説明

生体吸収性組織インプラントの製造方法及び製造治具

【課題】粗い網目のメッシュ状補強材を用いて、目ずれの少ない生体吸収性組織インプラントを効率よく製造する製造方法の提供。
【解決手段】基板の面上に生体吸収性樹脂からなるメッシュ状補強材を敷置し、生体吸収性高分子のゾルを基板の面上に流延し、メッシュ状補強材が没入状態の前記ゾルの膜を形成し、このゾルの膜をゲル化させ乾燥して乾燥物を基板から剥がす工程を含み、基板の面の、水に対する接触角が60°〜90°である生体吸収性組織インプラントの製造方法であり、平面内で一巡する枠からなる枠体と、長尺の櫛状体と、前記枠体の枠内に前記平面と平行に配置され配置位置から取り外し可能な基板とを含み、櫛状体が、各枠の長手方向に沿って配置され、メッシュ状補強材の網目の間隔を固定するようにメッシュ状補強材の縁部の網目が櫛歯に挿入された状態で、メッシュ状補強材が基板の面上に敷置されるようになした治具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性ゲルにメッシュ状補強材が植え込まれてなる生体吸収性組織インプラントの製造方法及びその製造方法に用いる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科などの臨床分野において、様々な外科手術および処置後に、あるいは外傷によって、患部の生体組織が癒着することが問題となる。そこで、従来、生体組織の癒着を防止するために、癒着が発生するおそれがある組織を覆い、保護し、あるいは組織修復する組織インプラントが開発されている。組織インプラントには生体吸収性に優れることが求められる。また、組織インプラント癒着防止材は適用部位に縫合糸により縫合する必要があった。しかし、優れた生体吸収性を有する組織インプラントは単に製膜しただけでは強度が低く縫合により亀裂を生じ縫合困難であるという問題があった。このため、メッシュ状補強材を植え込んだ生体吸収性組織インプラントが開示されているが、メッシュ状補強材は網目が細かいとインプラント膜材の比率が小さくなるので網目がある程度大きくなければならない。すなわち、メッシュ密度(平面視のメッシュの面積のうち糸の面積の占める割合(%))が20%未満であることが望まれている。しかし、そのようなメッシュ状補強材は生体吸収性組織インプラントの作成時に目ずれしやすく、とくに、生体吸収性組織インプラントの周縁部において目ずれがあると、縫合操作に支障をきたすので、この周縁部においてメッシュ状補強材の網目の整然とした配列状態が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
[特許文献1]特開2006−102503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、メッシュ状補強材を植え込んだ生体吸収性組織インプラントにおいて、メッシュ密度が20%未満であるような粗い網目のメッシュ状補強材を用いて、生体吸収性組織インプラントを効率よく製造する製造方法及びその製造方法に用いる治具を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、メッシュ状補強材を植え込んだ生体吸収性組織インプラントにおいて、メッシュ密度が20%未満であるような粗い網目のメッシュ状補強材を用いて、周縁部において目ずれの少ない生体吸収性組織インプラントを効率よく製造する製造方法及びその製造方法に用いる治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、基板の面上に生体吸収性樹脂からなるメッシュ状補強材を敷置する敷置工程、
生体吸収性高分子のゾルを該メッシュ状補強材が敷置された該基板の面上に流延し、前記メッシュ状補強材が没入状態の前記生体吸収性高分子のゾルの膜を形成する工程、
前記生体吸収性高分子のゾルの膜をゲル化させ、前記メッシュ状補強材が埋め込まれ前記基板に貼着状態のゲル膜を形成する工程、
メッシュ状補強材が埋め込まれた該ゲル膜を乾燥して乾燥物となす乾燥工程、
該乾燥物を前記基板から剥がす工程、
剥がされた前記乾燥物を加熱する加熱工程
を含み、
前記基板の面の、水に対する接触角が60°〜90°であることを特徴とする生体吸収性組織インプラントの製造方法であることにある。
【0007】
