説明

生物学的組織上で光−熱−機械的作用を生じさせるための方法およびその装置

本発明は生物学的組織上で光−熱−機械的作用を実行するための方法、および前記作用を実行するための装置に関する。本発明の方法は生物学的組織を、特定の法則に従って空間的に形成され、予め決められたパラメータを有し、かつ前記領域(8)上で実行される同時の熱的および機械的作用を付随する或る光学波長範囲内の変調された放射によって照射する工程、生物学的組織の前記照射と同時に検査と診断のシステム(4)の補助で直接の光学的作用の領域とその直ぐの付近の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布を測定する工程、データ処理ユニット(7)によって光学放射の空間的形成のパラメータと変調のパラメータとの間、および生物学的組織との釣り合いをとる工程、および前記データ処理ユニットの補助で光学放射のパワーと時間的変調を制御するためのユニット(2)、光学放射を移送するため、および生物学的組織(8)の表面および体積内のその空間分布を形成するためのユニット(3)へと制御信号を送る工程で構成される。光学放射のパラメータは、生物学的組織上で実行される直接の作用の領域およびその向こう側の物理化学的および幾何学的特性の空間分布の連続測定される特性に従って照射が行なわれている間に検査と診断のシステム(4)の制御信号に従って調整される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医学に関し、特に生物学的組織をその構造および物理学的−化学的特性を局所的に修正することによって医学的に処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連する生物学的組織の変形および変質で、様々な疾病は外科的な方法によって大部分は治療され、それらの方法はその後に続く高レベルの外傷性障害、大量出血、痛み、麻酔の必要性、および長期の入院によって特徴付けられる。
【0003】
知られている最初の実験的研究(E.Helidonis、E.Sobol、G.Kavalos et al.,American Journal of Otolaryngology,1993,Vol.14,No.6,pp.410〜412)は型板を使用し、COレーザ発射による照射によってウサギ耳介軟骨組織の形状を変える方法を述べた。前記論文によると、厚さ0.4〜1mmで異なる初期的変形を有する軟骨組織のサンプル(屈曲したサンプルおよび真っ直ぐなサンプル)がウサギの耳から露出させられる。その後、初期に屈曲していた軟骨組織が外部からの機械的作用によって手作業で鉗子を使用して矯正され、直線的構造の組織サンプルが曲げられる。その後、針を使用してこれらのサンプルが木製の型板上に固定され、走査モードのCOレーザによって照射される。この技術は生きた生物への移植を意図され、前もって露出させられた軟骨組織の形状に着実な変化を与えた。しかし組織が生物の外に露出させられ、傷をつける器具が使用されるという事実のせいでこの技術は外傷性である。
【0004】
別の知られている参考文献(E.Helidonis,E.Sobol,G.Velegrakis,J.Bizakis,Laser in Medical Science,1994,Vol.6,pp.51〜54)によると、ヒトの鼻中隔およびウサギのそれから供給された軟骨組織の前もって露出させられたサンプルが型板およびCOレーザを使用した変形に晒された。組織が生理食塩水の中に保存されるとき、この方法は露出軟骨組織の形状を変える安定した結果を与える。この方法は再建外科に応用可能であり、軟骨組織は患者生体の外に露出させられ、その後、機械で処理され、レーザで処理され、引き続いて移植される。外傷を生じさせるそのような手術は極めて困難であり、さらに初期病状の再発の可能性を排除するものではない。引用された前記先行技術の参考文献で、露出軟骨組織は生物の外でレーザ照射に晒されたのでインヴィトロの実験の結果であることが理解されるはずである。
【0005】
ヒト鼻中隔軟骨の形状を修正するための鼻科手術を実施するための方法が知られている(RU特許第2114569号、07.09.93)。この特許に述べられた範例はヒト鼻中隔のCOレーザを使用する矯正を示している。
【0006】
前記方法によると、鼻中隔−粘膜の曲がった領域が分離され、軟骨板が矯正され、知られているクランプを使用して直線状態に保たれる。このクランプは普通、平坦に連続した分岐を有する二股の保持用鉗子を含み、この鉗子を使用して軟骨板が捕捉され、病状的変形と反対の方向に曲げられ、照射の時間全体にわたって保持される。そのとき、軟骨はCOレーザのビームを走査させることによって屈曲ラインに沿って照射され、走査の速度は0.03cm/sである。前記照射の後、クランプが取り外され、鼻中隔の修正された形状が目視で検査される。
【0007】
上述の臨床的試験は安定した結果を生じたが、それでもなお現実の医学的実践での前記技術の適切性は憶測である。この技術は軟骨照射過程全体にわたる監視に欠ける。使用される照射は50mc未満の深さで軟骨の中に浸透し、結果として表層の不可避の過熱、および軟骨膜の破壊につながる。この方法の臨床応用の引用された範例によると、粘膜と軟骨膜が分離され、そのような分離が結果として出血につながり、患者が苦痛を感じ、その後に萎縮の経過につながる可能性がある。
【0008】
やはり知られていることは、例えば、イヌの気管輪の形状をレーザ照射を使用して矯正するための方法である(Shapshay S.M.,Pankratov M.M.et al.,Ann.Otol.Rhinol.Laryngol.,1996,Vol.105,pp.176〜181)。この知られている方法は喉頭および気管の狭窄のケースで呼吸を改善するために使用され、気管の収縮した軟骨要素が内視鏡とCOレーザを使用して切開され、その後、同じ内視鏡を使用し、変形させられた軟骨組織が気管の収縮軟骨要素に沿って粘膜を通して1.44mcの波長を有するNd:YAGレーザで照射される。
【0009】
この方法は、特にアクセス困難な場所の軟骨の形状が矯正されるときの放射の供給および処理ゾーンの目視検査の実施の観点では好都合である。しかしこの方法は技術的に複雑であり、2つの連続したレーザ補助による処置を必要とする。さらに、軟骨組織の病状的変形領域のその正常な位置への移行は外部の大きな機械的処置を必要とする。そのような処置は機械的ブジーとして役立つ自在性の内視鏡を使用して実行される。前記内視鏡は十分な機械的強度および剛性を有しなければならない。しかし内視鏡の限られた機械的強度の見地で、この方法は最大で約1〜2mmの比較的小さい半径方向の変形を有する軟骨要素を拡張するためにのみ応用されることが可能である。
【0010】
この方法は環状要素の内部表面を横切る軟骨だけを照射することが可能であり、その一方で外側は照射のためにアクセスすることが不可能であり続ける。
【0011】
変形した軟骨の治療のための方法、およびそれを実行するための機器が知られており(特許出願WO 01/22863A2号、05.04.2001、IPC A61B、Sobol,et al.)、権利主張される技術的解決法に最も類似の関連方法である。
【0012】
