説明

生体細胞の分離装置、培養装置及び生体細胞の分離方法

【課題】培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去することで、効率的な培養を達成し、目的生産物の生産収率を向上する
【解決手段】生体細胞の培養液から生体細胞を分離する分離装置であって、培養液の流入口と、排出口と、当該流入口から流入した培養液に含まれる細胞を分離するフィルタとを有する分離手段と、上記分離手段の排出口から排出された培養液が導入され、導入された培養液に含まれる細胞生育阻害物質を培養液から除去する除去手段とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体細胞の培養液から細胞を分離する分離装置、及び当該分離装置を有する培養装置並びに生体細胞の培養液から細胞を分離する分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞を培養する場合、培養環境、すなわち培養槽内を培養に最適な条件に維持することに加え、生体細胞が生存発育のために必要な栄養成分を、無機または有機化合物として培地から与える必要がある。このため、溶存酸素濃度、pH、温度、撹拌速度、等の制御に加えて、生体細胞が要求する物質を培養の途中で補充することが行われている。培養の途中に生体細胞が要求する物質を溶解させた培地を補給する培養手法には、流加培養(Fed-Bach Culture)、連続培養(Continuous Culture)及び灌流培養(Perfusion Culture)がある。流加培養は、培養中の培養槽に生体細胞が要求する物質を溶解させた液体を補給しながら培養する方法である。連続培養は、培養中の培養槽から培養液の一部を引き抜き、引き抜き量相当分の補給液を補給しながら培養する方法である。灌流培養は、培養中の培養槽から培養液の細胞を分離して液分のみを引き抜き、引き抜き量相当分の補給液を補給しながら培養する方法である。
【0003】
これまでに種々の細胞分離手段が開発されている。非特許文献1及び特許文献1には、重力沈降法を用いた連続培養装置に関する記載がある。特許文献2及び特許文献3には、遠心分離により細胞を沈降分離する手法が記載されている。特許文献4には、培養槽内に細胞の通過を阻止するろ過材で囲った培養領域を設け、培養領域外に通過してきたろ過液を引き抜くことを特徴とする培養装置が記載されている。特許文献5には、ろ過膜として多孔質中空糸膜を使用し、新鮮培地を用いて逆洗することが記載されている。特許文献6には二対のろ過膜を設置し、一方を通気手段、残る一方をろ過手段として使用し、これを交互に切り替えることによってろ過と逆洗を繰り返し行なうことが記載されている。特許文献7には培養槽内に回転するろ過膜を設けた培養装置が述べられている。特許文献8には培養槽外に回転するろ過膜を設置する培養装置が記載されている。
【0004】
一方、培養中には細胞の代謝に伴い各種の老廃成分が分泌されるが、その中で特にアンモニアは、細胞代謝の有毒副生物であり、培養液に蓄積されるので、細胞成長及び所望の最終生成物の生成を抑制する。この問題を解決するために多くの努力がなされてきた。細胞の増殖を阻害するレベルのアンモニアが蓄積したタイミングで、アンモニアを含有する培養液を培養槽の系外に廃棄し、新たな培地を供給する培養手段が取られる。培地には高価な血清や成長因子、アミノ酸、ビタミン類が添加されているが、これらの消耗量が極めて大きくなるのでコスト面で得策ではない。また、アンモニアの蓄積を抑制するために、新たに供給する培地中のグルタミン(主要アンモニア源)の厳密な濃度制御が行なわれる。この方法は、アンモニアの分泌速度を抑えることでは有効であるが、蓄積したアンモニアを除去することはできない。
【0005】
培養槽に蓄積したアンモニアを除去する方法も公開されている。特許文献9には、高分子マトリックスを支持体とする流体膜を介して酸性ストリップ液と接触させる方法が記述されている。また、特許文献10には、二酸化炭素非含有気体で曝気処理してアンモニアを液中から除去する方法が記述されている。特許文献11には、分子量で分画して低分子量画分の一部としてアンモニア等の生育阻害物質を除去する方法が示されている。いずれの場合も、遠心分離、膜ろ過、分子量分画等の方法により細胞画分を培養槽に返送した後、細胞を除いた培養液成分について、上記の方法で細胞生育阻害物質を除去する。培養が初期で細胞の生存率が高い時期には、細胞懸濁液中には死滅した細胞に由来する細胞断片等の微小粒子は無いが、培養期間が進むにつれて、細胞断片が混入してくるが、上記の方法は、膜の目詰まりを生じたり、生体細胞の各分と共に培養槽に返送される。これらの断片には、生体細胞を構成していた膜脂質や蛋白質分解酵素などの生体成分を残留するために、生体細胞の増殖には必ずしも好ましくない。従って、できれば、低分子量の生育阻害物質と共に培養槽から系外に排除することが望ましい。
