生体高分子分析装置
【課題】生体高分子分析装置の精度を向上させる。
【解決手段】二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子20を有する撮像装置10と、撮像装置10の受光面上に固定され、特定の生体高分子62と結合するプローブ61と、複数の光電変換素子20の出力データのうち、プローブ61の位置に対応しない光電変換素子20の出力データを消去する制御装置80と、を備える生体高分子分析装置70である。
【解決手段】二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子20を有する撮像装置10と、撮像装置10の受光面上に固定され、特定の生体高分子62と結合するプローブ61と、複数の光電変換素子20の出力データのうち、プローブ61の位置に対応しない光電変換素子20の出力データを消去する制御装置80と、を備える生体高分子分析装置70である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイ等の生体高分子分析チップを用いた生体高分子分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な生物種の遺伝子の発現解析を行っている。遺伝子の発現解析とは、細胞で発現している遺伝子を同定することであり、具体的には、遺伝子をコードするDNAから転写されているmRNAを同定することである。
【0003】
遺伝子の発現解析のためにDNAマイクロアレイ及びその読取装置が開発されている。DNAマイクロアレイは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAをスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。ここで、既知の塩基配列のcDNAとしては、検体において既知のmRNAと同一、またはその一部と同一の塩基配列のcDNAが用いられる。DNAマイクロアレイ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0004】
まず、複数種類の配列既知のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAマイクロアレイを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて蛍光物質で標識したcDNA(以下、サンプルDNAという)を合成する。次に、サンプルDNAを蛍光物質で標識化してからDNAマイクロアレイ上に添加すると、サンプルDNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAマイクロアレイ上に固定される。サンプルDNAを標識する蛍光物質は励起されるとサンプルDNAが結合したプローブDNAの位置から蛍光を発することになる。
【0005】
次いで、DNAマイクロアレイを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、励起光の照射点をDNAマイクロアレイに対して二次元的に移動し、それと共に集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAマイクロアレイを二次元走査する。励起光により励起された蛍光物質から発した蛍光を集光レンズで集光させ、蛍光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAマイクロアレイの面内の蛍光強度分布を計測し、これにより、DNAマイクロアレイ上の蛍光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で蛍光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有したサンプルDNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって、配列既知のmRNAのうち、どれが検体で発現しているかを同定することができる。
【0006】
また、画像のノイズを小さくするために、明るさの異なる多数の測定画像から1つの合成データを得る装置も開発されている(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【特許文献2】特開2005−308504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、複数の光電変換素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にプローブDNA等の分子をスポットした生体高分子分析チップを開発している。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着したサンプルDNA等の生体高分子を標識する蛍光物質、発光物質等の標識物質からの光を各光電変換素子により計測する。このような生体高分子分析チップでは、固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、標識物質から発した光が殆ど減衰せずに固体撮像デバイスの受光面に入射するため、特許文献に示された受光器やフォトマルチプライヤーのように、スポットに対して著しく離間している固体撮像デバイスに比べても、光電変換素子が標識物質に対して近接しているので、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0008】
しかし、スポット位置に対応して配置される光電変換素子で取り込まれたデータのみならず、スポット位置に対応して配置されていない光電変換素子で取り込まれたデータをも出力するため、スポットされていない光電変換素子のノイズを含むデータから蛍光の有無を判定しなければならなかった。そのため、スポットされていない光電変換素子のノイズを含むデータが多いとS/N比が低下し、蛍光の有無そのものの判定精度が低くなってしまうという問題があった。
また、特許文献2に記載の方法では、撮像時間を変えて複数枚の画像の測定を行い、ある撮像時間で測定した最も明るく撮影された画像の中で、光量が飽和したサイトを探し、そのサイトを1段階暗く撮影された画像、例えば、より短い撮像時間で測定した画像の同一サイトの画像に置換え、すべてのサイトが飽和していない状態になるまでこれを繰り返さなければならず、ノイズ除去の処理が煩雑となっていた。
【0009】
本発明の課題は、精度のよい生体高分子分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子を有する撮像装置と、前記撮像装置の受光面上に固定され、特定の生体高分子と結合するプローブと、前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去する制御装置と、を備えることを特徴とする生体高分子分析装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データが前記制御装置により消去されたデータを画像データとして出力する出力装置をさらに備えることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブに対応する光電変換素子の位置を記憶するプローブ位置テーブルと前記複数の光電変換素子の出力データを記憶するデータテーブルとが対応付けて格納される記憶装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記記憶装置の前記プローブ位置テーブルを参照して、前記記憶装置の前記データテーブルに記憶された前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記光電変換素子の出力データをA/D変換するコンバータを備え、前記記憶装置は、前記A/D変換されたデータを前記データテーブルに記憶させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体高分子分析装置の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
〔第1の実施の形態〕
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明を適用した第1の実施形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【0016】
この生体高分子分析チップ1は、光電変換素子を透明基板11上に二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイス10(撮像装置)と、固体撮像デバイス10の受光面上において点在したスポット60,60,…と、を具備する。なお、本実施形態においては、固体撮像デバイス10の光電変換素子として、ダブルゲートトランジスタ20が用いられている。
【0017】
〔2〕固体撮像デバイス
図3は、ダブルゲートトランジスタ20を示す拡大図である。この固体撮像デバイス10は透明基板11と、ボトムゲート絶縁膜13と、トップゲート絶縁膜21と、保護絶縁膜23と、励起光フィルター層24とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン12a、ソースライン18a、ドレインライン19a、トップゲートライン22a、及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極12、半導体膜14、チャネル保護膜15、不純物半導体膜16,17、ソース電極18、ドレイン電極19、トップゲート電極22が設けられている。
【0018】
透明基板11は、後述する蛍光体が発する光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0019】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板11上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜23によってまとめて被覆されている。
なお、図1では8行×8列の64個のダブルゲートトランジスタ20,20,…を備えるマトリクス状の二次元アレイを示すが、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0020】
図4は図3のIV矢視方向から見たダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。図3、図4に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…はいずれも、受光部である半導体膜14と、半導体膜14上に形成されたチャネル保護膜15と、ボトムゲート絶縁膜13を挟んで半導体膜14の下に形成されたボトムゲート電極12と、トップゲート絶縁膜21を挟んで半導体膜14の上に形成されたトップゲート電極22と、半導体膜14の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜16と、半導体膜14の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜17と、不純物半導体膜16に重なったソース電極18と、不純物半導体膜17に重なったドレイン電極19と、を備え、半導体膜14において受光した光量に従ったレベルの電気信号(出力データ)を出力するものである。
【0021】
ボトムゲート電極12は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板11上に形成されている。また、透明基板11上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン12a,12aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極12が共通のボトムゲートライン12aと一体となって形成されている。ボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12aは、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0022】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12a,12a,…はボトムゲート絶縁膜13によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜13は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜13は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0023】