この方法はレーザ補助による処置に基づいており、軟骨組織のパラメータのモニタとレーザ補助による処置のエネルギー・パラメータの変更を同時に行う。
【0013】
この方法の不都合は、軟骨組織の形状の変更の前向きの成果が狭い範囲のレーザ・パラメータの中で達成され、前記範囲を越える逸脱が結果として組織への損傷および変形の再発につながること、この方法に使用されるモニタ用システムが生物学的組織の総体的特性の測定に基づいていて前記特性の空間的不均一性を省略しており、この環境がレーザ補助による処置が終わるべき瞬間を選択する工程で誤りの原因になることにある。この方法の本質的な欠点はまた、レーザ補助による処置が向けられる領域に隣接する領域の生物学的組織の特性全体にわたる監視の欠如であり、この環境は周囲の組織が悪影響を受ける根拠を引き起こし、副作用の危険性を増大させる。そのうえさらに、この方法は損傷を受けた生物学的組織、例えば間接軟骨および椎間板の治療に応用されることが不可能である。
【0014】
レーザ補助による処置を使用してヘルニアの椎間板疾病を治療する(蒸発)のための方法が知られている(D.Choy DSJ,Case RB,Fielding W.Percutaneous laser nucleolysis of lumbar disc.New England Journal of Medicine,1987,317:771〜772)。
【0015】
この取り組み方の欠点は焼灼ゾーンに隣接する組織の不可避の過熱、および周囲の組織に悪影響を与える望ましくない作用から成り、この作用はそれ自体で粗い傷跡組織の形成で現れ、椎間板ヘルニアの従来式の手術切除と同様に、この方法は多くのケースで疾病の基本的要因である線維輪異常を除去し損なうために、疾病の再発の高い確率もやはり存在する。
【非特許文献1】E.Helidonis,E.Sobol,G.Kavalos et al.,American Journal of Otolaryngology,1993,Vol.14,No.6,pp.410〜412
【非特許文献2】E.Helidonis,E.Sobol,G.Velegrakis,J.Bizakis,Laser in Medical Science,1994,Vol.6,pp.51〜54
【特許文献1】RU特許第2114569号
【非特許文献3】Shapshay S.M.,Pankratov M.M.et al.,Ann.Otol.Rhinol.Laryngol.,1996,Vol.105,pp.176〜181
【特許文献2】特許出願WO 01/22863A2号
【非特許文献4】D.Choy DSJ,Case RB,Fielding W.Percutaneous laser nucleolysis of lumbar disc.New England Journal of Medicine,1987,317:771〜772
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、生物学的組織への変形および損傷に関連する疾病の、外傷を伴わない治療を保証するためのどのような効率的で安全な取り組み方も現在のところ存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記不都合および欠点は、生物学的組織上で光−熱−機械的(OTM)作用を生じさせるための本発明による方法によって、およびこの方法を実行するための装置を使用して取り除かれる。前記方法および装置は、生物学的組織内で空間的および時間的に変調された光照射によってそれらを照射することによって制御された温度の空間的−時間的不均一性および機械的応力の不均一性を作り出すように構成され、工夫される。
【0018】
光学放射の空間的−時間的変調(STM)は予め決められた法則に従って制御された放射パワーの空間分布の経時的な変化である。STMはレーザ放射のパルス周期的な性質およびレーザ・ビームの走査に関して知られている法則を有するが、しかしそれらとは光学放射の予め任意に決められた空間的−時間的分布で、およびその結果として光学的加熱および熱的応力の場の空間的および時間的特性を所定の法則に従って変える可能性で異なる、すなわちSTMは生物学的組織上にOTM作用を生じさせるさらに広い能力、特に温度および機械的応力の勾配を制御する能力を所有する。近年行なわれた研究が解明したように、生物学的組織の軟骨細胞、線維芽細胞、およびいくつかの他の細胞は外部からの機械的応力の場に応答し、および特に、細胞の生産および再生能力は外部からの機械的作用のパラメータに応じて促進または減退させられることが可能である。現在、生きた生物の細胞にいずれかの制御された局所性の熱的および機械的作用を与えるであろう方法は存在しない。作用の効果および結果の有効性および予測可能性を保証するために制御可能性の必要条件が要求される。周囲の組織への望ましくない作用を回避するため、および細胞が安全に処置されることを知ることの必要性のせいで局所性の必要条件は重要である。
【0019】
さらに、権利主張される方法およびそれを実行するための装置が生物学的組織内で、温度および熱−機械的応力の制御可能であって互いに一致した空間的−時間的不均一性の形成、ならびに音波の形成を与えることは留意されるべきである。
【0020】
生物学的組織上で生じさせられる局所的な熱の作用は局所的な微細構造の不可逆的変化、生物学的組織の「或る構造要素の局所的溶融」を実行することを必要とされ、この変化は機械的応力の緩和および組織内の残留応力の最適な不均一性の創出につながる。それが生じるとき、組織への機械的作用は権利主張される方法に従って特に生物細胞上に為され、この細胞が組織の再生過程に参画し、それから離れて、制御された熱的作用が医学治療の基礎を成すすべての物理的−化学的過程の速度を上げる。しかし組織の過熱は結果として直接作用ゾーンでの変性および破壊に結び付き、また、(局所性および安全性の原理とは反対に)このゾーンの外側での望ましくない結末にもつながる。
【0021】
生物学的組織への医学治療処置の長期的な結果は不可逆的な経過の完了の度合いである反応速度、およびまた、レーザ補助による処置が終わった後の残留応力の分布の両方に応じて決まる。残留応力の場は組織の再生、その後の肯定的な効果の達成および手順の安全性の保証のための細胞の活動に影響を与えるので、生物学的組織に影響する熱的および機械的作用は釣り合いをとられるべきである。
【0022】
本発明は生物学的組織上で光−熱−機械的作用を生じさせるための方法、およびそのための装置の提供を指向しており、この方法および装置は生物学的組織構造内で、制御された残留応力および不可逆的な変化の制御された空間的分布を作り出す方式によって、生物学的組織への変形および損傷と因果関係を有する疾病の外傷を伴わない治療への効率的で安全な手順を提供する。
【0023】
前記結果は生物学的組織上にOTM作用のための本発明の方法を応用することによって達成され、この方法は以下の工程、すなわち
・施術前の患者の検査に基づいて、OTM作用によって医学的に治療される領域内の生物学的組織の物理的−化学的および幾何学的特性が決定される工程と、
・必要であれば、医学的に治療される生物学的組織への機械的作用が生じさせられ、特に、予め決められた形状が前記領域に与えられる工程と、
