説明

生物剤検出器

【課題】 生物剤について、連続的にエアロゾルを収集しかつ大気モニタリングするために、それぞれが使用収集モードと試料分析モードの間で切り替わる2つの検出デバイスを備える生物剤検出器を提供する。
【解決手段】 生物剤検出器は炭疽菌やその他の生物兵器剤などの、空気試料中の生物剤の存在を検出する。生物剤検出器は、エアロゾルを濃縮するバイオ濃縮器と、2つの検出デバイスを備えるパイロライザー部分を備える。一方の検出デバイスが分析モードで作動し、空気試料を分析する際、他方の検出デバイスは試料収集モードで作動して空気試料を収集する。所定時間後、検出デバイスは機能が切り替わることにより、連続的な空気のサンプリングが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年7月9日出願の米国特許仮出願第60/586,902号を優先権とする出願である。
【0002】
本発明は、概して、生物剤について、連続的にエアロゾルを収集しかつ大気モニタリングするために、それぞれが試料収集モードと試料分析モードの間で交替する2つの検出デバイスを備える生物剤検出器に関する。
【背景技術】
【0003】
生物剤検出器の例として、化学生物質量分析計II(CBMSII)は、空気中に存在する生物剤(biological agent)を、パイロライザー及び関連する質量分析計を備える検出器を用いて、二段階工程を利用して検出する。試料の収集の間、第1のポンプが1分当たり330リットルの空気をバイオ濃縮器(bio−concentrator)のインレット内へ取り込む。バイオ濃縮器は、第2のポンプによって1分当たり1リットルでパイロライザーに取り込まれたエアロゾル粒子を抽出する。パイロライザー中に取り込まれたエアロゾルは、粉塵(ダスト)、繊維及び泥などの二次的粒子を含み、さらに炭疽菌やその他の生物兵器剤(biowarfare agent)などの生物剤を含む場合がある。エアロゾルの試料は、パイロライザーの熱分解管の底に集まる。熱分解管に収集されない空気及びエアロゾル粒子は、排気アウトレットを通って排出される。
【0004】
試料分析の間、パイロライザーの熱分解管の底に集められたエアロゾル試料は、空気中の生物剤を同定するために分析される。メタノールに溶解された水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などの少滴のメチル化試薬が、皮下注射針(hypodermic needle)で空気試料に添加される。皮下注射針は、通常ステンレス鋼製である。試料がいずれかの生物剤を含む場合、メチル化試薬は有機物質をより揮発性となるよう誘導体化する。例えば、細菌剤の細胞壁中の脂肪酸はメチル化脂肪酸エステル(FAME)を生じる。
【0005】
熱分解管中の試料は、次いで、分析段階中に急速に加熱、即ち熱分解され、気体分子を生じる。第3のポンプは、生物剤の同定のために、1秒当たり1ミリリットルの気体分子を質量分析計に取り込む。生物剤は、示差的な有機分子パターンを有する。試料中にいずれかの生物剤が存在する場合、質量分析計は分子パターンを確認することによって生物剤を同定する。分子パターンが確認された後、パターンは、空気試料中の生物剤を同定するために事前にプログラムされたパターンリストと比較される。
【0006】
従来の生物剤検出器における欠点とは、従来のシステムが、分析段階の間、熱分解管中へのエアロゾル試料の収集を停止しなければならず、そのため試料分析の間、空気中に存在する生物剤を検出しないという点である。従って、試料収集が中断され、その時間の空白の間、大気モニタリングは行われない。これは生物剤の存在を検出するのに要する時間を増大させ、かつ、いくつかの状況においては、過渡的な生物剤の検出に失敗する結果を招くおそれがある。
【0007】
連続的な検出及び分析を提供するためには、第2のパイロライザーとバイオ濃縮器が必要である。しかしながら、二重のバイオ濃縮器とパイロライザーは高価である。
【0008】
