱するステップと;チューブの内部の圧力を増大させるステップと;チューブの内部の圧力の増大がモールド型の内面に対してチューブを半径方向に拡張することを許容するステップと、続いて冷却源を用いてモールド型及びチューブの全体を一度に冷却するステップとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、例示のステントを示す図である。
【0018】
【図2】図2は、チューブを示す図である。
【0019】
【図3A】図3Aは、半径方向に拡張され、軸線方向に伸長されるポリマーチューブを示す図である。
【図3B】図3Bは、半径方向に拡張され、軸線方向に伸長されるポリマーチューブを示す図である。
【図3C】図3Cは、半径方向に拡張され、軸線方向に伸長されるポリマーチューブを示す図である。
【0020】
【図4】図4は、試作されたステントのステントパターンの全体的な構造を示す図である。
【0021】
【図5】図5は、DSC(示差走査熱量測定法)によって測定された変形されたPLLAチューブの結晶化度を示す図である。
【0022】
【図6】図6は、DSC(示差走査熱量測定法)によって測定された変形されたPLLAチューブのガラス転移温度(Tg)(ガラス転移開始温度)を示す図である。
【0023】
【図7】図7は、異なる半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率で変形されたPLLAチューブの弾性率の値をプロットした図である。
【0024】
【図8】図8は、異なる半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率で変形されたPLLAチューブの終局強度(破壊強度)を比較して示す棒グラフである。
【0025】
【図9】図9は、異なる半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率で変形されたPLLAチューブの破壊時における伸び(伸長)を比較して示す棒グラフである。
【0026】
【図10】図10は、異なる半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率を有するPLLAチューブから製造されたステントの半径方向の強度を比較して示す棒グラフである。
【0027】
【図11】図11は、異なる半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率を有するPLLAチューブから製造されたステントを破壊するまで展開したときの直径を比較して示す棒グラフである。
【0028】
【図12A】図12Aは、半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率に対するステントの半径方向の強度を示す図である。
【図12B】図12Bは、半径方向の拡張率及び軸線方向の伸長率に対するステントを破壊するまで展開したときの直径を示す図である。
【0029】
【図13A】図13Aは、3mm及び3.5mmに拡張したステントのクラックの計数結果を示す図である。
【図13B】図13Bは、3mm及び3.5mmに拡張したステントのクラックの計数結果を示す図である。
【0030】
【図14A】図14Aは、サンプル1の内面及び外面からの深さ(距離)の関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。
【図14B】図14Bは、サンプル2の内面及び外面からの深さの関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。
【0031】
【図15A】図15Aは、サンプル3の内面及び外面からの深さの関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。
【図15B】図15Bは、サンプル4の内面及び外面からの深さの関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は自己拡張可能なステント、バルーン拡張可能なステント、ステントグラフト、その移植(例えば大動脈への移植)、及びチューブ状の医療デバイスの全般を含むデバイスに適用可能だが、その適用はこれらのみに限定されるものではない。ステントは、複数の相互に接続する構造要素又はストラット(支柱)のパターンを含むスキャフォールド又は基材を有することができる。図1は、ステント100の概観の例を示す図である。ステント100は、軸線160を有する円筒形状に設けられており、多数の相互に接続する構造要素又はストラット110を有するパターンを含む。一般に、ステントは半径方向に圧縮(圧着)され得るように、及び半径方向に拡張(展開可能に)され得るように、ステントパターンがデザインされる。圧縮及び拡張の際に関与する応力は、一般的に、ステントパターンの様々な構造要素の全体にわたって分配される。本発明は、図1において図示されたステントパターンに限定されていない。ステントパターンのバリエーションは事実上無限である。
【0033】
ステントの下層構造又は基材は、生体分解性ポリマーもしくは生体分解性ポリマーの組み合わせ、生体安定性ポリマーもしくは生体安定性ポリマーの組み合わせ、又は生体分解性及び生体安定性ポリマーの組み合わせから、完全に又は少なくとも部分的に製作することができる。更に、デバイスの表面用のポリマーベースのコーティングは、生体分解性ポリマーもしくは生体分解性ポリマーの組み合わせ、生体安定性ポリマーもしくは生体安定性ポリマーの組み合わせ、又は生体分解性及び生体安定性ポリマーの組み合わせであり得る。
【0034】
ステント100等のステントは、シートを巻き、接合して、チューブを形成することによって、ポリマーチューブ又はシートから製作するものとしてもよい。例えば、図2はチューブ200を示す図である。チューブ200は、外径205及び内径210を有する円筒形状である。又、図2は、チューブ200の外側表面215及び円筒軸線220も示す。いくつかの実施の形態において、ステントを製造する前のポリマーチューブの直径は、約0.2mm乃至約5.0mm、又はより狭い範囲では約1mm乃至約4mmの間としてもよい。ポリマーチューブは、押出モールド成形又は射出モールド成形を含むが、これらに限定されない様々なタイプの方法によって形成するものとしてもよい。
【0035】
ステントパターンは、チューブ上のパターンをレーザ切断することによってポリマーチューブ上に形成するものとしてもよい。使用することができるレーザの代表的な例は、エキシマ、二酸化炭素、及びYAGを含むが、これらに限定されない。他の実施の形態において、化学エッチングを使用して、チューブ上にパターンを形成するものとしてもよい。
【0036】
ステントが半径方向の圧縮を許容するように圧着される場合、ステントパターンの屈曲要素は内側に屈曲する。ステントが半径方向の拡張を許容するように拡張する場合、屈曲要素は外側へも屈曲する。展開(拡張)の後は、ステントは血管壁からの静的及び周期的な圧縮荷重の下におかれる。したがって、屈曲要素は使用の間に変形にさらされる。「使用」は、製造(製作)、アセンブリング(例えば、カテーテル上にステントを圧着するアセンブリング)、治療部位までの身体の管腔の中への、及び管腔を通したステントの送り、並びに治療部位でのステントの展開、並びに展開後の処理を含むが、これらに限定されない。
【0037】
更に、送りの間に蛇行する血管経路を通過して操作される際、ステント100は軸線160に沿って湾曲にさらされる。直線状でない展開部位に順応させなければならない場合も又、ステント100は湾曲にさらされる。
【0038】