・予め決められた法則に従って変調され、かつ空間的に形成され、予め規定されたパラメータを有する或る範囲内の光学波長の波動の放射によって前記生物学的組織が照射される工程であって、前記領域上で生じさせられる同時の熱的および機械的作用と結び付けて照射が実行される工程と、
・前記照射と同時に、生物学的組織の中で直接光学作用ゾーンとその外側の両方で物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の測定が実行される工程と、
・放射の空間的形成および光学放射変調のパラメータが相互に、および生物学的組織の前記特性と釣り合いをとられる工程と、
・前記特性の変化が施術前の処置工程での前記特性の測定値に関して決定される工程と、
・照射の過程の中で光学作用のパラメータが、生物学的組織上で生じさせられる直接作用の領域とその外側の両方で物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の連続的に測定された特性に応じて制御される工程と、
・いったん必要とされる物理的−化学的および幾何学的パラメータの空間分布の特性得られたとき、前記生物学的組織の照射が終了され、それが生じると、残留機械的応力の制御を確実化し、かつ生物学的組織構造の制御された不可逆的な修正の処理を供給するように生物学的組織への医学的OTM作用のパラメータが予め決定される工程、
の実施に基づいている。
【0024】
その際、この光学的範囲の波長での放射は0.1から11μmの範囲内のレーザ放射である。
レーザ放射はパルス化された性質または連続的な性質であることが可能である。
レーザ放射パワーの密度は1から1000W/cmの範囲内である。
生物学的組織の照射への暴露の持続時間は0.1秒〜30分の中から選択される。
【0025】
これが生じると、光学放射、例えばレーザ放射の空間的形成は以下の通り、すなわち
(a)生物学的組織の表面およびバルク内の放射パワー密度の予め決められた分布を形成する工程と、
(b)予め決められた法則に従って3つの軸に沿ってレーザ・ビームを走査させる工程と、
(c)工程(a)と(b)を組み合わせる工程である。
【0026】
生物学的組織上で生じさせられる直接作用の領域とその外側の両方の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の連続的に測定された特性に応じて生物学的組織の照射の過程の中で制御される光学放射のパラメータは放射波長、放射パワー、パワー密度と前記密度がそれに従って変化する空間的−時間的法則、およびレーザ放射の変調と空間的形成のパラメータ、例えば生物学的組織の表面およびバルク内の変調の深さと周波数、放射パワーの空間分布である。
【0027】
本発明によると変調の深さは1〜100%であり、変調周波数は1〜10Hzの帯域幅以内である。
【0028】
直接のレーザ補助による作用ゾーンとその外側の両方での物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の測定は生物学的組織の、前記領域の変調レーザ照射に対する応答を表わす信号のスペクトル組成を考慮に入れて為される。
【0029】
本発明の方法はさらに生物学的組織の、前記領域の変調レーザ照射に対する応答を表わす信号の振動の振幅および位相を測定する工程を含む。
【0030】
これらの環境下で、レーザ放射の変調周波数の予め決められる値は、生物学的組織が医学的に治療される領域内の機械的振動の共振周波数に一致するように選択される。
【0031】
さらに、必要であれば、生物学的組織の照射工程は生物学的組織、例えば医学的に治療される組織を覆う皮膚または粘膜への短時間の圧力の局所的な適用の工程によって先行される。
【0032】
本発明の第2の態様によると、生物学的組織上で医学的治療作用を生じさせるための装置であって、
・光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニットを有する光学放射供給源であって、光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置へと光学的に連結された供給源と、
・医学的に治療される生物学的組織およびそれに隣接する領域の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の決定を与えるモニタリング−診断システムとを有し、
・モニタリング−診断システムが光学放射供給源、光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット、光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置それぞれへと連結される装置が提供される。
【0033】
前記装置では、光学放射供給源はレーザ放射供給源を含む。
このレーザ放射供給源は0.1〜11μmの範囲内のレーザ放射を発生する。
【0034】
このモニタリング−診断システムは、医学的治療領域およびそれの直ぐ隣りの両方の生物学的組織の特性を測定するための少なくとも1つの生物学的組織状態センサであって、照射の過程の中で光学放射パラメータを制御するための制御信号を発生するデータ処理ユニットへと接続されたセンサ、およびまた、データの可視化および表示用の装置を有する。
【0035】
ここではモニタリング−診断システム内の少なくとも1つの生物学的組織状態センサは温度、生物学的組織内の水分濃度、機械的応力、光散乱特性、音のスピード、光波−音波減衰定数、生物学的組織の幾何学的寸法といった生物学的組織の物理的−化学的および幾何学的特性を測定する。
【0036】
少なくとも1つの生物学的組織状態センサから到達する信号に基づいてモニタリング−診断システムから供給される信号を処理するためのユニットは光学放射供給源、光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット、光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置それぞれへと制御信号を供給する。
【0037】
光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニットは電気−光変調器または音響−光変調器、または機械的変調器として導入される。
【0038】
さらに、光学放射の変調はポンプ・パワー、例えばレーザ放射供給源のそれを変えることによって実施される。
【0039】
光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置は、両方共に相互に光学的に結び付けられた成形用光学系および電気−光スキャナとして導入される。
【0040】
光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置は、両方共に相互に光学的に結び付けられた成形用光学系およびラスタ・システムとして導入される。
【0041】
前記成形用光学系は光学放射供給源から生物学的組織へとレーザ放射を供給する光ファイバあるいはレンズとミラーのシステムの区分として導入される。
【0042】
本発明のデータ可視化および表示用装置は、例えば、生物学的組織を表示するための内視鏡またはディスプレイとして、あるいは光コヒーレント・トモグラフとして導入される。