そのため、連続的な空気試料の収集とモニタリングを提供し、さらに、上述のような従来技術の欠点を克服することが可能な、バイオ濃縮器を共有し、かつ、それぞれが試料収集モードと試料分析モードの間で切り替わる2つの検出デバイスを備える生物剤検出器が所望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生物剤について、連続的にエアロゾルを収集しかつ大気モニタリングするために、それぞれが試料収集モードと試料分析モードの間で切り替わる2つの検出デバイスを備える生物剤検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
生物剤検出器は、空気試料中の炭疽剤やその他の生物兵器剤などの生物剤の存在を検出する。生物剤検出器は、空気試料中のエアロゾルを濃縮するバイオ濃縮器と、2つの検出デバイスを有するパイロライザー部分を備える。一方の検出デバイスはエアロゾル試料収集モードで作動し、空気試料からエアロゾル化された粒子を抽出する際、他方の検出デバイスは試料分析モードで作動し、エアロゾル試料から予め集められた粒子を分析する。所定時間後、検出デバイスは機能が切り替わる。
【0011】
バイオ濃縮器は、インレットを介して空気を生物剤検出器内へ取り込み、かつ主要な空気流からエアロゾル粒子を分離する。大部分の空気は排気管を通って排出される。バイオ濃縮器は、バイオ濃縮器の濃縮エアロゾルアウトレットを、それぞれの検出デバイスのインレットに位置合わせできるよう移動可能である。バイオ濃縮器の濃縮エアロゾルアウトレットを、それぞれの検出デバイスのインレットに位置合わせできるようバイオ濃縮器が物理的に移動することにより、流路が急激に曲がったり、不連続となることなく、バイオ濃縮器から検出デバイスへの濃縮エアロゾルの連続した流れが可能となる。
【0012】
バイオ濃縮器の濃縮エアロゾルアウトレットが第1の検出デバイスに整合される際、バイオ濃縮器中で濃縮された試料は、ステンレス鋼インレットチューブに沿って流れ、第1の検出デバイス中の、閉鎖型石英熱分解管中に集まる。
【0013】
空気試料が第1の検出デバイスに集められているとき、予め第2の検出デバイス中に収集された空気試料は分析される。メタノールに溶解された0.015モルのTMAHなどの少滴のメチル化試薬が、熱分解管に収集された試料に添加される。メチル化試薬は、試料中の生物剤の細胞を割って開き、剤中の有機分子を中和して誘導体化し、より揮発的な化合物にする。試料は又、加熱されて熱分解生成物を生じる。
【0014】
熱分解生成物は、同定と分析のために熱分解管から質量分析計へ運ばれる。質量分析計は、事前にプログラムされた、固有の生物剤にそれぞれが関連した分子パターンのリストを備える。試料中に生物剤が存在する場合、質量分析計は、確認された分子パターンと、質量分析計に事前にプログラムされた分子パターンのリストとを比較することによって、生物剤を識別する。一致するものが見つかった後、質量分析計は関連する生物剤を同定する。
【0015】
所定の時間量後、検出デバイスの機能は切り替えられる。エアロゾル試料の収集のために、濃縮エアロゾルアウトレットが、第2の検出デバイスのインレットに整合されるよう、バイオ濃縮器は移動する。従って、生物剤検出器は、分析のために連続的に空気試料を収集する。
【0016】
本発明のこれら並びにその他の特徴は、以下の説明及び図面から十分に理解されるであろう。
【0017】
本発明の種々の特徴並びに利点は、以下の現時点で最も好ましい実施態様についての詳細な説明から、当業者等には明らかであろう。その詳細な説明に関連する図面を以下で簡単に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の生物剤検出器20のバイオ濃縮器22及びエアロゾル流切替機構23を図示する。生物剤検出器20は、大気試料中における炭疽菌やその他の生物兵器剤などの生物剤の存在の検出する。
【0019】
バイオ濃縮器22は、空気流からエアロゾルを濃縮し、そのエアロゾルを収集して分析するために、パイロライザー部分21の検出デバイス26aと26bのいずれか一方に供給する。エアロゾル流切替機構23は、エアロゾル試料が検出デバイス26aと26bのいずれか一方において分析されている間に、検出デバイス26aと26bのいずれか一方にエアロゾルを供給する。
【0020】
