説明

生活習慣病予防・治療剤

【課題】生活習慣病の予防・改善・治療などに有効な医薬組成物、機能性食品用組成物などを提供すること。
【解決手段】モノアシルグリセロリン脂質を含有する医薬または機能性食品用組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノアシルグリセロリン脂質を含有する医薬または機能性食品用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満や糖尿病等は、食生活のような生活習慣、環境因子によりその発症が大きく影響されることから、生活習慣病とも呼ばれている。肥満は過剰摂取した食物由来のエネルギーが、脂肪細胞に中性脂質(トリアシルグリセロール)として多量に蓄積された結果である。脂肪過剰摂取に起因する主な生活習慣病としては、肥満、糖尿病、動脈硬化、高脂血症などが挙げられる。これらの生活習慣病の予防・改善効果を有する素材としては、ウーロン茶、カテキン、キトサンなど幾つかの素材が知られている。
また、血糖値上昇を抑制する飲食品または医薬品は糖尿病、肥満の予防・治療に利用されるとともに、ダイエットの際のカロリーコントロールにも利用されている。現在、血糖値上昇を抑制する食品としては桑の葉、グァバ葉ポリフェノール、豆鼓エキス、医薬品としてはボグリボースなどが知られている。
【0003】
血糖降下剤または抗糖尿病剤などとしては、例えば、天然物系では茶水溶性多糖成分のテアラクトンを有効成分とする血糖値降下剤(例えば、特許文献1参照。)、バナバ葉の熱水抽出画分を有効成分とする抗糖尿病剤(例えば、特許文献2参照。)、センブリより抽出単離したキサントン類の血糖降下剤(例えば、特許文献3参照。)、ローヤルゼリーに含まれるトランス−10−ヒドロキシデセン酸を有効成分とするインスリン様作用剤(例えば、特許文献4参照。)などが知られている。また、化学合成物では、モラノリンN−置換誘導体(例えば、特許文献5参照。)、チアゾリジン化合物(例えば、特許文献6参照。)、イミダゾリル基を有する縮合7員環系化合物(例えば、特許文献7参照。)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上述のような効果を有する成分の過剰摂取は軟便や下痢、腸粘膜の炎症、免疫力の低下を引き起こし、さらには、精神を不安定にする場合があった。また、医薬品と異なり、上述のような効果を有する成分を食品に添加する場合は、風味の問題から十分な量(有効量)を添加することが困難であった。
【0005】
またドコサヘキサエン酸(以下DHAと称する。)は、4、7、10、13、16、19位にシス二重結合を持つ炭素数22の直鎖ヘキサエン酸で、神経症患者の症状改善効果が認められている(非特許文献1)。しかし、この分野の研究は、まだまだ理論的な面でも実用化の面でも、充分に研究され解明された段階とは言い難く、一般的に顕著な治療効果が確認され実用化されている物質や薬剤は殆どない。
【0006】
天然の利用可能なリン脂質としてはイカ、魚卵、鶏卵、大豆、微生物等から抽出したものがあげられる。このリン脂質の効能としては、肝機能、認知症、記憶障害、パーキンソン病、注意欠陥多動性障害、うつ病、てんかん、アレルギーなどの改善がある(Jpn. J. Oharmacol.,75:447-450(1997)、 Psychopharmacol. Bull.,28:61-66(1992)など)。
しかしながら、モノアシルグリセロリン脂質を含む組成物に関する効能としては、抗腫瘍作用、神経突起伸展誘導作用が報告されているが、in vivoにおいて経口摂取で評価されたものではない(Biochem. J., 376: 655-666(2003)など)。

【特許文献1】特開平4−124139号公報(第1−8頁)
【特許文献2】特開平7−228539号公報(第1−5頁)
【特許文献3】特開平7−206673号公報(第1−8頁)
【特許文献4】特開平9−67252号公報(第1−4頁)
【特許文献5】特公昭59−43949号公報(第1−15頁)
【特許文献6】特開平4−210977号公報(第1−13頁)
【特許文献7】特開平4−178381号公報(第1−24頁)
【非特許文献1】Rudin,D.O., Biol. Psychiatry, 16, 838-850 (1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の下、安全性に優れ、かつ血糖値上昇抑制作用、体脂肪増加抑制作用、体重増加抑制作用など、生活習慣病の予防・改善・治療などに有効な医薬組成物、機能性食品用組成物などの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、モノアシルグリセロリン脂質が、血糖上昇抑制作用、体重増加抑制作用などの優れた生活習慣病の予防・改善・治療効果を有することを見出した。モノアシルグリセロリン脂質は、生体内代謝物の一つでもあることから、安全性にも優れている。これらの知見に基づいて検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕 一般式(I)
【化3】

(式中、R1およびR2のいずれか一方は水素原子を表し、他方はアシル基を表し、R3はコリン残基、エタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子を表し、R3がコリン残基のとき、XはO-を表し、R3がエタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子のとき、XはOHを表す。)で表されるモノアシルグリセロリン脂質またはその生理学的に許容される塩を含有する医薬または機能性食品用組成物、
〔2〕 アシル基が、6〜30個の炭素原子を有するアシル基である上記〔1〕記載の組成物、
〔3〕 アシル基が、脂肪酸に由来するアシル基である、上記〔1〕または〔2〕記載の組成物、
〔4〕 モノアシルグリセロリン脂質が、グリセロリン脂質を酵素反応に供することによって得られたものである上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の組成物、
〔5〕 酵素反応に用いられる酵素が、ホスホリパーゼA1またはホスホリパーゼA2である上記〔4〕記載の組成物、
〔6〕 R1が水素原子であり、R2がアシル基である上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の組成物、
〔7〕 R3がコリン残基である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の組成物、
〔8〕 アシル基が、一つ以上の不飽和結合を有するアシル基である、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の組成物、
〔9〕 アシル基中の不飽和結合の数が、1〜6の範囲である、上記〔8〕記載の組成物、
〔10〕 R1が水素原子であり、R2がアシル基であるモノアシルグリセロリン脂質の含有量が、R1がアシル基であり、R2が水素原子であるモノアシルグリセロリン脂質に対して、モル比で2:1以上である、上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の組成物、
〔11〕 血糖値上昇を抑制するための組成物である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の組成物、
〔12〕 体脂肪の増加を抑制するための組成物である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の組成物、
〔13〕 体重の増加を抑制するための組成物である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の組成物、
〔14〕 機能性食品用である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の組成物、
〔15〕 特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、病者用食品またはサプリメントである、上記〔14〕記載の組成物、
〔16〕 タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状または液状である上記〔14〕または〔15〕記載の組成物、
〔17〕 医薬組成物である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の組成物、
