説明

生分解性高分子MRI造影剤並びにその調製及び使用法

【課題】分解可能な高分子磁気共鳴イメージング造影剤を調製するための新規な方法が開示される。種々の診断法における使用のための規定又は制御された分子量分布の、分解可能な高分子磁気共鳴イメージング造影剤と、これらの薬剤を合成し、使用し、かつ分解するための方法とが開示される。
【解決手段】本発明の種々の観点において開示された高分子造影剤は、分解可能な常磁性ポリジスルフィド化合物であり、延長された血漿保持と、種々の組織、臓器、又は腫瘍における増大された透過性及び保持時間とを示すが、そしてなお身体から迅速に除去され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2006年6月16日出願の、「生分解性高分子MRI造影剤並びにその調製及び使用法(BIODEGRADABLE MACROMOLECULAR MRI CONTRAST AGENTS AND METHODS OF PREPARATION AND USE THEROF)」に関する米国仮特許出願第60/814,449号の出願日の利益を主張する。
【0002】
合衆国政府の支援による研究開発に関する陳述
本明細書に記載の研究は、合衆国国立衛生研究所助成金(National Institute of Health Grants)CA095873により支援された。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有してよい。
【0003】
本発明は、全般的に、診断用イメージングにおいて使用される生分解性高分子造影剤、並びにかかる化合物を合成し、精製し、使用し、かつ分解する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
磁気共鳴イメージング(MRI)は、医療診断用の非侵襲的な方法である。常磁性金属錯体は、正常組織と疾病組織との間のイメージコントラストを増強するための造影剤としてしばしば使用される。診断法において通常使用される常磁性金属イオンは、マンガン(Mn2+)、鉄(Fe3+)、及びガドリニウム(Gd3+)を包含する。Gd3+のキレートは、その長い電子緩和時間及び高い磁気モーメントの故に、MRI造影剤としてしばしば使用される。低分子ガドリニウム錯体、例えばGd(III)(DTPA)[ジエチレントリアミンペンタアセテート]、Gd(III)(DOTA)[1,4,7,10−テトラアザドデカン四酢酸]、Gd(DTPA−BMA)(ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド)、及びその誘導体を含む、ガドリニウムを主成分とする造影剤が、臨床診療におけるMRI用の造影剤として日常的に使用されている。こうした薬剤は、細胞外造影剤であって、血管から細胞外の体液間隙内へ迅速に溢出し、かつ、その小さいサイズの故に組織保持時間が短く、短いイメージングタイムウインドウ及び低いシグナル対ノイズ比を含む、いくつかの不都合を生じる。造影剤の循環及び保持を引き延ばすため、医用高分子へのGd(III)キレートの化学的コンジュゲーション(非特許文献1)か、又はポリマー主鎖への取込み(非特許文献2)によって造影剤のサイズを増大することに、かなりの量の努力がなされてきた。
【0005】
高分子MRI造影剤は、長時間循環型又は血液プール剤と呼ばれることもあり、血液プール中でのその長い保持時間の故に特に有用である。例えば、アルブミン−(Gd−DTPA)コンジュゲートの半減期は、血中で約3時間である(非特許文献3)。Gd−DTPA標識デキストラン(分子量 〜75kDa)は、ラットでは、Gd−DTPAの13分間に比較して6.1時間の長い半減期を有する(非特許文献4)。高分子造影剤はまた、小サイズの分子に比較して長い回転時間からの結果として生じる、増大されたプロトンT緩和度も有する(非特許文献5)。増大された透過性及び保持の故に、これらの造影剤は固形腫瘍中に効果的に蓄積し、そしてMR癌イメージングにおけるコントラスト増強に可能性を有する。
【0006】
しかしながら、高分子造影剤には、遅い排出と長期間の組織Gd蓄積とに関連した潜在的毒性があり、そのためそのさらなる開発を妨げている。低いクリアランス速度のため、Gd高分子剤の使用は、骨及び他の組織中にGdの蓄積を生じる結果となり、結果的に毒性及び有害な副作用を生じることがある。高分子MRI造影剤のプロトタイプ、(Gd−DTPA)−アルブミンコンジュゲートは、その遅い排出の結果として起こる高いGd蓄積を、骨及び肝臓において示し(非特許文献3)、このことが、エンドサイトーシスによる該薬剤の細胞取込みと、リソゾーム内での低いpH及び酵素的分解に起因するGd−DTPA錯体の解離との可能性を高めた(非特許文献6,7)。Gdの高く長期間の組織蓄積はまた、他の高分子Gd(III)錯体についても観察された。Gd−DO3Aの、カルボキシメチルヒドロキシエチルデンプンへのコンジュゲーションが、注射後7日のラットの体内で、注射用量の約47%が検出された微分子剤(72kDa)になったことが報告されている(非特許文献8)。Gd−DTPAポリプロピレンイミンデンドリマー(第2世代)コンジュゲート(7kDa)は、注射後14日のラットで、注射した用量の45%の保持を生じる結果となった(非特許文献9)。造影剤の長期間のインビボの高い蓄積は、キレートからの毒性Gd(III)の代謝的放出の可能性を有意に高めている。
【0007】
本発明者らは最近、高分子剤のインビボ分解によりGdキレートの排出を促進するための、ポリジスルフィドGd(III)錯体を主成分とする生分解性高分子MRI造影剤をデザイン及び開発した(非特許文献10−12)。ポリマー主鎖中のジスルフィド結合は、遊離の血漿チオール、例えばグルタチオン及びシステインによるか、又は酵素的分解により、迅速に還元可能である。最初のポリジスルフィドMRI造影剤、(Gd−DTPA)−シスタミンコポリマー(GDCC)は、臨床的に利用可能なMRI造影剤、Gd−(DTPA−BMA)よりも、ラットにおいてより有意な血液プールを生じ、次いで血液プールから素早く除去されたことが示されている。GDCCは、臨床的に使用されるGd−(DTPA−BMA)に匹敵する、最小の長期間Gd組織蓄積を示した。
【0008】
