説明

生化学物質保持容器およびその製造方法

【課題】 微量な特定の生化学物質を保持するため容器を提供する。とくに微量の生化学物質を基板上の複数箇所に高密度に保持することができ、その量のばらつきが小さく、また繰り返し再現性が良好な生化学物質保持容器を提供する。
【解決手段】 ガラス基板10の表面に所定の規則で配列された凹部20を形成する。この凹部内表面20a、20bにのみアミノ基を導入した層30を形成する。アミノ基の導入にはアミノシランカップリング剤を用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連分野で使用される所定領域に選択的に特定物質を付着または保持する機能を備えた生化学物質保持容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学の分野では、マイクロ化学反応器、ゲノム解析用チップ、プロテイン解析用チップなどの開発により、微少量の化学反応や高感度分析を行う技術が進展している。これらの技術においては微少量の生体関連物質を分析や反応に供することが要求されるため、生体関連物質溶液等の液体試料を選択的に所定箇所に保持する機能を備えた容器が必要となる。
【0003】
このような機能は基板表面に特定の物質の分子を固定する機能を有する箇所(機能性結合サイト)を形成することによって実現できる。分子を固定するためには大別して化学的な結合による場合と物理的な吸着による場合とがある。例えば、DNAの固定はDNAの断片が負電荷を有していることを利用し、電気的吸着によって行うことができる。基板表面に正電荷を付与し、電気的引力によりDNA断片を吸着し固定するものである。このような正電荷を付与する方法として、アミノシランを基板と反応させ、アミノ基を基板表面に導入する方法がある。
【0004】
特許文献1にはアミノシランカップリング剤により樹脂基板やガラス基板表面にアミノ基を導入し、DNAマイクロアレイを形成する技術が開示されている。このときアミノ基とDNAを架橋するグルタルアルデヒドを使用すること、また、DNAの非特異吸着を防ぐため、アミノシランカップリング剤とともにアミノシランカップリング剤よりも短いアルキルシランカップリング剤を使用することも開示されている。
【特許文献1】特開2003−279572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1などに開示されている従来の方法は、平坦な基板の表面にアミノ基を導入するものであり、保持部が平坦面上にあるため、微量の液体試料を、基板表面の複数箇所に保持する際に、保持量のばらつきが大きく、また繰り返し再現性が悪いという問題があった。また保持部同士が接近すると試料が混入するという問題もあった。
【0006】
また樹脂基板の場合は、有機溶媒耐性が低いため溶媒として水しか使えず、また耐熱性が低いため常温付近で使用しなければならないという問題があった。また樹脂は一般に自家蛍光が強いため高感度に蛍光を検出できないという問題点もある。
【0007】
さらに従来、多くのアミノ修飾の場合、3−アミノプロピル基が用いられているが、この3−アミノプロピル基は短すぎるため、蛋白質の生体分子の固定化効率が悪いという問題点もあった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、微量の特定物質を微小容器内に再現性よく付着、保持できる生化学物質保持容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の生化学物質保持容器は、予め基板表面の所定位置に形成した凹部内表面の少なくとも一部にアミノ基を導入する。
基板に設けた凹部に液体試料を保持する際に、一定の保持量を再現性良く保持できる。また基板表面の複数箇所に高密度に保持できるため、単位面積あたりの試料数が多くなり、評価、測定を効率的に行うことができる。さらに生化学反応の多くを占める溶液反応を凹部内で行うことができる。
【0010】
基板はガラスであることが好ましい。ガラス表面は容易にアミノ修飾が行え、有機溶媒を用いることもできる。また耐熱性が高いため、加熱して使用することもできる。さらにガラスは自家蛍光が少ないため、高感度な蛍光測定は可能となる。
【0011】
上記生化学物質保持容器においては、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基または(アミノエチルアミノメチル)フェネチル基または(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンが、シロキサン結合を介してガラス基板表面に固定されていることが好ましい。
【0012】
ガラス基板に上記の基をシロキサン(O−Si−O)結合を用いて固定化することにより、高い効率で生体分子を吸着または固定化できる生化学物質保持容器を提供することができる。
【0013】
本発明のアミノ基を導入した生化学物質保持容器の製造方法においては、基板表面の所定位置に予め凹部を形成し、この凹部にアミノシランカップリング剤の有機溶媒溶液を注入して反応させる。
これにより、凹部表面にのみアミノ基を導入した生化学物質保持容器を製造する方法を提供することができる。