〔18〕 血糖値上昇抑制剤または血糖降下剤である、上記〔19〕記載の医薬組成物、
〔19〕 抗肥満剤である、上記〔19〕記載の医薬組成物、
〔20〕 生活習慣病予防剤である、上記〔19〕記載の医薬組成物、
〔21〕 一般式(II)
【化4】

(式中、R2はアシル基を表す。)で表されるモノアシルグリセロリン脂質またはその生理学的に許容される塩を含有する、医薬または機能性食品用組成物、
〔22〕 血糖値上昇を抑制するための組成物である、上記〔21〕記載の組成物、
などを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、安全性に優れ、かつ優れた血糖値上昇抑制作用、体脂肪増加抑制作用、体重増加抑制作用などを有する。したがって、本発明によれば、血糖値上昇を抑制するための組成物、体脂肪の増加を抑制するための組成物、または体重の増加を抑制するための組成物などの医薬組成物または機能性食品用組成物などが提供される。このような本発明のモノアシルグリセロリン脂質を含有する医薬組成物、機能性食品用組成物などは、生活習慣病の予防・改善・治療などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.モノアシルグリセロリン脂質
まず、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質(モノアシルグリセロリン脂質は、「リゾリン脂質」とも呼ばれる。)について説明する。本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、一般式(I)
【化5】

(式中、R1およびR2のいずれか一方は水素原子を表し、他方はアシル基を表し、R3はコリン残基、エタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子を表し、R3がコリン残基のとき、XはO-を表し、R3がエタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子のとき、XはOHを表す。)で表される。
【0012】
アシル基としては、例えば、飽和アシル基、一つ以上の不飽和脂肪酸を有するアシル基(不飽和アシル基)などが挙げられる。アシル基としては、飽和アシル基、不飽和アシル基のいずれも好ましい。一つ以上の不飽和結合を有するアシル基における不飽和結合としては、二重結合または三重結合が挙げられる。一つ以上の不飽和結合を有するアシル基としては、例えば、一つ以上の二重結合を有するアシル基、一つ以上の三重結合を有するアシル基などが挙げられ、一つ以上の二重結合を有するアシル基、一つ以上の三重結合を有するアシル基のいずれも好ましく用いることができる。一つ以上の不飽和結合を有するアシル基における不飽和結合の数は、好ましくは1〜6個の範囲である。本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、飽和アシル基を有するモノアシルグリセロリン脂質と一つ以上の不飽和結合を有するモノアシルグリセロリン脂質との混合物であってもよい。本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質がこのような混合物である場合には、一つ以上の不飽和結合を有するモノアシルグリセロリン脂質の含有量は、飽和アシル基を有するモノアシルグリセロリン脂質に対して、例えば、モル比で1:2以上、1:1以上、2:1以上、3:1以上、4:1以上、5:1以上、10:1以上、20:1以上、50:1以上または100:1以上であってもよい。また、例えば、1:2〜1:1、1:2〜2:1、1:2〜3:1、1:2〜4:1、1:2〜5:1、1:2〜10:1、1:2〜20:1、1:2〜50:1、1:2〜100:1、1:1〜2:1、1:1〜3:1、1:1〜4:1、1:1〜5:1、1:1〜10:1、1:1〜20:1、1:1〜50:1、1:1〜100:1、2:1〜3:1、2:1〜4:1、2:1〜5:1、2:1〜10:1、2:1〜20:1、2:1〜50:1、2:1〜100:1、3:1〜4:1、3:1〜5:1、3:1〜10:1、3:1〜20:1、3:1〜50:1、3:1〜100:1、4:1〜5:1、4:1〜10:1、4:1〜20:1、4:1〜50:1、4:1〜100:1、5:1〜10:1、5:1〜20:1、5:1〜50:1、5:1〜100:1、10:1〜20:1、10:1〜50:1、10:1〜100:1、20:1〜50:1、20:1〜100:1または50:1〜100:1の範囲であってもよい。
【0013】
アシル基の有する炭素原子数には特に制限はないが、好ましくは4〜40個、より好ましくは6〜30個、さらに好ましくは14〜22個である。
【0014】
飽和アシル基としては、飽和脂肪酸に由来するものが好ましい。一つ以上の不飽和結合を有するアシル基としては、一つ以上の不飽和結合を有する脂肪酸に由来するものが好ましい。脂肪酸に由来するアシル基とは、脂肪酸から水酸基(OH)1個を除いた基を意味する。飽和脂肪酸としては、具体的には、例えば、絡酸、バレリアン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などが挙げられる。一つ以上の不飽和結合を有する脂肪酸としては、具体的には、例えば、クロトン酸、デセン酸、ドデセン酸(例、2−ドデセン酸、3−ドデセン酸、4−ドデセン酸、5−ドデセン酸、11−ドデセン酸など)、トリデセン酸(例、2−トリデセン酸、cis−9−cis−9−トリデセン酸、12−トリデセン酸など)、テトラデセン酸(例、4−テトラデセン酸、5−テトラデセン酸、9−テトラデセン酸(ミリストレイン酸)など)、ペンタデセン酸(例、6−ペンタデセン酸、cis−9−ペンタデセン酸、14−ペンタデセン酸など)、ヘキサデセン酸(例、2−ヘキサデセン酸、trans−3−ヘキサデセン酸、cis−7−ヘキサデセン酸、cis−9−ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、trans−9−ヘキサデセン酸など)、ヘプタデセン酸(例、2−ヘプタデセン酸、cis−7−ヘプタデセン酸、cis−8−ヘプタデセン酸、cis−9−ヘプタデセン酸など)、オクタデセン酸(例、trans−2−オクタデセン酸、cis−2−オクタデセン酸、trans−3−オクタデセン酸、cis−3−オクタデセン酸、trans−4−オクタデセン酸、ペトロセリン酸、cis−7−オクタデセン酸、trans−7−オクタデセン酸、cis−8−オクタデセン酸、trans−8−オクタデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、cis−11−オクタデセン酸など)、ノナデセン酸(例、cis−9−ノナデセン酸など)、イコセン酸(例、ゴンドイン酸、trans−ゴンドイン酸など)、ドコセン酸(例、エルシン酸、ブラシジン酸など)、テトラコセン酸(例、ネルボン酸など)、ヘキサデカジエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸(例、trans−8、trans−10−オクタデカジエン酸、リノール酸、リノエライジン酸、cis−9、trans−11−オクタデカジエン酸、trans−10、cis−12−オクタデカジエン酸、cis−9、cis−11−オクタデカジエン酸、cis−10、cis−12−オクタデカジエン酸、trans−10、trans−12−オクタデカジエン酸、trans−9、trans−11−オクタデカジエン酸など)、イコサジエン酸、ドコサジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、オクタデカトリエン酸(例、α−エレオステアリン酸、β−エレオステアリン酸、cis−9、cis−11、trans−13−オクタデカトリエン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸など)、イコサトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサテトラエン酸(例、アラキドン酸など)、ドコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸(エイコサペンタエン酸(EPA))、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが挙げられる。
【0015】
