説明

生分解性つる物用ネット

【課題】従来のつる物用ネットよりも生分解されやすく、容易に生産できる生分解性つる物用ネットを提供する。
【解決手段】本発明の生分解性つる物用ネットは、脂肪族ポリエステル製のフラットヤーンが撚り加工された撚糸からなることを特徴とし、脂肪族ポリエステルの中でも、ポリブチレンサクシネートもしくはポリブチレンサクシネートアジペートまたはそれらの混合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた生分解性を有する生分解性つる物用ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、長芋、キュウリ、トマト等のつる物の栽培に使用するネットとして、ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用樹脂製のフラットヤーンなどからなるものが使用されている。これらのネットは、安価で強度があり、耐久性がある一方、使用後、自然環境下に放置すると、半永久的に残留してしまう。したがって、これらのネットを使用した場合、作物収穫後にネットをつるから分離、回収する必要があり、多くの作業が必要となる。
【0003】
これら作業の負担を軽減するために、ポリ乳酸を主原料とするフラットヤーンからなるつる物用ネットが開発されている(特許文献1参照)。ポリ乳酸は生分解性を有し、土壌中に存在するバクテリアによって最終的には水と炭酸ガスに分解されるため、つる物用ネットが土壌中に埋められた場合、環境問題を引き起こすことがない。
したがって、収穫後につるとネットを分離することなくそのまま土壌中に埋めて分解させる、あるいは堆肥化することが可能となる。そのため、分離、回収作業を必要とせず、コストを削減できる。
【特許文献1】特開2003−227030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のつる物用ネットの原料であるポリ乳酸の生分解には高い温度が必要である。したがって、従来のつる物用ネットが土壌中で生分解されるには長い時間が必要となる。さらに、ポリ乳酸は剛性が高く、伸度が低いため、例えば、フラットヤーンの製造工程のひとつである延伸工程で糸切れが起こりやすくなるなどの加工性の点で問題があり、従来のつる物用ネットは生産性が悪かった。
本発明では従来のつる物用ネットよりも生分解されやすく、容易に生産できる生分解性つる物用ネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の生分解性つる物用ネットは脂肪族ポリエステル製のフラットヤーンが撚り加工された撚糸からなることを特徴とする。
【0006】
前記脂肪族ポリエステルがポリブチレンサクシネートもしくはポリブチレンサクシネートアジペートまたはそれらの混合物であることが好ましい。
また、前記フラットヤーンは長さ方向に沿って凸条が形成されていることが好ましい。また、前記フラットヤーンが3〜9倍に延伸処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生分解性つる物用ネットであれば、生産が容易であり、土壌中で容易に生分解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の生分解性つる物用ネットは、脂肪族ポリエステル製のフラットヤーンが撚り加工された撚糸からなることを特徴とする。
脂肪族ポリエステルの中でも、ポリブチレンサクシネートもしくはポリブチレンサクシネートアジペートまたはそれらの混合物であることが好ましい。
【0009】
この脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、2万〜100万であることが好ましい。2万未満になると、機械的強度が低下する場合があり、100万を超えると、成形加工性が低下する場合がある。
【0010】
このような脂肪族ポリエステルの具体例として、「ビオノーレ」(商品名:昭和高分子株式会社製)が挙げられる。この「ビオノーレ」は特に生分解性が適度であり、高い機械的強度を有していることから、フラットヤーンの原料として特に優れている。
【0011】
また、このような脂肪族ポリエステルには、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、無機充填剤、結晶化促進剤、着色剤などの添加剤を添加してもよい。
酸化防止剤としては、3,5−ジ−t−ブチル−p−ヒドロキシトルエン、3,5−ジ−t−ブチル−p−ヒドロキシアニソールなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネートなどの硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
