生体情報解析装置
【課題】超音波診断により得られた受信信号などの生体情報から組織性状を表す特徴量を定量解析できるようにする。
【解決手段】走査面200上に関心領域202が設定され、関心領域202から複数のエコーデータ202Aが時系列データとして抽出される。各時系列データはシンボリックダイナミクス処理により記号化され、これによって複数の時系列データに対応する複数の記号データからなる記号データ列204が構成される。その特徴量抽出を行うことにより生体情報に対応する全体的特徴量を表す評価値206が得られる。記号化処理にあたってはリターンマップが形成され、それを評価するためにヒストグラム及びファジィ推論が用いられる。
【解決手段】走査面200上に関心領域202が設定され、関心領域202から複数のエコーデータ202Aが時系列データとして抽出される。各時系列データはシンボリックダイナミクス処理により記号化され、これによって複数の時系列データに対応する複数の記号データからなる記号データ列204が構成される。その特徴量抽出を行うことにより生体情報に対応する全体的特徴量を表す評価値206が得られる。記号化処理にあたってはリターンマップが形成され、それを評価するためにヒストグラム及びファジィ推論が用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体情報解析装置に関し、特に生体情報の特徴量を定量解析する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報としては、超音波診断により得られた受信信号、X線計測によって得られた計測信号、心電計から出力された心電信号などがある。生体情報をそのまま解析してそれを評価することも可能であるが、かかる解析では組織間における性状の違いを十分に識別することが困難な場合がある。そこで、組織の性状を適切に評価できるように、生体情報が有する特徴量を巧妙に抽出することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、時系列データを特徴的な変動単位ごとに分割して記号化し、それをデータの発生時間と共に蓄積し、これによりデータ検索の便宜を図った装置が開示されている。特許文献2には、生体情報を解析する装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−34719号公報
【特許文献2】特開2003−235813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば超音波診断などにより得られた受信信号などの大量のデータについて、より簡便に特徴量を求めることが要望されているが、従来における時間領域における相関分析あるいは多変量解析、周波数領域における解析などによっては、多数のデータで構成されるデータ集合それ自体をあるいはデータ集合間の違いを評価するのは難しい。
【0006】
本発明の目的は、生体情報について組織の性状の違いを顕著に表すことが可能な生体情報解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、前記記号データ列を解析することにより、前記生体情報について全体的特徴量を求める全体的特徴量演算手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、生体から生体情報が抽出される。特に望ましくは超音波の送受波により生体情報としてのエコーデータが取得される。そして、生体情報の全部又は一部を構成する複数の時系列データについて次のような処理がなされる。まず、各時系列データがその個別的特徴量に基づいて記号データに変換される。その場合、個別的特徴量が複数のパターンの中におけるいずれのパターンに該当するのかが判断される。つまり、各時系列データに対する分類化あるいは類型化の処理がなされる。ここで、記号データは各パターンを表す識別子、シンボルといったものに相当する。複数の時系列データ(の並び)に対応する複数の記号データ(の並び)により記号データ列が構成される。記号データ列は一次元のデータ列であるのが望ましいが、二次元あるいは三次元のデータ列であってもよい。記号データ列に対する解析により、それが有する特徴量(全体的特徴量)が求められ、それが生体情報の評価値となる。上記のパターン分類手法、各特徴量の抽出手法については、対象となる生体情報の性質に基づいて各種のものを用いることができる。
【0009】
上記構成によれば、各時系列データごとの個別的特徴量を総合考慮して生体情報の全体的特徴量を求めることができる。また、段階的な特徴量解析によって生体的情報が有する全体特徴量を簡便かつ適切に求めることができる。よって、例えば組織の性状の違いを顕著に識別できる評価値を得られる。
【0010】
望ましくは、前記記号データ変換手段は、前記複数の時系列データに基づいて複数のリターンマップを作成するリターンマップ作成手段と、前記複数のリターンマップから複数の記号データを生成する手段であって、前記各リターンマップにおける前記個別的特徴量としての点集合の分布状態を分類して前記記号データを生成するリターンマップ分類手段と、を含む。リターンマップとしては各種のものが知られているが、例えば、隣接する2つの値をそれぞれ2つの軸に当て嵌めて特定される座標に、当該2つの値の組合せを示す点をマッピングすることによってリターンマップを作成できる。リターンマップによれば、その基礎となった信号の特徴量を空間的分布として認識できる。その空間的分布を類型化する処理が実行される。
【0011】
望ましくは、前記記号データ変換手段は、更に、前記各時系列データを波形解析して各離散数列データに変換する前処理手段を含み、前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データから前記各リターンマップを作成する。例えば、時系列データがRF受信信号である場合、そのままの信号からリターンマップを作成することも可能ではあるが、時系列データの波形の特徴を抽出した上でそのリターンマップを作成するのが望ましい。望ましくは、前記前処理手段は、前記各時系列データについての極値抽出処理又はゼロクロス間隔抽出処理により前記各離散数列データを求める。
【0012】
望ましくは、前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データを構成する複数の値に基づいて所定座標系上に複数の点をマッピングすることにより前記各リターンマップを作成する。望ましくは、前記リターンマップ分類手段は、前記点集合を構成する各点について座標原点からの距離を演算する距離演算手段と、前記各点についての距離に基づいてヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、前記ヒストグラムを分析するヒストグラム分析手段と、複数のパターンの中から前記ヒストグラムの分析結果が該当するパターンを判定し、これにより前記記号データを得るパターン判定手段と、を含む。望ましくは、前記ヒストグラム分析手段は、前記ヒストグラムの形態に関して複数の分析値を求め、前記パターン判定手段は、前記複数の分析値に対応する複数のメンバーシップ関数を有するファジイ推論部として構成される。
【0013】
望ましくは、前記全体特徴量演算手段は、前記記号データ列の構成を分析して前記全体的特徴量を演算する。望ましくは、前記生体情報は、超音波の送受波によって生体内の一次元領域、二次元領域又は三次元領域から得られた情報である。望ましくは、前記超音波の送受波が行われる部位は肝臓であり、前記全体的特徴量は前記肝臓の線維化指数に相関する。
【0014】
また、本発明は、生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、前記各記号データを表示処理し、前記記号データ列を濃淡画像又はカラー画像に変換する表示変換手段と、を含むことを特徴とする。上記構成によれば、生体情報の全体的な特徴量を記号データ列を視覚的に表す画像として認識することが可能となる。その画像が濃淡画像である場合には濃淡分布(濃淡パターン)として、その画像がカラー画像である場合には色相分布(色相パターン)として、全体的特徴量を認識できる。但し、定量評価を行いたい場合には、記号データ列を解析して全体的特徴量を何らかの数値つまり評価値に変換するのが望ましい。濃淡画像を形成する場合には、それぞれの記号データ種別が特定の輝度に対応付けられ(輝度マッピング処理)、カラー画像を形成する場合には、それぞれの記号データ種別が特定の色相に対応付けられる(色相マッピング処理)。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、生体情報について組織の性状の違いを顕著に表すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、図12を用いて本実施形態の原理について説明する。符号200は超音波ビームの電子走査によって形成される走査面を表している。この走査面200はBモード画像としての二次元断層画像に相当する。ただし、本発明は一次元画像あるいは三次元画像に適用することもできる。また、本発明は特に超音波の受信信号に対して適用するのが望ましいが、他の生体情報に対して適用することも可能である。走査面200上には、図12に示す例において関心領域(ROI)202がユーザーによりあるいは自動的に設定される。関心領域202は解析対象となる生体情報を抽出するエリアに相当する。図12に示す例ではr方向の一定範囲として、且つ、θ方向の一定範囲として、関心領域202が設定されており、関心領域202は全体として略台形の形状をもった扇状領域である。ただし、関心領域202の形状はそれには限られず、矩形あるいは円形などであってもよい。また三次元の形状であってもよい。図12に示されるような関心領域202を設定すれば、その関心領域202が互いに同じ長さをもった複数のエコーデータ202Aの集合として構成され、そのような条件によれば後の処理が簡便となる。もちろん、走査面200の全体を解析対象とするようにしてもよい。