1およびR2のいずれか一方は水素原子を表し、他方はアシル基を表す。R1およびR2としては、R1が水素原子であり、R2がアシル基であるのが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2がアシル基であるモノアシルグリセロリン脂質(2−アシルグリセロリン脂質と称することもある。)であるのが好ましい。また、一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2がアシル基であるモノアシルグリセロリン脂質と、R1がアシル基であり、R2が水素原子であるモノアシルグリセロリン脂質(1−アシルグリセロリン脂質と称することもある。)との混合物であってもよい。なお、モノアシルグリセロリン脂質中のアシル基は、グリセロール骨格の1,2位間で転移することがあり、特に中性、アルカリ性では2位から1位への転移が起こりやすい。このため、2−アシルグリセロリン脂質は、保存中などに、アシル基の転移によって1−アシルグリセロリン脂質と2−アシルグリセロリン脂質との混合物になる場合もある。このような混合物も本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質に含まれる。本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質が1−アシルグリセロリン脂質と2−アシルグリセロリン脂質との混合物である場合には、2−アシルグリセロリン脂質の含有量が、1−アシルグリセロリン脂質に対して、モル比で2:1以上であるのが好ましく、3:1以上であるのがより好ましく、5:1以上であるのがさらに好ましい。
【0017】
3はコリン残基、エタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子を表し、R3がコリン残基のとき、XはO-を表し、R3がエタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子のとき、XはOHを表す。このような一般式(I)で表されるモノアシルグリセロリン脂質は、より具体的には、下記式で表される化合物である。
【化6】

(式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
【0018】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、通常用いられる方法に従って製造することができる。具体的には、例えば、グリセロリン脂質を酵素反応に供することにより製造することができる。より具体的には、グリセロリン脂質を原料として、ホスホリパーゼA1を用いた酵素反応により、原料グリセロリン脂質のグリセロール骨格のエステル結合を特異的に加水分解することにより、一般式(I)において、R1が水素原子であり、R2がアシル基であるモノアシルグリセロリン脂質、すなわち2−アシルグリセロリン脂質(2−アシルリゾリン脂質とも呼ばれる。)を得ることができる。また、グリセロリン脂質を原料として、ホスホリパーゼA2を用いた酵素反応により、原料グリセロリン脂質のグリセロール骨格の2位のエステル結合を特異的に加水分解することにより、一般式(I)において、R1がアシル基であり、R2が水素原子であるモノアシルグリセロリン脂質、すなわち1−アシルグリセロリン脂質(1−アシルリゾリン脂質とも呼ばれる。)を得ることができる。天然のグリセロリン脂質は、グリセロール骨格の2位に不飽和結合を有するアシル基を持つことが多いため、ホスホリパーゼA1を用い天然のグリセロリン脂質を原料として酵素反応を行った場合、ホスホリパーゼA2を用いた場合に比べ、不飽和結合を有するアシル基をより多く持つリゾリン脂質を得ることができる。このような酵素反応(すなわち加水分解)は、水系、油系または水中油型乳液を形成し不均一反応系にて行うことができる。酵素反応の反応条件は、用いられる酵素に応じて適宜設定すればよい。例えば、市販されている酵素を用いる場合には、添付されている指示書などに従って反応を行うことができる。なお、一つ以上の不飽和結合を有するアシル基を有するモノアシルグリセロリン脂質は、一つ以上の不飽和結合を有するアシル基を有するグリセロリン脂質を原料として用いることによって製造することができる。
【0019】
このようにして生成させたモノアシルグリセロリン脂質は、モノアシルグリセロリン脂質含有物としてそのまま用いることも出来るが、反応系から、通常の方法、例えば、分液、脱溶媒などの方法によって純度を高めてもよい。更に、得られたモノアシルグリセロリン脂質を、晶析、カラムクロマトグラフ法など通常の精製方法を用いて精製することにより、精製されたモノアシルグリセロリン脂質を得ることもできる。
【0020】
より具体的には、ホスホリパーゼの使用量は、グリセロリン脂質1gに対して、通常約1〜1000単位、好ましくは約10〜500単位である。なお、ホスホリパーゼの使用量は、界面活性剤などを併用することにより減らすことができる。ホスホリパーゼの添加方法には特に制限はなく、例えば、原料が液状の場合には、原料に直接ホスホリパーゼ粉末を加えてもよい。脱アシル化反応の温度は、約0〜80℃の範囲が好ましく、より好ましくは約4〜65℃である。脱アシル化反応に用いる溶媒に特に制限はなく、有機溶媒、油(例、天然油、合成油など)、水系溶媒などを使用することができる。水系溶媒を用いる場合には、界面活性剤や緩衝剤を用いることができる。界面活性剤としては、例えば、トリトン系界面活性剤、ブリジ系界面活性剤、トゥイーン系界面活性剤、ステロール系界面活性剤などが用いられる。なお、後述する実施例1で用いた酵素を用いる場合も、反応溶媒は有機溶媒系に限られるものではなく、水系溶媒を用いてもよい。脱アシル化反応で用いる有機溶媒としてはグリセロリン脂質を溶解するものであれば特に制限なく使用することができる。有機溶媒としては、例えばクロロホルム、ジクロルメタン、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、キシレン等の芳香族系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル系溶媒などが挙げられる。それらを単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。有機溶媒の使用量は、通常、重量比でグリセロリン脂質の約1〜200倍である。脱アシル化反応に使用する水は、酵素反応を阻害するような金属イオンを含まない蒸留水が好ましい。また、緩衝剤を添加して、pHが約3.0〜9.0の緩衝液とするのがより好ましい。例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、塩酸−トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、リン酸緩衝液、ピロリン酸−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−炭酸ナトリウム緩衝液を使用することができる。水の使用量は、通常、重量比でグリセロリン脂質の有機溶媒溶液の約0.1〜5倍量である。反応時間は、通常約4〜20時間であるが、酵素の添加量などの反応条件に応じて適宜設定することができる。反応終了後、通常用いられる方法、例えば、Bligh-Dyer法(Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911 (1959)参照)またはFolch法(J. Biol. Chem., 191, 833 (1951)参照)によって脂質を抽出し、分層し、下層のクロロホルム層を回収する。回収したクロロホルム層をエバポレーターなどで濃縮して脱溶媒することにより、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を得ることができる。
【0021】
なお、モノアシルグリセロリン脂質中のアシル基は、グリセロール骨格の1,2位間で転移することがあり、特に中性、アルカリ性では2位から1位への転移が起こりやすい。したがって、上述の方法によって得られた2−アシルグリセロリン脂質または1−アシルグリセロリン脂質は、アシル基の転移によって、1−アシルグリセロリン脂質と2−アシルグリセロリン脂質との混合物になる場合もある。このような混合物も、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の範囲に含まれる。