【0014】
上記のアミノシランカップリング剤は、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基または(アミノエチルアミノメチル)フェネチル基を有するもの、または(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンであることが好ましい。
これらを用いることにより、より高効率に生体分子を吸着または固定化できる生化学物質保持容器を製造する方法を提供することができる。
【0015】
上記の生化学物質保持容器を用いてマイクロ化学反応器を構成することが望ましい。より高密度に生体分子を基板上に固定し反応に供することができる。
また上記の生化学物質保持容器を用いてDNA検出用マイクロアレイを構成することが望ましい。より高密度に生体分子を基板上に固定できるので、高感度でそれらを検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の生化学物質保持容器は、基板に設けた凹部に液体試料を保持するため、一定の保持量を再現性良く保持できる。また基板表面の複数箇所に高密度に保持できるため、単位面積あたりの試料数が多くなり、評価、測定を効率的に行うことができる。さらに生化学反応の多くを占める溶液反応を凹部内で行うことができる。
【0017】
またガラス製の基板は有機溶媒を用いることができ、また耐熱性が高いため、加熱して使用することもできる。さらにガラスは自家蛍光が弱いため、高感度な蛍光測定は可能となる。
さらにアミノ基の導入に用いるシランカップリング剤を選択することにより、より高効率に生体分子を固定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明に用いる保持容器の一例を図1に示す。平板状のガラス基板10の表面に複数の凹部20を規則的に配列して形成したものである。図の例では96個の凹部を12行×8列に配列してある。図2は上記容器の一部の断面図である。凹部は図2(a)に示すような円筒状凹部22、あるいは図2(b)に示すような上面側から底面側にかけて次第に窄まる逆円錐台状凹部24などの形状がある。逆円錐台状であれば、簡易に洗浄でき、好適に繰り返し使用することができるとともに、成型しやすく好ましい。
【0019】
この保持容器は、紫外線透過性ガラスを用い、成型によって凹部を形成したものである。この凹部に例えば複数のDNAを互いに混ざることなく収容して、それぞれの各種分析や培養を行うことができる。
【0020】
紫外線透過性ガラス(例えば、天然石英ガラス、合成石英ガラス、ホウケイ酸ガラスなど)を溶融状態や軟化した状態とし、各種型成形により、多数の凹部を一度に形成する。なお、凹部底面22a、24aは、研磨処理でより平滑な扁平面にしてあると、その底面に対し垂直方向から分光測定に用いる可視光や紫外光やX線を入射させたときに、精度よく分光測定を行うことができる。
【0021】
上記の容器は成形したガラスの一体構造であるが、例えば特開2004−109107号公報に開示されているように、貫通孔を設けたガラス板と底板を貼り合わせた構造や、複数の一定長さに切断したガラス管を底板状に配列固定した構造等であってもよい。
【0022】
本発明においては、図3に示すように、この凹部20の内部表面(内部底面20aと内部側面20b)にアミノ基を導入した層30を形成する。アミノ基を導入した層30は必ずしも図示するように内部表面全体に形成する必要はなく、例えば基板表面10aに近い内部側面20bの一部には形成されていなくてもよい。
【0023】
アミノ基を有する化合物としては、リシン、ポリアミン、アミノシランなどを例示できる。アミノシラン化合物としては、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、N−3−[(アミノ(ポリプロピレノキシ)アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルシラントリオール、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンなどを例示できる。これらのアミノシラン化合物は、加水分解した縮合体であってもよい。
【0024】
以下に具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0025】
本実施例ではアミノ基を導入する対象として、図1に示す外観形状を有するガラス製の生化学物質保持容器を用いた。96個の凹部は直径5mm、深さ10mmの円筒状で約200μlの内容積をもつ。また比較のために同様な形状の樹脂(ポリスチレン)製容器も使用した。
【0026】
これらの容器の凹部内表面にアミノ基を導入するために上述のアミノシラン化合物のなかから次の6種類をアミノシランカップリング剤として用いた。
(1)3−アミノプロピルトリエトキシシラン
(2)N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン
(3)N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン
