説明

生体電気信号計測用装置

【課題】 長時間にわたる測定であっても、被験者を拘束することなく、皮膚などの患部に影響を及ぼすことなく、簡単かつ精密に心電位信号などの生体電気信号を計測できる生体電気信号計測用電極及びそれを備えてなる生体電気信号計測用装置を提供する。
【解決手段】 導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電気信号計測用電極及びそれを備えてなる生体電気信号計測用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体電気信号として代表的なものは、心電位信号や筋電位信号などであり、それらを測定することによって生体機能の検査が行われている。
【0003】
例えば、心電位信号を測定する一般的な心電図記録は、安静時の心機能を測定するもので、被検者の体表に生じる電圧の変化を記録した心電図により行っている。心電図の測定のためには、電極を被検者の手首や足首の近くに粘着剤によって皮膚に接着させたり、減圧を利用して胸部などの体表面に吸着させたりすることで固定し、各電極から得られる心電位信号を増幅器により増幅して記録計に記録して表示画面に波形表示していた。測定に際して、通常、被験者は診察台の上に仰向けになって安静にしていることが要求される。そして、電極は、測定するごとに被検者に固定され、しかも上記のように粘着剤を用いたり、減圧したりして体表面に固定して測定に入るため、被検者に意識させることなく計測することは難しい。
【0004】
また、一般的に胸部に吸着される電極は、6個から構成され、V1は胸郭の第4肋間胸骨右縁、V2は第4肋間胸骨左縁、V4は第5肋間左鎖骨中線上、V3はV2とV4の中点、V5はV4と同じ高さで前腋窩線上、V6はV4と同じ高さで中腋窩線上に装着される。胸郭は肋骨と肋間が交互に現れる凹凸構造を示すため、体型や体表面の状態によっては吸着がうまく行かず、電極が外れることがしばしばあった。また、電極の順番を間違えずに、正確な位置に迅速に装着するよう注意を払う必要があった。さらに、6個の電極では、心臓から発生する体表面上での電位分布を十分に推定することが難しく、心機能の状態を精密に把握するには限界があった。
【0005】
一方、発作性、孤立性、一過性の心臓疾患を有する場合は、短時間の心電図の記録では心機能を把握することが難しいため、数日間に一度程度発生する異常心電をとらえることを企図して、例えば、ホルタ心電計(長時間心電図記録器)により長時間の心電図の記録を行う必要がある。しかし、この場合においても、被験者は電極を貼り付けた状態を要求され、電極を装着した状態では行動も制約される上、電極を装着した皮膚接触面には、かゆみ、発赤、炎症などを惹き起こす場合もあった。また、被験者自身が容易に着脱を行えないため、入浴などの日常行動の一部の計測が困難であることから、24時間程度の計測しか行うことが出来ず、数日間に一度程度発生する異常心電を取得することは不可能であるとされてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情や問題点に鑑みてなされたものであり、長時間にわたる測定であっても、被験者の日常行動を拘束せず、皮膚などに影響を及ぼさずに、被験者自身の手で容易に電極を着脱し、簡単かつ精密に心電位信号などの生体電気信号を計測することが出来る生体電気信号計測用電極及びそれを備えてなる生体電気信号計測用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極に関する。
【0008】
また、本発明は、(2)縦糸又は緯糸のいずれか一方に非導電性糸、他方に導電性糸を用いて、綴れ織りすることを特徴とする前記(1)に記載の生体電気信号計測用電極に関する。
【0009】
また、本発明は、(3)前記複数の電極は、それぞれ離間して配され、非導電性領域によって電気的に絶縁されていることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の生体電気信号計測用電極に関する。
【0010】
また、本発明は、(4)前記電極からは、該電極を形成する導電性糸が伸長してなる導電部が形成されていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用電極に関する。
【0011】
また、本発明は、(5)前記導電部は、絶縁体により被覆されていることを特徴とする前記(4)に記載の生体電気信号計測用電極に関する。