ボトムゲート絶縁膜13上には、複数の半導体膜14がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜14は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極12に対して対向配置され、ボトムゲート電極12との間にボトムゲート絶縁膜13を挟んでいる。半導体膜14は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0024】
半導体膜14上には、チャネル保護膜15が形成されている。チャネル保護膜15は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14の中央部上に形成されている。チャネル保護膜15は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜15は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜14の界面を保護するものである。半導体膜14に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜15と半導体膜14との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
【0025】
半導体膜14の一端部上には、不純物半導体膜16が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されており、半導体膜14の他端部上には、不純物半導体膜17が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜16,17は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜16,17は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0026】
不純物半導体膜16上には、ソース電極18が形成され、不純物半導体膜17上には、ドレイン電極19が形成されている。ソース電極18及びドレイン電極19はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aがボトムゲート絶縁膜13上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18は共通のソースライン18aと一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極19は共通のドレインライン19aと一体に形成されている。ソース電極18、ドレイン電極19、ソースライン18a及びドレインライン19aは、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0027】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18及びドレイン電極19並びにソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aは、トップゲート絶縁膜21によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜21は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜21は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0028】
トップゲート絶縁膜21上には、複数のトップゲート電極22がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極22は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14に対して対向配置され、半導体膜14との間にトップゲート絶縁膜21及びチャネル保護膜15を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜21上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン22a,22aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20のトップゲート電極22が共通のトップゲートライン22aと一体に形成されている。トップゲート電極22及びトップゲートライン22aは、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0029】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極22及びトップゲートライン22a,22aは保護絶縁膜23によってまとめて被覆され、保護絶縁膜23は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜23は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0030】
保護絶縁膜23の上面には、励起光フィルター層24が設けられている。励起光フィルター層24は、後述する蛍光体を励起する励起光を遮り、蛍光体より放射される蛍光のみを透過させる。
【0031】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、励起光フィルター層24の表面を受光面としており、ダブルゲートトランジスタ20の半導体膜14において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0032】
〔3〕スポット
次に、スポット60について説明する。図1、図2に示すように、複数種のスポット60,60,…が互いに離間して、固体撮像デバイス10の上面に配列されている。なお、図1では、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Aが、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Bが、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Cが、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Dがそれぞれ形成されているが、スポット60の数は4つに限らず、固体撮像デバイス10に応じてその数は任意である。
【0033】
各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液をウェル40内に滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0034】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集が固体撮像デバイス10の上面に固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する酵素標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0035】
1つのスポット60は任意の数のダブルゲートトランジスタ20上に重なるとともに、他のスポット60,60,…と互いに離間するように形成されている。なお、1つのスポット60に重なったダブルゲートトランジスタ20の数は異なっていてもよい。
【0036】
〔4〕スポッター
図5は後述する分析装置70に組み込まれたスポッター90を示す模式図である。スポッター90は、分析装置70の制御装置80により駆動され、スポット溶液槽91と、洗浄槽92と、各種スポット溶液を固体撮像デバイス10の表面にスポットするスポット針93と、スポット針93を駆動する駆動装置94とを備える。
【0037】
スポット溶液槽91は各種スポット溶液に対応して1つずつ設けられており、スポット溶液槽91,91には、各固体撮像デバイス10の表面にスポットされるスポット溶液(プローブDNA61の溶液)が貯留されている。洗浄槽92にはスポット針93の先端を洗浄する洗浄溶液(純水)が貯留されている。
【0038】
駆動装置94はスポット針93をスポット溶液槽91、洗浄槽92、及び固体撮像デバイス10上で前後、左右の水平方向、及び上下方向の3軸方向に駆動する。
スポット針93はスポット溶液槽91に浸されて先端にスポット溶液を付着させ、各固体撮像デバイス10の表面にスポットする。
【0039】
スポッター90により固体撮像デバイス10の表面にスポット60を形成する動作について説明する。
(1) まず、制御装置80により駆動される駆動装置94が固体撮像デバイス10の表面に対応するスポット溶液が貯留されたスポット溶液槽91上にスポット針93を水平移動させ、次いでスポット針93を上下に動かしてスポット針93の先端をスポット溶液槽91内のスポット溶液に浸し、先端にスポット溶液を付着させる。
(2) 次に、駆動装置94が先端にスポット溶液が付着したスポット針93を固体撮像デバイス10の固体撮像デバイス10の上部に水平移動させる。
【0040】
(3) 次に、駆動装置94が固体撮像デバイス10の上部の所定位置(例えば、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)の中央位置)でスポット針93を上下に運動させ、スポット針93の先端に付着したスポット溶液を固体撮像デバイス10の表面上に滴下し、スポット60Aを形成する。
【0041】
(4) その後、駆動装置94がスポット針93を洗浄槽92上に移動し、スポット針93を上下に動かしてスポット針93の先端を洗浄槽92内の洗浄溶液に浸し、スポット針93の先端を洗浄する。
【0042】
以後、(1)〜(4)と同様にして、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Bを、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Cを、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Dを形成する。
【0043】
上記操作により、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60が形成される。
【0044】
〔5〕分析装置
図6は、分析装置70の構成を示すブロック図である。分析装置70は、生体高分子分析チップ1と、分析台71と、励起光照射装置72と、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76と、制御装置80と、記憶装置82と、出力装置77と、スポッター90とを備える。
【0045】
分析台71には生体高分子分析チップ1がセッティングされる。
励起光照射装置72は分析台71に対向しており、分析台71に生体高分子分析チップ1が搭載された場合に、励起光照射装置72から面状に出射した励起光が生体高分子分析チップ1に照射されるようになっている。なお、励起光照射装置72は、出射する光の波長域を可変可能に設けられていても良い。
【0046】
トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は制御装置80により制御され、固体撮像デバイス10を制御する。生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10のトップゲートライン22a,22a,…がトップゲートドライバ74の端子にそれぞれ接続されるようになっている。同様に、固体撮像デバイス10のボトムゲートライン12a,12a,…がボトムゲートドライバ75の端子にそれぞれ接続されるようになっており、固体撮像デバイス10のドレインライン19a,19a,…がドレインドライバ76の端子にそれぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン18a,18a,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン18a,18a,…が接地されるようになっている。