複数の機械的特性又はアウトプット(応答)は、ステントが用いられる間、ステントの性能を満足するために重要である。これらは、高い半径方向の強度、適切な靭性、最小のリコイル(スプリングバック)、及び物理的老化に対する耐性を含む。ステントのスキャフォールドは、血管の壁を支持するように、ステント上に課された構造的荷重(即ち、半径方向の圧縮力)に耐える半径方向における適切な強度を特に有しているべきである。更に、ステントは圧着、展開、及び血管壁の支持に起因するクラック、破壊及び早期の老化に抗する十分な破壊靭性を有するべきである。ステントは、特に歪みの大きい領域におけるクラック形成に対して耐性を有するように、十分な靭性を有するべきである。リコイル(スプリングバック)は、展開した直径からのステントの半径方向の内側への変形を指す。
【0039】
ガラス質であるか、又は体温以上でガラス転移温度(Tg)を有する、いくつかの結晶性又は半結晶性の生体分解性のポリマーは、生理学的条件におけるそれらの強度及び剛性のためにステントの材料として特に魅力的である。かかるガラス質のポリマーは、加水分解等の化学分解を介して吸収されることが可能である。生理学的条件は、インプラントが人体内で曝露される条件を指す。生理学的条件は、人体温度(およそ摂氏37度)を含むが、これに限定されない。
【0040】
ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(グリコリド)(PGA)、及びポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)等の特定の生体分解性ポリマーは、ステントのスキャフォールド材料としての使用に好ましい。その理由の一部は、生理学的条件下で高い強度及び高い剛性を有するからである。しかし、これ以上のプロセシング(加工)をしない場合、これらのポリマーは、十分に薄い、例えば140乃至160μmの幅及び厚さを有するステントの満足できる性能のための適切な強度と破壊靭性とを有さない。ステントのストラットが、血管壁の支持に十分な半径方向の強度を有するには、ステントのストラットはそれよりもはるかに大きく設けなければならないだろう。加えて、これらのポリマーは生理学的条件で脆性破壊メカニズムを示す。かかるポリマーから製作されたステントは、ステントの使用の範囲に関しては不十分な靭性を有する。この結果として、ステントの機械的破損をもたらす可能性を有するクラックが、特に歪みの大きい領域において誘導される可能性がある。
【0041】
ポリマー材料の強度及び破壊靭性に関連する、ステントの様々な性能特性又はアウトプット(応答)がある。それには、半径方向の強度、リコイル(スプリングバック)、展開(拡張)時にストラットが破壊に至る直径、及びクラックの頻度が含まれる。本発明の様々な実施の形態は、ステントの前駆体であるポリマーチューブをプロセシング(加工)してステント性能を改善するステップを含む。このプロセシングは、ポリマーチューブステントの前駆体の半径方向の拡張及び軸線方向の伸長の両方を含む。半径方向の拡張/軸線方向の伸長を行うプロセスは、前駆体から製造されたステントのステント性能の改善を提供すると考えられる、ステント前駆体のポリマーの結晶モルフォロジ(結晶形態)の改質(変更)をもたらす。
【0042】
チューブの半径方向の拡張の程度は、半径方向の拡張の比率(RE)によって定量化することができる。

【0043】
REの比率は拡張パーセント(拡張率)としても表すことができる。

【0044】
同様に、軸線方向の伸長の程度は、軸線方向の伸長の比率(AE)によって定量化することができる。

【0045】
AE比率は軸線方向の伸長パーセント(伸長率)としても表すことができる。

【0046】
モルフォロジ(形態)は、結晶化度、ポリマー鎖の分子配向、及び結晶サイズを含むが、これらに限定されない。分子配向は、ポリマー鎖の縦軸線又は共有結合軸線に沿ったポリマー鎖の相対的な配向を指す。配向は、結晶ラメラの配向及び非晶質領域におけるポリマー鎖の配向を指すことができる。
【0047】
半結晶性ポリマーは非晶質領域によって分離又は包囲される結晶領域を含むので、半結晶性ポリマー材料の強度及び破壊靭性はモルフォロジ(形態)に依存する、又はモルフォロジの影響を受ける。分子配向は、ポリマー材料の強度に影響を与える。ポリマーの変形は、変形させたポリマーの変形の軸線に沿って好ましい配向を誘導し、誘導された好ましい配向は、かかる変形の軸線に沿って強度及び弾性率を増大させる。ポリマーの強度及び弾性率の増大は、概して結晶化度を高めるが、高すぎるとポリマーは脆弱で(脆性となって)、破壊し易くなる。更に、結晶領域又は結晶ドメインのサイズが小さいほど、ポリマーの破壊靭性は大きくなると考えられる。
【0048】
更に、拡張され軸線方向に伸長されたチューブの寸法の安定性を最大限にするようにプロセシングが実行される。寸法の安定性は、チューブの壁及びチューブ形状の厚さのことを指す。又、拡張及び伸長したチューブの均質性は、均質性を高めるように調節されるプロセシングパラメータに対して特に感受性を有することが本願発明者等によって見出された。
【0049】
半径方向の拡張/軸線方向の伸長のプロセスは、チューブの円周の周方向及びチューブの円筒軸線に沿う方向の2軸性の配向を提供する。このプロセスはチューブの結晶化度も高める。加えて、半径方向の拡張/軸線方向の伸長のプロセスを、結晶子成長よりも核形成を促進する温度で行うことにより、分散した小さな結晶が提供される。異なる%RE(拡張率)、%AE(伸長率)及び異なる温度、並びに他のプロセシング(加工)条件を用いることで、このようなプロセシングにより製造されたチューブ及びステントは、異なるモルフォロジ(形態)及び特性を有することになろう。
【0050】
前述のように、変形は、変形の軸線に沿って強度を増大させることが知られている。しかし、ステント前駆体の半径方向の拡張及び軸線方向の伸長に対するステント性能の依存性は、このことからは洞察できない。ステント性能と、拡張の程度(拡張率)、軸線方向の伸長の程度(伸長率)及び両者の比との間の相関関係は知られていない。その理由の一部は、ステントパターンの変形及び歪みの挙動がポリマーチューブの挙動よりも複雑であるためということができる。ステントは高い歪み領域での屈曲を通して変形する。応力及び歪みは1つの方向に沿って整列するのではなく、屈曲要素の湾曲に従う。加えて、これらの高い歪み領域での歪みは屈曲領域の幅の関数として変動し、中立軸では歪みはゼロである。
【0051】
ステント前駆体のポリマーチューブは、チューブ内の圧力を増大させることにより、そしてチューブの円筒軸線に沿って引張力を負荷することにより、それぞれ、半径方向に拡張され、そして軸線方向に伸長される。チューブ内の圧力は、チューブの中の内部圧力を増大するようにチューブ内へ流体を送り込むことによって増大される。好ましくは、引張力は、一端を静止して保持しながら他端に負荷される。代替として、チューブの両端に引張力を負荷してもよい。良好な寸法の安定性が得られることから、チューブを半径方向に拡張する間に軸線方向に伸長させることが好ましい。チューブを、半径方向に拡張する前又は後に軸線方向に伸長させることもできるが、これは、一様な壁厚及び円筒形状からの逸脱等によって寸法の安定性の低下をもたらし得る。
【0052】
チューブの半径方向の拡張及び軸線方向の伸長を可能とするために、チューブは、ガラス転移温度(Tg)とポリマーの融解温度(Tm)との間の温度まで加熱される。
【0053】
