説明

生体由来組織、その生産方法及びこれを生産するための装置

【課題】生物本来の構造に近い生体由来組織、その生産方法、及びこれを生産するための装置を提供する。
【解決手段】生体組織材料の存在する環境下で光照射手段4により光照射を所定時間行うことにより、光照射部分およびその周辺に複数種類の細胞が集合した組織体が形成される。この組織体はコラーゲン1に加えてエラスチン2を含み、これらがかさなった部分を含む組織からなるものであり、膜厚が厚く、生物本来の有する組織体に近い構成を有する。また、膜厚が厚くなった分、組織体の中には毛細血管も形成され、血管の元になる細胞が多く存在する。したがって、より生体に近い要素が入った組織体(生体由来組織)を生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠損組織の代替となる生体由来組織、その生産方法及びこれを生産するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故で失われた細胞、組織、器官を、人工素材や細胞により再び蘇らせる再生医療の研究が数多くなされている。通常、身体には自己防衛機能があり、体内の浅い位置にトゲ等の異物が侵入した場合には体外へ押し出そうとするが、体内の深い位置に異物が侵入した場合にはその周りに繊維芽細胞が集まってきて、主に繊維芽細胞とコラーゲンからなる結合組織体のカプセルを形成し異物を覆うことにより、体内において隔離することが知られている。このような後者の自己防衛反応を利用して、生体内において生細胞を用いた管状の生体由来組織を形成する方法が複数報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1(特開2007−312821)には、棒状構造体の表面に螺旋状溝を形成し、この棒状構造体を生体内に埋入することにより、棒状構造体の表面に膜状の結合組織体を形成し、結合組織体の機械的強度を増加させる点が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2008−237896)には、棒状構造部材の外周に沿って外郭部材を螺旋形に形成し、これを生体に埋入して、棒状構造部材の外縁に結合組織体を形成する点が開示されている。結合組織体が外郭部材と棒状構造部材の表面との間に侵入し、結合組織体の内面形状が棒状構造部材の表面と同様の平滑面に形成される。結合組織体が、外郭部材を包埋する厚さに形成される。
【0005】
特許文献3(特開2010−094476)には、棒状構造部材の表面に外郭部材を形成し、これを結合組織形成用基材とする点が開示されている。この基材を生体内に埋入することにより、基材表面に膜状の組織体を形成する。その際、外郭部材の材料として、生体適合性に優れるが組織体やその構成成分に侵襲されにくい材料を使用することにより、外郭部材は組織体と癒着し結合組織体の機械的強度が増加されるとともに外郭部材の内面に組織体やその構成成分が露出しない人工血管が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−312821号公報
【特許文献2】特開2008−237896号公報
【特許文献3】特開2010−094476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の生体由来組織は、コラーゲンが主な構成成分であり、2ヶ月間かけても50〜80μm程度の膜厚の薄いものしかできない。このように膜厚が薄いと、自立性が悪く、血管組織の代替材料として移植する場合、既存の血管との吻合操作が極めて困難であるとともに、移植後に血流を回復した際、内面に血栓を生じやすく血管が閉塞するおそれがあった。
【0008】
また、生物本来の血管は、コラーゲン(構造タンパク質)、エラスチン(弾性タンパク質)が複数かさなった層状組織からなり、さらに酸素や栄養を与える毛細血管を有するものであるが、従来の人工血管はコラーゲンが主体であり、生物本来の血管とはほど遠いものであった。したがって、ヒトの血管と同じような構造からなる生体由来組織の出現が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記に鑑み、生物本来の構造に近い生体由来組織、その生産方法及びこれを生産するための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般に、生体を構成する皮膚に紫外線を当てるとエラスチンが分解されることや、皮膚に光照射することによりエラスチンが増殖する現象が現れシワが解消されることなど、光照射が皮膚に影響を与えることが知られている。
