説明

生体材料の輸送容器

【課題】生体材料をその状態を維持したままで保存した状態で輸送することが可能な実用的にも優れた生体材料の輸送容器を提供する。
【解決手段】周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした外装断熱容器10と、断熱容器の内部空間内に収容可能であり、周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした内部断熱容器(魔法瓶型バケット)20と、前記内部断熱容器の内部に生体材料を納めたカプセル状容器Cと共に収納される保冷材料とを備えた生体材料の輸送容器であって、内部断熱容器の内部に生体材料と共に収納される保冷部材30として重水を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある物質を、例えば、それを保管している場所などを含んだ或る地点から、それを利用する場所などの他の地点へ輸送する場合に用いられる輸送容器に関し、特に、細胞や微生物、蛋白質等の有機物質(以下、「生体材料」と言う)を輸送するための生体材料の輸送容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、上述した細胞や微生物、蛋白質等の有機物質である生体材料を輸送する場合には、当該試料を低温に維持した状態で輸送することが多く、かかる低温輸送に用いられる輸送用の保存容器としては、真空断熱容器内に氷を封入し、又は、冷媒としての液体窒素を充填し、もって、試料を保冷する構造のものが既に知られると共に、広く実用化されている。
【0003】
一方、以下の特許文献1によれば、上述した液体窒素等の昇華又は蒸発する冷媒を用いることなく、試料の受領者がその健全性を、受領時において容易に確認することができる保存容器やそのための輸送支援システムが既に知られている。なお、この特許文献1に開示された保存容器は、スターリング冷凍機(ヘリウムガスにより約−140℃以下の定温を発生)によって冷却保持する構造となっており、そして、保存容器内の室温域には、汚染物質の付着によって化学的特性または物理的特性が変化する検知素子を配置し、容器の外部から非接触的に当該検知素子を検査することにより、保存容器内部への汚染物質の侵入の有無を検査することを可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−288234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしならが、上述した従来技術になる輸送容器は、輸送する物質を、氷や液体窒素やヘリウムガスによって冷凍保存した状態で輸送するものであり、そのため、容器の構造も複雑かつ高価なものとなっていた。特に、上記特許文献1に記載された保存容器は、その構造からも優れた機能を備えてはいるものの、しかしながら、かかる容器自体が高価なものとなり、そのため、一般的な生体材料の輸送容器としては採用し難いものであった。
【0006】
特に、近年において、上述した生体材料では、冷凍保存までは要求しておらず、むしろ、細胞内の水分を凍結せずに生体の状態を維持したままで保存した状態で輸送することが要求されている。
【0007】
そこで、本発明では、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、より具体的には、高価な容器を必要とすることなく、生体材料を細胞内の水分を凍結せずに生体の状態を維持したままで保存した状態で輸送することを可能とする、新規な生体材料の輸送容器を提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、まず、生体材料を輸送するための容器であって、周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした外装断熱容器と、前記断熱容器の内部空間内に収容可能であり、周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした内部断熱容器と、前記内部断熱容器の内部に生体材料と共に収納される保冷材料とを備えた生体材料の輸送容器であって、前記内部断熱容器の内部に生体材料と共に収納される保冷材料として重水を使用する生体材料の輸送容器が提供される。
【0009】
また、本発明では、前記に記載した生体材料の輸送容器において、前記外装断熱容器は、発泡スチロールからなる蓋体を含めた箱状容器の内壁面に真空断熱パネルを取り付けて構成したことが好ましく、又は、前記内部断熱容器は、蓋体を含めて金属外壁板と金属内壁板との間に真空空間を形成した外形略円筒状の金属容器であることが好ましい。
【0010】
更に、本発明では、前記に記載した生体材料の輸送容器において、前記請求項1に記載した生体材料の輸送容器において、前記保冷材料は、可撓な樹脂フィルムにより形成した防水密閉袋体内に充填されていることが好ましく、又は、前記内部断熱容器の内部は、輸送中においては、前記保冷材料によって略4℃に保持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
