説明

生体認証装置および情報処理装置

【課題】鮮明な静脈パターン画像を得るための、より薄く、簡易な構成の情報処理装置の提供および、それを適用した生体認証装置を提供する。
【解決手段】光源と、採光装置と、撮像装置と、前記光源から前記撮像素子に至る光路上に設置されて、電圧印加によって散乱と透過とを切り替えられる散乱透過可変装置と、記録装置と、演算装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体認証装置およびこれを用いた情報処理装置に係わり、特に、生体認証装置を小型化するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の中で、人間の生体情報を利用したユーザー認証の必要性が高まっており、声紋認証、指紋認証、静脈認証、虹彩認証などの様々な生体認証方法が提案されている。中でも静脈認証は、静脈パターン画像を撮影し、画像処理等による画像鮮明化を経て登録画像と照合する方法である。静脈パターンが各ユーザーの生体内部特有の情報でありまた改竄を行うことがほぼ不可能であることから、非常に高い信頼性が期待されている認証方法である。
【0003】
しかし、静脈は生体内部に存在するため、静脈パターン画像を撮影する時、例えば生体内部(例えば骨や筋肉、脂肪など)での散乱や、皮膚表面での反射などの生体由来の散乱により、鮮明な静脈パターン画像を撮影することが難しい。鮮明な静脈パターン画像を得る方法については、装置の構造面からの工夫や、画像処理等得られた画像のソフトウエアによる加工による方法がある。例えば指静脈認証装置においては、撮像素子の画素それぞれにレンズと散乱光遮蔽壁を用いる方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。この方法によると、生体由来の散乱による撮像素子の画素上の共役でない点からの光、すなわち散乱光を散乱光遮蔽壁に吸収させ、画素への混入を防いでいる。このことにより、撮像素子の画素上には共役でない点からの光のみ入射し、散乱光による画像の劣化を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−32227号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日立製作所、2009年8月26日 プレスリリース、[online]、平成22年8月26日、[平成22年12月20日検索]、インターネット(URL:http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2009/08/0826.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この方法では散乱光遮蔽壁自体の厚さがある程度必要なことにより、遮蔽壁の厚み以上に装置全体を薄くすることが困難である。また、散乱光遮蔽壁の作成は、微細で複雑な工程が必要となり、安価で提供することが困難である。
【0007】
本発明は、鮮明な静脈パターン画像を得るための、より薄く、簡易な構成の情報処理装置の提供および、それを適用した生体認証装置を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による生体認証装置は、光源と、静脈を含む生体を密着させる採光装置と、撮像装置と、前記光源から前記撮像装置に組み込まれる撮像素子に至る光路上に設置されて、電圧印加によって散乱と透過とを切り替えられる散乱透過可変装置と、前記撮像装置により撮影された画像を記録する記録装置と、記録された画像の演算処理を行う演算装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記散乱透過可変装置は、光源と静脈を含む生体の間に配置してもよい。
【0010】
前記散乱透過可変装置を、静脈を含む生体と撮像装置の間に配置してもよい。
【0011】
散乱透過可変装置を、透過、散乱のそれぞれのモードにおいて、撮影画像を取得してもよい。
【0012】
散乱透過可変装置を散乱モードにして撮影し記録装置に記録した画像と、散乱透過可変装置を透過モードにして撮影し記録装置に記録した画像とを、演算装置にて演算した画像を、あらかじめ登録された画像と照合してもよい。