熱安定剤としては、トリフェニルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイトなどが挙げられる。
紫外線吸収剤としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノンなどが挙げられる。
【0012】
滑剤としては、高級脂肪酸のモノアミド、脂肪酸アマイド、合成シリカ、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、パルミチン酸ナトリウムなどが挙げられる。
帯電防止剤としては、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアミン、アルキルアリルスルホネート、アルキルスルホネートなどが挙げられる。
難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテルなどが挙げられる。
無機充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、タルク、マイカ、硫酸バリウム、アルミナなどが挙げられる。
結晶化促進剤としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ−トランスシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどが挙げられる。
【0013】
生分解性つる物用ネットに用いられるフラットヤーンは、上述した脂肪族ポリエステルをインフレーション法などの公知の押出成形法によって溶融押出してフィルムとし、このフィルムをスリットし、次いで延伸し、その後、緩和処理することによって製造される。
脂肪族ポリエステルの溶融押出は、サーキュラーダイス、Tダイスなどを備えた公知の成形機を用いて行うことができる。押出温度は、一般に170〜230℃、好ましくは180〜210℃である。
【0014】
また、延伸方法は、熱ロール延伸法などの公知の延伸方法を用いることが好ましい。延伸温度は、70〜110℃、好ましくは80〜100℃であり、延伸倍率は3〜9倍、好ましくは4〜8倍である。フラットヤーンの機械的強度は延伸倍率により調節することができる。延伸倍率を高めることで機械的強度を高めることができるが、あまり延伸倍率を高くすると延伸切れしやすくなる傾向がある。また、緩和温度は90〜120℃、好ましくは95〜110℃であり、緩和率は5〜20%、好ましくは8〜15%である。
【0015】
フラットヤーンは、図1に示すように、その長さ方向に沿って凸条1が形成されていることが好ましい。脂肪族ポリエステル製のフラットヤーン2は、撚糸にするための撚り加工を行う際、裂け伝搬などにより破損することがあるが、凸条1があることで、横方向の裂け伝搬がおこりにくくなり、破損しにくくなる。また、撚糸とした際、凸条1があることで、フラットヤーン2同士の接触面積が小さくなり、凸条1同士が絡みあうことで撚り戻しにくくなり、撚糸の機械的強度を向上させることができる。
この凸条1は、6mm幅のフラットヤーン2において、好ましくは幅が30〜100μm及び高さが20〜50μmである。幅が30μmまたは高さが20μm未満であると、機械的強度を向上させにくい。一方、幅が100μmを超えると、凸条1同士が絡みあいにくく、凸条1を形成させる効果がなくなり、機械的強度を向上させにくい。また、高さが50μmを超えると、フラットヤーン2に裂けが発生し機械的強度を維持しにくい。
また、凸条1の数については、6mm幅のフラットヤーン2において5〜25本であることが好ましい。5本未満であると、機械的強度を向上させにくい。一方、25本を超えると、凸条1同士が絡みあいにくく、凸条1を形成させる効果がなくなり、機械的強度を向上させにくい。
【0016】
凸条1の形成方法については特に制限はないが、フラットヤーン2を押出成形するためのダイスの開口部を、凸条1を形成するような形状にし、フラットヤーン2を押出成形するときに同時に形成させるのが好ましい。このようにすることにより、工程数を増やすことなく、フラットヤーン2の表面に容易に凸条1を形成させることができる。
【0017】
本発明の生分解性つる物用ネットは、凸条1を有した一本のフラットヤーン2を撚ることで単糸の撚糸を加工した後、それらをまとめて、複数の撚糸を撚りあわせることで加工されることが好ましい。生分解性つる物用ネットに使用されるフラットヤーン2の本数や撚り回数については、十分な機械的強度を有していれば制限されない。また、ネットの製造方法や形状も制限されず、例えば、角目や菱目等に加工されてよい。
【0018】
単糸の撚糸の繊度は、100〜600テクスのものが好ましい。100テクス未満になると、強度が不足する場合があり、600テクスを超えると、汎用の撚り機では撚り加工ができなくなる場合がある。
【0019】