【0012】
また、本発明は、(6)前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用電極を備えてなる生体電気信号計測用装置に関する。
【0013】
また、本発明は、(7)導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極と、
前記生体信号計測用電極により検出された電気信号を増幅して増幅信号を生成する増幅器と、
前記増幅信号に基づいて生体電気信号を記録する記録器とを
備える生体電気信号計測用装置に関する。
【0014】
また、本発明は、(8)さらに、前記生体電気信号計測用電極と増幅器を接続する導電部を備え、該導電部は前記生体電気信号計測用電極を形成する導電性糸が伸長して形成されることを特徴とする前記(7)に記載の生体電気信号計測用装置。
【0015】
また、本発明は、(9)前記生体電気信号が、筋電位信号又は心電位信号である前記(6)〜(8)のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置に関する。
【0016】
また、本発明は、(10)前記生体電気信号計測用電極を多点計測用電極として用いることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置に関する。
【0017】
また、本発明は、(11)前記生体電気信号計測用電極を胸部誘導電極として用いることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被験者自身の手によって容易に着脱可能であるため、長時間にわたる測定であっても、被験者の日常行動を拘束することなく、また、皮膚などに影響を及ぼすこともなく、簡単かつ精密に心電位信号などの生体電気信号を計測することが出来る生体電気信号計測用電極及びそれを備えてなる生体電気信号計測用装置を提供することができる。すなわち、本発明によれば、被験者自身が容易に生体電気信号計測用電極を着脱して、正しい位置で生体電気信号を計測できることで、長時間の日常生活での計測に用いることができる。心臓の疾患の兆候や症状はそう頻繁に起きることはなく、通常のホルタ心電計の計測ではその兆候や症状を計測できないことがあるため、長時間の日常生活での計測が出来ることは非常に有意義なことである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の生体電気信号計測用電極に用いる多電極付き織物の模式図である。
【図2】本発明の生体電気信号計測用電極に用いる多電極付き織物の模式図である。
【図3】多電極付き織物における電極の模式図である。
【図4】多電極付き織物における電極の模式図である。
【図5】多電極付き織物における電極の模式図である。
【図6】多電極付き織物のおける電極の模式図である。
【図7】本発明の生体電気信号計測用装置の模式図である。
【図8】実施例で作製した本発明の生体電気信号計測用電極の模式図である。
【図9】実施例で作製した本発明の生体電気信号計測用電極を用いて測定した心電図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の生体電気信号計測用電極は、導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いてなることを特徴とする。
【0021】
以下、本発明について、図面と共に説明する。
【0022】
本発明の生体電気信号計測用電極に用いる多電極付き織物1は、複数の電極を具備してなるものであり、複数の電極は、図1の(a)に示すように織物全体に配置されていても、図1の(b)に示すように一部に配置されていてもよい。例えば、複数の電極が織物全体に具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極により生体電気信号を測定する場合は、測定する生体電気信号の種類、測定部位、被験者の体型などに応じて、一部の電極を測定用電極として任意に選択すれば良い。又、複数の電極が織物の一部に具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極により生体電気信号を測定する場合は、測定する部位に電極が配置されるよう例えば衣服のデザインを設計すればよい。
【0023】
