説明

生物学的製剤治療が有効なリウマチ膠原病性疾患患者の選択方法

【課題】生物学的製剤による治療が有効なリウマチ患者を選択する方法を提供すること。
【解決手段】リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を測定することにより、生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的製剤治療が有効なリウマチ膠原病性疾患患者の選択方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチの治療は一般に、抗炎症剤とリウマチ治療薬(DMARD)を組み合わせることにより行われており、リウマチ治療薬として、種々の免疫調節剤、免疫抑制剤、生物学的製剤が既に臨床で使用されている。リウマチ治療薬の例としては、例えばIL−1阻害剤、STAT−3阻害剤、IL−6ワクチン、IL−6融合タンパク、IL−6阻害剤、TNF−α阻害剤、IL−15阻害剤、IL−17阻害剤、抗CD20抗体、2−ペニシルアミン誘導体、Roxithromycin、T細胞副刺激モジュレーター、AP−1阻害剤、リポポリサッカライド結合タンパク(LBPs)、補体阻害剤、プロテイン(p38)キナーゼ阻害剤、JAK3阻害剤、リピッドAアナログ、メラニンアナログ、抗IL−6受容体抗体(特許文献1)などが挙げられる。しかしながら、これらのリウマチ治療薬による治療効果は個々の患者によって異なり、治療に抵抗性の患者や効果が十分に得られない患者も存在する。
【0003】
近年、関節リウマチ、膠原病等の自己免疫疾患等の治療戦略は、生物学的製剤による抗サイトカイン療法の登場により劇的に変化しているが、これらのリウマチ治療用生物学的製剤の使い分けについて明確な指針はない。さらに、生物学的製剤は、非常に高価な薬剤であり、医療経済的にも、生物学的製剤による治療が有効な関節リウマチ患者を選択し得る方法の確立が求められている。例えば、特許文献2には、関節リウマチ患者の治療予後予測方法が開示されている。また、特許文献3には、リウマチ治療剤の効果の予測方法が開示されている。しかし、いずれの方法も実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第96/11020号
【特許文献2】国際公開第2008/016134号
【特許文献3】特開2009−092508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生物学的製剤による治療が有効なリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法であって、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を測定することを特徴とする方法。
[2]リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を、健常者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量と比較することを特徴とする前記[1]に記載の方法。
[3]生物学的製剤が、IL−6シグナル伝達阻害剤またはT細胞活性化阻害剤である前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]IL−6阻害剤が抗IL−6受容体抗体であり、T細胞活性化阻害剤がT細胞副刺激モジュレーターである前記[3]に記載の方法。
[5]生物学的製剤が、トシリズマブまたはアバタセプトである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]リウマチ膠原病性疾患が、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、成人スティル病、再発性多発性軟骨炎、全身性強皮症、多発性筋炎、反応性関節炎、ベーチェット病、AAアミロイドーシス、大動脈炎症候群(高安病)、強直性脊椎炎、または後天性血友病である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]試料が末梢血単核球である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]生物学的製剤による治療を開始する前に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3の発現量を測定することを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]生物学的製剤による治療を開始した後に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるCTLA−4の発現量を測定することを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、生物学的製剤による治療が有効なリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(A)は被験リウマチ膠原病性疾患患者のトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量と健康ボランティアのFoxp3発現量を比較した図であり、(B)は被験リウマチ膠原病性疾患患者のトシリズマブ治療開始前のCTLA−4発現量と健康ボランティアのCTLA−4発現量を比較した図である。
【図2】被験リウマチ膠原病性疾患患者のトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量と、トシリズマブ治療開始6か月後のMMP−3値の相関を示す図である。
【図3】被験リウマチ膠原病性疾患患者のトシリズマブ治療開始6か月後のCTLA−4発現量と、トシリズマブ治療開始6か月後のMMP−3値の相関を示す図である。