【0043】
このデータ可視化および表示用装置は生物学的組織の幾何学的特性の測定を実行する。
フィードバックは、時間的に変調されたレーザ放射に対する生物学的組織の光−熱的応答に基づいてモニタリング−診断システムによって実行される。
【0044】
フィードバックはまた、レーザの変調された作用に応答する生物学的組織の信号のスペクトル組成の分析に基づいてモニタリング−診断システムによって実行される。
フィードバックは、レーザの変調された作用に応答する生物学的組織の信号の振幅と位相の分析に基づいてモニタリング−診断システムによって実行される。
【0045】
レーザ放射の変調の時間的法則、特に振幅、深さ、周波数、および変調モードは施術前の診断データに従ってモニタリング−診断システムによって決定され、レーザ補助による処置の過程で前記モニタリング−診断システムからの制御信号に基づいて更新される。
【0046】
レーザ放射の空間分布の形成に関する法則は施術前の診断データに従って決定され、レーザ補助による処置の過程でモニタリング−診断システムからの制御信号に基づいて更新される。
【0047】
走査処理またはレーザ放射の空間分布のパラメータは施術前の診断データに従って決定され、レーザ補助による処置の過程でモニタリング−診断システムからの制御信号に基づいて更新される。
【0048】
前記装置では、レーザ放射の変調および空間分布に関する法則の釣り合いは施術前の診断データに基づいてとられ、レーザ補助による処置の過程でモニタリング−診断システムの信号に基づいて前記法則が更新される。
【0049】
さらに、前記装置では、生物学的組織の表面およびバルク内の予め決められた空間分布に適合して作り出された変調レーザ放射に対する生物学的組織の光−音響応答に基づいてフィードバックが実行される。
【0050】
フィードバックはまた、生物学的組織の表面およびバルク内の予め決められた空間分布に従って作り出された変調レーザ放射に対する生物学的組織の光−電気応答に基づいて実行される。
【0051】
フィードバックはまた、生物学的組織の表面およびバルク内の予め決められた空間分布に従って変調され、かつ作り出されたレーザ放射によって生じさせられる作用に組織が晒されるときに生じる生物学的組織の光学特性の変化のモニタリングに基づいて実行される。
【0052】
本発明の装置では、モニタリング−診断システム内の少なくとも1つの生物学的組織状態センサは外科器具を使用して生物学的組織の中に直接位置決めされることが可能である。
【0053】
権利主張される方法および装置はしたがって、
・医学的治療の効果が達成される温度を下げること、生じさせられる作用の受容可能なモードの幅を広げること、(特に脊柱の疾病の治療のために)医術での本方法の安全な使用の場を広げること、
・特に(機械的および音響的)振動の効果およびそれに伴って現れる共振によって生物学的組織上に生じさせられる医学的な光−熱−機械的作用を最適化(促進)すること、
・フィードバック・システムの動作の精度および信頼性を向上させること、
・周囲の組織への望ましくない作用を回避し、複雑かつ望ましくない副作用の発生を減少させるかまたは完全に除外することを可能にする。
【0054】
本発明の重要な特徴は、レーザ放射の変調の使用が、変調された作用に対する生物学的組織の応答を正確に記録するであろうモニタリング−診断システムの動作を基本的に修正することを可能にすることにある。ここでは、OTM応答を記録する可能性は応答スペクトルの組成、その位相を分析し、例えば特許出願WO 01/22863A2号によるケースのように信号の振幅が提供されるばかりではない。
本発明が下記で図面を参照しながら実施形態の範例によって説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
下記では、本装置によって実行され、やはり本発明の目的でもある光−熱−機械的作用を生じさせるための方法が述べられる。
【0056】
前記方法およびそれを実行するための装置は図1に関連して述べられる。生物学的組織上で医学的作用を生じさせるための図1による装置は光学放射の供給源1、光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット2、光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置3、モニタリング−診断システム4を有し、前記システムがデータ可視化および表示用装置5、少なくとも1つの生物学的組織状態センサ6、データ処理ユニット7を有し、医学的に治療される生物学的組織は参照番号8を有する。
【0057】
光学放射供給源1はレーザ放射供給源であり、時間的に変調された出力パワーを有するパルス周期型供給源および連続放射型供給源の両方として導入されることが可能である。これは、例えば、1.32μmの波長を有するパルス周期型Nd:YAGレーザ、または周期的に変調された放射を波長1.56μmで発射する連続的なファイバ・レーザであることが可能である。
【0058】
光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット2はレーザ励起システムの内部構成要素、およびレーザに直接連結されない外部ユニットの両方であることが可能である。前者のケースでは、例えば電源電圧の変調によってレーザのポンプ・パワーを変調することで放射が変調される。後者のケースでは、例えば電気−光変調器、音響−光変調器(断続装置)を使用して放射が変調されることが可能である。
【0059】
光学放射を伝達し、生物学的組織の表面およびバルク内に光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置3は2つのタイプで導入されることが可能である。第1のタイプは3つの軸に沿って生物学的組織を横切るレーザ・ビームの周期的もしくは非周期的走査を使用する。このタイプでは、走査の周波数および振幅は組織上で作用が生じさせられるための最適の条件を与えるように変えることが可能である。スキャナとして、例えば電気−光スキャナが使用されることが可能である。
【0060】
第2のタイプでは、光学系(例えばラスタ・システム)を使用し、特に空間的に変調された(例えば空間にわたって周期的に変わる)放射によって予め決められたスポットを横切るパワー密度の分布を有するレーザ・スポットが生物学的組織上に形成される。このレーザ放射はレンズとミラーのシステムまたは光ファイバの区分として導入される成形用光学系を使用して放射供給源(1)から生物学的組織へと移送される。
【0061】
モニタリング−診断システム4は、例えばディスプレイまたは光コヒーレント・トモグラフを設けられた内視鏡として導入されるデータ可視化および表示用装置5、少なくとも1つの生物学的組織状態センサ6、および少なくとも1つの生物学的組織状態センサからの信号に基づいて光学放射供給源1、光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット2、光学放射を供給し、かつ光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置3のための制御命令を発生するデータ処理ユニット7で構成される。