【0011】
そこで、本発明者は、このような現象を応用して生体内に光を照射したところ、光照射した部分およびその周辺の生体細胞から組織新生するとの知見を得、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本願発明は、生体組織材料の存在する環境下で光照射手段により光照射を行うことにより形成されたことを特徴とする生体由来組織である。光照射を所定時間行うことにより、光照射部分およびその周辺に複数種類の細胞が集合した組織体が形成される。この組織体はコラーゲンに加えてエラスチンを含み、これらがかさなった部分を含む組織からなるものであり、膜厚が厚く、生物本来の有する組織体に近い構成を有する。また、膜厚が厚くなった分、組織体の中には毛細血管も形成され、血管の元になる細胞が多く存在する。したがって、より生体に近い要素が入った組織体(生体由来組織)を生産することができる。
【0013】
より具体的には、生体由来組織は、光照射手段を生体組織材料の存在する環境下へ置き、そこで光照射を行うことにより、光照射手段が従来の数倍から数十倍の厚みを有する組織体に包まれることにより生産される。形成された組織体を生体組織材料の存在する環境下から取り出すことにより、生体由来組織を生産することができる。
【0014】
このとき、光照射手段の光源を透光性のある樹脂製構造体内に埋設しておき、樹脂製構造体を通して光照射を行えば、樹脂製構造体の周りに組織体が形成される。これを生体組織材料の存在する環境下から取り出して、樹脂製構造体を抜き取ることにより、管状の生体由来組織を生産することができる。管状の生体由来組織は、管状組織として利用できるし、また、管構造をそのまま押しつぶしたり、長さ方向に切り開くことにより膜状組織としても利用することができる。また、生体由来組織の形状は、樹脂製構造体の形状で決定されるので、弁様組織体など複雑な3次元構造を構築することも可能である。
【0015】
また、上記のように、形成された組織体を生体組織材料の存在する環境下から取り出して移植用組織とする方法以外に、光ファイバ等の光照射手段を生体組織材料の存在する環境下へ置き、その照射部分に新生組織を形成させた後、光照射手段を前記環境下から取り出し、形成された生組織体をそのまま前記環境下に残して再生させる方法をとってもよい。この方法を用いて、哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物において、欠損、損傷部分に光ファイバ等の光照射手段を皮下侵入させることにより、欠損又は損傷部分の再生を促すことが期待できる。
【0016】
光照射手段の光源については限定されるものではなく、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、一般電球、ハロゲン電球、蛍光ランプ、HIDランプ等、さらには化学発光材料、蛍光物質等が例示され、これらを単数又は複数を組み合わせて用いてもよいが、これらの中でもLEDは熱発生量が少なく、点灯、消灯の制御が容易であるため好ましい。また、光源の数は少なくとも1つあればよいが、縦列、並列、積層等して複数設けてもよい。光源を複数設けること、あるいは反射材と組み合わせることによって、広範囲の生体組織材料に光を照射することができる。
【0017】
光照射手段から照射される光の波長は限定されるものではなく、可視光、赤外光、紫外光が挙げられるが、通常皮下には浸透せず、かつDNAに損傷を与えることのない可視光が好ましいと考えられる。また、青色、緑色、黄色、赤色の可視光の中でも、エネルギーの高い紫外線領域に近い青色から緑色の可視光が好ましいと考えられる。さらにまた、光照射手段から照射される光は、波長530nm以下の光を含むことが好ましい。この範囲内であれば、エラスチン及び毛細血管を含み、膜厚が厚く、生物本来により近い構成の組織体を形成することを期待できる。
【0018】
光照射手段の光照射パターンは、連続でもパルス状でもよいし、また、途中で光の波長、色等の種類を変更するようにしてもよい。光照射時間は、生体組織材料の存在する環境の違いによって異なるが、ビーグル犬の背部皮下へ埋入した場合、約2週間で十分な膜厚の生体由来組織を得ることができることが分かった。
【0019】
形成された生体由来組織は、膜状組織、弁状組織又は管状組織を含む結合組織となる。膜状組織としては、心膜、硬膜、角膜、皮膚、心膜等が挙げられ、表層を覆うあるいは膜状で機能する平面状の組織である。弁状組織としては、心臓弁、静脈弁等が挙げられる。管状組織としては、血管、リンパ管、気管、胆管、腸管、尿道管、尿管、卵管等が挙げられる。
