説明

生体組織処理装置及び生体組織処理方法

【課題】消化液中の細胞がメッシュ状部材に接触することを防ぎ、細胞の健全性を維持する。
【解決手段】生体組織Aを含む処理液Bを収容する処理容器2を備え、処理容器2には、処理後の処理液Bを排出させる排出部5と、処理容器2内の排出部5を覆う位置に設けられ、処理後の生体組織Aを捕捉するとともに処理液Bを通過させるフィルタ部材10と、生体組織Aを処理液Bにより処理する際に、フィルタ部材10が、処理液Bに触れないよう制御する制御手段とを備える生体組織処理装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理装置及び生体組織処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織の通過を禁止し、処理液および生体組織から単離された細胞の通過を許容するメッシュ状部材によって区画された2つの空間を有する生体組織処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1に開示されている生体組織処理装置は、生体組織と、洗浄液あるいは消化液のような処理液を上部空間内に供給し、攪拌することによって、生体組織を処理して細胞を単離させるようになっている。そして、生体組織を処理した後の処理液は、メッシュ状部材を介して下部空間内に入り、下部空間に設けられた排出口から排出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている生体組織処理装置は、メッシュ状のフィルタ部材によって上部空間と下部空間が仕切られているものや、フィルタ部材で構成されたかご状部材が内蔵されているものである。このため、上部空間や、かご状部材内に存在する生体組織を処理する工程においては、処理液中に分散された生体組織がフィルタ部材に接触することとなるため、生体組織(細胞)に対して損傷を受けやすいという不都合がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、処理工程中に処理液中の生体組織がフィルタ部材に接触することを防ぎ、細胞を健全な状態に維持することができる生体組織処理装置及び生体組織処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を含む処理液を収容する処理容器を備え、該処理容器には、処理後の処理液を排出させる排出部と、前記処理容器内の前記排出部を覆う位置に設けられ、処理後の前記生体組織を捕捉するとともに前記処理液を通過させるフィルタ部材と、前記生体組織を前記処理液により処理する際に、前記フィルタ部材が、前記処理液に触れないよう制御する制御手段とを備える生体組織処理装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体組織が、処理液により処理される際には、フィルタ部材が、前記処理液に触れないように制御される。これにより、処理時においては、生体組織を含む処理液がフィルタ部材に接触しないため、生体組織には、フィルタ部材による剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
また、処理時に、生成された細塊がフィルタ部材に付着することもないため、細塊がフィルタ部材の透孔を閉塞することによる目詰まりの発生を防ぐことができる。
【0008】
上記発明においては、前記制御手段は、該処理容器の角度を変更させる反転機構を備え、該反転機構は、前記生体組織を前記処理液により処理する際には、前記フィルタ部材を前記処理液の液面の上方に配置させ、前記処理液の排出時には、前記フィルタ部材が前記処理液内に配置させるよう該処理容器の角度を変化させることとしてもよい。
【0009】
このようにすることで、生体組織が、処理液により処理される際には、反転機構の作動により、処理容器の角度が変化させられて、フィルタ部材が、前記処理液の液面の上方に配置される。これにより、処理時においては、生体組織を含む処理液がフィルタ部材に接触しないため、生体組織には、フィルタ部材による剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
そして、処理液の排出時には、反転機構の作動により、処理容器の角度が変化させられて、フィルタ部材が処理液内に配置され、排出部を介して処理後の処理液を排出させると、排出部を覆うフィルタ部材によって処理後の生体組織が捕捉される一方、容易かつ迅速に排液を排出することができる。
【0010】
上記発明においては、前記制御手段は、前記フィルタ部材の上面を覆う位置に配置され、該処理容器の前記排出部を開閉させる開閉機構を備え、前記開閉機構は、前記生体組織の処理時には閉鎖され、前記処理液の排出時には開放されることとしてもよい。