【0006】
【非特許文献1】組織培養 第15巻第8号283頁〜287頁(1989年発行)
【特許文献1】特開平6-209761号公報
【特許文献2】特開平5-192607号公報
【特許文献3】特開平6-90737号公報
【特許文献4】特開平5-95778号公報
【特許文献5】特開平1-281072号公報
【特許文献6】特開平6-98758号公報
【特許文献7】特表平03-505041号公報
【特許文献8】特開平06-237754号公報
【特許文献9】特開平2-276571号公報
【特許文献10】特開平2-2342号公報
【特許文献11】特開昭61-257181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去することで、効率的な培養を達成し、目的生産物の生産収率を向上することができる生体細胞の分離装置及び当該分離装置を供えた培養装置並びに生体細胞の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
すなわち、本発明に係る分離装置は、生体細胞の培養液から生体細胞を分離する分離装置であって、培養液の流入口と、排出口と、当該流入口から流入した培養液に含まれる細胞を分離するフィルタとを有する分離手段と、上記分離手段の排出口から排出された培養液が導入され、導入された培養液に含まれる細胞生育阻害物質を培養液から除去する除去手段とを備えるものである。
【0009】
ここで、上記分離手段は、上記流入口と上記排出口とを備える容器内に、円筒型回転体の外周面に細胞の通過を阻止するフィルタとを有する回転フィルタを収容したものを使用することができる。このとき上記フィルタは、培養対象の細胞の平均径と略同寸法の開口部を有するものを使用することが好ましい。一般的に、浮遊性の動物細胞は平均径が5〜30μmであるので、開口径をそれと同程度とし、特に高い分離能を求める場合は、1〜10μm程度と若干小さめとすることが好ましい。細胞の培養中には死滅した細胞が分解して微小断片として培養液中に浮遊するので、開口径が必要以上に小さいと、フィルタの目詰まりを引き起こし、フィルタ交換等の作業頻度が高くなるので好ましくない。また、開口部は網目状や穴状であってもよいが、目詰まりを起こしにくい点でスリット状とすることができる。材質としては、滅菌、再利用の観点から金属製、特にステンレス製が望ましい。
【0010】
また、上記除去手段は、上記分離手段の排出口と培養槽とを連通する配管上に配設することができる。上記除去手段は、水溶液中の細胞生育阻害物質を除去できる吸着剤を含有するものであれば素材を限定するものではないが、特に高い陽イオン交換能を有するゼオライトを含み、細胞生育阻害物質としてアンモニア成分を除去することが好ましい。
【0011】
一方、本発明に係る培養装置は、上述した本発明に係る分離装置と、生体細胞の培養液を充填する培養槽とを備え、上記分離手段が生体細胞の培養液から生体細胞を含まないろ過液を分離するものである。
【0012】
ここで、上記分離装置における分離手段の流入口と上記培養槽とが連結されており、上記培養槽内に充填された生体細胞を含む培養液が当該流入口を介して上記回転フィルタの外側に供給されるものであることが好ましい。
【0013】
一方、本発明に係る生体細胞の分離方法は、生体細胞の培養液から生体細胞を分離する方法であって、培養液を生体細胞とろ過液とに分離手段を用いて分離する工程と、ろ過液を分離した後の培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去手段を用いて除去する工程とを含んでいる。
【0014】
ここで、上記分離手段は、上記流入口と上記排出口とを備える容器内に、円筒型回転体の外周面に細胞の通過を阻止するフィルタとを有する回転フィルタを収容したものを使用することができる。このとき上記フィルタは、培養対象の細胞の平均径と略同寸法の開口部を有するものを使用することが好ましい。また、開口部はスリット状とすることができる。
【0015】
