説明

生体組織再生用移植材とその製造方法

【課題】 生体組織補填材内部の細部まで血管が成長し、血管内に流通させる血液によって生体組織補填材内部の細胞に栄養分を供給し、生体組織補填材を足場とした細胞の成長を促進して、生体組織の簡易かつ迅速な修復を図る。
【解決手段】 生体適合性のある多孔性材料からなる生体組織補填材2に、幹細胞3または前駆細胞、またはこれらを含む体液を播種してなる生体組織補填体4を、哺乳動物の体内の最終移植部位以外の部位5に埋植して培養してなる生体組織再生用移植材1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織再生用移植材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の生体組織再生用移植材として、例えば、特許文献1に記載されたものが挙げられる。
この生体組織再生用移植材は、血管または人工血管の周囲に多孔性の生体組織補填材および骨髄を混合したものを配置し生体適合性材料からなる膜で包んだ構造のものである。
この生体組織再生用移植材によれば、血管または人工血管内部に流通させる血液等の液体の作用により、血管外部に配置されている骨髄等に栄養分を供給し、生体組織補填材を足場とした細胞の成長を促進し、血行のある生きた状態の生体組織再生用移植材を製造することができる。
また、特許文献1においては、培養骨移植により、良好な異所性骨化の現象を得られるものの、in vitroでの培養に時間を要すること等の課題についても指摘している。
【特許文献1】特開2004−147926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の生体組織再生用移植材は、血管や人工血管等の管状部材の周囲に生体組織補填材と骨髄との混合物を配置し、膜で包み込み、この膜を縫合するなど、作り込む必要がある。このため、移植部位の大きさや形状に合わせた生体組織再生用移植材を製造するには、種々のサイズの管状部材や膜を用意したり、顆粒状の生体組織補填材がこぼれないように縫合したりする手間がかかるという不都合がある。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体組織補填材内部の細部まで血管が成長し、血管内に流通させる血液によって生体組織補填材内部の細胞に栄養分を供給し、生体組織補填材を足場とした細胞の成長を促進することのできる生体組織再生用移植材、およびそのような生体組織再生用移植材をより簡易に製造する製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、生体適合性のある多孔性材料からなる生体組織補填材に、幹細胞または前駆細胞、またはこれらを含む体液を播種してなる生体組織補填体を、哺乳動物の体内の最終移植部位以外の部位に埋植して培養してなる生体組織再生用移植材を提供する。
【0006】
本発明によれば、哺乳動物の体内に埋植することにより体内の血管形成を促進する物質によって刺激されることにより、多孔性の生体組織補填材の気孔を貫通して内部にまで血管が新生し、生体組織の形成を促すために必要な栄養分や成長因子などを生体組織補填材の内部にまで供給可能な血管を有する生体組織再生用移植材が提供される。
生体組織補填体の内部に血管を新生させるので、入り組んだ気孔内にも血管が配置され、生体組織補填体内部の細部にまで、栄養分や成長因子などを供給可能な構造を有する生体組織再生用移植材を提供することができる。
【0007】
そして、本発明の生体組織再生用移植材によれば、血管を通して必要な栄養分や成長因子などを生体組織補填材内部の幹細胞等の細胞に供給することにより、細胞を生体組織補填材の内側から成長させることができるため、比較的大きな移植部位にも適用可能である。また、最終的な移植部位に移植された後には、生体組織再生用移植材内の血管と移植部位に存在する血管とが結合して、生体組織補填材内部の細胞への栄養分や成長因子の供給が促進されるので、移植部位をより迅速に再生することができる。
【0008】