前記生体吸収性組織インプラントの製造方法においては、前記敷置工程が、前記メッシュ状補強材の網目形状が全体に均一になるように前記メッシュ状補強材の縁部を拘束手段により拘束してなされ得、
前記乾燥工程が、前記メッシュ状補強材を、拘束された前記縁部を切り離し、または拘束から解放する工程を含み、次いで前記基板に貼着状態のゲル膜を前記基板とともに前記拘束手段から移動させたのち乾燥する工程であり得る。
【0008】
また、本発明の要旨とするところは、前記生体吸収性組織インプラントの製造方法に用いられる治具であって、長尺の櫛状体と前記基板と該基板を着脱自在に載置するベーステーブルを含み、
前記メッシュ状補強材の網目の間隔を固定するように前記メッシュ状補強材の縁部の網目が前記櫛歯に挿入された状態で、前記メッシュ状補強材が前記基板の面上に敷置されるようになした生体吸収性組織インプラントの製造用治具であることにある。
【0009】
前記生体吸収性組織インプラントの製造用治具は、さらに、平面内で一巡する枠からなる枠体を含み得、前記基板が前記枠体の枠内に前記平面と平行に配置位置から取り外し可能に配置され得、前記櫛状体が前記枠に載置され前記櫛歯の突出方向と直交する載置面を有する棒状基部を有し得、前記メッシュ状補強材の縁部の網目が前記櫛歯に挿入された状態で、前記櫛歯が突出方向を前記平面と直交させて前記枠体の内側で前記基体の周縁の外側に配されるとともに、前記載置面と前記枠とで前記メッシュ状補強材の縁部が挟持されるようになし得る。
【0010】
前記ベーステーブルには前記基板を吸着するための吸引手段が設けられ得る。
【0011】
前記生体吸収性組織インプラントの製造用治具は、前記基板を冷却する冷却手段を備え得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、メッシュ状補強材を植え込んだ生体吸収性組織インプラントにおいて、メッシュ密度が20%未満であるような粗い網目のメッシュ状補強材を用いて、生体吸収性組織インプラントを効率よく製造する製造方法及びその製造方法に用いる治具が提供される。
【0013】
本発明によると、メッシュ状補強材を植え込んだ生体吸収性組織インプラントにおいて、メッシュ密度が20%未満であるような粗い網目のメッシュ状補強材を用いて、周縁部において目ずれの少ない生体吸収性組織インプラントを効率よく製造する製造方法及びその製造方法に用いる治具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に用いられる生体吸収性組織インプラントの製造用治具の構成の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に用いられる生体吸収性組織インプラントの製造用治具の構成の他の一例を示す図であり、図2(a)は平面模式図、図2(b)は図2(a)のA−A方向の断面端面模式図である。
【図3】図2に示す生体吸収性組織インプラントの製造用治具に用いられる櫛状体の形状を示し、図3(a)正面図、図3(b)は側面図である。
【図4】本発明に用いられる形状拘束用基盤の形状を示し、図3(a)平面図、図3(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明により得られる生体吸収性組織インプラントは、生体吸収性膜材にメッシュ状補強材が平面状に広がった状態で植え込まれてなる。
生体吸収性膜材は、水溶性の生体吸収性の高分子のゲルが乾燥されてなる。水溶性は少なくとも一部が水に可溶なことをいう。水溶性高分子のゲルは水溶性の高分子のゾルを冷却などによりゲル化して得ることができる。ゾルはコロイド溶液であり、このようなゲルの前駆体である。ゾルにおける高分子の濃度は2〜20重量%が好ましい。3〜7重量%であることがさらに好ましい。ゾルにはpHや粘度やゲル化速度などの調整や、治癒効果の調整のための各種添加剤が添加されてもよい。
【0016】
水溶性の生体吸収性の高分子としては、ゼラチン、アルギン酸、カンテンなどが例示される。
【0017】
メッシュ状補強材としては編み物、糸交差部を融着した編織物、絡み織の織物などが挙げられるが、たて編みのメッシュ編み物が必要な縫合強力を満たすうえで好ましい。
【0018】
メッシュ状補強材のメッシュ密度(平面視の布帛の面積のうち糸の面積が占める割合(%))は20%未満であることが縫合性や治癒性能のうえで好ましい。網目開口のさしわたしサイズはたてよことも3〜7mmであることが縫合性のうえで好ましい。メッシュ状補強材4の厚みは0.05〜0.5mmであることが製品性能のうえで好ましい。
