説明

生物学的に安定なポリウレタン

本発明は、(a)一般式(I)


のポリシロキサンを含むソフトセグメント;及び、(b)0重量%より多く40重量%より少ない、ジイソシアネートと線状2官能性連鎖延長剤との反応生成物であるハードセグメント、を含む、生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素、それらを調製するためのプロセス及びそれらの、生体物質、装置、物品又はインプラントにおける使用、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタン又はポリウレタン尿素、及びそれらを調製する方法に関する。ポリウレタンは生物学的安定性、耐クリープ性、耐酸性及び耐摩耗性を有し、それにより、生体材料及び医療用の装置、物品又はインプラント、特に心臓病学、整形外科、形成外科及び胃腸病学の分野における長期間インプラントできる医療用装置、の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンのソフトセグメント中に多量のシリコーン充填物を混和する方法論の開発が生物学的に安定なポリウレタン(Elast-EonTM)の製造をもたらした。これらのポリウレタンのソフトセグメントは、80重量%の水酸基末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)と20重量%のポリエーテルポリオール、特にはポリヘキサメチレンオキシド(PHMO)を基材としている。
【0003】
該ポリエーテルの存在は、該イソシアネート含有量の多いハードセグメントと該シリコーン含有量の多いソフトセグメントという熱力学的に異なる分子間の相溶化剤として機能するために必要と考えられた。該ソフトセグメントのシリコーン含有量が80重量%より高いと機械的性質がより劣り、当時は該相溶化剤理論を裏付けるように思われた。
【0004】
Elast-Eon製造の技術は、より最近進歩し、機械的性質の減少無しに、該ソフトセグメント中へのより高い含有量でのシリコーンの混和を可能にするという顕著な方法上のブレークスルーに導いた。
【0005】
ポリウレタンに生物学的に引き起こされる劣化の機構を理解する多くの努力も又なされた。該インプラント近傍の異物巨大細胞(FBGC)から発生する酸化性のラジカルが、ポリウレタンを基材とする医療用装置の劣化の主な原因と思われる。結果として、ポリウレタン中の酸化し得る基の存在が劣化開始の主要なサイトであることが示された。それ故、酸化し易い基の含有量の減少が該ポリウレタンの生物学的安定性の増加を導くであろう。結果的に、今や、ポリエーテルポリオールと組合せたPDMSの代わりの、PDMSを基材としたソフトセグメントを持つことが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物学的に安定なポリウレタンの提供。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、
(a)一般式(I)
【化1】

のポリシロキサン(式中A及びA'はO又はNRであり、RはC1-6アルキルであり;R1、R2、R3及びR4は独立してC1-6アルキルから選ばれ;R5及びR6は独立してC1-12アルキレンから選ばれ;そしてpは1又はより大きな整数である)を含むソフトセグメント、及び
(b)0重量%より多く40重量%より少ない、ジイソシアネートと線状2官能性連鎖延長剤との反応生成物であるハードセグメント、
を含む、生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素、が提供される。
【0008】
本発明は又、
(i)上に定義した請求項1に記載の式(I)の末端が水酸基又はアミンであるポリシロキサンをジイソシアネートと反応させてプレポリマーとする工程;及び
(ii)工程(i)のプレポリマーを線状2官能性連鎖延長剤と共に高せん断混合する工程、を含む、上に定義した生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素を調製するための方法を提供する。
【0009】
ハードセグメント濃度が低いにも拘らず、本発明のポリウレタンは、驚くべきことに、10〜55MPaの範囲である、該Elast-Eonポリウレタンと同等の引張りモジュラスを持つ。このものはまた、生物学的安定性、並びに10〜20%改善された、耐クリープ性、耐酸性及び耐磨耗性を伴っている。これらの性質により、該ポリウレタンは生体材料及び医用装置、物品又はインプラントの製造に有用である。