本発明の生分解性つる物用ネットは、つる性の農作物のつる誘引のためのネットとして使用される。本発明の生分解性つる物用ネットは生分解性を有していることから、土壌中に埋められた場合、土壌中に存在するバクテリアによって最終的には水と炭酸ガスに分解されるため、環境問題を引き起こすことがない。
したがって、収穫後につるとネットを分離することなくそのまま土壌中に埋めて分解させる、あるいは堆肥化することが可能となる。そのため、分離、回収作業を必要とせず、コストを削減できる。
【0020】
本発明の生分解性つる物用ネットは脂肪族ポリエステル製のフラットヤーン2が撚り加工された撚糸からなるので、生産が容易であり、土壌中で容易に生分解される。
また、脂肪族ポリエステルが、ポリブチレンサクシネートまたはポリブチレンサクシネートアジペートもしくはそれらの混合物であることで、生分解性つる物用ネットの生分解性及び機械的強度を向上させることができる。
また、フラットヤーン2はその長さ方向に沿って凸条1が形成されることにより、フラットヤーン2同士の接触面積が小さくなり、凸条1同士が絡みあうことで撚り戻しにくくなり、生分解性つる物用ネットの機械的強度を向上させることができる。
また、前記フラットヤーン2は、3〜9倍に延伸処理されていることにより、生分解性つる物用ネットの機械的強度を向上させることができる。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
ポリブチレンサクシネート(昭和高分子株式会社製ビオノーレ#1001)90質量部と、ポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子株式会社製ビオノーレ#3020)10質量部とを、混合して、凸条1が形成されるような開口部を有する円形ダイスを用い、押出温度200℃でインフレーション押出法によりフィルムを成形した。このフィルムを冷却して、折幅200mm、凸条1を240本有するフィルムを得た後、このフィルムを10mm幅にスリットした。
次に、これを熱ロール(延伸温度85℃)で4倍に延伸させて幅6mmとし、その後、100℃、緩和率10%で緩和処理し、幅40μm、高さ30μmの凸条1が12本形成されたフラットヤーン2を得た後、このフラットヤーン2を単独で撚って、繊度222テクス、織密度10×10/インチの脂肪族ポリエステル製の撚糸を得た。
さらにこの撚糸3本を撚って繊度666テクスとして24cm角目のネット本体を作製した。また、上記の繊度222テクスの撚糸を5本撚り、さらにその5本撚りの撚糸を3つ撚り合わせて繊度3333テクスのロープを作製した。本願発明である生分解性つる物用ネットは、これらのロープとネット本体からなり、長芋畑で、一定間隔で支柱を立てて、その支柱の上部同士で上記の繊度3333テクスのロープを地面と平行に張り、そのロープから上記の繊度666テクスの24cm角目のネット本体を垂らした。このように、地面から上部まで一様に生分解性つる物用ネットを張ることで、長芋栽培を行った。
収穫後、つるとネットを分離せず巻き取り、深さ100cmの土壌中に埋めて放置したところ、72週で分解消失したことを確認した。
【0022】
<比較例>
ポリ乳酸(ユニチカ株式会社製 テラマック#4030)を、凸条1が形成されるような開口部を有する円形ダイスを用い、押出温度200℃でインフレーション押出法によりフィルムに成形した。このフィルムを冷却して、折幅200mm、凸条1を240本有するフィルムを得た後、このフィルムを10mm幅にスリットした。
次に、これを熱ロール(延伸温度95℃)で4倍に延伸させて幅6mmとし、その後、105℃、緩和率10%で緩和処理し、幅40μm、高さ30μmの凸条1が12本形成されたフラットヤーン2を得た後、このフラットヤーン2を単独で撚って、繊度222テクス、織密度10×10/インチのポリ乳酸製の撚糸を得た。
【0023】
<特性評価>
上記の実施例1で得られた脂肪族ポリエステル製の繊度222テクスの撚糸と、上記の比較例で得られたポリ乳酸製の繊度222テクスの撚糸の引張強度と伸度をJIS L 1096に準拠 (つかみ間隔=200mm、引張速度=150mm/min)した条件で測定した。
その結果、脂肪族ポリエステル製の撚糸は引張強度が76.8kgf/50mm,伸度が62%であり、ポリ乳酸製の撚糸は引張強度が80.0kgf/50mm、伸度が21%であった。これらの結果から脂肪族ポリエステル製の撚糸はポリ乳酸製の撚糸と同等の機械的強度を有しつつ、伸度に優れ、ポリ乳酸製の撚糸よりも加工性に優れていることが確認された。
【0024】
<生分解性評価>
上記の実施例1で得られた脂肪族ポリエステル製の撚糸と、上記の比較例で得られたポリ乳酸製の撚糸の生分解性を確認するために、それらの撚糸を土壌中に埋没させた後、図2と図3に示すように、それぞれの引張強度と伸度を測定した。
