説明

生物学的標本のコレクションを作成する方法および標本コレクション

本発明は、単離された生物学的標本のコレクションを作成する方法に関し、この際、その元々の環境から標本を単離した後の一定の期間内に、単離された生物学的標本をそれぞれ保存し、次いで貯蔵し、その際、様々な標本を単離して、保存するまでの間の前記の一定の期間は、一定の最大偏差を有する。さらに本発明は、生物学的標本のコレクションに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的標本のコレクションを作成する方法および単離された生物学的標本のコレクションに関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの刊行物、例えば、Alon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 96(1999)6745-6750;Zou et al., Oncogene 21(2002)4855-4862;Nottermann et al., Cancer Research 61(2001)3124-3130;Sorlie et al., PNAS 98(2001)10869-10874から、単離された生物学的組織標本を、液体窒素中でショック冷凍し、約−170℃または−80℃で貯蔵できることが、知られている。
【0003】
これらの既知の方法の欠点の1つは、生物学的組織標本が標準化条件下で単離、調製、保存および貯蔵されていないことである。標準化されていないために、様々な単離された生物学的標本を用いた実験で得られた実験結果を、他の結果と満足に比較することができない。
【0004】
その元々の環境から生物学的標本を単離し、その生物学的標本を保存または冷凍するまでの間に経過する時間は、単離された生物学的標本の生化学的状態またはコンディションに多大な影響を有する。血液循環による栄養素の供給がなくなるために、ヒトから単離された生物学的標本、例えば、腫瘍材料は変化する。例えば、核酸、特にリボ核酸およびタンパク質の破壊が生じる。細胞の構成成分、特にタンパク質の変化、例えば、リン酸化および/または脱リン酸化も生じうる。
【0005】
即ち、生物学的標本を単離した後の時間が長くなるにつれて、単離された生物学的標本はもはや、その元々の環境から除去される前と同じ生化学的または生理学的状態にはない。
【0006】
単離された生物学的標本を用いて、実験によるin vitro調査を実施する場合、単離された生物学的標本がin vivo状態を反映して、生化学的、生理学的および/または分子生物学的in vivo状態に関して言明することができる結果を得ることを可能にすることが不可欠である。
【0007】
このような単離された生物学的標本は例えば、がん性または代謝性疾患の分野で有効な薬剤成分および薬物を開発するための貴重な調査材料であるはずである。
【0008】
加えて、病的生物学的標本での分子生物学的および/または病理生化学的プロセスを、非病的生物学的標本と比較して調査して、疾患、例えば、がん性または代謝性疾患の分子的原因に関する知識を得るためにも、このような高品質の生物学的標本は非常に適しているはずである。
【0009】
実験による所見の関係を評価することができるように、これらは、統計的に確認することができなければならない。このことに関連して、様々な由来を有する単離された生物学的標本を用いて、適切な回数の実験調査を実施しなければならない。この場合の必要条件は、単離後に、様々な単離された生物学的標本が標準化条件下において調製、保存および貯蔵されていることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、生物学的標本のコレクションを作成する方法が必要である。
【0011】
加えて、その元々の環境での生化学的状態を確実に反映する生物学的標本のコレクションが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明が基礎としている目標は、生物学的標本のコレクションを作成する方法により達成され、この際、その元々の環境から標本を単離した後の一定期間内に、単離された生物学的標本を保存し、次いで貯蔵するが、その際、様々な標本を単離して、保存するまでの間の一定の期間は、一定の最大偏差を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による方法の好ましい改善を、従属請求項2から15に記載する。
【0014】
さらに目的は、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法で前記のように単離および調製された生物学的標本を含有する標本コレクションにより達成される。
【0015】
例えば、ヒトでの外科的介入により、その元々の環境から生物学的標本を採取または単離するプロセスは、本発明の主題ではない。単離された生物学的標本の標本コレクションを作成するための本発明の方法を、標本を採取したら直ぐに続けるが、これは、医学的な監督がなくても、実験室の職員であれば、実施することができる。
【0016】
好ましい1実施形態では、元々の環境から単離した後、保存する前の生物学的標本の状態を記録し、文書化する。