かくて、本発明は更に、全体もしくは1部が上に定義された該生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素からなる、生体材料、装置、物品又はインプラントを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の生物学的に安定なポリウレタンは、(a)上に定義した式(I)のポリシロキサンを含むソフトセグメント及び(b)ジイソシアネートと線状2官能性連鎖延長剤との反応生成物であるハードセグメントを含む。一つの好ましい実施態様に置いては、該ソフトセグメントは式(I)のポリシロキサンのみを含むが、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールのような他のソフトセグメント成分が、ソフトセグメントの全量に対して2重量%まで、好ましくはI重量%までの量で存在することがある。
【0011】
適切なポリエーテルポリオールは、式(II):
【化2】

(式中、mは2又はより大きい整数、好ましくは4〜18;そして、nは2〜50の整数である。)
【0012】
mが4又はより大きい式(II)のポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、ポリヘキサメチレンオキシド(PHMO)、ポリヘプタメチレンオキシド、ポリオクタメチレンオキシド(POMO)及びポリデカメチレンオキシド(PDMO)が好ましい。ポリエーテルポリオールの分子量範囲は好ましくは200〜5000、より好ましくは200〜1200の範囲である。
【0013】
適切なポリカーボネートポリオールは、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)及びポリ(デカメチレンカーボネート)のようなポリ(アルキレンカーボネート);アルキレンカーボネートとアルカンジオール例えば1,4-ブタンジオール、1,10-デカンジオール(DD)、1,6-ヘキサンジオール(HD)、及び/又は2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール(DEPD)、との反応により調製されるポリカーボネート;及びアルキレンカーボネートと1,3-ビス(4-ヒドロキシブチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BHTD)及び/又はアルカンジオールとの反応により調製される珪素を基材とするポリカーボネート、を含む。
【0014】
ポリウレタンのソフト及びハードセグメントは、典型的には相分離し、そして分離したドメインを形成する。該ハードセグメントは組織化して規則的(結晶性)ドメインを形成し、一方ソフトセグメントは主に非晶質ドメインとしてとどまり、この2つの組合せがポリウレタンの極めて優れた機械的性質の原因である。
【0015】
本発明の該ポリウレタン中に存在するハードセグメントの量は、0重量%より多く40重量%未満、好ましくは10〜39重量%、より好ましくは25〜37.5%の範囲である。
【0016】
驚くべきことに、本発明のポリウレタンの引張りモジュラスは、ハードセグメントの減少と共に減少する。
【0017】
該引張り性は、該ソフトセグメントからの該ポリエーテルの除外によって著しい影響を受けないことが観察される。特に、該引張りモジュラスは、実際に、ハードセグメント濃度が低くても増加を示す。このことは、該Elast-Eonに対立するものとして、本発明のポリウレタンに存在する高められた相分離の明白な結果である。該高められた相分離はまた、耐クリープ性、耐摩耗性及び耐疲労性の改善に現れる。
【0018】
ポリエーテルの除外の重要な様相は、その結果である該材料の耐酸化性の改善である。このことは、該ポリウレタンを、過酸化物のような酸化性ラジカルを高濃度で含む酸化性溶液中での一定期間(28から72日)の試験にかけることによって評価される。該試験後のポリウレタンは、劣化のレベルを評価及び定量するため、走査電子顕微鏡(SEM)を含む様々な技法により検査される。これらの試験は、長期間の生物学的安定性のよい指標である。ソフトセグメント中に100%のポリシロキサンを含むポリウレタンは酸化安定性に顕著な改善を示す。
同様な改善は、酸による劣化に対する耐性において、該100%ポリシロキサンのソフトセグメントを持つポリウレタンが、ポリシロキサンポリエーテルのソフトセグメントを持つ該Elast-Eonポリウレタンを越えた顕著な改善を示すことが注目される。
【0019】
該ポリウレタン中に存在するソフトセグメントの量は、少なくとも60重量%、より好ましくは60〜90重量%、最も好ましくは60〜75重量%、の範囲である。
【0020】
高い珪素含有量は、生物学的に安定で且つ機械的性質並びに酸及び磨耗への耐性が改善されたポリウレタンをもたらす。
【0021】