【0011】
このようにすることで、生体組織の処理時には、開閉機構の作動により、フィルタ部材の上面が閉鎖されている。これにより、処理時においては、生体組織を含む処理液がフィルタ部材に接触しないため、生体組織には、フィルタ部材による剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
そして、処理液の排出時には、開閉機構の作動により、フィルタ部材の上面が開放され、排出部を介して処理後の処理液を排出させる。これにより、排出部を覆うフィルタ部材によって処理後の生体組織が捕捉される一方、容易かつ迅速に排液を排出させることができる。
【0012】
本発明は、処理容器内部に投入された生体組織を処理液により処理する組織処理工程と、該組織処理工程における処理後の処理液を回収する組織回収工程とを有する生体組織処理方法であって、前記組織処理工程は、処理後の前記生体組織を捕捉するとともに前記処理液を通過させるフィルタ部材が、該処理液に触れないようにして行われる生体組織処理方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、組織処理工程では、フィルタ部材が処理液に触れないため、生体組織にはフィルタ部材による剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
また、処理時に生成された小塊がフィルタ部材に付着することもないため、小塊がフィルタ部材の透孔を閉塞することによる目詰まりの発生を防ぐことができる。
そして、組織回収工程では、処理液を、フィルタ部材を介して排出部から排出させるため、フィルタ部材によって処理後の生体組織が捕捉される一方、容易かつ迅速に排液を排出させることができる。
【0014】
上記方法においては、前記組織処理工程は、前記フィルタ部材を前記処理液の液面の上方に配置するよう前記処理容器を傾斜させ、前記組織回収工程は、前記フィルタ部材を前記処理液内に配置するよう前記処理容器を傾斜させて行われることとしてもよい。
組織処理工程では、処理容器の角度が変化させられて、フィルタ部材が処理液の液面の上方に配置される。これにより、生体組織を含む処理液がフィルタ部材に接触しないため、生体組織には、フィルタ部材による剪断応力が作用せず、簡易な操作で、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
そして、組織回収工程では、処理容器の角度が変化させられて、フィルタ部材を処理液内に配置される。これにより、フィルタ部材を介して排出部から処理液を排出させると、フィルタ部材によって処理後の生体組織が捕捉される一方、容易かつ迅速に処理液を回収することができる。
【0015】
上記方法においては、前記組織処理工程は、前記フィルタ部材の上面を閉鎖することにより行われ、前記組織回収工程は、前記フィルタ部材の上面を開放して行われることとしてもよい。
組織処理工程では、フィルタ部材の上面を閉鎖されるため、生体組織を含む処理液がフィルタ部材に接触しない。これにより、生体組織には、フィルタ部材による剪断応力が作用せず、簡易な操作で、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。
そして、組織回収工程では、フィルタ部材の上面が開放され、フィルタ部材を介して排出部から処理液を排出させる。これにより、処理後の生体組織が捕捉される一方、容易かつ迅速に処理液を回収することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、処理工程中に処理液中の生体組織がフィルタ部材に接触することを防ぎ、細胞の健全性を維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞処理装置を示す全体構成図であって、(a)処理容器を初期ポジションに配置した場合、(B)処理容器を反転ポジションに配置した場合を示す図である。
【図2】図1の変形例に係る細胞処理装置を示す全体構造図であって、(a)処理容器を初期ポジションに配置した場合、(B)処理容器を反転ポジションに配置した場合を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置を示す全体構成図であって、(a)開閉機構の作動により、フィルタ部材の上面が開放されている場合、(B)フィルタ部材の上面が閉鎖されている場合を示す図、および(c)フィルタ部材の開閉動作を説明する、処理容器を上方から見た場合の断面図である。
【図4】図1および図3の細胞処理装置により実行される細胞処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【図5】図1の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、チュメッセント排液工程を示すフローチャートである。