その結果、ポリ乳酸製の撚糸の引張強度(図2、4、曲線2)と伸度(図3、5、曲線2)は18ヶ月間にわたり土壌中に埋没されても、殆ど埋没前と変化しなかったにも拘わらず、脂肪族ポリエステル製の撚糸の引張強度(図2、4、曲線1)と伸度(図3、5、曲線1)は、土壌中に埋没させることで著しい減少が見られ、測定が不可能になるほど分解されることが確認された。
このように、土壌中に埋没することで、脂肪族ポリエステル製の撚糸はポリ乳酸製の撚糸より分解されやすく、土壌中において脂肪族ポリエステル製の撚糸は優れた生分解性を有していることが確認された。
【0025】
<実施例2>
ポリブチレンサクシネート(昭和高分子株式会社製ビオノーレ#1001)90質量部と、ポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子株式会社製ビオノーレ#3020)10質量部とを、混合して、凸条1が形成されないような開口部を有する円形ダイスを用い、押出温度200℃でインフレーション押出法によりフィルムを成形した。このフィルムを冷却して、折幅200mm、凸条1を有しないフィルムを得た後、このフィルムを10mm幅にスリットした。
次に、これを熱ロール(延伸温度85℃)で4倍に延伸させて幅6mmとし、その後、100℃、緩和率10%で緩和処理し、凸条1を有しないフラットヤーン2を得た。
【0026】
<特性評価>
上記の実施例1で得られた脂肪族ポリエステル製の凸条1を有するフラットヤーン2と、上記の実施例2で得られた脂肪族ポリエステル製の凸条1を有しないフラットヤーン2の撚り加工性を測定した。撚り試験機を用いて上記フラットヤーン2に300T/mの撚り加工を施し、得られた撚糸の直径を測定した。さらに撚糸の片端を固定し、もう片端に30gの荷重を加えて撚りを解除させ、残存撚り数を測定した。
その結果、表1に示すように、凸条1を有するフラットヤーン2は、凸条1を有しない通常のフラットヤーン2と比較し、得られる撚糸の直径が小さくなるだけでなく、残存撚り数が多く、撚り戻しが起こりにくいことが確認された。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の生分解性つる物用ネットに用いられるフラットヤーン2の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1の脂肪族ポリエステル製の撚糸と、比較例のポリ乳酸製の撚糸の、土壌中に埋没させたことによる引張強度の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1の脂肪族ポリエステル製の撚糸と、比較例のポリ乳酸製の撚糸の、土壌中に埋没させたことによる伸度の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の脂肪族ポリエステル製の撚糸と、比較例のポリ乳酸製の撚糸の、土壌中に埋没させたことによる引張強度の減少を示すグラフである。
【図5】実施例1の脂肪族ポリエステル製の撚糸と、比較例のポリ乳酸製の撚糸の、土壌中に埋没させたことによる伸度の減少を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1…凸条
2…フラットヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル製のフラットヤーンが撚り加工された撚糸からなることを特徴とする生分解性つる物用ネット。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルがポリブチレンサクシネートもしくはポリブチレンサクシネートアジペートまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性つる物用ネット。
【請求項3】
前記フラットヤーンは長さ方向に沿って凸条が形成されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の生分解性つる物用ネット。
【請求項4】
前記フラットヤーンが3〜9倍に延伸処理されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生分解性つる物用ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−118892(P2008−118892A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305184(P2006−305184)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000206163)東洋平成ポリマー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】