該ポリウレタンの成分のNCO/OH又はNCO/NRH比は、好ましくは0.97〜1.03、より好ましくは0.985〜1.015の範囲である。
【0022】
ポリシロキサン
該ポリシロキサンは上に定義した式(I)のものである。
式(I)中で使用される「C1-6アルキル」という用語は、1〜6個の炭素原子を持つ直鎖状、枝分かれ鎖状又は環状の炭化水素を意味し、好ましくは1〜4個の炭素原子を持つもの、より好ましくはメチルである。例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルのようなアルキル基を含む。
【0023】
「C1-12 アルキレン」という用語は、1〜12個の炭素原子を持つ2価の直鎖状、枝分かれ鎖状又は環状の炭化水素基を意味し、好ましくは1〜6個の炭素原子を持つもの、より好ましくは1〜4個の炭素原子を持つものである。例は、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプタレン及びオクチレン、ドデシレン、シクロプロピレン、シクロペンチレン及びシクロヘキシレンを含む。
【0024】
好ましいポリシロキサンは、式(I)においてR1〜R4がメチルであり、R5及びR6が上に定義したもので好ましくはC1-4のアルキレン、より好ましくはエチレン又はプロピレンであるポリシロキサンに当るPDMSである。
該ポリシロキサンマクロジオールは、公知の方法で調製されるか又は商業的に入手可能な製品として得られ、かかる製品は例えば日本のShin EtsuからのX-22-160ASであり、それは、式(I)においてR1〜R4がメチルであり、R5及びR6がエチレンであり、Xが0でpが8〜20である水酸基末端ポリシロキサンに当る。
他の好ましいポリシロキサンは、式(I)においてRが上に定義したものであるNHR末端ポリシロキサンであるポリシロキサンマクロジアミンであり、例えば、Rが水素であり、R1〜R4がメチルであり、R5及びR6が上に定義したもので好ましくはC1-6のアルキレン、より好ましくはエチレン又はプロピレンであるアミン末端PDMSである。
該ポリシロキサンの好ましい分子量範囲は、200〜6000、より好ましくは500〜2000、最も好ましくは500〜1500である。
ここに示される該分子量値は「数平均分子量」であると理解されるであろう。
【0025】
エーテル基の存在は、式(I)のポリシロキサンの極性を増加させ、ジイソシアネートとの反応をよりし易くする。ポリシロキサンとジイソシアネートは、それらの極性の大きな違いにより極めて相溶し難い。ジイソシアネートとシラノールとの間の重合を強行する試みは通常機械的性質の劣る重合体をもたらし、溶媒を含む重合条件を採用する必要性を生じる。式(I)のポリシロキサンの極性は早過ぎる相分離を回避し、よい機械的性質を保持するのを助ける。
【0026】
ジイソシアネート
該ジイソシアネートは、脂肪族、脂環族又は芳香族のジイソシアネートであり得、例えば、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(H12MDI)、p-フェニレンジイソシアネート(p-MDI)、トランス-シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート(CHDI)、1,6-ジイソシアネートヘキサン(DICH)、1,5-ジイソシアネートナフタレン(NDI)、パラ-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXDI)、メタ-テトラメチルキシレンジイソシアネート(m-TMXDI)、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI) 異性体又はそれらの混合物、又はイソホロンジイソシアネートである。MDIのような芳香族ジイソシアネートは、生物学的安定性のみならずよい機械的性質にも寄与する均一なハードブロックを形成する傾向があるので好ましい。
存在するジイソシアネートの量は、該ポリウレタンの全重量に対して、好ましくは8〜35重量%、より好ましくは20〜35重量%の範囲である。
【0027】
連鎖延長剤
本文中の「2官能性線状連鎖延長剤」という用語は、ジオール又はジアミンのような分子当り2個の官能基を持つ任意の連鎖延長剤を意味し、イソシアネート基と反応し得るものである。該官能基は、枝分かれ鎖連鎖延長剤の場合、第2の官能性炭素原子に対立するものとして、第1の官能性炭素原子に結合している。
【0028】
該連鎖延長剤はジオール又はジアミン連鎖延長剤から選択し得る。