【0020】
本発明において、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。
【0021】
また、本発明において、「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。また、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。また、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。
【0022】
また、「生体組織材料の存在する環境下」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、腰部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境内を表す。また、動物へ埋入の方法をとる場合には低侵襲な方法で行うことと、動物愛護の精神を尊重し、十分な麻酔下で最小限の切開術で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
生体組織材料の存在する環境下で光照射手段により光照射を行うことにより、エラスチンが形成され、膜厚が厚く、細胞を多く有する生体由来組織を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる生体由来組織をヘマトキシリンイオシン染色により染色した断面図を示す図面に代わる写真である。
【図2】図1の内膜部の部分拡大図である。
【図3】図1の中膜部の部分拡大図である。
【図4】本発明にかかる生体由来組織の中膜部部分をエラスチカワンギーソン染色により染色した拡大図である。
【図5】本発明にかかる生体由来組織をマッソントリクローム染色により染色した断面図を示す図面に代わる写真である。
【図6】本発明にかかる生体由来生産装置の一例を示す図である。
【図7】比較例の生体由来組織をヘマトキシリンイオシン染色により染色した断面図を示す図面に代わる写真である。
【図8】図7の部分拡大図である。
【図9】比較例の生体由来組織をマッソントリクローム染色により染色した断面図を示す図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図3は本発明の生体由来組織をヘマトキシリンイオシン染色により染色した断面図である。図4はエラスチカワンギーソン染色により染色した断面図である。本発明の生体由来組織は、コラーゲン1とエラスチン2の層状構造を有する組織からなる。膜厚が厚く、毛細血管3も形成され、生物本来の有する組織体に近いものである。
【0026】
本発明の生体由来組織は、光照射手段4を生体組織材料の存在する環境下へ置いて光照射することにより、光照射手段4の周囲が従来の数倍から数十倍の厚みを有する組織体で包まれる。これを生体組織材料の存在する環境下から取り出すことにより、生体由来組織を生産することができる。
【0027】
図6に示すように、生体由来組織を生産する装置として、光照射手段4と、光照射手段4に電源を供給する駆動電源5を備えた生体由来組織生産装置6を例示する。光照射手段4は、光源7と、その周囲を覆う透光性を有する棒状の樹脂製構造体8とを備え、光源7からの光を樹脂製構造体8を通して、周辺の生体組織材料へ照射する。なお、光照射手段4はこの構成に限定されるものではなく、樹脂製構造体8を設けずに、光源7から直接光を照射する構成としてもよい。
【0028】
駆動電源5としては、乾電池が用いられるが、血流を利用した自家発電型電源等の公知の他の電源を利用してもよい。図6に示すように、単3の乾電池5の外面は、シュリンクパック5aにより保護されている。乾電池5と光源7とはリードフレーム9を介してリード線10で接続される。
【0029】
光照射手段4の光源7としては、LEDが利用されるが、半導体レーザ等の他の光源を利用しても構わない。LEDであれば、発熱量が少ないため生体組織材料を過熱するおそれがなく、また、小電力かつ長寿命であるので好ましい。光源7は1個設けられるが、棒状の樹脂製構造体8の長手方向に沿って複数個設ける形態としてもよい。複数設ければ、光源7の影響を多領域の生体組織材料に与えることができる。光照射手段4から照射される光の波長としては、可視光が使用されるが、これに限定されるものではなく、赤外光、紫外光を用いてもよい。また、LEDの中でも青色LEDが用いられるが、これに限定されるものではなく、赤色、緑色、これらを混合した色(白色、黄色等)を用いてもよい。