【0022】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を製造する際の原料としては、グリセロリン脂質を含有するものであればよく、特に制限はない。グリセロリン脂質は、天然物由来であってもよく、化学合成によって得たものであってもよいが、天然物由来であるのが好ましい。このようなグリセロリン脂質としては、例えば、ダイズ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ナタネ、サフラワー、ヒマワリ、落花生、綿実、パーム、亜麻等の植物性グリセロリン脂質、卵黄、動物の脳(ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ等)、魚油、鯨油、イカ、オキアミ由来のもの等の動物性グリセロリン脂質、クロレラ細胞、糸状菌菌体等の微生物菌体グリセロリン脂質などが挙げられ、好適には、アシル基としてDHA、EPAを多く含有し、資源量も豊富なオキアミから抽出したグリセロリン脂質などが挙げられる。また、卵黄由来のホスファチジルコリンなどのグリセロリン脂質も好適に用いることができる。これらのグリセロリン脂質は一般にホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール及びホスファチジン酸等の混合物である。また、これらのグリセロリン脂質は、通常、上述したような種々の脂肪酸に由来するアシル基を有するグリセロリン脂質の混合物である。したがって、これらのグリセロリン脂質を原料として製造されるモノアシルグリセロリン脂質も、通常、用いられた原料に対応した種々のモノアシルグリセロリン脂質の混合物である。このような混合物も、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の範囲に含まれる。原料となるリン脂質の純度は70%以上、できれば90%以上の純度が望ましい。リン脂質の純度がこの範囲である場合には、反応に適した水中油型乳液が形成されやすいという点で好ましい。
【0023】
グリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)などが挙げられ、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンが好ましく、特にホスファチジルコリンが好ましい。
【0024】
モノアシルグリセロリン脂質の製造に用いられるホスホリパーゼA1としては、例えば、リゾプス属、シュードモナス属(例、シュードモナス・フルオレッセンスなど)、アスペルギルス属、エシエリチア・コリ、ミコバクテリウム・フレイ、バチルス・メガテリウム、バチルス・スブチリスなどの各種微生物から得られるホスホリパーゼA1、または動物の各種臓器、例えばウシの膵臓、ラットの胸腺、腎臓、脾臓、肺などから得られるホスホリパーゼA1などを使用することができる。また、市販されているホスホリパーゼA1、例えば、ホスホリパーゼA1(三共ライフテック社製)、Lecitase Novo(ノボザイムジャパン社製)、Lecitase Ultra(ノボザイムジャパン社製)も好適に用いることができる。モノアシルグリセロリン脂質の製造に用いられるホスホリパーゼA2としては、ヘビ毒、例えばクロタラス・アドマンテウス、ナジャ・ナジャ、トリメレスラス・フラボビリデイスなどの毒、ハチ毒、例えばミツバチなどの毒、トカゲ毒、例えばヘロデルマ・ホリダムなどの毒、サソリ毒、例えばロイラス・クインケス・トリアタスなどの毒などから得られるホスホリパーゼA2、または動物の各種臓器、例えばブタの膵臓、ラットの肝臓などから得られるホスホリパーゼA2などを使用することができる。また、市販されているホスホリパーゼA2、例えば、レシターゼ(ノボザイムズジャパン社製)、リゾナーゼ(サンヨーファイン株式会社製)、リポモッド699L(ジェネンコア協和社製)、リゾマックス(ジェネンコア協和社製)なども好適に用いることができる。
【0025】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は塩を形成していてもよい。該モノアシルグリセロリン脂質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸など)や塩基(例えば、アルカリ金属など)などとの塩が用いられる。無機酸との塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アジピン酸、プロピオン酸、ソルビン酸、安息香酸、アスコルビン酸などとの塩が挙げられる。塩基との塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩などが挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。モノアシルグリセロリン脂質の塩は、通常の方法に従って製造することができる。具体的には、例えば、モノアシルグリセロリン脂質と所望の酸または塩基を含む溶液とを混合して所望の塩を生じさせ、生じた塩をろ取、溶媒の留去などの方法によって単離することにより得ることができる。なお、本明細書において、モノアシルグリセロリン脂質とその塩とを、まとめて「モノアシルグリセロリン脂質」と称することがある。
【0026】
2.本発明のモノアシルグリセロリン脂質を含有する医薬および機能性食品用組成物
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、血糖上昇抑制作用、体重増加抑制作用などの優れた生活習慣病の予防・改善・治療効果を有しているので、例えば、医薬組成物、機能性食品用組成物などとして用いることができる。より具体的には、例えば、血糖値上昇を抑制するための組成物、体脂肪の増加を抑制するための組成物または体重の増加を抑制するための組成物などの医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と略記することがある。)または機能性食品用組成物(以下、「本発明の機能性食品用組成物」と略記することがある。)として使用することができる。また、本発明の医薬組成物は、例えば、血糖値上昇抑制剤、血糖降下剤、糖尿病の予防・治療剤、抗肥満剤、体脂肪増加抑制剤、体重増加抑制剤などとして、すなわち生活習慣病予防剤などとして使用することもできる。
【0027】
適用対象の動物としては、ヒト、イヌ、ネコ、インコ、キュウカンチョウ、オウム、モルモット、ラット、マウス、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル、カエル、サンショウウオ、キンギョ、コイ、フナなどの脊椎動物であるのが好ましく、哺乳動物であるのがより好ましく、ヒトであるのが特に好ましい。
【0028】
(1)本発明の医薬組成物
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を上述の医薬組成物として使用する場合には、通常の方法に従って実施することができる。具体的には、例えば、以下の記載に従って実施することができる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、必要に応じて糖衣やコーティングを施した錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ剤、液剤(シロップ剤、乳剤、懸濁剤を含む)などとして経口的に使用するのが好ましい。
【0030】
本発明の医薬組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、生理学的に許容される担体などを配合することができる。生理学的に許容される担体などとしては、製剤材料として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、乳化剤などが挙げられる。また、必要に応じて、着色剤、甘味剤、抗酸化剤などの製剤添加剤も用いることができる。さらに本発明の医薬組成物をコーティングしてもよい。
【0031】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース(例えば、微結晶セルロースなど)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、デキストリン、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、マクロゴール、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリドン、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、陽イオン交換樹脂、部分α化でんぷん、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ワックス類、コロイドシリカ、DL−ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール、エアロジルなどが挙げられる。