ジオール連鎖延長剤の例は次のものを含む:1,4-ブタンジオール(BDO)、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオールのようなC1-12アルカンジオール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン及びp-キシレングリコールのような環状ジオール;1,3-ビス(4-ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン及び1,3-ビス(6-ヒドロキシエトキシプロピル)テトラメチルジシロキサンのような珪素含有ジオール。好ましくは、該ジオール連鎖延長剤はBDOである。
【0029】
適切なジアミン連鎖延長剤は次のものを含む:1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン及び1,6-ヘキサンジアミンのようなC1-12アルカンジアミン;1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン及び1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサンのような珪素含有ジアミン。
【0030】
枝分かれ鎖連鎖延長剤の使用はポリウレタンのモルフォロジーを壊し(disrupt)、貧弱な生物学的安定性及び機械的性質の低下をもたらす可能性があるので、該連鎖延長剤は線状であるべきであるということが重要である。
連鎖延長剤の量は、該ポリウレタンの全重量に対して、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜5重量%の範囲である。
【0031】
プロセス
本発明のポリウレタンは2工程の塊状重合手順により調製される。該重合は常用の装置中又は反応射出成型機又は混合機の領域内で実施し得る。
該2工程法において、末端に反応性のポリイソシアネート基を持つプレポリマーが、式(I)の水酸基又はアミン末端ポリシロキサンとジイソシアネートとの反応により調製される。該プレポリマーは、高せん断高速混合機、例えばSilverson Mixer、のような任意の適切な公知の装置を用いて、連鎖延長剤と高せん断混合される。高せん断混合により該ポリウレタンのモルフォロジーが制御され、それにより該ソフトセグメント中への該ハードセグメントの適切な分配がなされ、早過ぎる相分離が避けられる。該高せん断混合により反応前の分配さえも可能となる。該ポリウレタンは次いで、該液状ポリウレタンをテフロン(登録商標)被覆したトレーに注ぎ入れ約100℃に加熱して硬化され得る。該硬化した板は次いで粒状化され、そして約200℃の温度の押出し機を通して溶融され得る。該溶融ポリウレタンは次いでストランドダイを通過し該ストランドはペレット化され得る。
【0032】
上記したプロセスは一般的には早過ぎる相分離を起さず、高分子量を持つ組成が均質で且つ透明なポリウレタンを得る。このプロセスはまた、ソフト及びハードセグメントを合成の間相溶性に保つための如何なる溶剤の使用も必要としないという利点を持つ。
【0033】
ポリシロキサンセグメント混和の更なる利点は、反応射出成型、回転成型、圧縮成型及び添加される加工用ワックスを必要としない成型、のような常用の方法によるポリウレタン加工が比較的容易なことである。しかし、所望により、次のような常用のポリウレタン加工助剤が調製中該ポリウレタン中に混和され得る:
例えばジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL)、酸化第1錫(SO)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデク-7-エン(DABU)、1,3-ジアセトキシ-1,1,3,3-テトラブチルジスタノキサン(DTDS)、1,4-ジアザ-(2,2,2)-ビシクロオクタン(DABCO)、N,N,N',N'-テトラメチルブタンジアミン(TMBD)及びジラウリン酸ジメチル錫(DMTD)のような触媒;例えばIrganox(登録商標)のような酸化防止剤;例えばトリスノニルフェニルホスファイト(TNPP)のようなラジカル抑制剤;安定剤;例えばIrgawax(登録商標)のような滑剤;染料;顔料;無機及び/又は有機充填剤;そして、強化材が調製中該ポリウレタン中に混和され得る。そのような添加剤は、好ましくは本発明のプロセスの工程(i)に添加される。
【0034】
医療用途
本発明のポリウレタンは、それらの生物学的安定性、耐クリープ性、耐酸性及び耐磨耗性の結果として、生体材料及び医療用の装置、物品又はインプラントを調製するのに特に有用である。
「生物学的に安定な」という用語は、生きた動物又はヒトの細胞及び/又は体液との接触時における安定性を指す。
「生体材料」という用語は、生きた動物又はヒトの細胞及び/又は体液と接触する状況で使用される材料を指す。
【0035】