特に、最終的な移植部位が、骨内部のような血管がもともと少ない箇所である場合には、生体組織補填体を直接移植するよりも、血管付きの生体組織再生用移植材を移植する方が、より迅速に生体組織の再生を行うことができる。
【0009】
また、本発明は、生体適合性のある多孔性材料からなる生体組織補填材に、幹細胞または前駆細胞、またはこれらを含む体液を播種してなる生体組織補填体を、哺乳動物の体内の最終移植部位以外の部位に埋植して培養する生体組織再生用移植材の製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、生体組織補填体を哺乳動物の生体内に埋植することで、必要な培養条件が適度に維持される。したがって、培養条件の管理や設備を簡略化することができる。また、生体組織補填体の内部に血管を新生させるので、管状部材の周囲に生体組織補填材を作り込む必要がなく、最終的な移植部位の形態に合わせて生体組織補填材を成形するだけで足りるため、より簡易に生体組織再生用移植材を製造することができる。
【0011】
製造された生体組織再生用移植材は、多孔性の生体組織補填材の気孔を貫通して新生された血管を備えており、血液を介して栄養分や成長因子等を生体組織補填体内部の細部にまで浸透させることができる。その結果、比較的大きな移植部位にも適用可能な生体組織再生用移植材とすることができるとともに、最終移植部位への移植後には、生体組織補填材内部の細胞への栄養分や成長因子の供給が促進され、移植部位をより迅速に再生することができる。
【0012】
上記発明においては、哺乳動物の体内の血管を有する組織内またはその近傍に埋植することが好ましい。
このようにすることで、埋植部位に豊富に存在する血管の新生に必要な物質の作用によって、血管の新生が促され、より迅速に生体組織再生用移植材を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、入り組んだ気孔内にも血管が配置され、生体組織補填体内部の細部にまで、栄養分や成長因子などを供給可能な構造を有する生体組織再生用移植材を提供することができる。その結果、移植前の培養工程においても、あるいは、移植後においても、細胞の迅速な成長を促進して、生体組織を迅速に再生することができるという効果を奏する。
また、本発明によれば、生体組織補填体の内部に血管を新生させるので、管状部材の周囲に生体組織補填材を作り込む必要がなく、最終的な移植部位の形態に合わせて生体組織補填材を成形するだけで、より簡易に生体組織再生用移植材を製造することができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る生体組織再生用移植材とその製造方法について説明する。
本実施形態に係る生体組織再生用移植材1は、例えば、最終的な移植部位として、骨組織に形成された欠損部に移植されるものであって、図1に示されるように、(a)生体適合性を有する多孔性材料からなる骨補填材(生体組織補填材)2、例えば、βリン酸三カルシウム(β−TCP)多孔体ブロックに、(b)間葉系幹細胞3を播種して骨補填体(生体組織補填体)4を製造し、(c)製造された骨補填体4を最終的な移植部位以外の哺乳動物の皮下、例えば、真皮組織5に埋植し、(d)所定期間にわたり培養した後に、(e)皮下から取り出すことにより製造される。
【0015】
哺乳動物の皮下に埋植された状態で所定期間にわたり培養されることにより、骨補填体4内部においては、哺乳動物の皮下に存在する物質によって、血管の新生が促される。その結果、骨補填材2の有する入り組んだ気孔を貫通して、骨補填体4の内部に浸透するように延びる血管6が形成された生体組織再生用移植材1が製造されることになる。
【0016】
本実施形態に係る生体組織再生用移植材1の製造方法によれば、哺乳動物の皮下に埋植して培養することにより、哺乳動物の体温および湿度によって必要な培養条件が、簡易にかつ適度に維持される。したがって、培養条件を管理するための設備や、その管理を簡略化することができ、手間をかけずに製造することができるという利点がある。
【0017】