前記多電極付き織物1は、導電性領域Aと非導電性領域Bからなり、前記導電性領域Aが電極2を構成する(図1及び図2を参照)。図1に示すように複数の電極2は、それぞれ離間して配され、電極2間の短絡を防ぐ目的で、各電極2は非導電性領域Bによって電気的に絶縁されている。電極2の離間距離は、できる限り短くした方がチャンネル数を多くすることが可能となる。しかし、電極間距離が短すぎると生体電気信号の信号振幅が低減し、S/N比が低下して信号検出や信号解析が困難になるため、測定条件に応じて電極間隔は適宜設定する必要がある。各電極2の配置は特に限定されず、図1に示すように均等に離間されていてもよいが、不均等に離間されていてもよい。
【0024】
前記導電性領域Aと非導電性領域Bは、図3に示すように導電性糸3と非導電性糸4とを綴れ織りすることにより形成される。本発明では、綴れ織りの技法を用いることにより、導電性領域Aと非導電性領域Bを所望の位置に好適に形成することが出来る。また、綴れ織りの技法を用いることにより、製織される導電性部位を一本の継続した糸を用いて実現できるため、複数の糸が互いに接触することによって回路形状を製織する場合と比して、ほぼ1/100程度まで回路抵抗を減じることが可能になる。綴れ織りの技法では、図3に示すように緯糸に導電性糸3及び非導電性糸4を用いた場合、導電性領域Aの緯糸である導電性糸3が織物全体に通ることなく、導電性領域Aのみに織り込まれ、非導電性領域Bは非導電性糸4で織り込まれるため、導電性領域Aの緯糸と非導電性領域Bの緯糸の境目に隙間が生ずる。また、綴れ織りの技法は、表と裏の模様が同一となるため、多電極付き織物1において、導電性領域Aと非導電性領域Bの形成箇所は表面と裏面とでは同一となるため、多電極付き織物1において、導電性領域Aと非導電性領域Bの形成箇所は表面と裏面とでは同一となるため、肌に触れる面の裏面を利用して、容易に電気機器の接合を行うことが可能となるとともに、被験者自身が電極装用位置の確認を容易に行うことが出来る利点が発生する。
【0025】
本発明では、縦糸又は緯糸のいずれか一方に非導電性糸、他方に導電性糸を用いて、綴れ織りする。導電性領域及び非導電性領域を、所望の位置に正確かつ容易に形成し易いという点で、図3に示すように、縦糸に非導電性糸、緯糸に導電性糸及び非導電性糸を用いることが好ましい。その他の態様として、縦糸に導電性糸及び非導電性糸、緯糸に非導電性糸を用いて、あるいは、縦糸に導電性糸及び非導電性糸、緯糸に導電性糸及び非導電性糸を用いて、綴れ織りを行ってもよい。
【0026】
また、本発明では、縦糸に非導電性糸、緯糸に導電性糸及び非導電性糸を用いて綴れ織りを行うに際し、緯糸が縦糸に対して、3〜7の縮率をもって織り込むようにすると、その縮率に応じた弛み分が交差する縦糸の上に隆起して綴れ織り構造を形成する。得られた多電極付き織物における電極は隆起しているため、それを用いて作製した生体電気信号計測用衣服は、電極が被験者の体表面に密着しやすくなり、生体電気信号を感知しやすくなる。ここで、縮率とは、織物の一定の寸法内(W)に織り込まれている糸条を織物から取り出して測定したときの糸条の実寸法(長さL)と、その織物の一定の寸法(W)との比率(L/W)を意味する。
【0027】
本発明で用いられる導電性糸3は、導電性繊維からなる糸であって、例えば、金、銀、銅、ステンレス等の金属糸;カーボン、チタン、アルミナなどの無機繊維;ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性ポノマー;銀メッキされたナイロンフィラメントの束であるマルチフィラメントからなる銀メッキナイロン糸;硫化銅及びニッケルを含有したアクリル繊維或はナイロン繊維、ポリエステル繊維からなるフィラメント糸や紡績糸(撚糸);これらの合糸、合撚糸、混繊糸、紡績糸(撚糸);などを用いることが出来る。これらのなかでも、頑丈で加工しやすい点から、ステンレス繊維が好適に用いられ、直径40μm〜240μmのステンレス繊維がより好適に用いられる。
【0028】
本発明で用いられる非導電性糸4は、非導電性繊維からなる糸であって、例えば、綿糸、絹糸、アクリル、ナイロン、ポリエステル糸などを用いることが出来る。これらのなかでも、絶縁性の観点からポリエステル糸が好適に用いられ、電気抵抗値1×1013Ω/cm以上で公定水分率0.4%以下のポリエステル糸がより好適に用いられる。これら非導電性糸4の太さは、特に限定されないが、通常、50〜1000デニールの範囲である。
【0029】
上記導電性糸3と非導電性糸4の組合せは、特に限定されず、製織できる範囲で適宜選択される。
【0030】