プロセシングの開始時、チューブは円筒状の部材内又はモールド型内に配置される。拡張されたチューブの外径が、モールド型の内径となるまでチューブがモールド型の内面に向けて拡張するように、プロセシングパラメータが調節される。チューブの一端をシール又は封鎖(ブロック)し、空気、窒素、酸素及びアルゴン等の気体をポリマーチューブの他端内に送ってチューブ内の圧力を増大させる。
【0054】
チューブは、チューブの一部の上へ暖気を吹き付ける1つ以上のノズル等の加熱源により加熱される。ノズル(複数であってもよい)はチューブの円筒軸線に沿って近位端部から遠位端部まで平行移動し、ノズルの平行移動に伴ってモールド型の軸線方向のセクション又は部分の上へ暖気を吹き付け、モールド型の軸線方向のセクション又は部分及びモールド型内のチューブの軸線方向のセクション又は部分を加熱する。温度及びノズル速度は、ノズルが平行移動することに伴って加熱されたチューブの部分が拡張するように調整される。チューブの半径方向の拡張はノズルの平行移動に追従し、チューブの円筒軸線に沿って伝播する。ノズルが平行移動する際、チューブの端部は、好ましくは一定である規定の速度で引っ張られる。
【0055】
他の実施の形態では、長さ方向に延在する流体出口を備えたノズルにより、チューブの全長を同時に加熱することができる。この実施の形態において、ノズルは平行移動しない。一旦、拡張されると、同一又は類似のノズルを用いて、チューブの全長が同時に冷却される。この構成では、チューブ全体の加熱速度及び冷却速度を一度に制御して加熱及び冷却を行うことができる。
【0056】
拡張及び軸線方向の伸長が同時に開始し同時に完了するように、ノズル速度及び引張速度を調節することが好ましい。代替として、ノズル速度及び引張速度を、拡張又は伸長のいずれかが先に完了するように調整することができるが、これは寸法の安定性の低下並びに不均一なチューブの厚さ及び形状を招く可能性がある。
【0057】
更に、これは、チューブの軸線に沿う伸長に軸線方向の不均一性をもたらす可能性がある。その理由は、ノズルの下にあるチューブの部分は、そこが変形温度になっているので、いつの時点においても最大に伸びる傾向を有するからである。従って、半径方向の拡張とは異なる時間での伸長の開始又は停止は、チューブの異なる軸線方向のセクションで異なる伸長度(伸長率)をおそらくもたらすだろう。伸長がモルフォロジ(形態)及び特性を改質(変更)するので、そのように形成されたチューブ及びステントは、チューブ及びステントの軸線に沿って異なる特性を持つことになる。
【0058】
加えて、変形したポリマーの特性は概して変形速度に依存するので、ノズル速度及び引張速度は一定であることが好ましい。チューブの異なる部分における変動する半径方向の拡張及び伸長の速度は、変形したチューブの長さに沿って異なる特性をもたらし得る。
【0059】
好ましくは、拡張及び伸長に先立ち、チューブを、変形温度又はそれに近い温度(例えば、変形温度の摂氏5乃至10度以内)の近くまで予備加熱する。予備加熱は、圧力及び張力を高めることなくチューブの長さに沿って平行移動することができるノズルによって行うことができる。
【0060】
一旦チューブの拡張及び伸長が完了すれば、選択的にチューブを焼鈍(アニール処理)して寸法の安定性を高めることができる。焼鈍は、チューブの温度がガラス転移温度Tgと融解温度Tmとの間の温度に維持されている間に、圧力及び張力を維持して行うことができる。概して、半結晶性のポリマーがこの温度範囲で維持される場合、結晶化度は増大する。しかし、本願発明者等は、変形プロセスが完了した後に、PLLAについては、結晶化度が増大しない、又は有意に増大しないことを見出した。
【0061】
拡張及び伸長が完了した後、圧力の低下及び/もしくは張力の低下の前に、又は圧力の低下及び/もしくは張力の低下の後に、ポリマーチューブをガラス転移温度Tgよりも低い温度にまで冷却することができる。チューブの冷却は、チューブが、その形成後に適切な形状、サイズ及び長さを維持することを確実にするよう支援する。冷却によって、変形したチューブは、環境圧力、即ち、大気圧を超える圧力を加えることなく、モールド型の内部の表面によって課された長さ及び形状を保持する。
【0062】
ステントの製造で使用される押出成形されたポリマーチューブの直径は2mm乃至4mmとすることができる。しかしながら、本発明は、2mm未満又は4mmを越えるポリマーチューブに適用可能である。ポリマーチューブの壁厚は0.03mm乃至0.06mmとすることができるが、本発明は、0.03mm未満及び0.06mmを越える壁厚を有するチューブに適用することができる。
【0063】
図3A乃至図3Cは、半径方向の拡張及び軸線方向の伸長のプロセシングを詳細に示すシステム300の図である。図3Aは、モールド型310内に配置された、拡張及び伸長の前の外径305を有するポリマーチューブ301の軸線方向における断面図である。プロセシングパラメータは、ポリマーチューブ301がモールド型310の上に、又はモールド型310の内面によってモールド成形されるように調整される。ポリマーチューブ301は、モールド型310の内径と同一のポリマーチューブ301の拡大された状態の外径315を有する。ポリマーチューブ301は遠位端部320で閉じられている。遠位端部320は続いて行なわれる製造工程において開くことができる。
【0064】
矢印325によって示されるように、ポリマーチューブ301の開いた近位端部321の中へと気体を送り、チューブ301内の内部圧力を増大させて、チューブ301を半径方向に変形させる。図3Cの矢印385で示すように、引張力を遠位端部320に一定の引張速度で加える。
【0065】
矢印335及び340によって示されるように、ポリマーチューブ301は、チューブ301の軸線方向の一部を加熱するためにモールド型310の2つの円周上の位置に加熱した流体を方向付ける流体ポートを有するノズル330によって加熱される。図3Bは、チューブ301、モールド型310及び構造部材360を有するノズル330を示し、半径方向の横断面を図示する。追加する流体ポートはモールド型310の軸線方向の部分の他の円周上の位置に配置することができる。矢印355によって示されるように、加熱した流体をモールド型310の周囲に流して、チューブ301のポリマーのガラス転移温度Tgよりも高い温度までモールド型310及びチューブ301を加熱する。
【0066】
ノズル330は、矢印365及び367によって示されるようなチューブ301の長手方向軸線に沿って平行移動する。ノズル330がモールド型310の軸線に沿って平行移動するに従って、ノズルに隣接するチューブ301の軸線方向の部分は半径方向に拡張する。半径方向に拡張された部分がモールド型310の内面に対して拡張するように、温度及び圧力は十分に高く、ノズル平行移動速度は十分に遅い。半径方向の拡張は、ノズル330の平行移動に追従する。図3Cに示されるように、チューブ301の温度の上昇及び圧力の増大に起因して、チューブ301の加熱された部分は半径方向に拡張する。
【0067】
図3Cは、チューブ301の拡張しているセクション372及び拡張されたセクション370を示す図である。矢印380によって示されるように、セクション372は半径方向に変形する。変形したセクション370は、モールド型310の内径と同じ外径を有する。半径方向における変形は図3C中の矢印380によって示され、軸線方向成分は図3C中の矢印382によって示される。
【0068】
前述のプロセスのプロセシングパラメータは、チューブが拡張する温度及び圧力、ノズルの平行移動速度、並びに引張速度を含むが、これらに限定されない。特定の%RE(半径方向の拡張率)並びに%AE(軸線方向の伸長率)についてのプロセシングパラメータは複数の因子に基づいて選択される。
【0069】