【0032】
溶剤としては、例えば、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油(例えば、サフラワー油、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油、大豆レシチンなど)などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。増粘剤としては、例えば、天然ガム類、セルロース誘導体などが挙げられる。乳化剤としては、例えば、脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど)、ワックス(例えば、ミツロウ、菜種水素添加油、サフラワー水素添加油、パーム水素添加油、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、カカオ脂粉末、カルナウバロウ、ライスワックス、モクロウ、パラフィンなど)、レシチン(例えば、卵黄レシチン、大豆レシチンなど)などが挙げられる。
【0033】
着色剤としては、例えば、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラなど)などが挙げられる。甘味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0034】
錠剤、顆粒剤、細粒剤などに関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上あるいは腸溶性などの目的のため、コーティング基材を用いて通常の方法でコーティングしてもよい。このコーティング基剤としては、糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基材などが挙げられる。
【0035】
糖衣基剤としては、例えば、白糖が挙げられ、さらにタルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナバロウなどから選ばれる1種または2種以上を併用してもよい。
【0036】
水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE(商品名)、ロームファルマ社)ポリビニルピロリドンなどの合成高分子;プルランなどの多糖類などが挙げられる。これらのコーティング基剤は、単独で、または2種以上を適宜の割合で混合してコーティングしてもよく、また2種以上を順次コーティングしてもよい。
【0037】
本発明の医薬組成物中における本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の含有量は、医薬組成物全体に対して通常約0.001〜99重量%、好ましくは、約0.01〜80重量%、より好ましくは、約0.1〜50重量%の範囲である。また、組成物中の全モノアシルグリセロリン脂質に対する本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の含有量に特に制限はなく、例えば、1〜100重量%、10〜95重量%、20〜90重量%、30〜80重量%であってもよい。
【0038】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の投与量は、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の有効量の範囲内であればよい。投与量は、患者の年齢、体重、対照疾患、症状、投与形態、投与ルートなどに応じて適宜決定される。例えば、血糖値上昇を抑制する目的で成人に投与する場合、投与対象、投与形態、症状、投与ルートなどによっても異なるが、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の投与量として、一般的に一日につき、体重1kgあたり、0.1〜2000mg、好ましくは0.2〜1000mg、より好ましくは0.3〜500mg、特に好ましくは0.5〜100mgである。投与回数としては、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、投与するのが好都合である。他の動物の場合も、同様の量を投与することができる。
【0039】
本発明の医薬組成物は、さらに各種栄養成分が添加されていてもよい。添加される栄養成分としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン(ニコチン酸)、パントテン酸、葉酸等のビタミン類、リジン、スレオニン、トリプトファン等の必須アミノ酸類や、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅等のミネラル類及び、例えば、α−リノレン酸、EPA、DHA、月見草油、オクタコサノール、カゼインホスホペプチド(CPP)、カゼインカルシウムペプチド(CCP)、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、オリゴ糖等の人の健康に寄与する物質類、その他の食品や食品添加物として認可されている有用物質の1種又は2種以上が使用できる。
【0040】
さらに、本発明の医薬組成物で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、糖尿病治療剤、糖尿病性合併症治療剤、抗高脂血症剤、降圧剤、利尿剤などの薬剤(以下、併用薬剤と略記する)と組み合わせて用いることができる。本明細書においては、「組み合わせて用いる」とは、別々の製剤として投与する形態および一つの製剤として合剤にする形態のいずれであってもよい。別々の製剤として組み合わせて使用する際、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質および併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。さらに、併用薬剤は、2種以上を適宜の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(2)本発明の機能性食品用組成物
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を上述の機能性食品用組成物として使用する場合には、通常の方法に従って実施することができる。具体的には、例えば、以下の記載に従って実施することができる。
【0042】
本発明の機能性食品用組成物としては、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を含有し、かつ、動物が経口的に摂取しうるものであればよく、機能性食品用組成物の種類、形状などに特に制限はない。機能性食品用組成物としては、例えば、ドロップ、キャンディー、チューインガムなどの菓子類;クッキー、クラッカー、ビスケット、ポテトチップス、パン、ケーキ、チョコレート、ドーナツ、プリン、ゼリーなどの洋菓子;煎餅、羊羹、大福、おはぎ、饅頭、カステラなどの和菓子;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、ジェラートなどの冷菓;食パン、フランスパン、クロワッサンなどのパン類;うどん、そば、きしめんなどの麺類;かまぼこ、魚肉ソーセージなどの魚肉練り製品;ハム、ソーセージ、ハンバーグ、コーンビーフなどの畜肉製品;塩、胡椒、みそ、しょう油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、甘味料、辛味料などの調味類;明石焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きうどん等の鉄板焼き食品;チーズ、ハードタイプのヨーグルト等の乳製品;納豆、厚揚げ、豆腐、こんにゃく、団子、漬物、佃煮、餃子、シューマイ、コロッケ、サンドイッチ、ピザ、ハンバーガー、サラダなどの各種総菜;ビーフ、ポーク、チキンなどの畜産物;海老、帆立、蜆、昆布などの水産物;野菜・果実類、植物、酵母、藻類などを粉末にした各種粉末;油脂類・香料類(バニラ、柑橘類、かつおなど)を粉末固形化したもの;飲料などが挙げられる。
【0043】
