説明

生体適合性材料並びにその製造方法

【課題】 安全で、生体に吸収され易く、製造コストの安価な生体適合性材料並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと同じく魚鱗由来のコラーゲンを主成分とする複合体とすることで解決した。また、その製造方法としては、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトの製造工程、或は魚鱗由来のコラーゲンの製造工程の中に組み込み、途中でハイドロキシアパタイトの抽出液とコラーゲンの抽出液を固形物換算で約8対2の割合で混合撹拌させ、その後、その混合物を熱風乾燥させ複合体とする事で解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物のような生体に消化吸収され易く成した魚鱗由来の生体適合性材料並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルシウムは、人間の骨や歯を構成する重要な成分であり又、循環器系や神経伝達に於いても非常に重要であることが知られている。そして又、コラーゲンは人間の骨や軟骨、歯、皮膚、血管、臓器など、殆どの組織に存在する人体の構成に欠かすことのできない重要な成分であることも知られている。ところがこのカルシウムやコラーゲンが様々な要因により体内で減少することから、骨粗鬆症の発症や代謝機能の低下など、所謂、老化現象として顕在化することになる。
【0003】
ハイドロキシアパタイト(Hydroxyapatite)は、カルシウムとリン酸からなる、無機化合物の総称であり、化学式Ca10(PO(OH)で表され、骨や歯の主要成分である。このハイドロキシアパタイトの製造方法としては、魚鱗由来のものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
他方、コラーゲンは、蛋白質の一種であり、牛や豚等の哺乳動物のコラーゲン組織から抽出されることが多いが、通常の滅菌や殺菌方法では除去が困難であるプリオンなどの病原体の感染の危険性が常に存在しているために、このような心配のない魚からコラーゲンを製造することが提案されている。この魚からのコラーゲンの製造は、魚の皮を原料とするものであったが、このような魚の皮を原料としたコラーゲンは、魚臭さを有し、しかも白濁を生じ透過率が低いといった問題があった。このため、魚特有の魚臭さを解決する手段として、魚鱗からコラーゲンを製造する方法がいくつか提案されている(例えば、特許文献2、3、4参照。)。
【特許文献1】特開2001−211895号公報
【特許文献2】特開平05−155900号公報
【特許文献3】特開2003−327599号公報
【特許文献4】特開2003−238598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなハイドロキシアパタイトや、従来のカルシウムは人体に吸収されにくいが、生体適合性を有し、人体に吸収されることによって人体に不足するこれらの成分を補うことができることが知られている。そこでこの発明者は、人体に消化吸収され易いように鋭意研究を重ねたところ、従来、吸収されにくいとされたカルシウムが、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンを複合体とすることによって、コラーゲンが足場の役割となり、コラーゲンに吸着結合したハイドロキシアパタイトが人体に吸収され易くなることを知り、この知見に基づいてこの発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の目的は、人体に消化吸収され易いように成した、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと魚鱗由来のコラーゲンから成る生体適合性材料を提供せんとするにある。
本発明の次の目的は、できる簡単な方法で人体に消化吸収され易い魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと魚鱗由来のコラーゲン生体適合性材料の製造方法を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、この発明は、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと同じく魚鱗由来のコラーゲンを主成分とする複合体を含むことを特徴とする。
【0008】
この発明はまた、前記複合体が、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと同じく魚鱗由来のコラーゲンを、約8対2の割合で含むことを特徴とする。
【0009】
この発明はさらに、前記複合体が、100g中に、水分4.2g、コラーゲン20.4g、ナトリウム390mg、リン14.2g、ハイドロキシアパタイト70.2g。マグネシウム323mgを含んでいることを特徴とする。
【0010】
この発明はさらに、前記ハイドロキシアパタイトは、分子量1000であることを特徴とする。
【0011】
この発明はさらに、前記コラーゲンは、分子量500〜1000であることを特徴とする。
【0012】
この発明はまた、前記ハイドロキシアパタイトは、100g中に、カルシウム33.5g、リン17.2g、マグネシウム390mg、ナトリウム900mg、蛋白質0.1g以下、水分3.4gを含んでいることを特徴とする。
【0013】
この発明はまた、前記コラーゲンは、100g中に、コラーゲン97.4g、水分4.5g、脂質0.2g、灰分0.2g、ナトリウムは52.6mgを含んでいることを特徴とする。
【0014】
この発明はさらに、請求項1に記載の複合体を得るに当たり、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトの抽出液(含水率70〜75%)と魚鱗由来のコラーゲンの抽出液(含水率40〜60%)を約8対2の割合で混合撹拌させた後、その混合物を熱風乾燥させて複合体とすることを特徴とする。