バイオ濃縮器22は、インレット71(図4A及び図4Bに示す)を介して、1分当たり300リットルを超える量の空気を生物剤検出器20に取り込む。バイオ濃縮器22は、主要な空気流からエアロゾル粒子を分離し、排気管73と整合された排気ポート95を介して、おおよそ299リットル/分で空気の大部分を排気する。バイオ濃縮器22は、収集のために検出デバイス26aと26bのいずれか一方に案内する濃縮エアロゾルアウトレット62を介して、対象であるエアロゾルのほぼ全体を含む濃縮空気流を1分間におおよそ1リットルずつ供給する。濃縮空気流は、約90%の生物粒子を含む。
【0021】
バイオ濃縮器22は、回転軸88を軸に回転可能な回転台60の上にクランプされる。バイオ濃縮器22は、2つの配置の間で移動可能である。濃縮エアロゾルアウトレット62は、第1の配置において一方の検出デバイス26aと整合可能であり、かつ第2の配置において他方の検出デバイス26bと整合可能である。濃縮エアロゾルアウトレット62からの空気流は、濃縮エアロゾルアウトレット62と整合された回転台60中の小孔110を通って流れる。回転台60は、ステンレス鋼基板66の上に置かれ、それに対して回転可能である。
【0022】
基板66は、いずれかが検出デバイス26aと26bのいずれか一方と位置合わせされる2つの孔112aと112bを有する。回転台60が回転する際、回転台60中の小孔110は、基板66の孔112aと112bのいずれか一方と整合する。孔112aと112bの側壁は、エアロゾルの流路が側壁において中断される可能性を排除するよう研磨される。基板66の上方面118は、孔112aと112bのそれぞれの周囲を取り巻く溝を備え、ゴム製のOリング114aと114bを各溝が収容し、基板66の上方面188と回転台60の下方面の間に比較的気密な封止を提供する。
【0023】
基板66は、回転台60の孔110が基板66の2つの孔112aと112bのいずれか一方と整合するよう、回転台60の回転を制限し、かつ正確に停止させるための、回転台60中の溝を貫通する硬化鋼ピンを備える。(図4Aと図4Bに示す)圧縮ばね72は、回転台60と基板66の間に4.536kg(10ポンド)の力を与えることで、Oリング114aと114bが圧縮され、かつ回転台60の下方面116が基板66の上方面に接触するのを確実なものとする。正確な位置合わせ停止と圧縮力により、孔112aと112bの側壁におけるエアロゾル流のための滑らかな経路と最小限の不連続性が確実となる。
【0024】
回転台60の上方面は、円錐形位置合わせ部品64を備え、バイオ濃縮器22の濃縮エアロゾルアウトレット62が、回転台60中の貫通孔110と正確に整合するよう、該部品はバイオ濃縮器22の下方面にある円錐形のアパーチャ130と形状が一致する。固定機構99は、バイオ濃縮器22をその位置で固定する。
【0025】
図4Aと図4Bに示すように、変速装置、クランク及びプッシュ・ロッドを有するモータ70は、回転台60を第1の配置と第2の配置の間でおおよそ180°回転させる。マイクロスイッチが、クランクの位置を検出する。クランクは、バイオ濃縮器22の濃縮エアロゾルアウトレット62が、検出デバイス26aと26bのいずれか一方と正確に整合するよう、回転台60を移動させるために回転する。ソレノイドは、Oリング114aと114bの摩耗を排除するために、回転台60が移動する前に回転台60とOリング114aと114bを基板から持ち上げる。硬化鋼ピンの正確なエンドストップが、回転台60が移動するのを防止する際、ソレノイドは作動停止し、圧縮ばね72が回転台60を基板66に対して押し戻す。バイオ濃縮器22の排気エアロゾル流を、2つの検出デバイス26aと26bの間で切り替える機構は、エアロゾル濃縮物を損なうことなく作動する。エアロゾルを効率よく運ぶために、いくつかの対策を講じなくてはならない。空気の流路は、可能なかぎり滑らかでなくてはならない。不必要な乱流によって、粒子が、輸送管の側壁に向かって投げつけられることがある。粒子の流路における急激な方向転換も又、粒子を側壁に衝突させ得る。
【0026】