【0018】
各エコーデータ202Aは複数のデータの時系列として構成され、すなわちエコーデータ202Aは時系列データである。後述する本発明に係る超音波診断装置の実施形態においては、時系列データ202Aは超音波ビームの一部分に対応する受信信号(RF受信信号)である。各時系列データごとに後に詳述する記号化処理(シンボリック化処理)が実施される。すなわち、各時系列データに含まれる特徴量(個別的特徴量)が解析され、その特徴量が属する分類に対応した記号が与えられる。これによって1つの時系列データごとに一つの記号データが生成される。
【0019】
複数のエコーデータ202Aに対応する複数の記号データ204Aはそれらの並び全体として記号データ列204を構成する。ここで、複数の記号データ204Aの並びは図12に示す例において複数のエコーデータ202Aのθ方向の並びに対応する。
【0020】
記号データ列204に含まれる特徴量(全体的特徴量)が抽出され、その特徴量が評価値206とされる。そのような評価値206は、例えば肝臓などの生体組織の性状を評価する指標として用いることができ、後に説明する例においてはその評価値206の大小により肝臓についての線維化の程度を客観的に判断することが可能となる。すなわち、本実施形態においては、関心領域202に含まれる生体情報をそのまま解析する場合においては必ずしも明瞭とならない組織性状に関する固有の情報を、個別的な特徴量の抽出と全体的な特徴量の抽出の段階的な処理によって求めるものである。その際において、公知のシンボリック化の手法を基礎とし、更にそれを発展させている。上記のように、特に二次元画像あるいはそれに相当する情報に対する解析を行うのが望ましいが、三次元情報などを処理対象とすることももちろん可能である。図12に示す例においては例えば肝臓の二次元断層画像が取得され、関心領域202が肝臓内の注目する部分に設定され、その関心領域202によって画定される範囲内の情報が処理されることになる。なお、関心領域202から複数の時系列データを抽出する場合、任意の方向に沿ってデータ抽出処理を行うことができるが、超音波ビームに沿ってデータ抽出処理あるいはデータ切り出し処理を行えば簡便に演算を実行できるという利点がある。
【0021】
次に、図1に基づいて、本実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。この超音波診断装置は医療の分野において用いられ、例えば肝臓などの生体組織を画像化し、またその生体組織の性状を客観的に数値として評価するものである。
【0022】
プローブ10は超音波探触子であり、プローブ10によって超音波が送受波される。具体的には、プローブ10には複数の振動素子からなるアレイ振動子が設けられている。そのアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査などが周知である。アレイ振動子は1Dアレイ振動子であってもよいし、2Dアレイ振動子などであってもよい。図1には、プローブ10により生体組織11に対して超音波の送受波が行われている様子が示されている。このプローブ10は、生体の表面上に当接して用いられ、あるいは、生体の体腔内に挿入して用いられる。生体組織11は例えば肝臓である。
【0023】
送受信部12は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送受信部12はアレイ振動子に対して複数の送信信号を供給する。これによりアレイ振動子において送信ビームが形成される。一方、アレイ振動子から出力される複数の受信信号は送受信部12に入力され、それらの複数の受信信号に対する整相加算処理が実行される。これによって電子的に受信ビームが形成されることになる。ちなみに、超音波ビームは、一般に、送信ビームと受信ビームとを合成したものとして認識される。なお、1送信ビーム当たり複数の受信ビームを同時に形成する技術などを適用することも可能である。
【0024】
送受信部12から出力される整相加算後の受信信号(RF受信信号)は断層画像処理部14に出力される他、本実施形態においては切替器18を介してシンボリックダイナミクス処理部22に入力される。まず、断層画像の形成について説明すると、断層画像処理部14は、検波器、対数圧縮器、ノイズ処理回路、座標変換回路、補間回路などのモジュールを有し、入力される受信信号に基づいてBモード断層画像を形成する。断層画像処理部14は本実施形態においていわゆるDSC(デジタルスキャンコンバータ)を具備している。もちろん、受信信号に基づいて二次元血流画像や他の画像を形成する回路を設けるようにしてもよい。断層画像処理部14から出力される画像データは表示処理部16に出力される。この表示処理部16については後に詳述するが、表示処理部16は、断層画像と共に、以下に説明する方法によって演算される全体的特徴量としての評価値を表示させる機能などを有している。表示処理部16には表示部26が接続されている。
【0025】
一方、送受信部12から出力される受信信号は、切替器18を介してシンボリックダイナミクス処理部22に入力される。切替器18は図1において概念的に示されているように、入力される受信信号をa端子又はb端子へ出力する。ここで、走査面全体を処理対象とする場合、切替器18は受信信号をa端子を介してシンボリックダイナミクス処理部22へ出力する。この場合、各受信ビームごとに得られた受信信号がそれぞれ時系列データとしてシンボリックダイナミクス処理部22に入力されることになる。一方、走査面上に関心領域が設定される場合、切替器18は関心領域内のデータを切り出すために、入力される受信信号をb端子を介して分割処理部20へ出力する。分割処理部20は、本実施形態において1つの受信信号中における関心領域に相当する部分の信号を切り出し、その部分的な信号をシンボリックダイナミクス処理部22へ出力する。この場合、その切り出された各部分がそれぞれ時系列データに相当する。
【0026】
シンボリックダイナミクス処理部22は、順次入力される各時系列データごとに、図12を用いて説明したように、記号データへの変換を実行し、更にその集合あるいはその全体的な並びとしての記号データ列を構成した上でその特徴量を求めることにより、評価値を演算する。これについては後に図2などを用いて詳述する。演算された評価値すなわち全体的特徴量は表示処理部16に送られる。表示処理部16は、断層画像の表示にあたって上記の関心領域が設定されている場合にはその関心領域を示す枠をグラフィック画像として超音波画像上に合成すると共に、超音波画像に隣接して評価値を数値データとして合成する。この場合、走査面上において複数の関心領域が設定され、各関心領域ごとに評価値が求められるならば、それぞれの評価値を例えば色相に対応付けて断層画像上に重ねて表示することも可能である。表示部26には表示処理部16によって生成されたあるいは合成処理された画像が表示されることになる。
【0027】
操作パネル24はキーボードやトラックボールなどを有し、操作パネル24を用いてユーザーが処理条件を設定したり関心領域を設定したりすることができる。なお、図1に示したシンボリックダイナミクス処理部22はCPU上で動作するプログラムとして構成されるのが望ましい。例えば、既存の超音波診断装置からRF受信信号を取り出してパーソナルコンピュータに取込み、そのパーソナルコンピュータ上においてシンボリックダイナミクス処理を実行し、その実行結果をパーソナルコンピュータ上の表示器に表示することもできるし、その処理結果を超音波診断装置側に返して超音波画像と一緒に表示することも可能である。
【0028】
図2には、図1に示したシンボリックダイナミクス処理部22の具体的な構成例が示されている。時系列データ入力部30には上述した各時系列データが順次入力される。各時系列データは、超音波ビーム1本分の受信信号に相当し、あるいは、超音波ビーム1本の中から部分的に抽出された信号部分に相当する。各時系列データはパターン分類処理部32に入力される。
【0029】
パターン分類処理部32の具体的な構成については後に図3を用いて説明するが、本実施形態において、パターン分類処理部32は、各時系列データごとにそれを離散数列データに変換した上で、リターンマップを構成し、ファジィ推論を用いてリターンマップにおける点集合の分布を評価することにより、最終的に各離散数列データごとにそれに対応する記号データを得ている。
【0030】
記号列構築部34は、各時系列データごとに生成される記号データを揃えることにより記号データ列を構築する。その処理内容については後に図8及び図9などを用いて説明する。特徴量抽出部36は、後に図10などを用いて説明するように記号データ列に含まれる特徴量(全体的特徴量)を解析する。その全体的特徴量は評価値として解析結果出力部38を経て表示処理部16へ出力される。なお、記号データ列を構成する各記号データに対して輝度あるいは色相などを与えることにより記号データ列をグラフィカルに表現して白黒濃淡画像又はカラー画像を画面上に表示させることも可能である。これについては後に図8及び図9などを用いて説明する。
【0031】