【図6】図1の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、組織洗浄工程を示すフローチャートである。
【図7】図1の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、組織消化工程を示すフローチャートである。
【図8】図1の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、細胞液分離工程を示すフローチャートである。
【図9】図3の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、チュメッセント排液工程を示すフローチャートである。
【図10】図3の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、組織洗浄工程を示すフローチャートである。
【図11】図3の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、組織消化工程を示すフローチャートである。
【図12】図3の細胞処理装置により実行される細胞処理のうち、細胞液分離工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る生体組織処理装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織処理装置1は、図1(a)に示されるように、生体組織Aを含む処理液Bを収容する処理容器2を備えている。
【0019】
処理容器2は、処理後の処理液Bを排出させる排出部5と、生体組織Aを投入する生体組織供給部6と、処理液Bを供給する処理液供給部7と、排出部5を覆う位置に設けられ、処理後の生体組織Aを捕捉するとともに処理液Bを通過させるメッシュ状部材(フィルタ部材)10と、生体組織Aを処理液Bにより処理する際に、メッシュ状部材10が、処理液Bに触れないよう制御する制御手段(図示せず)とを備えている。そして、この制御手段は、処理容器2を軸線Cを中心として任意の角度に反転させる回転軸3(反転機構)を備えている。図中、符号4は、処理容器2内の生体組織Aおよび処理液Bを所定温度に加温するヒータを示す。
【0020】
メッシュ状部材10は、多数の透孔10aを有している。これらの透孔10aは、生体組織Aより小さく、かつ、生体組織Aから単離された細胞より大きな口径を有している。したがって、生体組織Aから単離された細胞および、処理液Bなどの液体成分は、メッシュ状部材10を介して自由に移動することが出来るが、生体組織A自体あるいは生体組織Aから分離された透孔10aよりも大きな生体組織Aの小塊については通過ができないようになっている。
【0021】
排出部5には、チューブ8が接続され、チューブ8にはチューブ8を開閉する第1のバルブ11と、排液を貯蔵する排液バッグ12が設けられている。また、処理液供給部7には、チューブ9が接続され、チューブ9にはチューブ9を開閉する第2のバルブ13と、処理液Bを貯蔵する処理液バッグ14が設けられている。
【0022】
処理容器2は、軸線Cを中心として傾斜させて処理容器2を反転させる回転軸3(反転機構)を備えている。これにより、処理容器2は、図1(B)に示すように、回転軸3の軸線Cを中心に360°回転させることができる。このようにすることで、メッシュ状部材10を処理液Bの液面の上方に配置させることができる。また、処理容器2を軸線C周りに180°回転させることにより、メッシュ状部材10が、処理液B内となるよう配置させることもできる。以下、メッシュ状部材10が処理液Bの液面の上方となるよう配置された処理容器2の配置を初期ポジション、メッシュ状部材10が、処理液B内となるよう配置された処理容器2の配置を反転ポジションと呼ぶ。
【0023】
処理容器2は、回転軸3を回転させることにより任意の角度に傾斜させられるようになっている。図1(a)には、初期ポジションを、また、図1(B)には、回転軸3を初期ポジションから軸線Cまわりに180°回転させて、反転ポジションとした場合が示されている。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る生体組織処理装置1の作用について、以下に説明する。本実施形態に係る生体組織処理装置1を用いた生体組織Aの処理工程の流れを図4〜8に示すフローチャートを用いて以下に説明する。図4は、本実施形態に係る細胞処理装置により実行される細胞処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0025】