図2は、生物剤検出器20のパイロライザー部分21と、バイオ濃縮器22の境界面22aを概略的に示す。パイロライザー部分21は、ボディ部分24と、それを支持する支持ロッド(図示せず)を備える。パイロライザー部分21は、2つの検出デバイス26aと26bを備える。一例において、検出デバイス26aと26bはパイロライザーである。ボディ部分24は、埋設された加熱器と温度センサデバイス28を備える。パイロライザー部分21は、移動可能なバイオ濃縮器22が基板66の上方に配置されるよう、基板66の下側側面に取り付けられる。
【0027】
各検出デバイス26aと26bは、ステンレス鋼インレットチューブ30aと30bをそれぞれ有する。各インレットチューブ30aと30bは、インレットチューブ30aと30b内の空気流速度を増大させる徐々に先細りするアダプタ68aと68bを備える。インレットチューブ30aと30bは、静電気の蓄積を防ぐために電気的にアースされた導電性材料からなる。インレットチューブ30aと30bは、内部表面を滑らかかつ不活性化するよう電解研磨される。インレットチューブ30aと30bは、ボディ部分24と一体的な部分ではないため、洗浄と交換のために取り外すことができる。
【0028】
試料空気はアウトレット32aと32bのそれぞれを通ってインレットチューブ30aと30bから出て、それぞれの閉鎖型石英熱分解管34aと34bに集まる。熱分解管34aと34bは、試料の収集量が小さくなるようそれぞれが実質的に円錐形の底部を有する。インレットチューブ30aと30bの径は、熱分解管34aと34bの内部頂点に衝突する噴流を形成するよう、1分当たり約1リットルのエアロゾル流を押し出す。空気流に搬送される粒子は、熱分解管34aと34bの内部閉鎖端に向かって衝突するのに対し、空気は排出される。粒子の衝突と収集の効率には、インレットチューブ30aと30bの先端と熱分解管34aと34bの底部の間の精密な公差が必要とされる。
【0029】
検出デバイス26aと26bのそれぞれは、1分当たり約1リットルで排気流を運ぶ広いステンレス鋼エアロゾルアウトレット排気ライン36aと36bを備える。排気ライン36aと36bの広い径により、熱分解管34aと34bの閉鎖端に衝突して集まらない繊維及びその他の粒子が蓄積して排気ライン36aと36bが目詰まりするのを防ぐ。
【0030】
インゼクター針46aと46bは、(図4Aと図4Bに示す)試薬供給源44aと44bから少滴のメチル化試薬を、熱分解管34aと34bに収集された試料に添加する。一例において、メチル化試薬は、メタノールに溶解された0.0015〜0.015モルのTMAHである。インゼクター針46aと46bは、メチル化試薬滴を熱分解管34aと34bそれぞれの底部中央に送るよう配置される。メチル化試薬は、試料中のいずれかの細菌剤の細胞を分割して開き、剤中の有機物質を中和して誘導体化し、より揮発性の化合物にする。インゼクター針46aと46bは、溶融石英キャピラリーチューブである。石英は不活性であり、検出デバイス26aと26bの熱サイクル、並びにメチル化試薬の腐食性に対して耐性を有する。
【0031】
各検出デバイス26aと26bは、インゼクター針46aと46bをボディ部分24の入口点で封止するインゼクター針ポートと適合する。針ポートは、薄壁のステンレス鋼管でボディ部分24に連結され、針ポートは、熱分解管34aと34bの底まで障害のない経路を提供するよう傾斜している。管は、耐熱性を与え、かつインゼクター針46aと46bをボディ部分24の温度よりも低い温度に維持する。インゼクター針46aと46bは、それらの温度を検出デバイス26aと26bの温度よりも低い温度に維持するため、熱分解管34aと34bのそれぞれの側壁と接触しない。これにより、メチル化試薬の計量と送出が信頼できるものとなる。ボディ部分24は高熱(230℃)であるが、管は針ポートを低温に保つ。
【0032】
検出デバイス26aと26bのそれぞれは、試料ライン38aと38bをそれぞれを備える。試料分析の間、試料ライン38aと38bは、熱分解管34aと34bからの気体状の熱分解生成物を、分析と同定のために質量分析計40に輸送する。試料ライン38aと38bは、ステンレス鋼であり、溶融石英キャピラリーライナーでライニングされている。石英は、熱分解生成物の質量分析計40への信頼性のある輸送のため、不活性な媒体を提供する。石英は又、分析の間に熱分解管34aと34bに注入される腐食性のメチル化試薬に対する耐性も有する。石英キャピラリーライナーは、熱分解生成物の収集効率を最大にするために、熱分解管34aと34bのそれぞれの底付近に配置することができる。