飲料としては、スープ、味噌汁などの飲食品;インスタントコーヒー、インスタント紅茶、インスタントミルク、インスタントスープ、インスタント味噌汁などの粉末飲食品;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどのアルコール飲料;果汁(例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、ウメの果汁など)入り飲料、野菜汁(例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ、スイカの野菜汁など)入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、茶飲料(紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー茶、ローズ茶、キク茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)など)、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの非アルコール飲料などが挙げられる。
【0044】
このような機能性食品用組成物として好ましい例としては、例えば、ゼリー、飲料、錠菓、ドロップ、キャンディー、クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、マーガリン、ガムなどが挙げられる。
【0045】
本明細書において、機能性食品とは、特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、病者用食品およびサプリメントを含む。本明細書において、サプリメントとは、栄養素などを補うための栄養補助食品、栄養機能食品などを意味するだけではなく、健康の保持・回復・増進などのために役立つ機能(例えば、血糖値上昇抑制、体重増加抑制作用など)などを有する健康補助食品、健康機能食品などをも意味する。このような本発明の機能性食品用組成物の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)などが挙げられ、タブレット状、カプセル状であるのが好ましい。
【0046】
本発明の機能性食品用組成物は、例えば、公知の方法によって食品中に本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を含有させることによって製造することができる。具体的には、例えば、タブレット状の機能性食品用組成物は、例えば、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質、および、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、マンニトールなど)、甘味剤、着香剤などの原料を添加、混合し、打錠機などで圧力をかけてタブレット状に成形することにより製造することができる。必要に応じて、その他の材料(例えば、ビタミンCなどのビタミン類、鉄などミネラル類、食物繊維など)を添加することもできる。カプセル状の機能性食品用組成物は、例えば、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質を含有する液状、懸濁状、のり状、粉末状または顆粒状の機能性食品用組成物をカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成形して製造することができる。
【0047】
本発明の機能性食品用組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、通常用いられる食品素材、食品添加物、各種の栄養素、ビタミン類、風味物質(例えば、チーズやチョコレートなど)などに加え、生理学的に許容される担体などを配合することができる。生理学的に許容される担体などとしては、慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、増粘剤、乳化剤などが挙げられる。また食品添加物としては、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、着香剤などが挙げられる。さらに、その他の材料、例えば、鉄などのミネラル類、ペクチン、カラギーナン、マンナンなどの食物繊維などを含有していてもよい。
【0048】
賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤としては、それぞれ前記した本発明の医薬組成物に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0049】
ビタミン類は、水溶性であっても脂溶性であってもよく、例えばパルミチン酸レチノール、トコフェロール、ビスベンチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸ナトリウム、コレカルシフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、重酒石酸コリンなどが挙げられる。
【0050】
タブレット状、顆粒状、細粒状の機能性食品用組成物などに関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上などの目的のため、コーティング基材を用いて通常の方法でコーティングしてもよい。そのコーティング基材としては、前記した本発明の医薬組成物に用いられるものと同様のものが挙げられ、同様にして実施することができる。
【0051】
本発明の機能性食品用組成物中における本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の含有量は、機能性食品用組成物全体に対して通常約0.01〜95質量%、好ましくは、約0.1〜90質量%、より好ましくは、約0.5〜80質量%の範囲である。
【0052】
本発明の機能性食品用組成物の摂取量は、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の有効量の範囲内であればよい。摂取量は、摂取させる対象の年齢、体重、症状、摂取形態などに応じて適宜決定されるが、例えば、血糖値上昇を抑制する目的で成人に摂取させる場合、摂取させる対象、摂取形態などによっても異なるが、本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質の摂取量として、一般的に一日につき、体重1kgあたり、0.1〜2000mg、好ましくは0.2〜1000mg、より好ましくは0.3〜500mg、特に好ましくは0.5〜100mgである。摂取回数としては、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、摂取するのが好都合である。他の動物の場合も、同様の量を摂取させることができる。
【0053】
後述の実施例1で用いられたシュードモナス・フルオレッセンスHFKI0020株は、2005年5月20日から茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566)の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、寄託番号AP−20545として寄託されている。
【実施例】
【0054】
以下の実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、本実施例において「%」は特段の断りが無い限り「重量%」を意味する。

実施例1(リゾリン脂質組成物の作製)
シュードモナス・フルオレッセンスHFKI0020株(寄託番号AP−20545)培養上清によるリゾリン脂質の作製
卵黄ホスファチジルコリン1g、シュードモナス・フルオレッセンスHFKI0020株培養上清100ml、ジエチルエーテル100mlを混合し10℃、24時間200RPMで攪拌した後、フォルチ溶媒(クロロホルム:メタノール:純水=8:4:3(容積比)の混合液)の下層300mlを加え攪拌した。二層に分離後下層を回収し脱溶媒することによりリゾリン脂質組成物とした。
シュードモナス・フルオレッセンスHFKI0020株培養上清は、K28培地(酵母エキス(DIFCO社製)1.0g/l、ペプトン(DIFCO社製)5.0g/l、人工海水(八州薬品製)(終濃度50%海水))100mlに、シュードモナス・フルオレッセンスHFKI0020株を105CPU接種した後、72時間10℃で振とうし作製した。人工海水はヤシマのアクアマリン(八州薬品製)を用い、説明書に従い2倍海水を作製し、培地の終濃度が50%海水となるように添加した。
【0055】
実施例2(リゾリン脂質組成物の作製2)