前記散乱透過可変装置が液晶光学装置でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、より鮮明な静脈パターン画像を得ながら、より薄く、簡易な構成の静脈認証装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による生体認証装置を示す模式的外観図。
【図2】本発明による散乱透過可変装置を示す模式的断面図。
【図3】散乱透過可変装置に使用できる硬化性化合物を例示する説明図。
【図4】散乱透過可変装置の印加電圧(実効値)に対する透過率を示す説明図。
【図5】本発明による生体認証装置の主要部を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは一例として、指の静脈認証装置を例にあげて説明する。
【0016】
図1に本発明の一例として、指の静脈認証装置を示す。静脈認証装置は光源と、採光装置と、散乱透過可変装置と、撮像装置と、記録装置と、演算装置と、を含む。
【0017】
光源30は生体に向けて光を放出するものであればよく、例えば赤外光LED、白熱電球などがあげられる。光源は生体70に向かって光を放射する。この光は、生体内の各部(例えば骨や筋肉、脂肪など)で散乱したり、皮膚表面で反射したりしながら、生体全体を通過した後、生体の外部へ進行し、少なくともその一部が撮像装置40へと進行する。
【0018】
生体内の各部での散乱光には静脈に関する情報が含まれると考えられる。このとき血液に多く含まれる成分の一種であるヘモグロビンは周囲の組織よりも赤外光を吸収する。ヘモグロビンは血液中に含まれるため、血管に沿って光が吸収され、影が発生する。この影の形状が静脈の形状を反映する。よって、撮像装置が撮影した画像は、生体に分布する静脈を暗い形状として可視化できる。従って、効率的に静脈形状を撮影するためには赤外光の光源を使用することが好ましい。
【0019】
光源は1個以上使用できる。複数個使用すると、十分な強度の光を生体内に照射できる。また、複数個使用する場合、撮像装置を取り囲むように配置することで、生体内に均一に光を照射できる。光を均一に照射することで、光の強度分布に起因する明暗や影などによる静脈パターン画像の劣化を抑制できる。
生体内を通過し、外部へ進行した光は採光装置10へと入射する。採光装置は生体と撮像装置の間に配置される。採光装置は生体側に入射面、撮像装置側に出射面を有し、採光装置の入射面は生体と、また採光装置の出射面は散乱透過可変装置とそれぞれ密着させる。採光装置は静脈と撮像装置の距離および、静脈の分布や形状を撮影毎に再現させ、生体から外部へ進行した光を撮像装置へと導く。
【0020】
採光装置10は前記光源から放射された光を透過し、かつ撮影毎にユーザーが触れる程度の衝撃で破壊されない程度の硬さ強度を有している材料であればよい。例えばガラス基板や有機系樹脂基板、無機結晶基板などが挙げられる。また後述する散乱透過可変装置20を採光装置10として兼用することもできる。
【0021】
採光装置10を通過した光は、散乱透過可変装置20へと入射する。この散乱透過可変装置は、生体側に入射面、撮像装置側に出射面を有し、電圧を印加することにより、散乱モードと透過モードとを切り替えられる光学装置である。このような光学装置として、例えば、電圧を印加することによって透過状態と、散乱状態とを切り替えられる液晶光学素子が好ましい。また、散乱によるさまざまな方向への光を効率よく検出する必要がある観点からは、散乱透過可変装置が、散乱モードの状態では十分な散乱性能があると同時に、透過モードの状態では、液晶光学素子に対して垂直方向だけでなく、例えば40°程度に傾いた斜め方向からの光に対しても良好な透過率を示すような液晶光学素子がより好ましい。このような液晶光学素子であれば、電圧OFFで透過タイプ、散乱状態タイプのいずれでもよい。以下に電圧OFFで透過タイプの液晶光学素子を例にあげて説明する。
【0022】
図2は、生体認証装置1における散乱透過可変装置20の一構成例を示す模式的断面図である。図2において、一対の基板101、108の相対する面には、透明電極102、107が設けられる。さらに内側には配向膜103、106が設けられる。そして、配向膜103、106の間に、液晶を含み、スペーサ(図示せず)によって厚みが制御された液晶層104が挟持される。そして、シール層105によって液晶層104が封止される。