本発明において、前記電極2の形状も特に限定されず、例えば、矩形、正方形、円形、楕円形、その他の多角形、同心の多重図形(同心の四角形、同心の円形、同心の多角形)などが挙げられ、図4に同心の四角形の電極の模式図を示す。図4に示す電極2は、導電性領域Aから形成され、各電極2は非導電性領域Bによって離間して配され電気的に絶縁されている。図4では、3つの同心の四角形の電極を示したが、多重図形の個数は特に限定されない。上記形状の中でも、同心の多重図形が好ましい。
【0031】
本発明では、図5に示すように、前記電極2からは、該電極2を形成する導電性糸3が伸長してなる導電部5が形成されている。前記電極2が感知した生体電気信号は微弱な電流であるため電極間の電圧を増幅器を用いて増幅する必要があり、導電部5を介して電極2と増幅器とが接続される。該導電部5は、通常、電極2の織端から伸長している。導電部5は導電性糸3により形成されている為、他の電極上を跨いで伸長する際に該電極と接触して短絡を起す可能性があるため、それを防止する目的から図6に示すように絶縁体6で被覆されていることが好ましい。絶縁体6としては、絶縁性を有する材料から構成されていれば特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリホマール、ポリブチラール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、上記ポリマー2種以上の共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が使用できる。導電部5を絶縁体6で被覆する方法は、特に限定されず、導電部5に絶縁材料を塗布する方法、絶縁材料からなるパーツで覆う方法などが挙げられる。
【0032】
本発明において、電極2の大きさは特に限定されず、使用目的や適用部位などに応じて適宜選択される。例えば、多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極により心電位信号を測定する場合は、電極サイズが小さすぎると心電位信号を検出する部位の接触インピーダンスが増大し、検出するために心電計等の入力インピーダンスを増大させる工夫が必要となる。逆に大きすぎると電極と生体組織との接触面積の変動が大きくなることで接触インピーダンスが変動し、心電位信号への雑音混入が大きくなる。また、多電極付き織物における電極2の個数は複数であれば特に限定されず、使用目的や適用部位などに応じて適宜選択される。電極の面積として、通常、1/4cm以上であることが好ましい。
また、多電極付き織物における電極2の個数は複数であれば特に限定されず、使用目的や適用部位などに応じて適宜選択される。例えば、多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極により心電位信号を測定する場合は、心電位信号を多数点で測定し精密なデータを得るという観点から、電極2の個数は、計測予定の誘導数によって定まるが、計測対象個人の体躯の違いや個人差を吸収することを想定すると、その計測対象点の周辺に密に電極が配されることが好ましい。例えば、心電図測定の場合、最も理想的には、心臓全体を覆う領域、すなわち、人体正中線から左腋下、あるいは、左後背部に至る領域全体に、例えば、同心の円形の電極の場合、電極の幅が7mm程度で各電極間は2mm程度の間隔で、複数個配置されることが好ましい。各電極の間隔が狭すぎると、隣接電極間の影響を排除することが出来なくなるので、好ましくない。なお、計測用電極とは別に、グラウンド電極は、これらの計測用電極からは出来るだけ離れた点に配されることが好ましい。
【0033】
本発明の生体電気信号計測用電極は、電極2を複数具備することにより、多数の電極から生体電気信号、例えば心電位信号を検出できる為、電極6個を用いる従来の心電計と比べて、より精密な測定を行うことが出来、生体電気信号計測用装置の構成要素として有用である。
【0034】
本発明の生体電気信号計測用装置は、上記生体電気信号計測用電極を備えてなるものである。より具体的には、上記生体電気信号計測用電極と、前記生体信号計測用電極により検出された電気信号を増幅して増幅信号を生成する増幅器と、前記増幅信号に基づいて生体電気信号を記録する記録器とを備えてなる。一例として、図7に示すように生体電気信号計測用装置7は、上記生体電気信号計測用電極Cを有する衣服8と、該生体電気信号計測用電極Cにより検出された電気信号を増幅して増幅信号を生成する増幅器9と、該増幅信号に基づいて生体電気信号を記録する記録器10とを備えるものである。