出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
【0047】
制御装置80はスポッター79を駆動し、固体撮像デバイス10の上面に所定のスポット溶液を滴下する。
また、制御装置80は、励起光照射装置72,スポット検出光源78を点灯させる機能を有する。また、制御装置80は、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。
【0048】
また、制御装置80はドレインドライバ76から入力した電気信号(出力データ)をA/D変換するA/Dコンバータを備え、i行j列(i,jは1〜8)のダブルゲートトランジスタ20より出力される出力電圧(出力データ)を例えば0〜255〔AU〕の値F(i,j)に変換し、変換されたデータを記憶装置82の蛍光データテーブルに対応付けて記憶する機能を有する。
また、制御装置80は、蛍光データテーブルに記憶されたデータの二次元の数値の分布を画像データとして出力装置77により出力させる機能を有する。
【0049】
記憶装置82には、プローブ位置テーブル、蛍光データテーブルが格納されている。また、記憶装置82には、後述する行変数i、列変数j等が記憶される。
制御装置80は、記憶装置82に記録されたデータを記憶装置82から読み出し、後述する所定の処理を行う。
【0050】
図7は記憶装置82に格納されているプローブ位置テーブルである。プローブ位置テーブルには、生体高分子分析チップ1の各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に対応して8行×8列のセルが形成されている。プローブ位置テーブルは、後述するように、スポット60の有無により所定の数A(i,j)が書き込まれている。
なお、図7においては、スポット60A,60B,60C,60Dが形成された位置に対応する(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)のセルに「1」が、他のセルに「0」が書き込まれている。
【0051】
図8は記憶装置82に格納されている蛍光データテーブルである。蛍光データテーブルには、生体高分子分析チップ1の各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に対応して8行×8列のセルが形成されている。この各セルに、各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・の出力電圧をA/D変換したデータである数値F(i,j)〔AU〕が記憶される。
【0052】
また、記憶装置82には、制御装置80により分析装置70を制御するプログラム等が格納されている。
【0053】
〔6〕撮像動作
ここで、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76による固体撮像デバイス10の通常の撮像動作について説明する。
トップゲートドライバ74が1行目のトップゲートライン22aから最終行目のトップゲートライン22aへと順次リセットパルスを出力し、ボトムゲートドライバ75がボトムゲートライン12a,12a,…に順次リードパルスを出力する。その際、ドレインドライバ76が各行でリセットパルスが出力されているリセット期間と各行でリードパルスが出力されている期間との間に、プリチャージパルスを全てのドレインライン19a,19a,…に出力する。
【0054】
i行目の各ダブルゲートトランジスタ20の動作について詳細に説明する。
図9は固体撮像デバイス10に出力される電気信号のレベルの推移を示したタイミングチャートである。図9に示すように、トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン22aにリセットパルスを出力すると、i行目のトップゲートライン22aがハイレベルになる。i行目のトップゲートライン22aがハイレベルになっている間(この期間をリセット期間という。)、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20では、半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積されたキャリア(ここでは、正孔である。)が、トップゲート電極22の電圧により反発して吐出される。
【0055】
次に、トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン22aにリセットパルスを出力することを終了する。i行目のトップゲートライン22aのリセットパルスが終了してから、i行目のボトムゲートライン12aにリードパルスが出力されるまでの間(この期間をキャリア蓄積期間という。)、光量に従った量の電子−正孔対が半導体膜14内で生成されるが、そのうちの正孔がトップゲート電極22の電界により半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積される。
【0056】
次に、キャリア蓄積期間中に、ドレインドライバ76が1〜8列の全てのドレインライン19a,19a,…にプリチャージパルスを出力する。プリチャージパルスが出力されている間(プリチャージ期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20においては、トップゲート電極22に印加されている電位が−20〔V〕であり、ボトムゲート電極12に印加されている電位が±0〔V〕であるため、たとえ半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積された正孔の電荷だけではゲート−ソース間電位が低いので半導体膜14にはチャネルが形成されず、ドレイン電極19とソース電極18との間に電流は流れない。プリチャージ期間において、ドレイン電極19とソース電極18との間に電流が流れないため、ドレインライン19a,19a,…に出力されたプリチャージパルスによってi行目の各ダブルゲートトランジスタ20のドレイン電極19に電荷がチャージされる。
【0057】
次に、ドレインドライバ76がプリチャージパルスの出力を終了するとともに、ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン12aにリードパルスを出力する。ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン12aにリードパルスを出力している間(この期間を、リード期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20のボトムゲート電極12に+10〔V〕の電位が印加されているため、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20がオン状態になる。
【0058】
リード期間においては、キャリア蓄積期間において蓄積されたキャリアがトップゲート電極22の負電界を緩和するように働くため、ボトムゲート電極12の正電界により半導体膜14にnチャネルが形成されて、ドレイン電極19からソース電極18に電流が流れるようになる。従って、リード期間では、ドレインライン19a,19a,…の電圧は、ドレイン−ソース間電流によって時間の経過とともに徐々に低下する傾向を示す。
【0059】
ここで、キャリア蓄積期間において半導体膜14に入射した光量が多くなるにつれて、蓄積されるキャリアも多くなり、蓄積されるキャリアが多くなるにつれて、リード期間においてドレイン電極19からソース電極18に流れる電流のレベルも大きくなる。従って、リード期間におけるドレインライン19a,19a,…の電圧の減少傾向は、キャリア蓄積期間で半導体膜14に入射した光量に深く関連する。
【0060】
そして、i行目のリード期間から次の(i+1)行目のプリチャージ期間までの間に、ドレインドライバ76を介して、リード期間が開始してから所定の時間経過後のドレインライン19a,19a,…の電圧を検出し、A/Dコンバータが0〜255〔AU〕の値にA/D変換する。なお、ドレインライン19aの出力電圧が+5〔V〕であればA/Dコンバータの変換データは0〔AU〕であり、0〔V〕であれば255〔AU〕である。これにより、キャリアの蓄積量が0〜255〔AU〕の値に換算される。キャリアの蓄積量が最も少ない場合が0〔AU〕、最も多い場合が255〔AU〕となる。
A/Dコンバータから出力された変換データは、記憶装置82に作成される蛍光データテーブルの(i,1)、(i,2)、(i,3)、(i,4)、(i,5)、(i,6)、(i,7)、(i,8)のセルに記憶される。
【0061】
上述した一連の画像読み取り動作を1サイクルとして、全ての行の各ダブルゲートトランジスタ20にも同等の処理手順を繰り返すことにより、蛍光データテーブルの全てのセルに、各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・の出力電圧をA/D変換した変換データの数値が記録される。
【0062】
〔7〕DNAサンプルの処理方法
上記生体高分子分析チップ1を用いたDNAサンプルの処理方法について説明する。
まず、作業者が検体からcDNAを採取して、場合によってPCR増幅を行い、得られたDNAに蛍光物質を結合させ、DNAを蛍光物質で標識する。蛍光物質は、分析装置の励起光照射装置から出射される励起光で励起されるものであってその励起光によって蛍光を発するものを選択するが、蛍光物質としては、例えばCyDyeのCy2(アマシャム社製)がある。得られたDNAは、溶液中に含まれている。以下では、このDNAをサンプルDNAという。
【0063】
次いで、作業者が、サンプルDNAを含有した溶液(以下、サンプルDNA溶液という)を固体撮像デバイス10の受光面に塗布する。ここで、固体撮像デバイス10の受光面にサンプルDNAを分布させるために、サンプルDNAを電気泳動させても良い。なお、サンプルDNA溶液をスポット60A,60B,60C,60D,…に順次又は同時に滴下しても良い。このとき、サンプルDNAが一本鎖となるようにサンプルDNA溶液は加熱されている。
【0064】
その後、プローブDNAとサンプルDNAとがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1を所定の温度に冷却する。これにより、スポット60A,60B,60C,60D,…のなかにサンプルDNAと相補的なプローブDNAがあれば、これとハイブリダイズする。一方、スポット60A,60B,60C,60D,…のなかにサンプルDNAと相補的なものがなければ、サンプルDNAはスポット60A,60B,60C,60D,…のいずれにも結合しない。
【0065】
その後、固体撮像デバイス10の受光面に塗布したサンプルDNAのうちハイブリダイゼーションしなかったものは洗い流す。
【0066】
〔8〕DNAサンプルの検出方法
DNAサンプルの検出方法について説明する。まず、図10に示すように、上記処理を行った固体撮像デバイス10を分析台71にセッティングし、励起光照射装置72を固体撮像デバイス10の受光面に対向させ、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御装置80に接続する。その後、制御装置80を起動し、分析装置70による蛍光データの計測動作を開始する。
【0067】
以下、分析装置70による蛍光データの計測動作について説明する。まず、制御装置80が励起光照射装置72を制御して励起光照射装置72を点灯させ、励起光照射装置72から固体撮像デバイス10の受光面に向けて励起光を出射させるとともに、制御装置80がトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御することにより、固体撮像デバイス10に撮像動作を行わせる。
【0068】
図10に示すように、サンプルDNA62が蛍光体64により標識されているので、スポット60,60,…のうちサンプルDNA62とハイブリダイゼーションしたスポット60では、励起光照射装置72から各スポット60に照射された励起光Lにより蛍光体64が励起される。励起状態の蛍光体64が基底状態に遷移するときに蛍光Fが放出される。放出された蛍光Fは、対応するダブルゲートトランジスタ20に入射して電子−正孔対を発生させる。
