説明

生体組織再生用管状医療材料

【課題】小口径であっても耐キンキング性に優れ、内部を流れる液体の流れを阻害せず、生体組織の再生を促進し得る生体組織再生用管状医療材料を提供すること。
【解決手段】本発明の生体組織再生用管状医療材料は、生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸とを、交互に、又は、適当な比率で組み合わせ配置して組み紐状または筒編み状の組織で筒体に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、気管、消化管、尿管、卵管、胆管等の組織再生足場や神経再生を誘導するために使用される生体組織再生用管状医療材料の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体組織の再生には、生体組織が再生するまでの間、周囲からの組織侵入を防ぐとともに、組織再生の足場としての材料が必要となる。このような足場材料は、組織が再生した後では再生した組織や周囲組織を損傷してしまう恐れがあるため、組織再生後すみやかに生体内で分解、吸収されることが望ましい。
近年、再生医療分野においては、生体吸収性材料を利用した研究が大きく進展している。そして、再生医療技術によって再生することが期待されている生体組織には、血管や胆管など管状構造を有する組織がある。また、切断された神経が管状構造の材料を介して再生されるという研究があり、神経再生用の材料も管状構造が必要とされている。
【0003】
従来、血管再生用足場材料としては、生体吸収性高分子からなる管状構造を有する多孔性材料がある(例えば、特許文献1参照)。
また、管状体の管腔内に合成生体吸収性高分子からなるファイバー(繊維束)を含む神経再生用チューブ(特許文献2)や、脂肪族ポリエステルの繊維構造体からなる円筒体と、脂肪族ポリエステルの繊維構造体からなる綿との複合材料(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−78750号公報
【特許文献2】特開2005−143979号公報
【特許文献3】特開2007−222277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された材料は、組織再生後、生体内で分解、吸収されるが、小口径血管や胆管、神経再生用チューブなど、口径が小さな管状材料に適用すると、変形(キンキング)し易く、キンキングを起こすと、材料内部の空間がなくなり、血液や胆汁の流れが完全に遮断され、また神経組織が再生する場がなくなってしまうことから、組織が再生されないという問題があった。即ち、血管や胆管は、その内部を血液、胆汁という液体が流れていることから、組織再生用の足場材料がキンキングを起こすと、血液や胆汁の流れを阻害することとなり、細胞や栄養成分の供給が止まり、その結果として組織が再生されない。また、神経再生用の材料として用いた場合、材料がキンキングを起こすと内部の空間がなくなることから、神経組織が再生されない。
【0006】
特許文献2及び特許文献3の材料は、上記したキンキングを防止するために提案されたものであるが、特許文献2のものは、管腔内にファイバー(繊維束)が存在するために血管や胆管など、内部に液体が流れる組織再生には利用できない。また、特許文献4のものは、円筒体内に脂肪族ポリエステルの繊維構造体からなる綿が存在するため、内部に液体が流れる組織再生に利用すると、血液や胆汁の流れを阻害するため、細胞や栄養成分の供給が低下し、その結果、組織の再生が不可能となる。その上、この円筒体は、軸方向に連続する蛇腹状であるため、構造が複雑であり、作製が困難となる等の問題点がある。
【0007】
本発明は、従来技術の上記問題点を克服するために提案されたもので、小口径であっても耐キンキング性に優れ、内部を流れる液体の流れを阻害せず、生体組織の再生を促進し得る生体組織再生用管状医療材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明の生体組織再生用管状医療材料は、生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸とを交互に、又は、適当な比率で組み合わせ配置して組み紐状または筒編み状の組織で筒体に構成されていることを特徴としている。
この構成によれば、筒体内部を空洞とできるため、生体組織の再生のための液体の流れを阻害せず、しかも、太いモノフィラメントからなる第2の糸によって筒体の耐キンキング性を向上させることができると共に、細い糸の集合体であるマルチフィラメントよりなる第1の糸によって材料の壁が密になり、細胞が接着し易くなることから生体組織の再生を促進させることができる。また、管腔内部の液体が漏れることも防止できる。そして、第1の糸及び第2の糸は、ともに生体吸収性高分子で構成されているため、生体組織の再生後、生体に分解、吸収される。