【0019】
メッシュ状補強材の構成糸は生体吸収性樹脂からなるマルチフィラメントであることが好ましい。この生体吸収性樹脂としてはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリジオキサノン等の脂肪族ポリエステル、コラーゲンなどが挙げられる。
【0020】
本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法の態様の一例を説明する。本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法は、
基板の面上に生体吸収性樹脂からなるメッシュ状補強材を敷置する敷置工程、
生体吸収性高分子のゾルをメッシュ状補強材が敷置された基板の面上に流延し、ゾルの膜を形成する工程、
生体吸収性高分子のゾルの膜をゲル化させ、メッシュ状補強材が埋め込まれ基板に貼着状態のゲル膜を形成する工程、
メッシュ状補強材が埋め込まれたゲル膜を乾燥して乾燥物となす乾燥工程、
乾燥物を基板から剥がす工程、
剥がされた乾燥物を加熱してゲル膜を固化または架橋させる加熱工程
を含んでなる。
【0021】
上記の敷置工程は、基板の面上に生体吸収性樹脂からなるメッシュ状補強材を面状に広げて層状に重ねる工程である。
【0022】
上記の、生体吸収性高分子のゾルをメッシュ状補強材が敷置された基板の面上に流延しゾルの膜を形成する工程により、このゾルの膜にメッシュ状補強材が没入した状態となる。
【0023】
なお、ゾルの膜の厚みは1〜4mmであることが好ましい。
【0024】
本発明においては、基板の面の水に対する接触角は60°〜90°である。接触角がこの範囲であると、基板上で、基板の周縁部を残して万遍なく流延されたゾルの膜が形成される。この接触角が60°未満であると、流延された生体吸収性高分子のゾルが流延後も流動しやすく、基板に周縁を堰き止める堰き止め枠を設けないと、基板上に所定の厚さのゾルの膜を形成することが困難になる。堰き止め枠の設置は工程に用いる器具の構成が複雑化して後続の工程操作を円滑に行ううえで障害となり、また、コストアップの要因となる。また、この接触角が60°未満であると、乾燥後に前記の乾燥物が基板に剥がすことが困難なほどに強く貼り付いてこの乾燥物をメッシュ状補強材ごと基板からきれいに剥がすことが困難になる。
【0025】
この接触角が90°を超えて大きいと、流延された生体吸収性高分子のゾルが基板上で凝集して特定の区域に集まりやすく、基板上で、基板の周縁部を残して万遍なく流延されたゾルの膜を形成できない。また、乾燥工程においてゲル膜が乾燥される過程でゲル膜あるいは乾燥物が反り返って一部が基板から剥離するという現象が生じやすく、均整な製品が得られない。水の接触角はJIS R 3257―1999に基づく静滴法によって測定される。
【0026】
基板の素材としては、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートが例示される。基板としては疎水性の樹脂板の表面に放電処理や薬液処理などの親水化処理を施したものであってもよい。
【0027】
基板の接触角は80°〜90°であることが基板の周縁部を残して万遍なく流延されたゾルの膜が均整に形成されることと、乾燥物が乾燥で反り返ることなくかつ基板との剥離性のうえでさらに好ましい。この点で基板の素材としてポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。
【0028】
生体吸収性高分子のゾルの膜のゲル化は、ゾルの膜を放置することによって行われる。また、ゾルの膜を5〜20℃に冷却することによってゲル化時間を短縮することができる。
【0029】
ゲル膜の乾燥は室温で行うことが好ましい。乾燥時間は1〜3日であることが好ましい。
【0030】
加熱工程における加熱温度は100〜160℃であることが好ましい。加熱用装置としては特に限定されるものではないが、例えば、静置棚加熱機、移動式棚加熱機、マイクロ波加熱機、熱風乾燥機、赤外線加熱機、減圧加熱機、等を挙げることができ、複数の装置を組み合わせてもよい。
【0031】
なお、加熱工程前に適切なトリミングにより縁部の整形を行う。
【0032】