【0030】
なお、本実施形態において、青色LEDを使用する理由について説明すると、青色の波長域は皮膚を通して内部まで浸透しにくいため、生体の外部から照射する場合と生体の内部に埋設して照射する場合とで、効果を比較しやすいと考えた。また、皮下内部の組織は普段青い光には接することが少ないため、青色の光を感じる必要は無いため大きな生体反応は起こりにくいとも当初考えられた。しかし、実際に行ってみると予想に反して膜厚の厚い生体組織を形成し、コラーゲンとエラスチン、さらに新生血管を含むことが分かった。この生体反応は青色に近い緑色においても同様な効果があることを認めている。
【0031】
樹脂製構造体8は、生体由来組織の型となるものであり、透光性のある樹脂からなり、光源7の周囲を隙間なく封止することにより光源7を埋設する。樹脂の素材としては、透光性及び耐熱性のあり、生体に埋入した際に大きく変形することが無い強度(硬度)を有し、化学的安定性があり、滅菌などの負荷に耐性があり、生体を刺激する溶出物が無いまたは少ない樹脂が好ましい。そこで、本実施形態においてはシリコン樹脂が用いられるが、その他の天然樹脂、合成樹脂を用いてもよい。また、生体由来組織の型となる透明構造体を別途用意し、樹脂製構造体8を透明構造体の内部に嵌合させる構造にすることができる。つまり、光照射手段4と生体由来組織の型となる構造体を分離して構成することができる。したがって、透明構造体を多数種類用意すれば、一つの光照射手段4を使用して多種類の生体由来組織を生産することができる。
【0032】
本実施形態において、樹脂製構造体8は、外径5mm、長さ30mmの円柱状の棒状に形成され、その内部にLED及びこれに接続されたリード線10の一部が埋設される。棒状構造としては、円柱状に限定されるものではなく、四角柱等の多角形柱状等の他の形状としてもよいが、形成される生体由来組織を血管等の管状組織とする場合には円柱状とするのが好ましい。また、生体由来組織として人工血管を生産する場合、樹脂製構造体8の外径により血管の太さが決定されるため、目的の太さによって直径を変更すればよい。なお、樹脂製構造体8の形状は棒状に限定されるものではなく、所望の生体由来組織に従って、球状、立方体状、直方体状、平板状等の他の形としてもよい。また、樹脂製構造体8の表面に凹凸や外郭部材を設けて、生体由来組織の機械的強度をさらに向上させてもよい。
【0033】
次に、上記のような生体由来組織生産装置6を用いて生体由来組織を生産する方法を説明する。まず、生体由来組織生産装置6を生体組織材料の存在する環境下へ置く。生体組織材料の存在する環境下とは、動物の生体内(例えば、皮下や腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において生体組織材料が浮遊する溶液中等の人工環境内が挙げられる。生体組織材料としては、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギ、ヒツジなどの他の哺乳類動物由来のものや、鳥類、魚類、その他の動物由来のもの、又は人工材料を用いることもできる。
【0034】
また、生体由来組織生産装置6は、少なくとも樹脂製構造体8部分を生体組織材料の存在する環境下へ置けばよいが、装置全体を生体組織材料の存在する環境下へ置いてもよい。生体由来組織生産装置6を動物に埋入する場合には、十分な麻酔下で最小限の切開術で行い、埋入後は傷口を縫合する。また、生体由来組織生産装置6を生体組織材料の存在する環境下へ置く場合には、種々の培養条件の整えてクリーンな環境下で公知の方法に従って細胞培養を行えばよい。
【0035】
生体由来組織生産装置6の光照射手段4は、生体組織材料の存在する環境下において、光源7を覆う透明で棒状の樹脂製構造体8を透過して周辺組織に光を照射する。本実施形態では、光照射手段4の光源7は常時発光しているが、制御部を設けてパルス状に発光させてもよいし、リモコン操作により外部から手動により電源のON/OFFや、光の強さ、発光させるLEDの数等を操作可能としてもよい。
【0036】
所定時間の光照射を続けた後、生体由来組織生産装置6を生体組織材料の存在する環境下から取り出す。そして、樹脂製構造体8の周囲に分厚く形成された組織体を樹脂製構造体8から取り外すことにより、管状の生体由来組織を生産することができる。なお、樹脂製構造体8と組織体との剥離は、樹脂製構造体8を引き抜くだけで簡単に行うことができる。剥離された組織体の内面は、樹脂製構造体8の表面に接しているので平滑になる。