【0009】
なお、仮に、モノフィラメントからなる第2の糸だけで筒体を構成した場合では、十分な耐キンキング性は得られるが、太いモノフィラメント糸同士の編組組織からなる筒体の内外表面には細胞が接着しにくく、その結果、生体組織の再生が困難になるのみならず、材料の編み目が大きいために材料周囲から細胞、組織が内部に侵入し、組織の再生を妨げてしまうことにもなる。また、マルチフィラメントよりなる第1の糸だけで筒体を構成した場合では、細い糸の集合体であるマルチフィラメント同士の編組組織からなる筒体の内外表面には、細胞が接着し易くなって生体組織の再生を促進させることができ、また、材料周囲から細胞、組織が内部に侵入することを防ぐことができる。反面、柔軟性に富むために却って、キンキングが起こりやすくなる不具合がある。そこで、本発明は、第1の糸と第2の糸とを組み合わせて筒体を構成することにより、両糸の短所を補い長所を活かして、小口径であっても内部を流れる液体の流れを阻害せず、また、材料からの液漏れを防ぐことができ、耐キンキング性に優れた生体組織再生用管状医療材料を提供することができるようにしたものである。
【0010】
前記筒体は、湾曲率90%以上の耐キンキング性を有していることが望ましい。また、前記マルチフィラメントよりなる第1の糸の集束径は、前記モノフィラメントからなる第2の糸と同径乃至ほぼ同径とされている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小口径であっても管状医療材料のキンキングが防止され、血液、神経繊維、胆汁の移動がキンキングにより停滞することがなく、生体組織の再生が期待通り進むことが期待できる。即ち、耐キンキング性に優れ、内部を流れる液体の流れを阻害せず、生体組織の再生を促進し得る生体組織再生用管状医療材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る生体組織再生用管状医療材料の側面図である。
【図2】図1の材料の組織拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る生体組織再生用管状医療材料の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明に係る生体組織再生用管状医療材料は、図1及び図2に示すように、生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸1と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸2とを、交互に組み合わせ配置して筒体3を構成している。
前記第1の糸1及び第2の糸2を構成している生体吸収性高分子としては、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコリドーラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリドーεーカプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)ーεーカプロラクトン共重合体、ポリ(p−ジオキサノン)、グリコリドーラクチド(D、L、DL体)ーεーカプロラクトンラクチド(D、L、DL体)共重合体から選択される少なくとも1種とされ、これをモノフィラメント糸と、マルチフィラメント糸として加工して使用される。
【0014】
マルチフィラメントの直径は、例えば、0.01〜0.05mm程度とされ、モノフィラメントの直径は、0.05mm〜1.5mm程度とされ、使用する生体管路の種類、径によって適切なフィラメント径が選定される。例えば、直径が3mm以下の材料を作製する場合には、モノフィラメントの直径は0.5mm以下が好ましい。この場合、マルチフィラメントよりなる第1の糸1の集束径は、モノフィラメントからなる第2の糸2と同径乃至ほぼ同径となるように設定される。
前記モノフィラメント及びマルチフィラメントの断面は、円、楕円、その他の異形(例えば星形)などの何れであってもよい。さらに、モノフィラメント及びマルチフィラメントの表面は、プラズマ放電、電子線処理、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理等により親水化処理してもよい。また、前記両フィラメントは、X線不透過材(例えば、硫酸バリウム、金チップ、白金チップ等)の塗布又は含浸処理や、薬剤(例えば、抗血小板剤、抗血栓剤、平滑筋増殖抑制剤)の付着処理、コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の合成高分子でコーティング処理してもよい。
【0015】