〔チュメッセント排液工程〕
図5は、図4に示す細胞処理工程のうち、チュメッセント排液工程を示すフローチャートである。
まず、初期ポジションに配置された状態で(ステップS1)、生体組織供給部6から生体組織Aを処理容器2内に供給する(ステップS2)。次に生体組織供給部6の蓋を閉鎖する(ステップS3)。供給された生体組織Aには、生体組織Aを患者から吸引する際に予め患者の体内に注入されたチュメッセント液が混合されている。よって、この混合物から生体組織Aのみを抽出させるため、第1のバルブ11および第2のバルブ13を閉止した状態で制御手段からの指令により回転軸3を反転させ、処理容器2を反転ポジションとする(ステップS4)。
【0026】
処理容器2が反転ポジションに配置されると、生体組織Aはメッシュ状部材10の上方に配置される。チュメッセント液等の液体成分は、透孔10aよりも小さいため、メッシュ状部材10を介して自由に移動することができるが、生体組織Aは透孔10aよりも大きいため、メッシュ状部材10を通過できない。よって、メッシュ状部材10の上方には、生体組織Aが残存し、メッシュ状部材10の下方には、チュメッセント液が流れ出ることとなる。
【0027】
この状態のまましばらく静置させると(ステップS5)、生体組織Aの間隙に混合されているチュメッセント液は、メッシュ状部材10の透孔10aを介して下方に流出する。その後、第1のバルブ11を開放すると、チュメッセント液は、排出部5からチューブ8を通じて排液バック12に排出される(ステップS6)。チュメッセント液が完全に排出されたことを確認した後に、制御手段からの指令により回転軸3を再度反転させ、処理容器2を初期ポジションに戻す(ステップS7)。
【0028】
〔組織洗浄工程〕
次に、生体組織Aに付着している異物や、生体組織A内に含有されている血液を除去するために洗浄を行う。
図6は、図4に示す細胞処理工程のうち、組織洗浄工程を示すフローチャートである。
まず、処理容器2を初期ポジションとした状態で、第1のバルブ11を閉止し、第2のバルブ13を開放する。そして、処理液供給部7から処理液(以下、洗浄液とも言う。)Bを供給する(ステップS8)。処理液供給部7から供給された洗浄液Bは、メッシュ状部材10の透孔10aを介して、生体組織Aが収容されているメッシュ状部材の下方の空間に供給される。
【0029】
この後、回転軸3または図示しない撹拌手段を作動させ、処理容器2の内部に収容されている生体組織Aと洗浄液Bとを所定時間撹拌させて、生体組織Aを洗浄する(ステップS9)。その後、制御手段からの指令により回転軸3を反転させ、処理容器2を反転ポジションとした後(ステップS10)、しばらく静置させる(ステップS11)。
【0030】
処理容器2は反転ポジションとされているので、洗浄液B中にメッシュ状部材10が配置されることとなる。このとき、透孔10aよりも大きな生体組織Aはメッシュ状部材10を通過できないが、透孔10aよりも小さい血液や異物を含む洗浄液Bはメッシュ状部材10を介して自由に移動することができる。よって、メッシュ状部材10の上方には、生体組織Aが残存し、メッシュ状部材10の下方には、洗浄液Bが流れ出ることとなる。
この状態で第2のバルブ13を閉止し、第1のバルブ11を開放すると、小さい血液や異物を含む洗浄液Bは、排出部5およびチューブ8を通じて排液バック12に排出される(ステップS12)。
なお、洗浄液Bとしては、例えば、リンゲル液や生理食塩水を用いることができる。
【0031】
このように、組織洗浄工程(ステップS8〜S12)は、排出バッグ12に排出される処理液が透明になるまで繰り返される。
処理液が透明になったことを確認したら、処理容器2は初期ポジションに戻される(ステップS13)。
【0032】
〔組織消化工程〕
次に、生体組織Aを構成する細胞に単離する操作を行う。
図7は、図4に示す細胞処理工程のうち、組織消化工程を示すフローチャートである。
組織消化工程では、まず、処理容器2を初期ポジションとした状態で、第1のバルブ11を閉止し、第2のバルブ13を開放する。そして、処理液供給部7から処理液Bを供給する(ステップS14,S15)。処理液供給部7から供給された洗浄液(以下、消化液ともいう。)Bは、メッシュ状部材10の透孔10aを介して生体組織Aが収容されているメッシュ状部材の下方の空間に供給される(ステップS15)。
ヒータ4の作動により、洗浄処理中の生体組織Aおよび消化液Bが所定温度に加温されると、組織の消化処理が促進されるとともに、細胞の健全性が維持される。
【0033】
この後、回転軸3または図示しない撹拌手段を作動させることにより、処理容器2の内部に収容されている生体組織Aと消化液Bとを所定時間撹拌させて生体組織Aを消化し、生体組織Aを構成している細胞に単離する(ステップS16)。