【0015】
この発明はさらに、前記複合体は、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトの製造工程の中に組み込まれて製造されることを特徴とする。
【0016】
そしてこの発明は、前記複合体は、魚鱗由来のコラーゲンの製造工程の中に組み込まれて製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明に係る生体適合性材料によれば、その原料を魚鱗とするので安全であり、かつ、とくにハイドロキシアパタイトとコラーゲンの互いの抽出液を混合撹拌沈着させて複合体とすることにより、ハイドロキシアパタイトの結晶構造の隙間にコラーゲンが吸着結合することとなり、複合体中のコラーゲンが足場の役割となり、コラーゲンに吸着結合したハイドロキシアパタイトが人体に吸収されやすくなるという特徴を有する。また、日本人のカルシウム摂取量は、栄養所要量を下回っており、食事によるカルシウムの摂取不足や、加齢に伴うカルシウム吸収能力の低下等により発症する骨粗鬆症患者は毎年増加しているのが現状であるが、これを解決するための1つの手段として有効である。また本願発明に係る製造方法によれば、本願発明に係る生体適合性材料は、魚鱗由来のハイドロキシアパタイト、又はコラーゲンの製造工程の中に組み込み製造できるため、製造が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る生体適合性材料をハイドロキシアパタイトの製造工程の中に組み入れて製造する場合について説明するが、後述するコラーゲンの製造工程の中に組み入れて製造しても良い。
【実施例1】
【0019】
図1は上述したように、ハイドロキシアパタイトの製造ラインをメインにして複合体を製造する製造方法の一例を示すフローチャート図である。図面に示すように、この実施例1に係る複合体の製造方法は、乾燥魚鱗を水に浸漬させる浸漬工程1と、この水に浸漬させて水切りをした魚鱗を15〜35℃の酸性水液中に10〜30分間浸漬して酸処理を行い、魚鱗に含まれるハイドロキシアパタイトを抽出させる酸処理工程2と、この酸処理工程2からの固形物が含まれるハイドロキシアパタイト抽出液を固液分離する第1固液分離工程3とを含んでいる。この第1固液分離工程3で分離された分離液はハイドロキシアパタイトの製造工程である第1濾過工程5へと進み、固形物(脱灰された魚鱗)は、この固形物からコラーゲンを製造すべくコラーゲン製造工程の第1洗浄工程23へ移送される。
【0020】
魚鱗としては、特に限定されず、海水魚、淡水魚などの魚種を問わないが、例えば、鯉、テラピア、すずき、鰯、鯛、鮭、鯵等が挙げられ、魚鱗のハイドロキシアパタイトやコラーゲン含有率及び入手のし易さ等の点から鯉、テラピア、すずき等が好ましい。しかし、実際に使用する魚鱗はさまざまな魚鱗の混合物である場合がある。また、魚鱗は、乾燥魚鱗でも未乾燥魚鱗でもよく、取り扱い易さの点から乾燥魚鱗であることが好ましい。乾燥魚鱗を用いる場合には、酸処理を行う前に乾燥魚鱗を水に浸漬させて水戻しする浸漬(水処理)工程を行う。この実施例では乾燥魚鱗を用いた。
【0021】
浸漬工程1は、上記したように乾燥魚鱗を水に浸漬させて水戻しを行うものであり、この水戻しは、例えば、通液性のナイロンネットに乾燥魚鱗をいれ、このナイロンネットを乾燥魚鱗に対して2.5〜4.0倍の水を入れたタンク内に入れて、10〜14時間浸漬することによって行う。ナイロンネットの網目サイズは1mm以下のものを用いることが好ましい。この浸漬工程1を終えた魚鱗は水切りをして次の酸処理工程2へと進む。
【0022】
この酸処理工程2は、魚鱗からハイドロキシアパタイトを主成分とする灰分を分離するものである。水切りをした魚鱗をナイロンネットより取り出し、酸性水溶液の中に入れて前記魚鱗から前記灰分を分離する。酸性水溶液としては、特に限定されず、有機酸の水溶液でも鉱酸の水溶液でもよいが、好ましくは塩酸水溶液である。この塩酸水溶液は、魚鱗の種類に応じて好ましい条件が変わるが、例えば、魚鱗に対して2.5〜4.0倍の水に純度35%の塩酸(魚鱗に対して65重量%、塩酸濃度5.7%)を投入したものであることが好ましい。
【0023】
魚鱗を酸性水溶液に浸漬させて酸処理する際の浸漬時間は、魚鱗の種類に応じて異なるが、例えば、前記の塩酸水溶液の塩酸濃度の条件では、例えば、10〜30分であることが好ましく、特に好ましくは15分である。この間撹拌機を用いて撹拌する。この浸漬時間が10分未満であると、十分に魚鱗が脱灰されず、かつ、ハイドロキシアパタイトの収率が低くなり、浸漬時間が30分を超える必要性は少ない。また、酸性水溶液の温度は、特に限定されず、例えば、15〜30℃であることが好ましく、特に好ましくは、25℃(±5℃)である。前記の塩酸水溶液の塩酸濃度及び浸漬時間の条件では、この酸性溶液の温度が15℃未満であると、十分に魚鱗が脱灰されず、かつ、ハイドロキシアパタイトの収率が低くなり、温度が30℃を超えると、コラーゲンの収率が低くなる。この酸処理を行う場合、魚鱗を酸性水溶液に浸漬させつつ撹拌することが好ましい。撹拌手段としては特に限定されず、例えば、撹拌機以外にヘラ等を用いて行なってもよい。この酸処理工程2を終了すると、次の第1固液分離工程3に移される。
【0024】
この第1固液分離工程3は、振動篩機などを用いて酸処理工程2を終了した処理抽出液から魚鱗等の固形物を分離するものであり、ここで分離された魚鱗等の固形物は、コラーゲン製造工程へ送られることになり、ハイドロキシアパタイト(灰分)を含んだ処理抽出液が第1濾過工程5へ送られここで濾過される。
【0025】
この第1濾過工程5は、ハイドロキシアパタイト抽出液の中から、微粒異物を除去するためのものであり、例えば、金網等が用いられる。金網のメッシュは、特に限定されず、20・200のものを用いることが好ましい。この第1濾過工程5で濾過されたハイドロキシアパタイト抽出液は、次の脱臭工程6で脱臭処理される。
