説明

生体組織分解装置および生体組織分解方法

【課題】細胞の健全性を維持しつつ、生体組織を効果的に消化する。
【解決手段】生体組織Aと消化酵素液Bとを貯留する容器2と、該容器2を水平軸線回りに揺動させる揺動機構3とを備え、該揺動機構3が、±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で容器2を揺動させる生体組織分解装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪組織等の生体組織を分解する生体組織分解装置および生体組織分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの脂肪組織を採取して、消化酵素および生理食塩水とともに鉛直方向に回転軸を有する回転式の攪拌装置によって攪拌することにより、脂肪組織内に含まれる脂肪由来細胞群を分離する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂肪組織をはじめとする生体組織は、消化酵素および生理食塩水からなる消化酵素液と比較して比重が低いため、消化酵素液の上側に浮上する。このため、回転式の攪拌装置による攪拌では、容器の下層に沈降する消化酵素液を、上層に浮遊する生体組織に行き渡らせることができず、効果的に消化処理を行うことができないという不都合がある。
また、容器の上層に浮遊する生体組織と容器の下層に沈降する消化酵素液の攪拌を促進するために、回転数を高めると、細胞がダメージを受けるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞の健全性を維持しつつ、生体組織を効果的に消化することができる生体組織分解装置および生体組織分解方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織と消化酵素液とを貯留する容器と、該容器を水平軸線回りに揺動させる揺動機構とを備え、該揺動機構が、±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で前記容器を揺動させる生体組織分解装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体組織と消化酵素液とを貯留した容器を揺動機構の作動により水平軸線回りに±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で揺動させることにより、生体組織と消化酵素液とを攪拌して効率よく消化させるとともに、過度の負担を生体組織にかけることなく、細胞の健全性を維持することができる。
【0008】
上記発明においては、前記揺動機構が、±30°〜±35°の角度範囲で前記容器を揺動させることが好ましい。
また、前記揺動機構が、15〜25サイクル/minの揺動速度で前記容器を揺動させることが好ましい。
【0009】
また、上記発明においては、前記容器の内面に、付着防止処理が施されていることとしてもよい。
このようにすることで、生体組織が消化されることにより分離された細胞が容器の内面に付着することを防止して、処理後に剥離させる作業を不要とし、細胞の収率を向上することができる。
【0010】
また、本発明は、生体組織と消化酵素液とを貯留した容器を±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で揺動させる生体組織分解方法を提供する。
上記発明においては、前記容器を±30°〜±35°の角度範囲で揺動させることが好ましい。
また、上記発明においては、前記容器を15〜25サイクル/minの揺動速度で揺動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞の健全性を維持しつつ、生体組織を効果的に消化することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法について、図1〜図4を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織分解装置1は、例えば、脂肪組織の分解装置であって、図1に示されるように、容器2と、該容器2を水平軸線回りに揺動させる揺動機構3とを備えている。
【0013】
容器2内には、脂肪組織Aの塊と、該脂肪組織Aを分解するトリプシン等のタンパク質分解酵素(消化酵素)と生理食塩水、乳酸リンゲル液または緩衝液等の溶媒とを混合してなる消化酵素液Bとが貯留されるようになっている。
【0014】
揺動機構3は、例えば、往復回転駆動させられるモータ4と、該モータ4に設けられたプーリ5と、容器に固定されたプーリ6と、これらプーリ5,6に掛け渡されるベルト7とを備えている。モータ4の作動により、プーリ5が往復回転運動させられると、ベルト7が往復運動させられる結果、容器2が所定角度範囲にわたって往復揺動動作させられるようになっている。
本実施形態においては、揺動機構3は、容器2を±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で揺動させるようになっている。
【0015】