ジスルフィド結合の周りの官能基は、常磁性のポリジスルフィド剤の分解速度を調整するため、及び種々の薬物動態学的特性をもつ生分解性高分子剤を調製するために導入されてきた。2つの修飾されたジスルフィドMRI造影剤、(Gd−DTPA)−シスチンコポリマー(GDCP)及び(Gd−DTPA)−シスチンジエチルエステルコポリマー(GDCEP)と、コントラスト増強腫瘍MRイメージングにおけるこれらの薬剤の予備的な結果とが、非特許文献11に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,982,324号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ラウファー(R.B.Lauffer)、ブラディ(T.J.Brady)著、「常磁性金属キレートで標識されたタンパク質の調製及び水緩和特性(Preparation and water relaxation properties of proteins labeled with paramagnetic metal chelates)、マグネチック・レゾナンス・イメージング(Magn.Reson.Imaging)」、1985年、第3巻、第1号、p.11−16。
【非特許文献2】デサー(T.S.Desser)、ルビン(D.L,Rubin)、ミュラー(H.H.Muller)、クイング(F.Qing)、コーダー(S.Khodor)、ザナジ(G.Zanazzi)、ヤング(S.W.Young)、ラッド(D.L.Ladd)、ウェロンズ(J.A.Wellons)、ケラー(K.E.Kellar)著、「Gd−DTPA−ポリエチレングリコールポリマーによる腫瘍イメージングの動力学:分子量への依存(Dynamics of tumor imaging with Gd−DTPA−polyethylene glycol polymers:dependence on molecular weight)、ジャーナル・オブ・マグネチック・レゾナンス・イメージング(J.Magn.Reson.Imaging)」、1994年、第4巻、第3号、p.467−472。
【非特許文献3】シュミードル(U.Schmiedl)、オガン(M.Ogan)、パーヤネン(H.Paajanen)、マロッティ(M.Marotti)、クルクス(L.E.Crooks)、ブリート(A.C.Brito)、ブラッシュ(R.C.Brusch)著、「MRイメージング用の血管内血液プール増強剤としての、Gd−DTPAで標識されたアルブミン:生体分布及びイメージングの研究(Albumin labeled with Gd−DTPA as an intravascular,blood pool−enhancing agent for MR imaging: biodistribution and imaging studies )、ラジオロジー(Radiology)」、1987年、第162巻、p.205−210。
【非特許文献4】ワン(S.C.Wang)、ウィクストロエム(M.G.Wikstroem)、ホワイト(D.L.White)、クラベネス(J.Klaveness)、ホルツ(E.Holtz)、ロングベド(P.Rongved)、モウズリー(M.E.Moseley)、ブラッシュ(R.C.Brasch)著、「血管内MR造影剤としてのガドリニウム−DTPA標識されたデキストランの評価:正常ラット組織におけるイメージング特性(Evaluation of gadolinium−DTPA−labeled dextran as an intravascular MR contrast agent: imaging characteristics in normal rat tisuues)、ラジオロジー」、1990年、第175巻、第2号、p.483−488。
【非特許文献5】ケラー(K.E.Kellar)、ヘンリクス(P.M.Henrichs)、ホリスター(R.Hollister)、コーニング(S.H.Koening)、エック(J.Eck)、ウェイ(D.Wei)著、「高緩和度直鎖Gd(DTPA)−ポリマーコンジュゲート:疎水性相互作用の役割(High relaxivity linear Gd(DTPA)−polymer conjugates:the role of hydrophobic interactions)、マグネチック・レゾナンス・イン・メディスン(Magn.Reson.Med.)」、1997年、第38巻、第5号、p.712−716。
【非特許文献6】ダンカン(J.R.Duncan)、フラナーノ(F.N.Franano)、エドワード(W.B.Edward)、ウェルシュ(M.J.Welch)著、「タンパク質−DTPA−ダドリニウム錯体からのガドリニウム解離の証拠(Evidence of gadolinium dissociation from protein−DTPA−gadolinium complexes)、インベスティゲイティブ・ラジオロジー(Investigative Radiology)」、1994年、第29巻、付録2、s58−s61。
【非特許文献7】フラナーノ(F.N.Franano)、ニコラス(F.Nicholas)、エドワーズ(W.B.Edwards)、ウェルシュ(M.J.Welch)、ブレキビエル(M.W.Brechbiel)、ガンソー(O.A.Gansow)、ダンカン(J.R.Duncan)著、「標的化及び非標的化タンパク質−キレート−ガドリニウム錯体の生体分布及び代謝:インビトロ及びインビボでのガドリニウム解離に関する証拠(Biodistribution and metabokism of targeted and nontargeted protein−chelate−Gadolinium complexes:Evidence for gadolinium dissociation in vitro and in vivo)、マグネチック・レゾナンス・イメージング」、1995年、第13巻、第2号、p.201−214。
【非特許文献8】ヘルビッヒ(T.H.Helbich)、ゴスマン(A.Gossman)、マレスキ(P.A.Mareski)、ラデューヘル(B.Raduchel)、ロバーツ(T.P.T.Roberts)、シャーメス(D.M.Shames)、ミューラー(M.Muhler)、トゥレチェック(K.Turetschek)、ブラスク(R.C.Brasch)著、「MRイメージング用の新規多糖高分子造影剤:生体分布及びイメージング特性(A new polysaccharide macromolecular contrast agent for MR imaging: Biodistribution and imaging characteristics)、ジャーナル・オブ・マグネチック・レゾナンス・イメージング」、2000年、第11巻、第6号、p.694−701。