【0069】
その後、ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの蛍光データを取得し、A/D変換後の数値を記憶装置82の蛍光データテーブルに記憶する。
【0070】
〔9〕蛍光データの処理
次に、蛍光データテーブルに記憶した蛍光データをプローブ位置テーブルと対応付けて処理する方法について説明する。図11は制御装置80の処理を示すフローチャートである。
【0071】
ここで、固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20がm行×n列であり、対応する蛍光データテーブル及びプローブ位置テーブルもm行×n列のテーブルである。また、処理を行う行を示す行変数をi、列変数をj、プローブ位置テーブルの処理を行うセルの値をA(i,j)、蛍光データテーブルの処理を行うセルの値をF(i,j)とする。iは1〜m、jは1〜n、A(i,j)は0または1、F(i,j)は0〜255である。なお、図1に示す固体撮像デバイス10の場合、m=n=8である。
【0072】
まず、制御装置80は、蛍光データテーブル及びプローブ位置テーブルから読み出すセル(i,j)に対応する行変数iを1にするとともに(ステップS1)、列変数jを1にする(ステップS2)。
次に、制御装置80は記憶装置82のプローブ位置テーブルからセル(i,j)のデータA(i,j)を読み出し、A(i,j)が1であるか否かについて判断する(ステップS3)。
【0073】
A(i,j)が0である場合(ステップS3→No)は、対応するダブルゲートトランジスタ20上にスポット60がないので、制御装置80は記憶装置82の蛍光データテーブルのセル(i,j)のデータF(i,j)を0に置換する(ステップS4)。
A(i,j)が1である場合(ステップS3→Yes)は、対応するダブルゲートトランジスタ20上にスポット60があるので、蛍光データテーブルのセル(i,j)のデータF(i,j)をそのままにする。
その後、制御装置80は、列変数jに1を加える(ステップS5)。
【0074】
次に、制御装置80は、列変数jがnであるか否かを判断し(ステップS6)、jがnではない場合(ステップS6→No)、ステップS3に戻る。
jがnである場合(ステップS6→Yes)には、i行目の全てのデータ処理が終了しているので、制御装置80は、行変数iに1を加える(ステップS7)。
【0075】
次に、制御装置80は、行変数iがmであるか否かを判断し(ステップS8)、iがmではない場合(ステップS8→No)、ステップS2に戻る。
iがmである場合(ステップS8→Yes)には、m行目までの全てのデータ処理が終了しているので、制御装置80は処理を終了する。
【0076】
以上の処理により、プローブ位置テーブルのうち「0」が書き込まれたセルに対応する蛍光データテーブルの蛍光データが0に置換され、プローブ位置テーブルのうち「1」が書き込まれたセルに対応する蛍光データテーブルの蛍光データのみを残すことができる。
その後、出力装置77により蛍光データテーブルに記憶された二次元の数値の分布を画像データとして出力させる。
【0077】
図12は出力装置77により出力された画像データの例であり、(a)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除したもの、(b)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しなかったものである。図12(a)に示すように、スポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データは削除されるため、暗転し、スポット60のある部分のみが明るく表示される。一方、スポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しない場合は、図12(b)に示すように、スポット60のない部分まで明るく表示され、スポット60の識別性が低下する。このように、本発明では、ノイズとなるデータを減らすことで、蛍光強度の差が顕著になり、生体高分子分析装置の精度を高めることができる。
【0078】
作業者は、出力装置77により出力された画像からハイブリダイゼーションの有無を確認し、ハイブリダイゼーションが起きていればプローブDNAの塩基配列からサンプルDNAの塩基配列を特定する。即ち、サンプルDNAの塩基配列は、画像の中でハイブリダイゼーションによって蛍光を発した画素に重なったスポット60と相補的な配列であるので、出力された画像データ中のどの部分が蛍光を発したかによって検体中で発現している遺伝子を特定することができる。
【0079】
このように、本実施の形態では、スポット60が形成されたダブルゲートトランジスタ20により取得された蛍光データのみの出力を得ることで、ノイズを除去し、S/N比を向上させることができる。したがって、生体高分子分析装置の精度を向上させることができる。
【0080】
<変形例>
次に、本実施の形態の変形例に係る生体高分子分析チップ101について図13を用いて説明する。この生体高分子分析チップ101は、抗原タンパクを検出する抗体チップである。
【0081】
本実施の形態に係る生体高分子チップ101には、スポット160にプローブ抗体161が用いられている点を除き、固体撮像デバイス110、分析装置170等の構成については生体高分子分析チップ1と同様であり、同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0082】
抗体チップでは、プローブとして、検出する既知のタンパク質や糖鎖等の抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体161という)を用いる。
具体的には、図13に示すように、生体高分子分析チップ101の固体撮像デバイス110にプローブ抗体161を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット160を形成する。なお、ウェル52に滴下されるプローブ抗体161はそれぞれ異なるタンパク質を抗原とし、同じスポット160を形成するプローブ抗体161は同一の抗原決定基を認識する。プローブ抗体161となる抗体としては、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0083】
次に、サンプルとなる抗原162を含む溶液(以下、サンプル溶液という)を固体撮像デバイス10の受光面に塗布する。
プローブ抗体161にサンプル溶液中の抗原162が結合するのに充分な時間が経過した後、サンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液とともに抗原162のうちプローブ抗体161と結合しなかったものを除去する。
【0084】
次に、固体撮像デバイス110の受光面に、プローブ抗体161が認識するのと同じ抗原162の異なる抗原決定基を認識する抗体を蛍光体164で標識したもの(以下、蛍光標識抗体163という)の溶液(以下、蛍光標識抗体溶液という)を注入する。
プローブ抗体161に結合した抗原162と蛍光標識抗体163とが結合するのに充分な時間が経過した後、固体撮像デバイス110の受光面の蛍光標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、蛍光標識抗体溶液中の蛍光標識抗体163のうち抗原162と結合しなかったものを固体撮像デバイス110の受光面から除去する。
以後、第1実施形態の〔8〕サンプルの検出、〔9〕蛍光データの処理と同様にして、分析装置170による光量データの出力動作を行う。
【0085】
図13に示すように、プローブ抗体161に抗原162が結合し、抗原162に蛍光標識抗体163が結合したスポット160では、各スポット160上に照射された励起光Lにより蛍光標識抗体163の蛍光体164が励起される。励起状態の蛍光体164が基底状態に遷移するときに蛍光Fが放出される。放出された蛍光Fは、ダブルゲートトランジスタ20により検出される。
【0086】
作業者は、出力装置177により出力された画像データより、各スポット160,160,…における抗原162の有無を確認することができる。このため、蛍光Fが検出されたスポット160のプローブ抗体161の種類により、検体内でどのようなタンパク質(抗原162)が生成されているかを直接確認することができる。
【0087】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、スポット60,160にプローブDNA61またはプローブ抗体161を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。例えば、既知のアミノ酸配列のペプチドやタンパク、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【図3】図2における固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20を示す拡大図である。
【図4】ダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。
【図5】分析装置70に組み込まれたスポッター90を示す模式図である。
【図6】分析装置70の構成を示すブロック図である。
【図7】記憶装置82に作成されるプローブ位置テーブルである。
【図8】記憶装置82に作成される蛍光データテーブルである。
【図9】固体撮像デバイス10に出力される電気信号のレベルの推移を示したタイミングチャートである。
【図10】DNAサンプルの検出方法を示す模式図である。
【図11】制御装置80の処理を示すフローチャートである。
【図12】出力装置77により出力された画像データの例であり、(a)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除したもの、(b)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しなかったものである。
【図13】抗体の検出方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0090】
10 固体撮像デバイス(撮像素子)
20 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
61 プローブDNA(プローブ)
62 サンプルDNA(生体高分子)
70 分析装置(生体高分子分析装置)
80 制御装置
82 記憶装置
161 プローブ抗体(プローブ)
162 抗原(生体高分子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイ等の生体高分子分析チップを用いた生体高分子分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な生物種の遺伝子の発現解析を行っている。遺伝子の発現解析とは、細胞で発現している遺伝子を同定することであり、具体的には、遺伝子をコードするDNAから転写されているmRNAを同定することである。
【0003】
遺伝子の発現解析のためにDNAマイクロアレイ及びその読取装置が開発されている。DNAマイクロアレイは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAをスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。ここで、既知の塩基配列のcDNAとしては、検体において既知のmRNAと同一、またはその一部と同一の塩基配列のcDNAが用いられる。DNAマイクロアレイ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0004】
まず、複数種類の配列既知のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAマイクロアレイを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて蛍光物質で標識したcDNA(以下、サンプルDNAという)を合成する。次に、サンプルDNAを蛍光物質で標識化してからDNAマイクロアレイ上に添加すると、サンプルDNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAマイクロアレイ上に固定される。サンプルDNAを標識する蛍光物質は励起されるとサンプルDNAが結合したプローブDNAの位置から蛍光を発することになる。