前述のように、小さな結晶子サイズほど破壊靭性を高める可能性が高い。静止条件又は静止結晶化の条件においては、核形成速度は、ガラス転移温度Tgに近い温度において極めて高くなる。静止結晶化とは、ポリマーに歪みを与える任意の外部応力下にないポリマーの結晶化のことである。これは、応力誘起性の結晶化についてのケースでも、チューブの変形プロセスの間の非常に小さな時間スケールにわたって生じるものと予想される。従って、変形温度は、可能な限り低いか、又は可能な限りガラス転移温度Tgに近いように選択される。
【0070】
しかし、本願発明者等は、温度の下限を設定する因子が存在することを見出した。温度は、加熱された部分が拡張してモールド型の内面に接触するように、十分に高くなることが求められる。又、ノズルが平行移動する際、ノズルの下にある部分が拡張するように、温度は十分に高くなることが求められる。この他の因子は、温度が低すぎると、拡張したチューブは濁った外観になり得るというものである。拡張したチューブの外観が透明になるように、温度は十分に高くなることが求められる。
【0071】
本願発明者等の観察によって得られた、プロセシングパラメータに対する他の制限は、拡張/伸長したチューブの均質性が変形温度に依存するということである。かかる均質性はステント性能にとって重要である。弾性率及び硬さ(硬度)等の特性は、変形したチューブの内面及び外面からの深さ(距離)の関数として変化する。温度が低いほど、内面と外面との間の深さの関数としての硬さ(硬度)に不均衡(不均一、格差)が生じる。内面と外面との間の深さの関数としての弾性率にも不均衡が生じる。変形温度が高くなるにつれて、この不均衡は減少又は解消する。このことは、拡張/伸長したPLLAチューブに対する、深さの関数としての弾性率及び硬さ(硬度)についてのナノインデンテーション(ナノ押し込み)測定で実証された。いくつかの実施の形態では、この問題に対処するために、変形温度は、所与の%RE/%AE(の組み合わせ)について、特性の間の不均衡が減少又は解消される温度に調節される。したがって、この場合には、他のプロセシングパラメータを調整して温度の増大を補う。
【0072】
チューブを変形温度になるまで4乃至32秒間、予備加熱することができる。本願発明者等は、PLLAチューブについては、チューブのポリマーのガラス転移温度Tgより少なくとも摂氏約10乃至20度又は摂氏約20乃至40度高い温度が好ましいことを見出した。特に、PLLAチューブの変形温度は、摂氏70乃至75度、摂氏75乃至85度、摂氏85乃至95度、摂氏95乃至100度、摂氏100乃至105度、摂氏105乃至115度、摂氏115乃至125度、及び摂氏125乃至130度とすることができる。
【0073】
拡張圧力は、モールド型の壁までチューブを拡張するために求められる最小の圧力が下限であり、チューブを断裂する圧力が上限である。拡張圧力は、90乃至160psi、より狭い範囲では、110乃至140psiとすることができる。
【0074】
ノズル平行移動速度は、チューブが拡張するために十分に加熱されることができる、十分に遅い速度に調節される。ノズル平行移動速度は、0.2乃至1.2mm/秒、より狭い範囲では、0.32乃至1.0mm/秒とすることができる。
【0075】
チューブの長さは拡張の完了時又は拡張の完了前に所定の%AE(伸長率)に達するが、チューブが破断又は断裂しないように、引張速度が調節される。引張速度は、0.4乃至4.0mm/秒、より狭い範囲では、0.58乃至3.8mm/秒とすることができる。
【0076】
加えて、本願発明者等は、半径方向の拡張及び軸線方向の伸長の結果として生じる応力誘起性の結晶化から得ることができる結晶化度に上限(制限)があることを見出した。静止結晶化の条件(場合)において得られるこの上限(制限)は、より緩やかである。PLLAチューブの結晶化度の上限は45乃至50%の間である。50%を大きく超える結晶化度はステントを非常に脆弱(脆性)にするだろう。
【0077】
結晶化度の増大及び半径方向の拡張/軸線方向の伸長の両者はステント特性の改良にとって重要である。従って、本発明におけるように、結晶化度及び変形をより都合良く制御するために、両者を同時に得ることが重要である。本明細書に記載するように、静止結晶化は、望ましくない可能性を含む非常に高い結晶度をもたらし得る。変形が、結晶化度を増大できる温度範囲(即ちガラス転移温度Tgと融解温度Tmとの間)で行われることもまた重要である。
【0078】
本願発明者等は、半径方向の拡張(RE)及び軸線方向の伸長(AE)の程度並びにそれらの比により、又はそれらに依存して、拡張/伸長されたチューブの強度及び破壊靭性並びにステント性能が変動することを見出した。%RE(拡張率)は100%未満、100乃至200%、200乃至300%、300乃至400%、400乃至500%、又は500%を超えるものとすることができる。%AE(伸長率)は、20%未満、20乃至50%、50乃至100%、100乃至150%、150乃至200%、又は200%を超えるものとすることができる。変形されたチューブは、前述の%RE及び%AEの範囲のいずれかの組み合わせを有することができる。例えば、400乃至500%の%REのための%AEは、20%未満、20乃至50%、50乃至100%、100乃至150%、150乃至200%、又は200%を超えるものとすることができる。例えば、300乃至400%の%REのための%AEは、20%未満、20乃至50%、50乃至100%、100乃至150%、150乃至200%、又は200%を超えるものとすることができる。例えば、200乃至300%の%REのための%AEは20%未満、20乃至50%、50乃至100%、100乃至150%、150乃至200%、又は200%を超えるものとすることができる。例えば、100乃至200%の%REのための%AEは20%未満、20乃至50%、50乃至100%、100乃至150%、150乃至200%、又は200%を超えるものとすることができる。この場合には、前述の範囲の全ての端点(境界値)は示された各範囲に含まれるものとする。
【0079】
本明細書に記載する方法に従って製造したPLLAステントについては、本願発明者等は、300乃至500%の%RE(拡張率)及び100乃至200%の%AE(伸長率)の組み合わせは、他の組み合わせよりも、半径方向の強度及び破壊に至る展開(拡張)について、特に好ましい結果を観察した。
【0080】
軸線方向の伸長が全くなく又は比較的少ない軸線方向の伸長で、半径方向に拡張されたチューブから製造されたステントは、半径方向及び軸線方向に沿う機械的特性の不均衡(アンバランス)を引き起こし得る。それにより、より強い軸線方向の強度成分が重要なステントの構造中に弱い領域をもたらし得ることが、臨床前のデータで示された。本願発明者等は、PLLAチューブとステントの実験により、ステントの性能は、より高い程度のステントの軸線方向における伸長の程度(伸長率)に起因して改良され、より高い程度で軸線方向に伸長されたステントは、より低い程度で軸線方向に伸長されたステントを上回る性能を有することを見出した。
【0081】
本願で考慮するステントのアウトプット(応答)は、半径方向の強度、リコイル(スプリングバック)、展開(拡張)時におけるストラットが破壊する直径、及びクラックの頻度を含む。これらのアウトプットは、概してチューブの強度及び破壊靭性に関連する。%RE(拡張率)及び%AE(伸長率)に基づくこれらのステントのアウトプットの傾向性又は依存性は、これらの因子を含むこと自体からは洞察できないが、本願には複数の合理的な提案がある。
【0082】