【0062】
(複数の)生物学的組織状態センサ6はOTM作用を受ける生物学的組織の物理的−化学的特性の変化を記録する装置であり、適用される医学的作用のタイプ、医学的に治療される生物学的組織のタイプ、局在性、および寸法に応じて、それらは特別にあつらえた温度、音響信号の振幅、位相および周波数のセンサ、機械的応力センサ、振幅、位相および周波数のセンサ、ならびに散乱光の空間分布のそれら、照射される生物学的組織の水分濃度のセンサであることが可能である。
【0063】
データ処理ユニット(7)は少なくとも1つのコンピュータ回路基板、例えばIntel Pentium(登録商標)2プロセッサ、オーディオ・カードDC−XG Legacy Sound System、またはコンピュータと一体化され、かつモニタリング−診断システムのセンサ(6)からの信号を処理すること、および光学放射供給源(1)、光学放射およびパワー時間的変調を制御するためのユニット(2)、光学放射を移送し、かつパワー密度の空間分布を形成するための装置(3)のための制御信号を特定のアルゴリズムに適合して形成し、それにより、前記ユニットおよび装置が放射のパワー、変調のパラメータ、および生物学的組織の表面およびバルク内の光学放射パワー密度の空間分布を修正するかまたはレーザをオフに切り換えることを意図された仮想多チャンネル・オシログラフとして導入されることが可能である。
【0064】
光学放射供給源1からの放射は、施術前の検査データに基づいて光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット2を使用して時間的に変調され、光学放射を移送し、かつパワー密度の空間分布を形成するための装置3を使用して作り出され、照射対象の生物学的組織へと供給される。少なくとも1つの生物学的組織状態センサ6は、生物学的組織の状態の情報の最適な入手を確実化するように照射対象の組織に隣接して、またはそれと直接接触して固定される。
【0065】
本発明の方法による生物学的組織上にOTM作用を生じさせるための方法は以下のように実行される。医学的に治療されるべき所定の生物学的組織の領域が、例えばデータ可視化および表示用装置5を使用して、あるいは施術前の患者のトモグラフィ検査のデータに基づいて事前に規定される。その後、モニタリング−診断システム4の(複数の)生物学的組織状態センサ(6)が配置され、医学的治療領域内の生物学的組織の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布を決定するために前記モニタリング−診断システムがオンに切り換えられ、例えば機械的応力の空間分布が応力測定用マイクロデバイスによって測定され、音響振動減衰定数が光波−音波の励起中に低強度の変調レーザ補助による作用(パワー密度は0.01〜0.5W/cm)を生じさせる方式で測定され、この強度ではレーザ補助による作用ゾーンの温度変化は1Kを超えないであろう。生物学的組織の温度の空間分布は、例えば微小熱電対および走査型赤外線撮像器を使用して測定される。医学的に治療される生物学的組織の領域の幾何学的特性(形状およびサイズ)はデータ可視化および表示用装置5を使用して、例えば光コヒーレント・トモグラフを使用して決定される。生物学的組織構造の不均一性の空間分布は、例えば光コヒーレント・トモグラフを使用して決定される。
【0066】
その後、施術前の患者の検査データがデータ処理装置7を使用して処理され、この装置は予め決められたアルゴリズムに基づいてレーザによる照射の初期のパラメータに関して提案を出す。特に、レーザ・スポットの形状とサイズ、および走査の規則は医学的に治療される生物学的組織内の幾何学的特性および応力の空間分布に従って選択される。光学放射の変調周波数の予め決定される値は、例えば医学的に治療される生物学的組織内の機械的振動の共振周波数に一致するように決定される。その後、レーザ放射のパラメータが決定され、例えば波長は1.5μm、レーザ供給源のパワーは2W、レーザ放射のスポット形状は例えば直径1mmの円形、変調周波数は26Hz、変調の深さは80%、放射の規則は(3つの軸に沿った)空間および時間にわたる走査にされる。
【0067】
もしも治療されるものが変形した軟骨組織であれば、医学的に治療される組織は外科器具を使用する機械的作用によって、必要であれば予め規定された形状を与えられる。
【0068】
所望されれば、局所的な圧力を生物学的組織、例えば医学的に治療される生物学的組織を覆う皮膚または粘膜に加えるために機械的工具もやはり使用される。そのような局所的圧力の適用はOTM作用の安全性を向上させる。前記圧力が加えられるので水分濃度が局所的に低下し、したがって、放射の吸収係数が前記生物学的組織の表面近傍の層で局所的に減衰し、それが医学的に治療される生物学的組織のバルクへの温度の移動を最大で与え、皮膚の表層、粘膜、および軟骨膜の過熱および損傷を防止する。
【0069】
本発明に従って生物学的組織上でOTM作用を生じさせるための装置は以下のように操作される。
【0070】
光学放射パワーおよび時間的変調を制御するためのユニット2を使用して(例えば音響−光変調器を使用して)放射供給源1からの光学放射、例えばレーザ放射が時間的に変調され、光学的成形システムを使用して、例えば光ファイバを使用して前記放射が、生物学的組織の照射対象領域の表面の近く(5〜10mmの距離)に配置された光学放射パワー密度の空間分布形成用の例えばマイクロレンズ光学ラスタである装置3へと供給される。レーザ放射による生物学的組織の加熱は結果として、温度の場、応力の場、およびレーザ放射散乱の図といった幾何学的および物理的−化学的特性であってデータ可視化および表示用装置5、例えばIMALUXタイプの光コヒーレント・トモグラフによって、センサ6、例えば走査型IR放射計もしくは抵抗応力計に基づく応力測定用マイクロデバイスによって、あるいは光学的多チャンネル・アナライザ、例えばMORS−11によって連続的にモニタされる特性の空間分布の変化につながる。
【0071】
センサ6およびデータ可視化および表示用装置5から出る信号は連続的にデータ処理ユニット7へと出力され、そこで信号は処理され、連続的な視覚モニタリング用のビデオ・ディスプレイへと供給されることで照射された組織の特性全体にわたる視覚監視を可能にし、かつ照射パラメータの手動制御を可能にする。同時に、センサ6およびデータ可視化および表示用装置5から得た信号に基づいて、データ処理ユニット7はパワー、時間的変調のパラメータ、および光学放射パワー密度の空間分布のパラメータを修正するように光学放射パワーおよび時間的変調の制御装置2、および光学放射を供給し、かつ空間分布を形成するための装置3のために特定のアルゴリズムに従って命令を作り出し、また、照射対象の生物学的組織の要求される特性が達成されるとき、例えば鼻中隔軟骨の温度が70℃に達するときに光学供給源放射をオフに切り換える命令も作り出す。
【0072】
これ以降、生物学的組織上でOTM作用を生じさせるための方法がその実施形態の以下の特定の実施例を参照しながら述べられる。
【実施例1】
【0073】
椎間板ヘルニアの除去のための手術を受けて1年後に脊柱の腰の部分に痛みを訴えている男性患者49歳が診療所に委託された。コンピュータ・トモグラフィおよび椎間板造影法を含めた施術前の検査が脊柱の不安定性の存在、および手術された椎間板の線維輪の異常の存在を解明した。