消化液Bとしては、例えばタンパク質分解酵素のような消化酵素を含む消化液を用いることができる。
【0034】
〔細胞液分離工程〕
図8は、図4に示す細胞処理工程のうち、細胞液分離工程を示すフローチャートである。
まず、制御手段からの指令により回転軸3を反転させ、処理容器2を反転ポジションとした後(ステップS17)、しばらく時間静置させる(ステップS18)。このとき、処理液B中にメッシュ状部材10が配置されている。細胞懸濁液中の細胞は、メッシュ状部材10の透孔10aよりも小さいため、メッシュ状部材10の透孔10aを自由に移動することができるが、消化されずに残された生体組織Aは、透孔10aよりも大きいためメッシュ状部材10を通過することができない。よって、一定時間静置させると、消化されずに残された生体組織Aは、メッシュ状部材10の上方に残存し、メッシュ状部材10の下方には、生体組織Aから単離された細胞懸濁液を含む処理液Bが流れ出ることとなる。
【0035】
この状態で、第2のバルブ13を閉止し、第1のバルブ11を開放することにより、細胞懸濁液を含む処理液Bは、排出部5およびチューブ8を通じて排液バック12に排出される。分離された細胞懸濁液は、遠心容器などの別の容器に輸送される(ステップS19)。
【0036】
このように、本実施形態に係る生体組織処理装置1によれば、組織消化工程においては、回転軸3の作動により、処理容器2の角度が変化させられて、処理容器2は初期ポジションに配置されている。このとき、メッシュ状部材10は、処理液Bの液面の上方に配置されているため、生体組織Aや、単離された細胞を含む消化液がメッシュ状部材10に接触しない。よって、生体組織Aや細胞には、フィルタメッシュによる剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。また、生成した生体組織Aの小塊がフィルタメッシュに付着することもないため、小塊がメッシュ状部材10の透孔を閉塞することによる目詰まりの発生も防ぐことができる。
【0037】
そして、処理液Bまたは細胞懸濁液の排出時には、反転機構の作動により、処理容器2の角度が変化させられて反転ポジションに配置されている。このとき、メッシュ状部材10は、処理液B内に配置されているため、排出部5を介して処理液Bを排出させると、排出部5を覆うメッシュ状部材10によって生体組織Aが捕捉される一方、容易かつ迅速に処理液Bを排出させることができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、回転軸3を処理容器2に対して水平に設置した構成を例に挙げて説明したが、これに代えて、例えば図2(a)に示すように、回転軸3を処理容器2に対して偏心させて設置してもよい。
また、本実施形態では、メッシュ状部材10によって処理容器2の内部空間を上下に区画することとしたが、これに代えて、鉛直方向に配されるフィルタ部材によって水平方向に区画してもよく、図2(a)および(B)に示すように、処理容器2の側面にメッシュ状部材10を設置することによって内外を区画してもよい。つまり、生体組織Aの処理時には処理液Bの液面の上方にメッシュ状部材10を配置させ、処理液Bの排出時には、処理液B内にメッシュ状部材10を配置できるものであれば、どのような形態であってもよい。
【0039】
また、本実施形態においては、フィルタ部材としてメッシュ状部材10を例示したが、これに代えて、多数の連通気孔を有する焼結体のような任意のフィルタ部材を採用してもよい。
また、回転軸3は、撹拌手段として兼用することができ、回転軸3を作動させることにより、処理容器2内に収容された生体組織Aや処理液Bを攪拌させることもできる。
【0040】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る生体組織処理装置1’について、図面を参照して以下に説明する。本実施形態は、第1の実施形態に対して、反転機構のかわりに開閉機構が設けられている点が異なり、その他の点については同様なので、相違点についてのみ説明し、その他については説明を省略する。
図3は、第1の実施形態の図1に対応する図である。図3(a)および(B)に示されているように、第2の実施形態では、メッシュ状部材10が処理容器2の底部に設けられている。また、排出部5と処理液供給部7が、メッシュ状部材(フィルタ部材)10に直接取り付けられている。
【0041】
処理容器2には、生体組織Aを処理液Bにより処理する際に、メッシュ状部材10が、処理液Bに触れないよう制御する制御手段(図示せず)が、設けられている。この制御手段は、処理容器2の底部におけるメッシュ状部材の上面に、処理容器2の排出部5を開閉させるシャッタ(開閉機構)15を備えている。本実施形態では、この制御手段からの指令により、シャッタ15が開閉動作されるようになっている。