該医療用の装置、物品又はインプラントは次のものを含み得る:カテーテル;スタイレット;骨縫合アンカー;血管、食道及び胆管用のステント;人工内耳;再生(reconstructive)顔面外科;薬物放出制御装置;栓穴(key hole)外科用の装置及び構成部材;バイオセンサー;細胞カプセル化用の膜;医療用ガイドワイヤー;医療用ガイドピン;套管化(cannularizations);ペースメーカー、除細動装置及び神経刺激装置、並びにそれらの夫々の電極導線;心室補助装置;整形外科用ジョイント又はその部品;脊椎用椎間板及び小ジョイント;頭蓋形成用板;眼内レンズ;尿路用ステント及び尿路用装置;ステント/移植片装置;袖管を結合/延長/修復する装置;心臓用弁;静脈用移植片;血管アクセスポート(access port);血管短絡管;血液精製装置;骨折肢用ギブス包帯;静脈弁、血管形成術、電気生理学及び心拍出量用カテーテル;;胸部インプラント殻(shells)のような形成外科用インプラント;ラップバンド(lapband);肺用バルーン;医療用装置挿入の為の工具及び付属品;輸液及び流量制御装置。
【0036】
様々な医療用の装置、物品又はインプラントの構成に使用するため最適化された性質を持つポリウレタンはまた、他の医療用ではない用途を持つであろうことが認識されよう。そのような用途は次のものを含み得る:玩具及び玩具構成部材、形状記憶フィルム、管継手、電気コネクター、ZIF(zero-insertion force)コネクター、ロボット工学、航空宇宙用アクチュエーター、ダイナミックディスプレー、流量制御装置、スポーツ用品及びその構成部材、身体に順応させるための(body-conforming)装置、温度制御装置、安全リリース(release)のための装置、及び熱収縮絶縁体(insulation)。
【0037】
請求項及び上記の本発明の記載中における「含む」又はその変化表現例えば「含んでいる」、は、文脈がその他の言語又は必要な暗示を要求している場合以外は、包括的な、即ち述べた特徴の存在は特定するが本発明の様々な実施態様における更なる特徴の存在又は付加を排除しない、意味で使用されている。
【実施例】
【0038】
本発明は次の非限定的な実施例に関連して記載されるであろう。
実施例1
この実施例は、該ソフトセグメント中100%シリコーンを持つElast-Eon 2A (E2A)配合物の調製及び試験を示す。
合成
PDMS(180.00g, MW 958.15)が、真空下(0.01 torr)、80℃で24時間脱ガスされ、得られた水分含有量は150ppm未満であった。溶融したMDI(1010.63g, MW 250.00)が機械的撹拌機、滴下漏斗及び窒素ガス入口を備えた三つ首丸底フラスコ中に秤量された。該フラスコは油浴中70℃で加熱された。該脱ガスされたPDMS(2000g)が、次いで2時間かけて滴下漏斗から添加された。この実施例に用いたPDMSは次の式を持つものである:
【0039】
【化3】

(式中、nは8〜20である。)
【0040】
PDMS添加の完了後、該反応混合物は、窒素雰囲気下80℃での撹拌により、更に2時間加熱された。該プレポリマー混合物は、次いで、真空下(0.01 torr)80℃で約1時間脱ガスされた。該真空は窒素雰囲気下で徐々に解放され、そして2810gの脱ガスされたプレポリマー混合物が背の高い乾燥したポリプロピレン製のビーカー中に秤量され、直ぐに80℃の窒素循環オーブン中に置かれた。
BDO(189.3g, MW 90.00)が、前もって60℃で24時間脱ガスされ、水分含有量を50ppm未満とした。全工程を通じての化学量論量は1.015に保たれた。BDOが、Silverson Mixerのような高分散、高せん断且つ高速の混合機を使用して、該プレポリマー混合物(2810g)中に添加された。該混合物は約2時間高速撹拌(6000 rpm)された。該重合体混合物は、次いで、幾つかのテフロン(登録商標)被覆された型に注入され、100℃の窒素循環オーブン中で15時間かけて固体スラブに硬化された。完全硬化の後、該スラブは粒状化され、200℃の溶融温度において、直径25mm、L/D比30/1の押出し機で押出された。円筒棒状の押出し物は、更なる熱可塑性加工に適したペレットに切断された。
【0041】
引張り試験
該ペレットは圧縮成型により3mm厚さの長方形のシートとされ、これらのシートから、様々な機械的試験に付される試料が切出された。下記表1は、該2つのポリウレタン間の機械的データの比較を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
E2Aは、80重量%のPDMS 1000と20重量%のPHMOの混合物であるソフトセグメントでつくられる。E2A及び改質E2Aの両方におけるハード対ソフトセグメントの比は、40/60である。該ハードセグメントはMDI及びBDOを含む。該引張りモジュラスはPDMS含有量の増加により増加するが、他の性質は全て同等である。