また、真皮組織5のように血管が多く存在する組織に埋植することにより、骨補填体4の周囲に血管6の新生を促進する物質を豊富に存在させることができる。その結果、骨補填体4内部において血管6の新生が促進される。そして、培養途中において骨補填体4内部に血管6が形成されると、該血管6を通して、栄養分や成長因子が骨補填体4内部の間葉系幹細胞3に供給され始めるので、骨補填材2を足場とした間葉系幹細胞3の成長および骨芽細胞への分化、骨基質の形成が促進される。したがって、間葉系幹細胞3が十分に成長した状態の生体組織再生用移植材1を迅速に製造することができる。
【0018】
特に、骨補填材2が比較的大きな場合には、栄養分や成長因子を外面から供給するだけでは、栄養分や成長因子が行き渡らない内部において間葉系幹細胞3が壊死してしまったり、間葉系幹細胞3の成長が外面から行われるのみであるために、内部まで十分に間葉系幹細胞3が成長するまでに時間がかかったりする不都合があるが、本実施形態に係る生体組織再生用移植材1の製造方法によれば、骨補填材2内部の間葉系幹細胞3にまで栄養分や成長因子を行き渡らせて、その成長を促進し、内部まで十分に間葉系幹細胞3を成長させた生体組織再生用移植材1を簡易かつ迅速に製造することができる。
【0019】
このようにして製造された本実施形態に係る生体組織再生用移植材1によれば、最終的な移植部位である骨欠損部に移植されることにより、生体組織再生用移植材1の有する血管6と、移植部位に存在する血管とが結合して、生体組織再生用移植材1内への栄養分や成長因子の供給が行われ、骨形成が迅速に行われることになる。その結果、生体組織再生用移植材1を移植した骨欠損部を迅速に修復することができるという効果がある。
特に、骨組織にはもともと存在する血管が少ないため、単に骨補填体4を補填した場合と比較して、本実施形態に係る生体組織再生用移植材1を移植した場合の方が、骨形成の開始までに要する時間が短縮され、骨欠損部を迅速に修復することができる。
【0020】
なお、本実施形態に係る生体組織再生用移植材1とその製造方法においては、細胞として間葉系幹細胞3を採用したが、これに代えて、骨髄由来の幹細胞、海綿骨組織由来の幹細胞、脂肪由来の幹細胞、臍帯血由来の幹細胞または胎盤由来の幹細胞、胚性幹細胞等の幹細胞、骨髄液、臍帯血、胎盤または末梢血等の幹細胞を含む細胞外液、前記各幹細胞を骨分化培地で分化させた骨芽細胞等の前駆細胞、前記各幹細胞と末梢血との組み合わせ、前記各幹細胞と前記骨芽細胞との組み合わせ、前記各幹細胞と末梢血と骨芽細胞との組み合わせからなるものを採用してもよい。
【0021】
また、生体組織補填材2としては、β−TCP多孔体に代えて、ハイドロキシアパタイト等の他のリン酸カルシウム系材料、ポリ乳酸やポリグリコール酸等の生体吸収高分子材料、またはリン酸カルシウム系材料と生体吸収高分子材料との複合材料、SUS316、アルミナ、ジルコニアまたはチタンのような金属材料、または、アルミナ−ジルコニア複合体等の金属材料の複合材料を採用してもよい。
【0022】
また多孔性材料としては、多孔体ブロックの他に、ハニカム体や顆粒等を採用してもよい。また、立方体ブロックの他に、直方体ブロック、円柱状ブロックを採用してもよい。多孔性材料としては気孔率が20〜90%、気孔径が数十〜数千μmのマクロ気孔およびこのマクロ気孔と連通した気孔径数μmのミクロ気孔とを有する多孔質構造をもったものが好ましい。
【0023】
また、哺乳動物の皮下に埋植する前の骨補填体4をCOインキュベータ内において最大7日間にわたり培養してもよい。そして、この培養時に、血管内皮細胞増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、アンジオポエチン様増殖因子または多血小板血漿等の増殖因子を添加してもよい。
【0024】
また、骨補填体4を埋植する哺乳動物の生体内部位としては、皮下の他に、筋肉内、骨膜近傍、背部、腹部、腕、足等を選択することができる。
また、哺乳動物の皮下に埋植した状態での培養期間は、例えば、4週間程度であることが好ましい。
また、最終的な移植部位としては、骨組織の他、筋肉組織等、任意の組織に適用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本実施形態に係る生体組織再生用移植材1の製造方法の実施例について、図2〜図5を参照して説明する。