【0005】
次いで、DNAマイクロアレイを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、励起光の照射点をDNAマイクロアレイに対して二次元的に移動し、それと共に集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAマイクロアレイを二次元走査する。励起光により励起された蛍光物質から発した蛍光を集光レンズで集光させ、蛍光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAマイクロアレイの面内の蛍光強度分布を計測し、これにより、DNAマイクロアレイ上の蛍光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で蛍光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有したサンプルDNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって、配列既知のmRNAのうち、どれが検体で発現しているかを同定することができる。
【0006】
また、画像のノイズを小さくするために、明るさの異なる多数の測定画像から1つの合成データを得る装置も開発されている(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【特許文献2】特開2005−308504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、複数の光電変換素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にプローブDNA等の分子をスポットした生体高分子分析チップを開発している。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着したサンプルDNA等の生体高分子を標識する蛍光物質、発光物質等の標識物質からの光を各光電変換素子により計測する。このような生体高分子分析チップでは、固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、標識物質から発した光が殆ど減衰せずに固体撮像デバイスの受光面に入射するため、特許文献に示された受光器やフォトマルチプライヤーのように、スポットに対して著しく離間している固体撮像デバイスに比べても、光電変換素子が標識物質に対して近接しているので、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0008】
しかし、スポット位置に対応して配置される光電変換素子で取り込まれたデータのみならず、スポット位置に対応して配置されていない光電変換素子で取り込まれたデータをも出力するため、スポットされていない光電変換素子のノイズを含むデータから蛍光の有無を判定しなければならなかった。そのため、スポットされていない光電変換素子のノイズを含むデータが多いとS/N比が低下し、蛍光の有無そのものの判定精度が低くなってしまうという問題があった。
また、特許文献2に記載の方法では、撮像時間を変えて複数枚の画像の測定を行い、ある撮像時間で測定した最も明るく撮影された画像の中で、光量が飽和したサイトを探し、そのサイトを1段階暗く撮影された画像、例えば、より短い撮像時間で測定した画像の同一サイトの画像に置換え、すべてのサイトが飽和していない状態になるまでこれを繰り返さなければならず、ノイズ除去の処理が煩雑となっていた。
【0009】
本発明の課題は、精度のよい生体高分子分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子を有する撮像装置と、前記撮像装置の受光面上に固定され、特定の生体高分子と結合するプローブと、前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去する制御装置と、を備えることを特徴とする生体高分子分析装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データが前記制御装置により消去されたデータを画像データとして出力する出力装置をさらに備えることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記プローブに対応する光電変換素子の位置を記憶するプローブ位置テーブルと前記複数の光電変換素子の出力データを記憶するデータテーブルとが対応付けて格納される記憶装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記記憶装置の前記プローブ位置テーブルを参照して、前記記憶装置の前記データテーブルに記憶された前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析装置であって、前記光電変換素子の出力データをA/D変換するコンバータを備え、前記記憶装置は、前記A/D変換されたデータを前記データテーブルに記憶させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体高分子分析装置の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
〔第1の実施の形態〕
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明を適用した第1の実施形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【0016】
この生体高分子分析チップ1は、光電変換素子を透明基板11上に二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイス10(撮像装置)と、固体撮像デバイス10の受光面上において点在したスポット60,60,…と、を具備する。なお、本実施形態においては、固体撮像デバイス10の光電変換素子として、ダブルゲートトランジスタ20が用いられている。
【0017】
〔2〕固体撮像デバイス
図3は、ダブルゲートトランジスタ20を示す拡大図である。この固体撮像デバイス10は透明基板11と、ボトムゲート絶縁膜13と、トップゲート絶縁膜21と、保護絶縁膜23と、励起光フィルター層24とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン12a、ソースライン18a、ドレインライン19a、トップゲートライン22a、及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極12、半導体膜14、チャネル保護膜15、不純物半導体膜16,17、ソース電極18、ドレイン電極19、トップゲート電極22が設けられている。
【0018】
透明基板11は、後述する蛍光体が発する光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0019】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板11上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜23によってまとめて被覆されている。
なお、図1では8行×8列の64個のダブルゲートトランジスタ20,20,…を備えるマトリクス状の二次元アレイを示すが、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0020】
図4は図3のIV矢視方向から見たダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。図3、図4に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…はいずれも、受光部である半導体膜14と、半導体膜14上に形成されたチャネル保護膜15と、ボトムゲート絶縁膜13を挟んで半導体膜14の下に形成されたボトムゲート電極12と、トップゲート絶縁膜21を挟んで半導体膜14の上に形成されたトップゲート電極22と、半導体膜14の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜16と、半導体膜14の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜17と、不純物半導体膜16に重なったソース電極18と、不純物半導体膜17に重なったドレイン電極19と、を備え、半導体膜14において受光した光量に従ったレベルの電気信号(出力データ)を出力するものである。
【0021】
ボトムゲート電極12は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板11上に形成されている。また、透明基板11上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン12a,12aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極12が共通のボトムゲートライン12aと一体となって形成されている。ボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12aは、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0022】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12a,12a,…はボトムゲート絶縁膜13によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜13は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜13は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0023】
ボトムゲート絶縁膜13上には、複数の半導体膜14がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜14は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極12に対して対向配置され、ボトムゲート電極12との間にボトムゲート絶縁膜13を挟んでいる。半導体膜14は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0024】
半導体膜14上には、チャネル保護膜15が形成されている。チャネル保護膜15は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14の中央部上に形成されている。チャネル保護膜15は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜15は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜14の界面を保護するものである。半導体膜14に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜15と半導体膜14との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
【0025】
半導体膜14の一端部上には、不純物半導体膜16が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されており、半導体膜14の他端部上には、不純物半導体膜17が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜16,17は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜16,17は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0026】