また、上記除去手段は、上記分離手段の排出口と培養槽とを連通する配管上に配設することができる。上記除去手段はゼオライトを含み、細胞生育阻害物質としてアンモニア成分を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る分離装置及び分離方法によれば、生体細胞の培養液から細胞を分離した後、培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去することができる。これにより、効率的な培養を達成し、目的生産物の生産収率を向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係る培養装置によれば、分離装置の分離手段によって生体細胞の培養液から細胞を分離した後、分離装置の除去手段によって培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去することができる。これにより、効率的な培養を達成し、目的生産物の生産収率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る生体細胞の分離装置、分離方法及び培養装置を図面を参照して詳細に説明する。本発明に係る生体細胞の分離装置、分離方法及び培養装置は、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞を培養する際に適用することができる。本発明において、生産対象の物質としては、何ら限定されるものではなく、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、何ら限定されるものではなく、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類等を挙げることができる。特に、本発明に係る生体細胞の分離装置、分離方法及び培養装置は、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。
【0019】
本発明を適用した生体細胞の培養装置の一例を図1に模式的に示す。また、詳細は後述するが、本発明を適用した生体細胞の分離装置の一例を図2に模式的に示す。本発明を適用した培養装置は、図1に示すように、培養槽1、細胞分離装置2及びアンモニア除去装置3とで構成される。また、図1中には図示していないが、空気、酸素、窒素及び炭酸ガス等のガス供給設備、温水冷水供給設備、蒸気供給設備並びに給排水設備を具備している。また、培養槽1は、培養液5の性状を計測する計測手段4を具備しており、溶存酸素濃度、溶存炭酸ガス濃度、pH、温度、アンモニア濃度、乳酸濃度及びグルタミン濃度等の計測値を得る。また、計測手段4については、実装置では検出項目毎または制御項目毎に1つの検出手段が用いているが、図1中には簡略化の為1つのみ記載した。
【0020】
図1において培養槽1は断面で表わしている。培養槽1内に張り込まれた培養液5は、駆動用モータ6により駆動される攪拌機7で撹拌され、均一に混合される。培養に必要な酸素は、液面と液中から、それぞれ酸素含有ガスの濃度と通気量を個別に制御する通気量制御手段9a、9bにより、培養槽1に通気される。槽底部に配置された散気手段8を介して液中に供給される。本実施形態では空気を一定量で通気し、培養液のpHに対応して炭酸ガスを混合した。炭酸ガス濃度の制御はpHを制御量とし、炭酸ガス流量を操作因子とする通常の比例制御を行なった。
【0021】
培養槽1には細胞分離装置2との間に培養液循環管路10及び11が設けられており、ポンプ12によって培養液の循環を行なわせる。培養液循環管路10及び11には弁13〜16が設けられており、培養液循環の停止、細胞分離装置2からの培養液の抜き取りなどの際に必要に応じて開閉される。
【0022】
分離装置2は、図2に示すように、外周面に細胞の通過を阻止するフィルタ20を設けた回転フィルタ21、回転フィルタ21を収容するフィルタ収容容器23、フィルタを回転させるためのフィルタ駆動モータ24、回転フィルタ21の内部の圧力を検出する圧力計25及びフィルタ収容容器の圧力を検出する圧力計26を備えている。また、フィルタ収容容器23には、培養液循環管路10が連結した流入口27及び培養液循環管路11が連結した排出口28が形成されている。さらに、分離装置2は、図示しない逆洗液貯槽及びハーベスト槽と管路30を介して連結されている。管路30には、弁31及び圧力調整弁32等が配設されている。