即ち、上述した本発明によれば、高価な容器を必要とすることなく、生体材料を細胞内の水分を凍結せずに生体の状態を維持したままで保存した状態で輸送することを可能とする、新規な生体材料の輸送容器を提供するという実用的にも極めて優れた効果を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態になる生体材料の輸送容器の一部を構成する外装断熱容器の詳細を示す展開斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態になる生体材料の輸送容器の一部を構成する内側断熱容器の詳細を示す一部断面を含む斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態になる生体材料の輸送容器の一部を構成する保冷部材の詳細を示す一部断面を含む斜視図である。
【図4】上記外装断熱容器、内部断熱容器、保冷部材を利用して生体材料を搬送する場合の詳細について説明する図である。
【図5】本発明になる輸送容器に生体材料を収納した場合の容器内部温度の変化の一例(グラフ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態になる生体材料の輸送容器について、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0014】
まず、添付の図1には、本発明になる生体材料の輸送容器の一部、即ち、その外側を構成する外装断熱容器10を示している。この図からも明らかなように、外装断熱容器10は、緩衝材としての機能をも備えるように、例えば、ウレタンフォームなどに代表されるように、樹脂の発泡によって内部に多数の気泡を形成し、もって、断熱材として使用可能な樹脂材料で形成されており、かつ、その上部には開口部12を形成すると共に、その外観を方形(箱状)に形成した本体11によって構成されており、更には、上記と同様に断熱材料で形成され、当該容器本体の上部開口部12を覆う形状(本例では、四角の板状)に形成された蓋体13を備えている。なお、この蓋体13は、当該開口部12の上に載置されて固定され、もって、外装断熱容器10を外気に対して閉止するものである。即ち、外装断熱容器10は、開口部12を介して開閉が可能であり、そして、蓋体13によって内部を密閉状態とすることが出来る。
【0015】
そして、当該容器本体の内部に形成される空間には、底面を含む周囲の壁面と共に、上記蓋体13の内壁面には、板状の真空断熱板14、14…(合計6枚)が貼り付けられて固定されている。なお、この板状の真空断熱板14は、冷蔵庫等の断熱壁を構成する断熱版であり、その詳細構造については、例えば、特開平5−200922号公報や特開平7−88986号公報等によって知られるものを利用することが出来る。
【0016】
次に、添付の図2には、上述した外装断熱容器10の内部に形成された空間内に挿入される、円筒形状の外形を有する内部断熱容器(魔法瓶型バケット)20が示されている。この内部断熱容器20は、例えば、ステンレス等の金属により形成され、図からも明らかなように、その外壁と内壁との間に真空空間を形成してなる、所謂、魔法瓶式の容器(バケット)本体21を備えている。なお、この容器(バケット)本体21の上部には、開口部22が形成されると共に、当該開口部22を密閉・封止するための魔法瓶式の蓋体23を備えている。また、図中の符号24は、当該内部断熱容器(魔法瓶型バケット)20の外側面に回転可能に取付けられ、人間が手で搬送する際に利用するための把手(ハンドル)を示しており、また、符号25、26は、蓋体23を容器(バケット)本体21の開口部22の上に固定するためのフックとその固定具を示している。また、符号27は、上記蓋体23を把持するための把手(ハンドル)を示している。
【0017】
更に、添付の図3には、或る地点から他の地点へ搬送すべき物質、特に、細胞や微生物、蛋白質等の有機物質(生体材料)と共に、上述した内部断熱容器(魔法瓶型バケット)20の内部に収納される保冷部材30が示されている。この保冷部材30は、図にも示すように、可撓な樹脂フィルムにより形成した防水密閉袋体内、例えば、ビニール等からなるチューブ状の樹脂部材31の内部に、略4℃の融点を持つ液体物質(保冷材料)を充填し、所定の大きさ(長さ)で封止したものである。なお、この液体物質(保冷材料)として、例えば、重水(Deuterium Oxide:融点=3.8℃)HWを使用する。なお、図中の符号32は、チューブ状樹脂部材31の両端に形成される封止部分を示している。加えて、符号HW’は、冷凍により固体相(所謂、氷)となった重水を示している。
【0018】
このように、重水を保冷材料として利用することによれば、略4℃(正確には、3.8℃)で相変化を生じることから、一旦冷凍した当該保冷部材30を上述した断熱容器(魔法瓶型バケット)20の内部に充填すれば(更には、当該断熱容器20を上述した外装断熱容器10の内部に収納すれば)、長期間に亘って、その内部温度を略4℃(正確には、3.8℃)に、ほぼ一定に保持することが可能となる。
【0019】
続いて、上述した外装断熱容器10、内部断熱容器20、保冷部材30を利用して、生体材料を搬送する場合に詳細について、添付の図4を参照しながら説明する。
【0020】
まず、発送地点では、搬送すべき物質、即ち、細胞や微生物、蛋白質等の有機物質(生体材料)を、例えば、カプセル状の容器C内に収納し、もって、搬送物を用意する。その後、当該容器C内に収納した搬送物を、略4℃の温度で安定した上記内部断熱容器20の内部、即ち、その内部空間の略中央部に位置するようにしながら、その周囲に、一旦冷凍した当該保冷部材30と共に、更には、充填材として発泡スチロールやスポンジ片Pと共に充填し、その後、蓋体23により、その開口部22を封止する(この時、例えば、上述したフック25や固定具26を利用する)。