【0017】
例えば、写真による文書化により、単離された生物学的標本の状態を記録することができる。加えて、単離された生物学的標本の状態の医学的または科学的鑑定および評価ならびにその評価の文書化を行うことができる。その元々の環境から単離した直後に生物学的標本の状態を記録することにより、より遅い時点で単離された生物学的標本で実施された調査および/または実験のさらに包括的な評価および査定が可能である。
【0018】
好ましくは、生物学的標本は、一定の容量を有する。この場合、約0.5cm3から約1cm3の容量が、非常に適していると判明している。ほぼ同じ容量、例えば約0.5cm3および/または約1cm3を有する多くの生物学的標本を得ることが、好ましい。勿論、生物学的標本は、より小さい容量、例えば、1mm3または3mm3、もしくはより大きな容量、例えば、2cm3または4cm3を有してもよい。
【0019】
その元々の環境から単離した直後に、例えばデジタル写真による文書化によりその状態を記録し、外科用メスを使用して所望の標本容量まで、生物学的標本をトリミングすることができる。続いて、標本容量を適切な標本管、例えば、凍結管に移すことができる。次いで、凍結管を液体窒素中に貯蔵することができる。
【0020】
もしくは、単離された生物学的標本をパラフィンに包埋することができる。場合によっては、パラフィンに標本を包埋する前に、標準化条件下に脱水を行うこともできる。例えば、包埋された標本組織から、顕微鏡検査のための切片を調製することができる。
【0021】
本発明の他の1実施形態では、一定の期間からの一定の最大偏差は、一定の期間に対して、約10%以下、好ましくは、約5%以下である。
【0022】
生物学的標本を採取した瞬間から、その単離された生物学的標本を保存および/または貯蔵するまでを計測して、一定の期間を維持することにより、単離された生物学的標本の状態の比較可能性が著しく改善されることが判明した。
【0023】
単離された生物学的標本の下流処理の間に標準化条件、特に、標本を採取して、それを保存および/または貯蔵するまでの間の期間を維持することにより、こうして集められた生物学的標本は、非常に良好な比較可能性を示す。
【0024】
したがって、健康か、非病的組織標本の単離された生物学的標本と病的組織標本との生化学的および/または生理学的状態を比較すると、その差異を、それぞれの疾患または変性に帰することができる。即ち、単離された生物学的標本の標準化処理により、様々な生物学的標本の間で見い出されるかもしれない何らかの差異を、個々の処理法または処理の異なる期間に帰するのではなく、個々の疾患または変性の分子的原因の指標に帰することができる。
【0025】
本発明では、一定の期間は、約25分未満、好ましくは、約15分未満であることが好ましい。さらに好ましくは、一定の期間は、約12分である。特に好ましくは、一定の期間は、約10分である。勿論、一定の期間は望ましい場合には、より短く、例えば、5または8分にすることができる。
【0026】
ヒトの生物学的標本の単離は、手術室で実施されるはずであり、単離された生物学的標本の処理は通常、手術室の外で行われるという事実に関連して、生物学的標本を単離して、その単離された生物学的標本を保存するまでを測定して、その期間を5分未満に短縮することは実際には、不可能である。約10分の一定の期間が、非常に適していることが判明している。
【0027】
さらに好ましい展開では、凍結保存または化学的保存により、単離された生物学的標本の保存を行う。
【0028】
本発明の範囲内では、「保存」は、単離された生物学的標本の生化学的または生理学的状態が固定されるという意味と理解される。
【0029】
好ましくは、単離された生物学的標本を低温媒体に浸漬し、好ましくは数秒の時間をかけて生物学的標本を凍結させることにより、凍結保存を実施する。使用される低温媒体は好ましくは液体窒素である。この場合、単離された生物学的標本の保存および貯蔵が同時に起こる。
【0030】
本発明の方法の他の変法では、化学的架橋剤を使用して、保存を実施する。使用することが好ましい架橋剤は、反応基を有する。
【0031】
本発明の範囲内では、「反応基」は、単離された生物学的標本と化学的に反応する化学的官能基を意味すると理解される。この場合、架橋剤の反応基は、単離された生物学的標本上の反応基と反応しうる。好ましくは、本発明で使用される架橋剤は、単離された生物学的標本上のアミノ基と好ましく反応するアルデヒドおよび/またはエポキシド基を含有する。
【0032】
前記の架橋剤は好ましくは、ホルムアルデヒド、ポリアルデヒド、好ましくはジアルデヒド、ポリエポキシド化合物、好ましくはジエポキシドおよび/またはトリエポキシド化合物ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、使用されるジアルデヒドは、グルタルアルデヒドである。パラホルムアルデヒドを、ホルムアルデヒドの代替物として使用することも勿論できる。
【0034】