【0023】
また、分離装置2と培養槽1との間には、培養液循環管路10又は11の中途部に設けられたポンプ等の送液手段が配設されている。この送液手段により培養液5を分離装置2と培養槽1との間に循環させることができる。なお、培養槽及び送液手段は図2中への記載を省略した。送液手段によって、フィルタ収容容器23内部の培養液は常に更新されることになり、ろ過によってろ過液が抜き出されることによる細胞の部分的な高密度化や長時間滞留による環境の悪化で生じる培養への悪影響を抑えることができる。
【0024】
フィルタ収容容器23には内部の培養液の流出を防ぐことと外部からの雑菌等の侵入を防ぐ機能が不可欠である。このため、フィルタ収容容器23にはメカニカルシールを使用した軸シール33が設けられている。メカニカルシールは、回転軸34に固定されて回転する摺動部材と軸シール33に固定された摺動部材とを密着させて摺動させることにより気体や液体の漏洩を阻止するものである。本例においては、フィルタ収容容器23内の培養液の流出を防ぐためのメカニカルシール35aと、外部からの侵入を防止するためのメカニカルシール35bの二つのメカニカルシールを用いている。メカニカルシール35aとメカニカルシール35bの間にはシール室36が形成され、回転フィルタ21の内部と外部とを連結する流路となる。なお、本発明においてはメカニカルシールとして特に限定するものではなく、通常の培養装置に使用されるメカニカルシールやドライタイプのメカニカルシールなど気密性を保持できるものであれば用いることができる。また、メカニカルシールの使用方法及び配置等についても本例に限定するものではない。
【0025】
回転軸37は両端が封止された中空構造となっており、一端をシール室36に開口させ、他の一端を後述する円筒38に設けられたろ過液流路39に連通するよう開口させることによって軸流路40を形成している。なお、軸シール33には、シール室36と外部とを連結する連通ノズル41が設けられており、ろ過液や逆洗液の出し入れに使用される。
【0026】
回転フィルタ21は、回転軸37に円筒38とフィルタ20をとりつけ、上端と下端を封止部材で封じた構造となっており、フィルタ内部の圧力を外部より低くすることによってろ過が行なわれ、フィルタの細孔を通過したろ過液が得られる。ろ過にあたって、回転フィルタ21をフィルタ収容容器23内部で回転させる。これによりフィルタ20の表面に平行な培養液の流れが生じ、いわゆる直交流ろ過の状態となる。フィルタ収容容器23の内壁面とフィルタ20表面との間隔を小さくして流れを乱流状態とすれば、ろ過液が抜き出されることによって形成される細胞や微細粒子の高密度化層を拡散させることができる。これによって、フィルタの目詰りを抑制でき、より高速でより多量のろ過液を得ることが可能となる。回転フィルタの回転速度は、培養する生体の細胞の物理的な外力に対する耐性と、分離装置の形状とによって決定される。
【0027】
フィルタ20を通過したろ過液は円筒38とフィルタ20の間に形成されている円筒状間隙42を通り、円筒38に設けられたろ過液流路39および回転軸37に設けられた軸流路40を経て軸シール33のシール室36に導かれ、連通ノズル41に接続された連通流路によって弁31を経て逆洗液貯槽(図示せず)に移送される。
【0028】
本発明に使用するフィルタ20としては一般的に用いられるろ布、メンブランフィルタなど、細胞の通過を阻止できるものであれば特に限定するものではない。特に、回転フィルタ21内部に蒸気を吹き込んでの殺菌や洗浄の際の洗浄液注入に耐えられる機械的強度と耐熱性および耐腐食性を有するものを選定することが好ましい。また、培養液中には死んだ細胞が崩壊して生じる微細な細胞断片が多数存在することから、健全な細胞の通過を阻止し、微細な細胞断片を通過させるろ過特性を有するフィルタが特に好ましい。本実施例ではステンレス細線を所定の間隔をあけて円筒状に巻きつけてスリット状の開口部を形成させた金属フィルタを使用している。通常のフィルタでは、阻止しようとする粒子径よりも小さな細孔が多数存在しており、微細な細胞断片をも阻止することによって目詰りの原因となっていた。本フィルタには形成させたスリット以外の細孔は実質的に存在しない。これにより、本フィルタ20ではスリット幅より大きい細胞についてのみ通過を阻止し、スリット幅より小さい細胞断片等の微細な粒子は通過させることができる。スリット幅は培養する細胞の大きさによって決定されるものであり、通常は5〜30μmの範囲で予め回転数と送液速度の検討から決定するのが好ましい。