【0023】
基板101、108の材質は、透明性が確保できれば特に限定されない。基板101、108として、ガラス基板やプラスチック基板を使用できる。また、散乱透過可変装置20の形状は、平面状である必要はなく湾曲していてもよい。
【0024】
また、基板101、108上に設けられる透明電極102、107として、ITO(酸化インジウム−酸化錫)やATO(酸化アンチモン−酸化錫)のような金属酸化物などの透明な電極材料を使用できる。以下、透明電極102、107が設けられた基板101、108を電極付き基板という。
【0025】
光透過状態と光散乱状態との両方の状態が可能な液晶層104は、透明な一対の電極付き基板間に、液晶とその液晶に溶解可能な硬化性化合物とを含有する組成物(以下、未硬化組成物ともいう)を挟持させ、熱や紫外線、電子線などの手段を用いて硬化性化合物を硬化させて液晶/高分子複合体として形成される液晶層であることが好ましい。このような液晶と高分子の複合体からなる液晶を、以下、液晶/高分子複合体ともいう。
【0026】
液晶/高分子複合体に用いる液晶としては、誘電異方性が正でも負でもよいが、透過状態と光散乱状態との切り替えに要する応答時間を短くするためには、液晶の粘度が低く、さらに誘電異方性が負の液晶を用いることが好ましい。なお、液晶として硬化性ではない化合物が使用される。また、硬化性化合物は液晶性を有していてもよい。
【0027】
誘電率異方性が負の液晶を使用する場合には、電極付き基板において、液晶層104と接触する側に液晶分子のプレチルト角が基板表面に対して60度以上であるようにする処理が施されていると、配向欠陥を少なくでき、透明性が向上するため好ましい。この場合、ラビング処理を施さなくてもよい。プレチルト角は70度以上であることがより好ましい。なお、プレチルト角を、基板表面に垂直の方向を90度として規定する。
【0028】
液晶層104を形成する液晶/高分子複合体を構成する液晶として、公知の液晶から適宜選択できる。配向膜103、106により未硬化組成物のプレチルト角を制御できる電極付き基板を用いることによって、誘電率異方性が正の液晶も誘電率異方性が負の液晶も使用できるが、より高い透明性や応答速度の面では誘電率異方性が負の液晶が好ましい。配向膜にラビング処理を施すこともできる。また、駆動電圧を低下させるためには誘電率異方性の絶対値が大きい方が好ましい。
【0029】
また、液晶/高分子複合体を構成する硬化性化合物も透明性を有することが好ましい。さらに、硬化後に、電圧を印加したときに液晶のみが応答するように液晶と硬化性化合物とが分離していると、駆動電圧を下げることができるので好ましい。
【0030】
本発明では、液晶に溶解可能な硬化性化合物のうち、未硬化時の液晶と硬化性化合物との混合物の配向状態を制御可能であって、硬化する際に高い透明性を保持できる硬化性化合物が使用される。
【0031】
硬化性化合物として、式(1)の化合物や式(2)の化合物を例示できる。
【0032】
−O−(R―O―Z―O―(RO―A ・・・式(1)
−(OR―O―Z’―O―(RO)―A ・・・式(2)
ここで、A、A、A、Aのそれぞれは、独立的に、硬化部位となるアクリロイル基、メタクリロイル基、グリシジル基またはアリル基であり、R、R、R、Rのそれぞれは、独立的に、炭素数2〜6のアルキレン基であり、Z、Z’のそれぞれは、独立的に、2価のメソゲン構造部であり、m、n、o、pのそれぞれは、独立的に、1〜10の整数である。ここで、「独立的に」とは、組み合わせが任意であって、どのような組み合わせも可能であることを意味する。
【0033】
式(1)および式(2)におけるメソゲン構造Z、Z’と硬化部位A、A、A、Aとの間に、R、R、R、Rを含む分子運動性の高いオキシアルキレン構造を導入することによって、硬化時に、硬化過程において硬化部位の分子運動性を向上でき、短時間で十分に硬化させることができる。
【0034】
式(1)および式(2)における硬化部位A、A、A、Aは、光硬化や熱硬化が可能な上記の官能基であればいずれでもよいが、なかでも、硬化時の温度を制御できることから光硬化に適するアクリロイル基、メタクリロイル基であることが好ましい。