【0074】
前記病状を治療するために、異常の最初の立体配置と寸法が決定され、直径1.6mmの針を通して椎間板の中に挿入された歪み測定用マイクロデバイスを使用して線維輪の領域の機械的応力の分布が決定された。Erガラス・ファイバ・レーザがレーザ放射供給源として選択され、1.56μmの波長、0.2〜5Wの放射パワーを有し、前記レーザでは、放射は1〜80Hzの帯域幅の中の周波数で50〜100%の深さに変調された。施術前の診断データに基づいてレーザ放射の以下の初期パラメータ、すなわちレーザ供給源パワー0.9W、変調周波数5Hz、変調深さ80%が選択された。局部麻酔(ノボカイン注射)が使用された。25cmの長さで1.2mmの外径を有する金属針の中に挿入された直径600μmの光ファイバ導波路を通して放射が供給された。
施術の過程で、モニタリング・システムの以下の2つのセンサが使用された。
【0075】
すなわち変調レーザ放射作用に対する生物学的組織の光−音響応答を測定するための音響センサ、および温度測定のための微小熱電対である。両方のセンサは長さ25cm、直径2mmの第2の金属針上に設置され、この針が第1の針に関して30度の角度で椎間板に挿入され、放射中に5秒毎に0.5mmのピッチで新たな位置へと動かされた。両方の針の位置および作用領域が内視鏡システムを使用して可視化された。線維輪構造内の変化が光コヒーレント・トモグラフを使用して記録された。作用を生じさせた合計時間は160秒であった。神経管の近くの線維輪の温度上昇が1.2℃を超えず、それにより、そのような低い上昇がOTM治療の安全性を保証することを温度測定が示した。処置が終わった後に脊柱領域の痛みはただちに和らげられた。上述の治療の後の3および9ヶ月後にトモグラフ、椎間板造影法を使用し、音波の伝搬スピードを測定する技術によって行なわれた比較対照検査は、軟骨組織によって繊維輪が大いに成長したことを示した。このようにして、損傷を受けた椎間板の線維輪への変調レーザ補助による作用によって生じさせられるOTM作用モードの正確な選択は線維輪構造の制御された不可逆的な矯正の過程を可能にし、結果として所望の安定した医学的効果を与え、痛みが取り除かれて脊柱は安定になった。
【実施例2】
【0076】
鼻の形状のある程度の美的不具合を取り除くことを求める女性患者55歳が診療所に委託された。内視鏡および光コヒーレント・トモグラフを含めたデータ可視化および表示用装置を使用する施術前検査は鼻の骨の部分には何ら病状が無く、鼻翼の軟骨板の屈曲を示した。
【0077】
パルス周期型のNd:YAG固体レーザがレーザ放射供給源として選択され、以下の特性を有した。すなわち波長1.32μm、平均放射パワー0.3〜5W、パルス持続時間1ms、パルス連続周波数10〜700Hzであった。放射の空間分布単位は直径0.4〜3mm、間隔0.5から10mmの距離を有する円形スポットの形に放射を焦点集束するように構成された。放射は0.1〜20cm/sの速度で3つの軸に沿って走査された。
【0078】
散乱放射の位相および微小熱電対の信号がフィードバック信号として使用された。0.68μmの波長を有するダイオード・レーザによって供給される低強度の光源で鼻翼が追加的に照射された。外科器具を使用して2つの対称に位置する鼻翼の軟骨が新たな予め決められた形状を与えられ、それが手術による露出を伴うことなく鼻翼内で滑らかな軟骨の曲率を与えた。光ファイバおよび光学ラスタ・システムを通して20Hzの周波数で2つの軟骨板がレーザ放射パルスによって交互に照射された。照射の最初の12秒の間ではレーザ照射のパワーは2.5Wであり、その後、加熱された軟骨の温度が52℃で安定になったことを示す微小熱電対の信号が受信された後、パワーが4.4Wに上げられた。光散乱信号の位相の180度の変化が加熱された軟骨の応力緩和の処理の完了を立証するようにモニタリング−診断システムが信号を出力した後、レーザはオフに切り換えられた。2つの異なる軟骨板に関して、4.4Wのレーザ・パワーによる加熱時間はそれぞれ4.2秒と5.1秒であり、68℃の同じ温度に達した。光コヒーレント・トモグラフィを使用し、かつ術後直ぐおよび6ヵ月後に実施された術後の診断は、粘膜および他の隣接組織への目に見える損傷を伴うことなく両方の鼻翼の新たに与えられた構造の安定性を示した。このようにして、時間的に変調され、かつ空間的に形成されたレーザの補助を伴う作用による変形鼻翼の軟骨板へのOTM作用の選択されたモードは制御された不可逆的な矯正の過程を与え、結果として望ましい美容効果につながり、変形鼻翼は予め決められた形状を獲得した。
【実施例3】
【0079】
鼻呼吸に困難を訴える青年13歳が診療所に委託された。内視鏡視認システムおよび光コヒーレント・トモグラフの使用を伴う施術前の検査は骨組織の病的変化を伴うことなく鼻の外傷に起因して現れた鼻中隔軟骨部分の屈曲を示した。
【0080】
1.56μmの波長、0.2〜5Wの放射パワー、放射の365Hzで深さ30%の初期の変調を有するErガラス・ファイバ・レーザがレーザ放射として選択された。
【0081】
光−音響センサおよび歪み測定用マイクロデバイスを基本とするモニタリング−診断システムが使用された。0.1Wの下げられたパワー・レベルおよび直径1mmのスポットを有するレーザ源が使用され、医学的に治療される軟骨組織領域に0.1Hzの周波数および5cmの振幅で直線的に走査された。その際、光−音響センサ信号の振幅の空間分布が測定され、前記分布に基づいてデータ処理装置(図1では7)が初期のレーザ・パワーの空間分布を選択した。その結果、軟骨が照射される粘膜表面上のレーザ・スポットは軟骨成長ゾーンから5mmの距離で軟骨板屈曲線に沿って延びる28mmの長さで0.3mmの幅の細長片の形に選択された。この細長片は軟骨板の過熱の回避を確実化した。予め決められた鼻中隔の形状を矯正および固定する工程、ならびに医学治療領域内の軟骨組織を覆う粘膜上へ圧力を加える工程は外科器具を使用して実行された。レーザ補助による加熱は4.5Wのレーザ放射パワーで6秒間行なわれた。鼻中隔の残留応力の空間的不均一性が10%のレベルに達したことを示す応力測定用マイクロデバイスの信号の受信後にレーザはオフに切り換えられた。前記不均一性の特徴的間隔は300μmであり、この値は軟骨組織の活性細胞(軟骨細胞)の間の特徴的距離と相関があった。応用麻酔の使用を伴う手術の経過の中で、患者はどのような痛みも感じることなく、手術が終了した後の30分後に診療所を独力で去った。照射の直後、および3ヵ月後と9ヵ月後にもやはり行われたトモグラフィおよび鼻鏡による検査は鼻中隔軟骨の新たに与えられた形状の安定性および鼻の両方の気道を経由する空気流の均等を示した。光コヒーレント・トモグラフィは鼻中隔に隣接する粘膜および軟骨膜にどのような損傷も見出さなかった。このようにして、時間的に変調され、かつ空間的に形成されたレーザの補助を伴う作用によって鼻中隔の変形軟骨にもたらされたOTM作用の選択されたモードは軟骨組織内に残留応力の制御された不均一性を与え、それが結果として望ましい医学的効果、すなわち鼻中隔の矯正および正常な呼吸の回復につながった。さらに、レーザの補助によるOTM作用の間に軟骨の成長ゾーンが影響を受けることはなかったので軟骨形状の修復の安全性は確認された。この環境は従来式の外傷を伴う手術の後遺症として現れる可能性の高いいずれの発達異常および不均衡も回避する。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は制御された光−熱−機械的作用を生物学的組織の温度、応力、および構造の空間的不均一性の上に生じさせるための新たな方法を提供する。生物学的組織上に光−熱−機械的作用を生じさせるための権利主張される方法、およびそのための装置は医療の様々な分野、特に軟骨組織の形状を修正するための耳鼻咽喉科と美容業、角膜を修正するための眼科、関節および椎間板の疾病の治療のための整形外科および脊椎手術で適切に使用されることが可能である。