【非特許文献9】ワン(S.J.Wang)、ブレキビエル(M.W.Brechbiel)、ウィーナー(E.C.Wiener)著、「ポリプロピレンイミンデンドリマー、第2世代、から調製された新規MRI造影剤の特徴(Characteristics of a New MRI Contrast Agent Prepared From Polypropyleneimine Dendrimers,Generation 2)、インベスティゲイティブ・ラジオロジー」、2003年、第38巻、第10号、p.662−668。
【非特許文献10】ワン(X.Wang)、ファング(Y.Feng)、キー(T.Ke)、シャベル(M.Schabel)、ルー(Z.R.Lu)著、「生分解性高分子磁気共鳴イメージング造影剤、(Gd−DTPA)−シスタミンコポリマーの薬物動態及び組織保持(Pharmacokineics and tissue retention of (Gd−DTPA)−Cystamine copolymers,a biodetradable macromolecular magnetic resonance imaging contast agent)、ファーマシューティカル・リサーチ(Pharmaceutical Research)」、2005年、第22巻、第4号、p.596−602。
【非特許文献11】ゾング(Y.Zong)、ワン(X.Wang)、グッドリッチ(K.C.Goodrich)、モウス(A.M.Mohs)、パーカー(D.L.Parker)、ルー(Z.R.Lu)著、「担腫瘍マウスにおける、新規生分解性高分子Gd(III)錯体でコントラスト増強されたMRI(Contrast−enhanced MRI with new biodegradable macromolecular Gd(III)complexes in tumor−bearing mice)、マグネチック・レゾナンス・イン・メディスン」、2005年、第53巻、p.835−842。
【非特許文献12】ゾング(Y.Zong)、キー(T.Ke)、モウス(A.M.Mohs)、グオ(J.Guo)、パーカー(D.L.Parker)、ルー(Z.R.Lu)著、「ポリジスルフィドGd(III)錯体のインビボのMRIコントラスト増強に対するサイズ及び電荷の影響(Effect of size and charge on in vivo MRI contrast enhancement of polydisulfide Gd(III)complexes)、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリーズ(J.Controlled Rel.)」、2006年、第112巻、p.350−356)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、なかんずく、規定又は制御された分子量及び/又は分子量分布をもつ、分解可能な高分子造影剤を提供する。好ましい実施態様においては、該造影剤はポリジスルフィドを含んでなる。もう1つの好ましい実施多様においては、これらの造影剤は金属、例えば、Mn2+、Fe3+、及びGd3+との錯体である。種々の造影剤の例は、特許文献1、非特許文献10、非特許文献11、又は非特許文献12に開示されている。これらの造影剤は、種々の医学的方法、例えば診断及び治療法において使用可能である。1つの実施態様においては、これらの造影剤は磁気共鳴イメージングにおいて使用される。別の実施態様においては、これらの造影剤はX線コンピュータトモグラフィー(断層撮影法)において使用される。別の実施態様においては、分解可能なポリマーは、シンチグラフィー、ポジトロンエミッショントモグラフィ、及び放射線療法用の、放射性金属イオンとキレートを形成し得る。本発明のもう1つの観点においては、造影剤錯体は、標的化分子を包含する。制限なく、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、他のタンパク質、及び他の化学的実体を含む標的化分子の取込みは、標的化能をもつ高分子造影剤を生じる結果となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分解可能な高分子造影剤を、水性媒体中で調製する方法を提供する。好ましい実施態様においては、反応媒体は塩基性水溶液である。重合化用の媒体として水溶液を使用することは、溶液の汚染を避け、また製造のための容易なスケールアップも促進する。
【0013】
本発明は、分解可能な高分子リガンド及び造影剤を精製する方法を提供する。1つの実施態様においては、該リガンド及び造影剤は、クロマトグラフ法により精製される。もう1つの実施態様においては、該造影剤は限外濾過により精製される。Gdを含んでなる生分解性高分子MRI造影剤はまた、造影剤溶液のpHを上げて、任意の残留する遊離Gd(III)イオンを、Gd沈澱として除去することによっても精製可能である。
【0014】
本発明はまた、分解可能な高分子造影剤を分画して、より狭くかつ所望の分子量分布をもつ造影剤を与える方法も提供する。本発明の1つの実施態様においては、造影剤は、サイズ排除クロマトグラフィーのようなクロマトグラフ法により分画される。
【0015】
本発明はまた、分解可能な高分子造影剤の分子量及び/又は分子量分布を制御する方法も提供する。1つの実施態様においては、造影剤の分子量は、重合化条件、例えば反応温度及び/又は重合化反応体の供給比を変えることにより制御される。
【0016】
本発明は、一種以上の分解可能な高分子造影剤を投与すること、及び磁気共鳴イメージを得ることにより、哺乳類の組織又は臓器の磁気共鳴イメージを得るための方法を提供する。いくつかの実施態様においては、高分子造影剤は、内在性及び外来性の双方の化合物により分解されることが可能である。1つの実施態様においては、高分子造影剤は、内在性のメルカプタン及び/又は酵素により、小さい安定なキレートへ分解される。
【0017】
本発明はまた、一種以上のジスルフィド結合還元化合物か、又は高分子造影剤の分解を刺激する他の化合物を投与することにより、高分子造影剤を分解するか、又は分解を刺激する方法も提供する。1つの実施態様においては、外来性メルカプタンが哺乳類へ送達される。本発明のいくつかの実施態様のもう1つの目的は、高分子造影剤を他の薬剤と組合せて投与することである。様々な観点において、薬学的に許容される薬剤、例えば希釈剤及び担体もまた投与される。
【0018】