図3には、図2に示したパターン分類処理部32の具体的な構成例が示されている。離散数列処理部40は、後に図4を用いて説明するように、入力される時系列データをその特徴量が反映されるように離散数列データに変換する前処理を実行する。リターンマップ構築部42は離散数列データに基づいて所定の座標系上にマッピング処理を行うことによりリターンマップを構成する。ファジィ推論部44は後に図5乃至図7などを用いて説明するように、リターンマップを解析することによって得られる複数の分析値あるいは特徴量に基づいて、リターンマップをいずれかのパターンに分類する。そのような分類処理によってパターンが判定されると、そのパターンに対応する記号データが決定される。その処理は記号化処理部46において行われる。
【0032】
次に、図2乃至図3に示した各構成の作用をより詳細に説明することにする。
【0033】
図4において、(A)には時系列データ100が示されている。上述したように、この時系列データ100は本実施形態においてRF受信信号である。この時系列データ100ごとに上述したように前処理として離散数列データが生成される。その場合、時系列データ100におけるそれぞれの極値あるいはそれぞれのゼロクロス点間隔などの特徴量が参照される。(A)には符号102として極値の並びが表されている。RF受信信号そのものから後述するリターンマップを生成すると、RF受信信号に含まれている特徴量を顕著に表すことができなくなるが、このような手法によればRF受信信号の特徴を極めて明瞭に二次元分布表示として再構成することができる。
【0034】
ここで、離散数列データ{X1,X2,X3,・・・Xi,Xi+1,・・・}に対して最小値Xminが0となるように規格化処理が実行される。すなわち、各離散数列データをマッピングするのに先立って、それぞれの特徴量を相互比較するために座標系を合わせる処理が実行される。
【0035】
図4における(B)にはリターンマップ104の一例が示されている。本実施形態において、リターンマップ104は、離散数列データにおける時間的に隣接する2つの値Xi及びXi+1の組に相当する座標に、点をプロットしたマップである。すなわち、離散数列データにおける隣接する2つの値(ペア)ごとに点のマッピングが行われることになる。そのようなマッピングを行うと、リターンマップ104上において点集合が生体組織の性状に応じて固有の分布をもって広がることが確認されている。ただし、視覚的にはそのような点集合の広がりの傾向を認識あるいは識別することは可能であるが、そのままでは定量化を行うことができない。このため、以下に説明するように、図3に示したファジィ推論部44においてリターンマップの内容についての解析が行われる。
【0036】
図3のファジィ推論部44は、リターンマップを解析してヒストグラムを作成する機能、そのヒストグラムを分析して分散やピーク値などを求める機能、それらの情報からファジィ推論によってリターンマップあるいはヒストグラムが属する分類を判定する機能、その判定された分類に対応する記号データを生成する機能、などを有している。以下にその具体的な内容について詳述する。
【0037】
リターンマップ上における点集合の分布度合いをパターン分類するために、まずリターンマップ上において、各点について座標原点からの距離が求められ、各点についての距離を表したヒストグラムが作成される。これについては後に図5の(C)を用いてその具体例を示す。
【0038】
ヒストグラムについてはまず分散が計算される。ここで、リターンマップ上における各点について求められる距離をri(i=1〜n:nはデータ数)とし、距離の平均をバー付きrとしたとき、分散σは、次のように定義される。
【数1】
【0039】
また、ヒストグラムについては、それ全体として見た場合に一定のピークがいくつあるのかが探知される。そして、必要に応じてピーク値が求められる。ここで、本実施形態においては、ヒストグラムにおける横軸に沿って、原点側からヒストグラムの値を順次参照した場合において、過去に求められたピークのピーク値よりも現在求められたピークのピーク値が小さい場合には、過去に求められたピークのピーク値を無効とし、現在求められているピークのピーク値を有効としている。すなわち、原点からの距離が遠い方におけるピークに注目し、そのピーク値をファジィ推論において利用するようにしている。
【0040】
以上のように、各リターンマップつまり各ヒストグラムごとに分散及びピークの個数などが特定されると、以下に示す3つのメンバーシップ関数を用いて、それぞれのメンバーシップ値μS,μL,μTが求められる。
【0041】
ヒストグラムにおけるピークの個数が1つであり、分散が小である場合には、次のような第1のメンバシップ関数が適用される。
【数2】
【0042】
上記においてαはメンバシップ関数の傾きを決める係数であり、Aは傾きの変極点を示し、Zはそれぞれのデータの分散を示している。RF受信信号については例えばα=0.15であり、A=50である。
【0043】
また、ヒストグラムにおけるピークの個数が1つであり、分散が大である場合には以下に示す第2メンバシップ関数が用いられる。
【数3】
【0044】
上記においてβはメンバシップ関数の傾きを決める係数であり、Bは傾きの変極点を示し、Zはそれぞれのデータの分散を示している。RF受信信号について例えばβ=0.15であり、B=50である。
【0045】
また、ヒストグラムにおけるピークの個数が2つ(あるいはそれ以上)の場合には、次のような表1にしたがったメンバシップ関数が定義される。
【表1】
【0046】
ただし、ピーク値は上述したように定められる。3つのメンバシップ関数の適用にあたっては、本実施形態においては第1メンバシップ関数を最初に適用して、必要に応じて、それ以外の2つのメンバシップ関数が適用される。
【0047】
図5には、上述した3つのメンバシップ関数が(A)〜(C)に示されている。第1メンバシップ関数(A)と第2メンバシップ関数(B)は互いに反転した関係を有し、一方を他方で代用することも可能である。
【0048】
以上のように各メンバシップ値が求められると、次の条件にしたがって、ヒストグラムがタイプA〜タイプDのいずれかのタイプに分類されることになる。
【表2】
【0049】
図6には、上記の条件が示されており、ここにおいては(A)に条件1が示され、(B)に条件2が示されており、上述したように条件1が最初に判定されることになる。
【0050】
以上のように、ファジィ推論を利用し、各ヒストグラムをその特徴にしたがっていずれかのパターンに分類することが可能であり、パターンAに分類された場合には分析対象となっているリターンマップすなわち分析対象となっている時系列データについて記号Aが与えられ、以下同様にタイプBが判定された場合には記号Bが与えられ、タイプCが判定された場合には記号Cが与えられ、タイプDが判定された場合には記号Dが与えられる。その記号の付与は図3に示した記号化処理部46によって行われ、与えられた記号を表す記号データが記号化処理部46から出力される。
【0051】
本実施形態においては、上記のような条件にしたがってリターンマップにおける点集合の分布状態を複数のパターンに分類したが、分類化の手法は上記のものには限られず、リターンマップ上に反映される組織の性状に対応した分布状態に応じて適切な分類すなわちシンボリック化が行われるように分類条件を適宜定めるのが望ましい。例えば、評価対象となる生体組織の種類に応じて、あるいは、送受信条件に応じて、上記の条件を修正するようにしてもよい。
【0052】
ここまでの流れを図7を用いて整理すると、(A)に示されるように、複数の時系列データから、(B)に示されるように、複数のリターンマップが生成され、更に各リターンマップに対応して、(C)に示すように、複数のヒストグラムが作成されることになる。そして、各ヒストグラムについてその特徴を表す複数の特徴量を得て、それらに対するファジィ推論により(D)に示すように各時系列データごとにその特徴量(個別的特徴量)を表す記号(すなわちパターン)が判定されることになる。なお、図7に示す内容は発明を説明するための一例である。
【0053】
図2において、記号列構築部34は、前段のパターン分離処理部32から順次出力される記号データを揃えることにより記号データ列を構築する。ここで、それぞれの記号に対して所定の色相や輝度を与えることにより、記号データ列を表すカラーパターンあるいはグレースケールパターンを生成することができる。
【0054】
図8における(A)には記号列が表されており、ここで記号Aに赤を割り当て、記号Bに緑を割り当て、記号Cに青を割り当て、記号Dに白を割り当てたカラーパターンが(B)に表されている。また、記号Aに濃灰色を割り当て、記号Bに薄灰色を割り当て、記号Cに黒色を割り当て、記号Dに白色を割り当てた場合におけるグレースケールパターンが(C)で表されている。なお、記号としてDが一般に発生しないのであれば、記号Dを分類化の対象から除外するようにしてもよい。
【0055】
図9には、様々な記号列に対応するカラーパターンが示されている。ここで(A)及び(B)には肝臓についての健常例のカラーパターンが示されている。(C)及び(D)には肝臓について慢性肝炎を発症している場合におけるカラーパターンが示されている。図示されるように、明かに健常例と疾患例とではカラーパターンが異なっており、例えばそのようなカラーパターンを表示し、あるいは対比表示することにより疾病診断を視覚的に行うことも可能である。ただし、視覚的判断の場合、定量化が困難であるため、本実施形態においては記号列あるいは上述したカラーパターンなどを定量分析するようにしている。その処理を行うのが図2に示した特徴量抽出部である。これについて図10を用いて説明する。
【0056】
図10において、(a)にはカラーパターンが示されており、このようなカラーパターンあるいは記号列については各種の特徴量抽出方法を適用することができる。それらの例が(b)〜(h)に示されている。