【0029】
一方、図1に示した培養装置では、上述した分離装置の排出口から排出された培養液がアンモニア除去装置3に導入される。なお、本例では、アンモニア除去装置3を配設した培養装置を例示したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。例えば、細胞生育阻害物質として、培養細胞が培養液中に代謝するアンモニア成分以外には乳酸を例示することができる。従って、本発明を適用した培養装置としては、アンモニア除去装置3に代えてこれら細胞生育阻害物質を除去する除去装置が配設されているものであっても良い。
【0030】
アンモニア除去装置3は、図3に示すように、親水性のゼオライトを、生体細胞の流れを抑制しない程度の間隙を設けて設置した。具体的にアンモニア除去装置3は、ハニカム形状に成形したゼオライト17を、流入口19aと排出口19bを備えた格納容器18に収容したものを、細胞分離装置2から培養槽1への流路上に取り付けた。図3に示すアンモニア除去装置3において、ゼオライト17の断面形状は六角形のものを使用したが、正方形など他の多角形状のものであってもよい。ゼオライト17内部には細胞を浮遊させた培養液が流れるため、細胞の流れを抑制して目詰まりを起こさないような間隙を有する必要があり、格子間ピッチを1〜10mmとするのが好ましい。一般的な粒子状のゼオライトを用いる場合は、格納容器18内にそのまま充填したものでは目詰まりを起こして培養液を流通させることが困難であるため、カラム形状の小型容器に充填したものを、培養液の流通路の間隙を1〜10mmとして格納容器18に収容したものを用いることができる。
【0031】
ゼオライトは、人工的に合成することが可能で、その高い陽イオン交換能によりアンモニウムイオンの吸着量が活性炭より30倍ほど高く排水処理等でも利用が検討されている(小島貞男ほか編著:脱窒・脱燐技術と富栄養化対策,アイピーシー発行(昭和52年9月))。よって、ゼオライトを用いたアンモニア除去装置3は、生体細胞に影響を与えることなく、培養液中ではイオン形態をとるアンモニアを効率的に除去することができる。
【0032】
具体的に、図1に示した培養装置を用いて細胞を培養し、所定の培養期間における生細胞数を測定した。また、比較として、アンモニア除去装置3を配設しない従来の培養装置を用いて通常の回分培養を行い、同様に生細胞数を測定した。具体的に、細胞としてはマウスマウスハイブリドーマであるCRL-1606細胞(American Type Culture Collectionより購入)を用いた。この細胞は抗フィブロネクチン抗体を分泌する浮遊系の細胞である。培養にはIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM培地)に5%濃度になるようにFetal bovine serum(FBS)を添加した培地を用いた。培養装置は内径150mm、培養容積5Lのガラス製円筒型培養槽を用いた。加温用ラバーヒータ、マグネット駆動式撹拌翼、温度測定電極、pH電極、DO電極及びこれらを計測して調節する制御装置が接続されている。液中通気用に、平均細孔径100μmの焼結金属製スパージャを組み込んだ。培養液のpHは培養槽気相部に供給する混合ガス(空気、窒素、酸素、炭酸ガス)中の炭酸ガス濃度を増減させて自動で調節した。また培養液の温度は37℃に調節した。培養液が酸性化した場合には濃度2%の水酸化ナトリウム溶液を注入して調節した。また、溶存酸素濃度については、液面気相部および液中に供給するガスの酸素分圧を増減して調節した。撹拌翼を取り付けた駆動軸を直結した駆動モータで回転数は100rpmで回転させた。培養開始から1日に2〜3回の頻度で培養槽内の培養液を無菌的にサンプリングし、生細胞数を測定した。生細胞数の測定はBeckman Coulter社製の生細胞計数計BioProfile 100Plusを用い、トリパンブルーにより染色した死細胞と区別して画像処理により計数した。
【0033】