イカ由来リン脂質(日本化学飼料株式会社)5gに10mMクエン酸ナトリウム緩衝液45ml、塩化カルシウム0.2gを加え超音波により懸濁させた。これに1gのホスホリパーゼA1(三共ライフテック社)を加え12時間、37℃で反応を行った。これにクロロホルム:メタノール:水=8:4:3の下層を90ml加え、反応を停止した。これを同条件で反応を行った他の3本と合わせて分液漏斗に移し、4℃で一晩静置した後に下層を回収した。残った上層にクロロホルム:メタノール:純水=8:4:3(容積比)の下層を360ml加え4℃で一晩静置した後に下層を回収した。この作業をもう一度繰り返し、回収した下層を合わせ、ロータリーエバポレーターにより脱溶媒を行い、リン脂質加水分解物の粗精製物を得た。
【0056】
続いて、得られた粗精製リン脂質加水分解物に、冷アセトン300mlと10%塩化マグネシウム−メタノール溶液6mlを加え、薬さじ及び超音波により混合し、1時間氷中冷却を行った。その後ブフナー漏斗により濾過を行い、濾紙に付着した不溶物、すなわち、脂肪酸を除去したリン脂質加水分解物(リゾリン脂質組成物)を得た。
【0057】
実施例3(リゾホスファチジルコリン組成物の分析)
実施例1で作製したリゾホスファチジルコリン組成物(リゾリン脂質組成物)をクロロホルム:メタノール=2:1(容積比)の溶液に溶解しTLC用シリカゲルプレート(シリカゲル60F254、メルク社製)に供した。一段階目として展開溶媒ヘキサン:ジエチルエーテル=1:4(容積比)で展開し、二段階目として展開溶媒クロロホルム:メタノール:アンモニア=65:25:5(容積比)で展開し、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、脂肪酸を分離した。これに0.05%プリムリン溶液を噴霧し紫外線により可視化しそれぞれのスポットをかきとり耐圧性試験管に分取した。ここにヘプタンに溶解した内部標準用脂肪酸を加えた。さらに塩酸-メタノールを加え100℃で3時間加熱した。加熱後室温になるまで待ち、ヘキサンを2ml加え攪拌後、二層に分離し上層を回収した。これを脱溶媒し脱水メタノールを加えた。これを下記の条件でガスクロマトグラフィーにより分析した結果、リゾホスファチジルコリン(モノアシルグリセロリン脂質)24.6%、ホスファチジルコリン18.0%、脂肪酸57.4%であった。

ガスクロマトグラフィー分析条件

ガスクロマトグラフ測定装置:(株)島津製作所GC−1700
カラム:VARIAN WCOT FUSED SILICA (0.25mm, i.d. X25m)

注入口温度: 250℃
検出器温度: 250℃
カラムオーブン: 172℃
流圧: 30 kPa
メイクアップガス: N2 75 kPa
検出器: FID
H2 50 kPa
Air 50 kPa

昇温プログラム
172℃ 1分 → (4℃/分) → 196℃ 1 分 → (4℃/分) → 200℃ 1 分
→ (3℃/分) → 232℃ 3分 → (5℃/分) → 242℃ 8 分
【0058】
試験例1(マルトース負荷試験)
実施例1で作製した卵黄由来モノアシルグリセロリン脂質(リゾリン脂質組成物)を、Std:ddyクリーンマウス(日本エスエルシー株式会社)に摂食させ、経時的に採血を行い、血糖値の測定を行った。
7週齢Std:ddyクリーンマウスを2つの試験区に分類して以下の試験に供した。
対照群A(計8匹)には体重1kgあたりマルトース1000mgを1mlの滅菌水に溶解し強制投与した。卵黄由来モノアシルグリセロリン脂質投与群B(計8匹)には、体重1kgあたり、卵黄由来モノアシルグリセロリン脂質およびマルトースをそれぞれ1000mgずつ1mlの滅菌水に溶解し強制投与した。投与後30,60,90,120分後に尾部より採血を実施し、血中グルコース濃度を経時的に測定した。血中グルコース濃度は、和光純薬工業株式会社製のグルコース測定キット「グルコースCIIテストワコー」を用いて測定した。
マルトース負荷後の血中グルコース濃度の経時変化を図1に示す。図1に示される結果から明らかなように、対照群と比較して卵黄由来モノアシルグリセロリン脂質(リゾリン脂質組成物)の投与により、血糖値の上昇が抑制された。
【0059】
試験例2(リゾリン脂質組成物の肥満抑制活性)
リゾリン脂質組成物の肥満抑制効果を調べるために以下の実験を行った。すなわち4週齢、雌のddYマウス(n=8)に標準食もしくは高脂肪食を自由摂取させ、1日1回、実施例2の方法で作製したリン脂質加水分解物(リゾリン脂質組成物)0.2ml(500mg/kg)を強制経口投与し、体重測定を週2回行い、8週間飼育を行った。コントロール群には水0.2mlを経口投与した。高脂肪食及び標準食の組成を表1に示し、マウス体重の推移を図2に示し、累計食餌摂取量の推移を図3に示した。
【0060】
高脂肪食と標準食の組成
【表1】

【0061】
試験例3(リゾリン脂質組成物の糖尿病抑制活性)
リゾリン脂質組成物の糖尿病抑制効果を調べるために以下の実験を行った。すなわち7週齢、雄のddYマウス(n=10)を用い、ストレプトゾトシン 200mg/kgを生理食塩水0.3mlに溶解し腹腔内注射を行った。1日1回、実施例2の方法で作製したリン脂質加水分解物(リゾリン脂質組成物)0.5ml(500mg/kg)を強制経口投与し、経時的に血糖値測定を行った。血糖値の測定はグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業)を用い、それぞれの投与群の経時的な血糖値の変化を測定した。その結果を図4に示す。
【0062】
製造例1
ソフトカプセル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質45%含有酵素処理大豆レシチン(43.1重量%)、ビタミンEオイル(1.54重量%)、ビタミンB1(0.39重量%)、ビタミンB6(0.78重量%)、ビタミンB12(1.15重量%)、ミツロウ(5.77重量%)となるようにパーム油と混合し、30分間撹拌する。80メッシュで篩過した後、真空撹拌機で脱泡処理を行う。ソフトカプセル充填機により内容量が260mgとなるように充填する。皮膜は通常用いられるゼラチン、グリセリン混合物を用いる。
【0063】
製造例2
アイスクリーム状の組成物
25%モノアシルグリセロリン脂質6部に脱脂粉乳7.9部、砂糖20部、ステアリン酸モノグリセライド0.2部、及びカゼイン0.2部を加え、さらに水を加えて合計100部とし、かき混ぜながら60℃に加熱、混合する。混合した原料をホモジナイザーにて均質化する。続いて70℃で30分間加熱殺菌し、すぐに0℃まで冷却する。その温度で一昼夜放置した混合物を激しくかき混ぜ空気を含ませながら−2℃に冷却する。最後にフリーザーにて硬化してモノアシルグリセロリン脂質含有アイスクリーム状の組成物を得る。
【0064】
製造例3
錠剤、カプセル剤状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質粉末 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤状の組成物とする。
【0065】
製造例4
タブレット状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質60gに、微結晶セルロースとマンニトールを、適宜、水をバインダーとして加熱・造粒しながら添加し、ステアリン酸マグネシウムを加え1000gの混合物を得る。その後、1粒あたり1gになるよう打錠し、タブレット状の組成物を得る。
【0066】
製造例5
タブレット状の組成物
(1)モノアシルグリセロリン脂質 60mg
(2)ラクトース 55mg
(3)コーンスターチ 100mg
(4)微結晶セルロース 30mg
(5)ステアリン酸マグネシウム 5mg
1タブレット 250mg
(1)、(2)、(3)、(4)の2/3および(5)の1/2を混和した後、顆粒化する。残りの(4)および(5)をこの顆粒に加えて打錠し、タブレット状の組成物を得る。
【0067】
製造例6
ハードカプセル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質60gに、デキストリンを140g添加し、均等に混和したのち、プルラン、植物油、カラギーナン、塩化カリウムからなるハードカプセル基材に1カプセルあたり200mgずつ充填し、ハードカプセル状の組成物を得る。
【0068】
製造例7
ハードカプセル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質60gに、デキストリンを140g添加し、均等に混和したのち、ゼラチンとグリセリンからなるハードカプセル基材に、1カプセルあたり200mgずつ充填しハードカプセル状の組成物を得る。