【0021】
更に、上記内部断熱容器20を、上述した緩衝材としての機能をも備えたウレタンフォームと板状の真空断熱板14、14…とからなる外装断熱容器10の内部に挿入し、その開口部12に上記の蓋体13を接着テープ等によって封止する。そして、その内部に内部断熱容器20を挿入した外装断熱容器10を、例えば、航空便、鉄道便、トラック便等の貨物便を利用して、所望の目的地点に向けて発送する。
【0022】
次に、上述した本発明の実施例になる輸送容器に生体材料を収納した場合の容器内部温度の変化の一例を、添付の図5に示す。なお、この図のグラフでは、その縦軸に容器内部の温度(特に、内部断熱容器20の中央部(生体材料が位置する)の温度)を、そして、横軸は経過した時間を示している。
【0023】
図のグラフからも明らかなように、内部断熱容器20の中央部は、最初の数時間(3時間程度)は4℃以下の低温状態となるが、その後は、保冷材料である重水の融点付近である、略4℃で温度が一定となり、この一定温度の状態が、92時間経過するまで続いた(図の矢印参照)。なお、この例は、保冷材料を2Kg使用した場合を示しているが、更に、この保冷材料を5Kgに増量した場合には、略4℃の一定温度の状態を更に延長して、略230時間の期間、持続することが可能であった。
【0024】
以上のように、本発明の実施例になる輸送容器によれば、上記内部断熱容器20の内部(特に、内部断熱容器20の中央部)が略4℃の温度で一定となった時点で、カプセル状の容器Cの内部に収納し細胞や微生物、蛋白質等の有機物質(生体材料)を容器の内部に収容すれば、例えば、略90〜220時間の長期に亘って、生体材料を、その細胞内の水分を凍結せず、良好な状態を維持しながら、所望の場所まで搬送することを可能にする。
【0025】
また、外装断熱容器を、発泡スチロールからなる蓋体を含めた箱状容器の内壁面に真空断熱パネルを取り付けて構成したことによれば、高価な容器を必要とすることなく、比較的安価に、輸送容器全体の保冷力を高めることを可能とし、より長時間の搬送を可能にする。また、内部断熱容器についても、蓋体を含めて金属外壁板と金属内壁板との間に真空空間を形成した外形略円筒状の金属容器であることから、より安全に、内部に収納し細胞や微生物、蛋白質等の有機物質(生体材料)を保存することが出来、かつ、より高い保冷力を維持することが出来る。
【0026】
更に、保冷材料として、重水を可撓な樹脂フィルムにより形成した防水密閉袋体内に充填することによれば、搬送する有機物質(生体材料)の量や搬送のために必要な時間に応じ、必要に応じた量の保冷材料を、内部断熱容器20に適宜充填することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
10…外装断熱容器、11…本体、12…開口部、13…蓋体、14…真空断熱板、20…内部断熱容器(魔法瓶型バケット)、21…容器(バケット)本体、22…開口部、23…蓋体、30…保冷部材、31…チューブ状樹脂部材、HW…重水、HW’…固体相の重水(氷)、C…カプセル状容器、P…発泡スチロール又はスポンジ片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料を輸送するための容器であって、
周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした外装断熱容器と、
前記断熱容器の内部空間内に収容可能であり、周囲の壁面を断熱材により構成すると共に、その一部を開閉可能にした内部断熱容器と、
前記内部断熱容器の内部に生体材料と共に収納される保冷材料とを備えた生体材料の輸送容器であって、
前記内部断熱容器の内部に生体材料と共に収納される保冷材料として重水を使用することを特徴とする生体材料の輸送容器。
【請求項2】
前記請求項1に記載した生体材料の輸送容器において、前記外装断熱容器は、発泡スチロールからなる蓋体を含めた箱状容器の内壁面に真空断熱パネルを取り付けて構成したことを特徴とする生体材料の輸送容器。
【請求項3】
前記請求項1に記載した生体材料の輸送容器において、前記内部断熱容器は、蓋体を含めて金属外壁板と金属内壁板との間に真空空間を形成した外形略円筒状の金属容器であることを特徴とする生体材料の輸送容器。
【請求項4】
前記請求項1に記載した生体材料の輸送容器において、前記保冷材料は、可撓な樹脂フィルムにより形成した防水密閉袋体内に充填されていることを特徴とする生体材料の輸送容器。
【請求項5】
前記請求項1に記載した生体材料の輸送容器において、前記内部断熱容器の内部は、輸送中においては、前記保冷材料によって略4℃に保持されていることを特徴とする生体材料の輸送容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62064(P2012−62064A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205426(P2010−205426)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000153546)株式会社日立物流 (23)
【出願人】(000230641)日本化工機材株式会社 (6)
【Fターム(参考)】