【図4】被験リウマチ膠原病性疾患患者17例を、3種類の変数を用いて2つのクラスター(グループAおよびグループB)に分けた結果を示した図であり、(A)はトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量、(B)は罹病期間、(C)は年齢について示した図である。
【図5】グループAおよびBのトシリズマブ治療開始前、トシリズマブ治療開始3か月後、トシリズマブ治療開始6か月後におけるMMP−3値を比較し、t−検定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を測定することにより、生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法を提供する。
【0010】
リウマチ膠原病性疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、多発筋炎、全身性強皮症、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発動脈炎、ウエゲナー肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎、混合性結合織病、リウマチ性多発筋痛症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、反応性関節炎、再発性多発軟骨炎、RS3PE症候群、成人スティル病、変形性関節症、乾癬性関節炎、サルコイドーシス、大動脈炎症候群(高安病)、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、成人スティル病、AAアミロイドーシス、強直性脊椎炎、後天性血友病などが挙げられる。好ましくは、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、成人スティル病、再発性多発性軟骨炎、全身性強皮症、多発性筋炎、反応性関節炎、ベーチェット病、AAアミロイドーシス、大動脈炎症候群(高安病)、強直性脊椎炎、または後天性血友病であり、より好ましくは、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症またはRS3PE症候群であり、特に好ましくは関節リウマチである。
【0011】
Foxp3(forkhead box P3)は,CD4+CD25+制御性T細胞に特異的な転写因子として知られている。CTLA−4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)は、活性化したT細胞で発現し、T細胞による免疫応答を収束に向かわせる細胞表面タンパク質として知られ、Foxp3を発現した制御性T細胞の働きに必須であることが報告されている(Wing Kら、Science 2008)。したがって、試料としてはリンパ球を含む試料を好適に用いることができる。リンパ球を含む試料であれば特に限定されないが、血液由来の試料が好ましく、より好ましくは末梢血単核球(以下「PBMC」ともいう。)である。PBMCは、公知の方法で取得することができる。例えば、市販の血球分離溶液を用いることにより全血から分離し、取得することができる。
【0012】
発現量の測定は、試料中のタンパク質量を測定してもよく、mRNA量を測定してもよい。例えば、試料としてPBMCを用いる場合、PBMC中のFoxp3タンパク質量またはCTLA−4タンパク質量は、公知の方法でPBMCからタンパク質を抽出し、公知のタンパク質量測定方法を用いて定量することができる。公知のタンパク質量測定方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、EIA法、ELISA法、RIA法、タンパク質測定試薬を用いる方法などが挙げられる。PBMC中のFoxp3mRNA量またはCTLA−4mRNA量は、公知の方法でPBMCからRNAを抽出し、公知のmRNA量測定方法を用いて定量することができる。公知のmRNA量測定方法としては、ノーザンブロット法、RT−PCR法、定量RT−PCR法、RNaseプロテクションアッセイなどが挙げられる。好ましくは、RT−PCR法または定量RT−PCR法であり、より好ましくは定量RT−PCR法である。
【0013】
Foxp3およびCTLA−4のアミノ酸配列およびコードする遺伝子の塩基配列は公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。例えば、ヒトFoxp3のtranscript variant 1 の塩基配列はACCESSION: NM_014009、その翻訳物(431aa)はACCESSION: NP_054728、ヒトFoxp3のtranscript variant 2 の塩基配列はACCESSION: NM_001114377、その翻訳物(396aa)はACCESSION: NP_001107849 である。また、例えば、ヒトCTLA−4のtranscript variant 1 の塩基配列はACCESSION: NM_005214 XM_001129541 XM_001129550 XM_001129561、その翻訳物(223aa)はACCESSION: NP_005205 XP_001129541 XP_001129550 XP_001129561、ヒトCTLA−4のtranscript variant 2 の塩基配列はACCESSION: NM_001037631、その翻訳物(174aa)はACCESSION: NP_001032720 である。
【0014】
生物学的製剤は、リウマチ膠原病性疾患の治療に有用と考えられる生物学的製剤であればよく、特に限定されない。例えば、現在リウマチ膠原病性疾患の治療薬として臨床使用されている生物学的製剤が挙げられる。具体的には、例えば、抗TNF抗体、TNF受容体、抗IL−6受容体抗体、CTLA−4と免疫グロブリンの融合タンパク質などが挙げられる。本発明に好適な生物学的製剤としては、IL−6シグナル伝達阻害剤またはT細胞活性化阻害剤が挙げられる。