【0042】
制御手段からの指令によりシャッタ15を閉鎖すると、処理容器2内部の生体組織Aの処理を行うことができるとともに、このシャッタ15を開放すると、メッシュ状部材10を介して排出部5から処理液を排出させることができるようになっている。
シャッタ15は、例えば、図3(c)に示すように、マグネット16を用いて装置側から開閉操作される。
【0043】
このように構成された本実施形態に係る生体組織処理装置1’の作用について、以下に説明する。本実施形態に係る生体組織処理装置1’を用いた生体組織Aの処理工程の流れを図4および、図9〜12に示すフローチャートを用いて以下に説明する。図4は、本実施形態に係る細胞処理装置により実行される細胞処理の全体の流れを示すフローチャートである
【0044】
〔チュメッセント排液工程〕
図9は、図4に示す細胞処理工程のうち、チュメッセント排液工程を示すフローチャートである。
供給された生体組織Aには、該生体組織Aを患者から吸引するために予め患者の体内に注入されたチュメッセント液が混合されている。よって、この混合物から生体組織Aのみを抽出する操作を行う。
【0045】
まず、制御手段からの指令によりマグネット16を操作してシャッタ15を閉鎖し(ステップS101)、生体組織供給部6から、生体組織Aを処理容器2内に供給する(ステップS102)。次に生体組織供給部6の蓋を閉鎖する(ステップS103)。しばらく静置させると(ステップS104)、生体組織Aの間隙に混合されているチュメッセント液と、生体組織Aとが分離する。
【0046】
メッシュ状部材10は、生体組織Aより小さい口径を有する透孔10aを有しているため、チュメッセント液などの液体成分は、メッシュ状部材10を介して自由に移動することが出来るが、生体組織Aはメッシュ状部材10を通過することができない。
よって、一定期間の静置後にシャッタ15を開放すると、メッシュ状部材10の透孔10aを介して、チュメッセント液のみが排出部5から排出される(ステップS105)。チュメッセント液が完全に排出されたことを確認した後、制御手段からの指令によりマグネット16を操作してシャッタ15を閉鎖する。
【0047】
〔組織洗浄工程〕
図10は、図4に示す細胞処理工程のうち、組織洗浄工程を示すフローチャートである。
制御手段からの指令によりマグネット16を操作してシャッタ15を閉鎖した状態で、処理液供給部7から処理液(以下、洗浄液とも言う。)Bを生体組織Aが収容されている処理容器2内に供給する(ステップS106,S107)。メッシュ状部材の下方の空間に供給される。
【0048】
そして、図示しない撹拌機構を用いて、生体組織Aと洗浄液Bとを所定時間撹拌させ、生体組織Aを洗浄した後(ステップS108)、シャッタ15を開放する(ステップS109)。この状態でしばらく静置させると(ステップS110)、生体組織Aは、透孔10aよりも大きいため、メッシュ状部材10を通過できないが、透孔10aよりも小さい血液や異物を含む洗浄液Bは、メッシュ状部材10を介して排出部5より排出される(ステップS111)。排出された洗浄液Bが透明になるまで組織洗浄工程(ステップS106〜S111)が繰り返される。
【0049】
〔組織消化工程〕
図11は、図4に示す細胞処理工程のうち、組織消化工程を示すフローチャートである。
まず、制御手段からの指令によりマグネット16を操作してシャッタ15を閉鎖し(ステップS112,ステップS113)、処理液供給部7から処理液(以下、消化液ともいう。)Bを供給する(ステップS114)。そして、ヒータ4の作動により、洗浄処理中の生体組織Aおよび消化液Bが所定温度に加温されると、組織の消化処理が促進されるとともに、細胞の健全性が維持される。
【0050】
そして、図示しない撹拌手段を作動させることにより、処理容器2の内部に収容されている生体組織Aと消化液Bとを所定時間撹拌させて生体組織Aを消化し、生体組織Aを構成している細胞に単離する(ステップS115)。
【0051】
〔細胞液分離工程〕
図12は、図4に示す細胞処理工程のうち、細胞液分離工程を示すフローチャートである。
制御手段からの指令によりマグネット16を操作してシャッタ15を開放する(ステップS116)。細胞懸濁液は、メッシュ状部材10の透孔10aよりも小さいため、メッシュ状部材10の透孔10aを自由に移動することができるが、透孔10aよりも大きな生体組織Aは、メッシュ状部材10を通過できない。よって、この状態でしばらく時間静置させると(ステップS117)、消化されずに残された生体組織Aは、メッシュ状部材10の上方に残存するが、細胞懸濁液は、メッシュ状部材10を介して流れ出る。このように分離された細胞懸濁液は、排出部5を経て遠心容器などの別の容器に輸送される(ステップS118)。
【0052】