【0057】
(b)には(a)に示したカラーパターンにおける各色の頻度分布が示されている。各頻度の値を数値で表現することもできる。(c)には(a)に示したカラーパターンにおける各色ごとの最も長い列部分が抽出されている。それぞれの色ごとにその列の長さを数値で求めることもできる。(d)には(a)に示したカラーパターンにおける各色の帯の平均長さが示されている。すなわち色の連続性に着目したものであり、それぞれの長さについては数値表現することができる。
【0058】
(e)〜(g)においては(a)に示したカラーパターンにおける各色ごとの各部分調ごとの頻度分布すなわちヒストグラムが示されている。例えば図示の例では(e)に示されるように赤について広がりが認められる。(h)には(a)に示したカラーパターンにおける隣接する帯間における色の変化の頻度分布が示されている。すなわち、記号Aから記号Bへの移行、記号Dから記号Cへの移行、記号Cから記号Aへの移行などのそれぞれの色変化ごとに頻度が計数されている。
【0059】
以上説明した特徴量の抽出方法はもちろん一例であって、様々な手法を適用することができる。簡便には、例えば緑の割合すなわち記号列上におけるBの量を定量化し、それを全体的特徴量として用いることもできる。
【0060】
図11における横軸は線維化指数を表している。図11における縦軸は記号列全体における緑の量すなわち記号Bの割合を示している。ただし、縦軸に示されている数値は相対的な値に過ぎないものである。図11に示されるグラフから理解できるように、緑の割合と線維化指数との間に一定の相関関係が認められる。ちなみに図11におけるグラフにおける各点は実際の患者のデータを表しており、ここで線維化指数は肝臓の生検、つまり組織採取を行うことにより実際に特定されたものであり、緑の割合は上記のような手法を用いて超音波診断によって得られたものである。したがって、図11に示すような相関関係を利用すれば、ある患者について緑割合が評価値として求められた場合、その評価値からその患者の肝臓についての線維化指数を数値として特定することが可能である。つまり、生体情報の全体的特徴量として緑割合あるいはそれ以外の情報を表示し、あるいはそれに代えてまたはそれに併せて図11に示すような評価値としての線維化指数を表示することにより、患者の診断に有益な情報を提供できるという利点がある。
【0061】
本実施形態によれば、例えばBモード断層画像上においては認識困難な組織の性状あるいは定量観察が難しい組織の性状について段階的な特徴量抽出の手法を利用して最終的に生体組織の性状を表す評価値を得ることが可能であり、生体組織の性状を定量的に分析するための情報を得られるという利点がある。したがって、そのような情報を利用すれば生体における組織の疾患をより適切に判断することが可能となり、医療における有益なる効果を期待できる。
【0062】
上記の実施形態においては生体における肝臓の例を取り上げたが、他の組織を処理対象とすることももちろん可能である。例えば腫瘍について良性あるいは悪性を判断するための評価値を得るようにすることもでき、また、血流などを対象とすることも可能と思われる。
【0063】
上記実施形態においては最終的に全体的特徴量として数値あるいはそれに相当する情報が画像表示されているが、上述したように、図8や図9に示したようなカラーパターンやグレースケールパターンをそのまま画面上に表示することも可能であり、そのような表示においても組織性状を認識することが可能である。その場合においては、上記実施形態においては一次元の記号列に対応する一次元のグラフィックパターンを表示していたが、二次元断層画像における各部分に対応する色付けあるいは輝度表現などを採用することも可能であり、それ以外にも各種の表現方法を採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る生体情報解析装置としての超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すシンボリックダイナミクス処理部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示すパターン分類処理部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図4】時系列データとリターンマップとの関係を示す説明図である。
【図5】ファジィ推論で用いられる3つのメンバシップ関数を示す図である。
【図6】ファジィ推論で用いられる2つの条件とパターンとの関係を示す図である。
【図7】本実施形態に係るパターン分類処理の流れを説明するための説明図である。
【図8】記号列とそれに対応するカラーパターン及びグレースケールパターンを示す説明図である。
【図9】健常例と疾患例のカラーパターンを示す図である。
【図10】カラーパターンから特徴量を抽出するための評価方法を説明するための図である。
【図11】カラーパターンにおける緑割合と線維化指数との相関関係を示すグラフである。
【図12】実施形態に係る原理を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0065】
10 プローブ、12 送受信部、16 表示処理部、18 切替器、20 分割処理部、22 シンボリックダイナミクス処理部、30 時系列データ入力部、32 パターン分類処理部、34 記号列構築部、36 特徴量抽出部、38 解析結果出力部、40 離散数列処理部、42 リターンマップ構築部、44 ファジィ推論部、46 記号化処理部、100 時系列データ、102 極値の並び、104 リターンマップ。
【技術分野】
【0001】
本発明は生体情報解析装置に関し、特に生体情報の特徴量を定量解析する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報としては、超音波診断により得られた受信信号、X線計測によって得られた計測信号、心電計から出力された心電信号などがある。生体情報をそのまま解析してそれを評価することも可能であるが、かかる解析では組織間における性状の違いを十分に識別することが困難な場合がある。そこで、組織の性状を適切に評価できるように、生体情報が有する特徴量を巧妙に抽出することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、時系列データを特徴的な変動単位ごとに分割して記号化し、それをデータの発生時間と共に蓄積し、これによりデータ検索の便宜を図った装置が開示されている。特許文献2には、生体情報を解析する装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−34719号公報
【特許文献2】特開2003−235813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば超音波診断などにより得られた受信信号などの大量のデータについて、より簡便に特徴量を求めることが要望されているが、従来における時間領域における相関分析あるいは多変量解析、周波数領域における解析などによっては、多数のデータで構成されるデータ集合それ自体をあるいはデータ集合間の違いを評価するのは難しい。
【0006】
本発明の目的は、生体情報について組織の性状の違いを顕著に表すことが可能な生体情報解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、前記記号データ列を解析することにより、前記生体情報について全体的特徴量を求める全体的特徴量演算手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、生体から生体情報が抽出される。特に望ましくは超音波の送受波により生体情報としてのエコーデータが取得される。そして、生体情報の全部又は一部を構成する複数の時系列データについて次のような処理がなされる。まず、各時系列データがその個別的特徴量に基づいて記号データに変換される。その場合、個別的特徴量が複数のパターンの中におけるいずれのパターンに該当するのかが判断される。つまり、各時系列データに対する分類化あるいは類型化の処理がなされる。ここで、記号データは各パターンを表す識別子、シンボルといったものに相当する。複数の時系列データ(の並び)に対応する複数の記号データ(の並び)により記号データ列が構成される。記号データ列は一次元のデータ列であるのが望ましいが、二次元あるいは三次元のデータ列であってもよい。記号データ列に対する解析により、それが有する特徴量(全体的特徴量)が求められ、それが生体情報の評価値となる。上記のパターン分類手法、各特徴量の抽出手法については、対象となる生体情報の性質に基づいて各種のものを用いることができる。
【0009】
上記構成によれば、各時系列データごとの個別的特徴量を総合考慮して生体情報の全体的特徴量を求めることができる。また、段階的な特徴量解析によって生体的情報が有する全体特徴量を簡便かつ適切に求めることができる。よって、例えば組織の性状の違いを顕著に識別できる評価値を得られる。
【0010】
望ましくは、前記記号データ変換手段は、前記複数の時系列データに基づいて複数のリターンマップを作成するリターンマップ作成手段と、前記複数のリターンマップから複数の記号データを生成する手段であって、前記各リターンマップにおける前記個別的特徴量としての点集合の分布状態を分類して前記記号データを生成するリターンマップ分類手段と、を含む。リターンマップとしては各種のものが知られているが、例えば、隣接する2つの値をそれぞれ2つの軸に当て嵌めて特定される座標に、当該2つの値の組合せを示す点をマッピングすることによってリターンマップを作成できる。リターンマップによれば、その基礎となった信号の特徴量を空間的分布として認識できる。その空間的分布を類型化する処理が実行される。