使用されるトリエポキシド化合物は例えば、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、好ましくは、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルまたはアルカンジオールグリシジルエーテル、例えば、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテルおよび/または1,4−ブタンジオールグリシジルエーテルであってよい。
【0035】
使用されるポリグリシジル化合物は例えば、ポリアルコールポリグリシジルエーテル、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、糖ポリグリシジルエーテルおよびこれらの混合物であってよい。
【0036】
単離された生物学的標本は、凍結処理によってのみ、または化学的保存によってのみで保存することができる。勿論、単離された生物学的標本を、化学的架橋剤または防腐剤で初めに処理し、続いて、凍結処理にかけることもできる。もしくは、単離された生物学的標本を、凍結処理に初めにかけて、液体窒素下またはフリーザー内で、例えば−80℃で貯蔵し、後の時点で、化学的架橋剤または防腐剤を用いる処理により化学的保存にかけることもできる。
【0037】
好ましくは、単離された生物学的標本は、ヒト組織である。理論的には、本発明の方法で使用される生物学的標本は、単離された生物学的標本のコレクションを作成することが望ましいどのような生物学的材料であってもよい。
【0038】
腫瘍不含組織、腫瘍組織および/または脂肪組織が、本発明の方法には特に適している。加えて、腫瘍組織は、中心または周辺腫瘍組織であることが好ましい。使用される腫瘍組織は例えば、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、乳がん、前立腺がん、気管支がん、胃がんまたは子宮頚がんの組織であってよい。
【0039】
本発明の標本コレクションまたは本発明の方法により調製された単離された生物学的標本の標本コレクションから採取された腫瘍不含組織、中心または周辺腫瘍組織の生化学的および/または生理学的状態を比較することにより、実験による調査で、例えば、遺伝子活性、発現パターン、発現プロファイル、活性化タンパク質、特に、細胞腫瘍因子、酵素などの分子的差異を証明することができる。
【0040】
例えば、マイクロアレイ分析で、例えば「バイオチップ」(DNAアレイまたはタンパク質アレイ)上で、単離された生物学的タンパク質標本の様々なDNA、RNAおよび/またはタンパク質活性を調査することができる。
【0041】
標準化条件下に調製された生物学的標本のこの比較から、がん性または代謝性疾患を治療する際に有効な化合物および/または薬物のために可能な作用部位を決定することができる。特に、本発明の方法により処理された複数の単離された生物学的標本を使用すると、実験結果の統計的確認が可能である。
【0042】
有利な発展展開では、単離された生物学的標本に、データセットを付与する。
【0043】
データセットには特に、単離された標本に関する情報が含まれる。一般には、保存の前またはその後に、単離された生物学的標本を、多くの切片に分け、この切片を、それぞれ別々に貯蔵する。次いで、例えば、タンパク質レベルおよび/またはmRNAレベルでの分子生物学的方法を使用して、いくつかの標本を分析することができる。これらのデータにより、遺伝子、mRNAおよび/またはタンパク質の活性または不活性の状態に関して言明することができる。これらのデータを使用して、単離された生物学的標本の活性プロファイルまたは発現プロファイルを作成することができる。
【0044】
単離された生物学的標本へのデータセットの付与は、例えば、コンピューター管理データベースでの個々の単離された生物学的標本の同定番号により行うことができる。
【0045】
好ましくは、データセットは、病歴、投薬、麻酔、手術法、臨床パラメーターおよび/または後療法データに関する情報をさらに含む。
【0046】
好ましくはこのデータセットは、患者から個々の生物学的標本を単離する前に、および/またはその後に得られた血液、便、尿、痰、髄液試料などの臨床化学的診断に関する情報を付加的に含む。したがって、データセットは、血液型、血液像、凝固値、腫瘍マーカー、肝臓値、腎臓値、血清電解質値などに関する情報を含んでもよい。
【0047】
加えて、データセットは、生物学的標本を単離する前および/またはその後に患者に投与された薬物に関する情報を含んでもよい。
【0048】
同様に、データセットは、病歴、例えば、食欲などの食事および生活習慣、嫌悪、アレルギー、以前の病気、小児疾患、感染病、熱帯病、初期がん性疾患、睡眠習慣、排便習慣、排尿習慣、アルコール、ニコチンおよび/または薬物の摂取、愁訴および健康状態、症状、薬物用量ならびに薬剤不耐性などに関する情報を含んでもよい。
【0049】
加えて、データセットは、その元々の環境から生物学的標本を除去する際に関わる時間列に関する情報を包含してもよい。好ましくは、時間列の始まりは、ヒトから組織を分離または切除する瞬間である。結腸組織標本を単離する場合には、生物学的標本の近位および遠位末端を分離する瞬間が、時間測定の出発点である。
【0050】
特に、単離された生物学的標本に関するさらなる情報、例えば、組織を単離した材料のサイズ、例えば、腫瘍サイズに関する事項を文書化することができる。
【0051】