IL−6シグナル伝達阻害剤は、IL−6シグナル伝達を阻害するものであれば限定されないが、抗IL−6受容体抗体が好ましい。なかでもヒト化抗IL−6受容体抗体として臨床使用されているトシリズマブ(商品名:アクテムラ)が好ましい。
T細胞活性化阻害剤はT細胞の活性化を阻害するものであれば限定されないが、T細胞副刺激モジュレーターが好ましく、なかでもヒトCTLA−4の細胞外ドメインとヒトIgG1のFcドメインより構成された可溶性融合タンパク質であるアバタセプト(商品名:オレンシア)が好ましい。
【0015】
本発明者は、トシリズマブ治療を開始する前のリウマチ膠原病性疾患患者のFoxp3発現量と、トシリズマブ治療開始6か月後の患者のMMP−3(マトリックスメタロプロティナーゼ−3)値が有意に相関することを見出した。具体的には、トシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量が高い患者は治療開始6か月後MMP−3値が低く、トシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量が低い患者は治療開始6か月後MMP−3値が高いことを見出した。すなわち、トシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量が高い患者は、トシリズマブによる治療が有効である蓋然性が高いと推定できる。したがって、トシリズマブによる治療を開始する前にFoxp3発現量を測定することにより、トシリズマブによる治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択することが可能となる。
【0016】
リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3の発現量の高低は、例えば、蓄積された背景データに基づいて任意の基準値を設けて判定することができる。また、例えば、健常者由来の試料におけるFoxp3の発現量と比較して判定することができる。好ましくは、健常者由来の試料におけるFoxp3の発現量と比較して判定することである。健常者は、慢性疾患に罹患していない成人が好ましく性別は問わない。高齢でないこと(例えば20代〜30代)がより好ましい。健常者のFoxp3の発現量は、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料と同様の方法で同一部位から採取した試料を用い、同一の測定方法を用いて測定することが好ましい。また、健常者のFoxp3の発現量は、複数の健常者の平均値を用いることが好ましく、多数の健常者のFoxp3の発現量を蓄積した背景データの平均値を用いることがより好ましい。
健常者のFoxp3の発現量(平均値)より高い場合に、リウマチ膠原病性疾患患者のFoxp3の発現量が高いと判定することができる。好ましくは健常者のFoxp3の発現量(平均値)より1.5倍以上高い場合、より好ましくは健常者のFoxp3の発現量(平均値)より2倍以上高い場合にリウマチ膠原病性疾患患者のFoxp3の発現量が高いと判定する。
【0017】
本発明の方法は、
「生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を有することを特徴とする方法。
(a)生物学的製剤による治療を開始する前に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3の発現量を測定する工程
(b)(a)で得られたFoxp3の発現量を健常者由来の試料におけるFoxp3発現量と比較する工程
(c)健常者由来の試料におけるFoxp3発現量よりFoxp3発現量が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する工程」と表現することができる。
また、生物学的製剤による治療を開始する前にFoxp3の発現量を測定することにより、生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法は、生物学的製剤による治療を開始する前にFoxp3の発現量を測定することにより、生物学的製剤による治療の予後を予測する方法と換言することができる。
【0018】
現在の関節リウマチ治療の基本戦略は、早期に生物学的製剤を用いて介入し、骨関節変形を予防していくことである。これをWindows of opportunityと呼んでいる。生物学的製剤が奏功すれば、将来的に様々なリウマチ薬を中止することが可能となり、緩解治癒も望める状況となっている。加えて、生物学的製剤は、離職率、休職率を改善させ、社会問題の解決にもつながることが明らかになっている。しかしながら、生物学的製剤は非常に高価な薬剤であり、医療経済状況を考慮すれば、関節リウマチ患者全例に導入することは困難である。また、TNF阻害剤などは、各種の大規模試験によるエビデンスによれば、関節リウマチの治療判定基準であるACR20の改善率は約60%と報告されている。トシリズマブでも70〜80%前後と報告されている。つまり、それだけ高価な薬剤でありながら、すべての患者に効果があるとは限らない状況である。
このような状況下において、本願発明は、疾患活動性が高い患者に、生物学的製剤を導入するべきかどうかを選択する際の参考として用いることができ、リウマチ膠原病性疾患患者のQOLや医療経済状況を改善していくうえで非常に有用であると考えられる。
【0019】