【0035】
式(1)および式(2)におけるR、R、RおよびRの炭素数については、その分子運動性の観点から1〜6が好ましく、炭素数2のエチレン基および炭素数3のプロピレン基がさらに好ましい。
【0036】
式(1)および式(2)におけるメソゲン構造部Z、Z’として、1,4−フェニレン基の連結したポリフェニレン基を例示できる。1,4−フェニレン基の一部または全部を1,4−シクロへキシレン基で置換したものであってもよい。また、1,4−フェニレン基や置換した1,4−シクロへキシレン基の水素原子の一部または全部が、炭素数1〜2のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基などの置換基で置換されていてもよい。
【0037】
好ましいメソゲン構造部Z、Z’として、1,4−フェニレン基が2個連結したビフェニレン基(以下、1,4−フェニレン基が2個連結したビフェニレン基を4,4−ビフェニレン基ともいう。)、3個連結したターフェニレン基、およびこれらの水素原子の1〜4個が、炭素数1〜2のアルキル基、フッ素原子、塩素原子またはカルボキシル基に置換されたものを挙げることができる。最も好ましいものは、置換基を有しない4,4−ビフェニレン基である。メソゲン構造部を構成する1,4−フェニレン基または1,4−シクロへキシレン基同士の結合は全て単結合でもよいし、以下に示すいずれかの結合でもよい。
【0038】
【化1】

【0039】
式(1)および式(2)におけるm、n、o、pは、それぞれ独立的に、1〜10であることが好ましく、1〜4がさらに好ましい。あまり大きいと液晶との相溶性が低下し、硬化後の電気光学素子の透明性を低下させるからである。
【0040】
図3に、本発明において使用できる硬化性化合物の例を示す。液晶と硬化性化合物とを含有する組成物は、式(1)、(2)で表される硬化性化合物を含め、複数の硬化性化合物を含有していてもよい。例えば、組成物に、式(1)および式(2)においてm、n、o、pの異なる複数の硬化性化合物を含有させると、液晶との相溶性を向上させることができる場合がある。
【0041】
液晶と硬化性化合物とを含有する組成物は硬化触媒を含有していてもよい。光硬化の場合、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般に光硬化性樹脂に用いられる光重合開始剤を使用できる。熱硬化の場合は、硬化部位の種類に応じて、パーオキサイド系、チオール系、アミン系、酸無水物系などの硬化触媒を使用でき、また、必要に応じてアミン類などの硬化助剤を使用することもできる。
【0042】
硬化触媒の含有量は、含有する硬化性化合物の20質量%以下が好ましく、硬化後に硬化樹脂の高い分子量や高い比抵抗が要求される場合は0.1〜5質量%とすることがさらに好ましい。
【0043】
未硬化組成物において、硬化性化合物の総量は、液晶組成物に対して0.1〜20質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では、液晶相を硬化物により効果的な形状のドメイン構造に分割できず、所望の透過−散乱特性を得ることができない。一方、20質量%を超えると、従来の液晶/硬化物複合体素子と同様に透過状態でのヘイズ値が増大しやすくなる。また、さらに好ましくは、液晶組成物中の硬化物の含有率が0.5〜15質量%であり、光散乱状態での散乱強度を高く、透過−散乱が切り替わる電圧値を低くできる。
【0044】
液晶分子を、基板表面に対してプレチルト角が60度以上になるように配向させる処理方法として、垂直配向剤を使用する方法がある。垂直配向剤を使用する方法として、例えば、界面活性剤を用いる方法や、アルキル基やフルオロアルキル基を含むシランカップリング剤などで基板界面を処理する方法、または日産化学工業社製のSE1211やJSR社製のJALS−682−R3等の市販の垂直配向剤を用いる方法がある。垂直配向状態から任意の方向に液晶分子が倒れた状態を作るためには、公知のどのような方法を採用してもよい。垂直配向剤をラビングしてもよい。また、電圧が基板101、108に対して斜めに印加されるように、透明電極102、107にスリットを設けてもよい。また、電極102、107上に三角柱を配置する方法を採用してもよい。また、特定方向に液晶分子を倒すような手段を用いなくてもよい。