【0083】
図面の項目
1 レーザ放射供給源
2 パラメータを制御し、放射を変調するためのユニット
3 放射の空間分布を移送および形成するためのユニット
4 モニタリング−診断システム
5 データ可視化および表示用装置
6 (複数の)生物学的組織状態センサ
7 データ処理ユニット
8 生物学的組織上で医学的作用が生じさせられる領域
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】生物学的組織上に作用する光−熱−機械的作用を生じさせるための権利主張される方法を例証するために、前記生物学的組織上で医学的作用を生じさせるための装置を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的組織上に光−熱−機械的(OTM)医療作用を生じさせるための方法であって、
施術前の患者の検査に基づいて、OTM作用によって医学的に治療される領域内の前記生物学的組織の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布が決定される工程と、
必要であれば、予め決められた形状が前記医学的に治療される生物学的組織に、その上で生じさせられる機械的作用によって与えられる工程と、
予め決められた法則に従って変調され、かつ空間的に形成され、予め規定されたパラメータを有する或る範囲内の光学波長の放射によって前記生物学的組織が照射される工程であって、前記領域上で生じさせられる同時の熱的および機械的作用と結び付けて前記照射が実行される工程と、
前記生物学的組織の前記照射と同時に、直接的光学作用ゾーンと前記領域に隣接するゾーンの両方で物理的−化学的および幾何学的特性の前記空間分布の測定が実行される工程と、
前記放射の空間的形成および前記光学放射の変調のパラメータが相互に、および前記生物学的組織の前記特性と釣り合いをとられる工程と、
前記特性の変化が前記施術前の処置工程での前記特性の測定値に関して決定される工程と、
照射の過程の中で前記光学放射のパラメータが、前記生物学的組織上で生じさせられる直接作用の領域とその直接隣接するゾーンの両方で物理的−化学的および幾何学的特性の前記空間分布の連続的に測定された特性に応じて制御される工程と、
いったん必要とされる物理的−化学的および幾何学的パラメータの前記空間分布の特性が得られたとき、前記生物学的組織の照射が終了され、それが生じると、残留機械的応力の制御を可能にし、かつ前記生物学的組織の構造の制御された不可逆的な修正の処理を供給するように前記生物学的組織への前記医学的OTM作用のパラメータが予め決定される工程とを含む方法。
【請求項2】
光学波長の前記範囲での前記放射が0.1〜11μmの範囲内で発射されるレーザ放射である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ放射がパルス化されるかまたは連続的な放射である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レーザ放射パワー密度が1〜1000W/cmの範囲内である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザ放射による前記生物学的組織の照射の持続時間が0.1秒〜30分の範囲内で選択される、請求項1、2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記光学放射、例えば前記レーザ放射の前記空間的形成が、
(a)前記生物学的組織の表面およびバルク内の放射パワー密度の予め決められた分布を形成する工程と、
(b)予め決められた法則に従って3つの軸に沿ってレーザ・ビームを走査させる工程と、
(c)工程(a)と(b)を組み合わせる工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的組織上に生じさせられる直接的作用の領域とその外側の両方の物理的−化学的および幾何学的特性の前記空間分布の連続的に測定される特性に応じて、前記生物学的組織の照射の過程の中で調整される前記光学放射のパラメータが放射波長、放射パワー、パワー密度と前記密度がそれに従って変化する空間的−時間的法則、および前記レーザ放射の変調と空間的形成のパラメータ、例えば前記生物学的組織の前記表面および前記バルク内の変調の深さと変調周波数、および放射パワーの空間分布である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
変調の深さが1〜100%の範囲内であり、変調周波数が1〜10Hzの帯域幅以内である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
直接のレーザ補助による作用のゾーンとその外側の両方の物理的−化学的および幾何学的特性の前記空間分布の前記測定が、前記生物学的組織の変調レーザ照射に応答する前記領域からの信号のスペクトル組成を考慮に入れて為される、請求項1、2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物学的組織の前記変調レーザ照射に応答する前記領域からの信号の振動の振幅と位相を測定する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
レーザ放射の変調周波数の予め決められる値が、前記生物学的組織が医学治療を受ける前記領域内の機械的振動の共振周波数と一致するように選択される、請求項1、8に記載の方法。
【請求項12】
必要であれば、前記生物学的組織の照射工程が生物学的組織、例えば医学的に治療される生物学的組織を覆う皮膚または粘膜への短時間の圧力の局所的な適用の工程によって先行される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
生物学的組織の医学治療のための装置であって、
光学放射のパワーと時間的変調の制御ユニットを有し、前記光学放射を移送するため、および生物学的組織の表面およびバルク内の光学放射パワー密度の空間分布を形成するための装置、および医学的に治療される生物学的組織とそれに隣接する領域の物理的−化学的および幾何学的特性の空間分布の決定を与えるモニタリング−診断システムに光学的に結び付けられた光学放射の供給源を含み、前記モニタリング−診断システムが前記光学放射の供給源、前記光学放射のパワーと時間的変調の制御ユニット、前記光学放射を移送するため、および前記生物学的組織の前記表面およびバルク内の前記光学放射パワー密度の前記空間分布を形成するための前記装置それぞれへと接続される装置。