本発明者は、トシリズマブ治療開始から6か月後のリウマチ膠原病性疾患患者のCTLA−4発現量とトシリズマブ治療開始6か月後の患者のMMP−3値が有意に相関することを見出した。具体的には、トシリズマブ治療開始6か月後のCTLA−4発現量が高い患者は治療開始6か月後MMP−3値が低く、トシリズマブ治療開始6か月後のCTLA−4発現量が低い患者は治療開始6か月後MMP−3値が高いことを見出した。すなわち、トシリズマブ治療開始6か月後のCTLA−4発現量が高い患者は、その時点において、それまでのトシリズマブによる治療が有効であり、その後も有効である蓋然性が高いと推定できる。したがって、トシリズマブによる治療開始後にCTLA−4発現量を測定することにより、トシリズマブによる治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択することが可能となる。治療開始後は、好ましくは4か月以上経過後、より好ましくは5か月以上経過後、さらに好ましくは6か月以上経過後である。
【0020】
CTLA−4発現量の高低の判定は、上記Foxp3発現量の判定と同様に行うことができる。すなわち、健常者のCTLA−4の発現量(平均値)より高い場合、好ましくは健常者のCTLA−4の発現量(平均値)より1.5倍以上高い場合、より好ましくは健常者のCTLA−4の発現量(平均値)より2倍以上高い場合に、リウマチ膠原病性疾患患者のCTLA−4の発現量が高いと判定する。
【0021】
本発明の方法は、
「生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法であって、以下の(d)〜(f)の工程を有することを特徴とする方法。
(d)生物学的製剤による治療を開始する前に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるCTLA−4の発現量を測定する工程
(e)(d)で得られたCTLA−4の発現量を健常者由来の試料におけるCTLA−4発現量と比較する工程
(f)健常者由来の試料におけるCTLA−4発現量よりCTLA−4発現量が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する工程」と表現することができる。
また、生物学的製剤による治療を開始した後にCTLA−4の発現量を測定することにより、生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法は、生物学的製剤による治療を開始した後にCTLA−4の発現量を測定することにより、測定時におけるリウマチ膠原病性疾患の活動性を評価する方法と換言することができる。
【0022】
リウマチ膠原病疾患において、疾患の活動性は、例えばMMP−3、CRP、DAS28等を指標として評価されるリウマチの状態を意味する。MMP−3は、関節破壊の程度を反映する。CRPは炎症の強さを反映する。DAS28は、関節リウマチ全体の活動性を示すもので、28関節を対象に腫脹関節、疼痛関節を評価し、血沈、患者の自覚を示すVASを組み合わせて計算して示されるものである。
【0023】
DAS28は、簡便で、関節リウマチの活動性をよく反映するが、評価者により評価が異なる場合があること、患者の自覚症状が患者によってばらつきを示すこと等によって、過大評価や過小評価され得るという問題がある。そこで、リウマチ膠原病性疾患治療、特に関節リウマチ治療においては、疾患活動性を簡便に、かつ再現性良く評価する検査法が望まれている。特に、生物学的製剤を導入した患者において必要性が高い。
このような状況下において、本願発明は、測定時におけるリウマチ膠原病性疾患の活動性評価の参考として用いることができ、リウマチ膠原病性疾患患者のQOLや医療経済状況を改善していくうえで非常に有用であると考えられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(1)被験患者およびサンプリング
トシリズマブ治療を開始していないリウマチ膠原病性疾患患者17例(関節リウマチ:15例、リウマチ性多発筋痛症:1例、RS3PE:1例)を被験患者とした。被験患者から、トシリズマブ治療開始前、トシリズマブ治療開始3か月後、トシリズマブ治療開始6か月後の3回採血し、定法によりPBMCからcDNAを調製した。また、健康ボランティア21名から同様にPBMC由来のcDNAを得た。
【0026】
(2)測定因子
IL−1β、IL−2Rα、IL−4、IL−6、IL−7、IL−8、IL−16、IL−17A、IL−18、IL−23R、IFN−γ、TNF−α、MCP−1、T−bet、GATA3、RORC、Foxp3、CTLA−4、GITR、STAT−3、STAT−6、β−actin、β2Mおよび18S−RNAの24種類の因子について、リウマチ膠原病性疾患患者と健康ボランティアとの発現量の差を測定した。測定には、上記24種類の測定が可能なTaqMan(登録商標)アレイ(applied biosystems)を使用した。
ストックしたサンプル72検体分を9枚のアレイを用いて測定し、ΔΔCt法を用いて同時解析した。発現補正としてβ−actinを選択し、ある健康ボランティアの発現量を仮の1として健康ボランティアの平均を算出した。得られた健康ボランティアの平均発現量を真の1としてリウマチ膠原病性疾患患者の発現量を算出した。
【0027】
(3)被験患者と健康ボランティアとの測定因子発現量の比較
トシリズマブ治療開始前の被験患者における上記測定因子の発現量を健康ボランティアの発現量と対比した。
その結果、図1(A)および(B)に示すように、Foxp3およびCTLA−4において、被験患者と健康ボランティアとの間に有意差が認められた。なお、有意差検定には不等分散の場合のt検定(アスピン・ウェルチ)を用いた。
【0028】
(4)測定因子と臨床パラメータとの多変量解析
被験患者から得られた臨床パラメータ(CRP:C反応性タンパク質、MMP-3:マトリックスメタロプロティナーゼ3、DAS−28CRP:関節リウマチの疾患活動性の評価、等)との相関性を、JMP8.0ソフトウェア(SAS Institute)を用いて解析した。
【0029】