【0026】
この脱臭工程6での脱臭処理は、特に限定されず、例えば、活性炭を用いて行うようにしてもよい。この活性炭を用いた場合には、ハイドロキシアパタイト抽出液の1.5パーセントを用いることが好ましい。この脱臭処理は、例えば、木質系・ヤシガラ系の活性炭を使用して行うようにしてもよい。脱臭処理後のハイドロキシアパタイト抽出液をさらに第2濾過工程7で濾過する。
【0027】
この第2濾過工程7での濾過方法はとくに限定されず、例えば、ハイドロキシアパタイト抽出液中に珪藻土をいれ、この液を撹拌しながら珪藻土をコーティングした濾布を通過させる濾過装置等を用いてもよい。この濾過後の酸処理液がアパタイト析出工程8でアパタイト析出処理される。
【0028】
このアパタイト析出工程8での析出処理は、ハイドロキシアパタイト抽出液にアルカリを加えてハイドロキシアパタイトを析出させるものである。このアルカリとしては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリの添加方法は特に限定されるものではない。アルカリをハイドロキシアパタイト抽出液に添加して液のpHを6〜9になるまで撹拌すると、ハイドロキシアパタイトが析出する。この析出したハイドロキシアパタイトは第2固液分離工程9で液から分離される。なお、アルカリを添加してハイドロキシアパタイトを析出させるが、アルカリの代わりにアルカリ水溶液を入れてハイドロキシアパタイトを析出させるようにしてもよい。
【0029】
この第2固液分離工程9は、析出されたハイドロキシアパタイトと残液とを分離するものであり、固液分離できれば特に限定されず、例えば、フィルタープレス、遠心分離機等を用いて行ってもよい。
【0030】
上記第2固液分離工程9によって固液分離されたハイドロキシアパタイトをタンクに回収し、第1脱塩工程10で脱塩させ、さらに第3固液分離工程11で固液分離された後、水分調整し、コラーゲン抽出液と混合される。前記第1脱塩工程10は特に限定されず、例えば、イオン交換装置等を用いて液中に含まれるナトリウムイオンを除去するものであるが、水を用いて洗浄を行うことによりこの脱塩を行っても良い。この洗浄工程を行って脱塩すると、製造コストを下げることができる。
【0031】
コラーゲン抽出液は上述したように、ハイドロキシアパタイトの製造ラインでの第1固液分離工程3で分離された酸処理後の魚鱗を用い、次に説明するような製造工程を経て製造されることが好ましい。
【0032】
第1固液分離工程3を経て固液分離された魚鱗は、第1洗浄工程23を介してpH調整をした後、水を加えてこれを加熱処理して魚鱗に含まれるコラーゲンを抽出させる加熱処理工程24と、この加熱処理工程24からの固形物が含まれる加熱処理液を常温まで冷却する第1冷却工程25と、この第1冷却工程25で冷却されたコラーゲン抽出液と固形物を固液分離する第4固液分離工程26と、この第4固液分離工程26で分離されたコラーゲン抽出液を加熱して殺菌させる第1殺菌工程27と、この第1殺菌工程27で加熱殺菌されたコラーゲン抽出液を常温まで冷却する第2冷却工程28と、この第2冷却工程28で冷却されたコラーゲン抽出液をアルカリでpH調整する第2洗浄工程29と、この第2洗浄工程29でpH調整されたコラーゲン抽出液に酵素を加えて酵素的分解処理を行う酵素的分解処理工程30とを含むことを特徴とする。尚、第4固液分離工程26で分離された魚鱗は、再加熱処理工程40で再度過熱処理され、コラーゲン抽出液を抽出させ、第3冷却工程41を経てコラーゲン抽出液を第5固液分離工程42で分離し、先の第4固液分離工程26で分離したコラーゲン抽出液に加えることによって、無駄なく魚鱗を利用できることになる。
【0033】
加熱処理後に冷却されて固液分離されたコラーゲン抽出液は第1殺菌工程27で殺菌処理される。殺菌処理は、特に限定されず、例えば、加熱処理液を70〜80℃、特に75℃まで加温して行なう。この殺菌処理後の加熱処理液が後述する酵素を活性させ得る温度、例えば、60℃まで第2冷却工程28を経て冷却されてから、第2洗浄工程29を経て加熱処理液のpHが5〜8、特に6.5(±0.2)となるように調整される。このpHの調整は、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加して行うようにしてもよい。この第2洗浄工程29でpH調整されたコラーゲン抽出液は、次の酵素的分解処理工程30よって処理される。
【0034】
この酵素的分解処理工程30は、第2洗浄工程29でpH処理されたコラーゲン抽出液に酵素を加えてコラーゲンの低分子化を図るものである。この酵素的分解処理は、例えば、平均分子量が好ましくは500〜3000、特に好ましくは500〜2000、最も好ましくは500〜1000のコラーゲンを得るために行うものである。酵素としては、加熱処理液を酵素的分解処理できれば特に限定されないが、例えば、Bacillus licheniformis由来のアルカリ性酵素(ジェネンコア社製、商品名:Protex 6L)等が挙げられる。酵素の添加量は、特に限定されないが、例えば、基質の0.01〜0.1%であることが好ましく、特に0.08%であることが好ましい。
【0035】
酵素的分解処理の温度は、酵素に応じて異なるが、例えば、30〜70℃であることが好ましく、特に60℃であることが好ましい。酵素的分解処理時間は、酵素に応じて異なるが、例えば、3〜10時間であることが好ましく、6〜8時間が特に好ましく、最も好ましくは8時間である。この分解処理時間が6時間未満であると、コラーゲンの所望の低分子化を十分に行えず、分解処理時間が10時間を超えても分子量は変わらない。また、酵素的分解処理は撹拌して行うことが好ましい。この撹拌手段は、特に限定されず、例えば、撹拌機等を用いて行なってもよい。
【0036】