このように、本実施形態に係る生体組織処理装置1’によれば、組織消化工程においては、メッシュ状部材10の上面に配置されたシャッタ15が閉鎖されているため、生体組織Aや消化液はメッシュ状部材10に接触しない。よって、生体組織には、フィルタメッシュによる剪断応力が作用せず、細胞の破壊や生存率の低下を防ぐことができる。また、生成した生体組織Aの小塊がフィルタメッシュに付着することもないため、小塊がメッシュ状部材10の透孔を閉塞することによる目詰まりの発生も防ぐことができる。
【0053】
そして、処理液Bの排出時には、メッシュ状部材10の上面に配置されたシャッタ15が開放され、排出部5を介して処理後の処理液Bが排出される。これにより、排出部5を覆うメッシュ状部材10によって処理後の生体組織Aが捕捉される一方、容易かつ迅速に処理液Bを排出させることができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、開閉機構としてメッシュ状部材10の上面を覆う位置に配置されるシャッタ15を用いることとしたが、これに代えて、例えば上下方向に移動する水栓やバルブのような部材や、扉状の部材等を用いることとしてもよい。
また、本実施形態では、メッシュ状部材10を処理容器2の底部に設けることとしたが、これに代えて、処理容器2の側面にメッシュ状部材10を設置することとしてもよく、生体組織Aの処理時には処理液Bの液面の上方にメッシュ状部材10の上面が閉鎖され、処理液Bの排出時には、メッシュ状部材10の上面が開放されるものでものであれば、どのような形態であってもかまわない。
【0055】
また、本実施形態においては、シャッタ15の開閉には、マグネット16を用いることとしたが、これに代えて、例えば、電磁的制御や棒状に形成された部材等の操作によって、同様の目的を達成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
A 生体組織
B 洗浄液、消化液(処理液)
1、1’ 生体組織処理装置
2 処理容器
3 回転軸(反転機構)
5 排出部
6 生体組織供給部
7 処理液供給部
10 メッシュ状部材(フィルタ部材)
15 シャッタ(開閉機構)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を含む処理液を収容する処理容器を備え、
該処理容器には、
処理後の処理液を排出させる排出部と、
前記処理容器内の前記排出部を覆う位置に設けられ、処理後の前記生体組織を捕捉するとともに前記処理液を通過させるフィルタ部材と、
前記生体組織を前記処理液により処理する際に、前記フィルタ部材が、前記処理液に触れないよう制御する制御手段とを備える生体組織処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、該処理容器の角度を変更させる反転機構を備え、
該反転機構は、前記生体組織を前記処理液により処理する際には、前記フィルタ部材を前記処理液の液面の上方に配置させ、前記処理液の排出時には、前記フィルタ部材を前記処理液内に配置させるよう該処理容器の角度を変化させる請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記フィルタ部材の上面を覆う位置に配置され、該処理容器の前記排出部を開閉させる開閉機構を備え、
前記開閉機構は、前記生体組織の処理時には閉鎖され、前記処理液の排出時には開放される請求項1に記載の生体組織処理装置。
【請求項4】
処理容器内部に投入された生体組織を処理液により処理する組織処理工程と、
該組織処理工程における処理後の処理液を回収する組織回収工程とを有する生体組織処理方法であって、
前記組織処理工程は、処理後の前記生体組織を捕捉するとともに前記処理液を通過させるフィルタ部材が、該処理液に触れないようにして行われる生体組織処理方法。
【請求項5】
前記組織処理工程は、前記フィルタ部材を前記処理液の液面の上方に配置するよう前記処理容器を傾斜させ、
前記組織回収工程は、前記フィルタ部材を前記処理液内に配置するよう前記処理容器を傾斜させて行われる請求項4に記載の生体組織処理方法。
【請求項6】
前記組織処理工程は、前記フィルタ部材の上面を閉鎖することにより行われ、
前記組織回収工程は、前記フィルタ部材の上面を開放して行われる請求項4に記載の生体組織処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−231723(P2012−231723A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101966(P2011−101966)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】