【請求項14】
前記光学放射の供給源がレーザ放射の供給源である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記レーザ放射の供給源が0.1〜11μmの範囲内のレーザ放射を発生する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記モニタリング−診断システムが、医学的作用に晒される領域およびその近辺での前記生物学的組織の特性を測定するための少なくとも1つの生物学的組織状態センサを有し、このセンサが、照射の過程の中で前記光学放射のパラメータを制御するように制御信号を発生するデータ処理ユニット、およびデータ可視化および表示用装置へと接続される、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記モニタリング−診断システムの少なくとも1つの生物学的組織状態センサが生物学的組織の温度、前記生物学的組織内の水分濃度、機械的応力、光散乱特性、音のスピード、光波−音波減衰定数、前記生物学的組織の幾何学的寸法といった前記生物学的組織の物理的−化学的および幾何学的特性を測定する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
少なくとも1つの生物学的組織状態センサから到着する信号に基づいて前記モニタリング−診断システムの前記信号処理ユニットが前記光学放射の供給源、前記光学放射のパワーと時間的変調の制御ユニット、前記光学放射を移送するため、および前記生物学的組織の前記表面およびバルク内の前記光学放射パワー密度の前記空間分布を形成するための前記装置それぞれへと制御信号を供給する、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記光学放射のパワーと時間的変調の制御ユニットが電気−光変調器もしくは音響−光変調器、あるいは機械的変調器として導入される、請求項13に記載の装置。
【請求項20】
前記光学放射が、例えばレーザ放射供給源のポンピング・パワーを変えることによって変調される、請求項13に記載の装置。
【請求項21】
前記光学放射を移送するため、および前記生物学的組織の前記表面およびバルク内の前記光学放射パワー密度の前記空間分布を形成するための前記装置が、両方共に相互に光学的に結び付けられた成形用光学系および電気−光スキャナとして導入される、請求項13に記載の装置。
【請求項22】
前記光学放射を移送するため、および前記生物学的組織の前記表面およびバルク内の前記光学放射パワー密度の前記空間分布を形成するための前記装置が、両方共に相互に光学的に結び付けられた成形用光学系およびラスタ・システムとして導入される、請求項13に記載の装置。
【請求項23】
前記成形用光学系が、前記光学放射の供給源から前記生物学的組織へと前記レーザ放射を供給する光ファイバもしくはレンズとミラーのシステムの区分として導入される、請求項21、22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記データ可視化および表示用装置が、例えば前記生物学的組織を表示するための内視鏡とディスプレイ、またはコヒーレント・トモグラフとして導入される、請求項16に記載の装置。
【請求項25】
前記データ可視化および表示用装置が前記生物学的組織の幾何学的特性を測定するように構成される、請求項16に記載の装置。
【請求項26】
前記生物学的組織によって作り出される時間的に変調されたレーザ放射への光−熱的応答に基づいて、前記モニタリング−診断システムによってフィードバックが実行される、請求項16に記載の装置。
【請求項27】
変調されたレーザの補助による作用に応答する生物学的組織の信号のスペクトル分布の分析に基づいて、前記モニタリング−診断システムによってフィードバックが実行される、請求項13に記載の装置。
【請求項28】
変調されたレーザの補助による作用に応答する生物学的組織の信号の振幅と位相の分析に基づいて、前記モニタリング−診断システムによってフィードバックが実行される、請求項13に記載の装置。
【請求項29】
前記レーザ放射の変調の時間的法則、特に変調振幅、変調深さ、変調周波数、および変調モードが施術前の診断データに従って前記モニタリング−診断システムによって決定され、レーザの補助による作用の過程の中で前記モニタリング−診断システムの制御信号に基づいて更新される、請求項13に記載の装置。
【請求項30】
前記レーザ放射の空間分布の形成のための法則が施術前の診断データに従って決定され、レーザの補助による作用の過程の中で前記モニタリング−診断システムの制御信号に基づいて更新される、請求項13に記載の装置。
【請求項31】
前記レーザ放射を走査させる処理のパラメータが施術前の診断データに従って決定され、レーザの補助による作用の過程の中で前記モニタリング−診断システムの制御信号に基づいて更新される、請求項13、14、および16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項32】
前記レーザ放射の変調に関する法則と空間的形成に関する法則の釣り合いが施術前の診断データに基づいて与えられ、レーザの補助による作用の過程の中で前記モニタリング・システムの信号に基づいて前記法則が更新される、請求項13に記載の装置。
【請求項33】
生物学的組織の表面およびバルク内で予め決められた空間分布に適合して作り出される変調レーザ放射に対する前記生物学的組織の光−音響応答に基づいてフィードバックが実行される、請求項13に記載の装置。
【請求項34】
前記生物学的組織の表面およびバルク内で予め決められた空間分布に従って作り出される変調レーザ放射に対する前記生物学的組織の光−電気応答に基づいてフィードバックが実行される、請求項13に記載の装置。
【請求項35】
前記生物学的組織の表面およびバルク内で予め決められた空間分布に従って変調され、作り出されるレーザ放射の作用下で生物学的組織の特性の変化のモニタリングに基づいてフィードバックが実行される、請求項13、14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項36】
前記モニタリング−診断システム内の少なくとも1つの生物学的組織状態センサが外科器具を使用して前記生物学的組織に直接設置される、請求項16に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2007−505679(P2007−505679A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526848(P2006−526848)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/RU2004/000454
【国際公開番号】WO2005/025400
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(505373362)
【出願人】(505373373)
【Fターム(参考)】