【0033】
図2を再び参照すると、ばね負荷熱分解管持ち上げ装置48が、熱分解管34aと34bの頂端部50とボディ部分24の間に空隙(クリアランス)が生じないよう、ボディ部分24に対抗して熱分解管34aと34bをバイアスしている。熱分解管34aと34bを完全に持ち上げることで、パイロライザーの内部頂点とパイロライザーインレット管30aと30bの端部の間の空隙を一定に維持することが確実となる。頂端部50は、内側の応力を低減するために火仕上げすることにより、ボディ部分24に対して押し上げられる際の破断が防止される。
【0034】
円柱形のベスペルフェルール(Vespel(登録商標) ferrule)52は、熱分解管34aと34bとボディ部分24の間に圧縮封止を提供する。熱分解管持ち上げ装置48と同軸の第2のばね負荷フェルール持ち上げ装置54は、圧気封止を提供するよう圧力を印加する。フェルール持ち上げ装置54は、熱分解管持ち上げ装置48とは独立して作動する。フェルール持ち上げ装置54がベスペルフェルール52に与える力は、熱分解持ち上げ装置48が熱分解管34aと34bに与える力よりも大きい。熱分解持ち上げ装置48は、封止を形成するよう熱分解管34aと34bをベスペルフェルール52に対抗して押し上げる。ベスペルフェルール52の下方端周囲の段56は、フェルール持ち上げ装置54のノッチに係合する。フェルール持ち上げ装置54は、生物剤検出器20からベスペルフェルール52を取り外すために下げることができる。
【0035】
熱分解管34aと34bの外形に近い形状を有する円柱形加熱器58aと58bは、熱分解中に熱を与える。ブロワ(図示せず)は、次のエアロゾル収集サイクルのための準備段階にある熱分解管34aと34bを冷却するために、熱分解の最後にダクトを介して強制空冷を与える。
【0036】
質量分析計40は、事前にプログラムされた分子パターンのリストを備える。リストのそれぞれの分子パターンは、特定の生物剤に関連する。試料中にいずれかの生物剤が存在する場合、質量分析計40は確認された分子パターンと、事前に質量分析計40にプログラムされた分子パターンのリストとを比較することによって、その生物剤を識別する。一致するものが見つかった後、質量分析計40は関連する生物剤を同定する。
【0037】
検出デバイス26aと26bの一方は、他方が試料分析モードで作動する際、試料収集モードで作動する。所定時間後、検出デバイス26aと26bの役割は逆転する。従って、生物検出器20は、分析のために連続的に空気試料を収集する。モード切替段階は、おおよそ0.5秒で終了する。切替期間中でも、空気の収集は行われている。好ましくは、所定時間は1分である。しかしながら、当業者であればどのくらいの所定時間を採用すれば良いか承知しているであろう。
【0038】
図4Aに示すように、検出デバイス26aは試料収集モードで作動し、検出デバイス26bは試料分析モードで作動している。バイオ濃縮器22の濃縮エアロゾルアウトレット62は、検出デバイス26aと整合している。排気ポンプ78aは、大気中に排気するために排気ライン36aを介して空気を送り出す。排気ポンプ78aが作動している際、検出デバイス26bの排気ポンプ78bは作動しておらず、排気ライン36bを介して空気を排気しない。試料収集の継続時間はソフトウェアでプログラムされる。一例において、試料は約1から5分間収集される。当業者であれば、どのくらいの時間試料を収集するかは承知しているであろう。制御装置87は排気ポンプ78aと78b及びモータ70を制御する。
【0039】
試料ライン38aと38bは、ある箇所で合流し、アウトレットライン120がその箇所から延びて、”T”字を画定するよう質量分析計40に向かう。検出デバイス26aが試料収集モードにあり、かつ検出デバイス26bが試料分析モードにある際、検出デバイス26aにおける圧力は周囲雰囲気よりも低く、かつ検出デバイス26bにおける圧力は周囲雰囲気よりも高い。そのため、検出デバイス26aから検出デバイス26bへの正味ガス流が存在する。