酵素的分解処理工程30で処理されたコラーゲン抽出液(酵素処理液ということがある)は、酵素失活工程31で例えば80〜85℃、特に85℃で15分間加熱して酵素が失活される。この酵素が失活された液は、第4冷却工程32を経て、例えば、60℃まで冷却される。冷却後、酵素処理液中の固形物の除去が第3濾過工程33で行われる。この第3濾過工程33は、固形物の除去を行うものであれば特に限定されず、例えば、フィルタープレスで清澄濾過等を行うことが好ましい。清澄濾過としては、例えば、酵素処理液中に珪藻土をいれ、この液を撹拌しながら珪藻土をコーティングしたろ布を通過させる濾過装置等を用いてもよい。また、第3濾過工程33において脱臭処理を行うようにすることが好ましい。この脱臭処理としては、例えば、木質系・ヤシガラ系の活性炭を使用して行うようにしてもよい。
【0037】
清澄濾過された濾液(処理液ということがある。)は、第2脱塩工程34を経て液中に含まれる塩が除去される。この脱塩処理は、特に限定されず、例えば、イオン交換装置等を用いて液中に含まれるナトリウムイオンを除去するものであるが、洗浄を行なうことによりこの脱塩を行っても良い。この洗浄工程を行って脱塩すると、製造コストを下げることができる。以上の脱塩工程により、無味・無臭のコラーゲンが得られる。脱塩処理された処理液は、第2殺菌工程35で例えば、120℃で3秒間加熱して殺菌処理した後に第5冷却工程36で例えば75℃以下に冷却される。冷却後の処理液が濃縮工程37で、例えば、蒸発温度60〜65℃でブリックスが40(±1.0)となるように濃縮処理される。これにより、コラーゲン抽出液が得られる。
【0038】
このコラーゲン抽出液を水分調整したものに、上述したハイドロキシアパタイト抽出液を水分調整したものを、固形分計算でハイドロキシアパタイト約80%対コラーゲン約20%の割合となるように加えて混合撹拌沈着工程43で撹拌混合する。すると、ハイドロキシアパタイトにコラーゲンが沈着するので、この沈着結合物を乾燥工程44で熱風乾燥させると、固形状のハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体ができ上がる。この複合体をさらに次の粉砕工程45で粉砕させ、さらにメッシュパス工程46を経てメッシュパスさせることにより、粉状のハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体を得ることができるものである。
【実施例2】
【0039】
尚、以上の説明では、コラーゲン抽出液をハイドロキシアパタイトの製造工程から分岐して製造する場合について説明したが、乾燥魚鱗を水戻ししてから酸処理するところまではコラーゲンの製造方法でも同じであるので、両者同じ工程を経ることから、製造ラインの主体をコラーゲンの製造ラインとし、図2に示したように、乾燥魚鱗を浸漬工程20で水戻しし、次いで酸処理工程21で酸処理後、第1固液分離工程22を経てハイドロキシアパタイト抽出液を分離してハイドロキシアパタイトの製造ラインへ分岐させるという製造方法も採ることができることは勿論である。この製造方法は図2に示してあるが、指示記号の同じものは図1に示してあるものと同じであるので、説明を省略する。
【0040】
次に、上述したハイドロキシアパタイト抽出液から微粉状のハイドロキシアパタイトの単体を得る場合には、とくに図1に示したように、乾燥工程12で乾燥処理される。この乾燥工程12は、ハイドロキシアパタイト抽出液の乾燥を行えれば特に限定されず、例えば、熱風乾燥等でもよい。熱風の温度は、特に限定されないが、好ましくは65℃〜100℃で、特に好ましくは70℃である。乾燥時間は、特に限定されず、好ましくは15〜24時間で、特に好ましくは18時間である。これにより、乾燥した微粉状のハイドロキシアパタイトが得られるものである。
【0041】
次に、上述したコラーゲン抽出液から微粉状の単体を得る場合には、とくに図2に示したように、濃縮されたコラーゲン抽出液を、例えば、凍結乾燥したり、スプレイドライ等の噴霧乾燥する乾燥工程48を経ることにより、粉体化した微粉状のコラーゲン粉末を得ることができるものである。
【0042】
このようにして得られた微粉状のコラーゲンは、無味・無臭で分子量500〜1000の高品質の低分子コラーゲンであった。コラーゲンは多くのアミノ酸を含み、このアミノ酸の組成によって性質が異なるものである。コラーゲンは、他の蛋白質に比べアミノ酸組成や配列が特異的で、ポリペプチド鎖3本が、右巻きのへリックスを形成し安定した構造を保っている。そして、コラーゲン特有の安定したヘリックス構造は、ヒドロキシプロリンがなければ形成されないため、このヒドロキシプロリンの含有量が、コラーゲンの質を判断する目安となるものであると言える。つまり、ヒドロキシプロリンの含有量が多いと質がよいものと言えるものである。本発明に係るコラーゲンの製造方法によって得られたコラーゲンの中に含まれるアミノ酸の組成を、アミノ酸自動分析法により分析した結果を表1に示した。いずれもコラーゲン100g中の含有量である。尚、表1に示したように豚皮由来のコラーゲン、A社のコラーゲン及びB社のコラーゲンについても同様にアミノ酸自動分析法によりアミノ酸の分析を行なっている。
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1から解るように、本願発明にかかる製造方法で製造されたコラーゲンは、他の材料と製造方法で製造されたコラーゲンと比べてヒドロキシプロリンの含有量が多いことが解る。また、このコラーゲンは、酵素的分解処理により低分子化(分子量500〜1000)が図られているので、生体の吸収率が高いものである。
【実施例3】
【0045】
次に、本発明に係る生体適合性材料を構成する粉状のハイドロキシアパタイトとコラーゲン複合体を以下に説明するようにして製造した。まず、ハイドロキシアパタイト抽出液のほうから説明すると、鯉の乾燥魚鱗2kgを網目サイズが1mm以下のナイロンネットに入れた。PE(ポリエチレン)タンクに乾燥魚鱗の3.3倍の水6.6kgを入れ、このタンク内の水に乾燥魚鱗を入れたナイロンネットを12時間完全に浸漬させて水戻しを行なった。
【0046】