本発明の1つの観点は、哺乳類の組織又は臓器の磁気共鳴イメージを得るための方法であって、有効量の一種以上の高分子造影剤を該哺乳類に投与すること、及び磁気共鳴イメージを得ることによる該方法を包含する。好ましい実施態様においては、一種以上の高分子造影剤は、内在性メルカプタン及び/又は酵素により分解される。
【0019】
本発明の1つの観点によれば、前記高分子造影剤の分解を刺激する一種以上の化合物もまた投与される。もう1つの観点においては、一種以上のジスルフィド結合還元化合物もまた投与される。ジスルフィド結合還元化合物は、以下の一種以上からなる群より選択される:メルカプタン、NADH、NADPH、ヒドラジン、ホスフィン、亜鉛、スズ(II)、硫化ナトリウム、過ギ酸、過酸化水素。
【0020】
本発明の種々の観点において使用されるメルカプタンは、以下の一種以上からなる群より選択される:システイン及びその誘導体、グルタチオン及びその誘導体、システイニルグリシン及びその誘導体、2,3−ジメルカプトコハク酸その誘導体、2,3−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸及びその誘導体、2−メルカプトエタノール、ペニシラミン及びその誘導体、メルカプト酢酸及びその誘導体、メルカプトアニソール、2−メルカプト安息香酸及びその誘導体、4−メルカプト安息香酸及びその誘導体、2−メルカプト−5−ベンズイミダゾールスルホン酸及びその誘導体、2−メルカプトベンゾチアゾール、3−メルカプトイソ酪酸、メルカプトシクロヘキサン、2−メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトエチルアミン塩酸塩、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、3−メルカプト−1−プロパノール、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、ジエチルジチオカルバメート、ジチオエリトリトール、及びジチオグリコール。
【0021】
本発明の1つの観点によれば、二種以上の高分子造影剤が同時に投与される。1つの実施態様においては、高分子コントラスト製剤は、第1の高分子造影剤と第2の高分子造影剤とを含んでなり、これにおいて該第2の高分子造影剤は、前記第1の高分子造影剤の投与後に投与される。
【0022】
もう1つの実施態様においては、少なくとも1つの高分子造影剤は、希釈剤、担体、抗体、抗体Fab’フラグメント、抗体F(ab’)フラグメント、及び送達系からなる群より選択される、一種以上の生理学的に許容される薬剤と一緒に投与される。
【0023】
好ましい実施態様においては、少なくとも1つの高分子造影剤は、常磁性金属錯体、放射性金属錯体、治療薬、タンパク質、DNA、RNA、薬物送達系、及び遺伝子送達系からなる群より選択される、一種以上の造影剤と一緒に投与される。
【0024】
本発明のいくつかの実施態様の目的は、制限なく、肝臓、脾臓、肺、心臓、腎臓、腫瘍、卵巣、膵臓、胆管系、腹膜、筋肉、頭部、頸部、食道、骨髄、リンパ節、リンパ管、神経系、脳、脊髄、毛細血管、胃、小腸、及び大腸を含む、健康又は腫瘍性の組織又は臓器の、磁気共鳴イメージを得ることである。
【0025】
本発明のいくつかの実施態様の目的は、健康又は腫瘍性の組織又は臓器の、磁気共鳴イメージを得るための方法を提供することであり、該方法は、一種以上の造影剤について適当な分子量範囲を選択することを含んでなる。1つの実施態様においては、高い(好ましくは40kDaより大きい)分子量の造影剤が、心臓及び血管系のイメージングについて、より長くかつ有意なコントラスト増強を提供する。もう1つの実施態様においては、低い(好ましくは40kDaより小さい)分子量の造影剤が、腫瘍組織において、高分子量の薬剤よりも有意な増強を生じる結果となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】表1にも例示されている、ポリマーリガンドDTPA−シスチンコポリマーの分子量分布に対する反応温度の影響を示す図である。
【図2】表2にも例示されている、コポリマーの分子量分布に対する、DTPAジアンヒドリド対シスチンの供給比の影響を示す図である。
【図3】PD−10カラム対限外濾過による、ポリ(GdDTPA−co−L−リジン)(GDCP)の精製の比較を示す図である。
【図4】AKTA P−920 FPLC、Superose(スーパーロース)610/200 GLカラム、及びKnauer(クナウアー)RI検出器を用いた、Gd−DTPAシスタミンコポリマー(GDCC)の、主要な分画の時間シグナル強度曲線を示す図である。
【図5】尾静脈からの、用量0.1mmolGd/kgにおける、GDCP(A:23kDa,B:43kDa,C:109kDa)及びGDGP(D:21kDa,E:43kDa,F:108kDa)の、注射前(a)、及び注射後2分(b)、5分(c)、10分(d)、15分(e)、30分(f)、及び60分(g)の、マウスの三次元最大強度投影MRイメージを示す図である。
【図6】GDCP(A:23kDa,B:43kDa,C:109kDa)及びGDGP(D:21kDa,E:43kDa,F:108kDa)の、注射前(a)、及び注射後2分(b)、5分(c)、10分(d)、15分(e)、30分(f)、及び60分(g)の、ヒト乳癌(MB−231)(矢印参照)をもつマウスの二次元アキシアルMRイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
従来、ポリジスルフィドリガンドは、有機溶媒中で調製されており、例えば、ポリジスルフィドリガンドは、DTPAジアンヒドリド及びジスルフィド含有ジアミンの、DMSO中での縮合重合により得られる。一般的に有機溶媒は、それらが大規模な製造プロセスにおいて使用される場合は特に、環境にやさしくない。加えて、それはポリジスルフィド剤の適用に先立ち、有機溶媒を除去するための余分の工程を要する。
【0028】
本発明は、分解可能な高分子造影剤を水性媒体中で調製する方法であり、したがって、より少ない汚染及びスケールアップの容易さの点で、従来法を超える利点をもつ方法を提供する。好ましくは、該水性媒体は塩基性水溶液である。この新規な方法を用いて、種々の化学構造及び分子量をもつ、ポリジスルフィドMRI造影剤が首尾よく作成されてきた。例えば、マウスにおけるインビボのMRイメージングは、ポリジスルフィドMRI造影剤が、よりサイズの小さい臨床的に使用された薬剤に比較して、血液プール中で長い保持時間をもつことを示した。これらのポリジスルフィド造影剤は、腫瘍及び他の心臓血管疾患の診断に向けて大いに期待できる。