【0011】
望ましくは、前記記号データ変換手段は、更に、前記各時系列データを波形解析して各離散数列データに変換する前処理手段を含み、前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データから前記各リターンマップを作成する。例えば、時系列データがRF受信信号である場合、そのままの信号からリターンマップを作成することも可能ではあるが、時系列データの波形の特徴を抽出した上でそのリターンマップを作成するのが望ましい。望ましくは、前記前処理手段は、前記各時系列データについての極値抽出処理又はゼロクロス間隔抽出処理により前記各離散数列データを求める。
【0012】
望ましくは、前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データを構成する複数の値に基づいて所定座標系上に複数の点をマッピングすることにより前記各リターンマップを作成する。望ましくは、前記リターンマップ分類手段は、前記点集合を構成する各点について座標原点からの距離を演算する距離演算手段と、前記各点についての距離に基づいてヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、前記ヒストグラムを分析するヒストグラム分析手段と、複数のパターンの中から前記ヒストグラムの分析結果が該当するパターンを判定し、これにより前記記号データを得るパターン判定手段と、を含む。望ましくは、前記ヒストグラム分析手段は、前記ヒストグラムの形態に関して複数の分析値を求め、前記パターン判定手段は、前記複数の分析値に対応する複数のメンバーシップ関数を有するファジイ推論部として構成される。
【0013】
望ましくは、前記全体特徴量演算手段は、前記記号データ列の構成を分析して前記全体的特徴量を演算する。望ましくは、前記生体情報は、超音波の送受波によって生体内の一次元領域、二次元領域又は三次元領域から得られた情報である。望ましくは、前記超音波の送受波が行われる部位は肝臓であり、前記全体的特徴量は前記肝臓の線維化指数に相関する。
【0014】
また、本発明は、生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、前記各記号データを表示処理し、前記記号データ列を濃淡画像又はカラー画像に変換する表示変換手段と、を含むことを特徴とする。上記構成によれば、生体情報の全体的な特徴量を記号データ列を視覚的に表す画像として認識することが可能となる。その画像が濃淡画像である場合には濃淡分布(濃淡パターン)として、その画像がカラー画像である場合には色相分布(色相パターン)として、全体的特徴量を認識できる。但し、定量評価を行いたい場合には、記号データ列を解析して全体的特徴量を何らかの数値つまり評価値に変換するのが望ましい。濃淡画像を形成する場合には、それぞれの記号データ種別が特定の輝度に対応付けられ(輝度マッピング処理)、カラー画像を形成する場合には、それぞれの記号データ種別が特定の色相に対応付けられる(色相マッピング処理)。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、生体情報について組織の性状の違いを顕著に表すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、図12を用いて本実施形態の原理について説明する。符号200は超音波ビームの電子走査によって形成される走査面を表している。この走査面200はBモード画像としての二次元断層画像に相当する。ただし、本発明は一次元画像あるいは三次元画像に適用することもできる。また、本発明は特に超音波の受信信号に対して適用するのが望ましいが、他の生体情報に対して適用することも可能である。走査面200上には、図12に示す例において関心領域(ROI)202がユーザーによりあるいは自動的に設定される。関心領域202は解析対象となる生体情報を抽出するエリアに相当する。図12に示す例ではr方向の一定範囲として、且つ、θ方向の一定範囲として、関心領域202が設定されており、関心領域202は全体として略台形の形状をもった扇状領域である。ただし、関心領域202の形状はそれには限られず、矩形あるいは円形などであってもよい。また三次元の形状であってもよい。図12に示されるような関心領域202を設定すれば、その関心領域202が互いに同じ長さをもった複数のエコーデータ202Aの集合として構成され、そのような条件によれば後の処理が簡便となる。もちろん、走査面200の全体を解析対象とするようにしてもよい。
【0018】
各エコーデータ202Aは複数のデータの時系列として構成され、すなわちエコーデータ202Aは時系列データである。後述する本発明に係る超音波診断装置の実施形態においては、時系列データ202Aは超音波ビームの一部分に対応する受信信号(RF受信信号)である。各時系列データごとに後に詳述する記号化処理(シンボリック化処理)が実施される。すなわち、各時系列データに含まれる特徴量(個別的特徴量)が解析され、その特徴量が属する分類に対応した記号が与えられる。これによって1つの時系列データごとに一つの記号データが生成される。
【0019】
複数のエコーデータ202Aに対応する複数の記号データ204Aはそれらの並び全体として記号データ列204を構成する。ここで、複数の記号データ204Aの並びは図12に示す例において複数のエコーデータ202Aのθ方向の並びに対応する。
【0020】
記号データ列204に含まれる特徴量(全体的特徴量)が抽出され、その特徴量が評価値206とされる。そのような評価値206は、例えば肝臓などの生体組織の性状を評価する指標として用いることができ、後に説明する例においてはその評価値206の大小により肝臓についての線維化の程度を客観的に判断することが可能となる。すなわち、本実施形態においては、関心領域202に含まれる生体情報をそのまま解析する場合においては必ずしも明瞭とならない組織性状に関する固有の情報を、個別的な特徴量の抽出と全体的な特徴量の抽出の段階的な処理によって求めるものである。その際において、公知のシンボリック化の手法を基礎とし、更にそれを発展させている。上記のように、特に二次元画像あるいはそれに相当する情報に対する解析を行うのが望ましいが、三次元情報などを処理対象とすることももちろん可能である。図12に示す例においては例えば肝臓の二次元断層画像が取得され、関心領域202が肝臓内の注目する部分に設定され、その関心領域202によって画定される範囲内の情報が処理されることになる。なお、関心領域202から複数の時系列データを抽出する場合、任意の方向に沿ってデータ抽出処理を行うことができるが、超音波ビームに沿ってデータ抽出処理あるいはデータ切り出し処理を行えば簡便に演算を実行できるという利点がある。
【0021】
次に、図1に基づいて、本実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。この超音波診断装置は医療の分野において用いられ、例えば肝臓などの生体組織を画像化し、またその生体組織の性状を客観的に数値として評価するものである。
【0022】
プローブ10は超音波探触子であり、プローブ10によって超音波が送受波される。具体的には、プローブ10には複数の振動素子からなるアレイ振動子が設けられている。そのアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査などが周知である。アレイ振動子は1Dアレイ振動子であってもよいし、2Dアレイ振動子などであってもよい。図1には、プローブ10により生体組織11に対して超音波の送受波が行われている様子が示されている。このプローブ10は、生体の表面上に当接して用いられ、あるいは、生体の体腔内に挿入して用いられる。生体組織11は例えば肝臓である。
【0023】
送受信部12は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送受信部12はアレイ振動子に対して複数の送信信号を供給する。これによりアレイ振動子において送信ビームが形成される。一方、アレイ振動子から出力される複数の受信信号は送受信部12に入力され、それらの複数の受信信号に対する整相加算処理が実行される。これによって電子的に受信ビームが形成されることになる。ちなみに、超音波ビームは、一般に、送信ビームと受信ビームとを合成したものとして認識される。なお、1送信ビーム当たり複数の受信ビームを同時に形成する技術などを適用することも可能である。
【0024】
送受信部12から出力される整相加算後の受信信号(RF受信信号)は断層画像処理部14に出力される他、本実施形態においては切替器18を介してシンボリックダイナミクス処理部22に入力される。まず、断層画像の形成について説明すると、断層画像処理部14は、検波器、対数圧縮器、ノイズ処理回路、座標変換回路、補間回路などのモジュールを有し、入力される受信信号に基づいてBモード断層画像を形成する。断層画像処理部14は本実施形態においていわゆるDSC(デジタルスキャンコンバータ)を具備している。もちろん、受信信号に基づいて二次元血流画像や他の画像を形成する回路を設けるようにしてもよい。断層画像処理部14から出力される画像データは表示処理部16に出力される。この表示処理部16については後に詳述するが、表示処理部16は、断層画像と共に、以下に説明する方法によって演算される全体的特徴量としての評価値を表示させる機能などを有している。表示処理部16には表示部26が接続されている。