[第1実施例]
5×5×3mmの直方体ブロック状のβ−TCP多孔体からなる骨補填材に、骨髄液を播種して構成された骨補填体を、ヌードラットの背部の筋肉内に埋植した結果を図2に示す。
図2(a)は背部の皮下に埋植された骨補填体、同図(b)は、埋植後2週間経過後の顕微鏡写真である。これによれば、埋植された骨補填体の内部に血管組織が形成されていることがわかった。図2(b)中の矢印が新生された血管を指し示している。
【0026】
[第2実施例]
5×5×3mmの直方体ブロック状のβ−TCP多孔体からなる骨補填材に、骨髄液から分離した間葉系幹細胞を播種して構成された骨補填体を、間葉系幹細胞培養用培地を用いて1週間COインキュベータ内において培養した。培養後、ヌードラットの背部の皮下に埋植した結果を図3に示す。
図3(a)は背部の皮下に埋植された骨補填体、同図(b)は、埋植後2週間経過後の顕微鏡写真である。これによれば、埋植された骨補填体の内部に血管組織が形成されていることがわかった。図3(b)中の矢印が新生された血管を指し示している。
【0027】
[第3実施例]
5×5×3mmの直方体ブロック状のβ−TCP多孔体からなる骨補填材に、骨髄液から分離した間葉系幹細胞を播種して構成された骨補填体を、骨分化培地を用いて1週間COインキュベータ内において培養した。培養後、ヌードラットの背部の皮下に埋植した結果を図4に示す。
図4(a)は背部の皮下に埋植された骨補填体、同図(b)は、埋植後2週間経過後の顕微鏡写真である。これによれば、埋植された骨補填体の内部に血管組織が形成されていることがわかった。図4(b)中の矢印が新生された血管を指し示している。
【0028】
[第4実施例]
5×5×3mmの直方体ブロック状のβ−TCP多孔体からなる骨補填材に、骨髄液から分離した間葉系幹細胞を骨分化培地を用いて分化させた骨芽細胞を播種し、骨分化培地を用いて1週間COインキュベータ内において培養した。培養後、ヌードラットの背部の皮下に埋植した結果を図5に示す。
図5(a)は背部の皮下に埋植された骨補填体、同図(b)は、埋植後2週間経過後の顕微鏡写真である。これによれば、埋植された骨補填体の内部に血管組織が形成されていることがわかった。図5(b)中の矢印が新生された血管を指し示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織再生用移植材の製造方法を説明する工程図である。
【図2】図1の実施形態に係る製造方法により製造された第1実施例に係る生体組織再生用移植材を示す写真である。
【図3】図1の実施形態に係る製造方法により製造された第2実施例に係る生体組織再生用移植材を示す写真である。
【図4】図1の実施形態に係る製造方法により製造された第3実施例に係る生体組織再生用移植材を示す写真である。
【図5】図1の実施形態に係る製造方法により製造された第4実施例に係る生体組織再生用移植材を示す写真である。
【符号の説明】
【0030】
1 生体組織再生用移植材
2 骨補填材(生体組織補填材)
3 間葉系幹細胞(幹細胞)
4 骨補填体(生体組織補填体)
5 真皮組織(血管を有する組織)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性のある多孔性材料からなる生体組織補填材に、幹細胞または前駆細胞、またはこれらを含む体液を播種してなる生体組織補填体を、哺乳動物の体内の最終移植部位以外の部位に埋植して培養してなる生体組織再生用移植材。
【請求項2】
生体適合性のある多孔性材料からなる生体組織補填材に、幹細胞または前駆細胞、またはこれらを含む体液を播種してなる生体組織補填体を、哺乳動物の体内の最終移植部位以外の部位に埋植して培養する生体組織再生用移植材の製造方法。
【請求項3】
哺乳動物の体内の血管を有する組織内またはその近傍に埋植する請求項2に記載の生体組織再生用移植材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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