【0035】
本発明の生体電気信号計測用電極Cは、多電極付き織物を用いているので衣服8に作製することができる。衣服としては、被験者が着用した際に電極が被験者の皮膚に直接接触する類のものであれば特に限定されず、例えば、シャツ、ズボン、靴下、手袋、帽子などが挙げられる。生体電気信号としては、心電位信号、筋電位信号、脳波などが挙げられる。測定の対象とする生体電気信号に応じて、生体電気信号計測用電極Cが適切な部位に配されるよう、例えば心電位信号であれば被験者の胸部、筋電位信号であれば測定したい筋肉、脳波であれば頭部に電極が配されるよう衣服のデザインを作製すればよい。衣服に作製することにより、被験者は着用するだけでよいので、従来の心電図測定に比べて、被験者を拘束せず、皮膚などに影響を及ぼさずに、簡単に長時間の測定が可能となる。
【0036】
前記増幅器9は、前記生体電気信号計測用電極Cと導電部11により電気的に接続されており、図には示していないが、該増幅器9は、アナログ/デジタル変換器、マイクロコントローラ、バッテリー等から構成され、ベルト等(図示せず)により被験者に固定されて携帯できるものである。前記導電部11は、前記生体電気信号計測用電極Cにおける電極2を形成する導電糸が伸長して形成されたものであり、短絡を防ぐ目的で該導電糸は絶縁体により被覆されていることが好ましい。
【0037】
前記記録器10は、増幅信号に基づいて生体電気信号を記録するものであれば、増幅器9と導電部11により電気的に接続されたものであっても、無線で前記増幅信号を送受信するものであってもよい。また、生体電気信号の記録は、実時間で記録紙に記録するものであっても、メモリ等の適当な記録媒体に生体電気信号のデータを記録して、後に一括してプリントするようなものであってもよい。
【0038】
このような記録器10の形態は、生体電気信号計測用装置7の使用形態に応じて適宜設定するものとし、例えば、生体電気信号計測用装置7により入院患者の生体電気信号の測定を行う場合であれば、前記記録器10は、増幅器9と無線で増幅信号を送受信し、生体電気信号を実時間で記録紙に記録する形態のものとして、被験者の病床の近傍に設置すればよい。一方、生体電気信号計測用装置7により健常者の心電図測定を行う場合であれば、前記記録器10は、増幅器9と導電部11により電気的に接続され、生体電気信号の測定データをメモリに格納するような小型のものとして、該記録器10を被験者が携帯して連続的に心電図を測定し、被験者が帰宅した時や通院した時等に該メモリに記録された測定データを出力するものとすればよい。
【0039】
本発明の生体電気信号測定装置において、前記生体電気信号計測用電極は、多点計測用電極又は胸部誘導電極として用いることが好ましい。多点計測用電極として用いることにより、測定対象部位付近の体表面の多くの点から生体電気信号を測定することができるため、従来と比べて精密に測定することができる。また、心電位信号を測定する目的で、胸部誘導電極として用いる場合、胸部付近の体表面の多くから心電位信号を測定することができるため、従来一般的に用いられている6個からなる胸部用電極を用いた測定に比べてより精密な測定が行える。胸部誘導電極は、心臓前面の領域付近の体表面を覆う位置に配置される。例えば、体軸垂直方向については被験者の胸骨前部付近の体表面から左胸側部付近の体表面を覆い、体軸方向については第4肋骨付近の体表面から第6肋骨付近(又は第7肋骨付近、第8肋骨付近、又は肋骨下縁付近)の体表面を覆う位置に配置される。
【0040】
実施例
以下に本発明の生体電気信号計測用電極の実施例を示すが、本発明はこれに限定されることはない。
【0041】
縦糸に太さ150デニールのポリエステル糸(帝人ファイバー株式会社製、商品名:ウェーブロン、電気抵抗値:1X1013Ω/cm、公定水分率:0.3%)を4本撚りしたものを用い、緯糸に太さ150デニールのポリエステル糸(帝人ファイバー株式会社製、商品名:ウェーブロン、電気抵抗値:1X1013Ω/cm、公定水分率:0.3%)を4本撚りしたものと直径160μmのステンレス繊維(日本精線株式会社製、商品名:ナスロン、直径40μmのステンレス繊維を4本撚りしたもの)を用い、綴れ織りすることにより、3つの同心の円からなる生体電気信号計測用電極を作製した(図8を参照)。作製した生体電気信号計測用電極は、図8に示すように3つの同心の円の電極2から構成されており、外側の円が直径90mm、まん中の円が直径60mm、内側の円が直径30mmで、各電極2の幅は7mm、各電極2の間隔は2.3mmである。生体電気信号計測用電極の織物の裏面において、各電極2の織端からは前記ステンレス繊維を伸長させ、伸長させた繊維はポリ塩化ビニルにより各々被覆した。電極に用いているステンレス繊維の抵抗値は36.3±5.4Ω/cmであった。