この浸漬工程の後、PE(ポリエチレン)タンク内の水を一旦抜いて、新たに6.6kgの水を入れ、その水温を20℃(±2℃)に保持しながら、純度35%の塩酸1300gを投入して塩酸水溶液を作った。この塩酸水溶液に、水戻しした魚鱗を25分間浸漬させつつ撹拌して酸処理を行った。この魚鱗を酸処理することによって得たハイドロキシアパタイト抽出液を固液分離させ、濾過装置を用いて濾過した。この濾過後のハイドロキシアパタイト抽出液をヤシガラ系活性炭を用いて脱臭処理した。脱臭処理後、フィルタープレスを用いて清澄濾過して、処理液中の微細な固形物の除去を行った。
【0047】
この濾過後のハイドロキシアパタイト抽出液に水酸化ナトリウム(48%NaOH)を添加しつつ液の撹拌機を用いて撹拌を行って液のpHを7にする処理を行なった。
【0048】
この作業により、ハイドロキシアパタイトが溶出してハイドロキシアパタイトの粒子が析出した。析出後、フィルタープレスを用いて固液分離して、分離されたハイドロキシアパタイトをタンクに入れ、このタンクに処理液量の3〜4倍の水36〜48kgを入れて撹拌して洗浄することにより脱塩処理した。続いて70℃に加熱して殺菌処理を30分間維持してから、フィルタープレスを用いて撹拌しつつ固液分離を行った。このようにして得られたハイドロキシアパタイト抽出液は、含水率が75%のものであり、重量にして1.800gであった。
【0049】
次に、コラーゲン抽出液を以下に説明するようにして製造した。鯉の乾燥魚鱗150kgを網目サイズが1mm以下のナイロンネットに入れた。このナイロンネットを乾燥魚鱗の3.3倍の水495キロリットルを溜めたPE(ポリエチレン)タンクにナイロンネットごと入れ、12時間完全に浸漬させて水戻しを行なった。
【0050】
次いで、別のPE(ポリエチレン)タンクに乾燥魚鱗の3.3倍の水495キロリットルを入れ、この水温を20℃(±2℃)に保持しながら、純度35%の塩酸93キロリットルを投入して塩酸水溶液を作った。この塩酸水溶液に、水戻しした魚鱗をナイロンネットごと15分間浸漬させつつ撹拌して、酸処理を行う。酸処理後の魚鱗が入ったナイロンネットを洗浄タンク内に広げ、魚鱗が流出しないように600キロリットルの水で5分間洗浄を5回行い、魚鱗のpHを4.0(±0.2)に調整した。
【0051】
洗浄後の魚鱗を、魚鱗に対する8倍の水を入れた釜に入れて、これを98℃以上で3時間1次加熱処理した。この1次加熱処理は、液の最終濃度がブリックス10〜12となるように行なった。加熱処理中に水分が蒸発して釜の中に水分が少なくなった場合には、水を補給する。この場合、釜に目盛り等などの印を設けて、基準の印の箇所に水面が来るように水を補給すると良い。
【0052】
1次加熱処理後、75℃以下に冷却してから20・200メッシュの振動篩2段の振動篩機で液である1次加熱処理液と固形物との固液分離を行なった。この固液分離で分離された固形物を、固形物すなわち魚鱗に対する4倍の水を入れて、これを98℃以上で2時間、2次加熱処理した。この2次加熱処理は、液の最終濃度がブリックス10〜12となるように行なった。加熱処理中に水分が蒸発して釜の中の水分が少なくなった場合には、水を補給すると良い。
【0053】
2次加熱処理後、75℃以下に冷却してから20・200メッシュの振動篩2段の振動篩機で液である2次加熱処理液と固形物との固液分離を行なった。この固液分離で分離された液である2次加熱処理液は、1次加熱処理液と共に75℃で15分間殺菌処理した。殺菌処理後、60℃まで冷却してから酵素的分解処理を行なった。
【0054】
この酵素的分解処理は、加熱処理液のpHを水酸化ナトリウムによって6.5(±0.2)に調整してからBacillus Licheniformis由来のアルカリ性酵素(ジェネンコア社製、商品名:Protex 6L)を基質の0.08%加熱処理液に入れて、これを60℃(±1℃)で8時間撹拌機を用いて撹拌するものであった。
【0055】
酵素分解処理後、酵素分解処理した液(処理液)を85℃で10分間保持して酵素を失活させた後、60℃まで冷却する。冷却後、処理液をヤシガラ系活性炭を用いて脱臭処理してからフィルタープレスを用いて清澄濾過して、処理液中の固形物の除去を行なった。尚、第3濾過工程33において脱臭処理を行うようにすることが好ましい。この脱臭処理としては、例えば、木質系・ヤシガラ系の活性炭を使用して行うようにしてもよい。固形物を除去した後、処理液をイオン交換装置を用いて脱塩処理した。脱塩処理後、処理液を120℃、3秒、加熱して殺菌処理した後に75℃以下に冷却した。冷却後の処理液を、濃縮タンクで蒸発温度60〜65℃にしてブリックスが40(±1.0)となるように濃縮処理してコラーゲン抽出液を得た。
【0056】
次いで、上述したハイドロキシアパタイトの製造工程の第3固液分離工程11で分離されたハイドロキシアパタイト抽出液の含水率75パーセントのものを1.800g用意し、上述したコラーゲンの製造工程で得られた乾燥工程に移行する前の低分子のコラーゲン抽出液の含水率50%のものを220gそれぞれ固形物計算で用意し、両抽出液を共に処理タンクへ入れて常温で、10〜20分間混合撹拌させたところ、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンの沈着結合物が2.020g析出した。この沈着結合物を70℃の熱風雰囲気下で18時間熱風乾燥させたところ、含水率5.8%のハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体が520.6g得られた。また、その色は淡白黄色であり、わずかに微臭がするものであった。
【実施例4】
【0057】