(4)(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン
(5)N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン
(6)(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン
【0027】
アミノ基の導入は図4に示すような手順によって行った。
凹部20を設けた基板10(図4(a))のそれぞれの凹部に酸溶液(濃硫酸:30%過酸化水素水=7:3)を分注し12時間静置する。次いでイオン交換水で10回洗浄し、超純水で1回洗浄する。つぎに95%エタノールに対して3%アミノシランカップリング剤を溶解し、この溶液32を200μlずつ各凹部へ分注する(図4(b))。室温で1時間、反応させた後、エタノールで5回洗浄する。その後115℃で1時間焼成する。最後に95%エタノールで洗浄し、乾燥させる。以上により、図4(c)に示すような凹部20の内表面にアミノ基がシロキサン(O−Si−O)結合を介して導入された層30が形成される。すなわち凹部20のみがアミノ基で修飾された生化学物質保持容器が得られる(以下、この容器を容器Aという)。
【0028】
(接触角測定)
液体の保持機能は固体基板表面における液体の接触角で評価できる。接触角θは図5に示すように固体基板12表面に滴下した液滴100が基板表面と接触する角度で定義される。一般的にアミノ基が導入された表面の接触角は増大する。これはアミノ基を支持するアルキル鎖の疎水性のためである。容器Aの凹部同様に処理したガラス基板の接触角の測定結果を、アミノシラン(1)〜(6)について表1に示す。接触角は80°前後と未処理のガラス基板表面に比べて大きくなっており、アミノ基が導入された効果であることがわかる。
【0029】
(表1)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
アミノシラン (1) (2) (3) (4) (5) (6)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
接触角(度) 82 82 86 83 72 74
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0030】
(表面元素分析)
アミノ基を導入した基板表面に存在する元素をX線光電子分光法(XPS)により検出した。表2にアミノシラン(2)と(6)で処理した基板上の元素の濃度を示す。アミノシランの成分である炭素(C1s)、窒素(N1s)、酸素(O1s)、珪素(Si2p)が観測された。このことは、基板表面にアミノ基が存在することを示している。
【0031】
(表2)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
アミノシラン C1s N1s O1s Si2p
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(2) 27.0 6.2 44.7 22.1
(6) 32.9 4.9 42.2 20.0
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0032】
(タンパク質の吸着)
ガラス表面にアミノ基を導入することにより、タンパク質の吸着量を増加させることができる。以下に6種類のアミノシランカップリング剤によりコートした表面に対するタンパク質の吸着について説明する。吸着タンパク質としてペルオキシダーゼ(POD)を用いた。吸着量の指標として、反応生成物の発色による吸光度(波長:450nm)の増加を用いた。
【0033】
PODの吸着は以下の手順によって行った。
まず容器Aの各凹部に、0.05μg/mlのPODをpH7.4のリン酸緩衝液(PBS)に溶解した溶液100μlを分注し、10分間静置する。つぎにPOD溶液を取り除き、pH7.4のPBS150μlで3回洗浄する。その後、PODの基質溶液(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジダイン(TMBZ)、住友ベークライト製)100μlを各凹部に分注する。10分後、各凹部に反応停止液(住友ベークライト製)100μlを各凹部に分注する。
【0034】
この処理後、波長450nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定は、フルオロスターオプティマ(マイクロプレートリーダ)により行った。表3に未処理の場合とアミノシラン(1)〜(6)による処理後の測定結果を示す。またこの吸光度から見積もったPODの吸着量の未処理表面に対する比を表4に示す。
【0035】
以上の結果から、ガラス製容器では、未処理の場合に比べて(1)の3−アミノプロピルトリエトキシシランによる処理ではあまり効果が見られないが、(2)〜(6)のシランカップリング剤による処理により吸着量が増加することがわかる。一方、比較のために同様な処理を施した樹脂製容器の場合は、(1)、(4)および(5)のシランカップリング剤の処理により効果が見られるが、ガラス製容器に比べると全体に吸着量は少ない。
【0036】