【0037】
以上のように生産された本発明の生体由来組織は、コラーゲン1とエラスチン2を含む組織からなり、膜厚が厚く、毛細血管3も形成され、生物本来の有する組織体に近いものとなる。このように、多くのコラーゲン1及びエラスチン2が形成されているため、生体由来組織の自立性が高く、管形状を維持することができる。そのため、管状の組織体を人工血管として生体と縫合する場合、吻合部位を開口した状態で吻合操作が実施できる。また、組織体中には多くの毛細血管3等の新生血管が形成されるので、移植後に早期に内皮化を含む新生内膜が形成されることが期待される。
【0038】
このように、本発明によると、光照射により組織体の形成を促進させることができる。また、薬剤投与により組織体の形成を促進させる方法では、一度薬剤を投与すると全ての薬剤が吸収されるまでの間、組織体の形成が進んでしまうが、本発明では光照射を止めることにより所望の成長段階で組織体の形成促進を止めることが可能である。
【0039】
なお、本発明の生体由来組織は、人工血管のような管状組織だけでなく、弁状組織、膜状組織としても利用可能である。本生体由来組織を膜状組織として利用する場合には、管状構造をそのままつぶすようにして利用してもよいし、管の長さ方向に切り開いて利用してもよい。さらには、3次元構造を有する樹脂製構造体8を使用すれば、複雑な形状の生体由来組織を形成することも可能である。
【0040】
生産された生体由来組織を異種移植する場合には、移植後の拒絶反応を防ぐため、脱細胞処理、脱水処理、固定処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。脱細胞処理としては、超音波処理や界面活性剤処理、コラゲナーゼなどの酵素処理によって細胞外マトリックスを溶出させて洗浄する等の方法があり、脱水処理の方法としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒で洗浄する方法があり、固定処理する方法としては、グルタアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物で処理する方法がある。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、光照射手段4を生体に埋め込み、その周囲に形成された組織体を生体から取り出して移植用組織としたが、組織体を取り出さない構成としてもよい。すなわち、光照射手段4を生体組織材料の存在する環境下へ置き、その照射部分に新生血管を含む新生組織を形成させた後、前記環境下から光照射手段4のみを取り出し、形成された組織体をそのままその環境下に残して再生させるようにしてもよい。この方法によると、動物において、欠損、損傷部分に光ファイバ等の光照射手段4を皮下侵入し埋入させることにより、欠損又は損傷部分の再生を促すことが期待できる。
【実施例】
【0042】
光源7として青色LEDを使用し、ビーグル犬を用いて生体由来組織を生産する方法を示す。まず、十分な麻酔下で最小限の切開術で生体由来組織生産装置6の全体をビーグル犬の背部皮下に埋入した後、傷口を縫合する。
【0043】
光照射手段4のLED光源7からは、470nmの波長の青色光を常時発光しており、LEDを覆う透明のシリコン樹脂からなる樹脂製構造体8を透過して周辺組織に光を照射する。
【0044】
皮下でのLED照射を2週間続けた後、生体由来組織生産装置6をビーグル犬の生体から麻酔して取り出した。生体由来組織生産装置6の周りは全体的に組織体で包まれており、特に、LEDが埋め込まれた樹脂製構造体8の周囲に分厚く組織体が形成されていた。この組織体を必要に応じて一部切断しながら樹脂製構造体8から取り外すことにより、管状の生体由来組織を生産した。
【0045】
樹脂製構造体8の周囲に形成された部分の組織体を、ヘマトキシリンイオシン染色により染色を施し顕微鏡で観察した拡大写真を図1〜図3に、エラスチカワンギーソン染色により染色を施し顕微鏡で観察した拡大写真を図4に示し、マッソントリクローム染色により染色を施し顕微鏡で観察した拡大写真を図5に示す。また、比較例として、LED非照射の場合に形成された組織体について、ヘマトキシリンイオシン染色により染色を施して観察したものを図7及び図8に示し、マッソントリクローム染色により染色を施して観察したものを図9に示す。なお、比較例は、LED非照射である以外は上記実施形態と同様にして行った。なお、図中において、Aは管状の生体由来組織の円周方向、11は管状の生体由来組織の内腔面、12は生体由来組織の内膜部、13は生体由来組織の中膜部、14は生体由来組織の外膜部、15は赤血球、16は炎症細胞、17は繊維芽細胞を示す。また、エラスチカワンギーソン染色は、エラスチン2を青色に染色する染色法である。マッソントリクローム染色は、コラーゲン1を青色に染色する染色法である。