かかる本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法により、メッシュ密度が20%未満であるようなメッシュ状補強材を用いて、生体吸収性組織インプラントを効率よく製造することができる。
【0033】
本発明において好適に使用されるメッシュ状補強材は網目が大きく、また、全体に極めて柔軟なので型崩れしやすく、基板上に敷置する際にメッシュの形状や配列の規則性がハンドリングにより乱れやすい。本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法においては、前記敷置工程が、メッシュ状補強材40の網目形状が全体に均一になるようにメッシュ状補強材の縁部を拘束してなされることが好ましい。網目はメッシュ状布帛の構成糸で囲まれた最少の開口単位、あるいはこの開口単位を囲む構成糸で形成される組織単位をいう。
【0034】
例えば、メッシュ状補強材の周縁部に櫛歯を備える櫛状体を配置して、各櫛歯にメッシュ状補強材の各網目を挿入することにより、この拘束を行うことができる。あるいは所定の枠体の枠にメッシュ状補強材の周縁部を両面粘着テープで固定して目ずれを防止してもよい。
【0035】
この場合、乾燥工程においては、この拘束を解除して、基板に貼着状態の(メッシュ状補強材が没入状態の)ゲル膜を基板とともに、この拘束を行う拘束手段から移動させてのち、乾燥することが好ましい。乾燥時間が長いので、この移動により、基板に貼着状態のゲル膜を乾燥する間に次の製品製作のために、次のメッシュ状補強材を新たな基板を用いて上述の拘束手段により拘束して次の製品のためのゾル流延を開始することが可能となる。
【0036】
この拘束の解放は、網目を櫛歯などの拘束手段からはずすことにより行ってもよい。メッシュ状補強材の周縁部の拘束された部分を基板に貼着状態の(メッシュ状補強材が埋め込まれた)ゲル膜からカッターや鋏などで切り離すことにより行ってもよい。
【0037】
本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法は図1に示す生体吸収性組織インプラントの製造用治具60を用いて効率よく行うことができる。生体吸収性組織インプラントの製造用治具60は、基板10と、基板10を着脱自在に載置するベーステーブル64と、メッシュ状補強材40を拘束する拘束手段50を備えている。拘束手段50はベーステーブル64に列状に突出する櫛歯54から構成される。拘束により、メッシュ状補強材40の縁部の各網目に櫛歯54が1本ずつ挿入され各網目が拘束されて網目の間隔が整って均一になる。また、メッシュ状補強材40の網目構成糸の配列が整って、メッシュ状補強材40の縁の網目構成糸を縁の長手方向に沿って一直線状に連ねることができる。
【0038】
メッシュ状補強材40を基板10に敷置状態でベーステーブル64に拘束し、ゼラチンゾルを基板10上に所定の区域にわたって流延すると、矩形の形状の均整なゼラチンゾルの膜が基板10上に形成される。次いで、基板10上のゼラチンゾルがゲル化するまで放置し、櫛歯54からメッシュ状補強材40を、メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10ごとベーステーブル64から取り外す。
【0039】
次いで、メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10を、所定の場所で放置して、ゼラチンゲルを乾燥させ、メッシュ状補強材40が植え込まれた状態のゼラチンゲルの乾燥物を得る。この乾燥物は基板10から容易に剥がすことができる。剥がした乾燥物の縁部をトリミングしたのち、熱処理を行って熱架橋させ生体吸収性組織インプラントを得る。
【0040】
本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法は図2に示す生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aを用いてさらに確実かつ効率よく行うことができる。生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aはメッシュ状補強材40を拘束する拘束手段50aを備えている。拘束手段50aは図面視横方向の平面内で一巡する枠51からなる枠体52と、図3に示す形状の櫛歯54aが配された長尺の櫛状体56とから構成される。櫛状体56は棒状基部70と櫛歯54aの列からなり、櫛歯54aは棒状基部70から棒状基部70の長手方向に直交する方向に突出し櫛状体56の長手方向に列状に配されている。