次いで、前記で説明したように例えば液体窒素中で凍結処理することにより、単離された生物学的標本を保存し、そして、液体窒素下またはフリーザー内で、例えば約−80℃で貯蔵することができる。
【0052】
もしくは、単離された生物学的標本を先ず初めに、化学的に保存または固定し、望ましいならば、続いて、例えば液体窒素での処理により凍結処理にかけ、最後に、さらに使用するまで例えば、液体窒素下またはフリーザー内で、例えば約−80℃で貯蔵することができる。
【0053】
本発明の方法により、標準化条件下で処理された単離された生物学的標本のコレクションを作成することができ、その際、各単離された生物学的標本に、多数の臨床関連データを付与することができる。標準化標本と臨床関連データとの組合せは、有効成分または薬剤を研究するために極めて貴重である。
【0054】
好ましくは、本発明による標本コレクションは、単離された生物学的標本を100個よりも多く、好ましくは500個よりも多く、さらに好ましくは1000個よりも多く包含する。
【実施例1】
【0055】
単離された結腸組織のコレクションの作成
単離された生物学的標本のコレクションを作成するための本発明の方法を、単離された結腸腫瘍組織に関連して下記で説明する。しかしながら、本発明の方法は、結腸腫瘍組織または結腸組織に限定されるものではなく、他の体組織、例えば、気管支組織、乳組織などでも勿論実施することができる。
【0056】
単離された生物学的標本に付与するデータセットを作成するために、患者の病歴データおよびさらに臨床化学的パラメーター、例えば、血液、尿、髄液、痰などの分析だけでなく、生物学的標本を採取した瞬間までおよびそれを含む時間線も文書化した。そして、本発明の方法により標準化条件下に得られた標本を、標本コレクションを作成するために調製した。さらに、標本を採取した患者および標本自体の製造および単離された標本の分析データに関する多様な臨床関連情報を好ましくは、単離された生物学的標本に付与し、データセットの形態で蓄積する。
【0057】
したがって、一方では、極めて短時間内に、例えば、10分以内に標準化条件下に得られた多数の生物学的標本を、他方では、個々の標本に付与された特定の情報を、有効成分または薬物を研究するために利用することができる。
【0058】
異なる単離された組織標本、例えば、結腸組織標本、を用いる有効成分研究で得られた異なる結果は、他の利用可能な情報の背景に対するものと理解、説明および/または解釈することができる。本発明の方法を使用して作成された本発明の標本およびデータコレクションは特に、製薬産業で有効成分を研究するために、極めて貴重なツールである。
【0059】
下記の表1では、標本を単離する以前の時間の前には、マイナス記号が付されている。標本を採取するプロセスは、本発明の方法の部分ではない。正確には、本発明の方法は、生物学的標本の単離を行った直後から始まる。表1中では、単離以降の時間の前には、プラス記号が付されている。
【0060】
表1:結腸組織の標本を採取した瞬間からそれを保存するまでの時間列
時間 作用
−77分 患者の麻酔を開始
−61分 血液採取
−45分 手術の開始
−38分 尿採取
−14分 下腸間膜の結紮
−7分 下部弓を結紮
−5分 上部弓を結紮
−3分 切除物(結腸組織)の遠位末端を切断
0分 切除物の近位末端の分離後
+1分 剪刀を使用して、腸の経路に沿って、切除物を切り取るが、その際、腫瘍を好ましくは切開しない。
+1〜5分 切除物および腫瘍を好ましくは、デジタルカメラで撮影する。腫瘍の近接写真を作成する。
+5分 切除物および腫瘍から標本を採取する。標本は例えば、健康な組織、脂肪組織、周辺腫瘍組織および中心腫瘍組織を含む。健康な組織は、腫瘍から少なくとも5cm離れた位置で切除物から除去する。標本を、好ましくは約0.5cm3の容量を有する切片に分ける。分けた標本を、標本管に移す。
+10分 管内での標本の保存:
・液体窒素中で凍結させるか、
・3.5%濃度のホルムアルデヒド溶液10mlを加えるか、
・5.5wt%濃度のグルタルアルデヒド溶液10mlを加えることによる。
【0061】
好ましくは、単離された標本を分割することにより得られた標本の1/3をそれぞれ含む群を、前記の各保存方法により保存し、続いて、貯蔵する。ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドにより保存する場合には、生物学的標本を好ましくは室温(例えば25℃)で一定の期間、例えば、10時間または24時間放置する。保存溶液、即ち、ホルムアルデヒド溶液、グルタルアルデヒド溶液または液体窒素の添加を、本発明の手順の終了とする。
【実施例2】
【0062】
その元々の環境から単離した後の時間経過にわたる生物学的標本の変化の検出
本発明の方法の重要性の証明として、患者から除去した後の一定の時間間隔で、SELDI−MS(表面増強レーザー脱離イオン化質量分析)により、腸組織試料のタンパク質組成を調査した。
【0063】
結腸組織試料のSELDI−MS分析の結果を図1に示す。この試験では、標本を、患者から採取した3分、5分、8分、10分、15分、20分および30分後に液体窒素中で凍結させた。続いて、試料を、製造者(CIPHERGEN、ドイツ、ゲッティンゲン所在)の指示に従い処理し、SELDI−MSにより分析した。