この実施例では、上述したコラーゲンの製造工程で得られた乾燥工程48に移行する前の濃縮された低分子のコラーゲン抽出液を水分調整して含水率50%としたものを220g用意し、上述したハイドロキシアパタイトの製造工程の第3固液分離工程11で分離されたハイドロキシアパタイトを水分調整して含水率75パーセントとしたものを1.800g用意し、共に処理タンクへ入れて常温で、10〜20分間混合撹拌させたところ、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンの沈着結合物が2.020g析出した。この沈着結合物を次の乾燥工程で70℃の熱風雰囲気下で18時間熱風乾燥させたところ、含水率5.8%のハイドロキシアパタイトとコラーゲンの沈着結合物が520.6g得られた。そして、その色は淡白黄色であり、わずかに微臭がするものであった。
【0058】
以上のようにして得られた複合体を、走査型電子顕微鏡を用いて走査し、市販されている粉末状のアパタイトとコラーゲンの混合物を走査したものと比べたところ、図4に示したように、複合体Aは不定形の物質1種類だけが確認でき、図3に示したように、市販品の混合物Bは球形の物質(コラーゲン)と、不定形の物質(ハイドロキシアパタイト)の2種類の物質が表面に付着しているだけの状態が確認できた。このことから解るように複合体Aは、2つの物質が結合して1つになっているものと思われる。参考までにハドロキシアパタイト単独のものを走査したところ、図5に示したように、複合体Aよりも細かな結晶が明瞭に観察できで、複合体Aはこのハイドロキシアパタイトの結晶構造の隙間にコラーゲンが結合しているものと思われる。
【0059】
さらに、上述した複合体を分析したところ、表2に示した分析結果が得られた。
【0060】
【表2】

【0061】
上記表2から解るように、複合体は、100gに対して、水分が4.2g(常圧加熱乾燥法により測定。)、蛋白質が20.4g(ケルダール法(窒素・蛋白質換算係数:6.25)により測定。)、リンが14.2g(ICP発光分析法により測定。)、ハイドロキシアパタイトが70.2g(ICP発光分析法(Caからの換算係数:2.5067)により測定。)、ナトリウムが390mg(原子吸光光度法により測定。)、マグネシウムが323mg(ICP発光分析法により測定。)それぞれ含有し、pHが6.6(ガラス電極法(10%懸濁液で測定)により測定。)であった。尚、ハイドロキシアパタイト70.2g中には、ICP発光分析法を用いて28.0gのカルシウムを確認できた。このカルシウム28.0gを求める計算式は次のとおりである。
Ca5(PO4)3OH=5×40.078+3×(30.973762+4×15.9994)+15.9994+1.00794
=502.311426
Caからの換算係数
Ca5(PO4)3OH/(5×Ca)=502.311426/(5×40.078)
=2.506669125 →2.5067
70.2g÷2.5067≒28.0g
【0062】
またこの複合体の商品規格としては、下記表3に示したものとすることが望ましい。表3によれば、水分が10%以下(常圧加熱乾燥法により測定。)、蛋白質が15%以上(ケルダール法(窒素・蛋白質換算係数:5.55)により測定。)、リンが10%以上(ICP発光分析法により測定。)、ハイドロキシアパタイトが65%以上(ICP発光分析法(Caからの換算係数:2.5067)により測定。)、ナトリウムが0.5%以下(原子吸光光度法により測定。)、重金属(Pbとして)が20ppm以下(硫化ナトリウム比色法により測定。)、ヒ素(As2O3として)が2ppm以下(原子吸光光度法により測定。)をそれぞれ含有し、pHが6.0〜8.0(ガラス電極法(10%水溶液で測定)により測定。)で、一般細菌数(生菌数)が3000個/g以下(標準寒天培養法により測定。)、大腸菌群が陰性(BGLB法により測定。)である。
【0063】
【表3】

【0064】
さらに、以上のようにして得た複合体を、骨祖鬆症モデルマウスへ投与して骨の改善効果について実験した。
【0065】
実験にはICR系マウス雌10週齢(体重20g)を使用した。これらに卵巣摘出術(OVX群)及び疑似手術(sham群)を施し、2ヶ月間通常飼料にて飼育し、各群10匹ずつ6群のグループに分けた。これらのうちOVX Control群とsham群は炭酸カルシウムをカルシウム源とする1.5〜1.8%カルシウム含有飼料で飼育した。さらに比較対象として、OVXマウスに対して明らかに骨密度の上昇を示す骨粗鬆症治療薬である、ビスフォスフォネート製剤(リセドロネート)投与群を設定した。他の3群は食品および食品添加剤を含有した特殊飼料にて飼育した。下記に今回の実験で使用した食品及び食品添加剤の配合状況を示す。
【0066】
【表4】

【0067】
これらの飼料にて2ヶ月間飼育した後、断頭切断により採血し、血清分離後カルシウム、リン、マグネシウム濃度およびアルカリフォスファターゼ値を測定した。更に大腿骨を摘出した後、骨梁構造の改善効果についてpQCT(Peripheral Quantitative Computd Tomography・抹消骨用定量的CT)、μCT(マイクロフォーカスX線CT)を用いて大腿骨遠位骨端部および骨幹部を対象に3次元的骨密度測定および骨構造解析を行った。
【0068】
この骨梁構造解析のため焦点8×8μmのマイクロフォーカスエックス線管を有するエックス線マイクロCT(MCT−CB130F,Hitachi Medico社製)を使用し、大腿骨遠位骨端部の3次元立体画像情報を取得した。撮影条件は管電圧40kV、管電流100μA、Voxel size17.8×17.8×17.8μmとし、各々50枚のVolume dataを取得した。得られた50枚の海綿骨と皮質骨の2次元画像を基にして画像の3次元構築を行った。これらの3D画像を対象に骨梁構造計測ソフト(TRI 3D・BONE:ラトックシステムエンジニアリング)を用いて3次元パラメータを測定した。測定した構造パラメータを下記に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
各群間比較するための統計処理にはStudent’s t−testを使用した。パラメータについてはOVX Control群に有意の差があったもののみについて各5群との比較を行った。
【0071】