【0029】
本発明は、分解可能な高分子造影剤を調製する方法を提供する。該造影剤は、種々のクロマトグラフ法、例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)、及びSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により精製可能である。1つの特別の実施態様においては、該造影剤は、G−25媒体でパックされたカラムを具備したSECにより精製される。該造影剤はまた、種々の濾過法、例えば、所望の分子量カットオフをもつフィルターを用いた限外濾過によっても精製可能である。
【0030】
本発明はまた、種々の臨床適用のための、様々な分子量、及び/又は狭い分子量分布をもつ、生分解性高分子MRI造影剤を調製する方法も提供する。種々の分子量の生分解性高分子MRI造影剤は、反応条件を変えることにより、例えば、反応温度を変えることによるか、又は重合化反応体の供給比を変えることにより、容易に制御可能である。反応条件を調整するための方法は、本明細書の実施例に例示されている。他の反応条件、例えば反応媒体のpH、反応時間、反応体の混合速度、及び他の因子もまた、分子量及び/又は分子量分布に影響し得ることに注目されるべきである。
【0031】
高分子量の生分解性薬剤、例えば、108kDaのものは、心臓及び血管系のイメージングについては、対応する低分子量の薬剤よりも、より長くかつ有意なコントラスト増強を提供することが示されている。低分子量のポリマー薬剤、例えば23kDaのものは、腫瘍組織において、高分子量薬剤よりもさらに有意な増強を生じる結果となった。それ故、本発明はまた、健康又は腫瘍性の組織又は臓器の磁気共鳴イメージを得るための方法であって、特定の適用に適した分子量をもつ、一種以上の造影剤を選択することを含んでなる該方法も提供する。
【0032】
高分子造影剤は、所望よりも広い分子量分布を有してもよい。例えば、常磁性ポリジスルフィドの、その薬物動態及びインビボのコントラスト増強に対するサイズ効果を正確に評価するためには、より狭い分子量分布をもつ常磁性ポリジスルフィドが、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた分画により調製される。限外濾過又は透析といった、他の方法もまた部分的な分画を提供し得ることに注目されるべきである。
【0033】
ポリジスルフィド造影剤の構造、電荷、及び/又はサイズが、その分解、薬物動態、及びインビボのコントラスト増強に影響を及ぼし得ることが認識されよう。例えば、ポリジスルフィドGd(III)錯体、(Gd−DTPA)−シスチンコポリマー(GDCP)、(Gd−DTPA)−グルタチオン(酸化型)コポリマー(GDGP)、及び(Gd−DTPA)−シスチンジエチルエステルコポリマー(GDCEP)は、マウスにおいて様々に挙動する。これらのポリジスルフィド造影剤の分解、薬物動態、及びインビボのコントラスト増強に関するデータ及び分析は、図5及び6に示され、かつ非特許文献12において詳述されており、その内容全体は参考として本明細書に含まれている。ポリジスルフィド造影剤の、構造、サイズ、及び/又は電荷の影響は、最適のポリジスルフィドGd(III)錯体が、構造的最適化によって、種々の臨床適用のための安全かつ効果的な生分解性高分子MRI造影剤として、デザイン及び調製され得ることを示唆している。さらに、様々な薬物動態をもつ造影剤が、様々な適用に適切であってよい。一般に、許容できる程度に長い血液循環をもつ薬剤は、コントラスト増強心臓血管イメージング及び癌イメージングにおいてより有効である。それ故、本発明はまた、健康及び腫瘍性の組織又は臓器の磁気共鳴イメージを得るための方法であって、特別の適用に向け、適当な薬物動態、分解、及び/又はインビボ増強特性をもつ一種以上の造影剤を選択することを含んでなる、該方法も提供する。
【0034】
もう1つの観点においては、本発明は、規定又は制御された分子量及び/又は分子量分布をもつ、ポリジスルフィドMRI造影剤を提供する。本発明のポリジスルフィドMRI造影剤は、制限なく、米国特許第6,982,324号、非特許文献10、非特許文献11、又は参考文献12に開示された種々の造影剤を包含する。種々の造影剤の1つの実施態様においては、該造影剤は、水性媒体中で調製される。もう1つの実施態様においては、規定された分子量及び/又は分子量分布の造影剤が、反応条件を変えることにより調製される。もう1つの実施態様においては、狭い分布範囲か、又は所望の分布範囲の造影剤が、限外濾過、サイズ排除、及び透析といった精製又は分画法により調製される。
【0035】
もう1つの実施態様においては、本発明は、哺乳類の組織又は臓器の磁気共鳴イメージを得るための方法であって、有効量の一種以上の高分子造影剤を該哺乳類へ投与すること、及び磁気共鳴イメージを得ることによる方法を提供する。当業者は、磁気共鳴イメージを得るための多くの既知の方法が、科学及び医学の分野に存在することを理解するであろう。1つの好ましい実施態様においては、MRI処置はヒト患者に対し行われる。当業者は、制限なく、肝臓、脾臓、肺、食道、骨髄、リンパ節、リンパ管、神経系、脳、脊髄、毛細血管、胃、小腸、大腸を含む、多様な組織又は臓器が、本発明の様々な観点を用いて検査されてよいことを認識するであろう。当業者は、正常組織及び腫瘍のような異常組織の双方が、検査可能であることを認識するであろう。
【0036】
本発明のもう1つの観点は、金属錯体を除去する方法に関する。好ましくは、クリアランス処理は、MRI処置が完了するか、又は実質的に完了した後に行われる。1つの実施態様においては、メルカプタン又は他の類似の薬剤が、MRI処置の後に投与される。種々の実施態様において、これらの薬剤は、高分子主鎖を切断することにより、排出プロセスを促進する。別法として、又は付加的に、ジスルフィド結合の切断によって常磁性金属錯体をポリマー担体から除去することにより、除去を生じる。いくつかの実施態様は、高分子から放出された常磁性金属錯体が、今日臨床的に使用される低分子のコントラスト剤に匹敵する速度で除去され得ることから、特に有利である。
【0037】
1つの好ましい実施態様においては、該高分子化合物は、固形腫瘍組織中の蓄積には好都合な、延長された血液プール中の保持時間をもち、かつMRI後に迅速に除去される。これらの高分子剤、及びその記載された方法は、制限なく、血管造影法、プレチスモグラフィー、リンパ管造影法、マンモグラフィー、癌診断、及び機能及び動的MRIを含む、数多の医学的処置において不可欠なツールであろう。
【0038】