不純物半導体膜16上には、ソース電極18が形成され、不純物半導体膜17上には、ドレイン電極19が形成されている。ソース電極18及びドレイン電極19はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aがボトムゲート絶縁膜13上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18は共通のソースライン18aと一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極19は共通のドレインライン19aと一体に形成されている。ソース電極18、ドレイン電極19、ソースライン18a及びドレインライン19aは、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0027】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極18及びドレイン電極19並びにソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aは、トップゲート絶縁膜21によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜21は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜21は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0028】
トップゲート絶縁膜21上には、複数のトップゲート電極22がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極22は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜14に対して対向配置され、半導体膜14との間にトップゲート絶縁膜21及びチャネル保護膜15を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜21上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン22a,22aが形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20のトップゲート電極22が共通のトップゲートライン22aと一体に形成されている。トップゲート電極22及びトップゲートライン22aは、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0029】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極22及びトップゲートライン22a,22aは保護絶縁膜23によってまとめて被覆され、保護絶縁膜23は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜23は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0030】
保護絶縁膜23の上面には、励起光フィルター層24が設けられている。励起光フィルター層24は、後述する蛍光体を励起する励起光を遮り、蛍光体より放射される蛍光のみを透過させる。
【0031】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、励起光フィルター層24の表面を受光面としており、ダブルゲートトランジスタ20の半導体膜14において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0032】
〔3〕スポット
次に、スポット60について説明する。図1、図2に示すように、複数種のスポット60,60,…が互いに離間して、固体撮像デバイス10の上面に配列されている。なお、図1では、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Aが、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Bが、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Cが、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60Dがそれぞれ形成されているが、スポット60の数は4つに限らず、固体撮像デバイス10に応じてその数は任意である。
【0033】
各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液をウェル40内に滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0034】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集が固体撮像デバイス10の上面に固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する酵素標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0035】
1つのスポット60は任意の数のダブルゲートトランジスタ20上に重なるとともに、他のスポット60,60,…と互いに離間するように形成されている。なお、1つのスポット60に重なったダブルゲートトランジスタ20の数は異なっていてもよい。
【0036】
〔4〕スポッター
図5は後述する分析装置70に組み込まれたスポッター90を示す模式図である。スポッター90は、分析装置70の制御装置80により駆動され、スポット溶液槽91と、洗浄槽92と、各種スポット溶液を固体撮像デバイス10の表面にスポットするスポット針93と、スポット針93を駆動する駆動装置94とを備える。
【0037】
スポット溶液槽91は各種スポット溶液に対応して1つずつ設けられており、スポット溶液槽91,91には、各固体撮像デバイス10の表面にスポットされるスポット溶液(プローブDNA61の溶液)が貯留されている。洗浄槽92にはスポット針93の先端を洗浄する洗浄溶液(純水)が貯留されている。
【0038】
駆動装置94はスポット針93をスポット溶液槽91、洗浄槽92、及び固体撮像デバイス10上で前後、左右の水平方向、及び上下方向の3軸方向に駆動する。
スポット針93はスポット溶液槽91に浸されて先端にスポット溶液を付着させ、各固体撮像デバイス10の表面にスポットする。
【0039】
スポッター90により固体撮像デバイス10の表面にスポット60を形成する動作について説明する。
(1) まず、制御装置80により駆動される駆動装置94が固体撮像デバイス10の表面に対応するスポット溶液が貯留されたスポット溶液槽91上にスポット針93を水平移動させ、次いでスポット針93を上下に動かしてスポット針93の先端をスポット溶液槽91内のスポット溶液に浸し、先端にスポット溶液を付着させる。
(2) 次に、駆動装置94が先端にスポット溶液が付着したスポット針93を固体撮像デバイス10の固体撮像デバイス10の上部に水平移動させる。
【0040】
(3) 次に、駆動装置94が固体撮像デバイス10の上部の所定位置(例えば、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)の中央位置)でスポット針93を上下に運動させ、スポット針93の先端に付着したスポット溶液を固体撮像デバイス10の表面上に滴下し、スポット60Aを形成する。
【0041】
(4) その後、駆動装置94がスポット針93を洗浄槽92上に移動し、スポット針93を上下に動かしてスポット針93の先端を洗浄槽92内の洗浄溶液に浸し、スポット針93の先端を洗浄する。
【0042】
以後、(1)〜(4)と同様にして、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Bを、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Cを、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)の中央位置でスポット針93を上下に運動させてスポット60Dを形成する。
【0043】
上記操作により、(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)に対応する各ダブルゲートトランジスタ20上にスポット60が形成される。
【0044】
〔5〕分析装置
図6は、分析装置70の構成を示すブロック図である。分析装置70は、生体高分子分析チップ1と、分析台71と、励起光照射装置72と、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76と、制御装置80と、記憶装置82と、出力装置77と、スポッター90とを備える。
【0045】
分析台71には生体高分子分析チップ1がセッティングされる。
励起光照射装置72は分析台71に対向しており、分析台71に生体高分子分析チップ1が搭載された場合に、励起光照射装置72から面状に出射した励起光が生体高分子分析チップ1に照射されるようになっている。なお、励起光照射装置72は、出射する光の波長域を可変可能に設けられていても良い。
【0046】
トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は制御装置80により制御され、固体撮像デバイス10を制御する。生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10のトップゲートライン22a,22a,…がトップゲートドライバ74の端子にそれぞれ接続されるようになっている。同様に、固体撮像デバイス10のボトムゲートライン12a,12a,…がボトムゲートドライバ75の端子にそれぞれ接続されるようになっており、固体撮像デバイス10のドレインライン19a,19a,…がドレインドライバ76の端子にそれぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が分析台71にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン18a,18a,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン18a,18a,…が接地されるようになっている。
出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
【0047】
制御装置80はスポッター79を駆動し、固体撮像デバイス10の上面に所定のスポット溶液を滴下する。
また、制御装置80は、励起光照射装置72,スポット検出光源78を点灯させる機能を有する。また、制御装置80は、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。
【0048】
また、制御装置80はドレインドライバ76から入力した電気信号(出力データ)をA/D変換するA/Dコンバータを備え、i行j列(i,jは1〜8)のダブルゲートトランジスタ20より出力される出力電圧(出力データ)を例えば0〜255〔AU〕の値F(i,j)に変換し、変換されたデータを記憶装置82の蛍光データテーブルに対応付けて記憶する機能を有する。
また、制御装置80は、蛍光データテーブルに記憶されたデータの二次元の数値の分布を画像データとして出力装置77により出力させる機能を有する。
【0049】
記憶装置82には、プローブ位置テーブル、蛍光データテーブルが格納されている。また、記憶装置82には、後述する行変数i、列変数j等が記憶される。
制御装置80は、記憶装置82に記録されたデータを記憶装置82から読み出し、後述する所定の処理を行う。
【0050】
図7は記憶装置82に格納されているプローブ位置テーブルである。プローブ位置テーブルには、生体高分子分析チップ1の各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に対応して8行×8列のセルが形成されている。プローブ位置テーブルは、後述するように、スポット60の有無により所定の数A(i,j)が書き込まれている。
なお、図7においては、スポット60A,60B,60C,60Dが形成された位置に対応する(2,2)、(2,3)、(3,2)、(3,3)、(6,2)、(6,3)、(7,2)、(7,3)、(2,6)、(2,7)、(3,6)、(3,7)、(6,6)、(6,7)、(7,6)、(7,7)のセルに「1」が、他のセルに「0」が書き込まれている。
【0051】