【0040】
検出デバイス26aが試料収集モードで作動中、検出デバイス26bの熱分解管34bに予め集められた試料は分析される。試料中の生物剤の細胞を分割して開き、生物剤の有機分子を中和し、誘導体化してより揮発的なものとするため、メチル化試薬が、試薬供給源44bからインゼクター針46bを介して熱分解管34b中の試料に添加される。次いで、熱分解管34b中の試料は加熱器58bによって熱分解、即ち加熱されて気体分子を形成する。試料は約1.5分間熱分解することができる。しかしながら、当業者であれば、どのくらいの時間熱分解管34bに収集された試料を熱分解すればよいかは承知しているであろう。
【0041】
熱分解生成物は、検出デバイス26bから試料ライン38b、アウトレットライン120に沿って送られ、質量分析計40へ送られる。検出デバイス26bは、検出デバイス26aの内圧より高い内圧を有するため、検出デバイス26bからの熱分解生成物はアウトレットライン120、さらには質量分析計40へと送られる。1分当たりおおよそ1ミリリットルの気体分子が質量分析計40に供給される。
【0042】
所定時間後、検出デバイス26aと26bは機能が切り替わる。即ち、検出デバイス26aが分析モードで作動し、かつ検出デバイス26bが試料収集モードで作動する。モータ70は、図4Bに示すように、熱分解管34b中に空気試料を集めるために、バイオ濃縮器22の濃縮エアロゾルアウトレット62が検出デバイス26bのインレット管30bに整合するよう回転台60を回転させる。その際、検出デバイス26aの熱分解管34aに予め収集された空気試料は分析される。
【0043】
検出デバイス26bが試料収集モードで作動し、かつ検出デバイス26aが試料分析モードで作動する際、検出デバイス26bの圧力は、検出デバイス26aの圧力よりも低い。そのため、検出デバイス26aから検出デバイス26bへの正味ガス流が存在する。検出デバイス26aからの気体は、質量分析計40で直接サンプリングするために、”T”字を介してアウトレットライン120に沿って流れる。即ち、熱分解生成物は、試料ライン38aとアウトレットライン120に沿って質量分析計40へ流れる。
【0044】
本発明の生物剤検出器は、炭疽菌などの生物兵器に使用される生物剤を検出するのに使用できる。しかしながら、その他の生物剤を検出することもできることは理解されたい。質量分析計40で同定可能な脂肪酸の固有パターンを有する物質であれば、いずれも検出及び同定可能である。
【0045】
検出デバイス26aと26bを、2つの別個のデバイスとして説明しているが、検出デバイス26aと26bを単一のアッセンブリとなるよう一体化させることも可能であることは理解されよう。さらに、ここで開示の熱分解/質量分析計に換えて、その他の型の生物剤検出器を使用することもできる。
【0046】
前出の説明は、単に本発明の原理を代表するものである。上述の説明に照らして本発明の多くの修正並びに変更が可能である。本発明の好ましい実施態様を開示したが、当業者であれば、本発明の範囲内におけるある種の変更は可能であることは認めるであろう。従って、具体的に上で説明した以外に関しては、特許請求の範囲内において本発明を実施することができることは理解すべきである。こうした理由から、本発明の真の範囲と内容を確認するために特許請求の範囲を検討すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、生物剤検出器のバイオ濃縮器とエアロゾル流切替機構を示す図である。
【図2】図2は、2つの検出器を備える、生物剤検出器のパイロライザー部分の正面図である。
【図3】図3は、図2のパイロライザー部分の拡大正面図である。
【図4A】図4Aは、一方の検出デバイスに整合されるときの第1の配置から、他方の検出デバイスに整合されるときの第2の配置へのバイオ濃縮器の動きを示す。
【図4B】図4Bは、一方の検出デバイスに整合されるときの第1の配置から、他方の検出デバイスに整合されるときの第2の配置へのバイオ濃縮器の動きを示す。
【符号の説明】
【0048】
20…生物検出器
21…パイロライザー部分
22…バイオ濃縮器
26a,26b…検出デバイス
34a,34b…熱分解管
60…回転台