【0041】
棒状基部70には位置決めピン59が設けられている。櫛状体56が製造用治具60aにセットされるとき、位置決めピン59が枠51に形成された位置決め孔61にゆるい嵌め合い状態で挿入され櫛状体56の位置が定まる。位置決めピンが枠51に設けられる態様であってもよい。あるいは棒状基部70、枠51に位置決め孔が設けられて単体の位置決めピンが両者にわたって挿入される態様であってもよい。
【0042】
櫛状体56は、棒状部材から切削加工等を施して製作してもよいが、櫛状部分として金属薄板を板金加工したものを用い、棒状部材に溶接して一体化してもよいし、皿ネジ等の締結手段で締結してもよい。
【0043】
メッシュ状補強材40の縁部の各網目に櫛歯54aが1本ずつ挿入され各網目が拘束されて網目の間隔が整って均一になる。また、メッシュ状補強材40の網目構成糸の配列が整って、メッシュ状補強材40の縁の網目構成糸を枠51の長手方向に平行に一直線状に連ねることができる。
【0044】
また、棒状基部70は櫛歯54aの突出方向と直交する載置面72を有する。載置面72は、メッシュ状補強材40の縁部41が枠51の(前記平面と平行な)図面視上面73に敷置され、その上に棒状基部70載置される。これにより、縁部41が枠51の上面73と棒状基部70の載置面72とで挟持されて枠51に固定される。
【0045】
縁部41が枠51に固定された状態では、櫛歯54aは枠体52の内側に向けて前記平面と直交方向に突出している。
【0046】
生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aは、さらに、基板10を備える。基板10は枠体52の枠内に前記平面と平行に配置される。基板10は枠体52の枠内に取り外し可能に配置される。縁部41が枠51に固定された状態で、基板10の図面視上面にメッシュ状補強材40が敷置された状態となる。図2の態様においては、縁部41が枠51に固定された状態で、基板10の側周縁74と、枠体52の内側周縁76との間に櫛歯54aが図面視下方に突出して突出方向を側周縁74の面及び内側周縁76の面と平行にして配されることになる。
【0047】
また、生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aはベーステーブル64aを備える。ベーステーブル64aは基体68と上げ底板67を含んでなる。枠体52と基板10は上げ底板67の上面に取り外し可能に載置固定される。基体68に基板10と同じ面積の上げ底板67が敷置されてネジ止めされている。基板10は上げ底板67に載置される。ベーステーブル64aは基板10の位置決めのため前記平面と直交方向に移動可能であってもよい。
【0048】
ベーステーブル64aは上げ底板67の上面で開口する吸引口66を備えることが好ましい。基板10をベーステーブル64aの上面に載置した状態で吸引口66を介して不図示の吸引装置により吸引することにより、基板10を上げ底板67の上面にかさばった部材を用いることなく確実に固定することができる。また、吸引を停止すると容易に基板10を上げ底板67への固定から簡単に開放することができる。この場合、吸引口66と吸引口66で開口し上げ底板67とベーステーブル64aの基体を貫通する吸引孔69と不図示の吸引装置とで基板10を上げ底板67に吸着して密着させる吸引手段80が構成される。
【0049】
生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aは、さらに、ゲル化促進のため基板10を冷却する冷却手段82を備えることができる。冷却手段82としてはとくに限定されないが、冷風を送風する空冷方式によるもの、ペルチエ素子を備えた冷却方式によるものが例示される。冷却はベーステーブル64aの冷却を介して行われることが好ましい。
【0050】
冷却手段82は上げ底板67に密接して取り付けてもよい。上げ底板67、基体68には、熱伝導率の高いアルミ材等を用いることが好ましい。
【0051】
基板10の図面視上面にメッシュ状補強材40が敷置された状態で、前記ゾルをメッシュ状補強材40が装着された状態の基板10上に流延して前記ゾルの膜が形成される。
【0052】