【0025】
一方、送受信部12から出力される受信信号は、切替器18を介してシンボリックダイナミクス処理部22に入力される。切替器18は図1において概念的に示されているように、入力される受信信号をa端子又はb端子へ出力する。ここで、走査面全体を処理対象とする場合、切替器18は受信信号をa端子を介してシンボリックダイナミクス処理部22へ出力する。この場合、各受信ビームごとに得られた受信信号がそれぞれ時系列データとしてシンボリックダイナミクス処理部22に入力されることになる。一方、走査面上に関心領域が設定される場合、切替器18は関心領域内のデータを切り出すために、入力される受信信号をb端子を介して分割処理部20へ出力する。分割処理部20は、本実施形態において1つの受信信号中における関心領域に相当する部分の信号を切り出し、その部分的な信号をシンボリックダイナミクス処理部22へ出力する。この場合、その切り出された各部分がそれぞれ時系列データに相当する。
【0026】
シンボリックダイナミクス処理部22は、順次入力される各時系列データごとに、図12を用いて説明したように、記号データへの変換を実行し、更にその集合あるいはその全体的な並びとしての記号データ列を構成した上でその特徴量を求めることにより、評価値を演算する。これについては後に図2などを用いて詳述する。演算された評価値すなわち全体的特徴量は表示処理部16に送られる。表示処理部16は、断層画像の表示にあたって上記の関心領域が設定されている場合にはその関心領域を示す枠をグラフィック画像として超音波画像上に合成すると共に、超音波画像に隣接して評価値を数値データとして合成する。この場合、走査面上において複数の関心領域が設定され、各関心領域ごとに評価値が求められるならば、それぞれの評価値を例えば色相に対応付けて断層画像上に重ねて表示することも可能である。表示部26には表示処理部16によって生成されたあるいは合成処理された画像が表示されることになる。
【0027】
操作パネル24はキーボードやトラックボールなどを有し、操作パネル24を用いてユーザーが処理条件を設定したり関心領域を設定したりすることができる。なお、図1に示したシンボリックダイナミクス処理部22はCPU上で動作するプログラムとして構成されるのが望ましい。例えば、既存の超音波診断装置からRF受信信号を取り出してパーソナルコンピュータに取込み、そのパーソナルコンピュータ上においてシンボリックダイナミクス処理を実行し、その実行結果をパーソナルコンピュータ上の表示器に表示することもできるし、その処理結果を超音波診断装置側に返して超音波画像と一緒に表示することも可能である。
【0028】
図2には、図1に示したシンボリックダイナミクス処理部22の具体的な構成例が示されている。時系列データ入力部30には上述した各時系列データが順次入力される。各時系列データは、超音波ビーム1本分の受信信号に相当し、あるいは、超音波ビーム1本の中から部分的に抽出された信号部分に相当する。各時系列データはパターン分類処理部32に入力される。
【0029】
パターン分類処理部32の具体的な構成については後に図3を用いて説明するが、本実施形態において、パターン分類処理部32は、各時系列データごとにそれを離散数列データに変換した上で、リターンマップを構成し、ファジィ推論を用いてリターンマップにおける点集合の分布を評価することにより、最終的に各離散数列データごとにそれに対応する記号データを得ている。
【0030】
記号列構築部34は、各時系列データごとに生成される記号データを揃えることにより記号データ列を構築する。その処理内容については後に図8及び図9などを用いて説明する。特徴量抽出部36は、後に図10などを用いて説明するように記号データ列に含まれる特徴量(全体的特徴量)を解析する。その全体的特徴量は評価値として解析結果出力部38を経て表示処理部16へ出力される。なお、記号データ列を構成する各記号データに対して輝度あるいは色相などを与えることにより記号データ列をグラフィカルに表現して白黒濃淡画像又はカラー画像を画面上に表示させることも可能である。これについては後に図8及び図9などを用いて説明する。
【0031】
図3には、図2に示したパターン分類処理部32の具体的な構成例が示されている。離散数列処理部40は、後に図4を用いて説明するように、入力される時系列データをその特徴量が反映されるように離散数列データに変換する前処理を実行する。リターンマップ構築部42は離散数列データに基づいて所定の座標系上にマッピング処理を行うことによりリターンマップを構成する。ファジィ推論部44は後に図5乃至図7などを用いて説明するように、リターンマップを解析することによって得られる複数の分析値あるいは特徴量に基づいて、リターンマップをいずれかのパターンに分類する。そのような分類処理によってパターンが判定されると、そのパターンに対応する記号データが決定される。その処理は記号化処理部46において行われる。
【0032】
次に、図2乃至図3に示した各構成の作用をより詳細に説明することにする。
【0033】
図4において、(A)には時系列データ100が示されている。上述したように、この時系列データ100は本実施形態においてRF受信信号である。この時系列データ100ごとに上述したように前処理として離散数列データが生成される。その場合、時系列データ100におけるそれぞれの極値あるいはそれぞれのゼロクロス点間隔などの特徴量が参照される。(A)には符号102として極値の並びが表されている。RF受信信号そのものから後述するリターンマップを生成すると、RF受信信号に含まれている特徴量を顕著に表すことができなくなるが、このような手法によればRF受信信号の特徴を極めて明瞭に二次元分布表示として再構成することができる。
【0034】
ここで、離散数列データ{X1,X2,X3,・・・Xi,Xi+1,・・・}に対して最小値Xminが0となるように規格化処理が実行される。すなわち、各離散数列データをマッピングするのに先立って、それぞれの特徴量を相互比較するために座標系を合わせる処理が実行される。
【0035】
図4における(B)にはリターンマップ104の一例が示されている。本実施形態において、リターンマップ104は、離散数列データにおける時間的に隣接する2つの値Xi及びXi+1の組に相当する座標に、点をプロットしたマップである。すなわち、離散数列データにおける隣接する2つの値(ペア)ごとに点のマッピングが行われることになる。そのようなマッピングを行うと、リターンマップ104上において点集合が生体組織の性状に応じて固有の分布をもって広がることが確認されている。ただし、視覚的にはそのような点集合の広がりの傾向を認識あるいは識別することは可能であるが、そのままでは定量化を行うことができない。このため、以下に説明するように、図3に示したファジィ推論部44においてリターンマップの内容についての解析が行われる。
【0036】
図3のファジィ推論部44は、リターンマップを解析してヒストグラムを作成する機能、そのヒストグラムを分析して分散やピーク値などを求める機能、それらの情報からファジィ推論によってリターンマップあるいはヒストグラムが属する分類を判定する機能、その判定された分類に対応する記号データを生成する機能、などを有している。以下にその具体的な内容について詳述する。
【0037】
リターンマップ上における点集合の分布度合いをパターン分類するために、まずリターンマップ上において、各点について座標原点からの距離が求められ、各点についての距離を表したヒストグラムが作成される。これについては後に図5の(C)を用いてその具体例を示す。
【0038】
ヒストグラムについてはまず分散が計算される。ここで、リターンマップ上における各点について求められる距離をri(i=1〜n:nはデータ数)とし、距離の平均をバー付きrとしたとき、分散σは、次のように定義される。
【数1】
【0039】
また、ヒストグラムについては、それ全体として見た場合に一定のピークがいくつあるのかが探知される。そして、必要に応じてピーク値が求められる。ここで、本実施形態においては、ヒストグラムにおける横軸に沿って、原点側からヒストグラムの値を順次参照した場合において、過去に求められたピークのピーク値よりも現在求められたピークのピーク値が小さい場合には、過去に求められたピークのピーク値を無効とし、現在求められているピークのピーク値を有効としている。すなわち、原点からの距離が遠い方におけるピークに注目し、そのピーク値をファジィ推論において利用するようにしている。
【0040】
以上のように、各リターンマップつまり各ヒストグラムごとに分散及びピークの個数などが特定されると、以下に示す3つのメンバーシップ関数を用いて、それぞれのメンバーシップ値μS,μL,μTが求められる。
【0041】
ヒストグラムにおけるピークの個数が1つであり、分散が小である場合には、次のような第1のメンバシップ関数が適用される。
【数2】
【0042】
上記においてαはメンバシップ関数の傾きを決める係数であり、Aは傾きの変極点を示し、Zはそれぞれのデータの分散を示している。RF受信信号については例えばα=0.15であり、A=50である。
【0043】
また、ヒストグラムにおけるピークの個数が1つであり、分散が大である場合には以下に示す第2メンバシップ関数が用いられる。
【数3】
【0044】
上記においてβはメンバシップ関数の傾きを決める係数であり、Bは傾きの変極点を示し、Zはそれぞれのデータの分散を示している。RF受信信号について例えばβ=0.15であり、B=50である。
【0045】
また、ヒストグラムにおけるピークの個数が2つ(あるいはそれ以上)の場合には、次のような表1にしたがったメンバシップ関数が定義される。