【0042】
上記で作製した生体電気信号計測用電極の裏面が被験者の左胸部に接するよう配置し、当該左胸部と対向する背部に参照用グランド電極を配置した。参照用グランド電極としては、縦糸に太さ150デニールのポリエステル糸(帝人ファイバー株式会社製、商品名:ウェーブロン、電気抵抗値:1X1013Ω/cm、公定水分率:0.3%)を4本撚りしたものを用い、緯糸に太さ150デニールのポリエステル糸(帝人ファイバー株式会社製、商品名:ウェーブロン、電気抵抗値:1X1013Ω/cm、公定水分率:0.3%)を4本撚りしたものと直径160μmのステンレス繊維(日本精線株式会社製、商品名:ナスロン、直径40μmのステンレス繊維を4本撚りしたもの)を用い、綴れ織りすることで作製した、一辺5cmの正四角形の電極を用いた。生体電気信号計測用電極の3つの電極の内の2つと参照用グランド電極により、安静状態で心電位を計測し、得られた心電図を図9に示す。
【符号の説明】
【0043】
A 導電性領域
B 非導電性領域
C 生体電気信号計測用電極
1 多電極付き織物
2 電極
3 導電性糸
4 非導電性糸
5 導電部
6 絶縁体
7 生体電気信号計測用装置
8 衣服
9 増幅器
10 記録器
11 導電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極。
【請求項2】
縦糸又は緯糸のいずれか一方に非導電性糸、他方に導電性糸を用いて、綴れ織りすることを特徴とする請求項1に記載の生体電気信号計測用電極。
【請求項3】
前記複数の電極は、それぞれ離間して配され、非導電性領域によって電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体電気信号計測用電極。
【請求項4】
前記電極からは、該電極を形成する導電性糸が伸長してなる導電部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用電極。
【請求項5】
前記導電部は、絶縁体により被覆されていることを特徴とする請求項4に記載の生体電気信号計測用電極。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用電極を備えてなる生体電気信号計測用装置。
【請求項7】
導電性糸と非導電性糸とを綴れ織りすることにより、導電性領域と非導電性領域を形成し、前記導電性領域からなる電極を複数具備してなる多電極付き織物を用いた生体電気信号計測用電極と、
前記生体信号計測用電極により検出された電気信号を増幅して増幅信号を生成する増幅器と、
前記増幅信号に基づいて生体電気信号を記録する記録器とを
備える生体電気信号計測用装置。
【請求項8】
さらに、前記生体電気信号計測用電極と増幅器を接続する導電部を備え、該導電部は前記生体電気信号計測用電極を形成する導電性糸が伸長して形成されることを特徴とする請求項7に記載の生体電気信号計測用装置。
【請求項9】
前記生体電気信号が、筋電位信号又は心電位信号である請求項6〜8のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置。
【請求項10】
前記生体電気信号計測用電極を多点計測用電極として用いることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置。
【請求項11】
前記生体電気信号計測用電極を胸部誘導電極として用いることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の生体電気信号計測用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−15818(P2011−15818A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162338(P2009−162338)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(509193795)
【出願人】(509194884)
【出願人】(594023179)株式会社帝健 (9)
【Fターム(参考)】