このために、図2に示すインプラントの製造用治具60を含む流延装置が好適に用いられる。流延装置は生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aと、メッシュ状補強材40が生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aに装着された状態の基板10上に前記ゾルを吐出する吐出ダイ92を有する吐出手段94と、前記ゾルの吐出時に、生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aと吐出ダイ92とを相対移動させて基板10上の吐出位置を移動させるようになした不図示の駆動手段を備える。駆動手段により、例えば吐出ダイ92を矢印X方向に移動させる。それとともに、駆動手段により吐出ダイ92を矢印Y方向に移動させることができるようにしておくことが好ましい。流延装置においては、生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aが移動する態様であってもよい。駆動手段はとしては公知の移動ステージなどが用いられる。
【0053】
吐出ダイ92は生体吸収性組織インプラントの幅に相当する長さの細長のノズル孔を有することが好ましい。小径の円形ノズル孔をライン状に配したものであってもよい。吐出ダイ92内に送り込まれたゾルを不図示のシリンジなどを備えた加圧手段で加圧してノズル孔より吐出させる。ゾルを吐出する吐出手段94が、吐出ダイ92と該加圧手段とで構成される。
【0054】
基板10上のゼラチンゾルの膜はゲル化するまで放置され、櫛歯54aからメッシュ状補強材40を、メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10ごとベーステーブル64aから取り外す。取り外しは、メッシュ状補強材40から櫛歯54aを抜いて櫛状体56を枠体52から撤去することにより簡単な操作で行うことができる。
【0055】
次いで、メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10を、所定の場所で放置してゼラチンゲルを乾燥させ、メッシュ状補強材40が植え込まれた状態のゼラチンゲルの乾燥物を得る。この乾燥物は基板10から容易に剥がすことができる。剥がした乾燥物の縁部をトリミングしたのち熱処理を行って熱架橋させ生体吸収性組織インプラントを得る。
【0056】
このように、本発明においては、生体吸収性組織インプラントの製造装置が、生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aと、吐出手段94とゲルを乾燥する乾燥機とを含んで構成される。
【0057】
なお、本発明においては、メッシュ状補強材40を生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aに装着する前に、網目形状を熱セットによりセットすることが、均整な網目構造のメッシュ状補強材を有する生体吸収性組織インプラント製品が得られて好ましい。
【0058】
この熱セットは、図4に示すような多数の突起102を形成した形状拘束用基盤100を用いて行うことができる。突起102は形状拘束用基盤100の面上に格子状に配列している。各突起102の幅はメッシュ状補強材の網目のサイズに対応し、各突起102をメッシュ状補強材の各網目開口に順次挿入して、挿入された状態で網目が突起102で拘束されて均整な網目構造が得られる。形状拘束用基盤100に装着されたメッシュ状補強材を装着状態で形状拘束用基盤100ごと加熱することにより網目構造が熱セットされ、均整な網目構造を有するメッシュ状補強材が得られる。熱セットの温度はメッシュ状補強材の構成糸の素材樹脂のガラス転移温度以上、融点未満である。
【0059】
実施例1
メッシュ状補強材として編み目ピッチ5mmのポリグリコール酸マルチフィラメント糸の経編み地を用いた。
【0060】
経編み地は図4に示すような形状拘束用基盤100を用いて網目の熱セットを行なった。突起102のピッチは5mmとし、隣り合う突起102同士の隙間間隔は0.5mmとした。基盤100に装着されたメッシュ状補強材40を120℃で3時間加熱処理して網目を熱セットした。
【0061】
網目を熱セットしたメッシュ状補強材を図2に示す生体吸収性組織インプラントの製造用治具60aに装着した。枠体52の外のりは縦370mm×横190mm、内のりは縦340mm×横160mmとし、メッシュ状補強材は縦350mm×横170mmにカットしたうえで、端から2つめの各網目に、対応の各櫛歯54aを挿入した。櫛歯54aの幅は3mm、厚みは0.8mmとした。