結果を図4に示す。図4に示すように、図1に示した培養装置を用いた場合には培養細胞の増殖において良好な培養結果を示した。一方、比較例では、培養液中に蓄積するアンモニアが生体細胞の増殖を阻害する濃度に達した時点で細胞の増殖が抑制された。以上のように、図1に示した培養装置では、アンモニア等の細胞生育増殖阻害物質を除去することで、回分培養における生育に良好な結果をもたらす。流加培養により、培地成分を添加する際に適用することで、長期間の連続培養を継続することが可能となり、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用した培養装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図2】本発明を適用した生体細胞の分離装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図3】本発明を適用した培養装置に使用するアンモニア除去装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明を適用した培養装置と比較例の培養装置を用いて測定した培養期間と生細胞数との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0035】
1…培養槽、2…細胞分離装置、3…アンモニア除去装置、4…計測手段、6…攪拌モータ、20…回転フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞の培養液から生体細胞を分離する分離装置であって、
培養液の流入口と、排出口と、当該流入口から流入した培養液に含まれる細胞を分離するフィルタとを有する分離手段と、
上記分離手段の排出口から排出された培養液が導入され、導入された培養液に含まれる細胞生育阻害物質を培養液から除去する除去手段とを備える生体細胞の分離装置。
【請求項2】
上記分離手段は、上記流入口と上記排出口とを備える容器内に、円筒型回転体の外周面に細胞の通過を阻止するフィルタとを有する回転フィルタを収容したものであることを特徴とする請求項1記載の生体細胞の分離装置。
【請求項3】
上記除去手段は、上記分離手段の排出口と培養槽とを連通する配管上に配設されたことを特徴とする請求項1記載の生体細胞の分離装置。
【請求項4】
上記フィルタは、培養対象の細胞の平均径と略同寸法の開口部を有するものであることを特徴とする請求項2記載の生体細胞の分離装置。
【請求項5】
上記開口部はスリット状であることを特徴とする請求項4記載の生体細胞の分離装置。
【請求項6】
上記除去手段はゼオライトを含み、細胞生育阻害物質としてアンモニア成分を除去することを特徴とする請求項1記載の生体細胞の分離装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項記載の分離装置と、
生体細胞の培養液を充填する培養槽とを備え、
上記分離装置は、生体細胞の培養液から生体細胞を含まないろ過液を分離することを特徴とする培養装置。
【請求項8】
上記分離装置における分離手段の流入口と上記培養槽とが連結されており、上記培養槽内に充填された生体細胞を含む培養液が当該流入口を介して上記回転フィルタの外側に供給されることを特徴とする請求項7記載の培養装置。
【請求項9】
生体細胞の培養液から生体細胞を分離する方法であって、
培養液を生体細胞とろ過液とに分離手段を用いて分離する工程と、
ろ過液を分離した後の培養液に含まれる細胞生育阻害物質を除去手段を用いて除去する工程とを含む生体細胞の分離方法。
【請求項10】
上記分離手段は、流入口と排出口とを備える容器内に、円筒型回転体の外周面に細胞の通過を阻止するフィルタとを有する回転フィルタを収容したものであることを特徴とする請求項9記載の生体細胞の分離方法。
【請求項11】
上記除去手段は、上記分離手段の排出口と培養槽とを連通する配管上に配設されたことを特徴とする請求項9記載の生体細胞の分離方法。
【請求項12】
上記フィルタは、培養対象の細胞の平均径と略同寸法の開口部を有するものであることを特徴とする請求項10記載の生体細胞の分離方法。
【請求項13】
上記開口部はスリット状であることを特徴とする請求項12記載の生体細胞の分離方法。
【請求項14】
上記除去手段はゼオライトを含み、細胞生育阻害物質としてアンモニア成分を除去することを特徴とする請求項9記載の生体細胞の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−72129(P2009−72129A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244823(P2007−244823)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】