%RE/%AEの比率は誘起された強度のバランスを表わすことから、ステントの性能は、1に近い%RE/%AE比で最適であり得る。しかし、デザインの複雑性、及びそれがどのくらい、圧着及び拡張の間に機械的特性に影響を与えるかに起因して、%REの割合が高い%RE/%AE比が好ましいだろう。加えて、ステントの性能は、強度及び破断時の伸長等のフープ方向及び軸線方向に沿ったチューブの機械的特性と相関していることが予想される。言い換えれば、ステントの性能はチューブのフープ方向及び軸線方向の特性と相関し得る。本願発明者等は、予想に反して、この予想はどちらも当てはまらないことを見出した。
【0083】
分解、侵食、吸収及び/又は再吸収のプロセスが完了した後、ステントの一部が残らないか、又は生体安定性のスキャフォールド上にコーティングを適用した事例においては、ポリマーがデバイス上に残らないことが理解される。いくつかの実施の形態において、非常にごくわずかな痕跡又は残渣が残されていてもよい。生体分解性のポリマーから製作されたステントでは、ステントは、例えば、血管開通の維持及び/又は薬物送達等のその意図された機能が遂行されるまでの時間の継続期間において、身体の中に残るように意図されている。
【0084】
本発明のために、以下のように用語を定義する。
【0085】
ステントの「半径方向強度」は、ステントが回復不能に変形する圧力(応力)として定義される。
【0086】
「ガラス転移温度」(Tg)は、大気圧において脆性のガラス質状態から変形可能な固体又は延性を有する状態にポリマーの非晶性ドメインが変化する温度である。言い換えれば、Tgは、ポリマーの鎖の中でセグメント運動の開始が生じる温度に対応する。非晶性ポリマー又は半結晶性ポリマーが温度上昇に曝露される場合、温度が上昇するにつれて、ポリマーの膨張係数及び熱容量は共に増大し、分子運動の増大を示す。温度が上昇するにつれても、サンプル中の実際のモル体積(molecular volume)は一定のままであり、そのため、より高い膨張係数は、システムに関連した自由体積の増大、及びしたがって分子が移動する自由度の増大を指し示す。熱容量の増大は、運動による熱散逸の増大に対応する。所与のポリマーのTgは加熱速度に依存的でありえるか、ポリマーの熱履歴によって影響を受け得る。更に、ポリマーの化学構造は、流動性に影響することによってガラス転移に強く影響を及ぼす。
【0087】
「応力」は、平面内の小領域を通して作用する力におけるような、単位面積当たりの力を指す。応力は、それぞれ垂直応力及び剪断応力と呼ばれる、平面に対して垂直(ノルマル)及び平行な成分に分割することができる。引張応力は、例えば、伸び(長さの増大)をもたらす、適用された応力の法線方向成分である。更に、圧縮応力は、それらの縮み(長さの減少)を結果として生じる、材料に適用された応力の法線方向成分である。応力は材料の変形をもたらすことができ、それは長さにおける変化を示す。サンプルが応力を受けている場合、「伸び」又は「縮み」は、材料のサンプルの長さの増大又は減少として定義することができる。
【0088】
「歪み」は、加えられた応力又は荷重により材料に生じる伸び又は縮みの量を指す。歪みは、元の長さの割合又はパーセンテージ(即ち、元の長さで割った長さの変化)として表現することができる。歪みはしたがって、伸びについては正であり、縮みについては負である。
【0089】
「弾性率」は、物質に加えられた単位面積当たりの力、即ち、応力の成分を、加えられた力により生じる、加えられた力の軸線に沿った歪みで割った比率と定義される。例えば、物質は引張弾性率と圧縮弾性率の両方を有している。
【0090】
「ピーク時応力」は、材料が破壊の前に耐える最大の引張応力である。破断時応力は引張強度とも呼ぶことができる。破断時応力は、元の横断面積で割った、試験の間に適用された最大の荷重により算出される。
【0091】
「靭性」は、破壊の前に吸収されるエネルギの量であり、即ち、ある材料(物質)を破壊するために必要な仕事量と同等である。靭性の一つの基準は、応力−歪み曲線の下の、歪みゼロから破壊歪みまでの領域に示される面積である。応力は材料上の引張力に比例し、歪みはその長さに比例する。応力−歪み曲線の下に示される面積は、破断前のポリマーが伸長する距離(歪み)における応力の積分に比例する。この積分はサンプルを破断するために必要な仕事量(エネルギ)である。靭性は、破断する前にサンプルが吸収することができるエネルギの測定値である。靭性と強度との間には差異がある。強いが靭性がない材料は脆性材料と呼ばれる。脆性の物質は強いが、破断の前にあまり変形させることができない。
【0092】
[実施例]
【0093】
以下で説明する実施例及び実験データは、説明の目的のためのみに開示されるものであり、本発明の限定を一切意味しない。以下の実施例は本発明の理解を支援するために与えられるが、本発明が実施例の特定の材料又は手順に限定されないことは理解されるだろう。
【実施例1】
【0094】
以下の実施例は、半径方向に拡張され軸線方向に伸長されたPLLAステントチューブ前駆体(変形されたチューブ)及びこれにより製造されたステントの機械的特性に関する実験結果について記述する。ポリマーチューブを半径方向に拡張し、軸線方向に伸長するために市場で販売されて入手可能なバルーンブローワ又はバルーン拡張器を改造して使用した。
【0095】
[チューブの特性]
【0096】
100%PLLA樹脂を押出してチューブを成形した。押出されたチューブの直径は変動し、半径方向の拡張の程度に依存していた。変形させたチューブの最終的な直径はすべて同一であり、これらのチューブから製造した対応するステントは同一の直径を有する。それゆえ、500%REで変形(拡張及び伸長)させたチューブの形成のために押出したチューブの(元の)直径は、200%REで変形させたチューブの形成のために押出したチューブの(元の)直径よりも小さい。変形させたチューブ及び変形させたチューブから製造したステントの目標とする直径は3mmである。摂氏20度/分でDSC(示差走査熱量測定法)によって測定したところ、押出されたチューブの結晶化度は略15乃至20%であった。
【0097】
[ステントの特性]
【0098】
ステントは、120fsのフェムト秒レーザを用いて、変形したチューブにパターンを形成することにより形成された。ストラットの幅は約150μmである。図4は、試験されたステントのステントパターンの全体的な構造を示す図である。明瞭にパターンを観察できるように、ステントパターン700を平らに展開した状態で示す。ステントパターン700の平らに展開した部分が円筒形状に形成された場合、それは半径方向に拡張可能なステントを形成する。ステントパターン700は、異なる方向で配向させた様々なストラット702、及び複数のストラットの間のギャップ703を含む。各々のギャップ703、及びギャップ703を直接に包囲するストラット702は、閉じられたセル704を画成(define)する。ステントの近位端部及び遠位端部において、ストラット706は、患者の内部におけるステントの配置を判定できるようにする放射線不透過性のマーカを保持するために適した、窪み、止め穴又は孔を含む。
【0099】
セルの形状及びサイズを図示するために、セル704の1つを平行線模様(ハッチング)で示す。セル704はすべて同一のサイズ及び形状を有する。A−A線はステントの中心軸線に対して平行である。パターン700を、下縁部708及び上縁部710で図示する。ステント上で、B−B線がステントの周囲で円を描くように、下縁部708がその上縁部710に接する。このようにして、ステントパターン700は、周方向に構成されたストラットのグループを含む正弦波状のフープ又はリング712を形成する。リング712は、互い違いに設けられた一連のクレスト(山部)707及びトラフ(谷部)709を含む。リング712の正弦波状の変動は主として軸線方向に生じる。クレスト(山部)又はトラフ(谷部)での角度は124乃至128度の間である。