(表3)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
アミノシラン 未処理 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ガラス製容器 0.42 0.39 0.58 0.58 1.02 0.53 1.41
樹脂製容器 0.30 0.67 0.09 0.10 0.60 0.40 0.25
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0037】
(表4)
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アミノシラン (1) (2) (3) (4) (5) (6)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ガラス製容器 0.94 1.38 1.39 2.46 1.26 3.38
樹脂製容器 2,27 0.32 0.33 2.02 1.33 0.85
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0038】
マイクロ化学反応器など、より多くのタンパク質を基板に吸着させなければならない場合、本発明により多くのタンパク質を吸着させることができる。この吸着量の増加は、アミノ基の導入により表面に正電荷が付与され、タンパク質の負電荷と引き合うことによる。
【0039】
上記の処理方法は、ペルオキシダーゼだけでなく他のタンパク質においても用いることができる。特に、表面に負電荷を多く持つ酸性タンパク質を用いたときに吸着量が増大すると考えられる。また、タンパク質だけでなくDNAを吸着することもできる。DNAは負電荷を帯びているため、正電荷を帯びたアミノ基と強く結合することができる。このDNAの結合によって、より高感度なDNAの検出キットへの応用が可能である。
【0040】
(タンパク質の固定)
ガラス表面にアミノ基を導入することによりタンパク質を共有結合により固定化することができる。以下に6種類のアミノシランカップリング剤によりコートした表面に対するタンパク質の結合による固定について説明する。結合量の指標として、反応生成物の発色による吸光度(波長:450nm)の増加を用いた。
【0041】
上記同様、PODを例にその結合方法を以下に説明する。アミノ基を導入した容器Aの各凹部に、pH7.4のPBSに対するグルタルアルデヒドの2%溶液を100μl分注し、その後37℃で2時間静置する。この凹部を超純水150μlで3回凹部を洗浄する。
【0042】
つぎに各凹部にpH7.4のPBSに対して0.1mg/mlのビオチンヒドラジド溶液を100μl分注し、37℃で2時間静置する。この凹部を超純水150μlで3回洗浄する。
【0043】
次いで各凹部にpH7.4のPBSに対する3%スキムミルク溶液を150μl分注し、この凹部を0.05%Tween20を含むpH7.4のPBS200μlで3回洗浄する。この後、各凹部にPODが架橋結合しているストレプトアビジン(0.05mg/ml)100mlを分注し、この凹部を0.05%Tween20を含むpH7.4のPBS200μlで3回洗浄する。さらにPODの基質溶液(TMBZ)100μlを各凹部に分注する。10分後、各凹部に反応停止液100μlを分注する。
この後、波長450nmにおける吸光度を測定し、未処理の場合に対するPODの固定化量の割合を求めた。吸光度の測定結果を表5に、POD固定化量の割合を表6に示す。
【0044】
(表5)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
アミノシラン 未処理 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ガラス製容器 0.69 0.75 0.93 0.36 1.28 0.46 1.13
樹脂製容器 0.43 0.05 0.13 0.13 0.27 0.18 0.71
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0045】
(表6)
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アミノシラン (1) (2) (3) (4) (5) (6)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ガラス製容器 1.09 1.35 0.53 1.86 0.67 1.64
樹脂製容器 0.11 0.31 0.31 0.62 0.40 1.64
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0046】
以上の結果から、ガラス製容器では、未処理の場合に比べて(1)の3−アミノプロピルトリエトキシシランによる処理ではあまり大きな効果が見られないが、(2)、(4)および(6)のシランカップリング剤による処理によりPOD固定量が増加することがわかる。一方、樹脂製容器の場合は、処理により効果がほとんど見られない。
【0047】
本発明の方法により、ガラス製容器では樹脂製容器より多くのタンパク質を共有結合により固定化することができる。この固定化量の増加は、より効率的に容器凹部表面にアミノ基が導入されたことによる。