【表1】
【0046】
ただし、ピーク値は上述したように定められる。3つのメンバシップ関数の適用にあたっては、本実施形態においては第1メンバシップ関数を最初に適用して、必要に応じて、それ以外の2つのメンバシップ関数が適用される。
【0047】
図5には、上述した3つのメンバシップ関数が(A)〜(C)に示されている。第1メンバシップ関数(A)と第2メンバシップ関数(B)は互いに反転した関係を有し、一方を他方で代用することも可能である。
【0048】
以上のように各メンバシップ値が求められると、次の条件にしたがって、ヒストグラムがタイプA〜タイプDのいずれかのタイプに分類されることになる。
【表2】
【0049】
図6には、上記の条件が示されており、ここにおいては(A)に条件1が示され、(B)に条件2が示されており、上述したように条件1が最初に判定されることになる。
【0050】
以上のように、ファジィ推論を利用し、各ヒストグラムをその特徴にしたがっていずれかのパターンに分類することが可能であり、パターンAに分類された場合には分析対象となっているリターンマップすなわち分析対象となっている時系列データについて記号Aが与えられ、以下同様にタイプBが判定された場合には記号Bが与えられ、タイプCが判定された場合には記号Cが与えられ、タイプDが判定された場合には記号Dが与えられる。その記号の付与は図3に示した記号化処理部46によって行われ、与えられた記号を表す記号データが記号化処理部46から出力される。
【0051】
本実施形態においては、上記のような条件にしたがってリターンマップにおける点集合の分布状態を複数のパターンに分類したが、分類化の手法は上記のものには限られず、リターンマップ上に反映される組織の性状に対応した分布状態に応じて適切な分類すなわちシンボリック化が行われるように分類条件を適宜定めるのが望ましい。例えば、評価対象となる生体組織の種類に応じて、あるいは、送受信条件に応じて、上記の条件を修正するようにしてもよい。
【0052】
ここまでの流れを図7を用いて整理すると、(A)に示されるように、複数の時系列データから、(B)に示されるように、複数のリターンマップが生成され、更に各リターンマップに対応して、(C)に示すように、複数のヒストグラムが作成されることになる。そして、各ヒストグラムについてその特徴を表す複数の特徴量を得て、それらに対するファジィ推論により(D)に示すように各時系列データごとにその特徴量(個別的特徴量)を表す記号(すなわちパターン)が判定されることになる。なお、図7に示す内容は発明を説明するための一例である。
【0053】
図2において、記号列構築部34は、前段のパターン分離処理部32から順次出力される記号データを揃えることにより記号データ列を構築する。ここで、それぞれの記号に対して所定の色相や輝度を与えることにより、記号データ列を表すカラーパターンあるいはグレースケールパターンを生成することができる。
【0054】
図8における(A)には記号列が表されており、ここで記号Aに赤を割り当て、記号Bに緑を割り当て、記号Cに青を割り当て、記号Dに白を割り当てたカラーパターンが(B)に表されている。また、記号Aに濃灰色を割り当て、記号Bに薄灰色を割り当て、記号Cに黒色を割り当て、記号Dに白色を割り当てた場合におけるグレースケールパターンが(C)で表されている。なお、記号としてDが一般に発生しないのであれば、記号Dを分類化の対象から除外するようにしてもよい。
【0055】
図9には、様々な記号列に対応するカラーパターンが示されている。ここで(A)及び(B)には肝臓についての健常例のカラーパターンが示されている。(C)及び(D)には肝臓について慢性肝炎を発症している場合におけるカラーパターンが示されている。図示されるように、明かに健常例と疾患例とではカラーパターンが異なっており、例えばそのようなカラーパターンを表示し、あるいは対比表示することにより疾病診断を視覚的に行うことも可能である。ただし、視覚的判断の場合、定量化が困難であるため、本実施形態においては記号列あるいは上述したカラーパターンなどを定量分析するようにしている。その処理を行うのが図2に示した特徴量抽出部である。これについて図10を用いて説明する。
【0056】
図10において、(a)にはカラーパターンが示されており、このようなカラーパターンあるいは記号列については各種の特徴量抽出方法を適用することができる。それらの例が(b)〜(h)に示されている。
【0057】
(b)には(a)に示したカラーパターンにおける各色の頻度分布が示されている。各頻度の値を数値で表現することもできる。(c)には(a)に示したカラーパターンにおける各色ごとの最も長い列部分が抽出されている。それぞれの色ごとにその列の長さを数値で求めることもできる。(d)には(a)に示したカラーパターンにおける各色の帯の平均長さが示されている。すなわち色の連続性に着目したものであり、それぞれの長さについては数値表現することができる。
【0058】
(e)〜(g)においては(a)に示したカラーパターンにおける各色ごとの各部分調ごとの頻度分布すなわちヒストグラムが示されている。例えば図示の例では(e)に示されるように赤について広がりが認められる。(h)には(a)に示したカラーパターンにおける隣接する帯間における色の変化の頻度分布が示されている。すなわち、記号Aから記号Bへの移行、記号Dから記号Cへの移行、記号Cから記号Aへの移行などのそれぞれの色変化ごとに頻度が計数されている。
【0059】
以上説明した特徴量の抽出方法はもちろん一例であって、様々な手法を適用することができる。簡便には、例えば緑の割合すなわち記号列上におけるBの量を定量化し、それを全体的特徴量として用いることもできる。
【0060】
図11における横軸は線維化指数を表している。図11における縦軸は記号列全体における緑の量すなわち記号Bの割合を示している。ただし、縦軸に示されている数値は相対的な値に過ぎないものである。図11に示されるグラフから理解できるように、緑の割合と線維化指数との間に一定の相関関係が認められる。ちなみに図11におけるグラフにおける各点は実際の患者のデータを表しており、ここで線維化指数は肝臓の生検、つまり組織採取を行うことにより実際に特定されたものであり、緑の割合は上記のような手法を用いて超音波診断によって得られたものである。したがって、図11に示すような相関関係を利用すれば、ある患者について緑割合が評価値として求められた場合、その評価値からその患者の肝臓についての線維化指数を数値として特定することが可能である。つまり、生体情報の全体的特徴量として緑割合あるいはそれ以外の情報を表示し、あるいはそれに代えてまたはそれに併せて図11に示すような評価値としての線維化指数を表示することにより、患者の診断に有益な情報を提供できるという利点がある。
【0061】
本実施形態によれば、例えばBモード断層画像上においては認識困難な組織の性状あるいは定量観察が難しい組織の性状について段階的な特徴量抽出の手法を利用して最終的に生体組織の性状を表す評価値を得ることが可能であり、生体組織の性状を定量的に分析するための情報を得られるという利点がある。したがって、そのような情報を利用すれば生体における組織の疾患をより適切に判断することが可能となり、医療における有益なる効果を期待できる。
【0062】
上記の実施形態においては生体における肝臓の例を取り上げたが、他の組織を処理対象とすることももちろん可能である。例えば腫瘍について良性あるいは悪性を判断するための評価値を得るようにすることもでき、また、血流などを対象とすることも可能と思われる。
【0063】
上記実施形態においては最終的に全体的特徴量として数値あるいはそれに相当する情報が画像表示されているが、上述したように、図8や図9に示したようなカラーパターンやグレースケールパターンをそのまま画面上に表示することも可能であり、そのような表示においても組織性状を認識することが可能である。その場合においては、上記実施形態においては一次元の記号列に対応する一次元のグラフィックパターンを表示していたが、二次元断層画像における各部分に対応する色付けあるいは輝度表現などを採用することも可能であり、それ以外にも各種の表現方法を採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る生体情報解析装置としての超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すシンボリックダイナミクス処理部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図3】図2に示すパターン分類処理部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図4】時系列データとリターンマップとの関係を示す説明図である。
【図5】ファジィ推論で用いられる3つのメンバシップ関数を示す図である。
【図6】ファジィ推論で用いられる2つの条件とパターンとの関係を示す図である。
【図7】本実施形態に係るパターン分類処理の流れを説明するための説明図である。
【図8】記号列とそれに対応するカラーパターン及びグレースケールパターンを示す説明図である。
【図9】健常例と疾患例のカラーパターンを示す図である。
【図10】カラーパターンから特徴量を抽出するための評価方法を説明するための図である。
【図11】カラーパターンにおける緑割合と線維化指数との相関関係を示すグラフである。
【図12】実施形態に係る原理を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0065】