次いで、pQCTを用いて摘出大腿骨骨端部および骨幹部の3次元的骨密度測定そしてpQCTにて得られた横断画像から海綿骨と皮質骨を区別して物理量である体積骨密度(mg/cm)を解析するとともに皮質骨幅・断面二次モーメント・断面係数等の形態的指標を元に骨強度指標を求めた。表6に解析パラメータを示す。各群間比較するための統計処理にはStudent’s t−testを使用した。図6に解析の設定部位を示す。
【0072】
【表6】

【0073】
次いで、各郡の実験マウスより血液を採取し、血清中のミネラル濃度とAIP活性について測定した。血液の採取は半麻酔下での断頭により行った。採取した血液は氷温で1時間放置後、10分間、1000rpmで血清を遠心分離した。カルシウムの測定はキレート発色法により行った。血清50μlをpH=11に調整した0.88Mモノエタノールアミン緩衝液5mlに入れ、発色試薬としてオルトクレゾールフタレインコンプレクソンと8−キノリノールの混合液を加えた。よく撹拌し5分間放置後、分光光度計にて570nmの吸光度を測定した。リンの測定はモリブデンブルー直説法により行った。血清0.2mlを発色試薬5mlに加え室温で15分間放置後、分光光度計にて690nmの吸光度を測定した。発色試薬としてはモリブデン酸アンモニウム、硫酸第一鉄アンモニウム、硫酸の混合液に界面活性剤を添加したものである。マグネシウムの測定はキシリジルブルー法により行った。血清20μlに発色試薬3mlを加え、室温で10分間放置後、分光光度計にて520nmの吸光度を測定した。発色試薬としてキシリルアゾバイオレットIとグリコールエーテルジアミン四酢酸の混合液に界面活性剤を添加したものである。
【0074】
アルカリフォスファターゼはフェニルリン酸基質法により行った。基質緩衝液2mlに血清50μlを入れて37℃で15分間加温した後、発色試薬として36mMのフェリシアン化カリウム2mlを加える。よく撹拌した後、分光光度計にて570nmの吸光度を測定した。基質緩衝液はpH=10.5に調整した50mM炭酸塩緩衝液に4アミノアンチピリンとフェニルリン酸の混合液を加えたものである。
これらの測定はすべて和光純薬工業製の臨床生化学検査薬キットを使用した。
【0075】
【表7】

【0076】
上記表7は、マウス血清中のミネラル濃度とアルカリフォスファターゼ(AIP)活性を示す。血中Ca,P,Mgはすべての実験群間において有意差を認めることは出来なかった。一方、AIP活性は骨代謝異常があると高値を示すが、本実験結果ではすべての群においてOVXよりも低い傾向がみられたが有意差は認められなかった。
【0077】
下記する表8はpQCTにて測定した大腿骨遠位骨端部と骨幹部におけるOVX Controlと実験群との有意差比較を示す。OVX Controlとsham群で骨端部、骨幹部共に11項目のパラメータについて有意差を示しており、OVX Controlが明らかな骨粗鬆症モデルマウスである事を実証している。また、骨粗鬆症治療薬であるリセドロネート投与群は骨端部で全骨密度、海綿骨密度、皮質骨厚、皮質骨断面積、骨幹部で皮質骨厚、皮質骨断面積において有意にOVX Controlよりも上昇していた。このように骨密度上昇を特徴とするリセドロネートの効果が示された事により、今回の実験が高い精度で実行された事を示すものである。そして、実験群の内、複合体がリセドロネート投与群に最も近い効果を示した。一方、MK7は大腿骨遠位骨端部の皮質骨厚、皮質骨断面積、骨膜周囲長、骨強度指標においてOVX Controlよりも有意に上昇を示した。しかし、骨幹部においてはOVX Controlとの有意な差は認められなかった。また、MK4は骨端部骨膜周囲長のみがOVX Controlに対して有意に上昇した。
【0078】
【表8】

【0079】
図7は遠位骨端部(A)・骨幹部(B)の代表的なOVX Controlと複合体のpQCT画像を示す。白い部分が皮質骨、この皮質骨の内側と外側にある部分が海綿骨を示す。複合体を投与したマウスの皮質骨が厚くなっており、骨密度が上昇していることを視覚的に確認できる。
【0080】
下記する表9は、μCTによる大腿骨遠位骨端部における骨内部構造の三次元構造解析結果を示す。太線で縁取りされた部分の各実験群のパラメータは、OVX Controlより高い平均値をしめしており、骨内部構造の改善効果が高いことを意味する。一方、太線で縁取りされていない部分のパラメータはOVX Controlより低い平均値を示しており、低い程、骨内部構造の改善効果を有していることを意味する。即ち、Tb.SP、TB space、TBPf、Vm Space、N.Tm、TmTm/TSL、TmTm/TVは、値が低いほど骨内部構造の高い改善効果を示す。OVX Controlに対してsham群は12パラメータ、リセドロネート群は13パラメータについて有意な骨梁改善効果を示しており、今回の実験系が高い精度で実行された事を示している。そしてMK7、複合体、MK4の順に骨梁改善効果を示した。
【0081】
【表9】

【0082】
図8は、OVX Controlとshamの代表的な骨梁構造の横断面と縦断面の3次元構築画像を示す。図9はリセドロネート、MK4、MK7、複合体の代表的な横断面と縦断面の3次元構築画像を示す。
【0083】
以上詳細に説明したように、複合体の骨密度および骨梁構造改善効果についてOVXマウスを使用し、図8と図9に示した画像を基にして、大腿骨遠位骨端部および骨幹部を対象に3次元的画像解析を行った結果、下記の結論を得た。
1.複合体は骨密度上昇と骨内部構造改善効果の両者を示すが、むしろ骨密度上昇が主な効果として認められた。そして、骨幹部の皮質骨密度の上昇を示したのは、複合体だけであった。
2.MK−7は骨密度上昇と骨内部構造改善効果の両者を示すが、むしろ骨内部構造改善が主な効果として認められた。
3.MK−4は骨内部構造改善が主な効果しとして認められた。
【0084】