図8は記憶装置82に格納されている蛍光データテーブルである。蛍光データテーブルには、生体高分子分析チップ1の各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・に対応して8行×8列のセルが形成されている。この各セルに、各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・の出力電圧をA/D変換したデータである数値F(i,j)〔AU〕が記憶される。
【0052】
また、記憶装置82には、制御装置80により分析装置70を制御するプログラム等が格納されている。
【0053】
〔6〕撮像動作
ここで、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76による固体撮像デバイス10の通常の撮像動作について説明する。
トップゲートドライバ74が1行目のトップゲートライン22aから最終行目のトップゲートライン22aへと順次リセットパルスを出力し、ボトムゲートドライバ75がボトムゲートライン12a,12a,…に順次リードパルスを出力する。その際、ドレインドライバ76が各行でリセットパルスが出力されているリセット期間と各行でリードパルスが出力されている期間との間に、プリチャージパルスを全てのドレインライン19a,19a,…に出力する。
【0054】
i行目の各ダブルゲートトランジスタ20の動作について詳細に説明する。
図9は固体撮像デバイス10に出力される電気信号のレベルの推移を示したタイミングチャートである。図9に示すように、トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン22aにリセットパルスを出力すると、i行目のトップゲートライン22aがハイレベルになる。i行目のトップゲートライン22aがハイレベルになっている間(この期間をリセット期間という。)、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20では、半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積されたキャリア(ここでは、正孔である。)が、トップゲート電極22の電圧により反発して吐出される。
【0055】
次に、トップゲートドライバ74がi行目のトップゲートライン22aにリセットパルスを出力することを終了する。i行目のトップゲートライン22aのリセットパルスが終了してから、i行目のボトムゲートライン12aにリードパルスが出力されるまでの間(この期間をキャリア蓄積期間という。)、光量に従った量の電子−正孔対が半導体膜14内で生成されるが、そのうちの正孔がトップゲート電極22の電界により半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積される。
【0056】
次に、キャリア蓄積期間中に、ドレインドライバ76が1〜8列の全てのドレインライン19a,19a,…にプリチャージパルスを出力する。プリチャージパルスが出力されている間(プリチャージ期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20においては、トップゲート電極22に印加されている電位が−20〔V〕であり、ボトムゲート電極12に印加されている電位が±0〔V〕であるため、たとえ半導体膜14内や半導体膜14とチャネル保護膜15との界面近傍に蓄積された正孔の電荷だけではゲート−ソース間電位が低いので半導体膜14にはチャネルが形成されず、ドレイン電極19とソース電極18との間に電流は流れない。プリチャージ期間において、ドレイン電極19とソース電極18との間に電流が流れないため、ドレインライン19a,19a,…に出力されたプリチャージパルスによってi行目の各ダブルゲートトランジスタ20のドレイン電極19に電荷がチャージされる。
【0057】
次に、ドレインドライバ76がプリチャージパルスの出力を終了するとともに、ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン12aにリードパルスを出力する。ボトムゲートドライバ75がi行目のボトムゲートライン12aにリードパルスを出力している間(この期間を、リード期間という。)では、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20のボトムゲート電極12に+10〔V〕の電位が印加されているため、i行目の各ダブルゲートトランジスタ20がオン状態になる。
【0058】
リード期間においては、キャリア蓄積期間において蓄積されたキャリアがトップゲート電極22の負電界を緩和するように働くため、ボトムゲート電極12の正電界により半導体膜14にnチャネルが形成されて、ドレイン電極19からソース電極18に電流が流れるようになる。従って、リード期間では、ドレインライン19a,19a,…の電圧は、ドレイン−ソース間電流によって時間の経過とともに徐々に低下する傾向を示す。
【0059】
ここで、キャリア蓄積期間において半導体膜14に入射した光量が多くなるにつれて、蓄積されるキャリアも多くなり、蓄積されるキャリアが多くなるにつれて、リード期間においてドレイン電極19からソース電極18に流れる電流のレベルも大きくなる。従って、リード期間におけるドレインライン19a,19a,…の電圧の減少傾向は、キャリア蓄積期間で半導体膜14に入射した光量に深く関連する。
【0060】
そして、i行目のリード期間から次の(i+1)行目のプリチャージ期間までの間に、ドレインドライバ76を介して、リード期間が開始してから所定の時間経過後のドレインライン19a,19a,…の電圧を検出し、A/Dコンバータが0〜255〔AU〕の値にA/D変換する。なお、ドレインライン19aの出力電圧が+5〔V〕であればA/Dコンバータの変換データは0〔AU〕であり、0〔V〕であれば255〔AU〕である。これにより、キャリアの蓄積量が0〜255〔AU〕の値に換算される。キャリアの蓄積量が最も少ない場合が0〔AU〕、最も多い場合が255〔AU〕となる。
A/Dコンバータから出力された変換データは、記憶装置82に作成される蛍光データテーブルの(i,1)、(i,2)、(i,3)、(i,4)、(i,5)、(i,6)、(i,7)、(i,8)のセルに記憶される。
【0061】
上述した一連の画像読み取り動作を1サイクルとして、全ての行の各ダブルゲートトランジスタ20にも同等の処理手順を繰り返すことにより、蛍光データテーブルの全てのセルに、各ダブルゲートトランジスタ20,20,・・・の出力電圧をA/D変換した変換データの数値が記録される。
【0062】
〔7〕DNAサンプルの処理方法
上記生体高分子分析チップ1を用いたDNAサンプルの処理方法について説明する。
まず、作業者が検体からcDNAを採取して、場合によってPCR増幅を行い、得られたDNAに蛍光物質を結合させ、DNAを蛍光物質で標識する。蛍光物質は、分析装置の励起光照射装置から出射される励起光で励起されるものであってその励起光によって蛍光を発するものを選択するが、蛍光物質としては、例えばCyDyeのCy2(アマシャム社製)がある。得られたDNAは、溶液中に含まれている。以下では、このDNAをサンプルDNAという。
【0063】
次いで、作業者が、サンプルDNAを含有した溶液(以下、サンプルDNA溶液という)を固体撮像デバイス10の受光面に塗布する。ここで、固体撮像デバイス10の受光面にサンプルDNAを分布させるために、サンプルDNAを電気泳動させても良い。なお、サンプルDNA溶液をスポット60A,60B,60C,60D,…に順次又は同時に滴下しても良い。このとき、サンプルDNAが一本鎖となるようにサンプルDNA溶液は加熱されている。
【0064】
その後、プローブDNAとサンプルDNAとがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1を所定の温度に冷却する。これにより、スポット60A,60B,60C,60D,…のなかにサンプルDNAと相補的なプローブDNAがあれば、これとハイブリダイズする。一方、スポット60A,60B,60C,60D,…のなかにサンプルDNAと相補的なものがなければ、サンプルDNAはスポット60A,60B,60C,60D,…のいずれにも結合しない。
【0065】
その後、固体撮像デバイス10の受光面に塗布したサンプルDNAのうちハイブリダイゼーションしなかったものは洗い流す。
【0066】
〔8〕DNAサンプルの検出方法
DNAサンプルの検出方法について説明する。まず、図10に示すように、上記処理を行った固体撮像デバイス10を分析台71にセッティングし、励起光照射装置72を固体撮像デバイス10の受光面に対向させ、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御装置80に接続する。その後、制御装置80を起動し、分析装置70による蛍光データの計測動作を開始する。
【0067】
以下、分析装置70による蛍光データの計測動作について説明する。まず、制御装置80が励起光照射装置72を制御して励起光照射装置72を点灯させ、励起光照射装置72から固体撮像デバイス10の受光面に向けて励起光を出射させるとともに、制御装置80がトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76を制御することにより、固体撮像デバイス10に撮像動作を行わせる。
【0068】
図10に示すように、サンプルDNA62が蛍光体64により標識されているので、スポット60,60,…のうちサンプルDNA62とハイブリダイゼーションしたスポット60では、励起光照射装置72から各スポット60に照射された励起光Lにより蛍光体64が励起される。励起状態の蛍光体64が基底状態に遷移するときに蛍光Fが放出される。放出された蛍光Fは、対応するダブルゲートトランジスタ20に入射して電子−正孔対を発生させる。
【0069】
その後、ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの蛍光データを取得し、A/D変換後の数値を記憶装置82の蛍光データテーブルに記憶する。
【0070】
〔9〕蛍光データの処理
次に、蛍光データテーブルに記憶した蛍光データをプローブ位置テーブルと対応付けて処理する方法について説明する。図11は制御装置80の処理を示すフローチャートである。
【0071】
ここで、固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20がm行×n列であり、対応する蛍光データテーブル及びプローブ位置テーブルもm行×n列のテーブルである。また、処理を行う行を示す行変数をi、列変数をj、プローブ位置テーブルの処理を行うセルの値をA(i,j)、蛍光データテーブルの処理を行うセルの値をF(i,j)とする。iは1〜m、jは1〜n、A(i,j)は0または1、F(i,j)は0〜255である。なお、図1に示す固体撮像デバイス10の場合、m=n=8である。
【0072】
まず、制御装置80は、蛍光データテーブル及びプローブ位置テーブルから読み出すセル(i,j)に対応する行変数iを1にするとともに(ステップS1)、列変数jを1にする(ステップS2)。
次に、制御装置80は記憶装置82のプローブ位置テーブルからセル(i,j)のデータA(i,j)を読み出し、A(i,j)が1であるか否かについて判断する(ステップS3)。
【0073】
A(i,j)が0である場合(ステップS3→No)は、対応するダブルゲートトランジスタ20上にスポット60がないので、制御装置80は記憶装置82の蛍光データテーブルのセル(i,j)のデータF(i,j)を0に置換する(ステップS4)。
A(i,j)が1である場合(ステップS3→Yes)は、対応するダブルゲートトランジスタ20上にスポット60があるので、蛍光データテーブルのセル(i,j)のデータF(i,j)をそのままにする。
その後、制御装置80は、列変数jに1を加える(ステップS5)。
【0074】
次に、制御装置80は、列変数jがnであるか否かを判断し(ステップS6)、jがnではない場合(ステップS6→No)、ステップS3に戻る。
jがnである場合(ステップS6→Yes)には、i行目の全てのデータ処理が終了しているので、制御装置80は、行変数iに1を加える(ステップS7)。
【0075】
次に、制御装置80は、行変数iがmであるか否かを判断し(ステップS8)、iがmではない場合(ステップS8→No)、ステップS2に戻る。
iがmである場合(ステップS8→Yes)には、m行目までの全てのデータ処理が終了しているので、制御装置80は処理を終了する。