【0062】
基板10としてポリエチレンテレフタレートの樹脂板(水に対する接触角86.2度)を用い、サイズは縦330mm×横150mm×厚み3mmとし、枠体52の枠内に、メッシュ状補強材40の網目一つ分の隙間があくようにベーステーブル64aの上にネジ止めにより固定された上げ底板67の上面に設置した。基板10は枠体52の上面55と面一になるように設置された。
【0063】
吐出ダイ92を、基板10とノズル孔とのクリアランスが0.5mmになるようにセットし、濃度5重量%、温度37℃のゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から353mm/secの流量で押し出した。吐出ダイ92は125mmの長さの細長のノズル孔を有し、ノズル孔の長手方向を基板10の短辺と平行にして基板10の一方の短辺から17.5mm基板10の内側の位置にゼラチンゾルを5秒間流下させた。次いでノズル孔とのクリアランスが1.7mmになるよう吐出ダイ92を上方に0.24mm/secの速度で移動させ、次いでクリアランスが1.7mmの状態でベーステーブル64aを3mm/secで水平移動させつつ、ゼラチンゾルを1065mm/secの流量で押出し、基板10上に流下させた。ノズル孔が他方の短辺から17.5mm基板10の内側の位置の上方に達したときゼラチンゾルの吐出を停止した。
ゼラチンゾルは基板10上に流延し、略矩形の形状の均整なゼラチンゾルの膜が基板10上に形成された。
【0064】
次いで吐出ダイ92を上昇させ、基板10上のゼラチンゾルの膜がゲル化するまで放置し、その後櫛状体43、枠体52、メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10をこの順で取り外した。
【0065】
メッシュ状補強材40が埋め込まれたゼラチンゲルが敷置された状態の基板10を、この状態で室温(21℃)で2日間室内に放置して、ゼラチンゲルを乾燥させ、メッシュ状補強材40が植え込まれた状態のゼラチンゲルの乾燥物を得た。この乾燥物は基板10から容易に剥がすことができた。剥がした乾燥物は縁部をトリミングして、140℃で14時間熱処理を行って熱架橋させ、生体吸収性組織インプラントを得た。
【0066】
実施例2
基板10の素材を標準グレードのポリメチルメタアクリレート(樹脂板の水に対する接触角67.5度)としたほかは実施例1と同様にして生体吸収性組織インプラントを得た。ゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から基板10上に流下したとき、略矩形の形状の均整なゼラチンゾルの膜が基板10上に形成された。
【0067】
実施例3
基板10の素材を制電グレードのポリメチルメタアクリレート(樹脂板の水に対する接触角67.7度)としたほかは実施例1と同様にして生体吸収性組織インプラントを得た。ゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から基板10上に流下したとき、略矩形の形状の均整なゼラチンゾルの膜が基板10上に形成された。
【0068】
実施例4
基板10の素材をポリカーボネート(樹脂板の水に対する接触角80.4度)としたほかは実施例1と同様にして生体吸収性組織インプラントを得た。ゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から基板10上に流下したとき、略矩形の形状の均整なゼラチンゾルの膜が基板10上に形成された。
【0069】
比較例1
基板10として水に対する接触角が50度であるコロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレートの樹脂板を用いた他は実施例1と同様にして、ゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から基板10上に流下した。ゼラチンゾルは基板10上で過度に流延し、一部が基板10の縁部まで達して、ゼラチンゾルの膜の周縁形状は不規則であり、また、流延のため基板上に所定の厚さのゾルの膜を形成することが困難であった。次いで実施例1と同様な操作で乾燥物を得た。この乾燥物は表面にメッシュ状補強材による不規則な凹凸が見られた。
【0070】
比較例2