【0044】
クリープ及び回復
図1は、該ポリウレタンの引張りクリープ特性の比較を提供するグラフである。該ポリウレタンは、60Nに荷重され(約10秒で)、約5MPaの応力に変形し(translating)、30分保持された。30分後、該ポリウレタンはインストロン試験機から外され、ゲージ長さが間歇的に30分間測定された。
該ソフトセグメント中に100%のシリコーンを含有する該ポリウレタンにおける、クリープ及び回復特性の驚くべき改善が注目される。
【0045】
生体外加速酸化老化
E.M Christenson, J.M. Anderson, A. Hiltner, Journal of Biomed. Mater. Res. A, 2004, 69, 407に記載のプロトコールを使用して、生体外加速酸化老化が、0.1M 塩化コバルト中の20%過酸化水素からなる酸化溶液の中の応力なしフィルム試料について、37±1℃で実施された。該ポリウレタンフィルムは、比較的に一定のラジカル濃度を保持するため3日毎に溶液を換えて、24日間処理された。フィルム試料は6日毎に取出され、水で完全に洗浄され、抽出実験に使用する前に真空乾燥された。
標準及び改質E2Aの5000倍拡大におけるSEM写真が図2及び図3に示される。
結果から、改質E2Aは、非常に低い表面劣化という点で標準E2Aよりも更に優れているのを見ることが出来る。100%シリコーン含有量のE2Mが提供する生物学的安定性は標準E2Aよりもはるかに優れている。
【0046】
実施例2
この実施例は、該ソフトセグメント中は100%シリコーンで且つハードセグメントの含有量を変化させた配合物の調製及び試験を示す。
合成
該合成は、実施例1で使用されたのと完全に同一で、反応物質の濃度が下記表2に示されるように異なるものである。
【0047】
【表2】

【0048】
これらの配合物は、次いで、混合マクロ(macro)ジオール(80/20 PDMS/PHMO)からつくられた同等のハードブロック配合物と比較された。該比較引張り試験結果は下記表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に見られるように、引張りモジュラスの違いは該ハードセグメント%の減少と共に減少する。この結果は、実施例1で注目したように該ハードセグメント含有量が40%のとき該モジュラスの違いは高いので、驚くべきことである。これは、恐らく、該Elast-Eonポリウレタンが、該ポリウレタンの剛性を下げるためシリコーンと共に相溶化剤を含有する理由であろう。しかし、該剛性又はモジュラスの違いは、該ポリウレタンの全体としてのハードセグメント%が減少すると共に劇的に減少する。
かくて、より低いハードセグメント濃度で同等のモジュラスを持つElast Eonを、全体がシリコーンからなるソフトセグメントによって得ることが出来る。これは、生物学的安定性、耐クリープ性、耐酸性及び耐磨耗性の、対応する顕著な増加を伴う。
【0051】
実施例3
この実施例は実施例1において合成された該E2A及び改質E2Aの諸特性を示す。
【0052】
諸特性決定方法
動的機械的分析。該共重合体の動的機械的性質は、TA-Q800 DMA及び環境以下の温度における実験のためのGas Cooling Accessory(Model CFL-50)を用いて評価された。フィルム試料は、緊張下、加熱速度3℃/分及び周波数1Hzで、−120℃から150℃まで試験された;静電力(static force)は、125%のフォーストラック(force track)を用い1Nに設定された。
小角X線散乱。SAXSデータは、3-ピンホール コリメーター カメラ(three-pinhole collimated camera)[CuKα照射源(λ= 0.154 nm)]及び2次元多線(multi-wire)検出器からなるMolecular Metrogy SAXS計器により得られた。試料と検出器の間隔は1.5mであった。
該ポリウレタンフィルムは1cm×1cmの正方形に切断され、約1mmの厚さに積層され、縁に沿ってテープで留められた。該フィルム積層体は、X線の通路となる穴を持つ2つの表示カード(index cards)の間に置くことにより支持された。全体は次いでMolecular Metrogyにより提供される試料保持具上に取付けられた。
絶対散乱強度(cm−1の単位)は、前もって検量された架橋ポリエチレン(S-2907)第2標準による検量により定量された;この段階はセグメントのデミキシングに関する定量的詳細を得るために欠かせない。ベヘン酸銀第2標準が、散乱ベクトルを検量するために使用された。
【0053】