【0048】
上記の例ではビオチン−アビジン結合反応を用いてペルオキシダーゼを固定化したが、抗原または抗体を酵素で標識化するELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)
法等への応用が可能である。上記の結果より、より高感度なELISAを開発できる。また、高効率DNAマイクロアレイへの応用が期待できる。
【実施例2】
【0049】
実施例1の最後に共有結合によりアミノ基にタンパク質を固定する例を示したが、本実施例では、より高効率なタンパク質を固定化のための手順を示す。
アミノシランカップリング剤としては、(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンを用いた。
【0050】
基板凹部に酸溶液(濃硫酸:30%過酸化水素水=7:3)を分注し3時間静置する。次いでイオン交換水で10回洗浄し、超純水で1回洗浄する。つぎに95%エタノールに対して3%アミノシランカップリング剤を溶解し、この溶液200μlを各凹部へ分注する。室温で1時間、反応させた後、エタノールで5回洗浄する。その後115℃で1時間焼成する。最後に超純水で洗浄し、乾燥させる(容器B)。
【0051】
タンパク質としてはPODを用い、固定化およびその評価は、実施例1と同様の方法で行った。容器Bの吸光度と固定化量の評価結果を表7に示す。本実施例の場合、実施例1の場合に比べて3倍を超えるタンパク質を固定化できることがわかる。
固定化量の増加により、マイクロ化学反応器ではより大量に目的生成物が得られ、ELISAなどの検査キットではより高感度に検出することができる。
【0052】
(表7)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
未処理 処理後
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
吸光度 0.58 1.40
固定化量の比 − 5.49
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は本発明に用いた保持容器の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は保持容器の一例の断面模式図である。
【図3】図3は本発明のアミノ修飾を施した生化学物質保持容器の断面図である。
【図4】図4は本発明の生化学物質保持基板を製造する方法を示す図である。
【図5】図5は固体表面へ接した液体の接触角の説明図である。
【符号の説明】
【0054】
10 基板
20、22、24 凹部
30 アミノ基を導入した層
32 溶液
100 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に複数の凹部を備えた生化学物質保持容器において、前記凹部内表面の少なくとも一部にアミノ基が導入されていることを特徴とする生化学物質保持容器。
【請求項2】
前記基板はガラスであることを特徴とする請求項1に記載の生化学物質保持容器。
【請求項3】
N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基または(アミノエチルアミノメチル)フェネチル基または(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンが、シロキサン結合を介してガラス基板表面に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の生化学物質保持容器。
【請求項4】
基板表面に形成された複数の凹部の内表面の少なくとも一部にアミノ基が導入された生化学物質保持容器の製造方法において、基板表面の所定位置に予め凹部を形成し、該凹部にアミノシランカップリング剤の有機溶媒溶液を注入し凹部内表面と反応させることを特徴とする生化学物質保持容器の製造方法。
【請求項5】
前記アミノシランカップリング剤は、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基または(アミノエチルアミノメチル)フェネチル基を有するもの、または(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンであることを特徴とする請求項4に記載の生化学物質保持容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2または3に記載の生化学物質保持容器を用いたことを特徴とするマイクロ化学反応器。
【請求項7】
請求項1、2または3に記載の生化学物質保持容器を用いたことを特徴とするDNA検出用マイクロアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−189355(P2006−189355A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2135(P2005−2135)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】