62…濃縮エアロゾルアウトレット
66…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の検出デバイスと、
第2の検出デバイスを含んでなり、該第1の検出デバイスは、該第2の検出デバイスが試料分析モードで作動する際に、試料収集モードで作動し、かつ、該第1の検出デバイスが試料分析モードで作動する際に、該第2の検出デバイスは試料分析モードで作動することを特徴とする、空気試料中の生物剤を検出するための生物剤検出装置。
【請求項2】
前記試料空気をエアロゾル試料に濃縮するバイオ濃縮器をさらに含み、該バイオ濃縮器は、前記第1の検出デバイスと第2の検出デバイスによって共有されることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項3】
孔を有する回転台をさらに備え、該回転台は、前記エアロゾル試料を前記第1の検出デバイスに送るよう前記孔が前記第1の検出デバイスと整合する第1の配置と、前記エアロゾル試料を前記第2の検出デバイスに送るよう前記孔が前記第2の検出デバイスと整合する第2の配置の間で前記バイオ濃縮器を移動させることを特徴とする、請求項2の装置。
【請求項4】
前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれが、インレットチューブ、熱分解管及び加熱器を備え、かつ該インレットチューブは、前記試料収集モードの間、前記エアロゾル試料を該熱分解管内に取り込み、さらに、該加熱器は、前記試料分析モードの間、エアロゾル試料を加熱することを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれが、前記試料分析モードの間、分析のため、前記エアロゾル試料を化学分析装置に移送する、加熱試料ラインを備えることを特徴とする、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれの前記加熱試料ラインが接続点で合流し、かつ該接続点から前記化学分析装置までラインが延在し、前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれの前記熱分解管の内部差圧により、前記試料分析モードで作動している前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのいずれか一方から、前記試料収集モードで作動している前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスの他方へ、熱分解ガス生成物の正味流が生じ、かつ、前記試料分析モードで作動している前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスの一方中の該エアロゾル試料は、前記化学分析装置へ送られることを特徴とする、請求項5記載の装置。
【請求項7】
メチル化試薬を含む試薬供給源をさらに備え、前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれは、前記試料分析モード間に、該メチル化試薬を前記熱分解管内へ注入するインゼクター針を備えることを特徴とする、請求項4記載の装置。
【請求項8】
前記熱分解管の閉鎖端と前記インレットチューブの間の空隙を一定にすることを確実にするために、前記熱分解管を、ボディ部分に対してバイアスする持ち上げデバイスをさらに備えることを特徴とする、請求項4記載の装置。
【請求項9】
前記エアロゾル試料と処理される気体を含む前記熱分解管を封止するために、ベスペルフェルール、ボディ部分及び該ベスペルフェルールを該ボディ部分に対してバイアスする持ち上げデバイスをさらに備えることを特徴とする、請求項4記載の装置。
【請求項10】
前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれが排気ラインを備え、前記試料収集モードの間、前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのいずれか一方内へ取り込まれた前記空気試料の一部が、該排気ラインを介して排気されることを特徴とする、請求項1記載の装置。