製造例8
ハードカプセル状の組成物
(1)モノアシルグリセロリン脂質 60mg
(2)ラクトース 60mg
(3)微結晶セルロース 70mg
(4)ステアリン酸マグネシウム 10mg
1カプセル 200mg
(1)、(2)と(3)および(4)の1/2を混和した後、顆粒化する。これに残りの(4)を加えて全体をハードゼラチンカプセルに封入し、ハードカプセル状の組成物を得る。
【0069】
製造例9
ソフトカプセル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質1kgを、ミツロウ100gと混合し、均等に懸濁した後、1カプセルあたり内容液が300mgずつとなるように、カラギーナン、デンプン、グリセリンを主成分とするカプセル基材で被包し、楕円球状のソフトカプセル状の組成物を得る。
【0070】
製造例10
ソフトカプセル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質1kgを、ミツロウ100gと混合し、均等に懸濁した後、1カプセルあたり内容液が400mgずつとなるように、ゼラチンとグリセリンからなるカプセル基材で被包し、楕円球状のソフトカプセル状の組成物を得る。
製造例11
ソフトカプセル状の組成物
(1)モノアシルグリセロリン脂質 400mg
(2)カルナバロウ 20mg
1カプセル 400mg
(1)と(2)を混和した後、全体をソフトゼラチンカプセルに封入し、ソフトカプセル状の組成物を得る。
【0071】
製造例12
顆粒状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質粉末1kgに、デキストリン9kgを添加し、水をバインダーとして流動層造粒機を用いて、均等に混和・加熱・造粒を行い、造粒物10kgを得る。この造粒物を、スティック充填機にて、1スティック600mgとなるように充填し、顆粒状の組成物を得る。
【0072】
製造例13
粉末状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質粉末1kgに、デキストリン9kgを添加し、水をバインダーとして流動層造粒機を用いて、均等に混和・加熱・造粒を行い、造粒物10kgを得る。この造粒物を、18号篩を全量通過するまで粉砕し、スティック充填機にて、1スティック600mgとなるように充填し、粉末状の組成物を得る。
【0073】
製造例14
液状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質6gをぶどう糖0.7kg、蒸留水5.3kgおよび香料5gと混和し、加熱殺菌後、1本60mlの密封容器に無菌的に充填し、液状の組成物を得る。
【0074】
製造例15
ゲル状の組成物
モノアシルグリセロリン脂質0.06kgをκカラギーナン1kg、ブドウ糖果糖液糖17kg、クエン酸0.36kg、クエン酸ナトリウム0.235kg、水82kgと混合した後、80℃に加温し、密封容器に充填する。ついで定法に従って加熱殺菌した後、冷却し、ゲル状の組成物を得る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明で用いられるモノアシルグリセロリン脂質は、安全性に優れ、かつ優れた血糖値上昇抑制作用、体脂肪増加抑制作用、体重増加抑制作用などを有する。従って、本発明のモノアシルグリセロリン脂質を含有する医薬組成物、機能性食品用組成物などは、血糖値上昇を抑制するための組成物、体脂肪の増加を抑制するための組成物、または体重の増加を抑制するための組成物などの医薬組成物または機能性食品用組成物などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】試験例1のマルトース負荷試験の結果を示すグラフである。
【図2】試験例2のマウス体重の推移を示すグラフである。
【図3】試験例2の累計食餌摂取量の推移を示すグラフである。
【図4】試験例3のリン脂質加水分解物(リゾリン脂質組成物)の糖尿病抑制活性を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R1およびR2のいずれか一方は水素原子を表し、他方はアシル基を表し、R3はコリン残基、エタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子を表し、R3がコリン残基のとき、XはO-を表し、R3がエタノールアミン残基、グリセリン残基、セリン残基、イノシトール残基または水素原子のとき、XはOHを表す。)で表されるモノアシルグリセロリン脂質またはその生理学的に許容される塩を含有する医薬または機能性食品用組成物。
【請求項2】
アシル基が、6〜30個の炭素原子を有するアシル基である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アシル基が、脂肪酸に由来するアシル基である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
モノアシルグリセロリン脂質が、グリセロリン脂質を酵素反応に供することによって得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
酵素反応に用いられる酵素が、ホスホリパーゼA1またはホスホリパーゼA2である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
1が水素原子であり、R2がアシル基である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
3がコリン残基である、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
アシル基が、一つ以上の不飽和結合を有するアシル基である、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
アシル基中の不飽和結合の数が、1〜6の範囲である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
1が水素原子であり、R2がアシル基であるモノアシルグリセロリン脂質の含有量が、R1がアシル基であり、R2が水素原子であるモノアシルグリセロリン脂質に対して、モル比で2:1以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
血糖値上昇を抑制するための組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
体脂肪の増加を抑制するための組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
体重の増加を抑制するための組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
機能性食品用である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、病者用食品またはサプリメントである、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状または液状である請求項14または15記載の組成物。
【請求項17】
医薬組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
血糖値上昇抑制剤または血糖降下剤である、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
抗肥満剤である、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項20】
生活習慣病予防剤である、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項21】
一般式(II)
【化2】

(式中、R2はアシル基を表す。)で表されるモノアシルグリセロリン脂質またはその生理学的に許容される塩を含有する、医薬または機能性食品用組成物。
【請求項22】
血糖値上昇を抑制するための組成物である、請求項21記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−291078(P2007−291078A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80851(P2007−80851)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】