【0045】
二つの基板101、108間にある液晶層104の厚さを、スペーサ等で規定できる。その厚さは1〜50μmが好ましく、3〜30μmがさらに好ましい。液晶層104の厚さが薄すぎるとコントラスト(散乱モード、透過モードでの透過率の比)が低下し、厚すぎると駆動電圧が上昇する傾向が増大するため好ましくない場合が多い。
【0046】
シール層105として、透明性の高い樹脂であれば公知のどのようなものでもよい。透明性の高い樹脂を使用すれば、散乱透過可変装置は全面に亘って透明感が高まり、文字や図形が空中に浮かんだように見える状態が強調される。例えば、基板101、108としてガラス基板を使用した場合には、ガラスの屈折率に近似した屈折率を有するエポキシ樹脂やアクリル樹脂を使用すれば、空中に透明なガラスが浮いているような状態を実現できる。また、シール部が通常、観察者に視認されない使用方法の場合は、特にシール層が透明である必要はない。
【0047】
図4は、上記のように作製された散乱透過可変装置20の印加電圧(実効値)に対する透過率を示す説明図である。図4に示すように、散乱透過可変装置20は、光透過状態と光散乱状態との両方の状態が可能な液晶層としての液晶層104に所定の電圧(例えば60V)が印加されているときに光散乱状態となり、液晶層104に対して電圧無印加のときに光透過状態となる。また、印加電圧(実効値)が0Vと60Vとの中間的な値(例えば、18〜35V程度)であるときに、散乱透過可変装置20は、光透過状態と光散乱状態との中間的な状態をとる。
【0048】
以上のように作製された散乱透過可変装置20は、透過状態と散乱状態との間の応答時間が5msよりも短く非常に速い応答速度を実現できる。また、従来の分散型液晶素子による散乱透過モードと比べると視野角依存性が良好であり、斜めから見たときにも非常に良好な透過状態を得ることができる。例えば、上記の組成の硬化性化合物と液晶とを含有する液晶/高分子複合体を使用した場合、垂直から40度傾けて見た場合もほとんどヘイズがないようにできる。
【0049】
なお、散乱透過可変装置20は、光源30から撮像装置40に組み込まれる撮像素子41に至る光路上に設置すればよい。例えば、上記のように採光装置10と撮像装置40との間のほか、生体70と撮像装置40の間に配置できる。生体70と光源30の間に配置した場合でも同等の効果を得ることができる。
【0050】
撮像装置40は、デジタル画像を得られる手段であればよく、例えば半導体撮像装置が好ましい。半導体撮像装置にはCCD、CMOSなどの半導体撮像素子41が組み込まれ、撮影画像がデジタルデータによる強度分布として得られる。得られた画像データは記録装置50に保管される。
【0051】
散乱透過可変装置20を散乱モード、透過モード各々の状態として、それぞれの状態において画像を撮影し、撮影した画像を記録装置50に記録する。撮影回数については特に制限はないが、突発的な不具合による不適切な画像等を避けるため、複数回撮影して、平均的な画像からのずれが所定の範囲内にある画像が得られればよい。また、散乱モード、透過モード各々の状態での撮影順序について特に制限はなく、どの画像がいずれのモードでの撮影画像かが区別できるようになっていればよい。
【0052】
上記撮影により記録装置50に保管された画像は、後述する演算装置60による画像解析により、鮮明な静脈パターン画像へと変換される。
【0053】
上記鮮明な静脈パターン画像と、予め記録装置50に登録された静脈パターン画像とを、照合装置(図示せず)において照合し、本人確認が行われる。
【0054】
さらに、生体70、採光装置10、散乱透過可変装置20、撮像装置40の間の何れか一つ、または複数の位置にレンズなどの収差制御装置(図示せず)を配置できる。収差制御装置を配置することで、より鮮明な静脈パターン画像を撮影できる。収差制御装置は採光装置、散乱透過可変装置の生体側または撮像装置側の入射面または出射面の何れか1つ、または複数の面に一体化することで、より一層の薄型化ができる。
【0055】
以下に演算装置60で行われる画像解析方法について述べる。
【0056】