10 プローブ、12 送受信部、16 表示処理部、18 切替器、20 分割処理部、22 シンボリックダイナミクス処理部、30 時系列データ入力部、32 パターン分類処理部、34 記号列構築部、36 特徴量抽出部、38 解析結果出力部、40 離散数列処理部、42 リターンマップ構築部、44 ファジィ推論部、46 記号化処理部、100 時系列データ、102 極値の並び、104 リターンマップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、
前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、
前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、
前記記号データ列を解析することにより、前記生体情報について全体的特徴量を求める全体的特徴量演算手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記記号データ変換手段は、
前記複数の時系列データに基づいて複数のリターンマップを作成するリターンマップ作成手段と、
前記複数のリターンマップから複数の記号データを生成する手段であって、前記各リターンマップにおける前記個別的特徴量としての点集合の分布状態を分類して前記記号データを生成するリターンマップ分類手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記記号データ変換手段は、更に、前記各時系列データを波形解析して各離散数列データに変換する前処理手段を含み、
前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データから前記各リターンマップを作成することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記前処理手段は、前記各時系列データについての極値抽出処理又はゼロクロス間隔抽出処理により前記各離散数列データを求めることを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データを構成する複数の値に基づいて所定座標系上に複数の点をマッピングすることにより前記各リターンマップを作成することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項6】
請求項2記載の装置において、
前記リターンマップ分類手段は、
前記点集合を構成する各点について座標原点からの距離を演算する距離演算手段と、
前記各点についての距離に基づいてヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、
前記ヒストグラムを分析するヒストグラム分析手段と、
複数のパターンの中から前記ヒストグラムの分析結果が該当するパターンを判定し、これにより前記記号データを得るパターン判定手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記ヒストグラム分析手段は、前記ヒストグラムの形態に関して複数の分析値を求め、
前記パターン判定手段は、前記複数の分析値に対応する複数のメンバーシップ関数を有するファジイ推論部として構成されたことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、
前記全体特徴量演算手段は、前記記号データ列の構成を分析して前記全体的特徴量を演算することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記生体情報は、超音波の送受波によって生体内の一次元領域、二次元領域又は三次元領域から得られた情報であることを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記超音波の送受波が行われる部位は肝臓であり、
前記全体的特徴量は前記肝臓の線維化指数に相関することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項11】
生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、
前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、
前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、
前記各記号データを表示処理し、前記記号データ列を濃淡画像又はカラー画像に変換する表示変換手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項1】
生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、
前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、
前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、
前記記号データ列を解析することにより、前記生体情報について全体的特徴量を求める全体的特徴量演算手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記記号データ変換手段は、
前記複数の時系列データに基づいて複数のリターンマップを作成するリターンマップ作成手段と、
前記複数のリターンマップから複数の記号データを生成する手段であって、前記各リターンマップにおける前記個別的特徴量としての点集合の分布状態を分類して前記記号データを生成するリターンマップ分類手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記記号データ変換手段は、更に、前記各時系列データを波形解析して各離散数列データに変換する前処理手段を含み、
前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データから前記各リターンマップを作成することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記前処理手段は、前記各時系列データについての極値抽出処理又はゼロクロス間隔抽出処理により前記各離散数列データを求めることを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記リターンマップ作成手段は、前記各離散数列データを構成する複数の値に基づいて所定座標系上に複数の点をマッピングすることにより前記各リターンマップを作成することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項6】
請求項2記載の装置において、
前記リターンマップ分類手段は、
前記点集合を構成する各点について座標原点からの距離を演算する距離演算手段と、
前記各点についての距離に基づいてヒストグラムを作成するヒストグラム作成手段と、
前記ヒストグラムを分析するヒストグラム分析手段と、
複数のパターンの中から前記ヒストグラムの分析結果が該当するパターンを判定し、これにより前記記号データを得るパターン判定手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記ヒストグラム分析手段は、前記ヒストグラムの形態に関して複数の分析値を求め、
前記パターン判定手段は、前記複数の分析値に対応する複数のメンバーシップ関数を有するファジイ推論部として構成されたことを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、
前記全体特徴量演算手段は、前記記号データ列の構成を分析して前記全体的特徴量を演算することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記生体情報は、超音波の送受波によって生体内の一次元領域、二次元領域又は三次元領域から得られた情報であることを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記超音波の送受波が行われる部位は肝臓であり、
前記全体的特徴量は前記肝臓の線維化指数に相関することを特徴とする生体情報解析装置。
【請求項11】
生体から得られた生体情報における複数の時系列データを抽出する抽出手段と、
前記各時系列データから求められる個別的特徴量を分類することにより、前記複数の時系列データを複数の記号データに変換する記号データ変換手段と、
前記複数の記号データからなる記号データ列を構成する記号データ列構成手段と、
前記各記号データを表示処理し、前記記号データ列を濃淡画像又はカラー画像に変換する表示変換手段と、
を含むことを特徴とする生体情報解析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−288978(P2006−288978A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117592(P2005−117592)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(504122620)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(504122620)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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