本発明は、単なる例として示されかついかなる方法によっても本発明を制限することを意図していない、以下の制限しない実施例においてさらに記載される。
【実施例】
【0039】
DTPA−シスチンコポリマー、DTPA−シスチンジエチルエステルコポリマー、及び常磁性錯体GDCP及びGDCEPの調製、ラット血漿中でのGDCP及びGDCEPの分解、MRイメージング、及びデータ分析の例は、非特許文献12(ゾング(Y.Zong)、キー(T.Ke)、モウス(A.M.Mohs)、グオ(J.Guo)、パーカー(D.L.Parker)、ルー(Z.−R.Lu)著、「ポリジスルフィドGd(III)錯体のインビボのMRIコントラスト増強に対するサイズ及び電荷の影響(Effect of size and charge on in vivo MRI contrast enhancement of polydisulfide Gd(III)complexes)、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリーズ(J.Controlled Rel.)」、2006年、第112巻、p.350−356)において提示されており、その内容全体は、参考として本明細書に含まれている。
【0040】
実施例1 水性相におけるポリジスルフィドコポリマーの調製。分子量分布に対する反応温度の影響:
システイン(5mmol、1.200g、>99%)を、2mlの水溶液中に溶解し、この溶液のpHを、室温で、NaOHを用いて11に調整した。次に、反応を3つの異なる温度、−10℃(氷−NaCl浴)、0℃(氷水浴)、及び室温において各々行なった。ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸ジアンヒドリド(DTPA−DA)(5mmol、1.787g)を、素早く攪拌しながら、1時間以内に分割添加した。反応混合物のpHは、飽和NaOH水溶液で11に維持した。30%を超えるDTPAジアンヒドリドは、一定のpH11において30分間で分割添加した。最後の部分のDTPA−DAの添加の5分後、10%(重量で)のHClを添加して反応混合物のpHを7に調整した。コポリマーの分子量分布は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、Superose12TMを具備したAKTATMFPLCシステム(アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Bioscience Corp.)、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)を用いて分析した。図1は、異なる温度において調製されたDTPAシスチンコポリマーの分子量分布を示す。これは、反応温度が分子量分布に対し、有意なインパクトをもつことを示している。高い反応温度は、コポリマーの分子量を増大する。
【0041】
【表1】

【0042】
分子量分布に対するDTPA−DA対ジアミンの供給比の影響
シスチン(5mmol、1.200g)を2mlの水中に溶解し、室温で、pHをNaOHにより11に調整した。このシスチン溶液に対し、種々の対シスチンモル比のDTPA−DA(0.9、1.0、1.1、1.2、及び1.3)を、素早く攪拌しながら1.5時間以内に分割添加した。反応混合物のpHは、飽和NaOH水溶液でpH11に維持した。最後の部分のDTPA−DAの添加の5分後、10%(重量で)のHClを添加して反応混合物のpHを7に調整した。種々のモル比で調製されたDTPA−シスチンコポリマーの分子量を、Superose12カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより分析した。表2及び図2参照。シスチンに対する高いモル比(1.2及び1.3)のDTPAジアンヒドリドは、高い分子量を生じる。コポリマーの分子量は、それ故、モル比の減少と共に減少した。
【0043】
【表2】

【0044】
DTPA−シスチンの共重合:
シスチン(10mmol、2.403g)を、室温で、pH11において、5mlのNaOH水溶液中に溶解し、次いで混合物を氷水浴中で冷却した。次に、DTPAジアンヒドリド(10mmol、3.573g)を、NaOH水溶液を用いてpH11を維持しながら、1時間以内で分割添加した。最後の部分のDTPA−DAの添加の5分後、10%(重量で)のHClを添加してpHを7に調整し、この溶液を、6−8000Daの分子量カットオフをもつ膜を用いて、脱イオン水に対し24時間透析した。コポリマー溶液を凍結乾燥し、3.2gの無色の固形生成物を得た(54%)。SuperoseTM12カラムを具備したAKTATMFPLCシステムを用いたSECにより測定された、コポリマーの数(Mn)及び重量(Mw)平均分子量は、18及び33kDaであった。このシステムは、標準のポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メチルアクリルアミド](PHPMA)を用いてキャリブレートした。
【0045】
DTPA−グルタチオン(酸化型)の共重合:
グルタチオン(8mmol、4.901g酸化型)を、室温で、pH11において、5mlのNaOH水溶液中に溶解し、次いで混合物を氷水浴中で冷却した。次に、DTPAジアンヒドリド(8mmol、2.850g)を、NaOH水溶液を用いてpH11を維持しながら、1時間以内に分割添加した。最後の部分のDTPA−DAの添加の5分後、10%(重量で)のHClを添加してpHを7に調整し、この溶液を、6−8000Daの分子量カットオフをもつ膜を用いて、脱イオン水に対し24時間透析した。コポリマー溶液を凍結乾燥し、4.00gの無色の固形生成物を得た(52%)。SuperoseTM6カラムを具備したAKTATMFPLCシステムを用いたSECにより測定された、コポリマーの数(Mn)及び重量(Mw)平均分子量は、37及び61kDaであった。
【0046】
DTPA及びシスタミンの共重合:
シスタミン塩酸塩(5mmol、1.126g)を、室温において、2mlの脱イオン水中に溶解し、飽和NaOH水溶液を用いてpHを11に維持した。次いでDTPAジアンヒドリド(6mmol、2.144g)を、素早い攪拌下に、NaOH水溶液を用いてpH11を維持しながら、室温で1時間以内に分割添加した。最後の部分のDTPA−DAの添加の5分後、10%(重量で)のHClを添加してpHを7に調整し、この溶液を、6−8000Daの分子量カットオフをもつ膜を用いて、脱イオン水に対し24時間透析した。コポリマー溶液を凍結乾燥し、1.46gの無色の固形生成物を得た(50%)。Superose6カラムを具備したAKTATMFPLCシステムを用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定された、コポリマーの数(Mn)及び重量(Mw)平均分子量は、35及び42Daであった。