結果
結果は、諸特性で観察されるように、該材料の重要な挙動の特徴を示す。
図4中の該SAXSの結果は、PDMSのみのソフトセグメントでつくられたポリウレタンは、PDMSとPHMOのポリオール混合物でつくられたポリウレタンよりも高い度合いの相分離を持つことを示す。該データはI/IeVとして表され、Iは散乱強度、Ieは同一の条件下で単一電子により散乱された強度、そしてVは照射を受けた試料の容積である。ピーク位置(qmax)は平均ドメイン間間隔、d(dはd=2π/qmax)の指標である。
【0054】
図5は、生体外酸化老化を行なう前と後のE2AのDMAプロットを示す。PDMS相のガラス転位温度は 〜−120℃であり、一方PHMOのそれは 〜20℃である。酸化を受けても、PDMSの転位は影響を受けず、一方PHMOの転位はtand値の減少及び貯蔵モジュラスの増加により広がる。これは、該PHMO相のみが酸化による影響を受け、従って生物学的安定性については重合体構造のより敏感な部分であることを示す。
【0055】
本発明の本質及び範囲を逸脱することなく多くの改変が成され得ることが、本発明に関する当業者に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】E2A及び改質E2Aの間の引張り及び回復(荷重 5MPa)の比較を示すグラフである。
【0057】
【図2】生体外における24日後のE2Aについての5000倍拡大における走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0058】
【図3】生体外における24日ごの改質E2Aについての5000倍拡大におけるSEM写真である。
【0059】
【図4】散乱ベクトルの関数としての、バックグラウンド補正したSAXS強度を示すグラフであり、黒塗り四角はE2A、黒塗り三角は改質E2Aである。
【0060】
【図5】Elast-Eon 2Aについての、温度の関数としての、(a)貯蔵因子(storage factor)(E’)及び(b)損失正接(dissipation factor)(tan d)を示すグラフであり、(i)は未処理材料を、(ii)は酸化処理された試料を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(I)
【化1】

のポリシロキサン(式中A及びA'はO又はNRであり、RはC1-6アルキルであり;R1、R2、R3及びR4は独立してC1-6アルキルから選ばれ;R5及びR6は独立してC1-12アルキレンから選ばれ;そしてpは1又はより大きな整数である)を含むソフトセグメント、及び
(b)0重量%より多く40重量%より少ない、ジイソシアネートと線状2官能性連鎖延長剤との反応生成物であるハードセグメント、
を含む、生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項2】
ハードセグメントの量が10〜39重量%又は25〜37.5重量%である、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項3】
ソフトセグメントの量が少なくとも60重量%、60〜90重量%又は60〜75重量%である、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項4】
該ソフトセグメントが又、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールを2重量%まで又はI重量%までの量で含む、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項5】
式(I)におけるR1からR4が、独立してC1-4アルキルから選ばれる、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項6】
式(I)におけるR1からR4がメチルである、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項7】
式(I)におけるR5及びR6が、独立してC1-4アルキレンから選ばれる、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項8】
式(I)におけるR5及びR6がエチレン又はプロピレンである、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項9】
式(I)におけるpが、5〜30又は8〜20である、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項10】