生体70から散乱透過可変装置20へと入射してきた光は、例えば生体内の各部(例えば骨や筋肉、脂肪など)での散乱や、皮膚表面での反射などの影響をうける。生体内の各部での散乱の影響を受けた光は、大きく散乱の影響を大きく受けた高散乱光と、散乱の影響を大きく受けていない低散乱光との2種類に分けることができる。
【0057】
高散乱光は、生体内に長く留まって多くの散乱回数を経た出射光である。多くの散乱回数を経ることで、光の進行方向も入射方向近傍から大きくはずれる確率が高い。特に静脈中のヘモグロビンの吸収を経た後に多数回散乱した光は、余計な情報が付加されたり、必要な情報が減衰したりして、鮮明な静脈パターン画像撮影の妨げとなる。一方、低散乱光は、生体内に長く留まらず、光の進行方向が入射方向近傍から大きくははずれない出射光である。静脈中のヘモグロビンの吸収を経た後の散乱回数も多くないため、鮮明な静脈パターン画像撮影に対して有効である。この低散乱光のみを抽出することができれば、鮮明な静脈パターン画像が取得できると考えられる。
【0058】
散乱透過可変装置を散乱モードとすることで、撮像装置に進行する光の大部分を強制的に高散乱光とすることができるため、この状態で撮影することで高散乱画像(以下、画像Aともいう)が得られる。また、散乱透過可変装置を透過モードで撮影すると、高散乱光と低散乱光が混在した画像(以下、画像Bともいう)が得られる。画像A、画像Bをそれぞれ記録装置に保管する。以上の画像Bから画像Aを除算することで、近似的に低散乱光のみを抽出し、鮮明な静脈パターン画像が得られる。
【0059】
このとき、散乱透過可変装置を透過モードで撮影した画像Bまたは、散乱透過可変装置を散乱モードで撮影した画像Aの一方、または両方にある一定の値を乗じた後に上記の除算を行うことにより、より鮮明な静脈パターン画像を得ることもできる。
【0060】
また、散乱透過可変装置を散乱モードと透過モードとの中間モードにて撮影した画像を加えて、3種類以上の画像により演算を行うことにより、より鮮明な静脈パターン画像を得ることもできる。
【0061】
以上の構成により、散乱光遮蔽壁が不要となり、静脈認証装置を薄型化できるだけでなく、簡易な構成で提供できる。
【実施例】
【0062】
<実施例>
光源として赤外光LEDと、散乱透過可変装置として採光装置を兼ねた液晶光学素子と、半導体素子を含む撮像装置(以下、半導体撮像装置ともいう)と、記録装置、演算装置とを含む生体認証装置を作成する。液晶光学素子は以下のようにして作成した。
【0063】
誘電率異方性が負であるネマチック液晶(Tc=98℃、Δε=−5.6、Δn=0.220)80質量%と、図3の(a)に示す二官能の硬化性化合物20質量%と、光重合開始剤としてのベンゾインイソプロピルエーテルとを混合した。ベンゾインイソプロピルエーテルについては、硬化性化合物(図3の(a)に示す化合物および図3の(e)に示す化合物)の総量を100質量%とした場合、3質量%になるように混合した。そして、混合液を液晶相にするために、撹拌しながら90℃に加温し、等方相にして混合液を均一にした後、温度を60℃に下げた。その後、混合層が液晶相になったことを確認した。
【0064】
液晶セルを以下のように作製した。透明電極102、107上に垂直配向用ポリイミド薄膜103、106を形成した一対の基板101、108を、垂直配向用ポリイミド薄膜103、106が対向するように、散布した微量の樹脂ビーズ(直径6μm)を介して、四辺に幅約1mmで印刷したエポキシ樹脂(周辺シール)で張り合わせ、液晶セルを形成した。次いで、上記の混合液を液晶セルの中に注入した。
【0065】
液晶セルを40℃に保持した状態で、主波長が約365nmのHgXeランプにより、上側より3mW/cm、下側より約3mW/cmの紫外線を10分間照射し、液晶/高分子複合体からなる液晶層が基板間に形成された液晶光学素子を得た。
【0066】
このようにして得られた液晶光学素子は、電圧非印加状態において均一な透明状態を呈していた。液晶素子に矩形波200Hz、60Vの電圧を印加したところ、液晶素子は白濁様に変化した。530nmを中心波長とした半値幅約20nmの測定光源を用いたシュリーレン光学系(光学系のF値11.5、集光角5°)で、基板に対して垂直方向の透過率を測定したところ、電圧を印加しない状態で78%であり、この値を60Vrms印加した時の透過率で割ったコントラストの値は80であった。次に電圧を印加しない状態のまま入射角40°での透過率を同様に測定したところ、透過率は77%でほとんど変化がなかった。すなわち、散乱モードでは十分な散乱状態であると同時に、透過モードでは、垂直方向だけでなく斜めから見てもきわめて高い透過率を実現するものであった。