【0047】
実施例2 常磁性ポリジスルフィドコポリマー錯体の調製。DTPAジスルフィドコポリマーの、Gd3+との錯化:
常磁性錯体、(Gd−DTPA)−シスチンコポリマー(GDCP)、(Gd−DTPA)−グルタチオンコポリマー(GDGP)、及び(Gd−DTPA)−シスタミン(GDCC)は、DTPA−シスチンコポリマー(DCP)、DTPA−グルタチオンコポリマー(DGP)、及びDTPA−シスタミンコポリマー(DCC)を、各々Gd3+との錯化により調製した。手短にいえば、0.5gのDCP又はDGP又はDCCを、脱イオン水中に溶解した。キシレノールオレンジを、遊離Gd3+の指示薬として添加することができる。次いで、pH5.5−6.0において、わずかに過剰のGd(OAc)を、この溶液に対しその色が橙色から赤色に変わるまで添加した。次に、5MのNaOHを用いてpHを10に調整して、過剰のGd3+をGdとして沈澱した。遠心分離の後、上清を収集し、乾燥して、GDCP又はGDGP又はGDCCを得た。
【0048】
実施例3 常磁性ポリジスルフィドコポリマー錯体の精製
常磁性ポリジスルフィドコポリマー錯体の精製は、さらに、クロマトグラフ法によるか、又は限外濾過法により、残留Gd3+を除去するためのクエン酸の存在下に行った。
【0049】
第1の精製方法においては、G−25媒体でパックされたカラムによるサイズ排除クロマトグラフィーにより、遊離のGd3+を除去した。カラムは純水で溶出し、ポリマー分画を収集した。
【0050】
第2の方法においては、MWCO=10000Da(タンパク質)の半透性膜を具備した限外濾過チャンバー内にポリマー溶液を入れた。この溶液を、加圧下に攪拌し、チャンバー内で数回希釈した。濃縮されたポリマー溶液を乾燥するまで蒸発させた。限外濾過で精製されたポリマーからのSECプロフィールは、SECにより精製されたものと類似していた(図3)。
【0051】
実施例4 常磁性ポリジスルフィドコポリマー錯体の分画
ポリジスルフィドGd−DTPA錯体の分画は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により、Hiload(ハイロード)TM16/60 Superdex(スーパーデックス)TM200、又はSuperoseTM6 XK50/100調製用グレードカラム(アマシャム・バイオサイエンス)を具備した、AKTATMFPLCシステムを用いて行なった。手短にいえば、50mgのGDCP又はGDGPを水中に溶解し、前述のカラムに負荷した。流相は、0.02Mのトリス緩衝液pH7.4であり、流速は、Superdex TM200カラムでは60ml/時間、SuperoseTM6カラムでは5.0ml/分であった。分画を収集し、その分子量を、SuperoseTM6カラムを具備したSECにより測定した(表3)。ポリジスルフィド造影剤のGd含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES)を用いて測定した。
【0052】
【表3】

【0053】
AKTAprimeTMプラスFPLC及びSuperoseTM6調製用グレードXK50/100カラムを用いた、Gd−DTPAシスタミン錯体(GDCC)の分画のための方法は、以下のように示される:(1)分画に先立ち、FPLCのポンプを、トリス緩衝液(pH7.5)を用いて洗浄し、次いで、カラムを、同じ緩衝液を用いて、全18時間にわたり4.5ml/分で洗浄する。(2)2.7mlのGd−DTPAシスタミンコポリマー溶液を、250mgの凍結乾燥ポリマー/mlの脱イオン水、の濃度に調製し、次いで、0.2μLのフィルターを通してFPLCへ注入する。流速を5.0ml/分にセットする。(3)最初の700mlの溶出液を捨て、以後の1200ml中の分画を収集する。各分画は、20mlの溶出液を含有する。
【0054】
Gd−DTPAシスタミン錯体の分画のキャラクタリゼーションは、AKTA P−920 FPLC、Superose6 10/200 GLカラム、及びKnauerRI検出器により、PHPMAを標準として用いて行なう。流速は5.0ml/分にセットする。主要な分画のキャラクタリゼーションを図4に示す。いくつかの組合せた分画、及び分画の、数平均、重量平均分子量、及び多分散指数(PDI)を、表4にリストする。
【0055】
【表4】

【0056】
実施例5 MRイメージングにおけるGd−含有ポリジスルフィドMRI造影剤の適用
GDCP及びGDGPによるインビボのコントラスト増強を、ヒト乳癌(MB−231)をもつ雌の無胸腺ヌードマウス(チャールズ・リバー・ラボ(Charles River Lab))において、ヒトのリストコイルを具備したシーメンス(Siemens)Trio 3Tスキャナーを用いて調べた。マウスは、ケタミン(80mg/kg)及びキシラジン(12mg/kg)の混合物の筋肉内投与により麻酔した。このマウスのコントラスト増強MRイメージを、尾静脈からの、用量0.1mmol−Gd/kgにおける造影剤の、注射前、及び注射後2分、5分、10分、15分、30分、及び60分において、スピンエコーシーケンスを用いて得た。イメージングパラメータは、2.7ms TE、7.8ms TR、25℃RFチップアングル、アキシアルスライス厚0.5mmであった。
【0057】
種々の分子量のGDCP及びGDGPの、注射前及び注射後の種々の時点におけるマウスの、三次元の最大値投影法(MIP)MRイメージングが、図5に示されている。強いコントラスト増強が、肝臓、腎臓、及び、心臓及び血管系内の血液において、全ての薬剤について投与2分後に観察され、シグナル強度はその後徐々に減少した。最大のMWをもつ双方の薬剤は、30分まで血管を強く増強し得る。GDCP及びGDGPの、シグナル強度及び増強持続時間の双方が、分子量と共に増大した。膀胱における漸進的な増強は、全ての化合物について観察され、この薬剤の尿によるクリアランスを示唆している。高分子量の生分解性薬剤(108kDa)は、対応する低分子量の薬剤よりも、さらに延長されかつ有意なコントラスト増強を、心臓及び血管系のイメージングについて提供する。
【0058】