【0046】
図3及び図4に示すように、本実施形態の組織体には炎症細胞16が含まれるものの、特に中膜部13内には多数のエラスチン2が形成されていることが分かる(紐又はミミズ状の線で表れているものがエラスチン2である)。また、図1に示すように、本実施形態の組織体の膜厚は約700μmであり、図7の比較例の組織体の膜厚約80μmと比べると、8〜9倍近く分厚く形成されている。このように分厚くなった分、図2及び図3に示すように、本実施形態の組織体、特に内膜部12及び中膜部13中には赤血球15や毛細血管3も形成され、血管の元となる細胞が多く形成される。したがって、より生体に近い要素が入った生体由来組織を生産することができる。また、図1に示すように、生体由来組織の外膜部4には粘膜状の組織が形成されていることが分かる。また、図5に示すように、本実施形態の組織体内には多くのコラーゲン1が形成されていることが分かる。
【0047】
これに対し、図7及び図8に示すように、比較例の組織体は、約78μmと膜厚が薄く、組織体中に繊維芽細胞17が見られるもののその量は少なく、エラスチン2もほとんど見られない。また、図9に示すように、比較例の組織体中にはコラーゲン1の量も少ないことが分かる。
【0048】
以上の結果から分かるように、青色LEDを埋設した透光性のシリコン樹脂からなる樹脂製構造体8を生体内に埋め込み、発光させて新生細胞を増殖させたところ、樹脂製構造体8の周りには、従来の数倍もの厚みを有すると共に、多くのコラーゲン1、エラスチン2及び新生血管の形成された生体由来組織を生産することができることが分かった。
【符号の説明】
【0049】
1 コラーゲン
2 エラスチン
3 毛細血管
4 光照射手段
5 駆動電源
6 生体由来組織製造装置
7 光源
8 樹脂製構造体
9 リードフレーム
10 リード線
11 内腔面
12 内膜部
13 中膜部
14 外膜部
15 赤血球
16 炎症細胞
17 繊維芽細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織材料の存在する環境下で光照射手段により光照射を行うことにより、毛細血管あるいはエラスチンが形成されたことを特徴とする生体由来組織。
【請求項2】
生体組織材料の存在する環境下で光照射手段により光照射を行うことにより、毛細血管およびエラスチンが形成されたことを特徴とする生体由来組織。
【請求項3】
前記光照射手段は、波長530nm以下の光を含んでいる光源であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体由来組織。
【請求項4】
前記生体由来組織は、膜状組織、弁状組織、管状組織のいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の生体由来組織。
【請求項5】
生体組織材料の存在する環境下で光照射手段により光照射を行うことにより、前記光照射手段の周囲にエラスチンを含んだ組織体を形成することを特徴とする生体由来組織の生産方法。
【請求項6】
透光性を有する樹脂製構造体に前記光照射手段を埋設し、該樹脂製構造体を通して光照射を行うことにより、樹脂製構造体の周囲に前記組織体を形成することを特徴とする請求項5に記載の生体由来組織の生産方法。
【請求項7】
生体組織材料の存在する環境下で照射を行う光照射手段を備えたことを特徴とする生体由来組織生産装置。
【請求項8】
前記光照射手段の光源は、透光性を有する樹脂製構造体内に埋設されていることを特徴とする請求項7に記載の生体由来組織生産装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−20031(P2012−20031A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161331(P2010−161331)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(390010744)新幹工業株式会社 (15)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】