【0100】
同じく図4を参照して、リング712は、A−A線に対して平行なストラットの連結部713によって互いに接続される。リング712は圧着の間に、より小さな直径に折り畳まれ、血管中での展開(拡張)の間に、それらの元の直径又は元の直径よりも大きな直径まで拡張される。
【0101】
[試験サンプル及び条件]
【0102】
%RE(拡張率)と%AE(伸長率)との異なる組み合わせ並びに対応する変形温度を表1に記載する。各%RE/%AEの組み合わせ毎に、チューブを2つの異なる変形温度で製造した。
【表1】

【0103】
表1に示す各グループの他のプロセシング条件は以下の通りであった。
圧力:110乃至140psi
加熱ノズル速度:0.32乃至1.0mm/秒
引張速度:0.58乃至3.8mm/秒
予備加熱時間(予備加熱は各グループに示す温度で行った):4乃至32秒
【0104】
表1に示す%RE(拡張率)/%AE(伸長率)の6つの組み合わせを、変形させたチューブ及びステントの機械的特性の解析のために選択した。グループG(400/20)を除き、より高いプロセッシング温度で処理されたチューブを選択した。より高い温度を選択した理由は、本願発明者等が、より高い温度で変形させたチューブでより良好な均質性を観察したからである。選ばれた他の5つの条件は、最大%RE、最小%AE(500、20)のBグループ;最大%RE、最大%AE(500、200)のFグループ;最小%RE、最小%AE(200、20(33又は50))のTグループ;最小%RE、最大%AE(200、200)のXグループ;中間値%RE、中間値%AE(300、100)のPグループである。グループTに関して、%AEは、ステントの仕様に収まるチューブ厚さを得るように調節した。
【0105】
変形されたチューブ及びステントの両者の機械的特性を、各グループについて測定した。変形されたチューブの以下の特性が測定された:
結晶化度は、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定された。
Tg又はガラス転移の開始は、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて測定された。
終局強度(破壊強度)及び破断時の伸びは、フープ方向及び軸線方向で、変形されたチューブについて測定された。フープ特性は、変形されたチューブの端部からフープ又はリングを切り離すステップと、チューブ内のノッチを切断するステップと、及びチューブが破断するまで、チューブに挿入されたピンで反対方向にチューブを引くステップとによって測定された。軸線方向の特性はその円筒軸線に沿ってチューブを引くステップによって測定された。破断時の伸びは、破断に至るまでの降伏点から生じる伸びの量である。
変形されたチューブの半径方向及び軸線方向の弾性率は動的機械分析(DMA)により測定された。
【0106】
ステントについては以下の特性が測定された:
半径方向の強度及び半径方向の剛性は、アリゾナ州フラッグスタッフのMachine Solutions Inc.が製造したMSI RX650半径方向拡張力測定装置により測定された。
リコイル(スプリングバック)はNikon(登録商標)製のカメラ装置により測定された。
破壊に至る展開(拡張)の直径は、最初に1.3mmまでステントを圧着し、次にストラットの破壊(破断)が観察されるまでステントを展開させるステップによって測定された。
3mmの展開時のクラックの計数は、最初に1.3mmにステントを圧着し、次に3mmに展開するステップによって測定された。クラックの計数は同一のステントを3.5mmに展開(拡張)することによって、3.5mmで測定された。
【0107】
[変形されたチューブの特性]
【0108】
[変形されたチューブの結晶化度]
【0109】
図5は、DSC(示差走査熱量測定法)によって測定された変形されたチューブの結晶化度を示す図である。得られた最大の結晶化度は50%未満であった。60%まで結晶化度を上げることは可能である。%RE及び%AEへのこの結晶化度のデータのモデル適合に基づいて、結晶化度と%RE及び%AEとの間で中程度(moderate)の相関性(R=0.76)のみが得られた。
【0110】
[変形されたチューブのガラス転移(開始)温度Tg]
【0111】
図6は、DSC(示差走査熱量測定法)によって測定された変形されたチューブのガラス転移(開始)温度Tgを示す図である。%RE及び%AEへのこのガラス転移(開始)温度Tgのデータのモデル適合に基づいて、ガラス転移(開始)温度Tgと%RE及び%AEとの間で弱い(weak)相関性(R=0.43)が得られた。
【0112】
[変形されたチューブのDMA分析]
【0113】
図7は、B、F、G、P、T及びXグループの変形されたチューブの弾性率の値のプロットを示す図である。弾性率の値を以下の3つのグループに分類した。
(1)T及びX
(2)X、B、G及びP
(3)F
弾性率と%RE及び%AEとの間に相関性は観察されなかった。
【0114】
[終局強度(破壊強度)及び破断伸び]
【0115】
図8は、B、G、F、T、P及びXグループにおける変形されたチューブの終局強度(破壊強度)を比較して示す棒グラフである。Fグループ(500/200)は最も高いフープ方向の強度を有する。Xグループ(200/200)は最も高い軸線方向の強度を有する。%RE及び%AEへの終局強度のデータのモデル適合に基づいて、終局強度と%RE及び%AEとの間で僅か(poor)な相関性(R=0.42)が得られた。
【0116】
終局強度(破壊強度)のデータは、半径方向の拡張/軸線方向の伸長である程度の相乗作用があることを実証している。例えば、Bグループは、Fグループに比較して、同じRE(拡張率)(500%)及びより低いAE(伸長率)(20%)を有する。しかし、Fグループのより大きな%AEは、より高い軸線方向の強度とフープ方向の強度との両方をもたらす。
【0117】
図9は、B、G、F、T、P及びXグループの変形されたチューブの破断時の伸びを比較して示す棒グラフである。Tグループ(200%/33%)及びPグループ(300%/100%)は、最も高い軸線方向の破断時の伸びを有する。%RE及び%AEへのこの破断時の伸びのデータのモデル適合に基づいて、破断時の伸びと%RE及び%AEとの間で中程度(moderate)の相関性(R=0.83)が得られた。
【0118】
このデータは、半径方向の拡張/軸線方向の伸長である程度の相乗作用があることを実証している。例えば、BグループはグループFと比較して同じ%RE(拡張率)(500%)及びより低い%AE(伸長率)(20%)を有している。しかしながら、Fグループのより大きな%AEはより高い破断時の軸線方向の伸びと破断時のフープ方向の伸びをもたらす。
【0119】
[ステントの特性]
【0120】
[ステントの径方向の強度]
【0121】
図10は、%RE(半径方向の拡張率)/%AE(軸線方向の伸長率)が500/20(Bグループ)、400/20(Gグループ)、500/200(Fグループ)、200/33(Tグループ)、300/100(Pグループ)及び200/200(Xグループ)を有するチューブから製造されたステントの半径方向の強度を比較して示す棒グラフである。%RE及び%AEへの半径方向の強度のデータのモデル適合に基づいて、半径方向の強度と%RE及び%AEとの間で大きな(良好な)(good)相関性(R=0.89)が得られた。半径方向の強度は、半径方向の拡張及び軸線方向の伸長の増大により増大する。
【0122】