腫瘍のT1強調アキシアルイメージはまた、ヒトのリストコイルにより、10ms TE、400ms TR、90°RFチップアングル、アキシアルスライス厚2mmでのスピンエコーシーケンスを用いて得られた。T1強調腫瘍イメージは、GDCP及びGDGPの双方による強い増強を、注射後2分及び60分までの腫瘍周辺部において示した(図6)。
腫瘍中心部におけるコントラスト増強は、周辺部よりも弱い。低分子量(23kDa)のポリマー薬剤は、高分子量の薬剤よりもより有意な増強を、腫瘍組織において生じる結果となった。
【0059】
本発明は、いくつかの実施態様において記載されてきたが、本発明は、本開示の精神及び範囲内において、さらに修飾可能である。本出願はそれ故、本発明のその一般原則を用いての任意の変形、使用、及び適用をカバーすることを意図している。さらに本出願は、本開示からのかかる逸脱を、本発明がそれに属する当該技術分野において既知の又は慣例的なプラクティスの範囲内に入るものとしてカバーすることを意図しており、それらは添付のクレイムの制限内に入る。
【0060】
本明細書に引用された、出版物、特許、及び特許出願を含む全ての非特許文献は、あたかも各非特許文献が個別にかつ特別に参考として含まれるべきことが示され、かつその記載全体が本明細書において示されたかのごとく同程度に、参考として本明細書に含まれる。本明細書において議論された非特許文献は、本出願の出願日に先立つその開示についてのみ提供されている。本明細書の何らも、本発明者らが、先行発明の力によって、かかる開示を先んじる権利を与えられないことを承認するものとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性高分子造影剤を調製するための方法であって、少なくとも1つの、水性媒体中での重合化の工程を含んでなり、これにおいて前記重合化が結果としてポリジスルフィドを生じる該方法。
【請求項2】
前記水性媒体が塩基性水溶液である、請求項1の方法。
【請求項3】
ポリジスルフィドをGd3+と錯化することを含んでなる、請求項1又は4の方法。
【請求項4】
ポリジスルフィド造影剤を調製するための方法であって:
反応条件を選択することを含んでなり、これにおいて前記反応条件が、該造影剤の分子量及び/又は分子量分布を決定する該方法。
【請求項5】
前記反応条件が反応温度である、請求項4の方法。
【請求項6】
前記反応条件が、重合化反応体の供給比である、請求項4の方法。
【請求項7】
請求項1,3、又は4の方法であって:
サイズ排除クロマトグラフィー、限外濾過、及び/又は透析により、該造影剤を精製することを含んでなる該方法。
【請求項8】
請求項1,3、又は4の方法であって:
サイズ排除クロマトグラフィーにより該造影剤を分画することを含んでなる該方法。
【請求項9】
請求項1,3、又は4の方法であって:
少なくとも1つの反応体を反応媒体中に溶解すること、
該反応媒体のpHを必要に応じて調整すること、
少なくとも1つの他の反応体を該反応媒体に添加すること、
該反応体及び該反応媒体を、一定時間にわたり攪拌すること、及び
該反応媒体のpHを必要に応じて調整すること、
を含んでなる該方法。
【請求項10】
請求項3の方法であって、さらに:
pH=10又は>10において、過剰のGd3+を沈澱することを含んでなる該方法。
【請求項11】
該造影剤の分子量が、40乃至200kDaである、請求項1,3、又は4の方法。
【請求項12】
該造影剤の分子量が、5乃至40kDaである、請求項1,3、又は4の方法。
【請求項13】
請求項9の方法であって、さらに:
該反応体の結果として得られた生成物を凍結乾燥することを含んでなる該方法。
【請求項14】
請求項9の方法であって、さらに:
該反応体の結果として得られた生成物を、透析、クロマトグラフィー、及び/又は限外濾過により精製することを含んでなる該方法。
【請求項15】
請求項9の方法であって、さらに:
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて造影剤を分画することを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項1又は請求項3又は請求項4の方法により調製された高分子造影剤であって、該造影剤が、GDCC、GDCP、GDCEP、GDGP、米国特許第6,982,324号の構造式IからVIIまでの化合物、及び米国特許第6,982,324号の薬剤1から11までの化合物からなる群より選択される化合物を含んでなり、これにおいて該造影剤が、制御又は規定された分子量及び/又は分子量分布を有する該造影剤。
【請求項17】
少なくとも1つの標的化分子を含んでなる、請求項16の高分子造影剤。
【請求項18】
請求項16の高分子造影剤であって、前記造影剤が、心臓及び血管系のイメージングについて延長されかつ有効なコントラスト増強を提供することができ、かつ前記造影剤の分子量が40乃至200kDaである該造影剤。
【請求項19】
請求項16の高分子造影剤であって、前記造影剤が、腫瘍組織のイメージングについて有効なコントラスト増強を提供することができ、かつ前記造影剤の分子量が5乃至40kDaである該造影剤。
【請求項20】
請求項16の造影剤を医学的方法において適用する方法であって:
請求項16の造影剤か、又はその薬学的に許容される塩、或いは請求項16の造影剤を一種以上の薬学的に許容される薬剤と一緒に、哺乳類に投与することを含んでなる該方法。
【請求項21】
前記医学的方法が、磁気共鳴イメージング、X線コンピュータトモグラフィー、シンチグラフィー、ポジトロンエミッショントモグラフィー、及び放射線療法を含んでなる、請求項20の方法。
【請求項22】
該造影剤が内在性の薬剤により分解される、請求項20の方法。
【請求項23】
哺乳類に対し、一種以上のジスルフィド還元剤が、該造影剤と同時か又は連続的に投与される、請求項20の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−541221(P2009−541221A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515531(P2009−515531)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/014223
【国際公開番号】WO2007/149408
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503337966)ユニバーシティ・オブ・ユタ・リサーチ・ファウンデーション (2)
【Fターム(参考)】