このように構成された本実施形態に係る生体組織分解装置1を用いて脂肪組織を分解した実施例を以下に説明する。
ブタの鼠頸部より採取された脂肪組織Aを生理食塩水に浸した状態で、2〜3cm角に切断して得られた脂肪片を、直径90mmのシャーレに20g程度入れ、生理食塩水を20mL加えた後にハサミで裁断した。裁断後に得られた脂肪片を生理食塩水により洗浄し、本実施形態に係る生体組織分解装置1の容器2に脂肪組織A:生理食塩水=1:4の割合で収容した。
【0016】
容器2の体積は脂肪片と生理食塩水とを合わせた体積の2倍の体積である。脂肪片と生理食塩水とを入れた容器2にコラゲナーゼおよびサーモライシンを添加し、各酵素の濃度をそれぞれ2.1U/mL、900U/mLとした。酵素添加後、揺動機構3を作動させ、容器2を水平軸線回りに20サイクル/minの揺動速度で、揺動角度を変化させながら細胞の収率を測定した。
【0017】
その結果、ローラボトル容器内において脂肪組織と消化酵素液とを攪拌するローラボトル法の場合をコントロールとして、該コントロールに対する収率の比率は、図2に示されるように、±15°〜±50°のいずれにおいても、ローラボトル法よりも高い収率を得ることができた。特に、±30°において高い収率を得ることができたので、±20°〜±35°の範囲でさらに詳細に測定した結果、図3に示される結果を得た。
この図3によれば、揺動角度が±30°〜±35°の範囲において高い収率が得られることがわかった。
【0018】
また、容器2を水平軸線回りに±30°の揺動角度で、揺動速度を変化させながら細胞の収率を測定した。
その結果、ローラボトル法の場合をコントロールとして、該コントロールに対する収率の比率は、図4に示されるように、5〜40サイクル/minのいずれにおいても、ローラボトル法よりも高い収率を得ることができたが、50サイクル/minの場合には、コントロールより低い収率を示した。
【0019】
このことから、本実施形態に係る生体組織分解装置1および生体組織分解方法においては、容器2を±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で揺動させることにより、脂肪組織Aと消化酵素液Bとを効率的に攪拌して、分解を促進することができる。特に、±30°〜±35°の角度範囲で、15〜25サイクル/minの揺動速度で揺動させることにより、脂肪組織Aから分解される細胞にダメージを与えることなく高い収率で細胞を回収することができるという利点がある。
【0020】
なお、本実施形態においては、容器の内面に付着防止処理が施されていることが好ましい。付着防止処理としては、例えば、細胞非接着性物質であるアルブミンを容器の内面に被覆することを挙げることができる。このようにすることで、脂肪組織Aから分解された細胞が、容器2の内面に付着してしまう不都合の発生を防止して、スムーズに回収することができる。
また、本実施形態においては、生体組織として、脂肪組織Aを例示して説明したが、これに代えて、他の生体組織の分解に適用することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織分解装置を示す正面図である。
【図2】図1の生体組織分解装置を用いた脂肪組織の分解における揺動角度と収率との関係を示すグラフである。
【図3】図2の揺動角度と収率との詳細な関係を示すグラフである。
【図4】図1の生体組織分解装置を用いた脂肪組織の分解における揺動速度と収率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
A 脂肪組織(生体組織)
B 消化酵素液
1 生体組織分解装置
2 容器
3 揺動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織と消化酵素液とを貯留する容器と、
該容器を水平軸線回りに揺動させる揺動機構とを備え、
該揺動機構が、±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で前記容器を揺動させる生体組織分解装置。
【請求項2】
前記揺動機構が、±30°〜±35°の角度範囲で前記容器を揺動させる請求項1に記載の生体組織分解装置。
【請求項3】
前記揺動機構が、15〜25サイクル/minの揺動速度で前記容器を揺動させる請求項1または請求項2に記載の生体組織分解装置。
【請求項4】
前記容器の内面に、付着防止処理が施されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体組織分解装置。
【請求項5】
生体組織と消化酵素液とを貯留した容器を±15°〜±50°の角度範囲および5〜40サイクル/minの揺動速度で揺動させる生体組織分解方法。
【請求項6】
前記容器を±30°〜±35°の角度範囲で揺動させる請求項5に記載の生体組織分解方法。
【請求項7】
前記容器を15〜25サイクル/minの揺動速度で揺動させる請求項5または請求項6に記載の生体組織分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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