Pグループ(300/100)は最も高い半径方向の強度を有し、Fグループ(500/200)は2番目に高く、誤差限界内でわずかに低い値を有する。このデータは、半径方向の拡張/軸線方向の伸長で相乗作用があることを実証している。例えば、Bグループ(500/20)はFグループと比較して同一の%RE(拡張率)(500%)及びより低い%AE(伸長率)(20%)を有する。しかしながら、Fグループのより大きな%AEはより高い半径方向の強度をもたらす。
【0123】
加えて、変形されたチューブのフープ方向の強度と、対応するステントの半径方向の強度との間の相関性は意外にもない。例えば、Fグループ(500/200)の変形されたチューブはフープ方向において最も高い終局強度(破壊強度)を有し、Pグループ(300/100)の変形されたチューブはFグループのチューブをかなり下まわる終局強度を有する。しかしながら、前述のように、PグループのステントはFグループのステントを超える半径方向の強度を有する。
【0124】
[破壊に至る展開(拡張)]
【0125】
図11は、%RE(半径方向の拡張率)/%AE(軸線方向の伸長率)が500/20(Bグループ)、400/20(Gグループ)、500/200(Fグループ)、200/50(Tグループ)、300/100(Pグループ)及び200/200(Xグループ)を有するチューブから製造されたステントの破壊に至る拡張(展開)における直径を比較して示す棒グラフである。500/20(Bグループ)ステントは、500/200(Fグループ)、300/100(Pグループ)、400/20(Gグループ)及び200/50(Tグループ)ステントよりも統計的により高い値を有する。200/200(Xグループ)ステントは、他のステントよりも統計的により低い値を有する。500/200(Fグループ)、300/100(Pグループ)、400/20(Gグループ)及び200/50(Tグループ)はまだ許容可能な性能の範囲にある。%RE及び%AEへの破壊時の拡張の直径のデータのモデル適合に基づいて、破壊時の拡張の直径と%RE及び%AEとの間で中程度(moderate)の相関性(R=0.79)が得られた。
【0126】
[最大の半径方向強度及び破壊に至る展開(拡張)についての%RE/%AEの予測]
【0127】
半径方向の強度のデータから生成した予測モデルを用いて、最大の半径方向の強度を提供する%RE(拡張率)及び%AE(伸長率)の値を予測する。同様に、破壊に至る展開(拡張)のデータから生成した予測モデルを用いて、破壊に至る展開の最大の直径を提供する%RE及び%AEの値を予測する。図12Aは、半径方向の強度に対する%RE及び%AEを示す。図で示すように、相関関係は、最大の%RE/%AE値に達し、次いで%RE/%AEのより高い値で下向きに曲がる下向きの凹面となる。半径方向の強度の最大値は450/125の%RE/%AEで生じ、半径方向の強度は1462mmHg及び破壊に至る展開での直径は4.0mmである。図12Bは、破壊に至る展開での直径に対する%RE(拡張率)及び%AE(伸長率)を示す。破壊に至る最大の展開は500/75の%RE/%AEで生じ、その半径方向の強度は1288mmHg、破壊に至る展開での直径は4.2mmであった。
【0128】
[クラックの計数]
【0129】
図13A及び図13Bは、3mm及び3.5mmに拡張した多様なグループのステントのクラックの計数の結果を示す図である。「>25%クラック」は、ストラットの幅の25%未満のクラックの数を指す。3mmの展開(拡張)については、200/200グループ(Xグループ)における5ユニットの内の2ユニットが破壊された(Uクレスト)。3.5mmの展開については、200/200のグループの内の3つの残りのユニットの内の2つが破壊された。クラックカウント>50%は、低い半径方向の拡張についてはより高い傾向がある一方で、空隙(ボイド)は、高い半径方向の拡張についてはより高い傾向があった。
【0130】
[ステントのリコイル(スプリングバック)]
【0131】
グループGのパーセントリコイル(スプリングバック率)は2乃至3%であった。%RE及び%AEへのこのパーセントリコイル(スプリングバック率)のデータのモデル適合に基づいて、パーセントリコイル及び半径方向の強度、%RE及び%AEとの間で弱い(poor)相関性(R=0.32)が得られた。
【0132】
[ステントの半径方向の剛性]
【0133】
グループのステントの半径方向の剛性は、半径方向の強度と同様の傾向を示した。
【実施例2】
【0134】
以下の例は、内面及び外面からの距離(深さ)の関数としてのチューブの特性に対する、変形の間のチューブの温度の効果を示す。測定した特性は弾性率及び硬度であった。特性は、カリフォルニア州サンタクララのAgilent Technologies,Inc.のNano Indenter(登録商標)G200を用いて測定された。4つのサンプルの特性を表2にリストする。サンプル1及びサンプル2の%RE(拡張率)及び%AE(伸長率)は同一であり、これらは2種類の異なる変形温度により変形されている。サンプル3及びサンプル4の%RE及び%AEは同一であり、これらは2種類の異なる変形温度により変形されている。
【0135】
【表2】

【0136】
図14Aは、サンプル1の内面及び外面からの距離(深さ)の関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。図14Bは、サンプル2の内面及び外面からの深さ(距離)の関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。図15Aは、サンプル3の内面及び外面からの深さ(距離)の関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。図15Bは、サンプル4の内面及び外面からの深さ(距離)の関数としての弾性率及び硬度を比較して示す図である。
【0137】
図14Aに示すデータは、サンプル1の外面の硬度が内面の硬度よりも約33%高いことを示している。弾性率の不均衡(不均一、格差)は深さ(距離)の関数として増大し、その最大値は1μmでの値であり、そこでの外面の弾性率は内面の弾性率よりも約75%高い。図14Bに示すデータは、サンプル2の内面及び外面が非常に似た弾性率及び硬度の値を有していることを示している。
【0138】
図15Aに示すデータは、サンプル3の外面の弾性率は内面の弾性率よりも約63%高く、外面の硬度は内面の硬度よりも約115%高いことを示している。図15Bに示すデータは、サンプル4の内面及び外面が非常に似た弾性率及び硬度の値を有していることを示している。
【0139】
本発明の特定の実施の形態を示し、記述してきたが、本発明のより広い態様を逸脱しない限り、変更及び変形を施すことも可能であることは当業者にとって自明であろう。したがって、添付の請求項はその範囲において本発明の真の精神及び範囲に含まれる全ての変更及び変形を包含する。
【符号の説明】
【0140】
100 ステント
110 ストラット
160 円筒軸線
200 チューブ
205 外径
210 内径
215 外側表面
220 円筒軸線
300 システム
301 ポリマーチューブ
305 外径(ポリマーチューブ拡張及び伸長前)
310 モールド型
315 外径(ポリマーチューブ拡張及び伸長後)
320 遠位端部(ポリマーチューブ)
321 近位端部(ポリマーチューブ)
325 矢印(気体の送り方向)
335 矢印(加熱した流体の吹付け方向)
340 矢印(加熱した流体の吹付け方向)
330 ノズル
360 構造部材(ノズル)
365 矢印(ノズルの平行移動方向)
367 矢印(ノズルの平行移動方向)