基板10として水に対する接触角が104.3度であるフッ素系樹脂板を用いた他は実施例1と同様にして、ゼラチンゾルを吐出手段94により吐出ダイ92から基板10上に流下した。ゼラチンゾルは基板10上に流延しにくく、ゼラチンゾルが特定の箇所で凝集し、ゼラチンゾルの膜の周縁形状は数か所で内側にへこんだ不規則なものであった。次いで実施例1と同様な操作で乾燥物を得た。乾燥時にゲル膜が反り返って基板10から自然に剥離した。このため、乾燥物の平面性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の生体吸収性組織インプラントの製造方法は生体吸収性組織インプラントの製造に好適に利用される。また、本発明の生体吸収性組織インプラントの製造用治具は、この生体吸収性組織インプラントの製造方法に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0072】
10:基板
40:メッシュ状補強材
50:拘束手段
51:枠
52:枠体
54:櫛歯
56:櫛状体
60、60a:生体吸収性組織インプラントの製造用治具
64:ベーステーブル
67:上げ底板
59:位置決めピン
61:位置決め孔
70:棒状基部
80:吸引手段
82:冷却手段
92:吐出ダイ
94:吐出手段
100:形状拘束用基盤
102:突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の面上に生体吸収性樹脂からなるメッシュ状補強材を敷置する敷置工程、
生体吸収性高分子のゾルを該メッシュ状補強材が敷置された該基板の面上に流延し、前記メッシュ状補強材が没入した状態の前記生体吸収性高分子のゾルの膜を形成する工程、
前記生体吸収性高分子のゾルの膜をゲル化させ、前記メッシュ状補強材が埋め込まれ前記基板に貼着状態のゲル膜を形成する工程、
メッシュ状補強材が埋め込まれた該ゲル膜を乾燥して乾燥物となす乾燥工程、
該乾燥物を前記基板から剥がす工程、
剥がされた前記乾燥物を加熱する加熱工程
を含み、
前記基板の面の、水に対する接触角が60°〜90°であることを特徴とする生体吸収性組織インプラントの製造方法。
【請求項2】
前記敷置工程が、前記メッシュ状補強材の網目形状が全体に均一になるように前記メッシュ状補強材の縁部を拘束手段により拘束してなされ、
前記乾燥工程が、前記メッシュ状補強材を、拘束された前記縁部を切り離し、または拘束から解放する工程を含み、次いで前記基板に貼着状態のゲル膜を前記基板とともに前記拘束手段から移動させたのち乾燥する工程である請求項1に記載の生体吸収性組織インプラントの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体吸収性組織インプラントの製造方法に用いられる治具であって、長尺の櫛状体と前記基板と該基板を着脱自在に載置するベーステーブルを含み、
前記メッシュ状補強材の網目の間隔を固定するように前記メッシュ状補強材の縁部の網目が前記櫛歯に挿入された状態で、前記メッシュ状補強材が前記基板の面上に敷置されるようになした生体吸収性組織インプラントの製造用治具。
【請求項4】
さらに、平面内で一巡する枠からなる枠体を含み、前記基板が前記枠体の枠内に前記平面と平行に配置位置から取り外し可能に配置され、前記櫛状体が前記枠に載置され前記櫛歯の突出方向と直交する載置面を有する棒状基部を有し、前記メッシュ状補強材の縁部の網目が前記櫛歯に挿入された状態で、前記櫛歯が突出方向を前記平面と直交させて前記枠体の内側で前記基体の周縁の外側に配されるとともに、前記載置面と前記枠とで前記メッシュ状補強材の縁部が挟持されるようになした請求項3に記載の生体吸収性組織インプラントの製造用治具。
【請求項5】
前記ベーステーブルに前記基板を吸着するための吸引手段が設けられた請求項4に記載の生体吸収性組織インプラントの製造用治具。
【請求項6】
前記基板を冷却する冷却手段を備える請求項3から5のいずれかに記載の生体吸収性組織インプラントの製造用治具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−264(P2011−264A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145197(P2009−145197)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】