その結果、図2に示すように、被験患者のトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量と、トシリズマブ治療開始6か月後のMMP−3値に有意な相関(相関係数:−0.5637、p=0.0184)が認められた。この結果から、トシリズマブ治療開始前におけるFoxp3発現量が低いリウマチ膠原病性疾患患者より、Foxp3発現量が高いリウマチ膠原病性疾患患者のほうが、トシリズマブ治療が有効である可能性が高いことが明らかとなった。つまり、リウマチ膠原病性疾患患者のFoxp3発現量を測定することにより、トシリズマブ治療が有効である可能性が高い患者を選択できることが示された。
【0030】
また、図3に示すように、被験患者のトシリズマブ治療開始6か月後のCTLA−4発現量と、トシリズマブ治療開始6か月後のMMP−3値に有意な相関(相関係数:−0.5735、p=0.0161)が認められた。この結果から、トシリズマブ治療開始後においてCTLA−4発現量の高い患者はリウマチの活動性が低く、逆にCTLA−4発現量の低い患者はリウマチの活動性が高いことが明らかとなった。つまり、トシリズマブ治療中の患者のCTLA−4発現量を測定することにより、その時点におけるトシリズマブ治療効果の高い患者を選択することができる。
【0031】
(5)クラスター分析
被験患者17例について、JMP8.0ソフトウェアを用い、変数として年齢、罹病期間およびトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量の3変数を選択することにより、グループA(9例)およびグループB(8例)の2つのクラスターに分かれた。
図4(A)〜(C)に、各変数についての各グループの分布を示した。(A)はトシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量、(B)は罹病期間、(C)は年齢である。グループAは、Foxp3発現量が低く、罹病期間が短く、年齢が高い傾向を示した。グループBは、Foxp3発現量が高く、罹病期間および年齢は広範囲にばらつきがある傾向をし示した。
【0032】
各グループのトシリズマブ治療開始前、トシリズマブ治療開始3か月後、トシリズマブ治療開始6か月後におけるMMP−3値に注目し、各時期の両グループのMMP−3値についてt−検定を行った。結果を図5に示した。トシリズマブ治療開始3か月後および6か月後のMMP−3値は、グループAとBとの間に有意差が認められた。この結果は、トシリズマブ治療開始前のFoxp3発現量が高い傾向のグループBのほうが、トシリズマブ治療により3か月後および6か月後のMMP−3値が低くなることを示すものであり、トシリズマブ治療開始前においてFoxp3発現量の高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択すれば、トシリズマブ治療が有効である可能性が高いことが裏付けられた。
【0033】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的製剤による治療が有効である蓋然性が高いリウマチ膠原病性疾患患者を選択する方法であって、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量を、健常者由来の試料におけるFoxp3またはCTLA−4の発現量と比較することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物学的製剤が、IL−6シグナル伝達阻害剤またはT細胞活性化阻害剤である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
IL−6阻害剤が抗IL−6受容体抗体であり、T細胞活性化阻害剤がT細胞副刺激モジュレーターである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生物学的製剤が、トシリズマブまたはアバタセプトである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リウマチ膠原病性疾患が、関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、RS3PE症候群、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、成人スティル病、再発性多発性軟骨炎、全身性強皮症、多発性筋炎、反応性関節炎、ベーチェット病、AAアミロイドーシス、大動脈炎症候群(高安病)、強直性脊椎炎、または後天性血友病である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
試料が末梢血単核球である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
生物学的製剤による治療を開始する前に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるFoxp3の発現量を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
生物学的製剤による治療を開始した後に、リウマチ膠原病性疾患患者由来の試料におけるCTLA−4の発現量を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44657(P2013−44657A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183059(P2011−183059)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 一般社団法人日本リウマチ学会 第55回日本リウマチ学会総会・学術集会・第20回国際リウマチシンポジウム プログラム・抄録集 平成23年6月20日
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】