370 拡張されたセクション(ポリマーチューブ)
372 拡張しているセクション(ポリマーチューブ)
380 矢印(半径方向の拡張成分)
382 矢印(軸線方向の伸長成分)
385 矢印(引張力の負荷方向)
700 ステントパターン
702 ストラット
703 ギャップ
704 セル
706 ストラット
707 クレスト(山部)
708 下縁部
709 トラフ(谷部)
710 上縁部
712 リング
713 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLLAのチューブを半径方向に拡張するステップと;
前記半径方向に拡張するステップの間に前記PLLAのチューブを軸線方向に伸長するステップであって、前記半径方向への拡張の拡張率は300乃至500%であり、前記軸線方向への伸長の伸長率は100乃至200%である、前記PLLAのチューブを軸線方向に伸長させるステップと;
前記軸線方向に伸長され、前記半径方向に拡張されたチューブにステントパターンを形成するステップとを備える;
ステントを製造する方法。
【請求項2】
前記半径方向に拡張するステップ及び前記軸線方向に伸長するステップの間に、結晶化度が45乃至50%まで増大する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チューブは、摂氏80乃至100度の間の温度で前記半径方向に拡張され、前記軸線方向に伸長される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記チューブは、摂氏115度乃至120度の間の温度で前記半径方向に拡張され、前記軸線方向に伸長される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記チューブを前記半径方向に拡張させ、前記軸線方向に伸長させるときの温度を調節することにより、変形した前記チューブの内面と外面との間の深さの関数としての弾性率の不均衡を解消する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
円筒状のモールド型の内部に配置されたPLLAのチューブを提供するステップと;
前記モールド型及び前記チューブを前記モールド型及び前記チューブの円筒軸線に沿って平行移動する熱源で前記チューブの変形温度まで加熱するステップと;
前記チューブの内部の圧力を増大させるステップと;
前記チューブの内部の前記増大された圧力が前記チューブを前記モールド型の内面に対して半径方向に拡張することを許容するステップであって、前記モールド型の円筒軸線に沿って前記熱源が平行移動して加熱する際、前記モールド型の円筒軸線に沿って前記半径方向の拡張が伝搬する、前記チューブを半径方向に拡張することを許容するステップと;
前記半径方向の拡張の間に前記円筒軸線に沿って前記チューブに引張力を負荷して前記半径方向の拡張の間に前記チューブを軸線方向に伸長するステップであって、前記半径方向の拡張率は300乃至500%であり、前記軸線方向の伸長率は100乃至200%である、前記チューブを軸線方向に伸長するステップと;
前記半径方向に拡張され、軸線方向に伸長されたチューブにステントパターンを形成するステップとを備える;
ステントを製造する方法。
【請求項7】
前記半径方向の拡張と前記軸線方向の伸長とは同時に始まり同時に終了する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記チューブの変形温度は、前記チューブが前記モールド型の内面に対して半径方向に拡張することを許容する最低温度である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記チューブの変形温度は、前記拡張及び前記伸長されたチューブの内面と外面との間の深さの関数としての弾性率の不均衡が生じないように調整される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記半径方向に拡張するステップ及び前記軸線方向に伸長するステップの間に、結晶化度が45乃至50%まで増大する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記チューブは、摂氏80乃至100度の間の温度で前記半径方向に拡張され、前記軸線方向に伸長される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記チューブは、摂氏115度乃至120度の間の温度で前記半径方向に拡張され、前記軸線方向に伸長される、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記チューブが拡張するときの前記チューブの内部の圧力は、110乃至140psiである、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記熱源の平行移動速度は、前記半径方向の拡張及び前記軸線方向の伸長の全体の期間にわたって一定である、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記引張力は前記チューブを一定速度で引くステップによって引き起こされて一定の前記伸長率を提供する、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記半径方向の拡張の圧力は、110乃至140psiである、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記チューブが前記モールド型の内面に対して拡張するために十分に加熱されることを許容するように前記熱源の平行移動速度が十分に遅く調整され、前記熱源の平行移動速度は0.2乃至1.2mm/秒の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
円筒状のモールド型の内部に配置されたPLLAのチューブを提供するステップと;
前記モールド型及び前記チューブを前記モールド型及び前記チューブの全体を一時に加熱する熱源で前記チューブの変形温度まで加熱するステップと;
前記チューブの内部の圧力を増大させるステップと;
前記チューブ内の前記増大された圧力が前記チューブを前記モールド型の内面に対して半径方向に拡張することを許容するステップと、続いて前記モールド型と前記チューブの全体を一時に冷却源で冷却するステップとを備える;
ステントを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【公表番号】特表2013−504459(P2013−504459A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528900(P2012−528900)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/048287
【国際公開番号】WO2011/031872
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(509268314)アボット カルディオバスキュラー システムズ インコーポレーテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】Abbott Cardiovascular Systems Inc.
【住所又は居所原語表記】3200 Lakeside Drive,Santa Clara,California 95054,United States of America
【Fターム(参考)】