以上の効果から、複合体は骨密度上昇に著明な効果を示し、かつ内部構造改善をも期待でき、骨粗鬆症の予防や骨構造劣化の改善に有効であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように本発明に係る生体適合性材料を構成するハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体は、ほとんど臭いは無く無味、かつ魚鱗を原料とするので安全であり、又、骨質改善効果に優れているため、これをそのまま摂取するか、他のさまざまな食べ物、お菓子、チューインガム、飲料水などに混ぜて摂取することによって、カルシウムの不足から来る、骨粗鬆症を始めとするさまざまな病気や症状の改善、予防に役立てることができることは明らかである。また、その製造方法は、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトやコラーゲンの製造工程の中に組み入れることが可能なため、製造し易いことになる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係るハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体の製造方法の一実施例を示すフローチャート図である。
【図2】本発明に係るハイドロキシアパタイトとコラーゲンの複合体の製造方法の他の実施例を示すフローチャート図である。
【図3】市販されているハイドロキシアパタイトとコラーゲンの混合物を走査型電子顕微鏡で見た画像図である。
【図4】本発明に係る複合体を走査型電子顕微鏡で見た画像図である。
【図5】市販されているハイドロキシアパタイトを走査型電子顕微鏡で見た画像図である。
【図6】モデルマウスより摘出した大腿骨の解析設定部位を示す説明図である。
【図7】OVX Control使用のモデルマウスと本発明に係る複合体を使用したモデルマウスの図6に示した解析設定部位でのpQCT画像図である。
【図8】OVX ControlとShamを使用したモデルマウスの骨梁構造の横断面と縦断面の3次元画像図である。
【図9】リセドロネート、MK4、MK7、及び本発明に係る複合体それぞれ使用したモデルマウスの骨梁構造の横断面と縦断面の3次元画像図である。
【符号の説明】
【0087】
1 浸漬工程
2 酸処理工程
3 第1固液分離工程
5 第1濾過工程
6 脱臭工程
7 第2濾過工程
8 アパタイト析出工程
9 第2固液分離工程
10 第1脱塩工程
11 第3固液分離工程
12 乾燥工程
20 浸漬工程
21 酸処理工程
22 第1固液分離工程
23 第1洗浄工程
24 加熱処理工程
25 第1冷却工程
26 第4固液分離工程
27 第1殺菌工程
28 第2冷却工程
29 第2洗浄工程
30 酵素的分解処理工程
31 酵素失活工程
32 第4冷却工程
33 第3濾過工程
34 第2脱塩工程
35 第2殺菌工程
36 第5冷却工程
37 濃縮工程
40 再加熱処理工程
41 第3冷却工程
42 第5固液分離工程
43 混合撹拌沈着工程
44 乾燥工程
45 粉砕工程
46 メッシュパス工程
48 乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと同じく魚鱗由来のコラーゲンを主成分とする複合体を含むことを特徴とする、生体適合性材料。
【請求項2】
前記複合体が、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトと同じく魚鱗由来のコラーゲンを、約8対2の割合で含むことを特徴とする、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項3】
前記複合体が、100g中に、水分4.2g、コラーゲン20.4g、ナトリウム390mg、リン14.2g、ハイドロキシアパタイト70.2g。マグネシウム323mgを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項4】
前記ハイドロキシアパタイトは、分子量1000であることを特徴とする。請求項1又は請求項3のいずれかに記載の生体適合性材料。
【請求項5】
前記コラーゲンは、分子量500〜1000であることを特徴とする、請求項1又は請求項3のいずれかに記載の生体適合性材料。
【請求項6】
前記ハイドロキシアパタイトは、100g中に、カルシウム33.5g、リン17.2g、マグネシウム390mg、ナトリウム900mg、蛋白質0.1g以下、水分3.4gを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項7】
前記コラーゲンは、100g中に、コラーゲン97.4g、水分4.5g、脂質0.2g、灰分0.2g、ナトリウムは52.6mgを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の生体適合性材料。
【請求項8】
請求項1に記載の複合体を得るに当たり、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトの抽出液(含水率70〜75%)と魚鱗由来のコラーゲンの抽出液(含水率40〜60%)を約8対2の割合で混合撹拌させた後、その混合物を熱風乾燥させて複合体とすることを特徴とする、生体適合性材料の製造方法。
【請求項9】
前記複合体は、魚鱗由来のハイドロキシアパタイトの製造工程の中に組み込まれて製造されることを特徴とする、生体適合性材料の製造方法。
【請求項10】
前記複合体は、魚鱗由来のコラーゲンの製造工程の中に組み込まれて製造されることを特徴とする、生体適合性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−107938(P2009−107938A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278908(P2007−278908)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(508137888)株式会社アールビーエス (3)
【Fターム(参考)】