【請求項11】
試料空気をエアロゾル試料に濃縮するバイオ濃縮器と、
第1の検出デバイスであって、前記第1の検出デバイスが試料収集モードで作動しているときに、第1の熱分解管内へ該エアロゾル試料を取り込む第1のインレットチューブと、第1のインゼクター針と第1の試料ラインを備える第1の検出デバイスと、
第2の検出デバイスであって、前記第2の検出デバイスが試料収集モードで作動しているときに、第2の熱分解管内へ該エアロゾル試料を取り込む第2のインレットチューブと、第2のインゼクター針と第2の試料ラインを備え、前記第1の検出デバイスは、前記第2の検出デバイスが前記試料分析モードで作動するときに前記試料収集モードで作動し、かつ前記第2の検出デバイスが前記試料収集モードで作動するときに、前記第1の検出デバイスは試料分析モードで作動する、第2の検出デバイスと、
前記試料分析モードの間、前記第1の熱分解管と前記第2の熱分解管に収集された前記エアロゾル試料を加熱するための加熱器と、
メチル化試薬を含む試薬供給源であって、前記試料分析モードの間、前記第1のインゼクター針と前記第2のインゼクター針のそれぞれが、前記第1の熱分解管と前記第2の熱分解管中へ前記メチル化試薬を注入する、試薬供給源、及び
前記試料分析モードの間、前記エアロゾル試料中の生物剤を同定するための質量分析計、
を含んでなることを特徴とする、空気試料中の生物剤を検出するための生物剤検出装置。
【請求項12】
孔を有する回転台をさらに備え、該回転台は、前記エアロゾル試料を前記第1の検出デバイスに送るよう前記孔が前記第1の検出デバイスと整合する第1の配置と、前記エアロゾル試料を前記第2の検出デバイスに送るよう前記孔が前記第2の検出デバイスと整合する第2の配置の間で前記バイオ濃縮器を移動させることを特徴とする、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのそれぞれが排気ラインを備え、前記試料収集モードの間、前記第1の検出デバイスと前記第2の検出デバイスのいずれか一方内へ取り込まれた前記空気試料の一部が、該排気ラインを介して排気されることを特徴とする、請求項11記載の装置。
【請求項14】
試料収集モードの間、第1のエアロゾル試料を第1の検出デバイス中へ流すステップと、
試料分析モードの間、第2の検出デバイス中に収集された第2のエアロゾル試料中の生物剤を同定するステップであって、前記第2のエアロゾル試料中の前記生物剤を同定するステップは、前記第1のエアロゾル試料を流すステップの間に行われる、第2のエアロゾル試料中の生物剤を同定するステップと、
次に前記第2の検出デバイス中へ第3のエアロゾル試料を流すステップ、及び
前記第1の検出デバイス中に収集された前記第1のエアロゾル試料中の生物剤を同定するステップであって、前記第1の検出デバイス中に収集された前記第1のエアロゾル試料中の生物剤を同定するステップは、前記次に前記第2の検出デバイス中へ前記第3のエアロゾル試料を流す前記ステップの間に行われる、第1のエアロゾル試料中の生物剤を同定するステップ、
を含んでなることを特徴とする、空気試料中の生物剤を検出する方法。
【請求項15】
前記生物剤を同定するステップが、メチル化試料を添加することと、前記第1のエアロゾル試料を加熱することと、前記第3のエアロゾル試料を加熱することを包含することを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記第1の検出デバイス中へ前記第1のエアロゾル試料を流す前記ステップと、前記第2の検出デバイス中へ前記第3のエアロゾル試料を流す前記ステップのそれぞれの前に、前記空気試料を前記第1のエアロゾル試料及び前記第3のエアロゾル試料へ濃縮するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−23310(P2006−23310A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−201147(P2005−201147)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.
【Fターム(参考)】