【0076】
以上の処理により、プローブ位置テーブルのうち「0」が書き込まれたセルに対応する蛍光データテーブルの蛍光データが0に置換され、プローブ位置テーブルのうち「1」が書き込まれたセルに対応する蛍光データテーブルの蛍光データのみを残すことができる。
その後、出力装置77により蛍光データテーブルに記憶された二次元の数値の分布を画像データとして出力させる。
【0077】
図12は出力装置77により出力された画像データの例であり、(a)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除したもの、(b)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しなかったものである。図12(a)に示すように、スポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データは削除されるため、暗転し、スポット60のある部分のみが明るく表示される。一方、スポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しない場合は、図12(b)に示すように、スポット60のない部分まで明るく表示され、スポット60の識別性が低下する。このように、本発明では、ノイズとなるデータを減らすことで、蛍光強度の差が顕著になり、生体高分子分析装置の精度を高めることができる。
【0078】
作業者は、出力装置77により出力された画像からハイブリダイゼーションの有無を確認し、ハイブリダイゼーションが起きていればプローブDNAの塩基配列からサンプルDNAの塩基配列を特定する。即ち、サンプルDNAの塩基配列は、画像の中でハイブリダイゼーションによって蛍光を発した画素に重なったスポット60と相補的な配列であるので、出力された画像データ中のどの部分が蛍光を発したかによって検体中で発現している遺伝子を特定することができる。
【0079】
このように、本実施の形態では、スポット60が形成されたダブルゲートトランジスタ20により取得された蛍光データのみの出力を得ることで、ノイズを除去し、S/N比を向上させることができる。したがって、生体高分子分析装置の精度を向上させることができる。
【0080】
<変形例>
次に、本実施の形態の変形例に係る生体高分子分析チップ101について図13を用いて説明する。この生体高分子分析チップ101は、抗原タンパクを検出する抗体チップである。
【0081】
本実施の形態に係る生体高分子チップ101には、スポット160にプローブ抗体161が用いられている点を除き、固体撮像デバイス110、分析装置170等の構成については生体高分子分析チップ1と同様であり、同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0082】
抗体チップでは、プローブとして、検出する既知のタンパク質や糖鎖等の抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体161という)を用いる。
具体的には、図13に示すように、生体高分子分析チップ101の固体撮像デバイス110にプローブ抗体161を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット160を形成する。なお、ウェル52に滴下されるプローブ抗体161はそれぞれ異なるタンパク質を抗原とし、同じスポット160を形成するプローブ抗体161は同一の抗原決定基を認識する。プローブ抗体161となる抗体としては、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0083】
次に、サンプルとなる抗原162を含む溶液(以下、サンプル溶液という)を固体撮像デバイス10の受光面に塗布する。
プローブ抗体161にサンプル溶液中の抗原162が結合するのに充分な時間が経過した後、サンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液とともに抗原162のうちプローブ抗体161と結合しなかったものを除去する。
【0084】
次に、固体撮像デバイス110の受光面に、プローブ抗体161が認識するのと同じ抗原162の異なる抗原決定基を認識する抗体を蛍光体164で標識したもの(以下、蛍光標識抗体163という)の溶液(以下、蛍光標識抗体溶液という)を注入する。
プローブ抗体161に結合した抗原162と蛍光標識抗体163とが結合するのに充分な時間が経過した後、固体撮像デバイス110の受光面の蛍光標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、蛍光標識抗体溶液中の蛍光標識抗体163のうち抗原162と結合しなかったものを固体撮像デバイス110の受光面から除去する。
以後、第1実施形態の〔8〕サンプルの検出、〔9〕蛍光データの処理と同様にして、分析装置170による光量データの出力動作を行う。
【0085】
図13に示すように、プローブ抗体161に抗原162が結合し、抗原162に蛍光標識抗体163が結合したスポット160では、各スポット160上に照射された励起光Lにより蛍光標識抗体163の蛍光体164が励起される。励起状態の蛍光体164が基底状態に遷移するときに蛍光Fが放出される。放出された蛍光Fは、ダブルゲートトランジスタ20により検出される。
【0086】
作業者は、出力装置177により出力された画像データより、各スポット160,160,…における抗原162の有無を確認することができる。このため、蛍光Fが検出されたスポット160のプローブ抗体161の種類により、検体内でどのようなタンパク質(抗原162)が生成されているかを直接確認することができる。
【0087】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、スポット60,160にプローブDNA61またはプローブ抗体161を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。例えば、既知のアミノ酸配列のペプチドやタンパク、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【図3】図2における固体撮像デバイス10のダブルゲートトランジスタ20を示す拡大図である。
【図4】ダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。
【図5】分析装置70に組み込まれたスポッター90を示す模式図である。
【図6】分析装置70の構成を示すブロック図である。
【図7】記憶装置82に作成されるプローブ位置テーブルである。
【図8】記憶装置82に作成される蛍光データテーブルである。
【図9】固体撮像デバイス10に出力される電気信号のレベルの推移を示したタイミングチャートである。
【図10】DNAサンプルの検出方法を示す模式図である。
【図11】制御装置80の処理を示すフローチャートである。
【図12】出力装置77により出力された画像データの例であり、(a)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除したもの、(b)はスポット60のないダブルゲートトランジスタ20の蛍光データを削除しなかったものである。
【図13】抗体の検出方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0090】
10 固体撮像デバイス(撮像素子)
20 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
61 プローブDNA(プローブ)
62 サンプルDNA(生体高分子)
70 分析装置(生体高分子分析装置)
80 制御装置
82 記憶装置
161 プローブ抗体(プローブ)
162 抗原(生体高分子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子を有する撮像装置と、
前記撮像装置の受光面上に固定され、特定の生体高分子と結合するプローブと、
前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去する制御装置と、
を備えることを特徴とする生体高分子分析装置。
【請求項2】
前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析装置。
【請求項3】
前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析装置。
【請求項4】
前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データが、前記制御装置により消去されたデータを、画像データとして出力する出力装置をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【請求項5】
前記プローブに対応する光電変換素子の位置を記憶するプローブ位置テーブルと、前記複数の光電変換素子の出力データを記憶するデータテーブルとが対応付けて格納される記憶装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記記憶装置の前記プローブ位置テーブルを参照して、前記記憶装置の前記データテーブルに記憶された前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去することを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【請求項6】
前記光電変換素子の出力データをA/D変換するコンバータを備え、
前記記憶装置は、前記A/D変換されたデータを前記データテーブルに記憶させることを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【請求項1】
二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子を有する撮像装置と、
前記撮像装置の受光面上に固定され、特定の生体高分子と結合するプローブと、
前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去する制御装置と、
を備えることを特徴とする生体高分子分析装置。
【請求項2】
前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析装置。
【請求項3】
前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析装置。
【請求項4】
前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データが、前記制御装置により消去されたデータを、画像データとして出力する出力装置をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【請求項5】
前記プローブに対応する光電変換素子の位置を記憶するプローブ位置テーブルと、前記複数の光電変換素子の出力データを記憶するデータテーブルとが対応付けて格納される記憶装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記記憶装置の前記プローブ位置テーブルを参照して、前記記憶装置の前記データテーブルに記憶された前記複数の光電変換素子の出力データのうち、前記プローブの位置に対応しない光電変換素子の出力データを消去することを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【請求項6】
前記光電変換素子の出力データをA/D変換するコンバータを備え、
前記記憶装置は、前記A/D変換されたデータを前記データテーブルに記憶させることを特徴とする請求項1記載の生体高分子分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【公開番号】特開2008−209268(P2008−209268A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46800(P2007−46800)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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