【0064】
各ケースで得られた質量スペクトルを、図1に示す。質量スペクトルの右側の枠内に示される部分から、標本を採取した後の様々な時点での質量スペクトルを拡大して重ね合わせたものを得て、これを、質量スペクトルの右の囲みの中に示す。得られた質量スペクトルを示す前記の囲みの中に示されている重ね合わされた曲線に、液体窒素中で標本を凍結させた個々の時点を示す。
【0065】
単離された切除物、単離された結腸組織試料中のタンパク質組成は、切除から凍結までの間の数分内における時間に伴って変化することが、明らかに分かる。時間に伴うこの変化は、例えば酸素欠乏(低酸素)の結果としての、例えば、タンパク質レベルの制御過多および/または制御不足に帰することができる。
【0066】
これらの結果により、本発明の方法、即ち、生物学的標本のコレクションを作成する際に単離された生物学的標本の処理を標準化することの大きな重要性が確認される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】結腸組織試料のSELDI−MS分析による各ケースでの質量スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された生物学的標本のコレクションを作成する方法において、その元々の環境から標本を単離した後の一定の期間内に、単離された生物学的標本をそれぞれ保存し、次いで貯蔵し、その際、様々な標本を単離して、保存するまでの間の前記の一定の期間は、一定の最大偏差を有する方法。
【請求項2】
その元々の環境から単離した後、それを保存する前までの各生物学的標本の状態を記録および文書化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の生物学的標本は、一定の容量を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記の一定の期間からの前記の一定の最大偏差は、前記の一定の期間に対して約10%以下、好ましくは約5%以下であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記の一定の期間は、約25分未満、好ましくは約15分未満であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記の一定の期間は、約12分であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記の一定の期間は、約10分であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
凍結保存または化学的保存により、保存を行うことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記の化学的保存は、反応基を有する架橋剤の使用を伴うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記の架橋剤は、ホルムアルデヒド、ポリアルデヒド、好ましくはジアルデヒド、ポリエポキシド化合物、好ましくはジエポキシドおよび/またはトリエポキシド化合物ならびにこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記の単離された生物学的標本は、ヒト組織であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記のヒト組織は、腫瘍不含組織、腫瘍組織および/または脂肪組織であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記の腫瘍組織は、中心または周辺腫瘍組織であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記の標本に、データセットを付与することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記のデータセットには、病歴、投薬、麻酔、手術法、臨床パラメーターおよび/または後療法データに関する情報が含まれることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法により処理された単離された生物学的標本を含有する、生物学的標本のコレクション。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2006−511796(P2006−511796A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562492(P2004−562492)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/DE2003/004217
【国際公開番号】WO2004/058998
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505233479)インディヴュームド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Indivumed GmbH
【Fターム(参考)】