前記筒体3は、第1の糸1と第2の糸2とを、所望される外径のシリコーン製ゴム管(図示省略)の回りに複数(例えば、8口又は12口)の給糸口をもつ組紐機の給糸口に交互に配置(給糸)して組み紐状織物に製作され、或いは、丸編機(図示省略)で円筒編み目状組織に編成される。編成後、第1の糸1と第2の糸2との編み目の交点位置は、そのままでもよく、接合固定してもよい。接合は、溶剤の塗布により、或いは、溶着、融着、接着剤による接着等によって行うことができる。さらに、上記筒体3の製作後、熱セットが行われる。熱セットの条件は、使用される高分子のガラス転移点以上融点以下の温度で30分〜24時間程度とされる。筒体3の両端の糸端は、端末同士を溶着、融着、接着剤による接着等でつなぎ合わされる。このつなぎ合わせ位置は、交差する糸の交点とされる。
【0016】
実施例1
ポリ乳酸マルチフィラメント(37.5デニール、16フィラメント)12口と、乳酸カプロラクトン共重合体モノフィラメント(直径0.05mm)12口を外径2mmのシリコンチューブを芯材として組み紐処理を行い、組み紐を製作した。製作後、熱セットを行い、シリコンチューブの芯材を抜き去ることにより、内径2mmの筒体3を製造した。この筒体3の湾曲率は93.3%であった。
比較例として、ポリ乳酸マルチフィラメント(37.5デニール、16フィラメント)24口として作製したチューブがあり、前記本発明に係る実施例とこの比較例との湾曲率は下記の表1に示す通りである。
【0017】
【表1】

【0018】
なお、湾曲率は、サンプルを3cmの長さに切断し、このサンプルの両端から徐々に力を加えて筒体をU字状に湾曲させていき、完全に折れ曲がった時のサンプル両端の距離(Wcm)を測定し、これを以下の計算式にあてはめたものである。
湾曲率(%)=(1−W/3)×100
本発明の実施形態は、以上の構成からなり、次に、その作用効果を説明する。
本発明に係る生体組織再生用管状医療材料は、生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸1と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸2とを交互に、又は、適当な比率で組み合わせ配置して組み紐状または筒編み状の組織で筒体3に構成されていることを特徴としている。
【0019】
この構成によれば、筒体3の内部を空洞とでき、液体の流れを阻害するものをなくすことができ、しかも、モノフィラメントからなる第2の糸2によって筒体3の耐キンキング性を向上させることができると共に、マルチフィラメントよりなる第1の糸1によって材料の壁が密になり、細胞が接着し易くなることから生体組織の再生を促進させることができる。また、管腔内部の液体が漏れることも防止できる。そして、第1の糸1及び第2の糸2は、ともに生体吸収性高分子で構成しているため、生体組織の再生後、生体に分解、吸収される。
【0020】
本発明に係る生体組織再生用管状医療材料の実施形態の構成と作用効果は、以上であるが、本発明は、この実施形態にのみ制約されるものではなく、種々変更して実施することができる。例えば、生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸1と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸2とを、交互に組み合わせ配置することに代えて、両糸1,2を適当な比率で組み合わせ配置して組み紐状または筒編み状の組織で筒体3に構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、再生血管、再生神経、再生胆管など、小口径の管状組織の再生に好適な医療材料として用いられる。
【符号の説明】
【0022】
1 マルチフィラメントよりなる第1の糸
2 モノフィラメントからなる第2の糸
3 筒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性高分子のマルチフィラメントよりなる第1の糸と、生体吸収性高分子のモノフィラメントからなる第2の糸とを、交互に、又は、適当な比率で組み合わせ配置して組み紐状または筒編み状の組織で筒体に構成されていることを特徴とする生体組織再生用管状医療材料。
【請求項2】
前記筒体は、湾曲率90%以上の耐キンキング性を有していることを特徴とする請求項1に記載の生体組織再生用管状医療材料。
【請求項3】
前記マルチフィラメントよりなる第1の糸の集束径は、前記モノフィラメントからなる第2の糸と同径乃至ほぼ同径とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体組織再生用管状医療材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−240200(P2010−240200A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93017(P2009−93017)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】