【0067】
採光装置を兼ねた液晶光学素子は半導体撮像装置に接着剤にて固定する(図5参照)。この装置の採光装置を兼ねた液晶光学素子の半導体撮像装置と対向する表面に試験者の指を配置し、LED光源を点灯させる。その状態で、液晶光学素子を散乱モードとし画像Aを撮影し、直後に液晶光学素子を透過モードとし画像Bを撮影し、それぞれをIa(x、y)およびIb(x、y)として記録装置に記録する。Ia(x、y)は散乱モードで、Ib(x、y)は透過モードでそれぞれ撮影された、半導体撮像素子上の各画素における強度分布である。xおよびyは半導体撮像素子上の各画素の位置を決定する値である。演算装置にて画像AすなわちIa(x、y)から、ある正の係数αを乗じた画像BすなわちIb(x、y)を除算し、静脈パターン画像を取得する。上記除算は以下の演算により得られる。
Ia(x、y)−α×Ib(x、y)
なお、上記正の係数αは、演算後の取得画像が、照合装置にて予め記録装置に登録された静脈パターン画像と照合可能な程度に鮮明なものとするように、適宜決定するものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の静脈認証装置によれば、遮蔽壁がなくても鮮明な画像を得ることができるので、より薄く、簡易な構成とすることができる。このため、例えば指の静脈認証装置であれば、携帯電話や、PDAなどの小型装置や、PC等の電子端末へ搭載できる。
【0069】
さらに掌の静脈認証等、照射された光が生体の内部を通過して生成される画像を使った認証を行う他の生体に対しても適応できる。
【符号の説明】
【0070】
10 採光装置
20 散乱透過可変装置
30 光源
40 撮像装置
41 撮像素子
50 記録装置
60 演算装置
70 生体
80 接着剤
101,108 ガラス基板
102,107 透明電極
103,106 配向膜
104 液晶層
105 シール層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
静脈を含む生体を密着させる採光装置と、
撮像装置と、
前記光源から前記撮像装置に組み込まれる撮像素子に至る光路上に設置されて、電圧印加によって散乱と透過とを切り替えられる散乱透過可変装置と、
前記撮像装置により撮影された画像を記録する記録装置と、
記録された画像の演算処理を行う演算装置と、
を含む生体認証装置。
【請求項2】
前記散乱透過可変装置を、光源と静脈を含む生体の間に配置した請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項3】
前記散乱透過可変装置を、静脈を含む生体と撮像装置の間に配置した請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項4】
散乱透過可変装置が、透過、散乱のそれぞれのモードにおいて、撮影画像を取得する請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体認証装置。
【請求項5】
散乱透過可変装置を散乱モードにして撮影し記録装置に記録した画像と、散乱透過可変装置を透過モードにして撮影し記録装置に記録した画像とを、演算装置にて演算した画像を、あらかじめ登録された画像と照合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体認証装置。
【請求項6】
前記散乱透過可変装置が液晶光学装置である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の生体認証装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−141694(P2012−141694A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292771(P2010−292771)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】