該一般式(I)のポリシロキサンが、200〜6000、500〜2000又は500〜1500の範囲の分子量を持つ、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項11】
ジイソシアネートの量が、8〜35重量%又は20〜35重量%の範囲にある、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項12】
該ジイソシアネートが芳香族ヂイソシアネートである、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項13】
該芳香族ジイソシアネートが4,4'-ジフェニルメチルジイソシアネート(MDI)である、請求項12に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項14】
該連鎖延長剤の量が、1〜5重量%又は2〜5重量%の範囲にある、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項15】
該連鎖延長剤が、500又はより少ない、15〜500又は60〜450の分子量を持つ、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項16】
該連鎖延長剤が、ジオール又はジアミンの連鎖延長剤である、請求項1に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項17】
該ジオール連鎖延長剤が、C1-12アルカンジオールである、請求項16に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項18】
該C1-12アルカンジオールが1,4-ブタンジオール(BDO)である、請求項17に記載のポリウレタン又はポリウレタン尿素。
【請求項19】
(i)上に定義した請求項1に記載の式(I)の末端が水酸基又はアミンであるポリシロキサンをジイソシアネートと反応させてプレポリマーとする工程;及び
(ii)工程(i)のプレポリマーを線状2官能性連鎖延長剤と共に高せん断混合する工程、を含む、請求項1に記載の生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素を調製するための方法。
【請求項20】
全部又は1部が請求項1に記載の生物学的に安定なポリウレタン又はポリウレタン尿素からなる、生体材料、装置、物品又はインプラント。
【請求項21】
次のものから選ばれる生体材料、装置、物品又はインプラント:カテーテル;スタイレット;骨縫合アンカー;血管、食道及び胆管用のステント;人工内耳;再生(reconstructive)顔面外科;薬物放出制御装置;栓穴(key hole)外科用の装置及び構成部材;バイオセンサー;細胞カプセル化用の膜;医療用ガイドワイヤー;医療用ガイドピン;套管化(cannularizations);ペースメーカー、除細動装置及び神経刺激装置、並びにそれらの夫々の電極導線;心室補助装置;整形外科用ジョイント又はその部品;脊椎用椎間板及び小ジョイント;頭蓋形成用板;眼内レンズ;尿路用ステント及び尿路用装置;ステント/移植片装置;袖管を結合/延長/修復する装置;心臓用弁;静脈用移植片;血管アクセスポート(access port);血管短絡管;血液精製装置;骨折肢用ギブス包帯;静脈弁、血管形成術、電気生理学及び心拍出量用カテーテル;形成外科用インプラント;胸部インプラント殻(shells);ラップバンド(lapband);肺用バルーン;医療用装置挿入の為の工具及び付属品;輸液及び流量制御装置;玩具及び玩具構成部材;形状記憶フィルム;管継手;電気コネクター;ZIF(zero-insertion force)コネクター;ロボット工学;航空宇宙用アクチュエーター;ダイナミックディスプレー;流量制御装置;スポーツ用品及びその構成部材;身体に順応させるための(body-conforming)装置;温度制御装置;安全リリース(release)のための装置及び熱収縮絶縁体(insulation)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−531474(P2009−531474A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501784(P2009−501784)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000409
【国際公開番号】WO2007/112485
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(501030898)エイオーテク バイオマテリアルズ プロプライアタリー リミティド (6)
【Fターム(参考)】